説明

リンク増設箇所最適選択システムと方法およびプログラム

【課題】ネットワークにおける単一リンク障害時の最大経路長増加率を抑制する最適なリンク増設箇所の選択を行うことを可能にする。
【解決手段】入力装置を介して入力されるネットワークのトポロジ情報Gと経路長増加率の上限値Kを記憶装置に格納する入力部101と、単一リンク障害による経路長の増加率を全て上限値以下にするために増設するリンクの数を最小とするリンクの増設箇所を、記憶装置に記憶したネットワークのトポロジ情報Gと経路長増加率の上限値Kを用いた集合被覆問題に対する近似アルゴリズムに従った処理を実行して選択するリンク増設箇所選択部102と、リンク増設箇所選択部102が選択したリンク増設箇所を出力装置に出力する出力部とを有し、最小限のリンク増設でネットワークにおける所望の連結度での対障害性と経路長増加率を満たすことを可能とし、ネットワークの高信頼化および高品質化を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネットワークで発生したリンク障害時に代替えの経路を選択する技術に係り、特に、単一リンク障害時に対応して増設するリンクの増設箇所の選択を、経路長の増加率を抑えて行うことで、高信頼かつ高品質なネットワークを構成するのに好適な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インターネットをはじめ、通信ネットワーク(NW)が社会において必要不可欠なインフラとなった現在、NWには高い信頼性が求められている。特に、大規模なNWでは、様々な要因によるノードやリンクの故障や重い輻輳の発生は避けられないため、そのような障害が発生しても各ノード間の通信を維持し続けるための設計および制御が必要である。
【0003】
このような観点から、障害時には代替経路を利用できるようにするために、後述するグラフ理論を用いた高い連結度のNWの設計に関する研究がなされている。例えば、同時に故障するリンクは一つだけとする単一リンク故障(SLF:Single Link Failure)を仮定し、SLF時にも通信が途絶しないようにするために、NWを2辺連結グラフとなるように設計することが、実際にも一般的に行われている。尚、2辺連結グラフとは、連結度が2であるグラフのことである。
【0004】
このように、インターネットサービスプロバイダ(ISP)のNWトポロジを、高い連結度のグラフとなるように構成することによって高い信頼性を得ることが可能である。
【0005】
しかし、この場合、障害時に通常時の経路から代替経路に変化した際に、経路長(フロー長)が大きく延びてしまう可能性があり、影響を受ける膨大な数の通信の全てにおいて、通信品質の劣化を引き起こす可能性があることが指摘されている。
【0006】
従って、実際のNWトポロジには、単に代替経路が存在するだけではなく、SLF時の経路長の増加率が小さいことも必要である。
【0007】
インターネットにおいては、経路を自由に決定することはできず、OSPF(Open Shotest Path First)などルーティングプロトコルによって決定されるため、経路を適切に定めることで経路長の増加率を設定するという技術を取ることはできない。従って、NWトポロジを変更することによって経路長増加率を設定しなければならない。
【0008】
通常、大規模なNWは、最初から構築することはなく、既に構築・運用されている場合が多い。従って、既設NW全体を再構築し直すことは非現実的であり、そのため、既存のネットワークに最小限の増設を行うことで条件を満たすようにすることが必要となる。
【0009】
すなわち、最小限のリンク増設によって、所望の連結度とSLF時の経路長増加率を満たすNWを構成することがNW設計の目的となる。
【0010】
以上の技術については、例えば非特許文献1等に記載されている。
【0011】
NW設計に関しては、通信分野だけではなく、グラフ理論や最適化理論の研究分野も含め、これまで膨大な研究がなされてきている。その中には、上述したように、辺を付加することにより連結度に関する条件を満たすグラフを構成するタイプの問題がある。
【0012】
連結度とは、全ての2点間で辺を共有しない経路の本数の最大値であり、辺連結度(点連結度)がkであれば、グラフの任意の2点間に辺独立(点独立)なk本の路が存在する。辺独立な路とは、辺を共有しない経路のことである。
【0013】
所望の連結度にするために最小本数の辺を付加する箇所を決定することによって、リンクやノードの障害時でも代替経路を利用して通信を継続できるようにすることが目的である。
【0014】
辺連結度を増加させる問題に関しては多項式時間アルゴリズムが知られているが、点連結度増加問題に関してはNP完全であることが知られている。尚、連結度増加問題においては、経路長についての制約も含めて考えられているものはない。
【0015】
また、辺付加によって直径を抑制する問題についての検討も見られる。直径とは、グラフの任意の2点間の最短路長の最大値のことである。グラフの直径が小さくなるように設計することで、NW上での任意の2点間の通信遅延を小さくすることができる。
【0016】
この問題は一般にNP完全であり、グラフが木である場合など限られた場合についての多項式時間アルゴリズムが知られている。
【0017】
この問題では経路長を考慮しているものの、連結度についても同時に考慮しているものはない。従って、1本のリンクが故障しただけで通信が途絶えてしまう可能性があり、耐故障性については必ずしも高くできるとは限らない。
【0018】
他にも、与えられたグラフに辺を付加することによって、区間グラフやコーダルグラフ、ハミルトングラフにする問題などが知られている。いずれも経路長の変化に関する制約は含まれていない。尚、これらは全てNP完全である。
【0019】
以上から、これまでの問題は、経路長の増加率を抑制するという観点から辺付加を行う問題にそのまま適用することはできず、新たに検討する必要がある。
【0020】
尚、このようなNW設計に関してのグラフ理論や最適化理論に関しては、例えば、非特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】N.Kamiyama and H.Miwa,“Connectivity and Stability Analysis against Failures for ISP Backbone Networks”,IEEE GLOBECOM 08.
【非特許文献2】茨木俊秀,“情報学のための離散数学”,昭晃堂,2004.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
解決しようとする問題点は、従来の技術では、ネットワークにおける単一リンク障害時の最大経路長増加率を抑制する最適なリンク増設箇所の選択を行うことができない点である。
【0023】
本発明の目的は、これら従来技術の課題を解決し、最小限のリンク増設で、ネットワークにおける所望の連結度での対障害性と経路長増加率を満たすことを可能とし、ネットワークの高信頼化および高品質化を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記目的を達成するため、本発明では、(1)ネットワークのトポロジGと単一リンク障害時の最大経路長増加率の設計上限Kが与えられたときに、最小数のリンク増設箇所を選択する。また、(2)ネットワークのトポロジGと単一リンク障害時の最大経路長増加率の設計上限Kおよびリンクを増設可能な箇所の集合が与えられたときに、最小数のリンク増設箇所を選択する。より具体的には、(3)グラフGに対して辺e∈Eの単一リンク障害による経路長増加率がK以下の辺を充足辺と呼び、さもなければ未充足辺と呼び、未充足辺集合をUとし、辺f(∈E)を付加することで1辺以上の未充足辺を充足辺にできるとき、辺fを候補辺と呼び、辺fによって充足辺にできる未充足辺の集合をSとし、付加が可能な点の対の集合(付加可能点対集合)に候補辺集合が含まれると仮定し、付加辺は候補辺からのみ選ぶものとするとき、未充足辺集合Uと、この集合Uの部分集合族S={S,S,…,S}に対する集合被覆問題の解から、全ての未充足辺を充足辺にする最小本数の付加辺集合が得られることから、集合被覆問題に対する近似アルゴリズムを利用することで、付加辺集合Cを得て、この付加辺集合Cを最小数のリンク増設箇所として選択する。尚、(4)付加可能点対集合に候補辺集合Sが含まれ、付加辺は候補辺集合からのみ選ぶものと仮定するとき、後述のPLEAPの経路長増加率制約を満たす付加辺集合を出力する。また、(5)このアルゴリズムで付加される辺の本数は、最小の本数のlog|U|+1倍以下であり、計算量は、未充足辺数|U|、候補辺数|S|の時、O(|U|×|S|)である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ネットワークのトポロジ情報(グラフG)と単一リンク障害時の最大経路長増加率の設計上限値(K)が与えられたときに、最大経路長増加率の設計上限値(K)を満足する最小数のリンク増設箇所を選択することができ、高信頼かつ高品質なネットワークを構成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、本発明に係るリンク増設箇所最適選択システムの構成例を示すブロック図である。
【図2】図2は、図1におけるリンク増設箇所最適選択システムの本発明に係るリンク増設箇所最適選択方法例を示すフローチャートである。
【図3】図3は、図1におけるリンク増設箇所最適選択システムの処理対象となるネットワークの特性例を示す説明図である。
【図4】図4は、図1におけるリンク増設箇所最適選択システムの処理効果例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図を用いて本発明を実施するための形態例を説明する。図1は、本発明に係るリンク増設箇所最適選択システムの構成例を示すブロック図であって、本例のリンク増設箇所最適選択システムは、CPU(Central Processing Unit)や主メモリを具備したコンピュータ構成からなり、プログラムされたコンピュータ処理によって、ネットワークのトポロジGと単一リンク障害時の最大経路長増加率の設計上限Kとが与えられたときに、最小数のリンク増設箇所を選択するものであって、プログラムされたコンピュータ処理を実行する機能として、トポロジ情報・最大経路長増加率の許容上限値入力部101と、リンク増設箇所選択部102、リンク増設箇所出力部103を有する。
【0028】
トポロジ情報・最大経路長増加率の許容上限値入力部101は、図示していないキーボードやマウス等の入力装置を用いた操作者の入力操作により、例えば、外部記憶媒体、あるいは、ネットワークを介したオンラインで入力される、処理対象のネットワークのトポロジ情報(グラフG)と単一リンク障害時の最大経路長増加率の許容上限値(許容上限K)等の設計パラメタを入力し、図示していない記憶装置に格納する。
【0029】
リンク増設箇所選択部102は、記憶装置から、トポロジ情報・最大経路長増加率の許容上限値入力部101が入力した、トポロジ情報(グラフG)と設計上限値情報(許容上限K)を読み出し、このトポロジ情報(グラフG)と設計上限値情報(許容上限K)を用いて、本発明に係る処理、例えば、集合被覆問題に対する近似アルゴリズムにより、許容上限Kを満足する付加辺集合(C)を算出し、最小数のリンク増設箇所として選択する処理を実行する。
【0030】
リンク増設箇所出力部103は、リンク増設箇所選択部102によるリンク増設箇所の選択結果を、CRT(Cathode Lay Tube)やLCD(Liquid Crystal Display)等の表示装置に表示する、もしくは、プリンタで印字する、あるいは、記憶媒体に記録する、オンライン上の他のコンピュータ装置等に送信する等の出力処理を行う。
【0031】
また、リンク増設箇所選択部102は、プログラムされたコンピュータ処理を実行する機能として、第1の未充足辺集合取得部102aと、第2の未充足辺集合取得部102b、第1の付加辺集合算出部102c、および、第2の付加辺集合算出部102dを有する。
【0032】
第1の未充足辺集合取得部102aは、グラフGに対して辺e∈Eの単一リンク障害による経路長の増加率が、設計上限K以下の辺(充足辺)と設計上限K以上の辺(未充足辺)を算出して、未充足辺の集合Uを求める。
【0033】
第2の未充足辺集合取得部102bは、辺f(∈E)を付加することで1辺以上の未充足辺を充足辺にできる辺候補辺fを算出して、この辺候補辺fによって充足辺にできる未充足辺の集合Sを求める。
【0034】
第1の付加辺集合算出部102cは、付加可能点対集合に候補辺集合が含まれると仮定し、付加辺は候補辺からのみ選ぶとの条件で、未充足辺の集合Uと部分集合族S={S,S,…,S}に対する集合被覆問題の解から、全ての未充足辺を充足辺にする最小本数の付加辺集合が得られることから、集合被覆問題に対する近似アルゴリズムを利用することで、付加辺集合Cを算出する。
【0035】
第2の付加辺集合算出部102dは、
付加可能点対集合に候補辺集合Sが含まれ、付加辺は候補辺集合からのみ選ぶものと仮定するとき、後述のPLEAPの経路長増加率制約を満たす付加辺集合を算出する。
【0036】
以下、このような構成からなるリンク増設箇所最適選択システムによる、本発明に係る、単一リンク障害時の最大経路長増加率を抑制するのに最適な、リンク増設箇所の選択技術について説明する。
【0037】
上述したように、トポロジ情報・最大経路長増加率の許容上限値入力部101は、処理対象のネットワークのトポロジ情報(グラフG)と設計パラメタ(許容上限K)を入力する。トポロジ情報の例としては、ノードiとノードj間にリンクが存在する場合には「1」を、しない場合には「0」をとる2値変数を要素に持つ行列が考えられ、単一リンク障害時の経路長増加率の許容最大値Kとしては、任意の整数が考えられる(例:K=5)。
【0038】
リンク増設箇所選択部102は、トポロジ情報・最大経路長増加率の許容上限値入力部101が入力した、トポロジ情報(グラフG)と設計パラメタ(許容上限K)を用いて、効果的なリンク増設箇所を選択する。
【0039】
そして、リンク増設箇所出力部103は、リンク増設箇所選択部102により得られた増設箇所が出力する。
【0040】
リンク増設箇所出力部103が出力するデータは、リンクを追加する場所の集合であり、データフォーマットとしては、例えば、ノードiとノードj間にリンクを追加する場合に「1」を、しない場合に「0」をとる2値変数を要素にもつ行列が考えられる。
【0041】
リンク増設箇所選択部102は、第1の未充足辺集合取得部102aにより、グラフGにおいて、辺e∈EのSLFによる経路長増加率がK以下の辺(充足辺)と、K以上の辺(未充足辺)を特定し、未充足辺の集合Uを求める。
【0042】
また、リンク増設箇所選択部102は、第2の未充足辺集合取得部102bにより、辺f(∈E)を付加することで1辺以上の未充足辺を充足辺にできる、辺(候補辺f)を特定し、この候補辺fの付加によって充足辺にできる未充足辺の集合Sを求める。
【0043】
そして、第1の付加辺集合算出部102cにより、付加可能点対集合に候補辺fの集合が含まれると仮定し、また、付加辺は、候補辺fからのみ選ぶものとし、未充足辺集合Uと部分集合族S={S,S,…,S}に対する集合被覆問題の解から、全ての未充足辺を充足辺にする最小本数の付加辺集合Cを得る。
【0044】
また、第2の付加辺集合算出部102dにより、集合被覆問題に対する近似アルゴリズムを利用することで、付加辺集合Cを得る。
【0045】
以下、このような、本発明に係る単一リンク障害時の最大経路長増加率を抑制するリンク増設箇所の選択技術について、[(1)経路長増加率抑制リンク付加問題]、[(2)経路長増加率抑制リンク付加問題(PLEAP)]の順で、詳細を説明する。
【0046】
[(1)経路長増加率抑制リンク付加問題]
【0047】
まず、NW(ネットワーク)を無向グラフG=(V,E)…(Vは点集合、Eは辺集合)で表し、2つの点v,w∈Vを両端点とする経路の長さ(経路長)を、それに含まれる辺の本数とする。
【0048】
2つの点v,w間の経路のうち、長さ(経路長)が最も短いものを、無効グラフGにおけるv,w間の最短路と定義し、その長さをd(v,w)で表す。また、辺e∈Eを含む最短閉路(経路長が最短の閉路)の長さをC(e)とする。
【0049】
NW上の2つのノードの間の通信には、それらの間の最短路が用いられるものとする。これは、OSPFなど一般的なルーティングアルゴリズムで最短経路が採られていることを反映している。
【0050】
NWの単一リンク故障(SLF)とは、同時に障害を起こすリンクは高々一つということを意味する。これは、NWを表すグラフにおいて、障害リンクに対応する辺をeとした時、グラフGからグラフG−{e}=(V,E−{e})へと変化することを意味する。
【0051】
辺eのSLFによって、2点p,q(∈V)間のグラフGにおける最短路から、グラフG−{e}における最短路へと変化する。従って、経路長の増加率は、「dG−{e}(p,q)/d(p,q)」となる。
【0052】
このように、辺eのSLFによって、2点p,q間の最短距離が変化するならば、点p,qは、辺eを含む閉路上に存在するが、そのような閉路における増加率の最大値は、点p,qが辺eの両端点である場合である。
【0053】
よって、辺eのSLFによる経路長増加率の最大値は「C(e)−1」であり、maxe∈E{C(e)−1}を、グラフGの経路長増加率と定義する。これは、任意のSLFに対する最悪の経路長増加率を意味している。
【0054】
ここで、付加可能な箇所にB本以下のリンクを付加することによって、所望の経路長増加率K以下になるようにできるか否かを問う決定問題として、「経路長増加率抑制リンク付加問題」を、以下のようにして定義する。
【0055】
[(2)経路長増加率抑制リンク付加問題(PLEAP)]
『INSTANCE:無向グラフG,付加可能点対集合A,正の定数K,B.』
『QUESTION:G’=(V,E∪E’)…(ただし|E’|≦B)の経路長増加率をK以下にするE’は存在するか?』
【0056】
ここでは、集合E’が、付加するリンクの集合に対応する。現実的には、任意のノード間にリンクが付加できることはないため、このように、付加可能点対集合を指定することは自然である。
【0057】
上述の[(2)経路長増加率抑制リンク付加問題(PLEAP)]の定理に示したように、「経路長増加率抑制リンク付加問題」はNP完全であるため、厳密解を得るための多項式オーダのアルゴリズムの存在は期待できない。
【0058】
そのため、実際のネットワーク設計に適用させるためには、近似アルゴリズムを利用した設計が必要である。そこで、本例では、次の、集合被覆問題の近似アルゴリズムを利用したアルゴリズムを提案する。
【0059】
集合被覆問題とは、集合Uと、その部分集合族S={S,S,…,S}を入力とし、集合Uの要素を全て含む最小個数の部分集合の集合を選択・決定する問題である。
【0060】
ここでは、グラフGにおいて、辺e∈EのSLFによる経路長増加率がK以下の辺を充足辺と呼び、経路長増加率がK以上の辺を未充足辺と呼ぶ。そして、未充足辺集合をUとする。
【0061】
また、辺f(∈E)を付加することで1辺以上の未充足辺を充足辺にできるとき、辺fを候補辺と呼び、この候補辺fによって充足辺にできる未充足辺の集合をSとする。
【0062】
付加可能点対集合(グラフGにおいて辺を新たに付加することが可能な2つの点の組(対)の集合)に候補辺fの集合が含まれると仮定する。また、付加辺は候補辺fからのみ選ぶものとする。
【0063】
このとき、未充足辺集合Uと部分集合族S={S1,S2,…,Sm}に対する集合被覆問題の解から、全ての未充足辺を充足辺にする最小本数の付加辺集合が得られる。
【0064】
そこで、下記のように、集合被覆問題に対する近似アルゴリズムを利用してコンピュータ処理を実行することで、付加辺集合Cを得ることができる。
【0065】
[Algorithm AugmentEdges]
1:C=φ…(φ:空集合)
2:while U≠φ
3: do begin
4: |S∩U|が最大となるSを選ぶ
5: U=U−S,C=C∪{S
6: end do
7:end while
8:output C
【0066】
この集合被覆問題に対する近似アルゴリズムを利用してコンピュータ処理を実行することで付加辺集合Cを得る動作を図2を用いて説明する。
【0067】
図2において、まず、付加辺集合Cに含まれる要素を空に初期化し(ステップS201)、以下、未充足辺集合Uに1本以上の辺も残らないようになるまで(while U≠φ)、ステップS203〜S205の処理を繰り返す(ステップS202)。
【0068】
ステップS203では、各候補辺fに対して、候補辺fをグラフG(ネットワークトポロジ)に追加することで充足辺となる辺の集合(充足辺集合)Sを計算し、この充足辺集合Sに含まれる辺の中で、未充足辺集合Uに含まれる辺の数(|S∩U|)が最大となる充足辺集合Sを選択する。
【0069】
ステップS204では、ステップS103で選択した充足辺集合Sに含まれる辺を、未充足辺集合Uから除き(U=U−S)、ステップS205では、付加辺集合Cに充足辺集合Sを追加する(C=C∪{S})。
【0070】
ステップS203〜S205の処理を繰り返して、ステップS204での処理(U=U−S)の結果、未充足辺集合Uに1本以上の辺も残らないようになれば(ステップS202)、ステップS205で求めた付加辺集合Cを出力する(ステップS206)。
【0071】
また、付加可能点対集合に候補辺集合Sが含まれ、付加辺は候補辺集合Sからのみ選ぶものと仮定する。このとき、上述のアルゴリズムAugmentEdgesは、PLEAPの経路長増加率制約を満たす付加辺集合Cを出力する。
【0072】
このアルゴリズムで付加される辺の本数は、最小の本数の「log|U|+1」倍以下である。また、計算量Oは、未充足辺の数が|U|、候補辺の数が|S|の場合、O(|U|×|S|)である。
【0073】
この[(2)経路長増加率抑制リンク付加問題(PLEAP)]の定理は、集合被覆問題に対する近似アルゴリズムの性質より得られる。
【0074】
以下、図3,4を用いて、本例のシステムの性能評価結果を説明する。ここでは、CAIDA(Cooperative Association for Internet Data Analysis)において公開されている39個の実際のISPバックボーンNWのグラフ構造を利用した。
【0075】
図3では、対象としたNWの一覧を示している。図3中の「次数1のリンク数」とは、NWに対応するグラフにおいて、「次数1」の点とそれに接続する辺を削除し、それにより、また次数1の点が出現すれば、同様に点と辺を削除するということを繰り返した際、削除される辺の総数のことである。
【0076】
元のNWにおいて、このようにして削除される点に対応するノードと、他の任意のノードとの間の辺連結度は「1」であるため、そもそも信頼性があまり求められていないノードおよびそれにつながるリンクと言える。
【0077】
また、図3中の「辺eを含む閉路長C(e)」の列中にある「nan」は、NW中に閉路を1つも持たないことを示している。
【0078】
図4においては、経路長増加率の上限値Kの値を「2」から「7」まで変化させ評価を行った結果を示している。尚、ここでは、付加可能点対集合は、全ての点対集合とした。
【0079】
この図4では、元のNWで未充足辺の辺数と、各経路長増加率に対する付加辺数を挙げる。この図4から、元の現実NWには、経路長増加率が大きいものや、無限大(元のNWに閉路が存在せず、故障時に代替経路が存在しない)の割合が高いものも少なくないことがわかる。
【0080】
つまり、現実NWは、連結度や経路長増加率の観点からの性能は決して良いとは言えない。しかし、そのようなNWでも、本例の技術を用いて、それほど多くないリンク付加で改善することができることもわかる。
【0081】
例えば、増加率を「5」以下に抑えるために付加するリンク数は全体のリンク数と比べて小さく、増設は現実的な範囲で収めることができている。
【0082】
以上、図1〜図4を用いて説明したように、本例では、ネットワークにおける単一リンク障害時に対応して増設するリンクの増設箇所の選択を、プログラムされたコンピュータのグラフ理論を用いた処理によって行う際に、入力装置を介して入力されるネットワークのトポロジ情報Gと経路長増加率の上限値Kを記憶装置に格納し、単一リンク障害による経路長の増加率を全て上限値以下にするために増設するリンクの数を最小とするリンクの増設箇所を、記憶装置に記憶したネットワークのトポロジ情報Gと経路長増加率の上限値Kを用いた集合被覆問題に対する近似アルゴリズムに従った処理を実行して選択して出力装置に出力する。
【0083】
あるいは、入力装置を介して入力されるネットワークのトポロジ情報Gと経路長増加率の上限値Kおよびリンクを増設可能な箇所の集合情報(付加可能点対集合)を記憶装置に格納し、単一リンク障害による経路長の増加率を全て上限値以下にするために増設するリンクの数を最小とするリンクの増設箇所を、記憶装置に記憶したネットワークのトポロジ情報Gと経路長増加率の上限値Kおよび付加可能点対集合を用いた集合被覆問題に対する近似アルゴリズムに従った処理を実行して選択して出力する。
【0084】
リンク増設箇所を選択する際、ネットワークのトポロジ情報Gに対して辺e∈Eの単一リンク障害による経路長増加率が上限値K以下の辺(充足辺)と上限値K以上の辺(未充足辺)を求め、未充足辺の集合Uを求めると共に、辺f(∈E)を付加することで1辺以上の未充足辺を充足辺とする候補辺fを求め、さらに、この候補辺fによって充足辺となる未充足辺の集合Sを求め、そして、付加可能点対集合に候補辺集合が含まれ、且つ、付加辺は候補辺からのみ選ぶとの条件で、未充足辺の集合Uと、この集合Uの部分集合族S={S,S,…,S}に対する集合被覆問題の解から、全ての未充足辺を充足辺にする最小本数の付加辺集合Cを求め、この求めた付加辺集合Cを、リンクの増設箇所として選択する。
【0085】
具体的には、リンク増設箇所の選択では、下記の近似アルゴリズムに従い、集合Sに含まれる辺の中で、未充足辺集合Uに含まれる辺の数が最大となる集合Sを選択する処理と、未充足辺集合Uから、選択した集合Sに含まれる辺を除くと共に、選択した集合Sを付加辺集合Cとして追加する処理とを、未充足辺集合Uに1本以上の辺が残っている限り反復して行い、未充足辺集合Uに含まれる全ての辺に対する反復処理結果で得られる付加辺集合Cを、リンクの増設箇所として選択する。
【0086】
[Algorithm AugmentEdges]
1:C=φ…(φ:空集合)
2:while U≠φ
3: do begin
4: |S∩U|が最大となるSを選ぶ
5: U=U−S,C=C∪{S
6: end do
7:end while
8:output C
【0087】
また、リンク増設箇所選択では、近似アルゴリズムで付加する辺の本数は、最小の本数のlog|U|+1倍以下である。
【0088】
このように、本例によれば、ネットワークのトポロジと設計パラメタを入力し、入力データから最適な代替え経路を算出し、算出した代替え経路を出力することで、ネットワークのトポロジGと単一リンク障害時の最大経路長増加率の設計上限Kが与えられたときに、最大経路長増加率の設計上限値Kを満足する最小数のリンク増設箇所を選択することができ、リンク障害発生時での代替え経路の選択において、経路長の増加率を予め定められた値以下に抑えることができる。すなわち、最小限のリンク増設で、所望の連結度と経路長増加率を満たすことができ、高信頼かつ高品質なネットワークを構成することが可能である。
【0089】
尚、本発明は、図1〜図4を用いて説明した例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。
【符号の説明】
【0090】
101:トポロジ情報・最大経路長増加率の許容上限値入力部、102:リンク増設箇所選択部、102a:第1の未充足辺集合取得部、102b:第2の未充足辺集合取得部、102c:第1の付加辺集合算出部、102d:第2の付加辺集合算出部、103:リンク増設箇所出力部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネットワークにおける単一リンク障害時に対応して増設するリンクの増設箇所の選択を、プログラムされたコンピュータのグラフ理論を用いた処理によって行うリンク増設箇所最適選択システムであって、
プログラムされたコンピュータ処理を実行する手段として、
入力装置を介して入力されるネットワークのトポロジ情報Gと経路長増加率の上限値Kを記憶装置に格納する入力手段と、
上記単一リンク障害による経路長の増加率を全て上記上限値以下にするために増設するリンクの数を最小とするリンクの増設箇所を、上記記憶装置に記憶した上記ネットワークのトポロジ情報Gと上記経路長増加率の上限値Kを用いた集合被覆問題に対する近似アルゴリズムに従った処理を実行して選択するリンク増設箇所選択手段と、
該リンク増設箇所選択手段が選択したリンク増設箇所を出力装置に出力する出力手段と
を有することを特徴とするリンク増設箇所最適選択システム。
【請求項2】
ネットワークにおける単一リンク障害時に対応して増設するリンクの増設箇所の選択を、プログラムされたコンピュータのグラフ理論を用いた処理によって行うリンク増設箇所最適選択システムであって、
プログラムされたコンピュータの処理実行手段として、
入力装置を介して入力されるネットワークのトポロジ情報Gと経路長増加率の上限値Kおよび上記リンクを増設可能な箇所の集合情報(付加可能点対集合)を記憶装置に格納する入力手段と、
上記単一リンク障害による経路長の増加率を全て上記上限値以下にするために増設するリンクの数を最小とするリンクの増設箇所を、上記記憶装置に記憶した上記ネットワークのトポロジ情報Gと上記経路長増加率の上限値Kおよび上記付加可能点対集合を用いた集合被覆問題に対する近似アルゴリズムに従った処理を実行して選択するリンク増設箇所選択手段と、
該リンク増設箇所選択手段が選択した上記リンクの増設箇所を出力装置に出力する出力手段と
を有することを特徴とするリンク増設箇所最適選択システム。
【請求項3】
請求項2に記載のリンク増設箇所最適選択システムであって、
上記リンク増設箇所選択手段は、
上記ネットワークのトポロジ情報Gに対して辺e∈Eの単一リンク障害による経路長増加率が上記上限値K以下の辺(充足辺)と上限値K以上の辺(未充足辺)を求め、未充足辺の集合Uを求める第1の手段と、
辺f(∈E)を付加することで1辺以上の未充足辺を充足辺とする候補辺fを求め、該候補辺fによって充足辺となる未充足辺の集合Sを求める第2の手段と、
上記付加可能点対集合に上記候補辺集合が含まれ、且つ、付加辺は候補辺からのみ選ぶとの条件で、上記未充足辺の集合Uと該集合Uの部分集合族S={S,S,…,S}に対する上記集合被覆問題の解から、全ての未充足辺を充足辺にする最小本数の付加辺集合Cを求める第3の手段と
を有し、
上記求めた付加辺集合Cを、上記リンクの増設箇所として選択することを特徴とするリンク増設箇所最適選択システム。
【請求項4】
請求項3に記載のリンク増設箇所最適選択システムであって、
上記リンク増設箇所選択手段は、
下記の近似アルゴリズムに従い、
上記集合Sに含まれる辺の中で、上記未充足辺集合Uに含まれる辺の数が最大となる集合Sを選択する処理と、
上記未充足辺集合Uから上記選択した集合Sに含まれる辺を除くと共に、上記選択した集合Sを上記付加辺集合Cとして追加する処理とを、
上記未充足辺集合Uに1本以上の辺が残っている限り反復し、
上記未充足辺集合Uに含まれる全ての辺に対する上記反復処理結果で得られる上記付加辺集合Cを、上記リンクの増設箇所として選択することを特徴とするリンク増設箇所最適選択システム。

[Algorithm AugmentEdges]
1:C=φ…(φ:空集合)
2:while U≠φ
3: do begin
4: |S∩U|が最大となるSを選ぶ
5: U=U−S,C=C∪{S
6: end do
7:end while
8:output C
【請求項5】
請求項4に記載のリンク増設箇所最適選択システムであって、
上記リンク増設箇所選択手段が、上記近似アルゴリズムで付加する辺の本数は、最小の本数のlog|U|+1倍以下であることを特徴とするリンク増設箇所最適選択システム。
【請求項6】
ネットワークにおける単一リンク障害時に対応して増設するリンクの増設箇所の選択を、プログラムされたコンピュータのグラフ理論を用いた処理によって行うシステムのリンク増設箇所最適選択方法であって、
プログラムされたコンピュータの処理実行手順として、
請求項1から請求項5のいずれかに記載のリンク増設箇所最適選択システムにおける各手段が実行する処理手順を含むことを特徴とするリンク増設箇所最適選択方法。
【請求項7】
コンピュータを、請求項1から請求項5のいずれかに記載のリンク増設箇所最適選択システムにおける各手段として機能させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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