説明

リヤアクスルハウジングへのカバー溶接構造及びその溶接方法

【課題】車両に装備されるリヤアクスルハウジングへのカバー溶接構造及びその溶接方法に関し、特殊な溶接装置を用いることなくリヤアクスルハウジングとカバーとの溶接部分におけるに亀裂の発生を防止することができるようにする。
【解決手段】リヤアクスルハウジング1の中央部の穴部周縁1Aに穴部1aを閉塞するカバー2を溶接する溶接構造であって、穴部周縁1Aにカバー2の縁部2bがリヤアクスルハウジング1の外側から連続溶接されると共に、穴部周縁1Aにカバー2の縁部2bの所要箇所がリヤアクスルハウジング1の内側で点溶接されるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に装備されるリヤアクスルハウジングへのカバー溶接構造及びその溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の後輪を駆動するアクスルシャフト等を覆うために、リヤアクスルハウジングが装備される。例えば、図7に示すように、このようなリヤアクスルハウジング1の中央部には、リヤデファレンシャル部分を覆うように、半球面状又は略半球面状のカバー2が装備されている。ない、リヤアクスルハウジング1もカバー2も、一般には鋼板製であり溶接によって固着される。
【0003】
具体的には、リヤアクスルハウジング1の中央部後面は、後方に湾曲するように突出形成されており、この突出した箇所には円形の穴部(図示略)が形成されている。カバー2は、この円形穴部の周縁1Aに円形穴部を閉塞するように、外側から溶接される(溶接ルート部3参照)。
このようなリヤアクスルハウジング1はいくつかの箇所で溶接によって接合形成されるが、特許文献1,2には、このリヤアクスルハウジング1の溶接部のうち、主として突き合せ溶接部分の溶接に関する技術が提案されている。
【特許文献1】特開2002−113573号公報
【特許文献2】特開平7−328765号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、リヤアクスルハウジング1の中央部1A後面に形成された円形の穴部の周縁部とカバー2との溶接ルート部3において、図7に太線で示すようなカバー2の上部左右の特定箇所3a,3bで、図8の断面図に示すような亀裂4が発生するおそれがあり、リヤアクスルハウジングの開発評価段階で課題となることが多い。
このような亀裂4の発生を防止する対策として、カバー2の板厚を増大することや溶接金属の肉盛りをすることによる対応が図られているが、カバー2の板厚を増大することは、リヤアクスルハウジング1の重量増を招き、ひいては車重の増加を招くことになり、新たな課題を招くことになる。また、溶接金属の肉盛りも、加工工数の増加を招く上、適切に肉盛りを行なわなければ確実な亀裂防止対策にならない。
【0005】
特許文献1にも、リヤアクスルハウジング1とカバー2との溶接に関する技術が記載されており、この技術では、リヤアクスルハウジング1の円形穴部の周縁1Aにおいて、カバー2を、リヤアクスルハウジング1の外側から溶接するだけでなく、リヤアクスルハウジング1の内側からも溶接することで、かかる溶接部の強度不足を補う技術も提案されている(段落0016)。しかし、この技術は、かかる文献に提案された特有の溶接トーチを用いることを前提としており、一般的な溶接装置を利用して行なうことは困難である。なお、特許文献1の技術は、リヤアクスルハウジング1の内側の溶接部分において、外側の溶接部分と同様に周方向に連続的に溶接するものと考えられる。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑み案出されたもので、特殊な溶接装置を用いることなく、車両に装備されるリヤアクスルハウジングとカバーとの溶接部分におけるに亀裂の発生を防止することができるようにした、リヤアクスルハウジングへのカバー溶接構造及びその溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明のリヤアクスルハウジングへのカバー溶接構造(請求項1)は、車両に装備されるリヤアクスルハウジングの中央部の穴部周縁に該穴部を閉塞するカバーを溶接する溶接構造であって、前記穴部周縁に前記カバーの縁部が前記リヤアクスルハウジングの外側から連続溶接されると共に、前記穴部周縁に前記カバーの縁部の所要箇所が前記リヤアクスルハウジングの内側で点溶接されることを特徴としている。
【0008】
前記の点溶接箇所は、前記車両後方から見て、左上方領域と、右上方領域と、下方領域とのそれぞれにおいて、少なくとも2点ずつの合計6点以上設けられ、全体として左右対称に配置されていることが好ましい(請求項2)。
あるいは、前記の点溶接箇所は、鉛直中心線上に位置する上部溶接点及び下部溶接点と、水平中心線上に位置する左部溶接点及び右部溶接点と、これらの4点間にそれぞれ等間隔に配置された各3点との合計16点のうちの、前記上部溶接点及び前記下部溶接点と、前記左部溶接点及び前記右部溶接点と、前記上部溶接点と前記左部溶接点とに対して等間隔位置にある上左部溶接点と、前記上部溶接点と前記右部溶接点とに対して等間隔位置にある上右部溶接点との6点を含む、6点〜16点に設けられ、全体として左右対称に配置されていることが好ましい(請求項3)。
【0009】
また、本発明のリヤアクスルハウジングへのカバー溶接方法(請求項4)は、請求項1〜3の何れか1項に記載のリヤアクスルハウジングへのカバー溶接構造を形成するための溶接方法であって、前記穴部周縁に前記カバーの縁部を前記リヤアクスルハウジングの外側から連続溶接する第1工程と、前記穴部周縁に前記カバーの縁部の所要箇所を前記リヤアクスルハウジングの内側で点溶接する第2工程と、を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明のリヤアクスルハウジングへのカバー溶接構造(請求項1)及びカバー溶接方法(請求項4)によれば、穴部周縁にカバーの縁部をリヤアクスルハウジングの外側から連続溶接するのに加えて、穴部周縁にカバーの縁部の所要箇所をリヤアクスルハウジングの内側で点溶接することにより、溶接箇所を僅かに増やすだけで、穴部周縁とカバーの縁部との溶接ルート部における亀裂の発生を効率よく抑制することができる。
【0011】
つまり、穴部周縁とカバーの縁部との溶接ルート部を補強するためには、穴部周縁とカバーの縁部とをリヤアクスルハウジングの内側からも連続溶接する必要がないことは、本願発明者らの検証の結果確認されている。特に、車両後方から見て、左上方領域と、右上方領域と、下方領域とのそれぞれにおいて、少なくとも2点ずつの合計6点以上の箇所で(請求項2)、或いは、鉛直中心線上に位置する上部溶接点及び下部溶接点と、水平中心線上に位置する左部溶接点及び右部溶接点と、上部溶接点と左部溶接点とに対して等間隔位置にある上左部溶接点と、上部溶接点と右部溶接点とに対して等間隔位置にある上右部溶接点との、少なくとも6点において(請求項3)、点溶接を行なえば、上記亀裂の発生を抑制することができることが確認され、このような設定により、溶接負担増を抑えながら、亀裂の発生を効率よく抑制することができる。
【0012】
また、鉛直中心線上に位置する上部溶接点及び下部溶接点と、水平中心線上に位置する左部溶接点及び右部溶接点と、これらの4点間にそれぞれ等間隔に配置された各3点との合計16点まで、点溶接箇所を増やしていけば、亀裂の発生の抑制効果は高まっていくが、これよりもさらに点溶接を増やしても、亀裂の発生の抑制効果の向上はほとんど頭打ちになることが本願発明者らの検証の結果確認されており、かかる16点を点溶接箇所の上限とすれば、亀裂の発生を効率よく抑制することができる。
【0013】
なお、点溶接であれば、各溶接箇所に、カバーの縁部をリヤアクスルハウジングの内側で溶接するにも、リヤアクスルハウジングの外側からのアプローチのみで溶接を実現することが可能であり、特殊な溶接装置を用いることなく溶接を実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面により、本発明の実施の形態について説明する。
図1〜図6は本発明の一実施形態に係るリヤアクスルハウジングへのカバーの溶接構造を示すもので、図1はその溶接箇所の断面図、図2はその点溶接効果を確認するシミュレーションモデルの斜視図、図3はそのシミュレーションモデルの変形時の正面図、図4はそのシミュレーションモデルの変形状態及び応力分布を示すカバーの正面図、図5はそのシミュレーションモデルの変形状態及び応力分布を示すカバーの図面代用写真、図6はそのシミュレーションモデルの変形特性及び応力特性を示すグラフである。
<リヤアクスルハウジングへのカバーの溶接構造>
本実施形態にかかるリヤアクスルハウジングへのカバーの溶接構造も、図1,図7に示すように、車両の後輪を駆動するアクスルシャフト等を覆うために装備されたリヤアクスルハウジング1の中央部に、リヤデファレンシャル部分を覆うように装備された、本体2aが半球面状又は略半球面状に形成されたカバー2のリヤアクスルハウジング1への溶接部分を対象にしている。
【0015】
本実施形態にかかる溶接構造も、従来技術と同様に、図1,図7に示すように、カバー2は、その周縁(フランジ状に形成される)2bをリヤアクスルハウジング1の中央部後面の後方に湾曲するように突出形成された箇所に明けられた円形の穴部1a(図1参照)の周縁1Aに、この円形穴部1aを閉塞するように、外側から溶接される(溶接ルート部3参照)。
【0016】
本実施形態にかかる溶接構造では、これに加えて、図1(a),(b)に示すように、穴部周縁1Aにカバーの縁部2bの所要箇所がリヤアクスルハウジング1の内側において点溶接(符号5参照)で溶接されている。
ただし、リヤアクスルハウジング1及びカバー2が車両後方から見て左右対称に形成されるため、点溶接箇所も、当然ながら左右対称に配置されるが、特定の箇所に配置されることが好ましい。
【0017】
なお、ここで、想定している板厚は、リヤアクスルハウジング1が6〜14mm程度、カバー2がリヤアクスルハウジング1の半分或いは半分よりもやや厚みのある4〜8mm程度とし、また、点溶接は、カバー2の板厚以上を想定する。
<点溶接箇所の効果を検証するためのシミュレーション>
ここで、リヤアクスルハウジング及びカバーを適宜要素分割してシミュレーションモデルを作り有限要素法を用いて、リヤアクスルハウジングに負荷を加えた際のカバーの変形及び応力状態を確認した。
【0018】
まず、モデルは、図2の模式的な斜視図に示すように、リヤアクスルハウジング1を模擬するように左右に延びた梁の中央(符号1A)に本体が半球状のカバー2の縁部2bが溶接されているものとして、梁(リヤアクスルハウジング1)の左右を下方から支持するサスペンションを模したサポートSで支持し、このサポートSよりも外側に、車重に相当する荷重F,Fが加わった場合をシミュレーションした。
【0019】
この荷重F,F及びサポートS,Sに対して、梁(リヤアクスルハウジング1)は図3の模式的な正面図に示すように変形する。そして、この変形に応じたカバー2の変形及び応力分布は、図4に示すようになった。なお、図4において、(a)は点溶接なしの場合を、(b)は点溶接を4箇所で行なった場合を、(c)は点溶接を8箇所で行なった場合を、(d)は点溶接を10箇所で行なった場合を、(e)は点溶接を16箇所で行なった場合を、それぞれ示している。
【0020】
なお、変形及び応力分布を把握しやすくするために、図4の各図は、変形を図面上に誇張して示すと共に、表示濃度で示す応力分布のうち、特に、大きな応力部分の領域についてはその領域をやはり誇張して大きく示している。また、図5の(a)〜(d)では、変形を図面上に誇張して示すと共に変形状態を色によっても示しており、図5の(e)〜(h)では、分布する応力値を色度で示している。
【0021】
ここで、モデルとして設定した点溶接箇所を説明すると、点溶接箇所の候補として、図2にカバー2の縁部2bに沿って示すように、水平中心線上に位置する左部溶接点P1及び右部溶接点P2と、鉛直中心線CL上に位置する上部溶接点P3及び下部溶接点P4と、左部溶接点P1と上部溶接点P3との間に両者に等間隔に設けられた上左部溶接点P5と、右部溶接点P2と上部溶接点P3との間に両者に等間隔に設けられた上右部溶接点P6と、左部溶接点P1と下部溶接点P4との間に両者に等間隔に設けられた下左部溶接点P7と、右部溶接点P2と下部溶接点P4との間に両者に等間隔に設けられた下右部溶接点P8と、の8点と、これらの各溶接点の相互間に両者に等間隔に設けられた溶接点P9〜P16の8点を加えた16点を設けた。
【0022】
そして、点溶接を行なわない場合(オリジナルとも記す)には、図4(a),図5(a),図5(e)に示すように、車両後方から見て、左上方領域R1と、右上方領域R2と、下方領域R3とのそれぞれにおいて、大きな変形と、大きな応力値が発生することがわかる。図3に示す梁モデルの変形を考慮すると、溶接点P9及び溶接点P10は、引張力の影響が強く出たものと考えられ、下部溶接点P4は、圧縮力の影響が強く出たものと考えられる。もちろん、図3に示す梁モデルの変形(中央部が上に凸となる変形)とは逆の変形(中央部が下に凸となる変形)も想定できるが、この場合にも、溶接点P9及び溶接点P10は、圧縮力の影響が強く出て、大きな変形と大きな応力値が発生するものと考えられ、下部溶接点P4は、引張力の影響が強く出て、大きな変形と大きな応力値が発生するものと考えられる。
【0023】
なお、溶接点P9及び溶接点P10は、鉛直中心線CL上の上方に位置する上部溶接点P3から左右に略60度の位置を中心に、これよりも上部溶接点P3に近い側の略30度から上部溶接点P3から離れる側の略30度の範囲に相当し、下部溶接点P4は、鉛直中心線CL上の下方に位置する下部溶接点P4から左右に略45度の範囲に相当するものと考えられる。
【0024】
そして、図4(b),図5(b),図5(f)は、左部溶接点P1,右部溶接点P2,上部溶接点P3及び下部溶接点P4の4箇所で点溶接を行なった場合のシミュレーション結果であり、左上方領域R1と、右上方領域R2と、下方領域R3とのそれぞれにおいて、変形量も応力値も低減されていることがわかる。
また、図4(c),図5(c),図5(g)は、左部溶接点P1,右部溶接点P2,上部溶接点P3及び下部溶接点P4の4箇所に、さらに、上左部溶接点P5,上右部溶接点P6,下左部溶接点P7,下右部溶接点P8の4箇所を加えた、合計8箇所で点溶接を行なった場合のシミュレーション結果であり、左上方領域R1と、右上方領域R2と、下方領域R3とのそれぞれにおいて、図4(b)の4箇所の場合よりもさらに変形量及び応力値とも低減されていることがわかる。
【0025】
また、図4(d)は、図4(c)の8箇所に、さらに、左上方領域R1及び右上方領域R2内に位置する溶接点P9及び溶接点P10を加えた合計10箇所で点溶接を行なった場合のシミュレーション結果であり、全体の変形量及び応力値が抑えられ、左上方領域R1と、右上方領域R2と、下方領域R3とのそれぞれにおいて、図4(c)の8箇所の場合よりもさらに変形量及び応力値とも低減されていることがわかる。
【0026】
さらにまた、図4(e),図5(d),図5(h)は、P1〜P16の16箇所の全てで点溶接を行なった場合のシミュレーション結果であり、全体の変形量及び応力値が抑えられるが、左上方領域R1と、右上方領域R2と、下方領域R3との各相互間で、新たに、応力値が増大してくることがわかる。これは、カバー(特に、リヤアクスルハウジングへのカバーの溶接ルート部)の変形量及び応力値の抑制が次第に頭打ちになってきているものと考えられる。
【0027】
このようなシミュレーション結果(変形のレベル及び応力分布の状態及び応力値)から、図4(b),図5(b),図5(f)の4箇所の点溶接では変形量及び応力値の低減が十分でないが、図4(c),図5(c),図5(g)の8箇所に点溶接を増やすと変形量及び応力値の低減が十分となり、図4(d)の10箇所に点溶接を増やすと、左上方領域R1と、右上方領域R2と、下方領域R3とに、極めて効率よく補強を行なうことができ、変形量及び応力値の低減がより十分となり、図4(e),図5(d),図5(h)の16箇所に点溶接を増やすと、むしろこれ以上点溶接箇所を増やしてもあまり有効ではないと判断することができる。
【0028】
なお、図6(a)は、上述の点溶接の箇所の数(オリジナル,4箇所,8箇所,16箇所)に対するルート溶接部分の変位比〔オリジナルの最大変位に対する各点溶接箇所数の最大変位の比〕を示し、図6(b)は、上述の点溶接の箇所の数に対するルート溶接部分に発生する応力比の特性を示すもので、図示するように、オリジナルから4箇所,8箇所と溶接箇所の数を増やしていくと変位比〔オリジナルの最大応力値に対する各点溶接箇所数の最大応力値の比〕も応力比も減少していくが、溶接箇所の数を16箇所に増やすと、応力比は減少するものの変位比は却って増加し、点溶接箇所を増やしてもあまり有効ではないことがわかる。これは、変形モードに対して効果的に抑制しうる点溶接箇所の数(もちろん、配置にも関係する)があり、点溶接箇所を増やすと却って局部的に応力が発生する場合があるためと考えられる。
【0029】
そこで、本実施形態では、左部溶接点P1及び右部溶接点P2と、上部溶接点P3及び下部溶接点P4と、これらの4点間にそれぞれ等間隔に配置された各3点の溶接点P5〜P16との合計16点のうちの、左部溶接点P1及び右部溶接点P2と、上部溶接点P3及び下部溶接点P4と、上部溶接点P3と左部溶接点P1とに対して等間隔位置にある上左部溶接点P5と、上部溶接点P3と右部溶接点P2とに対して等間隔位置にある上右部溶接点P6との6点を含む、6点〜16点に、全体として左右対称になるように溶接点を設けるようにしている。
【0030】
本発明の一実施形態にかかるリヤアクスルハウジングへのカバー溶接構造は上述のように構成されているので、リヤアクスルハウジング1の穴部周縁1Aにカバー2の縁部2bをリヤアクスルハウジング1の外側から連続溶接する(第1工程)のに加えて、例えば、この連続溶接後に、穴部周縁1Aにカバー2の縁部2bの所要箇所(少なくとも、図2に示す溶接点P1〜P6)をリヤアクスルハウジング1の内側で点溶接する(第2工程)。これにより、溶接箇所を僅かに増やすだけで、穴部周縁1Aとカバー2の縁部2bの溶接ルート部における亀裂の発生を効率よく抑制することができる。
【0031】
特に、左部溶接点P1及び右部溶接点P2と、上部溶接点P3及び下部溶接点P4と、上左部溶接点P5及び上右部溶接点P6との6点のみに対して点溶接を行なうだけで、必要な亀裂発生の効果が得られ、亀裂の発生を極めて効率よく抑制することができる。
また、図2に示す溶接点P1〜P16の16箇所よりも点溶接を増やしてあまり効果は得られないことから、溶接点をこれらの16箇所までに抑えれば、亀裂の発生を効率よく抑制することができる。
【0032】
また、点溶接であれば、各溶接箇所に、カバーの縁部をリヤアクスルハウジングの内側で溶接するにも、リヤアクスルハウジングの外側からのアプローチのみで溶接を実現することが可能であり、特殊な溶接装置を用いることなく溶接を実施することができる。
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【0033】
例えば、6点のみに対して点溶接を行なう場合に、左部溶接点P1及び右部溶接点P2と、上部溶接点P3及び下部溶接点P4と、上左部溶接点P5及び上右部溶接点P6との6点に対して点溶接を行なうものとしているが、図4に示すように、左上方領域R1と、右上方領域R2と、下方領域R3とのそれぞれに、2点ずつの合計6点で、もちろん、左右対称で、各領域で各点溶接箇所が略同様に荷重分担する位置に、点溶接箇所を配置すれば、亀裂の発生を効率よく抑制することができる。なお、点溶接で補強する場合、左上方領域R1、右上方領域R2、下方領域R3の各領域に1点では十分でなく、2点であれば亀裂の発生を十分に抑制することができるとの知見から導かれたものである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態にかかるリヤアクスルハウジングへのカバーの溶接箇所を示す断面図であり、(a)はその要部断面図、そのカバー全体及びリヤアクスルハウジング要部の断面図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかるリヤアクスルハウジングへのカバーの点溶接に関するリヤアクスルハウジングのシミュレーションモデルの斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態にかかるリヤアクスルハウジングへのカバーの点溶接に関するリヤアクスルハウジングのシミュレーションモデルの変形時の正面図である。
【図4】本発明の一実施形態にかかるリヤアクスルハウジングへのカバーの点溶接に関するリヤアクスルハウジングのシミュレーションモデルの変形状態及び応力分布を示すカバーの正面図であり、(a)〜(e)の順に点溶接箇所を増やした場合について示している。
【図5】本発明の一実施形態にかかるリヤアクスルハウジングへのカバーの点溶接に関するリヤアクスルハウジングのシミュレーションモデルの変形状態及び応力分布を示すカバーの図面代用写真であり、(a)〜(d)の順に点溶接箇所を増やした場合の変形状態を示し、(e)〜(h)の順に点溶接箇所を増やした場合の応力分布状態を示している。
【図6】本発明の一実施形態にかかるリヤアクスルハウジングへのカバーの点溶接に関するリヤアクスルハウジングのシミュレーションモデルの変形特性及び応力特性を示すグラフである。
【図7】従来技術及び本発明の課題を説明するためのリヤアクスルハウジングへのカバーの溶接箇所を示す正面図である。
【図8】従来技術及び本発明の課題を説明するためのリヤアクスルハウジングへのカバーの溶接箇所を示す要部断面図である。
【符号の説明】
【0035】
1 リヤアクスルハウジング
1A 円形穴部1aの周縁
1a 円形穴部
2 カバー
2a カバー2の本体
2b カバー2の周縁(縁部)
3 溶接ルート部
4 亀裂
5 点溶接部
P1〜P16 溶接点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に装備されるリヤアクスルハウジングの中央部の穴部周縁に該穴部を閉塞するカバーを溶接する溶接構造であって、
前記穴部周縁に前記カバーの縁部が前記リヤアクスルハウジングの外側から連続溶接されると共に、前記穴部周縁に前記カバーの縁部の所要箇所が前記リヤアクスルハウジングの内側で点溶接される
ことを特徴とする、リヤアクスルハウジングへのカバー溶接構造。
【請求項2】
前記の点溶接箇所は、前記車両後方から見て、左上方領域と、右上方領域と、下方領域とのそれぞれにおいて、少なくとも2点ずつの合計6点以上設けられ、全体として左右対称に配置されている
ことを特徴とする、請求項1記載のリヤアクスルハウジングへのカバー溶接構造。
【請求項3】
前記の点溶接箇所は、鉛直中心線上に位置する上部溶接点及び下部溶接点と、水平中心線上に位置する左部溶接点及び右部溶接点と、これらの4点間にそれぞれ等間隔に配置された各3点との合計16点のうちの、前記上部溶接点及び前記下部溶接点と、前記左部溶接点及び前記右部溶接点と、前記上部溶接点と前記左部溶接点とに対して等間隔位置にある上左部溶接点と、前記上部溶接点と前記右部溶接点とに対して等間隔位置にある上右部溶接点との6点を含む、6点〜16点に設けられ、全体として左右対称に配置されている
ことを特徴とする、請求項1記載のリヤアクスルハウジングへのカバー溶接構造。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載のリヤアクスルハウジングへのカバー溶接構造を形成するための溶接方法であって、
前記穴部周縁に前記カバーの縁部を前記リヤアクスルハウジングの外側から連続溶接する第1工程と、
前記穴部周縁に前記カバーの縁部の所要箇所を前記リヤアクスルハウジングの内側で点溶接する第2工程と、を有する
ことを特徴とする、リヤアクスルハウジングへのカバー溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−150479(P2009−150479A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−328749(P2007−328749)
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】