説明

リチウム二次電池の正極活物質用の板状粒子の製造方法

【課題】 リチウム二次電池における容量等の電池特性を従来よりも向上させることのできる、リチウム二次電池の正極活物質用の板状粒子を、より安定的に製造する方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の、リチウム二次電池の正極活物質用の板状粒子の製造方法は、以下の工程を含む。(1)リチウム化合物からなる第一の原料粒子とリチウム以外の遷移金属化合物からなる第二の原料粒子とを含むスラリーを調製する。(2)調製したスラリーを、磁場を印加しつつ、自立したシート状の成形体に成形する。(3)シート状の成形体を焼成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池の正極活物質用の板状粒子(以下、単に「正極活物質板状粒子」と称する。)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池(リチウムイオン二次電池と称されることもある)の正極活物質として、いわゆるα−NaFeO2型の層状岩塩構造を有しているものが、広く用いられている(例えば特開2003−132887号公報等参照)。このような、層状岩塩構造を有する正極活物質においては、(003)面以外の結晶面(リチウムイオン出入り面:例えば(101)面や(104)面)にて、リチウムイオン(Li)の出入りが生じる。かかるリチウムイオンの出入りによって、充放電動作が行われる。
【0003】
ここで、「層状岩塩構造」とは、リチウム層とリチウム以外の遷移金属層とが酸素の層を挟んで交互に積層された結晶構造、すなわち、酸化物イオンを介して遷移金属イオン層とリチウム単独層とが交互に積層された結晶構造(典型的にはα−NaFeO型構造:立方晶岩塩型構造の[111]軸方向に遷移金属とリチウムとが規則配列した構造)をいう。
【発明の概要】
【0004】
この種の正極活物質においては、リチウムイオン出入り面(例えば[104]面)が板面に多く露出することで、充放電特性が向上する。また、かかる正極活物質を比較的大きな板状粒子化(例えば厚さを5μm以上且つ30μm未満に)することで、正極における活物質充填率が高くなり、高容量化を図ることが可能になる。
【0005】
しかしながら、この種のリチウム二次電池において、充放電サイクルに伴う容量低下(サイクル特性悪化)が生じることがあった。そこで、この原因を究明するために、サイクル特性が悪化した実験例における正極を電子顕微鏡によって観察したところ、正極活物質粒子における粒界にクラックが発生していた(これを、以下「粒界クラック」と称する。)。また、カーボン等の導電助剤を含むバインダーと、このバインダー中に分散されている正極活物質粒子と、の間に、剥離が発生していた(これを、以下「界面剥離」と称する。)。
【0006】
これらの粒界クラックや界面剥離は、充放電サイクルにおけるリチウムイオンの出入りに伴う、結晶格子の伸縮(体積の膨張収縮及び体積変化を伴わない格子伸縮を含む)によって発生するものであると考えられる。そして、これらの粒界クラックや界面剥離の発生によって、正極活物質層内に、導電経路が断たれて電気的に孤立した部分(容量に寄与し得ない部分)が発生することで、容量が低下することが、サイクル特性悪化の原因であると考えられる。
【0007】
本発明は、かかる課題に対処するためになされたものである。すなわち、本発明の目的は、リチウム二次電池における良好なサイクル特性を実現することのできる前記正極活物質板状粒子を、より安定的に製造する方法を提供することにある。
【0008】
本発明の特徴は、前記正極活物質板状粒子の製造方法が、以下の工程を含むことにある。
・リチウム化合物からなる第一の原料粒子とリチウム以外の遷移金属化合物からなる第二の原料粒子とを含むスラリーを調製する、スラリー調製工程
・前記スラリーを、磁場を印加しつつ、自立したシート状の成形体に成形する、シート成形工程
・前記成形体を焼成する、焼成工程
・前記焼成工程によって得られたシート状焼成体を解砕する、解砕工程
【0009】
前記スラリー調製工程においては、前記スラリーの粘度が30〜300cPに調整されることが好適である。
【0010】
前記シート成形工程における磁場印加条件は、以下の通りであることが好適である。
・磁束密度:1テスラ以上
・磁場印加方向:20°≦θ≦70°
(θは磁場の印加方向と前記成形体の法線とのなす角)
【0011】
なお、「板状粒子」とは、外形形状が板状である粒子のことをいう。「板状」という概念は、本明細書にて特段の説明を加えなくても社会通念上明確ではあるが、敢えて付言すると、例えば、以下のように定義づけることが可能である。
【0012】
「板状」とは、粒子を水平面(重力が作用する方向である鉛直方向と直交する平面)上に安定的に(外部からの衝撃(当該粒子が前記水平面から飛翔してしまうような強力な衝撃は除く)を受けてもさらに転倒することがないような態様で)載置した状態で、前記水平面と直交する第一の平面及び第二の平面(前記第一の平面と前記第二の平面とは交差し、典型的には直交する。)による当該粒子の断面を観察した場合に、いずれの断面においても、前記水平面に沿った(前記水平面と平行、あるいは前記水平面とのなす角度がα度(0<α<45)となる)方向である幅方向における寸法(かかる寸法は「粒径」と称される。)の方が、当該幅方向と直交する方向である厚さ方向における寸法(かかる寸法は粒子の「厚さ」と称される。)よりも大きい状態をいう。なお、上述の「厚さ」は、前記水平面と当該粒子との間の空隙部分を含まない。
【0013】
すなわち、「板状」粒子とは、アスペクト比が1を超える(典型的には2以上)粒子のことをいう。なお、後述するように、本発明に係る前記正極活物質板状粒子は、アスペクト比が4〜20であることが好適である。ここで、「アスペクト比」とは、粒子の厚さをt、粒径をd、とすると、d/tと定義される。すなわち、「アスペクト比」は、粒径を粒子の厚さで除した値と定義することができる。
【0014】
厚さtは、例えば、前記正極活物質板状粒子の断面をSEM(走査電子顕微鏡)によって観察した場合における、略平行に観察される板面間の距離を測定することで得られる。また、粒径dは、例えば、前記正極活物質板状粒子の平面視における外形形状をSEMによって観察した場合における、当該外形形状の内接円を描いたときの直径を測定することで得られる。
【0015】
本発明に係る前記正極活物質板状粒子は、通常、平板状に形成される。ここで、「平板状」とは、粒子を水平面上に安定的に載置した状態で、前記水平面と当該粒子との間に形成される空隙の高さが、粒子の厚さよりも小さい状態をいうものとする。これ以上屈曲したものは、この種の板状粒子では通常生じないため、本発明に係る前記正極活物質板状粒子に対しては、上述の定義が適切なものとなる。
【0016】
粒子を水平面上に安定的に載置した状態において、前記厚さ方向は、必ずしも前記鉛直方向と平行な方向になるとは限らない。例えば、粒子を水平面上に安定的に載置した状態における、前記第一の平面又は前記第二の平面による当該粒子の断面形状を、(a)長方形、(b)菱形、(c)楕円形、のいずれの形状に最も近似するかを分類した場合を想定する。この粒子断面形状が(a)長方形に近似するとき、前記幅方向は上述の状態における前記水平面と平行な方向となり、前記厚さ方向は上述の状態における前記鉛直方向と平行な方向となる。
【0017】
一方、(b)菱形や(c)楕円形のときは、前記幅方向は上述の状態における前記水平面と若干の角度(45度以下:典型的には数〜20度程度)をなすこととなる。このときは、前記幅方向は、当該断面による外形線上の2点であって互いの距離が最も長くなるもの同士を結んだ方向となる(かかる定義は上述の(a)長方形の場合は、対角線となってしまうために適切ではない)。
【0018】
また、粒子の「板面」とは、粒子を水平面上に安定的に載置した状態における、当該水平面と対向する面、又は、当該水平面からみて当該粒子よりも上方に位置し当該水平面と平行な仮想平面と対向する面をいう。粒子の「板面」は、板状粒子における最も広い面であるため、「主面(principal surface)」と称されることもある。なお、この板面(主面)と交差する(典型的には直交する)面、すなわち、前記厚さ方向と垂直な方向である板面方向(あるいは面内方向)と交差する面は、粒子を水平面上に安定的に載置した状態における、当該粒子の平面視(当該粒子を水平面上に安定的に載置した状態で前記鉛直方向における上方から見た場合)における端縁に生じることから、「端面」と称される。
【0019】
もっとも、本発明に係る前記正極活物質板状粒子は、その粒子断面形状が上述の(a)長方形に近似することが多い。このため、本発明に係る前記正極活物質板状粒子においては、前記厚さ方向は、粒子を水平面上に安定的に載置した状態における前記鉛直方向と平行な方向と云っても差し支えない。同様に、本発明に係る前記正極活物質板状粒子においては、粒子の「板面」は、粒子の前記厚さ方向と直交する表面と云っても差し支えない。
【0020】
「自立した」シート状の成形体とは、他の支持体から独立して単体で取り扱い可能となるようなシート状の成形体をいい、典型的には、それ単体でシート状の成形体としての形状を保つことができるものである。
【0021】
本発明の製造方法においては、前記シート成形工程において上述のような所定態様で磁場が印加されることで、前記第一の原料粒子及び/又は前記第二の原料粒子が、良好に分散且つ配向された状態で、自立したシート状の成形体が形成される。
【0022】
具体的には、例えば、前記第二の原料粒子がCoである場合、磁場が印加されると、その(111)面(焼成及びリチウム導入後のLiCoO2粒子における(003)面に相当する面)が磁場印加方向と直交するように、当該第二の原料粒子が配向される。このため、磁場印加方向を、前記成形体の厚さ方向に対して傾斜させることで、前記成形体の板面に、焼成及びリチウム導入後のリチウムイオン出入り面に相当する面が、良好に露出する。
【0023】
したがって、本発明によれば、リチウムイオン出入り面がより多く表面に露出した、前記正極活物質板状粒子を、簡易な製造工程によって、より安定的に製造することが可能になる。具体的には、例えば、リチウムイオンが出入りできない(003)面が、板面と交差するように配向した、前記正極活物質板状粒子(より具体的には、例えば、X線回折における、(104)面による回折強度に対する(003)面による回折強度の比率[003]/[104]が、0.005〜1.0の範囲になるようなもの)が、本発明の製造方法によって、より安定的に製造され得る。
【0024】
なお、配向度としては、ピーク強度比[003]/[104]が1.0以下となることで、リチウムイオンの取り出しが行いやすくなるため、充放電特性の向上が顕著となる。但し、ピーク強度比[003]/[104]が0.005未満となると、サイクル特性が下がる。これは、配向度が高すぎる(すなわち結晶の向きが揃いすぎる)と、リチウムイオンの出入りに伴う結晶の体積変化によって、粒子が割れやすくなるためである、と考えられる(なお、このサイクル特性劣化の理由の詳細については明らかではない。)。
【0025】
また、前記正極活物質板状粒子においては、空隙率が3〜30%であり、且つ開気孔比率が70%以上となることが好適である。本発明の製造方法によれば、かかる空隙率及び開気孔比率を有する前記正極活物質板状粒子が、確実に製造され得る。
【0026】
「空隙率(voidage)」は、本発明の板状粒子における、空隙(気孔:開気孔及び閉気孔を含む)の体積比率である。「空隙率」は、「気孔率(porosity)」と称されることもある。この「空隙率」は、例えば、嵩密度と真密度とから計算上求められる。
【0027】
「開気孔比率」は、前記正極活物質板状粒子に含まれる空隙(気孔)の全体に対する、開気孔の体積比率である。「開気孔」とは、前記正極活物質板状粒子に含まれる空隙(気孔)のうちの、当該正極活物質板状粒子の外部と連通するものをいう。この「開気孔比率」は、例えば、嵩密度から求められる開気孔と閉気孔との合計と、見かけ密度から求められる閉気孔とから、計算上求められる。この「開気孔比率」の算出に用いられるパラメータは、アルキメデス法等を用いて測定され得る。
【0028】
本発明の製造方法においては、焼成工程にて前記第一の原料粒子からリチウムが拡散することで、当該第一の原料粒子が空孔形成剤として機能する。このため、当該第一の原料粒子の位置にて空隙が発生する。すなわち、焼成工程を経て得られた前記正極活物質板状粒子に、空隙が導入される。この導入された空隙によって、充放電サイクルにおけるリチウムイオンの出入りに伴う結晶格子の伸縮によって発生する応力が、良好(均一)に開放される。よって、充放電サイクルの繰り返しに伴う粒界クラックの発生が、可及的に抑制される。
【0029】
さらに、前記正極活物質板状粒子に開気孔が導入されることで、より応力が開放されやすくなり、粒界クラックの発生が効果的に抑制される。これは、以下の理由によるものと考えられる。正極における体積の膨張収縮は、上述の通り、結晶格子におけるリチウムイオンの出入りが原因である。ここで、開気孔は、リチウムイオンの出入りする表面によって囲まれた空隙(気孔)である。このため、開気孔は、閉気孔に比べて、応力を開放する効果が高い。
【0030】
開気孔の導入により、前記正極活物質層における前記正極活物質板状粒子とその周囲のバインダーとの接合界面における接合強度も高まる。このため、充放電サイクルにおけるリチウムイオンの出入りに伴う結晶格子の伸縮による、前記正極活物質板状粒子の形状変化を起因とする界面剥離の発生が、よりいっそう良好に抑制される。これは、以下の理由によるものと考えられる:開気孔は、表面粗さと見立てることができる。そして、開気孔の導入により、表面粗さが大きくなるため、アンカー効果で接合強度が高まる。加えて、開気孔内に電解質や導電材等を内在することで、当該開気孔の内壁面は、リチウムイオン出入り面として良好に機能する。したがって、開気孔の導入により、レート特性が向上する。
【0031】
前記第一の原料粒子が(粒径が小さすぎない)板状粒子であると、開気孔比率が大きくなりやすくなる。さらに、上述のような態様の磁場の印加により、板状粒子である前記第一の原料粒子の板面方向(長手方向)を、シート状の前記成形体における板面方向に対して傾斜させることができる。これにより、前記正極活物質板状粒子における板面方向に対して傾斜した空隙が形成されるため、開気孔比率がいっそう大きくなりやすくなる。よって、前記第一の原料粒子は、粒径が5μm以上であり、アスペクト比が3以上(より好ましくは4〜20)の板状粒子であることが好適である。
【0032】
この点、スラリー粘度が低すぎると、磁場印加後の前記第一の原料粒子及び/又は前記第二の原料粒子の配向状態が維持され難い。一方、スラリー粘度が高すぎると、磁場を印加しても前記第一の原料粒子及び/又は前記第二の原料粒子が良好に配向され難い。このため、スラリー粘度が高すぎても低すぎても、良好な配向状態の前記正極活物質板状粒子を得ることが困難となる。
【0033】
また、θが小さすぎると(すなわち磁場印加方向が前記成形体の厚さ方向に近づきすぎると)、リチウムイオン出入り面の板面への露出度が小さくなり、レート特性が低下する。一方、θが大きすぎると(すなわち磁場印加方向が前記成形体の板面方向に近づきすぎると)、(003)面が板面方向に沿って積層状に配列されるため、粒子強度が低下し、耐久性が低下する。
【0034】
以上の通り、本発明によれば、リチウム二次電池における特性を従来よりも向上させることのできる、前記正極活物質板状粒子を、より安定的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1A】リチウム二次電池の概略構成の一例を示す断面図である。
【図1B】図1Aに示されている正極の拡大断面図である。
【図2A】図1に示されている正極活物質用板状粒子の拡大斜視図である。
【図2B】比較例の正極活物質粒子の拡大斜視図である。
【図2C】比較例の正極活物質粒子の拡大斜視図である。
【図3A】本発明の製造方法に係るシート成形工程に用いられる装置の一例である、シート成形装置の概略構成を示す図である。
【図3B】図3Aに示されている磁場印加部の概略構成を示す図である。
【図4】図1Bに示されている正極の一変形例の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、本実施形態に対して施され得る各種の変更(modification)は、当該実施形態の説明中に挿入されると、一貫した実施形態の説明の理解が妨げられるので、末尾にまとめて記載されている。
【0037】
<リチウム二次電池の概略構成>
図1Aは、本発明の一実施形態が適用されたリチウム二次電池10の概略構成を示す断面図である。
【0038】
図1Aを参照すると、本実施形態のリチウム二次電池10は、いわゆる液体型であって、電池ケース11と、セパレータ12と、電解質13と、負極14と、正極15と、を備えている。
【0039】
セパレータ12は、電池ケース11内を二分するように設けられている。電池ケース11内には、液体の電解質13が収容されているとともに、負極14及び正極15がセパレータ12を隔てて対向するように設けられている。
【0040】
電解質13としては、例えば、電気特性や取り扱い易さから、有機溶媒等の非水系溶媒にリチウム塩等の電解質塩を溶解させた、非水溶媒系の電解液が好適に用いられる。非水電解液の溶媒としては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピオンカーボネート等の鎖状エステル;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の誘電率の高い環状エステル;鎖状エステルと環状エステルの混合溶媒;等を用いることができ、鎖状エステルを主溶媒とした環状エステルとの混合溶媒が特に適している。
【0041】
非水電解液の調製にあたって上述の溶媒に溶解させる電解質塩としては、例えば、LiClO、LiPF、LiBF、LiAsF、LiSbF、LiCFSO、LiCSO、LiCFCO、Li(SO、LiN(RfSO)(Rf′SO)、LiC(RfSO、LiC2n+1SO(n≧2)、LiN(RfOSO[ここでRfとRf′はフルオロアルキル基]、等を用いることができる。これらは、それぞれ単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。上述の電解質塩の中でも、炭素数2以上の含フッ素有機リチウム塩が特に好ましい。この含フッ素有機リチウム塩は、アニオン性が大きく、かつイオン分離しやすいので、上述の溶媒に溶解し易いからである。非水電解液中における電解質塩の濃度は、特に限定されないが、例えば、0.3mol/l以上、より好ましくは0.4mol/l以上であって、1.7mol/l以下、より好ましくは1.5mol/l以下である。
【0042】
負極14に係る負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵、放出できるものであればよく、例えば、黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ、炭素繊維、活性炭等の炭素質材料が用いられる。また、金属リチウムや、ケイ素,スズ、インジウム等を含む合金、リチウムに近い低電位で充放電できるケイ素,スズ等の酸化物、Li2.6Co0.4N等のリチウムとコバルトとの窒化物、等のリチウム吸蔵物質も、負極活物質として用いることができる。さらに、黒鉛の一部は、リチウムと合金化し得る金属や酸化物等と置き換えることもできる。負極活物質として黒鉛を用いた場合には、満充電時の電圧をリチウム基準で約0.1Vとみなすことができるため、電池電圧に0.1Vを加えた電圧で正極15の電位を便宜上計算することができることから、正極15の充電電位が制御しやすく好ましい。
【0043】
図1Bは、図1Aに示されている正極15の拡大断面図である。図1Bを参照すると、正極15は、正極集電体15aと、正極活物質層15bと、を備えている。正極活物質層15bは、結着材15b1と、正極活物質用板状粒子15b2と、から構成されている。
【0044】
なお、図1A及び図1Bに示されているリチウム二次電池10及び正極15の基本的な構成(電池ケース11、セパレータ12、電解質13、負極14、正極集電体15a、及び結着材15b1を構成する材質を含む。)は周知であるので、本明細書においては、その詳細な説明は省略されている。
【0045】
本発明の一実施形態である正極活物質用板状粒子15b2は、リチウムを含有し層状岩塩構造を有する粒子であって、厚さが5μm以上且つ30μm未満、空隙率が3〜30%、開気孔比率が70%以上となるように形成されている。
【0046】
図2Aは、図1に示されている正極活物質用板状粒子15b2の拡大斜視図である。図2B及び図2Cは、比較例の正極活物質粒子の拡大斜視図である。
【0047】
図2Aに示されているように、正極活物質用板状粒子15b2は、厚さ方向(図中上下方向)と直交する表面である板面(上側表面A及び下側表面B:以下「上側表面A」及び「下側表面B」をそれぞれ「板面A」及び「板面B」と称する。)に(003)以外の面(例えば(101)面や(104)面)が露出するように形成されている。
【0048】
すなわち、正極活物質用板状粒子15b2は、(003)以外の面(例えば(104)面)が粒子の板面A及びBと平行となるように形成されている。なお、粒子の板面方向(面内方向)と交差する端面Cには、(003)面(図中黒色で塗りつぶされた面)が露出していても構わない。
【0049】
これに対し、図2Bに示されている比較例の粒子は、薄板状ではなく等方形状に形成されている。また、図2Cに示されている比較例の粒子は、薄板状であるものの、粒子の厚さ方向における両面(板面A及びB)に(003)が露出するように形成されている。これら比較例の粒子は、従来の製造方法によって製造されたものである。
【0050】
なお、正極活物質用板状粒子15b2の厚さは、厚さが5μm以上且つ30μm未満が望ましい。厚すぎると、リチウム導入時のリチウムの拡散距離が増加するためにレート特性が低下する点や、シート成形性が悪くなる点から、好ましくない。一方、薄すぎると、充填率を上げる効果が小さくなる。
【0051】
正極活物質用板状粒子15b2のアスペクト比(粒子の厚さ方向と直交する方向における最大径を、粒子の厚さで除した値)は、4〜20が好ましい。アスペクト比が4より小さいと、配向によるリチウムイオン出入り面の拡大効果が小さくなる。これに対し、アスペクト比が20より大きいと、正極活物質用板状粒子15b2の板面が正極活物質層15bの面内方向と平行になるように正極活物質用板状粒子15b2が充填された場合、正極活物質層15bの厚さ方向へのリチウムイオンの拡散経路が長くなることで、レート特性が低下する。
【0052】
<正極活物質用板状粒子の製造方法の概要>
図2Aに示されている構成の正極活物質用板状粒子15b2は、以下の工程を有する製造方法によって、安定的(容易かつ確実)に形成される。
(1)スラリー調製工程:リチウム化合物からなる第一の原料粒子とリチウム以外の遷移金属化合物からなる第二の原料粒子とを含むスラリーを、所定粘度(30〜300cP)の粘度で調製する。
(2)シート成形工程:調製したスラリーを、磁場を印加しつつ、自立したシート状の成形体(グリーンシート)に成形する。このとき、磁場の印加条件は、以下の通りである。
・磁束密度:1テスラ以上
・磁場印加方向:20°<θ<70°
(θは磁場の印加方向とグリーンシートの厚さ方向(板面の法線方向)とのなす角)
(3)焼成工程:グリーンシートを焼成する。
(4)解砕工程:焼成工程によって得られた焼成体シートを解砕する。
【0053】
第一の原料粒子としては、LiCO等のリチウム化合物、第二の原料粒子としては、Co,NiO,Al・HO等の遷移金属(リチウム以外)化合物の粉末が用いられる。また、スラリーは、減圧化で脱泡されることが好ましい。また、第一の原料粒子としては、粒径が5μm以上であり、アスペクト比が3以上(より好ましくは4〜20)である、板状粒子が用いられる。
【0054】
「自立した」シート状の成形体すなわちグリーンシートの成形方法としては、例えば、ドクターブレード法が用いられる。シート成形の厚さは、上述の通り、5μm以上且つ30μm未満に設定される。また、シート成形の厚さが5μm以上であれば、「自立した」シート状の成形体すなわちグリーンシートの形成が容易となる。このシート成形の厚さ(グリーンシートの厚さ)は、ほぼそのまま正極活物質用板状粒子15b2の厚さとなることから、当該正極活物質用板状粒子15b2の用途に合わせて適宜設定される。
【0055】
図3Aは、本発明の製造方法に係るシート成形工程に用いられる装置の一例である、シート成形装置20の概略構成を示す図である。本実施形態のシート成形装置20は、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の合成樹脂やステンレス等の金属の薄板からなる長尺ベルト状のベースフィルムBFを所定方向(図中y軸正方向)に一定速度で搬送しつつ、当該ベースフィルムBF上にグリーンシートGSを形成するように構成されている。
【0056】
具体的には、図3Aを参照すると、シート成形装置20は、塗工部21と、磁場印加部22と、乾燥部23と、を備えている。塗工部21は、いわゆるドクターブレード式の塗工機であって、スラリーSをベースフィルムBF上に所定厚さで連続的に塗工するように構成されている。磁場印加部22は、塗工部21によってベースフィルムBF上に形成された塗膜CFに磁場を印加することで、原料粒子を配向処理するように構成されている。乾燥部23は、磁場印加部22によって配向処理された塗膜CFを乾燥させることで、グリーンシートGSを形成するように構成されている。
【0057】
図3Bは、図3Aに示されている磁場印加部22の概略構成を示す図である。磁場印加部22は、ベースフィルムBFを挟んで互いに対向するように配置された、電磁石221及び222を備えている。電磁石221及び222は、乾燥前の塗膜CFに対して、シート厚さ方向(図中z方向)と所定角度θをなす方向に磁場を印加するように設けられている。すなわち、塗膜CFに対する磁場印加方向が、シート搬送方向(図中y方向)と直交し且つシート厚さ方向に対して傾斜するように、磁場印加部22が構成されている。
【0058】
したがって、上述の磁場印加によって配向処理されたグリーンシートを焼成することにより、特定の結晶面が表面(板面)と平行になるように配向したシートが安定的に得られる。例えば、第一の原料粒子がLiCOであって、第二の原料粒子がCoである場合、(400)面等の、リチウム導入後のLiCoO2粒子におけるリチウムイオン出入り面に相当する面を、シートの表面(板面)に露出するように配向させることができる。
【0059】
また、焼成工程において、リチウムが、第一の原料粒子から、遷移金属化合物からなる第二の原料粒子中へ拡散する。このため、焼成工程前に第一の原料粒子が存在していた領域に、空隙(気孔)が形成される。すなわち、第一の原料粒子は、空孔形成剤として機能する。このようにして、焼成工程を経て得られた正極活物質用板状粒子15b2に導入された空隙には、開気孔及び閉気孔が含まれる。
【0060】
得られた焼成体シートは、粒界部にて解砕しやすい状態となっている。そこで、この焼成体シートを、所定の開口径のメッシュ上に載置して、その上からヘラで押しつけることで、焼成体シートが多数の板状粒子(焼成体粒子)に解砕される。なお、この解砕工程においては、解砕後の焼結体板状粒子のアスペクト比(すなわちリチウム導入後に得られる正極活物質用板状粒子15b2のアスペクト比)が4〜20となるように、焼成体シートの解砕条件(メッシュ開口径等)が設定される。
【0061】
<具体例>
以下、上述の製造方法の具体例、及びかかる具体例によって製造された粒子の評価結果について、詳細に説明する。
【実施例1】
【0062】
具体例1:コバルト−ニッケル系
<製造方法>
(1)スラリー調製
第一の原料粒子として、LiCO粉末(粒径10−50μm、関東化学株式会社製)を粉砕して得られたLiCO粒子(粒径(長手方向径)5μm、アスペクト比5)を用いた。また、第二の原料粒子として、NiO粉末(粒径1−10μm、正同化学工業株式会社製)、Co粉末(粒径1−5μm、正同化学工業株式会社製)、およびAl・HO(粒径1−3μm、SASOL社製)を用いた。
【0063】
これらをLi1.20(Ni0.75Co0.2Al0.05)Oの組成比となるように混合した混合原料粉末100重量部と、分散媒(トルエン:イソプロパノール=1:1)150重量部と、バインダー(ポリビニルブチラール:品番「BM−2」、積水化学工業株式会社製)10重量部と、可塑剤(DOP:Di(2-ethylhexyl)phthalate、黒金化成株式会社製)4重量部と、分散剤(製品名「レオドールSP−O30」、花王株式会社製)2重量部と、を混合した。この混合物を、減圧下で撹拌することで脱泡するとともに、分散媒を適宜追加することで粘度を150cPに調整した(なお、粘度は、ブルックフィールド社製LVT型粘度計で測定した。以下同様。)。
【0064】
(2)シート成形
上記のようにして調製されたスラリーを、ドクターブレード法によって、PETフィルムの上に、乾燥後の厚さが30μmとなるように、シート状に成形した。このシート状の成形体(塗膜)に、磁束密度B=7[T],θ=40°の条件で磁場を印加した後に乾燥することで、配向処理されたグリーンシートを得た。
【0065】
(3)熱処理
PETフィルムから剥がしたシート状の成形体を丸め、アルミナ製サヤ(寸法150mm角、高さ10mm)内に20g載置し、酸素雰囲気中にて775℃で12h焼成後、室温まで降温速度200℃/hにて降温し、サヤに溶着していない部分を取り出して、フレーク状の焼成体を得た。
【0066】
(4)粉砕
サヤから取り出した焼成体50gと、直径10mmのナイロンボール370gと、エタノール165gとを、容積1リットルのポリプロピレン製ポットに入れ、20時間混合して粉砕することで、厚さ20μmのLi(NiCoAl)O板状粒子粉末を得た。
【0067】
<評価方法>
(1)空隙率、開気孔比率評価
まず、ストルアス社製エポフィックス、ストルアス社製エポフィックスレジン、及びイソプロピルアルコールを、重量比で25:3:10に混合することで、硬化性エポキシ樹脂溶液を予め調製した(なお、空隙率の低い試料では、イソプロピルアルコールの重量比を20として、含浸しやすくなるように低粘度化した。)。次に、この硬化性エポキシ樹脂溶液を収容した容器と、得られたLi(NiCoAl)O板状粒子とを、真空チャンバー内に設置して、十分に減圧した。続いて、このチャンバー内にて、Li(NiCoAl)O板状粒子粉末を硬化性エポキシ樹脂溶液の中に30分間浸漬した後、上述の容器をチャンバーから取り出して、24h静置することで、硬化性エポキシ樹脂溶液を乾燥固化させた。
【0068】
固化した樹脂中から、カッターナイフを用いて、Li(NiCoAl)O板状粒子粉末が含まれる部分を切り出し、試料加工用板にセットし、Arイオンミリング法にて断面研磨した。このようにして得られた試料の断面を、走査電子顕微鏡によって画像撮影した。得られた画像を画像解析ソフト(photoshop、アドビ社製)によって画像解析した。
【0069】
すなわち、空隙部分とLi(NiCoAl)O部分とを二値化し、空隙部分の面積/(空隙部分+Li(NiCoAl)O部分面積)を計算することで、空隙率を求めた。また、反射電子像の撮影画像において、コントラスト差により、樹脂が充填された空隙を開気孔、充填さていない空隙を閉気孔として、開気孔部分と閉気孔部分のコントラスト差を二値化し、開気孔部分の面積/(開気孔部分+閉気孔部分の面積)を計算することで開気孔比率を求めた。
【0070】
(2)XRD評価(配向評価)
配向性を評価するため、X線回折における、(104)面による回折強度に対する(003)面による回折強度(ピーク強度)の比率である、ピーク強度比[[003]/[104]を求めた。XRD(X線回折)測定は、以下の方法で行った。
【0071】
エタノール2gに板状粒子0.1gを加えたものを、超音波分散機(超音波洗浄機)で30分間分散させ、これを25mm×50mmのガラス基板に2000rpmでスピンコートし、板状粒子同士ができるだけ重ならないように、且つ結晶面とガラス基板面とが平行となる状態に配置した。XRD装置(株式会社リガク製 ガイガーフレックスRAD−IB)を用い、板状粒子の表面に対してX線を照射したときのXRDプロファイルを測定し、(104)面による回折強度(ピーク高さ)に対する(003)面による回折強度(ピーク高さ)の比率[003]/[104]を求めた。なお、上記方法においては、板状粒子の板面がガラス基板面と面接触し、粒子板面とガラス基板面とが平行になる。このため、上記方法によれば、粒子板面の結晶面に平行に存在する結晶面、すなわち、粒子の板面方向に配向する結晶面による回折プロファイルが得られる。
【0072】
(3)電池評価(容量維持率評価)
電池特性の評価のために、以下のようにして電池を作成した。
【0073】
得られたLi(Ni,Co,Al)O粒子、アセチレンブラック、及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)を、質量比で75:20:5となるように混合して正極材料を調製した。調製した正極材料0.02gを300kg/cm2の圧力で直径20mmの円板状にプレス成形することで、正極活物質層を作製した。
【0074】
作製した正極活物質層、リチウム金属板からなる負極、ステンレス集電板、及びセパレータを、集電板−正極活物質層−セパレータ−負極−集電板の順に配置し、この集積体を電解液で満たすことでコインセルを作製した。電解液は、エチレンカーボネート(EC)及びジエチルカーボネート(DEC)を等体積比で混合した有機溶媒に、LiPFを1mol/Lの濃度となるように溶解することで調製した。
【0075】
上述のようにして作製した電池(コインセル)を用いて、以下のようにして、容量維持率の評価を行った:作製した電池について、試験温度を20℃として、(1)1Cレートの定電流−定電圧で4.2Vまでの充電、及び(2)1Cレートの定電流で3.0Vまでの放電、を繰り返すサイクル充放電を行った。50サイクルの充放電終了後の電池の放電容量を初回値で除した値に100を乗算したものを、「容量維持率(%)」とした。
【0076】
<評価結果>
上述の製造方法における、LiCOの粒径及びアスペクト比、スラリー粘度(η)、磁束密度(B)並びに磁場印加方向(θ)の条件を変更することで、空隙率、開気孔比率、及び配向度を変えた21の製造例(実験例1〜10及び比較例1〜11)の製造条件を表1に示し、評価結果を表2に示す(上述の製造方法における条件と合致するものは実験例2である)。
【表1】

【表2】

【0077】
表1及び表2の結果から明らかなように、LiCOの粒径及びアスペクト比が小さすぎる比較例1及び2においては、空隙率も開気孔比率もともに低くなった。また、LiCOの粒径は充分大きい一方でアスペクト比が小さすぎる比較例3及び4においては、開気孔比率が低くなった。これらのいずれにおいても、容量維持率が低くなった。
【0078】
また、スラリー粘度が所定範囲を外れた比較例5及び6、印加磁場における磁束密度が小さいに比較例7、及び磁場印加方向θが所定範囲を外れた比較例8〜11においては、良好な配向度が得られず、容量維持率も低くなった。
【0079】
これに対し、LiCOの粒径が5μm以上、アスペクト比が3以上、スラリー粘度が30〜300cP、磁束密度が1テスラ以上、磁場印加方向が20〜70°である実験例1〜10においては、空隙及び開気孔が良好に導入され且つ良好な配向度が得られたため、良好な容量維持率(サイクル特性)が達成された。
【実施例2】
【0080】
具体例2:コバルト系
<製造方法>
(1)スラリー調製
第一の原料粒子として、LiCO粉末(粒径10−50μm、関東化学株式会社製)を粉砕して得られたLiCO粒子(粒径(長手方向径)5μm、アスペクト比5)を用いた。また、第二の原料粒子として、Co34粉末(粒径1−5μm、正同化学工業株式会社製)を粉砕して得られたCo34粒子(粒径0.3μm)を用いた。
【0081】
これらをLi/Co(モル比)=1.0となるように混合した原料粉末100重量部と、分散媒(トルエン:イソプロパノール=1:1)150重量部と、バインダー(ポリビニルブチラール:品番「BM−2」、積水化学工業株式会社製)10重量部と、可塑剤(DOP:Di(2-ethylhexyl)phthalate、黒金化成株式会社製)4重量部と、分散剤(製品名「レオドールSP−O30」、花王株式会社製)2重量部と、を混合した。この混合物を、減圧下で撹拌することで脱泡するとともに、粘度を150cPに調整した。
【0082】
(2)シート成形
上記のようにして調製されたスラリーを、ドクターブレード法によって、PETフィルムの上に、乾燥後の厚さが30μmとなるように、シート状に成形した。このシート状の成形体(塗膜)に、磁束密度B=7[T],θ=40°の条件で磁場を印加した後に乾燥することで、配向処理されたグリーンシートを得た。
【0083】
(3)熱処理
PETフィルムから剥がしたシート状の成形体を丸め、アルミナ製サヤ(寸法150mm角、高さ10mm)内に20g載置し、酸素雰囲気中(0.1MPa)にて760℃で20時間焼成後、室温まで降温速度200℃/hにて降温し、サヤに溶着していない部分を取り出して、フレーク状の焼成体を得た。
【0084】
(4)粉砕
サヤから取り出した焼成体50gと、直径10mmのナイロンボール370gと、エタノール165gとを、容積1リットルのポリプロピレン製ポットに入れ、20時間混合して粉砕することで、厚さ20μmのLiCoO2板状粒子の粉末を得た。
【0085】
<評価>
上述した具体例1(コバルト−ニッケル系)と同様に、LiCOの粒径及びアスペクト比、スラリー粘度(η)、磁束密度(B)並びに磁場印加方向(θ)の条件を変更することで、空隙率、開気孔比率、及び配向度を変えた21の製造例(実験例11〜20及び比較例12〜22)の製造条件を表3に示し、評価結果を表4に示す(上述の製造方法における条件と合致するものは実験例12である)。評価結果である以下の表4から明らかなように、本具体例(コバルト系)においても、上述した具体例1(コバルト−ニッケル系)と同様の結果が得られた。
【表3】

【表4】

【0086】
<変形例の例示列挙>
なお、上述の実施形態や具体例は、出願人が取り敢えず本願の出願時点において最良であると考えた本発明の具現化の一例を単に示したものにすぎないのであって、本発明はもとより上述の実施形態や具体例によって何ら限定されるべきものではない。よって、上述の実施形態や具体例に対して、本発明の本質的部分を変更しない範囲内において、種々の変形が施され得ることは、当然である。
【0087】
以下、変形例について幾つか例示する。以下の変形例の説明において、上述の実施形態における各構成要素と同様の構成・機能を有する構成要素については、本変形例においても同一の名称及び同一の符号が付されているものとする。そして、当該構成要素の説明については、上述の実施形態における説明が、矛盾しない範囲で適宜援用され得るものとする。
【0088】
もっとも、変形例とて、下記のものに限定されるものではないことは、いうまでもない。本発明を、上述の実施形態や下記変形例の記載に基づいて限定解釈することは、(特に先願主義の下で出願を急ぐ)出願人の利益を不当に害する反面、模倣者を不当に利するものであって、許されない。
【0089】
また、上述の実施形態の構成、及び下記の各変形例に記載された構成の全部又は一部が、技術的に矛盾しない範囲において、適宜複合して適用され得ることも、いうまでもない。
【0090】
本発明は、上述の実施形態にて具体的に開示された構成や製造方法に何ら限定されない。例えば、本発明の正極活物質用板状粒子の適用対象は、図1Aに示されているリチウム二次電池10のような液体型のものに限定されない。具体的には、電解質として、無機固体、有機ポリマー、あるいは有機ポリマーに電解液を染み込ませたゲル状のもの、等が用いられ得る。
【0091】
また、図4に示されているように、正極活物質層15b中に、本発明の製造方法によって製造された正極活物質用板状粒子15b2と、従来の等軸形状の粒子15b3とが、適当な混合比で混在していてもよい。具体的には、例えば、等軸形状の粒子と、その粒径と同程度の厚みを有する正極活物質用板状粒子15b2とを、適当な混合比で混合することで、効率よく粒子が配列することができ、充填率が高められる。
【0092】
シート成形工程においては、ドクターブレード法以外の方法も良好に用いられる。例えば、シート成形工程においては、熱したドラム上へ原料を含むスラリーを塗布し、乾燥させたものをスクレイパーで掻きとる、ドラムドライヤー法が用いられ得る。また、シート成形工程においては、熱した円板面へスラリーを塗布し、これを乾燥させてスクレイパーで掻きとる、ディスクドライヤー法を用いることもできる。さらに、原料粒子を含む坏土を用いた押出成形法も、シート成形工程において利用可能である。
【0093】
本発明に係る正極活物質用板状粒子は、層状岩塩構造を有する限り、上述の具体例に示されている具体的な組成に限定されない。例えば、かかる正極活物質用板状粒子は、コバルトの他にニッケルやマンガン等を含有した固溶体からなるものであってもよい。具体的には、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル・マンガン酸リチウム、ニッケル・コバルト酸リチウム、コバルト・ニッケル・マンガン酸リチウム、コバルト・マンガン酸リチウム等が挙げられる。さらに、これらの材料に、Mg,Al,Si,Ca,Ti,V,Cr,Fe,Cu,Zn,Ga,Ge,Sr,Y,Zr,Nb,Mo,Ag,Sn,Sb,Te,Ba,Bi等の元素が1種以上含まれていてもよい。
【0094】
なお、LiFePOに代表される、オリビン構造の正極活物質においては、リチウムイオンの伝導方向がb軸方向([010]方向)であるとされている。よって、ac面(例えば(010)面)が板面と平行となるように配向した板状粒子とすることで、良好な性能を有する正極活物質用板状粒子を得ることができる。
【0095】
その他、特段に言及されていない変形例についても、本発明の本質的部分を変更しない範囲内において、本発明の技術的範囲に含まれることは当然である。
【0096】
また、本発明の課題を解決するための手段を構成する各要素における、作用・機能的に表現されている要素は、上述の実施形態や変形例にて開示されている具体的構造の他、当該作用・機能を実現可能ないかなる構造をも含む。さらに、本明細書にて引用した先行出願や各公報の内容(明細書及び図面を含む)は、本明細書の一部を構成するものとして適宜援用され得る。
【符号の説明】
【0097】
10…リチウム二次電池 11…電池ケース
12…セパレータ 13…電解質 14…負極
15…正極 15a…正極集電体 15b…正極活物質層
15b1…結着材 15b2…正極活物質用板状粒子
20…シート成形装置 21…塗工部 22…磁場印加部
221…電磁石 222…電磁石 23…乾燥部
A…板面(上側表面) B…板面(下側表面) C…端面
BF…ベースフィルム CF…塗膜 GS…グリーンシート
S…スラリー
【先行技術文献】
【特許文献】
【0098】
【特許文献1】特開平9−22693号公報
【特許文献2】特開2003−132887号公報
【特許文献3】特開2003−346809号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム化合物からなる第一の原料粒子とリチウム以外の遷移金属化合物からなる第二の原料粒子とを含むスラリーを調製する、スラリー調製工程と、
前記スラリーを、磁場を印加しつつ、自立したシート状の成形体に成形する、シート成形工程と、
前記成形体を焼成する、焼成工程と、
前記焼成工程によって得られたシート状焼成体を解砕する、解砕工程と、
を含むことを特徴とする、リチウム二次電池の正極活物質用の板状粒子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の、リチウム二次電池の正極活物質用の板状粒子の製造方法であって、
前記スラリー調製工程は、前記スラリーの粘度を、30〜300cPに調整することを特徴とする、リチウム二次電池の正極活物質用の板状粒子の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項に記載の、リチウム二次電池の正極活物質用の板状粒子の製造方法であって、
前記シート成形工程は、1テスラ以上の磁束密度で、且つ20°≦θ≦70°で
(θは磁場の印加方向と前記成形体の法線とのなす角)
磁場を印加しつつ、前記成形体を成形することを特徴とする、リチウム二次電池の正極活物質用の板状粒子の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のうちのいずれか1項に記載の、リチウム二次電池の正極活物質用の板状粒子の製造方法であって、
前記第一の原料粒子は、
粒径が5μm以上の板状粒子であり、
厚さをt、当該厚さtを規定する厚さ方向と直交する寸法である粒径をd、アスペクト比をd/tとすると、
d≧3
であることを特徴とする、リチウム二次電池の正極活物質用の板状粒子の製造方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−219069(P2010−219069A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2010−142410(P2010−142410)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】