説明

リポソーム製剤

【課題】
薬物の患部への付着性および滞留性が優れ、薬効が向上した痔疾用製剤を見いだすこと
【解決手段】
リン脂質、多価アルコールおよび薬効成分を含有することを特徴とするリポソーム配合痔疾用製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直腸等の粘膜における薬効成分の浸透性および付着性等を向上させ、薬効の増強および持続性向上をはかったリポソーム配合痔疾用製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
痔疾用製剤には、坐剤、塗布剤、注入式製剤、内服剤等の製剤がある。患部への直接作用並びに薬物の患部への付着性および滞留性の点では坐剤が最も好ましい製剤だと思われるが、坐剤は肛門へ直接挿入しなければならないという点から使用に抵抗を感じる患者も多い。一方、塗布剤および注入式製剤は、患部に対し直接使用でき、且つ手軽に使用できるという点から油性軟膏剤、ゲル剤またはクリーム剤などの剤形として幅広く使用されている。しかし、塗布剤および注入式製剤は、薬物の患部への付着性および滞留性の点では坐剤と比較して劣っており、薬効の発現が十分でないというのが実状である。したがって、薬物の患部への付着性および滞留性がより向上した塗布剤および注入式製剤が見出されれば、薬効および使用感の面で優れた痔疾用製剤の提供が可能となる。
【0003】
一方、化粧品等の分野では、有効成分の皮膚角質層への浸透や貯留の向上を目的としてリポソーム製剤が使用されている(特許文献1〜3を参照)。しかし、このようなリポソーム製剤が痔疾用製剤として使用可能なことを示唆する報告は見つかっていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−94809号公報
【特許文献2】特開2000−63265号公報
【特許文献3】特開平10−316555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
薬物の患部への付着性および滞留性が優れ、薬効が向上した痔疾用製剤を見いだすことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、種々検討した結果、薬効成分を含有するリポソーム配合痔疾用製剤とすることにより、通常の痔疾用製剤と比較して優れた薬効を発現できることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち本発明は、以下の通りである。
(1)リン脂質、多価アルコールおよび薬効成分を含有することを特徴とするリポソーム配合痔疾用製剤。
(2)さらに水溶性高分子を含有することを特徴とする(1)に記載のリポソーム配合痔疾用製剤。
(3)多価アルコールがポリエチレングリコールおよび1,3ブチレングリコールから選ばれる1種または2種である(1)または(2)記載のリポソーム配合痔疾用製剤。
(4)水溶性高分子がカルボキシビニルポリマ−である(2)または(3)に記載のリポソーム配合痔疾用製剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明のリポソーム配合痔疾用製剤は、直腸粘膜における薬効成分の付着性および滞留性を向上させ、さらには優れた薬効を発揮した。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明におけるリン脂質としては、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、スフィンゴリン脂質等が挙げられ、これらを含有する組成物、すなわち、大豆レシチン、卵黄レシチン、またはこれらの水素添加物が挙げられる。リン脂質は、リン脂質中のホスファチジルコリン含有量が70%以上であることが好ましい。
【0010】
本発明における多価アルコールとしては、1,3−ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ベンジルアルコール、モノアセチレン、ジアセチレン等が挙げられる。好ましくは、1,3−ブチレングリコール、ポリエチレングリコールである。本発明に使用されるポリエチレングリコールは、リポソーム調製の容易性という観点から、常温で液体であるものが好ましい。通常、ポリエチレングリコール平均分子量が200〜600のものが好ましく、400のものが特に好ましい。
【0011】
本発明における薬効成分としては、通常、直腸投与されうる薬物であり、例えば、ヒドロコルチゾン、酢酸ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、酢酸プレドニゾロン、デキサメタゾンおよび酢酸デキサメタゾンのステロイド剤、塩酸テトラヒドロゾリン、塩酸ナファゾリン、塩酸フェニレフリン、塩酸エフェドリンおよび塩酸オキシメタゾリンの血管収縮剤、アセチルサリチル酸、アセトアミノフェン、塩酸ブプレノルフィン、イブプロフェン、ケトプロフェン、ピロキシカム、塩酸モルヒネ、塩化リゾチ−ムおよびグリチルレチン酸の消炎・解熱・鎮痛剤、ペニシリン類、セファロスポリン類、テトラサイクリン類およびマクロライド類の抗生物質、5−フルオロウラシルおよびフトラフールの抗腫瘍性薬剤、エコナゾール、硝酸エコナゾール、ミコナゾール、硝酸ミコナゾール、クロトリマゾール、ビフォナゾール、塩酸テルビナフィン、塩酸ブテナフィンの抗真菌剤、テトラカイン、メピバカイン、クロプロカイン、ブピバカイン、プロパラカイン、フェナカイン、コカイン、オキシプロカイン、プロピトカイン、オルソカイン、オキセサゼイン、塩酸テトラカイン、塩酸メピバカイン、塩酸クロロプロカイン、塩酸ブピバカイン、塩酸プロパラカイン、塩酸フェナカイン、塩酸コカイン、塩酸オキシブプロカイン塩酸プロピトカイン、塩酸メプリルカインおよびメピバカインの局所麻酔剤、酸化亜鉛、タンニン酸、タンニン酸アルブミンおよび硫酸アルミニウムカリウムの収れん剤、ジフェンヒドラミン、塩酸ジフェンヒドラミンおよびマレイン酸クロルフェニラミンの抗ヒスタミン剤、アラントインおよびアルミニウムクロルヒドロキシアラントイネ−トの創傷治癒促進剤、塩酸クロルヘキシジン、セトリミド、塩化デカリニウムおよび塩化ベンザルコニウムの殺菌剤、スルフイソミジン、スルフイソミジンナトリウム、ホモスルファミンおよびスルファジアジンのサルファ剤、肝油、エルゴカルシフェロール、リボフラビン、塩酸ピリドキシンおよび酢酸トコフェロールのビタミン類、d−カンフル、dl−カンフル、l−メントール、dl−メントール、ハッカ油およびユ−カリ油の清涼化剤、ドンペリドンの制吐剤、ビサコジルの排便促進剤、テオフィリンの気管支拡張剤、インシュリンのペプチド等が挙げられる。好ましくは、ヒドロコルチゾン、酢酸ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、酢酸プレドニゾロン、デキサメタゾンおよび酢酸デキサメタゾンのステロイド剤であり、特に好ましくは、酢酸ヒドロコルチゾンである。
【0012】
本発明における水溶性高分子としては、アクリル酸重合体、キトサン、ジェランガム、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ペクチン等が挙げられる。これらの中でもアクリル酸重合体、キトサン、ジェランガムのうち1種または2種以上が好ましく、特にアクリル酸重合体が好ましい。また、アクリル酸重合体の中でも、最も好ましいものはカルボキシビニルポリマ−である。本発明において使用されるカルボキシビニルポリマーは常法によりアクリル酸を重合して製造することができる。また、本発明においては、市販品を用いてもよく、このような市販品として例えば、カーボポール980、カーボポール981、カーボポール2984、カーボポール5984、カーボポールETD2050、カーボポールultrez10(Noveon社製)、ハイビスワコー103、ハイビスワコー104、ハイビスワコー105、シンタレンK、シンタレンL(和光純薬工業社製)、ジュンロン(日本純薬社製)等が挙げられる。
【0013】
リポソーム懸濁液中における、リン脂質の配合量はリポソームの形成の点から2〜50%である。リポソーム懸濁液中における、多価アルコールの配合量はリポソームの形成の点から、3〜19%である。
【0014】
本願発明のリポソーム配合痔疾用製剤は、好ましくは塗布剤または注入式製剤である。剤形としては具体的にクリーム剤、ゲル剤、液剤、スプレー剤、注入式クリーム剤、注入式ゲル剤等が挙げられる。
【0015】
(リポソーム配合痔疾用製剤の好ましい製造方法)
リン脂質および油溶性の薬効成分は、多価アルコール中で溶解し、さらにこれを精製水または水溶液(水溶性薬効成分等を溶解した溶液)と混合することによりリポソーム懸濁液とする。このリポソーム懸濁液に水溶性高分子を溶解した溶液を加えて混合し、リポソームを水溶性高分子でコーティングしても良い。
このリポソーム懸濁液はそのまま用いてもよいが、その後、リポソーム懸濁液を水相に用いてクリーム剤やジェル剤等を調製してもよい。例えば、クリーム剤を調製する場合は、油性成分を融解し、そこにリポソーム懸濁液を添加し、混合した後、冷却することにより調製する。クリーム剤を調製する場合は、必要に応じて他の添加剤、例えば界面活性剤、分散剤、酸化防止剤等を混合することもできる。
【0016】
以下実施例および試験例により、本発明をさらに具体的に説明する。
【実施例】
【0017】
(実施例1)
まず、表1の実施例1の処方を用いて、一般的な方法にて、100gのリポソーム懸濁液を得た。具体的には、70℃にて成分(A)大豆リン脂質(COATSOME NC-20;日油株式会社社製)および成分(C)酢酸ヒドロコルチゾンを成分(B)ポリエチレングリコール400(マクロゴール400;三洋化成社製)中で溶解し、さらにこれを精製水と混合後、室温まで冷却することによりリポソーム懸濁液とした。
その後、得られたリポソーム懸濁液のうち57.8gを水溶性基剤として用いることにより表2に示した処方により100gクリーム剤を調製した。つまり、油性基剤の4成分全て、乳化剤の3成分全て、および安定化剤のパラオキシ安息香酸ブチルを加えて70℃にて溶解し、そこに、70℃にて安定化剤のパラオキシ安息香酸メチルを溶解したリポソーム懸濁液を添加し、室温まで徐冷することにより調製した。
【0018】
(実施例2)
まず、表1の実施例2の処方を用いて、一般的な方法にて、100gのリポソーム懸濁液を得た。具体的には、70℃にて成分(A)大豆リン脂質(COATSOME NC-20;日油株式会社社製)、成分(C)酢酸ヒドロコルチゾン及び塩化ベンザルコニウムを成分(B)ポリエチレングリコール400(マクロゴール400;三洋化成社製)中で溶解し、さらにこれを精製水と混合後、室温まで冷却した。その後、室温にてカルボキシビニルポリマー(カーボポール981;Noveon社製)を溶解したpH6.8リン酸緩衝液と混合することによりリポソーム懸濁液とした。
その後、得られたリポソーム懸濁液を用いて、実施例1と同様の方法により100gのクリーム剤を調製した。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
実施例1、2のクリーム剤各100g中の組成は表3に示す通りである。
【0022】
【表3】

(比較例1)
表3の処方を用いて、100gのクリーム剤を得た。つまり、成分(C)酢酸ヒドロコルチゾン、油性基剤の4成分全て、乳化剤の3成分全て、および安定化剤のパラオキシ安息香酸ブチルを加えて70℃にて溶解し、そこに、70℃にて安定化剤のパラオキシ安息香酸メチルを溶解した精製水を添加し、室温まで徐冷することにより調製した。
【0023】
(試験例1)
浮腫抑制試験:
24時間絶食した雄性ラットの直腸に、起炎剤(注射用水:ピリジン:ジエチルエ−テル:6%クロトン油ジエチルエ−テル溶液=1:4:5:10)を0.16mL浸した綿棒を10秒間挿入して炎症反応を惹起させた。その直後に実施例および比較例で製造した各クリーム剤をシリンジを用いて、ラットの直腸内に体重1kgにつき1g投与した(n=9)。投与後はクリップで肛門を塞ぎ、クリーム剤の漏出を防止した。投与6時間経過後に直腸を摘出し、肛門部から5〜20mmの区分の直腸部分を採取し、この湿重量を測定して直腸肛門係数(RAC)を算出し、得られたRACから浮腫抑制率を算出した。RACおよび浮腫抑制率は、下記に示す計算式により算出した。これらの結果を表4に示した。
RAC=肛門部から5〜20mmの区分の直腸部分湿重量(g) × 1000/体重(g)
浮腫抑制率(%)=(1−(A−C)/(B−C))× 100
A:起炎剤+酢酸ヒドロコルチゾン含有クリーム剤投与群のRAC
B:起炎剤投与群のRAC
C:起炎剤非投与群のRAC
【0024】
【表4】

【0025】
表4に示すように、実施例1、2は比較例1と比較して高い浮腫抑制効果を示し、優れた抗炎症作用を示すことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0026】
発明のリポソーム製剤は、痔疾患患者の直腸等の粘膜における薬効成分の浸透性および付着性等を向上させ、薬効および持続性に優れた痔疾用製剤として使用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン脂質、多価アルコールおよび薬効成分を含有することを特徴とするリポソーム配合痔疾用製剤。
【請求項2】
さらに水溶性高分子を含有することを特徴とする請求項1に記載のリポソーム配合痔疾用製剤。
【請求項3】
多価アルコールがポリエチレングリコールおよび1,3−ブチレングリコールから選ばれる1種または2種である請求項1または2に記載のリポソーム配合痔疾用製剤。
【請求項4】
水溶性高分子がカルボキシビニルポリマ−である請求項2または3に記載のリポソーム配合痔疾用製剤。

【公開番号】特開2011−57668(P2011−57668A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180284(P2010−180284)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】