説明

リチウム二次電池用負極の製造方法

【課題】リチウム二次電池用負極の充放電サイクル特性を改善する。
【解決手段】リチウム二次電池用負極の製造方法は、(A)表面に複数の凸部を有する集電体の表面に、集電体の法線方向から傾斜した第1方向からケイ素を供給することにより、集電体の法線方向に対して傾斜した成長方向を有し、互いに間隔を空けて凸部に対応して配置された複数の活物質部を集電体の表面に形成する工程と、(B)複数の活物質部が形成された集電体の表面に、集電体の法線方向となす角βが、集電体の法線方向と第1方向のなす角αよりも小さい第2方向から導電材料を含むガスを供給して、複数の活物質部のそれぞれの上に、集電体の表面または表面近傍から集電体の表面に対して非平行な方向に延び、集電体に垂直であり、かつ、活物質体の成長方向を含む断面において、対応する活物質部の側面のうち上側に位置する部分に導電部を形成する工程とを包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用負極およびそれを備えたリチウム二次電池、ならびにリチウム二次電池用負極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯用通信機器などの小型電子・電気機器の需要は近年ますます増大しており、それらに使用される二次電池の生産量も増加している。なかでも、エネルギー密度の高いリチウム二次電池の生産量の増大は顕著である。
【0003】
小型電子・電気機器の用途が多様化し、さらに小型化が図られるにつれて、リチウム二次電池にはさらなる性能向上が要望されている。具体的には、放電容量の増大と寿命の延長がますます求められている。
【0004】
現在市販されているリチウム二次電池は、正極にLiCoO2などのリチウム含有複合酸化物を用い、負極に黒鉛を用いている。しかし、黒鉛からなる負極材料では、LiC6の組成までしかリチウムイオンを吸収できず、リチウムイオンの吸収および放出の体積当たり容量の最大値は372mAh/gである。この値は金属リチウムの理論容量の約1/5に過ぎない。
【0005】
一方、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、As、Sb、Biといった金属元素あるいはそれらの合金は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出することができる元素として知られている。これらの元素の理論的な体積当たり容量(例えばSi:2377mAh/cm3、Ge:2344mAh/cm3、Sn:1982mAh/cm3、Al:2167mAh/cm3、Sb:1679mAh/cm3、Bi:1768mAh/cm3、Pb:1720mAh/cm3)は、何れも黒鉛などの炭素質材料の体積当たり容量より大きい。
【0006】
しかしながら、上記のような金属元素を用いた負極活物質は、充放電の際にリチウムイオンを吸蔵および放出することによって大きく膨張・収縮する。従って、シート状の集電体に上記のような負極活物質を含む活物質層を形成した構造を有する負極では、充放電を繰り返すと、活物質層と集電体との界面近傍に大きな応力が発生して歪みが生じ、負極のしわや切れ、活物質層の剥がれ等を引き起こす可能性がある。その結果、活物質層と集電体との電気的接合が保持できなくなって容量が減少するという課題がある。
【0007】
この課題に対し、活物質層と金属層とを集電体上に交互に積層することにより、活物質の剥離を抑制する方法が特許文献1に開示されている。この方法では、金属層は、活物質の剥離を抑制するだけでなく、活物質の破壊が生じた場合に、活物質層と集電体との電気的接触を保つ役割を果たすこともできる。しかし、金属層はペースト材料の塗工によって形成されており、活物質層と金属層の密着性は十分ではない。その上、特許文献1の活物質層には、後述する特許文献3および4のように活物質の膨張を考慮した予備的空間が形成されていないことから、膨張応力に起因する活物質層の剥離を十分に抑制することは難しい。
【0008】
また、特許文献2には、剛直な多孔質セラミックス粉の孔内に活物質を含浸させることにより、リチウム吸蔵による体積変化を抑制し、活物質の脱落を抑制する方法が開示されている。この文献では、活物質の膨張をセラミックスによって機械的に抑制しようとしているが、セラミックスの強度は活物質の膨張を抑制するほど大きくないので、膨張による活物質の脱落を十分に抑制できない可能性がある。
【0009】
一方、本出願人による特許文献3および4は、シート状の集電体表面に、複数の活物質体を間隔を空けて配置することにより、負極活物質の膨張応力を緩和する空間を設ける構成を提案している。
【0010】
特許文献3は、シート状集電体表面を予め粗化しておき、シート状集電体に対して斜め方向から負極活物質を蒸着することによって、集電体表面に複数の柱状の活物質体を形成することを開示している(斜め蒸着)。このとき、予めシート状集電体表面に設けた凹凸によるマスク効果(シャドウイング効果ともいう)により、隣接する活物質体の間に所定の空間を形成することができる。また、特許文献4には、集電体に加わる活物質の膨張応力をより効果的に緩和するために、蒸着方向を切り換えながら複数段の斜め蒸着を行うことにより、集電体上にジグザグ状に成長させた活物質体を形成することが提案されている。
【0011】
さらに、特許文献5には、複数の活物質体の上面に金属層を形成することにより、活物質体上部の膨張を抑えて、隣接する活物質体間に隙間を確保することが提案されている。
【0012】
このように、特許文献3〜5に開示された構成によれば、隣接する活物質体間に形成された空間によって活物質の膨張応力を緩和できるので、活物質体が集電体表面から剥離することを抑制でき、その結果、活物質体の剥離に起因する充放電容量の低下を抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許3750117号
【特許文献2】特開2000−90922号公報
【特許文献3】国際公開第2007/015419号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2007−052803号パンフレット
【特許文献5】特開2006−278104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明者が検討したところ、特許文献3〜5の構成では、各活物質体は集電体表面から突出する方向に柱状に延びているので、各活物質体のうち集電体表面に近い部分では、集電体表面に遠い部分よりもリチウムイオンの移動速度が大きくなる。その結果、集電体表面に近い部分では、充放電が優先的に行われて亀裂破壊が生じやすくなるという問題がある。活物質体に亀裂破壊が生じると、活物質体と集電体との電気的接続を確保できなくなり、サイクル劣化を引き起こす場合がある。
【0015】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、集電体上に複数の活物質体が配置されたリチウム二次電池用負極において、各活物質体内のリチウムイオンの移動速度ムラを低減して活物質体の亀裂破壊を抑えるとともに、活物質体に亀裂破壊が生じても集電体との電気的接続を確保することにより、リチウム二次電池の充放電サイクル特性を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のリチウム二次電池用負極は、集電体と、前記集電体上に配置され、前記集電体から突出する方向に延びている複数の活物質複合体とを備え、各活物質複合体は、リチウムを吸蔵および放出する物質からなる活物質体と、前記活物質体に接するように配置され、リチウムを吸蔵または放出しない物質からなる導電体とを有しており、前記導電体は、前記集電体の表面または表面近傍から、前記集電体の表面に対して非平行な方向に延びている。
【0017】
本発明では、各活物質複合体の活物質体は、前記集電体の表面または表面近傍から、集電体の表面に対して非平行な方向に延びる導電体と接している。このことによって、活物質体に亀裂破壊が生じた場合でも、その活物質体に接する導電体によって活物質体と集電体との電気的接続を確保することが可能になる。よって、亀裂破壊に起因する充放電サイクル特性の低下を抑制できる。
【0018】
また、各活物質複合体における導電体は、その活物質複合体の形状を保持する骨格の役割を果たすので、充放電の繰り返しに伴う活物質体の自己破壊を機械的に抑制する効果も得られる。
【0019】
さらに、活物質体内部、および、活物質体と電解液との界面におけるリチウムイオンの移動速度ムラを抑えることが可能になる。従って、充放電を繰り返したときに、活物質体のうちリチウムイオンの移動速度の大きい部分が他の部分よりも大きく膨張・収縮することによる活物質体の亀裂破壊や剥離を抑制でき、その結果、充放電サイクル特性を向上できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のリチウム二次電池用負極によると、活物質体の亀裂破壊や集電体からの剥離を抑えるとともに、活物質体に亀裂破壊が生じた場合でも集電体との電気的接続を確保することが可能になるので、リチウム二次電池の充放電サイクル特性を向上できる。
【0021】
よって、サイクル特性に優れたリチウム二次電池用負極とその製造方法およびそれを用いたリチウム二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明による実施形態1のリチウム二次電池用負極の模式的な断面図である。
【図2】(a)は、実施形態1の負極における単一の活物質複合体を示す模式的な拡大断面図であり、(b)は、従来の負極における単一の活物質体を示す模式的な拡大断面図である。
【図3】本発明による実施形態1のリチウム二次電池用負極の他の構成を示す模式的な断面図である。
【図4】(a)および(b)は、本発明の実施形態における活物質複合体の形成に用いる蒸着装置の構成を例示する模式図であり、(a)は、活物質体の形成工程を説明するための断面図であり、(b)は、導電体の形成工程を説明するための断面図である。
【図5】(a)は、実施形態1の活物質体の断面SEM像の一例を示す図であり、活物質体を形成した後、ニッケルを蒸着する前の状態を示している。(b)は、実施形態1の活物質複合体の断面SEM像の一例を示す図である。
【図6】本発明による実施形態2のリチウム二次電池用負極の模式的な断面図である。
【図7】本発明による負極を用いたコイン型のリチウムイオン二次電池を例示する模式的な断面図である。
【図8】本発明による実施形態2のリチウム二次電池用負極の他の構成を示す模式的な断面図である。
【図9】本発明による実施形態2のリチウム二次電池用負極のさらに他の構成を示す模式的な断面図である。
【図10】本発明による実施形態2のリチウム二次電池用負極のさらに他の構成を示す模式的な断面図である。
【図11】比較例1の負極を示す模式的な断面図である。
【図12】比較例2の負極を示す模式的な断面図である。
【図13】実施例1−1〜1−3および比較例1のサンプルセルに対する充放電サイクル特性の評価結果を示すグラフであり、横軸は充放電サイクル数、縦軸は容量維持率をそれぞれ表わしている。
【図14】実施例2および比較例2のサンプルセルに対する充放電サイクル特性の評価結果を示すグラフであり、横軸は充放電サイクル数、縦軸は容量維持率をそれぞれ表わしている。
【図15】実施例3において、導電体の形成に使用したスパッタ装置の模式的な断面図である。
【図16】実施例3のサンプル負極の断面SEM像を示す図である。
【図17】実施例3および比較例3のサンプルセルに対する充放電サイクル特性の評価結果を示すグラフであり、横軸は充放電サイクル数、縦軸は容量維持率をそれぞれ表わしている。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(実施形態1)
以下、図面を参照しながら、本発明によるリチウム二次電池用負極(以下、単に「負極」という)の第1の実施形態を説明する。
【0024】
まず、図1を参照する。図1は、本実施形態のリチウム二次電池用負極の模式的な断面図である。
【0025】
負極100は、集電体1と、集電体1の上に形成された複数の活物質複合体10を有している。本実施形態では、集電体1の表面には、複数の凸部13が規則的に配列されており、各活物質複合体10は、対応する凸部13の上に配置されている。各活物質複合体10は集電体1から突出する方向に延びており、リチウムを吸蔵および放出する物質からなる活物質体2と、活物質体2に接するように配置された導電体4とを有している。ここでは、活物質体2は、リチウムを吸蔵および放出する物質としてケイ素、錫、ケイ素酸化物や錫酸化物などの酸化物を含んでいる。また、導電体4はリチウムを吸蔵または放出しない物質からなり、導電体4の少なくとも一部は集電体1の表面に対して非平行な方向に延びている。
【0026】
本実施形態では、活物質体2は、集電体1の法線方向Nに対して傾斜した成長方向Sを有している。集電体1に垂直であり、かつ、活物質体2の成長方向を含む断面において、導電体4は、活物質体2の側面のうち上側に位置する部分(以下、「側面の上側部分」という)3Uに形成されている。また、活物質体2の側面のうち下側に位置する部分(以下、「側面の下側部分」という)3Lは導電体で覆われていない。
【0027】
なお、本明細書における集電体1の表面の法線方向Nは、集電体1の表面における凹凸を平均化して得られる仮想的な平面に対して垂直な方向をいうものとする。図示する例のように、集電体1の表面に複数の凸部13が規則的に形成されている場合には、これらの凸部の最上面または頂点を含む平面が集電体1の表面となる。
【0028】
本実施形態の負極100では、各活物質複合体10の活物質体2は、集電体1の表面近傍から集電体1の表面に対して非平行な方向に延びる導電体4と接している。このような構成により、後で詳しく説明するように、活物質体2の内部および活物質体2と電解液との界面に生じるリチウムイオンの移動速度ムラを抑えることができる。その結果、充放電の繰り返しによって、活物質体2のうちリチウムイオンの移動速度の大きい部分(特に集電体1に近い部分)が他の部分よりも大きく膨張・収縮することによる活物質体2の亀裂破壊や剥離を抑制できる。また、活物質体2に亀裂破壊が生じた場合でも、その活物質体2に接する導電体4によって活物質体2と集電体1との電気的接続を確保することが可能になる。さらに、本実施形態の導電体4は、集電体1の表面または表面近傍から概ね活物質体2の成長方向Sに沿って延びており、かつ、リチウムを吸蔵も放出もしない物質から形成されているので充放電によって膨張・収縮しない。そのため、活物質複合体10の形状を保持する骨格としても機能でき、充放電の繰り返しに伴う活物質体2の自己破壊を抑制できる。
【0029】
本実施形態における導電体4は、集電体1の表面または表面近傍から延びている。すなわち、導電体4の集電体側の端部は、集電体1の表面と接しているか、あるいは、集電体1の表面近傍に位置している。ここでいう集電体1の「表面近傍」とは、集電体1の表面に十分に近く、集電体1と略等しい電位を有することのできる領域を指す。この構成により、導電体4の電位を集電体1の電位と略等しくすることが可能になる。従って、活物質体2の内部の電位差、すなわちリチウムイオンの移動速度ムラを低減にすることができる。
【0030】
なお、前述したように、特許文献5では、活物質体上部の膨張を抑制することを目的として、各活物質体の上面に金属層を形成することが開示されている。特許文献5に開示された構成では、金属層は集電体表面から離れた位置に形成されるので、活物質体と集電体との電気的接続を確保するといった効果は得られない。また、金属層は、活物質体上面のみに集電体表面と略平行に形成されており、金属層におけるどの部分も集電体表面から略同じ距離だけ離れている。このような金属層によって活物質体内部の電位差を低減することはできない。従って、特許文献5に開示された活物質体では、金属層が形成されていない従来の活物質体と同様に、集電体の表面に近い部分(電位の高い部分)で優先的に充放電が行われ、その部分に亀裂が生じるおそれがある。さらに、金属層は集電体表面と略平行に延びており、活物質体における集電体の法線方向に沿った強度を向上させることはできない。このため、活物質体の形状を保持する骨格としての機能も有さない。
【0031】
これに対し、本実施形態によると、導電層4は、集電体1の表面または表面近傍から、集電体1の表面に対して非平行な方向に延びている。このことによって、活物質体2のうち集電体1の近傍に位置する部分の電位と、集電体1からより離れている部分の電位との電位差を低減することができる。このため、活物質体2の集電体1の近傍に位置する部分で優先的に充放電が行われることによる活物質体2の亀裂を防止できる。また、導電層4によって活物質体2と集電体1との電気的接続を確保するとともに、活物質体2の機械的強度も高めることができる。
【0032】
本実施形態では、充放電が可能な条件下において、導電体4と活物質体2との接触面積はより大きいことが好ましく、これにより活物質体2に自己破壊が生じた場合にもより確実に電気的接続を確保できる。例えば、図1に示すように、活物質体2が柱状の場合、導電体4が活物質体2の側面上に活物質体2の成長方向Sに沿って延びていれば、導電体4と活物質体2との接触面積を大きくできるので有利である。ここで、「充放電が可能な条件」とは、活物質体2と電解液との間でリチウムイオンのやり取りが可能であり、設計した電流で充放電し得る条件を指す。
【0033】
さらに、導電体4は、活物質複合体10の底面から活物質複合体10の上面3Tまで延びていることが好ましい。これにより、活物質体2に自己破壊が生じた場合にも、活物質体2と集電体1との電気的接続をより確実に確保できるとともに、活物質体2の内部のリチウムイオンの移動速度をより均一にすることができる。本明細書では、活物質複合体10の「上面」とは、活物質複合体10の表面のうち、集電体1の法線方向に沿った集電体1の表面からの距離が最も長い部分を含む面3Tを指すものとする。
【0034】
負極100では、導電体4は活物質体2の側面の上側部分3Uに形成されているが、下側の側面3Lに形成されていてもよい。ただし、活物質体2と電解液とのリチウムイオンの移動を妨げないように、導電体4は多孔性の導電膜から形成され、かつ、活物質体2の表面全体を覆っていないことが好ましい。例えば、後述する実施形態のように、導電体4が活物資体2の内部に形成されていてもよい。
【0035】
本実施形態における集電体1は、表面に規則的に配列された凸部13を有することが好ましい。特に、斜め蒸着を利用して集電体1の表面上に活物質体2を形成する場合には、凸部13の形状、大きさ、配列ピッチなどを適宜調整することにより、活物質体2の配置や活物質体2の間の空隙の大きさを制御できるからである。従って、隣接する活物質体2の間に膨張のための空間をより確実に確保でき、活物質体2と集電体1との界面にかかる膨張応力を緩和できる。このような凸部13の形成方法については後述する。なお、集電体1は、表面に複数の凸部を有していればよく、例えば、集電体1として、様々なサイズ・形状の凸部がランダムに設けられた金属箔を用いることもできる。この場合でも、活物質体2は、凸部上に間隔を空けて形成されるので、隣接する活物質体2の間に空隙を確保できる。
【0036】
負極100では、斜め蒸着を利用して活物質体2を形成しているので、活物質体2は集電体1の法線方向Nに対して傾斜した成長方向Sを有し、各活物質複合体10も活物質体2の成長方向Sに沿って傾斜した形状を有している。なお、この負極100を用いてリチウムイオン電池を構成すると、充電時に、各活物質複合体10の活物質体2がリチウムイオンを吸蔵して膨張する結果、活物質複合体10の集電体1の法線方向Nに対する傾斜角度が小さくなり、略直立する場合もある。この場合でも、放電時に活物質体2がリチウムイオンを放出すると、活物質複合体10は再び傾斜する。
【0037】
本実施形態における活物質体2は、リチウムを吸蔵・放出する材料として、ケイ素、錫、ケイ素酸化物、錫酸化物およびこれらの混合物からなる群から選択される活物質を含んでいる。活物質体2は、ケイ素と酸素と窒素とを含む化合物を含んでいてもよいし、ケイ素と酸素との比率が異なる複数の酸化ケイ素の複合物から形成されていてもよい。また、活物質体2は、上記のような酸化物の他に、例えばケイ素単体、ケイ素合金、ケイ素と窒素とを含む化合物などを含んでいてもよい。さらに、活物質体2にリチウムや、Fe、Al、Ca、Mn、Tiなどの不純物を含んでいてもよい。
【0038】
活物質体2がケイ素酸化物を含む場合には、活物質体2は、全体としてSiOx(x:0<x<2)で表わされる化学組成を有していればよく、局所的に酸素濃度が0%となる部分(例えばSiOx(x=0))を含んでいてもよい。各活物質体2のケイ素量に対する酸素量のモル比xの平均値は0より大きく0.6以下であることが好ましい。上記xの平均値が0.6以下であれば、活物質層14の厚さtを増大させることなく、高い充放電容量を確保できる。
【0039】
活物質体2の高さHは、例えば5μm以上100μm以下であることが好ましく、より好ましくは5μm以上50μm以下である。ここでいう「活物質体2の高さ」とは、集電体1の凸部13の上面または頂点から、集電体1の法線方向Nに沿った活物質体2の高さを指す。活物質体2の高さHが5μm以上であれば、十分なエネルギー密度を確保できる。特に、負極活物質としてケイ素酸化物を用いる場合には、ケイ素酸化物の高容量特性を活かすことができる。また、活物質体2の高さHが100μmを超えると、活物質体2の形成が困難となるだけでなく、活物質体2のアスペクト比が大きくなるために、活物質体2の折れ等の破損が起こりやすくなり、特性劣化の要因となる。
【0040】
本実施形態における導電体4は、リチウムを吸蔵・放出せず、電解液とも反応しない導電性物質から形成されている。導電体4の材料は、例えばCu、Ni,Ti、Zr、Cr、Fe、Mo、Mn、NbおよびVからなる群から選択される少なくとも1種の元素を主成分とする金属であってもよいし、Tiの窒化物および/またはZrの窒化物を主成分とする導電性セラミックスであってもよい。
【0041】
また、導電体4の厚さtは0.05μm以上10μm以下であることが好ましい。ここでいう「導電体4の厚さ」とは、活物質体2と導電体4との接触面から、その接触面の法線方向に沿った導電体4の厚さの平均値を指す。導電体4の厚さtが0.05μm以上であれば、活物質体2内のリチウムイオンの移動速度ムラや亀裂破壊による特性劣化をより確実に抑制することができる。一方、導電体4の厚さtが10μmより大きくなると、活物質複合体10に占める活物質体2の体積の割合が小さくなるので、高容量化を実現できない可能性がある。
【0042】
活物質複合体10の太さ(幅)は、特に限定されないが、充電時の膨張によって活物質複合体10に割れが生じることを防止するためには、50μm以下であることが好ましく、より好ましくは1μm以上20μm以下である。なお、活物質複合体10の太さは、例えば任意の2〜10個の活物質複合体10における、集電体1の表面に平行で、かつ、活物質複合体10の厚さ(集電体の法線方向Nに沿った厚さ)の1/2となる面に沿った断面の幅の平均値で求められる。上記断面が略円形であれば、直径の平均値となる。
【0043】
ここで、図面を参照しながら、本実施形態における導電体4によって、活物質体2の内部、および、活物質体2と電解液との界面のリチウムイオンの移動速度ムラが低減される理由を説明する。図2(a)および(b)は、それぞれ、本実施形態の負極100および従来の負極200を示す模式的な拡大図であり、図2(a)は、本実施形態における単一の活物質複合体を示す断面図である。図2(b)は、導電体を形成しない場合の単一の活物質体を示す断面図である。簡単のため、図1と同様の構成要素には同じ参照符号を付して説明を省略する。
【0044】
図2(a)および(b)に示す負極を用いてリチウム二次電池を構成する場合、これらの負極は正極と対向して配置され、負極および正極の間は電解液で満たされている。従って、図示しないが、活物質複合体10や活物質体2の表面は電解液と接している。
【0045】
負極100および200の活物質体2の内部でリチウムイオンを移動させる駆動力は、電解液と集電体1との間の電位勾配に応じてリチウムイオンに加わるクーロン力と熱振動による拡散である。このうち熱振動による拡散は、負極100、200の動作温度によって決まるので、これらの動作温度が同じであれば、リチウムイオンの移動速度はクーロン力のみによって決まることになる。従って、活物質体2の内部に生じるクーロン力のムラを比較することにより、リチウムイオンの移動速度ムラを推定することが可能である。
【0046】
まず、負極100および負極200の活物質体2に存在するリチウムイオンに加わるクーロン力の最小値は次のようになる。
【0047】
図2(a)に示す本実施形態の負極100では、集電体1および導電体4は略同じ電位を有するので、活物質体2のうちクーロン力が最小となる部分は、集電体1または導電体4から最も遠くに位置する部分22aとなる。この部分22aに存在するリチウムイオンに加わるクーロン力Faminは、集電体1および導電体4の電位をV0、活物質体2の部分22aの電位をVa、集電体1または導電体4と活物質体2の部分22aとの距離をLaとすると、
Famin=q(Va−V0)/La
となる。
【0048】
図2(b)に示す従来の負極200では、活物質体2のうち集電体1から最も遠くに位置する部分22bでクーロン力が最小となる。集電体1の電位をV0、活物質体2の部分22bの電位をVb、集電体1と活物質体2の部分22bの距離をLb、素電荷をqとすると、部分22bに存在するリチウムイオンに加わるクーロン力Fbmin
Fbmin=q(Vb−V0)/Lb
となる。
【0049】
ここで、負極100における活物質体2の部分22aの電位Vaと、負極200における活物質体2の部分22bの電位Vbとは略等しい(Va≒Vb)。これらの部分22a、22bは同じ電解液に接しており、電解液のリチウムイオン伝導度は一般に活物質体2のイオン伝導度よりも5桁以上大きいことを考慮すると、電解液中のリチウムイオン伝導による電圧降下は無視できるほど小さいと考えられるからである。また、負極100では、集電体1の表面から非平行に延びる導電体4が形成されているので、集電体1または導電体4と活物質体2の部分22aとの距離Laは、負極200における集電体1と活物質体2の部分22bの距離Lbよりも小さくなる(La<Lb)。
【0050】
従って、負極100の活物質体2の内部に存在するリチウムイオンに加わる最小クーロン力Faminは、負極200の活物質体2の内部に存在するリチウムイオンに加わる最小クーロン力Fbminよりも大きくなる(Famin>Fbmin)。
【0051】
一方、負極100および負極200では、何れも、活物質体2のうち集電体1または導電体4との界面付近に存在するリチウムイオンに加わるクーロン力が最も大きくなる。従って、これらの負極100、200では、活物質体2のうちクーロン力が最大となる部分と集電体1との距離は等しい(略ゼロ)ので、クーロン力の最大値(最大クーロン力)FamaxおよびFbmaxは略等しい(Famax=Fbmax)。
【0052】
よって、導電体4を有する負極100では、従来の負極200と比べて、最大クーロン力Faminと最小クーロン力Famaxとの差が小さくなり、クーロン力のムラが低減されることがわかる((Famax−Famin)<(Fbmax−Fbmin))。上述したように、負極100、200の動作温度が等しいときには、リチウムイオンの移動速度はクーロン力のみによって決まるため、導電体4を設けることによってリチウムイオンの移動速度ムラを抑制できることがわかる。このため、充放電の際に活物質体2の一部(リチウムイオンの移動速度が大きい部分)が他の部分よりも大きく膨張・収縮することによって、活物質体2に亀裂が生じることを抑制できる。
【0053】
なお、導電体4は、活物質複合体10の底面から上面まで連続して延びていなくてもよい。例えば図3に示すように、導電体4が活物資複合体10の側面の上側部分の一部のみに形成されているような場合でも、活物質体2のうち集電体1または導電体4から最も遠くに位置する部分と集電体1または導電体4との距離Lを従来よりも短くできるので、リチウムイオンの移動速度ムラを低減することが可能である。また、活物質体2の亀裂破壊に生じたときに活物質体2と集電体1との電気的接続を確保する効果も得られる。
【0054】
<負極100の製造方法>
次に、本実施形態の負極100の製造方法の一例を説明する。
【0055】
まず、金属箔の表面に凹凸パターンを形成することにより、表面に複数の凸部13を有するシート状の集電体1を作製する。
【0056】
金属箔として、例えば表面が粗化された銅箔を用いることができる。銅箔は、主成分としての銅の他にジルコニウム、チタンなどのリチウムと反応しない元素や、酸素、セレン、テルル等の混入不可避元素が含まれていてもよい。ここでは、例えば厚さが35μm、表面粗さRaが2.0μmの銅箔(古河サーキットフォイル(株)製)を用いる。なお、「表面粗さRa」とは、日本工業規格(JISB 0601―1994)に定められた「算術平均粗さRa」を指し、例えば表面粗さ計や共焦点式レーザ顕微鏡などを用いて測定できる。
【0057】
集電体1は、金属箔の表面に、切削法を用いて所定のパターンの溝を設けることによって作製してもよいし、メッキ法または転写法により、金属箔の表面に複数の凸部13を形成することによって作製してもよい。凸部13の形状、高さ、配列ピッチなどの好適な範囲については後述する。なお、集電体1として、市販されている表面粗さの大きい金属箔(凹凸箔)を用いることもできる。
【0058】
次いで、集電体1の表面に、斜め蒸着により、ケイ素酸化物(SiOx(0<x<2))を成長させて複数の活物質体2を形成する。この後、得られた各活物質体2の上に導電体4としてニッケルを堆積させる。活物質体2がケイ素である場合は、蒸着の際に酸素を真空容器内に導入しない。また、後述するケイ素蒸発源31の代わりに錫を用いた錫蒸発源を使用することによって、集電体1の表面に、複数の活物質体2として錫酸化物(0<x<2)あるいは錫を成長させることもできる。以下に、活物質体2としてケイ素酸化物を成長させる場合について説明する。
【0059】
図4(a)および(b)は、活物質体2および導電体4を形成する際に用いる蒸着装置の構成を例示する図である。
【0060】
蒸着装置300は、チャンバー30と、チャンバー30を排気するための高真空用ポンプ33および低真空用ポンプ34とを備えている。これらのポンプ33、34はメインバルブ39を介してチャンバー30に接続されている。高真空用ポンプ33の到達真空度は10-4Pa以下であることが好ましく、より好ましくは10-6Pa以下である。低真空用ポンプ34は高真空用ポンプ33の臨界背圧以下の真空度を保持し得るものであればよい。
【0061】
チャンバー30の内部には、集電体1を固定するための固定台40と、固定台40に固定された集電体1の表面にケイ素を供給するためのケイ素蒸発源31と、固定台40に固定された集電体1の表面に導電体4の材料を供給するための金属蒸発源(ここではニッケル蒸発源)32と、固定台40に設置された集電体1を加熱するための集電体加熱用ヒータ35とが設置されている。なお、ケイ素蒸発源31および金属蒸発源(ここではニッケル蒸発源)32は移動式の蒸発源であり、集電体1を固定台40に固定したままの状態で、使用する蒸発源を固定台40の下方に配置し、蒸着を行う。従って、図4(a)に示すように、ケイ素蒸発源31を固定台40の下方に配置すると、ケイ素を集電体1の表面に蒸着させることができる。また、図4(b)に示すように、金属蒸発源(ニッケル蒸発源)32を固定台40の下方に配置すると、金属(ニッケル)を蒸着できる。
【0062】
固定台40は、回転軸(図示せず)を有しており、この回転軸のまわりに回転させることによって、水平面45に対する固定台40の角度(傾斜角度)θおよびφを調整できる。ここで、「水平面」とは、ケイ素蒸発源31および金属蒸発源32の材料が気化されて固定台40に向う方向に対して垂直な面をいう。ケイ素蒸発源31および金属蒸発源32は、例えば電子ビーム銃加熱式の銅ルツボである。電子ビーム銃は、加速電圧5〜10kV、照射電流0.3〜1A程度の出力があれば良く、例えば、日本電子株式会社製JEBG−303UA型電子銃であってもよい。
【0063】
固定台40と、使用する蒸発源(ケイ素蒸発源31または金属蒸発源32)との間には、シャッター38が配置されている。また、使用する蒸発源と、シャッター38との間には、蒸発速度を制御するためのレートモニタ36、37が配置されている。ここでは、ケイ素の蒸発速度を制御する際にはレートモニタ36を用い、金属(ニッケル)の蒸発速度を制御する際にはレートモニタ37を用いる。
【0064】
図示しないが、必要に応じて、チャンバー30に酸素を導入する酸素導入管およびアルゴンを導入するアルゴン導入管が設けられている。集電体1の上にケイ素酸化物を成長させる場合には、酸素導入管を介して、固定台40に固定された集電体1の表面に酸素を供給する。酸素流量はマスフローコントローラなどを用いて制御することができる。また、チャンバー30のガス圧を調整するためにチャンバー30にアルゴンを供給してもよい。例えば蒸発源31、32から蒸発するケイ素量およびニッケル量は、チャンバー30のガス圧によって大きく変化するので、チャンバー30に所定量のアルゴンを導入して、チャンバー30のガス圧を10-4Pa〜1×10-2Paの範囲で一定に保ってもよい。なお、酸素をチャンバー30に供給する場合には、必ずしもアルゴンを導入する必要はなく、酸素の供給量のみによってチャンバー30のガス圧を調整してもよい。
【0065】
蒸着装置300を用いて、活物質体2を形成する方法を具体的に説明する。
【0066】
まず、図4(a)に示すように、ケイ素蒸発源31を固定台40の下方に配置する。また、集電体1を、複数の凸部13が形成された面が上になるように固定台40に設置し、固定台40を回転させて、水平面45に対する固定台40の傾斜角度θが0°より大きく90°未満(例えばθ=70°)となる位置で固定する。なお、固定台40の水平面45からの傾斜方向によって、集電体1の法線方向Nに対するケイ素の入射方向E(すなわち蒸着方向)を調整することができる。傾斜角度θの絶対値は、固定台40に設置された集電体1に対するケイ素の入射方向Eと集電体1の法線方向Nとのなす角度(ケイ素の入射角度)αと等しくなる。従って、固定台40の傾斜角度θを調整することにより、集電体1の表面に成長させる活物質体2の成長方向Sを制御できる。
【0067】
次いで、シャッター38を閉じた状態で、ケイ素蒸発源31からケイ素を蒸発させる。レートモニタ36によって集電体1に入射するケイ素の蒸発速度が所定の値になったことが確認されると、シャッター38を開放し、集電体1の表面に入射角度α(例えば60°)でケイ素を入射させる。本実施形態では、集電体1の表面にケイ素とともに高純度の酸素を供給する。その結果、集電体1の表面に、反応性蒸着により、ケイ素と酸素とを含む化合物(ケイ素酸化物)を成長させることができる。
【0068】
このとき、ケイ素蒸発源31から出射するケイ素原子は、集電体1の法線方向Nから傾斜した方向Eから集電体1の表面に入射するために、集電体1の表面における凸部の上に蒸着しやすく、従って、ケイ素酸化物は凸部の上で柱状に成長する。そのため、集電体1の表面には、凸部や柱状に成長していくケイ素酸化物の影となり、ケイ素原子が入射せずにケイ素酸化物が蒸着しない領域が形成される(シャドウイング効果)。図示する例では、このようなシャドウイング効果により、隣接する凸部の間の溝の上には、ケイ素原子が付着せず、ケイ素酸化物が成長しない領域が存在する。この結果、集電体1の表面に間隔を空けて複数の活物質体を形成することができる(活物質蒸着工程)。
【0069】
続いて、活物質体が形成された集電体1の上に導電体の蒸着を行う。以下に、導電体の材質がニッケルである場合の例を示す。同材質がチタン、銅である場合は、後述する金属蒸発源をニッケル蒸発源からチタン蒸発源、銅蒸発源にそれぞれ変更することで実施できる。
【0070】
具体的には、まず、図4(b)に示すように、集電体1を固定台40に固定したままの状態で、金属蒸発源(ニッケル蒸発源)32を固定台40の下方に配置する。また、固定台40の水平面45に対する傾斜角度φを調整する。ここでは、固定台40bを水平面45に沿って固定し(傾斜角度φ=0°)、集電体1の法線方向Nに対する金属蒸発源32からのニッケルの入射角度βを略0°とする。
【0071】
次いで、シャッター38を閉じた状態で、金属蒸発源32からニッケルを蒸発させる。レートモニタ37によって集電体1に入射するニッケルの蒸発速度が所定の値になったことが確認されると、シャッター38を開放し、集電体1の表面に集電体1の法線方向Nからニッケルを入射させる。この結果、各活物質体の表面のうち金属蒸発源32に対向する部分、すなわち各活物質体2の側面の上側部分および上面にニッケルが堆積し、ニッケルからなる導電体が得られる(導電体蒸着工程)。このようにして、集電体1の表面に、活物質体および導電体を有する活物質複合体を形成することができる。
【0072】
上記方法では、集電体1の法線方向Nに対するケイ素の入射角度αと導電体の材料となる金属(例えばニッケル)の入射角度βとは互いに異なっていることが好ましい。入射角度αと入射角度βとが等しいと、活物質体の上面のみにニッケルが堆積されてしまい、集電体1の表面と非平行に延びる導電体を形成できない場合があるからである。
【0073】
ニッケルの入射角度βの絶対値は、ケイ素の入射角度αの絶対値よりも小さいことが好ましい(|β|<|α|)。ニッケルの入射角度βの絶対値がケイ素の入射角度αの絶対値以上であれば、ニッケルの蒸着工程でケイ素の蒸着工程よりも大きなシャドウイング効果が生じる。その結果、活物質体の表面にニッケルが柱状に成長し、活物質体と導電体との接触面積が小さくなったり、集電体と導電体の距離が大きくなってしまう可能性がある。これに対し、ニッケルの入射角度βの絶対値をケイ素の入射角度αの絶対値よりも小さくなるように制御すれば、活物質体と導電体との接触面積を十分に確保できる。
【0074】
ケイ素の入射角度αの絶対値は20°以上85°以下であることが好ましい(20°≦|α|≦85°)。入射角度αの絶対値が20°未満であれば、シャドウイング効果が小さくなり、集電体1の凸部以外の部分にもケイ素が蒸着され、その結果、活物質体間に十分な間隔を確保できない場合がある。一方、入射角度αの絶対値が85°よりも大きくなると、ケイ素蒸発源31から蒸発したケイ素量Wに対する集電体1の表面に供給されるケイ素量W’(=Wcosα)の割合(W’/W)が極めて小さくなるので、材料のロスが増大する。
【0075】
ここで、図5(a)および(b)を参照しながら、上記方法を用いて形成した負極の一例を説明する。図5(a)は、上記方法で得られた活物質体の断面SEM像の一例を示す図であり、活物質体を形成した後、導電体4を蒸着する前の状態を示している。また、図5(b)は、上記方法で得られた活物質複合体の断面SEM像の一例を示す図である。
【0076】
ここでは、集電体1として、予め表面に微小くぼみを設けた圧延ローラによる圧延によって、表面に複数の凸部13が形成された銅箔を用いた。各凸部13は、上面が菱形(対角線:10μm×20μm)の四角柱状(高さ:6μm)とした。これらの凸部13は、上記菱形の長い方の対角線に沿って20μm、短い方の対角線に沿って18μmの間隔を空けて配置した。活物質体2の形成は、集電体1の法線方向Nに対するケイ素の入射角度αを70°として、上述した方法と同様の方法で行った。
【0077】
得られた活物質体2は、図5(a)に示すように、集電体1の凸部13の上に配置され、集電体1の法線方向から傾斜した成長方向を有していた。隣接する凸部13の間には、上記シャドウイング効果によって活物質体(ここではケイ素酸化物)が成長しない領域9が存在しており、これによって隣接する活物質体2の間に間隙が確保されていた。活物質体2の高さは10μmであった。
【0078】
図示するような活物質体2の上に、金属蒸発源32としてチタン(Ti)蒸発源を用いて、上述した方法と同様の方法で導電体4を形成し、活物質複合体10を得た。導電体4を形成する際、集電体1の法線方向Nに対するチタンの入射角度βを0°とした。
【0079】
得られた活物質複合体10では、図5(b)に示すように、活物質体2の側面の上側部分および上面に、チタンからなる導電体4が略均一な厚さで形成されていた。導電体4の厚さは、3.5μmであった。
【0080】
図5(a)および(b)に示す例のように、集電体1の表面に規則的な凹凸パターンを形成すると、凹凸パターンにおける凸部13の形状やサイズ、配列ピッチなどを適宜選択することにより、活物質体2の配置や間隔を調整することができる。このようにすると、活物質体2の膨張による負極の変形をより効果的に抑えることができるので有利である。
【0081】
集電体1に形成される凸部13は、図5に示す例で用いたような上面が菱形の四角柱に限定されず、適宜選択される。集電体1の法線方向Nから見た凸部13の正投影像は、菱形の他に、正方形、長方形、台形および平行四辺形などの多角形、円形、楕円形などであってもよい。集電体1の法線方向Nに平行な断面の形状は正方形、長方形、多角形、半円形、およびこれらを組み合わせた形状であってもよい。また、集電体1の表面に対して垂直な断面における凸部13の形状は、例えば多角形、半円形、弓形などであってもよい。なお、集電体1に形成された凹凸パターンの断面が曲線で構成された形状を有する場合など、凸部13と凸部以外の部分(溝、凹部などともいう)との境界が明確でないときには、凹凸パターンを有する表面全体の平均高さ以上の部分を「凸部13」とし、平均高さ未満の部分を「溝」または「凹部」とする。
【0082】
凸部13の高さは、シャドウイング効果によって空隙を確保するためには3μm以上であることが好ましい。一方、凸部13の強度を確保するためには20μm以下であることが好ましく、より好ましくは15μm以下である。
【0083】
また、凸部13の上面の幅(最大幅)は、特に限定されないが、50μm以下が好ましく、これにより、活物質体2の膨張応力による負極10の変形をより効果的に抑制できる。より好ましくは20μm以下である。一方、凸部13の上面の幅が小さすぎると、活物質体2と集電体1との接触面積を十分に確保できない可能性があるため、凸部13の上面の幅は1μm以上であることが好ましい。
【0084】
さらに、凸部13が、集電体1の表面に垂直な側面を有する柱状体である場合には、隣接する凸部13の間の距離、すなわち溝の幅は、好ましくは凸部13の幅の30%以上、より好ましくは50%以上である。これにより、活物質体2の間に十分な空隙を確保して膨張応力を大幅に緩和できる。一方、隣接する凸部13の間の距離が大きすぎると、容量を確保するために活物質体2の高さが増大してしまうため、距離は凸部13の幅の250%以下であることが好ましく、より好ましくは200%以下である。なお、凸部13の上面の幅および隣接する凸部13の距離は、それぞれ、集電体1の表面に垂直で、かつ、活物質体2の成長方向を含む断面における幅および距離を指すものとする。
【0085】
各凸部13の上面は平坦であってもよいが、凹凸を有することが好ましく、その表面粗さRaは0.3μm以上5.0μm以下であることが好ましい。凸部13の上面が、表面粗さRaが0.3μm以上の凹凸を有していれば、凸部13の上に活物質体2が成長しやすく、その結果、活物質体2の間に十分な空隙を確実に形成できる。一方、凸部13の表面粗さRaが大きすぎると集電体1が厚くなってしまうため、表面粗さRaは5.0μm以下であることが好ましい。さらに、集電体1の表面粗さRaが上記範囲内(0.3μm以上5.0μm以下)であれば、集電体1と活物質体2との付着力を十分に確保できるので、活物質体2の剥離を防止できる。
【0086】
なお、集電体1の表面に規則的な凹凸を形成しなくてもよい。例えば、集電体1として粗化表面を有する金属箔を用いることもできる。この場合でも、金属箔の表面粗さRaは0.3μm以上5.0μm以下であることが好ましい。また、このような金属箔の表面に、斜め蒸着によって活物質体2を形成するためには、金属箔の表面粗さを0.3μm以上とするとともに、集電体1の法線方向Nに対する活物質体2の材料(例えばケイ素)の入射角度αの絶対値を20°以上(|α|≧20°)に調整することが好ましい。表面粗さRaが0.3μm未満であるか、あるいは、入射角度θの絶対値が20°未満であれば、十分なマスク効果が得られない可能性がある。その結果、十分な間隔を空けて複数の活物質体を配置できず、隣接する活物質体同士が互いに接触した連続膜が形成される場合がある。このような連続膜には、活物質の膨張に伴う体積を吸収し得る空間がほとんど存在しないので、充電時の活物質の膨張応力によって集電体が変形したり、破断してしまう可能性がある。
【0087】
なお、活物質体2および導電体4の形成方法は、電子ビーム蒸着法に限定されず、スパッタリング法、イオンプレーティング法などを適用することもできる。
【0088】
(実施形態2)
以下、図面を参照しながら、本発明によるリチウム二次電池用負極の第2の実施形態を説明する。
【0089】
まず、図6を参照する。図6は、本実施形態のリチウム二次電池用負極の模式的な断面図である。簡単のため、図1に示す負極100と同様の構成要素には同じ参照符号を付し、説明を省略する。
【0090】
負極400は、集電体1と、集電体1の表面に形成された複数の活物質複合体20とを備えている。各活物質複合体20は、複数の活物質部2a〜2eを含む活物質体2と、複数の導電部4a〜4eを含む導電体4とを有している。活物質部2a〜2eは、集電体1の表面にこの順で積み重ねられており、導電部2a〜2eは、活物質部2a〜2eにそれぞれ接するように配置されている。また、導電体4は、集電体10の表面に対して非平行な方向に延びる部分を有している。
【0091】
本実施形態では、複数の活物質部2a〜2eのそれぞれは、集電体1の法線方向Nに対して傾斜した成長方向Sa〜Seを有している。また、図示する断面において、複数の導電部4a〜4eのそれぞれは、対応する活物質部2a〜2eの側面の上側部分に形成されている。活物質部2a〜2eの側面の下側部分は導電部で覆われていない。
【0092】
本実施形態の負極400によると、前述した負極100と同様に、集電体1の表面に非平行に延びる導電体4によって、活物質体2に生じるリチウムイオンの移動速度ムラを抑えることができる。その結果、充放電の繰り返しによって活物質体2の亀裂破壊や活物質体2の集電体1からの剥離が生じることを抑制できる。また、活物質体2に亀裂破壊が生じた場合でも、その活物質体2に接する導電体4によって活物質体2と集電体1との電気的接続を確保することが可能になる。
【0093】
本実施形態における導電部4a〜4eのそれぞれは、隣接する他の導電部と略等電位になるように近接して配置されていることが好ましい。「近接して配置される」とは、隣接する導電体部の間の距離が十分に小さい(例えば活物質複合体20の厚さHの1/5以下)ことをいう。より好ましくは、導電部4a〜4eのうち隣接する導電部が互いに接するように配置されている。これにより、活物質部2a〜2eに生じるリチウムイオンの移動速度ムラをより効果的に低減できる。また、ある活物質部に亀裂が生じた場合でも、その上層に位置する活物質部と集電体1との電気的接続を確保することが可能になる。
【0094】
活物質部2a〜2eのそれぞれの成長方向Sa〜Seは、集電体1の法線方向Nに対して交互に反対方向に傾斜していることが好ましい。これにより、活物質の膨張応力をより効果的に緩和できる。また、活物質部2a〜2eが上記構造を有していると、活物質部2a〜2eの側面の上側部分および上面に導電部4a〜4eを形成することによって、各活物質複合体20の底面から、集電体1に対して遠ざかる方向にジグザグ状に延びる導電体4を形成することができる。ここで「ジグザグ状に延びる」とは、導電体4が、活物質複合体20の内部で、集電体1の表面から縦方向に、集電体1の法線方向Nからの傾斜方向を反転させながら延びることをいう。なお、このような構造は、例えば集電体1の表面に垂直かつ成長方向Sを含む研磨断面に対して化学エッチングを行い、得られた試料を観察することによって確認できる。
【0095】
導電体4が活物質複合体20の内部でジグザグ状に延びていると、活物質複合体20の形状を保持する骨格としてより効果的に機能でき、充放電の繰り返しに伴う活物質体2の自己破壊を抑制できる。また、上下に隣接する活物質部2a〜2eの界面に、それぞれ、導電体4a〜4dを配置することができるので、活物質部2a〜2eを互いに分断できる。その結果、活物質部2a〜2eで生じる膨張応力を効果的に緩和できる。なお、導電体4は、活物質複合体20の内部で連続して延びていることが好ましいが、各導電体部4a〜4eが全て連なっておらず一部不連続となっていてもよい。
【0096】
本実施形態では、導電体4の一部が上下に隣接する活物質部2a〜2eの界面に配置され、活物質複合体20の内部に位置している。このように、導電体4の一部または全体が活物質体複合体10の内部に配置されていると、活物質体2によるリチウムの吸蔵・放出を妨げることなく、活物質体2の強度を確保でき、かつ、活物質体2の内部のリチウムイオンの移動速度ムラを低減できるので有利である。活物質複合体20の内部に導電体4を形成する方法として、例えば下層となる活物質部の蒸着工程を行った後、その活物質部の上に導電材料を堆積させて導電体部を形成し、続いて、その導電体部を下地として上層となる活物質部の蒸着工程を行ってもよい。なお、本明細書において、「導電体4の一部または全体が活物質複合体20の内部に位置する」は、導電体4の一部または全体が隣接する活物質部2a〜2eの界面に位置する場合を含むものとする。
【0097】
本実施形態では、各導電部4a〜4eのうち少なくとも一方の端部は、活物質複合体20の側面に配置されている。また、各導電部4a〜4eのうち上下に隣接する導電部は、活物質複合体20の側面で接し、導電体4の屈曲部を構成している。このような構成によると、活物質体2をより多くの領域に分断できるので、活物質体2の膨張応力を効果的に分散できる。また、導電体4が各活物質複合体20の幅全体に亘って形成されるので、より強固な骨格として機能し、活物質複合体20の割れや微粉化を確実に抑制できる。
【0098】
各活物質部2a〜2eのそれぞれの厚さha〜heは0.2μm以上であることが好ましい。厚さha〜heが0.2μm未満であれば、高い容量を確保するために活物質部の積層数を増やす必要がある。一方、各活物質部2a〜2eの内部に生じるリチウムイオンの移動速度ムラを十分に抑えるためには、各活物質部2a〜2eの厚さha〜heは10μm以下であることが好ましい。なお、これらの活物質部2a〜2eは、後述するように、それぞれ、第1段目〜第5段目の蒸着工程によって形成されるため、上記厚さha〜heは、各蒸着工程における蒸着時間や蒸着速度などによって制御することができる。
【0099】
本実施形態では、各活物質体2を構成する活物質部2a〜2eの数(積層数)nは3層以上が好ましい。2層以下であれば、成長方向Sの異なる活物質部を積層することによる膨張応力の緩和効果が十分に得られない可能性がある。積層数nの好ましい範囲の上限は、活物質複合体20の好ましい厚さHと、上述した活物質部の好ましい厚さha〜heとを満足するように算出でき、例えば50層となる。
【0100】
<負極400の製造方法>
図面を参照しながら、本実施形態の負極400の製造方法の一例を説明する。
【0101】
まず、実施形態1と同様の方法で、表面に凸部を有するシート状の集電体1を作製する。次いで、図4(a)および(b)を参照しながら説明した蒸着装置300を用いて、集電体1の表面に活物質複合体20を形成する。
【0102】
具体的には、蒸着装置300の固定台40に集電体1を設置し、実施形態1で説明した方法と同様の方法で、集電体1の表面にケイ素酸化物を成長させる。また、実施形態1と同様に、固定台40の水平面45に対する傾斜角度θは20°≦|θ|≦85°となるように選択する。本実施形態では、傾斜角度θを70°とする。よって、集電体1の法線方向Nに対するケイ素の入射角度αは70°となる。このようにして、集電体1の法線方向Nに対して傾斜した成長方向Saを有する活物質部2aを形成する(第1段目の活物質蒸着工程)。
【0103】
続いて、活物質部2aが形成された集電体1の上に、実施形態1で説明した方法と同様の方法でニッケルを成長させる。固定台40の水平面45に対する傾斜角度φは、実施形態1と同様に、|φ|<|θ|となるように選択される。本実施形態では、傾斜角度φを0°とする。よって、ニッケルは集電体1の法線方向Nから集電体1の表面に入射する(ニッケルの入射角度β=0°)。このようにして、活物質部2aの側面の上側部分および上面にニッケルからなる導電部4aを形成する(第1段目の導電体蒸着工程)。
【0104】
続いて、固定台40を再び回転軸のまわりに回転させて、水平面45に対して、上記第1段目の活物質蒸着工程における固定台40の傾斜方向と反対の方向に例えば70°傾斜させる(θ=−70°)。この状態で、高純度の酸素を集電体1の表面に供給しながら、ケイ素蒸発源31に電子ビームを照射して、集電体1の表面にケイ素を入射させる。ケイ素の入射角度αは上記傾斜角度θと等しく、70°となる(α=−70°)。
【0105】
このとき、上述したシャドウイング効果により、ケイ素原子は、集電体1に形成された導電体4aの上に選択的に入射するので、導電体4aの上にケイ素酸化物が成長し、活物質部2bが得られる(第2段目の活物質蒸着工程)。活物質部2bの成長方向Sbは、集電体1の法線方向Nに対して活物質部2aの成長方向Saと反対側に傾斜する。
【0106】
次いで、第1段目の導電体蒸着工程と同様の方法で活物質部2bの上にニッケルを成長させる。本実施形態では、傾斜角度φを0°とする。よって、ニッケルは集電体1の法線方向Nから集電体1の表面に入射する(ニッケルの入射角度β=0°)。このようにして、活物質部2bの側面の上側部分および上面にニッケルからなる導電部4bを形成する(第2段目の導電体蒸着工程)。
【0107】
この後、固定台40の傾斜角度θを第1段目の活物質蒸着工程と同じ角度(θ=70°)に戻し、第1段目の活物質蒸着工程と同様の条件でケイ素酸化物を成長させる(第3段目の活物質蒸着工程)。これにより、導電部4bの上に活物質部2cが形成される。続いて、第1段目の導電体蒸着工程と同様の方法でニッケルの蒸着を行う(第3段目の導電体蒸着工程)。
【0108】
このようにして、活物質蒸着工程と導電体蒸着工程とを交互に例えば5段ずつ繰り返すことにより、図6に示すように、5つの活物質部2a〜2eと、各活物質部2a〜2eの上にそれぞれ形成された導電部4a〜4eとを有する活物質複合体20が得られる。なお、第1段目〜第5段目の活物質蒸着工程における傾斜角度θを例えば70°と−70°との間で交互に切り替えることにより、集電体1の表面からジグザグ状に延びる活物質複合体20を形成することができる。各活物質蒸着工程における蒸着時間は、特に限定しないが、互いに略等しくなるように設定されることが好ましい。
【0109】
各活物質蒸着工程におけるケイ素の入射角度αは20°≦|α|≦85°となるように選択されることが好ましい。また、第1〜第5の活物質蒸着工程における入射角度αの絶対値は互いに等しいことが好ましい。一方、各導電体蒸着工程におけるニッケルの入射角度βは、|β|<|α|となるように選択されることが好ましい。これにより、ニッケルを下地となる活物質部の側面の上側部分に確実に堆積させることができるので、活物質部の側面に沿って集電体1の表面と非平行な方向に延びる導電部を形成できる。
【0110】
なお、上記方法では、導電体の材料としてニッケル(Ni)を用いたが、代わりに、リチウムと合金化しない他の金属を用いてもよい。例えばTi、Cu、Zr、Cr、Fe、Mo、Mn、NbおよびVの何れかを主成分とする金属を用いることができる。あるいは、金属に代わってTiの窒化物またはZrの窒化物を主成分とする導電性セラミックスを用いてもよい。Tiの窒化物またはZrの窒化物を含む導電体の形成は、スパッタリング法、イオンプレーティング法などを用いて行うことができる。例えばTiまたはZrの金属をターゲットとし、窒素を5〜10%含有するアルゴン雰囲気中でスパッタリングを行うことにより、活物質体(または活物質部)が形成された集電体にTiまたはZrの窒化物を堆積させることができる(反応性スパッタ)。または、TiまたはZrを蒸発源(金属材料)として、窒素ガス中でイオンプレーティング法を行ってもよい。この場合、導電体はTi窒化物またはZr窒化物を含み、導電性を有していればよく、Ti窒化物(TiN)、Zr窒化物(ZrN)の他にTiやZrを含んでいてもよい。
【0111】
また、本実施形態では、活物質蒸着工程と導電体蒸着工程とが交互に行われればよく、これらの工程を実施する順序を変更してもよい。なお、上記方法では、蒸着方向を切り換えながら複数回の活物質蒸着工程を行い、各活物質蒸着工程の後に導電材料を蒸着しているが、全ての活物質蒸着工程後に必ず導電材料を蒸着する必要はない。例えば複数回の活物質蒸着工程のうち少なくとも1回の活物質蒸着工程後に導電材料を蒸着する場合でも、上述したような活物質体と集電体との電気的接続を確保する効果およびリチウムイオンの移動速度ムラを低減する効果を得ることできる。ただし、活物質蒸着工程を行う度に導電材料を蒸着することが好ましい。集電体1の表面から活物質体の上面に連続して延びる導電体を形成することが可能となるので、上記効果をより確実に発揮することができ、その結果、より良好なサイクル特性を実現できるからである。
【0112】
<リチウム二次電池の構成>
次に、図面を参照しながら、本実施形態の負極400を適用して得られるリチウムイオン二次電池の構成の一例を説明する。
【0113】
図7は、負極400を用いたコイン型のリチウムイオン二次電池を例示する模式的な断面図である。リチウムイオン二次電池50は、正極52と、負極54と、負極54および正極52の間に設けられたセパレータ53とを有する電極群とを有しており、電極群にはリチウムイオン伝導性を有する電解質(図示せず)が含浸されている。正極52は、正極端子を兼ねた正極ケース51と電気的に接続されており、負極54は、負極端子を兼ねた封口板56と電気的に接続されている。また、正極ケース51の開口端部は、封口板56の周縁部に設けられたガスケット55にかしめられ、これによって電池全体が密閉されている。負極54の構成は、例えば図7を参照しながら前述したような構成と同様である。
【0114】
なお、図7ではコイン型電池の一例を示したが、本発明のリチウム二次電池の形状は、コイン型に限定されず、ボタン型、シート型、シリンダー型、扁平型、角型などであってもよい。また、本発明のリチウム二次電池は、図1および図6を参照しながら上述したような負極100、400を備えていればよく、負極以外の構成要素は特に限定されない。正極の集電体の材料としては、Al、Al合金、Tiなどを用いることができる。また、正極の活物質層(正極活物質層)には、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn24)などのリチウム含有遷移金属酸化物を用いることができる。正極活物質層は、正極活物質のみから構成されていてもよいし、正極活物質と結着剤と導電剤を含む合剤を含んでいてもよい。さらに、正極活物質層を複数の柱状の活物質体から構成することもできる。リチウムイオン伝導性の電解質には、様々なリチウムイオン伝導性の固体電解質や非水電解液が用いられる。非水電解液には、非水溶媒にリチウム塩を溶解したものが好ましく用いられる。非水電解液の組成は特に限定されない。さらに、セパレータ53の材料も特に限定されず、様々な形態のリチウム二次電池に用いられている材料を適用できる。
【0115】
本実施形態における活物質複合体の形状や構成は、図6に示す活物質複合体20の形状や構成に限定されない。ケイ素などの活物質の入射角度α、ニッケルなどの導電材料の入射角度β、成膜時間、積層数nなどを適宜調整することによって、種々の形状および構成を有する活物質複合体を形成することが可能である。このような場合でも、活物質複合体において、導電体が活物質体に接し、かつ、集電体表面と非平行に延びていれば、本発明の効果を得ることができる。以下、図面を参照しながら具体例を説明する。
【0116】
図8〜図10は、それぞれ、本実施形態の負極の他の例を示す模式的な断面図である。簡単のため、図1と同様の構成要素には同じ参照符号を付して説明を省略する。
【0117】
図8に示す負極500では、集電体1の凸部13の上に、それぞれ、一方向に傾斜した活物質複合体20が形成されている。各活物質複合体20は、複数の活物質部2a〜2cと、活物質部2a〜2cの側面の上側部分および上面にそれぞれ形成された導電部4a〜4cとを有している。負極500では、複数の活物質部2a〜2cの成長方向が、何れも、集電体1の法線方向Nに対して同じ方向に傾斜している。また、隣接する導電部4a〜4cは互いに接しており、活物質質複合体20の底面から上面に向かって延びる導電体4を構成している。さらに、導電部4a〜4bの一部は、上下に隣接する活物質部2a〜2cの界面に配置されている。
【0118】
負極500は、図4(a)および(b)を参照しながら説明した蒸着装置300を用いて、上述した負極400の作製方法と同様の方法で作製できる。ただし、活物質部2a〜2cを形成する際のケイ素の入射方向を、何れも、集電体1の法線方向Nに対して同じ方向に設定する必要がある。例えば、活物質部2a〜2cを形成する際のケイ素の入射角度αを何れも70°に設定してもよい。
【0119】
図9に示す負極600では、集電体1の凸部13の上に、活物質部と導電部とが交互に積層された構造を有する活物質複合体20が形成されている。図示する例では、3層の活物質部2a〜2cが形成されており、これらの成長方向は集電体1の法線方向Nに対して互いに同じ方向に傾斜している。活物質部2aおよび2bの間に配置された導電部4aと、活物質部2bおよび2c間に配置された導電部4bとは、何れも、集電体1の法線方向Nに対して活物質部2a〜2cと反対側に傾斜している。
【0120】
負極600は、図4(a)および(b)を参照しながら説明した蒸着装置300を用いて、活物質蒸着工程と導電体蒸着工程とを交互に繰り返すことによって形成できる。ただし、活物質部2a〜2cを形成する際のケイ素の入射角度αを20°以上85°以下とすると、導電部4aおよび4bを形成する際の導電材料の入射角度βを−85°以上−20°以下の範囲で選択する。図示する例では、ケイ素の入射角度αと導電材料の入射角度βとは−α<β<0<αの関係を満足するように選択されている。
【0121】
図10に示す負極700は、活物質複合体20の積層数nが大きい(例えば30層以上)点で、図6に示す負極400と異なっている。図示するように、積層数が大きくなると、活物質複合体20の断面形状は、各活物質部の成長方向に沿って傾斜したジグザグ形状にならずに、例えば集電体1の法線方向Nに沿って直立した柱状になる場合がある。このような場合でも、各活物質部上にそれぞれ導電部を形成することにより、活物質複合体20の底面から上面に向かってジグザグ状に延びる導電体4を形成することができる。
【0122】
図8〜図10に示す負極500〜700では、何れも、図6に示す負極400と同様に、複数の導電体部はそれぞれ活物質部と接しており、かつ、集電体1とほぼ等しい電位を有している。従って、各活物質部の内部および活物質部と電解液との界面でのリチウムイオンの移動速度を略均一にできるので有利である。また、活物質部と集電体1との電気的接触をより効果的に確保できる。従って、負極400を用いてリチウム二次電池を構成すると、充放電サイクル特性を従来よりも大幅に向上できる。
【0123】
(実施例および比較例)
本発明による負極の実施例および比較例を説明する。実施例1−1〜1−3では、実施形態1の負極100と同様の構成を有するサンプル負極を作製し、実施例2では、実施形態2の負極400と同様の構成を有するサンプル負極を作製した。実施例2のサンプル負極における活物質部の積層数nは5層とした。さらに、実施例3では、導電性セラミックス(Ti窒化物)からなる導電体を有するサンプル負極を作製した。また、比較例1〜3として、導電体を有さないサンプル負極を作製した。続いて、得られた実施例および比較例のサンプル負極を用いて評価用のサンプルセルを作製し、その特性を評価した。
【0124】
以下に、実施例および比較例のサンプル負極の作製方法、評価用のサンプルセルの作製方法、およびサンプルセルの評価方法および評価結果を説明する。
【0125】
<サンプル負極の作製方法>
(i)実施例1−1
実施例1−1では、集電体として芯材厚さが35μmの圧延銅箔の表面に、予め表面に微小くぼみを設けた圧延ローラによる圧延によって、表面に複数の凸部13が形成された銅箔を用いた。各凸部13は、上面が菱形(対角線:10μm×20μm)の四角柱状(高さ:6μm)とした。これらの凸部13は、上記菱形の長い方の対角線に沿って20μm、短い方の対角線に沿って18μmの間隔を空けて配置した。この圧延銅箔の上に、図4(a)および(b)に示す蒸着装置300を用いて、以下に説明する方法で、活物質体および導電体の形成を行った。
【0126】
再び図4(a)を参照する。まず、蒸着装置300のケイ素蒸発源31には、純度が99.9999%のケイ素を50g、金属蒸発源32には、純度が99.9%のニッケル150gをそれぞれ収容した。また、固定台40に集電体1を設置し、集電体1の法線方向Nに対して70°傾斜した角度からケイ素が集電体1の表面に入射するように(α=70°)、固定台の傾斜角度θを調整した(θ=70°)。この後、チャンバー30の蓋を閉めた。
【0127】
チャンバー30の内部を7×10-5Paまで減圧した後、マスフローコントローラを通じて酸素を導入し、チャンバー30内の圧力が4.5×10-3Paとなるように調整した。また、集電体加熱用ヒータ35を用いて集電体1が200℃となるように加熱した。
【0128】
次に、ケイ素蒸発源31に対して、10kVの加速電圧で電子を照射してケイ素を加熱・熔融させ、かつ、チャンバー30の酸素圧が4.5×10-3Paとなるようにマスフローコントローラを調整した状態で、実成膜速度が0.45nm/秒となるようにレートモニタ36を設定し、90分間放置した。この後、シャッター38を110分間開き、反応性蒸着により、集電体1の上にケイ素酸化物を成長させた。このときの電子銃出力電流は450mA、酸素流量は7sccmであった。この後、集電体加熱用ヒータ35を切って集電体1の温度が100℃以下になるまで徐冷した。続いて、チャンバー30に窒素を導入することによりチャンバー30の内部を大気圧にして、チャンバー30の蓋を開けた。
【0129】
続いて、図4(b)に示すように、金属蒸発源32を固定台40の下方に移動し、金属蒸発源32から蒸発したニッケル原子が集電体1の法線方向Nから集電体1に入射するように(ニッケルの入射角度β=0°)固定台40の傾斜角度φを調整した。この後、チャンバー30の蓋を閉めた。
【0130】
次いで、チャンバー30の内部を7×10-5Paまで減圧した後、マスフローコントローラを通じてアルゴンを導入し、真空容器内の圧力が1×10-3Paとなるように調整した。また、集電体加熱用ヒータ35を用いて集電体1を200℃まで加熱した。
【0131】
続いて、金属蒸発源32に対して、10kVの加速電圧で電子を照射してニッケルを加熱・熔融させて、実成膜速度が0.5nm/秒となるようにレートモニタ37を設定し、90分間放置した。この後、20分間シャッターを開いて、ケイ素酸化物の上にニッケルを堆積させた。このときの電子銃出力電流は300mAであった。この後、集電体加熱用ヒータ35の通電を切って集電体1の温度が100℃以下になるまで徐冷した。続いて、チャンバー30に窒素を導入することによりチャンバー30の内部を大気圧にして、蓋を開けた。
【0132】
このようにして、集電体1の上に、ケイ素酸化物からなる活物質体とニッケルからなる導電体とを有する活物質複合体を形成し、実施例1−1のサンプル負極を得た。
【0133】
(ii)実施例1−2
金属蒸発源32としてチタン(Ti)蒸発源を用いる点以外は、実施例1−1と同様の方法で、集電体1の上にケイ素酸化物からなる活物質体とチタンからなる導電体とを有する活物質複合体を形成し、実施例1−2のサンプル負極を得た。
【0134】
(iii)実施例1−3
金属蒸発源32として銅(Cu)蒸発源を用いる点以外は、ほぼ実施例1−1と同様の方法で、ケイ素酸化物からなる活物質体と銅からなる導電体とを有する活物質複合体を形成し、実施例1−3のサンプル負極を得た。蒸発物の銅が銅ルツボに融着するのを防ぐために、蒸発物の銅は炭素製小容器に入れた状態で銅ルツボに設置した。
【0135】
(iv)実施例2
実施例1−1で用いた集電体1と同様の集電体の表面に、図4(a)および(b)に示す蒸着装置300を用いて、活物質部と導電部とを交互に形成した。
【0136】
具体的には、まず、実施例1−1と同様の方法で集電体1にケイ素酸化物およびニッケルをこの順で蒸着した(第1段目の活物質蒸着工程および第1段目の導電体蒸着工程)。次いで、集電体1を固定台40に設置して、ケイ素原子の入射角度αが−70°となるように固定台40の傾斜角度θを調整した。この後、チャンバー30の蓋を閉じて、ニッケルの上にケイ素酸化物をさらに成長させた(第2段目の活物質蒸着工程)。第2段目の活物質蒸着工程は、ケイ素原子の入射角度α以外は、第1段目の活物質蒸着工程と同様の条件で行った。このようにして、活物質蒸着工程と導電体蒸着工程とを交互に5回ずつ行った(第1〜第5段目の活物質蒸着工程および第1〜第5段目の導電体蒸着工程)。第3段目および第5段目の活物質蒸着工程は第1段目の活物質蒸着工程と同様の条件(ケイ素の入射角度α=70°)、第4段目の活物質蒸着工程は第2段目の活物質蒸着工程と同様の条件(ケイ素の入射角度α=―70°)で行った。また、第2段目以降の導電体蒸着工程は、何れも、第1段目の導電体蒸着工程と同様の条件(ニッケルの入射角度β=0°)で行った。
【0137】
このようにして、集電体1の上に、ケイ素酸化物からなる活物質部とニッケルからなる導電部とが交互に5段ずつ積層された活物質複合体を形成し、実施例2のサンプル負極を得た。
【0138】
(v)比較例1
実施例1−1と同様の集電体1を用い、実施例1−1と同様の方法で集電体1の上に活物質体を形成し、その後の導電体蒸着工程を行わなかった。これにより、図11に示すように、集電体1の上に複数の活物質体2’が間隔を空けて形成された負極を得た。この負極を比較例1のサンプル負極とした。
【0139】
(vi)比較例2
実施例1−1と同様の集電体1を用い、実施例2と同様の方法で第1段目から第5段目の活物質蒸着工程を行った。ただし、導電体蒸着工程は行わなかった。これにより、図12に示すように、集電体1の上に、活物質部2a’〜2e’が積層された構造の活物質体2’が間隔を空けて形成された。図示する負極を比較例2のサンプル負極とした。
【0140】
(vii)実施例3
実施例1−1で用いた集電体の表面に電解法によって銅を析出させたものを集電体1とし、その表面に、図4(a)に示す蒸着装置300を用いて、ケイ素からなる活物質体を形成した。活物質体の形成は、酸素導入流量を0sccmとしたこと以外は、実施例1−1と同様の方法および条件で行った。
【0141】
次いで、スパッタ装置を用いて、活物質体上に、Ti窒化物からなる導電体を形成した。形成方法を以下に詳しく説明する。
【0142】
図15は、本実施例で導電体の形成に使用したスパッタ装置の模式的な断面図である。
【0143】
スパッタ装置800は、チャンバー60と、バルブ69と、低真空用ポンプおよび高真空ポンプ68、67と、マスフローコントローラ65、66と、高周波電源70とを備える。チャンバー60の内部には、試料ホルダ63、バッキングプレート62、およびバッキングプレート62に装着されたターゲット61が配置されている。特に図示しないが、バッキングプレート62のターゲット61が装着されていない面は十分な流量の冷却水によって冷却されている。本実施例では、ターゲット61として、直径250mmの金属Tiを用いた。また、ターゲット61の表面と試料ホルダ63との距離を7cmとした。
【0144】
まず、上記方法によって活物質体が形成された集電体(以下、「試料」と称する。)64を、活物質体表面(ケイ素面)がターゲット61に対向するように、チャンバー60内の試料ホルダ63に装着した。
【0145】
次いで、成膜の準備として、低真空用ポンプ68および高真空ポンプ67を用いてチャンバー60内を10-5Paまで減圧した。この後、チャンバー60内に、24sccmの流量でArを導入し、かつ、2.6sccmの流量でN2を導入することにより、チャンバー60内の圧力を0.7Paに調整した。ArおよびN2の流量は、それぞれ、Arマスフローコントローラ65およびN2マスフローコントローラ66を用いて制御した。
【0146】
続いて、高周波電源70を用いて1kW、13.56MHzの電力をターゲット61に印加した。プラズマが励起されたことを目視にて確認した後、30分間放置して安定化させた。続いて、シャッター71を4時間開放することにより、試料64の表面に厚さ1.5μmのTi窒化物を主成分とする導電体を形成した。
【0147】
導電体の形成を終了した後、1時間冷却した。冷却後、チャンバー60から試料64を取り出した。このようにして、実施例3のサンプル負極を得た。
【0148】
図16は、実施例3のサンプル負極の断面SEM像である。図16から、集電体1の上に、活物質体2および導電体4からなる活物質複合体10が得られたことが確認できる。また、導電体4が、集電体1の表面から、活物質体2の側面に沿って延びていることがわかる。
【0149】
(viii)比較例3
Ti窒化物からなる導電体を形成しなかった点以外は、実施例3と同様の方法で比較例3のサンプル負極を作製した。
【0150】
<評価用のサンプルセルの作製方法>
上記方法で作製した実施例および比較例のサンプル負極を、それぞれ、直径が略6.7mmの円形に切り出して、セル用負極とした。各セル用負極を用いて、図7を参照しながら前述した構成を有する評価用のサンプルセルを作製した。各サンプルセルでは、正極として、直径が11mmの金属リチウム板を用いた。また、電解液として、1モルのLiP
6を、30体積%のエチレンカーボネートと50体積%のメチルエチルカーボネートと
20体積%のジエチルカーボネートとの混合溶媒に溶解させて1リットルに調整した非水電解液を用いた。
【0151】
<サンプルセルの評価方法および結果>
(I)実施例1−1〜1−3および比較例1のサンプルセルの評価
上記方法で得られた実施例1−1〜1−3および比較例1のサンプルセルに対して、下記の条件で充放電サイクル試験を行い、サイクル数と容量維持率の関係を測定した。ここで、「容量維持率」とは、充放電サイクル試験において観測される最大放電容量を基準容量として、基準容量に対する各サイクルにおける実測放電容量の割合をいう。
【0152】
充放電サイクル試験では、表1に示すモード1およびモード2の充放電をこの順で実施して1サイクルとし、これを繰り返した。また、各サイクルにおいて、モード1およびモード2の充放電で終止電圧に達するまでの電気量をそれぞれ計測し、これらの電気量を合算した値をそのサイクルにおける実測放電容量とした。なお、モード1の充放電電流値(1.6mA)は、別サンプルを用いて充放電電流10μAでの容量計測を行い、その第1回目放電容量1.6mAhに対する1C相当電流に基づいて決定した。
【0153】
【表1】

【0154】
測定結果を図13に示す。図13は、実施例1−1〜1−3および比較例1のサンプルセルのそれぞれについて、サイクル数と容量維持率との関係を示すグラフである。この結果から、比較例1のサンプルセルでは、5サイクル目で容量維持率が10%まで低下するが、実施例1−1〜1−3のサンプルセルでは、10サイクルを繰り返した後でも約40%の容量を維持していることがわかった。従って、負極の活物質体の上に導電体を形成することにより、サイクル特性を大幅に改善できることを確認した。また、導電体の材料として、ニッケル、チタンおよび銅の何れを用いた場合でも、同様の効果が得られることがわかった。
【0155】
(II)実施例2および比較例2のサンプルセルの評価
上記方法で得られた実施例2および比較例2のサンプルセルに対して、下記の条件で充放電サイクル試験を行い、サイクル数と容量維持率の関係を測定した。
【0156】
充放電サイクル試験では、表2に示すモード1およびモード2の充放電をこの順で実施して1サイクルとし、これを繰り返した。また、各サイクルにおいて、上記(I)と同様の方法で実測放電容量を求めて容量維持率を算出した。なお、モード1の充放電電流値(3.2mA)は、別サンプルを用いて充放電電流10μAでの容量計測を行い、その第1回目放電容量6.4mAhに対する0.5C相当電流に基づいて決定した。
【0157】
【表2】

【0158】
測定結果を図14に示す。図14は、実施例2および比較例2のサンプルセルのそれぞれについて、サイクル数と容量維持率との関係を示すグラフである。この結果から、比較例2のサンプルセルでは、3サイクル目で容量維持率が40%以下まで低下するが、実施例2のサンプルセルでは、10サイクルを繰り返した後でも60%以上の容量を維持していることがわかった。これは、比較例2のサンプル負極では、活物質体の亀裂や集電体からの遊離によって容量の低下が引き起こされたが、実施例2のサンプル負極では、導電体によって活物質体の亀裂や遊離に起因する容量の低下が抑制されたからと考えられる。
【0159】
これらの測定結果により、集電体の表面に複数の活物質体を有する負極において、各活物質体に接するように導電体を形成することにより、リチウム二次電池の充放電サイクル特性を大幅に改善できることが確認された。
【0160】
(III)実施例3および比較例3のサンプルセルの評価
上記方法で得られた実施例3及び比較例3のサンプルセルに対して、下記の条件で充放電サイクル試験を行い、サイクル数と容量維持率の関係を測定した。
【0161】
充放電サイクル試験では、表3に示すモード1及びモード2の充放電をこの順で実施して1サイクルとし、これを繰り返した。また、各サイクルにおいて、上記(I)、(II)と同様の方法で実測放電容量を求め、容量維持率を算出した。なお、モード1の充放電電流値(1mA)は別サンプルを用いて充放電電流10μAでの容量計測を行い、その1回目放電容量1mAhに基づいて決定した。
【0162】
【表3】

【0163】
測定結果を表4および図17に示す。図17は、実施例3及び比較例3のサンプルセルのそれぞれについて、サイクル数と容量維持率との関係を示すグラフである。
【0164】
【表4】

【0165】
表4および図17に示す結果から、比較例3のサンプルセルでは、8サイクル目で容量維持率が68%まで低下するのに対し、実施例3のサンプルセルでは、84%の容量を維持していることがわかった。これは、比較例3のサンプル負極では、活物質体の亀裂や集電体からの遊離によって容量の低下が引き起こされたが、実施例3のサンプル負極では、導電体によって活物質体の亀裂や遊離に起因する容量の低下が抑制されたからと考えられる。
【0166】
なお、実施例3および比較例3のサンプルセルの充放電特性は、前述した実施例1−1〜1−3及び比較例1のサンプルセルの充放電特性よりも良好である。これは、実施例1−1〜1−3及び比較例1に用いた銅箔が圧延銅箔であったのに対し、実施例3及び比較例3に用いたものは、その表面に電解法によって銅を析出させたものであったことが原因であると考えられる。
【0167】
実施例1、2で使用した銅箔は、図5(a)に示すように、突起側面が銅箔面に対して約60°の小さな角をなしている。それに対して、実施例3および比較例3に使用した銅箔は、図16に示すように、銅箔面に対してほぼ90°かあるいはそれ以上の大きな角を成している。このような形状差は、圧延銅箔に対して電解法によって銅を析出させたために生じていると思われる。このような凹凸に富んだ突起表面に対して活物質体を形成させた場合(即ち、実施例3及び比較例3)においては、活物質体に対して所謂アンカー効果が作用して、活物質体と銅箔との接着力が増大する。これによって、活物質体の銅箔からの脱離が抑制され、比較例3においても容量維持率がある程度向上していると推察できる。
【0168】
これらの実施例および比較例の測定結果により、集電体の表面に複数の活物質体を有する負極において、各活物質体に接するように導電体を形成することにより、リチウム二次電池の充放電サイクル特性を大幅に改善できることが確認された。また、活物質体の酸素比率、導電体に含まれる導電材料の種類、および導電体の形成方法にかかわらず、上記の効果が得られることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0169】
本発明の負極は、様々な形態のリチウム二次電池に適用することができるが、特に、高い充放電サイクル特性が要求されるリチウム二次電池に適用すると有利である。また、リチウムイオン移動型の電気化学キャパシタの極板としても有用である。
【0170】
本発明を適用可能なリチウム二次電池の形状は、特に限定されず、例えばコイン型、ボタン型、シート型、円筒型、偏平型、角型などの何れの形状であってもよい。また、正極、負極およびセパレータからなる極板群の形態は、捲回型でも積層型でもよい。さらに、電池の大きさは、小型携帯機器などに用いる小型であっても、電気自動車等に用いる大型であってもよい。本発明によるリチウム二次電池は、例えば携帯情報端末、携帯電子機器、家庭用小型電力貯蔵装置、自動二輪車、電気自動車、ハイブリッド電気自動車等の電源に用いることができるが、用途は特に限定されない。
【符号の説明】
【0171】
1 集電体
2 活物質体
2a〜2e 活物質部
4 導電体
4a〜4e 導電部
10、20 活物質複合体
22a 活物質体のうち集電体または導電体より最遠点の近傍に位置する部分
22b 活物質体のうち集電体より最遠点の近傍に位置する部分
100、200、400、500、600、700 負極
300 蒸着装置
30 チャンバー
31 ケイ素蒸発源
32 金属蒸発源
33 高真空用ポンプ
34 低真空用ポンプ
35 集電体加熱用ヒータ
36 珪素蒸発速度計測用レートモニタ
37 金属蒸発速度計測用レートモニタ
38 シャッター
39 メインバルブ
40 固定台
45 水平面
50 コイン型電池
51 正極ケース
52 正極
53 セパレータ
54 負極
55 ガスケット
56 封口板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の活物質複合体を集電体上に形成する工程を含むリチウム二次電池用負極の製造方法であって、
(A)表面に複数の凸部を有する集電体の表面に、前記集電体の法線方向から傾斜した第1方向からケイ素を供給することにより、前記集電体の法線方向に対して傾斜した成長方向を有し、互いに間隔を空けて前記凸部に対応して配置された複数の活物質部を前記集電体の表面に形成する工程と、
(B)前記複数の活物質部が形成された集電体の表面に、前記集電体の法線方向となす角βが、前記集電体の法線方向と前記第1方向のなす角αよりも小さい第2方向から導電材料を含むガスを供給して、前記複数の活物質部のそれぞれの上に、前記集電体の表面または表面近傍から前記集電体の表面に対して非平行な方向に延び、前記集電体に垂直であり、かつ、前記活物質体の成長方向を含む断面において、対応する活物質部の側面のうち上側に位置する部分に導電部を形成し、これにより、それぞれが活物質部および導電部を有する複数の活物質複合体を得る工程と
を包含するリチウム二次電池用負極の製造方法。
【請求項2】
前記第1方向と前記集電体の法線方向とのなす角度αは20°以上85°以下である請求項1に記載のリチウム二次電池用負極の製造方法。
【請求項3】
前記導電材料は、Cu、Ni,Ti、Zr、Cr、Fe、Mo、Mn、NbおよびVからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む金属である請求項1に記載のリチウム二次電池用負極の製造方法。
【請求項4】
前記導電材料は、Tiおよび/またはZrを含む金属である請求項1に記載のリチウム二次電池用負極の製造方法。
【請求項5】
前記導電部は、Tiの窒化物および/またはZrの窒化物を含む導電性セラミックスを含む請求項1に記載のリチウム二次電池用負極の製造方法。
【請求項6】
前記導電部は、リチウムを吸蔵または放出しない物質からなる請求項1に記載のリチウム二次電池用負極の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法を用いて作製したリチウム二次電池用負極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−177209(P2010−177209A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87076(P2010−87076)
【出願日】平成22年4月5日(2010.4.5)
【分割の表示】特願2009−523503(P2009−523503)の分割
【原出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】