説明

リポソーム製剤

【課題】皮膚に吸収された後に膜構造が安定化するリポソーム製剤、および該リポソーム製剤を含む皮膚外用剤又は化粧料の提供。
【解決手段】ホスファチジルコリンとホスファチジン酸を含有し、ホスファチジルコリンとホスファチジン酸の質量比が5:1〜3:1であるリポソーム製剤、および該リポソーム製剤を含む皮膚外用剤又は化粧料。該リポソーム製剤は、皮膚に塗布する際には、膜構造が柔軟で経皮吸収性に優れ、皮膚に吸収された後、皮膚中のアミノ酸および/又は電解質と反応した時に、相転移温度付近において膜流動性が変化して膜構造が強固となり、水分蒸散を抑制する皮膚バリア機能を発揮する効果がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリポソーム製剤の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
リポソームとは脂質(脂肪)(通常はリン脂質)の膜でできた単なる容器ないし袋で、リン脂質でできた多重層のカプセル構造のことをいう。その中には水相が閉じこめられている。薬剤を投与する方法として主に医学の分野で注目されている。リン脂質の分子は松葉のような形をしていて、頭の部分が親水性、葉のように見える部分が疎水性という2つの性質を併せ持っているので、水に放たれると親水性の部分が水と引きつけあい、球形のリポソームを形成する。リポソームは、水溶性の美容成分をその親水性の部分に、油溶性の成分をその疎水性の部分に閉じこめることができる。
リポソームの膜流動性と膜透過性には相関があることは一般的に良く知られている。膜の流動性が上昇すると膜の水分透過性が上昇し、内包物の漏れが大きくなる。この内包物の漏れすなわち水分透過性を抑制するには、この膜流動性を何らかの方法で制御することが必要となる。その方法として、膜成分間の相互作用を強めること(協同効果の強化)が、ごく一般的に考えられる方法である。
一方、経皮吸収性とリポソームの膜流動性にも相関があることが一般的に良く知られており、リポソーム膜が柔軟なほど、角質層内の細胞間脂質と融合し易く、経皮吸収を促進する。
リポソームにこれら2つの相反する機能を付与させることは技術的に困難であるが、皮膚に塗布するときはリポソーム膜が柔軟であり、経皮吸収性に優れ、皮膚の角質層に浸透した時点で、皮膚中の成分に依存して膜構造が強固な状態に変化して水分透過性が抑制される、即ち、水分蒸散が抑制されると、効果的に皮膚バリア機能を強化することができる。
そこで、本研究では、これらの機能を有した機能性リポソームの開発を試みた。
リポソームの膜流動性を高める技術として、イソプレノイド型リン脂質を用いたリポソーム(特許文献1:特開平5−23576号公報)、中性環境下では安定であるが、酸性環境下でリポソーム膜が不安定となり膜融合を誘起させるサクシニル化ポリグリシドールを含有するリポソーム(特許文献2:特開2006−111540号公報)が知られているが、経皮吸収する過程で膜構造を強固な状態へと変化させるリポソームは知られていない。
【0003】
【特許文献1】特開平5−23576号公報
【特許文献2】特開2006−111540号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
皮膚に吸収された後に膜構造が安定化するリポソームを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)ホスファチジルコリンとホスファチジン酸を含有し、ホスファチジルコリンとホスファチジン酸の質量比が5:1〜3:1であるリポソーム製剤。
(2)アミノ酸および/又は電解質と反応した時に、相転移温度付近において膜流動性が変化する膜構造が変化するリポソーム製剤。
(3)(1)又は(2)のリポソーム製剤を含む皮膚外用剤又は化粧料。
【発明の効果】
【0006】
1.アミノ酸又は電解質と共存したときに膜構造が安定化するリポソームを提供することができた。
2.皮膚に塗布する際に、膜構造が柔軟で経皮吸収性に優れ、皮膚に吸収された後、皮膚中のアミノ酸や電解質と共存することにより、膜構造が強固な状態に変化し、水分蒸散を抑制する皮膚バリア機能を発揮するリポソーム製剤を提供することができる。
3.本発明のリポソーム製剤は、アミノ酸や電解質と共存すると膜構造の特性が変化するので、リポソーム製剤中に取り込んだ薬剤の保持、放出の設計が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に用いるホスファチジルコリンはレシチンとも呼ばれ、生体に含まれるリン脂質の主成分である。ホスファチジルコリンは動物細胞の生体膜系の主要成分の1つであり、大豆、卵黄に多く含まれるので、抽出、精製して用いることができる。天然のホスファチジルコリンのアシル基は炭素数14〜22が一般的であり、不飽和結合が存在する。そこで、水素添加により不飽和結合を飽和結合に改質することで酸化安定性を向上させることができる。天然のホスファチジルコリンまたはその水素添加物を用いる場合は、ホスファチジルコリン含量を90%以上に精製したものを用いることが好ましい。また、L−3−ジミリストイルホスファチジルコリン、L−3−ジパルミトイルホスファチジルコリン、L−3−ジステアロイルホスファチジルコリンなどの合成ホスファチジルコリンを用いても良い。本発明には市販のホスファチジルコリンを用いることができる。例えば、日油製COATSOME NC-21(水素添加大豆リン脂質、PC含量90%以上)、日光ケミカルズ製NIKKOL レシノール S-10EX(水素添加大豆リン脂質、PC含量95%以上)を用いることができる。
本発明に用いるホスファチジン酸は動植物組織に微量ではあるが広く存在する最も簡単なリン脂質であり、ジアシル−L−3−グリセロホスファートに相当する。天然のホスファチジン酸は不飽和脂肪酸を構成成分とするものが圧倒的に多く、水素添加により不飽和結合を飽和結合に改質し、酸化安定性を向上させることが好ましい。また、ジパルミトイルホスファチジン酸のような合成ホスファチジン酸を用いてもよい。本発明には市販のホスファチジン酸を用いることができる。例えば、日油製COATSOME MA-6060LS(ジパルミトイルホスファチジン酸、純度99%以上)を用いることができる。
【0008】
本発明のリポソーム製剤は、定法により製造することが可能であり、例えば、ホスファチジルコリンとホスファチジン酸を5:1〜3:1の割合で有機溶剤、例えば、クロロホル−メタノール−水混液に溶解し、ロータリーエバポレーターで溶媒を留去し、フラスコの壁面に付着した脂質のフィルムに精製水を加えて相転位温度以上(約80℃)で浸透することにより製造することができる。また、5:1〜3:1の割合で混合したホスファチジルコリンとホスファチジン酸を多価アルコールに溶解し、精製水とともに高圧乳化することによりリポソーム製剤を調製することができる。具体的には、例えば、5:1〜3:1の割合で混合したホスファチジルコリンとホスファチジン酸、ステロール、ポリオキシエチレンステロールエーテルの多価アルコール溶液、精製水、pH調整剤を60〜95℃に加温し、ホモミキサーにより分散する。次いで、高圧乳化機を用いて高圧乳化し、リポソームを調製することができる。高圧乳化機としてはプライミクス製 薄膜旋回型高速ホモミキサー(T.Kフィルミックス)、マイクロフルイディックス製 超高圧ホモジナイザー(マイクロフルイダイザー)、エム・テクニック製 内部せん断力型ミキサー(クレアミックス)、吉田機械興業製 湿式メディアレス微粒化装置(ナノマイザー)等を用いることができる。
【0009】
本発明のリポソーム製剤を調製する際に、本発明の効果を損なわない範囲で他のリン脂質、ステロール、ポリオキシエチレンステロールエーテル、多価アルコール、精製水、pH調整剤、非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、油剤、保湿剤、水溶性高分子、抗酸化剤、紫外線吸収剤、キレート剤、防腐剤、抗菌剤、着色剤、香料等を配合することができる。また、アスコルビン酸誘導体、トコフェロール、レチノール誘導体等のビタミン類や植物抽出液等の美容成分を配合し、リポソームに美容成分を内包させることができる。
本発明のリポソーム製剤は、水溶液(リポソームが分散した水溶液を意味する)、水中油型乳化組成物、油中水型乳化組成物、多重乳化組成物、多層状剤のいずれでもよい。
【0010】
本発明のリポソーム製剤は化粧水、乳液、クリーム、美容液、パック、育毛剤、日焼け止め化粧料、リキッドファンデーション、ヘアトリートメント、ヘアリンス等とすることができる。
【0011】
<試験例>
1.試料
実験に供した試料を下記に示す。
1.1 リン脂質:
COATSOME NC-21(水添大豆リン脂質)、日油製 PC含量 >90%
COATSOME ME-6060(DPPE:Dipalmitoyl phosphatidylethanolamine)、日油製、純度>99%
COATSOME MA-6060LS(DPPA:Dipalmitoyl phosphatidicacid)、日油製、純度>99%
1.2 アミノ酸又は電解質
Glycine、和光純薬製(pl=5.97)、純度>99%
L(+)-Lysine、和光純薬製(pl=9.74))、純度>97%
NaCl、大塚化学製、純度>99%
1.3 蛍光プローブ
5,(6)-Carboxyfluorescein (CF)、 関東化学製、試薬特級品
1,6-Diphenyl-1,3,5-hexatriene (DPH)、和光純薬製、試薬特級品
2-(9-Anthroyloxy)stearic acid(2-AS)、和光純薬製、試薬特級品
【0012】
2.試験方法
2.1 リポソームの調製
リポソーム膜構成成分をクロロホルム−メタノール−水(6:1.5:0.15)に溶解後、ロータリーエバポレーターにて溶媒を留去して脂質のフィルムを得た。そこへ20 mM Tris-HCl(pH7.5)を加え、相転位温度以上(約80℃)にて振とうし、リポソームを得た。
「リポソーム膜構成成分」として、(1) COATSOME NC-21、(2) COATSOME NC-21+COATSOME ME-6060、(3) COATSOME NC-21+COATSOME MA-6060LSのいずれかを用いた。
【0013】
2.2 アミノ酸添加リポソームの調製
リポソーム膜構成成分をクロロホルム−メタノール−水(6:1.5:0.15)に溶解後、ロータリーエバポレーターにて溶媒を留去して脂質のフィルムを得た。そこへ200mMアミノ酸/20 mM Tris-HCl(pH7.5)を加え、相転位温度以上(約80℃)にて振とうし、リポソームを得た。
【0014】
2.3 5,(6)-Carboxyfluorescein(CF)の漏出
リポソーム膜構成成分24mg((1) COATSOME NC-21(24mg)、(2) COATSOME NC-21(20mg)+COATSOME ME-6060(4mg)、(3) COATSOME NC-21(20mg)+COATSOME MA-6060LS(4mg)のずれか)をクロロホルム−メタノール−水(6:1.5:0.15)に溶解後、ロータリーエバポレーターにて溶媒を留去して脂質のフィルムを得た。そこへ100 mM CFを溶解した20 mM Tris-HCl(pH7.5)を加え、相転位温度以上(約80℃)にて振とうしてフィルムをはがした後、内包されなかったCFをゲルろ過(Sephadex G-50,100 mM NaCl/20 mM Tris-HCl(pH7.5))にて除去し、リポソームフラクションを得た。アミノ酸の影響を調べる場合には、脂質のフィルムに加える100 mM CFを溶解した20 mM Tris-HCl(pH7.5)を100 mM CFと200 mMアミノ酸を溶解した20 mM Tris-HCl(pH7.5)に替えた。得られたリポソーム溶液を100 mM NaCl/20 mM Tris-HCl(pH7.5)にて希釈し、所定の温度(30℃〜70℃)にて10分間インキュベートした後、内包マーカー(CF)の漏出率を測定した。漏出率は、蛍光光度計にてCFの蛍光強度(EX=490 nm,Em=530 nm)を測定し、式(1)により算出した。測定は全て25℃にて行った。
【0015】
CF漏出率(%)=[(F−F0)/(F100−F0)]*100 (1)
F:所定の温度でインキュベート後の蛍光強度、F0はインキュベート前の蛍光強度、F100はTritonX-100を加え、加熱処理した後の蛍光強度(100%漏出)をあらわす。
【0016】
2.4 膜流動性の測定
リポソーム膜構造の微視的流動性は蛍光プローブ法により検討した。リポソーム膜中に取り込ませた蛍光プローブの蛍光偏光度(P;Fluorescence polarization)を測定することによって膜流動性が評価できる。
DPHを用いて膜流動性を評価する場合には、リポソーム調製後にDPHのテトラヒドロフラン溶液を加え、沸騰水中にて60分間加熱してこれらの蛍光プローブを膜中に取り込ませ、測定に供した。この場合、脂質に対するプローブのモル量を1/1000となるよう調整した。具体的には、総脂質量はいずれも1.575mgとし、(1) COATSOME NC-21(1.575mg)、(2) COATSOME NC-21(1.26mg)+COATSOME ME-6060(0.315mg)、(3) COATSOME NC-21(1.26mg)+COATSOME MA-6060LS(0.315mg)のいずれかをクロロホルム−メタノール−水(6:1.5:0.15)にて溶解し、溶媒除去後、脂質フィルムを得た。その後、80℃以上に加熱した20mM Tris-HClを4mlおよび脂質に対するDPHのモル量を1/1000となるよう添加し、沸騰水中で60分間加熱後、振とうしフィルムをはがした後、超音波処理を5分以上施し、リポソームを得た。アミノ酸の効果を調べる場合は、脂質フィルムに加える「20mM Tris-HCl」を「200 mMアミノ酸を溶解した20 mM Tris-HCl」に替えた。
【0017】
2-ASを用いて膜流動性を評価する場合には、脂質と蛍光プローブをあらかじめ混和してからリポソームを調製した。この場合は、脂質に対するプローブのモル量を1/100となるよう調整した。具体的には、総脂質量はいずれも1.575mgとし、(1) COATSOME NC-21(1.575mg)、(2) COATSOME NC-21(1.26mg)+COATSOME ME-6060(0.315mg)、(3) COATSOME NC-21(1.26mg)+COATSOME MA-6060LS(0.315mg)のいずれかと、脂質に対する2-ASのモル量を1/100となるよう添加し、クロロホルム−メタノール−水(6:1.5:0.15)にて溶解し、溶媒除去後、脂質フィルムを得た。その後、80℃以上に加熱した20mM Tris-HClを4ml添加後、振とうしフィルムをはがした後、超音波処理を5分以上施し、リポソームを得た。アミノ酸の効果を調べる場合は、脂質フィルムに加える「20mM Tris-HCl」を「200 mMアミノ酸を溶解した20 mM Tris-HCl」に替えた。
測定は全て25℃にて行った。
【0018】
また、各蛍光プローブに対する励起波長及び蛍光波長はDPHの場合Ex=360nm, Em=428nm, 2-ASの場合Ex=365nm, Em=439nmとした。得られた蛍光強度からP値を式(2)により算出した。
【0019】
P=(IVV−G・IVH)/(IVV+G・IVH)
G=IHV/IHH (2)
【0020】
ここで、Iは90°方向で観測される蛍光強度であり、Iの下付き文字はそれぞれ入射光と蛍光の偏光方向を示している。Gは蛍光側分光器の偏光補正係数で、垂直方向と水平方向に偏光した光に対する検出系の感度比である。
【0021】
3. 結果
3.1 各種リン脂質が内包物の漏出に与える影響
DPPA(COATSOME MA-6060LS)又はDPPE(COATSOME ME-6060)をPC(COATSOME NC-21)に対して質量比1/5を添加した組成にてリポソームを調製し、それらリポソームのCF漏出率を測定した(図1)。
図1に示したように、DPPAを添加した系DPPAリポソームはcontrol(PC)(PC(COATSOME NC-21)のみで調製したリポソーム)に比べ、CF漏出を格段に促進した。これは、酸性リン脂質であるDPPAによってリポソーム膜表面の電位がマイナス側に大きくシフトしたためであると考えられる。一方、DPPEを添加した系、DPPEリポソームのCF漏出率はcontrol(PC)と変わらなかった。実際に、Z電位を測定するとcontrol(PC)およびDPPEリポソームのΖ電位はほぼ0であるのに対し、DPPAリポソームは-50mVであった。
【0022】
3.2 DPPAが膜流動性に及ぼす影響(親水基部位)
DPPA(COATSOME MA-6060LS)をPC(COATSOME NC-21)に対して質量比1/4を添加した組成にてリポソームを調製し、DPPAの膜透過性促進効果について膜流動性を評価することでより詳しく検証した。リポソームの調製法は2.4に示した。
まず最初に蛍光プローブとして2-ASを用い、蛍光偏光度を測定した結果を図2に示す。2-ASはアンスロイロキシ基が親水基近くに存在しており、二分子膜の極性基近傍の流動性を反映することから、2-ASを用いて膜の親水基部位の流動性が評価できる(図2)。
膜流動性が低い状態では膜構成成分は異方性を示しており、偏光下で光を透過するため、蛍光偏光度(P値)は高くなる。しかし、流動性が高い状態では、異方性は崩れP値が低下してくる。従って、膜流動性が増加するとP値は低い値を示す。
図2に示したようにDPPAの添加が、膜の親水基部位の流動性を大きくすることがわかった。
【0023】
3.3 DPPAが膜流動性に及ぼす影響(疎水基部位)
ここで用いた蛍光プローブDPHは分子膜の奥深くに取り込まれ、疎水基近傍の流動性を反映することから、ここでは、DPHを用いて、DPPA (COATSOME MA-6060LS)をPC(COATSOME NC-21)に対して質量比1/4を添加した組成にて調製したリポソームの膜の疎水基部位の流動性について評価した(図3)。リポソームの調製法は2.4に示した。
図3に示したように、DPPAの添加によって、若干膜の疎水基部位の流動性が促進されたが、それほど大きな影響を及ぼさないことが確認された。
以上のことから、環境応答性を付与するにはDPPAの添加が適していることがわかった。
【0024】
3.4 アミノ酸のCF漏出抑制効果
DPPAリポソームにリシン又はグリシンを添加し、CF漏出率を比較することで、その漏出抑制効果を比較した(図4)。リポソームの調製方法は2.3に示した。
DPPA (COATSOME MA-6060LS)をPC(COATSOME NC-21)に対して質量比1/5を添加したDPPAリポソームにアミノ酸としてGly(グリシン)又はLys(リシン)を添加したところ、
CFの漏出が抑制されることがわかった。特にLysが効果的であることがわかった。
【0025】
3.5 DPPAの比率がアミノ酸のCF漏出抑制効果に及ぼす影響
DPPAの比率がアミノ酸のCF漏出抑制効果に及ぼす影響を調べるために、DPPA (COATSOME MA-6060LS)をPC(COATSOME NC-21)に対して質量比1/3を添加したDPPAリポソームにGly又はLysを添加し、CF漏出率を比較した(図5)。
ControlにDPPAをControlに対して質量比1/3添加したDPPAリポソームに、Gly又はLysを3.4と同様に添加したところ、3.4の結果と同様にCFの漏出が抑制されることがわかった。
【0026】
3.6 Lys及びGlyがDPPAリポソームの膜流動性に及ぼす影響(親水基部位)
CF漏出抑制に効果的であったLys及びGlyが膜親水基部位の流動性に与える影響について、2-ASを用いたP値測定により評価した(図6)。ここで、DPPA (COATSOME MA-6060LS)をPC(COATSOME NC-21)に対して質量比1/4を添加したDPPAリポソームを用いた。
Gly及びLys共にリポソーム膜の親水基部位の流動性を抑制していることがわかった。さらに、CF漏出挙動と親水基部位の膜流動性について相関があることもわかった。
【0027】
3.7 LysがDPPAリポソームの膜疎水基部位の膜流動性に与える影響
DPPAリポソームの膜透過性抑制に最も効果のあったLysについて疎水基部位の膜流動性に及ぼす影響についてDPHを用いたP値測定により評価した(図7)。ここで、DPPA (COATSOME MA-6060LS)をPC(COATSOME NC-21)に対して質量比1/4を添加したDPPAリポソームを用いた。
Lysの添加によって疎水基部位の膜流動性に変化は見られなかった。
【0028】
3.8 電解質のCF漏出抑制効果
膜のパッキングは膜の疎水化により強くなる。すなわち、疎水化することで膜成分間の疎水基間相互作用が強まり、強固になると考えられる。従って、アミノ酸を用いた膜の静電的疎水化以外にも脱水和による膜の疎水化が考えられ、アミノ酸以外にも膜透過性抑制因子が存在することが十分考えられる。そこで、NaClによるCF漏出抑制効果を評価した(図8)。ここで、DPPA(COATSOME MA-6060LS)をPC(COATSOME NC-21)に対して質量比1/5を添加したDPPAリポソームを用いた。また、NaClを添加したリポソームは2.3の調製法において、脂質のフィルムに加える100 mM CFと200 mMアミノ酸を溶解した20 mM Tris-HCl(pH7.5)を、100 mM CFと200 mMNaClを溶解した20 mM Tris-HCl(pH7.5)に替えて調製した。
図8に示すようにNaClにおいてもGlyと同程度の抑制効果があることがわかった。尚、NaClにDPPAリポソームを強固にする効果が認められたことから、NaClが共存する系でCF漏出率を測定した3.1、3.4、3.5の結果は、NaClの影響を含むものである。NaClを添加する理由は、CFが内包されている内相と外相の塩濃度を等しくするためである。塩濃度が異なる場合、内包物の漏れが確認された。
【0029】
4.考察
リポソームの経皮吸収のメカニズムは、細胞間脂質とリポソーム膜が融合することで引き起こされ、そのリポソームは角質層内で滞留する。この融合は、肌のバリア機能に関係する細胞間脂質の修復に応用できる。
また、この膜融合はリポソームの膜の柔軟性と相関があり、その柔軟性は膜の微視的流動性で評価できる。
【0030】
本実験では、この膜の柔軟性(バリア機能修復)に着目し、経皮吸収される過程で、細胞間脂質を修復し、さらに角質層に含まれるある種の環境応答因子と反応して、膜成分間の相互作用を強め、皮膚バリア機能を強化する機能を有した膜修飾リポソームを開発した。
まず、リポソーム膜に適度な流動性を与えることができる効果的な成分について検討した結果、DPPAが有効であった。すなわち、酸性リン脂質であるDPPAを膜に配向させることで、静電的作用によって斥力が生じ、膜成分間の相互作用が弱まり、膜流動性が上昇するためである。さらに、DPPAは膜の表面付近において流動性を高めることが確認された。DPPAを用いた環境応答能を有するDPPAリポソームの表面付近のパッキングを強化させるには膜表面の脱水和による疎水化及び静電的相互作用による疎水化によって対応可能である。従って、この手法を用いれば、リポソームの経皮吸収過程において、膜流動性抑制効果を付与することができる。しかし、疎水基付近に流動性を有している場合、その流動性を抑制するには、膜内部にステロール類等のくさびを打ち込むことなどして、そのパッキング効果を付与しなければならない。従って、経皮吸収の過程で、その膜流動性抑制効果を付与することは難しくなる。よって、膜親水基部位のみに流動性を付与できるDPPAが流動性付与成分として適している。
【0031】
次にこのDPPAリポソームを用いてNMF構成成分であるリシンとグリシンの膜流動性抑制効果を検討した。その結果、リシン及びグリシンを共存させてリポソームを調製することにより、膜流動性が抑制された。グリシンに関しては、中性アミノ酸であることから静電的相互作用による膜の疎水化ではなく、脱水和による膜の疎水化が関与しているものと考えられる。これは、NaClを作用させた時のCF漏出抑制挙動とほぼ一致していることからもそのことが言える。
リシンに関しては、グリシン、NaClに比べて、CF漏出抑制効果が強いことから、脱水和による膜の疎水化に加え、静電的相互作用による膜の疎水化も膜流動性抑制に関与しているものと考えられる。
【0032】
5.結論
リポソームに環境応答性を付与するには、親水基付近にのみ特異的に流動性を与えることが必要であり、その成分としてDPPAが最も適していることがわかった。このようにDPPAによって付与された膜流動性を抑制するには、膜の疎水化が有効であることがわかった。具体的な疎水化方法としては、脱水和による膜の疎水化及び静電的相互作用による膜の疎水化が効果的であり、NMF成分中においては特に塩基性アミノ酸であるリシンが適していることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】各種リン脂質が膜透過性に及ぼす影響(蛍光プローブ 5,(6)-Carboxyfluorescein (CF)の漏出)を示すグラフ。
【図2】DPPA(Dipalmitoyl phosphatidicacid)が膜親水基部位の流動性に与える影響を示すグラフ。
【図3】DPPAが膜疎水基部位に与える影響を示すグラフ。
【図4】Gly及びLysがDPPAリポソームの膜透過性に与える影響を示すグラフ。
【図5】Gly及びLysがDPPAリポソームの膜透過性に与える影響を示すグラフ。
【図6】Lys及びGlyが膜親水基部位の流動性に与える影響を示すグラフ。
【図7】Lysが膜疎水基部位の膜流動性に及ぼす影響を示すグラフ。
【図8】NaClがDPPAリポソームのCF漏出に与える影響を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスファチジルコリンとホスファチジン酸を含有し、ホスファチジルコリンとホスファチジン酸の質量比が5:1〜3:1であるリポソーム製剤。
【請求項2】
アミノ酸および/又は電解質と反応した時に、相転移温度付近において膜流動性が変化する膜構造が変化するリポソーム製剤。
【請求項3】
請求項1又は2のリポソーム製剤を含む皮膚外用剤又は化粧料。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−269871(P2009−269871A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−123002(P2008−123002)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(593106918)株式会社ファンケル (310)
【Fターム(参考)】