説明

リニアガイド装置用潤滑剤供給体、リニアガイド装置

【課題】リニアガイド装置用潤滑剤供給体として、潤滑剤が無駄に流出しないものを提供する。
【解決手段】潤滑剤供給体11を、潤滑剤含有ポリマ成形体4とケース5とで構成する。潤滑剤含有ポリマ成形体4の基端部をケース5内に配置し、案内レールに接触させる先端部42をケース5から露出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、リニアガイド装置用潤滑剤供給体およびこれを備えたリニアガイド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リニアガイド装置は、案内レールと、スライダと、複数個の転動体と、を備え、前記案内レールおよびスライダは、互いに対向配置されて転動体の転動通路を形成する転動面を有し、前記転動通路を転動体が転動することにより、案内レールおよびスライダの一方が他方に対して相対的に直線運動する装置である。
従来より、リニアガイド装置に潤滑剤を長期間に渡って安定的に供給できるようにするための提案がなされている。
【0003】
特許文献1には、リニアガイド装置を構成するスライダの運動方向端部に固定される潤滑剤供給体として、少なくとも一部が潤滑部位に接触している外郭部と、外郭部の内部に設けた凹部に配置された潤滑剤保持層と、で構成され、前記外郭部は潤滑剤含有ポリマ(潤滑油を含有した状態で固化された合成樹脂)からなり、前記潤滑剤保持層は、グリース、もしくはグリースまたは潤滑油を吸収させた再補給可能な合成樹脂からなるニードルフェルトからなるものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−36814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載された潤滑剤供給体には、潤滑剤含有ポリマからなる外郭部の潤滑部位以外の部分から、潤滑剤が無駄に流出するという問題点がある。
この発明の課題は、リニアガイド装置用潤滑剤供給体として、潤滑剤が無駄に流出することを防止でき、リニアガイド装置の長期に渡る安定した潤滑状態を効率的に維持できるものを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、この発明のリニアガイド装置用潤滑剤供給体は、案内レールと、スライダと、複数個の転動体と、を備え、前記案内レールおよびスライダは、互いに対向配置されて転動体の転動通路を形成する転動面を有し、前記転動通路を転動体が転動することにより、案内レールおよびスライダの一方が他方に対して相対的に直線運動するリニアガイド装置を構成する前記スライダの運動方向端部に固定される潤滑剤供給体であって、内部に潤滑剤が封入され、前記スライダへの取付部を有するケースと、基端部が前記ケース内に配置され、前記案内レールに接触させる先端部が前記ケースから露出している潤滑剤含有ポリマ成形体と、を有することを特徴とする。
【0007】
この発明の潤滑剤供給体によれば、潤滑剤含有ポリマ成形体の案内レールに接触させる先端部がケースから露出し、基端部はケース内に配置されているため、潤滑剤が案内レールの被潤滑面にのみ供給され、無駄に流出することを防止できる。また、ケース内の潤滑剤が潤滑剤含有ポリマ成形体の基端部に供給されるため、潤滑剤含有ポリマ成形体による安定的な潤滑が長期間持続する。
【0008】
前記ケースに潤滑剤供給口が形成されていると、この潤滑剤供給口からケース内に潤滑剤を供給することで、潤滑剤供給体をスライダから取り外さなくても、潤滑剤含有ポリマ成形体による安定的な潤滑が持続する期間を延長することができる。
また、前記ケースの側面または上面の少なくとも一部が透明になっていると、リニアガイド装置に取り付けた状態で、ケース内の潤滑剤の残量が確認し易いため、潤滑剤供給のタイミングを容易に知ることができる。
【発明の効果】
【0009】
この発明のリニアガイド装置用潤滑剤供給体によれば、潤滑剤が無駄に流出することを防止できるため、リニアガイド装置の長期に渡る安定した潤滑状態を効率的に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態のリニアガイド装置を示す斜視図である。
【図2】この実施形態の潤滑剤供給体をスライダの本体に取り付ける方法を説明する斜視図である。
【図3】この実施形態の潤滑剤供給体を示す正面図である。
【図4】図3のA−A断面拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明の実施形態について説明する。
図1は、この実施形態のリニアガイド装置を示す斜視図である。図2は、潤滑剤供給体をスライダの本体に取り付ける方法を説明する斜視図である。
図1に示すように、この実施形態のリニアガイド装置は、案内レール1とスライダ2と、図示されないボール(転動体)と、グリースニップル3とからなる。スライダ2は、本体2Aと、エンドキャップ2Bと、潤滑剤供給体11と、サイドシール10と、ボルト21aとからなる。ボルト21aにより、スライダ2の本体2Aに、本体側から、エンドキャップ2B、潤滑剤供給体11、およびサイドシール10が取り付けられている。
【0012】
案内レール1のボール溝(軌道面)31,32と、スライダ2の図示されないボール溝(軌道面)とで、ボールが負荷状態で転動する転動通路が形成され、この転動通路の終点から本体2Aに設けた戻し通路へボールを移動させる方向転換路が、エンドキャップ2B内に形成されている。エンドキャップ2Bとサイドシール10の間に潤滑剤供給体11が配置されている。
【0013】
図2に示すように、サイドシール10は、エンドキャップ2Bの外形に合わせた略コの字状の鋼板と、これに一体化されたニトリルゴム板からなる。ニトリルゴム板の形状は、案内レール1の側面1bに形成されたボール溝31に摺接する突出部10aと、案内レール1の角部に形成されたボール溝32に摺接する突出部10bと、案内レール1の上面1aに摺接する部分10cとが一体化された形状である。サイドシール10には、また、ボルト21aを通す貫通穴10dと、グリースニップル3を通す貫通穴10eが形成されている。
【0014】
潤滑剤供給体11は、サイドシール10の外形に合わせた略コの字状の部材であって、案内レール1の側面1bに形成されたボール溝31に摺接する突出部11aと、案内レール1の角部に形成されたボール溝32に摺接する突出部11bと、案内レール1の上面1aに摺接する平面部11cと、側面が開口された貫通穴11dと、上面が開口された貫通穴11eを有する。
【0015】
図3および4に示すように、潤滑剤供給体11は、潤滑剤含有ポリマ成形体4と、ケース5と、フェルト6と、ボルト7と、ナット8で構成されている。
ケース5は、厚さ方向で二分割された略コの字状の分割体51,52からなり、コの字状の内縁部の全体に、折り曲げ部51a,52aが形成されている。側面が開口された貫通穴11dと、上面が開口された貫通穴11eが、このケース5に形成されている。ケース5は、少なくとも側面および上面のいずれかが透明になっている。
【0016】
また、ケース5の側面に潤滑剤供給口53が形成され、この潤滑剤供給口53が栓54で塞がれている。分割体51の内縁部の少し外側に、板面を貫通する貫通穴51bと凹部51cが形成されている。この凹部51cにナット8が固定されている。分割体52の内縁部の少し外側に、板面を貫通する貫通穴52bとボルト7の頭部を配置する凹部52cが形成されている。
【0017】
潤滑剤含有ポリマ成形体4は、略コの字の板状で、コの字の内側に突出部11a,11bおよび平面部11cを含む形状であり、これらの部分の外側に略コの字状の溝41が形成されている。この溝41にケース5の折り曲げ部51a,52aが嵌まる。よって、溝41より内側(案内レール1側)の先端部42がケース5から露出し、溝41より外側の基端部43がケース5内に配置される。潤滑剤含有ポリマ成形体4の基端部43に、ボルト7を通す貫通穴44が形成されている。
【0018】
潤滑剤含有ポリマ成形体4は、多孔質の合成樹脂成形体に潤滑剤が含まれているものである。使用できる合成樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロプレン、ポリブチレン、ポリメチルペンテンが挙げられ、潤滑剤としては、ポリα−オレフィン油のようなパラフィン系炭化水素油、ナフテン系炭化水素油、鉱油、ジアルキルジフェニルエーテル油のようなエーテル油、フタル酸エステルのようなエステル油などが挙げられる。潤滑剤含有ポリマ成形体4は、上述の合成樹脂に、上述の潤滑剤のいずれかを単独で、もしくは複数種を添加し、必要に応じて各種添加剤を加えて混合したものを射出成形することで作製することができる。
フェルト6は、略コの字の板状で、ケース5内の潤滑剤含有ポリマ成形体4の外側に配置されている。フェルト6に潤滑剤が含浸されている。
【0019】
潤滑剤供給体11を組み立てる際には、例えば、先ず、分割体51にフェルト6と潤滑剤含有ポリマ成形体4を入れ、溝41に折り曲げ部51aを嵌めた後、反対側の溝41に折り曲げ部52aを嵌めて分割体52を被せる。次に、分割体52の貫通穴52bからボルト7を挿入し、潤滑剤含有ポリマ成形体4の貫通穴44と分割体51の貫通穴51bを通してナット8に螺合させる。
潤滑剤供給体11のボルト21aを通す貫通穴は、側面が開口された貫通穴11dにスリーブ11A,11Bを嵌めることで形成される。また、グリースニップル3を通す貫通穴は、上面が開口された貫通穴11eにスリーブ11Cを嵌めることで形成される。
【0020】
これらのスリーブ11A,11B,11Cの長さは、潤滑剤供給体11の厚さより少し長く、組み立て時に、ボルト21aの締付けで軸方向に圧縮されて、潤滑剤が絞り出されることがないようにしている。スリーブ11A,11B,11Cの外径は、貫通穴11d,11eの径より大きく、これにより、突出部11a,11bをボール溝31,32に押し付けて密着させることができ、部分11cを案内レール1の上面1aに押し付けて密着させることができる。
【0021】
このスライダ2を組み立てる際には、ボルト21aを、サイドシール10の貫通穴10d、潤滑剤供給体11の貫通穴(貫通穴21dに嵌まったスリーブ)11A,11B、エンドキャップ2Bの貫通穴23aに通して、その先端を本体2Aに螺合する。
この実施形態のリニアガイド装置によれば、潤滑剤供給体11が、潤滑剤含有ポリマ成形体4の案内レール1に接触させる先端部42がケース5から露出し、基端部43はケース5内に配置されているため、潤滑剤が案内レール1の上面および側面(被潤滑面)1a,1bにのみ供給され、無駄に流出することを防止できる。また、ケース5内の潤滑剤が潤滑剤含有ポリマ成形体4の基端部43に供給されるため、潤滑剤含有ポリマ成形体4による安定的な潤滑が長期間持続する。
【0022】
また、ケース5に潤滑剤供給口53が形成されているため、この潤滑剤供給口53からケース5内に潤滑剤を供給することで、潤滑剤供給体11をスライダ2から取り外さなくても、潤滑剤含有ポリマ成形体4による安定的な潤滑が持続する期間を延長することができる。
また、ケース5の側面および上面の少なくとも一部が透明になっているため、リニアガイド装置に取り付けた状態で、ケース5内の潤滑剤の残量が確認し易いため、潤滑剤供給のタイミングを容易に知ることができる。
【0023】
なお、この実施形態では、ケース5内に潤滑剤を含浸させたフェルト6を配置しているが、ケース5内にフェルト6を配置せず潤滑剤のみを封入してもよい。
また、この発明は、転動体としてころを備えたリニアガイド装置用の潤滑剤供給体の場合にも適用でき、軌道面を、二対四列ではなく、一対二列や三対六列有するリニアガイド装置にも当然に適用できる。
【符号の説明】
【0024】
1 案内レール
1a 案内レールの上面
1b 案内レールの側面
10 サイドシール(板状部材)
10d,11d,23a ボルトを通す貫通穴
10e,11C,23c グリースニップルを通す貫通孔
11A,11B,11C スリーブ
11 潤滑剤供給体
11a 突出部
11b 突出部
11c 平面部
2 スライダ
2A 本体
2B エンドキャップ
21a ボルト
3 グリースニップル
31,32 ボール溝(軌道面)
4 潤滑剤含有ポリマ成形体
41 溝
42 先端部
43 基端部
44 貫通穴
5 ケース
51,52 分割体
51a,52a 折り曲げ部
53 潤滑剤供給口
54 潤滑剤供給口の栓
51b 貫通穴
51c 凹部
52b 貫通穴
52c 凹部
6 フェルト
7 ボルト
8 ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
案内レールと、スライダと、複数個の転動体と、を備え、前記案内レールおよびスライダは、互いに対向配置されて転動体の転動通路を形成する転動面を有し、前記転動通路を転動体が転動することにより、案内レールおよびスライダの一方が他方に対して相対的に直線運動するリニアガイド装置を構成する前記スライダの運動方向端部に固定される潤滑剤供給体であって、
内部に潤滑剤が封入され、前記スライダへの取付部を有するケースと、
基端部が前記ケース内に配置され、前記案内レールに接触させる先端部が前記ケースから露出している潤滑剤含有ポリマ成形体と、を有することを特徴とするリニアガイド装置用潤滑剤供給体。
【請求項2】
前記ケースに潤滑剤供給口が形成されている請求項1記載のリニアガイド装置用潤滑剤供給体。
【請求項3】
前記ケースの上面または側面の少なくとも一部は透明になっている請求項1記載のリニアガイド装置用潤滑剤供給体。
【請求項4】
案内レールと、スライダと、複数個の転動体と、を備え、前記案内レールおよびスライダは、互いに対向配置されて転動体の転動通路を形成する転動面を有し、前記転動通路を転動体が転動することにより、案内レールおよびスライダの一方が他方に対して相対的に直線運動するリニアガイド装置であって、
前記スライダの運動方向端部に、請求項1〜3のいずれか1項に記載のリニアガイド装置用潤滑剤供給体が固定されていることを特徴とするリニアガイド装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−225419(P2012−225419A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93342(P2011−93342)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】