説明

リチウム二次電池用正極、導電剤組成物、リチウム二次電池正極用組成物、及びリチウム二次電池用正極の製造方法

【課題】従来よりも短時間で製造できるリチウム二次電池用正極を提供する。
【解決手段】正極に、導電剤と、(メタ)アクリル酸のアルキルエステルに由来する単量体単位及びα,β−不飽和ニトリル化合物に由来する単量体単位を含むアクリル系重合体と、芳香族ビニル化合物と共役ジエンとのブロック共重合体であって、前記芳香族ビニル化合物に由来する単量体単位の含有量が35重量%以上75重量%以下であり、共役ジエンに由来する単量体単位における1,2結合体単位の量が15モル%以下であり、且つ、共役ジエンに由来する単量体単位の70モル%以上が水添されている、水添ブロック共重合体と、正極活物質とを含ませる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用正極、導電剤組成物、リチウム二次電池正極用組成物、及びリチウム二次電池用正極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池の正極は、通常、集電体と、前記集電体の表面に設けられた正極活物質層とを備える。正極活物質層は、一般に、正極活物質と、導電剤と、結着剤とを含み、正極活物質、導電剤及び結着剤を含む液状組成物を集電体の表面に塗布することによって製造される。前記の結着剤としては重合体を使用することが多く、従来から様々な検討がなされてきた(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0003】
前記の液状組成物を製造する際には、通常、正極活物質と導電剤と結着剤とを混練機において混練する。混練することにより、正極活物質及び導電剤の表面に結着剤が結着するので、正極活物質層に正極活物質及び導電剤を安定して保持できるようになる。また、通常、導電剤は複数個の一次粒子が凝集して二次粒子となっているので、前記の混練には、導電剤の凝集を解いて均一に分散させる意義もある。
この際、多くの導電剤は、結着剤が吸着し難く、また凝集が解け難い傾向があるので、前記の混練では、大きな力で長時間をかけて行うことが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−92288号公報
【特許文献2】特開2010−135094号公報
【特許文献3】特開2003−163006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、従来、正極活物質と導電剤と結着剤とを混練する工程には長時間を要していた。しかし、生産性を向上させるためには、前記の混練時間を短縮することが望まれる。
混練時間の短縮のためには、例えば、正極活物質と導電剤と結着剤とを従来よりも大きな力で混練することにより、混練時間を短縮することも考えられる。この点、例えばカーボンで形成された導電剤は大きな力で混練しても破砕され難いので、大きな力で混練しても一次粒子径が小さくならず、電池の性能を損なうことはないとも考えられる。ところが、実際に大きな力で混練すると、例え導電剤が破砕されないとしても、正極活物質が破砕されることにより、正極活物質の粒径が小さくなって電池容量が低下することになる。
【0006】
本発明は上述した課題に鑑みて創案されたもので、混練時間を短縮して従来よりも短時間で製造できるリチウム二次電池用正極及びその製造方法、並びに、前記のリチウム二次電池用正極の製造に用いられる導電剤組成物及びリチウム二次電池正極用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上述した課題を解決するべく鋭意検討した結果、先に導電剤と結着剤とを強い力で短時間で混練し、その後で、正極活物質と混ぜて弱い力で混練することにより、電池容量を低下させること無く短時間でリチウム二次電池用正極を製造できるとの知見を得た。さらに、前記のように導電剤と結着剤とを強い力で短時間で混練することを行う場合、結着剤として、所定のアクリル系重合体と所定の水添ブロック共重合体とを組み合わせることにより、導電剤の分散性及び得られる組成物のチクソ性を改善して正極活物質層を容易に形成できるようになるとの知見を得た。以上の知見から、本発明者は本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の〔1〕〜〔7〕を要旨とする。
【0008】
〔1〕 導電剤と、
(メタ)アクリル酸のアルキルエステルに由来する単量体単位及びα,β−不飽和ニトリル化合物に由来する単量体単位を含むアクリル系重合体と、
芳香族ビニル化合物と共役ジエンとのブロック共重合体であって、前記芳香族ビニル化合物に由来する単量体単位の含有量が35重量%以上75重量%以下であり、共役ジエンに由来する単量体単位における1,2結合体単位の量が15モル%以下であり、且つ、共役ジエンに由来する単量体単位の70モル%以上が水添されている、水添ブロック共重合体と、
正極活物質とを含む、リチウム二次電池用正極。
〔2〕 正極活物質100重量部に対する前記アクリル系重合体及び水添ブロック共重合体の合計量が、0.5重量部以上5重量部以下であり、
前記水添ブロック共重合体を、前記アクリル系重合体の2倍以上7倍以下の量で含む、〔1〕記載のリチウム二次電池用正極。
〔3〕 前記アクリル系重合体が、(メタ)アクリル酸のアルキルエステルであって前記アルキルエステルのアルキル基の炭素原子数が1個以上18個以下である(メタ)アクリル酸のアルキルエステルに由来する単量体単位を50重量%以上95重量%以下含み、
さらに前記アクリル系重合体は、α,β−不飽和ニトリル化合物に由来する単量体単位を、5重量%以上50重量%以下含む、〔1〕又は〔2〕に記載のリチウム二次電池用正極。
〔4〕 ポリフッ化ビニリデンを含む、〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極。
〔5〕 導電剤と、
(メタ)アクリル酸のアルキルエステルに由来する単量体単位及びα,β−不飽和ニトリル化合物に由来する単量体単位を含むアクリル系重合体と、
芳香族ビニル化合物と共役ジエンとのブロック共重合体であって、前記芳香族ビニル化合物に由来する単量体単位の含有量が35重量%以上75重量%以下であり、共役ジエンに由来する単量体単位における1,2結合体単位の量が15モル%以下であり、且つ、共役ジエンに由来する単量体単位の70モル%以上が水添されている、水添ブロック共重合体と、
溶媒とを含む、導電剤組成物。
〔6〕 〔5〕記載の導電剤組成物と、
正極活物質とを含む、リチウム二次電池正極用組成物。
〔7〕 集電体と、前記集電体の表面に設けられた正極活物質層とを備えるリチウム二次電池用正極を製造する製造方法であって、
導電剤;(メタ)アクリル酸のアルキルエステルに由来する単量体単位及びα,β−不飽和ニトリル化合物に由来する単量体単位を含むアクリル系重合体;芳香族ビニル化合物と共役ジエンとのブロック共重合体であって、前記芳香族ビニル化合物に由来する単量体単位の含有量が35重量%以上75重量%以下であり、共役ジエンに由来する単量体単位における1,2結合体単位の量が15モル%以下であり、且つ、共役ジエンに由来する単量体単位の70モル%以上が水添されている、水添ブロック共重合体;及び溶媒を混合して、導電剤組成物を調製する工程と、
調製した前記導電剤組成物及び正極活物質を混合して、リチウム二次電池正極用組成物を調製する工程と、
前記集電体の表面に、調製した前記リチウム二次電池正極用組成物を塗布して前記正極活物質層を形成する工程とを含む、リチウム二次電池用正極の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のリチウム二次電池用正極は、従来よりも短時間で製造できる。
本発明の導電剤組成物、リチウム二次電池正極用組成物及びリチウム二次電池用正極の製造方法によれば、リチウム二次電池用正極を従来よりも短時間で製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態及び例示物等を示して本発明について詳細に説明するが、本発明は以下に説明する実施形態及び例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。なお、以下の説明において、(メタ)アクリル酸とはアクリル酸及びメタクリル酸のことを指す。
【0011】
〔1.リチウム二次電池用正極の概要〕
本発明のリチウム二次電池用正極(以下、適宜「本発明の正極」という。)は、下記(i)〜(iv)の成分を含む。
(i)導電剤。
(ii)(メタ)アクリル酸のアルキルエステルに由来する単量体単位及びα,β−不飽和ニトリル化合物に由来する単量体単位を含むアクリル系重合体。
(iii)芳香族ビニル化合物と共役ジエンとのブロック共重合体であって、芳香族ビニル化合物に由来する単量体単位の含有量が35重量%以上75重量%以下であり、共役ジエンに由来する単量体単位における1,2結合体単位の量が15モル%以下であり、且つ、共役ジエンに由来する単量体単位の70モル%以上が水添されている、水添ブロック共重合体。
(iv)正極活物質。
【0012】
また、通常、本発明の正極は正極活物質層を備え、この正極活物質層に前記の(i)〜(iv)の成分を含む。さらに、本発明の正極は通常は集電体を備え、集電体の表面に前記の正極活物質層を備える。
【0013】
〔2.導電剤〕
導電剤としては、導電性を有する材料を用いる。導電剤を用いることにより、正極活物質同士の電気的接触を向上させることができ、特に放電レート特性を顕著に改善できる。
導電剤としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラック、グラファイト、気相成長カーボン繊維、カーボンナノチューブ等の導電性カーボン;黒鉛などの炭素粉末;各種金属のファイバー及び箔;などが挙げられる。中でも、本発明のリチウム二次電池用正極の製造方法(以下、適宜「本発明の製造方法」という。)による製造時間の短縮の効果が顕著に得られることから、導電剤として導電性カーボンを用いることが好ましい。なお、導電剤の材料は、1種類を単独で含むものを用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて含むものを用いてもよい。さらに、導電剤として、1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0014】
導電剤として導電性カーボンを用いる場合、その導電性カーボンのDBP吸油量は、好ましくは50ml/100gカーボン以上、より好ましくは100ml/100gカーボン以上であり、好ましくは400ml/100gカーボン以下、より好ましくは350ml/100gカーボン以下である。なお、前記の「DBP」とはフタル酸ジブチルのことをいう。DBP吸油量を、前記範囲の下限値以上とすることによって導電性カーボンに充分な導電性を発現させることができ、また、前記範囲の上限値以下とすることによって導電性カーボンを容易に製造できる。
【0015】
導電剤は、通常、粒子の状態で存在する。導電剤の粒子の平均粒子径(一次粒子径)は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、通常100nm以下、好ましくは80nm以下である。このように平均粒子径が小さい導電剤は凝集し易いので分散が困難であり、従来は混練時間が長くなっていた。しかし、本発明の製造方法によれば、このような導電剤であっても混練時間が短縮できるので、製造時間の短縮効果を顕著に得ることができる。なお、前記の平均粒子径としては、レーザー回折法で測定された粒度分布において小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径(累積50%粒子径D50)を採用すればよい。
【0016】
導電剤が粒子の状態で存在する場合、導電剤の粒子の比表面積は、通常10m/g以上、好ましくは30m/g以上であり、通常200m/g以下、好ましくは180m/g以下である。このように比表面積が大きい粒子は一般に表面エネルギーが大きく凝集し易いので、従来は混練時間が長くなっていた。しかし、本発明の製造方法によれば、このような導電剤であっても混練時間が短縮できるので、製造時間の短縮効果を顕著に得ることができる。なお、前記の比表面積は、BET法により測定すればよい。
【0017】
導電剤の量は、正極活物質100重量部に対して、通常0.01重量部以上、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは1重量部以上であり、通常20重量部以下、好ましくは15重量部以下、より好ましくは10重量部以下である。導電剤の量を、前記範囲の下限値以上とすることによって正極活物質同士の電気的接触を十分にして内部抵抗を低く抑制でき、前記範囲の上限値以下とすることによって正極の重量当たりの電池容量を高くできる。
【0018】
〔3.アクリル系重合体〕
本発明に係るアクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸のアルキルエステルに由来する単量体単位およびα,β−不飽和ニトリル化合物に由来する単量体単位を含む重合体である。アクリル系重合体は、通常、本発明の正極において結着剤として機能する。また、本発明に係るアクリル系重合体は結着力が強いので、充放電を繰り返しても正極活物質及び導電剤を正極活物質層に安定して保持できるため、リチウム二次電池のサイクル特性を向上させることができる。
【0019】
本発明に係るアクリル系重合体は、重合が容易であること、及び重合体のガラス転移温度Tgを容易に低くすることができる点で、(メタ)アクリル酸のアルキルエステルに由来する単量体単位を含む。ただし、前記アルキルエステルのアルキル基の炭素原子数は、通常1個以上、好ましくは3個以上であり、通常18個以下である。このような(メタ)アクリル酸のアルキルエステルに由来する単量体単位により、正極の柔軟性及び耐熱性を向上させることができる。
【0020】
前記の(メタ)アクリル酸のアルキルエステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸シクロヘキシル、およびアクリル酸イソボルニル等のアクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸イソデシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ステアリル、およびメタクリル酸シクロヘキシル等のメタクリル酸アルキルエステル;などが挙げられる。これらの中でも、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルが好ましい。
なお、(メタ)アクリル酸のアルキルエステルは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0021】
本発明に係るアクリル系重合体の全単量体単位の合計量を100重量%とした場合、本発明に係るアクリル系重合体が含む(メタ)アクリル酸のアルキルエステルに由来する単量体単位の量は、50重量%以上が好ましく、70重量%以上がより好ましく、また、95重量%以下が好ましく、90重量%以下がより好ましい。(メタ)アクリル酸のアルキルエステルに由来する単量体単位の量を前記範囲の下限値以上とすることにより、正極活物質層が過度に硬くなることを防止できるので、リチウム二次電池のサイクル特性を向上させることができ、また、前記範囲の上限値以下とすることにより、正極に含まれるアクリル系重合体が電解液に溶け出すことを安定して防止できる。
【0022】
本発明に係るアクリル系重合体の全単量体単位の合計量を100重量%とした場合、本発明に係るアクリル系重合体が含むα,β−不飽和ニトリル化合物に由来する単量体単位の量は、5重量%以上が好ましく、10重量%以上がより好ましく、また、50重量%以下が好ましく、30重量%以下がより好ましい。α,β−不飽和ニトリル化合物に由来する単量体単位の量を前記範囲の下限値以上とすることにより、正極に含まれるアクリル系重合体が電解液に溶け出すことを安定して防止でき、また、前記範囲の上限値以下とすることにより、正極活物質層が過度に硬くなることを防止できるので、リチウム二次電池のサイクル特性を向上させることができる。
【0023】
α,β−不飽和ニトリル化合物としては、例えば、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルなどが挙げられる。なお、α,β−不飽和ニトリル化合物は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0024】
本発明に係るアクリル系重合体は、本発明の効果を著しく損なわない限り、(メタ)アクリル酸のアルキルエステルに由来する単量体単位及びα,β−不飽和ニトリル化合物に由来する単量体単位以外にも、他の単量体単位を含んでいてもよい。なお、他の単量体単位は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0025】
他の単量体単位を構成する他の単量体としては、例えば、酸性基を有する単量体、架橋性基を有する単量体(以下、適宜「架橋性基含有単量体」と記載することがある。)、2つ以上の炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸エステル単量体、ビニルエステル単量体、ビニルエーテル単量体、ビニルケトン単量体、複素環含有ビニル単量体、アクリルアミド、メタクリルアミドアミドなどが挙げられる。これらの中でも、酸性基を有する単量体及び架橋性基を有する単量体が好ましい。
【0026】
酸性基を有する単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸類、−OH基(水酸基)を有するビニル単量体、−SOH基(スルホン酸基)を有するビニル単量体、−PO基を有するビニル単量体、−PO(OH)(OR)基(Rは炭化水素基を表す)を有するビニル単量体、低級ポリオキシアルキレン基を有するビニル単量体、及び、加水分解によりカルボン酸基を生成するビニル単量体などが挙げられる。
【0027】
不飽和カルボン酸類としては、例えば、モノカルボン酸及びその誘導体;ジカルボン酸及びその誘導体などが挙げられる。モノカルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などが挙げられる。モノカルボン酸誘導体としては、例えば、2−エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α―アセトキシアクリル酸、β−trans−アリールオキシアクリル酸、α−クロロ−β−E−メトキシアクリル酸、β−ジアミノアクリル酸などが挙げられる。ジカルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。ジカルボン酸誘導体としては、例えば、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸などマレイン酸メチルアリル、マレイン酸ジフェニル、マレイン酸ノニル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシル、マレイン酸フルオロアルキルなどのマレイン酸モノエステル;などが挙げられる。
【0028】
水酸基を有するビニル単量体としては、例えば、(メタ)アリルアルコール、3−ブテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オールなどのエチレン性不飽和アルコール;アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、マレイン酸−ジ−2−ヒドロキシエチル、マレイン酸ジ−4−ヒドロキシブチル、イタコン酸ジ−2−ヒドロキシプロピルなどのエチレン性不飽和カルボン酸のアルカノールエステル類;一般式CH=CR−COO−(C2nO)−H(mは2ないし9の整数、nは2ないし4の整数、Rは水素またはメチル基を表す)で表されるポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのエステル類;2−ヒドロキシエチル−2’−(メタ)アクリロイルオキシフタレート、2−ヒドロキシエチル−2’−(メタ)アクリロイルオキシサクシネートなどのジカルボン酸のジヒドロキシエステルのモノ(メタ)アクリル酸エステル類;2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、2−ヒドロキシプロピルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;(メタ)アリル−2−ヒドロキシエチルエーテル、(メタ)アリル−2−ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル−3−ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル−2−ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル−3−ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル−4−ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル−6−ヒドロキシヘキシルエーテルなどのアルキレングリコールのモノ(メタ)アリルエーテル類;ジエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アリルエーテルなどのポリオキシアルキレングリコール(メタ)モノアリルエーテル類;グリセリンモノ(メタ)アリルエーテル、(メタ)アリル−2−ヒドロキシエチルチオエーテル、(メタ)アリル−2−ヒドロキシプロピルチオエーテルなどのアルキレングリコールの(メタ)アリルチオエーテル類;などが挙げられる。
【0029】
スルホン酸基を有するビニル単量体としては、例えば、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸などが挙げられる。
【0030】
−PO基を有するビニル単量体又は−PO(OH)(OR)基(Rは炭化水素基を表す)を有するビニル単量体としては、例えば、リン酸−2−(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸メチル−2−(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸エチル−(メタ)アクリロイルオキシエチルなどが挙げられる。
【0031】
低級ポリオキシアルキレン基を有するビニル単量体としては、例えば、ポリ(エチレンオキシド)等のポリ(アルキレンオキシド)などが挙げられる。
【0032】
加水分解によりカルボン酸基を生成するビニル単量体としては、例えば、無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、ジメチル無水マレイン酸などのジカルボン酸の酸無水物などが挙げられる。
【0033】
酸性基を有する単量体の中では、集電体への密着性に優れることから不飽和カルボン酸類が好ましく、中でも、アクリル酸、メタクリル酸などのカルボン酸基を有する炭素数5以下のモノカルボン酸、並びに、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などのカルボン酸基を2つ有する炭素数5以下のジカルボン酸が好ましい。さらには、作製した結着剤の保存安定性がより高いという観点から、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸が好ましい。
【0034】
架橋性基含有単量体としては、例えば、熱架橋性の架橋性基を有する1つのオレフィン性二重結合を持つ単官能性単量体、少なくとも2つのオレフィン性二重結合を持つ多官能性単量体などが挙げられる。
1つのオレフィン性二重結合を持つ単官能性単量体に含まれる熱架橋性の架橋性基としては、例えば、エポキシ基、N−メチロールアミド基、オキセタニル基、及びオキサゾリン基からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む単量体が挙げられる。これらの中でも、エポキシ基を含有する単量体が架橋及び架橋密度の調節が容易な点でより好ましい。
【0035】
エポキシ基を含有する単量体は、炭素−炭素二重結合およびエポキシ基を含有する単量体である。
炭素−炭素二重結合およびエポキシ基を含有する単量体としては、例えば、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ブテニルグリシジルエーテル、o−アリルフェニルグリシジルエーテルなどの不飽和グリシジルエーテル;ブタジエンモノエポキシド、クロロプレンモノエポキシド、4,5−エポキシ−2−ペンテン、3,4−エポキシ−1−ビニルシクロヘキセン、1,2−エポキシ−5,9−シクロドデカジエンなどのジエンまたはポリエンのモノエポキシド;3,4−エポキシ−1−ブテン、1,2−エポキシ−5−ヘキセン、1,2−エポキシ−9−デセンなどのアルケニルエポキシド;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、グリシジルクロトネート、グリシジル−4−ヘプテノエート、グリシジルソルベート、グリシジルリノレート、グリシジル−4−メチル−3−ペンテノエート、3−シクロヘキセンカルボン酸のグリシジルエステル、4−メチル−3−シクロヘキセンカルボン酸のグリシジルエステルなどの不飽和カルボン酸のグリシジルエステル類;などが挙げられる。
【0036】
N−メチロールアミド基を含有する単量体としては、例えば、N−メチロール(メタ)アクリルアミドなどのメチロール基を有する(メタ)アクリルアミド類などが挙げられる。
【0037】
オキセタニル基を含有する単量体としては、例えば、3−((メタ)アクリロイルオキシメチル)オキセタン、3−((メタ)アクリロイルオキシメチル)−2−トリフロロメチルオキセタン、3−((メタ)アクリロイルオキシメチル)−2−フェニルオキセタン、2−((メタ)アクリロイルオキシメチル)オキセタン、2−((メタ)アクリロイルオキシメチル)−4−トリフロロメチルオキセタンなどが挙げられる。
【0038】
オキサゾリン基を含有する単量体としては、例えば、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリン等が挙げられる。
【0039】
少なくとも2つのオレフィン性二重結合を持つ多官能性単量体としては、例えば、アリルアクリレート、アリルメタクリレート、エチレンジアクリレート、エチレンジメタクリレート、トリメチロールプロパン−トリアクリレート、トリメチロールプロパン−メタクリレート、ジプロピレングリコールジアリルエーテル、ポリグリコールジアリルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、ヒドロキノンジアリルエーテル、テトラアリルオキシエタン;多官能性アルコールの他のアリルまたはビニルエーテル;テトラエチレングリコールジアクリレート、トリアリルアミン、トリメチロールプロパン−ジアリルエーテル、メチレンビスアクリルアミド、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。
【0040】
架橋性基含有単量体の中でも、架橋密度が向上しやすく、結着性及び耐電解液性に優れる点から、少なくとも2つのオレフィン性二重結合を有する多官能性単量体が好ましく、更に架橋密度の向上および共重合性が高いという観点の理由でアリルアクリレート及びアリルメタクリレートが好ましい。
【0041】
本発明に係るアクリル系重合体における他の単量体単位の含有割合は、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であり、好ましくは47質量%以下、より好ましくは37質量%以下である。また、共重合可能な他の単量体として、例えば酸性基を有する単量体を用いる場合は、酸性基を有する単量体に由来する単量体単位の割合は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上であり、好ましくは10質量%以下、より好ましくは7.0質量%以下である。さらに、共重合可能な他の単量体として、例えば架橋性基含有単量体を用いる場合は、架橋性基含有単量体に由来する単量体単位の割合は、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であり、好ましくは2.0質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下である。
【0042】
本発明に係るアクリル系重合体の重量平均分子量は、通常1,000以上、好ましくは5,000以上、より好ましくは10,000以上であり、通常1,500,000以下、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは500,000以下である。なお、重量平均分子量は、溶媒としてシクロヘキサンを用いたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーによって、ポリイソプレン換算の値として測定してもよい。また、測定対象となる重合体がシクロヘキサンに溶解しない場合には溶媒としてトルエンを用い、ポリスチレン換算の値として測定してもよい。
【0043】
本発明に係るアクリル系重合体の製造方法は特に限定されず、例えば乳化重合法により製造してもよい。乳化重合法によれば、本発明に係るアクリル系重合体を粒子状で製造できる。粒子状のアクリル系重合体の個数平均粒子径は、好ましくは0.01μm〜0.5μmである。個数平均粒子径を、前記範囲の下限値以上とすることによりアクリル系重合体の結着性を高くすることができ、前記範囲の上限値以下とすることにより正極活物質層の表面における不活性部分を少なくして、リチウム二次電池の性能の低下を抑制できる。なお、前記の個数平均粒子径は、透過型電子顕微鏡写真で無作為に選んだアクリル系重合体の粒子100個の径を測定し、その算術平均値として算出される値である。
【0044】
〔4.水添ブロック共重合体〕
本発明に係る水添ブロック共重合体は、芳香族ビニル化合物と共役ジエンとのブロック共重合体であって、共役ジエンに由来する単量体単位の一部又は全部が水添(すなわち、水素添加)された重合体である。本発明に係る水添ブロック共重合体を含むことにより、本発明の製造方法において調製されるリチウム二次電池正極用組成物(以下、適宜「正極用組成物」という。)のチクソ性を低減させることができるので、正極用組成物の塗工性を改善して正極活物質層を容易に製造できるようになる。
【0045】
芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、t−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、p−メチルスチレン、N,N−ジメチル−p−アミノエチルスチレン、N,N−ジエチル−p−アミノエチルスチレン等のスチレン類;ジビニルベンゼン、1,1−ジフェニルエチレン、ビニルピリジンなどが挙げられる。中でもスチレン類が好ましく、特にスチレンが好ましい。なお、芳香族ビニル化合物は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0046】
本発明に係る水添ブロック共重合体は、芳香族ビニル化合物ブロックと共役ジエンブロックとからなるブロック共重合体である。本発明に係る水添ブロック共重合体の全単量体単位の合計量を100重量%とした場合、本発明に係る水添ブロック共重合体に含まれる芳香族ビニル化合物に由来する単量体単位の含有量は、通常35重量%以上、好ましくは40重量%以上、より好ましくは55重量%以上であり、通常75重量%以下、好ましくは70重量%以下である。このように芳香族ビニル化合物に由来する単量体単位を多く含むことにより、本発明に係る水添ブロック共重合体は正極用組成物において減チクソ剤として機能し、正極用組成物のチクソ性を低減させることができる。また、芳香族ビニル化合物に由来する単量体単位の量を前記範囲の上限値以下とすることにより、リチウム二次電池のサイクル特性を高くすることができる。
【0047】
共役ジエンとしては、例えば、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、および2,4−ヘキサジエンなどが挙げられる。これらの中でも、1,3−ブタジエンが好ましい。なお、共役ジエンは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0048】
本発明に係る水添ブロック共重合体では、共役ジエンに由来する単量体単位における1,2結合体単位の量は、通常15モル%以下、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下であり、理想的には0モル%である。例えば下記式(1)に示す共役ジエンが重合した場合、当該共役ジエンに由来する単量体単位としては、共役ジエンが1,2結合した単量体単位である1,2結合体単位(下記式(2)参照)と、共役ジエンが1,4結合した単量体単位である1,4結合体単位(下記式(3)参照)とがある。前記のように1,2結合体単位が少なく1,4結合体単位が多いことにより、本発明に係る水添ブロック共重合体は柔軟な重合体となるので、正極活物質層の剥離強度を高くすることができる。なお、式(1)〜(3)において、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子又は1価の炭化水素基を表す。
【0049】
【化1】

【0050】
本発明に係る水添ブロック共重合体は、共役ジエンに由来する単量体単位の一部又は全部が水添されることにより、共役ジエンに由来する単量体単位が有する不飽和結合が単結合へと変換されている。具体的には、共役ジエンに由来する単量体単位の、通常70モル%以上、好ましくは80モル%以上、理想的には100モル%が水添されている。このように高度に水添されていることにより、本発明に係る水添ブロック共重合体は耐酸化性が良好となり、リチウム二次電池の充放電を繰り返しても水添ブロック共重合体の結着力が低下し難いので、リチウム二次電池のサイクル特性を高くできる。また、水添が充分でない場合、水添ブロック共重合体が減チクソ剤として機能せず、正極用組成物のチクソ性を低減させることができない可能性がある。
【0051】
芳香族ビニル化合物ブロックを「A」、共役ジエンブロックを「B」で表した場合、本発明に係る水添ブロック共重合体は、例えば、AB型のブロック共重合体でもよく、ABA型のブロック共重合体でもよく、BAB型のブロック共重合体でもよい。中でも、比較的剛直な芳香族ビニル化合物ブロック同士の間に比較的柔軟な共役ジエンブロックを介在させて水添ブロック共重合体全体としての柔軟性を高める観点からは、本発明に係る水添ブロック共重合体はABA型のブロック共重合体であることが好ましい。
【0052】
本発明に係る水添ブロック共重合体は、本発明の効果を著しく損なわない限り、芳香族ビニル化合物に由来する単量体単位及び共役ジエンに由来する単量体単位以外にも、他の単量体単位を含んでいてもよい。ただし、本発明の効果を安定して発揮させる観点からは、他の単量体単位の量は少ないことが好ましく、他の単量体単位は含まなくてもよい。
【0053】
本発明に係る水添ブロック共重合体の重量平均分子量は、通常1,000以上、好ましくは5,000以上、より好ましくは10,000以上であり、通常1,500,000以下、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは500,000以下である。
【0054】
本発明に係る水添ブロック共重合体の量は、本発明に係るアクリル系重合体の、2倍以上が好ましく、2.5倍以上がより好ましく、また、7倍以下が好ましく、5倍以下がより好ましい。このようにアクリル系重合体に比べて水添ブロック共重合体を2倍以上と多く用いることにより、本発明の製造方法において調製される正極用組成物のチクソ性を安定して低く抑えることができる。また、水添ブロック共重合体の量をアクリル系重合体の7倍以下に抑えることにより、正極活物質の結着剤に覆われず露出した表面の面積を大きくできるので、リチウム二次電池の電池容量を高くすることができる。
【0055】
本発明に係る水添ブロック共重合体の製造方法は特に限定されず、例えば芳香族ビニル化合物と共役ジエンとをブロック共重合させた後で、得られたブロック共重合体に水添を行ってもよい。
芳香族ビニル化合物と共役ジエンとの重合反応は、乳化重合法により行うことが好ましい。ただし、目的とするブロック構造を形成するため、各ブロックを得るためのモノマーは、通常は段階的に反応系に供給される。乳化重合法により粒子状のブロック共重合体が得られるが、得られたブロック共重合体の個数平均粒子径は、通常、本発明に係るアクリル系重合体と同様になる。
また、ブロック共重合体に対する水素添加は、例えば、ブロック共重合体を適切な溶媒に溶解させた状態において、水素化触媒の存在下で水素ガスで処理することにより行う。前記の水素化触媒としては、例えば、ニッケル、パラジウム、白金、銅等が挙げられる。
【0056】
正極活物質100重量部に対し、本発明に係るアクリル系重合体及び本発明に係る水添ブロック共重合体の量は、好ましくは0.5重量部以上、より好ましくは1重量部以上であり、好ましくは5重量部以下、より好ましくは4重量部以下である。アクリル系重合体及び水添ブロック共重合体の合計量を、前記の範囲の下限値以上とすることにより充放電を繰り返しても正極活物質及び導電剤を正極活物質層に安定して保持できるのでリチウム二次電池のサイクル特性を向上させることができ、また、前記の範囲の上限値以下とすることにより正極活物質の結着剤に覆われず露出した表面面積を大きくできるので、リチウム二次電池の電池容量を高くすることができる。
【0057】
〔5.正極活物質〕
正極活物質としては、リチウムイオンを可逆に放出及び吸蔵できる材料を用いればよいが、中でも電子輸送を容易に行えるように電子伝導度が高い材料が好ましい。このような正極活物質としては、例えば、遷移金属酸化物;リチウムと遷移金属との複合酸化物;遷移金属硫化物;リチウムリン酸化物等の、各種の無機化合物が挙げられる。ここで遷移金属としては、例えば、Fe、Co、Ni、Mn等が挙げられる。
【0058】
無機化合物からなる正極活物質の具体例を挙げると、MnO、V、V13、TiO等の遷移金属酸化物;リチウムニッケル複合酸化物、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムマンガン複合酸化物などのリチウムと遷移金属との複合酸化物;TiS、FeS、MoSなどの遷移金属硫化物;等が挙げられる。リチウムリン酸化物としては、例えばオリビン型構造を有しており、Mn、Cr、Co、Cu、Ni、V、Mo、Ti、Zn、Al、Ga、Mg、B、Nb、およびFeよりなる群のうちの少なくとも1種類の第一の元素と、リチウムと、リンと、酸素とを含むものが挙げられる。
【0059】
さらに、有機化合物からなる正極活物質を用いてもよい。有機化合物からなる正極活物質の例を挙げると、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレン等の導電性高分子化合物が挙げられる。
【0060】
さらに、無機化合物及び有機化合物を組み合わせた複合材料からなる正極活物質を用いてもよい。例えば、前記の無機化合物からなる正極活物質に、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセン、ジスルフィド系化合物、ポリスルフィド系化合物、N−フルオロピリジニウム塩等の有機化合物を混合して用いてもよい。また、例えば、鉄系酸化物を炭素源物質の存在下において還元焼成することで炭素材料で覆われた複合材料を作製し、この複合材料を正極活物質として用いてもよい。鉄系酸化物は電気伝導性に乏しい傾向があるが、前記のような複合材料にすることにより、高性能な正極活物質として使用できる。
さらに、前記の化合物を部分的に元素置換したものを正極活物質として用いてもよい。
なお、正極活物質は、1種類だけを用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0061】
特に、結着剤として使用されるアクリル系重合体及び水添ブロック共重合体は酸化側の電気化学的安定性が高いことから、正極活物質としては、より高電位まで充電され得るものが好ましい。具体的には、リチウムに対して、通常4.0V以上、好ましくは4.2V以上、より好ましくは4.3V以上の電位まで充電され得るものが望ましい。ここで、「リチウムに対する電位」とは、リチウム金属が非水電解液中で示す電位に対しての値であり、「充電され得る電位」とは、それぞれの正極活物質を用いる正極の作動電位において高電位側の値を表す。
【0062】
正極活物質の特に好ましい具体例としては、オリビン酸鉄、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、およびリチウムマンガン複合酸化物などが挙げられる。また、さらに高電位まで充電し得る正極活物質として、リチウム−マンガン−ニッケル複合酸化物などを用いてもよい。これらの正極活物質は、作用電位が高いことに加えて電池容量も大きく、大きなエネルギー密度を有することができる。これらの中でも、特にリチウムコバルト複合酸化物、リチウムマンガン複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、及びリチウム−マンガン−ニッケル複合酸化物が、より高電位まで充電され得るので好ましい。
【0063】
正極活物質は、通常、粒子の状態で存在する。正極活物質の粒子の累積50%粒子径D50は、レート特性、サイクル特性などの電池特性の向上の観点から、通常0.1μm以上、好ましくは1μm以上であり、通常50μm以下、好ましくは20μm以下である。正極活物質の累積50%粒子径D50が前記の範囲であると、レート特性及びサイクル特性の優れたリチウム二次電池を実現でき、かつ、正極用組成物および正極を製造する際の取扱いが容易である。
【0064】
〔6.ポリフッ化ビニリデン〕
本発明の正極は、更にポリフッ化ビニリデン(以下、適宜「PVDF」という。)を含むことが好ましい。ポリフッ化ビニリデンを結着剤として用いることにより、電池容量を大きくできる。本発明において使用されるポリフッ化ビニリデンは、フッ化ビニリデンのホモポリマーであっても、マレイン酸などを共重合したコポリマーであってもよい。
本発明の正極においては本発明に係るアクリル系重合体及び本発明に係る水添ブロック共重合体が結着剤として機能する。これらのアクリル系重合体及び水添ブロック共重合体は高い結着力を有する優れた結着剤であるが、正極活物質の表面の広い面積を覆う傾向があり、特にアクリル系重合体ではその傾向が顕著である。仮に、正極活物質の表面のほぼ全体が結着剤で覆われると、リチウム二次電池の電池容量は小さくなる可能性がある。これに対し、ポリフッ化ビニリデンは正極活物質の表面に部分的に結着する傾向があるので、ポリフッ化ビニリデンを結着剤として用いれば正極活物質の表面全体が結着剤によって覆われることを安定して防止できるので、電気容量を大きくできる。
【0065】
正極活物質100重量部に対し、ポリフッ化ビニリデンの量は、通常0.5重量部以上、好ましくは1重量部以上であり、通常10重量部以下、好ましくは5重量部以下である。ポリフッ化ビニリデンの量を、前記範囲の下限値以上とすることにより電池容量を高くでき、前記範囲の上限値以下とすることにより、過剰のポリフッ化ビニリデンによってアクリル系重合体及び水添ブロック共重合体の結着が妨げられてサイクル特性が低下することを防止できる。
【0066】
本発明に係るアクリル系重合体及び本発明に係る水添ブロック共重合体の合計量に対して、ポリフッ化ビニリデンの量は、重量基準で、好ましくは0.5倍以上、より好ましくは0.7倍以上であり、好ましくは2.5倍以下、より好ましくは2倍以下である。ポリフッ化ビニリデンの量を、前記範囲の下限値以上とすることにより電池容量を高くでき、前記範囲の上限値以下とすることにより、過剰のポリフッ化ビニリデンによってアクリル系重合体及び水添ブロック共重合体の結着が妨げられてサイクル特性が低下することを防止できる。
【0067】
〔7.正極活物質層に含まれる他の成分〕
本発明の正極では、通常、上述した導電剤、アクリル系重合体、水添ブロック共重合体および正極活物質、並びに必要に応じてポリフッ化ビニリデンを正極活物質層に含む。この際、正極活物質は、本発明の効果を著しく損なわない限り、導電剤、アクリル系重合体、水添ブロック共重合体、正極活物質およびポリフッ化ビニリデン以外に、他の成分を含んでいてもよい。
【0068】
例えば、正極活物質層が、本発明に係るアクリル系重合体、本発明に係る水添ブロック共重合体及びポリフッ化ビニリデン以外の結着剤を含んでいてもよい。
また、例えば、正極活物質層が、補強剤を含んでいてもよい。補強剤としては、例えば、無機および有機の球状、板状、棒状または繊維状のフィラーなどが挙げられる。補強剤の使用量は、正極活物質100重量部に対して、通常0重量部より多く、好ましくは1重量部以上であり、通常20重量部以下、好ましくは10重量部以下である。
【0069】
〔8.正極活物質層〕
正極活物質層は、上述した導電剤、アクリル系重合体、水添ブロック共重合体および正極活物質、並びに必要に応じてポリフッ化ビニリデンを含む層であり、通常は、集電体の表面に設けられる。
正極活物質層の厚みは、通常5μm以上、好ましくは10μm以上であり、通常300μm以下、好ましくは250μm以下である。
【0070】
〔9.集電体〕
集電体の材料は、電気導電性を有し、かつ電気化学的に耐久性のある材料であれば特に制限されない。集電体の材料の例を挙げると、耐熱性を有するとの観点から、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金等の金属材料が好ましく、中でもアルミニウムが特に好ましい。
【0071】
集電体の形状は特に制限されず、例えば、フィルム状、シート状、ネット状、パンチングメタル状、ラス体状、多孔質体状、および発泡体状などが挙げられるが、中でもシート状であることが好ましい。
また、集電体の厚みは、0.001mm〜0.5mmが好ましい。
【0072】
集電体は、正極活物質層との接着強度を高めるため、表面を予め粗面化処理して使用することが好ましい。粗面化方法としては、例えば、機械的研磨法、電解研磨法、化学研磨法などが挙げられる。機械的研磨法においては、研磨剤粒子を固着した研磨布紙、砥石、エメリバフ、鋼線などを備えたワイヤーブラシ等が使用される。
また、正極活物質層の接着強度や導電性を高めるために、集電体の表面に中間層を形成してもよい。
【0073】
〔10.正極の製造方法〕
本発明の正極は、通常、以下に説明する本発明のリチウム二次電池用正極の製造方法(すなわち、本発明の製造方法)によって製造する。
本発明の製造方法は、集電体と、前記集電体の表面に設けられた正極活物質層とを備える本発明の正極を製造する方法であって、
(I)導電剤、本発明に係るアクリル系重合体、本発明に係る水添ブロック共重合体、及び溶媒を混合して、導電剤組成物を調製する工程と、
(II)調製した導電剤組成物及び正極活物質を混合して、リチウム二次電池正極用組成物を調製する工程と、
(III)集電体の表面に、調製したリチウム二次電池正極用組成物を塗布して正極活物質層を形成する工程と、
を含む方法である。
【0074】
〔10−1.工程(I)〕
本発明の製造方法では、導電剤、本発明に係るアクリル系重合体、本発明に係る水添ブロック共重合体、及び溶媒を混合して、導電剤組成物を調製する工程(I)を行う。導電剤、本発明に係るアクリル系重合体及び本発明に係る水添ブロック共重合体は、上述したとおりである。
【0075】
溶媒としては、導電剤、アクリル系重合体及び水添ブロック共重合体を溶解又は分散させることができる液体を用いる。通常、溶媒としては、常圧における沸点が、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上であり、好ましくは350℃以下、より好ましくは300℃以下の有機溶媒が用いられる。特に、安全性及び得られる導電剤組成物の安定性に優れるので、N−メチルピロリドン(以下、適宜「NMP」という。)、トルエン、キシレン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン、n−ヘプタン、n−デカン、ノナンなどが好ましく、中でもN−メチルピロリドンが特に好ましい。なお、溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0076】
溶媒の量は、導電剤組成物の粘度及びTI値(チクソトロピックインデックス値)が導電剤組成物の混練に適した範囲となるように調整することが好ましい。具体的には、導電剤組成物に含まれる導電剤、アクリル系重合体及び水添ブロック共重合体、並びに、必要に応じて含まれるその他の成分を合わせた固形分の濃度が、好ましくは5重量%以上、より好ましくは8重量%以上であり、好ましくは30重量%以下、より好ましくは25重量%以下となる量に調整する。
【0077】
また、導電剤組成物は、本発明の効果を著しく損なわない限り、導電剤、アクリル系重合体、水添ブロック共重合体及び溶媒以外にその他の成分を含んでいてもよい。また、導電剤組成物は、その他の成分を1種類だけ含んでいてもよく、2種類以上を含んでいてもよい。
【0078】
工程(I)では、通常、導電剤を分散させるために導電剤組成物を混練する。本発明の製造方法では導電剤組成物が正極活物質を含まないので、導電剤組成物を混練する場合には大きな力で混練を行うことができる。このため、本発明の製造方法では、導電剤の分散に要する時間を短縮することができる。この利点は、正極活物質を含む組成物を混練する場合には正極活物質を破砕しないようにするために弱い力でしか混練を行えなかったので、混練に長時間を有していたことと比べると、製造効率を飛躍的に高める上で顕著な意義がある。なお、リチウム二次電池の性能を著しく損なわない程度に少量であれば、導電剤組成物に正極活物質が混入していた場合であっても、前記の同様の利点を得ることができる。
【0079】
また、本発明の製造方法では、結着剤として本発明に係るアクリル系重合体と本発明に係る水添ブロック共重合体とを組み合わせて用いているので、導電剤組成物のチクソ性を抑制し、導電剤を速やかに分散させることができる。仮に前記のアクリル系重合体だけを結着剤として用いると、アクリル系重合体は軟質の重合体であるので、導電剤組成物のチクソ性は高くなって混練時の導電剤組成物の流動性が低くなる。導電剤組成物の流動性が過度に低いと、凝集している導電剤それぞれには凝集を解く力が伝わり難くなるので、導電剤を分散させることは困難になる傾向がある。これに対し、本発明に係る水添ブロック共重合体をアクリル系重合体と組み合わせれば導電剤組成物のチクソ性を抑制して混練時の導電剤組成物の流動性を高くすることができる。このため、本発明の製造方法において導電剤組成物を混練すれば、凝集を解こうとする力が導電剤に効果的に伝わるので、導電剤を速やかに分散させることができる。
【0080】
混練機としては、例えば、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、ホバートミキサー、連続乳化分散機などが挙げられる。中でもボールミルを用いると、導電剤の凝集を抑制できるので、好ましい。
【0081】
工程(I)を行うことにより、導電剤、本発明に係るアクリル系重合体、本発明に係る水添ブロック共重合体、及び溶媒、並びに必要に応じてその他の成分を含む導電剤組成物が得られる。この導電剤組成物は通常はスラリーであり、導電剤は溶媒に分散し、アクリル系重合体及び水添ブロック共重合体は溶媒に溶解又は分散した状態となっている。
【0082】
前記の導電剤組成物の流動性の評価指標としては、粘度が挙げられる。導電剤組成物の具体的な粘度の範囲は、通常20mPa・s以上、好ましくは30mPa・s以上、より好ましくは40mPa・s以上であり、通常10,000mPa・s以下、好ましくは8,000mPa・s以下、より好ましくは6,000mPa・s以下である。なお、粘度は、温度23℃にてBM型粘度計を用いて50rpmの粘度を測定し、測定開始60秒後の値を評価すればよい。
【0083】
また、前記の導電剤組成物のチクソ性の評価指標としては、TI値が挙げられる。導電剤組成物の具体的なTI値の範囲は、通常1.0以上、好ましくは1.05以上、より好ましくは1.1以上であり、通常2.0以下、好ましくは1.9以下、より好ましくは1.8以下である。なお、TI値は、前記の粘度測定方法で測定される粘度の値を用いて、ローター回転数50rpm、60秒後の粘度η50と、回転数100rpm、60秒後の粘度η100とから、下記式を用いて算出すればよい。
TI値=η50/η100
【0084】
〔10−2.工程(II)〕
本発明の製造方法では、工程(I)を行った後で、調製した導電剤組成物及び正極活物質を混合して、正極用組成物を調製する工程(II)を行う。また、ポリフッ化ビニリデンを用いる場合には、工程(II)において導電剤組成物とポリフッ化ビニリデンとを混合することが好ましい。導電剤組成物、正極活物質及びポリフッ化ビニリデンは、上述したとおりである。
【0085】
また、工程(II)においては、必要に応じて、溶媒を混合してもよい。正極用組成物の粘度を、塗布し易い粘度に調整するためである。混合する溶媒の種類は本発明の効果を著しく損なわない限り制限は無いが、通常は導電剤組成物の溶媒と同様の溶媒を用いる。
【0086】
正極用組成物が含む溶媒の量は、正極用組成物の粘度が塗工に好適な粘度になるように調整すればよい。具体的には、正極用組成物に含まれる導電剤、アクリル系重合体、水添ブロック共重合体及び正極活物質、並びに、必要に応じて含まれるポリフッ化ビニリデン及びその他の成分を合わせた固形分の濃度が、好ましくは30重量%以上、より好ましくは40重量%以上であり、好ましくは90重量%以下、より好ましくは80重量%以下となる量に調整して用いられる。
【0087】
さらに、正極用組成物は、本発明の効果を著しく損なわない限り、導電剤、アクリル系重合体、水添ブロック共重合体、正極活物質、ポリフッ化ビニリデン及び溶媒以外にその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分の例を挙げると、増粘剤が挙げられる。
増粘剤としては、通常、正極用組成物の溶媒に可溶な重合体が用いられる。増粘剤の例を挙げると、(変性)ポリ(メタ)アクリル酸およびこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩;(変性)ポリビニルアルコール、アクリル酸又はアクリル酸塩とビニルアルコールの共重合体、無水マレイン酸又はマレイン酸もしくはフマル酸とビニルアルコールの共重合体などのポリビニルアルコール類;ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、変性ポリアクリル酸、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、各種変性デンプン、水添ニトリル−ブタジエン共重合体、水添スチレン−ブタジエンランダム共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、ポリ1−ブテン、ポリイソブチレンなどが挙げられる。本発明において、「(変性)ポリ」は「未変性ポリ」又は「変性ポリ」を意味し、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」又は「メタアクリル」を意味する。なお、増粘剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
増粘剤の使用量は、正極活物質100重量部に対して、0.5重量部〜1.5重量部が好ましい。増粘剤の使用量がこの範囲であると、正極用組成物の塗工性が良好となり、正極活物質層と集電体との結着性を良好にできる。
【0088】
また、例えば、正極用組成物は、上記成分の他に、リチウム二次電池の安定性及び寿命を高めるため、トリフルオロプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、カテコールカーボネート、1,6−ジオキサスピロ[4,4]ノナン−2,7−ジオン、12−クラウン−4−エーテル等を含ませてもよい。
なお、正極用組成物は、その他の成分を1種類だけ含んでいてもよく、2種類以上を含んでいてもよい。
【0089】
工程(II)では、通常、正極活物質を分散させるために正極用組成物を混練する。工程(I)で行われた混練によって導電剤が既に分散しているので、工程(II)では、工程(I)での混練よりも弱い力の混練であっても、速やかに正極活物質を分散させることができる。また、本発明の製造方法では、導電剤及び正極活物質を分散させるために工程(I)及び工程(II)の2工程を要するが、従来のように導電剤及び正極活物質を両方とも含む組成物を混練して1工程で導電剤及び正極活物質を分散させる方法と比べても、分散に要する時間を大幅に短縮できる。
【0090】
工程(II)での混練に用いる混練機としては、例えば、工程(I)での混練に用いた混練機と同様の例が挙げられる。
【0091】
工程(II)を行うことにより、導電剤組成物及び正極活物質を含む正極用組成物が得られる。すなわち、導電剤、本発明に係るアクリル系重合体、本発明に係る水添ブロック共重合体、正極活物質及び溶媒、並びに必要に応じてポリフッ化ビニリデン及びその他の成分を含む正極用組成物が得られる。この正極用組成物は通常はスラリーであり、導電剤及び正極活物質は溶媒に分散し、アクリル系重合体及び水添ブロック共重合体、並びに必要に応じて用いられるポリフッ化ビニリデンは溶媒に溶解又は分散した状態となっている。この正極用組成物は、水添ブロック共重合体が減チクソ剤として機能するためにチクソ性が過剰とならず、通常は、塗工に適した粘度を有している。
【0092】
〔10−3.工程(III)〕
本発明の製造方法では、工程(II)を行った後で、集電体の表面に、調製した正極用組成物を塗布して正極活物質層を形成する工程(III)を行う。正極用組成物を集電体に塗布し、必要に応じて乾燥させることにより、集電体の表面に正極用組成物の固形分を層状に結着させて、正極活物質層を形成することができる。
【0093】
正極用組成物の集電体への塗布方法は特に制限されない。例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などの方法が挙げられる。
【0094】
乾燥方法としては、例えば、温風、熱風、低湿風等による乾燥;真空乾燥;赤外線、遠赤外線、電子線などの照射による乾燥法;などが挙げられる。乾燥時間は通常5分〜30分であり、乾燥温度は通常40℃〜180℃である。
【0095】
〔10−4.その他の工程〕
本発明の製造方法では、上述した工程(I)〜工程(III)に加えて、更に別の工程を行ってもよい。
例えば、正極活物質層に対して加熱処理を施してもよい。加熱処理は、通常、120℃以上の温度で、1時間以上行う。
【0096】
また、例えば、金型プレス及びロールプレスなどを用い、乾燥後の正極活物質層に加圧処理を施してもよい。加圧処理を施すことにより、正極活物質層の空隙率を低くすることができる。空隙率は、好ましくは5%以上、より好ましくは7%以上であり、好ましくは35%以下、より好ましくは30%以下である。空隙率が低すぎると、電池の充放電レート特性が低下したり、正極活物質層が剥がれ易くなって不良を発生し易くなったりする可能性がある。また、空隙率が高すぎると、電池の容量が低くなる可能性がある。
【0097】
〔11.リチウム二次電池〕
本発明の正極は、リチウム二次電池の正極として用いることにより、通常は、当該リチウム二次電池の電池容量及びサイクル特性を高くできる。このように電池容量及びサイクル特性に優れる二次電池を短時間で効率よく製造できる点で、本発明の正極及び本発明の製造方法は、生産上の大きな意義を有するものである。
以下、本発明の正極を備えるリチウム二次電池の構成の一例について説明する。
【0098】
リチウム二次電池は、正極と、負極と、電解液とを備え、また、必要に応じてセパレータを備える。
正極としては、本発明の正極を用いる。
【0099】
(負極)
負極としては、例えば、集電体と、集電体の表面に設けられた負極活物質層とを備えるものが挙げられる。集電体としては好ましくは銅箔を用いる。また、負極活物質層は、通常、負極活物質と結着剤とを含む層である。
【0100】
負極活物質としては、例えば、アモルファスカーボン、グラファイト、天然黒鉛、メゾカーボンマイクロビーズ、ピッチ系炭素繊維等の炭素質材料;ポリアセン等の導電性高分子化合物;などが挙げられる。また、ケイ素、錫、亜鉛、マンガン、鉄およびニッケル等の金属並びにこれらの合金;前記金属又は合金の酸化物;前記金属又は合金の硫酸塩;なども挙げられる。また、金属リチウム;Li−Al、Li−Bi−Cd、Li−Sn−Cd等のリチウム合金;リチウム遷移金属窒化物なども挙げられる。さらに、負極活物質としては、機械的改質法により表面に導電剤を付着させたものも使用できる。なお、これらの負極活物質は、1種類だけを用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0101】
負極活物質層の結着剤としては、耐還元性に優れ、強い結着力が得られため、ジエン系重合体が好ましい。ジエン系重合体は、ブタジエン、イソプレン等の共役ジエンを重合してなる単量体単位を含む重合体である。ジエン系重合体中の、共役ジエンを重合してなる単量体単位の割合は、通常40重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上である。ジエン系重合体の例を挙げると、ポリブタジエン、ポリイソプレン等の共役ジエンの単独重合体;異なる種類の共役ジエン同士の共重合体;共役ジエンと、これに共重合可能な単量体との共重合体;などが挙げられる。前記の共重合可能な単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のα,β−不飽和ニトリル化合物;アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和カルボン酸類;スチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸メチル、ビニルナフタレン、クロロメチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン系単量体;エチレン、プロピレン等のオレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン原子含有単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビエルエーテル等のビニルエーテル類;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン、イソプロペニルビニルケトン等のビニルケトン類;N−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環含有ビニル化合物;などが挙げられる。なお、共役ジエン及び共重合可能な単量体は、それぞれ、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。また、負極活物質層の結着剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0102】
結着剤の量は、負極活物質100重量部に対して、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.2重量部以上、特に好ましくは0.5重量部以上であり、好ましくは5重量部以下、より好ましくは4重量部以下、特に好ましくは3重量部以下である。結着剤の量が前記範囲であることにより、電池反応を阻害せずに、負極から負極活物質が脱落することを安定して防ぐことができる。
【0103】
負極活物質層には、負極活物質及び結着剤以外にも、その他の成分が含まれていてもよい。その例を挙げると、導電剤、補強材などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種類が単独で含まれていてもよく、2種類以上が任意の比率で組み合わせて含まれていてもよい。
【0104】
(電解液)
電解液は、通常のリチウム二次電池に用いられるものであれば、液状でもゲル状でもよい。通常、電解液としては、電解質と溶媒とを含むものを用いる。
電解液としては、通常、有機溶媒に支持電解質を溶解した有機電解液が用いられる。支持電解質としては、例えば、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF、LiAsF、LiBF、LiSbF、LiAlCl、LiClO、CFSOLi、CSOLi、CFCOOLi、(CFCO)NLi、(CFSONLi、(CSO)NLiなどが挙げられる。中でも、溶媒に溶けやすく高い解離度を示すので、LiPF、LiClO、CFSOLiが好ましい。なお、電解質は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。通常は、解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0105】
電解液に使用する有機溶媒としては、支持電解質を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えば、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、メチルエチルカーボネート等のカーボネート類;γ−ブチロラクトン、ギ酸メチル等のエステル類;1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物類;などが好適に用いられる。またこれらの溶媒の混合液を用いてもよい。中でも、誘電率が高く、安定な電位領域が広いのでカーボネート類が好ましい。通常、用いる溶媒の粘度が低いほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、溶媒の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0106】
電解液中における支持電解質の濃度は、通常1質量%以上、好ましくは5質量%以上であり、通常30質量%以下、好ましくは20質量%以下である。また、支持電解質の種類に応じて、通常0.5モル/L〜2.5モル/Lの濃度で用いられる場合がある。支持電解質の濃度が低すぎても高すぎても、イオン導電度は低下する傾向にある。通常は電解液の濃度が低いほど電極合剤層用結着剤等の重合体粒子の膨潤度が大きくなるので、電解液の濃度を調整することによりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0107】
さらに、電解液には、必要に応じて、添加剤等を含ませてもよい。
【0108】
(セパレーター)
セパレーターは、電極の短絡を防止するため正極と負極の間に設けられる部材である。このセパレーターとしては、通常、気孔部を有する多孔性基材が用いられる。セパレーターの例を挙げると、(a)気孔部を有する多孔性セパレーター、(b)片面または両面上に高分子コート層が形成された多孔性セパレーター、(c)無機フィラーや有機フィラーを含む多孔質のコート層が形成された多孔性セパレーター、などが挙げられる。
【0109】
(リチウム二次電池の製造方法)
リチウム二次電池の製造方法は、特に限定されない。例えば、負極と正極とをセパレータを介して重ね合わせ、これを電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口すればよい。さらに、必要に応じてエキスパンドメタル、ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子;リード板などを設け、電池内部の圧力上昇及び過充放電を防止することもできる。リチウム二次電池の形状は、ラミネートセル型、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、いずれであってもよい。
【実施例】
【0110】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施してもよい。また、以下の説明において、量を表す「部」及び「%」は、特に断れない限り重量基準である。さらに、以下の説明において温度及び圧力について特に断らない限り、操作は常温常圧の環境において行った。
【0111】
[評価方法]
〔粘度の評価方法〕
導電剤スラリーについて温度23℃にてBM型粘度計を用いて回転数50rpmでの粘度を測定し、測定開始60秒後の値を評価した。
【0112】
〔TI値(チクソトロピックインデックス値)の評価方法〕
導電剤スラリーについて温度23℃にてBM型粘度計を用いて、ローター回転数50rpm、60秒後の粘度η50と、回転数100rpm、60秒後の粘度η100とから、下記式を用いてTI値を算出した。
TI値=η50/η100
【0113】
〔正極の結着性の評価方法(ピール強度の測定)〕
得られた正極を幅2.5cm×長さ10cmの矩形に切って試験片とし、正極活物質層面を上にして固定した。試験片の正極活物質層の表面にセロハンテープを貼り付けた後、試験片の一端からセロハンテープを50mm/分の速度で180°方向に引き剥がしたときの応力を測定した。測定を10回行い、その平均値を求めてこれをピール強度とした。ピール強度が大きいほど正極活物質層の集電体への結着力が大きいことを示す。
【0114】
〔電池容量の評価方法(充放電サイクル特性の評価)〕
得られたコイン型電池を用いて、それぞれ20℃で0.1Cの定電流で4.3Vまで充電し、0.1Cの定電流で3.0Vまで放電する充放電サイクルを行った。充放電サイクルは25サイクルまで行い、5サイクル目の放電容量と、25サイクル目の放電容量を測定した。
【0115】
[実施例1]
(1)アクリル系重合体の用意
攪拌機付き5MPa耐圧オートクレーブに、α,β−不飽和ニトリル化合物としてアクリロニトリル15部と、(メタ)アクリル酸のアルキルエステルとしてアクリル酸ブチル85部と、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2部と、溶媒としてイオン交換水150部と、重合開始剤として過硫酸カリウム1部とを入れ、十分に攪拌した後、70℃に加温して重合を開始した。モノマー消費量が96.0%になった時点で冷却して反応を止め、アクリル系重合体粒子の水分散液を得た。
このアクリル系重合体粒子の水分散液100部に、N−メチルピロリドン320部を加え、減圧下に水を蒸発させて、アクリル系重合体1のNMP溶液を得た。得られたアクリル系重合体1のNMP溶液の固形分濃度は10%であった。
【0116】
(2)水添ブロック共重合体の用意
攪拌機付き50MPa耐圧オートクレーブで、窒素ガス雰囲気下において、スチレン100部を含むシクロヘキサン溶液に、n−ブチルリチウム0.1部と、極性化合物としてテトラメチルエチレンジアミン0.2部を添加し、60℃で1時間重合した後、1,3−ブタジエン100部を含むシクロヘキサン溶液を加えて60℃で2時間重合した。その後スチレン100部を含むシクロヘキサン溶液を添加して60℃で1時間重合してブロック共重合体を得た。
次に、上記で得られたブロック共重合体をTi系水素添加触媒で水添して、水添ブロック共重合体Aを得た。水添ブロック共重合体Aの水添率を、核磁気共鳴装置を用いて測定したところ、水添率は98%であった。
【0117】
(3)導電剤組成物の調製
用意したアクリル系重合体1のNMP溶液を固形分換算で1部と、水添ブロック共重合体Aを4部と、導電剤としてアセチレンブラック(電気化学工業社製「デンカブラック」;結晶層厚みLc=3.5nm、DBP吸油量=160ml/100g)10部と、これらの組成物(即ち、アクリル系重合体1のNMP溶液、水添ブロック共重合体A及びアセチレンブラック)と同重量の粒径3mmのジルコニアビーズとを容器に入れ、さらに、NMPを入れて、組成物の固形分濃度が16%となるように調整した。ペイントシェーカー(東洋精機製作所社製)を用いて、1時間混練し、導電剤組成物として導電剤スラリー1を得た。得られた導電剤スラリー1において、「水添ブロック共重合体の重量/アクリル系重合体1の重量」で表される比は4であった。
製造した導電剤スラリー1について、粘度及びTI値を測定した。結果を表1に示す。
【0118】
(4)リチウム二次電池正極用組成物の調製
正極活物質としてコバルト酸リチウム(セルシード社製「C−10N」)を100部と、調製した導電性スラリー1を固形分換算で3部と、ポリフッ化ビニリデン1部とを混合し、さらにN−メチルピロリドンを固形分濃度が80%になるように混合し、プラネタリーミキサーで混練して、正極用組成物として正極用スラリー1を調製した。前記の混練は、混練温度30℃、回転速度60rpmにて1時間行った。
【0119】
(5)正極の製造
上記正極用スラリー1をコンマコーターで、集電体である厚さ20μmのアルミ箔上に、乾燥後の膜厚が120μm程度になるように塗布した。その後、60℃で20分間乾燥させ、150℃で2時間加熱処理を施して、電極原反を得た。この電極原反をロールプレスで圧延し、正極の密度が3.5g/cm、アルミ箔および正極活物質層の合計厚みが100μmに制御された板状の正極を製造した。作製した正極の結着性を評価するため、ピール強度を測定した。
【0120】
(6)リチウム二次電池の製造
得られた正極を、直径15mmの円形シートに切り抜いた。この正極の正極活物質層面側に、直径18mm、厚さ25μmの円形ポリプロピレン製多孔膜からなるセパレーターと、負極として用いる金属リチウムと、エキスパンドメタルとを順に積層し、これをポリプロピレン製パッキンを設置したステンレス鋼製のコイン型外装容器(直径20mm、高さ1.8mm、ステンレス鋼厚さ0.25mm)中に収納した。この容器中にECとDECを体積で1:2の比で混合した液にLiPFを1M溶解させた電解液を、空気が残らないように注入し、ポリプロピレン製パッキンを介して外装容器に厚さ0.2mmのステンレス鋼のキャップをかぶせて固定し、電池缶を封止して、直径20mm、厚さ約2mmのコイン型電池を製造した。作製したコイン型電池について、電池特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0121】
[実施例2]
(1)アクリル系重合体の用意
アクリロニトリルの量を20部に変更したこと、及び、アクリル酸ブチルの量を80部に変更したこと以外は実施例1と同様にして、アクリル系重合体2のNMP溶液を得た。
【0122】
(2)水添ブロック共重合体の用意
水添ブロック共重合体としては、水添ブロック共重合体Aを用意した。
【0123】
(3)導電剤組成物の調製
アクリル系重合体1のNMP溶液の代わりにアクリル系重合体2のNMP溶液を固形分換算で1部用いたこと、並びに水添ブロック共重合体Aの量を2.5部にしたこと以外は実施例1と同様にして、導電剤組成物として導電剤スラリー2を得た。得られた導電剤スラリー2において、「水添ブロック共重合体の重量/アクリル系重合体2の重量」で表される比は2.5であった。
製造した導電剤スラリー2について、粘度及びTI値を測定した。結果を表1に示す。
【0124】
(4)リチウム二次電池正極用組成物の調製
導電性スラリー1の代わりに導電性スラリー2を用いたこと以外は実施例1と同様にして、正極用スラリー2を調製した。
【0125】
(5)正極の製造
正極用スラリー1の代わりに正極用スラリー2を用いたこと以外は実施例1と同様にして正極を製造した。作製した正極の結着性を評価するため、ピール強度を測定した。
【0126】
(6)リチウム二次電池の製造
得られた正極を用いて、実施例1と同様にしてコイン型電池を製造した。作製したコイン型電池について、電池特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0127】
[実施例3]
(1)アクリル系重合体の用意
アクリロニトリルの量を30部に変更したこと、及び、アクリル酸ブチルの量を70部に変更したこと以外は実施例1と同様にして、アクリル系重合体3のNMP溶液を得た。
【0128】
(2)水添ブロック共重合体の用意
水添ブロック共重合体としては、水添ブロック共重合体Aを用意した。
【0129】
(3)導電剤組成物の調製
アクリル系重合体1のNMP溶液の代わりにアクリル系重合体3のNMP溶液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、導電剤組成物として導電剤スラリー3を得た。
製造した導電剤スラリー3について、粘度及びTI値を測定した。結果を表1に示す。
【0130】
(4)リチウム二次電池正極用組成物の調製
導電性スラリー1の代わりに導電性スラリー3を用いたこと以外は実施例1と同様にして、正極用スラリー3を調製した。
【0131】
(5)正極の製造
正極用スラリー1の代わりに正極用スラリー3を用いたこと以外は実施例1と同様にして正極を製造した。作製した正極の結着性を評価するため、ピール強度を測定した。
【0132】
(6)リチウム二次電池の製造
得られた正極を用いて、実施例1と同様にしてコイン型電池を製造した。作製したコイン型電池について、電池特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0133】
[実施例4]
水添ブロック共重合体として、実施例1で使用した水添ブロック共重合体Aの水添率を85モル%とした水添ブロック共重合体Bを用いたこと以外は実施例1と同様にして、導電剤スラリー4及び正極用スラリー4を調製し、それを用いて正極及びコイン型電池を製造した。評価結果を表1に示す。
なお、水添ブロック共重合体として用意した水添ブロック共重合体Bは、芳香族ビニル化合物であるスチレンと、共役ジエンである1,3−ブタジエンとのブロック共重合体であり、芳香族ビニル化合物に由来する単量体単位の含有量は67重量%、共役ジエンに由来する単量体単位における1,2結合体単位の量が1モル%であり、共役ジエンに由来する単量体単位の85モル%が水添されている。
【0134】
[実施例5]
2回に分けて添加したスチレンの量をそれぞれ20部、1,3−ブタジエンの量を60部としたこと以外は、実施例1と同様にして、水添ブロック共重合体Cを得た。
水添ブロック共重合体として、上記水添ブロック共重合体Cを用いたこと以外は実施例1と同様にして、導電剤スラリー5及び正極用スラリー5を調製し、それを用いて正極及びコイン型電池を製造した。評価結果を表1に示す。
なお、水添ブロック共重合体として用意した水添ブロック共重合体Cは、芳香族ビニル化合物であるスチレンと、共役ジエンである1,3−ブタジエンとのブロック共重合体であり、芳香族ビニル化合物に由来する単量体単位の含有量は42重量%、共役ジエンに由来する単量体単位における1,2結合体単位の量が1モル%であり、共役ジエンに由来する単量体単位の99モル%が水添されている。
【0135】
[実施例6]
1,3−ブタジエンをイソプレンに代えたこと以外は、実施例1と同様にして、ブロック共重合体Dを得た。
水添ブロック共重合体として、上記水添ブロック共重合体Dを用いたこと以外は実施例1と同様にして、導電剤スラリー6及び正極用スラリー6を調製し、それを用いて正極及びコイン型電池を製造した。評価結果を表1に示す。
なお、水添ブロック共重合体として用意した水添ブロック共重合体Dは、芳香族ビニル化合物であるスチレンと、共役ジエンであるイソプレンとのブロック共重合体であり、芳香族ビニル化合物に由来する単量体単位の含有量は67重量%、イソプレンに由来する単量体単位における1,2結合体単位の量が1モル%であり、イソプレンに由来する単量体単位の99モル%が水添されている。
【0136】
[実施例7]
アクリロニトリルの量を40部に変更したこと、及び、アクリル酸ブチルの量を60部に変更したこと以外は実施例1と同様にして、アクリル系重合体7のNMP溶液を得た。
アクリル系重合体1のNMP溶液の代わりにアクリル系重合体7のNMP溶液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、導電剤スラリー7及び正極用スラリー7を調製し、それを用いて正極及びコイン型電池を製造した。評価結果を表2に示す。
【0137】
[実施例8]
ポリフッ化ビニリデンの量を0.5部に変更したこと以外は実施例1と同様にして、導電剤スラリー8及び正極用スラリー8を調製し、それを用いて正極及びコイン型電池を製造した。評価結果を表2に示す。
【0138】
[実施例9]
アクリル系重合体1と水添ブロック共重合体Aの合計量に対するポリフッ化ビニリデンの量を0.6倍に変更したこと以外は実施例1と同様にして、導電剤スラリー9及び正極用スラリー9を調製し、それを用いて正極及びコイン型電池を製造した。評価結果を表2に示す。
【0139】
[実施例10]
正極活物質100部に対する、アクリル系重合体および水添ブロック共重合体Aの合計量を1.3部に変更したこと以外は実施例1と同様にして、導電剤スラリー10及び正極用スラリー10を調製し、それを用いて正極及びコイン型電池を製造した。評価結果を表2に示す。
【0140】
[実施例11]
正極活物質、ポリフッ化ビニリデン、アセチレンブラック、アクリル系重合体1、及び水添ブロック共重合体Aを実施例1と同じ量で混練容器に一括して配合して導電性スラリーを調整したこと以外は実施例1と同様にして、正極及びコイン型電池を製造した。評価結果を表2に示す。
【0141】
[実施例12]
アクリル系重合体1と水添ブロック共重合体Aの合計量に対するポリフッ化ビニリデンの量を2.2倍に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、導電剤スラリー12及び正極用スラリー12を調製し、それを用いて正極及びコイン型電池を製造した。評価結果を表2に示す。
【0142】
[比較例1]
攪拌機付き50MPa耐圧オートクレーブで、窒素ガス雰囲気下において、スチレン100部を含むシクロヘキサン溶液にテトラヒドロフラン1部を加え、次いでn−ブチルリチウム0.1部を添加し、40℃で1時間重合した後、1,3−ブタジエン100部を含むシクロヘキサン溶液を加えて10℃で2時間重合した。その後スチレン100部を含むシクロヘキサン溶液を添加して10℃で5時間重合してブロック共重合体を得た。
次に、上記で得られたブロック共重合体をTi系水素添加触媒で水添して、水添ブロック共重合体Eを得た。
【0143】
水添ブロック共重合体として、上記水添ブロック共重合体Eを用いたこと以外は実施例1と同様にして、導電剤スラリーC1及び正極用スラリーC1を調製し、それを用いて正極及びコイン型電池を製造した。評価結果を表3に示す。
なお、水添ブロック共重合体として用意した水添ブロック共重合体Eは、芳香族ビニル化合物であるスチレンと、共役ジエンである1,3−ブタジエンとのブロック共重合体であり、芳香族ビニル化合物に由来する単量体単位の含有量は67重量%、共役ジエンに由来する単量体単位における1,2結合体単位の量が20モル%であり、共役ジエンに由来する単量体単位の98モル%が水添されている。
【0144】
[比較例2]
水添ブロック共重合体として実施例1で使用した水添ブロック共重合体Aの水添率を60モル%とした水添ブロック共重合体Fを用いたこと以外は実施例1と同様にして正極用スラリーC2を調製し、それを用いて正極及びコイン型電池を製造した。評価結果を表3に示す。
なお、水添ブロック共重合体として用意した水添ブロック共重合体Fは、芳香族ビニル化合物であるスチレンと、共役ジエンである1,3−ブタジエンとのブロック共重合体であり、芳香族ビニル化合物に由来する単量体単位の含有量は67重量%、共役ジエンに由来する単量体単位における1,2結合体単位の量が1モル%であり、共役ジエンに由来する単量体単位の60モル%が水添されている。
【0145】
[比較例3]
2回に分けて添加したスチレンの量をそれぞれ15部、1,3−ブタジエンの量を70部としたこと以外は、実施例1と同様にして、水添ブロック共重合体Gを得た。
水添ブロック共重合体として上記水添ブロック共重合体Gを用いたこと以外は実施例1と同様にして、導電剤スラリーを調製しようとしたが、導電剤が均一に分散した導電剤スラリーが得られず、正極を製造できなかった。
なお、水添ブロック共重合体として用意した水添ブロック共重合体Gは、芳香族ビニル化合物であるスチレンと、共役ジエンである1,3−ブタジエンとのブロック共重合体であり、芳香族ビニル化合物に由来する単量体単位の含有量は30重量%、共役ジエンに由来する単量体単位における1,2結合体単位の量が1モル%であり、共役ジエンに由来する単量体単位の98モル%が水添されている。
【0146】
【表1】

【0147】
【表2】

【0148】
【表3】

【0149】
[検討]
表1及び表2に示したように、実施例においては短時間の混練によって塗工に適した粘度及びチクソ性を有する導電剤スラリーが得られ、それを用いて、電池容量の大きいリチウム二次電池が得られた。また、得られたリチウム二次電池は25サイクル目になっても放電容量の低下が小さく、サイクル特性にも優れていた。なお、実施例11においては導電剤スラリー11が他の実施例ほど短時間の混練では液状のスラリーとはならなかったが、更に混練を続けていれば従来よりは短時間で液状のスラリーになったものと考えられる。
【0150】
これに対し、表3に示すように、比較例1では導電剤スラリーC1の粘度が低く導電剤を分散させることは円滑に行えたが、チクソ性が高く正極用スラリーC1の塗工が困難であった。
また、比較例2では、導電剤スラリーC2の粘度が高く、導電剤を分散させることが難しかったので、導電剤スラリーC2をスラリー化するのに長時間を要した。
さらに、比較例3では、導電剤スラリーC3が液状のスラリーとならず、このため正極用スラリーが得られなかったので、正極を製造できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0151】
本発明は、リチウム二次電池の正極に用いて好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電剤と、
(メタ)アクリル酸のアルキルエステルに由来する単量体単位及びα,β−不飽和ニトリル化合物に由来する単量体単位を含むアクリル系重合体と、
芳香族ビニル化合物と共役ジエンとのブロック共重合体であって、前記芳香族ビニル化合物に由来する単量体単位の含有量が35重量%以上75重量%以下であり、共役ジエンに由来する単量体単位における1,2結合体単位の量が15モル%以下であり、且つ、共役ジエンに由来する単量体単位の70モル%以上が水添されている、水添ブロック共重合体と、
正極活物質とを含む、リチウム二次電池用正極。
【請求項2】
正極活物質100重量部に対する前記アクリル系重合体及び水添ブロック共重合体の合計量が、0.5重量部以上5重量部以下であり、
前記水添ブロック共重合体を、前記アクリル系重合体の2倍以上7倍以下の量で含む、請求項1記載のリチウム二次電池用正極。
【請求項3】
前記アクリル系重合体が、(メタ)アクリル酸のアルキルエステルであって前記アルキルエステルのアルキル基の炭素原子数が1個以上18個以下である(メタ)アクリル酸のアルキルエステルに由来する単量体単位を50重量%以上95重量%以下含み、
さらに前記アクリル系重合体は、α,β−不飽和ニトリル化合物に由来する単量体単位を、5重量%以上50重量%以下含む、請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用正極。
【請求項4】
さらにポリフッ化ビニリデンを含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極。
【請求項5】
導電剤と、
(メタ)アクリル酸のアルキルエステルに由来する単量体単位及びα,β−不飽和ニトリル化合物に由来する単量体単位を含むアクリル系重合体と、
芳香族ビニル化合物と共役ジエンとのブロック共重合体であって、前記芳香族ビニル化合物に由来する単量体単位の含有量が35重量%以上75重量%以下であり、共役ジエンに由来する単量体単位における1,2結合体単位の量が15モル%以下であり、且つ、共役ジエンに由来する単量体単位の70モル%以上が水添されている、水添ブロック共重合体と、
溶媒とを含む、導電剤組成物。
【請求項6】
請求項5記載の導電剤組成物と、
正極活物質とを含む、リチウム二次電池正極用組成物。
【請求項7】
集電体と、前記集電体の表面に設けられた正極活物質層とを備えるリチウム二次電池用正極を製造する製造方法であって、
導電剤;(メタ)アクリル酸のアルキルエステルに由来する単量体単位及びα,β−不飽和ニトリル化合物に由来する単量体単位を含むアクリル系重合体;芳香族ビニル化合物と共役ジエンとのブロック共重合体であって、前記芳香族ビニル化合物に由来する単量体単位の含有量が35重量%以上75重量%以下であり、共役ジエンに由来する単量体単位における1,2結合体単位の量が15モル%以下であり、且つ、共役ジエンに由来する単量体単位の70モル%以上が水添されている、水添ブロック共重合体;及び溶媒を混合して、導電剤組成物を調製する工程と、
調製した前記導電剤組成物及び正極活物質を混合して、リチウム二次電池正極用組成物を調製する工程と、
前記集電体の表面に、調製した前記リチウム二次電池正極用組成物を塗布して前記正極活物質層を形成する工程とを含む、リチウム二次電池用正極の製造方法。

【公開番号】特開2012−99251(P2012−99251A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243888(P2010−243888)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】