説明

リンの浄化回収方法、リンの浄化回収装置および回収リンの再利用方法

【課題】富栄養化水中に含まれるリンを効率よく回収して安価に富栄養化水の浄化を行うことができるとともに、回収したリンを有効に再利用することができるようにする。
【解決手段】浄化対象水域12の系外に設置されて中空粒子1を含む石炭灰2を充填した浄化回収装置10内に浄化対象水域12の富栄養化水を通水させることにより、富栄養化水中に含まれるリンを中空粒子1の内部に吸着させて回収することで、富栄養化水を効率よく浄化させることができ、中空粒子1が吸着容量に達した場合には浄化対象水域12の系外に設置された浄化回収装置10に対する中空粒子1を含む石炭灰2のみを交換すればよく、浚渫処理が不要で浚渫による余剰汚泥が生ずることもなく、安価に処理することができるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、富栄養化水中に含まれるリンの浄化回収方法、リンの浄化回収装置および回収リンの再利用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、湖沼・河川その他の閉鎖性水域における水質汚染要因の一つに、富栄養化水中に含まれるリンの溶出がある。このようなリンを確実に吸着させて富栄養化水を浄化する方法の一つとして、富栄養化水中にゼオライトなどの吸着材を投入し、富栄養化成分を吸着させた後、浚渫して水域系外に排出させる方法がある(例えば、特許文献1参照)。また、石炭灰の造粒物を湖沼などの浄化対象水域中の底部に敷設させリンを吸着させる方法がある(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平9−310373号公報
【特許文献2】特開2004−113885号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1,2に示されるように、ゼオライトの投入や石炭灰造粒物の底部への敷設によるものは、リンの吸着容量に達した時点で吸着効果がなくなるため、ゼオライトや石炭灰造粒物などの吸着剤自体を浚渫して除去する必要があり、人件費等のコストがかかるという欠点がある。また、富栄養化水に対するリンの浄化のみを考慮したものであって、効率のよいリンの回収並びに回収したリンの有効な再利用については何ら言及されていない。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、富栄養化水中に含まれるリンを効率よく回収して安価に富栄養化水の浄化を行うことができるとともに、回収したリンを有効に再利用することができるリンの浄化回収方法、リンの浄化回収装置および回収リンの再利用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るリンの浄化回収方法は、中空粒子を含む石炭灰が充填された浄化回収装置を浄化対象水域の系外に設置し、前記浄化対象水域の富栄養化水を前記浄化回収装置中に通水させて該富栄養化水中に含まれるリンを前記中空粒子の内部に吸着させるようにしたことを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る回収リンの再利用方法は、浄化対象水域の系外に設置された浄化回収装置内に充填された石炭灰中に含まれ、前記浄化対象水域の富栄養化水の通水を受けて該富栄養化水中に含まれるリンを吸着容量に達するまで内部に吸着した使用済みの中空粒子を農業用のリン肥料とすることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係るリンの浄化回収装置は、中空粒子を含む石炭灰が充填されて浄化対象水域の系外に設置される筐体を備え、該筐体内に前記浄化対象水域の富栄養化水が通水されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るリンの浄化回収方法、リンの浄化回収装置および回収リンの再利用方法によれば、石炭灰に含まれる中空粒子をリン酸液中に浸漬させた場合、リン酸イオンが中空粒子の外殻の間隙を通過して内部のカルシウムと結合することにより、リンが中空粒子の内部に吸着するという吸着メカニズムを見出し、浄化対象水域の系外に設置されて中空粒子を含む石炭灰を充填した浄化回収装置内に浄化対象水域の富栄養化水を通水させることにより、富栄養化水中に含まれるリンを中空粒子の内部に吸着させて回収することにより富栄養化水を効率よく浄化させることができ、中空粒子が吸着容量に達した場合には浄化対象水域の系外に設置された浄化回収装置に対する中空粒子を含む石炭灰のみを交換すればよく、浚渫処理が不要で浚渫による余剰汚泥が生ずることもなく、安価に処理することができるという効果を奏する。また、吸着容量に達して交換される石炭灰に含まれる中空粒子は、汚泥等を含んでおらず、リンの回収効率が高く、農業用のリン肥料として有効に再利用することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明に係るリンの浄化回収方法、リンの浄化回収装置および回収リンの再利用方法の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、本発明は、本実施の形態に限らず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば、種々の変形が可能である。
【0011】
本実施の形態のリンの浄化回収方法および浄化回収装置は、富栄養化水中に含まれるリンを浄化回収するための吸着剤に石炭灰を用いることを基本とする。ここで、石炭灰を用いる場合の石炭灰へのリンの吸着メカニズムについて説明する。
【0012】
まず、図3は、従来のリン吸着のメカニズムを示す模式図である。従来のリン吸着のメカニズムは、石炭灰中に含まれるカルシウムCaがカルシウムイオンCa2+として溶解し、液中のリン酸イオンPO42-と結合し、液中でリン酸カルシウムCaPO4として不溶化するという認識である。このようなリン吸着のメカニズムを、富栄養化水に対するリンの浄化に利用しているものである。これは、石炭灰と接触させた水にリン酸を加えると、リン酸カルシウムが析出することにより確認できるが、このようなリン吸着のメカニズムを利用する場合、効率のよいリンの回収は困難である。
【0013】
一方、図1は、本発明者らが新たに見出した石炭灰へのリン吸着のメカニズムを示す模式図である。すなわち、石炭灰、特にフライアッシュ中には図1に示すような中空粒子1が存在し、中空粒子1をリン酸液中に浸漬させた場合、液中のリン酸イオンPO42-が中空粒子1の外殻の間隙を通過し、中空粒子1の内部のカルシウムイオンCa2+と結合することで、リンが中空粒子1の内部に吸着するというメカニズムを見出したものである。
【0014】
このようなリン吸着のメカニズムは、以下の手順により確認できたものである。まず、石炭灰(フライアッシュ)を十分に洗浄し、リン酸液中に浸漬させたところ、リン酸濃度が低下した。そこで、石炭灰の表面を電子顕微鏡で確認したところ、表面にリンの存在(リンの吸着)は認められなかった。一方、石炭灰中から粒径が比較的大きい粒子を篩い分けにより分取し、電子顕微鏡で観察したところ、中空粒子が多く存在していることが確認された。そこで、中空粒子をすり潰して内部の元素分布を電子顕微鏡等で観察したところ、リン酸カルシウムの存在が確認できたものである。
【0015】
そこで、本実施の形態のリンの浄化回収方法および浄化回収装置は、富栄養化水中に含まれるリンを浄化回収するための吸着剤として、石炭灰、特に中空粒子を含むフライアッシュを用いることを基本とする。ここで、フライアッシュは、例えば石炭火力発電所において燃焼により溶融状態となって高温燃焼ガス中を浮遊する灰の粒子が、ボイラ出口での温度低下に伴い球形微細粒子となった石炭灰の一種であり、シリカ、アルミナ等を主成分とし、電気集塵器によって捕集される。
【0016】
図2は、上記リン吸着のメカニズムを利用した本実施の形態のリンの浄化回収方法を実現するためのシステム構成例を示す模式図である。まず、石炭灰2を充填する浄化回収装置10を用意しておく。浄化回収装置10は、多数の石炭灰2を適宜充填した筐体11からなる。ここで、石炭灰2は、少なくとも中空粒子1を含むものであり、本実施の形態では、粒径が比較的大きくて大半が中空粒子1を占めるように予め篩い分けされたものが用いられる。このような浄化回収装置10を、浄化対象となる湖沼、お堀等の富栄養化水を有する閉鎖性の浄化対象水域12の系外の適宜場所に設置し、浄化対象水域12の富栄養化水をポンプ13で汲み上げて浄化回収装置10内に注水し、浄化回収装置10内に充填された中空粒子1を含む石炭灰2中を通水させ、下部側から浄化された水を排水して浄化対象水域12に還流させる。
【0017】
このように浄化回収装置10中に浄化対象水域12の富栄養化水を通水させることにより、富栄養化水中に含まれるリンは、リン酸イオンとして、石炭灰2中に含まれる中空粒子1の外殻の間隙を通過し、中空粒子1の内部のカルシウムイオンと結合し、リン酸カルシウムとなって内部に吸着固定されることにより回収され、富栄養化水はリンが浄化された状態で浄化対象水域12に還流されることとなる。
【0018】
このように、本実施の形態のリンの浄化回収方法によれば、浄化対象水域12の系外に設置されて中空粒子1を含む石炭灰2を充填した浄化回収装置10内に浄化対象水域12の富栄養化水を通水させ、富栄養化水中に含まれるリンを中空粒子1の内部に吸着させて回収することにより富栄養化水を効率よく浄化させることができる。そして、石炭灰2中の中空粒子1が吸着容量に達した場合には浄化対象水域12の系外に設置された浄化回収装置10に対する中空粒子1を含む石炭灰2のみを交換すればよく、浚渫処理が不要で浚渫による余剰汚泥が生ずることもなく、リンの浄化回収方法を安価に実現することができる。
【0019】
また、吸着容量に達して交換される使用済みの中空粒子1を含む石炭灰2は、汚泥等を含んでおらず、リンの回収効率が高いことから、浄化回収装置10から取り出された使用済みの中空粒子1をそのまま農業用のリン肥料として有効に再利用することが可能となる。すなわち、見た目には、表面にリンが吸着しておらず、従来の石炭灰のリン吸着のメカニズムの認識によれば廃棄処分の対象となってしまう中空粒子1をそのまま有効に再利用できるものである。
【0020】
なお、本実施の形態では、予め篩い分けして中空粒子1が大半を占める石炭灰2を用いるようにしたが、事前に篩い分けせず少なくとも中空粒子1を含む石炭灰2を利用し、リン回収時に石炭灰2を篩い分けして使用済みの中空粒子1を分別してリン肥料として再利用するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施の形態で利用する中空粒子へのリン吸着のメカニズムを示す模式図である。
【図2】本実施の形態のリンの浄化回収方法を実現するためのシステム構成例を示す模式図である。
【図3】従来認識されている石炭灰へのリン吸着のメカニズムを示す模式図である。
【符号の説明】
【0022】
1 中空粒子
2 石炭灰
10 浄化回収装置
11 筐体
12 浄化対象水域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空粒子を含む石炭灰が充填された浄化回収装置を浄化対象水域の系外に設置し、
前記浄化対象水域の富栄養化水を前記浄化回収装置中に通水させて該富栄養化水中に含まれるリンを前記中空粒子の内部に吸着させるようにしたことを特徴とするリンの浄化回収方法。
【請求項2】
浄化対象水域の系外に設置された浄化回収装置内に充填された石炭灰中に含まれ、前記浄化対象水域の富栄養化水の通水を受けて該富栄養化水中に含まれるリンを吸着容量に達するまで内部に吸着した使用済みの中空粒子を農業用のリン肥料とすることを特徴とする回収リンの再利用方法。
【請求項3】
中空粒子を含む石炭灰が充填されて浄化対象水域の系外に設置される筐体を備え、該筐体内に前記浄化対象水域の富栄養化水が通水されることを特徴とするリンの浄化回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−313478(P2007−313478A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−148179(P2006−148179)
【出願日】平成18年5月29日(2006.5.29)
【出願人】(000242644)北陸電力株式会社 (112)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】