説明

リチウム二次電池用電極の製造方法とリチウム二次電池の製造方法

【課題】多孔質シートを集電体として用いたリチウム電池用電極を加圧成型時する場合に集電体の切れが生じ、補助的な基材を用いると、活物質の体積割合が減少してしまい、体積エネルギー密度が減少してしまうという課題があった。
【解決手段】集電体として、長目方向101と短目方向102のメッシュ幅を有するエキスパンドメタル100を用い、短目方向102に対し45°以内の方向から活物質を含む混合体をメッシュ開口内に圧入する。もしくは、エキスパンドメタル100に活物質を含む混合体を充填した電極前駆体を短目方向102に対し45°以内の方向から圧延する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エキスパンドメタルを集電体としたリチウム二次電池用電極の製造方法と、その電極を用いたリチウム二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池の代表であるリチウム二次電池は高エネルギー密度と優れたサイクル特性を有する。このような特徴を有するリチウム二次電池は、主としてポータブル電気機器の電源として用いられている。
【0003】
リチウム二次電池の形状は主に円筒形や角形であり、様々な大きさの電池が用途に応じて製造されている。市販されている円筒形電池には、電池活物質を含む混合物(以下、活物質層と称す)を集電体である金属箔に塗布して、金属箔の表面に活物質層を形成したフィルム状電極が用いられている。このように形成された正極と負極とを、多孔質セパレータを介して巻回することによって円筒形電池が構成されている。角形の電池としては、上記と同様のフィルム状電極を楕円状に巻回して角形のケースに納めた電池と、短冊形電極を積層した電池がある。巻回型の電池は製造容易性に優れ、積層型の電池は体積エネルギー密度に優れる。
【0004】
上述のフィルム状電極を用いることで電極面積を大きくすることができる。また活物質層の厚みを薄くすることによってリチウムイオンの拡散距離を短くすることができる。このように電極構造を工夫することで巻回型の電池はハイレートで充放電可能になっている。フィルム状電極の巻回は比較的容易であるため、巻回式の電池構造に関する公知例は数多い(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、上記のフィルム状電極には欠点もまた存在していることも知られており、それらの改善方法もまた提案されている。例えば、集電体として金属箔を用いて活物質の充填量を増やす場合、活物質層を厚くする必要がある。このような電極構成では、充放電に伴い活物質の剥離が生じやすくなる。このような現象を抑制するためには活物質層中のバインダーの配合量を多くせねばならない。しかしながらその結果、活物質の利用率が低下してエネルギー密度が低下してしまうという問題がある。
【0006】
その解決手段として集電体としてアルミニウムの多孔質シートを用いることが提案されている。また、この多孔質シートを用いた電極を用いることでシート状電極の問題点の一つである積層構造の電池を作製する際の電極の強度不足も解決できるとされている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
ただし、多孔質シートを集電体として用いた場合、体積エネルギー密度を向上させるために加圧成型すると電極が伸び、集電体の金属繊維等が切れることによって機能しなくなるという問題もある。この問題を解決のため、金属製基材を多孔質シートに接合し強度を増して伸びを抑制するという手段が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
また集電効率を向上させるために、短目方向が電極の長手方向、短手方向から傾斜したエキスパンドメタルを集電体として用いて、エキスパンドメタル網の隙間に活物質を練りこんだ鉛蓄電池が開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−74488号公報
【特許文献2】特開平6−196170号公報
【特許文献3】特開平9−161806号公報
【特許文献4】国際公開第94/15375号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記従来の構成においては、多孔質シートに金属製基材を接合させることで、加圧成型時の伸びを抑制し、金属繊維等が切れることを抑制することはできる。しかしながら、金属製基材を追加した分だけ充放電の容量に寄与しない集電体の体積割合が増加する。そのため、多孔質シートを用いる利点の一つである体積エネルギー密度の増加という効果を相殺してしまうという課題を有していた。
【0011】
また、リチウム二次電池の集電体にエキスパンドメタルを用いると、硫酸系水溶液を電解質として用いる鉛蓄電池とは異なり電解質のイオン伝導率が大幅に異なる。そのため、電極層の圧縮率を高め、多孔度を低下させることで、エキスパンドメタルの一方向のストランド(菱形の開口の辺を形成するメッシュ部分)を引き伸ばす必要があった。
【0012】
本発明は、このような従来の課題を解決するもので、加圧成型時にも集電体の切れを生じさせずに体積エネルギー密度を増加させつつ、追加基材による体積エネルギー密度の減少を生じさせない電極の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記従来の課題を解決するために、本発明では、電池用電極の集電体として、長目方向と短目方向のメッシュ幅を有するエキスパンドメタルを用いる。そして短目方向に対し45°以内の方向から活物質を含む混合体をメッシュ開口内に圧力をかけて挿入する(圧入)。もしくは、上記エキスパンドメタルに活物質を含む混合体を充填した電極前駆体を短目方向に対し45°以内の方向から互いに反対方向に回転する2本のロールの間にエキスパンドメタルを通過させ、エキスパンドメタルを塑性加工する(圧延)。
【0014】
本発明によれば、集電体の伸びの方向を制御することが可能となり、基材を追加せずとも集電体の切れを抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法によれば、追加基材による体積エネルギー密度の減少は生じず、また集電体が切れるという不具合を生じることなく体積エネルギー密度を増加させたリチウム二次電池用電極を作製することができる。またこのようにして作製した電極を用いて体積エネルギー密度の大きいリチウム二次電池を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態におけるリチウム二次電池の概略断面図
【図2】本発明の実施の形態における電極用集電体として用いるエキスパンドメタルの俯瞰図
【図3】図2に示すエキスパンドメタルの拡大図
【図4】本発明の実施の形態における電極用集電体に活物質を含む混合体を圧入する装置の構成を示す概略側面図
【図5】図4に示す装置の要部を示す概略上面図
【図6】本発明の実施の形態における電極前駆体を圧延する装置の構成を示す概略側面図
【図7】図6に示す装置の要部を示す概略上面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は、本明細書に記載された基本的な特徴に基づく限り、以下に記載の内容に限定されるものではない。
【0018】
図1は本発明の実施の形態におけるリチウム二次電池の概略断面図である。以下、図1を参照しながら円筒形の電池30の作製手順を説明する。
【0019】
電池30は、第1電極である正極1と、正極1とは逆極性の第2電極である負極2と、セパレータ3とで構成された電極群4を有する。正極1には例えばアルミニウム製の正極リード8を接続し、負極2には例えば銅製の負極リード9を接続する。このような正極1と負極2とをセパレータ3を介して対向させ、これらを捲回することで電極群4を形成する。
【0020】
そして、電極群4の上下に絶縁板10A、10Bをそれぞれ装着し、この状態で電極群4をケース5に挿入する。そして正極リード8の他方の端部を封口板6に、負極リード9の他方の端部をケース5の底部に溶接する。さらに、リチウムイオンを伝導する非水電解質(図示せず)をケース5の中に注入し、電極群4に非水電解質を含ませる。その後、ガスケット7を介してケース5の開放端部を、正極キャップ16、PTC素子18、電流遮断部材19、および封口板6に対してかしめる。正極キャップ16は正極端子を構成し、ケース5は負極端子として機能する。このようにして電池30を作製することができる。
【0021】
正極1は集電体1Aと正極活物質を含む正極層1Bから構成されている。正極層1Bは正極活物質を含む。正極活物質としては、電気化学的にリチウムを挿入、脱離することのできる材料であれば特に限定されない。例えばLiMO(M:遷移金属)で示される層状構造を有した化合物や、LiM(M:遷移金属)やLiTi12等で示されるスピネル構造を有した化合物を用いることができる。より具体的には、LiCoOやLiNiO、LiMnOまたはこれらの混合あるいは複合化合物などの含リチウム複合酸化物等を用いることができる。
【0022】
また、正極層1Bは、さらに、導電剤とバインダーとを含んでもよい。導電剤は正極層1Bの電気伝導性を向上させ、バインダーは活物質の集電体1Aからの剥離の抑制のために用いられる。導電剤として、例えば天然黒鉛や人造黒鉛のグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック類を用いることができる。またバインダーとして、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミドなどを用いることができる。
【0023】
また、負極2は集電体11と負極層15から構成されている。負極層15の活物質としては、黒鉛などの炭素材料を用いることができる。また、ケイ素(Si)やスズ(Sn)およびそれらの合金や酸化物などのように、電気化学的にリチウムを挿入、脱離することができ、理論容量密度が833mAh/cmを超える材料を用いることもできる。また、負極層15は、正極層1Bと同様に導電剤とバインダーをさらに含んでもよい。なお集電体1A、11は均一なシート状に描かれているが、後述するようにエキスパンドメタルで構成されている。
【0024】
セパレータ3にはポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンの微多孔膜や不織布等を用いることができる。なおセパレータ3は必須ではなく、正極1と負極2とが直接接触しなければよく、例えば酸化マグネシウムなどの酸化物粉末とバインダーとを含む多孔層を正極1や負極2の表面に形成してもよい。またこのような多孔層とセパレータ3を併用してもよい。
【0025】
非水電解質には有機溶媒に溶質を溶解した非水電解液や、これらを含み高分子で非流動化されたいわゆるポリマー電解質層が適用可能である。非水電解質の溶質としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAlCl、LiSbF、LiSCN、LiCFSO、LiN(CFCO)、LiN(CFSOなどを用いることができる。また、有機溶媒としては、例えばエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート(EMC)などを用いることができる。
【0026】
次に、正極1、負極2の集電体1A、11について図2、図3を用いて説明する。図2は本発明の実施の形態における電極用集電体であるエキスパンドメタルの俯瞰図であり、図3は図2に示すエキスパンドメタルの拡大図である。
【0027】
エキスパンドメタル100は菱形の開口200を有する。この菱形の長い方の対角線方向を長目方向101、短い方の対角線方向を短目方向102と呼ぶ。また図3に示すように、菱形の辺を形成する、メッシュの細い部分をストランド203、メッシュの交差している太い部分をボンド206と呼ぶ。
【0028】
本実施の形態では、このように長目方向101のメッシュ幅と短目方向102のメッシュ幅とを有するエキスパンドメタル100を集電体1A、11として用いる。そして短目方向102に対し45°以内の方向103から、活物質を含む混合体をメッシュの開口200内に圧入する。あるいは、メッシュの開口200内に活物質を含む混合体を充填して形成した電極前駆体を、短目方向102に対し45°以内の方向103から圧延する。
【0029】
以下、圧入、圧延の方向を規制する効果を説明する。図2の短目方向102に沿って活物質を含む混合体をエキスパンドメタル100に圧入する場合と、長目方向101に沿って活物質を含む混合体をエキスパンドメタル100に圧入する場合とでエキスパンドメタル100が同様の伸び率になる条件を設定する。この場合、エキスパンドメタル100におけるストランド203の伸び率は短目方向102に沿って圧入する場合の方が長目方向101に沿って圧入する場合に比べて少ない。そのため、ストランド203に切れが生じるまでの伸び率が同様であれば、短目方向102に沿って圧入する方がエキスパンドメタル100としてより大きな伸びを許容することができる。そのため、短目方向102に沿って圧入する方がより大きな圧力で混合体を圧入することが可能であり、電極の体積エネルギー密度を向上することができる。これは短目方向102に沿って電極前駆体を圧延する場合と、長目方向101に沿って電極前駆体を圧延する場合とを比較しても同様である。
【0030】
前述の効果を発揮するために最適な圧入または圧延の方向は短目方向102である。しかしながら短目方向102から若干ずれた方向から圧入・圧延すれば、エキスパンドメタル100が複数の方向から活物質を含む混合体を抱え込むことができる。そのため、混合体の剥離を抑制することができる。このように、求める電極の状態に応じて、圧入または圧延の方向を変更することができる。なお、圧入または圧延の方向は、エキスパンドメタル100のストランド203の幅205が、各辺で異なることから判別することができる。
【0031】
なお検討の結果、圧入または圧延の方向を短目方向102から45°以内の方向103とすることで、ストランド203の切れを生じさせることなく、圧延、圧入により効果的にエネルギー密度を向上させることができることが明らかになった。そのため、短目方向102に対し0°を超え45°以下の方向から混合体をメッシュ内に圧入する、あるいは電極前駆体を圧延することが好ましい。
【0032】
エキスパンドメタル100の材料としては、リチウム二次電池として使用される電位範囲において化学的に安定な材料で、電気伝導性が良好な材料であれば特に限定されない。例えば、正極1の集電体1Aにはアルミニウムもしくはアルミニウムを主とした合金やステンレス鋼、チタンなどを用いることができる。負極2の集電体11にはニッケルもしくはニッケルを主とした合金、銅もしくは銅を主とした合金、ステンレス鋼を用いることができる。さらに好ましくは切れを生じるまでの伸び率の点から、アルミニウム、もしくは銅を主体とした金属が好ましい。中でもアルミニウムは表面に皮膜を形成し、リチウムの酸化還元電位を基準として4.5Vもの耐電圧を有することから集電体1Aの材料としてさらに好ましい。
【0033】
なお加圧成型した際に活物質が変形せずにエキスパンドメタル100の表面に押し込まれて接触することにより、活物質とエキスパンドメタル100との間の接触抵抗が小さくなることが好ましい。このような観点から、活物質としては機械的強度の大きい酸化物を用いることが好ましい。
【0034】
圧入、圧延の方法としては正極層1Bや負極層15を加圧成型することができれば限定されない。しかしながら、平面加圧では加圧方向以外にも伸びを生じやすく、本発明の効果が減じてしまう。そのため、意図した方向に優先的に伸びを生じさせることのできる加圧機能を有したローラーにより圧入、圧延を行うことが好ましい。このとき、優先的に長さ方向に伸びるように長さ方向に張力を生じさせる機構を有しているとなお好ましい。
【0035】
以下、図4から図7を用いてローラーを用いた圧入、圧延の方法の一例を説明する。図4は本発明の実施の形態において電極用集電体に活物質を含む混合体を圧入する装置の構成を示す概略側面図、図5は図4に示す装置の要部を示す概略上面図である。また図6は本発明の実施の形態において電極前駆体を圧延する装置の構成を示す概略側面図、図7は図6に示す装置の要部を示す概略上面図である。
【0036】
まず、圧入装置について説明する。図4に示すように、圧入装置は巻き出しリール51と、成形ローラー52、53と圧入ローラー54とを有する。巻き出しリール51にはエキスパンドメタル100のフープが巻き付けられている。成形ローラー52、53のギャップとその上には活物質を含む混合体55が供給される。そしてエキスパンドメタル100は巻き出しリール51から成形ローラー53と圧入ローラー54との間に供給される。
【0037】
この状態で成形ローラー53を回転させると混合体55がシート56として成形され、成形ローラー53に沿って圧入ローラー54とのギャップへと送られる。そして圧入ローラー54を成形ローラー53に対し逆方向に回転させると巻き出しリール51から送られたエキスパンドメタル100に対しシート56が圧入される。このとき図5に示すように、エキスパンドメタル100の短目方向102に対し、圧入の方向103は45°以内の範囲にある。また0°を超えることがさらに好ましい。
【0038】
なお、図4に示す装置では一旦、シート56を成形してからエキスパンドメタル100に圧入しているが、本発明はこれに限定されない。例えば、混合体55の単位時間当たりの供給量を制御して、成形ローラー52と成形ローラー53とのギャップへ、混合体55とともにエキスパンドメタル100を供給してもよい。このようにしてもエキスパンドメタル100に混合体55を圧入することができる。
【0039】
次に、圧延装置について説明する。図6に示すように、圧延装置は巻き出しリール61と、圧延ローラー62、63とを有する。巻き出しリール61には、予めエキスパンドメタル100に活物質を含む混合体を圧入した電極前駆体80のフープが巻き付けられている。このとき混合体の充填方法や圧入度合いは特に限定されない。図4、図5に示す装置でエキスパンドメタル100にある程度伸びが生じる程度に圧入してあってもよい。また混合体をペースト状に調製してエキスパンドメタル100を浸漬あるいは塗布して充填し、乾燥させたものを電極前駆体80として用いてもよい。
【0040】
電極前駆体80は圧延ローラー62、63の間に供給される。この状態で圧延ローラー62、63を互いに逆方向に回転させると電極前駆体80が圧延される。このとき図7に示すように、エキスパンドメタル100の短目方向102に対し、圧延の方向103は45°以内の範囲にある。また0°を超えることがさらに好ましい。
【0041】
なお、以上の説明では、正極1、負極2とも、エキスパンドメタル100を集電体1A、11にそれぞれ用いた場合を説明した。しかしながら本発明はこれに限定されない。正極1、負極2のどちらか一方のみがこのような構造を有していてもよい。
【0042】
またエキスパンドメタル100として菱形の開口200を設けた場合を説明した。これ以外に、ボンド206が長目方向101に沿って長い、亀甲形の開口を設けたエキスパンドメタルを集電体1A、11の少なくともいずれか一方に用いてもよい。但し、亀甲形の開口を設けたエキスパンドメタルの方が伸びの許容範囲が小さいので、図2、図3に示すように菱形の開口200を設けたエキスパンドメタル100を用いるほうが好ましい。
【0043】
なお、エキスパンドメタル100のフープの長手方向に対し、短目方向102の角度を変えるには、例えば国際公開第94/15375号に開示された方法を適用することができる。すなわち、エキスパンドメタル100の材料として金属のシート材を用いる。そしてシート材の送り方向に対して傾斜して設けられたダイと、このダイに噛合するカッターとで構成されたダイセットを用いて開口200を形成する。
【0044】
また電池として、円筒形のリチウム二次電池を例に説明したが、これに限られないことはいうまでもない。角形の電池に適用してもよく、その場合、巻回型の電池に適用しても積層型の電池に適用してもよい。
【0045】
(実施例)
以下、圧延における例を用いて本実施の形態の効果を説明する。活物質を含む混合体は以下の手順で作製した。LiTi12粉末(チタン工業製)90gと、アセチレンブラック10g、及びポリテトラフルオロエチレン(ダイキン工業製)5.2gと水10gを混練機(特殊機化工業製混練機、HIVISMIX)にて60分間混合し、ペースト状の活物質を含む混合物を調製した。
【0046】
また、正極1の集電体1Aとして用いたエキスパンドメタル100はアルミニウム製である。図3に示す板厚204は0.1mm、ストランド203の幅205は0.2mm、長目方向の中心間距離201は3.0mm、短目方向の中心間距離202は1.1mmである。
【0047】
次に、ポリエチレンテレフタレート(PET)製のフィルム上にエキスパンドメタル100を設置し、アルミニウム製スキージを用いて、混合体55を塗布し、正極1の電極前駆体80を作製した。
【0048】
次に電極前駆体80をPETフィルムとともに160℃の減圧下において12時間乾燥した後、電極前駆体80からPETフィルムを引き剥がした。このときの電極前駆体80の厚みは900μmであり、体積と重量、及び各材料の真密度から算出される多孔度はおよそ60%であった。
【0049】
作製した電極前駆体80を、短目方向102に沿った方向(0°方向)、短目方向102を基準として5°、15°、30°、45°、60°の角度方向、及び長目方向101に沿った方向(90°方向)に、長さ10cm、幅5cmの大きさとなるように、それぞれ2枚切り出した。
【0050】
そして切断した電極前駆体80をロールプレス機(サンクメタル製、油圧式加圧力3トン、ローラー回転速度3rpm)にて、500μm、300μmのローラーギャップで5回ずつ圧延した。500μmのギャップで圧延した正極のうち、0°方向、5°方向、15°方向、30°方向、45°方向、60°方向、90°方向の試料をそれぞれ試料A、B、C、D、E、F、Gとし、300μmのギャップで圧延した正極のうち、0°方向、5°方向、15°方向、30°方向、45°方向、60°方向、90°方向の試料をそれぞれ試料H、I、J、K、L、M、Nとする。各試料の圧延条件とエキスパンドメタル100の切れの発生有無を(表1)に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
圧延後の正極の厚みは若干のバラつきがあるものの、およそロールギャップと同様であった。500μmのロールギャップで圧延した後の試料Aから試料Gは長さ方向に約4%の伸びを生じ、幅方向への伸びは、ほぼ観察されなかった。これらの重量、厚み、及び各材料の真密度と伸び率から多孔度を算出するとおよそ40%程度である。
【0053】
一方、300μmのロールギャップで圧延した後の試料Hから試料Lは長さ方向に約25%の伸びを生じ、幅方向への伸びは3%程度であった。これらの重量、厚み、及び各材料の真密度と伸び率から多孔度を算出するとおよそ20%程度である。
【0054】
試料N(90°方向)の場合には、ロールプレス後に明確に正極の切れが観察されたため、伸び率や多孔度の算出はできなかった。それ以外の試料におけるエキスパンドメタル100の切れの有無を観察するため、以下のようにして正極層1Bを除去した。まず試料Aから試料Mの正極を一辺が2cmの正方形に切り抜き、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)に12時間浸漬した。その後、超音波を加えることで、エキスパンドメタル100に傷をつけずに正極層1Bを除去した。
【0055】
その結果、試料Aから試料Lにおいては、エキスパンドメタル100の切れは確認できなかったが、試料Mにおいては数箇所で切れが観察された。
【0056】
試料Aから試料Gでは圧縮率が低く、上述のように多孔度は40%程度である。そのため、エキスパンドメタル100には大きな伸びは発生せず、切れも発生しなかった。特に試料F、Gと試料M,Nとを比べると、圧縮率の違いによるエキスパンドメタル100の伸びへの影響は顕著である。電極としての体積エネルギー密度を高めるためには圧縮率を高める必要がある。また非水電解質を用いるリチウムでは、電極内の抵抗を低減するためにも圧縮率を高める必要がある。そのため、本実施の形態では短目方向102に対し45°以内の方向から圧延し、正極層1Bの圧縮率を高める。その際、電極層の多孔度を40%未満にすることで高いエネルギー密度を確保することができる。
【0057】
なお、データを示していないが、試料A〜試料Eと同じ材料を用いてローラーギャップを250μmにして圧延したところ、いずれの試料でもロールプレス後に正極の切れが観察されたものがあった。さらに、板厚204が0.03mm〜0.1mm、ストランド203の幅205が0.13mm〜0.22mmの範囲のアルミニウム製エキスパンドメタルを用いて上記と同様にローラーギャップを250μmにして圧延したが、いずれの試料でもロールプレス後に正極の切れが観察されたものがあった。したがって、アルミニウム製エキスパンドメタルを用いて正極を作製する場合、電極層の多孔度は20%までに留めることが好ましい。
【0058】
上述のように電極層の多孔度は20%以上、40%未満にする。このときエキスパンドメタル100は4%から25%程度伸びる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の製造方法によれば、追加基材による体積エネルギー密度の減少は生じず、加圧成型により体積エネルギー密度を増加させる効果のみを発揮した、リチウム二次電池用電極を作製することができる。したがってこの方法で作製した電極を用いたリチウム二次電池の体積エネルギー密度を高めることができる。そのため、産業上有用である。
【符号の説明】
【0060】
1 正極
1A,11 集電体
1B 正極層
2 負極
3 セパレータ
4 電極群
5 ケース
6 封口板
7 ガスケット
8 正極リード
9 負極リード
10A,10B 絶縁板
15 負極層
16 正極キャップ
18 PTC素子
19 電流遮断部材
30 電池
51,61 巻き出しリール
52,53 成形ローラー
54 圧入ローラー
55 混合体
56 シート
62,63 圧延ローラー
80 電極前駆体
100 エキスパンドメタル
101 長目方向
102 短目方向
103 方向
200 開口
201 長目方向の中心間距離
202 短目方向の中心間距離
203 ストランド
204 板厚
205 幅
206 ボンド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質を含む混合体を調製するステップと、
長目方向のメッシュ幅と短目方向のメッシュ幅とを有するエキスパンドメタルを集電体とし、前記集電体の短目方向に対し45°以内の方向から調製した前記混合体を前記集電体のメッシュ開口内に圧入するステップと、を備えたことを特徴とするリチウム二次電池用電極の製造方法。
【請求項2】
前記集電体の短目方向に対し0°を超え45°以下の方向から前記混合体をメッシュ内に圧入することを特徴とする請求項1記載のリチウム二次電池用電極の製造方法。
【請求項3】
前記活物質が正極活物質であり、前記集電体の材質が、アルミニウムを主体とする金属であることを特徴とする請求項1記載のリチウム二次電池用電極の製造方法。
【請求項4】
前記活物質が、LiMO(M:遷移金属)の化学式であらわされる層状構造を有した化合物もしくはLiM(M:遷移金属、もしくは遷移金属の一部がLiで置換)の化学式で表されるスピネル構造を有した化合物であることを特徴とする請求項1記載のリチウム二次電池用電極の製造方法。
【請求項5】
長目方向のメッシュ幅と短目方向のメッシュ幅とを有するエキスパンドメタルを集電体とし、活物質を含む混合体を前記集電体のメッシュ内に充填して電極前駆体を形成するステップと、
前記集電体の短目方向に対し45°以内の方向から形成した前記電極前駆体を圧延するステップと、を備えたことを特徴とするリチウム二次電池用電極の製造方法。
【請求項6】
前記集電体の短目方向に対し0°を超え45°以下の方向から前記電極前駆体を圧延することを特徴とする請求項5記載のリチウム二次電池用電極の製造方法。
【請求項7】
前記活物質が正極活物質であり、前記集電体の材質が、アルミニウムを主体とする金属であることを特徴とする請求項5記載のリチウム二次電池用電極の製造方法。
【請求項8】
前記活物質が、LiMO(M:遷移金属)の化学式であらわされる層状構造を有した化合物もしくはLiM(M:遷移金属、もしくは遷移金属の一部がLiで置換)の化学式で表されるスピネル構造を有した化合物であることを特徴とする請求項5記載のリチウム二次電池用電極の製造方法。
【請求項9】
第1電極と、前記第1電極と極性の異なる第2電極とを対向させて電極群を形成するステップと、
前記電極群に非水電解質を含ませるステップと、を備え、
前記第1電極と前記第2電極はそれぞれ、電気化学的にリチウムを挿入、脱離可能な活物質を含み、
前記第1電極と前記第2電極との少なくとも一方は、
活物質を含む混合体を調製するステップと、
長目方向のメッシュ幅と短目方向のメッシュ幅とが異なるエキスパンドメタルを集電体とし、前記集電体の短目方向に対し45°以内の方向から調製した前記混合体を前記集電体のメッシュ内に圧入するステップと、を含む方法で形成されたことを特徴とするリチウム二次電池の製造方法。
【請求項10】
第1電極と、前記第1電極と極性の異なる第2電極とを対向させて電極群を形成するステップと、
前記電極群に非水電解質を含ませるステップと、を備え、
前記第1電極と前記第2電極はそれぞれ、電気化学的にリチウムを挿入、脱離可能な活物質を含み、
前記第1電極と前記第2電極との少なくとも一方は、
長目方向のメッシュ幅と短目方向のメッシュ幅とが異なるエキスパンドメタルを集電体とし、活物質を含む混合体を前記集電体のメッシュ内に充填して電極前駆体を形成するステップと、
前記集電体の短目方向に対し45°以内の方向から形成した前記電極前駆体を圧延するステップと、を含む方法で形成されたことを特徴とするリチウム二次電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−187270(P2011−187270A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50248(P2010−50248)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】