説明

リチウム二次電池用負極活物質およびその製造方法

【課題】活物質利用率の向上とサイクル特性の向上とを両立させることが可能なリチウム二次電池用負極活物質を提供する。
【解決手段】第1の金属マトリクス12b中にSi結晶子12aが分散されたSi合金12を有し、Si合金12は、Li活性を有する第2の金属マトリクス14中に分散されているリチウム二次電池用負極活物質10とする。第2の金属マトリクス14は、SnまたはSn系合金であることが好ましい。また、第2の金属マトリクス14は、50原子%以上のSnを含有していることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用負極活物質およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、負極活物質として黒鉛等の炭素材料を用いた負極、コバルト酸化物等のリチウム含有化合物を用いた正極、これら正負両極間に挟持する電解質としてLiPF等のリチウム塩を用いたリチウム二次電池が知られている。リチウム二次電池では、電池充電時に負極活物質中にリチウムイオンが吸蔵され、電池放電時に負極活物質からリチウムイオンが放出される。
【0003】
近年、この種のリチウム二次電池は、電気自動車の動力源等として注目されている。しかしながら、現在広く使用されている負極活物質の黒鉛は、その理論容量が372mAh/gに過ぎず、より一層の高容量化が望まれている。それ故、最近では、炭素系負極活物質の代替材料として、高容量化が期待できるSi、Sn等の金属材料が盛んに研究されるようになっている。
【0004】
ところが、SiやSnは、リチウムイオンの吸蔵・放出に伴い、大きな体積膨張・収縮を生じる。そのため、その膨張・収縮応力によって集電体から剥離し、サイクル特性が低下しやすいといった問題があった。そこで、その対策として、負極活物質の複合化や表面被覆等の技術が検討されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、リチウム二次電池用負極活物質として、Si、Sn等とCu等の他元素とを所定の成分範囲で合金化してなる複合粉末が開示されている。また、同文献には、Si−Cu合金におけるCu元素の成分割合と、初期放電容量・サイクル特性との関係が、純Siと比較して具体的に記載されている(実施例14、比較例7、比較例17、比較例18等を参照)。
【0006】
また、特許文献2には、Si粒子の表面をCuにより被覆してなるリチウム二次電池用負極活物質が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4029291号公報
【特許文献2】特開2008−16198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来技術は以下の点で改良の余地があった。すなわち、特許文献1に記載されるように、SiにCuを複合化すると、サイクル特性の改善が見られるものの、初期放電容量が大きく低下してしまう。これは、CuによりSiが不活性化されるためであると考えられる。Si粒子の表面にCuを被覆する特許文献2に記載の技術も、同様の問題を抱えているものと推察される。このように、活物質利用率(=初期放電容量/活物質の理論容量×100)の向上とサイクル特性の向上とを両立させることは困難であった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、本発明が解決しようとする課題は、活物質利用率の向上とサイクル特性の向上とを両立させることが可能なリチウム二次電池用負極活物質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明に係るリチウム二次電池用負極活物質は、第1の金属マトリクス中にSi結晶子が分散されたSi合金を有し、上記Si合金は、Li活性を有する第2の金属マトリクス中に分散されていることを要旨とする。
【0011】
ここで、上記第2の金属マトリクスは、SnまたはSn系合金であることが好ましい。
【0012】
また、上記第2の金属マトリクスは、50原子%以上のSnを含有していることが好ましい。
【0013】
本発明に係るリチウム二次電池用負極の製造方法は、第1の金属マトリクス中にSi結晶子が分散されたSi合金粉末を製造する工程と、得られたSi合金粉末とLi活性を有する第2の金属マトリクス粉末とを混合、複合化し、第2の金属マトリクス中にSi合金を分散させる工程とを有することを要旨とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るリチウム二次電池用負極活物質は、第1の金属マトリクス中にSi結晶子が分散されたSi合金を有し、上記Si合金は、Li活性を有する第2の金属マトリクス中に分散されている。
【0015】
本発明に係るリチウム二次電池用負極活物質によれば、第2の金属マトリクスがLi活性を有するので、Si合金内部のSi結晶子までリチウムが到達しやすくなり、活物質利用率を向上させることができる。
【0016】
また、微細なSi結晶子の周囲を第1の金属マトリクスが取り囲んでいるので、Siの崩壊が抑制される。さらに、第1の金属マトリクスの周囲を第2の金属マトリクスが取り囲んでいる(二重マトリクス構造になっている)ので、Si合金の崩壊が抑制され、集電体から脱落し難くなる。そのため、サイクル特性を向上させることができる。
【0017】
ここで、第2の金属マトリクスがSnまたはSn系合金である場合には、Li活性が相対的に高いので、Si合金内部のSi結晶子までリチウムがより一層到達しやすくなり、活物質利用率の向上に寄与することができる。特に、第2の金属マトリクスがSn系合金である場合にはSnよりも低容量となるが、第2の金属マトリクスの膨張・収縮を小さくすることができ、負極活物質の安定性向上に寄与することができる。
【0018】
また、第2の金属マトリクスが50原子%以上のSnを含有している場合には、上述の活物質利用率の向上、負極活物質の安定性向上へ寄与しやすくなる。
【0019】
本発明に係るリチウム二次電池用負極の製造方法によれば、活物質利用率の向上とサイクル特性の向上とを両立させることが可能な上述のリチウム二次電池用負極活物質を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池用負極活物質を模式的に示した図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池用負極を模式的に示した図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る他のリチウム二次電池用負極を模式的に示した図である。
【図4】実施例1に係る負極活物質の走査型電子顕微鏡(SEM)による反射電子像である。
【図5】比較例1に係る負極活物質の走査型電子顕微鏡(SEM)による反射電子像である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池用負極活物質(以下、「本負極活物質」ということがある。)およびその製造方法、本負極活物質を用いたリチウム二次電池用負極(以下、「本負極」ということがある。)について詳細に説明する。
【0022】
1.本負極活物質およびその製造方法
初めに、本負極活物質の構成について説明する。本負極活物質は、リチウムイオン二次電池、リチウムポリマー二次電池などのリチウム二次電池の負極に用いられる材料である。
【0023】
図1は、本負極活物質を模式的に示した図である。本負極活物質10は、Si合金12と、第2の金属マトリクス14とを有している。Si合金12は、Si結晶子12aと、第1の金属マトリクス12bとを有している。
【0024】
Si合金12は、第1の金属マトリクス12b中にSi結晶子12aが多数分散された構造を有している。つまり、Si合金12において、多数のSi結晶子12aは、周囲の第1の金属マトリクス12bに取り囲まれている。本負極活物質10は、第2の金属マトリクス14中に上述のSi合金12が多数分散されている。つまり、本負極活物質10において、多数のSi合金12は、周囲の第2の金属マトリクス14に取り囲まれている。したがって、本負極活物質10は、Si結晶子12aの周りに第1の金属マトリクス12b、第1の金属マトリクス12bの周りに第2の金属マトリクス14が配置された二重マトリクス構造をとっている。なお、第1の金属マトリクス12b、第2の金属マトリクス14にいう「金属」は、金属単体のみならず、合金も含む。
【0025】
本負極活物質において、Si結晶子は、Siを主に含有する相である。リチウム吸蔵量が大きくなるなどの観点から、好ましくは、Si結晶子はSi単相よりなると良い。もっとも、Si結晶子中には不可避的な不純物が含まれていても良い。
【0026】
Si結晶子の形状は、特に限定されるものではなく、その外形が比較的均一に整っていても良いし、その外形が不揃いであっても良い。また、個々のSi結晶子はそれぞれ分離していても良いし、部分的にSi結晶子同士が連なっていても良い。
【0027】
Si結晶子の大きさは、その上限値が、好ましくは、700nm以下、より好ましくは、300nm以下、さらにより好ましくは、100nm以下であると良い。Siの微細化によりSi割れを低減しやすくなり、サイクル特性の向上に寄与しやすくなるからである。
【0028】
なお、Si結晶子は、小さいほど良いため、Si結晶子の大きさの下限値は特に限定されることはない。もっとも、Siの酸化による容量低下等の観点から、好ましくは、50nm以上であると良い。
【0029】
また、上記Si結晶子の大きさは、本負極活物質の微細組織写真(1視野)から任意に選択したSi結晶子20個について測定したSi結晶子の大きさの平均値である。
【0030】
本負極活物質において、第1の金属マトリクスは、Si結晶子と相分離して存在する相である。第1の金属マトリクスは、後述する第2の金属マトリクスのように、Li活性を有していても良いし、Li活性を有していなくても良い。好ましくは、第1の金属マトリクスは、Li活性を有していると良い。Si結晶子によりリチウムが到達しやすくなり、活物質利用率の向上に寄与しやすくなるからである。第1の金属マトリクスの材質としては、具体的には、例えば、Al系合金、Sn系合金、In系合金、Ag系合金、Pb系合金、Sb系合金、Bi系合金などを例示することができる。これらのうち、好ましくは、融点が低い、蒸気圧が高い、コストなどの観点から、Al系合金、Sn系合金、In系合金であると良い。
【0031】
上記Al系合金としては、例えば、Al−Co系合金、Al−Bi系合金、Al−Co−Bi系合金、Al−Bi−Co系合金、Al−Sn系合金など、上記Sn系合金としては、例えば、Sn−Co、Sn−Ni、Sn−Fe、Sn−Cu、Sn−Ag、Sn−In、Sn−Sb、Sn−Bi、In−Sbなどを例示することができる。
【0032】
Si合金の形状は、特に限定されるものではなく、その外形が比較的均一に整っていても良いし、その外形が不揃いであっても良い。また、個々のSi合金はそれぞれ分離していても良いし、部分的にSi合金同士が連なっていても良い。
【0033】
Si合金の大きさは、その上限値が、好ましくは、5μm以下、より好ましくは、1μm以下、さらにより好ましくは、100nm以下であると良い。Si合金が小さいほど、Si合金の膨張収縮応力が小さくなり、サイクル特性が向上するからである。
【0034】
一方、Si合金の大きさは、その下限値が、好ましくは、10nm以上、より好ましくは、40nm以上、さらにより好ましくは、50nm以上であると良い。粒径が細かくなると酸化しやすくなり、容量低下につながるからである。
【0035】
なお、上記Si合金の大きさは、本負極活物質の微細組織写真(1視野)から任意に選択したSi合金20個について測定したSi合金の大きさの平均値である。
【0036】
本負極活物質において、Si合金は、本負極活物質の全質量に対して、好ましくは、25質量%以上、より好ましくは、40質量%以上、さらにより好ましくは、50質量%以上含まれていると良い。Si合金が過度に少なくなれば、負極活物質の容量が低下し、黒鉛の代替材料としての意味が小さくなる。Si合金含有量が上記範囲内であれば、サイクル特性の向上効果と高容量化とのバランスに優れるからである。
【0037】
一方、Si合金は、本負極活物質の全質量に対して、好ましくは、80質量%以下、より好ましくは、60質量%以下含まれていると良い。Si合金が過度に多くなれば、第2の金属マトリクス量が相対的に低下し、Si合金の膨張・収縮を抑制する効果が小さくなる傾向がある。Si合金含有量が上記範囲であれば、サイクル特性の向上効果と高容量化とのバランスに優れるからである。
【0038】
本負極活物質において、第2の金属マトリクスは、Li活性を有する。ここで、「Li活性を有する」とは、第2の金属マトリクス単体でもLiと反応し、Li化合物を形成する、ということを意味する。(第1の金属マトリクスが「Li活性を有する」場合についても同様)。本発明では、第2の金属マトリクスがLi活性を有することにより、Si合金内部のSi結晶子までリチウムが到達しやすくなる。
【0039】
第2の金属マトリクスの材質としては、具体的には、例えば、Sn、Sn系合金、Al、Al系合金、In、In系合金、Bi、Bi系合金、Sb、Sb系合金などを例示することができる。これらのうち、好ましくは、高Li活性を有するなどの観点から、SnまたはSn系合金であると良い。Siに比べ低容量であるため、第2の金属マトリクスの膨張・収縮を小さくすることができ、負極活物質の安定性向上に寄与することができるからである。特に好ましくは、Liとの反応性、マトリクスの安定性、コストなどの観点から、Sn系合金であると良い。
【0040】
第2の金属マトリクスは、好ましくは、Snを40原子%以上、より好ましくは、50原子%以上含有していると良い。活物質利用率の向上、負極活物質の安定性向上へ寄与しやすくなるからである。もっとも、Snが80原子%を越えると、かえって特性向上効果が低下する傾向がある。そのため、第2の金属マトリクスは、好ましくは、Snを80原子%以下、より好ましくは、75原子%以下、さらに好ましくは、70原子%以下含有していると良い。
【0041】
上記Sn系合金としては、例えば、Sn−Co系合金、Sn−Cu系合金、Sn−Fe系合金、Sn−Ni系合金などを例示することができる。
【0042】
本負極活物質において、第2の金属マトリクスは、本負極活物質の全質量に対して、好ましくは、50質量%以上、より好ましくは、60質量%以上、さらにより好ましくは、70質量%以上含まれていると良い。第2の金属マトリクスが過度に少なくなれば、Si合金の膨張・収縮を緩和し難くなる。第2の金属マトリクスの含有量が上記範囲内であれば、サイクル特性の向上効果に寄与しやすくなる。
【0043】
一方、第2の金属マトリクスは、本負極活物質の全質量に対して、好ましくは、90質量%以下、より好ましくは、80質量%以下含まれていると良い。第2の金属マトリクスが過度に多くなれば、Si合金が相対的に低下し、高容量化への寄与が小さくなる。上記範囲であれば、サイクル特性の向上効果と高容量化とのバランスに優れる。
【0044】
本負極活物質の形態は、特に限定されるものではない。具体的には、薄片状、粉末状などの形態を例示することができる。好ましくは、負極の製造に適用しやすいなどの観点から、粉末状であると良い。また、本負極活物質は、適当な溶媒中に分散されていても構わない。
【0045】
本負極活物質の大きさは、その上限値が、好ましくは、50μm以下、より好ましくは、25μm以下であると良い。粒径が大きいと、Liが活物質内部まで拡散し難くなり、活物質利用率が低下する傾向があるからである。
【0046】
一方、本負極活物質の大きさは、その下限値が、好ましくは、100nm以上、より好ましくは、500nm以上、さらにより好ましくは、1μm以上であると良い。粒径が細かくなり過ぎると、粒子が酸化しやすくなり、容量低下を招くからである。
【0047】
なお、本負極活物質の大きさは、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置にて測定することができる。
【0048】
次に、本負極活物質の製造方法について説明する。本負極活物質の製造方法としては、第1の金属マトリクス中にSi結晶子が分散されたSi合金粉末を製造する工程と、得られたSi合金粉末とLi活性を有する第2の金属マトリクス粉末とを混合、複合化し、第2の金属マトリクス中にSi合金を分散させる工程とを経る方法などを例示することができる。
【0049】
上記Si合金粉末は、具体的には、例えば、先ず、所定の化学組成となるように各原料を量り取り、量り取った各原料を、アーク炉、高周波誘導炉、加熱炉などの溶解手段を用いて溶解させるなどしてSi合金溶湯とし、このSi合金溶湯を急冷して急冷合金とすることにより好適に製造することができる。
【0050】
合金溶湯を急冷する方法としては、具体的には、例えば、ロール急冷法(単ロール急冷法、相ロール急冷法等)、アトマイズ法(ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、遠心アトマイズ法)などを例示することができる。好ましくは、Si結晶子を小さくさせやすいなどの観点から、ロール急冷法を好適に用いることができる。合金溶湯の最大急冷速度は、好ましくは、10K/秒以上、より好ましくは、10K/秒以上であると良い。
【0051】
なお、得られた急冷合金が粉末状でない場合には、急冷合金を適当な粉砕手段により粉砕して粉末状にする工程を追加しても良い。また、必要に応じて、得られた急冷合金を分級処理して適当な粒度に調整する工程などを追加しても良い。
【0052】
得られたSi合金粉末と、Li活性を有する第2の金属マトリクス粉末とを混合、複合化する方法としては、例えば、ボールミル、ビーズミル、アトライタ、振動ミル、ライカイ機、グラインディングミル等の装置を用い、粉末に対して外部から力を与え、混合、複合化する方法などを例示することができる。上記装置としては、生産性、与えるエネルギーの大きさ等の観点から、好ましくは、ボールミル、アトライタなどを好適に用いることができる。
【0053】
2.本負極
図2は、本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池用負極を模式的に示した図である。図3は、本発明の一実施形態に係る他のリチウム二次電池用負極を模式的に示した図である。図2、図3に示すように、本負極20は、本負極活物質10を用いて構成されている。
【0054】
具体的には、図2、図3に示すように、本負極20は、導電性基材22と、導電性基材22の表面に積層された導電膜24とを有している。導電膜24は、バインダー26中に少なくとも上述した本負極活物質10を含有している。図2、図3に示すように、導電膜24は、他にも、必要に応じて、導電助材28を含有していても良い。導電助材28を含有する場合には、電子の導電経路を確保しやすくなる。
【0055】
また、図3に示すように、導電膜24は、必要に応じて、骨材30を含有していても良い。骨材30を含有する場合には、充放電時の負極10の膨張・収縮を抑制しやすくなり、負極10の崩壊を抑制できるため、サイクル特性を一層向上させることができる。
【0056】
導電膜の膜厚は、電極面積当たりの容量増加、電池体積の減少などの観点から、好ましくは、10〜100μm、より好ましくは、20〜50μmの範囲内にあると良い。
【0057】
上記導電性基材は、集電体として機能する。その材質としては、例えば、Cu、Cu合金、Ni、Ni合金、Fe、Fe基合金などを例示することができる。好ましくは、Cu、Cu合金であると良い。また、具体的な導電性基材の形態としては、箔状、板状等を例示することができる。好ましくは、電池としての体積を小さくできる、形状自由度が向上するなどの観点から、箔状であると良い。
【0058】
上記バインダーの材質としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸などを好適に用いることができる。これらは1種または2種以上併用することができる。これらのうち、好ましくは、電気化学反応における安定性、溶剤への溶解性などの観点から、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)樹脂であると良い。
【0059】
上記導電助材としては、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラック等のカーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ、フラーレンなどを例示することができる。これらは1または2以上併用しても良い。これらのうち、好ましくは、電子伝導性を確保しやすいなどの観点から、ケッチェンブラック、アセチレンブラックなどを好適に用いることができる。
【0060】
上記導電助材の含有量は、導電性向上度、電極容量などの観点から、本活物質100質量部に対して、好ましくは、0〜30質量部、より好ましくは、6〜13質量部の範囲内であると良い。また、上記導電助材の平均粒子径は、分散性、扱い易さなどの観点から、好ましくは、10nm〜1μm、より好ましくは、20〜50nmであると良い。
【0061】
上記骨材としては、充放電時に膨張・収縮しない、または、膨張・収縮が非常に小さい材質のものを好適に用いることができる。例えば、黒鉛、アルミナ、カルシア、ジルコニア、活性炭などを例示することができる。これらは1または2以上併用しても良い。これらのうち、好ましくは、導電性、Li活性度などの観点から、黒鉛などを好適に用いることができる。
【0062】
上記骨材の含有量は、サイクル特性向上などの観点から、本負極活物質100質量部に対して、好ましくは、10〜400質量部、より好ましくは、43〜100質量部の範囲内であると良い。また、上記骨材の平均粒子径は、骨材としての機能性、電極膜厚の制御などの観点から、好ましくは、10〜50μm、より好ましくは、20〜30μmであると良い。なお、上記骨材の平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて測定した値である。
【0063】
本負極は、例えば、適当な溶剤に溶解したバインダー中に、本負極活物質、必要に応じて、導電助材、骨材を必要量添加してペースト化し、これを導電性基材の表面に塗工、乾燥させ、必要に応じて、圧密化や熱処理等を施すことにより製造することができる。
【0064】
本負極を用いてリチウム二次電池を構成する場合、本負極以外の電池の基本構成要素である正極、電解質、セパレータなどについては、特に限定されるものではない。
【0065】
上記正極としては、具体的には、例えば、アルミニウム箔などの集電体表面に、LiCoO、LiNiO、LiFePO、LiMnOなどの正極活物質を含む層を形成したものなどを例示することができる。
【0066】
上記電解質としては、具体的には、例えば、非水溶媒にリチウム塩を溶解した電解液などを例示することができる(リチウムイオン二次電池)。その他にも、ポリマー中にリチウム塩が溶解されたもの、ポリマーに上記電解液を含浸させたポリマー固体電解質などを用いることもできる(リチウムポリマー二次電池)。
【0067】
上記非水溶媒としては、具体的には、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートなどを例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。
【0068】
上記リチウム塩としては、具体的には、例えば、LiPF、LiBF、LiClO、LiCFSO、LiAなどを例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。
【0069】
また、その他の電池構成要素としては、セパレータ、缶(電池ケース)、ガスケット等が挙げられるが、これらについても、リチウム二次電池で通常採用される物であれば、何れの物であっても適宜組み合わせて電池を構成することができる。
【0070】
なお、電池形状は、特に限定されるものではなく、筒型、角型、コイン型など何れの形状であっても良く、その具体的用途に合わせて適宜選択することができる。
【実施例】
【0071】
以下、本発明を実施例を用いてより具体的に説明する。なお、合金組成、合金混合割合の%は、特に明示する場合を除き、質量%である。
【0072】
1.負極活物質の作製
(実施例1)
表1に示す合金組成(68%Si−17%Al−8%Co−7%Bi)となるように各原料を秤量した。秤量した各原料を加熱、溶解し、合金溶湯とした。得られた合金溶湯を、液体単ロール超急冷法を用いて急冷し、急冷合金リボンを得た。なお、ロール周速は25m/s、ノズル距離は3mmとした。得られた急冷合金リボンを、乳鉢を用いて機械的に粉砕し、Si合金粉末を得た。
【0073】
次に、得られたSi合金粉末と、表1に示す合金組成(80%Sn−20%Coは、Sn67原子%、Co33原子%である)を有するSn系合金粉末(ガスアトマイズ法により作製)とを、表1に示す混合割合(Si合金粉末:Sn系合金粉末=25%:75%)となるように秤量した。秤量した各粉末を、遊星ボールミル装置(ポット材質:SUS304、ボール材質:SUJ2、ボール径:6.4mm)に入れてArガスによりシールし、回転数300rpm、混合時間30hの条件で、混合、複合化した。これにより、実施例1に係る負極活物質を得た。
【0074】
(実施例2〜14)
実施例1と同様にして、表1に示す合金組成を有する各Si合金粉末、各Sn系合金粉末(67%Sn−33%Coは、Sn50原子%、Co50原子%、75%Sn−25%Coは、Sn60原子%、Co40原子%、80%Sn−20%Coは、Sn67原子%、Co33原子%である)を準備した。次いで、準備した各合金粉末を用い、表1に示す各混合割合で混合、複合化した点以外は同様にして、実施例2〜14に係る各負極活物質を得た。
【0075】
(比較例1、2)
実施例1において、Si合金粉末に代えて純Si粉末(ガスアトマイズ法により作製)を準備し、この純Si粉末とSn系合金粉末とを用い、表1に示す混合割合で混合、複合化した点以外は同様にして、比較例1、2に係る各負極活物質を得た。
【0076】
(比較例3、4)
表1に示す合金組成(17%Si−14%Al−13%Bi−40%Sn−16%Co、17%Si−4%Al−2%Bi−60%Sn−17%Co)となるように各原料を秤量し、上述の遊星ボールミル装置に入れてArガスによりシールし、回転数300rpm、混合時間30hの条件で、混合、複合化した。これにより、比較例3、4に係る各負極活物質を得た。
【0077】
(比較例5、6)
実施例1において、Sn系合金粉末に代えて純Cu粉末(福田金属箔粉(株)製、d50=5μm)を準備し、表1に示す合金組成のSi合金粉末とこの純Cu粉末とを用い、表1に示す混合割合で混合、複合化した点以外は同様にして、比較例5、6に係る各負極活物質を得た。
【0078】
(比較例7)
実施例1において、Si合金粉末に代えて純Si粉末(ガスアトマイズ法により作製)、Sn系合金粉末に代えて純Cu粉末(福田金属箔粉(株)製、d50=5μm)を準備し、これら純Si粉末と純Cu粉末とを用い、表1に示す混合割合で混合、複合化した点以外は同様にして、比較例7に係る負極活物質を得た。
【0079】
2.負極活物質の組織観察等
図4に、代表例として、実施例1に係る負極活物質の走査型電子顕微鏡(SEM)による反射電子像を示す。図5に、比較例1に係る負極活物質の走査型電子顕微鏡(SEM)による反射電子像を示す。また、エネルギー分散X線分光法(EDX)により元素分析も併せて行った。
【0080】
その結果によれば、図4に示すように、実施例1に係る負極活物質は、Al−Co−Bi相からなる第1の金属マトリクス中にSi結晶子が多数分散されたSi合金を有しており、このSi合金が、Sn系合金(Li活性を有する第2の金属マトリクス)中に多数分散された組織構造を備えていることが確認された。つまり、実施例1に係る負極活物質は、微細なSi結晶子の周囲が第1の金属マトリクスにより取り囲まれており、さらに、この第1の金属マトリクスの周囲が、Li活性を有する第2の金属マトリクスにより取り囲まれた二重マトリクス構造を有していることが確認された。なお、この結果から、Si合金中においてSiは単独で存在しており、他の各元素(Al、Co、Bi)とSiとは相分離していることが分かる。
【0081】
これに対し、比較例1に係る負極活物質は、図5に示すように、Sn系合金(マトリクス)中に、Si結晶子が多数分散されていることが確認された。つまり、比較例1に係る負極活物質は、微細なSi結晶子の周囲が金属マトリクスにより取り囲まれた一重マトリクス構造を有していることが確認された。
【0082】
また、各負極活物質につき、Si結晶子の大きさを測定した。なお、Si結晶子の大きさは、SEM像(1視野)の任意のSi結晶子20個について測定したSi結晶子の大きさの平均値である。
【0083】
表1に、作製した各負極活物質の詳細をまとめて示す。
【0084】
【表1】

【0085】
3.負極活物質の評価
3.1 充放電試験用コイン型電池の作製
初めに、分級により25μm以下に調整した各負極活物質と、導電助材としてのアセチレンブラック(電気化学工業(株)製、d50=36nm)と、必要に応じて添加する骨材としての黒鉛(伊藤黒鉛工業(株)製、「SG−BH」)と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを表2に示す配合割合で配合し、これを溶剤としてのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)と混合し、各負極活物質を含む各ペーストを作製した。
【0086】
【表2】

【0087】
以下の通り、各コイン型半電池を作製した。ここでは、簡易的な評価とするため、負極活物質を用いて作製した電極を試験極とし、Li箔を対極とした。先ず、負極集電体となる銅箔(厚み18μm)表面に、ドクターブレードを用いて、50μmになるように各ペーストを塗布し、乾燥させ、各負極活物質層を形成した。形成後、ロールプレスにより負極活物質層を圧密化した。これにより、実施例および比較例に係る試験極を作製した。
【0088】
次いで、実施例および比較例に係る試験極を、直径11mmの円板状に打ち抜き、各試験極とした。
【0089】
次いで、Li箔(厚み500μm)を上記試験極と略同形に打ち抜き、各正極を作製した。また、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との等量混合溶媒に、LiPFを1mol/lの濃度で溶解させ、非水電解液を調製した。
【0090】
次いで、各試験極を各正極缶に収容するとともに、対極を各負極缶に収容し、各試験極と各対極との間に、ポリオレフィン系微多孔膜のセパレータを配置した。
【0091】
次いで、各缶内に上記非水電解液を注入し、各負極缶と各正極缶とをそれぞれ加締め固定した。
【0092】
3.2 充放電試験
各コイン型半電池を用い、電流値0.1mAの定電流充放電を1サイクル分実施し、この放電容量を初期容量Cとした。2サイクル目以降は、1/5Cレートで充放電試験を実施した(Cレート:電極を(充)放電するのに要する電気量Cを1時間で(充)放電する電流値を1Cとする。5Cならば20分で、1/5Cならば5時間で(充)放電することとなる。)。この放電時に使用した容量(mAh)を活物質量(g)で割った値を各放電容量(mAh/g)とした。
【0093】
本実施例では、上記充放電サイクルを50回行うことにより、サイクル特性の評価を行った。
【0094】
そして、得られた各放電容量から容量維持率(2サイクル後の放電容量/初期放電容量(1サイクル目の放電容量)×100、50サイクル後の放電容量/初期放電容量(1サイクル目の充電容量)×100)を求めた。その結果を表3に示す。
【0095】
【表3】

【0096】
表3によれば、以下のことが分かる。すなわち、比較例1および2に係る負極活物質は、純SiとSn系合金とを複合化したものである。そのため、二重マトリクス構造を取らず、リチウムイオンの吸蔵・放出に伴う体積膨張・収縮により、Siの崩壊が早く、これら負極活物質による負極を用いた電池は、サイクル特性が不十分である。
【0097】
比較例3、4に係る負極活物質は、製造時に急冷を行っておらず、全元素を混合後に複合化したものある。そのため、マトリクス構造をとらず、これら負極活物質による負極を用いた電池は、サイクル特性が不十分である。
【0098】
比較例5、6に係る負極活物質は、Si合金とCuとを複合化したものである。Li活性のないCuが第2の金属マトリクスとなるため、Si合金内部にリチウムが届き難い。したがって、これら負極活物質による負極を用いた電池は、初期放電容量が低く、活物質利用率が低い。
【0099】
比較例7に係る負極活物質も、SiとCuとを複合化したものである。Li活性のないCuが第2の金属マトリクスとなるため、Siにリチウムイオンが届き難い。したがって、これら負極活物質による負極を用いた電池は、初期放電容量が低く、活物質利用率が低い。加えて、二重マトリクス構造をとらないので、これら負極活物質による負極を用いた電池は、サイクル特性が不十分である。
【0100】
これらに対し、実施例1〜12に係る負極活物質、負極は、いずれも活物質利用率の向上とサイクル特性の向上とを両立できていることが確認された。また、実施例1〜6を対比すると、Sn−Co合金において、Snの含有量が75%である実施例5、6は、Snの含有量が80%である実施例1、2及びSnの含有量が67%である実施例3、4に比べてサイクル特性が良好となっている。すなわち、第2の金属マトリクスがSn−Co合金である場合において、Snの含有量が70〜70質量%であると、サイクル特性が極めて向上すると推察された。
【0101】
また、実施例13を実施例1と比較すると、実施例13のSi結晶子径は、実施例1のSi結晶子径よりも大きくなっている。そのため、実施例13のサイクル特性は、実施例1のサイクル特性よりもやや劣っている。これは、同じ合金の系列であっても実施例1の第1の金属マトリクス中にBiが添加され、Si結晶子がより微細に析出したために、実施例1のサイクル特性がより向上したものだと推察される。従って、サイクル特性の向上に寄与するという観点から第1の金属マトリクスにはBiが含まれていることが好ましいと言える。
【0102】
また、実施例7〜12に示すように、負極中に骨材として黒鉛を添加することにより、サイクル特性が一層向上することが確認された。これは、負極中に骨材を添加することにより、充放電時の負極の膨張・収縮を抑制しやすくなり、負極の崩壊を抑制できるためであると考えられる。
【0103】
以上、本発明に係るリチウム二次電池用負極活物質およびその製造方法について説明したが、本発明は、上記実施形態、実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0104】
10 リチウム二次電池用負極活物質
12 Si合金
12a Si結晶子
12b 第1の金属マトリクス
14 第2の金属マトリクス
20 リチウム二次電池用負極
22 導電性基材
24 導電膜
26 バインダー
28 導電助材
30 骨材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の金属マトリクス中にSi結晶子が分散されたSi合金を有し、
前記Si合金は、Li活性を有する第2の金属マトリクス中に分散されていることを特徴とするリチウム二次電池用負極活物質。
【請求項2】
前記第2の金属マトリクスは、SnまたはSn系合金であることを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池用負極活物質。
【請求項3】
前記第2の金属マトリクスは、50原子%以上のSnを含有することを特徴とする請求項1または2に記載のリチウム二次電池用負極活物質。
【請求項4】
第1の金属マトリクス中にSi結晶子が分散されたSi合金粉末を製造する工程と、
得られたSi合金粉末とLi活性を有する第2の金属マトリクス粉末とを混合、複合化し、第2の金属マトリクス中にSi合金を分散させる工程と、
を有することを特徴とするリチウム二次電池用負極活物質の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−14866(P2012−14866A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−147790(P2010−147790)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】