説明

リチウム二次電池用電極体の製造方法

【課題】本発明は、コールドスプレー法を用いた場合であっても、集電体表面の平坦性に優れたリチウム二次電池用電極体の製造方法を提供することを主目的とする。
【解決手段】本発明は、コールドスプレー法を用いて、集電体の一方の表面上に活物質粒子を衝突させて付着・堆積させることにより活物質層を形成する活物質層形成工程を有するリチウム二次電池用電極体の製造方法であって、上記活物質層形成工程では、上記活物質粒子として二次粒子を用い、上記コールドスプレー法に用いられるガス圧力、ガス温度、および上記二次粒子の平均粒径を調整することにより、上記集電体表面上に上記二次粒子が衝突する際の衝突エネルギーを、上記集電体表面の平坦性を保持して上記活物質層の形成を行うことが可能な程度のエネルギーに制御することを特徴とするリチウム二次電池用電極体の製造方法を提供することにより、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集電体表面の平坦性に優れたリチウム二次電池用電極体を製造することが可能なリチウム二次電池用電極体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、高い起電力および高エネルギー密度を有するため、情報関連機器、通信機器の分野で広く実用化されている。一方、自動車の分野においても、環境問題、資源問題から電気自動車やハイブリッド自動車の開発が急がれており、これらの電源としても、リチウム二次電池が検討されている。
【0003】
上記リチウム二次電池に用いられる電極体は、通常、活物質を含有する活物質層と、活物質層の集電を行う集電体とを有するものである。また、電極体の製造方法としては、通常、スラリーを用いた塗布法等が挙げられるが、電極体の生産性の向上、電池における活物質の利用率の向上の観点から、例えば、特許文献1には、コールドスプレー法を用いて、活物質の粒子を集電体表面に衝突させることで、直接活物質層を集電体表面に形成する方法が提案されている。また、特許文献2には、コールドスプレー法を用いて電極体を形成する際に、集電体表面に活物質の粒子を強く衝突させることにより、集電体表面に凹部を設け、上記凹部に活物質粒子を埋め込んで活物質層を形成する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−310502号公報
【特許文献2】特許4078338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、リチウム二次電池においては、活物質層中の活物質の利用効率をより高いものとすることが課題となっている。電極体において集電体および活物質層の界面が凹凸を有するものである場合は、集電体の凹部に存在する活物質層がリチウム伝導に寄与できないことが懸念される。そのため、活物質層の利用効率の向上の観点からは、電極体における集電体および活物質層の界面は平坦であることが好ましい。
【0006】
また、近年、リチウム二次電池の電解質層として、固体電解質層を用いることが検討されている。なお、リチウム二次電池の電解質層として固体電解質層を用いる場合は、電極体の集電体としては金属箔等の薄膜の金属層が好適に用いられる。しかしながら、金属箔を集電体として用い、コールドスプレー法によって電極体を形成する場合は、集電体表面の凹凸が大きくなることにより活物質層表面についても平坦なものとすることが困難となることや、活物質粒子が集電体を貫通してしまうことが懸念される。またその場合、集電体の薄膜化が困難となる。
【0007】
ここで、従来のコールドスプレー法を用いた電極体の製造方法においては、特許文献2のように、集電体表面に積極的に凹凸を発生させて活物質層を形成する条件については検討されているが、集電体表面の平坦性を保持して活物質層を形成するための条件については確立されていないという問題がある。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、コールドスプレー法を用いた場合であっても、集電体表面の平坦性に優れたリチウム二次電池用電極体の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明においては、コールドスプレー法を用いて、集電体の一方の表面上に活物質粒子を衝突させて付着・堆積させることにより活物質層を形成する活物質層形成工程を有するリチウム二次電池用電極体の製造方法であって、上記活物質層形成工程では、上記活物質粒子として二次粒子を用い、上記コールドスプレー法に用いられるガス圧力、ガス温度、および上記二次粒子の平均粒径を調整することにより、上記集電体表面上に上記二次粒子が衝突する際の衝突エネルギーを、上記集電体表面の平坦性を保持して上記活物質層の形成を行うことが可能な程度のエネルギーに制御することを特徴とするリチウム二次電池用電極体の製造方法を提供する。
【0010】
本発明によれば、活物質粒子の種類および集電体表面の硬度等に応じて、上記ガス圧力、ガス温度、および二次粒子の平均粒径を調整することにより、二次粒子の衝突エネルギーを所望の大きさに制御することが可能となることから、集電体表面に凹み、削れ等のダメージを与えることなく、平坦性を保持した状態で、活物質層を形成することが可能となる。また、本発明によれば、活物質粒子として二次粒子を用いることから、集電体表面に二次粒子が衝突する際に二次粒子の凝集構造が変形することにより集電体表面に加わる衝突の衝撃を緩和することができる。よって、活物質粒子として上述した平均粒径を有する一次粒子を用いる場合に比べて、集電体表面に与える上述のダメージを少ないものとすることができる。
【0011】
上記発明においては、上記活物質粒子としてチタン酸リチウムの二次粒子を用い、上記集電体として、その表面の硬度(Hv)が40〜120の範囲内であるものを用い、上記ガス圧力が0.3MPa以上1.0MPa未満の範囲内、上記ガス温度が250℃〜550℃の範囲内、上記二次粒子の平均粒径が1μm〜5μmの範囲内となるように調整して、上記活物質層を形成することが好ましい。上記条件とすることにより、集電体の平坦性により優れたリチウム二次電池用電極体を製造することが可能となる。
【0012】
上記発明においては、上記集電体の材料が銅であることが好ましい。銅を用いた集電体は、その表面が上述のダメージを受けやすいものであることから、本発明の効果を大きく発揮することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、コールドスプレー法を用いて集電体の平坦性に優れたリチウム二次電池用電極体を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の電極体の製造方法の一例を示す工程図である。
【図2】本発明の電極体の製造方法におけるコールドスプレー法に用いられる装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のリチウム二次電池用電極体(以下、単に電極体と称する場合がある。)の製造方法について説明する。
【0016】
本発明の電極体の製造方法は、コールドスプレー法を用いて、集電体の一方の表面上に活物質粒子を衝突させて付着・堆積させることにより活物質層を形成する活物質層形成工程を有する製造方法であって、上記活物質層形成工程では、上記活物質粒子として二次粒子を用い、上記コールドスプレー法に用いられるガス圧力、ガス温度、および上記二次粒子の平均粒径を調整することにより、上記集電体表面上に上記二次粒子が衝突する際の衝突エネルギーを、上記集電体表面の平坦性を保持して上記活物質層の形成を行うことが可能な程度のエネルギーに制御することを特徴とする製造方法である。
【0017】
なお、本発明において「集電体表面の平坦性を保持する」とは、集電体表面に二次粒子が衝突したことに由来する凹み、削れ等のダメージが生じないことを指す。また、本発明により製造される電極体の集電体表面の平坦性については、例えば電極体の縦断面を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)を用いて観察することによって確認することができる。
【0018】
より具体的に、集電体表面の平坦性としては、集電体表面において最も凸な部分と最も凹んでいる部分との高低差が、活物質粒子の一次粒子の最大粒子径以下、具体的には、5μm以下であることを指す。なお、上記高低差については、例えば以下のような測定方法により求めることができる。すなわち、電極体の縦断面をSEMを用いて観察することにより確認することができる。
【0019】
また、本発明において、「二次粒子が衝突する際の衝突エネルギーが集電体表面の平坦性を保持して上記活物質層の形成を行うことが可能な程度のエネルギーを有する」とは、上記二次粒子の衝突エネルギーが、集電体表面に上述したダメージを与えない程度で、かつ上記二次粒子が集電体近傍に存在する空気の淀みや衝撃波を突き抜けて、集電体表面に活物質粒子を付着・堆積させて活物質層を形成することが可能な程度のエネルギーであることを指す。
【0020】
また、コールドスプレー法とは、基材表面に被膜を形成する手法の1つであり、被膜材料の融点、軟化点よりも低い温度のガスをコールドスプレー法用のノズル内で超音速化し、超音速化されたガス中に被膜材料の粒子を分散させて基材表面に吹きつけることで、上記粒子を固相状態のまま、大気中で基材表面に衝突させて付着・堆積させることにより被膜を形成する手法である。
【0021】
ここで、本発明の電極体の製造方法について図を用いて説明する。図1(a)、(b)は本発明の電極体の製造方法の一例を示す工程図である。また、図2は、本発明の電極体の製造方法におけるコールドスプレー法に用いられる装置の一例を示す概略図である。
本発明の電極体の製造方法は、コールドスプレー法に用いられる装置30を用いて、集電体1の一方の表面上に活物質粒子21を衝突させて付着・堆積させること(図1(a)参照)により活物質層2を形成する活物質層形成工程(図1(b))を有する製造方法である。また、本発明における活物質層形成工程では、活物質粒子21として二次粒子21’を用い、コールドスプレー法に用いられるガス圧力、ガス温度、および二次粒子21’の平均粒径を調整することにより、集電体1表面上に二次粒子21’が衝突する際の衝突エネルギーを、集電体1表面の平坦性を保持して活物質層2の形成を行うことが可能な程度のエネルギーに制御する。本発明においては、上述の工程を行うことにより、集電体1および活物質層2を有する電極体10を製造することができる。
より具体的には、図2に示すように、コールドスプレー法に用いられる装置30のガス供給部31から吹き込まれたガスを加熱部32で所望のガス温度まで加熱した後、ノズル33まで供給する。次いで、ノズル33内で所望のガス圧力Pを加えることにより、ガスを超音速化させてノズル33から集電体1表面に吹き付ける。この際、粒子供給部34からノズル33内に二次粒子21’を供給することにより、超音速化されたガスに二次粒子21’を分散させることにより、ノズル33から集電体1表面にガスを吹き付ける際に、二次粒子21’を集電体1表面に衝突させることができる。
ここで、二次粒子21’の衝突エネルギーは、二次粒子21’の質量および二次粒子21’の速度によって決定されるものである。また、本発明においては、二次粒子21’の平均粒径を調整することにより二次粒子21’の質量を制御し、ガス圧力およびガス温度を調整することにより二次粒子21’が分散されるガスの速度、すなわち二次粒子21’の速度を制御することが可能となる。
【0022】
本発明は、コールドスプレー法を用いた電極体の製造方法において、集電体の平坦性を保持して活物質層を形成するための条件として、活物質粒子が有する衝突エネルギーに着目した点に大きな特徴と有するものである。すなわち、本発明によれば、活物質粒子の種類および集電体表面の硬度等に応じて、上記ガス圧力、ガス温度、および二次粒子の平均粒径を調整することにより、二次粒子の衝突エネルギーを所望の大きさに制御することが可能となることから、集電体表面に凹み、削れ等のダメージを与えることなく、平坦性を保持した状態で、活物質層を形成することが可能となる。また、本発明によれば、活物質粒子として二次粒子を用いることから、集電体表面に二次粒子が衝突する際に二次粒子の凝集構造が変形することにより集電体表面に加わる衝突の衝撃を緩和することができる。よって、活物質粒子として上述した平均粒径を有する一次粒子を用いる場合に比べて、集電体表面に与える上記ダメージを少ないものとすることができる。
【0023】
以下、本発明の電極体の製造方法における活物質層形成工程の詳細について説明する。
【0024】
1.活物質層形成工程
本発明における活物質層形成工程は、コールドスプレー法を用いて集電体の一方の表面に活物質粒子を衝突させて付着・堆積させることにより活物質層を形成する工程である。また、本発明においては、活物質粒子の種類および集電体の種類に応じて、活物質粒子の二次粒子の衝突エネルギーを制御することで、集電体表面の平坦性を保持して活物質層の形成を行うことを特徴とするものである。また、上記二次粒子の衝突エネルギーは、ガス圧力、ガス密度、および二次粒子の平均粒径を調整することにより制御を行うことが可能となるものである。
【0025】
(1)活物質粒子
本工程に用いられる活物質粒子について説明する。本発明に用いられる活物質粒子は、二次粒子であり、コールドスプレー法を用いて所望の活物質層を形成することが可能であれば特に限定されない。また上記活物質粒子に用いられる活物質は、本発明により製造される電極体と、上記電極体とともに用いられる対極との電位の関係により、正極活物質または負極活物質のいずれにも用いられるものである。
【0026】
このような活物質としては、一般的なリチウム二次電池の活物質であれば特に限定されない。例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、Li1+XNi1/3Mn1/3Co1/3、マンガン酸リチウム(LiMn)、Li1+XMn2−x−y(MがAl、Mg、Co、Fe、Ni、Znから選択される一種以上)で表わされる組成の異種元素置換Li−Mnスピネル、チタン酸リチウム(LiTiO)、リン酸金属リチウム(LiMPO、M=Fe、Mn、Co、Ni)、遷移金属酸化物である酸化バナジウム(V)、酸化モリブデン(MoO)、硫化チタン(TiS)、グラファイト、ハードカーボン等の炭素材料(C)、リチウムコバルト窒化物(LiCoN)、リチウムシリコン酸化物(LiSi)、リチウム金属(Li)またはリチウム合金(LiM、M=Sn、Si、Al、Ge、Sb、P等)、リチウム貯蔵性金属間化合物(MgM、M=Sn、Ge、SbもしくはNSb、N=In、Cu,Mn)などとそれらの誘導体が挙げられる。ここで、上述した活物質は、正極活物質または負極活物質の明確な区別はなく、2種類以上の化合物の充放電電位を比較して貴な電位を示すものを正極活物質に、卑な電位を示すものを負極活物質に用いることができる。また上述の活物質を用いることにより、本発明の製造方法により得られる電極体を用いて任意の電圧のリチウム二次電池を構成することが可能である。本発明においては、特にチタン酸リチウムであることが好ましい。
【0027】
また、本発明における二次粒子の平均粒径としては、二次粒子の衝突エネルギーを所望のエネルギーとすることが可能な程度とすることが可能ならば特に限定されず、活物質粒子の種類に応じて適宜選択されるものである。
このような二次粒子の平均粒径としては、0.1μm〜50μmの範囲内、特に0.5μm〜10μmの範囲内であることが好ましい。より具体的には、活物質粒子がチタン酸リチウムの二次粒子である場合は、上記平均粒径としては、1μm〜5μmの範囲内であることが好ましい。
なお、上記二次粒子の平均粒径については、以下の測定方法により求めることができる。すなわち、レーザ回折散乱法で算出した二次粒子の体積分布における小さい側から積算値50%の粒子径を求めることにより、上記二次粒子の平均粒子径を求めることができる。
【0028】
上記二次粒子の平均粒径が上記範囲に満たない場合は、二次粒子の質量が軽くなりすぎることから、集電体に二次粒子を衝突させる際に、二次粒子が集電体近傍の空気の淀みや衝撃波を突き抜けることができず、集電体表面に活物質粒子を付着・堆積させて活物質層を形成することが困難となる可能性があるからである。また、二次粒子の流動性が著しく低下して安定的に集電体表面に二次粒子を吹き付けることが困難となる可能性があるからである。一方、上記二次粒子の平均粒径が上記範囲を超える場合は、二次粒子の質量が重くなりすぎることから、二次粒子を十分に加速できず、集電体表面に活物質粒子を付着・堆積させて活物質層を形成することが困難となる場合や、集電体表面に二次粒子を衝突させる際に、凹み、削れ等のダメージの発生を抑制して衝突させることが困難となる可能性があるからである。
【0029】
また、二次粒子を構成する活物質粒子の一次粒子の平均粒径としては、所望の活物質層を形成することが可能であれば特に限定されないが、0.005μm〜5μmの範囲内、特に0.05μm〜1μmの範囲内であることが好ましい。より具体的には、活物質粒子がチタン酸リチウムの二次粒子である場合は、一次粒子の平均粒径が0.01μm〜0.5μmの範囲内であることが好ましい。上記一次粒子の平均粒径が上記範囲に満たない場合は、集電体表面に活物質層を形成することが困難である場合や、製造工程に時間が多くかかることから製造効率が低下してしまう可能性があるからである。一方、上記一次粒子の平均粒径が上記範囲を超える場合は、二次粒子の平均粒子径を上述した範囲内とした場合も、集電体表面にダメージを与える可能性があるからである。
【0030】
(2)集電体
次に、本工程に用いられる集電体について説明する。本工程に用いられる集電体としては、平坦性を有し、その表面に活物質粒子を付着・堆積させて活物質層を形成することが可能であれば特に限定されない。また、上記集電体としては、正極集電体であっても良く、負極集電体であってもよい。
【0031】
また、本工程においては、上述した活物質粒子の種類とともに、集電体表面の硬度を考慮することにより、上述したコールドスプレー法の各条件が適宜調整されるものである。このような集電体表面の硬度(Hv)としては、活物質層を形成することが可能な程度であれば特に限定されないが、40〜120の範囲内、特に40〜80の範囲内であることが好ましい。上記硬度が上記範囲に満たない場合は、二次粒子の衝突エネルギーを上記集電体の平坦性を保持することができるように制御することが困難となる可能性があるからであり、一方、上記硬度が上記範囲を超える場合は、得られた電極体の加工性が低下する可能性があるからである。
なお、上記集電体表面の硬度は、例えば、以下の測定方法により求めることができる。すなわち、ビッカース硬さ試験(JISに記載)により求めることができる。
【0032】
また、集電体の厚みとしては、活物質層を形成可能な程度であれば特に限定されず、電極体の用途等に応じて適宜選択することが可能であるが、0.1μm〜1000μmの範囲内、なかでも1μm〜500μmの範囲内、特に10μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。集電体の厚みが上記範囲内であることにより、二次粒子の衝突エネルギーを制御することによる集電体の平坦性を保持する効果を大きく発揮することができるからである。
【0033】
このような集電体の材料としては、具体的には、厚み1μm〜500μmのステンレス(SUS)、Cu、Ni、V、Au、Pt、Al、Mg、Fe、Ti、Co、Zn、Ge、In、Li等、またはポリアミド、ポリイミド、PET、PPS、ポリプロピレン等のフィルムあるいはガラス板やシリコン板上にCu、Ni、V、Al、Pt、Au等の金属を蒸着したものが用いられる。本発明においては、なかでも、Cuを用いたものであることが好ましい。Cuは、安価で比抵抗率が低く、かつ化学安定性が高いからである。Cuとしては、Cuの化学成分が99.90%以上で、引張強さが400N/mm以上のものを用いることができる。
【0034】
(3)ガス
次に、本工程におけるコールドスプレー法に用いられるガスについて説明する。
【0035】
(i)ガス圧力
本工程におけるコールドスプレー法のガス圧力について説明する。上記ガス圧力は、コールドスプレー法に用いられるノズル内に供給されたガスに加えられる圧力であり、ガス温度が一定である場合は、ガス圧力が高いほどガスの速度、すなわち二次粒子の速度を速くすることができる。
【0036】
上記ガス圧力としては、集電体表面に衝突する二次粒子の速度を、集電体表面の平坦性を保持することが可能となる程度であれば特に限定されず、活物質粒子の種類、集電体の種類等に応じて適宜調整される。より具体的には、0.3MPa〜3MPaの範囲内であることが好ましい。さらに具体的には、上記活物質粒子がチタン酸リチウムの二次粒子であり、かつ集電体が上述した集電体表面の硬度を有するものである場合は、0.3MPa以上1.0MPa未満の範囲内であることが好ましい。
【0037】
上記ガス圧力が上記範囲に満たない場合は、上記ガスに分散された二次粒子を十分に加速させることができず、集電体近傍の空気の淀みや衝撃波を二次粒子が突き抜けられないことから、集電体表面に活物質粒子を付着・堆積させて活物質層を形成することが困難となる可能性があるからである。一方、上記ガス圧力が上記範囲を超える場合は、集電体表面に吹き付けられたガスの影響により、集電体近傍の空気の淀みや衝撃波が大きくなることから、二次粒子が上記淀み、衝撃波を突き抜けることが困難となるため、集電体表面に活物質粒子を付着・堆積させて活物質層を形成することが困難となる可能性があるからである。
【0038】
(ii)ガス温度
次に、本工程におけるコールドスプレー法のガス温度について説明する。上記ガス温度は、コールドスプレー法に用いられるノズル内に供給されたガスの温度であり、上記ガス圧力が一定である場合は、ガス温度が高いほどガスの密度が小さくなることから、ノズル内壁面とガスとの摩擦が小さくなり、ガスの速度、すなわち二次粒子の速度をより速いものとすることができる。
【0039】
上記ガス温度としては、活物質粒子および集電体を劣化させず、集電体表面に衝突する二次粒子の速度を、集電体表面の平坦性を保持することが可能となる程度であれば特に限定されず、活物質粒子の種類、集電体の種類、およびガスの種類等に応じて適宜選択される。より具体的には、100℃〜700℃の範囲内であることが好ましい。さらに具体的には、上記活物質粒子がチタン酸リチウムの二次粒子であり、かつ集電体が上述した集電体表面の硬度を有するものである場合は、250℃〜550℃の範囲内であることが好ましい。
【0040】
上記ガス温度が上記範囲に満たない場合は、ガスが十分に膨張せず、ガス密度が高くなることから、ノズル内壁およびノズルとの摩擦が大きくなるため、ガスの速度を十分に速いものとすることが困難となる可能性があるからである。一方、ガス温度が上記範囲に満たない場合は、上記範囲活物質粒子が変質したり、集電体に酸化が生じる可能性があるからである。
【0041】
(iii)ガスの種類
本工程に用いられるガスの種類としては、活物質粒子および集電体を劣化させないものであれば特に限定されない。例えば、乾燥空気(ドライガス)、He、Ar、N等の不活性ガス等を挙げることができる。
【0042】
(4)衝突エネルギーの制御方法
本工程における二次粒子の衝突エネルギーの制御方法としては、ガス圧力、ガス温度、および二次粒子の平均粒径を調整することにより、上記衝突エネルギーを集電体表面の平坦性を保持し、活物質層を形成することが可能となるエネルギーに制御することが可能な方法であれば特に限定されない。このような制御方法としては、評価用の活物質微粒子、および評価用の集電体を準備し、ガス圧力、ガス温度、および二次粒子の平均粒径の各パラメータを変化させながら、評価用の活物質層を評価用の集電体表面に形成することにより、各パラメータの最適化する方法を挙げることができる。
【0043】
ここで、本発明においては、集電体表面に凹み等のダメージを与えることなく、活物質層形成後の集電体表面が上述した平坦性を示すことが可能であり、かつ、集電体近傍の空気の淀みや衝撃波を突き抜けて集電体表面に活物質粒子を付着・堆積させて活物質層を形成することを可能とするために必要な二次粒子の衝突エネルギー(以下、平坦化エネルギーと称して説明する場合がある。)については、活物質粒子の種類、より詳しくは、活物質粒子の二次粒子の凝集構造、活物質粒子の一次粒子の質量等や、集電体表面の硬度等により異なるものであり、活物質粒子および集電体の組み合わせにより異なるものである。よって、上記平坦化エネルギーについては、特定の数値範囲内で設定することは困難である場合が多い。したがって、本発明においては、実際に用いられる集電体や活物質粒子と同様の評価用の集電体や評価用の活物質粒子を用いて、ガス圧力、ガス温度、および二次粒子の平均粒径を変化させて評価用の活物質層を形成することにより、二次粒子の衝突エネルギーが上記平坦化エネルギーとなるガス圧力、ガス温度、および二次粒子の平均粒径等を実測値から求める方法を好適に用いることができる。
【0044】
(5)活物質層
本工程により形成される活物質層の厚みとしては、所望の電極特性を示すことが可能であれば特に限定されない。具体的には、上記活物質層の厚みが、0.1μm〜1000μmの範囲内であることが好ましい。
【0045】
(6)その他
コールドスプレー法に用いられる装置、ガス圧力、ガス温度、二次粒子の平均粒径以外の諸条件については、一般的なものとすることができるので、ここでの説明は省略する。
【0046】
2.その他の工程
本発明の電極体の製造方法は、上述した活物質層形成工程を有していれば特に限定されず、必要に応じてその他の工程を適宜追加することができる。
このような工程としては、例えば集電体上に形成された活物質層を加圧して、集電体および活物質層の密着性を向上させる加圧工程等を挙げることができる。
【0047】
3.電極体
本発明の電極体の製造方法により製造される電極体は、リチウム二次電池の正極、または負極に用いられるものである。また、本発明においては、なかでも、電解質層として固体電解質層を用いた全固体型リチウム二次電池に用いられることが好ましい。
【0048】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0049】
以下に実施例および比較例を示して本発明をさらに具体的に説明する。
【0050】
[実施例1〜9]
以下の手順により、電極体を作成した。図2に示すコールドスプレー法用の装置30を用い、ガスとして圧縮空気を用い、電極材料(活物質)であるチタン酸リチウム粉末を表1に示す実施例1〜9の各条件にてノズル33より噴射するとともに集電体である銅基材を走査させて、チタン酸リチウム粉末の噴射地点を5回通過させることで、集電体上にチタン酸リチウムの被膜(活物質層)を形成して、電極体を得た。なお、表1中の二次粒子径は、二次粒子の平均粒径を示している。
【0051】
実施例1〜9の電極体について、被膜厚さ、集電体表面の平坦性、および集電体の損耗について評価を行った。
被膜厚さは接触式輪郭形状測定機にて測定した。結果を表1に示す。なお、表1における被膜厚さの評価については、10μm以上の被膜が形成されていたものを◎、1μm以上10μm未満の被膜が形成されていたものを○、1μm未満のものを×で示している。
また、集電体表面の平坦性、および集電体の損耗については、実施例1〜9の電極体を切断し、切断面を研磨後、走査型顕微鏡で観察することにより確認した。なお、集電体表面の平坦性(平坦性)の評価については、集電体の表面の凹凸が3μm未満のものを◎、上記凹凸が3μm以上5μm未満で、かつ被膜全体に存在する上記凹凸が少ないものを○、上記凹凸が3μm以上5μm未満で、かつ被膜全体に存在する上記凹凸が多いものを△、上記凹凸が5μm以上のものを×で示している。
【0052】
【表1】

【0053】
実施例1〜9において得られた電極体における被膜はいずれも、実際の電極体として使用した場合に問題のない程度の厚みを有していた。
また、実施例1〜9に用いた集電体はいずれも所望の平坦性を有していた。また、チタン酸リチウム粉末が衝突したことによるダメージは観察されなかった。
【0054】
[比較例]
比較例として、チタン酸リチウム粉末の二次粒子の平均粒径を10μmまたは20μmとし、ガス圧力を1.0MPa、2.0MPa、3.0MPa、または4.0MPaのいずれかとし、ガス温度を100℃、200℃、300℃、または400℃のいずれかとしたこと以外は、実施例1〜9の電極体の形成手順と同様にして、複数の電極体を作製した。また、得られた複数の電極体について、実施例1〜9と同様にして被膜厚さ、集電体表面の平坦性、および集電体の損耗について評価を行った。結果を表1に示す。なお、表1においては、比較例において得られた複数の電極体についての評価をまとめて示している。
比較例で得られた複数の電極体の中には、被膜厚さが10μm以上を超えるものもあったが、いずれの電極体においても被膜を平坦に形成することが困難であり、良好な被膜を得ることができなかった。また、複数の電極体に用いた集電体は、いずれも、その表面の凹凸が5μm以上となり、平坦性を示さなかった。また、いずれの集電体にもチタン酸リチウム粉末の衝突によるダメージが観察された。
【符号の説明】
【0055】
1 … 集電体
2 … 活物質層
10 … 電極体
21 … 活物質粒子
21’ … 二次粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コールドスプレー法を用いて、集電体の一方の表面上に活物質粒子を衝突させて付着・堆積させることにより活物質層を形成する活物質層形成工程を有するリチウム二次電池用電極体の製造方法であって、
前記活物質層形成工程では、前記活物質粒子として二次粒子を用い、
前記コールドスプレー法に用いられるガス圧力、ガス温度、および前記二次粒子の平均粒径を調整することにより、前記集電体表面上に前記二次粒子が衝突する際の衝突エネルギーを、前記集電体表面の平坦性を保持して前記活物質層の形成を行うことが可能な程度のエネルギーに制御することを特徴とするリチウム二次電池用電極体の製造方法。
【請求項2】
前記活物質粒子としてチタン酸リチウムの二次粒子を用い、
前記集電体として、その表面の硬度(Hv)が40〜120の範囲内であるものを用い、
前記ガス圧力が0.3MPa以上1.0MPa未満の範囲内、前記ガス温度が250℃〜550℃の範囲内、前記二次粒子の平均粒径が1μm〜5μmの範囲内となるように調整して、前記活物質層を形成することを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池用電極体の製造方法。
【請求項3】
前記集電体の材料が銅であることを特徴とする請求項2に記載のリチウム二次電池用電極体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−12300(P2013−12300A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132574(P2011−132574)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000191009)新東工業株式会社 (474)
【Fターム(参考)】