説明

リチウム空気キャパシター電池

【課題】
リチウム空気電池の瞬間パワー、瞬間高速充・放電特性を改善することを目的とする。
【解決手段】
リチウム負極/負極側有機電解液/固体電解質分離膜/正極側水性電解液/空気触媒正極から構成されるハイブリッド電解質型のリチウム空気電池において、第2の正極として、電気化学二重層を利用したキャパシター正極を設け、リチウム空気電池の正極である空気極と組み合わせた電池(リチウム空気キャパシター電池)を構成する。
当該リチウム空気キャパシター電池は、瞬間的な充電・放電には、電気化学二重層を利用したキャパシター正極が作動し、低速の充電・放電には、空気極が作動することが可能であり、これにより、従来のリチウム空気電池の、瞬間パワー、瞬間高速充・放電特性に劣るという課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムを負極とし空気極を正極とするハイブリッド電解質型のリチウム空気電池において、第2の正極として電気化学二重層を利用したキャパシター正極を設けることにより、電池の瞬間パワー特性を著しく改善した、リチウム空気キャパシター電池に関する。
【背景技術】
【0002】
石油系の燃料に基づく移動手段により引き起こされた深刻な二酸化炭素放出と化石燃料の限られた埋蔵量に直面し、ハイブリッド電気自動車(HEVs)および電気自動車(EVs)に基礎をおく低炭素社会を実現することが、世界的なトピックとなっている(非特許文献1)。
今日では、リチウムイオン電池が、鉛酸電池およびNi-MH電池のような他の再充電可能な電池と比べてエネルギー密度が高いことから、EV(又はHEV)の最も適切な電力源であると考えられている。しかしながら、EVの将来にとっては、現在のリチウムイオン電池の技術は、未だ大きな障害に直面している。日本においては、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の次世代電気自動車用電池プロジェクトの最終目標は、従来の内燃機関のエネルギー密度に匹敵する700Wh/kgの高エネルギー密度を有する電池を開発することである。残念ながら、今日のリチウムイオン電池の典型的なエネルギー密度は、100〜200Wh/kgの間にあり、NEDOプロジェクトの最終目標からはほど遠い(非特許文献2)。それゆえ、容量の大きな次世代のリチウムイオン電池を開発するため、多くの努力がなされており、これらは、ポスト・リチウムイオン電池と呼ばれている。
【0003】
ここ数年、リチウム空気電池が、その極めて大きな理論的エネルギー密度により、将来の電気自動車用の可能性のある電力システムとして全世界の注目を集めてきた(非特許文献1,3)。リチウム空気電池は、酸素正極とリチウム負極との組み合わせにより、正極反応:2Li++O2+2e-→Li2O2、負極反応:2Li→2Li++2e-、トータルでは、反応2Li+O2→Li2O2に従い、3600Wh/kgのエネルギー密度(=容量1200Ah/kg×操作電圧3.0V)を理論的に供給することができる(非特許文献1)。ここで、当該理論エネルギー密度(3600Wh/kg)は、必要とするリチウムおよび酸素の全質量に基づいて算出されたものである。もしも空気から供給される無尽蔵の酸素が直接利用できるならば、リチウム空気電池はより高いエネルギー密度を有することになる。
【0004】
最初のリチウム空気電池は、Li負極/有機電解質/空気正極の構造を有するものであり1996年に組み立てが成功し、研究された(非特許文献4)。しかしながら、この研究は、Bruceらにより、当該リチウム空気電池が再充電できることが明らかにされるまで、広く注目を集めなかった(非特許文献5)。その後、この形式のリチウム空気電池は広く注目を集めた(非特許文献3,6−20,29)が、この電池は、有機溶液中に溶解した水と酸素がリチウムを直接化学的に酸化することが可能であることが、実用化の大きな障害となっている。酸素と有機電解液との直接的な接触は、また、有機溶媒の深刻な分解をもたらす(非特許文献21)。さらに、放電生成物Li22は有機溶媒には溶解せず、多孔質の空気電極を徐々に詰まらせる。
【0005】
2007年に、Polyplus Battery社は、セラミック電解質により保護されたリチウム電極を水性溶液中の白金触媒による酸素還元と組み合わせた、新たなリチウム空気電池を構成した(非特許文献22)。セラミック保護層は、Li+の通過のみを許容する、リチウムの超イオン伝導体膜(LISICON、リチウムイオン伝導性膜の1種)からなる。
最近、本発明者のグループは、有機電解液中のリチウム負極と水性電解液中の酸素正極を分離するために、LISICONの薄膜を使用したリチウム空気電池を提案した。この種のリチウム空気電池は、ハイブリッド電解質リチウム空気電池と名付けられた(非特許文献23−28)。水性溶液中の酸素還元生成物(OH-)が水溶性であることにより、ハイブリッド電解質リチウム空気電池は、ちょうど燃料電池のように、空気から供給される酸素を多孔質の空気触媒電極において連続的に還元し、エネルギーを供給することができる。ハイブリッド電解質リチウム空気電池においては、リチウム負極は、セラミック保護層のおかげで、酸素または水に曝されることがなく、これらによって酸化されない。さらに、不燃性の水性電解液は、電池の燃焼という危険性の問題を回避する。しかしながら、ハイブリッド電解質リチウム空気電池の電力についての性能は、多孔質空気触媒極中の酸素の拡散速度が低いこと、および、セラミック電解質(LISICON)のLi+伝導性が低いことにより限定され、このことにより、将来のハイブリッド電気自動車または電気自動車のための高い電力出力を達成することができない。そのため、ハイブリッド電解質リチウム空気電池については、その電力出力についての性能をさらに改善することが必要であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】A. Armand,J.-M. Tarascon, Nature 2008, 451,652-657.
【非特許文献2】Y. G. Wang, H.S. Zhou, Energy Environ. Sci., 2011, 4, 1704-1707
【非特許文献3】G.Girishkumar, B. McCloskey, A. C. Luntz, S. Swanson, W. Wilcke, J.Phys.Chem.Lett. 2010, 1, 2193-2203.
【非特許文献4】K.M. Abraham,Z. Jiang, J. Electrochem. Soc. 1996, 143, 1-5.
【非特許文献5】T. Ogasawara,A. Debart, M. Holzapfel, P. Novak, P.G .Bruce, J. Am. Chem. Soc.2006,128,1390-1933.
【非特許文献6】A. Debart,J.L. Bao, G. Armstrong, P.G. Bruce, J. Power sources 2007,174,1177-1182.
【非特許文献7】A. Debart,A.J. Paterson, J.L. Bao, P.G. Bruce, Angew.Chem. Int. Ed. 2008,47,4521-4524.
【非特許文献8】W. Xu, J.Xiao, D. Wang, J. Zhang, J.-G. Zhang, Electrochem Solid-State Lett.2010,13,A48-A51.
【非特許文献9】D. Zhang, Z.Fu, Z. Wei, T. Huang, A. S. Yu, J. Electrochem. Soc,2010, 157,A362-A365.
【非特許文献10】X. H. Yang,P. He, Y. Y. Xia, Electrochem. Commun. 2009, 11, 1127-1130.
【非特許文献11】C. O. Laoire,S. Mukerjee, K. M. Abraham, J. Phys. Chem. C 2010, 144,9178-9186.17
【非特許文献12】http://www.almaden.ibm.com/institute/2009/
【非特許文献13】Y.-C.Lu, Z.Xu, H. A. Gasteiger, S. Chen, K. Hamad-Schifferli, S.-H. Yang, J. Am.Chem.Soc., 2010,132, 12170-12171.
【非特許文献14】P.Kichambare, J. Kumar, S. Rodrigues, B. Kumar, J. Power Sources 2011,196,3310-3316.
【非特許文献15】C. O. Laoire,S. Mukerjee, E. J. Plichta, M. A. Hendrickson, K. M. Abraham, J.Electrochem.Soc. 2011,158, A302-308.
【非特許文献16】X. Wu, V. V.Viswanathan, D. Y. Wang, S. A. Towne, J. Xiao, Z. Nie, D. H. Hu, J.-G.Zhang, J.Power Sources 2011, 196, 3894-3899.
【非特許文献17】A. C.Marschilok, S. Zhou, C. C. Milleville, S. H. Lee, E. S. Takeuchi, KennethJ.Takeuchi, J. Electrochem. Soc. 2011, 158, A223-A226.
【非特許文献18】A.Kraytsberg. Y. Ein-Eli, J. Power Sources, 2011, 196,886-893.
【非特許文献19】B. Scrosati,J. Hassoun, Y.-K. Sun, Energy Environ.Sci., 2011,4,3287-3295.
【非特許文献20】Y.-C. Lu, D.G. Kwabi, K. P. C. Yao, J. R. Harding, J. Zhou, L. Zuin, S.-H. Yang,EnergyEnviron.Sci., 2011,4,2999-3007.
【非特許文献21】F. Mizuno, S.Nakanishi, Y. Kotanl, S. Yokoishi, H. Iba,Electrochemistry, 2010,78403-405.
【非特許文献22】S. Visco, J.E. Nimon, LMLB 12th Meeting # Abs. 397.
【非特許文献23】Y. G. Wang,H. S. Zhou, J. Power Sources 2010, 195, 358-361.
【非特許文献24】Y. G. Wang,H. S. Zhou, Chem.Comm. 2010,46,6035-6037.
【非特許文献25】H. S. Zhou,Y. G. Wang, H. Q. Li, P. He, ChemSusChem, 2010, 3, 1009-1019
【非特許文献26】P. He, Y. G.Wang, H. S. Zhou, Electrochemistry Communications, 2010, 12,1686-1689.18
【非特許文献27】P. He, Y. G.Wang, H. S. Zhou, Journal of Power Sources, 2011, 196, 5611-5616.
【非特許文献28】E. J. Yoo, H.S. Zhou, ACS Nano, 2011, 5, 3020-3026.
【非特許文献29】A. S. Freunberger,Y. Chen, Z. Peng, J. M. Griffin, L. J. Hardwick, F. Barde, P.Novak, P. G.Bruce, J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 8040-8047.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、リチウム空気電池の瞬間パワー、瞬間高速充・放電特性を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、リチウム負極/負極側有機電解液/固体電解質分離膜/正極側水性電解液/空気触媒正極から構成されるハイブリッド電解質型のリチウム空気電池において、第2の正極として、電気化学二重層を利用したキャパシター正極を設け、リチウム空気電池の正極である空気極と組み合わせた電池を開発し、これを、リチウム空気キャパシター電池と名付けた。
当該リチウム空気キャパシター電池は、瞬間的な充電・放電には、電気化学二重層を利用したキャパシター正極が作動し、低速の充電・放電には、空気極が作動することが可能であり、これにより、従来のリチウム空気電池の、瞬間パワー、瞬間高速充・放電特性に劣るという課題を解決するものである。
【0009】
本発明のハイブリッド電解質に基づくリチウム空気キャパシター電池の構造を概略的に図1に示す。この電池では、有機電解液(EC/DCE中1MのLiClO4)と水性電解液(1MのKOH)が水に安定なセラミックLISICON膜により分離されている。水性電解液に接して設けられた多孔性空気触媒電極が正極としての機能を果たす。有機電解液中のリチウム金属フィルムが負極として使用される。図1に示すように、活性炭ベースのキャパシター電極が追加の正極として有機電解液中に設けられている。さらに、当該活性炭ベースのキャパシター電極と多孔性空気触媒電極とは電気的に結合されている。このように、本発明のリチウム空気キャパシター電池は、リチウム−活性炭キャパシターとリチウム空気電池とがリチウム空気電池の構造内において一体化し、並列接続されたものということができる(図2)。
なお、図1においては、キャパシター電極は負極側の有機電解液中に設けられている。これは、後述するように、固体電解質分離膜として用いたLISICON膜のLi+伝導性が現状ではあまり高くないため、キャパシター電極を負極側有機電解液中に設けた方が、瞬間的な充電・放電を行う上で有利であるからであり、固体電解質分離膜のLi+伝導性が向上すれば、キャパシター電極を正極側の水性電解液中に設けることも可能である。
【0010】
本発明のリチウム空気キャパシター電池に用いられる上記リチウム負極の負極活物質としては、例えば、金属リチウムなど、リチウムイオン電池の負極に使用できる負極活物質を使用することができる。
本発明のリチウム空気キャパシター電池に用いられる上記有機電解液としては、リチウム空気電池の負極側電解液に使用できる有機電解液を適宜使用することができる。
本発明の電池に用いられる上記固体電解質分離膜としては、例えばLISICONなどの、リチウムイオンを選択的に伝導する固体電解質からなるものが使用される。
本発明のリチウム空気キャパシター電池に用いられる上記水性電解液としては、リチウム空気電池の正極側水性電解液に使用できる水性電解液を適宜使用することができる。
本発明のリチウム空気キャパシター電池に用いられる上記空気触媒正極としては、リチウム空気電池の正極として使用できる空気触媒電極を適宜使用することができる。
本発明のリチウム空気キャパシター電池に用いられる上記電気化学二重層を利用したキャパシター正極としては、例えば、活性炭などをベースとする炭素電極を使用することができる。
【0011】
本発明のリチウム空気キャパシター電池は、付加的なキャパシター電極を有することにより、様々な使用対象の要求と操作条件の変化に応じて、大容量のキャパシターとしての特性とリチウム空気電池としての特性を演じることができ、高いピーク電力あるいは高いエネルギー密度を達成することができる。すなわち、大電流で放電するときは、本発明のリチウム空気キャパシター電池は、大容量のキャパシターとしての特性を示し、貯蔵した大電力を供給する;低電流で操作するときは、リチウム空気電池としての特性を示し、高エネルギー密度を供給する。
また、上述のとおり、本発明のリチウム空気キャパシター電池は、リチウム−活性炭キャパシターとリチウム空気電池とがリチウム空気電池の構造内において一体化し、並列接続されたものであり、これにより、瞬間的な充電・放電には、電気化学二重層を利用したキャパシター正極が作動し、低速の充電・放電には、空気極が作動することを可能としたものであるが、このような構造的一体化をすることなく、リチウム空気電池と電気化学二重層を利用したキャパシターとを組み合わせ、これを並列に結合させることにより構成した蓄電デバイスも、同様の機能を有するものであり、本発明は、このような蓄電デバイスをも提供するものである。
【0012】
本出願は、すなわち、以下の発明を提供するものである。
〈1〉リチウム負極/負極側有機電解液/固体電解質分離膜/正極側水性電解液/空気触媒正極から構成されるリチウム空気電池において、第2の正極として電気化学二重層を利用したキャパシター正極を設け、高速の充電・放電には、電気化学二重層を利用したキャパシター正極が主に作動し、低速の充電・放電には、空気極が主に作動することを特徴とする、リチウム空気キャパシター電池。
〈2〉電気化学二重層を利用したキャパシター正極として、活性炭ベースのキャパシター電極を使用することを特徴とする、〈1〉に記載のリチウム空気キャパシター電池。
〈3〉リチウム負極の活物質として、リチウムイオン電池の負極に使用できる負極活物質を使用することを特徴とする、〈1〉または〈2〉に記載のリチウム空気キャパシター電池。
〈4〉リチウムイオン電池の負極に使用できる負極活物質が金属リチウムであることを特徴とする、〈3〉に記載のリチウム空気キャパシター電池。
〈5〉電気化学二重層を利用したキャパシター正極を負極側有機電解液中に設けたことを特徴とする、〈1〉〜〈4〉のいずれかに記載のリチウム空気キャパシター電池。
〈6〉高速の放電後には、空気極により、電気化学二重層を利用したキャパシター正極に対して自己充電を行うことができることを特徴とする、〈1〉〜〈5〉のいずれかに記載のリチウム空気キャパシター電池。
〈7〉リチウム空気電池と電気化学二重層を利用したキャパシターとが並列に結合され、高速の充電・放電には、電気化学二重層を利用したキャパシター正極が主に作動し、低速の充電・放電には、空気極が主に作動することを特徴とする、リチウム空気電池とキャパシターと組み合わせた蓄電デバイス。
〈8〉高速の放電後には、空気極により、電気化学二重層を利用したキャパシター正極に対して充電を行うことができることを特徴とする、〈7〉に記載の蓄電デバイス。
【発明の効果】
【0013】
エネルギー貯蔵・変換機器の開発の歴史は、高電力密度と高エネルギー密度の両者を一つの機器において成し遂げることはほとんど不可能であることを明確に示している。例えば、水素燃料電池(H2−O2 FC)あるいはリチウム空気電池は、非常に高いエネルギー密度を有しているが、電力性能は非常に貧弱である。対照的に、大容量のキャパシターは、非常に高い電力性能を有しているが、表面のエネルギー貯蔵が限られていることにより、エネルギー密度はずっと小さい。
本発明のリチウム空気キャパシター電池は、リチウム空気電池の高エネルギー特性と大容量キャパシターの高電力特性を一つの機器に統合するものであり、大容量のキャパシターとしての特性とリチウム空気電池としての特性を併せ持つことにより、様々な使用対象の要求と操作条件の変化に適切に応じ、瞬間的な高電力出力にも長時間の低電力出力にも対応することができる。このため、将来の電気自動車のための見込みのある電力システムであるのみならず、次世代送電網に基づく電気貯蔵システム等にも適した電力源といえる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のリチウム空気キャパシター電池の構造の概略図。
【図2】本発明の電池においてリチウム炭素キャパシターとリチウム空気電池が統合されることを説明する図。
【図3】電気自動車の様々な操作条件を示す図。
【図4】本発明のリチウム空気キャパシター電池の、異なる操作条件における操作原理の概略を示す図。(a)低電流での放電;(b)高電流での放電;(c)高電流での放電後の停止または低電流放電。
【図5】キャパシター電極の20mAの電流による有機電解液中での充放電曲線。
【図6】(a)本発明のリチウム空気キャパシター電池、および(b)キャパシター電極を有さないリチウム空気電池の、様々な電流値における放電曲線。
【図7】本発明のリチウム空気キャパシター電池とキャパシター電極を有さないリチウム空気電池のピーク電力密度の比較図。
【図8】本発明のリチウム空気キャパシター電池を、停止段階を間に挟んで、様々な電流値で放電させたときの、操作時間に対する電池電圧の変動を示す図。右下がりの線:放電過程における電圧の変動;右上がりの線:停止過程における電圧の変動
【図9】(a)本発明のリチウム空気キャパシター電池における、自己充電過程の操作原理の概略を示す図。(b)一定時間中の当該自己充電過程における電荷移動を示す図。
【図10】本発明のリチウム空気キャパシター電池を低放電電流で長時間放電させたときの放電曲線。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、電気自動車の操作を例にとって、異なる操作条件における本発明のリチウム空気キャパシター電池の操作原理を説明する。
【0016】
一般的に、電気機器は、高いピーク電力を非常に短い時間だけ必要とし、その後、電気機器用の電池システムは非常に低い電力出力を保つか、または、停止状態となることができる。例えば、電気自動車のいくつかの操作条件の概略を図3に示す。図3に示すように、一般的に、電気自動車の操作は、大まかに以下の3つの段階に分けることができる。
1)一定速度での操作。
この段階では、電気自動車の電池システムは、低く、安定した電力を長時間供給しなければならない(低電力出力)。
2)加速操作の過程。
この過程では、電気自動車の電池システムは、短時間に高いピーク電力を供給しなければならない(高いピーク電力出力)。
3)減速操作の過程および加速過程後の一定速度での操作過程。
この過程では、電気自動車の電池システムは、電力の出力を減少させ、あるいは、停止する(高ピーク電力出力後の低電力出力または出力停止)。
【0017】
上述の電気自動車の様々な操作条件に対応する本発明のリチウム空気キャパシター電池の操作原理を説明すると、以下のとおりである。
1)安定した低電流での放電。
この過程での、ハイブリッド電解質に基づく本発明のリチウム空気キャパシター電池の操作原理を、図4aに概略的に示す。多孔性空気触媒電極において、外部回路から電子を得た酸素がOH-に転化され、同時に、キャパシター電極が外部回路から電子を得、リチウムイオンを吸着し、容量を満たす。空気触媒電極及びキャパシター電極で生じた反応と平行して、金属リチウム負極はリチウムイオンに変化する。これらの生成したリチウムイオンのうち、あるものは有機電解液からLISICON膜を通過して水性電解液へと移動し、また、あるものはキャパシター電極の表面へ移動する。外部回路では、電子が、リチウム負極から空気触媒電極およびキャパシター電極へ、デバイス(外部負荷)を介して流れる。
2)高いピーク電力を供給する大電流による放電。
この過程での、ハイブリッド電解質に基づく本発明のリチウム空気キャパシター電池の操作原理を、図4bに概略的に示す。この状況では、本発明のリチウム空気キャパシター電池は、主に、高出力のキャパシターとしての特性を示す。換言すると、外部回路では、電子は、主に、リチウム負極から付加的なキャパシター電極へ向かって流れる。付加的なキャパシター電極と比べて、空気触媒電極が得る電子はほとんど無視し得るものである。本発明のシステム内においては、リチウムイオンは、主にリチウム負極から付加的なキャパシター電極へと移動する。このように、高放電時には、付加的なキャパシター電極が高い電力出力の主な役割を担う。
3)高い電力出力後の放電停止あるいは低電流による放電。
高電流放電(あるいは高電力出力)後の非常に短い時間においては、空気触媒電極の操作電位は直ちに最初の状態に回復するはずであるが、一方、キャパシター電極の操作電位は、高電流放電の最後の時点における電位を維持するはずである。換言すると、高電流放電後の非常に短い時間においては、空気触媒電極とキャパシター電極の間に、電位の相違が存在する。この状況では、付加的なキャパシター電極を有する本発明のリチウム空気電池は、リチウム炭素キャパシターとリチウム空気電池という、2種類の機器に分けて考えることができる。空気触媒電極とキャパシター電極の間の電位の相違により、リチウム炭素キャパシターはリチウム空気電池により充電されるはずである。この状況でのハイブリッド電解質に基づく本発明のリチウム空気キャパシター電池の操作原理を、図4cに示す。図4cに示すように、外部回路における電子の流れは、完全な停止状態と同様に、無視し得るものであろう。電子は、キャパシター電極から空気触媒電極へと流れる。多孔性触媒電極の内部では、空気からの酸素が電子と結合し、OH-へと還元される。同時に、キャパシター電極の表面において、リチウムイオンの脱離が起こる。そして、形成されたリチウムイオンは、有機電解液から水性電解液へと移動する。
このように、ハイブリッド電解質に基づく本発明のリチウム空気キャパシター電池の操作原理は、操作条件及び使用対象の要求に応じて変わり得るものである。
【0018】
以下の実施例に示す電気化学的な実験結果により、本発明のハイブリッド電解質に基づくリチウム空気キャパシター電池が、上述の操作条件及び適用対象の需要に対応し得る特性を実際に有することが確認された。
【実施例】
【0019】
本発明を以下の実施例により更に詳細に説明する。
以下の実施例においては、電気化学的試験は、別段の記載がない限り、以下のリチウム空気キャパシター電池を用いて行われた。
リチウム空気キャパシター電池の構造は、以下のように要約することができる(図1参照)。
I)非水性電解液(エチレン・カーボネート/ジメチル・カーボネート中、1MのLiClO4)と水性電解液(1MのKOH、4ml)がLISICON膜により分離されている。
II)空気触媒電極が水性電解液に接して設置されている。
III)有機電解液中に付加的なキャパシター電極が設置されている。
空気触媒電極としては、Mn34ベースの電極を用いた。その調製法については、Wangらによる文献(非特許文献23)に記載されている。空気触媒電極の面積は1cm2であり、触媒層の担持量は5mg/cm2である。
キャパシター電極は、活性炭(AC)粉末(85%)、ポリテトラフルオロエチレン・バインダー(PTFE)(10%)およびアセチレンブラック粉末(5%)を混合することにより、調製した。キャパシター電極の面積は、2cm2であり、ACの担持量は10mg/cm2である。
0.15mm厚の水に安定なリチウム超イオン伝導体ガラス膜(LISICON、Li1+x+yAxTi2-xSiyP3-yO12)は、日本のOhara Inc.から供給された。その伝導性は、10-4Scm-1である。
電気化学的試験は、コンピュータ制御されたSolartron Instrument Model 1287を使用して行われた。
【0020】
参考例1.活性炭ベースのキャパシター電極の性能試験
本発明のリチウム空気キャパシター電池について、電気化学試験を行うのに先立ち、本発明のリチウム空気キャパシター電池においてキャパシター電極として用いた、活性炭ベースの炭素電極のキャパシター電極としての性能を試験した。図5は、キャパシター電極の20mAの電流による有機電解液中での充放電曲線である。充放電試験には、複合電極が使用された。この電極は、以下のようにして調製された。85重量%の活性炭(AC)、5重量%のアセチレンブラック、および10重量%のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含む混合物がよく混合され、その後、集電体として機能するチタンメッシュ上に圧縮された。調製された複合電極中のACの担持量は10mg/cm2であり、電極の面積は2cm2であった。リチウム金属は、対電極および参照電極の両者として使用された。電解液は、エチレン・カーボネート/ジメチル・カーボネート(体積比1:1)中、1MのLiClO4であった。
活性炭の比キャパシタンスは、以下のように計算できる:

[式1]


ここで、Iは充放電電流値(20mA)、tは放電時間、△Vは2.5V、mは20mgである。式(1)によれば、ACのキャパシタンス計算値は、80F/gである。ACの全キャパシタンスは、1.6F(=80F/g×0.02g)である。
【0021】
実施例1.放電特性試験
本発明のリチウム空気キャパシター電池の放電時における電気化学的特性を、キャパシター電極を有さない点でのみ本発明の電池と相違するリチウム空気電池のそれと比較した。その結果を図6に示す。
図6aに示すように、放電電流の増加に伴って、リチウム空気キャパシター電池はより大きな大容量キャパシターとしての特性を示す。
すなわち、放電電流が1mAのとき、リチウム空気キャパシター電池(図6a参照)は、キャパシター電極を有さないリチウム空気電池のそれ(図6b参照)と類似する、フラットな放電電圧の放電曲線を示すが、放電電流が10mAに増加されると、リチウム空気キャパシター電池は、大容量キャパシターの典型的な特性である、スロープ状の放電曲線を示す(図6a参照)、その放電電圧値は、2.5Vよりも高い。これに対して、キャパシター電極を有さないリチウム空気電池は、フラットな放電曲線のままであるが、その放電電圧値は、放電電流が1mAのときの3Vの半分以下の、1.5Vよりも小さい値に、大幅に低下している(図6b参照)。
この結果は、本発明のリチウム空気キャパシター電池が大容量キャパシターとリチウム空気電池の混合された特性を示し、付加的なキャパシター電極がシステムの電力出力を効果的に改善することができることを、明らかに示している。
この現象は、放電電流をさらに増加させることにより、もっと明瞭となる。例えば、100mAの放電電流では、リチウム空気キャパシター電池は大容量のキャパシターとしての特性を示し、当初の放電電圧は1.3Vほどであったのに対し、キャパシター電極を有さないリチウム空気電池は20mA以上の放電電流を得ることは全くできなかった。
【0022】
図7に、リチウム空気キャパシター電池とキャパシター電極を有さないリチウム空気電池のピーク電力の比較を示す。図7で用いられるピーク電力密度は、式:P=I×Vにより計算される。ここで、Pはピーク電力(mW/cm2)であり、Iは放電電流密度(mA/cm2)であり、Vは初期放電電圧である。図7に示すように、リチウム空気キャパシター電池により達成された最大ピーク電力値は、キャパシター電極を有さないリチウム空気電池のそれのほとんど10倍高い値である。図7に示した結果から、付加キャパシターが効果的にリチウム空気電池の電力出力性能を向上させたことが明らかに示される。
【0023】
実施例2.大電流での放電とその後の自己充電試験
図8に、高ピーク電力出力直後の出力停止(または低電力出力)状態について、本発明のシステムを試験した結果を示す。
本発明のハイブリッド電解質に基づくリチウム空気キャパシター電池が、停止段階を間に挟んで、異なる電流値で放電された。図8に示すように、本発明の電池は、各電流値で7秒間放電され、その後、5分間放電停止された。放電電流の増加とともに、スロープ状の放電曲線の勾配が急になり、本発明の電池がキャパシターとしての特性をより多く示すことが、明らかに検知された。
各放電停止過程の間に、電池電圧は自動的に増加した。例えば、50mAの電流で放電を行った直後、電池電圧は速やかに回復する(図7の挿入図参照)。
【0024】
この現象は、図9により説明することができる。図9のaは、先に説明した図4cに対応するものであり、図9のbは、その際にキャパシター電極から空気極へ流れる電子の量とLISICON膜を透過し、空気極側へ到達するリチウムイオンの量の関係を説明する図である。放電停止過程では、外部回路における電子の流れは無視することができる。上述のとおり、本発明のリチウム空気キャパシター電池は、リチウム−炭素キャパシターとリチウム空気電池とが併存するものと考えることができる。高放電過程が終了したとき、空気触媒電極の電位は初期の段階(約3.3V)に回復する。しかしながら、放電過程が修了したとき、キャパシター電極の電位は放電の最終時の値を維持したままである。それゆえ、高放電過程直後の非常に短い時間においては、空気触媒電極とキャパシター電極の間に電位の差異が存在するはずである。この状況において、リチウム−炭素キャパシターはリチウム空気電池により充電されるはずである。ここでは、その現象を自己充電過程と呼ぶ。
自己充電過程においては、電子は、キャパシター電極から空気触媒電極へと流れる(図9のa参照)。空気触媒電極の内部では、空気からの酸素が、キャパシター電極の表面からのリチウムイオンの解離を伴いながらキャパシター電極から供給される電子と結合し、OH-に還元される。その間、解離したリチウムイオンは、有機電解液から水性電解液へと移動する。それは、図9に示される、完全な自己充電過程であるといえる。自己充電過程における一定時間中の電荷移動は、図9のbのように要約することができる。
【0025】
図8に示されるように、大電流による高速の放電においては、電圧は、その後の停止段階を経た後であっても、部分的にしか回復しない。このことについては、以下のように考えられる。
すなわち、自己充電速度は、充電電流(すなわち、一定時間中の電荷の移動量)に依存するはずである。しかしながら、図9のbに示されるように、自己充電電流は、セラミックLISICON膜の伝導性が低いことにより、制限される。それゆえ、リチウム空気電池の容量は大容量キャパシターのそれよりもずっと大きいにもかかわらず、このリチウム空気キャパシター電池は、大電流による放電後5分間の停止段階では、3V程度まで自己充電することができない。放電後の停止段階の時間をより長くすれば、当該リチウム空気キャパシター電池はリチウム空気電池の初期の電池電圧(3.3V)まで自己充電されるであろう。
この自己充電過程を改善するためには、LISICON膜の伝導性をさらに改善することとともに、キャパシター電極の空気電極に対する質量または面積比を最適化することが、非常に重要である。これは、キャパシター電極のキャパシタンス(F)が電位依存性であることによる。当該電極の回復電位(△V)は以下の式により計算することができる:

[式2]


ここで、△Vは、自己充電過程の最初と最後の電圧(V)の差異であり、Iは、自己充電電流(A)であり、tは、自己充電時間(=停止段階の時間=300秒)であり、そしてCは、キャパシター電極のキャパシタンス(F)である。式(3)によれば、△Vの増加は、I、I/Cおよびtに比例している。今回の機器においては、自己充電電流(I)は、セラミックLISICON膜の貧弱な伝導性によって、未だに制限されている。従って、5分以内では、初期の電圧(3.3V)まで自己充電することはできない。一方で、キャパシター電極の質量及び/又は面積を変更することによって、自己充電速度を改善し、キャパシタンス値(C)を減らすこともできる。それゆえ、将来の研究においては、LISICON膜の伝導性をさらに改善し、キャパシター電極の空気電極に対する質量または面積比を最適化することが必要である。
【0026】
実施例3.低電流での長時間放電試験
本発明のリチウム空気キャパシター電池について、実施例1に記載した放電試験を行った後、長時間の停止段階を経て、電池電圧を初期の状態に回復させた。その後、当該リチウム空気キャパシター電池を0.5mAの低放電電流で長時間放電させた。その結果を図10に示す。
図10に示されるように、本発明のリチウム空気キャパシター電池は、低電流放電では、長時間にわたり、初期の電圧を維持した、安定な放電を行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム負極/負極側有機電解液/固体電解質分離膜/正極側水性電解液/空気触媒正極から構成されるリチウム空気電池において、第2の正極として電気化学二重層を利用したキャパシター正極を設け、高速の充電・放電には、電気化学二重層を利用したキャパシター正極が主に作動し、低速の充電・放電には、空気極が主に作動することを特徴とする、リチウム空気キャパシター電池。
【請求項2】
電気化学二重層を利用したキャパシター正極として、活性炭ベースのキャパシター電極を使用することを特徴とする、請求項1に記載のリチウム空気キャパシター電池。
【請求項3】
リチウム負極の活物質として、リチウムイオン電池の負極に使用できる負極活物質を使用することを特徴とする、請求項1または2に記載のリチウム空気キャパシター電池。
【請求項4】
リチウムイオン電池の負極に使用できる負極活物質が金属リチウムであることを特徴とする、請求項3に記載のリチウム空気キャパシター電池。
【請求項5】
電気化学二重層を利用したキャパシター正極を負極側有機電解液中に設けたことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のリチウム空気キャパシター電池。
【請求項6】
高速の放電後には、空気極により、電気化学二重層を利用したキャパシター正極に対して自己充電を行うことができることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のリチウム空気キャパシター電池。
【請求項7】
リチウム空気電池と電気化学二重層を利用したキャパシターとが並列に結合され、高速の充電・放電には、電気化学二重層を利用したキャパシター正極が主に作動し、低速の充電・放電には、空気極が主に作動することを特徴とする、リチウム空気電池とキャパシターと組み合わせた蓄電デバイス。
【請求項8】
高速の放電後には、空気極により、電気化学二重層を利用したキャパシター正極に対して充電を行うことができることを特徴とする、請求項7に記載の蓄電デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−77434(P2013−77434A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216382(P2011−216382)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】