説明

リチウム二次電池

本発明は、リチウム二次電池において、内部抵抗を低減し、サイクル寿命を改善するとともに、異常過熱や、主に生産時に発生する内部短絡を抑制することを目的とする。
本発明は、複合リチウ厶酸化物からなる正極、リチウムを吸蔵および放出し得る材料からなる負極、正極と負極との間に介在するセパレータ、および非水電解液より構成されるリチウム二次電池であって、セパレータは、不織布からなり、正極および負極の少なくとも一方が、その表面に接着された多孔膜を有し、多孔膜は、無機酸化物フィラーおよび結着剤からなる。不織布の厚みは、好ましくは15μm以上50μm以下である。不織布は、好ましくは150℃以上のメルトダウン温度を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合リチウム酸化物からなる正極、リチウムを吸蔵および放出し得る材料からなる負極、正極と負極との間に介在するセパレータ、および非水電解液により構成され、サイクル寿命、短絡抑制能力および安全性に優れ、かつ安価なリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池(リチウムイオン二次電池)などの化学電池では、正極と負極との間を電気的に絶縁し、さらに非水電解液を保持する役目をもつセパレータが介在している。
【0003】
現在、リチウム二次電池では、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂からなる微多孔フィルムがセパレータとして用いられている。微多孔フィルムは、通常、押出成形等の成形方法で得られたシートを延伸加工して製造される。
【0004】
ただし、微多孔フィルムは、一般に空孔率が低く、非水電解液の保液性も低いため、電池の内部抵抗が高くなりやすい。特に電池の充放電を繰り返した場合に活物質の膨張および収縮により電極が厚くなると、微多孔フィルムの保液性が低いために、電極に十分量の非水電解液を供給できず、液涸れによる容量低下が起こりやすい。
【0005】
微多孔フィルムからなるセパレータの代わりに、安価で非水電解液の保液性が高い不織布からなるセパレータを用いたリチウム二次電池も提案されている。不織布は、通常、繊維同士を織らずに集合させて製造される。
【0006】
ただし、不織布は機械強度が弱く、充放電の繰り返しで生成するデンドライトが容易に不織布を貫通し、正負極間が短絡するため、長いサイクル寿命を期待できない。また、微多孔フィルムを用いる場合に比べて、不織布を用いる場合には、製造工程で脱落した電極合剤や混入する異物が電極表面に付着して、短絡を生じさせる可能性も高くなり、生産歩留まりが低くなる。
【0007】
また、微多孔フィルムおよび不織布には、以下のような共通点がある。
【0008】
微多孔フィルムおよび不織布は、内部短絡の発生時や、釘のような鋭利な形状の突起物が電池を貫いた時に、瞬時に発生する短絡反応熱により破損する可能性がある。このような破損は短絡部を拡大させ、さらなる反応熱を発生させ、電池の異常過熱を促進する。さらに、150℃以上の高温下に電池が置かれた場合、微多孔フィルムや不織布は、収縮もしくは溶融するため、極板群(特に捲回型の極板群)に歪みが生じ、正負極間が短絡し、異常過熱に陥る可能性がある。
【0009】
次に、不織布をセパレータとして用いるとともに、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVDF)層を電極表面に形成する技術(関連技術1)も提案されている(特許文献1)。関連技術1は、非水電解液の保持性を高めるとともに、内部短絡を防止することを目的としている。
【0010】
しかし、PVDF層は、高温下で、非水電解液で膨潤したり、非水電解液に溶出したりする。そのため、セパレータが熱収縮する程度の高温下では、PVDF層が電解液に溶出してしまい、極板間が短絡するため、熱暴走は回避できない。さらに、PVDF層は、空孔を有さないため、保液性が低く、電池の内部抵抗を大きくする原因となる。
【0011】
次に、微多孔フィルムをセパレータとして用いた電池において、固体粒子および結着剤からなる多孔膜を電極表面の保護膜として用いる技術(関連技術2)や、不織布を電極表面の保護膜として用いる技術(関連技術3)が提案されている(特許文献2)。
【0012】
しかし、関連技術2の場合、非水電解液の保液性の低い微多孔フィルムをセパレータに用いているため、内部抵抗を低減したりサイクル寿命を改善できるものではない。また、関連技術3の場合、実質上、セパレータを2枚重ねて使用するのと同じことになる。しかし、極めて薄いセパレータを重ねて使用することは製造工程上困難であるため、結局厚いセパレータを用いる必要があり、電池容量の低下は免れない。
【特許文献1】特開2001−176497号公報
【特許文献2】特開平7−220759号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、リチウム二次電池において、内部抵抗を低減し、サイクル寿命を改善するとともに、異常過熱や、主に生産時に発生する内部短絡を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、リチウム二次電池において、セパレータとして不織布を用いることにより、内部抵抗を低減し、サイクル寿命を改善するとともに、所定の多孔膜を電極表面に接着することにより、異常過熱や、主に生産時における内部短絡の発生を防止するものである。
【0015】
すなわち、本発明は、複合リチウム酸化物からなる正極、リチウムを吸蔵および放出し得る材料からなる負極、正極と負極との間に介在するセパレータ、および非水電解液より構成されるリチウム二次電池であり、以下の特徴を有する。
【0016】
まず、セパレータは、不織布からなる。不織布は、非水電解液の保液性が高いため、充放電に伴う電解液不足(液涸れ)が抑制され、電池のサイクル寿命が向上する。また、不織布は、安価であるため、電池を低コストで生産できるようになる。なお、不織布とは、繊維同士を織らずに集合させて製造されるシート状物である。
【0017】
セパレータとして用いる不織布の厚みは、15μm以上50μm以下であることが望ましい。不織布の厚みを15μm以上にすることで、不織布が保持する非水電解液の量を十分に確保することができる。また、不織布の厚みを50μm以下にすることで、電池設計容量および電池特性をバランスよく維持できる。
【0018】
セパレータとして用いる不織布は、150℃以上のメルトダウン温度を有することが望ましい。メルトダウン温度とは、不織布を構成する繊維同士が融着する温度である。メルトダウン温度が150℃以上であれば、電池が高温に曝されたときに、セパレータが変形する確率が低くなり、電池の安全性が高められる。
【0019】
不織布は、熱的安定性に優れる等の理由から、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリイミドおよびポリエチレンテレフタレートよりなる群から選択される少なくとも1種からなることが望ましい。
【0020】
次に、正極および負極の少なくとも一方は、少なくともその対極と対向する表面に接着された多孔膜を有する。ここで、多孔膜は、無機酸化物フィラーおよび結着剤からなる。
【0021】
正極および負極の少なくとも一方が、その表面に接着された多孔膜を有する場合、生産時に異物や脱落合剤が電極表面に付着し、それが不織布からなるセパレータを貫通しても、短絡は回避できる。従って、セパレータとして、微多孔フィルムよりも目の粗い不織布を用いる場合であっても、生産時の短絡発生による生産歩留まりの低下を抑制できる。また、釘のような鋭利な形状の突起物が電池を貫き、数百℃の短絡反応熱が発生し、セパレータが破損した場合でも、多孔膜が形状を維持するため、短絡部の拡大を抑止でき、熱暴走を回避できる。
【0022】
本発明は、多孔膜が正極表面のみに接着されている場合、多孔膜が負極表面のみに接着されている場合、および多孔膜が正極表面と負極表面にそれぞれ接着されている場合を含むが、なかでも多孔膜が負極表面のみに接着されている形態が好ましい。
【0023】
一般に、正極は、正極合剤層を両面に担持した帯状の正極集電体からなり、負極は、負極合剤層を両面に担持した帯状の負極集電体からなる。よって、多孔膜が負極表面に接着される場合、多孔膜は、負極集電体の両面に担持された負極合剤層が、それぞれ完全に覆われるように形成されることが望ましい。また、多孔膜が正極表面に接着される場合も、多孔膜は、正極集電体の両面に担持された正極合剤層が、それぞれ完全に覆われるように形成されることが望ましい。
【0024】
異常過熱や内部短絡を抑制する観点からは、多孔膜は厚みが大きいほど好ましいが、厚くなりすぎると、電池特性が劣化する。よって、電池の安全性と性能とのバランスを考慮すると、多孔膜の厚みは、0.5μm以上20μm以下であることが望ましい。
【0025】
多孔膜の結着剤は、アクリロニトリル基を含む高分子を少なくとも含むことが望ましい。また、無機酸化物フィラーには、アルミナを用いることが好ましい。
【0026】
アクリロニトリル基を含む高分子は、耐熱性が高く、高温下でも分解が抑制されるため、多孔膜の構造維持において有利である。また、アクリロニトリル基を含む高分子は、結着力に優れているため、無機酸化物フィラーに対する量が少ない場合でも、強度の高い多孔膜の形成が可能である。
【0027】
多孔膜の強度と非水電解液の保持性とのバランスを良好に維持する観点から、多孔膜に占める無機酸化物フィラーの含有率は、50重量%以上99重量%以下、さらには90重量%以上99重量%以下が好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、リチウム二次電池において、セパレータとして不織布を用いることにより、内部抵抗を低減し、サイクル寿命を改善するとともに、所定の多孔膜を電極表面に接着することにより、異常過熱や、主に生産時における異物または脱落合剤の混入による内部短絡の発生を防止することができる。また、多孔膜や不織布の材料は安価である。従って、本発明によれば、サイクル寿命、短絡抑制能力および安全性に優れたリチウム二次電池を安価で提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明のリチウム二次電池の極板構成を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0031】
図1は、本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池(リチウムイオン二次電池)の極板群における、正極10、負極20、多孔膜5およびセパレータ6の配置図である。この実施形態では、多孔膜5は負極20の表面のみに接着されているが、正極10の表面のみに接着することもでき、正極10と負極20の両方の表面に接着することもできる。
【0032】
正極10は、正極集電体1とそれに担持された正極合剤層2からなる。正極合剤層2は、複合リチウム酸化物からなる正極活物質を含む。また、負極20は、負極集電体3とそれに担持された負極合剤層4からなる。負極合剤層4は、リチウムを吸蔵および放出し得る材料を含む。正極10と負極20との間には、セパレータ6が介在している。
【0033】
本発明は、セパレータ6として不織布を用いる点に一つの特徴を有する。不織布からなるセパレータは、微多孔フィルムからなるセパレータに比べて、非水電解液の保液性が高い。よって、充放電による電解液不足が抑制され、電池のサイクル特性が向上する。
【0034】
また、本発明は、多孔膜が正極および/または負極の表面に接着されている点にも一つの特徴を有する。多孔膜は、無機酸化物フィラーおよび結着剤からなる。無機酸化物フィラーは、耐熱性が高いため、多孔膜は、本来的に、高温でも変形しにくいものである。しかし、多孔膜をセパレータ上に接着した場合、たとえ多孔膜自身の耐熱性が高くても、内部短絡に伴う多大な発熱により、セパレータが変形し、それと同時に多孔膜も収縮してしまう。よって、短絡を抑制するという多孔膜の機能が果たされない。また、多孔膜を単独でシート状に成形し、シート状物をセパレータとして用いる場合、シート状物の強度を保持する観点から、その厚みを相当に大きくする必要がある。よって、多量の結着剤が必要となり、電池特性および設計容量の維持が困難になる。
【0035】
以下、多孔膜の構成について説明する。
【0036】
多孔膜の結着剤には、様々な樹脂材料を用いることができるが、なかでも耐熱性の高い樹脂材料を用いることが望ましい。よって、熱分析で観測される樹脂材料の熱分解開始温度は、250℃以上であることが望ましい。
【0037】
また、結着剤は、高温で変形しないことが望ましいため、非晶質もしくは非結晶性であることが望ましい。また、結着剤が結晶性である場合には、その熱変形温度は、250℃以上であることが望ましい。
【0038】
なお、結着剤の熱分解開始温度や熱変形開始温度は、示差走査熱量測定(DSC:differential scanning calorimetry)や、熱重量測定−示差熱分析(TG−DTA:thermogravimetry−differential thermal analysis)により測定することができる。例えば、TG−DTA測定における重量変化の始点は、熱分解開始温度に相当し、DSC測定における変曲点は、熱変形温度に相当する。
【0039】
捲回型極板群を作製する際、多孔膜に応力が印加されるため、結着剤は、ゴム弾性を有することが好ましい。様々なゴム性状高分子を結着剤に用いることができるが、特に結着力に優れ、耐熱性にも優れる等の点から、アクリロニトリル基を含むゴム性状高分子が好ましい。ゴム性状高分子を結着剤として含む多孔膜は、結晶性の結着剤を含む硬い多孔膜と異なり、極板を捲回する際に、ひび割れなどの損傷を生じにくいため、生産歩留を高く維持できる。
【0040】
多孔膜のフィラーには、耐熱性が要求される上に、リチウム二次電池内の環境で電気化学的に安定である必要がある。よって、これらの要求を満たす無機酸化物が好ましく用いられる。また、多孔膜は、フィラーと結着剤とを含む塗料を調製し、その塗料を電極表面に塗工することで形成される。よって、無機酸化物フィラーは、塗料化に適することも要求される。以上の要件を満たすものとして、例えばアルミナ、チタニア、ジルコニア、マグネシア等が挙げられる。これらのうちでは、安定性、コスト、取り扱いの容易さ等の観点から、特にアルミナが好ましく、なかでもα−アルミナが好ましい。
【0041】
無機酸化物フィラーは、複数種を混合して用いてもよい。例えば、メディアン径の異なる同一種の無機酸化物フィラーを混合する場合、緻密な多孔膜を得ることができる。また、異なる無機酸化物フィラーを含む複数の多孔膜を、積層してもよい。
【0042】
多孔膜に占める無機酸化物フィラーの含有率は、50重量%以上99重量%以下であることが好ましく、90重量%以上99重量%以下であることが更に好ましい。無機酸化物フィラーの含有率が50重量%を下回ると、結着剤が過多となり、フィラー粒子間の隙間で構成される細孔構造の制御が困難になることがある。一方、無機酸化物フィラーの含有率が99重量%を上回ると、結着剤が過少となり、多孔膜の強度や電極表面に対する密着性が低下する場合がある。多孔膜が脱落すると、多孔膜自身の機能が損なわれ、電池特性も損なわれる。
【0043】
無機酸化物フィラーのメディアン径(D50:平均粒径)は、特に限定されないが、一般に0.1〜5μmの範囲であり、0.2〜1.5μmであることが望ましい。
【0044】
多孔膜の厚みは、特に限定されないものの、多孔膜による短絡抑制機能を十分に確保し、かつ設計容量を維持する観点から、0.5〜20μmであることが好ましく、3〜10μmであることが特に好ましい。また、セパレータとして用いる不織布の厚みと多孔膜の厚みとの総和が、15〜30μm程度であることが望ましい。
【0045】
次に、不織布の構成について説明する。
【0046】
不織布は、繊維同士を織らずに集合させて製造されるシート状物である。不織布を構成する繊維の長さ、太さは特に限定されないが、電解液の保液性を確保する観点から、繊維の太さ(繊維直径)は、0.5〜30μmの範囲であることが望ましく、0.5〜10μmの範囲であることが更に望ましく、0.5〜5μmの範囲が特に望ましい。
【0047】
不織布の厚みは、15μm以上50μm以下であることが望ましく、サイクル特性と容量とのバランスの観点から15μm以上30μm以下が特に好ましい。不織布の厚みを15μm以上にすることで、不織布が保持する非水電解液の量を十分に確保することができる。また、不織布の厚みを50μm以下にすることで、電池設計容量および電池特性をバランスよく維持できる。なお、不織布の目付密度(単位面積あたりの重量:Basis Weight)は、一般に10〜200g/mであるが、これに限定されない。
【0048】
セパレータとして用いる不織布は、耐熱性が高く、高温下でも熱収縮や溶融を生じにくいものが望ましい。不織布の耐熱性が高いほど、高温時における極板群の歪みが抑制され、内部短絡の発生確率も小さくなる。一般的なポリエチレン製微多孔フィルムの耐熱性は150℃未満であるが、不織布のメルトダウン温度は150℃以上に設定することが可能である。
【0049】
不織布は、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリイミドおよびポリエチレンテレフタレートよりなる群から選択される少なくとも1種からなることが望ましい。これらは単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。これらの材料は、融点および熱的安定性が高く、高温下でも溶融や変形を生じにくい。また、高温下でもセパレータの溶融が起こりにくいため、高温保存後の電池においてセパレータの目詰まりによる電池特性の低下が起こりにくい。
【0050】
以下、正極および負極の構成について説明する。
【0051】
正極は、一般に複合リチウム酸化物からなる正極活物質と、正極結着剤と、導電剤とを含む。
【0052】
複合リチウム酸化物としては、コバルト酸リチウム(LiCoO)、コバルト酸リチウムの変性体、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、ニッケル酸リチウムの変性体、マンガン酸リチウム(LiMn)、マンガン酸リチウムの変性体、これらの酸化物のCo、MnもしくはNiの一部を他の遷移金属元素で置換したものなどが好ましい。各変性体には、アルミニウム、マグネシウムなどの元素を含むものがある。また、コバルト、ニッケルおよびマンガンの少なくとも2種を含むものもある。LiMnなどのMn系リチウム含有遷移金属酸化物は、特に、地球上に豊富に存在し、低価格である点で有望である。
【0053】
正極結着剤は、特に限定されず、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、変性アクリロニトリルゴム粒子(日本ゼオン(株)製のBM−500Bなど)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などを用いることができる。PTFEやBM−500Bは、正極合剤層の原料ペーストの増粘剤となるCMC、ポリエチレンオキシド(PEO)、変性アクリロニトリルゴム(日本ゼオン(株)製BM−720Hなど)などと組み合わせて用いることが好ましい。PVDFは、単一で、正極結着剤としての機能と、増粘剤としての機能とを有する。
【0054】
導電剤としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、各種黒鉛などを用いることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
負極は、一般にリチウムイオンが出入り可能な材料からなる負極活物質と、負極結着剤と、増粘剤とを含む。
【0056】
負極活物質としては、各種天然黒鉛、各種人造黒鉛、石油コークス、炭素繊維、有機高分子焼成物などの炭素材料、酸化物、シリサイドなどのシリコン含有複合材料、各種金属もしくは合金材料を用いることができる。
【0057】
負極結着剤としては、特に限定されず、正極結着剤と同様に、PTFE、変性アクリロニトリルゴム粒子、PVDF、CMCなどを用いることができるが、ゴム性状高分子が好ましく用いられる。このようなゴム性状高分子としては、スチレン単位およびブタジエン単位を含むものが好ましく用いられる。例えばスチレン−ブタジエン共重合体(SBR)、SBRの変性体などを用いることができるが、これらに限定されない。
【0058】
非水電解液には、リチウム塩を溶質として溶解する非水溶媒を用いることが好ましい。リチウム塩としては、6フッ化リン酸リチウム(LiPF)、過塩素酸リチウム(LiClO)、ホウフッ化リチウム(LiBF)などを用いることが好ましく、非水溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(MEC)などを用いることが好ましい。非水溶媒は、1種を単独で用いることもできるが、2種以上を組み合わせて用いることが好ましい。非水溶媒に溶解する溶質濃度は、一般に0.5〜2mol/Lである。
【0059】
正極および/または負極上に、良好な皮膜を形成させ、過充電時の安定性等を確保するために、ビニレンカーボネート(VC)、シクロヘキシルベンゼン(CHB)、VCやCHBの変性体などを用いることもできる。
【0060】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[比較例1]
(i)正極の作製
コバルト酸リチウム(LiCoO)3kgに対し、呉羽化学工業(株)製のポリフッ化ビニリデン(PVDF)#1320(PVDFを12重量%含むN−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶液)1kgと、導電剤としてアセチレンブラック90gと、適量のNMPとを加え、双腕式練合機で混練し、正極合剤ペーストを調製した。得られた正極合剤ペーストを、厚さ15μmのアルミニウム箔(正極集電体)の両面に塗布し、乾燥し、圧延して、正極合剤層を形成した。集電体とその両面に担持された正極合剤層との総厚は160μmとした。その後、型番18650の円筒型電池用ケースに挿入可能な幅にスリットし、帯状の正極フープを得た。
(ii)負極の作製
人造黒鉛3kgに対し、日本ゼオン(株)製のBM−400B(スチレン−ブタジエン共重合体からなるゴム粒子を40重量%含む水分散液)75gと、カルボキシメチルセルロース(CMC)30gと、適量の水とを加え、双腕式練合機で混練し、負極合剤ペーストを調製した。得られた負極合剤ペーストを、厚さ10μmの銅箔(負極集電体)の両面に塗布し、乾燥し、圧延して、負極合剤層を形成した。集電体とその両面に担持された負極合剤層との総厚は180μmとした。その後、型番18650の円筒型電池用ケースに挿入可能な幅にスリットし、帯状の負極フープを得た。
(iii)非水電解液の調製
非水電解液には、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとジメチルカーボネートとの体積比1:1:1の混合溶媒に、1mol/リットルの濃度になるように六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を溶解したものを用いた。また、3重量%のビニレンカーボネートを非水電解液に添加した。
(iv)電池の組立
上述の正極フープおよび負極フープから、それぞれ所定の長さの正極および負極を切り出した。次いで、正極と負極とを、厚さ20μmのポリプロピレン製不織布からなるセパレータを介して捲回し、電池ケース内に挿入した。
【0061】
ここで、厚さ20μmのポリプロピレン製不織布からなるセパレータには、東燃タピルス(株)製のP010SW−00X(Grade名)を圧延して厚さを20μmに調整したものを用いた。P010SW−00Xの目付密度(Basis Weight)は10g/mである。
【0062】
次いで、上記の非水電解液を5.5g秤量して、電池ケース内に注液し、ケースの開口部を封口した。こうして、円筒型18650のリチウム二次電池を作製した。
【0063】
上記不織布のメルトダウン温度を以下の要領で測定した。
【0064】
別途に用意した上記と同じ正極、負極およびセパレータ(不織布)を、それぞれ直径15mm、16mmおよび17mmの円形に打ち抜き、これらを用いて2016サイズのコイン型電池を作製した。この電池を4.2Vまで充電した後、0.5℃/分で昇温し、電圧が急降下する温度を測定し、その温度をメルトダウン温度とした。上記条件で測定した不織布のメルトダウン温度は175℃であった。
[比較例2]
厚さ20μmのポリプロピレン製不織布の代わりに、ポリエチレン製微多孔フィルム(厚さ20μm、旭化成(株)製のHipore)を用いたこと以外、比較例1と同様にして、円筒型18650のリチウム二次電池を作製した。
【0065】
なお、上記微多孔フィルムのメルトダウン温度を、比較例1の不織布と同様に測定したところ、140℃であった。
[比較例3]
以下の操作を行ったこと以外、比較例1と同様にして、円筒型18650のリチウム二次電池を作製した。
【0066】
無機酸化物フィラーとしてのメディアン径0.3μmのアルミナ970gと、日本ゼオン(株)製のBM−720H(アクリロニトリル基を含む高分子を8重量%含むNMP溶液)375gと、適量のNMPとを、双腕式練合機で攪拌し、多孔膜の原料ペーストを調製した。この原料ペーストを厚さ20μmのポリプロピレン製不織布の両面に塗布し、乾燥し、不織布の両面に接着された多孔膜を形成した。不織布片面あたりの多孔膜の厚さは5μmとし、不織布とその両面に担持された多孔膜との総厚を30μmとした。
【0067】
なお、多孔膜に占める無機酸化物フィラーの含有率(重量%)は、
{970/(970+375×0.08)}×100
=(970/1000)×100=97重量%となる。
[比較例4]
以下の操作を行ったこと以外、比較例1と同様にして、円筒型18650のリチウム二次電池を作製した。
【0068】
比較例3で用いたのと同じ多孔膜の原料ペーストを、負極フープの両面に塗布し、乾燥し、負極フープの両面に接着された多孔膜を形成した。負極フープ片面あたりの多孔膜の厚さは5μmとし、負極フープとその両面に担持された多孔膜との総厚を190μmとした。
【0069】
また、厚さ20μmのポリプロピレン製不織布の代わりに、比較例2で用いたのと同じポリエチレン製微多孔フィルム(厚さ20μm)を用いた。
【実施例1】
以下の操作を行ったこと以外、比較例1と同様にして、円筒型18650のリチウム二次電池を作製した。
【0070】
比較例3で用いたのと同じ多孔膜の原料ペーストを、正極フープの両面に塗布し、乾燥し、正極フープの両面に接着された多孔膜を形成した。正極フープ片面あたりの多孔膜の厚さは5μmとし、正極フープとその両面に担持された多孔膜との総厚を170μmとした。
[実施例2〜8]
以下の操作を行ったこと以外、比較例1と同様にして、円筒型18650のリチウム二次電池を作製した。
【0071】
比較例3で用いたのと同じ多孔膜の原料ペーストを、負極フープの両面に塗布し、乾燥し、負極フープの両面に接着された多孔膜を形成した。
【0072】
正極片面あたりの多孔膜の厚さを0.3μmとし、正極とその両面に担持された多孔膜との総厚を160.6μmとした電池を実施例2とした。
【0073】
正極片面あたりの多孔膜の厚さを0.5μmとし、正極とその両面に担持された多孔膜との総厚を161μmとした電池を実施例3とした。
【0074】
正極片面あたりの多孔膜の厚さを1μmとし、正極とその両面に担持された多孔膜との総厚を162μmとした電池を実施例4とした。
【0075】
正極片面あたりの多孔膜の厚さを5μmとし、正極とその両面に担持された多孔膜との総厚を170μmとした電池を実施例5とした。
【0076】
正極片面あたりの多孔膜の厚さを10μmとし、正極とその両面に担持された多孔膜との総厚を180μmとした電池を実施例6とした。
【0077】
正極片面あたりの多孔膜の厚さを20μmとし、正極とその両面に担持された多孔膜との総厚を200μmとした電池を実施例7とした。
【0078】
正極片面あたりの多孔膜の厚さを30μmとし、正極とその両面に担持された多孔膜との総厚を220μmとした電池を実施例8とした。
[実施例9〜15]
厚さ20μmのポリプロピレン製不織布の代わりに、下記の厚さのポリプロピレン製不織布を用いたこと以外、実施例5と同様にして、円筒型18650のリチウム二次電池を作製した。なお、不織布の厚さは、P010SW−00Xの圧延条件を変えることで調整した。
【0079】
厚さ10μmのポリプロピレン製不織布を用いた電池を実施例9とした。
【0080】
厚さ15μmのポリプロピレン製不織布を用いた電池を実施例10とした。
【0081】
厚さ25μmのポリプロピレン製不織布を用いた電池を実施例11とした。
【0082】
厚さ30μmのポリプロピレン製不織布を用いた電池を実施例12とした。
【0083】
厚さ40μmのポリプロピレン製不織布を用いた電池を実施例13とした。
【0084】
厚さ50μmのポリプロピレン製不織布を用いた電池を実施例14とした。
【0085】
厚さ60μmのポリプロピレン製不織布を用いた電池を実施例15とした。
[実施例16〜22]
表1記載のように、多孔膜に占める無機酸化物フィラー(アルミナ)の含有率(重量%)を変化させたこと以外、実施例5と同様にして、円筒型18650のリチウム二次電池を作製した。
【0086】
無機酸化物フィラーの含有率を30重量%とした電池を実施例16とした。
【0087】
無機酸化物フィラーの含有率を50重量%とした電池を実施例17とした。
【0088】
無機酸化物フィラーの含有率を70重量%とした電池を実施例18とした。
【0089】
無機酸化物フィラーの含有率を90重量%とした電池を実施例19とした。
【0090】
無機酸化物フィラーの含有率を95重量%とした電池を実施例20とした。
【0091】
無機酸化物フィラーの含有率を99重量%とした電池を実施例21とした。
【0092】
無機酸化物フィラーの含有率を99.5重量%とした電池を実施例22とした。
【実施例23】
多孔膜の原料ペーストの調製において、無機酸化物フィラーとして、メディアン径0.3μmのアルミナの代わりに、メディアン径0.3μmのチタニアを用いたこと以外、実施例5と同様にして、円筒型18650のリチウム二次電池を作製した。
[比較例5]
多孔膜の原料ペーストの調製において、無機酸化物フィラーとして、メディアン径0.3μmのアルミナの代わりに、メディアン径0.3μmのポリエチレンビーズを用いたこと以外、実施例5と同様にして、円筒型18650のリチウム二次電池を作製した。
【実施例24】
厚さ20μmのポリプロピレン製不織布の代わりに、ポリプロピレン繊維とポリアミド繊維とを重量比1:1で混在させた不織布を用いたこと以外、実施例5と同様にして、円筒型18650のリチウム二次電池を作製した。なお、不織布の目付密度は、比較例1(実施例5)と同じとした。
【0093】
なお、本実施例で用いた不織布のメルトダウン温度を、比較例1の不織布と同様に測定したところ、205℃であった。
【0094】
表1に、上記実施例および比較例における多孔膜とセパレータの主な構成を示す。
【0095】
【表1】

【0096】
上記実施例および比較例の電池を以下に示す方法で評価した。結果を表2に記す。
(不良率)
正極と負極とをセパレータを介して巻芯に対して捲回する操作により、実施例および比較例毎にそれぞれ10個ずつ極板群を構成した。その後、捲回を解いて、主に巻芯近くの多孔膜の状態を目視観察した。多孔膜に欠け、クラックもしくは脱落による短絡が生じていた仕掛品の数量を表2に示した。
(電池設計容量)
電池ケースの直径18mmに対し、捲回された極板群の直径は、挿入性を重視して16.5mmとした。この場合において、正極活物質1gあたりの容量を142mAhとして、正極重量から電池設計容量を求め、表2に示した。
(充放電特性)
多孔膜の欠け、クラックもしくは脱落のない極板群を具備する完成した電池に対し、2度の予備充放電を行い、45℃環境下で7日間保存した。その後、20℃環境下で、以下の2パターンの充放電をそれぞれ1サイクルずつ行った。各サイクルで得られた放電容量を表2に示す。
(1)第1パターン
定電流充電:1400mA(終止電圧4.2V)
定電圧充電:4.2V(終止電流100mA)
定電流放電:400mA(終止電圧3V)
(2)第2パターン
定電流充電:1400mA(終止電圧4.2V)
定電圧充電:4.2V(終止電流100mA)
定電流放電:4000mA(終止電圧3V)
(サイクル特性)
充放電特性を評価後の電池について、20℃環境で、以下のパターンの充放電を繰り返し、300サイクル目の放電容量の初期放電容量に対する割合を求めた。百分率で求めた割合を容量維持率として表2に示す。
【0097】
定電流充電:1400mA(終止電圧4.2V)
定電圧充電:4.2V(終止電流100mA)
定電流放電:2000mA(終止電圧3V)
(釘刺し安全性)
充放電特性を評価後の電池について、20℃環境下で、以下の充電を行った。
【0098】
定電流充電:1400mA(終止電圧4.25V)
定電圧充電:4.25V(終止電流100mA)
充電後の電池に対して、その側面から、2.7mm径の鉄製丸釘を、20℃環境下で、5mm/秒または180mm/秒の速度で貫通させ、そのときの発熱状態を観測した。電池の貫通箇所における1秒後および90秒後の到達温度を表2に示す。
(高温安全性)
充放電特性を評価後の電池について、20℃環境下で、以下の充電を行った。
【0099】
定電流充電:1400mA(終止電圧4.25V)
定電圧充電:4.25V(終止電流100mA)
充電後の電池を、5℃/分の昇温速度で150℃まで昇温し、150℃で3時間放置した。続いて、その電池の電圧と表面温度を測定した。結果を表2に示す。
【0100】
【表2】

【0101】
以下、順を追って評価結果について記す。
(1)多孔膜の有無について
多孔膜が存在しない比較例では、釘刺し速度の如何に関わらず、1秒後の発熱が顕著である。これに対し、多孔膜を正極または負極上に形成した各実施例では、釘刺し後の発熱が大幅に抑制されている。
【0102】
全ての釘刺し試験後の電池を分解して調べたところ、全ての電池においてセパレータが広範囲に及んで溶融していた。ただし、各実施例については、多孔膜がその原形を留めていた。このことから、多孔膜は、釘刺し後の発熱によっては破壊されず、短絡箇所の拡大を抑止し、過剰な発熱を防げるものと考えられる。
【0103】
また、高温安全性の評価でも、多孔膜が存在しない比較例では、セパレータの収縮による短絡が発生するため、電池温度が高くなっている。さらに、多孔膜が存在しない比較例のなかでも、不織布をセパレータに用いた電池の不良率は高くなっている。これは、製造工程の際に内部短絡が発生しやすいことを示している。このことは、多孔膜を用いずに、不織布だけをセパレータに用いて電池を生産することは困難である。
(2)多孔膜の接着箇所について
多孔膜をセパレータ表面に接着した比較例では、釘刺し速度が遅い場合に発熱が促進されていることがわかる。比較例の電池を分解して調べたところ、前述したセパレータの溶融に伴い、多孔膜も変形していることが確認できた。如何に多孔膜自身に耐熱性があっても、多孔膜と接着したセパレータが収縮もしくは溶融を起こすとき、セパレータの形状変化に多孔膜が追従し、多孔膜が破損するものと考えられる。高温安全性の評価でも、同様の理由で、短絡が発生し、電池温度が高くなっていると考えられる。
(3)セパレータの種類について
通常、不織布をセパレータとして用いると、不良率が高くなるため、微多孔フィルムを用いるのが当業者の常識である。しかし、電極表面に接着された多孔膜と不織布とを併用する場合には、通常の当業者が予測し得ないほど顕著に、不良率の発生が抑制される。しかも、不織布をセパレータとして用いた場合、微多孔フィルムを用いる場合に比べて、電池の充放電特性やサイクル特性も向上している。これは、不織布の存在により、電解液の電池内移動がスムーズになるためと考えられる。
【0104】
表1、2において、多孔膜を負極表面に接着し、セパレータとしてポリエチレン製微多孔フィルムを用いた比較例に比べて、ポリプロピレン製不織布を用いた実施例では、サイクル特性が向上している。これは、ポリオレフィン系の微多孔フィルムに比べて、不織布の電解液保持性が高いため、充放電に伴う電解液不足が抑えられたことによると考えられる。
【0105】
さらに、不織布を用いた場合、微多孔フィルムを用いた場合よりも高い安全性が得られている。これは、不織布は、一般に微多孔フィルムよりも電池短絡時において変形しにくいためと考えられる。特に、不織布の材質としてポリプロピレンを用いた場合、150℃まで電池温度を上昇させても、不織布の熱収縮は起こらないため、極板群の歪みによる短絡も起こらないと考えられる。不織布の材質としてポリアミドとポリプロピレンとを併用した場合には、さらに耐熱性が向上すると考えられる。
(4)釘刺し試験について
釘刺しにより、正極と負極とが接触(短絡)すると、ジュール熱が発生する。そして、ジュール熱によって耐熱性の低い材料(セパレータ)が溶融し、強固な短絡部を形成する。その結果、ジュール熱の発生が継続し、正極が熱的に不安定となる温度領域(160℃以上)にまで昇温される。こうして熱暴走が引き起こされる。一般に、釘刺し速度を減じた場合、局部的な発熱が促進される。釘刺し速度を減じて、単位時間当りの短絡面積を限定した場合、相当の熱量が限定箇所に集中することになる。そのため、正極が熱的に不安定になる温度領域に到達するのが早まるものと考えられる。一方、釘刺し速度を増して、単位時間当りの短絡面積を拡大した場合、熱が大面積に分散されることになる。そのため、正極が熱的に不安定になる温度領域に達しにくくなると考えられる。
【0106】
上記の一般的な傾向に対し、不織布と多孔膜とを併用した実施例では、釘刺し速度に関わらず、熱暴走を抑止できている。よって、本発明の実用性は非常に高いといえる。
(5)多孔膜の厚みについて
多孔膜の厚みが大きすぎると、極板群を構成する極板の長さが短くなることから、設計容量や高率放電での容量に低下が見られる。一方、多孔膜の厚みが薄すぎると、発熱を抑止する効果が小さくなる。よって、本発明の効果を十分に得るためには、多孔膜の厚みを0.5〜20μmとすることが望ましい。
(6)セパレータの厚みについて
セパレータの厚みが大きすぎると、極板群を構成する極板の長さが短くなることから、設計容量や高率放電での容量に低下が見られる。一方、セパレータの厚みが薄すぎると、電解液の保液性を向上させる効果が小さく、サイクル特性を改善する効果も小さくなる。よって、本発明の効果を十分に得るには、セパレータの厚みを15〜50μmとすることが望ましい。
(7)多孔膜における無機フィラーの含有率について
無機フィラーと結着剤との合計に占める無機フィラーの含有率が少ない(結着剤が多い)実施例では、高率放電での容量の低下が見られる。これは、結着剤が過剰なため、フィラー粒子の隙間が少なくなり、多孔膜のイオン導電性が低下するためと考えられる。ただし、無機フィラーの含有率が多くなりすぎると、不良率が高くなる傾向がある。よって、本発明の効果を十分に得るするには、無機フィラーの含有率を50〜99重量%とすることが望ましい。
(8)多孔膜中の結着剤の種類について
結着剤として、CMCやPVDFを用いた場合に比べて、アクリロニトリル基を含む高分子を用いた場合には、釘刺し速度を減じたときの発熱抑止効果が大きい。アクリロニトリル基を含む高分子は、非晶質で耐熱性が高いため、高温でもほとんど変形しないものと考えられる。結着剤がアクリロニトリル基を含む高分子である実施例では、不良率が0%となっており、捲回後の多孔膜が強度と機能を十分に保持していることがわかる。
(9)フィラーの種類について
無機フィラーとして、アルミナの代わりにチタニアを用いた実施例より、チタニアがアルミナとほぼ同様の諸機能を果たすことが確認できた。一方、フィラーとして有機材料、すなわちポリエチレンビーズ(PEビーズ)を用いた場合、釘刺し安全性では、多孔膜がない場合に等しい結果であった。よって、フィラーには無機酸化物を選択することが必須であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明は、優れた安全性と充放電特性との両立が要求される高性能リチウム二次電池の提供において特に有用である。具体的には、本発明は、複合リチウム酸化物からなる正極、リチウムを吸蔵および放出し得る材料からなる負極、正極と負極との間に介在するセパレータ、および非水電解液により構成され、セパレータが不織布からなるサイクル寿命に優れたリチウム二次電池に適用される。本発明のリチウム二次電池は、安全性が高いため、ポータブル機器用の電源として特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合リチウム酸化物からなる正極、リチウムを吸蔵および放出し得る材料からなる負極、前記正極と負極との間に介在するセパレータ、および非水電解液より構成されるリチウム二次電池であって、
前記セパレータは、不織布からなり、前記正極および前記負極の少なくとも一方が、その表面に接着された多孔膜を有し、前記多孔膜は、無機酸化物フィラーおよび結着剤からなるリチウム二次電池。
【請求項2】
前記不織布の厚みが、15μm以上50μm以下である請求項1記載のリチウム二次電池。
【請求項3】
前記不織布が、150℃以上のメルトダウン温度を有する請求項1記載のリチウム二次電池。
【請求項4】
前記不織布が、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリイミドおよびポリエチレンテレフタレートよりなる群から選択される少なくとも1種からなる請求項1記載のリチウム二次電池。
【請求項5】
前記多孔膜の厚みが、0.5μm以上20μm以下である請求項1記載のリチウム二次電池。
【請求項6】
前記結着剤が、アクリロニトリル基を含む高分子を少なくとも含む請求項1記載のリチウム二次電池。
【請求項7】
前記フィラーがアルミナからなり、前記多孔膜に占める前記フィラーの含有率が50重量%以上99重量%以下である請求項1記載のリチウム二次電池。
【請求項8】
前記正極と前記負極とが、前記セパレータを介して捲回されている請求項1記載のリチウム二次電池。

【図1】
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【国際公開番号】WO2005/067079
【国際公開日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【発行日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516805(P2005−516805)
【国際出願番号】PCT/JP2004/016986
【国際出願日】平成16年11月16日(2004.11.16)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】