説明

リング状ワークの製造方法および製造装置

【課題】遠心鋳造後に行なう切削加工等の仕上げ工程を容易化し、もってリング状ワークの製造効率を高めることが可能な製造方法を提供する。
【解決手段】リング状ワーク21を遠心鋳造法により製造する方法であって、遠心鋳造型1におけるキャビティ4の外周部にリング形状のシェル中子5を配置し、シェル中子5を配置した遠心鋳造型1を回転させ、その中に注湯することによりワーク21を鋳造する。ワーク21は例えば、外周面にプーリ溝21dを有するダンパー用振動リング素材であり、シェル中子5の内周面に、プーリ溝21dを成形するための溝形状5eを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リング状ワークを製造するための製造方法および製造装置に関するものである。本発明において製造の対象とするリング状ワークは例えば、トーショナルダンパー(TVD)に用いる振動リング素材であって、この振動リング素材は、鋳造後に切削加工等の仕上げ工程を施されることにより完成部品としての振動リングとされる。
【背景技術】
【0002】
従来、トーショナルダンパーに用いる振動リング素材を製造する方法ないし装置としては、図4に示すように、受口52、湯口53、湯口底54、湯道55、押し湯56、堰57およびキャビティ58等を一連に設けた砂型51を使用しており、受口52から溶湯を流し込むことによってワーク21としての振動リング素材を鋳造している。
【0003】
しかしながら、この従来の方法ないし装置には、以下のような不都合がある。
(1)砂型51を製作するために巨大な砂処理および造型設備が必要である(設備投資・スペース大)。
(2)湯道55等が必要とされるために、歩留りが悪い。
(3)ワーク21内部に巣不良が発生しやすい。
(4)鋳造後に切削する部分が多いために、加工工数がかかる。
【0004】
また従来、上記不都合を解消するものとして、遠心鋳造法により振動リング素材を製造する方法ないし装置が開発されているが(例えば特許文献1参照)、この従来の方法ないし装置では、溶湯を金型に直接注入することから、以下のような不都合がある。
【0005】
すなわち、溶湯を金型に直接注入すると、溶湯が金型内部の金属表面に接触して急速に冷却され、その結果として、ワークの表面硬度が非常に硬い仕上がりとなる(HRC450〜500程度)。したがって、ワークが切削加工しにくいものとなり、遠心鋳造後に行なう切削加工等の仕上げ工程に多大な工数を要することになる。
【0006】
【特許文献1】実開平6−66852号公報
【特許文献2】特開平5−57394号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は以上の点に鑑みて、遠心鋳造後に行なう切削加工等の仕上げ工程を容易化することができ、もってリング状ワークの製造効率を高めることが可能な製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1によるリング状ワークの製造方法は、リング状ワークを遠心鋳造法により製造する方法であって、遠心鋳造型におけるキャビティの外周部にリング形状のシェル中子を配置し、前記シェル中子を配置した遠心鋳造型を回転させ、その中に注湯することにより前記ワークを鋳造することを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の請求項2によるリング状ワークの製造方法は、上記した請求項1の製造方法において、ワークは、ダンパー用振動リング素材であることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の請求項3によるリング状ワークの製造方法は、上記した請求項1の製造方法において、ワークは、外周面にプーリ溝を有するダンパー用振動リング素材であり、シェル中子の内周面には、前記プーリ溝を成形するための溝形状を設けることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の請求項4によるリング状ワークの製造装置は、リング状ワークを遠心鋳造法により製造する装置であって、上型および下型の組み合わせよりなるとともに回転駆動源に接続されて回転作動する遠心鋳造型を有し、前記遠心鋳造型におけるキャビティの外周部に配置されるリング形状のシェル中子を有し、前記シェル中子は、前記ワークの外周面を成形する部位と、前記ワークの一方の端面を成形する部位と、前記ワークの他方の端面を成形する部位とを一体に有することを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の請求項5によるリング状ワークの製造装置は、上記した請求項4の製造装置において、ワークは、ダンパー用振動リング素材であることを特徴とするものである。
【0013】
更にまた、本発明の請求項6によるリング状ワークの製造装置は、上記した請求項4の製造装置において、ワークは、外周面にプーリ溝を有するダンパー用振動リング素材であり、シェル中子はその内周面に、前記プーリ溝を成形するための溝形状を有することを特徴とするものである。
【0014】
本発明で用いるシェル中子は、芯材の外面に樹脂をバインダーとする砂の被覆層(コーテッドサンド)を形成したものであって、樹脂や砂は金属と比較して熱伝導率が小さいことから、溶湯の熱を奪いにくい。したがって、このような特性をもつシェル中子に対して溶湯が接触するようにして遠心鋳造を行なうことにより、溶湯が急速に冷却されるのを抑えることが可能となる。
【0015】
上記シェル中子を遠心鋳造型の内部に設置するには、シェル中子をリング形状とし、このリング形状のシェル中子を遠心鋳造型におけるキャビティの外周部に配置する。遠心鋳造型を回転させてその中に溶湯を注入すると、溶湯は遠心力によってシェル中子の内面に集められて凝固し、よってワークがリング状に鋳造される。尚、このときシェル中子に、ワークの外周面を成形する部位と、ワークの一方の端面を成形する部位と、ワークの他方の端面を成形する部位とを一体に設けておくと、これらの成形部位の形状に応じて、所望の断面形状を有するワークを鋳造することが可能となる。
【0016】
上記リンク状ワークは例えば、ダンパーに用いる振動リングを製造するための素材(振動リング素材)であって、この振動リング素材は、遠心鋳造後に切削加工等の仕上げ工程を施すことにより完成部品である振動リングとして製造されるものである。振動リングの種類としては、その外周面に、回転トルクを伝達すべく無端ベルトを巻架するためのプーリ溝を設けたものがあり、このように振動リングがプーリ溝を有するものである場合には、振動リング素材の鋳造時に予めその外周面にプーリ溝(その予備的加工形状のものを含む)を形成することにより遠心鋳造後に行なう切削加工の加工量を大幅に低減させることが可能となる。したがって、このような観点から本発明では、シェル中子の内周面にプーリ溝を成形するための溝形状を設け、これをワークである振動リング素材に転写することにした。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、以下の効果を奏する。
【0018】
すなわち、本発明の請求項1による製造方法および請求項4による製造装置においてはそれぞれ、遠心鋳造型におけるキャビティの外周部にリング形状のシェル中子を配置し、シェル中子を配置した遠心鋳造型を回転させ、その中に注湯することによりワークを鋳造するようにしたために、溶湯はシェル中子に接して従来よりも熱を奪われにくく、よって急速に冷却するのを抑えることが可能とされている。したがって、ワークの表面硬度が従来よりも柔らかく成形されることから、遠心鋳造後に行なう切削加工等の仕上げ工程を容易化することができる。したがって、本発明所期の目的どおり、遠心鋳造後に行なう切削加工等の仕上げ工程を容易化することができ、もってリング状ワークの製造効率を高めることができる。また、請求項4の製造装置によるとシェル中子が、ワークの外周面を成形する部位と、ワークの一方の端面を成形する部位と、ワークの他方の端面を成形する部位とを一体に有しているために、これら成形部位の形状に応じて、所望の断面形状を有するワークを容易に鋳造することができる。
【0019】
また、本発明の請求項2による製造方法および請求項5による製造装置においてはそれぞれ、ワークがダンパー用振動リング素材である場合にも、上記請求項1または4による作用効果を得ることができる。
【0020】
また、本発明の請求項3による製造方法および請求項6による製造装置においてはそれぞれ、シェル中子の内周面にプーリ溝を成形するための溝形状が設けられているために、遠心鋳造後に行なう切削加工の加工量を大幅に低減させることが可能とされている。したがって、上記切削加工等の仕上げ工程を一層容易化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
つぎに本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
【0022】
図1は、本発明の実施例に係る製造方法の実施に使用する製造装置の要部断面を示しており、図2は、同製造装置に組み込むシェル中子5の斜視図を示している。当該実施例に係る製造装置は、トーショナルダンパーに用いる振動リング素材をリング状ワーク21として製造するものであって、以下のように構成されている。
【0023】
すなわち先ず、上型(1型とも称する)2および下型(2型とも称する)3の組み合わせよりなるとともに、図示しないモーター等の回転駆動源に接続されて回転作動する遠心鋳造型1が設けられており、この鋳造型1におけるキャビティ4の外周部にリング形状を呈するシェル中子5が配置されている。
【0024】
シェル中子5は、芯材の外面に樹脂をバインダーとする砂の被覆層(コーテッドサンド)を形成したものであって、上記ワーク21の外周面21aを成形するための円筒状を呈する外周面成形部位5aと、上記ワーク21の一方(図では上側)の軸方向端面21bを成形するための内向きフランジ状を呈する一方の端面成形部位5bと、上記ワーク21の他方(図では下側)の軸方向端面21cを成形するための内向きフランジ状を呈する他方の端面成形部位5cとを一体に有して断面略コ字状に形成され、これらの成形部位5a,5b,5cの内側に、径方向内方へ向けて開口する環状の成形用空間5dを有している。また、このシェル中子5は上記したようにリング形状に成形されるが、必要に応じて円周上複数に分割して成形されたものであっても良い。
【0025】
上記シェル中子5を保持する下型3の内面(上面)には、シェル中子5を装着するための環状溝状の装着部3aが設けられており、この装着部3aの内周端部の溝深さ寸法dは、ここに装着される端面成形部位5cの厚み寸法wと同じまたは略同じに設定されている。したがって、注入される溶湯は、下型3の内面上から端面成形部位5c上へと流れやすく構成されている。また、装着部3aの内周側であって下型3の内面には円錐面状の凸部3bが設けられているので、これによっても、注入される溶湯は、下型3の内面上から端面成形部位5c上へと流れやすく構成されている。
【0026】
一方、上型2の内面には、シェル中子5を装着するための環状段差状の装着部2aが設けられており、この装着部2aの内周側は、溶湯を注入するための開口部2bとされている。
【0027】
上記構成の製造装置を用いてリング状ワーク21である振動リング素材を製造するに際しては、図1に示したように、遠心鋳造型1のキャビティ4内部にシェル中子5を組み付けた状態で、鋳造型1を回転駆動源により回転させ、開口部2bからキャビティ4へと溶湯を注入し、注入した溶湯を遠心力によりシェル中子5に付着させ、凝固させる。製造したワーク21は、鋳造型1から取り出し、切削加工等の機械加工による仕上げ工程を実施して完成部品である振動リングとする。尚、図1においては、実線で示したリング状ワーク(振動リング素材)21の断面形状の中に、一回り小さな完成部品(振動リング)31の断面形状が二点鎖線で描かれている。
【0028】
上記製造方法ないし製造装置によれば、遠心鋳造型1による遠心鋳造を実施するために、
(1)設備が簡素化できる(設備投資・スペース小(砂処理設備不要、造型設備簡素化、中子成形機のみ必要))、
(2)湯道等の必要がないため、歩留りが向上する、
(3)遠心力によるエアー抜きができるため、巣不良が少ない素材ができる、
(4)最終形状に近い素材を鋳造できるため、加工工数が少なくなる
と云う作用効果を発揮するほか、以下の作用効果を発揮することが可能とされている。
【0029】
すなわち先ず、上記したようにシェル中子5の材質である樹脂や砂が金属と比較して熱伝導率の小さなものであることから、遠心鋳造に際して溶湯は熱を奪われにくい。したがって、注入した溶湯が急速に冷却されることがなく、よってワーク21の表面硬度が従来よりも柔らかく成形されるために、遠心鋳造後に行なう切削加工等の機械加工による仕上げ工程を容易化することができる。
【0030】
また、シェル中子5が、ワーク21の外周面21aを成形する外周面成形部位5a、ワーク21の一方の端面21bを成形する端面成形部位5bおよびワーク21の他方の端面21cを成形する端面成形部位5cを一体に有して全体として断面略コ字状に形成されているために、これらの成形部位5a,5b,5cの形状に応じて、所望の断面形状を有するワーク21を容易に鋳造することができる。
【0031】
尚、図1に二点鎖線で示したように、リング状ワーク21である振動リング素材から製造される振動リング31には、回転トルク伝達用の無端ベルトを巻架するためのポリV溝等のプーリ溝31aが設けられることが多く、この場合、振動リング素材を製造するときにこの素材にプーリ溝21dを形成すると、後の切削加工における切削量を低減させることができる。したがってこの場合には、図1の断面図の右半分および図3の斜視図に示すように、シェル中子5の内面であって外周面成形部位5aの内周面に予めプーリ溝21dを成形するための溝形状5eを設け、振動リング素材の鋳造と同時にその外周面にプーリ溝21dを形成する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施例に係る製造方法の実施に使用する製造装置の要部断面図
【図2】同製造装置に組み込むシェル中子の一例を示す斜視図
【図3】同製造装置に組み込むシェル中子の他の例を示す斜視図
【図4】従来の製造装置を示す説明図
【符号の説明】
【0033】
1 遠心鋳造型
2 上型
2a,3a 装着部
2b 開口部
3 下型
3b 凸部
4 キャビティ
5 シェル中子
5a 外周面成形部位
5b,5c 端面成形部位
5d 成形用空間
5e 溝形状
21 ワーク(振動リング素材)
21a 外周面
21b,21c 端面
21d,31a プーリ溝
31 完成部品(振動リング)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リング状ワークを遠心鋳造法により製造する方法であって、遠心鋳造型におけるキャビティの外周部にリング形状のシェル中子を配置し、前記シェル中子を配置した遠心鋳造型を回転させ、その中に注湯することにより前記ワークを鋳造することを特徴とするリング状ワークの製造方法。
【請求項2】
請求項1の製造方法において、ワークは、ダンパー用振動リング素材であることを特徴とするリング状ワークの製造方法。
【請求項3】
請求項1の製造方法において、ワークは、外周面にプーリ溝を有するダンパー用振動リング素材であり、シェル中子の内周面には、前記プーリ溝を成形するための溝形状を設けることを特徴とするリング状ワークの製造方法。
【請求項4】
リング状ワークを遠心鋳造法により製造する装置であって、上型および下型の組み合わせよりなるとともに回転駆動源に接続されて回転作動する遠心鋳造型を有し、前記遠心鋳造型におけるキャビティの外周部に配置されるリング形状のシェル中子を有し、前記シェル中子は、前記ワークの外周面を成形する部位と、前記ワークの一方の端面を成形する部位と、前記ワークの他方の端面を成形する部位とを一体に有することを特徴とするリング状ワークの製造装置。
【請求項5】
請求項4の製造装置において、ワークは、ダンパー用振動リング素材であることを特徴とするリング状ワークの製造装置。
【請求項6】
請求項4の製造装置において、ワークは、外周面にプーリ溝を有するダンパー用振動リング素材であり、シェル中子はその内周面に、前記プーリ溝を成形するための溝形状を有することを特徴とするリング状ワークの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−229765(P2007−229765A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−54610(P2006−54610)
【出願日】平成18年3月1日(2006.3.1)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】