説明

リングレーザジャイロ用信号処理回路及びリングレーザジャイロ装置

【課題】ディザ検出用圧電素子(ディザピックオフ)を不要として組み立ての簡易化を図れるようにし、さらにディザピックオフの故障によりディザ制御が不能になるといった問題を解消する。
【解決手段】ジャイロ出力処理部40とディザ駆動回路30とを備え、ジャイロ出力処理部40はディザ駆動信号をA/D変換するA/D変換器41と、A/D変換器41の出力を入力して適応フィルタ演算を行い、ディザ信号を出力する適応フィルタ43と、ジャイロ出力からディザ信号を減算して補正後ジャイロ出力を出力する減算器44と、補正後ジャイロ出力とディザ信号を乗算する乗算器45と、乗算器45の出力からディザ信号の誤差を推定して適応フィルタ43のフィルタ係数の更新値を適応フィルタ43に出力する誤差推定部46と、ディザ信号をD/A変換してディザ検出信号を出力するD/A変換器47とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はディザ機構を備えたリングレーザジャイロに関し、特にそのリングレーザジャイロ用の信号処理回路に関する。
【背景技術】
【0002】
図2はディザ機構を具備するリングレーザジャイロの構造を示したものであり、ガラス製のブロック11内に三角形の通路12が形成され、その通路12の三角形の各頂点にミラー13〜15が配され、これらミラー13〜15によってリング状光路が構成されている。通路12内にはレーザ媒質が封入され、通路12の各辺には陽極16,17及び陰極18が設けられている。ブロック11の中央には開口19が形成されており、この開口19にディザ機構21が嵌装されて取り付けられている。
【0003】
ディザ機構21は図3に示したように、円筒状の可動部22と、その軸心から放射状に延伸されて可動部22に至る3つの腕状変形部23と、軸心位置においてこれら変形部23と連結され、変形部23で区切られた各空間に突出した3つの島状の取り付け部24aを有する固定部24とよりなり、各変形部23の両側面には圧電素子25がそれぞれ接着されて取り付けられている。
【0004】
3つの変形部23に取り付けられた計3対(6個)の圧電素子25のうち、2対はディザ駆動用に使用され、残る1対はディザ検出用に使用される。ディザ検出用に使用される圧電素子25をディザピックオフと称する。なお、取り付け部24aにはこのディザ機構21を具備するリングレーザジャイロ10を例えばシャーシ(図示せず)上にネジ止め固定して搭載する際に使用するネジ用のザグリ穴24bが形成されている。
【0005】
上記のような構成を有するリングレーザジャイロ10では陽極16,17と陰極18との間に高電圧を印加し、プラズマ放電を発生させてレーザ媒質を励起し、リング状光路に互いに反対方向(CW,CCW)に進行する2つのレーザ光を発振させる。この状態でリング状光路の軸心を中心とする角速度が入力すると、2つのレーザ光に光路差が生じ、その光路差が2つのレーザ光間に発振周波数差を生じさせ、この発振周波数差から入力角速度を検出するものとなっている。
【0006】
図4Bはディザ駆動回路の従来構成例を示したものであり、ディザピックオフより取り出されるディザピックオフ信号はローパスフィルタ31に通され、一方ディザピックオフ信号に乗算器32によって基準電圧発生回路33から出力される基準値が乗算され、これらローパスフィルタ31の出力と乗算器32の出力が加算器34に入力されて加算される。加算器34の出力は位相調整回路35によって位相調整され、昇圧回路36によって昇圧されてディザ駆動信号となり、このディザ駆動信号が駆動用の圧電素子25に供給される。
【0007】
このディザ駆動回路は自励発振回路を構成しており、ディザの共振周波数で振動し、ディザピックオフ信号の振幅が一定になるように制御する。ディザピックオフ信号の振幅が基準値と等しい時にはディザ駆動信号はディザピックオフ信号に対して位相が約45度遅れる。これに対し、ディザピックオフ信号が基準値より小さい時は位相差が45度より小さくなり、同位相に近い状態となるため、ディザ駆動信号の振幅が大きくなる。一方、ディザピックオフ信号が基準値より大きい時は位相差が45度より大きくなり、90度位相ずれ(ダンピング)に近い状態となるため、ディザ駆動信号の振幅が小さくなる。これにより、ディザは一定の振幅で角振動するものとなる。
【0008】
リングレーザジャイロ10から取り出され、信号処理されて生成されたCWパルス及びCCWパルスは図4Aに示したように合成手段20に入力され、合成手段20はこれらCWパルス及びCCWパルスを合成してジャイロ出力を生成する。ジャイロ出力はディザ振動成分を含み、つまりディザ角速度と慣性角速度とを含む信号となる。
【0009】
一方、ディザピックオフ信号が図4Aに示したようにA/D変換器41に入力されてディジタル信号に変換され、このディジタルディザピックオフ信号が位相補償回路42に入力される。位相補償回路42で位相を補償されたディジタルディザピックオフ信号は適応フィルタ43に入力される。ディジタルディザピックオフ信号は適応フィルタ43で振幅を変えられ、ジャイロ出力に含まれているディザ角速度振幅と振幅が一致するディザ信号がこの適応フィルタ43で生成される。
【0010】
ジャイロ出力とディザ信号は減算器44に入力され、減算器44においてジャイロ出力からディザ信号が減算される。減算器44の出力はディザ角速度成分が除去された補正後のジャイロ出力となる。補正後ジャイロ出力は乗算器45においてディザ信号と乗算され、補正後ジャイロ出力のディザ信号成分が誤差推定部46に入力される。誤差推定部46はディザ信号の誤差を推定し、適応フィルタ43のフィルタ係数の更新値を適応フィルタ43に出力する。これにより、適応フィルタ43のフィルタ係数が更新される。このようにして、補正後ジャイロ出力のディザ角速度成分が0になるように制御される。
【0011】
このように、従来においてはリングレーザジャイロ10用の信号処理回路として、図4A,Bに示したような構成を採用しており、ディザピックオフ信号がディザ駆動回路に入力されてディザ駆動信号が生成され、またディザピックオフ信号を用いてジャイロ出力からディザ角速度を除去するものとなっている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0012】
なお、特許文献2にはディザ機構において、圧電素子から流れる電流(バック電流)を検出してディザピックオフ信号とすることで、駆動及び検出の両者を同じ圧電素子で行えるようにした構成が記載されている。
【特許文献1】米国特許第5331402号明細書
【特許文献2】特開平2−63178号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、図4Bに示したような従来のディザ駆動回路ではディザ制御はディザピックオフで検出した信号により行われるため、例えばディザピックオフが故障すると機能が失われ、ディザ制御が不能となる。
【0014】
これに対し、特許文献2では圧電素子から流れる電流を検出して、ディザピックオフ信号とすることにより、全ての圧電素子を駆動用及び検出用の両者に用いることができるようにしており、これによりディザピックオフの故障による問題を回避することができるようにしているものの、この方法では圧電素子の電流を見ているため、ディザピックオフ信号は実際の振動を示す信号とは異なる信号となる。
【0015】
一方、図3に示したようなディザ機構21において、変形部23は例えば約500Hzで共振するように構成されており、変形部23はS字形状をなすような形で共振する。従って、圧電素子25を変形部23の中央に取り付けると、1対の検出用圧電素子25の出力は変位が相殺されてちょうど0になってしまうため、圧電素子25の取り付け位置は変形部23の延伸方向(放射方向)において、例えば軸心寄りの1/3の位置とされ、3対の圧電素子25をそれぞれこの位置に正確に取り付ける必要がある。圧電素子25の取り付けは位置決め治具を使用して行われるが、3対の圧電素子25を各変形部23に対して同じ位置に正確に取り付けるための調整に多くの時間がかかるものとなっていた。
【0016】
さらに、圧電素子より取り出されるディザピックオフ信号は、温度変動や圧電素子の経年変化によって、振幅や位相が変化するという問題がある。
【0017】
この発明の目的はこれら問題に鑑み、ディザピックオフ信号を不要とし、つまりディザピックオフとしての圧電素子を不要として、その分圧電素子の取り付け・調整作業の簡易化を図れるようにし、さらにディザピックオフの故障によりディザ制御が不能になるといった問題が発生しないようにしたリングレーザジャイロ用の信号処理回路及びリングレーザジャイロ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
請求項1の発明によれば、ディザ機構を備えたリングレーザジャイロ用の信号処理回路は、ディザ振動成分を含むジャイロ出力を処理するジャイロ出力処理部と、ディザ駆動信号を生成するディザ駆動回路とを備え、ジャイロ出力処理部はディザ駆動信号をA/D変換するA/D変換器と、そのA/D変換器の出力を入力して適応フィルタ演算を行い、ディザ信号を出力する適応フィルタと、ジャイロ出力からディザ信号を減算して補正後ジャイロ出力を出力する減算器と、補正後ジャイロ出力とディザ信号とを乗算する乗算器と、その乗算器の出力からディザ信号の誤差を推定して適応フィルタのフィルタ係数の更新値を適応フィルタに出力する誤差推定部と、ディザ信号をD/A変換してディザ検出信号を出力するD/A変換器とを備えるものとされる。
【0019】
請求項2の発明では請求項1の発明において、ディザ検出信号がディザ駆動回路に入力されるものとされる。
【0020】
請求項3の発明によれば、リングレーザジャイロ装置は請求項1又は2記載のリングレーザジャイロ用信号処理回路を具備するものとされる。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、ディザピックオフとしての圧電素子が不要となり、その分圧電素子の取り付け・調整作業の簡易化を図ることができ、またディザピックオフの故障によりディザ制御が不能になるといった問題を解消することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
この発明の実施形態を図面を参照して実施例により説明する。
図1はこの発明によるリングレーザジャイロ用信号処理回路の一実施例の構成をリングレーザジャイロと共に示したものであり、信号処理回路において図4と対応する部分には同一符号を付してある。
【0023】
信号処理回路はジャイロ出力処理部40とディザ駆動回路30とよりなり、ジャイロ出力処理部40はディザ振動成分を含むジャイロ出力を処理し、ディザ駆動回路30はディザ駆動信号を生成する。まず、ジャイロ出力処理部40について説明する。
【0024】
この例ではディザ駆動回路30によって生成されたディザ駆動信号がジャイロ出力処理部40のA/D変換器41に入力されてディジタル信号に変換され、このディジタルディザ駆動信号が適応フィルタ43に入力される。適応フィルタ43に入力されたディジタルディザ駆動信号は従来におけるディジタルディザピックオフ信号と同じ周波数であり、適応フィルタ43において適応フィルタ演算が行われ、ディジタルディザ駆動信号はジャイロ出力に含まれているディザ角速度振幅と振幅が一致するように適応フィルタ43において振幅が変えられてディザ信号となる。
【0025】
従来と同様、ジャイロ出力と適応フィルタ43から出力されるディザ信号とが減算器44に入力され、減算器44によってジャイロ出力からディザ信号が減算される。減算器44の出力はジャイロ出力からディザ角速度成分が除去された補正後ジャイロ出力となる。
【0026】
補正後ジャイロ出力は従来と同様、乗算器45によってディザ信号と乗算され、補正後ジャイロ出力のディザ信号成分が誤差推定部46に入力される。誤差推定部46はディザ信号の誤差を推定し、適応フィルタ43のフィルタ係数の更新値を適応フィルタ43に出力する。これにより、適応フィルタ43のフィルタ係数が更新され、補正後ジャイロ出力のディザ角速度成分が0になるように制御される。
【0027】
一方、適応フィルタ43より出力されるディザ信号はD/A変換器47に入力され、アナログ信号となる。このアナログ信号をここではディザ検出信号と言う。ディザ検出信号はディザ駆動回路30に入力される。
【0028】
ディザ駆動回路30は図4Bに示した従来のディザ駆動回路と同様の構成とされ、この例ではディザピックオフ信号の代わりにディザ検出信号がジャイロ出力処理部40から入力される。ディザ駆動信号はディザ検出信号の振幅が一定になるように、ディザ駆動回路30によって制御され、このディザ駆動信号がリングレーザジャイロ10’の駆動用圧電素子25に供給されると共に、ジャイロ出力処理部40に供給される。
【0029】
なお、リングレーザジャイロ10’のディザ機構21’にはこの例では図1に示したように駆動用として2対の圧電素子25が取り付けられているのみで、検出用の圧電素子(ディザピックオフ)はなく、つまり3つの変形部23のうち、1つは圧電素子25の取り付けが不要となっている。
【0030】
このように、この例ではディザ駆動信号とジャイロ出力とを比較し、ディザ駆動信号から適応フィルタ43を使用してディザの角速度を同定することで、ディザピックオフ信号を用いることなく、ジャイロ出力からディザ角速度成分を除去することができるものとなっている。また、適応フィルタ43により同定したディザ角速度をディザ検出信号とし、ディザの駆動振幅を制御するものとなっており、つまりディザピックオフを使用しないでジャイロ出力からディザ角速度振幅を検出し、ディザ駆動信号を制御するものとなっている。
【0031】
従って、この例によればディザピックオフとしての圧電素子は不要であり、その分圧電素子の取り付け・調整作業を従来に比し、簡単に行うことができ、その点で低コスト化を図ることができる。また、ディザピックオフの故障によりディザ制御が不能になるといった問題も発生しない。
【0032】
なお、この例によれば、上述したようにディザピックオフとしての圧電素子が不要となるため、従来において検出用に使用していた圧電素子を例えば駆動用に使用するといったことも可能になる。この場合、2対の圧電素子を例えば300Vで駆動していたとすると、圧電素子を3対とすることで約200Vで駆動することが可能となり、駆動電圧を小さくすることができる。昇圧回路の大きさは主にトランスに依存するため、駆動電圧の低減によりトランスの巻線数を少なくすることができ、その点でリングレーザジャイロ装置の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】この発明によるリングレーザジャイロ用信号処理回路の一実施例の構成を説明するための図。
【図2】リングレーザジャイロの従来構造例を説明するための図。
【図3】図2におけるディザ機構の詳細を示す図、Aは平面図、Bは側面図、CはDD断面図。
【図4】リングレーザジャイロ用信号処理回路の従来構成例を示すブロック図、Aはジャイロ出力処理部を示し、Bはディザ駆動回路を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディザ機構を備えたリングレーザジャイロ用の信号処理回路であって、
ディザ振動成分を含むジャイロ出力を処理するジャイロ出力処理部と、
ディザ駆動信号を生成するディザ駆動回路とを備え、
前記ジャイロ出力処理部は、
前記ディザ駆動信号をA/D変換するA/D変換器と、
そのA/D変換器の出力を入力して適応フィルタ演算を行い、ディザ信号を出力する適応フィルタと、
前記ジャイロ出力から前記ディザ信号を減算して補正後ジャイロ出力を出力する減算器と、
前記補正後ジャイロ出力と前記ディザ信号とを乗算する乗算器と、
その乗算器の出力から前記ディザ信号の誤差を推定して、前記適応フィルタのフィルタ係数の更新値を前記適応フィルタに出力する誤差推定部と、
前記ディザ信号をD/A変換してディザ検出信号を出力するD/A変換器とを備えることを特徴とするリングレーザジャイロ用信号処理回路。
【請求項2】
請求項1記載のリングレーザジャイロ用信号処理回路において、
前記ディザ検出信号が前記ディザ駆動回路に入力されることを特徴とするリングレーザジャイロ用信号処理回路。
【請求項3】
請求項1又は2記載のリングレーザジャイロ用信号処理回路を具備することを特徴とするリングレーザジャイロ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−309704(P2008−309704A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−159073(P2007−159073)
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【出願人】(000231073)日本航空電子工業株式会社 (1,081)
【Fターム(参考)】