説明

リニアアクチュエータ

【課題】 部品点数の少ない簡単な構造で圧電素子を用いたリニアアクチュエータを確実に作動させる。
【解決手段】 相互に螺合する第1、第2ねじ部材12,11のうちの第1ねじ部材12の外周に複数の圧電素子13の端部を当接させ、圧電素子13に交流電圧を印加して進行波を発生させると、第1ねじ部材12が第2ねじ部材11に対して回転して軸線L方向に移動する。このとき、捩じりばね14が発生する弾発力で第1ねじ部材12に軸線Lまわりのトルクを付与することで、第1、第2ねじ部材12,11のねじ山を相互に密着させるのと同時に第1ねじ部材12を複数の圧電素子13の端部に押し付ける予荷重を発生させることができるので、最小限の部品点数で圧電素子13により第1ねじ部材13に進行波を効果的に発生させるとともに、その進行波を第1ねじ部材12から第2ねじ部材11に効果的に伝達して第1、第2ねじ部材12,11を相対回転させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1ねじ部材および第2ねじ部材を軸線まわりに相対回転し得るように螺合させ、前記軸線を囲むように配置した複数の圧電素子の端部を前記第1ねじ部材に当接させ、前記複数の圧電素子に位相をずらした交流電圧を印加して進行波を発生させることで、前記第1ねじ部材および前記第2ねじ部材を相対回転させるリニアアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
相対回転可能に螺合する雄ねじ部材および雌ねじ部材のうち、雌ねじ部材の外周に一対の圧電素子を装着し、そられの圧電素子に位相をずらした交流電圧を印加して進行波を発生させることで、雌ねじ部材を雄ねじ部材に対して回転させて軸方向に相対移動させるリニアアクチュエータが、下記特許文献1により公知である。
【特許文献1】特開2006−101593号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、第1ねじ部材、第2ねじ部材および圧電素子を用いたリニアアクチュエータでは、圧電素子の伸縮により第1ねじ部材に進行波を発生させるために、圧電素子を第1ねじ部材に圧接する予荷重を付与することが必要であり、かつ第1ねじ部材に発生した進行波で第1、第2ねじ部材を相対回転させるために、第1、第2ねじ部材のねじ山をスリップしないように相互に密着させる必要がある。
【0004】
このため、例えば第1ねじ部材をスプリング等で軸線方向に付勢し、その第1ねじ部材を圧電素子に圧接するとともに第1、第2ねじ部材のねじ山を相互に密着させることが考えられる。しかしながら、この構造では、先に第1ねじ部材が圧電素子に当接すると、第1、第2ねじ部材のねじ山間に隙間が残存する可能性があり、逆に先に第1、第2ねじ部材のねじ山間が当接すると、第1ねじ部材および圧電素子間に隙間が残存する可能性があるため、上記二つの要請を同時に満たすことは困難である。
【0005】
この問題を解決するには、第1ねじ部材を圧電素子に圧接するスプリングと、第1、第2ねじ部材のねじ山を相互に密着させるスプリングとを設ければ良いが、このようにすると部品点数が増加するという問題がある。
【0006】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、部品点数の少ない簡単な構造で圧電素子を用いたリニアアクチュエータを確実に作動させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、第1ねじ部材および第2ねじ部材を軸線まわりに相対回転し得るように螺合させ、前記軸線を囲むように配置した複数の圧電素子の端部を前記第1ねじ部材に当接させ、前記複数の圧電素子に位相をずらした交流電圧を印加して進行波を発生させることで、前記第1ねじ部材および前記第2ねじ部材を相対回転させるリニアアクチュエータにおいて、前記第1ねじ部材に前記軸線まわりのトルクを付与する弾発力を発生するトルク印加部材を備え、前記トルク印加部材が発生するトルクで、前記第1、第2ねじ部材のねじ山を相互に密着させるとともに、前記第1ねじ部材を前記複数の圧電素子の端部に押し付ける予荷重を発生させることを特徴とするリニアアクチュエータが提案される。
【0008】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、1個の前記第2ねじ部材に螺合する2個の前記第1ねじ部材を備え、前記複数の圧電素子の両端部はそれぞれ前記2個の第1ねじ部材に当接し、前記トルク印加部材は前記2個の第1ねじ部材を接続して相互に逆方向に回転させるトルクを発生することを特徴とするリニアアクチュエータが提案される。
【0009】
尚、実施の形態の捩じりばね14は本発明のトルク印加部材に対応する。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の構成によれば、軸線まわりに相対回転し得るように螺合する第1、第2ねじ部材のうちの第1ねじ部材に、軸線を囲むように配置した複数の圧電素子の端部を当接させ、複数の圧電素子に位相をずらした交流電圧を印加して進行波を発生させると、第1ねじ部材および第2ねじ部材が相対回転することで、第1ねじ部材および第2ねじ部材を軸線方向に相対移動させることができる。このとき、共通のトルク印加部材が発生する弾発力で第1ねじ部材に軸線まわりのトルクを付与することで、第1、第2ねじ部材のねじ山を相互に密着させるのと同時に第1ねじ部材を複数の圧電素子の端部に押し付ける予荷重を発生させることができるので、最小限の部品点数で圧電素子により第1ねじ部材に進行波を効果的に発生させるとともに、その進行波を第1ねじ部材から第2ねじ部材に効果的に伝達して第1、第2ねじ部材を相対回転させることができる。
【0011】
また請求項2の構成によれば、1個の第2ねじ部材に2個の第1ねじ部材を螺合させ、複数の圧電素子の両端がそれぞれ当接する2個の第1ねじ部材をトルク印加部材で接続して相互に逆方向に回転させるトルクを発生させるので、第1ねじ部材に圧電素子およびトルク印加部材を支持する支持部の機能を持たせて部品点数の更なる削減に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を添付の図面に基づいて説明する。
【0013】
図1および図2は本発明の第1の実施の形態を示すもので、図1はリニアアクチュエータの縦断面図、図2は図1の2−2線断面図である。
【0014】
リニアアクチュエータAは、軸線Lを有する円筒状の雌ねじ部材よりなる第2ねじ部材11と、その内周に螺合する一対の雄ねじ部材よりなる第1ねじ部材12,12とを備えており、軸線L方向に所定距離離間した一対の第1ねじ部材12,12の間に、4個のロッド状の圧電素子13…が配置される。4個の圧電素子13…は、その長手方向を軸線Lに沿わせ、かつ軸線Lのまわりを90°間隔で囲むように配置されており、それらの一方の端部13a…は一方の第1ねじ部材12に固着され、他方の端部13b…は他方の第1ねじ部材12に摺動可能に当接する。
【0015】
一対の第1ねじ部材12,12の間に軸線Lを囲むように捩じりばね14が配置されており、その両端は一対の第1ねじ部材12,12の相互に対向する面に係止される。捩じりばね14は装着状態で捩じり方向に予荷重が付与されており、その弾性復元力によって一対の第1ねじ部材12,12を軸線Lまわりに相互に逆方向に回転させるトルクを発生する。前記トルクにより回転方向に付勢された一対の第1ねじ部材12,12は、第2ねじ部材との螺合部から受ける反力で相互に接近する方向、つまり一対の第1ねじ部材12,12を圧電素子13…の両端部13a…,13b…に押し付ける方向に付勢され、圧電素子13…を軸線L方向に圧縮する予荷重を発生する。これと同時に相互に逆方向に回転する第1ねじ部材12,12のねじ山が、それが螺合する第2ねじ部材11のねじ山に密着し、ねじ山間のガタ(バックラッシュ)が消滅する。
【0016】
圧電素子13…は外部から荷重が加わると起電力を発生するものであるが、逆に外部から電圧が印加されと伸縮する。従って、軸線Lを囲むように円周方向に配置した4個の圧電素子13…に所定の位相差をもって交流電圧を印加すると、4個の圧電素子13…は所定の位相差をもって伸縮する。伸縮する4個の圧電素子13…の両端に当接する一対の第1ねじ部材12,12には、圧電素子13…の伸縮に応じて発生する変形が円周方向に順次伝達することで進行波(図2の矢印a参照)が生成し、この進行波が第1ねじ部材12,12および第2ねじ部材11の螺合部に作用することで、第2ねじ部材11に対して第1ねじ部材12,12が相対回転する。従って、第2ねじ部材11を固定しておけば、第2ねじ部材11に対して第1ねじ部材12,12を軸線L方向に移動させ、リニアアクチュエータAとして機能させることができる。
【0017】
このとき、捩じりばね14の作用で圧電素子13…を軸線L方向に圧縮する予荷重が発生するので、圧電素子13…の伸縮を第1ねじ部材12,12に確実に伝達して進行波を効率良く発生させることができ、かつ第1ねじ部材12,12および第2ねじ部材11のねじ山が相互に密着するので、第1ねじ部材12,12の進行波を第2ねじ部材11に対してスリップすることなく作用させ、第1ねじ部材12,12および第2ねじ部材11を効率良く相対回転させることができる。
【0018】
以上のように、共通の捩じりばね14が発生する弾発力で第1ねじ部材12,12に軸線Lまわりのトルクを付与することで、第1ねじ部材12,12および第2ねじ部材11のねじ山を相互に密着させるのと同時に、第1ねじ部材12,12を圧電素子13…の両端部13a…,13b…に押し付ける予荷重を発生させることができるので、上記二つの機能を別個の手段で行う場合に比べて部品点数を削減することができる。
【0019】
しかも1個の第2ねじ部材11に2個の第1ねじ部材12,12を螺合させ、4個の圧電素子13…の両端部13a…,13b…がそれぞれ当接する2個の第1ねじ部材12,12を捩じりばね14で接続して相互に逆方向に回転させるトルクを発生させるので、第1ねじ部材12,12に圧電素子13…および捩じりばね14を支持する支持部の機能を持たせて部品点数の更なる削減に寄与することができる。
【0020】
次に、図3〜図5に基づいて本発明の第2の実施の形態を説明する。
【0021】
第2の実施の形態は、第1の実施の形態のリニアアクチュエータAをディスクブレーキ装置Bに適用したものである。
【0022】
ディスクブレーキBは、図示せぬ車体側に固定されたキャリパボディ21と、キャリパボディ21に形成されたシリンダ22にシール部材23を介して摺動自在に嵌合するピストン24と、図示せぬ車輪側に固定されたブレーキディスク25と、図示せぬガイド手段を介してキャリパボディ21に相互に接近・離反可能に支持された一対のバックプレート26,26と、両バックプレート26,26にそれぞれ固定されてブレーキディスク25に当接可能に対向する一対のブレーキシュー27,27とを備える。
【0023】
ピストン24には第1の実施の形態のリニアアクチュエータAが用いられており、カップ状に形成された第2ねじ部材11の背部に液室28が区画され、この液室28に図示せぬマスタシリンダからブレーキ油圧が供給される。一方のバックプレート26はキャリパボディ21に当接し、他方のバックプレート26はピストン24の先端に当接する。
【0024】
しかして、サービスブレーキの作動時には、マスタシリンダから液室28に供給されたブレーキ液圧によってピストン24がシリンダ22内を前進し、他方のバックプレート26を押圧することで両ブレーキシュー27,27をブレーキディスク25に圧接して制動力を発生する。
【0025】
また電動パーキングブレーキの作動時には、ピストン24(リニアアクチュエータA)の圧電素子13…に通電することで第2ねじ部材11に対して第1ねじ部材12,12を相対回転させて前進させ、前側の第1ねじ部材12の凸部12aで他方のバックプレート26を押圧することで両ブレーキシュー27,27をブレーキディスク25に圧接して制動力を発生する。
【0026】
図6および図7は本発明の第3の実施の形態を示すもので、図6はリニアアクチュエータの縦断面図、図7は図6の7−7線断面図である。
【0027】
第3の実施の形態のリニアアクチュエータAは、ハウジング31に固定された支持部32を備えており、支持部32の中央を貫通する円形の開口32aに、軸線L上に配置された雄ねじ部材よりなる第2ねじ部材33が隙間を存して貫通する。支持部32の軸線L方向両側において、第2ねじ部材33に雌ねじ部材よりなる一対の第1ねじ部材34,34が螺合する。
【0028】
支持部32の両側面に、各々4本の圧電素子13…の一端が軸線Lを囲むように90°間隔で固定されており、それらの圧電素子13…の他端が各第1ねじ部材34に摺動自在に当接する。そして4本の圧電素子13…の外周を囲むように配置された捩じりばね14の一端が支持部32に係止され、他端が第1ねじ部材34に係止される。捩じりばね14には捩じり方向のセット荷重が付与されており、第2ねじ部材33に螺合する第1ねじ部材34は捩じりばね14の復元トルクで支持部32に接近する方向に、つまり圧電素子13…を支持部32との間に挟むように付勢される。
【0029】
従って、各4個の圧電素子13…に所定の位相差をもって交流電圧を印加すると、各4個の圧電素子13…が所定の位相差をもって伸縮することで、一対の第1ねじ部材34,34に圧電素子13…の伸縮に応じた進行波(図7の矢印a参照)が発生し、この進行波が第1ねじ部材34,34および第2ねじ部材33の螺合部に作用することで、第1ねじ部材34,34に対して第2ねじ部材33が相対回転する。その結果、第1ねじ部材34,34に対して第2ねじ部材33を軸線L方向に移動させ、リニアアクチュエータAとして機能させることができる。
【0030】
このとき、捩じりばね14,14の作用で圧電素子13…を軸線L方向に圧縮する予荷重が発生するので、圧電素子13…の伸縮を第1ねじ部材34,34で確実に伝達して進行波を効率良く発生させることができ、かつ第1ねじ部材34,34および第2ねじ部材33のねじ山が相互に密着するので、第1ねじ部材12,12および第2ねじ部材11のスリップを防止して効率良く相対回転させることができる。
【0031】
このように、捩じりばね14,14が発生する弾発力で第1ねじ部材34,34に軸線Lまわりのトルクを付与することで、第1ねじ部材34,34および第2ねじ部材33のねじ山を相互に密着させるのと同時に、第1ねじ部材34,34を圧電素子13…の端部に押し付ける予荷重を発生させることができるので、上記二つの機能を別個の手段で行う場合に比べて部品点数を削減することができる。
【0032】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0033】
例えば、実施の形態ではトルク印加部材として捩じりばね14を例示したが、捩じりばね14に代えてトーションバー等の他の手段を用いることができる。
【0034】
また実施の形態では4本の圧電素子13…を90°間隔で配置しているが、圧電素子13…の本数は4本に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】第1の実施の形態のリニアアクチュエータの縦断面図
【図2】図1の2−2線断面図
【図3】第1の実施の形態のリニアアクチュエータをブレーキ装置に適用した第2の実施の形態を示す図(ブレーキ非作動時)
【図4】サービスブレーキの作動時の状態を示す、前記図3に対応する図
【図5】電動パーキングブレーキの作動時の状態を示す、前記図3に対応する図
【図6】第3の実施の形態のリニアアクチュエータの縦断面図
【図7】図6の7−7線断面図
【符号の説明】
【0036】
11 第2ねじ部材
12 第1ねじ部材
13 圧電素子
13a 端部
13b 端部
14 捩じりばね(トルク印加部材)
33 第2ねじ部材
34 第1ねじ部材
L 軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ねじ部材(12,34)および第2ねじ部材(11,33)を軸線(L)まわりに相対回転し得るように螺合させ、前記軸線(L)を囲むように配置した複数の圧電素子(13)の端部(13a,13b)を前記第1ねじ部材(12,34)に当接させ、前記複数の圧電素子(13)に位相をずらした交流電圧を印加して進行波を発生させることで、前記第1ねじ部材(12,34)および前記第2ねじ部材(11,33)を相対回転させるリニアアクチュエータにおいて、
前記第1ねじ部材(12,34)に前記軸線(L)まわりのトルクを付与する弾発力を発生するトルク印加部材(14)を備え、前記トルク印加部材(14)が発生するトルクで、前記第1、第2ねじ部材(12,34;11,33)のねじ山を相互に密着させるとともに、前記第1ねじ部材(12,34)を前記複数の圧電素子(13)の端部(13a,13b)に押し付ける予荷重を発生させることを特徴とするリニアアクチュエータ。
【請求項2】
1個の前記第2ねじ部材(11)に螺合する2個の前記第1ねじ部材(12)を備え、前記複数の圧電素子(13)の両端部(13a,13b)はそれぞれ前記2個の第1ねじ部材(12)に当接し、前記トルク印加部材(14)は前記2個の第1ねじ部材(12)を接続して相互に逆方向に回転させるトルクを発生することを特徴とする、請求項1に記載のリニアアクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−261132(P2009−261132A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−106983(P2008−106983)
【出願日】平成20年4月16日(2008.4.16)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】