説明

リモートセンシング電位検出型車両用電源装置

【課題】リモート制御を行っているときに出力電源線が断線したとき、負荷の大小にかかわらず出力電圧のハンチング現象が発生するのを抑制して、従来よりも出力電圧を安定に出力できるようにする。
【解決手段】出力端子32,33とスイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4とを有するスイッチング電源回路部20と、ローカル電位VLおよびリモートセンシング電位VSのうち、リモートセンシング電位VSが正常範囲内ならばリモート制御を行い、リモートセンシング電位VSが正常範囲外ならばローカル制御を行い、リモート制御とローカル制御とを切り替えられる電圧制御回路部50とを備えたリモートセンシング電位検出型車両用電源装置10において、出力電流Iを検出する出力電流検出手段(電流検出器40)を備え、電圧制御回路部50は出力電流Iに基づいてリモート制御とローカル制御との切り替えを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング電源回路部と電圧制御回路部とを備えたリモートセンシング電位検出型車両用電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のリモートセンシング電位検出型車両用電源装置として、回路構成が複雑にならないようにし、出力電圧精度が低下しないようにする技術の一例が開示されている(例えば特許文献1を参照)。この技術によれば、リモートセンシング電位差とローカル電位差とを独立に検出するとともに、ローカル電位差がリモートセンシング電位差の正常時より大きくなるように設定し、両電位差のうち小さい方の電位差に基づいてPWM制御(すなわちリモート制御とローカル制御)を切り替える構成となっている。
【0003】
上記技術に従ってリモートセンシング電位差に基づくPWM制御(すなわちリモート制御)を行っているときに出力電源線が断線すると、負荷が大きい場合にはリモートセンシング電位差の低下も速い。すなわちリモートセンシング電位差が速く基準電位差よりも下回るため、断線の発生に伴って一時的に出力電圧が大きくなっても、一定時間が経過するとローカル電位差に基づくPWM制御(すなわちローカル制御)を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−045945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、リモート制御を行っているときに出力電源線が断線するという条件下において、負荷が小さい場合はリモートセンシング電位差の低下もゆっくりとなる。すなわちリモートセンシング電位差が基準電位差よりも上回る期間が長くなるため、この期間中はリモート制御とローカル制御との切り替えが頻繁に行われるようになる。例えば図5に示す例では、断線が発生した時刻t11からリモートセンシング電位差(VS)が基準電位差(Vth1)を下回る時刻t17までの間、リモート制御とローカル制御の切り替えを行っている。この制御の切り替えによって、出力電圧のハンチング現象(すなわち出力電圧が頻繁に変動する現象)を引き起こすという問題があった。
【0006】
本発明はこのような点に鑑みてなしたものであり、リモート制御を行っているときに出力電源線が断線したとき、負荷の大小にかかわらず出力電圧のハンチング現象が発生するのを抑制して、従来よりも出力電圧を安定に出力できるリモートセンシング電位検出型車両用電源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた請求項1に記載の発明は、直流出力電圧を負荷に出力する出力端子と、前記直流出力電圧を制御するスイッチング素子とを有するスイッチング電源回路部と、前記出力端子の電位としてのローカル電位および前記負荷の電位としてのリモートセンシング電位のうち、前記リモートセンシング電位が正常範囲内にある場合には前記リモートセンシング電位に基づくPWM制御信号により前記直流出力電圧を制御するリモート制御を行い、前記リモートセンシング電位が正常範囲外になった場合には前記ローカル電位に基づくPWM制御信号により前記直流出力電圧を制御するローカル制御を行い、前記リモート制御と前記ローカル制御とを切り替えられる電圧制御回路部とを備えたリモートセンシング電位検出型車両用電源装置において、前記出力端子から前記負荷に向かって流れる出力電流を検出する出力電流検出手段を備え、前記電圧制御回路部は、前記出力電流検出手段によって検出された出力電流に基づいて、前記リモート制御と前記ローカル制御との切り替えを行うことを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、電圧制御回路部は出力電流検出手段によって検出された出力電流に基づいてリモート制御とローカル制御との切り替えを行う。負荷が小さいためにリモートセンシング電位の低下がゆっくりになっても、断線が発生すると出力電流はすぐにゼロになる。出力電流検出手段によって検出された出力電流が基準電流値(閾値)を上回るか否かでリモート制御とローカル制御との切り替えを行うことにより、従来よりも直流出力電圧のハンチング現象が発生するのを抑制し、直流出力電圧を安定して出力できる。
【0009】
なお、スイッチング素子は、例えばFET(具体的にはMOSFET,JFET,MESFET等)、IGBT、GTO、パワートランジスタ等が該当する。また、出力電流検出手段は出力電流を検出できれば任意であり、例えば出力電源線を流れる電流によって生じる磁力をコイルやホール素子等で検出する磁気型や、分流器に分流させて生じる電位差で検出する分流型、計器用変流器で変流させて検出する変流式型などが該当する。さらに、負荷には電源(バッテリ)を含めてもよい。
【0010】
請求項2に記載の発明は、前記電圧制御回路部は、前記リモート制御中に、前記出力電流検出手段によって検出された出力電流が前記基準電流値を下回ったとき、前記ローカル制御への切り替えを行うことを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、電圧制御回路部は、出力電流が基準電流値を下回れば、リモート制御からローカル制御への切り替えを確実に行う。したがって、従来よりも直流出力電圧のハンチング現象が発生するのをより確実に抑制することができる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、前記出力電流検出手段は、前記出力端子に接続される出力電源線を流れる電流によって生じる磁力に基づいて前記出力電流の検出を行うことを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、出力電流検出手段を出力電源線に対して直列的に接続しないので、出力電流を変化させない。したがって、出力電流を正確に検出して、従来よりも直流出力電圧のハンチング現象が発生するのを抑制することができる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、前記電圧制御回路部は、前記ローカル電位と前記リモートセンシング電位との電位差を求める差動増幅器と、前記出力電流検出手段から出力される電流値に前記出力電源線の抵抗値を乗算して得られる電圧値と前記差動増幅器から出力される電位差とに基づいて所定の演算を行って論理値を出力する演算器と、前記演算器から出力される論理値と前記リモートセンシング電位に基づく論理値との論理積を求めて出力する論理積演算回路と、前記論理積演算回路から出力される論理値に基づいて、前記ローカル電位および前記リモートセンシング電位のうち一方の電位に切り替えて出力する切替器と、を有することを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、ローカル電位、リモートセンシング電位および出力電流検出手段から出力される電流値に基づいて、切替器からローカル電位およびリモートセンシング電位のうち一方の電位を出力する。したがって、従来よりも直流出力電圧のハンチング現象が発生するのを抑制するにあたって、簡単な回路構成で実現することができる。なお、論理値は正論理または負論理のいずれに従ってもよい。
【0016】
請求項5に記載の発明は、前記スイッチング電源回路部は、前記スイッチング素子により構成されて前記スイッチング素子のスイッチングにより入力直流電力を交流電力に変換するスイッチング部と、前記スイッチング部が出力する前記交流電力の電圧を変換するトランスと、前記トランスの出力電力を整流し平滑して前記出力端子に出力する整流平滑部と、を有するトランス型DC−DCコンバータからなることを特徴とする。
【0017】
上述したように、電圧制御回路部によって従来よりも直流出力電圧のハンチング現象が発生するのを抑制できる。そのためにこの構成では、ハンチング現象の発生に伴うトランスの磁気飽和が抑制されるのでトランスの大型化(すなわち最大磁束密度の増大化)を行う必要がなくなり、スイッチング素子に流す電流の変化を少なく抑えられるので当該スイッチング素子の劣化や破壊を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】車両用電源装置の構成例を示す回路図である。
【図2】小さい負荷のときの電位差や電流等の変化を表すタイムチャートである。
【図3】大きい負荷のときの電位差や電流等の変化を表すタイムチャートである。
【図4】電流検出器の配置例を説明する回路図である。
【図5】従来技術におけるハンチング現象を説明するタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下では本発明を実施するための形態について、図面に基づいて説明する。なお、「接続する」という場合には、特に明示しない限りは電気的な接続を意味する。また、論理値は正論理に従うものと仮定し、ハイレベル(他には真,1など)を「H」で示し、ローレベル(他には偽,0など)を「L」で示す。
【0020】
まず、図1にはリモートセンシング電位検出型車両用電源装置(以下では単に「車両用電源装置」と呼ぶ。)の構成例を回路図で示す。図1に示す車両用電源装置10は、出力端子32,33に接続された出力電源線S1,S2を通じて負荷Zに直流電力(すなわち直流出力電圧および直流出力電流)を出力する機能を実現するため、スイッチング電源回路部20,電流検出器40,電圧制御回路部50等を有する。なお、負荷Zには電源(バッテリ)を含めてもよい。
【0021】
トランス型DC−DCコンバータであるスイッチング電源回路部20は、スイッチング部21,トランス22,整流平滑部23等を有する。スイッチング部21は4つのスイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4を有し、直流電源Eから入力端子30,31を経て入力される直流電力(すなわち直流入力電圧および直流入力電流)を交流電力に変換して出力する。スイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4には例えばMOSFETを用いる。スイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4の各スイッチングは、後述するドライブ部51から出力されるPWM制御信号に基づいて行われる。トランス22は、スイッチング部21が出力する交流電力の電圧分を巻線比に従って昇圧または降圧する変換を行う。整流平滑部23は、トランス22の出力電力を整流し平滑して出力端子32,33に出力する機能を実現するため、ダイオードD1,D2、コイルL、コンデンサC等を有する。具体的には、ダイオードD1,D2によって全波整流を行い、コイルLおよびコンデンサCによって全波整流した波形を平滑化する。
【0022】
出力電流検出手段に相当する電流検出器40は、出力端子32から負荷Zに向かって流れる出力電流Iを検出し、検出した電流値に対応した電圧値VIとして出力する。この電流検出器40には、例えば電源線(線路)を流れる出力電流Iによって生じる磁力をコイルやホール素子等で検出する磁気型電流検出器を用いる。電圧値VIについては、例えば出力電流Iが3アンペアであれば、3ボルトの電圧値VIを出力する。図1に示す例では、出力端子32を流れる電流値が大きいため、直流電源Eとスイッチング部21とを接続する電源線に電流検出器40を備えている。
【0023】
電圧制御回路部50は、出力端子32の電位(直流出力電圧に相当する)を示すローカル電位VLと、負荷Zの電位を示すリモートセンシング電位VSと、電流検出器40から出力される電圧値VIとに基づいて、スイッチング部21から出力する出力電力の制御を行う。この電圧制御回路部50は、ドライブ部51、切替器52、演算器53、論理積演算回路(AND回路)54、差動増幅器55,56、抵抗器R1,R2,R3,R4等を有する。
【0024】
上記電圧制御回路部50の具体的な接続例について説明する。まず、出力端子32に接続するローカル電位線S4は、切替器52に接続するとともに、抵抗器R1,R2の分圧回路を経て差動増幅器55のプラス端子に接続する。また、負荷Zに接続するリモートセンシング電位線S5は、切替器52に接続するとともに、抵抗器R3,R4の分圧回路を経て差動増幅器55のマイナス端子と差動増幅器56のプラス端子とに並列して接続する。差動増幅器56のマイナス端子は基準電圧Vcを介して接地する。差動増幅器55の出力端子を演算器53の入力端子に接続し、電流検出器40に接続する電流検出線S3を演算器53の入力端子に接続する。演算器53の出力端子を論理積演算回路54の入力端子に接続し、差動増幅器56の出力端子を論理積演算回路54の入力端子に接続する。当該論理積演算回路54の出力端子は切替器52に接続する。切替器52の出力端子はドライブ部51の入力端子に接続する。
【0025】
次に、上記電圧制御回路部50を構成する各要素の機能について説明する。まず、抵抗器R1,R2の組み合わせと、抵抗器R3,R4の組み合わせは、いずれも分圧回路を構成する。これらの分圧回路は、ローカル電位VLやリモートセンシング電位VSの大きさに応じて各抵抗器の抵抗値を適切に設定する。なおローカル電位VLやリモートセンシング電位VSが低電圧(例えば5ボルト以下)のときは、一方または双方の分圧回路を不要とすることもできる。
【0026】
差動増幅器55は、ローカル電位VLをプラス端子に入力し、リモートセンシング電位VSをマイナス端子に入力して、ローカル電位VLとリモートセンシング電位VSとの電位差ΔV(すなわちΔV=VL−VS)を出力する。差動増幅器56は、リモートセンシング電位VSをプラス端子に入力し、基準電圧Vcのプラス側をマイナス端子に入力して、リモートセンシング電位VSと基準電圧Vcとの電位差(すなわちVS−Vc)を出力する。
【0027】
演算器53は、上述した差動増幅器55から出力された電位差ΔVと、電流検出器40で検出された電流値に対応する電圧値VIとを入力する。電圧値VIは出力電流Iを示す数値なので、予め測定を行って記憶させた出力電源線S1の抵抗値RIを乗算して、出力端子32から負荷Zまでに生じる出力電源線S1の電圧降下(すなわち電位差VIR=VI×RI)を求める。そして、電位差ΔVと電位差VIRとの差分電圧値(=ΔV−VIR)が閾値Vth2を上回るか否かで論理値Xbを決定して出力する。例えば、差分電圧値が閾値Vth2を上回れば「H」の論理値Xbを出力し、逆に下回れば「L」の論理値Xbを出力する。
【0028】
論理積演算回路54は、演算器53から出力された論理値Xbと、差動増幅器56から出力された電位差に基づく論理値Xcとの論理積を演算した結果を論理値Xaとして出力する。なお、論理値Xcが「H」になるか「L」になるかは、差動増幅器56から出力された電位差が論理積演算回路54で設定した閾値を超えるか否かで定まる。
【0029】
切替器52は、リモート制御とローカル制御との切り替えを行う機能を担う。具体的には、論理積演算回路54から出力される論理値Xaに基づいて、ローカル電位VLおよびリモートセンシング電位VSのいずれか一方の電位に切り替えて出力する。例えば、論理値Xaが「H」であれば、リモート制御を行うためにリモートセンシング電位VSに切り替えて出力する。一方、論理値Xaが「L」であれば、ローカル制御を行うためにローカル電位VLに切り替えて出力する。
【0030】
ドライブ部51は、切替器52から出力される電位(ローカル電位VLまたはリモートセンシング電位VS)に基づいて、パルス波のデューティ比を変化させたPWM波形をPWM制御信号としてスイッチング部21(具体的にはスイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4の各ゲート端子)に出力する。
【0031】
上述のように構成された車両用電源装置10において、ローカル電位VLおよびリモートセンシング電位VSに基づいてリモート制御とローカル制御との切り替えを行う例について図2を参照しながら説明する。図2(A)にはローカル電位VLの変化を示す。図2(B)にはリモートセンシング電位VSの変化を示す。図2(C)には差動増幅器55から出力された電位差ΔVの変化を示す。図2(D)には、出力端子32を流れる出力電流I(すなわち電流検出器40から出力される電圧値VI)の変化を示す。図2(E)には、上から順番に差動増幅器56から出力された電位差に基づく論理値Xc、演算器53から出力される論理値Xb、論理積演算回路54から出力される論理値Xaについてそれぞれの変化を示す。
【0032】
なお、この例では出力端子32と負荷Zとを接続する出力電源線S1において時刻t1に断線が発生したものと仮定し、小さい負荷Zを仮定する。
【0033】
断線が発生するまでは、切替器52は図2(E)に示すようにリモートセンシング電位VSを出力しているのでリモート制御を行っている。図2(B)に示すように時刻t1からリモートセンシング電位VSが低下し始めているので、ドライブ部51は時刻t1に断線が発生したと判断してローカル電位VLを期間ta(すなわち時刻t1から時刻t2までの期間)だけ一時的に増大させる。
【0034】
しかし、小さい負荷Zを接続したことによってリモートセンシング電位VSはゆっくり低下している。この低下に伴って、図2(E)の1段目に示すように、論理積演算回路54に入力される論理値Xcが「H」から「L」に変わるのはリモートセンシング電位VSが閾値Vth1を下回る時刻t4である。ところが、上述したようにドライブ部51がローカル電位VLを期間taだけ一時的に増大させるので、電位差ΔVも上昇する。その結果として、演算器53から出力される論理値Xaは断線後も「H」に維持される。
【0035】
一方、時刻t1に断線が発生すると、図2(D)に示すように出力端子32を流れる出力電流Iがゼロになるので、電流検出器40から出力される電圧値VIもゼロになる。よって図2(E)の2段目に示すように、演算器53は期間taは電位差ΔVと電圧値VIとの差分電圧値が閾値Vth2を上回って論理値Xbを「H」で出力するが、期間taを経過した時刻t2以降は閾値Vth2を下回るので論理値Xbを「L」で出力する。論理値Xbの変化に伴って、図2(E)の3段目に示すように、論理積演算回路54は時刻t2までは論理値Xaを「H」で出力し、時刻t2以降は論理値Xaを「L」で出力する。
【0036】
論理積演算回路54から出力される論理値Xaを受けたドライブ部51は、図2(E)の4段目に示すように、時刻t2まではリモート制御を行うためにリモートセンシング電位VSに切り替えて出力し、時刻t2以降はローカル制御を行うためにローカル電位VLに切り替えて出力する。このようにしてリモート制御とローカル制御との切り替えを行うので、従来技術のようなハンチング現象が抑制される。したがって、直流出力電圧(すなわちローカル電位VL)を従来よりもよりも安定して出力することができる。
【0037】
ところで、小さい負荷Zの代わりに大きい負荷Zを接続すると、図2に示す項目の変化は図3のようになる。簡単のために、ここでは図2との相違について述べる。
【0038】
大きい負荷Zを接続すると、図3(B)に示すようにリモートセンシング電位VSは速く低下する。この低下に伴って、 図3(E)の1段目に示すように、論理積演算回路54に入力される論理値Xcが「H」から「L」に変わるのは時刻t4よりも早い時刻t3になる。しかし、図3(E)の2段目に示すように演算器53から出力する論理値Xbは時刻t2以降が「L」になるので、同図の4段目に示すようにドライブ部51は時刻t2以降にローカル電位VLに切り替えて出力してローカル制御を行う。したがって、負荷Zの大小にかかわらず従来技術のようなハンチング現象が抑制され、直流出力電圧を従来よりもよりも安定して出力することができる。
【0039】
上述した実施の形態によれば、以下に示す各効果を得ることができる。
【0040】
車両用電源装置10には、出力端子32から負荷Zに向かって流れる出力電流Iを検出する電流検出器40を備えた(図1を参照)。また電圧制御回路部50は、電流検出器40によって検出された出力電流Iに対応する電圧値VIに基づいて、リモート制御とローカル制御との切り替えを行う(図2,図3を参照)。この構成によれば、負荷Zが小さいためにリモートセンシング電位VSの低下がゆっくりになっても、断線が発生すると出力電流Iに対応する電圧値VIはすぐにゼロになる。差動増幅器56から出力された電位差(基はリモートセンシング電位VS)に基づく論理値Xcが「H」である期間が延びるため、電圧値VIと電位差ΔVとの差分電圧値が閾値Vth2(基準電流値に相当する)上回るか否かに基づいて(すなわち論理値Xbに従って)、切替器52はリモート制御とローカル制御との切り替えを行う。したがって、従来よりも直流出力電圧のハンチング現象が発生するのを抑制し、直流出力電圧を安定して出力できる。
【0041】
電圧制御回路部50では、電位差ΔVと電位差VIRとの差分電圧値が閾値Vth2を下回って演算器53から出力される論理値Xbが「L」になると(この形態は出力電流Iが基準電流値を下回ることに相当する)、切替器52はローカル電位VLに切り替えて出力する。したがって、出力電流Iに基づいてリモート制御からローカル制御への切り替えを確実に行うので、従来よりも直流出力電圧のハンチング現象が発生するのをより確実に抑制することができる。
【0042】
電流検出器40は、電源線を流れる電流によって生じる磁力に基づいて出力電流Iの検出を行う磁気型電流検出器を用いた。そのため、電流検出器40を電源線に対して直列的に接続しないので、出力電流Iを変化させない。したがって、出力電流Iを正確に検出して、従来よりも直流出力電圧のハンチング現象が発生するのを抑制できる。
【0043】
電圧制御回路部50は、ローカル電位VLとリモートセンシング電位VSとの電位差ΔVを求める差動増幅器55と、電流検出器40から出力される電圧値VI(出力電流Iの電流値に相当)に出力電源線S1の抵抗値RIを乗算して得られる電圧値(すなわち電位差VIR)と差動増幅器55から出力される電位差ΔVとに基づいて所定の演算を行って論理値Xbを出力する演算器53と、演算器53から出力される論理値Xbと差動増幅器56から出力された電位差(基はリモートセンシング電位VS)に基づく論理値Xcとの論理積を求めて出力する論理積演算回路54と、論理積演算回路54から出力される論理値Xaに基づいてローカル電位VLおよびリモートセンシング電位VSのうち一方の電位に切り替えて出力する切替器52とを備えた(図1を参照)。したがって、従来よりも直流出力電圧のハンチング現象が発生するのを抑制するにあたって、簡単な回路構成で実現することができる。
【0044】
スイッチング電源回路部20は、スイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4のスイッチングにより入力直流電力を交流電力に変換するスイッチング部21と、スイッチング部21が出力する交流電力の電圧を変換するトランス22と、トランス22の出力電力を整流し平滑して出力端子32,33に出力する整流平滑部23とを備えた(図1を参照)。この構成によれば、ハンチング現象の発生に伴うトランス22の磁気飽和が抑制されるのでトランス22の大型化(すなわち最大磁束密度の増大化)を行う必要がなくなり、スイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4に流す電流の変化を少なく抑えられるので当該スイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4の劣化や破壊を防止することができる。
【0045】
〔他の実施の形態〕
以上では本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は当該形態に何ら限定されるものではない。言い換えれば、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施することもできる。例えば、次に示す各形態を実現してもよい。
【0046】
上述した実施の形態では、電流検出器40は直流電源Eとスイッチング部21とを接続する電源線(マイナス側)に備える構成とした(図1を参照)。この形態に代えて、電流検出器40は出力電流Iを検出可能な任意の位置や部位に備えてよい。例えば図4において、実線で示すようにコイルLと出力端子32との間の出力電源線S1に備えてもよく、二点鎖線で示すように直流電源Eとスイッチング部21とを接続する電源線(プラス側)に備えてもよい。いずれの位置や部位に備えた場合でも出力電流Iを検出し、切替器52がリモート制御とローカル制御との切り替えを行うので、従来よりも直流出力電圧のハンチング現象が発生するのを抑制し、直流出力電圧を安定して出力できる。
【0047】
上述した実施の形態では、電流検出器40には出力電流Iによって生じる磁力をコイルやホール素子等で検出する磁気型電流検出器を用いた。この形態に代えて、他の磁気型電流検出器(例えば磁気抵抗効果素子,磁気インピーダンス素子,ウィーガンド・ワイヤ,フラックス・ゲートセンサ,ファラデー素子,プロトン磁力計,電気力学的磁気センサ,超伝導量子干渉素子等を有するもの)を用いてもよい。また、分流器に分流させて生じる電位差で検出する分流型電流検出器や、計器用変流器で変流させ検出する変流式型電流検出器などを用いてもよい。さらには、演算器53がデジタルデータを入力して演算するタイプのものであれば、出力電流Iの電流値をデジタルデータで出力する電流検出器を用いてもよい。いずれの電流検出器であっても出力電流Iを検出してリモート制御とローカル制御との切り替えを行うので、従来よりも直流出力電圧のハンチング現象が発生するのを抑制できる。
【0048】
上述した実施の形態では、スイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4にはMOSFETを用いた(図1を参照)。この形態に代えて、他のスイッチング素子を用いてもよい。他のスイッチング素子としては、例えばMOSFET以外のFET(JFET,MESFET等)、IGBT、GTO、パワートランジスタ等が該当する。他のスイッチング素子を用いた場合でも直流入力電力を交流電力に変換して出力するので、上述した実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0049】
上述した実施の形態では、スイッチング電源回路部20にはトランス型DC−DCコンバータを適用した(図1を参照)。この形態に代えて、他の電源回路を適用することもできる。他の電源回路としては、例えばトランス型以外のDC−DCコンバータ(例えばチョッパ制御型やシリーズレギュレータ等)や、AC−DCコンバータなどが該当する。いずれの電源回路であっても出力電流Iを検出してリモート制御とローカル制御との切り替えを行うので、従来よりも直流出力電圧のハンチング現象が発生するのを抑制できる。
【符号の説明】
【0050】
10 車両用電源装置
20 スイッチング電源回路部
21 スイッチング部
22 トランス
23 整流平滑部
40 電流検出器(出力電流検出手段)
50 電圧制御回路部
51 ドライブ部
52 切替器
53 演算器
54 論理積演算回路
55,56 差動増幅器
Q1,Q2,Q3,Q4 スイッチング素子
S1,S2 出力電源線
S3 電流検出線
S4 ローカル電位線
S5 リモートセンシング電位線
Z 負荷

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流出力電圧を負荷に出力する出力端子と、前記直流出力電圧を制御するスイッチング素子とを有するスイッチング電源回路部と、
前記出力端子の電位としてのローカル電位および前記負荷の電位としてのリモートセンシング電位のうち、前記リモートセンシング電位が正常範囲内にある場合には前記リモートセンシング電位に基づくPWM制御信号により前記直流出力電圧を制御するリモート制御を行い、前記リモートセンシング電位が正常範囲外になった場合には前記ローカル電位に基づくPWM制御信号により前記直流出力電圧を制御するローカル制御を行い、前記リモート制御と前記ローカル制御とを切り替えられる電圧制御回路部とを備えたリモートセンシング電位検出型車両用電源装置において、
前記出力端子から前記負荷に向かって流れる出力電流を検出する出力電流検出手段を備え、
前記電圧制御回路部は、前記出力電流検出手段によって検出された出力電流に基づいて、前記リモート制御と前記ローカル制御との切り替えを行うことを特徴とするリモートセンシング電位検出型車両用電源装置。
【請求項2】
前記電圧制御回路部は、前記リモート制御中に、前記出力電流検出手段によって検出された出力電流が前記基準電流値を下回ったとき、前記ローカル制御への切り替えを行うことを特徴とする請求項1に記載のリモートセンシング電位検出型車両用電源装置。
【請求項3】
前記出力電流検出手段は、前記出力端子に接続される出力電源線を流れる電流によって生じる磁力に基づいて前記出力電流の検出を行うことを特徴とする請求項1または2に記載のリモートセンシング電位検出型車両用電源装置。
【請求項4】
前記電圧制御回路部は、
前記ローカル電位と前記リモートセンシング電位との電位差を求める差動増幅器と、
前記出力電流検出手段から出力される電流値に前記出力電源線の抵抗値を乗算して得られる電圧値と、前記差動増幅器から出力される電位差とに基づいて、所定の演算を行って論理値を出力する演算器と、
前記演算器から出力される論理値と前記リモートセンシング電位に基づく論理値との論理積を求めて出力する論理積演算回路と、
前記論理積演算回路から出力される論理値に基づいて、前記ローカル電位および前記リモートセンシング電位のうち一方の電位に切り替えて出力する切替器と、
を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のリモートセンシング電位検出型車両用電源装置。
【請求項5】
前記スイッチング電源回路部は、
前記スイッチング素子により構成されて前記スイッチング素子のスイッチングにより入力直流電力を交流電力に変換するスイッチング部と、
前記スイッチング部が出力する前記交流電力の電圧を変換するトランスと、
前記トランスの出力電力を整流し平滑して前記出力端子に出力する整流平滑部と、
を有するトランス型DC−DCコンバータからなることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のリモートセンシング電位検出型車両用電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−226839(P2010−226839A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−70048(P2009−70048)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】