説明

リポソーム製造装置及び方法

【課題】容易に粒径の揃ったリポソームを得ることができる装置等を提供すること。
【解決手段】1以上の脂質と、水と、水混和性有機溶媒とを含む脂質の溶解液が流れる流路を有するマイクロチューブと、前記マイクロチューブを収容する収容部と、前記収容部における前記マイクロチューブ内の前記溶解液をリポソームが生成する温度に冷却する冷却手段とを備えるリポソーム製造装置を用いることにより、粒径の揃ったリポソームを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リポソームを製造するための装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リポソームは、脂質分子により形成される少なくとも一つの脂質二重層により囲まれた略球状の中空粒子である。当該脂質分子は、親水性を有する親水基とその反対側にあって親油性を有する親油基とを備えるので、水に接触すると、二重層を形成して、親水基が当該二重層の外側および当該二重層で囲まれた内側を向き、親油基が当該二重層の層内部を向き、表面積を最小にするように球状になる。リポソームを形成する二重層は、生体を構成する細胞膜と近似しているため、生体内環境に容易に受け入れられる。近年、かかる性質を利用し、リポソームは、二重層で囲まれた領域に封入した薬剤を、生体内の薬剤必要部位まで輸送するドラッグデリバリシステム(Drug Delivery System:DDS)における薬剤用ベシクルとして注目されている。また、その他の用途として、リポソームは、例えば、化粧料を封入する化粧料用のマイクロカプセルとしても注目されている。
【0003】
リポソームの製法は種々知られているが、典型的な製法の一つに、Bangham法(薄膜法)がある。この製法は、フラスコ等の容器内において少なくとも1種のリン脂質をクロロホルム等の有機溶媒に溶解し、当該有機溶媒を揮発させて、一旦、容器の底部に脂質膜を形成した後、そこに緩衝液等の水溶液を入れてかき混ぜ、リポソームを含む懸濁液を得る方法である(例えば、非特許文献1、非特許文献2参照)。
【0004】
また、典型的なリポソームの工業的製造法において、水混和性有機溶媒に溶解したリン脂質等の脂質成分を撹拌しながら水溶液に注入添加する方法がある。ここで、水混和性有機溶媒には、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類を好適に採用し得るが、脂質の溶解状態を維持するため脂質溶液を加温しながら、水溶液に添加混合する必要があり、温度や添加速度あるいは撹拌速度を精密に制御する必要がある(例えば、特許文献1参照)。さらに、別のt−ブタノールを使用するプレリポソームの製法も報告されている(特許文献2参照)。この製法は脂質の溶解溶媒として、20%程度の低い含有量で水を含むt−ブタノールを用いることで室温付近の温度で脂質を溶解させておくことができるため、脂質のろ過滅菌と凍結乾燥を行うことができるという利点がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】A.D.Bangham et al., J.Mol.Biol., 13, 238-252 (1965)
【非特許文献2】A.D.Bangham and R.W.Horne, J.Mol.Biol., 8, 660-668 (1964)
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2006−517594号公報
【特許文献2】特表平6−509547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記従来の製法には、次のような問題がある。それは、リポソームの粒子径が均一ではない、あるいは均一な粒子径を持つリポソームを容易に作製することが難しいことである。粒子径が小さいもの(Small Unilameller Vesicles:SUV)、粒子径が大きいもの(Large Unilameller Vesicles:LUV)は、それぞれ利用価値があるが、両者が混在していると、利用価値が低い。特許文献1では、t−ブタノール(100%濃度)に溶解した脂質溶液を35℃に維持しながら、例えば35℃に維持した水に添加する方法が開示されている。上記脂質溶液は、水との混合により希釈され、この際にt−ブタノールも同時に希釈されるため、脂質の溶解度が低下して脂質が析出する。しかし、この混合の過程で、水溶液中の脂質濃度とt−ブタノール濃度は、刻々と変化するため、均一な反応が生じているとは言えず、その結果、均一な粒径のリポソームを得ることが難しい。もっとも、その製造工程において、粒度分布が広いリポソームを、細孔を有するフィルタに通して、粒度分布をより狭くすることも可能である。しかし、かかる工程を採用すると、特定の必要粒度分布を持つリポソームの収率が低下するという問題がある。また、かかる工程にリポソームを移す必要から、滅菌すべきエリアが広がり、製造コストが高くなるという問題もある。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、容易に粒径の揃ったリポソームを得ることができる装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、図1に示す装置を用いて、1以上の脂質と、水と、水混和性有機溶媒とを含む混合物を加温し、脂質を水と水混和性有機溶媒とを含む水溶液中に溶解させ、脂質が溶解した溶解液を、リポソームが生成する温度、より具体的には、40℃以上の温度であって加熱温度より低い温度で一定時間保持した後、所定温度にさらに冷却することにより、粒子径の揃ったリポソームを製造できることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)1以上の脂質と、水混和性有機溶媒を含む水溶液との混合物を加温して、上記脂質を上記水溶液中にて溶解させるための溶解ゾーンと、上記溶解ゾーンの送液方向下流側に配置され、上記溶解ゾーンから送られてくる溶液を、上記溶解ゾーンの温度より低温であってリポソームが生成する温度に冷却させる第一冷却ゾーンとを備えるリポソーム製造装置;
(2)前記第一冷却ゾーンの送液方向下流側に配置され、前記第一冷却ゾーンから送られてくる溶液を、前記第一冷却ゾーンの温度より低温で冷却させる第二冷却ゾーンを、さらに備える上記(1)に記載のリポソーム製造装置;
(3)前記溶解ゾーンと前記第一冷却ゾーンとは、溶液が流れる送液流路をそれぞれ有しており、前記溶解ゾーンの送液流路と前記第一冷却ゾーンの送液流路とは連結されており、前記溶液を前記溶解ゾーンの送液流路から前記第一冷却ゾーンの送液流路に連続して送液させながらリポソームを形成する上記(1)または(2)に記載のリポソーム製造装置;
(4)前記送液流路は、その送液流路の径方向において前記溶液がほぼ均一な温度となるために十分に微細な流路であって、その微細な流路がその長さ方向に亘って温度が一定に維持されている上記(3)に記載のリポソーム製造装置;
(5)前記送液流路の内径は、その送液流路の内部に送液される前記溶液が乱流を形成する寸法である上記(3)または(4)に記載のリポソーム製造装置;
(6)前記溶解ゾーンおよび前記第一冷却ゾーンの少なくともいずれか一つのゾーンにおける前記溶液の流路に、滅菌フィルタを備える上記(1)から(5)のいずれかに記載のリポソーム製造装置;
(7)1以上の脂質と、水混和性有機溶媒を含む水溶液との混合物を加温して上記脂質を上記水溶液中にて溶解させ、その溶解させた温度からより低温へと下げてリポソームを生成するプレリポソーム生成装置を、前記溶解ゾーンの送液方向上流側に配置し、前記溶解ゾーンは、加温して上記リポソームを前記水溶液に溶解する上記(1)から(6)のいずれかに記載のリポソーム製造装置;
(8)前記溶解ゾーンにおいてリポソームの内空間への封入用の物質を前記混合物と混合させるための封入物質供給装置を、前記溶解ゾーンの送液方向上流側に配置している上記(1)から(7)のいずれかに記載のリポソーム製造装置;
(9)前記第一冷却ゾーンよりも下流側に、リポソームを含む溶液から少なくとも前記水混和性有機溶媒を除去して濃縮するための限外ろ過装置を接続している上記(1)から(8)のいずれかに記載のリポソーム製造装置などである。
【0011】
さらに、本発明は、
(10)1以上の脂質と、水と、水混和性有機溶媒とを含む脂質の溶解液が流れる流路を有するマイクロチューブと、前記マイクロチューブを収容する収容部と、前記収容部における前記マイクロチューブ内の前記溶解液をリポソームが生成する温度に冷却する冷却手段と、を備えるリポソーム製造装置;
(11)1以上の脂質と、水と、水混和性有機溶媒とを含む混合物を加温して、前記脂質を前記水と前記水混和性有機溶媒とを含む水溶液中に溶解させて前記溶解液を調製するための溶解ゾーンを備える上記(10)に記載のリポソーム製造装置;
(12)前記溶解ゾーンは、前記混合物が流れる流路を有するマイクロチューブを有し、前記溶解ゾーンの前記マイクロチューブと前記収容部における前記マイクロチューブとを連結した上記(11)に記載のリポソーム製造装置;
(13)前記溶解ゾーンで前記混合物を加温する前に、前記混合物を加温して前記脂質を前記水溶液に溶解させ、その溶解させた温度からより低温へと下げてリポソームを生成するプレリポソーム生成装置を備える上記(11)又は(12)に記載のリポソーム製造装置;
(14)前記脂質の溶解液とともに、リポソームの内空間への封入用物質を前記収容部の前記マイクロチューブに供給するための封入物質供給装置を備える上記(10)から(13)のいずれか1項に記載のリポソーム製造装置;
(15)前記冷却手段で冷却することにより生成されたリポソームを含む溶液をさらに冷却する冷却ゾーンを、さらに備える上記(10)から(14)のいずれか1項に記載のリポソーム製造装置;
(16)前記溶解液を滅菌する滅菌手段を備える上記(10)から(15)のいずれか1項に記載のリポソーム製造装置;
(17)前記冷却手段で冷却することにより生成されたリポソームを含む溶液から少なくとも前記水混和性有機溶媒を除去して濃縮するための限外ろ過装置を備える上記(10)から(16)のいずれか1項に記載のリポソーム製造装置などである。
【0012】
また、本発明は、
(18)1以上の脂質と、水と、水混和性有機溶媒とを含む混合物を62℃〜80℃の範囲内の温度で加熱する加熱工程と、前記加熱工程後に、前記混合物を40℃以上の温度であって前記加熱温度より低い温度で一定時間保持する保持工程と、前記保持工程後に、前記混合物をさらに冷却する冷却工程と、を含み、前記水混和性有機溶媒は、前記水と前記水混和性有機溶媒とを含む水溶液の全容量に対して5〜30体積%であるリポソームの製造方法などである。
【0013】
さらに本発明は、
(19)1以上の脂質と、水と、水混和性有機溶媒とを含む混合物を加温して上記脂質を上記水溶液中にて溶解させ、その溶解させた温度からより低温へと下げてリポソームを生成するプレリポソーム生成装置と、
前記プレリポソーム生成装置により生成したリポソームを含む混合物に、リポソームの内空間への封入用物質を混合する封入物質供給装置と、
前記封入物質供給装置により混合された混合物を加温して、該混合物中の脂質を該混合物中の水溶液中に溶解させて前記封入用物質を含む前記溶解液を調製するための溶解ゾーンと、
調製した前記溶解液を、前記マイクロチューブを介して前記冷却手段により冷却する前に、滅菌する滅菌手段と、
前記冷却手段で冷却することにより生成されたリポソームを含む溶液をさらに冷却する冷却ゾーンと、
前記リポソームを含む溶液から少なくとも前記水混和性有機溶媒を除去して濃縮するための限外ろ過装置と、を備え、
前記溶解ゾーンは、前記混合物が流れる流路を有するマイクロチューブを有し、
前記溶解ゾーンの前記マイクロチューブと、前記収容部における前記マイクロチューブとは連結されていることを特徴とするリポソーム製造装置などである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、容易に粒径の揃ったリポソームを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態において、リポソーム製造装置の概略構成を示す図である。
【図2】第1の実施の形態に係るリポソーム製造装置の概略構成を示す図である。
【図3】第2の実施の形態に係るリポソーム製造装置の概略構成を示す図である。
【図4】第3の実施の形態に係るリポソーム製造装置の概略構成を示す図である。
【図5】第4の実施の形態に係るリポソーム製造装置の概略構成を示す図である。
【図6】第5の実施の形態に係るリポソーム製造装置の一部として備えられていてもよい限外ろ過装置の模式図である。
【図7】本発明の実験例において、t-BuOH(t-ブタノール)の濃度が16vol%の条件で作製したリポソーム懸濁液の粒度分布チャートである。
【図8】本発明の一実施例において、DPPC(ジパルミトイルホスファチジルコリン)、コレステロール、及びステアリルアミンを用いて各水混和性有機溶媒を含む水溶液でリポソーム懸濁液を作製した際の各粒度分布結果をそれぞれ示す。
【図9】本発明の一実施例において、DPPC、コレステロール、及びDPPG(ジパルミトイルホスファチジルグリセロール)を用いて各水混和性有機溶媒を含む水溶液でリポソーム懸濁液を作製した際の各粒度分布結果をそれぞれ示す。
【図10】本発明の一実施例において、リポソーム製造装置1におけるリポソーム形成槽330の熱媒体の温度とリポソーム粒径との関係を調べた結果を示す図である。
【図11】本発明の一実施例において、リポソーム製造装置1におけるリポソーム形成槽330での滞留時間とリポソーム粒径との関係を調べた結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態として説明するリポソーム製造装置の概略構成を示す図である。
リポソーム製造装置1は、脂質溶解槽(溶解ゾーン)310、滅菌フィルタ320、リポソーム形成槽(第一冷却ゾーン)330、冷却槽(第二冷却ゾーン)340、恒温槽312,332,342などを備える。
【0017】
脂質溶解槽310は、ポンプ6の送液部60によりマイクロチューブ64,302を介して供給された容器301中の混合物を加温し、混合物における1以上の脂質を、混合物における水と水混和性有機溶媒とを含む水溶液中に溶解させて溶解液を調製する槽である。脂質溶解槽310は断熱性を有する容器である。脂質溶解槽310には、マイクロチューブ311が備えられ、マイクロチューブ311内の混合物は槽内に充填された熱媒体によって加温される。槽内の熱媒体は、恒温槽312によって、脂質が水と水混和性有機溶媒とを含む水溶液に溶解する所定の温度(62〜80℃の範囲内の温度)に保持されている。恒温槽312としては、例えば、脂質溶解槽310と恒温槽312との間で熱媒体を循環させる循環恒温槽などを挙げることができるが、これらに制限されるものではない。マイクロチューブ311は、例えば、コイル状の形態をしている。熱媒体は、気体であっても液体であってもかまわない。
【0018】
滅菌フィルタ320は、マイクロチューブ64,302,303,311,331,341が有する流路を流れる流体中のバクテリアなどの微生物を除去する。滅菌フィルタ320は、容器301とリポソーム回収容器304との間のマイクロチューブ64,302,303,311,331,341のどの部分に設けることとしてもよいが、滅菌効率の面から、脂質の溶解液を調製する部とリポソームを形成する部との間に設けることが好ましい。従って、本実施の形態においては、脂質溶解槽310とリポソーム形成槽330との接続部に滅菌フィルタ320を設け、脂質溶解槽310によって調製された脂質の溶解液を滅菌することとしている。
【0019】
リポソーム形成槽330は断熱性を有する容器である。リポソーム形成槽330は、滅菌フィルタ320を通過した脂質の溶解液をリポソームが生成する温度(40℃以上の温度であって脂質溶解槽310内の熱媒体の温度よりは低い温度である。)に冷却し、リポソームを形成させる槽である。リポソーム形成槽330には、所定の長さを有するマイクロチューブ331が備えられ、マイクロチューブ331内の脂質の溶解液は槽内に充填された熱媒体によって冷却され、一定時間所定の温度に保持される。槽内の熱媒体は、恒温槽332によってリポソームが生成する温度に保持されている。恒温槽332としては、例えば、リポソーム形成槽330と恒温槽332との間で熱媒体を循環させる循環恒温槽などを挙げることができるが、これらに制限されるものではない。マイクロチューブ331は、例えば、コイル状の形態をしている。熱媒体(冷媒)は、気体であっても液体であってもかまわない。
なお、リポソーム形成槽330は、長さが異なるマイクロチューブ331をセットできるようにマイクロチューブを着脱可能な構成を備えていてもよいし、脂質の溶解液を別々の温度で順次冷却できるように2以上の槽によって構成されていてもよい。このように2以上の槽を設ける場合には、各槽の熱媒体は、各槽に対してそれぞれ設置された循環恒温槽によって、リポソームが生成する範囲内の温度にそれぞれ保持されることとなる。
【0020】
冷却槽340は断熱性を有する容器である。冷却槽340は、リポソーム形成槽330によって生成されたリポソームを含む溶液を冷却する槽である。冷却槽340には、マイクロチューブ341が備えられ、マイクロチューブ341内の溶液は槽内に充填された熱媒体によって冷却される。槽内の熱媒体は、恒温槽342によって所定の温度(0℃より高い温度であって、リポソーム形成槽330内の熱媒体の温度よりは低い温度である。)に保持されている。恒温槽342としては、例えば、冷却槽340と恒温槽342との間で熱媒体を循環させる循環恒温槽などを挙げることができるが、これらに制限されるものではない。マイクロチューブ341は、例えば、コイル状の形態をしている。熱媒体は、気体であっても液体であってもかまわない。このようにして生成されたリポソームは、マイクロチューブ303を介してリポソーム回収容器304に回収される。
【0021】
以上のように、脂質の溶解液が流れる流路を有するマイクロチューブ331を収容したリポソーム形成槽330と、恒温槽332とを備えたリポソーム製造装置1は、脂質の溶解液をリポソームが生成する温度に一定時間保持することができるため、粒径の揃ったリポソームを容易に得ることが可能となる。
また、上記リポソーム製造装置1に、1以上の脂質、水、水混和性有機溶媒などを含む混合物が流れる流路を有するマイクロチューブ311を収容した脂質溶解槽310と、恒温槽312とを備えることにより、上記混合物から脂質の溶解液を調製することができるため、粒径の揃ったリポソームをより効率よく得ることが可能となる。
さらに、上記リポソーム製造装置1に、リポソーム形成槽330で形成されたリポソームを含む溶液が流れる流路を有するマイクロチューブ341を収容した冷却槽340と、恒温槽342とを備えることにより、粒径の揃ったリポソームを安定して得ることができるようになる。
【0022】
本実施の形態では、脂質溶解槽310、滅菌フィルタ320、リポソーム形成槽330、冷却槽340、恒温槽312,332,342などを備えるリポソーム製造装置1について説明したが、混合物の代わりに脂質の溶解液を予め準備して容器301に注入する場合には、脂質溶解槽310、恒温槽312などはリポソーム製造装置1に設置しなくてもよい。また、混合物や脂質の溶解液を予め滅菌して容器301に注入する場合には、滅菌フィルタ320をリポソーム製造装置1に設置しなくてもよい。さらに、リポソーム形成槽330で形成されたリポソームを含む溶液を自然冷却する場合には、冷却槽340、恒温槽342などはリポソーム製造装置1に設置しなくてもよい。
また、本実施の形態においては、リポソーム形成槽330で形成されたリポソームを含む溶液をリポソーム回収容器304に回収することとしているが、限外ろ過装置によって溶液中の水混和性有機溶媒を除去し、溶液を濃縮することとしてもよい。なお、限外ろ過装置としては、リポソーム内に封入する物質を加えてリポソームを形成させている場合には、未封入の封入物質も除去できるものを用いることが好ましい。
さらに、本実施の形態においては、容器301内の混合物を脂質溶解槽310で加温して脂質を溶解することとしているが、混合物を加温する前に、混合物を加温して混合物中の脂質を混合物中の水溶液中に溶解させ、その溶解させた温度からより低温へと下げてリポソームを生成する後述のプレリポソーム生成装置を、脂質溶解槽310の上流に備えることとしてもよい。
【0023】
なお、リポソームの内空間への封入用物質は、混合物に予め含めてもよいが、封入物質供給装置をリポソーム製造装置1に設けて、脂質溶解槽310に供給される混合物に封入用物質を混合してもよいし、リポソーム形成槽330に供給される脂質の溶解液に封入用物質を混合してもよい。封入物質供給装置は、例えば、封入物質を供給するポンプなどである。封入用物質は、封入物質供給装置により、マイクロチューブ64,302,311に接続されたマイクロチューブを介して混合物や脂質の溶解液に混合される。
【0024】
上記マイクロチューブは、熱伝導率に優れた材質からなるものであれば特に制限されるものではないが、例えば、テフロン、ステンレスなどを挙げることができる。また、マイクロチューブの内径は、1.0〜3.0mmの範囲内であることが好ましい。
【0025】
本発明によって製造されるリポソームには、その小胞内部に薬剤等の生理活性物質を含まない空リポソーム(Empty-Liposome)および生理活性物質を内包するリポソームが含まれる。リポソームには、一般的に、一重の脂質二重膜から成る比較的粒子の小さなベシクル(Small Unilameller Vesicles:SUV)、一重の脂質二重膜から成る比較的粒子の大きなベシクル(Large Unilameller Vesicles:LUV)の他、複数の膜から成るベシクル(Multi-Lameller-Vesicles:MLV)などがある。この実施の形態では、MLVを多く占めるリポソームを製造可能である。リポソームの粒径としては、いかなる大きさのものでもかまわないが、好ましくは、平均粒径が50〜2000nmであって、特に好ましくは、平均粒径が100〜200nmである。ここでいう「粒径」は、動的光散乱によって測定された粒子の直径を意味する。また、好ましい多分散指数(PDI)は、0.3以下である。
【0026】
リポソームの内部に封入され得る生理活性物質としては、種々の薬剤、化粧料等を採用できる。それらの一例を挙げると、シスプラチンや5−フルオロウラシル等を含む抗がん剤の他、抗酸化剤、抗菌剤、抗炎症剤、血行促進剤、老化防止剤、ホルモン剤、ビタミン剤、ヘモグロビン、DNA、RNA、ペプチド、タンパク質、ワクチン、発毛剤、保湿剤、色素類、美白剤、顔料、生理食塩水、水の1または2以上の組み合わせなどがある。ただし、生理活性物質は、上記例示のものに限定されない。また、リポソームの表面を官能基等で修飾しても良い。かかる官能基による修飾は、リン脂質等に予め官能基を結合させ、あるいはリポソーム形成後に官能基を結合させることにより実現できる。
【0027】
脂質としては、大豆レシチン、水添大豆レシチン、卵黄レシチン、ホスファチジルコリン類、ホスファチジルセリン類、ホスファチジルエタノールアミン類、ホスファチジルイノシトール類、ホスファスフィンゴミエリン類、ホスファチジン酸類、長鎖アルキルリン酸塩類、ガングリオシド類、糖脂質類、ホスファチジルグリセロール類、コレステロール類等を例示することができる。ホスファチジルコリン類としては、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン等を例示することができる。ホスファチジルセリン類としては、ジパルミトイルホスファチジルセリン、ジパルミトイルホスファチジルセリンナトリウム及びウシ脳由来のホスファチジルセリンナトリウム等を例示することができる。ホスファチジルエタノールアミン類としては、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン等を例示することができる。ホスファチジルイノシトール類としては、小麦由来のホスファチジルイノシトールナトリウム等を例示することができる。ホスファスフィンゴミエリン類としては、ウシ脳由来のスフィンゴミレリン等を例示することができる。ホスファチジン酸類や長鎖アルキルリン酸塩類としては、ジミリストイルホスファチジン酸、ジパルミトイルホスファチジン酸、ジステアロイルホスファチジン酸、ジセチルリン酸等を例示することができる。ガングリオシド類としては、ガングリオシドGM1、ガングリオシドGD1a、ガングリオシドGT1b等を例示することができる。糖脂質類としては、ガラクトシルセラミド、グルコシルセラミド、ラクトシルセラミド、ホスファチド、グロボシド等を例示することができる。ホスファチジルグリセロール類としては、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジルグリセロール等を例示することができる。リポソームを構成する脂質として好ましいものは、リンを含むリン脂質と、コレステロールとの組み合わせである。特に、リン脂質の一種であるホスファチジルコリン類とコレステロールとの組み合わせが、より好ましい。リン脂質とコレステロールを用いてリポソームを製造する場合、リン脂質とコレステロールとのモル比は、1:0〜1:1.5の範囲内であることが好ましく、1:0.5〜1:1.25であることがより好ましい。
【0028】
水混和性有機溶媒は、アルコール類、エーテル類、エステル類、ケトン類、アセタール類などの水に混合可能な有機溶媒をいう。水混和性有機溶媒としては、1-プロパノール、イソプロピルアルコール、2-ブトキシエタノールおよびt-ブタノールの内の1又は2以上の有機溶媒を用いることが好ましい。
【0029】
上記水溶液における水混和性有機溶媒の濃度としては、脂質組成と脂質濃度に依存した最適な濃度領域を選ばなければならない。水混和性有機溶媒の濃度を高くすると、脂質の溶解性が高くなるが、リポソームは形成されなくなるためである。また、同時に水混和性有機溶媒が残留しやすくなるので、生体内にリポソームを供給した場合に生体にとって好ましくない。したがって、水混和性有機溶媒は、1以上の脂質を水溶液に溶解できる最低濃度であるのが好ましい。具体的には、水混和性有機溶媒は、水溶液全容量に対して5〜30体積%とするのが好ましく、好ましくは5〜20体積%、さらに好ましくは12〜20体積%である。水混和性有機溶媒がt-ブタノールである場合、水溶液全容量に対して12〜18体積%であることが特に好ましい。水混和性有機溶媒が1-プロパノールである場合、水溶液全容量に対して5〜19体積%であることが特に好ましい。水混和性有機溶媒が2-プロパノールである場合、水溶液全容量に対して13〜26体積%であることが特に好ましい。水混和性有機溶媒が2-ブトキシエタノールである場合、水溶液全容量に対して6〜9体積%であることが特に好ましい。
【0030】
上記混合物は、水混和性有機溶媒が上述の濃度に調製された水溶液に1以上の脂質を添加して調製してもよく、水混和性有機溶媒に1以上の脂質を溶解させた後、上述の濃度になるように水などを添加してもよい。また、混合物には、浸透圧調整剤として、二糖類、多糖類等の糖を含ませてもよい。好ましい糖は、二糖類のスクロースである。スクロースの濃度は、水と水混和性有機溶媒とを含む水溶液に対して5〜70wt/vol%が好ましく、8〜50wt/vol%がより好ましい。
【0031】
<リポソームの製造方法>
本発明に係るリポソームの製造方法は、1以上の脂質と、水と、水混和性有機溶媒とを混合した上記混合物を62℃〜80℃の範囲内の温度で加熱する加熱工程と、加熱工程後に、混合物を40℃以上の温度であって加熱温度より低い温度で一定時間保持する保持工程と、保持工程後に、混合物をさらに冷却する冷却工程とを含む限り、公知の製造方法を応用してもよいし、他の工程を含んでいなくてもよい。より具体的には、リポソームの粒子径を調節するために、超音波照射法、エクストルージョン法、フレンチプレス法、ホモジナイゼーション法等を本発明の方法に組み合わせてもよい。
【0032】
加熱温度は、脂質が、水混和性有機溶媒を含む水溶液に溶解する温度あるいは当該温度以上であって水溶液が白濁しない温度であれば、特定の温度に限定されるものではない。加熱温度としては、脂質の種類、脂質の濃度、水混和性有機溶媒の種類などによって異なるが、62〜80℃の範囲、特に65〜72℃の範囲が好ましい。但し、水混和性有機溶媒としてt−ブタノールを、脂質としてホスファチジルコリン及びコレステロールをそれぞれ用いた場合には、加熱温度は、62〜72℃の範囲であることが好ましい。
【0033】
保持工程における温度は、加熱温度より低く、リポソームが生成する温度であれば特に制限されるものではないが、40℃以上の温度から加熱温度より低い温度の範囲であることが好ましい。保持する時間については、リポソームの平均粒径が所定の粒径に達するのに要する時間であることが好ましい。なお、保持工程は、40℃以上の温度から加熱温度より低い温度の範囲内における2以上の温度で混合物を段階的に冷却し、それぞれの温度において一定時間保持する工程であってもよい。
【0034】
冷却温度は、保持工程における温度より低い温度であれば特に制限されるものではないが、0〜40℃未満の範囲内であることが好ましく、4〜35℃の範囲内であることがより好ましく、20〜30℃の範囲内であることが特に好ましい。なお、冷却工程は、自然冷却により行っても、冷却機を用いて行ってもよい。
【0035】
本発明のリポソームの製造方法において、リポソーム懸濁液の粒度をさらに均一なものとするために、公知の整粒手段を併用しても良い。例えば、リポソーム懸濁液を、ガス圧にて特定孔径の膜に通し、望ましい孔径のリポソームを作製してもよい。当該特定孔径の膜を通す処理は、1回あるいは複数回行ってもよい。
【0036】
次に、本発明のリポソーム製造装置1の各実施の形態について説明する。
【0037】
(第1の実施の形態)
図2は、第1の実施の形態に係るリポソーム製造装置1の概略構成を示す図である。
【0038】
<1.1 リポソーム製造装置の構成>
リポソーム製造装置1は、溶解ゾーンと第一冷却ゾーンとを有している。溶解ゾーンは、断熱性を有する溶解用収容部2とその溶解用収容部2に収容される後述の送液流路とを有し、第一冷却ゾーンは、断熱性を有する第一冷却用収容部3とその第一冷却用収容部3に収容される後述の送液流路とを有している。溶解用収容部2は、送液流路を流れる、1以上の脂質と水混和性有機溶媒を含む水溶液との混合物を収容部内の熱媒体によって加温して、脂質を当該水溶液中に溶解させるためのケース部材である。第一冷却用収容部3は、溶解用収容部2の送液方向下流側に配置され、溶解用収容部2から送られ、送液流路を流れる溶液を、収容部3内の熱媒体によって、溶解用収容部2の温度より低温であってリポソームが生成する温度まで冷却させるケース部材である。
【0039】
溶解用収容部2は、その内部がほぼ一定温度に制御されることにより、後述の送液流路内の温度変化を一定にすることができる。具体的には、図2に示すように、溶解用収容部2の壁面には、その溶解用収容部2内に空気を送り込む送風ファン10aと、溶解用収容部2内の空気を排出する排気ファン10bとが設けられている。送風ファン10aは、溶解用収容部2の内壁面に設けられた開口部11aから温調された空気を収容部内に送ることができる。排気ファン10bは、上記の開口部11aとは別の開口部11bから収容部内の空気を排出することができ、溶解用収容部2内の空気が循環し、その内部が一定温度に維持されるようになっている。より具体的には、溶解用収容部2では、送風ファン10aが上側に設置され、排気ファン10bが下側に設置されている。これにより、溶解用収容部2内の暖かい空気が対流によって上方に滞留するのを防止し、溶解用収容部2内全体が一定温度に保持されるようになっている。従って、溶解用収容部2内全体が一定温度に保持されるため、溶解用収容部2内の送液流路全体がその送液方向に亘って脂質等の溶解温度に維持されるようになっている。
【0040】
溶解用収容部2は、チューブ20、チューブ21、およびチューブ20とチューブ21との間に配置される滅菌フィルタ22などを備える。チューブ20、滅菌フィルタ22およびチューブ21は、その順に、上記脂質と上記水溶液との混合物を流す方向に直列に接続されている。チューブ20,21は、それぞれ、コイル状の形態を有する。滅菌フィルタ22は、例えば、内部にフィルタを備えるステンレススチール製の薄い円板状の形態を有する。フィルタは、チューブ内を流れる流体を滅菌できる大きさの孔を有していれば特に制限されるものではなく、例えば、0.2ミクロン径の孔を有するフィルタを使用することができる。チューブ20と滅菌フィルタ22との間には、T字ジョイント23a,24,25およびチューブ26が、その順に接続されている。また、チューブ20の送液方向上流側には、T字ジョイント23bが接続されている。ここで、少なくともチューブ20,21,26およびT字ジョイント23a,23b,24,25内部の流路は、溶解用収容部2における送液流路に相当する。これらの送液流路の全長は、少なくとも脂質が水溶液に溶解するのに十分な長さとしている。なお、当該送液流路は、溶解用収容部2内にあるチューブ28、チューブ29の一部あるいは/および滅菌フィルタ22内の流路まで含めることもできる。これら送液流路は、その径方向において溶液がほぼ均一な温度となるために十分に微細な流路である。また、その微細な流路は、その長さ方向に亘って温度が一定に維持されるようにしている。このような微細な流路によって、当該流路内の溶液の温度変化を一定にすることができる。
【0041】
T字ジョイント23a,23bは、チューブ20からチューブ21に、あるいは、チューブ29からチューブ20に向かうルートに別のチューブを接続する際に使用するものであり、当該別のチューブを接続していないときにはその接続部分は閉鎖している。T字ジョイント24は、チューブ20からチューブ21へと流れる水溶液の圧力を計測する圧力センサ(不図示。以下、同様。)につながる配管24aを接続するためのものである。T字ジョイント25は、当該水溶液の温度を計測する温度センサ(たとえば、熱電対)25aを挿入するためのものである。
【0042】
チューブ21の送液方向下流側には、I字ジョイント27を介して、チューブ28が接続されている。チューブ28は、溶解用収容部2から第一冷却用収容部3へと延びている。一方、チューブ20の送液方向上流側には、T字ジョイント23bから溶解用収容部2の外に延びるチューブ29が接続されている。
【0043】
第一冷却用収容部3も、その内部がほぼ一定温度に制御されることにより、後述の送液流路内の温度変化を一定にすることができる。具体的には、図1に示すように、第一冷却用収容部3の壁面には、その第一冷却用収容部3内に空気を送り込む送風ファン38aと、第一冷却用収容部3内の空気を排出する排気ファン38bとが設けられている。送風ファン38aは、第一冷却用収容部3の内壁面に設けられた開口部39aから温調された空気を収容部内に送ることができる。排気ファン38bは、上記の開口部39aとは別の開口部39bから収容部内の空気を排出することができ、第一冷却用収容部3内の空気が循環し、その内部が一定温度に維持されるようになっている。より具体的には、第一冷却用収容部3では、送風ファン38aが下側に設置され、排気ファン38bが上側に設置されている。これにより、第一冷却用収容部3内の冷たい空気が対流によって下方に滞留するのを防止し、第一冷却用収容部3内全体が一定温度に保持されるようになっている。従って、第一冷却用収容部3内全体が一定温度に保持されるため、第一冷却用収容部3内の送液流路全体がその送液方向に亘ってリポソーム生成温度に維持されるようになっている。
【0044】
第一冷却用収容部3は、チューブ30、チューブ31、およびチューブ30とチューブ31との間に配置される滅菌フィルタ32などを備える。チューブ30、滅菌フィルタ32およびチューブ31は、その順に、溶解用収容部2を通過してきた混合物を流す方向に直列に接続されている。チューブ30,31は、それぞれ、コイル状の形態を有する。滅菌フィルタ32は、例えば、内部にフィルタを備えるステンレススチール製の薄い円板状の形態を有する。フィルタは、チューブ内を流れる流体を滅菌できる大きさの孔を有していれば特に制限されるものではなく、滅菌フィルタ22の孔よりも径の大きな孔を有するフィルタ、例えば1ミクロン径の孔を有するフィルタを使用することができる。溶解用収容部2から延びるチューブ28と第一冷却用収容部3内のチューブ30との間には、T字ジョイント33,34がその順に接続されている。また、チューブ31の送液方向下流側には、T字ジョイント35,36およびチューブ37が、その順に接続されている。チューブ37は、第一冷却用収容部3内からその外部に延びている。ここで、少なくともチューブ30,31およびT字ジョイント33,34,35,36内部の流路は、第一冷却用収容部3における送液流路に相当する。第一冷却用収容部3における送液流路の全長は、少なくとも溶液がリポソームを形成する温度で一定時間保持されるのに十分な長さとしている。なお、当該送液流路は、溶解用収容部2内にあるチューブ28、チューブ37の一部あるいは/および滅菌フィルタ32内の流路まで含めることもできる。これら送液流路は、その径方向において溶液がほぼ均一な温度となるように十分に微細な流路である。また、その微細な流路は、その長さ方向に亘って温度が一定に維持されるようにしている。前述の溶解用収容部2の送液流路と第一冷却用収容部3の送液流路とは連結されているため、溶液を溶解用収容部2の送液流路から第一冷却用収容部3の送液流路に連続して送液させながらリポソームを形成することができる。このように連続して送液させながらリポソームを形成することによって、仮に溶解用収容部2あるいは第一冷却用収容部3内において温度勾配が生じていても、送液流路内の溶液はその影響を受けにくく、一定な温度変化で反応を進行させることが期待できる。特に、送液流路を微細な流路にすることで、第一冷却用収容部3に供給された溶液の温度変化を短時間で一定にすることができるようになる。
【0045】
T字ジョイント33は、チューブ28からチューブ30へと流れる混合物の濁度を計測する濁度センサ(不図示。以下、同様。)を取り付けるためのものである。T字ジョイント34は、当該混合物の温度を計測する温度センサ(たとえば、熱電対)34aを挿入するためのものである。また、T字ジョイント35は、チューブ31からチューブ37へと流れる混合物の濁度を計測する濁度センサを取り付けるためのものである。T字ジョイント36は、当該混合物の温度を計測する温度センサ(たとえば、熱電対)36aを挿入するためのものである。
【0046】
リポソーム製造装置1は、制御装置4および制御装置5を備える。制御装置4は、温度の設定と、温度センサ25aにより計測される温度の情報に基づく溶解用収容部2内の温度の制御と、チューブ26内の混合物の圧力の計測とを行うことができる。さらに、好適には、制御装置4は、チューブ26を流れる混合物の圧力が所定以上になると、警告する機能を有する。温度センサ25aおよび圧力センサは、ともに制御装置4に接続されている。制御装置4は、温度設定用の操作部40と、温度センサ25aにて計測される温度および圧力センサにて計測される圧力を表示する表示部41とを有する。
【0047】
制御装置5は、温度の設定と、温度センサ34aおよび/または温度センサ36aにより計測される各温度の情報に基づく第一冷却用収容部3内の温度の制御と、チューブ28,37内の混合物の濁度の計測とを行うことができる。温度センサ34a,36aおよび濁度センサは、ともに制御装置5に接続されている。制御装置5は、温度設定用および温度表示用の操作・表示部52と、濁度センサにて計測される濁度をそれぞれ表示する濁度表示部50,51とを有する。なお、第一冷却用収容部3内の温度制御は、温度センサ34aのみ、温度センサ36aのみ、あるいは両温度センサ34a,36aのみで行うようにすることができる。
【0048】
脂質と水溶液との混合物を流す際に、第一冷却用収容部3の温度は、溶解用収容部2の温度に比べて低くなるように設定される。また、溶解用収容部2の温度は、脂質が水溶液に溶解する温度あるいはそれ以上の温度に設定される。一方、第一冷却用収容部3の温度は、水溶液に溶解していた脂質が冷却されてリポソームを形成する温度に設定される。このため、脂質と水溶液との混合物をチューブ29から送ると、チューブ20、滅菌フィルタ22、チューブ21へと流れていく間に、その混合物は、脂質が水溶液に溶解した状態になる。次に、その混合物がチューブ28を通り、第一冷却用収容部3に入ると、その混合物は、チューブ30、滅菌フィルタ32、チューブ31へと流れていく間に冷却されて、リポソームを形成する。
【0049】
チューブ20,21,30,31がいずれもコイル状に巻回されているのは、各ゾーン2,3において各チューブの内部を流れる混合物の温度を一定時間保持するためである。チューブ20,21,30,31の材質が熱伝導性に優れるものであったり、チューブ29から供給される混合物を予め加温したり、あるいは溶解用収容部2と第一冷却用収容部3の温度差が小さいような場合には、必ずしも、チューブ20,21,30,31を全てコイル状にする必要はない。また、この実施の形態では、送液流路を構成するチューブ等の内径は、1/16インチ(約1.6mm)である。ただし、当該内径は、1/16インチに限定されるものではなく、それより大きな寸法あるいは小さな寸法にすることもできる。例えば、流路の径方向において均一な温度を維持するためには、1.0〜3.0mmの範囲に設定するのが好ましい。また、送液流路の内径は、乱流を形成しやすい寸法に設定することもできる。この場合、送液流路内の溶液が攪拌されるため、均一な温度の制御の下で反応させることができる。
【0050】
<1.2 混合物供給装置の構成>
リポソーム製造装置1の送液方向上流側には、送液ポンプ6と、さらに上流側には原料容器7とが配置されている。送液ポンプ6は、原料容器7から液体を溶解用収容部2へと送るための送液部60を備える。送液部60には、チューブ63、バルブ62、I型ジョイント61の順に溶解用収容部2に接続されている。また、送液部60には、原料容器7から混合物を送液ポンプ6に供給するためのチューブ64が接続されている。チューブ63,64は、例えば、樹脂などのフレキシビリティに富む材料から成るものであってもよいが、金属等の他の材料から成るものでもよい。送液ポンプ6は、如何なる形式のポンプでもよいが、例えば、プランジャポンプ、シリンジポンプ、ローラポンプなどを用いることができる。バルブ62としては、如何なる形式のバルブでもよく、例えば、手動回動式のバルブ、エアーバルブ、電磁バルブ等を用いることができる。
【0051】
<1.3 混合物の供給>
原料容器7内に入れられるリポソーム形成用の原料としては、1以上の脂質と、水と、水混和性有機溶媒とを少なくとも含む。当該1以上の脂質と水と水混和性有機溶媒とを含む混合物は、送液ポンプ6によって原料容器7から吸い上げられ、リポソーム製造装置1の溶解用収容部2、さらには同装置1の第一冷却用収容部3へと送られる。原料容器7での原料の混合は、例えば、手動による揺動、攪拌子、攪拌羽根を用いた攪拌の他、超音波振動機等により行うことができる。
【0052】
<1.4 リポソーム製造装置における処理>
混合工程は、原料容器7に、1以上の脂質、水、水混和性有機溶媒などのリポソーム形成用の原料を投入し、攪拌することにより行われる。加熱工程は、水混和性有機溶媒を含む水溶液に脂質が溶解する温度あるいは当該温度以上に温められた溶解用収容部2に混合物を通過させることにより行われる。溶解用収容部2の温度は、上述したように、62〜80℃の範囲、特に65〜72℃の範囲が好ましい。冷却工程は、溶解用収容部2から送られてきた混合物を、溶解用収容部2の温度よりも低い温度に保持された第一冷却用収容部3に導くことによって行われる。第一冷却用収容部3の温度は、溶解用収容部2の温度より低く、リポソームが生成する温度であれば限定されるものではないが、上述したように、40℃以上の温度から加熱温度より低い温度の範囲であることが好ましい。
【0053】
(第2の実施の形態)
図3は、第2の実施の形態に係るリポソーム製造装置1の概略構成を示す図である。
【0054】
<2.1 リポソーム製造装置の構成>
リポソーム製造装置1は、第1の実施の形態の構成に加え、第二冷却ゾーンを有している。第二冷却ゾーンは、断熱性を有する第二冷却用収容部8とその第二冷却用収容部8に収容される後述の送液流路とを有している。第二冷却用収容部8は、第一冷却用収容部3の送液方向下流側に配置され、第一冷却用収容部3から送られてくる溶液を、第一冷却用収容部3の温度より低温で冷却させる場所である。溶解用収容部2および第一冷却用収容部3は、第1の実施の形態に係るリポソーム製造装置1の溶解用収容部2および第一冷却用収容部3とそれぞれ共通するので、それぞれの構成の説明を省略する。
【0055】
第二冷却用収容部8は、その内部がほぼ一定温度に制御されることにより、送液流路内の温度変化を一定にすることができる。具体的には、図3に示すように、第二冷却用収容部8の壁面には、その第二冷却用収容部8内に空気を送り込む送風ファン86aと、第二冷却用収容部8内の空気を排出する排気ファン86bとが設けられている。送風ファン86aは、第二冷却用収容部8の内壁面に設けられた開口部87aから温調された空気を収容部内に送ることができる。排気ファン86bは、上記の開口部87aとは別の開口部87bから収容部内の空気を排出することができ、第二冷却用収容部8内の空気が循環し、その内部が一定温度に維持されるようになっている。より具体的には、第二冷却用収容部8では、送風ファン86aが下側に設置され、排気ファン86bが上側に設置されている。これにより、第二冷却用収容部8内の冷たい空気が対流によって下方に滞留するのを防止し、第二冷却用収容部8内全体が一定温度に保持されるようになっている。従って、第二冷却用収容部8内全体が一定温度に保持されるため、第二冷却用収容部8内の送液流路全体がその送液方向に亘ってほぼ一定温度に維持されるようになっている。
【0056】
第二冷却用収容部8は、チューブ80と滅菌フィルタ82などを備える。チューブ80および滅菌フィルタ82は、その順に、第一冷却用収容部3を通過してきた混合物を流す方向に直列に接続されている。チューブ80は、コイル状の形態を有する。滅菌フィルタ82は、例えば、内部にフィルタを備えるステンレススチール製の薄い円板状の形態を有する。フィルタは、チューブ内を流れる流体を滅菌できる大きさの孔を有していれば特に制限されるものではなく、例えば、1ミクロン径の孔を有するフィルタを使用することができる。第一冷却用収容部3から延びるチューブ37と、チューブ80の送液方向上流側の一端は、I型ジョイント85にて接続されている。また、チューブ80の送液方向下流側の一端と滅菌フィルタ82との間には、T字ジョイント81、チューブ83がその順に接続されている。T字ジョイント81は、チューブ80,83を通る混合物の温度を計測する温度センサ(たとえば、熱電対)81aを挿入するためのものである。滅菌フィルタ82の送液方向下流側には、チューブ84が接続されている。チューブ84は、第二冷却用収容部8から外部へと延びている。
【0057】
リポソーム製造装置1は、制御装置4、制御装置5および制御装置9を備える。制御装置4および制御装置5は、第1の実施の形態に係るリポソーム製造装置1の制御装置4および制御装置5とそれぞれ共通するので、それぞれの構成の説明を省略する。
【0058】
制御装置9は、温度の設定と、温度センサ81aにより計測される温度の情報に基づく第二冷却用収容部8内の温度の制御とを行うことができる。温度センサ81aは、制御装置9に接続されている。制御装置9は、温度設定用の操作部90と、温度センサ81aにて計測される温度を表示する表示部91とを有する。
【0059】
第二冷却用収容部8の温度は、第一冷却用収容部3の温度に比べて低くなるように設定される。第一冷却用収容部3を通過してきたリポソームを含む混合物は、所定の冷却速度で冷却される。第二冷却用収容部8の温度は、第一冷却用収容部3の温度より低ければ、特定の温度に限定されるものではないが、上述したように、0〜40℃未満の範囲内の温度、特に20〜30℃の範囲内の温度にするのが好ましい。第二冷却用収容部8を設けることで、例えば、あまり熱を与えたくない封入物質をリポソーム内に入れた際に効果的に急冷することができるので、封入物質の変質等を防止することができる。
【0060】
チューブ80がコイル状に巻回されているのは、第二冷却用収容部8からチューブ80の内部を流れる混合物の温度を一定時間保持するためである。ただし、チューブ80の材質が熱伝導性に優れるものであるような場合には、必ずしも、チューブ80をコイル状にする必要はない。また、この実施の形態では、混合物の経路としてのチューブの径は、1/16インチであるが、当該径より太いあるいは細いチューブを用いても良い。
【0061】
リポソーム製造装置1の送液方向上流側のチューブ29には、第1の実施の形態に係るリポソーム製造装置1に接続している送液ポンプ6および原料容器7と同様の装置を接続することができる。
【0062】
(第3の実施の形態)
図4は、第3の実施の形態に係るリポソーム製造装置1の概略構成を示す図である。
【0063】
<3.1 リポソーム製造装置の構成>
リポソーム製造装置1は、第1の実施の形態の構成に加え、プレリポソーム生成装置100を備える。溶解用収容部2および第一冷却用収容部3は、第1の実施の形態に係るリポソーム製造装置1の溶解用収容部2および第一冷却用収容部3とそれぞれ共通するので、それらの説明を省略する。プレリポソーム生成装置100は、溶解用収容部2の送液方向上流側に配置される。また、第1の実施の形態にて説明した送液ポンプ6は、溶解用収容部2とプレリポソーム生成装置100との間に配置される。送液ポンプ6および送液ポンプ6から溶解用収容部2への接続部分の構成については、第1の実施の形態と共通し、すでに説明しているので、ここではその説明を省略する。
【0064】
プレリポソーム生成装置100は、1以上の脂質と、水と、水混和性有機溶媒を含む混合物を加温して、脂質を水溶液中に溶解させ、その溶解させた温度からより低温へと下げてリポソームを生成する装置である。プレリポソーム生成装置100は、容器101と、切替バルブ102と、スターラ120とを備える。なお、スターラ120の代わりに、例えば、回転羽根付きシャフトを備えた攪拌機を用いてもよい。容器101は、外周壁の内部に空間を有し、その空間から外に繋がる2本のパイプ101a,101bを有する。また、容器101の内側には、外周壁に囲まれた空間101cを有する。この空間101c内に、リポソームの原料となる1以上の脂質、水、および水混和性有機溶媒などが投入される。空間101c内に投入された1以上の脂質と、水と、水混和性有機溶媒を含む混合物の温度及び濁度は、温度センサ110及び濁度センサ111によってモニタリングされている。
【0065】
切替バルブ102は、合計6個の接続口を備えている。それら6個の接続口の内の2個は、それぞれチューブ103,104を介して、容器101のパイプ101a,101bに接続されている。また、残り4個の接続口には、それぞれ、チューブ105,106,107,108が接続されている。チューブ105は、温水供給用のチューブであり、チューブ106は、温水排出用のチューブである。また、チューブ107は、冷水供給用のチューブであり、チューブ108は、冷水排出用のチューブである。切替バルブ102は、チューブ105とチューブ103との間およびチューブ106とチューブ104との間を接続するパターンAと、チューブ107とチューブ103との間およびチューブ108とチューブ104との間を接続するパターンBとを切り替え可能なバルブである。切替バルブ102にてパターンAを選択した場合には、容器101の外周壁内部に温水を循環できる。一方、切替バルブ102にてパターンBを選択した場合には、容器101の外周壁内部に冷水を循環できる。スターラ120は、攪拌の回転数を変化可能なダイヤル121を備えている。
【0066】
<3.2 プレリポソーム生成装置における処理>
まず、1以上の脂質、水、水混和性有機溶媒などのリポソーム形成用の原料と、攪拌子とを容器101に投入し、ダイヤル121によりスターラ120を所定の回転数にセットする。次に、切替バルブ102をパターンAにセットし、容器101の外周壁内に温水を循環させる。温水の温度としては、62〜80℃の範囲、特に65〜72℃の範囲が好ましい。これにより、脂質が水溶液中に溶解する。次に、切替バルブ102をパターンBにセットし、容器101の外周壁内に冷水を循環させる。冷水の温度としては、62℃未満、特に20〜30℃の範囲にするのが好ましい。この結果、容器101内の脂質が水溶液中から析出してリポソームを形成する。
【0067】
次に、溶解用収容部2を、水混和性有機溶媒を含む水溶液に脂質が溶解する温度あるいは当該温度以上に保持すると共に、第一冷却用収容部3を溶解用収容部2の温度よりも低い温度に保持する。続いて、送液ポンプ6を駆動し、バルブ62を開き、容器101内のリポソームを含む混合物を溶解用収容部2へと送る。溶解用収容部2では、リポソームを形成する脂質が水溶液中に溶解する。その溶解した状態の混合物が第一冷却用収容部3に送られると、再び脂質が水溶液中から析出してリポソームを形成する。このように、プレリポソーム生成装置100を用いると、1以上の脂質と水混和性有機溶媒を含む水溶液を均一に混合させた懸濁液を容易に得ることができる。このため、次の溶解ゾーンや第一冷却ゾーンで再びリポソームを容易に生成することが可能となる。すなわち、このプレリポソーム生成装置100が設けられることにより、脂質等が水溶液中で均一に溶解されるため、その後の溶解ゾーン及び第一冷却ゾーンを経ることで、均一粒径のリポソームを得やすくなる。
【0068】
<3.3 その他の変形例>
第2の実施の形態にて説明した第二冷却用収容部8およびその制御装置9を、第3の実施の形態に追加することもできる。その場合、第一冷却用収容部3にてリポソームを生成した混合物は、第二冷却用収容部8にて所定の冷却速度で冷却される。
【0069】
(第4の実施の形態)
図5は、第4の実施の形態に係るリポソーム製造装置1の概略構成を示す図である。
【0070】
<4.1 リポソーム製造装置の構成>
リポソーム製造装置1は、第1の実施の形態と同様、溶解用収容部2と第一冷却用収容部3とを備える。第一冷却用収容部3は、第1の実施の形態で説明した第一冷却用収容部3と共通しているので、その構成の説明を省略する。一方、溶解用収容部2は、第1の実施の形態で説明した溶解用収容部2と主な構成については共通している。ただし、第4の実施の形態に係るリポソーム製造装置1の溶解用収容部2は、第1の実施の形態に係るリポソーム製造装置1の溶解用収容部2と比べて、T字ジョイント23aよりも送液方向上流側の構成が異なる。第4の実施の形態に係るリポソーム製造装置1の溶解用収容部2では、T字ジョイント23aよりも送液方向上流側に、T字ジョイント23aから分岐する2つのコイル状のチューブ20a,20bがそれぞれ接続されている。チューブ20aの送液方向上流側の一端はチューブ29に接続され、当該チューブ29は、溶解用収容部2から外に延びている。チューブ29の上流側は、第1の実施の形態に係るリポソーム製造装置1と同様に、送液ポンプ6、さらには原料容器7と接続されている。チューブ29より送液方向上流側の構成は、すでに第1の実施の形態にて説明したので、ここではその説明を省略する。
【0071】
チューブ20bの送液方向上流側の一端は、チューブ129に接続され、当該チューブ129は、溶解用収容部2から外に延びている。チューブ129の送液方向上流側には、封入物質供給装置としての送液ポンプ130と封入物質用容器140とが配置されている。封入物質用容器140には、リポソーム内に封入する物質(一例として、薬剤、化粧料)を含む液体が入れられる。送液ポンプ130は、封入物質用容器140から当該封入物質を含む液体を溶解用収容部2へと送るための送液部131を備える。チューブ129と送液部131の間には、チューブ129から送液方向上流に向かって、I型ジョイント132、バルブ133、チューブ134が接続されている。また、送液部131には、封入物質用容器140から液体を送液ポンプ130に供給するためのチューブ135が接続されている。チューブ134,135は、例えば、樹脂などのフレキシビリティに富む材料から成るものであってもよいが、金属等の他の材料から成るものでもよい。送液ポンプ130は、送液ポンプ6と同様、如何なる形式のポンプでもよいが、例えば、プランジャポンプ、シリンジポンプ、ローラポンプなどを用いることができる。バルブ133としては、バルブ62と同様、如何なる形式のバルブでもよく、例えば、手動回動式のバルブ、エアーバルブ、電磁バルブ等を用いることができる。
【0072】
<4.2 リポソーム製造装置における処理>
まず、1以上の脂質、水、水混和性有機溶媒などのリポソーム形成用の原料を原料容器7に投入し、攪拌する。また、封入物質と、その溶媒とを封入物質用容器140に投入し、攪拌する。原料容器7あるいは封入物質用容器140に、予め混合済みの液体を入れる場合には、各容器7,140内にて必ずしも攪拌しなくてもよい。次に、溶解用収容部2を、水混和性有機溶媒を含む水溶液に脂質が溶解する温度あるいは当該温度以上に保持すると共に、第一冷却用収容部3を溶解用収容部2の温度よりも低い温度に保持する。続いて、送液ポンプ6,130を駆動し、バルブ62,133を開き、原料容器7内の1以上の脂質、水、水混和性有機溶媒を含む混合物および封入物質用容器140内の液体を、それぞれ溶解用収容部2へと送る。溶解用収容部2では、リポソームを形成する脂質が水溶液中に溶解し、その水溶液は、T字ジョイント23aの一方から合流する封入物質を含む液体と混合する。封入物質を含む液体、脂質が溶解した溶解液の混合物は、互いに混ざり合った状態で、溶解用収容部2から第一冷却用収容部3に送られる。第一冷却用収容部3では、冷却によって、リポソームが形成され、その際に封入物質がリポソームの内部に取り込まれる。その後、内部に封入物質を封入したリポソームを含む溶液が、第一冷却用収容部3のチューブ37から出てくる。
【0073】
<4.3 その他の変形例>
T字ジョイント23aの代わりに、あるいはT字ジョイント23aの上流側若しくは下流側に、チューブ20aおよびチューブ20bをそれぞれ通ってきた流体を混合するための混合器を備えてもよい。また、第2の実施の形態にて説明した第二冷却用収容部8およびその制御装置9を、第4の実施の形態に追加することもできる。その場合、第一冷却用収容部3にてリポソームを生成した混合物は、第二冷却用収容部8にて所定の冷却速度で冷却される。また、第3の実施の形態にて説明したプレリポソーム生成装置100を、第4の実施の形態に係るリポソーム製造装置1に使用する原料容器7の代わりに配置することもできる。さらに、第二冷却用収容部8とプレリポソーム生成装置100の両方を、第4の実施の形態に係るリポソーム製造装置1に使用しても良い。
【0074】
(第5の実施の形態)
図6は、第5の実施の形態に係るリポソーム製造装置1の一部して備えられていてもよい限外ろ過装置の模式図である。
【0075】
第1〜第4の実施の形態に係るリポソーム製造装置1のいずれか1つの装置には、第一冷却用収容部3又は第二冷却用収容部8の下流側に、リポソームを含む溶液のろ過を行うための限外ろ過装置(以後、「UF装置」)200を接続することができる。
【0076】
<5.1 UF装置の構成>
UF装置200は、リザーバー210、ろ過手段の一例である膜モジュール220、透過液回収バッグ230、リポソーム回収バッグ240、液交換用バッファーバッグ250、モジュール洗浄水バッグ260、循環ポンプ280および圧力調整弁290などを備える。なお、液交換用バッファーバッグ250あるいはモジュール洗浄水バッグ260は、必ずしも備えていなくてもよい。リザーバー210は、リポソーム生成装置1側からリポソームを含む溶液を入れる容器である。膜モジュール220は、リポソームを含む溶液をろ過して濃縮し、水混和性有機溶媒を除去するための機器である。なお、リポソーム内に封入する物質を加えてリポソームを形成している場合には、膜モジュール220は、水混和性有機溶媒と未封入の封入物質とを除去することになる。透過液回収バッグ230は、膜モジュール220にてろ過された透過液を入れるためのバッグである。リポソーム回収バッグ240は、膜モジュール220にてろ過した後のリポソーム懸濁液を回収するためのバッグである。液交換用バッファーバッグ250は、膜モジュール220にてろ過することにより流出した分の液を補充するためのバッグである。モジュール洗浄水バッグ260は、膜モジュール220を洗浄するための液を入れたバッグである。循環ポンプ280は、UF装置200の各経路を流れる液を循環させるためのポンプであり、膜モジュール220にリポソームを含む溶液を圧送できれば、その設置場所は問わない。圧力調整弁290は、膜モジュール220内の圧力を調整するための弁である。圧力調整弁290あるいは以下に述べる各種バルブは、手動、電動、エアー駆動等のいかなる駆動方式のものでもよい。
【0077】
リザーバー210の上方には、リポソーム生成装置1の第一冷却用収容部3あるいは第二冷却用収容部8が存在する場合には第二冷却用収容部8側からリポソームを含む溶液を供給するためのチューブ201が接続されている。チューブ201とリザーバー210と間には、バルブ202が設置されている。また、リザーバー210と循環ポンプ280との間には、チューブ203が設けられている。また、チューブ203の途中から分岐してチューブ204が設けられている。チューブ204には、上記分岐点から順に、バルブ205、エアーフィルタ206が設置されている。また、その分岐点から循環ポンプ280までのチューブ203には、バルブ207が設置されている。
【0078】
循環ポンプ280と膜モジュール220とは、チューブ208にて接続されている。そのチューブ208の経路の途中には、チューブ209が分岐して設けられている。チューブ209には、その分岐点から順に、バルブ211、圧力センサ212が接続されている。また、その分岐点から膜モジュール220までのチューブ208には、バルブ213が設置されている。
【0079】
膜モジュール220の出口と透過液回収バッグ230との間には、チューブ221が接続されている。そのチューブ221の経路の途中には、チューブ224が分岐して設けられている。チューブ224には、バルブ225が設置されている。上記分岐点から、透過液回収バッグ230までのチューブ221には、バルブ222およびバルブ223が順に設置されている。透過液回収バッグ230には、別の2本のチューブが接続され、それらのチューブには、バルブ226がそれぞれ接続されている。
【0080】
チューブ208とチューブ209の分岐点と、バルブ213との間には、別のチューブ241が接続されている。チューブ241には、チューブ241とチューブ208の分岐点から順に、バルブ242およびバルブ243が設置されている。リポソーム回収バッグ240には、チューブ245が接続され、そのチューブ245には、バルブ246が設置されている。
【0081】
液交換用バッファーバッグ250には、チューブ251が接続されている。チューブ251には、液交換用バッファーバッグ250との接続部から順に、バルブ252、エアーフィルタ253が設置されている。また、液交換用バッファーバッグ250には、内部から外部に向かって延出するように、チューブ254が設けられている。液交換用バッファーバッグ250の外部のチューブ254には、バルブ255が設置されている。液交換用バッファーバッグ250の内部からリザーバー210の内部までの経路には、チューブ256が設けられている。液交換用バッファーバッグ250の外部とリザーバー210の外部におけるチューブ256には、バルブ257が設置されている。
【0082】
膜モジュール220の出口から、バルブ257からリザーバー210の外部におけるチューブ256に、チューブ258が接続されている。チューブ258には、膜モジュール220の出口からチューブ256との接続部において、圧力調整弁290、バルブ259が順に設置されている。
【0083】
モジュール洗浄水バッグ260には、チューブ261が接続されており、そのチューブ261には、モジュール洗浄水バッグ260とチューブ261の接続部から順に、バルブ262、フィルタ263が設置されている。圧力調整弁290とバルブ259との間から、モジュール洗浄水バッグ260には、チューブ264が設けられている。チューブ264には、バルブ265が設置されている。モジュール洗浄水バッグ260の内底から、チューブ203におけるバルブ207と循環ポンプ280との間には、チューブ267が接続されている。チューブ267には、バルブ268が設置されている。
【0084】
<5.2 UF装置の各種操作例>
(1)UF装置の無菌化処理
UF装置200を構成している膜モジュール220、リザーバー210、各種バッグ230,240,250,260およびそれらを連結するチューブなどの接液部については、完全に組み立てられた状態で、高圧蒸気滅菌器(不図示)を用いて、例えば、121℃、20分間の高圧蒸気滅菌が行われる。なお、高圧蒸気滅菌器を用いずに、第一冷却用収容部3の出口側のチューブ37あるいは第二冷却用収容部8の出口側のチューブ84とUF装置200の入口側のチューブ201との間に無菌接合装置を配置し、チューブ37(84)とチューブ201とを滅菌状態で接合するようにしても良い。
【0085】
(2)膜モジュールの洗浄処理
膜モジュール220は、使用前に、予め注射用水を用いて洗浄される。例えば、5Lの純水が入ったモジュール洗浄水バッグ260から膜モジュール220へ洗浄水が送られ、洗浄水が循環するように各バルブを操作して(例えば、バルブ268,213,265,222,223を開き、バルブ207,211,242,259,225を閉じる)、循環ポンプ280を用いて純水を循環させる。洗浄水は、循環を継続することにより徐々にろ過され、ろ過液回収バッグ230に回収される。このろ過液が約1Lになった時点で循環を停止する。
【0086】
(3)膜モジュールの安全性確認操作
膜モジュール220が安全であることを確認するため、完全性試験が実施される。膜モジュール220と循環ポンプ280を含む流路内の循環液を排出し、膜モジュール220の下流側に接続される圧力調整弁290を操作して流路を閉じる。循環ポンプ280で空気を送り、膜モジュール220を約5psiまで加圧して循環ポンプ280を停止する。その後5分間の圧力減少値を記録して圧力降下速度が0.5psi/min以下であるときに、完全性試験に合格とする。この安全性確認操作の際には、外気を取り入れる必要から、エアーフィルタ206から外気を系内に取り込んでいる。
【0087】
(4)水混和性有機溶媒の除去処理(濃縮処理)
リザーバー210中に回収された約400mlのリポソームを含む溶液を循環ポンプ280で流速700ml/minで循環させ、圧力調整弁290を操作し、膜モジュール220にかかる圧力を約10psiとなるように調製する。膜モジュール220でろ過されて流出する液はろ過液回収バッグ230に回収される。このろ過操作の間、ろ液として流出された分の液量は液交換用バッファーバッグ250から補充されるようにするのが好ましい。液循環を継続し、ろ過液量が4Lになった時点でバッファー交換の作業を終了する。最終的に水混和性有機溶媒が除去されたリポソーム懸濁液は、リポソーム回収バッグ240に回収される。なお、リポソーム内に封入する物質を加えてリポソームを形成させている場合には、水混和性有機溶媒及び未封入の封入物質が除去されたリポソーム懸濁液が、リポソーム回収バッグ240に回収される。この濃縮処理の際には、外気を取り入れる必要から、エアーフィルタ253から外気を系内に取り込んでいる。リポソーム懸濁液中に残留する水混和性有機溶媒の量は、ガスクロマトグラフィーによって定量される。上記条件で水混和性有機溶媒の除去処理を行った後のリポソーム懸濁液中の残留水混和性有機溶媒の濃度を測定したところ、その濃度は756ppmであった。さらに、上記操作の終了後、前記の膜モジュール220の完全性試験を再び行い、操作の間の膜モジュール220の完全性を確認する。
【0088】
以上、本発明の各種実施の形態について説明したが、本発明は、上述の形態に限定されず、各種変形を施した形態を採用可能である。
【0089】
例えば、溶解ゾーン、第一冷却ゾーン、第二冷却ゾーンを、それぞれ溶解用収容部2、第一冷却用収容部3および第二冷却用収容部8という別々の収容部として設けずに、1つの収容部を単に別々の領域に区分けして形成するようにしてもよい。また、溶解用収容部2、第一冷却用収容部3または第二冷却用収容部8は、温水等あるいは冷水等の液体を入れた浴槽にて実現し、溶解用収容部2、第一冷却用収容部3または第二冷却用収容部8内にて当該液体を循環させてもよい。
【0090】
また、上記チューブは、ステンレス、ハステロイ、インコネル等の金属や、樹脂、ガラス等を使用することができ、医薬関係のリポソームを形成する場合、ガラスを使用することができる。また、上記実施形態では、医薬関係のリポソームの形成に好適になるように、滅菌フィルタを使用する例について説明したが、滅菌の必要がなければ、滅菌フィルタに代えて、滅菌効果のないフィルタを用いてもよいし、滅菌フィルタを用いなくてもよい。
【実施例】
【0091】
以下に、本発明の実施例について説明するが、本発明は、下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0092】
1.リポソームの原料
a)リン脂質
日油株式会社製のL-α-ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)を用いた。
b)コレステロール
SIGMA社製のコレステロール(Chol.)を用いた。
c)安定化剤
和光純薬工業株式会社製のスクロースを用いた。
d)水混和性有機溶媒
和光純薬工業株式会社製のt−ブタノール(t-BuOH;特級)、和光純薬工業株式会社製の1-プロパノール(特級)、和光純薬工業株式会社製の2-プロパノール(特級)、
和光純薬工業株式会社製の2-ブトキシエタノール(特級)を用いた。
e)a)及びb)以外の脂質
DPPG(ジパルミトイルホスファチジルグリセロール)、DPPE(ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン)、及びHSPC(Hydrogenated soy phosphatidylcholine)は、日油株式会社から購入した。ステアリルアミン(SA)及びDCP(ジセチルホスフェート)は、和光純薬工業株式会社及びシグマ社からそれぞれ購入した。
【0093】
2.リポソームの粒度分布測定法
リポソームの粒度分布の測定は、動的光散乱による粒度分布計(マルバーン社製、ZETA SIZER Nano-ZS)を用いて行った。後述の実験例において調製されたリポソームは、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で希釈してから測定した。希釈倍率は5000から10000倍程度とした。ZETA SIZER Nano-ZSによる測定値は、平均粒子径 Z-Average (d.nm)として算出され、同時に算出される多分散指数(PDI)の値を指標としてリポソームの粒度分布の均一性を評価した。
【0094】
また、上記粒度分布計の「Result quality」に表示される測定結果を、均一な粒度分布を持つリポソームが生成したかどうかの判断基準とした。すなわち、マルバーン社の粒子径測定の品質判定基準を満たす場合、「Result quality」は「Good」と表示される。測定結果が「Good」を示さなかった場合は動的光散乱に適さない粒度分布が不均一なサンプルであると判断した。
【0095】
3.実験例
3.1:リン脂質およびコレステロールの溶解温度範囲の検討
380mgのDPPCおよび200mgのコレステロールをガラスバイアル中に秤量し、20mLの10wt/vol%スクロースおよび4.25mLのt-BuOHの混合液を添加した。このバイアルをウオータバス中で80℃に保温しながら10分間撹拌した。80℃における溶液は白濁状態であった。次に、撹拌を継続しながらウオータバスの保温を止め、室温下にて自然冷却を行った。ウオータバスの水温は、80℃から35℃まで冷却されるのに約90分間を要した。80℃における溶液は白濁状態であったが、72℃付近から溶液はわずかに青白い透明状態となり62℃付近までその透明状態を維持した。62℃付近から溶液は白く濁り始め、58℃で完全に白濁状態となった。以上の状態変化は可逆的であり、室温から段階的に昇温した場合も同様の状態変化が観察された。
【0096】
3.2:リン脂質単独およびコレステロール単独の溶解有無の検討
75.9mgのDPPCもしくは40mgのコレステロールをそれぞれガラスバイアル中に秤量し、それぞれのガラスバイアル中に4mLの10 wt/vol%スクロースと0.85mLのt-BuOHの混合液を添加し、3.1と同様の実験を行った。DPPCのみを用いた場合には、80℃から50℃までの間、水溶液は透明状態であった。48℃付近でわずかに青白い透明液状態となり約35℃までその状態を維持し、約35℃から急激に白濁状態となった。一方、コレステロールのみを用いた場合には、いずれの温度においても、バイアル壁に付着したコレステロールの凝集塊が認められ、透明状態とはならなかった。
【0097】
3.3:t-BuOHの濃度の検討
ガラスバイアル中に、32.7mgのDPPCと17.2mgのコレステロールを加えた。この脂質混合物に、下記の表に示す容量比でt-BuOHと2mLの50%スクロース溶液を混合後、純水を添加して終容積10mLとすることにより、t-BuOHの濃度を種々変化させた溶液を調製した。
【表1】

【0098】
各バイアルを90℃の温浴中で10分間攪拌後、温浴から取り出し、室温下で撹拌冷却した。冷却後、生じたリポソーム懸濁液の一部を分取してPBS(あるいは10wt/vol%スクロース)で希釈し、ZETA SIZER Nano-ZSによる粒度分布測定を行った。その結果を表2に示す。また、一例として、図1に、t-BuOHの濃度が16vol%の条件で作製したリポソーム懸濁液の粒度分布チャートを示す。下記の表中、スターマーク(*)は、マルバーン社の粒子径測定の品質判定基準を満たさない不均一な粒子であることを示す。
【表2】

【0099】
表2および図1に示すように、t-BuOHの濃度12〜18vol%の範囲において、特に、粒子径が極めて均一なリポソームを作製することができた。
【0100】
3.4:1-プロパノール、2-プロパノール、2-ブトキシエタノール等の濃度の検討
t-BuOHを1-プロパノール、2-プロパノール、又は2-ブトキシエタノールに変更する他は、3.3と同様の方法により、好ましい水混和性溶媒の濃度範囲を調べた。その結果を下記の3つの表に示す。
【表3】

【表4】

【表5】

【0101】
表に示すように、1-プロパノールは5〜19vol%の範囲内で、2-プロパノールは13〜26vol%の範囲内で、2-ブトキシエタノールは6〜9vol%の範囲内で、粒子径が極めて均一なリポソームを作製することができた。
【0102】
3.5:脂質の組成の変化による検討(1)
75.9mgのDPPC、40.0mgのコレステロール、及び、14.3mgのステアリルアミン又は0.772mgのDPPGを各バイアルに加えた。その後、各バイアルに、17vol%のt-BuOHを含む10wt/vol%スクロース溶液、17vol%の1-プロパノールを含む10wt/vol%スクロース溶液、25vol%の2-プロパノールを含む10wt/vol%スクロース溶液、又は8vol%の2-ブトキシエタノールを含む10wt/vol%スクロース溶液をそれぞれ4.85mL添加した。各バイアルを70℃の温浴中で30分間攪拌し、攪拌しながら室温下で冷却した。冷却後、リポソーム懸濁液の一部を分取し、PBSで希釈してZETA SIZER Nano-ZSによる粒度分布測定を行った。その結果を下記の表6〜7及び図2〜3に示す。さらに、リポソーム懸濁液をPBSで希釈し、遠心分離によりリポソームを沈殿させて上澄み液をPBSに置換した(遠心洗浄)。遠心洗浄を3回繰り返すことにより、リポソーム分散液をPBSに置換すると共に、水混和性有機溶媒及びリポソーム外のスクロースを除去した。それから、リポソーム懸濁液のコレステロール定量を行なった後、リポソーム内に封入保持された、リポソームの調製に用いた糖(スクロース)の含量をフェノール硫酸法にて測定した。なお、表中の糖封入率は式:(遠心洗浄後の糖濃度とコレステロール濃度の比)/(遠心洗浄前の糖濃度とコレステロール濃度の比)により求めた。
【表6】

【表7】

【0103】
表6〜7及び図2〜3に示すように、t-BuOHと2-ブトキシエタノールを水混和性有機溶媒として用いた場合、リポソームは同程度の粒径で、糖封入率も同程度であった。特にt-BuOHを使用した場合は、リポソーム調製時に用いたスクロース(糖)が40%以上という極めて高い効率でリポソームに封入されていた。このことは、リポソーム調製時の溶液中に封入すべき物質を溶解させておけば、スクロースと同様に極めて高い効率でリポソーム内に物質が封入されることを示している。
【0104】
3.6:脂質の組成の変化による検討(2)
76mgのDPPC及び40mgのコレステロールをバイアルに加えた後、4mLの10wt/vol%スクロース溶液と0.85mLのt-BuOHを加え、混合液(1)を調製した。76mgのDPPC、40mg又は30mgのコレステロール、及び0.77mgのDPPGをバイアルに加えた後、4mLの10wt/vol%スクロース溶液と0.85mLのt-BuOHを加え、混合液(2)及び(3)を調製した。67.7mgのDPPC、40.6mgのコレステロール、9.1mgのDPPE、及び7.3mgのDCPをバイアルに加えた後、4mLの10wt/vol%スクロース溶液と0.85mLのt-BuOHを加え、混合液(4)を調製した。76mgのDPPC、40mgのコレステロール、及び14.3mgのSAをバイアルに加えた後、4mLの10wt/vol%スクロース溶液と0.85mLのt-BuOHを加え、混合液(5)を調製した。76mgのHSPC及び40mgのコレステロールをバイアルに加えた後、4mLの10wt/vol%スクロース溶液と0.85mLのt-BuOHを加え、混合液(6)を調製した。各バイアルを70℃の温浴中で30分間攪拌し、攪拌しながら室温下で冷却した。冷却後、リポソーム懸濁液の一部を分取し、PBSで希釈してZETA SIZER Nano-ZSによる粒度分布測定を行い、リポソームの平均粒度を求めた。その結果を下記の表に示す。
【表8】

【0105】
このように、脂質の組成により、調製されるリポソームの平均粒度が異なる。
【0106】
3.7:冷却速度の検討
1.75mLのt-BuOH、2mLの50%スクロース水溶液、終容量が10mLになるように純水を添加し、17.5vol%のt-BuOHを含む溶液を調製した。続いて、ガラスバイアル中に32.7mgのDPPCと17.2mgのコレステロールを加えた。この脂質混合物に、17.5vol%のt-BuOHを含む溶液を2mL添加した。当該バイアルをウオータバス中で70℃に保温しながら10分間撹拌した。その後、当該バイアルを50℃、40℃および30℃のウオータバスに移し、冷却速度:1℃/min以上にて冷却した。50℃、40℃および30℃になった時点でリポソーム懸濁液の一部をそれぞれ分取して、PBSで希釈し、ZETA SIZER Nano-ZSによる粒度分布測定を行った。また、比較のため、上記と同じ脂質混合物に、17.5vol%のt-BuOHを含む溶液を2mL添加したバイアルをウオータバス中で80℃に保温しながら10分間撹拌し、撹拌を継続しながらウオータバスの保温を止め、室温下で自然冷却を行った。80℃から35℃までの冷却に90分を要した(冷却速度:0.5℃/min)。35℃になった時点でリポソーム懸濁液の一部を分取して、PBSで希釈し、ZETA SIZER Nano-ZSによる粒度分布測定を行った。その結果を下記の表に示す。
【表9】

【0107】
表に示すように、急冷にて50℃、40℃および30℃まで冷却したリポソーム懸濁液中のリポソームは、平均粒径約500nmの非常に均一な粒径を有していた。一方、自然冷却にて処理を行ったリポソーム懸濁液中のリポソームは、上記3種のリポソームに比べると、粒径の均一性は低かった。
【0108】
3.8:図1に示すリポソーム形成槽330の最適温度の検討
恒温槽で75℃に保温しながら、リン脂質(NC-61 日油株式会社)7.8g、コレステロール(日本精化 局方)4.1g、及びt-ブタノール(和光純薬工業)80mLを攪拌混合し、脂質を完全に溶解させた。溶解させた後、室温まで冷却し、10% スクロース溶液を420mL加え、再び恒温槽にて加温し脂質成分を溶解させた。その後、75℃で30分間攪拌し、室温まで冷却させ、プレリポソーム溶液を得た。
プレリポソーム溶液を図1に示したリポソーム製造装置1で処理し、リポソームを生成した。なお、リポソーム製造装置1における脂質溶解槽310、リポソーム形成槽330、冷却槽340における熱媒体である水の温度、並びにマイクロチューブの長さ及び内径は、以下の表に示すとおりである。また、図1中に示すポンプ6は、UNIflows uf.7020PSB2を用いた。ポンプ6の流速は、5mL/minに設定した。
【表10】

生成したリポソームの粒径を、粒度分布計(Malvern, ZETA SIZER Nano-ZS)を用いて測定し、リポソーム形成槽330の熱媒体を各温度(40, 45, 50, 55, 60, 62, 64, 66, 68, 70℃)に設定した場合のリポソームの粒径における変化を調べた。その結果、より均一な粒径を有するリポソームを再現性よく得ることができた。また、図10に示すように、リポソーム粒径は、55℃付近で最大となり、リポソーム粒径を成長させる特異的な温度領域が存在する。
【0109】
3.9:図1に示すリポソーム形成槽330での滞留時間の検討
リポソーム製造装置1における脂質溶解槽310、リポソーム形成槽330、冷却槽340における熱媒体である水の温度、マイクロチューブの長さ及び内径、並びにポンプ6の流速を、以下の表に示す条件に設定し、実施例3.8で調製したリポソーム溶液をリポソーム製造装置1で処理し、リポソームを生成した。生成したリポソームの粒径を実施例3.8と同様に測定し、リポソーム形成槽330での滞留時間とリポソーム粒径との関係を調べた。なお、リポソーム形成槽330での滞留時間は、式:(滞留時間)=(リポソーム形成槽内のチューブの内容積)/(ポンプ流量)により算出した。その結果を図11に示す。
【表11】

【表12】

【0110】
その結果、リポソーム形成槽330の温度が55℃の場合、リポソーム形成槽330の滞留時間を長くすることでリポソーム粒径が増大した。一方、リポソーム形成槽330の温度が60℃の場合には、リポソームの滞留時間が100秒以上でリポソームの粒径が変化しなかった。このように、本発明のリポソーム製造装置1を用いて、リポソーム形成槽330の温度と滞留時間をコントロールすることにより、リポソーム粒径をコントロールできる。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明に係るリポソーム製造装置は、例えば、DDS、化粧料用のマイクロカプセル等を製造するのに利用可能である。
【符号の説明】
【0112】
1 リポソーム製造装置
2 溶解用収容部(溶解ゾーンに含まれる)
3 第一冷却用収容部(第一冷却ゾーンに含まれる)
8 第二冷却用収容部(第二冷却ゾーンに含まれる)
20,21,26,30,31,80 チューブ(送液流路)
22 滅菌フィルタ
23a,23b,24,25,27,33,34,35,36,81,85 T字ジョイント(送液流路)
32,82 滅菌フィルタ
100 プレリポソーム生成装置
130 送液ポンプ(封入物質供給装置)
140 封入物質用容器(封入物質供給装置)
200 UF装置(限外ろ過装置)
301 容器
304 リポソーム回収容器
310 脂質溶解槽
320 滅菌フィルタ
330 リポソーム形成槽
340 冷却槽
312,332,342 恒温槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上の脂質と、水と、水混和性有機溶媒とを含む脂質の溶解液が流れる流路を有するマイクロチューブと、
前記マイクロチューブを収容する収容部と、
前記収容部における前記マイクロチューブ内の前記溶解液をリポソームが生成する温度に冷却する冷却手段と、
を備えるリポソーム製造装置。
【請求項2】
1以上の脂質と、水と、水混和性有機溶媒とを含む混合物を加温して、前記脂質を前記水と前記水混和性有機溶媒とを含む水溶液中に溶解させて前記溶解液を調製するための溶解ゾーンを備えることを特徴とする請求項1に記載のリポソーム製造装置。
【請求項3】
前記溶解ゾーンは、前記混合物が流れる流路を有するマイクロチューブを有し、
前記溶解ゾーンの前記マイクロチューブと前記収容部における前記マイクロチューブとは連結されていることを特徴とする請求項2に記載のリポソーム製造装置。
【請求項4】
前記溶解ゾーンで前記混合物を加温する前に、前記混合物を加温して前記脂質を前記水溶液中に溶解させ、その溶解させた温度からより低温へと下げてリポソームを生成するプレリポソーム生成装置を備えることを特徴とする請求項2又は3に記載のリポソーム製造装置。
【請求項5】
前記脂質の溶解液とともに、リポソームの内空間への封入用物質を前記収容部の前記マイクロチューブに供給するための封入物質供給装置を備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のリポソーム製造装置。
【請求項6】
前記冷却手段で冷却することにより生成されたリポソームを含む溶液をさらに冷却する冷却ゾーンを、さらに備えることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のリポソーム製造装置。
【請求項7】
前記溶解液を滅菌する滅菌手段を備えることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のリポソーム製造装置。
【請求項8】
前記冷却手段で冷却することにより生成されたリポソームを含む溶液から少なくとも前記水混和性有機溶媒を除去して濃縮するための限外ろ過装置を備えることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のリポソーム製造装置。
【請求項9】
1以上の脂質と、水と、水混和性有機溶媒とを含む混合物を62℃〜80℃の範囲内の温度で加熱する加熱工程と、
前記加熱工程後に、前記混合物を40℃以上の温度であって前記加熱温度より低い温度で一定時間保持する保持工程と、
前記保持工程後に、前記混合物をさらに冷却する冷却工程と、
を含み、
前記水混和性有機溶媒は、前記水と前記水混和性有機溶媒とを含む水溶液の全容量に対して5〜30体積%であるリポソームの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−72985(P2011−72985A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144231(P2010−144231)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(508376591)株式会社バイオメッドコア (3)
【出願人】(000219314)東レエンジニアリング株式会社 (505)
【Fターム(参考)】