リニアアクチュエータ
【課題】リニアアクチュエータにおけるナット部材に発生する偏荷重を防止し、ナット部材の長寿命化を目的とする。
【解決手段】ナット部材と被駆動部材との間を互いに略直交する2つの回転軸を持つ接触力均等化機構で連結し、ナット部材と被駆動部材との微小傾斜を吸収し、エッジロードの発生を防ぐと共に、2つの回転軸をねじ軸方向に投影したときの交点位置を、ナット部材に対して最適荷重作用点に設定することにより、被駆動部材から伝わる外力をその作用点に作用させ、ナット部材とねじ軸との各接触部に作用する荷重を均等化し、ナット部材に発生する偏荷重を防止する。
【解決手段】ナット部材と被駆動部材との間を互いに略直交する2つの回転軸を持つ接触力均等化機構で連結し、ナット部材と被駆動部材との微小傾斜を吸収し、エッジロードの発生を防ぐと共に、2つの回転軸をねじ軸方向に投影したときの交点位置を、ナット部材に対して最適荷重作用点に設定することにより、被駆動部材から伝わる外力をその作用点に作用させ、ナット部材とねじ軸との各接触部に作用する荷重を均等化し、ナット部材に発生する偏荷重を防止する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじ軸とナット部材と有する回転直動変換機構を用いたリニアアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
効率向上による消費電力削減や環境負荷低減の観点から、油圧システムの電動化が進んでいる。昨今、こうした電動化の技術を用いて、従来、油圧シリンダを用いていた推力生成装置を電動リニアアクチュエータに置き換えようとする動きが高まっている。
【0003】
油圧シリンダのように大きな推力を発生させる必要のある電動リニアアクチュエータには、大きな推力に耐え、長寿命であることが要求される。
【0004】
電動リニアアクチュエータに必要な回転直動変換機構としては、ボールねじが実用化されているが、電動リニアアクチュエータを油圧シリンダに置き換えて用いる場合には、ナット部材に発生する偏荷重がボールねじの寿命を低下させ、大きな課題となる。
【0005】
この偏荷重は、ナット部材と駆動対象物に連結された被駆動部材とが、加工や取付けの誤差または可動部のガタなどによって、相対的に微小傾斜し、接触部が外周方向にずれることで発生する。
【0006】
そして、偏荷重が発生すると、ねじ軸とナット部材との複数の接触部に作用する荷重が不均等となり、一部の接触部に作用する荷重が増大する。
【0007】
電動リニアアクチュエータに用いられる回転直動変換機構の多くは、ボールねじにおける球のように転動体を介して、ねじ軸とナット部材とが接触するが、ナット部材に偏荷重が発生すると、その接触部に発生するヘルツ応力が増大してフレーキングの発生を早め、回転直動変換機構の寿命を低下させる。
【0008】
このため、ナット部材に生じる偏荷重を防止することが必要であり、すなわち、ねじ軸とナット部材との各接触部に作用する荷重を均等化することが求められる。
【0009】
ナット部材に生じる偏荷重の防止には、従来は、以下のような方策が考えられている。
【0010】
特許文献1に記載の技術は、駆動部材と被駆動部材との間を、それぞれ軸が互いに直交するように配置された円柱状の係合部材とこの係合部材を摺動自在に保持する円形孔とからなるカプラによって連結し、駆動部材と被駆動部材との微小傾斜を、このカプラで吸収するようにしている。
【0011】
また、特許文献2の「ボールねじ式移動装置」、特許文献3の「ボールねじ」、および、特許文献4「ボールねじ装置及び射出成形機の電動型開閉装置」に記載の技術は、ボールねじ式リニアアクチュエータのナット部材と被駆動部材との間に、自動調芯機能を持った部材が取付けられている。
【0012】
特に、特許文献2では凸曲面に、特許文献3及び特許文献4では球面に、加工された部材によって、ナット部材と被駆動部材との傾斜を吸収し、偏荷重を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平03−228538号公報
【特許文献2】特開2003−307264号公報
【特許文献3】実開平05−066360号公報
【特許文献4】特開2002−327826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
これら従来の技術は、ナット部材と被駆動部材との微小傾斜を吸収し、荷重をねじ軸の中心軸上に作用させることができる。しかしながら、それでもねじ軸とナット部材との間の複数の接触部に作用する荷重を均等化することはできないことがわかった。
【0015】
回転直動変換機構の寿命を更に向上させるためには、この残った不均等性を更に低減する必要があり、この残った不均等性を更に低減することは、大推力用の電動リニアアクチュエータに用いられる回転直動変換機構には特に有効である。
【0016】
ねじ軸とナット部材とからなる一般的な回転直動変換機構において、ナット部材に作用する外力がねじ軸の中心軸上に作用し、このとき、ねじ軸とナット部材との複数の接触部から反力としてナット部材に作用する接触力が均等であると仮定する。
【0017】
この複数の接触部が軸方向から見てほぼ同心円上に、円周方向にほぼ等間隔で配置されている場合には、各接触力の軸方向成分の合力の作用点は、ほぼ、ねじ軸の中心軸上となり、大きさも作用線も一致するため、この接触力はナット部材に作用する外力とほぼ釣合う。
【0018】
ところが、ねじ軸とナット部材との接触部は螺旋状に配置され、互いに軸方向にずれた位置にあるため、各接触部の接触力の軸直角方向成分によってナット部材には、ねじ軸の中心軸と直交する軸回りのモーメントが発生し、これがアンバランスモーメントとして残る。
【0019】
すなわち、外力がねじ軸の中心軸上に作用した場合に、各接触部の接触力が均等な状態でバランスするということは成り立たず、仮定は矛盾していることとなる。
【0020】
このため、外力がねじ軸の中心軸上に作用すると、各接触部の接触力が不均等性になり、ナット部材に偏荷重(モーメント荷重)が発生し、回転直動変換機構の寿命を低下させることになる。
【0021】
本発明は、回転直動変換機構を用いたリニアアクチュエータにおいて、ねじ軸とナット部材との各接触部に作用する荷重を均等化することで大推力に耐えつつ、長寿命を確保できるリニアアクチュエータを実現するものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
このアンバランスモーメント、つまり、偏荷重を防止または低減するための一つの方策として、ナット部材に作用する外力を、ねじ軸の中心軸上から所定の半径方向に所定の距離ずらすことが考えられる。好ましくは、最適荷重作用点に、作用させることが考えられる。
【0023】
複数の接触点の荷重が均等であれば、ねじ軸からナット部材へ反力として作用する接触力の軸方向成分の合力の作用点は、ほぼ、ねじ軸の中心軸上となる。
【0024】
このため、外力の作用位置をねじ軸の中心軸からずらすことで偶力を形成し、そのずらす距離とずらす方向とによって、この偶力の大きさとモーメントの方向とを調整することができ、これにより、偶力とアンバランスモーメントとを相殺することができる。
【0025】
このときナット部材は各接触点の荷重が均等な状態でバランスしている。つまり、各接触点における荷重が均等であるといえる。
【0026】
アンバランスモーメントが完全に相殺される偶力(外力)の作用点が最適荷重作用点であるが、この最適荷重作用点はねじ軸とナット部材との接触部の配置状態から定量的に算出できる。
【0027】
各接触点における荷重を均等にするため、本発明は、以下の構成をとる。
【0028】
本発明の形態の一つであるリニアアクチュエータは、ねじ軸と、ねじ軸に螺合するナット部材と、駆動対象物に連結された被駆動部材と、ナット部材と被駆動部材とを連結し、互いに略直交する2つの回転軸を持つ接触力均等化機構(カプラ)と、を有し、ねじ軸に対する相対的な回転運動によって、ナット部材を軸方向に進退運動させ、ナット部材の進退運動によって、接触力均等化機構と被駆動部材とを介して、駆動対象物に直動運動を与えるものである。
【0029】
そして、接触力均等化機構の2つの回転軸を、ねじ軸の方向に投影したときの交点位置を、ねじ軸の回転軸から、半径方向にずらしたことを特徴とする。
【0030】
このずらすべき半径方向(中心軸からの方向)および距離は、ねじ軸とナット部材との接触部の配置状態によって概ね決定される。
【0031】
このように交点位置を半径方向にずらし、接触力均等化機構の2つの回転軸を、回転運動(揺動運動)させることによって、ナット部材と被駆動部材との間の微小傾斜を吸収する。
【0032】
そして、2つの回転軸をねじ軸の方向に投影したときの交点位置が、ナット部材に対して固定された外力の作用点となり、この作用点をねじ軸とナット部材との接触部の配置状況から決定される最適荷重作用点に合わせる。
【0033】
これにより、ナット部材に発生するアンバランスモーメントを相殺し、各接触部に作用する荷重を均等化でき、ナット部材に発生する偏荷重の防止または低減が可能となる。
【0034】
また、本発明の形態の一つであるリニアアクチュエータは、ナット部材と被駆動部材との間で荷重を伝達する際に、圧縮方向の荷重を伝達するものであり、引張方向の荷重を伝達しないように使用されるものである。
【0035】
つまり、本発明の形態の一つであるリニアアクチュエータは、たとえば、ねじ軸に対してナット部材が上下方向に駆動するように使用することが想定される。
【0036】
また、リニアクチュエータを水平方向に使用する場合であっても、リニアクチュエータの一方向からばね等によって荷重が作用している機構やリニアクチュエータの一方にL字レバーが形成される機構が想定される。
【0037】
こうしたリニアアクチュエータを、このように使用することにより、ナット部材と被駆動部材とは片方向の外力を伝達し、荷重の方向が異なることがなく、ナット部材の最適荷重作用点の位置が一定であり、こうした一定の最適荷重作用点に外力は作用する。
【0038】
また、こうしたリニアアクチュエータを水平方向で使用する場合には、ナット部材の進退方向の両側に2つの接触力均等化機構を連結し、2つの接触力均等化機構は、同一の被駆動部材に連結されていることが好ましい。
【0039】
また、リニアアクチュエータを水平方向で使用しない場合であっても、リニアアクチュエータに対して双方向の荷重が作用する場合には、ナット部材の進退方向の両側に2つの接触力均等化機構を連結し、この2つの接触力均等化機構は、同一の被駆動部材に連結されていることが好ましい。
【0040】
こうした構成を有することにより、ナット部材の最適荷重作用点が外力の方向によって異なる場合であっても、外力の方向によって、これを伝達する接触力均等化機構が作用する力の位置(方向)を変え、外力の方向によらず、最適荷重作用点に外力を作用させることができる。
【0041】
また、本発明の形態の一つであるリニアアクチュエータは、ねじ軸とナット部材とが、ナット部材に回転支持された複数のローラを介して接触し、転がり対偶によるローラねじ機構を構成していることが、特に、好ましい。
【0042】
こうしたローラねじ機構を有することにより、小球の点接触部に大きなヘルツ応力が発生するボールねじに比較して、ローラの接触部が線接触であるローラねじは、ヘルツ応力を低減することができる。
【0043】
つまり、ローラねじは、ボールねじと大きさが同程度ならばより大きな推力に耐えることができ、耐推力が同程度ならばより小型化できる。
【0044】
ここで使用するローラねじは、一方向からのスラスト荷重をねじ軸に伝達するローラの数が3つであり、それらをねじリードの略3分の1ずつ軸方向にずらし、3分の2π[rad]ずつ円周方向にずらして配置したものが好ましい。
【0045】
これにより、ねじ軸とナット部材との接触部が3つとなるため、構成部品に多少の寸法誤差が存在しても確実に全てのローラがねじ軸と接触し、荷重を支持することができる。
【0046】
また、ローラの数が3つのローラねじを使用し、ねじ軸の回転軸をZ軸、3つのローラのうち、軸方向の中央に配置されているローラとねじ軸との接触部中心を通りZ軸と直交する軸をY軸、Y軸とZ軸との両方と直交する軸をX軸、ねじ軸のリードをL[mm]、ローラとねじフランク面との接触部を通過する螺旋のリード角をγ[rad]、YZ平面をY軸回りにγ回転させた平面上におけるねじフランク面とローラとの接触部の中央付近における接線とXZ平面とのなす角をα[rad]と規定する。
【0047】
この場合、接触力均等化機構の2つの回転軸を、ねじ軸の方向に投影したときの交点位置は、Z軸から半径方向にほぼ
【0048】
【数1】
【0049】
の距離であり、Z軸回りの角度がX軸から、ほぼ
【0050】
【数2】
【0051】
の角度であることが好ましい。
【0052】
このように交点位置を設定することにより、ナット部材に作用する外力を、最適荷重作用点の近傍に作用させ、ねじ軸と3つのローラとの接触力をほぼ完全に均等化することができる。
【0053】
つまり、3つのローラを用いた場合の最適荷重作用点とは、3つのローラの作用する荷重が均等となる点であること意味する。
【0054】
こうしたリニアアクチュエータは、ねじ軸のリードが大きい場合に、特に、有効である。
【0055】
なお、本発明の形態の一つであるリニアアクチュエータは、電動フォークリフトの昇降に使用することができる。
【発明の効果】
【0056】
本発明の回転直動変換機構を用いたリニアアクチュエータにより、ねじ軸とナット部材との各接触部に作用する荷重を均等化することで、大推力に耐えつつ、長寿命を確保できるリニアアクチュエータを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】リニアアクチュエータの外観図。
【図2】図1に示したリニアアクチュエータの正面図。
【図3】図1に示したリニアアクチュエータに使用したローラねじの左側面図,正面図およびA−A断面図。
【図4】図1に示したリニアアクチュエータに使用したねじ軸と3つのローラとを示した左側面図,正面図,上面図およびB−B断面図。
【図5】図1に示したリニアアクチュエータに使用したねじ軸とナット部材との各接触部に作用する荷重を均等にする接触力均等化機構の外観図。
【図6】図5における接触力均等化機構の各部品の分離図。
【図7】図5における接触力均等化機構の上面図および下面図。
【図8】実施例2におけるリニアアクチュエータの外観図。
【図9】図8に示したリニアアクチュエータ使用したねじ軸と6つのローラとを示した左側面図および正面図。
【図10】実施例3におけるリニアアクチュエータの外観図。
【図11】リニアアクチュエータを搭載したフォークリフトの側面図。
【図12】図11に示したフォークリフトにおける荷役装置の拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0058】
以下、発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0059】
図1,図2,図3,図4は実施例1のリニアアクチュエータを、図8,図9は実施例2のリニアアクチュエータを、図10は実施例3のリニアアクチュエータをそれぞれ図示したものである。
【0060】
図5,図6,図7はこれらリニアアクチュエータにおいて、ねじ軸とナット部材との各接触部に作用する荷重を均等にする接触力均等化機構を図示したものである。
【0061】
図11,図12は、リニアアクチュエータを搭載したフォークリフトおよび荷役装置を示したものである。
【実施例1】
【0062】
本実施例におけるリニアアクチュエータは、例えば、ねじ軸が地面と垂直あるいはそれに近い向きに設置され、ナット部材は重力に逆らって被駆動部材を押し上げるというような、ナット部材に一方向荷重が作用する場合を想定したものである。
【0063】
つまり、ねじ軸に対してナット部材が上下に駆動するような場合を想定したものである。
【0064】
図1は、実施例1におけるリニアアクチュエータの外観図を示す。
【0065】
本実施例におけるリニアアクチュエータは、外周面に螺旋溝を形成したねじ軸1と、3つのローラ31,32,33(ローラ33は図1では死角となり図示されていない)、および、各々のローラを転がり軸受4を介して回転支持するローラケージ2を構成要素とするナット部材11と、を有している。
【0066】
ナット部材11は、3つのローラ31,32,33を介して、ねじ軸1に螺合する。
【0067】
リニアアクチュエータは、さらに、ナット部材11とねじ軸1の複数の転動部における接触力が不均等になるのを防止する接触力均等化機構12を構成要素として有している。
【0068】
なお、接触力均等化機構12は、中間部材5および滑動部材6を構成要素として有している。
【0069】
ねじ軸1とナット部材11とは、それらの間に相対的な回転運動を与えることにより、相対的な直動運動を生成する回転直動変換機構を構成している。
【0070】
例えば、ねじ軸1が、図示しないモータの出力軸によって回転駆動された場合、ナット部材11の回転が阻止されている状態であれば、ナット部材11は直動駆動される。
【0071】
リニアアクチュエータは、ナット部材11が接触力均等化機構12を介して被駆動部材8に接続され、回転を阻止される。これによって、ナット部材11は直動駆動される。
【0072】
図2は、図1に示したリニアアクチュエータの正面図を示す。
【0073】
つまり、本実施例におけるリニアアクチュエータは、図2中、左右に駆動するものであり、図2中、右側から左側に向かって力が作用し、ナット部材11と被駆動部材8との間で荷重を伝達する際に、圧縮方向の荷重を伝達することになる。
【0074】
なお、図2において使用した符号は、図1において使用した符号と同様の構成要件を示すものである。
【0075】
図3は、図1に示したリニアアクチュエータに使用したローラねじの左側面図(a)、正面図(b)およびA−A断面図(c)を示す。つまり、本実施例におけるねじ軸1とナット部材11とを有するローラねじを示したものである。
【0076】
図3(a)に示すように、ナット部材11は、3つのローラ31,32,33がそれぞれリードのほぼ3分の1ずつ軸方向にずらされ、その結果、3分の2πずつ円周方向にずらされて配置されている。
【0077】
図3(b)に示すように、ねじ軸1とナット部材11との接触部に作用する荷重が均等であるとして、ナット部材11に発生するモーメントを計算することができる。
【0078】
ナット部材11に作用する一方向荷重Fは、接触力均等化機構12を介して、ナット部材11とねじ軸1との接触部に均等に作用し、ローラケージ2,転がり軸受4を介して各ローラに伝わる。
【0079】
図3(c)に示すように、このローラねじは、台形状断面の螺旋溝を外周に形成したねじ軸1と、その螺旋溝の一方の傾斜面であり、台形状断面の螺旋溝の右上方向を向いた右フランク面1aに接触して転動する3つのローラ31,32,33(ローラ32,33は図3(c)では図示されていない)と、各々のローラを転がり軸受4を介して回転支持するローラケージ2を構成要素としている。
【0080】
各ローラは、ローラケージ2に固定された各ローラの自転軸を、ねじ軸1の螺旋溝のリード角でねじ軸1の中心軸と交差する平面内に配置し、その平面内で外周方向に向かって各ローラとねじ軸1とが転動する接触部側に傾斜する。
【0081】
そして、各ローラとねじ軸1との転動距離の大きい部分同士、転動距離の小さい部分同士がそれぞれ転動するようになっており、各ローラとねじ軸1との接触線上のいずれの点においてもすべりが微小であり、完全に近い転がりが可能である。
【0082】
また、各ローラの端面を、ねじ軸1の中心軸に対して傾斜させ、各ローラが転動するねじ山と隣のピッチのねじ山とを、干渉しにくくしている。
【0083】
さらに、各ローラの転動面を、各ローラが転動するフランク面を含むねじ山の隣(次)のピッチのねじ山を越えて、ねじ軸1の軸方向範囲を占める構成とすることで、各ローラのヘルツ接触部の曲率半径を拡大し、ヘルツ応力を低減し、転動部の耐久性を向上させている。
【0084】
加えて、各ローラの転動部に隣接した端面に凹部を形成することにより、各ローラの自転軸を外周方向に向かって各ローラとねじ軸1とが転動する接触部側に傾斜させる際の傾斜量が小さい場合であっても、次のピッチにおけるねじ山と各ローラ端面との干渉を避けることができる。
【0085】
この傾斜量が小さいと、各ローラの転動部の径が同じ場合は、ナット部全体の外径を小さく抑えることができる。
【0086】
図5,図6,図7は、本実施例におけるリニアアクチュエータに形成されるねじ軸とナット部材との各接触部に作用する荷重を均等にする接触力均等化機構12を図示したものである。
【0087】
なお、図6,図7において使用されている符号は、図5において使用されている符号と同様の構成要素を示すものである。
【0088】
図5は、図1に示したリニアアクチュエータに使用したねじ軸とナット部材との各接触部に作用する荷重を均等にする接触力均等化機構の外観図を示したものである。
【0089】
図5において、接触力均等化機構12は、凸曲面部(円筒曲面部)6aと平面部6dとからなり、ほぼ半円柱形状で凸曲面部6aに摺動面を有する4つの滑動部材6と、円盤状のものにねじ軸1を通すための円筒形の穴が開けられたリング状をしており、滑動部材6の凸曲面部6aに対応する凹曲面部5aを有する中間部材5と、を構成要素としている。
【0090】
なお、滑動部材6には、ナット部材11のローラケージ2と、または、被駆動部材8とを接続する連結ピン部材7が形成されている。
【0091】
この滑動部材6は、その断面がほぼ半円形状であり、曲面部分で中間部材5と接触し、平面部分では中間部材5と接触しない構造をとることにより、圧縮方向の荷重を伝達することになり、引張方向の荷重を伝達しないようになる。このような構成を有することにより、接触力均等化機構12を薄く形成できると共に強度も向上する。
【0092】
接触力均等化機構12は、滑動部材6の凸曲面部6aと中間部材5の凹曲面部5aとが接触及び摺動するよう配置され、円弧の円周方向に摺動することにより揺動動作を行う。
【0093】
中間部材5の凹曲面部5aは、上面5b,下面5cのそれぞれに2つずつ形成されており、同一面上の2つの凹曲面部5aは、そこに配置される滑動部材6の揺動軸6b(上面5bに対応)または揺動軸6c(下面5cに対応)が同一となるように、つまりそれぞれ同一の揺動軸上に形成されている。
【0094】
図6は、図5における接触力均等化機構12の各部品(構成要素)の分離図を示したものである。
【0095】
滑動部材6の平面部6dには、連結ピン部材7を挿入する孔が設けられ、連結ピン部材7が挿入される。
【0096】
同様に、ローラケージ2及び被駆動部材8にも、連結ピン部材7の挿入孔が設けられる。
【0097】
滑動部材6の平面部6dに挿入されている連結ピン部材7がローラケージ2及び被駆動部材8に挿入されることで、滑動部材6とローラケージ2とが、および、滑動部材6と被駆動部材8とが、半径方向にずれないように形成される。
【0098】
これにより、ナット部材11は接触力均等化機構12を介して被駆動部材8へ連結され、ナット部材11および被駆動部材8は、ねじ軸1に直角な軸回りの揺動が可能となる一方で、ねじ軸1の軸回りの相対回転ができない状態となる。
【0099】
ナット部材11および被駆動部材8は、ねじ軸1の回転軸とほぼ平行(軸方向)に直動可能ではあるが、ねじ軸1の回転軸回りには回転できないように拘束される。
【0100】
この結果、モータ(図示せず)の出力によって、ねじ軸1が回転すると、ナット部材11はねじ軸1に対して相対的に直動動作を行い、被駆動部材8は、ねじ軸1とほぼ平行に進退する。
【0101】
図7は、図5における接触力均等化機構12の上面図(a)及び下面図(b)を示したものである。
【0102】
中間部材5の上面5bに配置された滑動部材6の揺動軸6bと中間部材5の下面5cに配置された滑動部材6の揺動軸6cとは、互いに交差(直交)またはねじれの位置にあり、2つの揺動軸6b,6cをねじ軸1の方向に投影したときの交点6eは、中間部材5の中心6dから距離Ldだけ離れた位置に存在する。
【0103】
このような接触力均等化機構12は、2つの揺動軸により、微小傾斜を吸収でき、滑動部材6の断面を半円形状とすることにより、接触力均等化機構12を薄く形成できると共に強度も向上する。
【0104】
以下、ナット部材11の最適荷重作用点(交点6e)を算出する。
【0105】
図4は、図1に示したリニアアクチュエータに使用したねじ軸と3つのローラとを示した左側面図(a),正面図(b),上面図(c)およびB−B断面図(d)を示したものである。
【0106】
本実施例におけるナット部材11の最適荷重作用点は以下のように算出できるが、まず、ねじ軸1とナット部材11との接触部に作用する荷重が均等であるとして、ナット部材11に発生するモーメントを計算する。
【0107】
ナット部材11に作用する一方向荷重F(図3(b)に示すもの)は、ローラケージ2、転がり軸受4を介して各ローラに伝わる。
【0108】
図4には、各ローラ31,32,33が、ねじ軸1から受ける線分布荷重の合力F1,F2,F3と、これが作用する代表点P1,P2,P3とが図示されている。
【0109】
以下の説明を容易にするため、3点の中で軸方向中央にある点P1がXY平面上となるようなX軸,Y軸,Z軸を、図4に示す。
【0110】
このとき、点P1,P2,P3の位置は次式で表される。
【0111】
【数3】
【0112】
ここで、Dは各点P1,P2,P3の配置径((a)参照)、Lはねじ軸1のリード((b)参照)である。
【0113】
合力F1は、ねじ軸1の中心軸に対してリード角γ((c)参照)ずれた平面内にあって、XZ平面に対して角度α((d)参照)傾斜した接触部接線と対になる法線方向に作用している。
【0114】
合力F2,F3も同様であり、合力F1がリードLの3分の1ずつZ軸方向にずれ、120゜ずつ、ねじ軸1の円周方向に回転した状態で作用している。
【0115】
合力F1,F2,F3それぞれのX成分,Y成分,Z成分は、接触部に作用する荷重が均等であるとの条件のもと、それぞれの力の大きさを等しくFnとし、次のように表される。
【0116】
【数4】
【0117】
【数5】
【0118】
【数6】
【0119】
【数7】
【0120】
【数8】
【0121】
【数9】
【0122】
【数10】
【0123】
【数11】
【0124】
【数12】
【0125】
ナット部材11に作用する一方向荷重Fは、3つの接触部に作用する力のZ成分を合わせたものに等しくなるため、
【0126】
【数13】
【0127】
よりFnは以下である。
【0128】
【数14】
【0129】
合力F1,F2,F3の3つの力によって生じるモーメントM((a)参照)は、X軸回りのモーメントMxとY軸回りのモーメントMyとの合成として次のように表すことができる。
【0130】
【数15】
【0131】
【数16】
【0132】
【数17】
【0133】
上式に、合力F1,F2,F3の各成分およびFnを代入して以下が求まる。
【0134】
【数18】
【0135】
また、モーメントMの回転軸の向きθM((a)参照)は、
【0136】
【数19】
【0137】
である。
【0138】
ナット部材11の最適荷重作用点P0((a)参照)は、ナット部材11に生じるモーメントMを相殺する荷重作用点であり、Z軸からの距離r((a)参照)とZ軸回りの角度θ((a)参照)で表すと次のように求めることができる。
【0139】
【数20】
【0140】
【数21】
【0141】
接触力均等化機構12の中心6d(図7参照)は、ねじ軸1の中心軸上に配置され、図7における寸法Ldは、図4における距離rと一致させることが好ましい。
【0142】
また、接触力均等化機構12は、ローラケージ2に対して、図7における6eが角度θの方向となるように、連結ピン部材7によってナット部材11に取付けられている。
【0143】
すなわち、ナット部材11に作用する外力は接触力均等化機構12を介して伝わり、このとき外力は最適荷重作用点P0である交点6eに作用するため、ねじ軸1とナット部材11との3つの接触部に作用する荷重がほぼ完全に均等化される。
【0144】
また、接触力均等化機構12の持つ2つの揺動軸の揺動運動により、ナット部材11と被駆動部材8との間の微小傾斜を吸収することができ、微小傾斜しても最適荷重作用点P0は交点6eとほぼ重なる。
【0145】
なお、最適荷重作用点P0と交点6eとを一致させることにより、大きい効果(たとえば、リニアアクチュエータの耐用年数15年)を得ることができるが、最適荷重作用点P0と交点6eとが一致せず、ずれていても、所定の効果(たとえば、リニアアクチュエータの耐用年数10年)を得ることができる場合がある。
【0146】
つまり、交点6eを、中間部材5の中心6dから離れた位置に(ねじ軸1の回転軸から半径方向にずらして)設定すると共に、交点6eを、最適荷重作用点P0が存在する方向に少しでも近づけて設定することにより、所定の効果が得られる。
【0147】
したがって、実施例1に示すリニアアクチュエータは、図1に示すように、ねじ軸1と、ねじ軸1に螺合し、回転支持された3つのローラ31,32,33を介してねじ軸1と接触するローラねじ機構を持つナット部材11と、駆動対象物に連結された被駆動部材8と、ナット部材11と被駆動部材8とを連結するものであり、図5に示すように、互いにねじれの位置関係にある2つの回転軸(6b,6c)を持つ接触力均等化機構12、を有するものである。
【0148】
そして、ねじ軸1に対する相対的な回転運動によって、ナット部材11をねじ軸1の方向に進退運動させ、ナット部材11の進退運動によって、接触力均等化機構12と被駆動部材8とを介して、駆動対象物に直動運動を与える。
【0149】
そこで、実施例1に示すリニアアクチュエータの特徴は、接触力均等化機構12の2つの回転軸をねじ軸1の方向に投影したときの交点位置(6e)を、ねじ軸1の回転軸から、ナット部材11の進行方向に対して、3つのローラのうち最先にあるローラの位置の方向に、ずらしたことにある。
【0150】
ここで、進退運動の進行方向は、図4(b)に示すZ軸のプラスの方向(図中、左側から右側へ)である。つまり、ローラ31,32,33が傾斜している角度が鋭角の方向に進行する。
【0151】
また、実施例1に示すリニアアクチュエータの特徴は、接触力均等化機構12の2つの回転軸をねじ軸1の方向に投影したときの交点位置(6e)を、ねじ軸1の回転軸から、ナット部材11の退行方向に対して、3つのローラのうち最後にあるローラの位置の方向に、ずらしたことにある。
【0152】
ここで、進退運動の退行方向は、図4(b)に示すZ軸のマイナスの方向(図中、右側から左側へ)である。つまり、ローラ31,32,33が傾斜している角度が鈍角の方向に退行する。
【0153】
このことから、ねじ軸1とナット部材11との3つの接触部に作用する荷重の不均等を防止することができる。
【0154】
本実施例におけるナット部材に作用する外力がナット部材とねじ軸との各接触部に均等に作用する回転直動変換機構を用いることにより、ねじ軸とナット部材との複数の転動部に作用する接触力が不均等になることを抑制する。
【0155】
したがって、回転直動変換機構を用いたリニアアクチュエータの長寿命化を図ることができ、副次的に騒音発生を防止することもできる。
【0156】
以下、本実施例で示したリニアアクチュエータを搭載したフォークリフトについて説明する。
【0157】
図11は、リニアアクチュエータを搭載したフォークリフトの側面図を示したものである。
【0158】
図11において、フォークリフトは、走行装置及び荷役操作装置等が装着された車体9と、車体9の前方に設置された荷役装置90を備えている。
【0159】
荷役装置90は、荷物等を支持するフォーク95と、フォーク95を上下に駆動するための支柱であるアウタマスト91とを有している。
【0160】
図12は、図11に示したフォークリフトにおける荷役装置の拡大図を示したものである。
【0161】
図12において、荷役装置90は、アウタマスト91と、アウタマスト91の内側に設置され、アウタマスト91に沿って昇降するインナマスト92と、インナマスト92の上部に設置されたチェーンホイール93と、チェーンホイール93を介して、一方の端がアウタマスト91に、他方の端がフォーク95にそれぞれ接続されたリフトチェーン94と、インナマスト92を上下運動(昇降)させるリニアアクチュエータと、を備え、これらはカバー98に覆われている。
【0162】
そして、荷役装置90は、インナマスト92に設置され、インナマスト92の上下運動と連動して昇降するフォーク95を有している。
【0163】
リニアアクチュエータは、アウタマスト91に回転可能に支持されたねじ軸1と、ねじ軸1に螺合するナット部材11と、インナマスト92に固定された被駆動部材8と、ナット部材11と被駆動部材8との間に設けられた接触力均等化機構12と、を有している。
【0164】
ねじ軸1は複数の歯車96を介して、モータ97と接続しており、モータ97の駆動力によって、ねじ軸1が回転する。
【0165】
ナット部材11は、接触力均等化機構12を介して、被駆動部材8と連結されており、ねじ軸1の回転軸回りには回転できないように連結されている。
【0166】
このため、ねじ軸1の回転に従って、ナット部材11が直動運動する。ナット部材11の直動運動は、接触力均等化機構12及び被駆動部材8を介して、インナマスト92に伝わる。
【0167】
したがって、モータ97の駆動力によってナット部材11が直動運動し、ナット部材11の直動運動に従って、インナマスト92を昇降させることができる。
【0168】
インナマスト92が昇降すると、チェーンホイール93も同時に昇降する。チェーンホイール93が動滑車として作用するため、インナマスト92の速度に比較して2倍の速度でフォーク95が昇降する。
【0169】
このような荷役装置90は、モータ97を駆動することによって、フォーク95を昇降させることができ、こうした荷役装置90は、フォークリフトに利用することができる。
【0170】
フォーク95に荷役対象物が搭載されると、荷役対象物の自重により、インナマスト92は微小傾斜し、インナマスト92に固定された被駆動部材8も微小傾斜し、被駆動部材8と共にナット部材11も微小傾斜する。
【0171】
しかし、この微小傾斜は接触力均等化機構12によって吸収され、ナット部材11にエッジロード等を発生させることはない。
【0172】
また、被駆動部材8からナット部材11に伝わる荷重を、接触力均等化機構12により、ナット部材11の最適荷重作用点に作用させるため、ナット部材11とねじ軸1との接触部に作用する荷重は均等となり、一部の接触部に過大な負荷がかからないようになる。
【0173】
こうしたことから、リニアアクチュエータの長寿命化が図れる。
【0174】
すなわち、本実施例のように、従来、主に油圧アクチュエータが利用されてきたフォークリフトのアクチュエータとして、電動リニアアクチュエータを利用することができる。
【0175】
このように、フォークリフトに電動リニアアクチュエータを用いた場合、以下のようなメリットが考えられる。
【0176】
・油圧アクチュエータに比べて、機械効率を高くすることができるため、省エネである。
【0177】
・電動リニアアクチュエータは、動力回生を行うことができるため、省エネである。
【0178】
・電動リニアアクチュエータは、油レスのフォークリフトを実現できるため、汚染などの環境負荷を低減でき、食品工場等の油圧アクチュエータの使用が困難な環境へ適用可能となる。
【0179】
また、本実施例に示した、つまり、接触力均等化機構を用いたリニアアクチュエータを搭載したフォークリフトは、以下のようなメリットがある。
【0180】
・接触力均等化機構を用いることにより、各ローラに均等な荷重を作用させることができるため、長寿命化が図れる。
【0181】
・接触力均等化機構を用いることにより、用いない場合に比べて、より機械効率を高くすることができるため、省エネである。
【実施例2】
【0182】
以下、図8を用いて、実施例2を説明する。
【0183】
図8は、実施例2におけるリニアアクチュエータの外観図を示すものである。
【0184】
リニアアクチュエータは、外周面に螺旋溝を形成したねじ軸1と、ねじ軸1に螺合し、6つのローラ31,32,33および31′,32′,33′(ローラ33′は図8では死角となり図示されていない)と、各々のローラを転がり軸受4および4′を介して、回転支持するローラケージ20を構成要素とするナット部材13と、ナット部材13に発生する偏荷重を防止する接触力均等化機構(偏荷重防止機構)12および12′と、を有している。
【0185】
なお、接触力均等化機構(偏荷重防止機構)12および12′は、それぞれ中間部材5および5′ならびに滑動部材6および6′を具備している。
【0186】
ねじ軸1とナット部材13とは、それらの間に相対的な回転運動が与えられることにより、相対的な直動運動を生成する回転直動変換機構を構成している。
【0187】
ねじ軸1は、図示しないモータの出力軸に接続され、ナット部材13は接触力均等化機構12および12′を介して、被駆動部材80と接続されている。
【0188】
接触力均等化機構12および12′は、実施例1で説明した接触力均等化機構と同様である。
【0189】
このように構成することにより、ナット部材13に双方向の荷重が作用する場合であっても、偏荷重を防止あるいは低減することができる。
【0190】
図9は、図8に示したリニアアクチュエータ使用したねじ軸と6つのローラとを示した左側面図(a)および正面図(b)を示したものである。
【0191】
図9は、ねじ軸1とナット部材13との関係を示したものであるが、説明の都合上、ローラケージ20,転がり軸受4および4′を省略して図示する。
【0192】
ナット部材13は、実施例1におけるナット部材11を2つ設置したものである。
【0193】
一方のナット部材を他方のナット部材に対して、ねじ軸1と垂直の方向であるX軸回りまたはY軸回りに、180゜回転させ、つまり、2つのナット部材を向かい合わせに設置する。
【0194】
さらに、2つのナット部材をねじ軸1の中心軸回りにβ回転させて設置する((a)参照)。
【0195】
6つのローラのうち、一方の3つのローラ31,32,33はねじ軸1の右フランク面1aと接触し、他方の3つのローラ31′,32′,33′はねじ軸1の左フランク面1bと接触するよう配置されている((b)参照)。
【0196】
このように配置することによって、ナット部材13は、進退の両方向(たとえば、前後,左右のような平面上における移動)について、荷重を支えることができるため、被駆動部材80に両方向の荷重が作用する場合にも用いることができる。
【0197】
また、被駆動部材80に、図8において、左向き荷重Fが作用する場合、荷重は被駆動部材80から接触力均等化機構12を介して、ナット部材13に伝わり、3つのローラ31,32,33が、ねじ軸1に対して荷重を作用させる。
【0198】
このとき、接触力均等化機構12′は、滑動部材6′と中間部材5′とが連結されておらず、圧縮荷重のみを伝達するため、被駆動部材80から接触力均等化機構12′を介してナット部材13に荷重が伝わることはない。
【0199】
被駆動部材80に、図8において、右向きの荷重F′が作用する場合、荷重は被駆動部材80から接触力均等化機構12′を介して、ナット部材13に伝わり、3つのローラ31′,32′,33′が、ねじ軸1に対して荷重を作用させる。
【0200】
このとき、接触力均等化機構12は、滑動部材6と中間部材5とが連結されておらず、圧縮荷重のみを伝達するため、被駆動部材80から接触力均等化機構12を介してナット部材13に荷重が伝わることはない。
【0201】
一方の3つのローラ31,32,33とねじ軸1との接触状態から、実施例1に示す通り最適荷重作用点P0が求まり、他方の3つのローラ31′,32′,33′とねじ軸1との接触状態から、実施例1に示す通り最適荷重作用点P0′が求まる。
【0202】
この2つの最適荷重作用点(P0,P0′)は、実施例1における最適荷重作用点を表わす距離rと角度θとのうち、距離rは等しいが、角度θも等しいとは限らず、多くの場合において角度θは異なる。
【0203】
このため、一方の3つのローラ31,32,33が荷重を受ける場合、すなわち被駆動部材80に左向きの荷重Fが作用する場合と、他方の3つのローラ31′,32′,33′が荷重を受ける場合、すなわち被駆動部材80に右向きの荷重F′が作用する場合とでは、最適荷重作用点が異なることになる。
【0204】
そこで、本実施例では、荷重の向きによって異なる最適荷重作用点に、荷重を作用させるために、圧縮荷重を伝達する2つの接触力均等化機構をナット部材13の両側にそれぞれ配置している。
【0205】
こうした構成により、被駆動部材80に作用する荷重の向きによらず、ナット部材13に発生する偏荷重を防止あるいは低減することができる。
【0206】
なお、本実施例に示した、つまり、接触力均等化機構を用いたリニアアクチュエータは、フォークリフトに限らず、従来の油圧シリンダに置き換えて使用することができる。建設機械、たとえば、パワーショベルのアームの先端に形成され、バケットを駆動する機構に、こうしたリニアアクチュエータを使用することができる。
【0207】
なお、本実施例におけるリニアアクチュエータは、たとえば、ねじ軸1が水平方向に設置され、ナット部材13が水平方向に駆動する場合に好適である。また、ねじ軸1に対してナット部材13が進退の両方向から荷重を受ける場合に好適である。
【実施例3】
【0208】
以下、図10を用いて、実施例3を説明する。
【0209】
図10は、実施例3におけるリニアアクチュエータの外観図を示すものである。
【0210】
実施例3は、実施例1におけるローラねじを、ボールねじに置き換えた構成である。
【0211】
つまり、実施例1にけるナット部材11をボールねじ用ナット部材14に、ねじ軸1をボールねじ用ねじ軸10に置き換えたものである。
【0212】
リニアアクチュエータに、一般的なボールねじを使用する場合も、転動体であるボール(球)とボールねじ用ねじ軸10との接触状態から、実施例1に示す方法を用いて、最適荷重作用点を算出することができる。
【0213】
なお、ボールねじを使用した場合の最適荷重作用点の算出にあたっては、各ボールが、ボールねじ用ねじ軸10に対して、一点一点、作用していることから、ボールねじ用ねじ軸10の一周あたりのボールの数を考慮して算出することになる。
【0214】
実施例3においても、接触力均等化機構(偏荷重防止機構)12は、ボールねじ用ナット部材14の最適荷重作用点に荷重を作用させることができ、被駆動部材81とボールねじ用ナット部材14との間に取付けられる。
【符号の説明】
【0215】
1,10 ねじ軸
2,20 ローラケージ
4,4′ 転がり軸受
5,5′ 中間部材
6,6′ 滑動部材
7 連結ピン部材
8,80,81 被駆動部材
9 車体
11,13,14 ナット部材
12,12′ 接触力均等化機構
31,31′,32,32′,33,33′ ローラ
90 荷役装置
91 アウタマスト
92 インナマスト
93 チェーンホイール
94 リフトチェーン
95 フォーク
96 歯車
97 モータ
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじ軸とナット部材と有する回転直動変換機構を用いたリニアアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
効率向上による消費電力削減や環境負荷低減の観点から、油圧システムの電動化が進んでいる。昨今、こうした電動化の技術を用いて、従来、油圧シリンダを用いていた推力生成装置を電動リニアアクチュエータに置き換えようとする動きが高まっている。
【0003】
油圧シリンダのように大きな推力を発生させる必要のある電動リニアアクチュエータには、大きな推力に耐え、長寿命であることが要求される。
【0004】
電動リニアアクチュエータに必要な回転直動変換機構としては、ボールねじが実用化されているが、電動リニアアクチュエータを油圧シリンダに置き換えて用いる場合には、ナット部材に発生する偏荷重がボールねじの寿命を低下させ、大きな課題となる。
【0005】
この偏荷重は、ナット部材と駆動対象物に連結された被駆動部材とが、加工や取付けの誤差または可動部のガタなどによって、相対的に微小傾斜し、接触部が外周方向にずれることで発生する。
【0006】
そして、偏荷重が発生すると、ねじ軸とナット部材との複数の接触部に作用する荷重が不均等となり、一部の接触部に作用する荷重が増大する。
【0007】
電動リニアアクチュエータに用いられる回転直動変換機構の多くは、ボールねじにおける球のように転動体を介して、ねじ軸とナット部材とが接触するが、ナット部材に偏荷重が発生すると、その接触部に発生するヘルツ応力が増大してフレーキングの発生を早め、回転直動変換機構の寿命を低下させる。
【0008】
このため、ナット部材に生じる偏荷重を防止することが必要であり、すなわち、ねじ軸とナット部材との各接触部に作用する荷重を均等化することが求められる。
【0009】
ナット部材に生じる偏荷重の防止には、従来は、以下のような方策が考えられている。
【0010】
特許文献1に記載の技術は、駆動部材と被駆動部材との間を、それぞれ軸が互いに直交するように配置された円柱状の係合部材とこの係合部材を摺動自在に保持する円形孔とからなるカプラによって連結し、駆動部材と被駆動部材との微小傾斜を、このカプラで吸収するようにしている。
【0011】
また、特許文献2の「ボールねじ式移動装置」、特許文献3の「ボールねじ」、および、特許文献4「ボールねじ装置及び射出成形機の電動型開閉装置」に記載の技術は、ボールねじ式リニアアクチュエータのナット部材と被駆動部材との間に、自動調芯機能を持った部材が取付けられている。
【0012】
特に、特許文献2では凸曲面に、特許文献3及び特許文献4では球面に、加工された部材によって、ナット部材と被駆動部材との傾斜を吸収し、偏荷重を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平03−228538号公報
【特許文献2】特開2003−307264号公報
【特許文献3】実開平05−066360号公報
【特許文献4】特開2002−327826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
これら従来の技術は、ナット部材と被駆動部材との微小傾斜を吸収し、荷重をねじ軸の中心軸上に作用させることができる。しかしながら、それでもねじ軸とナット部材との間の複数の接触部に作用する荷重を均等化することはできないことがわかった。
【0015】
回転直動変換機構の寿命を更に向上させるためには、この残った不均等性を更に低減する必要があり、この残った不均等性を更に低減することは、大推力用の電動リニアアクチュエータに用いられる回転直動変換機構には特に有効である。
【0016】
ねじ軸とナット部材とからなる一般的な回転直動変換機構において、ナット部材に作用する外力がねじ軸の中心軸上に作用し、このとき、ねじ軸とナット部材との複数の接触部から反力としてナット部材に作用する接触力が均等であると仮定する。
【0017】
この複数の接触部が軸方向から見てほぼ同心円上に、円周方向にほぼ等間隔で配置されている場合には、各接触力の軸方向成分の合力の作用点は、ほぼ、ねじ軸の中心軸上となり、大きさも作用線も一致するため、この接触力はナット部材に作用する外力とほぼ釣合う。
【0018】
ところが、ねじ軸とナット部材との接触部は螺旋状に配置され、互いに軸方向にずれた位置にあるため、各接触部の接触力の軸直角方向成分によってナット部材には、ねじ軸の中心軸と直交する軸回りのモーメントが発生し、これがアンバランスモーメントとして残る。
【0019】
すなわち、外力がねじ軸の中心軸上に作用した場合に、各接触部の接触力が均等な状態でバランスするということは成り立たず、仮定は矛盾していることとなる。
【0020】
このため、外力がねじ軸の中心軸上に作用すると、各接触部の接触力が不均等性になり、ナット部材に偏荷重(モーメント荷重)が発生し、回転直動変換機構の寿命を低下させることになる。
【0021】
本発明は、回転直動変換機構を用いたリニアアクチュエータにおいて、ねじ軸とナット部材との各接触部に作用する荷重を均等化することで大推力に耐えつつ、長寿命を確保できるリニアアクチュエータを実現するものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
このアンバランスモーメント、つまり、偏荷重を防止または低減するための一つの方策として、ナット部材に作用する外力を、ねじ軸の中心軸上から所定の半径方向に所定の距離ずらすことが考えられる。好ましくは、最適荷重作用点に、作用させることが考えられる。
【0023】
複数の接触点の荷重が均等であれば、ねじ軸からナット部材へ反力として作用する接触力の軸方向成分の合力の作用点は、ほぼ、ねじ軸の中心軸上となる。
【0024】
このため、外力の作用位置をねじ軸の中心軸からずらすことで偶力を形成し、そのずらす距離とずらす方向とによって、この偶力の大きさとモーメントの方向とを調整することができ、これにより、偶力とアンバランスモーメントとを相殺することができる。
【0025】
このときナット部材は各接触点の荷重が均等な状態でバランスしている。つまり、各接触点における荷重が均等であるといえる。
【0026】
アンバランスモーメントが完全に相殺される偶力(外力)の作用点が最適荷重作用点であるが、この最適荷重作用点はねじ軸とナット部材との接触部の配置状態から定量的に算出できる。
【0027】
各接触点における荷重を均等にするため、本発明は、以下の構成をとる。
【0028】
本発明の形態の一つであるリニアアクチュエータは、ねじ軸と、ねじ軸に螺合するナット部材と、駆動対象物に連結された被駆動部材と、ナット部材と被駆動部材とを連結し、互いに略直交する2つの回転軸を持つ接触力均等化機構(カプラ)と、を有し、ねじ軸に対する相対的な回転運動によって、ナット部材を軸方向に進退運動させ、ナット部材の進退運動によって、接触力均等化機構と被駆動部材とを介して、駆動対象物に直動運動を与えるものである。
【0029】
そして、接触力均等化機構の2つの回転軸を、ねじ軸の方向に投影したときの交点位置を、ねじ軸の回転軸から、半径方向にずらしたことを特徴とする。
【0030】
このずらすべき半径方向(中心軸からの方向)および距離は、ねじ軸とナット部材との接触部の配置状態によって概ね決定される。
【0031】
このように交点位置を半径方向にずらし、接触力均等化機構の2つの回転軸を、回転運動(揺動運動)させることによって、ナット部材と被駆動部材との間の微小傾斜を吸収する。
【0032】
そして、2つの回転軸をねじ軸の方向に投影したときの交点位置が、ナット部材に対して固定された外力の作用点となり、この作用点をねじ軸とナット部材との接触部の配置状況から決定される最適荷重作用点に合わせる。
【0033】
これにより、ナット部材に発生するアンバランスモーメントを相殺し、各接触部に作用する荷重を均等化でき、ナット部材に発生する偏荷重の防止または低減が可能となる。
【0034】
また、本発明の形態の一つであるリニアアクチュエータは、ナット部材と被駆動部材との間で荷重を伝達する際に、圧縮方向の荷重を伝達するものであり、引張方向の荷重を伝達しないように使用されるものである。
【0035】
つまり、本発明の形態の一つであるリニアアクチュエータは、たとえば、ねじ軸に対してナット部材が上下方向に駆動するように使用することが想定される。
【0036】
また、リニアクチュエータを水平方向に使用する場合であっても、リニアクチュエータの一方向からばね等によって荷重が作用している機構やリニアクチュエータの一方にL字レバーが形成される機構が想定される。
【0037】
こうしたリニアアクチュエータを、このように使用することにより、ナット部材と被駆動部材とは片方向の外力を伝達し、荷重の方向が異なることがなく、ナット部材の最適荷重作用点の位置が一定であり、こうした一定の最適荷重作用点に外力は作用する。
【0038】
また、こうしたリニアアクチュエータを水平方向で使用する場合には、ナット部材の進退方向の両側に2つの接触力均等化機構を連結し、2つの接触力均等化機構は、同一の被駆動部材に連結されていることが好ましい。
【0039】
また、リニアアクチュエータを水平方向で使用しない場合であっても、リニアアクチュエータに対して双方向の荷重が作用する場合には、ナット部材の進退方向の両側に2つの接触力均等化機構を連結し、この2つの接触力均等化機構は、同一の被駆動部材に連結されていることが好ましい。
【0040】
こうした構成を有することにより、ナット部材の最適荷重作用点が外力の方向によって異なる場合であっても、外力の方向によって、これを伝達する接触力均等化機構が作用する力の位置(方向)を変え、外力の方向によらず、最適荷重作用点に外力を作用させることができる。
【0041】
また、本発明の形態の一つであるリニアアクチュエータは、ねじ軸とナット部材とが、ナット部材に回転支持された複数のローラを介して接触し、転がり対偶によるローラねじ機構を構成していることが、特に、好ましい。
【0042】
こうしたローラねじ機構を有することにより、小球の点接触部に大きなヘルツ応力が発生するボールねじに比較して、ローラの接触部が線接触であるローラねじは、ヘルツ応力を低減することができる。
【0043】
つまり、ローラねじは、ボールねじと大きさが同程度ならばより大きな推力に耐えることができ、耐推力が同程度ならばより小型化できる。
【0044】
ここで使用するローラねじは、一方向からのスラスト荷重をねじ軸に伝達するローラの数が3つであり、それらをねじリードの略3分の1ずつ軸方向にずらし、3分の2π[rad]ずつ円周方向にずらして配置したものが好ましい。
【0045】
これにより、ねじ軸とナット部材との接触部が3つとなるため、構成部品に多少の寸法誤差が存在しても確実に全てのローラがねじ軸と接触し、荷重を支持することができる。
【0046】
また、ローラの数が3つのローラねじを使用し、ねじ軸の回転軸をZ軸、3つのローラのうち、軸方向の中央に配置されているローラとねじ軸との接触部中心を通りZ軸と直交する軸をY軸、Y軸とZ軸との両方と直交する軸をX軸、ねじ軸のリードをL[mm]、ローラとねじフランク面との接触部を通過する螺旋のリード角をγ[rad]、YZ平面をY軸回りにγ回転させた平面上におけるねじフランク面とローラとの接触部の中央付近における接線とXZ平面とのなす角をα[rad]と規定する。
【0047】
この場合、接触力均等化機構の2つの回転軸を、ねじ軸の方向に投影したときの交点位置は、Z軸から半径方向にほぼ
【0048】
【数1】
【0049】
の距離であり、Z軸回りの角度がX軸から、ほぼ
【0050】
【数2】
【0051】
の角度であることが好ましい。
【0052】
このように交点位置を設定することにより、ナット部材に作用する外力を、最適荷重作用点の近傍に作用させ、ねじ軸と3つのローラとの接触力をほぼ完全に均等化することができる。
【0053】
つまり、3つのローラを用いた場合の最適荷重作用点とは、3つのローラの作用する荷重が均等となる点であること意味する。
【0054】
こうしたリニアアクチュエータは、ねじ軸のリードが大きい場合に、特に、有効である。
【0055】
なお、本発明の形態の一つであるリニアアクチュエータは、電動フォークリフトの昇降に使用することができる。
【発明の効果】
【0056】
本発明の回転直動変換機構を用いたリニアアクチュエータにより、ねじ軸とナット部材との各接触部に作用する荷重を均等化することで、大推力に耐えつつ、長寿命を確保できるリニアアクチュエータを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】リニアアクチュエータの外観図。
【図2】図1に示したリニアアクチュエータの正面図。
【図3】図1に示したリニアアクチュエータに使用したローラねじの左側面図,正面図およびA−A断面図。
【図4】図1に示したリニアアクチュエータに使用したねじ軸と3つのローラとを示した左側面図,正面図,上面図およびB−B断面図。
【図5】図1に示したリニアアクチュエータに使用したねじ軸とナット部材との各接触部に作用する荷重を均等にする接触力均等化機構の外観図。
【図6】図5における接触力均等化機構の各部品の分離図。
【図7】図5における接触力均等化機構の上面図および下面図。
【図8】実施例2におけるリニアアクチュエータの外観図。
【図9】図8に示したリニアアクチュエータ使用したねじ軸と6つのローラとを示した左側面図および正面図。
【図10】実施例3におけるリニアアクチュエータの外観図。
【図11】リニアアクチュエータを搭載したフォークリフトの側面図。
【図12】図11に示したフォークリフトにおける荷役装置の拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0058】
以下、発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0059】
図1,図2,図3,図4は実施例1のリニアアクチュエータを、図8,図9は実施例2のリニアアクチュエータを、図10は実施例3のリニアアクチュエータをそれぞれ図示したものである。
【0060】
図5,図6,図7はこれらリニアアクチュエータにおいて、ねじ軸とナット部材との各接触部に作用する荷重を均等にする接触力均等化機構を図示したものである。
【0061】
図11,図12は、リニアアクチュエータを搭載したフォークリフトおよび荷役装置を示したものである。
【実施例1】
【0062】
本実施例におけるリニアアクチュエータは、例えば、ねじ軸が地面と垂直あるいはそれに近い向きに設置され、ナット部材は重力に逆らって被駆動部材を押し上げるというような、ナット部材に一方向荷重が作用する場合を想定したものである。
【0063】
つまり、ねじ軸に対してナット部材が上下に駆動するような場合を想定したものである。
【0064】
図1は、実施例1におけるリニアアクチュエータの外観図を示す。
【0065】
本実施例におけるリニアアクチュエータは、外周面に螺旋溝を形成したねじ軸1と、3つのローラ31,32,33(ローラ33は図1では死角となり図示されていない)、および、各々のローラを転がり軸受4を介して回転支持するローラケージ2を構成要素とするナット部材11と、を有している。
【0066】
ナット部材11は、3つのローラ31,32,33を介して、ねじ軸1に螺合する。
【0067】
リニアアクチュエータは、さらに、ナット部材11とねじ軸1の複数の転動部における接触力が不均等になるのを防止する接触力均等化機構12を構成要素として有している。
【0068】
なお、接触力均等化機構12は、中間部材5および滑動部材6を構成要素として有している。
【0069】
ねじ軸1とナット部材11とは、それらの間に相対的な回転運動を与えることにより、相対的な直動運動を生成する回転直動変換機構を構成している。
【0070】
例えば、ねじ軸1が、図示しないモータの出力軸によって回転駆動された場合、ナット部材11の回転が阻止されている状態であれば、ナット部材11は直動駆動される。
【0071】
リニアアクチュエータは、ナット部材11が接触力均等化機構12を介して被駆動部材8に接続され、回転を阻止される。これによって、ナット部材11は直動駆動される。
【0072】
図2は、図1に示したリニアアクチュエータの正面図を示す。
【0073】
つまり、本実施例におけるリニアアクチュエータは、図2中、左右に駆動するものであり、図2中、右側から左側に向かって力が作用し、ナット部材11と被駆動部材8との間で荷重を伝達する際に、圧縮方向の荷重を伝達することになる。
【0074】
なお、図2において使用した符号は、図1において使用した符号と同様の構成要件を示すものである。
【0075】
図3は、図1に示したリニアアクチュエータに使用したローラねじの左側面図(a)、正面図(b)およびA−A断面図(c)を示す。つまり、本実施例におけるねじ軸1とナット部材11とを有するローラねじを示したものである。
【0076】
図3(a)に示すように、ナット部材11は、3つのローラ31,32,33がそれぞれリードのほぼ3分の1ずつ軸方向にずらされ、その結果、3分の2πずつ円周方向にずらされて配置されている。
【0077】
図3(b)に示すように、ねじ軸1とナット部材11との接触部に作用する荷重が均等であるとして、ナット部材11に発生するモーメントを計算することができる。
【0078】
ナット部材11に作用する一方向荷重Fは、接触力均等化機構12を介して、ナット部材11とねじ軸1との接触部に均等に作用し、ローラケージ2,転がり軸受4を介して各ローラに伝わる。
【0079】
図3(c)に示すように、このローラねじは、台形状断面の螺旋溝を外周に形成したねじ軸1と、その螺旋溝の一方の傾斜面であり、台形状断面の螺旋溝の右上方向を向いた右フランク面1aに接触して転動する3つのローラ31,32,33(ローラ32,33は図3(c)では図示されていない)と、各々のローラを転がり軸受4を介して回転支持するローラケージ2を構成要素としている。
【0080】
各ローラは、ローラケージ2に固定された各ローラの自転軸を、ねじ軸1の螺旋溝のリード角でねじ軸1の中心軸と交差する平面内に配置し、その平面内で外周方向に向かって各ローラとねじ軸1とが転動する接触部側に傾斜する。
【0081】
そして、各ローラとねじ軸1との転動距離の大きい部分同士、転動距離の小さい部分同士がそれぞれ転動するようになっており、各ローラとねじ軸1との接触線上のいずれの点においてもすべりが微小であり、完全に近い転がりが可能である。
【0082】
また、各ローラの端面を、ねじ軸1の中心軸に対して傾斜させ、各ローラが転動するねじ山と隣のピッチのねじ山とを、干渉しにくくしている。
【0083】
さらに、各ローラの転動面を、各ローラが転動するフランク面を含むねじ山の隣(次)のピッチのねじ山を越えて、ねじ軸1の軸方向範囲を占める構成とすることで、各ローラのヘルツ接触部の曲率半径を拡大し、ヘルツ応力を低減し、転動部の耐久性を向上させている。
【0084】
加えて、各ローラの転動部に隣接した端面に凹部を形成することにより、各ローラの自転軸を外周方向に向かって各ローラとねじ軸1とが転動する接触部側に傾斜させる際の傾斜量が小さい場合であっても、次のピッチにおけるねじ山と各ローラ端面との干渉を避けることができる。
【0085】
この傾斜量が小さいと、各ローラの転動部の径が同じ場合は、ナット部全体の外径を小さく抑えることができる。
【0086】
図5,図6,図7は、本実施例におけるリニアアクチュエータに形成されるねじ軸とナット部材との各接触部に作用する荷重を均等にする接触力均等化機構12を図示したものである。
【0087】
なお、図6,図7において使用されている符号は、図5において使用されている符号と同様の構成要素を示すものである。
【0088】
図5は、図1に示したリニアアクチュエータに使用したねじ軸とナット部材との各接触部に作用する荷重を均等にする接触力均等化機構の外観図を示したものである。
【0089】
図5において、接触力均等化機構12は、凸曲面部(円筒曲面部)6aと平面部6dとからなり、ほぼ半円柱形状で凸曲面部6aに摺動面を有する4つの滑動部材6と、円盤状のものにねじ軸1を通すための円筒形の穴が開けられたリング状をしており、滑動部材6の凸曲面部6aに対応する凹曲面部5aを有する中間部材5と、を構成要素としている。
【0090】
なお、滑動部材6には、ナット部材11のローラケージ2と、または、被駆動部材8とを接続する連結ピン部材7が形成されている。
【0091】
この滑動部材6は、その断面がほぼ半円形状であり、曲面部分で中間部材5と接触し、平面部分では中間部材5と接触しない構造をとることにより、圧縮方向の荷重を伝達することになり、引張方向の荷重を伝達しないようになる。このような構成を有することにより、接触力均等化機構12を薄く形成できると共に強度も向上する。
【0092】
接触力均等化機構12は、滑動部材6の凸曲面部6aと中間部材5の凹曲面部5aとが接触及び摺動するよう配置され、円弧の円周方向に摺動することにより揺動動作を行う。
【0093】
中間部材5の凹曲面部5aは、上面5b,下面5cのそれぞれに2つずつ形成されており、同一面上の2つの凹曲面部5aは、そこに配置される滑動部材6の揺動軸6b(上面5bに対応)または揺動軸6c(下面5cに対応)が同一となるように、つまりそれぞれ同一の揺動軸上に形成されている。
【0094】
図6は、図5における接触力均等化機構12の各部品(構成要素)の分離図を示したものである。
【0095】
滑動部材6の平面部6dには、連結ピン部材7を挿入する孔が設けられ、連結ピン部材7が挿入される。
【0096】
同様に、ローラケージ2及び被駆動部材8にも、連結ピン部材7の挿入孔が設けられる。
【0097】
滑動部材6の平面部6dに挿入されている連結ピン部材7がローラケージ2及び被駆動部材8に挿入されることで、滑動部材6とローラケージ2とが、および、滑動部材6と被駆動部材8とが、半径方向にずれないように形成される。
【0098】
これにより、ナット部材11は接触力均等化機構12を介して被駆動部材8へ連結され、ナット部材11および被駆動部材8は、ねじ軸1に直角な軸回りの揺動が可能となる一方で、ねじ軸1の軸回りの相対回転ができない状態となる。
【0099】
ナット部材11および被駆動部材8は、ねじ軸1の回転軸とほぼ平行(軸方向)に直動可能ではあるが、ねじ軸1の回転軸回りには回転できないように拘束される。
【0100】
この結果、モータ(図示せず)の出力によって、ねじ軸1が回転すると、ナット部材11はねじ軸1に対して相対的に直動動作を行い、被駆動部材8は、ねじ軸1とほぼ平行に進退する。
【0101】
図7は、図5における接触力均等化機構12の上面図(a)及び下面図(b)を示したものである。
【0102】
中間部材5の上面5bに配置された滑動部材6の揺動軸6bと中間部材5の下面5cに配置された滑動部材6の揺動軸6cとは、互いに交差(直交)またはねじれの位置にあり、2つの揺動軸6b,6cをねじ軸1の方向に投影したときの交点6eは、中間部材5の中心6dから距離Ldだけ離れた位置に存在する。
【0103】
このような接触力均等化機構12は、2つの揺動軸により、微小傾斜を吸収でき、滑動部材6の断面を半円形状とすることにより、接触力均等化機構12を薄く形成できると共に強度も向上する。
【0104】
以下、ナット部材11の最適荷重作用点(交点6e)を算出する。
【0105】
図4は、図1に示したリニアアクチュエータに使用したねじ軸と3つのローラとを示した左側面図(a),正面図(b),上面図(c)およびB−B断面図(d)を示したものである。
【0106】
本実施例におけるナット部材11の最適荷重作用点は以下のように算出できるが、まず、ねじ軸1とナット部材11との接触部に作用する荷重が均等であるとして、ナット部材11に発生するモーメントを計算する。
【0107】
ナット部材11に作用する一方向荷重F(図3(b)に示すもの)は、ローラケージ2、転がり軸受4を介して各ローラに伝わる。
【0108】
図4には、各ローラ31,32,33が、ねじ軸1から受ける線分布荷重の合力F1,F2,F3と、これが作用する代表点P1,P2,P3とが図示されている。
【0109】
以下の説明を容易にするため、3点の中で軸方向中央にある点P1がXY平面上となるようなX軸,Y軸,Z軸を、図4に示す。
【0110】
このとき、点P1,P2,P3の位置は次式で表される。
【0111】
【数3】
【0112】
ここで、Dは各点P1,P2,P3の配置径((a)参照)、Lはねじ軸1のリード((b)参照)である。
【0113】
合力F1は、ねじ軸1の中心軸に対してリード角γ((c)参照)ずれた平面内にあって、XZ平面に対して角度α((d)参照)傾斜した接触部接線と対になる法線方向に作用している。
【0114】
合力F2,F3も同様であり、合力F1がリードLの3分の1ずつZ軸方向にずれ、120゜ずつ、ねじ軸1の円周方向に回転した状態で作用している。
【0115】
合力F1,F2,F3それぞれのX成分,Y成分,Z成分は、接触部に作用する荷重が均等であるとの条件のもと、それぞれの力の大きさを等しくFnとし、次のように表される。
【0116】
【数4】
【0117】
【数5】
【0118】
【数6】
【0119】
【数7】
【0120】
【数8】
【0121】
【数9】
【0122】
【数10】
【0123】
【数11】
【0124】
【数12】
【0125】
ナット部材11に作用する一方向荷重Fは、3つの接触部に作用する力のZ成分を合わせたものに等しくなるため、
【0126】
【数13】
【0127】
よりFnは以下である。
【0128】
【数14】
【0129】
合力F1,F2,F3の3つの力によって生じるモーメントM((a)参照)は、X軸回りのモーメントMxとY軸回りのモーメントMyとの合成として次のように表すことができる。
【0130】
【数15】
【0131】
【数16】
【0132】
【数17】
【0133】
上式に、合力F1,F2,F3の各成分およびFnを代入して以下が求まる。
【0134】
【数18】
【0135】
また、モーメントMの回転軸の向きθM((a)参照)は、
【0136】
【数19】
【0137】
である。
【0138】
ナット部材11の最適荷重作用点P0((a)参照)は、ナット部材11に生じるモーメントMを相殺する荷重作用点であり、Z軸からの距離r((a)参照)とZ軸回りの角度θ((a)参照)で表すと次のように求めることができる。
【0139】
【数20】
【0140】
【数21】
【0141】
接触力均等化機構12の中心6d(図7参照)は、ねじ軸1の中心軸上に配置され、図7における寸法Ldは、図4における距離rと一致させることが好ましい。
【0142】
また、接触力均等化機構12は、ローラケージ2に対して、図7における6eが角度θの方向となるように、連結ピン部材7によってナット部材11に取付けられている。
【0143】
すなわち、ナット部材11に作用する外力は接触力均等化機構12を介して伝わり、このとき外力は最適荷重作用点P0である交点6eに作用するため、ねじ軸1とナット部材11との3つの接触部に作用する荷重がほぼ完全に均等化される。
【0144】
また、接触力均等化機構12の持つ2つの揺動軸の揺動運動により、ナット部材11と被駆動部材8との間の微小傾斜を吸収することができ、微小傾斜しても最適荷重作用点P0は交点6eとほぼ重なる。
【0145】
なお、最適荷重作用点P0と交点6eとを一致させることにより、大きい効果(たとえば、リニアアクチュエータの耐用年数15年)を得ることができるが、最適荷重作用点P0と交点6eとが一致せず、ずれていても、所定の効果(たとえば、リニアアクチュエータの耐用年数10年)を得ることができる場合がある。
【0146】
つまり、交点6eを、中間部材5の中心6dから離れた位置に(ねじ軸1の回転軸から半径方向にずらして)設定すると共に、交点6eを、最適荷重作用点P0が存在する方向に少しでも近づけて設定することにより、所定の効果が得られる。
【0147】
したがって、実施例1に示すリニアアクチュエータは、図1に示すように、ねじ軸1と、ねじ軸1に螺合し、回転支持された3つのローラ31,32,33を介してねじ軸1と接触するローラねじ機構を持つナット部材11と、駆動対象物に連結された被駆動部材8と、ナット部材11と被駆動部材8とを連結するものであり、図5に示すように、互いにねじれの位置関係にある2つの回転軸(6b,6c)を持つ接触力均等化機構12、を有するものである。
【0148】
そして、ねじ軸1に対する相対的な回転運動によって、ナット部材11をねじ軸1の方向に進退運動させ、ナット部材11の進退運動によって、接触力均等化機構12と被駆動部材8とを介して、駆動対象物に直動運動を与える。
【0149】
そこで、実施例1に示すリニアアクチュエータの特徴は、接触力均等化機構12の2つの回転軸をねじ軸1の方向に投影したときの交点位置(6e)を、ねじ軸1の回転軸から、ナット部材11の進行方向に対して、3つのローラのうち最先にあるローラの位置の方向に、ずらしたことにある。
【0150】
ここで、進退運動の進行方向は、図4(b)に示すZ軸のプラスの方向(図中、左側から右側へ)である。つまり、ローラ31,32,33が傾斜している角度が鋭角の方向に進行する。
【0151】
また、実施例1に示すリニアアクチュエータの特徴は、接触力均等化機構12の2つの回転軸をねじ軸1の方向に投影したときの交点位置(6e)を、ねじ軸1の回転軸から、ナット部材11の退行方向に対して、3つのローラのうち最後にあるローラの位置の方向に、ずらしたことにある。
【0152】
ここで、進退運動の退行方向は、図4(b)に示すZ軸のマイナスの方向(図中、右側から左側へ)である。つまり、ローラ31,32,33が傾斜している角度が鈍角の方向に退行する。
【0153】
このことから、ねじ軸1とナット部材11との3つの接触部に作用する荷重の不均等を防止することができる。
【0154】
本実施例におけるナット部材に作用する外力がナット部材とねじ軸との各接触部に均等に作用する回転直動変換機構を用いることにより、ねじ軸とナット部材との複数の転動部に作用する接触力が不均等になることを抑制する。
【0155】
したがって、回転直動変換機構を用いたリニアアクチュエータの長寿命化を図ることができ、副次的に騒音発生を防止することもできる。
【0156】
以下、本実施例で示したリニアアクチュエータを搭載したフォークリフトについて説明する。
【0157】
図11は、リニアアクチュエータを搭載したフォークリフトの側面図を示したものである。
【0158】
図11において、フォークリフトは、走行装置及び荷役操作装置等が装着された車体9と、車体9の前方に設置された荷役装置90を備えている。
【0159】
荷役装置90は、荷物等を支持するフォーク95と、フォーク95を上下に駆動するための支柱であるアウタマスト91とを有している。
【0160】
図12は、図11に示したフォークリフトにおける荷役装置の拡大図を示したものである。
【0161】
図12において、荷役装置90は、アウタマスト91と、アウタマスト91の内側に設置され、アウタマスト91に沿って昇降するインナマスト92と、インナマスト92の上部に設置されたチェーンホイール93と、チェーンホイール93を介して、一方の端がアウタマスト91に、他方の端がフォーク95にそれぞれ接続されたリフトチェーン94と、インナマスト92を上下運動(昇降)させるリニアアクチュエータと、を備え、これらはカバー98に覆われている。
【0162】
そして、荷役装置90は、インナマスト92に設置され、インナマスト92の上下運動と連動して昇降するフォーク95を有している。
【0163】
リニアアクチュエータは、アウタマスト91に回転可能に支持されたねじ軸1と、ねじ軸1に螺合するナット部材11と、インナマスト92に固定された被駆動部材8と、ナット部材11と被駆動部材8との間に設けられた接触力均等化機構12と、を有している。
【0164】
ねじ軸1は複数の歯車96を介して、モータ97と接続しており、モータ97の駆動力によって、ねじ軸1が回転する。
【0165】
ナット部材11は、接触力均等化機構12を介して、被駆動部材8と連結されており、ねじ軸1の回転軸回りには回転できないように連結されている。
【0166】
このため、ねじ軸1の回転に従って、ナット部材11が直動運動する。ナット部材11の直動運動は、接触力均等化機構12及び被駆動部材8を介して、インナマスト92に伝わる。
【0167】
したがって、モータ97の駆動力によってナット部材11が直動運動し、ナット部材11の直動運動に従って、インナマスト92を昇降させることができる。
【0168】
インナマスト92が昇降すると、チェーンホイール93も同時に昇降する。チェーンホイール93が動滑車として作用するため、インナマスト92の速度に比較して2倍の速度でフォーク95が昇降する。
【0169】
このような荷役装置90は、モータ97を駆動することによって、フォーク95を昇降させることができ、こうした荷役装置90は、フォークリフトに利用することができる。
【0170】
フォーク95に荷役対象物が搭載されると、荷役対象物の自重により、インナマスト92は微小傾斜し、インナマスト92に固定された被駆動部材8も微小傾斜し、被駆動部材8と共にナット部材11も微小傾斜する。
【0171】
しかし、この微小傾斜は接触力均等化機構12によって吸収され、ナット部材11にエッジロード等を発生させることはない。
【0172】
また、被駆動部材8からナット部材11に伝わる荷重を、接触力均等化機構12により、ナット部材11の最適荷重作用点に作用させるため、ナット部材11とねじ軸1との接触部に作用する荷重は均等となり、一部の接触部に過大な負荷がかからないようになる。
【0173】
こうしたことから、リニアアクチュエータの長寿命化が図れる。
【0174】
すなわち、本実施例のように、従来、主に油圧アクチュエータが利用されてきたフォークリフトのアクチュエータとして、電動リニアアクチュエータを利用することができる。
【0175】
このように、フォークリフトに電動リニアアクチュエータを用いた場合、以下のようなメリットが考えられる。
【0176】
・油圧アクチュエータに比べて、機械効率を高くすることができるため、省エネである。
【0177】
・電動リニアアクチュエータは、動力回生を行うことができるため、省エネである。
【0178】
・電動リニアアクチュエータは、油レスのフォークリフトを実現できるため、汚染などの環境負荷を低減でき、食品工場等の油圧アクチュエータの使用が困難な環境へ適用可能となる。
【0179】
また、本実施例に示した、つまり、接触力均等化機構を用いたリニアアクチュエータを搭載したフォークリフトは、以下のようなメリットがある。
【0180】
・接触力均等化機構を用いることにより、各ローラに均等な荷重を作用させることができるため、長寿命化が図れる。
【0181】
・接触力均等化機構を用いることにより、用いない場合に比べて、より機械効率を高くすることができるため、省エネである。
【実施例2】
【0182】
以下、図8を用いて、実施例2を説明する。
【0183】
図8は、実施例2におけるリニアアクチュエータの外観図を示すものである。
【0184】
リニアアクチュエータは、外周面に螺旋溝を形成したねじ軸1と、ねじ軸1に螺合し、6つのローラ31,32,33および31′,32′,33′(ローラ33′は図8では死角となり図示されていない)と、各々のローラを転がり軸受4および4′を介して、回転支持するローラケージ20を構成要素とするナット部材13と、ナット部材13に発生する偏荷重を防止する接触力均等化機構(偏荷重防止機構)12および12′と、を有している。
【0185】
なお、接触力均等化機構(偏荷重防止機構)12および12′は、それぞれ中間部材5および5′ならびに滑動部材6および6′を具備している。
【0186】
ねじ軸1とナット部材13とは、それらの間に相対的な回転運動が与えられることにより、相対的な直動運動を生成する回転直動変換機構を構成している。
【0187】
ねじ軸1は、図示しないモータの出力軸に接続され、ナット部材13は接触力均等化機構12および12′を介して、被駆動部材80と接続されている。
【0188】
接触力均等化機構12および12′は、実施例1で説明した接触力均等化機構と同様である。
【0189】
このように構成することにより、ナット部材13に双方向の荷重が作用する場合であっても、偏荷重を防止あるいは低減することができる。
【0190】
図9は、図8に示したリニアアクチュエータ使用したねじ軸と6つのローラとを示した左側面図(a)および正面図(b)を示したものである。
【0191】
図9は、ねじ軸1とナット部材13との関係を示したものであるが、説明の都合上、ローラケージ20,転がり軸受4および4′を省略して図示する。
【0192】
ナット部材13は、実施例1におけるナット部材11を2つ設置したものである。
【0193】
一方のナット部材を他方のナット部材に対して、ねじ軸1と垂直の方向であるX軸回りまたはY軸回りに、180゜回転させ、つまり、2つのナット部材を向かい合わせに設置する。
【0194】
さらに、2つのナット部材をねじ軸1の中心軸回りにβ回転させて設置する((a)参照)。
【0195】
6つのローラのうち、一方の3つのローラ31,32,33はねじ軸1の右フランク面1aと接触し、他方の3つのローラ31′,32′,33′はねじ軸1の左フランク面1bと接触するよう配置されている((b)参照)。
【0196】
このように配置することによって、ナット部材13は、進退の両方向(たとえば、前後,左右のような平面上における移動)について、荷重を支えることができるため、被駆動部材80に両方向の荷重が作用する場合にも用いることができる。
【0197】
また、被駆動部材80に、図8において、左向き荷重Fが作用する場合、荷重は被駆動部材80から接触力均等化機構12を介して、ナット部材13に伝わり、3つのローラ31,32,33が、ねじ軸1に対して荷重を作用させる。
【0198】
このとき、接触力均等化機構12′は、滑動部材6′と中間部材5′とが連結されておらず、圧縮荷重のみを伝達するため、被駆動部材80から接触力均等化機構12′を介してナット部材13に荷重が伝わることはない。
【0199】
被駆動部材80に、図8において、右向きの荷重F′が作用する場合、荷重は被駆動部材80から接触力均等化機構12′を介して、ナット部材13に伝わり、3つのローラ31′,32′,33′が、ねじ軸1に対して荷重を作用させる。
【0200】
このとき、接触力均等化機構12は、滑動部材6と中間部材5とが連結されておらず、圧縮荷重のみを伝達するため、被駆動部材80から接触力均等化機構12を介してナット部材13に荷重が伝わることはない。
【0201】
一方の3つのローラ31,32,33とねじ軸1との接触状態から、実施例1に示す通り最適荷重作用点P0が求まり、他方の3つのローラ31′,32′,33′とねじ軸1との接触状態から、実施例1に示す通り最適荷重作用点P0′が求まる。
【0202】
この2つの最適荷重作用点(P0,P0′)は、実施例1における最適荷重作用点を表わす距離rと角度θとのうち、距離rは等しいが、角度θも等しいとは限らず、多くの場合において角度θは異なる。
【0203】
このため、一方の3つのローラ31,32,33が荷重を受ける場合、すなわち被駆動部材80に左向きの荷重Fが作用する場合と、他方の3つのローラ31′,32′,33′が荷重を受ける場合、すなわち被駆動部材80に右向きの荷重F′が作用する場合とでは、最適荷重作用点が異なることになる。
【0204】
そこで、本実施例では、荷重の向きによって異なる最適荷重作用点に、荷重を作用させるために、圧縮荷重を伝達する2つの接触力均等化機構をナット部材13の両側にそれぞれ配置している。
【0205】
こうした構成により、被駆動部材80に作用する荷重の向きによらず、ナット部材13に発生する偏荷重を防止あるいは低減することができる。
【0206】
なお、本実施例に示した、つまり、接触力均等化機構を用いたリニアアクチュエータは、フォークリフトに限らず、従来の油圧シリンダに置き換えて使用することができる。建設機械、たとえば、パワーショベルのアームの先端に形成され、バケットを駆動する機構に、こうしたリニアアクチュエータを使用することができる。
【0207】
なお、本実施例におけるリニアアクチュエータは、たとえば、ねじ軸1が水平方向に設置され、ナット部材13が水平方向に駆動する場合に好適である。また、ねじ軸1に対してナット部材13が進退の両方向から荷重を受ける場合に好適である。
【実施例3】
【0208】
以下、図10を用いて、実施例3を説明する。
【0209】
図10は、実施例3におけるリニアアクチュエータの外観図を示すものである。
【0210】
実施例3は、実施例1におけるローラねじを、ボールねじに置き換えた構成である。
【0211】
つまり、実施例1にけるナット部材11をボールねじ用ナット部材14に、ねじ軸1をボールねじ用ねじ軸10に置き換えたものである。
【0212】
リニアアクチュエータに、一般的なボールねじを使用する場合も、転動体であるボール(球)とボールねじ用ねじ軸10との接触状態から、実施例1に示す方法を用いて、最適荷重作用点を算出することができる。
【0213】
なお、ボールねじを使用した場合の最適荷重作用点の算出にあたっては、各ボールが、ボールねじ用ねじ軸10に対して、一点一点、作用していることから、ボールねじ用ねじ軸10の一周あたりのボールの数を考慮して算出することになる。
【0214】
実施例3においても、接触力均等化機構(偏荷重防止機構)12は、ボールねじ用ナット部材14の最適荷重作用点に荷重を作用させることができ、被駆動部材81とボールねじ用ナット部材14との間に取付けられる。
【符号の説明】
【0215】
1,10 ねじ軸
2,20 ローラケージ
4,4′ 転がり軸受
5,5′ 中間部材
6,6′ 滑動部材
7 連結ピン部材
8,80,81 被駆動部材
9 車体
11,13,14 ナット部材
12,12′ 接触力均等化機構
31,31′,32,32′,33,33′ ローラ
90 荷役装置
91 アウタマスト
92 インナマスト
93 チェーンホイール
94 リフトチェーン
95 フォーク
96 歯車
97 モータ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじ軸と、前記ねじ軸に螺合するナット部材と、駆動対象物に連結された被駆動部材と、前記ナット部材と前記被駆動部材とを連結し、互いに略直交する2つの回転軸を持つ接触力均等化機構と、を有し、
前記ねじ軸に対する相対的な回転運動によって、前記ナット部材を軸方向に進退運動させ、前記ナット部材の進退運動によって、前記接触力均等化機構と前記被駆動部材とを介して、前記駆動対象物に直動運動を与えるリニアアクチュエータにおいて、
前記接触力均等化機構の2つの回転軸を、前記ねじ軸の方向に投影したときの交点位置を、前記ねじ軸の回転軸から、半径方向にずらしたことを特徴とするリニアアクチュエータ。
【請求項2】
請求項1に記載のリニアアクチュエータにおいて、
前記ナット部材と前記被駆動部材との間で荷重を伝達する際に、圧縮方向の荷重を伝達し、引張方向の荷重を伝達しないことを特徴とするリニアアクチュエータ。
【請求項3】
請求項1に記載のリニアアクチュエータにおいて、
前記ナット部材の進退方向の両側に2つの接触力均等化機構を連結し、2つの接触力均等化機構は、同一の被駆動部材に連結されていることを特徴とするリニアアクチュエータ。
【請求項4】
請求項1に記載のリニアアクチュエータにおいて、
前記ねじ軸と前記ナット部材とは、前記ナット部材に回転支持された複数のローラを介して接触し、転がり対偶によるローラねじ機構を構成していることを特徴とするリニアアクチュエータ。
【請求項5】
請求項4に記載のリニアアクチュエータにおいて、
一方向からのスラスト荷重をねじ軸に伝達するローラの数は3つであり、それらをねじリードの略3分の1ずつ軸方向にずらし、3分の2π[rad]ずつ円周方向にずらして配置することを特徴とするリニアアクチュエータ。
【請求項6】
請求項5に記載のリニアアクチュエータにおいて、
ねじ軸の回転軸をZ軸、3つのローラのうち、軸方向の中央に配置されているローラとねじ軸との接触部中心を通り前記Z軸と直交する軸をY軸、前記Z軸と前記Y軸との両方と直交する軸をX軸、ねじ軸のリードをL[mm]、ローラとねじフランク面との接触部を通過する螺旋のリード角をγ[rad]、YZ平面をY軸回りにγ回転させた平面上におけるねじフランク面とローラとの接触部の中央付近における接線とXZ平面とのなす角をα[rad]と規定した場合、
前記接触力均等化機構の2つの回転軸を、前記ねじ軸の方向に投影したときの交点位置は、
前記Z軸から半径方向にほぼ
【数1】
の距離であり、前記Z軸回りの角度が前記X軸から、ほぼ
【数2】
の角度であることを特徴とするリニアアクチュエータ。
【請求項7】
請求項1に記載のリニアアクチュエータを昇降に用いたことを特徴とする電動フォークリフト。
【請求項8】
ねじ軸と、前記ねじ軸に螺合し、回転支持された3つのローラを介して前記ねじ軸と接触するローラねじ機構を持つナット部材と、駆動対象物に連結された被駆動部材と、前記ナット部材と前記被駆動部材とを連結し、互いにねじれの位置関係にある2つの回転軸を持つ接触力均等化機構と、を有し、
前記ねじ軸に対する相対的な回転運動によって、前記ナット部材を軸方向に進退運動させ、前記ナット部材の進退運動によって、前記接触力均等化機構と前記被駆動部材とを介して、前記駆動対象物に直動運動を与えるリニアアクチュエータにおいて、
前記接触力均等化機構の2つの回転軸を前記ねじ軸の方向に投影したときの交点位置を、前記ねじ軸の回転軸から、前記ナット部材の進行方向に対して、前記3つのローラのうち最先にあるローラの位置の方向に、ずらしたことを特徴とするリニアアクチュエータ。
【請求項9】
請求項8に記載のリニアアクチュエータを昇降に用いたことを特徴とする電動フォークリフト。
【請求項1】
ねじ軸と、前記ねじ軸に螺合するナット部材と、駆動対象物に連結された被駆動部材と、前記ナット部材と前記被駆動部材とを連結し、互いに略直交する2つの回転軸を持つ接触力均等化機構と、を有し、
前記ねじ軸に対する相対的な回転運動によって、前記ナット部材を軸方向に進退運動させ、前記ナット部材の進退運動によって、前記接触力均等化機構と前記被駆動部材とを介して、前記駆動対象物に直動運動を与えるリニアアクチュエータにおいて、
前記接触力均等化機構の2つの回転軸を、前記ねじ軸の方向に投影したときの交点位置を、前記ねじ軸の回転軸から、半径方向にずらしたことを特徴とするリニアアクチュエータ。
【請求項2】
請求項1に記載のリニアアクチュエータにおいて、
前記ナット部材と前記被駆動部材との間で荷重を伝達する際に、圧縮方向の荷重を伝達し、引張方向の荷重を伝達しないことを特徴とするリニアアクチュエータ。
【請求項3】
請求項1に記載のリニアアクチュエータにおいて、
前記ナット部材の進退方向の両側に2つの接触力均等化機構を連結し、2つの接触力均等化機構は、同一の被駆動部材に連結されていることを特徴とするリニアアクチュエータ。
【請求項4】
請求項1に記載のリニアアクチュエータにおいて、
前記ねじ軸と前記ナット部材とは、前記ナット部材に回転支持された複数のローラを介して接触し、転がり対偶によるローラねじ機構を構成していることを特徴とするリニアアクチュエータ。
【請求項5】
請求項4に記載のリニアアクチュエータにおいて、
一方向からのスラスト荷重をねじ軸に伝達するローラの数は3つであり、それらをねじリードの略3分の1ずつ軸方向にずらし、3分の2π[rad]ずつ円周方向にずらして配置することを特徴とするリニアアクチュエータ。
【請求項6】
請求項5に記載のリニアアクチュエータにおいて、
ねじ軸の回転軸をZ軸、3つのローラのうち、軸方向の中央に配置されているローラとねじ軸との接触部中心を通り前記Z軸と直交する軸をY軸、前記Z軸と前記Y軸との両方と直交する軸をX軸、ねじ軸のリードをL[mm]、ローラとねじフランク面との接触部を通過する螺旋のリード角をγ[rad]、YZ平面をY軸回りにγ回転させた平面上におけるねじフランク面とローラとの接触部の中央付近における接線とXZ平面とのなす角をα[rad]と規定した場合、
前記接触力均等化機構の2つの回転軸を、前記ねじ軸の方向に投影したときの交点位置は、
前記Z軸から半径方向にほぼ
【数1】
の距離であり、前記Z軸回りの角度が前記X軸から、ほぼ
【数2】
の角度であることを特徴とするリニアアクチュエータ。
【請求項7】
請求項1に記載のリニアアクチュエータを昇降に用いたことを特徴とする電動フォークリフト。
【請求項8】
ねじ軸と、前記ねじ軸に螺合し、回転支持された3つのローラを介して前記ねじ軸と接触するローラねじ機構を持つナット部材と、駆動対象物に連結された被駆動部材と、前記ナット部材と前記被駆動部材とを連結し、互いにねじれの位置関係にある2つの回転軸を持つ接触力均等化機構と、を有し、
前記ねじ軸に対する相対的な回転運動によって、前記ナット部材を軸方向に進退運動させ、前記ナット部材の進退運動によって、前記接触力均等化機構と前記被駆動部材とを介して、前記駆動対象物に直動運動を与えるリニアアクチュエータにおいて、
前記接触力均等化機構の2つの回転軸を前記ねじ軸の方向に投影したときの交点位置を、前記ねじ軸の回転軸から、前記ナット部材の進行方向に対して、前記3つのローラのうち最先にあるローラの位置の方向に、ずらしたことを特徴とするリニアアクチュエータ。
【請求項9】
請求項8に記載のリニアアクチュエータを昇降に用いたことを特徴とする電動フォークリフト。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−69449(P2011−69449A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−221820(P2009−221820)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】
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