説明

リチウム二次電池用負極、その製造方法及びリチウム二次電池

【課題】非水電解液の電極体内部への浸透性及び流通性が改善され、充放電サイクル特性を高めることができるリチウム二次電池用電極、その製造方法及びリチウム二次電池を得る。
【解決手段】リチウムと合金化することによりリチウムを吸蔵する材料からなる活物質層が集電体上に形成され、充放電反応により厚み方向に形成された切れ目によって活物質層が柱状に分離されるリチウム二次電池用負極において、充放電反応前に、活物質層の表面を切削加工することにより、活物質層の表面に溝を形成したことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用負極、その製造方法及び該リチウム二次電池用負極を用いたリチウム二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高出力及び高エネルギー密度の新型二次電池の1つとして、非水電解液を用い、リチウムイオンを正極と負極との間で移動させて充放電を行うリチウム二次電池が利用されている。
【0003】
このようなリチウム二次電池用負極として、シリコン、ゲルマニウム、スズ等のリチウムと合金化する材料を負極活物質として用いたものが検討されている。特にシリコンは理論容量が大きく、高い容量を示す電池用負極として有望であり、これを負極とする種々の二次電池が提案されている。
【0004】
本出願人は、シリコン等を活物質とし、良好な充放電サイクル特性を示すリチウム二次電池用負極として、CVD法、スパッタリング法、蒸着法などの薄膜形成方法により、集電体上に微結晶シリコン薄膜または非晶質シリコン薄膜などの活物質薄膜を形成したリチウム二次電池用負極を提案している(例えば、特許文献1)。
【0005】
シリコン等のリチウムと合金化することによりリチウムを吸蔵する材料を負極活物質として用いたリチウム二次電池においては、充放電に伴って、負極活物質の膨張収縮が生じる。このようなリチウム二次電池において、電極体を円筒型の巻き取り電極体とした場合、負極の膨張による力が電池の内側に向かって生じるため、電極内部に保持されていた電解液が電極の外部に放出されやすくなり、電極体の内部の液枯れに起因するサイクル特性の低下が生じやすくなる。
【0006】
リチウム二次電池における電極体内部の電解液の浸透性及び流通性を改善する方法として、電極体内での電解液の浸透経路及び流通経路を確保するため、負極表面に溝を形成することが提案されている(例えば、特許文献2及び3など)。
【0007】
特許文献2においては、活物質を形成した負極の表面にマスクを配置し、マスクで覆われていない負極の露出部分に微粒子を打ち込んで露出部分の負極を削り取った後、マスクを除去することによって、活物質層に溝を形成して活物質を島状に分離し、電解液の流通経路を確保する方法が提案されている。このような方法であれば、活物質層に微細かつ高アスペクト比の溝を形成することができ、溝の形成による負極容量の低下を抑制しながら、負極内に電解液の流通経路を確保することができる。しかしながら、マスクを使用して活物質の一部を削り取る方法は、電池作製工程の複雑化による生産性の低下や作製コストの上昇を招く。
【0008】
また、スラリー状の活物質を塗布・乾燥して活物質を形成した負極の表面に溝を形成する方法として、表面に突起が形成されたローラーで活物質層を圧縮することによって活物質層の表面に溝を形成し、電解液の浸透性を高める方法が提案されている(特許文献3)。この方法は、簡便であるが、CVD法、スパッタリング法、蒸着法などの薄膜形成方法により活物質層を形成した負極に適用した場合、活物質層の塑性が小さいため、集電体の折れや広範囲にわたる活物質の剥離などの不都合が生じやすい。
【特許文献1】国際公開第01/029912号パンフレット
【特許文献2】特開2006−120445号公報
【特許文献3】特開平9−298057号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、非水電解液の電極体内部への浸透性及び流通性が改善され、充放電サイクル特性を高めることができるリチウム二次電池用負極、その製造方法及びそれを用いたリチウム二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のリチウム二次電池用負極は、リチウムと合金化することによりリチウムを吸蔵する材料からなる活物質層が集電体上に形成され、充放電反応により厚み方向に形成された切れ目によって活物質層が柱状に分離されるリチウム二次電池用負極において、充放電反応前に、活物質層の表面を切削加工することにより、活物質層の表面に溝を形成したことを特徴としている。
【0011】
本発明に従い、充放電反応前に、活物質層の表面を切削加工して活物質層の表面に溝を形成することにより、充放電サイクル特性を高めることができる。本発明においては、充放電反応により、活物質層の厚み方向に切れ目が形成され、この切れ目によって、活物質層が柱状に分離される。柱状部分の周囲には、切れ目による空間が存在しているので、充放電反応により活物質層が膨張収縮する際の体積変化を、柱状部分の周囲の空間によって吸収することができ、活物質層の膨張収縮による応力発生を抑制することができる。このため、良好な充放電サイクル特性を示す。本発明に従い、充放電反応前に活物質層の表面に溝を形成することにより、この溝を形成した領域の近傍において、充放電反応により形成される切れ目の幅が広くなることがわかった。本発明においては、このように幅が広くなった切れ目が形成されることにより、非水電解液の電極体内部への浸透性及び流通性が改善され、充放電サイクル特性が高められたと考えられる。
【0012】
本発明においては、充放電反応後に活物質層に形成される切れ目の幅が、充放電反応前に形成した溝の近傍において他の領域の1.5倍以上となっていることが好ましく、2倍以上であることがさらに好ましい。なお、ここで溝の近傍は、溝を中心とした100μm〜150μmまでの領域である。
【0013】
本発明における溝を形成するための切削加工としては、例えば、先端の尖った道具で引掻くことによる加工が挙げられる。また、先端の尖った道具としては、先端半径0.001〜0.05mm、好ましくは0.005〜0.01mmの針が挙げられる。また、先端の尖った道具として、刃物などを用いてもよい。
【0014】
本発明において、リチウムと合金化することによりリチウムを吸蔵する材料としては、シリコン、ゲルマニウム、スズなどが挙げられる。特に、シリコンは、活物質1gあたり約4000mAhの高い理論容量を示すことから、負極活物質材料として好ましく用いられる。
【0015】
シリコンを含む活物質材料としては、シリコン膜及びシリコン合金膜などが挙げられる。シリコン合金膜としては、コバルトなどとの合金膜が挙げられる。シリコンの含有量は50重量%以上であることが好ましい。シリコン膜としては、非晶質シリコン膜や微結晶シリコン膜が挙げられる。シリコン膜及びシリコン合金膜などの活物質薄膜は、集電体の上に、CVD法、スパッタリング法、蒸着法などにより形成することができる。特に、電子ビーム蒸着法などの蒸着法で形成することにより、高い膜形成速度を得ることができ、効率的にリチウム二次電池用負極を形成することができる。
【0016】
本発明において用いる集電体は、リチウムと合金化しない金属から形成されていることが好ましい。このような材料としては、銅、銅合金、ニッケル、ステンレスなどが挙げられる。集電体は、これらの材料の2種以上を積層したものであってもよい。
【0017】
また、本発明において用いる集電体の表面は、粗面化されていることが好ましい。集電体表面の算術平均粗さRaは、0.01μm以上であることが好ましく、さらに好ましくは、0.2μm以上であり、1μm以下であることが好ましい。算術平均粗さRaは、日本工業規格(JIS B0601−1994)に定められており、例えば、表面粗さ計により測定することができる。
【0018】
表面が粗面化された集電体の上に活物質薄膜を形成することにより、活物質薄膜に、集電体表面の凹凸に対応した凹凸が形成される。充放電反応により活物質薄膜が膨張収縮することにより、活物質薄膜の凹凸の谷部を起点とした切れ目が活物質薄膜の厚み方向に形成される。このような切れ目が形成されることにより、上述のように、活物質薄膜が柱状に分離される。
【0019】
本発明のリチウム二次電池用負極の製造方法は、上記本発明のリチウム二次電池用負極を製造することができる方法であり、集電体の上に活物質層を形成する工程と、充放電反応前に、活物質層の表面を切削加工することにより、活物質層の表面に溝を形成する工程とを備えることを特徴としている。
【0020】
本発明の製造方法によれば、非水電解液の電極体内部への浸透性及び流通性が改善され、充放電サイクル特性を高めることができるリチウム二次電池用負極を製造することができる。
【0021】
本発明のリチウム二次電池は、上記本発明のリチウム二次電池用負極と、正極と、非水電解液とを備えることを特徴としている。
【0022】
本発明のリチウム二次電池においては、上記本発明のリチウム二次電池用負極を用いているので、非水電解液の電極体内部への浸透性及び流通性を改善することができ、充放電サイクル特性を高めることができる。
【0023】
非水電解液の粘度が高いと、電極体内部への浸透性及び流通性がより必要とされる。従って、本発明のリチウム二次電池は、非水電解液の粘度が高い場合に、本発明の効果をより発揮することができる。非水電解液の粘度は、このような観点から、2.0mPas以上であることが好ましく、さらに好ましくは2.5mPas以上である。
【0024】
本発明において、非水電解液の溶質としては、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO)、LiN(CSO)、LiN(CFSO)(CSO)、LiC(CFSO)、LiC(CSO)、LiAsF、LiClO、Li10Cl10、Li12Cl12など及びそれらの混合物が例示される。
【0025】
本発明のリチウム二次電池に用いる非水電解液の溶媒は、特に限定されるものではなく、リチウム二次電池の溶媒として用いることができるものであればよい。溶媒としては、環状カーボネートあるいは鎖状カーボネートが好ましい。環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等が挙げられる。これらの中でも、特にエチレンカーボネートが好ましく用いられる。鎖状カーボネートとしては、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート等が挙げられる。さらに溶媒としては、2種以上の溶媒を混合した混合溶媒であることが好ましい。特に、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを含む混合溶媒であることが好ましい。
【0026】
また、上記環状カーボネートと、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン等のエーテル系溶媒との混合溶媒も好ましく用いられる。
【0027】
本発明において、正極活物質としては、LiCoO、LiNiO、LiMn、LiMnO、LiCo0.5Ni0.5、LiNi0.7Co0.2Mn0.1などのリチウム含有遷移金属酸化物や、MnOなどのリチウムを含有していない金属酸化物が例示される。また、この他にも、リチウムを電気化学的に挿入、脱離する物質であれば、制限なく用いることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、非水電解液の電極体内部への浸透性及び流通性が改善され、充放電サイクル特性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能なものである。
【0030】
(実験1)
蒸着法によって集電体上にシリコン膜を形成して負極を作製し、シリコン膜の表面を針で引掻くことによりシリコン膜の表面に溝を形成した。針の先端半径、針に加える荷重、及び引掻き回数と、シリコン膜の表面に形成される溝の形状との関連を検討した。
【0031】
〔負極の作製〕
(シリコン膜の形成)
集電体として、厚み18μmのC7025合金圧延箔の表面に電解法で銅を析出させることにより、表面を粗面化した銅合金箔(粗面化後の厚み30μm)を用いた。この集電体表面の算術平均粗さRaは、0.6μmであった。上記集電体の算術平均粗さRaは、レーザー顕微鏡により測定した。
【0032】
スパッタリング源及び電子ビーム蒸着源を備えた巻き取り式の薄膜形成装置を用いて、この集電体の両面上に、スパッタリング法、電子ビーム蒸着法の順でシリコン膜を形成した。表1にスパッタリング条件、表2に電子ビーム蒸着条件を示す。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
スパッタリング法により形成したシリコン膜は、電子ビーム蒸着法で形成したシリコン膜と集電体との密着性を向上させるための中間層であり、厚みは20nmであった。
【0036】
また、電子ビーム蒸着法で形成したシリコン膜の厚みは、16μmであった。なお、電子ビーム蒸着法によるシリコン膜形成においては、集電体の両面それぞれについて、電子ビーム蒸着源対向部を2回通過させて、薄膜を形成させた。
【0037】
(シリコン膜表面への溝の形成)
集電体上に形成したシリコン膜の表面を、ダイアモンド針で引掻いて溝を形成した。ダイアモンド針による引掻きは、連続荷重式表面測定機(新東科学株式会社製TYPE:22)を使用した。
【0038】
溝の形状は、レーザー顕微鏡(オリンパス株式会社製OLS1100)を用いて、深さと幅を測定した。
【0039】
ダイアモンド針としては、先端半径0.005mm、0.01mm、及び0.03mmの3種類のものを用いた。溝を形成する際の荷重としては、先端半径0.005mmの針を用いた場合には0.4N、先端半径0.01mmの針を用いた場合には0.6N、先端半径0.03mmの針を用いた場合には1.0Nとし、表3〜表5に示す引掻き回数で溝を形成した。形成した溝の深さ及び幅を表3〜表5に示す。
【0040】
【表3】

【0041】
【表4】

【0042】
【表5】

【0043】
次に、針にかける垂直荷重を変化させて溝を形成した。先端半径0.005mmの針の場合には、0.4N、0.5N、及び0.6Nに垂直荷重を変化させて溝を形成した。なお引掻き回数は1回及び2回とした。
【0044】
先端半径0.01mmの針の場合には、0.6N、0.7N、及び0.8Nの垂直荷重で溝を形成した。引掻き回数は1回とした。
【0045】
先端半径0.03mmの場合には、1.0N、1.2N、及び1.4Nの垂直荷重とした。引掻き回数は1回とした。
【0046】
溝の深さ及び幅を表6〜表8に示す。
【0047】
【表6】

【0048】
【表7】

【0049】
【表8】

【0050】
表3〜表8に示すように、同じ先端形状の針を使用した場合、垂直荷重の増加及び引掻き回数の増加に伴い、溝の深さ及び幅が大きくなった。
【0051】
シリコン膜を引掻いた際、形成された溝が深くなるにつれて、溝の周囲でシリコンの微粉の発生が顕著となった。これは、溝を形成する際、針によるシリコン膜の圧縮のみではなく針によるシリコン膜の切削が生じているためであると考えられる。シリコン膜に溝を形成する際に発生したシリコン微粉は、エアの吹きつけや刷毛を用いた清掃によって容易に除去することができた。
【0052】
(実験2)
本実験では、負極のシリコン膜に上記の針を用いて溝を形成し、溝を形成した負極を用いてリチウム二次電池を作製し、充放電サイクル特性を評価した。
【0053】
(シリコン膜の形成)
実験1と同様にして、集電体の両面に、スパッタリング法及び電子ビーム蒸着法によってシリコン膜を形成した。
【0054】
(シリコン膜表面への溝の形成)
シリコン膜を形成した集電体を、長さ525mm、幅50mmの長方形の形状に切り抜いた。次に、集電体の両面上のシリコン膜に、集電体の短辺と平行な方向に、長さ45mmの溝を、2mmの間隔で形成した。実験1と同様に、連続荷重式表面測定機を用いて溝を形成した。
【0055】
(実施例1)
実施例1では、先端半径0.005mmのダイアモンド針を用い、垂直荷重0.6N、引掻き回数2回の条件で溝を形成した。溝を形成した後、溝が電極の短辺方向全体にわたるように集電体の幅を36mmに切り出した。切り出した電極の集電体に、集電体タブとしてニッケル製のタブを取り付け、実施例1の負極とした。
【0056】
(実施例2)
先端半径0.01mmの針を用い、垂直荷重0.8N、引掻き回数1回として溝を形成する以外は、実施例1と同様にして、負極を作製した。
【0057】
(比較例1)
シリコン膜に溝を形成していないものを作製し、実施例1及び実施例2と同じ電極サイズに切り出し、比較例1の負極とした。
【0058】
実施例1、実施例2及び比較例1の負極は複数作製し、溝の形状の観察及びサイクル特性の評価に用いた。
【0059】
〔溝の形状の測定〕
実験1と同様にして、レーザー顕微鏡を用いて、実施例1及び実施例2のシリコン膜に形成した溝の幅及び深さを測定した。測定は、電極内の6点について行った。測定結果を表9に示す。
【0060】
〔リチウム二次電池の作製〕
(正極の作製)
LiCoOで表わされるリチウムコバルト複合酸化物(平均粒子径13μm)の表面にジルコニウムを固着させたものを正極活物質として用いた。この正極活物質は、LiCO、Co、及びZrOを石川式らいかい乳鉢で混合した後、空気雰囲気中にて850℃、24時間熱処理し、その後粉砕することにより製造した。
【0061】
分散剤としてのN−メチル−2−ピロリドンに、上記正極活物質の粉末と、導電剤としての炭素材料粉末と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデンとを活物質:導電剤:結着剤の重量比が94:3:3となるように加えた後、混練し、正極合剤スラリーとした。
【0062】
この正極合剤スラリーを、正極集電体としての厚み15μm、長さ510mm、幅34mmのアルミニウム箔の両面に、塗布部が表面及び裏面ともに長さ480mm、幅34mmとなるように塗布し、乾燥した後、圧延した。集電体上の合剤層量は42mg/cmであり、充填密度は3.75g/cmであった。
【0063】
正極合剤スラリーを塗布していない部分に、集電タブとして、アルミニウム平板を取り付け、正極とした。
【0064】
(電解液の作製)
エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、フルオロエチレンカーボネートを体積比27:63:10となるように混合した溶媒に対し、LiPFを1モル/リットルの割合で溶解させ、電解液1とした。
【0065】
(電池の作製)
図3は、上記負極を模式的に示す平面図である。図3に示すように、集電体の両面上に設けられた活物質層1には、集電体の短辺方向と平行な方向に延びる溝2が形成されている。また、負極の集電体には負極タブ3が取り付けられている。
【0066】
上記の負極、上記の正極、並びに厚み25μmのポリエチレン多孔質体のセパレータを用いて、リチウム二次電池を作製した。
【0067】
正極と負極との間にセパレータを挟み、負極の上にさらに1枚セパレータを載せて積層体とし、この積層体を負極が最内周となるように渦巻状に巻回して、図8に示す電極体5を作製した。電極体5の直径は約12.8mmであり、高さは約38mmである。図8に示すように、正極の端部には正極タブ7が取り付けられており、負極の端部には負極タブ8が取り付けられている。
【0068】
この渦巻状電極体5を、ラミネートフィルムからなる容器内に挿入し、正極タブ7と負極タブ8が外部に突き出る状態にして封止した後、上記電解液1を4ml注入し、容器を封止することにより、実施例2及び比較例1のリチウム二次電池を作製した。
【0069】
(参考例1〜3)
(電解液の作製)
プロピオン酸メチル、及びフルオロエチレンカーボネートを、体積比80:20となるように混合した溶媒に、LiPFを1モル/リットルの割合で溶解させ、電解液2を作製した。
【0070】
(リチウム二次電池の作製)
上記電解液2を用いる以外は、上記実施例1、実施例2、及び比較例1と同様にして作製した負極を用いて、上記と同様にして、実施例1相当の負極を用いた参考例1、実施例2相当の負極を用いた参考例2、及び比較例1相当の負極を用いた参考例3のリチウム二次電池を作製した。
【0071】
〔サイクル特性の評価〕
上記各リチウム二次電池について、充放電試験を行った。
【0072】
各電池を室温において、電流値180mAで4.2Vまで充電し、次に4.2Vに保持したまま電流値45mAになるまで充電した後、電流値180mAで2.75Vまで放電し、これを1サイクルの充放電とした。
【0073】
次に、上述の手順から、電流値を900mAに変更した充放電条件で、充放電サイクルを繰り返した。各充放電サイクルの終了後に1サイクル目の放電容量を100とした場合の容量維持率(%)を求め、容量維持率が70%未満に低下するまで充放電サイクルを継続した。容量維持率が70%未満に低下した時点のサイクル数を、各電池のサイクル寿命とした。
【0074】
表9に、実施例1、実施例2、比較例1及び参考例1〜3の各電池のサイクル寿命を示す。
【0075】
【表9】

【0076】
表9に示すように、本発明に従う実施例1及び実施例2のリチウム二次電池においては、比較例1のリチウム二次電池に比べ、サイクル寿命が長くなっており、充放電サイクル特性が向上していることがわかる。
【0077】
また、電解液の粘度が2.0mPas以上である電解液1を用いた場合には、サイクル特性の向上が認められているが、粘度が2.0mPas以下である電解液2を用いた場合には、参考例1〜2と参考例3において、サイクル寿命の差がほとんどなく、充放電サイクル特性の向上が認められなかった。
【0078】
〔充放電前及び充放電後の溝の観察〕
(充放電前の溝の観察)
充放電前の実施例1及び実施例2の負極の一部を切り出して、走査型電子顕微鏡(SEM)で、充放電試験前の溝の形状を観察した。
【0079】
図1は、実施例1の負極の溝のSEM像を示しており、図2は、実施例2の負極の溝のSEM像を示している。図1及び図2ともに、負極の上面斜め方向から観察した像である。図1及び図2から明らかなように、シリコン膜の表面に形成した溝の底面は、シリコン膜の内部に留まっている。
【0080】
(充放電後の負極の観察)
上記の条件で作製した実施例1、実施例2及び比較例1の各電池について、6サイクルのみ充放電を行い、負極の表面形状を観察した。図4は、実施例1の負極を示し、図5は、実施例2の負極を示し、図6は、比較例1の負極を示している。いずれも、6サイクルの充放電が終了した後の平面SEM像である。
【0081】
図4及び図5から明らかなように、充放電試験前に形成した溝の底面は、シリコン膜の内部に留まっている。溝の幅は、充放電に伴うシリコン膜の膨張収縮により、10μm程度まで縮小している。
【0082】
また、図4及び図5から明らかなように、充放電前に形成した溝の近傍、すなわち溝を中心とした100μm〜150μmの幅の領域においては、充放電反応により形成された切れ目の幅が拡がっている。溝の近傍においては、他の領域に比べ、切れ目の幅が約2倍程度になっていることが観察される。
【0083】
図7は、6サイクルの充放電が終了した後の実施例1の負極の断面を示すSEM像である。
【0084】
図7から明らかなように、活物質層であるシリコン膜の厚み方向に切れ目が形成されており、この切れ目により、活物質層であるシリコン膜が柱状に分離されている。また、切れ目が、集電体近傍まで形成されている。
【0085】
また、図4及び図5から明らかなように、溝の近傍領域においては、上方向から見た柱状部分の面積が、他の領域に比べ大きくなっている。
【0086】
上記のように実施例1及び実施例2においては、溝の近傍において、活物質層に形成される切れ目の幅が、他の領域に比べ大きくなっている。また、充放電前に活物質層の表面に形成した溝は、充放電反応により形成された切れ目に比べ、その深さ及び幅がともに僅かであることがわかる。従って、実施例1及び実施例2において、高い充放電サイクル特性が得られた理由は、電解液が溝の近傍における幅が大きくなった切れ目を通り、電極内部に浸透することができたためであると思われる。
【0087】
また、表9に示す参考例1〜3の結果から明らかなように、粘度の低い電解液を用いた場合には、サイクル特性の向上が認められておらず、電解液の粘度が低い場合には、このように幅の広くなった切れ目が存在していなくても、電極内部に十分に電解液が浸透できるためであると思われる。
【0088】
上記実施例においては、上記のダイアモンド針を用いて溝を形成しているが、本発明において形成する溝は、このような方法により形成される溝に限定されるものではない。また、活物質層の表面に形成された溝の幅及び深さも、上記実施例に限定されるものではない。溝の幅及び深さ並びに形成方法は、使用する電解液、セパレータ、活物質層の厚み等の電池構成を考慮して、種々選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】充放電サイクル前の実施例1の負極の活物質層に形成した溝を示す走査型電子顕微鏡写真。
【図2】充放電サイクル前の実施例2の負極の活物質層に形成した溝を示す走査型電子顕微鏡写真。
【図3】本発明に従うリチウム二次電池用負極を模式的に示す平面図。
【図4】充放電サイクル後の実施例1の負極表面を示す走査型電子顕微鏡写真。
【図5】充放電サイクル後の実施例2の負極表面を示す走査型電子顕微鏡写真。
【図6】充放電サイクル後の比較例1の負極表面を示す走査型電子顕微鏡写真。
【図7】充放電サイクル後の実施例1の負極の断面を示す走査型電子顕微鏡写真。
【図8】実施例において作製した電極体を示す斜視図。
【符号の説明】
【0090】
1…活物質層
2…溝
3…負極タブ
4…リチウム二次電池用負極
5…電極体
7…正極集電タブ
8…負極集電タブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムと合金化することによりリチウムを吸蔵する材料からなる活物質層が集電体上に形成され、充放電反応により厚み方向に形成された切れ目によって前記活物質層が柱状に分離されるリチウム二次電池用負極において、
充放電反応前に、前記活物質層の表面を切削加工することにより、前記活物質層の表面に溝を形成したことを特徴とするリチウム二次電池用負極。
【請求項2】
充放電反応後に前記活物質層に形成される前記切れ目の幅が、前記溝の近傍において他の領域の1.5倍以上になっていることを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池用負極。
【請求項3】
前記切削加工が、先端の尖った道具で引掻くことによりなされることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウム二次電池用負極。
【請求項4】
前記先端の尖った道具が、先端半径0.001〜0.05mmの針であることを特徴とする請求項3に記載のリチウム二次電池用負極。
【請求項5】
前記活物質層がシリコン薄膜であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用負極。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用負極を製造する方法であって、
前記集電体の上に前記活物質層を形成する工程と、
充放電反応前に、前記活物質層の表面を切削加工することにより、前記活物質層の表面に溝を形成する工程とを備えることを特徴とするリチウム二次電池用負極の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の負極と、正極と、非水電解液とを備えることを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項8】
前記非水電解液の粘度が2.0mPas以上であることを特徴とする請求項7に記載のリチウム二次電池。

【図3】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−80298(P2010−80298A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−248113(P2008−248113)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】