説明

リラックス効果を有する飲料水

【課題】本発明の目的は、心拍数低下や副交感神経活動亢進を通じてリラックス効果を得ることが可能な飲料水を提供することである。
【解決手段】硬度を60〜2000に調整し、所望により摂氏20度における炭酸ガス内圧を1.0〜3.8kg/cmとすることにより、日常的に無理のない摂取量でリラックス効果の得られる飲料水を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リラックス効果をもたらす飲料水、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体は、さまざまな環境変化に適応して、生体内部の環境を一定に保つ機能を備えている。生体の恒常性(ホメオスタシス)は、自律神経系、内分泌系、免疫系等が相互作用しあってバランスを取ることによって維持されている。
【0003】
中でも、最大の恒常性維持システムは自律神経系である。自律神経系は、意識的な制御とは無関係に、内臓の諸器官に働き、呼吸、消化、循環、体温、ホルモン分泌等を調節している。自律神経系は交感神経系と副交感神経系からなり、気温や日照などの外部環境変化や、栄養状態などの内部環境変化に応じてこれら2つの神経系が拮抗し、それらの変化に適応した体内環境をつくりだす。
【0004】
一般に、生体の活動時には交感神経が、リラックス時には副交感神経が優位に働くことがわかっている。交感神経が優位に働いているときには、心拍数の増大や消化器官の活動抑制などが生じ、副交感神経が優位に働いているときには、心拍数の低下や消化器官の活動増大などが生じる(非特許文献1)。
【0005】
このような交感神経と副交感神経のバランスは、ヒトにおける心の状態とも密接に関連することがわかってきた。たとえばうつ状態では、リラックス時に活動が亢進するはずの副交感神経の活動が低下しているが、快癒すると、リラックス時には副交感神経が優位に働く正常なバランスを取り戻す。また、過度なストレスにさらされると、やはり副交感神経がうまく機能せずに、交感神経の活動が亢進し続け、不眠等の体調不良を引き起こすこともわかってきた(非特許文献2)。自律神経系の機能低下によって起こるさまざまな愁訴は自律神経失調症と呼ばれ、クオリティ・オブ・ライフ(QOL)の維持向上に著しい悪影響を及ぼす。
【0006】
飲水が心拍数や血圧に及ぼす急性的な影響はいくつか報告されている。日本人を対象とした研究では、Endoらが一日に25℃の1リットルの水道水を平均年齢25歳の健康な男性に負荷すると、飲水中および飲水後に著明な血圧上昇と心拍数低下(7〜8拍)を認めたと報告されている(非特許文献3)。しかし、一度にこれだけの水を摂取することは難しい。また、どのような種類の水によって効果的に心拍数低下などのリラックス効果が得られるかについてはほとんど知られていない。
【非特許文献1】からだの仕組みがわかる本、132〜133頁(桜木晃彦著、新星出版社、2003年)
【非特許文献2】日経ヘルス7月号、64〜65頁、2006年
【非特許文献3】Endo Y, Torii R, Yamazaki F, et al. Water drinking causes a biphasic change in blood composition in humans. Eur J Physiol 442:362-368, 2001
【発明の開示】
【0007】
本発明は、以上の背景から、無理のない実用的な摂取量で、効果的にリラックス効果をあることができる飲料水を提供することを目的とする。
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意探索を重ねた結果、ある一定範囲の硬度を有する水、さらに一定量の炭酸ガス内圧を含んだ飲料水が、顕著な心拍数低下作用および/または副交感神経活動亢進作用を通じたリラックス効果を示すこと、および1回の摂取量が250mlという無理なく摂取できる量の飲水によって高いリラックス効果が得られることを発見し本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、硬度が60〜2000の水を含むリラックス効果を有する飲料水である。
本発明のリラックス効果は、心拍数低下作用および/または副交感神経活動亢進作用に基づくものである。
【0009】
また、本発明は、硬度が60〜2000であり、さらに炭酸ガスを摂氏20度における内圧として1.0〜3.8kg/cmで含むリラックス効果を有する飲料水である。
また、本発明は、硬度が60〜2000であり、さらに炭酸ガスを摂氏20度における内圧として1.0〜3.8kg/cmで含む飲料水の容器詰め飲料である。
【0010】
さらに、本発明は、硬度を60〜2000に調整し、所望により摂氏20度における炭酸ガス内圧を1.0〜3.8kg/cmに調整し、さらに容器に詰める工程を含むリラックス効果を有する容器詰めの飲料水の製造方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、硬度が60〜2000、所望により炭酸ガスを摂氏20度における内圧として1.0〜3.8kg/cmで含むリラックス効果を有する飲料水、またはその製造方法である。
リラックス作用を有する飲料水
本発明の飲料水は、硬度が60〜2000の範囲である。リラックス効果は、水の硬度が高いほど大きくなる。従って、より大きいリラックス効果を得るには硬度の高い飲料水が好ましく、例えば硬度90〜1500、より好ましくは硬度500〜1500、さらに好ましくは硬度1000〜1500である。
【0012】
硬度とは、水の中に含まれるミネラル類のうちカルシウムとマグネシウムの合計含有量の指標である。計算法によってアメリカ硬度、ドイツ硬度、フランス硬度、イギリス硬度等の種類があるが、本明細書および特許請求の範囲では、アメリカ硬度に基づいて標記している。アメリカ硬度とは、水1リットル中に含まれるカルシウムおよびマグネシウムの量を、炭酸カルシウムの量に換算する。計算式は、カルシウムの原子量は40、マグネシウムの原子量は24.3、炭酸カルシウムは100であるので、アルカリ硬度(mg/L)=カルシウム量(mg/L)×2.5+マグネシウム量(mg/L)×4.1となる。
【0013】
本発明の飲料水は、より大きなリラックス効果を得るには炭酸ガスを含んでいるのが好ましい。炭酸量は、ある温度における炭酸ガス内圧として表示することができる。本発明の飲料水は、炭酸ガスを摂氏20度における内圧として1.0〜3.8kg/cmで含む。好ましくは、摂氏20度における内圧として1.5〜3.5kg/cm、より好ましくは摂氏20度における内圧として2.0〜3.5kg/cmで含む。
【0014】
本発明のリラックス用飲料水に用いる原料水は、硬度が60〜2000に調整しうるものであれば、特に限定はされず、硬度が明らかな種々の天然水を用いても良いし、蒸留水やイオン交換水、または天然水に適宜ミネラルを添加して調整しても良い。添加するミネラルの種類および量は、硬度が60〜2000に制御されれば特に限定はされないが、好ましくは硬度が90以上になるように、カルシウムおよび/またはマグネシウムが添加される。
【0015】
本発明の飲料水に炭酸ガスを含める方法については、20度におけるガス内圧が1.0〜3.8kg/cmに調整することができれば特に限定はされず、当業者が通常用いる方法を適宜適用して所望のガス内圧に調整しても良いし、天然の炭酸ガスを含んだ天然水を用いても良い。
【0016】
本発明の飲料水によって、効果的にリラックス効果を得るには、液温は摂氏0〜30度が適している。さらに好ましくは摂氏10〜25度である。
本発明の飲料水は、一回の飲水量では250ml以下にて、効果的にリラックス効果をもたらすことができる。従って、本発明の飲料水は、50ml〜250mlの容量で容器詰めにされるのが好ましい。
【0017】
以上のようにして得られた飲料水は、リラックス効果を有する飲料水としてそのまま用いることができ、実質的に0キロカロリーであり好ましい。また、本発明の効果に影響を及ぼさない範囲で、甘味料、酸味料、香料、酸化防止剤等を適宜加えて用いても良いし、果汁、乳、乳成分をさらに加えた飲料としても良い。また、ビタミン類、ポリフェノール類、アミノ酸、ペプチド、タンパク質等を添加した健康補助飲料としても良いし、適正な瓶に充填したドリンク剤とすることもできる。飲料水への添加物の添加法や、容器への充填法は、製品の性質等を考慮しつつ、当業者が適宜選択し、実施することができる。
【0018】
本発明の飲料水は、リラックス効果を有する。リラックス効果は、心拍数および自律神経活動を測定することにより、評価することができる。具体的には、心拍数の低下、およびサンプリングした心電図のデータから、Matumoto et al. (Obesity Research p78-85, Vol.9, No.2 February 2001)の方法に従い、心拍変動パワースペクトル解析により心臓自律神経活動を評価することができる。例えば、パワースペクトルの周波数帯域のうち、0.03−0.15Hzを交感・副交感両神経活動を反映する低周波帯域(Low-frequency:LF)、0.15−0.5Hzを副交感神経活動を反映する高周波数帯域(High-frequency:HF)、0.007−0.035Hzを熱産生にかかわる交感神経活動を反映する超低周波帯域(Very-low frequency:VLF)、及び0.007〜0.7Hz間の総和(Total power:TP)を総自律神経活動として評価することができる。
リラックス作用を有する飲料水の製造方法
本発明のリラックス効果を有する飲料水の製造方法は、飲料水の硬度を60〜2000に調整する工程、所望により摂氏20度における炭酸ガス内圧を1.0〜3.8kg/cmに調整する工程、さらに容器に詰める工程を含む。
【0019】
硬度は、上述のように本明細書および特許請求の範囲では、アメリカ硬度に基づいて標記している。用いる原料水は、硬度が60〜2000に調整しうるものであれば、特に限定はされず、硬度が明らかな種々の天然水を用いても良いし、蒸留水やイオン交換水、または天然水に適宜ミネラルを添加して調整しても良い。添加するミネラルの種類および量は、硬度が60〜2000に制御されれば特に限定はされない。
【0020】
摂氏20度におけるガス内圧の1.0〜3.8kg/cmへの調整は、当業者が通常用いる方法を適宜適用して、所望のガス内圧に調整することができる。
得られた飲料水の容器への充填は、製品の性質等を考慮しつつ、当業者が適宜選択し、実施することができる。
【実施例】
【0021】
本発明を実施例によってさらに詳しく説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。
〔実施例1〕 試験水を用いたリラックス効果の評価
(対象)
被験者は健康な若年女性とし、1)非肥満・非喫煙者で代謝性疾患を有していない、2)呼気ガス測定の経験者で測定データが安定している、の2条件を満たす10名を対象とした。
(試験サンプル)
試験サンプルとして、サンプルA(硬度94mg/L)、サンプルB(硬度94mg/L、炭酸入り)、サンプルC(硬度1468mg/L)の3種を用い、水の温度は15℃、量は250mlとした。各サンプルの組成を表1に示した。
【0022】
【表1】

【0023】
(試験方法)
何も飲まない日をコントロール(CT)試行とした。一人の被験者につき4試行をランダムな順序で、3週間以内の異なる日の同時刻に実施した。
【0024】
各被験者には、検査日前日にはカフェイン、香辛料、かんきつ類、油の多い食事、激しい運動を避けること、および前夜10時からの絶食と実験開始2時間前からの絶飲を依頼した。4試行とも午前中の同時刻(8:30または9:30)に室温を25−26℃に調整した実験室に来室してもらい、トイレを済ませて検査衣に着替えた後、脚伸展座位にて、安静時、飲水負荷直後、および15、30、45、60分後の計6回、心電図を8分ずつサンプリングした。
(自律神経活動の評価)
サンプリングした心電図のデータから、前述のMatumotoらの方法に従い、心拍変動パワースペクトル解析により心臓自律神経活動を評価した。パワースペクトルの周波数帯域のうち、0.03−0.15Hzを交感・副交感両神経活動を反映する低周波帯域(Low-frequency:LF)、0.15−0.5Hzを副交感神経活動を反映する高周波数帯域(High-frequency:HF)、0.07−0.035Hzを交感神経活動を反映する超低周波帯域(Very-low frequency:VLF)、及び0.007〜0.5Hz間の総和(Total power:TP)を総自律神経活動として評価した。(図1)
(飲水による心拍数低下効果)
図2に心拍数の変化を示した。コントロール試行(飲水なしの安静状態)では、約1拍の低下にとどまったものの、サンプルA飲水後には約3.5拍、サンプルB、サンプルC飲水後では約6拍と顕著な心拍数低下が認められた。試行間の経時変化のパターンにも有意な差異を認めた(p=0.019)。
(副交感神経活動亢進効果)
図3に、自律神経活動の各指標の経時変化を、測定前(REST)を100とした相対値で示した。副交感神経活動を示すHFパワーは、コントロール試行では60分間ほぼ一定であったのに対して、飲水後の3試行では、いずれも飲水直後より15分〜30分後に上昇し、60分後にもRESTより高値が維持されていた。この結果を飲水後の心拍数の有意な低下とあわせると、飲水によって副交感神経活動が亢進したものと考えられる。
発明の効果
本発明の飲料水は、原料水の硬度が60〜2000、さらに所望によりその摂氏20度における炭酸ガス内圧が1.0〜3.8kg/cmに制御されることにより、日常的に無理のない摂取量でリラックス効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、8分間の心拍変動(A)とそれに呼応するパワースペクトルを示す。
【図2】図2は、心拍数の経時変化(二元配置分散分析、反復あり)を示す。
【図3】図3は、自律神経活動の各指標(測定前[REST]=100としたときの相対値)の経時変化を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬度が60〜2000の水を含む、リラックス効果を有する飲料水。
【請求項2】
リラックス効果が心拍数低下作用および/または副交感神経活動亢進作用に基づくものである、請求項1記載の飲料水。
【請求項3】
さらに炭酸ガスを摂氏20度における内圧として1.0〜3.8kg/cmで含む、請求項1または2記載の飲料水。
【請求項4】
硬度が90〜1500である、請求項項1〜3のいずれか一項記載の飲料水。
【請求項5】
摂氏20度における炭酸ガス内圧が1.5〜3.5kg/cmである、請求項3記載の飲料水。
【請求項6】
摂氏10〜25度に保たれた、請求項1〜5のいずれか一項記載の飲料水。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項記載の飲料水を含む容器詰め飲料。
【請求項8】
50ml〜250mlの容量である、請求項7記載の容器詰め飲料。
【請求項9】
リラックス効果を有する容器詰めの飲料水の製造方法であって、
硬度を60〜2000に調整し、
所望により摂氏20度における炭酸ガス内圧を1.0〜3.8kg/cmに調整し、
さらに容器に詰める工程を含む、前記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−274980(P2009−274980A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−127056(P2008−127056)
【出願日】平成20年5月14日(2008.5.14)
【出願人】(309007911)サントリーホールディングス株式会社 (307)
【Fターム(参考)】