説明

リチウム二次電池の製造方法

【課題】負極集電体と負極合材層の密着性を高め、電池性能を向上させたリチウム二次電池を製造する好適な方法を提供すること。
【解決手段】リチウム二次電池を製造する方法であって、負極活物質と少なくともカルボキシメチルセルロース(CMC)を含むバインダとを溶媒中に分散させスラリー状の組成物を調製する工程を包含し、ここで上記CMCとして重量平均分子量が100万未満である低分子領域CMC(A)と、重量平均分子量が300万以上である高分子領域CMC(B)とを、重量比(A:B)が25:75から75:25(より好ましくは45:55〜65:35)の割合となるよう使用することを特徴とする。かかるCMCを用いて作製した負極合材層は活物質と集電体との密着性が良好であり、且つCMCによる負極活物質の被覆が最小限に抑えられているため、負極の抵抗を低く抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池(典型的にはリチウムイオン電池)の製造方法に関する。詳しくは、該電池の負極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池その他のリチウム二次電池は、既存の電池に比べ小型、軽量かつエネルギー密度が高いという特徴から、民生用(パソコンや携帯端末の電源等)として広く利用されている。また出力密度が高いことから、例えばハイブリッド自動車(HV)等の車両駆動用の高出力電源としても好ましく用いられている。
【0003】
この種のリチウム二次電池(典型的にはリチウムイオン電池)は、正極および負極からなる電極体と、電解質(典型的には電解液)とを電池ケースに収容した構成を備える。該電極(正極および負極)は、対応する正負の集電体上に、電荷担体(典型的にはリチウムイオン)を可逆的に吸蔵および放出し得る活物質を主成分とする電極合材層(具体的には、正極合材層および負極合材層)が、それぞれ形成されている。例えばリチウム二次電池の負極の場合、負極活物質とバインダ(結着剤)等が適当な溶媒中で混合され、調製されてなるスラリー状(ペースト状、インク状を含む)の組成物(負極合材スラリー)を負極集電体上に付与(典型的には、塗工)することにより、負極合材層が形成される。
上記バインダは、負極合材層内の負極活物質粒子間および該活物質と集電体とを結着させ、電極の形状を保持するために用いられる。典型的には、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)などのセルロース系ポリマーや、スチレンブタジエンゴム(SBR)などのゴム系材料が知られている。
【0004】
バインダとしてCMCを用いる場合、分子量が比較的大きなもの(例えば、10万〜40万)が好ましく用いられる。これは、分子量(重合度)の大きなものほど粘性が高く、負極合材スラリーの分散安定性(即ち、負極活物質粒子が沈降し難いこと)や、該スラリーを集電体上に付与して形成された負極合材層と集電体との密着性(接着強度)を高め得るためである。しかしながら、分子量の比較的大きなCMCは粘性が高いために塗工時の取扱が困難となったり、負極活物質粒子の表面をCMCが広く被覆してしまうため電池反応に伴うリチウムイオンの吸蔵および放出が妨げられ、電池性能が大きく低下(典型的には、IV抵抗の増大)してしまう虞がある。この種の問題を解決する従来技術として、特許文献1には、負極合材層中にカルボキシメチルセルロースの金属塩と合成ゴム系ラテックス型接着剤とを含有し、CMCの平均分子量が18.5万以下のものと35万以下のものを混合して用いる手法が紹介されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−171575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで近年、高出力密度の電池(例えば、車両駆動用電源等)において、従来と比べより一層高分子量(例えば、重量平均分子量が50万以上、典型的には100万以上)のCMCが用いられるようになってきた。このような高分子量のCMCを用いることで、負極合材層と負極集電体との密着性(接着強度)をより高め、電池性能を向上させることができる。また、例えば車両駆動用電源等に用いられるリチウム二次電池では、より高い出力密度を実現するためCMCの量を低減することが求められているが、高分子量のCMCを用いることで、かかる課題に対しても対処することが可能である。
一方で、分子量の大きなCMCは上述したような問題(即ち、塗工時の取扱困難性や電池性能の低下等)もあるため、使用に際しては詳細な検討が必要となる。しかし、特許文献1に開示される技術は、民生用(いわゆるポータブル用電源)を対象としており、分子量の非常に大きなCMCを用いる高出力密度の電池(例えば車両駆動用電源等)については検討(想定)がなされていない。
【0007】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、従来に比べ負極集電体と負極合材層の密着性を高め、電池性能を向上(例えば、電池抵抗の低減や、サイクル特性の向上)させたリチウム二次電池を提供することである。また、本発明の他の目的は、かかるリチウム二次電池を製造する好適な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を実現すべく、本発明によって、負極集電体と上記負極集電体上に形成された負極合材層とを有する負極を備えたリチウム二次電池を製造する方法が提供される。ここで開示される製造方法は、負極活物質と少なくともカルボキシメチルセルロース(CMC)を含むバインダとを溶媒中に分散させスラリー状の組成物(負極合材スラリー)を調製する工程と、上記負極合材スラリーを上記負極集電体上に付与し上記負極合材層を形成する工程、および上記負極合材層が形成された上記負極を用いてリチウム二次電池を構築する工程を包含する。ここで、かかる製造方法においては、上記カルボキシメチルセルロース(CMC)として、重量平均分子量が100万未満である低分子領域CMCと、重量平均分子量が300万以上である高分子領域CMCとを、該低分子領域CMC(A)と該高分子領域CMC(B)との重量比(A:B)が25:75から75:25(より好ましくは45:55〜65:35)の割合となるよう使用することを特徴とする。
ここで開示されるリチウム二次電池の製造方法では、低分子領域CMCと高分子領域CMCの重量比が上記範囲を満たすCMCを用いることを特徴とする。即ち、上記範囲を満たすCMCを用いて作製した負極合材層は負極活物質と集電体との密着性が良好であり、且つCMCによる負極活物質の被覆の度合いが低く抑えられている。したがって、かかる負極合材層を備えたリチウム二次電池では、電池性能を向上(例えば、IV抵抗の低減や耐久性の向上)させることができ、特に高出力密度の電池(例えば、車両駆動用電源等)に好適に使用できる。
【0009】
ここで開示される製造方法の好適な一態様として、上記負極合材スラリーには、上記CMCに加え、バインダとして合成ゴム材料が用いられていることが挙げられる。
上記CMC(即ち、低分子領域CMCと高分子領域CMC)と合成ゴム材料(典型的にはスチレンブタジエンゴム(SBR))とを併用して作製した負極合材層は、負極活物質と集電体との密着性がより強固となり、したがって、かかる負極合材層を備えたリチウム二次電池では、電池性能をより一層向上(例えば、IV抵抗の低減や耐久性の向上)させることができる。
【0010】
ここで開示される製造方法の好適な一態様として、上記負極合材スラリーを調製する工程において、負極活物質を含む溶媒中に、先ず上記低分子領域CMCを加え、その後に上記高分子領域CMCを加えることが挙げられる。
負極活物質を含む溶媒中に、先ず低分子領域CMCを添加することで、低分子のCMCが負極活物質を優先的に被覆する。その後、高分子領域CMCを添加することで本発明の目的をより一層実現し得る。したがって、かかる負極合材層を備えたリチウム二次電池では、電池性能をより一層向上(例えば、IV抵抗の低減や耐久性の向上)させることができる。
【0011】
ここで開示される製造方法の好適な一態様として、上記負極合材スラリーを調製する工程において、低分子領域CMC領域と高分子領域CMC領域の配合比は、上記スラリー状組成物の粘度が300mPa・s〜2000mPa・sの範囲内となるよう決定することが挙げられる。
負極合材スラリーの粘度が上記範囲にある場合、分散安定性に優れ、負極活物質が沈降しにくい。また、かかる負極合材スラリーは塗工性が良好であり、精度よく負極合材層を形成することができる。したがって、かかる負極合材層を備えたリチウム二次電池では、電池性能を向上(例えば、IV抵抗の低減や耐久性の向上)させることができる。
【0012】
ここで開示される製造方法により得られたリチウム二次電池は、従来に比べ負極の抵抗を低減し、電池性能を向上させことができる。かかる高性能を発揮し得ることから、特に、車両(典型的には、プラグインハイブリッド自動車(PHV)、ハイブリッド自動車(HV)、電気自動車(EV)、燃料電池自動車(FCV)のような電動機)に搭載されるモーター用の動力源(駆動電源)として好適に使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】高分子量のCMCのみを含むリチウム二次電池の負極の構造を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池の負極の構造を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池の構成を示す模式図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池の捲回電極体の構成を示す模式図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池を備えた車両(自動車)を模式的に示す側面図である。
【図6】本発明の一実施例に係る密着力と電池抵抗の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において電池とは、リチウム二次電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、鉛蓄電池等のいわゆる化学電池の他、電気二重層キャパシタのように種々の化学電池(例えばリチウムイオン電池)と同様の産業分野で同様に使用され得る蓄電素子(物理電池)、疑似容量キャパシタ、レドックスキャパシタ、これらを組み合わせたハイブリッドキャパシタ等を包含する。また、「リチウム二次電池」とは、電解質イオンとしてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される二次電池をいう。一般にリチウムイオン電池(若しくはリチウムイオン二次電池)、リチウムポリマー電池等と称される二次電池は、本明細書におけるリチウム二次電池に包含される典型例である。また、「活物質」とは、正極側又は負極側において蓄電に関与する物質(化合物)をいう。即ち、電池の充放電時において電子の吸蔵および放出に関与する物質をいう。
なお、本明細書におけるCMCの重量平均分子量(Mw)は、特記しない限り、GPC(Gel Permiation Chromatography)−RI(Refractive Index;示差屈折率検出器)により測定された値を指す。
【0015】
以下、ここで開示されるリチウム二次電池の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって、実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。かかる構造のリチウム二次電池は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0016】
ここで開示されるリチウム二次電池の製造方法について詳細に説明する。上述のとおりここに開示される製造方法は、負極の製造に用いられるスラリー状(ペースト状、インク状のものを包含する。)組成物(負極合材スラリー)の製造工程に特徴を有する方法である。まず、かかる負極合材スラリーを用いたリチウム二次電池用の負極の製造方法の好ましい態様について詳細に説明する。
【0017】
ここに開示されるリチウム二次電池用の負極の製造方法は、負極活物質と少なくともカルボキシメチルセルロース(CMC)を含むバインダとを溶媒中に分散させスラリー状の組成物(負極合材スラリー)を調製する工程(調製工程)と、上記調製した負極合材スラリーを上記負極集電体上に付与し上記負極合材層を形成する工程(付与工程)を包含する。
【0018】
<調製工程>
ここで開示される製造方法における調整工程では、まず、溶媒と、負極活物質と、少なくともカルボキシメチルセルロース(CMC)を含むバインダとを用意し、上記溶媒中に負極活物質とバインダを溶解または分散させてスラリー状の組成物(負極合材スラリー)を調製する。かかる工程によって負極活物質とバインダを溶液中に均一に分散させることができる。
【0019】
ここで用いられる負極活物質には、従来からリチウム二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。例えば、炭素材料(カーボン粉末)、チタン酸リチウム(LTO)等の酸化物、スズ(Sn)やケイ素(Si)とリチウムの合金等が挙げられる。炭素材料としては、少なくとも一部にグラファイト構造(層状構造)を含む、黒鉛質(グラファイト)、難黒鉛化炭素質(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素質(ソフトカーボン)、またはこれらを組み合わせたもの等を用いることができる。
【0020】
上記負極活物質の平均粒径は、例えば、6〜30μm程度であり得る。また、該活物質の比表面積は、例えば、2〜5m/g程度であり得る。比表面積が小さすぎると、充放電時に十分な電流密度が得られないことがある。比表面積が大きすぎると、不可逆容量が増加するなどして電池容量が低下する場合がある。上記比表面積としては、窒素吸着法により測定された値(BET比表面積)を採用する。
また上記負極活物質の吸油量は、45(mL/100g)〜63(mL/100g)程度であり得る。該吸油量は、負極活物質のCMCに対する親和性を示す指標となり得る。該吸油量が小さすぎると、負極合材スラリーの粘度が低くなり、分散安定性が低下する(例えば、負極活物質が沈降しやすくなる)場合がある。また、該吸油量が大きすぎると、負極合材スラリーの粘度が高くなりすぎて塗工性や分散安定性が低下する(例えば、増粘しやすくなる)場合がある。吸収量(mL/100g)としては、JIS K6217−4に準拠して測定された値を採用する。
【0021】
ここで開示される製造方法では、上記バインダとして、少なくともカルボキシメチルセルロース(CMC)を使用する。CMC(典型的にはアルカリ金属塩、例えばナトリウム塩)は、セルロースの誘導体であって、リチウム二次電池の製造においてバインダや増粘剤(粘度の調製剤)として一般的に用いられている。
ここで用いられるCMCは、重量平均分子量(Mw)が100万未満(典型的には50万以上100万未満)である低分子領域CMCと、重量平均分子量(Mw)が300万以上(典型的には300万以上500万以下、例えば300万以上400万以下)である高分子領域CMCとを使用することを特徴とする。よって、上記Mw値の範囲を満たしていれば、リチウム二次電池を製造する際に通常用いられるCMCのうち二種または三種以上を特に限定することなく使用することができる。
【0022】
CMCの重量平均分子量(Mw)は、例えば以下の条件で測定することができる。即ち、測定対象たるCMC(粉末状)を溶離液に溶解させて適当な濃度に調製し、GPC(Gel Permiation Chromatography)−RI(Refractive Index;示差屈折率検出器)を行うことで分子量分布を得る。この分子量分布から下式(1)を用いて、重量平均分子量(Mw)を求めることができる。
測定装置;型式「HLC−8320」(東ソー株式会社製)
カラム(固定相);TSKgurard−column PWXLおよび、TSKgelGMPWXL
溶離液;0.1M 塩化ナトリウム水溶液
分子量標準物質;単分散プルラン(昭和電工製)
Mw=Σ(M×W)/W =Σ(M×H)/ΣH(1)
ただし、M;i番目に溶出した成分の分子量
;i番目に溶出した成分の重量
W ;成分の総重量
;i番目に溶出した成分のピークの高さ
【0023】
電極の合材層に一成分として含まれるCMCの重量平均分子量(Mw)を求める場合には、まず測定対象たるCMCを他の材料から分離する。例えば、電極を水等に浸漬してCMCを抽出する。このとき超音波等を印加することによりCMCを効率よく抽出することができる。そして、かかる抽出液を遠心分離して活物質を除去した後、得られた上澄み液(即ち、抽出したCMCが溶解している溶液(水等))を用いて溶離液を調製し、上記と同様にMw値を測定すればよい。もしくは、CMCが溶解した水を回収し蒸発乾固させることにより固形のCMCを得ることができる。このCMCサンプルについて上記と同様にMw値を測定すればよい。
また、電池の状態から出発する場合には、例えば、容器から電極を取り出して電解液を洗浄除去し、測定対象たるCMCを有する電極を他の電池構成要素から分離する。この電極を水等に浸漬してCMCを抽出することができる。
【0024】
ここで用いられるCMCとしては、上記低分子領域CMCと上記高分子領域CMCの重量比が25:75〜75:25(より好ましくは45:55〜65:35)の割合となるCMCを使用する。一般的に、使用するCMCの重量平均分子量(Mw)が小さすぎると負極合材スラリーの粘度が不足し、分散が不安定となる。このため該負極合材スラリーでは、負極活物質の凝集や沈殿等が生じる虞がある。また集電体へ該負極合材スラリーを付与(塗工)する際、スラリーが垂れてしまったり、負極活物質(典型的には粒子状)によるダイラタンシー現象が発生しスジ引き等の塗工不良を生じたりする虞がある。さらに、該負極合材スラリーを用いて負極合材層を形成した場合、集電体との密着性(接着強度)が不足し該合材層のひび割れや剥離が生じる虞もある。逆に使用するCMCの分子量が大きい場合、上述したような負極合材スラリーの分散安定性や、負極合材層と集電体との密着性には優れるが、CMCが負極活物質粒子の表面を広く被覆し被膜を形成する。かかる場合においては、電池反応に伴うリチウムイオンの吸蔵および放出が妨げられるため、電池性能が大きく低下(典型的には、IV抵抗の増大)する虞がある。
しかし、ここで開示される製造方法において、上記範囲を満たすCMCを用いて作製した負極合材層は負極活物質と集電体との密着性が良好であり、且つCMCによる負極活物質の被覆が最小限に抑えられている。したがって、かかる負極合材層を備えたリチウム二次電池では、電池性能を向上(例えば、IV抵抗の低減や耐久性の向上)させることができる。
【0025】
図1に高分子量のCMCのみを用いた負極合材層の模式図を示す。また、ここで開示される製造方法により製造された負極合材層の模式図を図2に示す。図1および図2は、後述する図3(あるいは図4)に示される負極20に備えられた負極集電体22と負極合材層24の接着部分を拡大した模式図である。負極合材層24は、負極活物質26とバインダ(CMC)と図示しない導電材とから構成される。図1に示されるように、高分子量のCMCのみを用いた場合、負極合材層24中に包含される負極活物質粒子26間および該活物質26と集電体22とが強固に結着されているが、負極活物質粒子26の表面は広くバインダ(CMC)28に被覆されており、電池性能が低下する虞がある。一方、図2に示されるように、ここで開示される製造方法により低分子領域CMC29と高分子領域CMC28とを用いた場合、負極活物質26と負極集電体22とは高分子領域CMC28により強く結着されており、且つ低分子領域CMC29が負極活物質粒子26間を結着するため、該負極活物質粒子26表面のCMCによる被覆が最小限に抑えられている。
【0026】
またここで開示される製造方法において、上記低分子領域CMCの分子量分布と、上記高分子領域CMCの分子量分布の重なり部分に包含されるCMCの量が少ない場合(例えば、該低分子領域および該高分子領域それぞれの合計質量分の10%に満たない場合)、かかる構成のリチウム二次電池では、低分子領域と高分子領域が明確に区分されており、分子量分布がほとんど重なることがないため、ここで開示される発明の特徴をより鮮明に実現することができ、より好ましい。
【0027】
なお、従来用いられていたCMCの重量平均分子量(Mw)は、50万以下(例えば、2000〜40万、典型的には5万〜40万)であり、ここで開示される発明で用いたCMCの重量平均分子量(Mw)は従来技術と比べはるかに大きい(具体的には、後述する実施例で示す通り、重量平均分子量(Mw)が90万〜330万のCMCを用いた。)ものである。
【0028】
ここで用いられるCMCのエーテル化度(置換度(Degree of Substitution;DS)ともいう)については特に限定されないが、あまり低すぎると水に対する溶解性も低く、水系溶媒を使用する際に均一に分散することが困難となる。またバインダとしての機能も低下する(即ち、密着性(接着強度)が不足する)。また、エーテル化度の高いCMCは、かかる値が低いCMCに比べ、粘度がpHの影響を受けにくい(即ち、粘度のpH依存性が小さい)ので好ましい。より具体的には、高pH域(特にpH12以上の強アルカリ性条件下)における粘度低下の程度が少ない。したがって、かかるセルロース誘導体を用いることにより、水系活物質組成物の粘度をより適切にコントロールすることができる。このためCMCのエーテル化度は、例えば、0.6〜2.6とすることができ、好ましくは0.65〜1.60である。
【0029】
なお、「エーテル化度」とは、セルロースを構成するグルコース環上にある3つの水酸基(OH基)のうち、カルボキシメチル基に置換されたOH基の数(平均値)をいう。したがってその値は理論的に0〜3の間の値となる。
CMCのエーテル化度は、例えば以下のようにして測定することができる。すなわち、測定対象たるCMC(粉末状)1.0gを精密に秤量し、濾紙に包んで磁性坩堝に入れ、電気炉等の加熱手段を用いて空気中にて600℃で灰化する。その灰化残渣に含まれるナトリウム化合物を水に溶かし、フェノールフタレインを指示薬として0.1Nの硫酸溶液により滴定する。その結果から、以下の計算式(2)を用いてエーテル度を算出することができる。
エーテル化度=(162×A×f)/(1000−80×A×f) (2)
ただし、A;中和に要した0.1N硫酸溶液の量(mL)
f;0.1N硫酸の力価
【0030】
ここで開示される上記負極合材スラリーには、本発明の効果を著しく損なわない限度で、上記負極活物質および上記CMC以外の固形成分(任意成分)を必要に応じて含む組成であり得る。そのような材料の例として、例えば、CMC以外のバインダ、増粘剤として機能し得る各種のポリマー材料、導電材等が挙げられる。
かかるバインダとしては、リチウム二次電池を製造する際に通常用いられる各種のポリマー材料の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。例えば、水系のスラリーを用いて負極合材層を形成する場合には、水に溶解または分散するポリマー材料を好ましく採用し得る。かかるポリマー材料としては、セルロース系ポリマー(典型的にはナトリウム塩)、フッ素系樹脂、酢酸ビニル共重合体、合成ゴム材料(ラテックス)等が例示される。より具体的には、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、メチルセルロース(MC)、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、ニトリルブタジエンゴム(NBR)、アクリル酸変性SBR、カルボキシ変性SBR等が挙げられる。あるいは、溶剤系のスラリー(分散媒体の主成分が有機溶媒である溶剤系組成物)を用いて負極合剤層を形成する場合には、PVdF、ポリ塩化ビニリデン(PVdC)、ポリエチレンオキサイド(PEO)等の有機溶剤に分散または溶解するポリマー材料を好ましく用いることができる。とりわけ合成ゴム材料のスチレンブタジエンゴム(SBR)が好適に用いられる。
【0031】
ここで開示される製造方法における好適な一態様として、上記スラリー状組成物には、CMCに加え、バインダとして合成ゴム材料が用いられていることが挙げられる。
SBRは、スチレンとブタジエンとの共重合体であって、一般的なリチウム二次電池においてバインダとして広く用いられている。ここで用いられるSBRとしては、リチウム二次電池を製造する際に通常用いられるSBRのうち一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。また、スチレンおよびブタジエン以外のモノマーが共重合されたSBRであってもよい。例えば、スチレンとブタジエンとの合計量がモノマー総量の50質量%以上(典型的には75質量%以上、例えば90質量%以上)を占めるSBRが好適に用いられる。ここで用いられるSBRは、水性溶媒(典型的には水)に分散した水性エマルション(ラテックス)の態様で使用され得るため、ポリマー中にカルボキシル基が導入されたSBRを好適に用いることができる。あるいは、スチレンとブタジエン以外のモノマーが実質的に共重合されていない(スチレンおよびブタジエン以外のモノマーの含有率がモノマー総量の5質量%以下、さらには1質量%以下である)SBRを使用してもよい。
ここで開示される製造方法のように、CMCと合成ゴム材料(典型的にはスチレンブタジエンゴム(SBR))とを併用して作製した負極合材層は、負極活物質と集電体との密着性がより強固となり、したがって、かかる負極合材層を備えたリチウム二次電池では、電池性能を向上(例えば、IV抵抗の低減や耐久性の向上)させることができる。
【0032】
ここで用いられる負極合材スラリーの調製に用いられる分散溶媒としては、CMCを好適に溶解するものであれば、従来からリチウム二次電池を製造する際に通常用いられる各種の分散溶媒の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。かかる分散溶媒としては、例えば、水系溶媒(水または水を主体とする混合溶媒)が好適に用いられる。かかる混合溶媒を構成する水以外の溶媒成分としては、水と均一に混合し得る有機溶媒(低級アルコール、低級ケトン等)が挙げられる。例えば、該水系溶媒の50質量%以上(より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上)が水である水系溶媒の使用が好ましい。特に好ましい例として、実質的に水からなる水系溶媒が挙げられる。あるいは、溶媒は水系溶媒に限定されず、非水系溶媒(活物質の分散媒が主として有機溶剤)であってもよい。非水系溶媒としては、例えばN−メチルピロリドン(NMP)等を用いることができる。
【0033】
特に限定されるものではないが、ここで用いられる負極合材スラリーの固形濃度(以下、NVと表す。)は凡そ30質量%以上(典型的には30質量%〜90質量%、好ましくは40質量%〜60質量%)とすることができる。また、スラリー固形分中の負極活物質の割合は凡そ50質量%以上(典型的には70質量%〜99.5質量%)であることが好ましく、凡そ80質量%〜99質量%であることがより好ましい。また、スラリー固形分中のバインダの割合は、例えば0.1質量〜10質量%とすることができ、凡そ0.5質量%〜6質量%(例えば1質量%〜3質量%)であることが好ましい。また、スラリー固形分中に増粘剤を添加する場合は、その割合を、例えば10質量%以下とすることができ、凡そ0.5質量%〜6質量%(例えば1質量%〜5質量%)であることが好ましい。
【0034】
上記バインダは、添加量が少なすぎると負極合材スラリーを集電体に付与して乾燥させた際に、負極合材層にひび割れ等が生じる場合がある。また、その後の生産工程(例えば、所定幅に切断)において、負極合材層が集電体から剥離する場合もある。一方で、バインダを過剰に添加し過ぎると、負極活物質の表面に過剰に付着し、リチウムイオンの吸蔵及び放出(即ち、電気化学反応)を阻害し、電池性能を低下させる要因となり得る。
とりわけ車両用電源等の高出力密度の電池においては、可能な限りバインダの添加量を削減し(即ち、負極活物質の比率を高め)つつ、十分な結着性を確保することが求められている。
【0035】
ここで用いられる負極合材スラリーの粘度は、凡そ300mPa・s〜2000mPa・s(好ましくは500mPa・s〜1500mPa・s、より好ましくは600mPa・s〜1000mPa・s)の範囲であり得る。該粘度の具体的な測定方法については後述する実施例に詳細を述べるが、ここではE型粘度計(東機産業製)により測定された値を採用するものとする。かかる粘度は、上述したCMCの分子量分布(即ち、低分子領域CMCと高分子領域CMCの配合比)によって調製することができる。
スラリーの粘度が低すぎる場合には、時間の経過に伴い負極活物質の凝集や沈降が起こり、負極スラリーの分散安定性(即ち、負極活物質の沈降しにくさ)が低下する。このため、負極集電体上に精度よく均一な組成の負極合材層を形成することが困難となり得る。また、粘度が高すぎると、スラリーの取扱いが困難になったり、一定の(高精度の)目付量で負極集電体へ塗工することが困難になったりすることがある。
負極合材スラリーの粘度が上記範囲にある場合、分散安定性に優れ、負極活物質が沈降しにくい。また、かかる負極合材スラリーは塗工性が良好であり、精度よく負極合材層を形成することができる。したがって、かかる負極合材層を備えたリチウム二次電池では、電池性能を向上(例えば、IV抵抗の低減や耐久性の向上)させることができる。
【0036】
負極合材スラリーの調製は、例えば以下の手順で行うことができる。まず、低分子領域CMCを、最終的なNVよりも少ない量の水(例えばイオン交換水)を加えて分散し、高粘度のCMC分散スラリーを調製する。次いで、上記CMC分散スラリーに負極活物質を加え、混合して混練する。さらに、上記スラリーに、高分子領域CMCを加えて混練し、水(例えばイオン交換水)を添加して粘度を調製する。そして、例えば該スラリーの入った容器を減圧することで、粘度を調製したスラリー中の気泡を除去し、目的とする負極合材スラリーを得る。
上記のように、負極活物質を含む溶媒中に先ず低分子領域CMCを添加することで、低分子のCMCが負極活物質を優先的に被覆する。その後、高分子CMCを添加することで本発明の特徴をより鮮明に実現することができる。
【0037】
<付与工程>
次に、ここで開示される製造方法における付与工程では、上記調製した負極合材スラリーを、負極集電体上の片面または両面に適当量付与し、乾燥させることで負極合材層(負極活物質層ともいう。)を形成する。
上記負極スラリーを負極集電体上に付与する方法は特に制限されず、従来公知の方法を適宜採用することができる。好ましい方法としては、スリットダイによる塗工法が例示される。負極集電体に上記負極スラリーを塗工する場合、該集電体片面への塗工量を4mg/cm以下とすることができる。ここに開示される技術によると、負極スラリーのNVを比較的高く(40質量%以上、例えば、凡そ40質量%〜60質量%)設定し、かつ4mg/cm以下という低い目付量であっても、塗工時にスジ引きやダマ形成等が起こり難く、薄くて密度バラツキの少ない負極合材層を形成することができる。
【0038】
ここで負極集電体の素材としては、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等が挙げられる。なお、形態は特に限定されず、棒状体、板状体、箔状体、網状体等を用いることができる。後述する捲回電極体を備えた電池では、銅または銅を主成分とする合金(銅合金)製の箔状体が用いられる。箔状集電体の厚みは特に限定されないが、電池の容量密度と集電体の強度との兼ね合いから、5μm〜200μm(より好ましくは8μm〜50μm)程度を好ましく用いることができる。
【0039】
上記付与した負極合材スラリーの乾燥は、必要に応じて加熱下で行うことができる。好ましい一態様では、乾燥温度を凡そ200℃以下(典型的には100℃以上200℃未満)とし、乾燥時間を1分〜10分程度とする。
ところで、負極合材スラリーを乾燥させる際、溶媒の蒸発に伴って該スラリー中に含まれるバインダ(典型的にはCMC)が移動し、負極合材層表面に偏在化(マイグレーション)する場合がある。この結果、該集電体近傍のバインダが少なくなり負極合材層と負極集電体との密着性(接着強度)が低下する。このような密着性の低下により、その後の生産工程において負極合材層がひび割れたり、剥がれ落ちたりする場合がある。この傾向は、生産性向上のために乾燥速度を高めると、より顕著である。しかし、ここで開示される製造方法によれば、上記バインダとして従来とは異なり非常に高分子量のCMCを使用しているため、該スラリーの乾燥中に対流が発生したとしても、集電体近傍のCMCが表層部に浮き上がりにくくなる。このことによって、集電体近傍のCMCの量が確保され、合材層と集電体との密着性を高めることができる。即ち、ここで開示される製造方法によれば、マイグレーション現象によるバインダの偏析を解消または緩和し得るため、集電体に対して密着性の高い負極合材層を備えた電極を製造することができる。
【0040】
負極合材スラリーの乾燥後、適宜プレス処理(例えば、ロールプレス法、平板プレス法等の従来公知の各種プレス方法を採用することができる。)を施すことによって、負極合材層の厚みや密度を調製することができる。乾燥・圧延後の負極合材層密度は、例えば2.0g/cm以下(典型的には、1.0g/cm以上1.5g/cm以下)であり得る。
【0041】
ここで開示されるリチウム二次電池の正極としては、粒状正極活物質を導電材やバインダ等とともに適当な分散媒体に分散させて混練することによって、スラリー状(ペースト状、インク状のものを包含する。)の組成物(正極合材スラリー)を調製する。この正極合材スラリーを正極集電体の片面または両面に適量付与し正極合材層を形成した後、乾燥させる方法を好ましく採用することができる。この乾燥は、必要に応じて加熱下で行うことができる。
【0042】
ここで用いられる正極活物質には、従来からリチウム二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。例えば、リチウムニッケル酸化物(例えばLiNiO)、リチウムコバルト酸化物(例えばLiCoO)、リチウムマンガン酸化物(例えばLiMn)等のリチウムと遷移金属元素とを構成金属元素として含む酸化物(リチウム遷移金属酸化物)や、リン酸マンガンリチウム(LiMnPO)、リン酸鉄リチウム(LiFePO)等のリチウムと遷移金属元素とを構成金属元素として含むリン酸塩等が挙げられる。中でも、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(NCMとも言う。例えばLiNi1/3Co1/3Mn1/3)を主成分とする正極活物質(典型的には、実質的にリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物からなる正極活物質)は、熱安定性に優れ、かつエネルギー密度も高いため好ましく用いることができる。
【0043】
ここで、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物とは、Li、Ni、Co、Mnを構成金属元素とする酸化物のほか、Li、Ni、Co、Mn以外に他の少なくとも一種の金属元素(Li、Ni、Co、Mn以外の遷移金属元素および/または典型金属元素)を含む酸化物をも包含する意味である。かかる金属元素は、例えば、Al、Cr、Fe、V、Mg、Ti、Zr、Nb、Mo、W、Cu、Zn、Ga、In、Sn、La、Ceのうちの一種または二種以上の元素であり得る。リチウムニッケル酸化物、リチウムコバルト酸化物、及びリチウムマンガン酸化物についても同様である。このようなリチウム遷移金属酸化物(典型的には粒子状)としては、例えば従来公知の方法で調製されるリチウム遷移金属酸化物粉末をそのまま使用することができる。例えば、平均粒径が凡そ1μm〜25μmの範囲にある二次粒子によって実質的に構成されたリチウム遷移金属酸化物粉末を正極活物質として好ましく用いることができる。
【0044】
ここで用いられる導電材には、従来からリチウム二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。例えば、カーボン粉末やカーボンファイバー等のカーボン材料が好ましく用いられる。あるいはニッケル粉末等の導電性金属粉末等を用いてもよい。カーボン粉末としては、種々のカーボンブラック(例えば、アセチレンブラック(AB)、ファーネスブラック、ケッチェンブラック(KB))、グラファイト粉末等を用いることができる。なかでも好ましいカーボン粉末としては、アセチレンブラック(AB)が挙げられる。
【0045】
ここで開示されるリチウム二次電池の正極合材層には、上記負極合材層用のバインダとして例示したポリマー材料から適当なものを選択することができる。例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等が例示される。
【0046】
ここで用いられる溶媒としては、従来リチウム二次電池の作製時に用いられる溶媒のうち一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。かかる溶媒は水系と有機溶剤に大別され、有機溶媒としては、例えば、アミド、アルコール、ケトン、エステル、アミン、エーテル、ニトリル、環状エーテル、芳香族炭化水素等が挙げられる。より具体的には、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド、2−プロパノール、エタノール、メタノール、アセトン、メチルエチルケトン、プロペン酸メチル、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸エチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、アセトニトリル、エチレンオキシド、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレンジメチルスルホキシド(DMSO)、ジクロロメタン、トリクロロメタン、ジクロロエタン等が挙げられる。とりわけ、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)が好適に用いられる。
【0047】
特に限定されるものではないが、正極合材層形成用スラリーのNVは凡そ40質量%〜70質量%(好ましくは45質量%〜65質量%、さらに好ましくは50質量%〜60質量%)とすることができる。また、特に限定されるものではないが、正極合材層全体に占める正極活物質の割合は典型的には凡そ50質量%以上(典型的には70質量%〜99質量%)であり、凡そ80質量%〜99質量%であることが好ましい。また正極合材層全体に占めるバインダの割合を、例えば凡そ0.1質量%〜10質量%とすることができ、凡そ1質量%〜5質量%とすることが好ましい。正極合材層全体に占める導電材の割合は、例えば凡そ5質量%〜15質量%とすることができ、凡そ2質量%〜8質量%とすることが好ましい。
また、その他、増粘剤として機能し得る各種のポリマー材料(例えばカルボキシメチルセルロース(CMC))、分散剤、その他各種添加剤(例えば、過充電時においてガスを発生させる無機化合物(例えば、リン酸塩や炭酸塩))等を適宜含有させ得る。
【0048】
ここで正極集電体の素材としては、アルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等のように導電性の良い金属を主体に構成された部材を使用することができる。集電体の形状は、得られた電極を用いて構築される電池の形状等に応じて異なり得るため特に限定されず、棒状体、板状体、箔状体、網状体等を用いることができる。後述する捲回電極体を備えた電池では、主にアルミニウムを主成分とする合金(アルミニウム合金)製の箔状体が用いられる。箔状集電体の厚みは特に限定されないが、電池の容量密度と集電体の強度との兼ね合いから、5μm〜200μm(より好ましくは10μm〜30μm)程度を好ましく用いることができる。
【0049】
正極合材スラリーの乾燥後、適宜プレス処理(例えば、ロールプレス法、平板プレス法等の従来公知の各種プレス方法を採用することができる。)を施すことによって、正極合材層の厚みや密度を調製することができる。乾燥・圧延後の正極合材層密度は、例えば
2.0g/cm〜4.2g/cm(典型的には2.5g/cm〜3.2g/cm)とすることができる
【0050】
上記正極および負極を積層した電極体を作製し、電解液とともに適当な電池ケースに収容してリチウム二次電池が構築される。なお、ここに開示されるリチウム二次電池の代表的な構成では、正極と負極との間にセパレータが介在される。
電池ケースとしては、従来のリチウム二次電池に用いられる材料や形状を用いることができる。材質としては、例えばアルミニウム、スチール等の比較的軽量な金属材料や、PPS、ポリイミド樹脂等の樹脂材料が挙げられる。形状(容器の外形)としては特に限定されず、例えば、円筒型、角型、直方体型、コイン型、袋体型等の形状であり得る。また該ケースに電流遮断機構(電池の過充電時に、内圧の上昇に応じて電流を遮断し得る機構)などの安全機構を設けてもよい。
【0051】
ここで用いられる電解液には、従来のリチウム二次電池に用いられる非水電解液と同様の一種または二種以上のものを特に限定なく使用することができる。かかる非水電解液は、典型的には、適当な非水溶媒に電解質(リチウム塩)を含有させた組成を有する。
該非水溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の非プロトン性溶媒を用いることができる。例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、1,3−ジオキソラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、アセトニトリル、プロピオニトリル、ニトロメタン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。なかでもカーボネート類を主体とする非水溶媒が好ましく用いられる。例えば、非水溶媒として一種または二種以上のカーボネート類を含み、それらカーボネート類の合計体積が非水溶媒全体の体積の60体積%以上(より好ましくは75体積%以上、さらに好ましくは90体積%以上であり、実質的に100体積%であってもよい。)を占める非水電解液を好ましく用いられる。また、かかる液状電解液にポリマーが添加された固体状(ゲル状)の電解液であってもよい。
該電解質としては、例えばLiPF、LiBF、LiClO、LiN(SOCF、LiN(SO、LiCFSO、LiCSO、LiC(SOCF、LiClO等が例示される。なかでもLiPFが好ましく用いられる。電解質の濃度は特に制限されないが、電解質の濃度が低すぎると電解液に含まれるリチウムイオンの量が不足し、イオン伝導性が低下する傾向がある。また支持電解質の濃度が高すぎると非水電解液の粘度が高くなりすぎて、イオン伝導性が低下する傾向がある。このため、電解質を凡そ0.1mol/L〜5mol/L(好ましくは、凡そ0.8mol/L〜1.5mol/L)程度の濃度で含有する非水電解液が好ましく用いられる。
【0052】
ここで用いられるセパレータとしては、従来からリチウム二次電池に用いられるものと同様の各種多孔質シートを用いることができる。例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂から成る多孔質樹脂シート(フィルム、不織布等)が挙げられる。かかる多孔質樹脂シートは、単層構造であってもよく、二層以上の複数構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造)であってもよい。特に限定されるものではないが、セパレータ基材として用いられる好ましい多孔質シート(典型的には多孔質樹脂シート)の性状として、平均孔径が0.001μm〜30μm程度であり、厚みが5μm〜100μm(より好ましくは10μm〜30μm)程度である多孔質樹脂シートが例示される。該多孔質シートの気孔率(空隙率)は、例えば凡そ20体積%〜90体積%(好ましくは30体積%〜80体積%)程度であり得る。なお、固体状の電解液を用いたリチウム二次電池(リチウムポリマー電池)では、上記電解質がセパレータを兼ねる構成としてもよい。
【0053】
特に限定することを意図したものではないが、本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池の概略構成として、扁平に捲回された電極体(捲回電極体)と、非水電解液とを扁平な箱型(直方体形状)の容器に収容した形態のリチウム二次電池(単電池)を例とし、図3,4にその概略構成を示す。以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略または簡略化することがある。各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は、実際の寸法関係を反映するものではない。
【0054】
図3にリチウム二次電池(単電池)100を示す。このリチウム二次電池100は、捲回電極体80と電池ケース50とを備えている。また、図4は捲回電極体80を示す図である。
【0055】
図3に模式的に示すように、本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池100は、長尺状の正極シート10と長尺状の負極シート20が長尺状のセパレータ40Aおよび40Bを介して扁平に捲回された形態の電極体(捲回電極体)80が、図示しない非水電解液とともに、扁平な箱型(直方体形状)の電池ケース50に収容された構成を有する。
電池ケース50は、上端が開放された扁平な直方体状のケース本体52と、その開口部を塞ぐ蓋体54とを備える。電池ケース50の上面(即ち、蓋体54)には、捲回電極体80の正極10と電気的に接続する正極端子70および該電極体80の負極20と電気的に接続する負極端子72が設けられている。
【0056】
図4は、捲回電極体80を組み立てる前段階における長尺状のシート構造(電極シート)を模式的に示す図である。長尺状の正極集電体12の片面または両面(典型的には両面)に長手方向に沿って正極合材層14が形成された正極シート10と、長尺状の負極集電体22の片面または両面(典型的には両面)に長手方向に沿って負極合材層24が形成された負極シート20とを、二枚の長尺状セパレータ40Aおよび40Bとともに重ね合わせて長尺方向に捲回し、捲回電極体を作製する。かかる捲回電極体を側面方向から押しつぶして拉げさせることによって扁平形状の捲回電極体80が得られる。
正極シート10は、その長手方向に沿う一方の端部において、正極合材層14が設けられておらず(あるいは除去されて)、正極集電体12が露出するよう形成されている。同様に、捲回される負極シート20は、その長手方向に沿う一方の端部において、負極合材層24が設けられておらず(あるいは除去されて)、負極集電体22が露出するように形成されている。そして、正極集電体12の該露出端部74に正極集電板が、負極集電体22の該露出端部76には負極集電板がそれぞれ付設され、上記正極端子70および上記負極端子72とそれぞれ電気的に接続される。
【0057】
ここで開示されるリチウム二次電池は、各種用途に利用可能であるが、高出力密度かつ高エネルギー密度であって、良好なサイクル特性を備えることを特徴とする。このため、例えば図5に示すように、自動車等の車両1に搭載されるモーター用の動力源(駆動電源)としてここで開示されるリチウム二次電池100が好適に使用され得る。車両1の種類は特に限定されないが、典型的には、プラグインハイブリッド自動車(PHV)、ハイブリッド自動車(HV)、電気自動車(EV)、燃料電池自動車(FCV)が挙げられる。また、かかるリチウム二次電池100は、単独で使用(即ち、単電池)されてもよく、直列および/または並列に複数接続されてなる組電池の形態で使用されてもよい。
【0058】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。以下の説明において、「%」は特に断りがない限り質量基準である。
なお、以下の全ての例において、CMC(ナトリウム塩)は粉末状のものを使用した。また本実施例において使用したCMCのGPC−RIに基づく重量平均分子量(Mw)を下表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
[リチウム二次電池の構築]
<実施例1>
CMC−A(Mw=90万、低分子領域CMC)とCMC−D(Mw=330万、高分子領域CMC)とを50%:50%の割合で乾式混合し、該混合したCMCを最終的な目標NVよりも少ない量の水(ここではイオン交換水を用いた。)とともに攪拌装置(型式「T.K.ハイビスミックス」、プライミクス株式会社製)に投入して分散し、高粘度のCMC分散スラリーを調製した。次いで、上記CMC分散スラリーと、負極活物質としての天然黒鉛(粉末状)と、バインダとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)とを、これら材料の質量比(固形分率)が1:98:1となるよう混合し、NVが50%となるよう更に水(イオン交換水)を添加して粘度を調製した。そして、上記粘度を調製したスラリーを減圧にしてスラリー中の気泡を除去(脱泡)し、目的とする水系の負極合材スラリーを得た。
【0061】
[粘度測定]
上記得られた負極合材スラリーの混練完了直後の粘度(初期粘度ということもある)を、下記条件にて測定した。結果を下表2の該当箇所に示す。
測定装置;型式「E型粘度計」(東機産業株式会社製)
コーンプレート;3°×R14
測定温度;20℃
回転数;20rpm
【0062】
次に、この負極合材スラリーを、スリットダイ(塗工速度30m/sec)を用い、厚み凡そ10μmの長尺状銅箔(負極集電体)の両面に片面当たりの目付量(固形分換算の付与量、すなわち負極合材層の乾燥質量)が4.0mg/cmとなるように付与して負極合材層を形成した。得られた負極を乾燥し、その後、プレスして合材層密度が1.2g/cmの負極シート(実施例1)を得た。
【0063】
[剥離強度試験]
負極集電体への負極合材層の密着力は、JIS−C6481−1995に規定される90°剥離試験にて評価した。具体的には、負極合材層側の面を台上に両面テープで固定し、島津製作所製オートグラフを用いて負極集電体を負極合材層の面に対して垂直(90°)となる方向に引っ張り、50mm/分の速度で連続的に約50mm剥がした。そして、この間の荷重の最低値を剥離強度[N/m]として測定し、負極集電体と負極合材層の密着力を評価した。その結果を下表2の該当箇所に示す。
【0064】
そして、正極活物質粉末としてのLiNi1/3Co1/3Mn1/3(NCM)粉末と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、これら材料の質量比率が93:4:3となるよう混合し、且つNVが凡そ55%となるようN−メチルピロリドン(NMP)で希釈し、正極合材層形成用のスラリー状の組成物(正極合材スラリー)を調製した。なお、PVdFとしては、株式会社クレハ製の商品名「KFポリマー#7305」を使用した。この正極合材スラリーを、厚み凡そ15μmの長尺状アルミニウム箔(正極集電体)の両面に片面当たりの目付量(固形分換算の付与量、すなわち正極合材層の乾燥質量)が6.0mg/cmとなるように付与し、得られた正極を乾燥して正極合材層を形成した。次いで、正極合材層の密度が2.5g/cmとなるよう、この正極シートをプレスし正極シートを作製した。
【0065】
そして、上記で作製した正極シートと負極シートとを、2枚のセパレータ(ここでは多孔質ポリエチレンシート(PE)を用いた。)を介して重ね合わせて捲回し、電極体を作製した。かかる電極体を非水電解液(ここでは、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを3:7の体積比で含む混合溶媒に、電解質としてのLiPFを凡そ1mol/Lの濃度で溶解した電解液を用いた。)とともに円筒型の電池ケースに収容した。該電池ケースの開口部に蓋体を装着し、溶接して接合することにより18650型(径18mm、高さ65mm)のリチウム二次電池を構築した。
【0066】
[抵抗測定]
作製したリチウム二次電池の電池特性を評価するため、25℃の温度下において、日置電機製のバッテリテスタを用い、1kHz、10mAで電池抵抗の測定を行った。結果を下表2の該当箇所に示す。
【0067】
<実施例2>
上記負極合材スラリー調製時に、CMC−B(Mw=150万、低分子領域CMC)とCMC−D(Mw=330万、高分子領域CMC)とを50%:50%の割合で乾式混合したものを用いた点以外は実施例1と同様にして負極シート(実施例2)を作製した。かかる負極シートを用い、実施例1と同様に18650型リチウム二次電池を構築した。
【0068】
<実施例3>
上記負極合材スラリー調製時に、CMC−C(Mw=240万、低分子領域CMC)とCMC−D(Mw=330万、高分子領域CMC)とを50%:50%の割合で乾式混合したものを用いた点以外は実施例1と同様にして負極シート(実施例3)を作製した。かかる負極シートを用い、実施例1と同様に18650型リチウム二次電池を構築した。
【0069】
【表2】

【0070】
表2より、実施例1〜3では負極合材スラリー粘度や密着力はほとんど変化しなかったが、低分子領域CMCとして用いたCMCのMw値が100万を超えた実施例2および実施例3では電池抵抗が増大し電池性能が低下した。かかる結果は、低分子領域CMCの分子量を100万以下に設定することの技術的意義を裏付けるものである。
【0071】
<実施例4〜9>
次に、かかる発明に好適な配合割合を検討するために、CMC−A(Mw=90万、低分子領域CMC)とCMC−D(Mw=330万、高分子領域CMC)を用いて、その配合割合を下表3に示すように変化させ、実施例1と同様に特性を評価した。
実施例4〜9は、上記負極合材スラリー調製時に、CMC−AとCMC−Dとを下表3に示す割合で乾式混合したものを用いた点以外は実施例1と同様にして負極シート(実施例4〜9)を作製した。かかる負極シートを用い、実施例1と同様に18650型リチウム二次電池を構築した。評価結果を下表3の該当箇所および図6に示す。
【0072】
【表3】

【0073】
表3より、高分子領域CMCの配合比が増えるにしたがって、負極合材スラリーの粘度が上昇し、高分子領域CMCの配合比が80%の実施例4では粘度が大きく増大した。これに伴い、負極合材スラリー分散性が低下したため、電池抵抗が増大し電池特性が低下した。また、表3および図6に示すように、低分子領域CMCの配合比が増えるにしたがって、密着力が低下し、低分子領域CMCの配合比が80%の実施例9では急激に低下した。これに伴い、電池抵抗が増大し電池特性が低下した。また、低分子領域CMCの配合比が50%〜67%である実施例1および実施例7の間で、密着力、電池抵抗ともに最も良好な結果となった。かかる結果は、カルボキシメチルセルロース(CMC)として重量平均分子量(Mw)が100万未満である低分子領域CMCと、重量平均分子量(Mw)が300万以上である高分子領域CMCとの重量比が25:75から75:25(より好ましくは45:55〜65:35)の割合で混合されたCMCを使用することの技術的意義を裏付けるものである。
【0074】
<実施例10>
そして、かかる発明の効果を好適に発揮し得る作製方法を検討するために、CMC−A(Mw=90万、低分子領域CMC)とCMC−D(Mw=330万、高分子領域CMC)を用いて、その添加のタイミングを変えて、実施例1と同様に特性を評価した。
実施例10では、上記負極合材スラリー調製時に、まず、CMC−A(Mw=90万、低分子領域CMC)を、最終的な目標NVよりも少ない量の水(例えばイオン交換水)を加えて分散し、高粘度のCMC分散スラリーを調製した。次いで、上記CMC分散スラリーに負極活物質としての天然黒鉛(粉末状)と、バインダとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)を加え、混合して混練した。さらに、上記スラリーに、CMC−Aと同量のCMC−D(Mw=330万、高分子領域CMC)を加えて混練し、NVが50%となるよう水(例えばイオン交換水)を添加して粘度を調製した。なお、これら材料の質量比(固形分率)は、実施例1と同じ(即ち、混合されてなるCMC:負極活物質:SBR=1:98:1)である。そして、上記粘度を調製したスラリーを減圧にしてスラリー中の気泡を除去(脱泡)し、目的とする水系の負極合材スラリーを得た。該負極合材スラリーを用いて実施例1と同様にして負極シート(実施例10)を作製した。かかる負極シートを用い、実施例1と同様に18650型リチウム二次電池を構築した。評価結果を下表4の該当箇所に示す。
【0075】
【表4】

【0076】
先に低分子領域CMCを投入し、後から高分子領域CMCを投入した実施例10では、低分子領域CMCと高分子領域CMCを一気に投入した実施例1に比べて密着力が明らかに向上した。この原因としては、最初に投入した低分子領域CMCが負極活物質同士を付着させるのに優先的に用いられたためと考えられる。負極活物質に付着するバインダの量は、例えば吸油量などの物性値によりある程度決定されるため、後に投入した高分子領域CMCは静電反発等により負極活物質に付着する量が減少し、負極活物質と集電体を結着するため用いられたと考えられる。かかる結果は、ここで示される製造方法において低分子領域CMCを先に投入することの技術的意義を裏付けるものである。
上述の通り、ここで開示される製造方法によれば、バインダとして用いるCMCの重量平均分子量(Mw)およびその添加のタイミングを最適化することで、負極合材層内(即ち、負極活物質間および負極活物質と負極集電体間)の密着力を確保しつつ、電池特性に優れたリチウム二次電池を提供し得ることが示された。
【0077】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0078】
1 自動車(車両)
10 正極シート(正極)
12 正極集電体
14 正極合材層
20 負極シート(負極)
22 負極集電体
24 負極合材層
26 負極活物質
28 バインダ(高分子領域CMC)
29 バインダ(低分子領域CMC)
40A、40B セパレータシート
50 電池ケース
52 ケース本体
54 蓋体
70 正極端子
72 負極端子
80 捲回電極体
90 平板
100 リチウム二次電池
110 冷却板
120 エンドプレート
130 拘束バンド
140 接続部材
150 スペーサ部材
155 ビス
200 組電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極集電体と、前記負極集電体上に形成された負極合材層と、を有する負極を備えたリチウム二次電池を製造する方法であって、
負極活物質と、少なくともカルボキシメチルセルロース(CMC)を含むバインダと、を溶媒中に分散させスラリー状の組成物を調製する工程;
前記調製したスラリー状の組成物を前記負極集電体上に付与し、前記負極合材層を形成する工程;および
前記負極合材層が形成された前記負極を用いてリチウム二次電池を構築する工程;
を包含し、
ここで、前記カルボキシメチルセルロース(CMC)として、重量平均分子量が100万未満である低分子領域CMCと、重量平均分子量が300万以上である高分子領域CMCとを、該低分子領域CMC(A)と該高分子領域CMC(B)の重量比(A:B)が25:75から75:25の割合となるように使用することを特徴とする、リチウム二次電池を製造する方法。
【請求項2】
前記スラリー状の組成物には、前記混合されたCMCに加え、前記バインダとして合成ゴム材料が用いられている、請求項1に記載のリチウム二次電池の製造方法。
【請求項3】
前記スラリー状の組成物を調製する工程において、前記負極活物質を含む前記溶媒中に、先ず前記低分子領域CMCを加え、その後に前記高分子領域CMCを加える、請求項1または2に記載のリチウム二次電池の製造方法。
【請求項4】
前記スラリー状の組成物を調製する工程において、前記低分子領域CMCと前記高分子領域CMCの配合比は、前記スラリー状の組成物の粘度が300mPa・s〜2000mPa・sの範囲内となるよう決定する、請求項1から3のいずれか一項に記載のリチウム二次電池の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の製造方法により得られたリチウム二次電池。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか一項に記載の製造方法により得られたリチウム二次電池を備えた車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−89422(P2013−89422A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228176(P2011−228176)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】