説明

リラックス装置、乗物

【課題】呼吸時間に関する目標時間を使用者が把握できるようにし、呼吸時間を目標時間に誘導する意識付けを行い、使用者をリラックスさせる状態に素早く導く。
【解決手段】呼吸時間入力手段41は、シート部に臀部および背部を載せた使用者の呼吸時間が入力される。目標設定手段42は、使用者の呼吸時間を伸張させるように目標時間を定める。誘導制御手段43は、使用者の呼吸時間を目標時間に誘導するように、刺激手段により使用者に与える刺激を変化させる。呼吸情報提示手段44は、誘導制御手段43による刺激の変化と、目標設定手段42が定めた目標時間とを使用者に提示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用者の呼吸を誘導することで副交感神経を優位にさせ、神経の鎮静や睡眠の誘導を図るリラックス装置、このリラックス装置を搭載した乗物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、使用者に規則正しいリズムで呼吸をさせるように使用者の呼吸を誘導する装置が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。特許文献1には、使用者である運転者が規則正しいリズムで呼吸を行うように誘導することで、安全運転に影響を及ぼす怒りや興奮を抑制する旨の記載がある。
【0003】
特許文献1では、呼吸を誘導する技術として2種類の技術が採用されている。一方の技術においては、視覚的あるいは聴覚的に呼吸のタイミングを提示している。また、他方の技術においては、自動車のシートバックに呼吸誘導のタイミングに合わせて上下に移動するもみ球を設け、呼吸による運転者の肋骨の動きを補助する動作で呼吸のタイミングを誘導している。
【0004】
さらに、運転者の1回の呼吸に要する時間(呼吸周期)をシートセンサにより検出し、検出した呼吸周期を目標周期に誘導するために、運転者の呼吸周期に所定のステップ時間を1周期ごとに加算して誘導周期を設定している。誘導周期は、呼吸の誘導を行う周期であり、シートセンサが検出した呼吸周期に一定のステップ時間を加算することにより設定される。そして、呼吸周期にステップ時間を加算して誘導周期を設定する処理は、呼吸周期が目標周期に達するまで続けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−237456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載された技術では、使用者(運転者)の呼吸周期の1周期毎に呼吸周期に対して一定のステップ時間が加算されるから、誘導周期は、使用者の呼吸周期に対してつねに一定時間だけ長い呼吸周期を求めるように設定される。
【0007】
ここで、呼吸周期は変動するから、誘導周期は目標周期に向かって単調に増加するとは限らない。そのため、使用者は、呼吸周期が目標周期に達するまでは、呼吸周期が長くなっていることを実感できない。すなわち、使用者にとっては目標周期が示されないままに呼吸周期の延長が強制されているように感じられ、目標周期に到達するまでに要する時間が長くなりやすいという問題が生じる。
【0008】
本発明は、呼吸誘導を行ってリラックスさせるにあたり、呼吸時間に関する目標時間を使用者に提示することにより、使用者に呼吸時間の意識付けを行い、このことによって、呼吸時間が目標時間に達するまでの時間を短縮することを可能にし、結果的に、精神の鎮静や睡眠への誘導を迅速に行って、使用者をリラックスさせる状態に素早く導くようにしたリラックス装置を提供することを目的とする。さらに、本発明は、このリラックス装置を搭載した乗物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために、シート部に臀部および背部を載せた使用者の呼気の時間と吸気の時間との少なくとも一方である呼吸時間を入力する呼吸時間入力手段と、使用者の呼吸時間を伸張させるように目標時間を定める目標設定手段と、目標設定手段が定めた目標時間を使用者に提示する呼吸情報提示手段と、使用者に刺激を与える刺激手段と、使用者の呼吸時間を目標時間に誘導するように刺激手段による刺激を変化させる誘導制御手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
誘導制御手段は、呼吸時間入力手段から入力された呼吸時間に時間経過に応じた既定の変化を加えた制御時間を求め、制御時間に同期させて刺激手段による刺激を変化させることにより、使用者の呼吸時間を目標時間に向かって徐々に誘導するのが望ましい。
【0011】
刺激手段は、使用者においてシート部が支持している部位に触覚刺激を与える触覚刺激手段であって、誘導制御手段は、触覚刺激手段による刺激位置を変化させることが望ましい。
【0012】
また、刺激手段は、使用者においてシート部が支持している部位に触覚刺激を当てる触覚刺激手段であって、誘導制御手段は、触覚刺激手段による刺激量を変化させることが望ましい。
【0013】
触覚刺激手段は、シート部において使用者を支持する部位に並べて設けた複数個のエアバッグと、各エアバッグへの吸排気を行う吸排気手段とを備えることが望ましい。
【0014】
あるいはまた、触覚刺激手段は、シート部において使用者を支持する部位に並べて設けた複数個のエアバッグと、各エアバッグへの吸排気を行う吸排気手段とを備え、シート部の少なくとも一部の部位にはエアバッグが重ねて配置されていることが望ましい。
【0015】
吸排気手段は、使用者を支持した状態において各エアバッグに作用する荷重が規定値になる状態を初期状態とし、誘導制御手段は、初期状態を基準にして刺激を変化させることが望ましい。
【0016】
また、誘導制御手段は、吸排気手段を制御することによりエアバッグによる刺激を変化させ、呼吸情報提示手段は、吸排気手段による吸気音と排気音との少なくとも一方を使用者に知覚させるようにしてもよい。
【0017】
刺激手段は、触覚刺激と視覚刺激と聴覚刺激とのうちの少なくとも1種類の刺激を使用者に与えることが望ましい。
【0018】
刺激手段は三次元音響による聴覚刺激を使用者に与え、誘導制御手段は音像の位置を刺激の変化として制御してもよい。
【0019】
さらに、シート部において使用者の四肢に接触する部位に設けた加熱手段と、使用者に呼吸を誘導する音声メッセージを出力する音出力手段とをさらに備え、誘導制御手段は、音出力手段から出力する音声メッセージの内容に合わせて加熱手段による発熱量を調節するようにしてもよい。
【0020】
また、上述したシート部を備える乗物に上述したリラックス装置を搭載することが望ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の構成によれば、呼吸誘導を行ってリラックスさせるにあたり、呼吸時間に関する目標時間を使用者に提示することにより、使用者に呼吸時間の意識付けを行い、このことによって、呼吸の状態が目標時間に達するまでの時間を短縮することを可能にし、結果的に、精神の鎮静や睡眠への誘導を迅速に行って、使用者をリラックスさせる状態に素早く導くことができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施形態を示すブロック図である。
【図2】同上に用いるシート部の正面側から見た斜視図である。
【図3】同上に用いるシート部の概略斜視図である。
【図4】同上に用いるシート部の動作説明図である。
【図5】同上に用いるエアバッグの構成例を示す図である。
【図6】同上に用いる呼吸情報提示手段の動作例を示す図である。
【図7】同上に用いる呼吸情報提示手段の動作例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に説明するリラックス装置は、自動車を代表例とする乗物に搭載される場合(とくに、後部座席に使用するのが望ましい)について説明する。ただし、乗物に搭載することは必須ではなく、安楽椅子、ベッド、マッサージチェアなどの形態での使用を妨げるものではない。また、本実施形態では、着座して使用する椅子型の装置について説明するが、伏臥した姿勢でも利用可能であって、伏臥して使用する寝具型の装置などを構成してもよい。本実施形態では、これらの装置について、使用者を支持する部材をシート部と呼ぶ。
【0024】
本実施形態では、図2〜4に示すように、自動車の座席に相当する構造物をシート部20とする。図示するシート部20は、使用者の臀部を支持する座部21と、使用者の背中を支持する背もたれ部22と、使用者の脚部を支持する脚載せ部23とを備える。脚載せ部23は必須ではないが、使用者の快適性を向上させるために設けている。また、シート部20は、図4リクライニング機能を有しており、背もたれ部22と脚載せ部23とは、それぞれ座部21に対する角度が変更可能になっている(実線の位置が通常の状態を示し、破線の位置がリクライニングの状態を示す)。さらに、座部21の両側部には使用者が腕を載せる肘掛け部24が設けられ、背もたれ部22の両側部には使用者の上体側部を支持する脇当て部25が設けられている。シート部20にはヘッドレストを設けてもよい。
【0025】
図2、図3に示すように、シート部20において使用者の荷重を支持する部位には複数個のエアバッグ30が配置される。具体的には、座部21の上面と、背もたれ部22および脚載せ部23の前面と、肘掛け部24および脇当て部25の内側面とに、それぞれエアバッグ30が配置される。シート部20がヘッドレストを備える場合には、ヘッドレストにもエアバッグ30を設けるのが望ましい。背もたれ部22には使用者の脊柱の長さ方向に沿って複数個のエアバッグ30が並べて設けられ、脚載せ部23には使用者の脚の長さ方向に沿って複数個のエアバッグ30が並べて設けられる。
【0026】
エアバッグ30について上述の配置は一例であって、シート部20に載った使用者を支持する部位にエアバッグ30が並べて設けられていれば、具体的な配置は適宜に定めることができる。ただし、少なくとも背もたれ部22と脚載せ部23とにおいては、使用者の脊柱および脚の長さ方向に沿ってそれぞれ複数のエアバッグ30を配置することが望ましい。
【0027】
各エアバッグ30は、ポンプおよび弁を備えた吸排気手段31(図1参照)に接続されている。吸排気手段31は、各エアバッグ30の吸排気を個別に行えるように各エアバッグ30に接続される。すなわち、エアバッグ30ごとに吸気と排気とを行うように弁が制御される。
【0028】
また、シート部20の少なくとも一部の部位では、図5に示すように、複数のエアバッグ30を重ねて配置してもよい。エアバッグ30を重ねて配置することにより、1個の弁を通過する空気の流量に制限がある場合でも、使用者に与える変位量を大きくすることができる。すなわち、エアバッグ30による変位量を大きくする必要がある部位では、複数のエアバッグ30を重ねて配置すればよい。
【0029】
エアバッグ30および吸排気手段31は、触覚刺激手段として設けられているが、触覚刺激手段としては、背もたれ部22を上下に移動して、使用者の腰から首までの所望位置を押圧する玉状のもみ玉あるいは輪状のもみ輪を用いてもよい。触覚刺激手段としてもみ玉やもみ輪を用いる場合は、マッサージチェアに用いられている機構を流用することができる。
【0030】
上述のような触覚刺激手段は、使用者に触覚刺激を与える刺激手段として用いられている。使用者に刺激を与える刺激手段としては、触覚刺激のほか視覚刺激や聴覚刺激を用いてもよい。視覚刺激や聴覚刺激は単独で用いることができ、また、視覚刺激と聴覚刺激とを組み合わせて用いることができる。
【0031】
視覚刺激としては、照明による光量や光色、映像による表示内容を用いればよい。照明を行うための照明器具32(図1参照)あるいは映像を表示するための表示装置33(図1参照)は、シート部20と一体に設けることができるが、シート部20の周囲の照明を制御したり、映像を使用者に見やすくするには、シート部20とは別に乗物内に配置すればよい。表示装置33は、使用者の正面に配置されるモニタ装置のほか、乗物の天井に映像を投影する投影装置、使用者が頭部に装着するヘッドマウントディスプレイなどから選択することができる。
【0032】
同様に、聴覚刺激としては、音量、音の内容、音像の位置などを用いる。聴覚刺激を使用者に与えるには、スピーカからなる音出力手段34(図1参照)を用いる構成が一般的であるが、音出力手段34としては、ヘッドホン、イアスピーカ、骨伝導装置も用いることができる。あるいはまた、エアバッグ30の吸排気音をシート部20に載った使用者に聞こえるように吸排気手段31を配置することによって、聴覚刺激を与えるようにしてもよい。吸排気音を聴覚刺激として利用する動作は後述する。
【0033】
音出力手段34としてスピーカを用いる場合に、乗物の車室内に多数個のスピーカを配置することによって三次元音響を与えるようにしてもよい。多数個のスピーカを設けて三次元音響を生成すると、音像の位置を正確に制御することができるが、シート部20に載っている使用者以外には聴覚刺激が騒音になる場合もある。したがって、シート部20における背もたれ部22の上部に音出力手段34として左右のスピーカを設け、頭部伝達関数を利用して疑似的に三次元音響を生成してもよい。三次元音響を聴覚刺激として利用する動作は後述する。
【0034】
ところで、本実施形態では、使用者の呼気の時間と吸気の時間との少なくとも一方である呼吸時間を入力する呼吸時間入力手段41(図1参照)を備える。呼吸時間入力手段41は、具体的には、可変抵抗器、テンキー、タッチパネルなどから選択される操作部を備え、操作部の操作により設定された呼吸時間を保持する。以下の説明では、呼吸時間として、呼気の時間を用いる場合について説明するが、呼気と吸気との時間を合計した呼吸周期を呼吸時間に用いる場合や、吸気の時間を呼吸時間に用いる場合もある。
【0035】
呼吸時間入力手段41に入力する使用者の呼気の時間は、通常は、使用者が自身の呼気の時間をあらかじめ測定し、呼吸時間入力手段41を用いて自己申告として入力する。ただし、他者が使用者の呼吸の時間を測定し、その値を呼吸時間入力手段41に入力することも可能である。
【0036】
呼吸時間入力手段41に入力された呼気の時間(呼吸時間)は、以下に説明する制御手段40に与えられる。制御手段40は、マイコン、FPGAなどプロセッサを備えプログラムに従って動作するデバイスを用いて構成される。
【0037】
制御手段40は、使用者の呼気の時間(呼吸時間)を伸張させるように目標時間を定める目標設定手段42と、使用者の呼気の時間を目標時間に誘導するように刺激手段による刺激を変化させる誘導制御手段43とを備える。目標設定手段42は使用者の呼気の時間として最終的に達成させようとする目標時間(以下、「最終目標時間」という)を設定し、誘導制御手段43は使用者の呼気の時間を最終目標時間に誘導するように上述したエアバッグ30のような刺激手段を制御する。
【0038】
最終目標時間は、呼吸時間入力手段41から入力された使用者の呼気の時間を用いて定められる。いま、呼吸法として腹式呼吸(腹式呼吸に準じる、丹田式などの呼吸法でもよい)を行うことを目的とする場合を想定する。この場合、目標設定手段42は、呼吸時間入力手段41から入力された呼吸の時間に基づいて、あらかじめ定めた加算値を加算するか、あらかじめ定めた倍率(1より大きい値)を乗じることによって、最終目標時間となる呼吸の時間を定める。
【0039】
最終目標時間を求めるための加算値あるいは倍率は、呼吸時間入力手段41から入力された呼気の時間とは無関係に一定値に定めることが可能である。ただし、一般に、入力された呼吸の時間が長いほど、使用者が呼吸法に習熟している程度が高いと考えられるから、最終目標時間を求めるための加算値または倍率は、入力された呼吸の時間が短いほど大きく設定するのが望ましい。
【0040】
呼吸時間入力手段41から入力された呼気の時間と、目標設定手段42が定めた最終目標時間とは、上述した刺激手段を制御する誘導制御手段43に与えられる。誘導制御手段43は、刺激手段から使用者に与える刺激を変化させ、使用者の呼気の時間が入力された呼気の時間から最終目標時間である呼吸周期まで伸張されるように誘導する。
【0041】
本実施形態では、使用者に対して上述したエアバッグ30を用いて触覚刺激を与えているから、誘導制御手段43は、エアバッグ30の吸排気を制御することによって、使用者への触覚刺激を変化させる。実際には、誘導制御手段43は、呼吸時間入力手段41から入力された呼気の時間に、時間経過に応じた既定の変化を加えた制御時間を求め、制御時間に同期させて吸排気手段31によるエアバッグ30の吸排気を制御し、使用者に与える触覚刺激を変化させる。
【0042】
ここで、時間経過とは動作の開始からの時間の経過を意味し、時間経過に応じた既定の変化を加えた制御時間は、具体的には、制御時間が経過した時間に応じて増加することを意味する。制御時間は、経過した時間に応じて線形に増加させる場合と、非線形に増加させる場合とがある。いずれの場合も最終目標時間に向かって徐々に増加させる。誘導制御手段43がこのような動作を行うことにより、使用者は、呼吸を触覚刺激に合わせている間に呼気の時間が徐々に延長され、やがて最終目標時間に到達するように誘導される。
【0043】
以下に、エアバッグ30によって触覚刺激を変化させる動作例を示す。まず、使用者の背面(背中、臀部、脚部の背面)に触覚刺激を与える場合について説明する。シート部20には、上述のように座部21、背もたれ部22、脚載せ部23が設けられ、それぞれ複数個のエアバッグ30が並べて配置されている。したがって、吸排気を行うエアバッグ30の位置を変化させることにより、使用者の上部(たとえば、肩)から下部(たとえば、腰)の間で刺激の位置を変化させることができる。使用者の上部を刺激すれば(前方に押し出せば)胸部が押されて呼気が促され、使用者の下部を刺激すれば横隔膜が引き上げられて呼気がさらに促される。
【0044】
ここで、使用者の上部から下部に向かってエアバッグ30の膨張と収縮とを順に行うことによって、刺激する位置を肩から腰に向かって移動させる動作を繰り返して行うものとする。繰り返しの周期は最終目標時間として定められた呼気の時間に基づいて設定する。肩から腰まで刺激の位置を変化させる時間は、最終目標時間として定められた呼気の時間であり、肩からの刺激を再開するタイミング(すなわち、繰り返し周期)は、最終目標時間として定めた呼気の時間を基準に用いて経験的に決定する。
【0045】
肩から腰まで刺激の位置を変化させる間には、腰に近い位置ほどエアバッグ30に導入する空気量を多くしてエアバッグ30を大きく膨張させるのが望ましい。つまり、腰部に近いほど刺激の強さを大きくする。この動作を行えば、呼気を開始した時点では胸部が少しだけ押されて肺からの空気の排出が促され、その後、排出する空気量が増加するほど腹部が大きく押され横隔膜が引き上げられることにより、肺に残った空気の排出がさらに促される。すなわち、刺激の位置に応じて刺激量が変化するのであって、腹式呼吸を促す刺激を与えることにより、呼気の時間を伸張させることになる。
【0046】
上述の動作では、刺激の強さを変化させているが、刺激の位置を変化させる際の速さを変えてもよい。この場合、肩から腰に向かって刺激の位置の変化速度を減速することで、肩付記を刺激する時間よりも腰付近を刺激する時間を長くし、横隔膜をより強く引き上げさせて呼気を促すことができる。すなわち、腹式呼吸を促す刺激を与えることにより、呼気の時間を伸張させることになる。
【0047】
ところで、呼気の期間には肩から腰に向かって刺激の位置を変化させているから、吸気の期間には腰から肩に向かって刺激の位置を変化させるのが望ましい。このように、肩(胸部)と腰(腹部)との間で刺激の位置を変化させることにより、使用者が意識することなく腹式呼吸の際の筋肉の動き促すことになり、外部刺激による他動的な習慣付けによって腹式呼吸を修得させることが可能になる。
【0048】
上述した動作では、刺激の位置を肩と腰との間で変化させているが、シート部20の座部21および脚載せ部23に設けたエアバッグ30も併せて用いることが望ましい。
【0049】
たとえば、吸気の期間には、肩部付近(頭部付近にもエアバッグ30を設けている場合には頭部付近)から脚部に向かって刺激の位置を変化させることによって、空気が頭頂から足先に向かって流れているかのような感覚を使用者に与えるようにしてもよい。このような動作を行えば、使用者は呼吸に意識が集中することになり、正しい呼吸法で呼吸するように意識付けがなされることになる。
【0050】
また、呼気の期間には腰付近のエアバッグ30を膨張させて腹部を前方に押し出すようにすればよい。すなわち、吸気に際しては腹部を押し出し胸郭を広げて呼気を促進するのである。
【0051】
呼気の期間には腰付近のエアバッグ30を膨張させ、吸気の期間には頭から足に向かって刺激の位置を変化させると、使用者は呼吸を全身で意識することになり、呼吸周期の伸張を促すとともに、神経を鎮静状態に導き、睡眠への誘導が可能になる。
【0052】
本実施形態のシート部20は、肘掛け部24や脇当て部25にもエアバッグ30を設けているから、使用者の側部に配置された肘掛け部24や脇当て部25のエアバッグ30を用いることにより、使用者の腹側部にも刺激を与えることができる。たとえば、呼気の期間において、肘掛け部24や脇当て部25を膨張させて使用者の腹部を側方から圧迫する刺激を与えることにより腹式呼吸を促進させてもよい。また、座部21に設けたエアバッグ30の膨張と収縮とを呼吸周期に合わせて繰り返して骨盤の前後傾斜動作を誘発することにより腹式呼吸を促進させてもよい。
【0053】
シート部20のリクライニング機能を用いることにより、背もたれ部22を倒し、脚載せ部23を起こした状態では、シート部20に載った使用者は仰臥した姿勢でリラックス装置を使用することができる。この場合には、上述した動作のほか、すべてのエアバッグ30の膨張と収縮とを一斉に行うようにしてもよい。エアバッグ30の膨張時には使用者の身体全体が持ち上げられ、エアバッグ30の収縮時には使用者の身体全体が下ろされることになる。つまり、使用者は、身体全体が上下することによって浮遊感を体感し、意識が呼吸に集中することによって呼吸周期を伸張するように意識付けられることになる。
【0054】
エアバッグ30は、膨張と収縮とを行う際に使用者の体型に合わせた適宜の余圧を与えることにより、使用者を支持した状態において使用者の一部の部位にのみ荷重が偏らないようにすることができる。すなわち、シート部20で使用者を支持した状態において各エアバッグ30に作用する荷重が規定値になるように吸排気手段31を用いて、各エアバッグ30の吸排気を行うのが望ましい。この状態では使用者の各部位がエアバッグ30から受ける反力は略均等になる。
【0055】
たとえば、シート部20のリクライニング機能を用いて、背もたれ部22を倒し、脚載せ部23を起こした状態において、使用者がシート部20に仰臥すると、使用者の腰は沈み込むことなく支持されることになる。つまり、使用者の脊柱を歪みなくシート部20で支持することができる。
【0056】
吸排気手段31により各エアバッグ30の余圧を上述のように調節した状態を初期状態とし、誘導制御手段43では初期状態を基準にしてエアバッグ30の膨張と収縮とを行わせることが望ましい。初期状態を設定することにより、使用者の体型にかかわらず、ほぼ等しい触覚刺激を与えることが可能になる。
【0057】
上述の構成例では、刺激手段として触覚刺激手段であるエアバッグ30および吸排気手段31を用いる場合を説明したが、もみ玉やもみ輪のような刺激手段を用いる場合も同様の動作を行えばよい。また、視覚刺激や聴覚刺激を用いる場合も、呼吸時間入力手段41から入力した呼気の時間と目標設定手段42が設定した最終目標時間とに基づいて刺激を変化させる。
【0058】
聴覚刺激として上述した三次元音響を用いる場合には、誘導制御手段43では最終目標時間に応じて音像の位置を制御する、すなわち、誘導制御手段43は、呼気の際に音像を足元に定位させ、吸気の際に音像を後頭部に定位させるように、音像の位置を変化させるのである。音像の位置は滑らかに変化させるのが望ましい。また、音像の位置を変化させるだけではなく、三次元音響による聴覚刺激をエアバッグ30などによる触覚刺激と組み合わせて用いると、使用者は触覚刺激により意識することなく腹式呼吸を行うとともに、聴覚刺激により呼吸に対する意識付けがなされる。その結果、使用者の神経の鎮静や睡眠への誘導が迅速になされる。三次元音響では、吸気の際に音像が発散し、呼気の際に音像が集中するようにしてもよい。
【0059】
聴覚刺激を使用者に与える場合には、エアバッグ30の吸排気音を使用者に聞かせる構成を採用してもよい。とくに、呼気の期間において排気口からの排気音が使用者に聞こえやすくなるように、音を漏らすための開口部などを形成しておけば、排気音を呼気の際の聴覚刺激に用いて、使用者に呼吸を意識付けることができる。ここでは、排気音を用いる例を説明したが、吸気音を用いてもよく、排気音と吸気音との両方を用いるようにしてもよい。
【0060】
視覚刺激を用いる場合も聴覚刺激を用いる場合と同様であって、複数個の光源の位置を変化させたり、光量を変化させるように視覚刺激を与える。また、使用者の前方に映像を表示するためのモニタ装置やプロジェクタを設け、呼吸周期に合わせて点状の図形が離合集散する映像を提示するように視覚刺激を与えてもよい。視覚刺激は、触覚刺激や聴覚刺激と組み合わせて用いることができる。複数の刺激を組み合わせて用いると、単独で用いる場合に比較してより効率的に呼吸誘導を行うことが期待できる。複数種類の刺激を組み合わせて用いる場合に、触覚刺激に加えて視覚刺激と聴覚刺激との少なくとも一方の刺激を使用者に与えることが望ましい。
【0061】
上述の動作において、誘導制御手段43は、呼吸時間入力手段41から入力された呼気の時間と目標設定手段42が設定した最終目標時間とに応じて刺激手段の刺激を変化させている。ただし、この動作のみでは、使用者には刺激手段による刺激の変化と、最終目標時間との関係がわからないから、呼気量を調節することができない。すなわち、呼気や吸気をどの程度の速度で行えばよいかの目安がない。
【0062】
そこで、この目安を与えるために、目標設定手段42が定めた呼吸の最終目標時間を使用者に提示する呼吸情報提示手段44を設けてある。呼吸情報提示手段44には、誘導制御手段43が刺激手段の刺激を変化させている状態も併せて提示するのが望ましい。両者を提示することによって、使用者は刺激の変化の過程と最終目標時間との関係を認識することによって、呼気量を調節することができるようになる。
【0063】
呼吸情報提示手段44は、主としてモニタ装置を通して情報を視覚的に提示するように構成されるが、触覚を通して使用者に提示するように構成してもよい。具体的には、呼気あるいは吸気に関する情報のみを提示する場合には、図6に示すような形式でモニタ装置に表示する。図6(a)(b)は、モニタ装置の画面にグラフ化ないし図形化して情報を提示する例を示している。
【0064】
図6(a)に示す例では、上下方向に長い長方形状の図形441を用いている。また、誘導制御手段43が呼気の期間における刺激として刺激手段による刺激の変化を開始した時点からの経過時間を、図形441の下端から指針線442までの距離で表している。図示例では、最終目標時間である目標の呼気の時間は図形441の下端から目標線443までの距離で表している。
【0065】
図6(b)に示す例では、円形の図形444を用いている。この例では、図形444の中に設定した基準線445の一端を回転の中心とし、回転の中心に対する角度により量を表している。すなわち、誘導制御手段43による刺激の変化の開始時点からの経過時間を基準線445から指針線446までの角度で表し、最終目標時間である目標の呼気時間を基準線445から目標線447までの角度で表している。
【0066】
図6(a)(b)に示す例では、誘導制御手段43が呼気の期間における刺激を開始した時点からの経過時間と、目標設定手段42が定めた最終目標時間とをモニタ装置に並べて提示している。したがって、使用者は、誘導制御手段43が指示した呼気の期間の開始時点を使用者自身の呼気の開始時点とみなし、提示された経過時間と最終目標時間との関係に応じて呼気量を調節することができ、使用者自身の感覚で呼吸の時間を伸張させることができる。
【0067】
図6(c)に示す例では、誘導制御手段43による呼気の開始時点からの経過時間と、目標設定手段42が設定した最終目標時間とを数値化してモニタ装置に提示している。モニタ装置の画面には、数値を表示するための2個の表示窓448,449が設定されている。各表示窓448,449の一方(下の表示窓448)に誘導制御手段43による呼気の開始時点からの経過時間に対応する数値が表示され、他方(上の表示窓449)に最終目標時間に対応する数値が表示される。
【0068】
図6(c)に示す形式で情報を提示した場合でも、使用者には呼吸を意識付けることができるから、使用者自身の感覚で呼吸周期を調節させることで、使用者の呼吸周期を伸張させることができる。
【0069】
誘導制御手段43が指定した呼気の開始からの経過時間と、目標設定手段42が定めた最終目標時間とを提示する形式として、図7に示すように、誘導制御手段43による制御の状態を示す指示線451と、目標時間を示す目標線452とを用いてもよい。図示例では、横軸が時間軸であり、縦軸が呼吸量に相当する。したがって、指示線451が上昇している期間は吸気の期間を表し、指示線451が下降している期間は呼気の期間を表す。この形式では、指示線451と目標線452との差によって、使用者に呼気の時間を最終目標時間に近付けるための目安が得られる。したがって、使用者には、呼気の時間を調節するための意識付けがなされる。
【0070】
上述した呼吸情報提示手段44の構成は一例であり、モニタ装置に表示する形式や構成は、誘導制御手段43が指示している刺激の変化と、目標設定手段42が定めた最終目標時間とを併せて提示するという技術思想の範囲において適宜に変更することができる。
【0071】
ところで、図1に示すように、シート部20には加熱手段35を付加してもよい。加熱手段35は、使用者の四肢に接触する部位、すなわち脚載せ部23および肘掛け部24に設けられる。加熱手段35を設ける場合には、音声出力手段34から呼吸を誘導する音声メッセージを出力させる。
【0072】
たとえば、自己催眠あるいは自律訓練法と呼ばれている方法でリラックスさせる状態に導くようにし、呼吸周期を伸張させるように刺激を与えるのに加えて、「手足が温かい」という音声メッセージを出力する間に加熱手段35による加熱を行う。このような音声メッセージの内容に合わせて加熱手段35による加熱量を調節することで、より早くリラックスした状態に誘導されることが期待できる。
【0073】
上述した例では、呼気の時間を最大目的時間に誘導することによって、使用者をリラックスさせ、最終的に睡眠への導入を行う場合の動作を説明したが、リラックスした状態ないし睡眠の状態からリフレッシュないし覚醒させるための動作も可能である。この場合、刺激の位置を変化させる向き、刺激量、刺激速度など、刺激を変化させる際の制御を上述の動作とは逆にして、呼吸周期ないし呼気の時間を短縮する刺激を与える。このように、リラックスした状態に導く場合の刺激とは逆の刺激を与えることにより、神経が鎮静した状態の使用者や睡眠している使用者を覚醒させることができる。
【符号の説明】
【0074】
20 シート部
21 座部
22 背もたれ部
23 脚載せ部
24 肘掛け部
25 脇当て部
30 エアバッグ(刺激手段、触覚刺激手段)
31 吸排気手段(刺激手段、触覚刺激手段)
34 音出力手段
35 加熱手段
40 制御手段
41 呼吸時間入力手段
42 目標設定手段
43 誘導制御手段
44 呼吸情報提示手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート部に臀部および背部を載せた使用者の呼気の時間と吸気の時間との少なくとも一方である呼吸時間を入力する呼吸時間入力手段と、前記使用者の呼吸時間を伸張させるように目標時間を定める目標設定手段と、前記目標設定手段が定めた前記目標時間を前記使用者に提示する呼吸情報提示手段と、前記使用者に刺激を与える刺激手段と、前記使用者の呼吸時間を前記目標時間に誘導するように前記刺激手段による刺激を変化させる誘導制御手段とを備えることを特徴とするリラックス装置。
【請求項2】
前記誘導制御手段は、前記呼吸時間入力手段から入力された呼吸時間に時間経過に応じた既定の変化を加えた制御時間を求め、前記制御時間に同期させて前記刺激手段による刺激を変化させることにより、前記使用者の呼吸時間を前記目標時間に向かって徐々に誘導することを特徴とする請求項1記載のリラックス装置。
【請求項3】
前記刺激手段は、前記使用者において前記シート部が支持している部位に触覚刺激を与える触覚刺激手段であって、前記誘導制御手段は、前記触覚刺激手段による刺激位置を変化させることを特徴とする請求項1又は2記載のリラックス装置。
【請求項4】
前記刺激手段は、前記使用者において前記シート部が支持している部位に触覚刺激を当てる触覚刺激手段であって、前記誘導制御手段は、前記触覚刺激手段による刺激量を変化させることを特徴とする請求項1又は2記載のリラックス装置。
【請求項5】
前記触覚刺激手段は、前記シート部において前記使用者を支持する部位に並べて設けた複数個のエアバッグと、前記各エアバッグへの吸排気を行う吸排気手段とを備えることを特徴とする請求項3又は4記載のリラックス装置。
【請求項6】
前記触覚刺激手段は、前記シート部において前記使用者を支持する部位に並べて設けた複数個のエアバッグと、前記各エアバッグへの吸排気を行う吸排気手段とを備え、前記シート部の少なくとも一部の部位には前記エアバッグが重ねて配置されていることを特徴とする請求項4記載のリラックス装置。
【請求項7】
前記吸排気手段は、前記使用者を支持した状態において前記各エアバッグに作用する荷重が規定値になる状態を初期状態とし、前記誘導制御手段は、前記初期状態を基準にして刺激を変化させることを特徴とする請求項5又は6記載のリラックス装置。
【請求項8】
前記誘導制御手段は、前記吸排気手段を制御することにより前記エアバッグによる刺激を変化させ、前記呼吸情報提示手段は、前記吸排気手段による吸気音と排気音との少なくとも一方を前記使用者に知覚させることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載のリラックス装置。
【請求項9】
前記刺激手段は、触覚刺激と視覚刺激と聴覚刺激とのうちの少なくとも1種類の刺激を前記使用者に与えることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のリラックス装置。
【請求項10】
前記刺激手段は三次元音響による聴覚刺激を前記使用者に与え、前記誘導制御手段は音像の位置を刺激の変化として制御することを特徴とする請求項9記載のリラックス装置。
【請求項11】
前記シート部において前記使用者の四肢に接触する部位に設けた加熱手段と、前記使用者に呼吸を誘導する音声メッセージを出力する音出力手段とをさらに備え、前記誘導制御手段は、前記音出力手段から出力する音声メッセージの内容に合わせて加熱手段による発熱量を調節することを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のリラックス装置。
【請求項12】
前記シート部を備え、請求項1〜11のいずれか1項に記載のリラックス装置が搭載されていることを特徴とする乗物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−65728(P2012−65728A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−211390(P2010−211390)
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】