リミッタ装置、レーダシステム
【課題】均一な特性で、アンテナ側への不要な反射を抑制するリミッタ装置を提供する。
【解決手段】アンテナにより受信した受信波を分配する方向性結合器20と、方向性結合器20により分配された一方の受信波の電力値を計測する受信電力計測部22と、計測した電力値に応じて、方向性結合器20により分配された他方の受信波の電力の減衰を指示する制御信号を生成する減衰器制御部23と、他方の受信波を、制御信号の指示に応じて減衰する可変減衰器24と、を備えるリミッタ装置16である。
【解決手段】アンテナにより受信した受信波を分配する方向性結合器20と、方向性結合器20により分配された一方の受信波の電力値を計測する受信電力計測部22と、計測した電力値に応じて、方向性結合器20により分配された他方の受信波の電力の減衰を指示する制御信号を生成する減衰器制御部23と、他方の受信波を、制御信号の指示に応じて減衰する可変減衰器24と、を備えるリミッタ装置16である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロ波帯やミリ波帯を用いたレーダシステムにおいて、規定値を超える過大なマイクロ波電力が受信端に入力された場合でも、レーダシステムの受信部を保護するために用いられるリミッタ装置及びこのようなリミッタ装置を用いたレーダシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
レーダシステムの受信部を保護するための装置としてリミッタ装置が用いられている。図1は、リミッタ装置を用いたレーダシステム1の構成図である。このレーダシステム1は、例えば気象観測レーダとして用いられる。レーダシステム1は、発振機10、電力分配器11、送信アンプ12を含んで構成される送信部と、フィルタ15、マイクロ波リミッタ装置16、低雑音増幅器(以下、「LNA」という。)17、ミキサ18、レーダ信号増幅器19を含んで構成される受信系と、送受信で共用されるアンテナ14と、サーキュレータ13とを備えている。送信系から送られる送信波は、サーキュレータ13からアンテナ14に送られ、アンテナ14で受信された受信波は、サーキュレータ13から受信部に送られる。なお、送信波及び受信波は、マイクロ波帯或いはミリ波帯の信号である。
【0003】
アンテナ14から発射された送信波は、雨雲等の目標物により特定の反射係数を有する反射波となってアンテナ14に返ってくる。反射波は、アンテナ14で受信波として受信される。アンテナ14で受信された受信波は、フィルタ15により不要波が濾波された後に、マイクロ波リミッタ装置16に導かれる。マイクロ波リミッタ装置16は、受信波の電力が規定の電力範囲を超えた過大電力である場合に、この過大電力から受信部を保護するために設けられている。マイクロ波リミッタ装置16は、例えば、規定値以上の電力値の受信波を減衰及び反射して、LNA17以降の後段への受信波の影響を抑制する。
【0004】
マイクロ波リミッタ装置16には、一般的に、高電力のマイクロ波がPINダイオードに印加されたときに発生する直流電流(これを「PINダイオードの自己バイアス」という。)によるインピーダス依存性を利用する方法が用いられる。非特許文献1には、PINダイオードを用いたマイクロ波リミッタ装置16の一例が示されている。
PINダイオードを用いたマイクロ波リミッタ装置16には、受信部とのインピーダンス不整合と非線形性に起因する基本波及び不要波の副次的発射という問題がある。特許文献1には、このような基本波及び不要波の副次的発射に対応する発明が開示されている。
【0005】
図10は、PINダイオードを用いた一般的なマイクロ波リミッタ装置16の構成図である。
フィルタ15から入力された受信波は、直流を遮断するために配置されたコンデンサ161を通過し、フィルタ15とLNA17とを結ぶ伝送線路に対しシャント接続されたPINダイオード162に導かれる。PINダイオード162の真正半導体層は、印加電力に応じて順方向の固有抵抗が変化し、直流電流が流れる。すなわち真正半導体層の固有抵抗値は、印加電力の大きさに反比例して変化するので、シャント接続したPINダイオード162の抵抗値が高電力により低下する。このため、伝送した受信波は減衰を受けて熱になる一方、伝送線路のインピーダンス不整合により一部はアンテナ14側に反射される。
この結果、PINダイオード162の出力側に導かれる受信波は大きな減衰を受けることになる。PINダイオード162の順方向電流(以下、「自己バイアス電流」という。)は、チョークコイル163を介して閉回路を流れる。PINダイオード162で減衰を受けた受信波の電力は出力側に配された直流を遮断するためのコンデンサ164を介してLNA17に入力される。
【0006】
図11は、図10のマイクロ波リミッタ装置16の入出力特性図である。図11の横軸はマイクロ波リミッタ装置16の入力電力であり、縦軸は出力電力である。横軸の線形受信領域は通常のレーダ受信波レベルに相当し、レーダ機能を果たす領域である。受信電力抑圧領域はPINダイオード162によるマイクロ波減衰により、電力が抑圧される領域である。リミッタ耐圧破壊領域はPINダイオード162に印加される電力がさらに増大し、PINダイオード162の耐圧を超える領域である。耐圧破壊領域では、逆方向電流が流れるためにPINダイオード162の減衰効果が低減され、通過電力は増大する。通常のマイクロ波リミッタ装置16は受信電力抑圧領域内で使用されており、PINダイオード162は、抑圧電力値に応じて選定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−246095号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】“PIN-Limiter diode effectively protect receivers”, EDN, December 17,2004, pp.59-64
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のPINダイオード162を使ったマイクロ波リミッタ装置16は、その動作原理から、自己バイアス電流の閾値のバラツキがマイクロ波減衰量のバラツキに繋がる。その結果、マイクロ波リミッタ装置16の特性が不均一になる。
また、受信電力抑圧領域ではPINダイオード162のインピーダンス不整合による基本波の反射に加え、PINダイオード162の非線形性に起因する高調波成分までもがアンテナ14に返される。このような反射成分が、アンテナ14から副次的に発射さてれ電波法の規制に触れることがある。
PINダイオード162の逆方向耐圧にもバラツキがあり、リミッタ耐圧破壊領域に個体差が生ずることがある。この場合には、マイクロ波リミッタ装置16の後段に配置されるLNA17が、高電力のために破壊されることがある。
これらの問題を解消するために、例えばPINダイオード162の特性の選別と電気的な調整が要求されるが、コスト及び時間が増大して実現が困難である。
【0010】
本発明は、このような問題点を解決するもので、均一な特性で、アンテナ側への不要な反射を抑制するリミッタ装置及びこのようなリミッタ装置を備えたレーダシステムを提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上のような課題を解決する本発明のリミッタ装置は、所定のアンテナにより受信した受信波を分配する分配器と、前記分配器により分配された一方の受信波の電力値を計測して、計測した電力値に応じて、前記分配器により分配された他方の受信波の電力の減衰或いは前記他方の受信波を後段に伝送する経路の遮断を指示する制御信号を生成する制御部と、前記他方の受信波を、前記制御信号の指示に応じて減衰或いは前記経路の遮断をする抑制器と、を備える。
【0012】
本発明のリミッタ装置では、受信波の電力値を計測し、その結果に応じて受信波を減衰或いは後段に伝送されないように、伝送路を遮断する。そのために、大電力の受信波が後段の電子回路に入力されることがなく受信部への受信波の影響を抑制することができる。また、電力値の計測及び受信波の減衰にPINダイオードを用いないために、正確な電力値の計測と減衰が可能になり、従来のような問題が生じることが無くなる。
【0013】
また、本発明のリミッタ装置は、前記電力値が所定の値以上のときに、前記抑制器の後段の装置外に配置される増幅器の動作を停止させるための増幅器制御信号を生成する増幅器制御部を更に備えていてもよい。このような構成では、抑制器で減衰可能な範囲を超えた電力値の受信波が入力された場合でも、後段の増幅器が動作しないことで、該増幅器及びその後段の電子回路へ受信波の影響を抑制することができる。
【0014】
前記抑制器には、例えば可変減衰器が用いられる。この可変減衰器は、前記制御部で生成される前記他方の受信波の減衰量を指示する前記制御信号に応じた減衰量で、前記他方の受信波を減衰する。前記可変減衰器には、例えばフェライト減衰器を用いることができる。
その他に前記抑制器には、例えばスイッチ回路を用いることができる。このスイッチ回路は、前記制御部で生成される前記他方の受信波を後段に伝送する経路の遮断を指示する前記制御信号に応じて、該経路を遮断する。前記スイッチ回路には、例えば吸収型の単極双投スイッチまたは吸収型の単極単投スイッチを用いることができる。
【0015】
本発明のレーダシステムは、上記のリミッタ装置のいずれかをアンテナと該アンテナで受信した受信波を増幅する増幅器との間に備えており、前記リミッタ装置により前記受信波の電力値を前記増幅器で増幅可能な電力値に補正するものである。
【発明の効果】
【0016】
以上のような本発明によれば、PINダイオードを用いずに、受信波の電力値を計測して、その結果に応じて受信波を減衰或いは受信波の伝送線路を遮断する構成としたことで、PINダイオードの特性のバラツキにより生じていた従来の問題を解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】リミッタ装置を用いたレーダシステムの構成図である。
【図2】第1実施例のマイクロ波リミッタ装置の構成図である。
【図3】第1実施例のマイクロ波リミッタ装置の入出力特性図である。
【図4】第2実施例のマイクロ波リミッタ装置の構成図である。
【図5】第2実施例のマイクロ波リミッタ装置の入出力特性図である。
【図6】第3実施例のマイクロ波リミッタ装置を含む構成図である。
【図7】吸収型SPDTスイッチの構成図である。
【図8】第4実施例のマイクロ波リミッタ装置を含む構成図である。
【図9】吸収型SPSTスイッチの構成図である。
【図10】PINダイオードを用いた一般的なマイクロ波リミッタの構成図である。
【図11】図10のマイクロ波リミッタの入出力特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0019】
<レーダシステム>
本発明のマイクロ波リミッタ装置は、図1のレーダシステム1に用いることができる。
レーダシステム1では、まず、発振器10から出力される高周波信号が、電力分配器11により分配されて、送信アンプ12とミキサ18とに入力される。送信アンプ12に入力された高周波信号は、送信波としてサーキュレータ13を介してアンテナ14から発射される。
【0020】
アンテナ14は、送受信共用である。そのためにアンテナ14から発射された送信波は、雨雲等の目標物により反射されてアンテナ14に受信される。アンテナ14で受信された受信波は、フィルタ15により濾波された後に、マイクロ波リミッタ装置16で、規定値以上の電力が減衰される。マイクロ波リミッタ装置16で電力が減衰された受信波は、LNA17で増幅された後に、ミキサ18に送られる。ミキサ18は、受信波を電力分配器11から送られる高周波信号とミキシングすることでレーダ信号を生成し、生成したレーダ信号をレーダ信号増幅器19を介して、図示しない後段の電子回路に入力する。後段の電子回路では、レーダ信号から、目標物の位置、距離、相対速度等を導出する。なお、受信波の電力値が規定値以上の場合に、LNA17以降に受信波が入力されないようにしてもよい。
【0021】
以下、マイクロ波リミッタ装置16の実施例について詳細に説明する。
【0022】
<第1実施例>
図2は、第1実施例のマイクロ波リミッタ装置16の構成図である。
第1実施例のマイクロ波リミッタ装置16は、方向性結合器20、検波器21、受信電力計測部22、減衰器制御部23、及び可変減衰器24を備える。
【0023】
方向性結合器20は、アンテナ14からフィルタ15を介して入力される受信波を検波器21の方向と可変減衰器24の方向とに分配する。この実施例では方向性結合器20を用いるが、同様に受信波を2つに分配する機能を持つ分配器であれば、カプラやレギュレータ等の他の装置であってもよい。
【0024】
検波器21は、方向性結合器20から分配された一方の受信波を検波する。検波結果は、受信電力計測部22に送られる。受信電力計測部22は、検波結果から受信波の電力値を導出する。受信電力計測部22は、送られる受信波によりフィルタ15から入力される受信波の電力値を算定できるように、例えばコンパレータを用いて校正される。導出された電力値は、減衰器制御部23に送られる。減衰器制御部23は、受信電力計測器22から送られる電力値に応じて、可変減衰器24による受信波の減衰量を制御するための制御信号を生成する。
【0025】
可変減衰器24は、方向性結合器20とLNA17との間の伝送線路上に設けられる。可変減衰器24は、線形性と使い勝手の面からフェライト減衰器が好適であるが、条件をみたすものであればこれに限らない。可変減衰器24は、方向性結合器20から分配された他方の受信波が入力されるとともに、減衰器制御部23から正確に計測された受信波の電力値に応じた制御信号が入力される。可変減衰器24は、制御信号に応じて受信波を減衰して、最適な電力値の受信波をLNA17に送る。
【0026】
図3は、第1実施例のマイクロ波リミッタ装置16の入出力特性図である。
図3において、横軸はフィルタ15からマイクロ波リミッタ装置16に入力される受信波の電力値であり、縦軸はマイクロ波リミッタ装置16からLNA17に出力される受信波の電力値である。
【0027】
線形受信領域では、受信波がそのままの電力でマイクロ波リミッタ装置16から出力されて、ミキサ18で送信波と混合されてレーダ信号が生成され、目標物の検出のために処理される。受信電力抑圧領域では、受信波の電力が規定の電力値を超えるために、LNA17を含む受信部を保護するため可変減衰器24により電力が減衰される。電力が減衰された受信波がミキサ18で送信波と混合されてレーダ信号が生成され、目標物の検出のために処理される。
このように減衰器制御部23で生成される制御信号は、線形受信領域では減衰量が小さく(0を含む)なるように可変減衰器24に指示する信号であり、受信電力抑圧領域では、電力値に応じて減衰量が大きくなるように可変減衰器24に指示する信号である。
【0028】
<第2実施例>
図4は、第2実施例のマイクロ波リミッタ装置16を含む構成図である。
第2実施例のマイクロ波リミッタ装置16は、第1実施例のマイクロ波リミッタ装置16にLNA制御部25を追加した構成である。他の構成及び動作は、第1実施例と同様であるので説明を省略する。LNA制御部25は、LNA17の直流電源をON/OFF制御するためのLNA制御信号を生成して、LNA17に入力する。LNA17は、ON/OFF制御信号により、増幅動作がON/OFF制御される。
【0029】
マイクロ波リミッタ装置16に入力される受信波の電力値が、規定値以上で可変減衰器24で減衰可能な電力値を超えるような大電力の場合、十分に減衰されていない受信波がLNA17以降の受信部に入力されることが考えられる。この場合、受信部が電気的に破壊されることもある。第2実施例では、LNA17の直流電源をON/OFF制御することで、このような大電力の受信波の場合には、LNA17の動作を停止する。これにより、LNA17以降の電子回路に受信波が送られなくなり、電気的な破壊を防ぐことができる。
【0030】
そのためにLNA制御部25は、受信電力計測部22から出力される電力値が規定値以上のときに、LNA17の直流電源をOFF状態にするようにLNA制御信号を生成する。規定値に満たないときはLNA17の直流電源をONにするようにLNA制御信号を生成する。
LNA17では、例えばHEMT(High Electron Mobility Transistor)を増幅素子に用いている。直流電源をON/OFFすることで、HEMTのドレイン電圧がON/OFFされる。
【0031】
図5は、第2実施例のマイクロ波リミッタ装置16の入出力特性図である。
線形受信領域及び受信電力抑圧領域における動作は、第1実施例と同様である。受信電力遮断領域では、LNA17を含む受信部の電気的な破壊に繋がるために、LNA17の直流電源をOFFにして増幅動作を停止する。そのために受信電力遮断領域においては、受信電力が極端に低下して、レーダシステム1としての機能(目標物検出)をはたさなくなり、高電力のマイクロ波である受信波から受信部を保護することになる。
【0032】
<第3実施例>
図6は、第3実施例のマイクロ波リミッタ装置16を含む構成図である。
第3実施例のマイクロ波リミッタ装置16は、第2実施例のマイクロ波リミッタ装置16の可変減衰器24に代えて吸収型マイクロ波切替器としての吸収型SPDTスイッチ(Single Pole Double Throw Switch:単極双投スイッチ)26を用い、減衰器制御部23に代えてスイッチ制御部27を用いた構成である。他の構成及び動作は、第2実施例と同様であるので説明を省略する。第3実施例のマイクロ波リミッタ装置16の入出力特性は、第2実施例のものと同様に、つまり図5に示すような特性になる。
【0033】
スイッチ制御部27は、受信電力計測部22で計測された電力値が規定値以上の場合に、吸収型SPDTスイッチ26を遮断する制御信号を吸収型SPDTスイッチ26に送る。吸収型SPDTスイッチ26は、この制御信号が入力される場合に、遮断状態になり、LNA17への受信波の入力を止める。また吸収型SPDTスイッチ26は、入力される受信波を吸収するために、アンテナ14側に反射しない。なお、第2実施例で説明したようなLNA17のON/OFF機能により、吸収型SPDTスイッチ26の漏れ電力(SPDTのアイソレーション相当)を更に減衰することで、大電力に対する安全性が向上する。
【0034】
図7は、吸収型SPDTスイッチ26の一例の具体的な構成図である。
吸収型SPDTスイッチ26は、方向性結合器20から入力される受信波の直流成分を遮断するコンデンサ261、LNA17に送る受信波の直流成分を遮断するコンデンサ262、受信波のスイッチ制御部27側への漏洩を防止するためのフィルタを構成するコイル263及びコンデンサ264、方向性結合器20からLNA17への伝送経路に対してそれぞれシャントに接続されるPINダイオード265、266、及び終端抵抗267を備えて構成される。
【0035】
スイッチ制御部27から、吸収型SPDTスイッチ26を遮断する制御信号が入力されると、方向性結合器20からLNA17への伝送線路が遮断され、直流電圧がPINダイオード266の順方向に印加される。また、受信波の電力の大部分は終端抵抗267で消費されて、アンテナ14への反射波は吸収される。
【0036】
<第4実施例>
図8は、第4実施例のマイクロ波リミッタ装置16を含む構成図である。
第4実施例のマイクロ波リミッタ装置16は、第3実施例のマイクロ波リミッタ装置16の吸収型SPDTスイッチ26に代えて吸収型SPSTスイッチ(Single Pole Single Throw Switch:単極単投スイッチ)28を用いた構成である。他の構成及び動作は、第3実施例と同様であるので説明を省略する。第4実施例のマイクロ波リミッタ装置16の入出力特性は、第2実施例のものと同様に、つまり図5に示すような特性になる。なお、第2実施例で説明したようなLNA17のON/OFF機能により、吸収型SPDTスイッチ26の漏れ電力(SPDTのアイソレーション相当)を更に減衰することで、大電力に対する安全性が向上する。
【0037】
図9は、吸収型SPSTスイッチ28の一例の具体的な構成図である。
吸収型SPSTスイッチ28は、方向性結合器20から入力される受信波の直流成分を遮断するコンデンサ281、LNA17に送る受信波の直流成分を遮断するコンデンサ282、受信波のスイッチ制御部27側への漏洩を防止するためのフィルタを構成するコイル283及びコンデンサ284、方向性結合器20からLNA17への伝送線路に対してシャントに設けられるPINダイオード285、及びPINダイオード285に直列に接続される終端抵抗286を備えて構成される。
【0038】
スイッチ制御部27から、吸収型SPSTスイッチ28を遮断する制御信号が入力されると、方向性結合器20からLNA17への伝送線路が遮断され、直流電圧がPINダイオード285の順方向に印加される。受信波の電力の大部分は、PINダイオード285を介して送られる終端抵抗267で消費されて、アンテナ14への反射波は吸収される。
【0039】
第1〜第4実施例に示した通り、受信波の電力値に応じて可変減衰器24、吸収型SPDTスイッチ26、或いは吸収型SPSTスイッチ28のような抑制器により、後段のLNA17に入力される受信波を減衰或いは遮断する。これにより、LNA17以降の受信部への受信波の影響を抑制する。また、アンテナ14側への反射波も抑制される。いずれのマイクロ波リミッタ装置16も電力値の計測や受信波の減衰にPINダイオードを用いない形式であるために、PINダイオードの特性のバラツキやインピーダンス不整合により生じる従来の問題が生じることはない。
また、第2〜第4実施例では、LNA制御部25を備えており、抑制器で抑制できない程度の大電力の受信波を受信した場合でも、LNA17の動作を停止させることで、LNA17以降の受信部が、受信波による影響を抑制する。
なお、第3、第4実施例では、LNA制御部25を備えた構成であるが、第1実施例と同様に、受信波の電力値が受信電力遮断領域に達することが無いのであれば、必須の構成ではない。
【符号の説明】
【0040】
1…レーダシステム、10…発振器、11…電力分配器、12…送信アンプ、13…サーキュレータ、14…アンテナ、15…フィルタ、16…マイクロ波リミッタ装置、161,164…コンデンサ、162…PINダイオード、163…チョークコイル、17…低雑音増幅器(LNA)、18…ミキサ、19…レーダ信号増幅器、20…方向性結合器、21…検波器、22…受信電力計測部、23…減衰器制御部、24…可変減衰器、25…LNA制御部、26…吸収型SPDTスイッチ、261,262,264…コンデンサ、263…コイル、265,266…PINダイオード、267…終端抵抗、27…スイッチ制御部、28…吸収型SPSTスイッチ、281,282,284…コンデンサ、283…コイル、285…PINダイオード、286…終端抵抗
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロ波帯やミリ波帯を用いたレーダシステムにおいて、規定値を超える過大なマイクロ波電力が受信端に入力された場合でも、レーダシステムの受信部を保護するために用いられるリミッタ装置及びこのようなリミッタ装置を用いたレーダシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
レーダシステムの受信部を保護するための装置としてリミッタ装置が用いられている。図1は、リミッタ装置を用いたレーダシステム1の構成図である。このレーダシステム1は、例えば気象観測レーダとして用いられる。レーダシステム1は、発振機10、電力分配器11、送信アンプ12を含んで構成される送信部と、フィルタ15、マイクロ波リミッタ装置16、低雑音増幅器(以下、「LNA」という。)17、ミキサ18、レーダ信号増幅器19を含んで構成される受信系と、送受信で共用されるアンテナ14と、サーキュレータ13とを備えている。送信系から送られる送信波は、サーキュレータ13からアンテナ14に送られ、アンテナ14で受信された受信波は、サーキュレータ13から受信部に送られる。なお、送信波及び受信波は、マイクロ波帯或いはミリ波帯の信号である。
【0003】
アンテナ14から発射された送信波は、雨雲等の目標物により特定の反射係数を有する反射波となってアンテナ14に返ってくる。反射波は、アンテナ14で受信波として受信される。アンテナ14で受信された受信波は、フィルタ15により不要波が濾波された後に、マイクロ波リミッタ装置16に導かれる。マイクロ波リミッタ装置16は、受信波の電力が規定の電力範囲を超えた過大電力である場合に、この過大電力から受信部を保護するために設けられている。マイクロ波リミッタ装置16は、例えば、規定値以上の電力値の受信波を減衰及び反射して、LNA17以降の後段への受信波の影響を抑制する。
【0004】
マイクロ波リミッタ装置16には、一般的に、高電力のマイクロ波がPINダイオードに印加されたときに発生する直流電流(これを「PINダイオードの自己バイアス」という。)によるインピーダス依存性を利用する方法が用いられる。非特許文献1には、PINダイオードを用いたマイクロ波リミッタ装置16の一例が示されている。
PINダイオードを用いたマイクロ波リミッタ装置16には、受信部とのインピーダンス不整合と非線形性に起因する基本波及び不要波の副次的発射という問題がある。特許文献1には、このような基本波及び不要波の副次的発射に対応する発明が開示されている。
【0005】
図10は、PINダイオードを用いた一般的なマイクロ波リミッタ装置16の構成図である。
フィルタ15から入力された受信波は、直流を遮断するために配置されたコンデンサ161を通過し、フィルタ15とLNA17とを結ぶ伝送線路に対しシャント接続されたPINダイオード162に導かれる。PINダイオード162の真正半導体層は、印加電力に応じて順方向の固有抵抗が変化し、直流電流が流れる。すなわち真正半導体層の固有抵抗値は、印加電力の大きさに反比例して変化するので、シャント接続したPINダイオード162の抵抗値が高電力により低下する。このため、伝送した受信波は減衰を受けて熱になる一方、伝送線路のインピーダンス不整合により一部はアンテナ14側に反射される。
この結果、PINダイオード162の出力側に導かれる受信波は大きな減衰を受けることになる。PINダイオード162の順方向電流(以下、「自己バイアス電流」という。)は、チョークコイル163を介して閉回路を流れる。PINダイオード162で減衰を受けた受信波の電力は出力側に配された直流を遮断するためのコンデンサ164を介してLNA17に入力される。
【0006】
図11は、図10のマイクロ波リミッタ装置16の入出力特性図である。図11の横軸はマイクロ波リミッタ装置16の入力電力であり、縦軸は出力電力である。横軸の線形受信領域は通常のレーダ受信波レベルに相当し、レーダ機能を果たす領域である。受信電力抑圧領域はPINダイオード162によるマイクロ波減衰により、電力が抑圧される領域である。リミッタ耐圧破壊領域はPINダイオード162に印加される電力がさらに増大し、PINダイオード162の耐圧を超える領域である。耐圧破壊領域では、逆方向電流が流れるためにPINダイオード162の減衰効果が低減され、通過電力は増大する。通常のマイクロ波リミッタ装置16は受信電力抑圧領域内で使用されており、PINダイオード162は、抑圧電力値に応じて選定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−246095号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】“PIN-Limiter diode effectively protect receivers”, EDN, December 17,2004, pp.59-64
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のPINダイオード162を使ったマイクロ波リミッタ装置16は、その動作原理から、自己バイアス電流の閾値のバラツキがマイクロ波減衰量のバラツキに繋がる。その結果、マイクロ波リミッタ装置16の特性が不均一になる。
また、受信電力抑圧領域ではPINダイオード162のインピーダンス不整合による基本波の反射に加え、PINダイオード162の非線形性に起因する高調波成分までもがアンテナ14に返される。このような反射成分が、アンテナ14から副次的に発射さてれ電波法の規制に触れることがある。
PINダイオード162の逆方向耐圧にもバラツキがあり、リミッタ耐圧破壊領域に個体差が生ずることがある。この場合には、マイクロ波リミッタ装置16の後段に配置されるLNA17が、高電力のために破壊されることがある。
これらの問題を解消するために、例えばPINダイオード162の特性の選別と電気的な調整が要求されるが、コスト及び時間が増大して実現が困難である。
【0010】
本発明は、このような問題点を解決するもので、均一な特性で、アンテナ側への不要な反射を抑制するリミッタ装置及びこのようなリミッタ装置を備えたレーダシステムを提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上のような課題を解決する本発明のリミッタ装置は、所定のアンテナにより受信した受信波を分配する分配器と、前記分配器により分配された一方の受信波の電力値を計測して、計測した電力値に応じて、前記分配器により分配された他方の受信波の電力の減衰或いは前記他方の受信波を後段に伝送する経路の遮断を指示する制御信号を生成する制御部と、前記他方の受信波を、前記制御信号の指示に応じて減衰或いは前記経路の遮断をする抑制器と、を備える。
【0012】
本発明のリミッタ装置では、受信波の電力値を計測し、その結果に応じて受信波を減衰或いは後段に伝送されないように、伝送路を遮断する。そのために、大電力の受信波が後段の電子回路に入力されることがなく受信部への受信波の影響を抑制することができる。また、電力値の計測及び受信波の減衰にPINダイオードを用いないために、正確な電力値の計測と減衰が可能になり、従来のような問題が生じることが無くなる。
【0013】
また、本発明のリミッタ装置は、前記電力値が所定の値以上のときに、前記抑制器の後段の装置外に配置される増幅器の動作を停止させるための増幅器制御信号を生成する増幅器制御部を更に備えていてもよい。このような構成では、抑制器で減衰可能な範囲を超えた電力値の受信波が入力された場合でも、後段の増幅器が動作しないことで、該増幅器及びその後段の電子回路へ受信波の影響を抑制することができる。
【0014】
前記抑制器には、例えば可変減衰器が用いられる。この可変減衰器は、前記制御部で生成される前記他方の受信波の減衰量を指示する前記制御信号に応じた減衰量で、前記他方の受信波を減衰する。前記可変減衰器には、例えばフェライト減衰器を用いることができる。
その他に前記抑制器には、例えばスイッチ回路を用いることができる。このスイッチ回路は、前記制御部で生成される前記他方の受信波を後段に伝送する経路の遮断を指示する前記制御信号に応じて、該経路を遮断する。前記スイッチ回路には、例えば吸収型の単極双投スイッチまたは吸収型の単極単投スイッチを用いることができる。
【0015】
本発明のレーダシステムは、上記のリミッタ装置のいずれかをアンテナと該アンテナで受信した受信波を増幅する増幅器との間に備えており、前記リミッタ装置により前記受信波の電力値を前記増幅器で増幅可能な電力値に補正するものである。
【発明の効果】
【0016】
以上のような本発明によれば、PINダイオードを用いずに、受信波の電力値を計測して、その結果に応じて受信波を減衰或いは受信波の伝送線路を遮断する構成としたことで、PINダイオードの特性のバラツキにより生じていた従来の問題を解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】リミッタ装置を用いたレーダシステムの構成図である。
【図2】第1実施例のマイクロ波リミッタ装置の構成図である。
【図3】第1実施例のマイクロ波リミッタ装置の入出力特性図である。
【図4】第2実施例のマイクロ波リミッタ装置の構成図である。
【図5】第2実施例のマイクロ波リミッタ装置の入出力特性図である。
【図6】第3実施例のマイクロ波リミッタ装置を含む構成図である。
【図7】吸収型SPDTスイッチの構成図である。
【図8】第4実施例のマイクロ波リミッタ装置を含む構成図である。
【図9】吸収型SPSTスイッチの構成図である。
【図10】PINダイオードを用いた一般的なマイクロ波リミッタの構成図である。
【図11】図10のマイクロ波リミッタの入出力特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0019】
<レーダシステム>
本発明のマイクロ波リミッタ装置は、図1のレーダシステム1に用いることができる。
レーダシステム1では、まず、発振器10から出力される高周波信号が、電力分配器11により分配されて、送信アンプ12とミキサ18とに入力される。送信アンプ12に入力された高周波信号は、送信波としてサーキュレータ13を介してアンテナ14から発射される。
【0020】
アンテナ14は、送受信共用である。そのためにアンテナ14から発射された送信波は、雨雲等の目標物により反射されてアンテナ14に受信される。アンテナ14で受信された受信波は、フィルタ15により濾波された後に、マイクロ波リミッタ装置16で、規定値以上の電力が減衰される。マイクロ波リミッタ装置16で電力が減衰された受信波は、LNA17で増幅された後に、ミキサ18に送られる。ミキサ18は、受信波を電力分配器11から送られる高周波信号とミキシングすることでレーダ信号を生成し、生成したレーダ信号をレーダ信号増幅器19を介して、図示しない後段の電子回路に入力する。後段の電子回路では、レーダ信号から、目標物の位置、距離、相対速度等を導出する。なお、受信波の電力値が規定値以上の場合に、LNA17以降に受信波が入力されないようにしてもよい。
【0021】
以下、マイクロ波リミッタ装置16の実施例について詳細に説明する。
【0022】
<第1実施例>
図2は、第1実施例のマイクロ波リミッタ装置16の構成図である。
第1実施例のマイクロ波リミッタ装置16は、方向性結合器20、検波器21、受信電力計測部22、減衰器制御部23、及び可変減衰器24を備える。
【0023】
方向性結合器20は、アンテナ14からフィルタ15を介して入力される受信波を検波器21の方向と可変減衰器24の方向とに分配する。この実施例では方向性結合器20を用いるが、同様に受信波を2つに分配する機能を持つ分配器であれば、カプラやレギュレータ等の他の装置であってもよい。
【0024】
検波器21は、方向性結合器20から分配された一方の受信波を検波する。検波結果は、受信電力計測部22に送られる。受信電力計測部22は、検波結果から受信波の電力値を導出する。受信電力計測部22は、送られる受信波によりフィルタ15から入力される受信波の電力値を算定できるように、例えばコンパレータを用いて校正される。導出された電力値は、減衰器制御部23に送られる。減衰器制御部23は、受信電力計測器22から送られる電力値に応じて、可変減衰器24による受信波の減衰量を制御するための制御信号を生成する。
【0025】
可変減衰器24は、方向性結合器20とLNA17との間の伝送線路上に設けられる。可変減衰器24は、線形性と使い勝手の面からフェライト減衰器が好適であるが、条件をみたすものであればこれに限らない。可変減衰器24は、方向性結合器20から分配された他方の受信波が入力されるとともに、減衰器制御部23から正確に計測された受信波の電力値に応じた制御信号が入力される。可変減衰器24は、制御信号に応じて受信波を減衰して、最適な電力値の受信波をLNA17に送る。
【0026】
図3は、第1実施例のマイクロ波リミッタ装置16の入出力特性図である。
図3において、横軸はフィルタ15からマイクロ波リミッタ装置16に入力される受信波の電力値であり、縦軸はマイクロ波リミッタ装置16からLNA17に出力される受信波の電力値である。
【0027】
線形受信領域では、受信波がそのままの電力でマイクロ波リミッタ装置16から出力されて、ミキサ18で送信波と混合されてレーダ信号が生成され、目標物の検出のために処理される。受信電力抑圧領域では、受信波の電力が規定の電力値を超えるために、LNA17を含む受信部を保護するため可変減衰器24により電力が減衰される。電力が減衰された受信波がミキサ18で送信波と混合されてレーダ信号が生成され、目標物の検出のために処理される。
このように減衰器制御部23で生成される制御信号は、線形受信領域では減衰量が小さく(0を含む)なるように可変減衰器24に指示する信号であり、受信電力抑圧領域では、電力値に応じて減衰量が大きくなるように可変減衰器24に指示する信号である。
【0028】
<第2実施例>
図4は、第2実施例のマイクロ波リミッタ装置16を含む構成図である。
第2実施例のマイクロ波リミッタ装置16は、第1実施例のマイクロ波リミッタ装置16にLNA制御部25を追加した構成である。他の構成及び動作は、第1実施例と同様であるので説明を省略する。LNA制御部25は、LNA17の直流電源をON/OFF制御するためのLNA制御信号を生成して、LNA17に入力する。LNA17は、ON/OFF制御信号により、増幅動作がON/OFF制御される。
【0029】
マイクロ波リミッタ装置16に入力される受信波の電力値が、規定値以上で可変減衰器24で減衰可能な電力値を超えるような大電力の場合、十分に減衰されていない受信波がLNA17以降の受信部に入力されることが考えられる。この場合、受信部が電気的に破壊されることもある。第2実施例では、LNA17の直流電源をON/OFF制御することで、このような大電力の受信波の場合には、LNA17の動作を停止する。これにより、LNA17以降の電子回路に受信波が送られなくなり、電気的な破壊を防ぐことができる。
【0030】
そのためにLNA制御部25は、受信電力計測部22から出力される電力値が規定値以上のときに、LNA17の直流電源をOFF状態にするようにLNA制御信号を生成する。規定値に満たないときはLNA17の直流電源をONにするようにLNA制御信号を生成する。
LNA17では、例えばHEMT(High Electron Mobility Transistor)を増幅素子に用いている。直流電源をON/OFFすることで、HEMTのドレイン電圧がON/OFFされる。
【0031】
図5は、第2実施例のマイクロ波リミッタ装置16の入出力特性図である。
線形受信領域及び受信電力抑圧領域における動作は、第1実施例と同様である。受信電力遮断領域では、LNA17を含む受信部の電気的な破壊に繋がるために、LNA17の直流電源をOFFにして増幅動作を停止する。そのために受信電力遮断領域においては、受信電力が極端に低下して、レーダシステム1としての機能(目標物検出)をはたさなくなり、高電力のマイクロ波である受信波から受信部を保護することになる。
【0032】
<第3実施例>
図6は、第3実施例のマイクロ波リミッタ装置16を含む構成図である。
第3実施例のマイクロ波リミッタ装置16は、第2実施例のマイクロ波リミッタ装置16の可変減衰器24に代えて吸収型マイクロ波切替器としての吸収型SPDTスイッチ(Single Pole Double Throw Switch:単極双投スイッチ)26を用い、減衰器制御部23に代えてスイッチ制御部27を用いた構成である。他の構成及び動作は、第2実施例と同様であるので説明を省略する。第3実施例のマイクロ波リミッタ装置16の入出力特性は、第2実施例のものと同様に、つまり図5に示すような特性になる。
【0033】
スイッチ制御部27は、受信電力計測部22で計測された電力値が規定値以上の場合に、吸収型SPDTスイッチ26を遮断する制御信号を吸収型SPDTスイッチ26に送る。吸収型SPDTスイッチ26は、この制御信号が入力される場合に、遮断状態になり、LNA17への受信波の入力を止める。また吸収型SPDTスイッチ26は、入力される受信波を吸収するために、アンテナ14側に反射しない。なお、第2実施例で説明したようなLNA17のON/OFF機能により、吸収型SPDTスイッチ26の漏れ電力(SPDTのアイソレーション相当)を更に減衰することで、大電力に対する安全性が向上する。
【0034】
図7は、吸収型SPDTスイッチ26の一例の具体的な構成図である。
吸収型SPDTスイッチ26は、方向性結合器20から入力される受信波の直流成分を遮断するコンデンサ261、LNA17に送る受信波の直流成分を遮断するコンデンサ262、受信波のスイッチ制御部27側への漏洩を防止するためのフィルタを構成するコイル263及びコンデンサ264、方向性結合器20からLNA17への伝送経路に対してそれぞれシャントに接続されるPINダイオード265、266、及び終端抵抗267を備えて構成される。
【0035】
スイッチ制御部27から、吸収型SPDTスイッチ26を遮断する制御信号が入力されると、方向性結合器20からLNA17への伝送線路が遮断され、直流電圧がPINダイオード266の順方向に印加される。また、受信波の電力の大部分は終端抵抗267で消費されて、アンテナ14への反射波は吸収される。
【0036】
<第4実施例>
図8は、第4実施例のマイクロ波リミッタ装置16を含む構成図である。
第4実施例のマイクロ波リミッタ装置16は、第3実施例のマイクロ波リミッタ装置16の吸収型SPDTスイッチ26に代えて吸収型SPSTスイッチ(Single Pole Single Throw Switch:単極単投スイッチ)28を用いた構成である。他の構成及び動作は、第3実施例と同様であるので説明を省略する。第4実施例のマイクロ波リミッタ装置16の入出力特性は、第2実施例のものと同様に、つまり図5に示すような特性になる。なお、第2実施例で説明したようなLNA17のON/OFF機能により、吸収型SPDTスイッチ26の漏れ電力(SPDTのアイソレーション相当)を更に減衰することで、大電力に対する安全性が向上する。
【0037】
図9は、吸収型SPSTスイッチ28の一例の具体的な構成図である。
吸収型SPSTスイッチ28は、方向性結合器20から入力される受信波の直流成分を遮断するコンデンサ281、LNA17に送る受信波の直流成分を遮断するコンデンサ282、受信波のスイッチ制御部27側への漏洩を防止するためのフィルタを構成するコイル283及びコンデンサ284、方向性結合器20からLNA17への伝送線路に対してシャントに設けられるPINダイオード285、及びPINダイオード285に直列に接続される終端抵抗286を備えて構成される。
【0038】
スイッチ制御部27から、吸収型SPSTスイッチ28を遮断する制御信号が入力されると、方向性結合器20からLNA17への伝送線路が遮断され、直流電圧がPINダイオード285の順方向に印加される。受信波の電力の大部分は、PINダイオード285を介して送られる終端抵抗267で消費されて、アンテナ14への反射波は吸収される。
【0039】
第1〜第4実施例に示した通り、受信波の電力値に応じて可変減衰器24、吸収型SPDTスイッチ26、或いは吸収型SPSTスイッチ28のような抑制器により、後段のLNA17に入力される受信波を減衰或いは遮断する。これにより、LNA17以降の受信部への受信波の影響を抑制する。また、アンテナ14側への反射波も抑制される。いずれのマイクロ波リミッタ装置16も電力値の計測や受信波の減衰にPINダイオードを用いない形式であるために、PINダイオードの特性のバラツキやインピーダンス不整合により生じる従来の問題が生じることはない。
また、第2〜第4実施例では、LNA制御部25を備えており、抑制器で抑制できない程度の大電力の受信波を受信した場合でも、LNA17の動作を停止させることで、LNA17以降の受信部が、受信波による影響を抑制する。
なお、第3、第4実施例では、LNA制御部25を備えた構成であるが、第1実施例と同様に、受信波の電力値が受信電力遮断領域に達することが無いのであれば、必須の構成ではない。
【符号の説明】
【0040】
1…レーダシステム、10…発振器、11…電力分配器、12…送信アンプ、13…サーキュレータ、14…アンテナ、15…フィルタ、16…マイクロ波リミッタ装置、161,164…コンデンサ、162…PINダイオード、163…チョークコイル、17…低雑音増幅器(LNA)、18…ミキサ、19…レーダ信号増幅器、20…方向性結合器、21…検波器、22…受信電力計測部、23…減衰器制御部、24…可変減衰器、25…LNA制御部、26…吸収型SPDTスイッチ、261,262,264…コンデンサ、263…コイル、265,266…PINダイオード、267…終端抵抗、27…スイッチ制御部、28…吸収型SPSTスイッチ、281,282,284…コンデンサ、283…コイル、285…PINダイオード、286…終端抵抗
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のアンテナにより受信した受信波を分配する分配器と、
前記分配器により分配された一方の受信波の電力値を計測して、計測した電力値に応じて、前記分配器により分配された他方の受信波の電力の減衰或いは前記他方の受信波を後段に伝送する経路の遮断を指示する制御信号を生成する制御部と、
前記他方の受信波を、前記制御信号の指示に応じて減衰或いは前記経路の遮断をする抑制器と、を備える、
リミッタ装置。
【請求項2】
前記電力値が所定の値以上のときに、前記抑制器の後段の装置外に配置される増幅器の動作を停止させるための増幅器制御信号を生成する増幅器制御部を更に備えている、
請求項1記載のリミッタ装置。
【請求項3】
前記抑制器は可変減衰器であり、前記制御部で生成される前記他方の受信波の減衰量を指示する前記制御信号に応じた減衰量で、前記他方の受信波を減衰する、
請求項1又は2記載のリミッタ装置。
【請求項4】
前記可変減衰器はフェライト減衰器である、
請求項3記載のリミッタ装置。
【請求項5】
前記抑制器はスイッチ回路であり、前記制御部で生成される前記他方の受信波を後段に伝送する経路の遮断を指示する前記制御信号に応じて、該経路を遮断する、
請求項1又は2記載のリミッタ装置。
【請求項6】
前記スイッチ回路は、吸収型の単極双投スイッチまたは吸収型の単極単投スイッチである、
請求項5記載のリミッタ装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のリミッタ装置を、アンテナと該アンテナで受信した受信波を増幅する増幅器との間に備えており、前記リミッタ装置により前記受信波の電力値を前記増幅器で増幅可能な電力値に補正する、
レーダシステム。
【請求項1】
所定のアンテナにより受信した受信波を分配する分配器と、
前記分配器により分配された一方の受信波の電力値を計測して、計測した電力値に応じて、前記分配器により分配された他方の受信波の電力の減衰或いは前記他方の受信波を後段に伝送する経路の遮断を指示する制御信号を生成する制御部と、
前記他方の受信波を、前記制御信号の指示に応じて減衰或いは前記経路の遮断をする抑制器と、を備える、
リミッタ装置。
【請求項2】
前記電力値が所定の値以上のときに、前記抑制器の後段の装置外に配置される増幅器の動作を停止させるための増幅器制御信号を生成する増幅器制御部を更に備えている、
請求項1記載のリミッタ装置。
【請求項3】
前記抑制器は可変減衰器であり、前記制御部で生成される前記他方の受信波の減衰量を指示する前記制御信号に応じた減衰量で、前記他方の受信波を減衰する、
請求項1又は2記載のリミッタ装置。
【請求項4】
前記可変減衰器はフェライト減衰器である、
請求項3記載のリミッタ装置。
【請求項5】
前記抑制器はスイッチ回路であり、前記制御部で生成される前記他方の受信波を後段に伝送する経路の遮断を指示する前記制御信号に応じて、該経路を遮断する、
請求項1又は2記載のリミッタ装置。
【請求項6】
前記スイッチ回路は、吸収型の単極双投スイッチまたは吸収型の単極単投スイッチである、
請求項5記載のリミッタ装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のリミッタ装置を、アンテナと該アンテナで受信した受信波を増幅する増幅器との間に備えており、前記リミッタ装置により前記受信波の電力値を前記増幅器で増幅可能な電力値に補正する、
レーダシステム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−195676(P2012−195676A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56623(P2011−56623)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000219004)島田理化工業株式会社 (205)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000219004)島田理化工業株式会社 (205)
【Fターム(参考)】
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