説明

リング精紡機を用いて短繊維を精紡する精紡方法および精紡装置

【解決手段】短繊維の束が練条機で延伸され、練条機から導出される際に加撚されて1本の糸に加工された後にトラベラーユニットにより巻き取られ、練条機から導出された繊維束が制動部材を有した加撚手段を備える糸ガイドを通過し、糸が加撚手段をスピンドルの回転数に同期して駆動して繊維束に撚りを加え、加撚手段から導出され、糸が加撚手段から導出された直後に溝部分付きのピースを経てガイドされるリング精紡機を用いて短繊維を精紡する精紡方法。練条機とスピンドルとの間に配置されて加撚手段を有する糸ガイドを備え、加撚手段がスピンドルに磁力を介して連結され、スピンドルの上端部の上方に配置されてスピンドルと同じ回転数で回転して制動部材を有し、スピンドルの先端に設置されるヘッドピースが加撚手段の下流側に設置されて導出された糸を捕捉して追従させる溝部分を外周面に有するリング精紡機により短繊維を精紡する精紡装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステープルファイバー(staple fibers)の束、すなわち、短繊維の束が、練条機で延伸された後に練条機から導出される際に加撚されて1本の糸に加工された後にリングトラベラーユニットにより巻き取られ、練条機から導出された繊維束が、制動部材を有した加撚手段を備える糸ガイドユニットを通過し、加撚済みの糸が、加撚手段をスピンドルの回転数に同期して駆動して繊維束に撚りを加える結果として加撚手段から導出される、リング精紡機を用いて短繊維を精紡する精紡方法およびこの精紡方法を実行する精紡装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リング精紡機において、糸が、練条機と糸ガイドとの間における、所謂、精紡領域で破断することが知られている。
この精紡領域において、練条機から導出されるスライバは、まだ、糸に対するいかなる応力集中にも耐えられる程度には強固ではない。
加えて、従来の糸ガイドつまり糸ガイド穴は、リングトラベラーから精紡領域への撚りの伝達を部分的にしか許容しないように設計されている。
【0003】
前述した問題を解決するため、当業者は、何十年来に亘って数多くの提案をしてきており、例えば、リングスピンドル、すなわち、スピンドル上にクラウンを設けて、リング上を周回するトラベラーに由来する精紡三角領域方向への加撚をより効果的にするとともに、問題のある領域において、練条機から導出されるスライバの強化の改善を達成することが提案されている(独国特許第116584号明細書)。
これらスピンドルヘッドピースにおいて、糸は、クラウンの鋸歯に係止されて、鋸歯により捕捉されて追従するものの、糸は、クラウンの箇所で、巻き取りと巻き取り速度とに応じてスピンドルの周速よりも遅れるリングトラベラーと同じ後退運動を行う必要があった。
糸は、張力が増大して糸が隣の鋸歯にジャンプするまで、クラウンの鋸歯に係止されるように設計されている。
したがって、糸は、トラベラーの遅れに応じて、鋸歯から鋸歯へと後方にジャンプするように設計されている。
その際に生ずる摩擦は、糸の損傷と毛羽立ちとをもたらすが、これは望ましくない。
さらに、あらゆるジャンプは張力に関する衝撃を生み出し、その結果、練条機から導出される際の糸の不均一な撚りと不均一な一体化とを発生させるように設計されている。
そこで、できるだけ少数の鋸歯を設けることが狙いとされる。
スピンドルに設置されるスピンドルヘッドピース、所謂、紡糸フィンガーの場合、1個の鋸歯しか設けられていない。
この紡糸フィンガーは平滑であり、それにより、糸の毛羽立ちは僅かにしか生じないようになっている。
ただし、この紡糸フィンガーは、実際には、糸を捕捉して追従させる鋸歯を有するクラウンと同じように動作するようになっている。
これは、ジャンプが、遥かに大きく、いわば、ほぼ1回転に相当することを意味している。
それゆえ、この紡糸フィンガー解決方式は、大きな糸に対する衝撃を招来し、糸切れと不均一な糸とを生み出すという問題があった。
【0004】
独国特許第19629787号明細書は、加撚手段として、スピンドルの上方の通例の糸ガイドとリングトラベラーとの間で、スピンドルの直上に配置された回転式糸ガイドを開示しており、この場合、回転体は、磁気カップリングを介して、スピンドルにより連動されるように設計されている。
【0005】
繊維束は、中心を通して、回転体から側方に引き出され、繊維束は、同所からバルーニング(balloon)して、すなわち、外側に膨らんで、リングトラベラーまで延びている。
代わりに、回転体は、螺旋状の通路を有し、スピンドルとは無関係に、スピンドルよりも遅く、または、スピンドルよりも速く駆動されるように設計されている。
これにより、繊維束に加えられる仮撚りは一時的に減少させられることになる。
【0006】
ただし、発生した撚りは、上流側に設置された糸ガイドにより、練条機の出口方向への撚りの伝達が妨げられるようになっている。
この従来の装置も、所定の加撚が行われず、さらに、外部駆動装置も過度のコスト高をもたらすため、実際に導入されることはなかった。
【0007】
前述した問題点を回避すべく、加撚手段つきの糸ガイドユニットをスピンドルの上端上方に離間して配置し、加撚手段を磁力場を介してスピンドルと連結することが提案されている(国際公開第2004/072339号パンフレット)。
この加撚手段は、糸ガイドユニットを通過する糸が巻回される、回転軸と同軸的に延びるコアと、このコアに配置された捕捉追従エッジ(縁部)とから構成される糸の制動部材を有している。
糸ガイドユニットがこのように形成されていることにより、加撚手段による糸の所定の捕捉追従が行われる結果、糸ガイドユニットと練条機との間の問題のある領域において、糸に所定の撚りが加えられるように設計されている。
この場合、巻き取りは、連続的に、かつ、衝撃なくスムーズに行われるように設計されている。
この糸ガイドユニットは、極めて優れていることが実証されている。
練条機と糸ガイドユニットとの間における問題のある領域において、精紡三角前方の糸F’には、完成した糸の所期の撚りを基準にして、100%以上の撚りが達成されるように設計されている。
クラウンの鋸歯等を経るジャンプは行われず、同じく、予測不能な摩擦による加撚も生じないように設計されている。
これにより、ほぼ糸切れの発生しない精紡を実現するようになっている。
【0008】
精紡回転数は、大幅に高めることが可能であるようになっている。
精紡三角の縮小と、それにより生じる繊維一体化の改善とにより、生産性の向上と並行して、糸の品質の大幅な向上も達成されるようになっている。
ただし、バルーニング制限リングが殆ど不要となるほどまでにバルーニング径は減少したが、可能となった精紡回転数の高まりが、エネルギー需要の増加をもたらすという問題があった。
さらに、加撚手段を連動させるためのスピンドルヘッド上のカップリング手段により、バルーニングの膨張と共にバルーニング抵抗の増加、そして、さらに消費電力の増加が招来されるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】独国特許第116584号明細書
【特許文献2】独国特許第19629787号明細書
【特許文献3】国際公開第2004/072339号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、前述した従来の糸ガイドユニットにおいて、必要とされるエネルギー量を低下させるとともに、経済的な生産効率の向上を達成することである。
本発明の目的は、請求項1および請求項6に記載の特徴を備えた精紡方法により達成される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
練条機から導出される繊維束が、スピンドルの回転数に同期して駆動される加撚手段を備えた糸ガイドユニットを通過することにより、繊維束には、問題のある領域において、練条機の出口方向に向かって撚りが加えられ、その結果、強固な加撚済みの糸が加撚手段から導出されるため、溝部分を有するスピンドルヘッドピースに起因して懸念される糸の毛羽立ちを回避するように設計されている。
加撚手段の下流側に設置されたスピンドルヘッドピースにより、今や、糸のバルーニングが抑止されるため、高いバルーニング張力の発生を回避できる。
糸Fを妨げる空気抵抗は、消失する。
これにより、大幅なエネルギー節減を達成できる。
【0012】
加撚手段の内部における糸の制動により、スピンドルヘッドピースの溝部分に起因する衝撃が加撚領域に伝達されることを防止するように設計されている。
この制動機構により、糸の張力を総じて低レベルに保ち、加撚手段により生み出された撚りを精紡三角に至るまで完全に有効に維持することができる。
スピンドルヘッドピースに起因する摩擦は、無視し得るほど低レベルであるために、スピンドルの回転数が非常に高められるにもかかわらず、卓越した糸の品質を実現できる。
本発明の精紡方法により、2倍のスピンドルの速度で、糸切れおよび品質低下を生じさせることのない精紡を実現できる。
【0013】
スピンドルに取り付けられ、加撚手段の下流側に配置されたスピンドルヘッドピースにより、加撚機能とバルーニング抑止機能とは、相互に切り離されている。
加撚手段とスピンドルヘッドピースとの双方の要素は、いずれもそれぞれの役割に応じて形成されて、最適化することが可能であるように設計されている。
加撚手段の下流側にスピンドルヘッドピースを設置することにより、糸ガイドユニットの加撚手段により達成された糸の品質を損なうことなく、大幅なエネルギー節減を達成するため、この組み合わせにより初めて加撚手段付き糸ガイドユニットの利点を組み尽くすことが可能であり、すなわち、エネルギー節約と同時に高い生産性ならびに高い品質を達成できる。
スピンドルにより加撚手段を連動させるために、スピンドルヘッドピースは、加撚手段に対して離間して配置された永久磁石を有する前側面を備え、永久磁石は、加撚手段に設置された反対極の磁石とともに、加撚手段を連動させるための磁力場を形成している。
スピンドルヘッドピース自体は、加撚手段から導出される糸を容易に捕捉できるように、スピンドルヘッドピースの前述した前側面まで延びる溝部分を設けた円筒状の外周面を有しているのが好ましい。
【0014】
糸が加撚手段からスピンドルヘッドピースの前述した前側面に対して同心的に導出されることにより、糸の正確な捕捉追従を結果する精密な位置条件(geometric condition)が保証されている。
スピンドルヘッドピースの直径は、このスピンドルヘッドピースに後続するスピンドルの直径に等しいことから、スピンドルヘッドピースにより捕捉されて追従する糸は、容易かつ必然的に、スピンドルに巻き付き、したがって、バルーニングは生じないように設計されている。
スピンドルヘッドピースとして、様々なタイプのものを採用することができる。
スピンドルヘッドピースの直径は、前述した後続するスピンドルの直径を前述した溝部分の深さ分だけ上回るように設定されても良い。
また、前述した溝部分の溝底が前述した後続するスピンドルの直径に移行して糸を保護するように設計するのも好ましい。
加撚機能とバルーニング抑止機能とを切り離すことにより、スピンドルヘッドピースの形成に際して、糸の保護的な捕捉追従にのみ注力すれば良いという利点が得られる。
【0015】
糸フローの位置(geometry)が正確に定められることにより、前述した溝部分がスピンドルヘッドピースの外周面の全長に及ぶことは必ずしも必要ではない。
スピンドルヘッドピースの糸ガイドユニットに対向する端部側に、スピンドルヘッドピース33のシャフト部分の直径を上回る溝部分付きのクラウンを設けることが好ましい。
これら溝部分は、それらの配向および長さに関して、糸フローの位置(geometry)に適合されている。
前述した溝部分は、前述した前側面と前述した外周面とにより形成されるクラウンの縁部と角度αで交差して、優れた捕捉追従を実現するように設計されている。
【0016】
大きなジャンプと、この大きなジャンプに起因した糸に対する衝撃とを回避すべく、前述した溝部分の数は極力多く設けるのが好ましい。
前述した溝部分の幅は、糸の直径の約2倍に設計するのが好ましい。
前述した溝部分の深さは、溝幅の約二分の一に設計するのが好ましい。
これにより、過大な張力と糸張力衝撃、すなわち、糸に対する張力に関する衝撃とを生じさせることなく、糸の容易な捕捉ならびに、隣接する溝部分内への糸の良好な解放を保証できる。
こうして、糸の品質の毀損が防止されるように設計されている。
【0017】
以下に、図面を用いて本発明を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】加撚手段と加撚手段の下流側に設置されたスピンドルヘッドピースとを示す説明図。
【図2】スピンドルを用いた装置全体をスピンドルヘッドピースと加撚手段とともに示す説明図。
【図3】スピンドルヘッドピースの変形例を示す説明図。
【図4】スピンドルヘッドピースの更なる変形例を示す説明図。
【図5】スピンドルヘッドピースを用いた場合における消費電力とスピンドルヘッドピースを用いない場合における消費電力とを比較する説明図。
【図6】スピンドルヘッドピースの更なる変形例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
糸ガイド装置は、リングスピンドル3(すなわち、スピンドル3)の上方、すなわち、上流側に配置された糸ガイドユニット1を備え、この糸ガイドユニット1は、制動部材を含んだ加撚手段10を有している。
制動部材は、回転軸と同軸的に延びるコア(制動部材)13’を有する従動子(制動部材)13からなり、コア13’には、スピンドル3から練条機の出口まで達する、未完成である糸Fが巻回可能である。
コア13’は、上側縁部分15と下側縁部分15’とを有し、糸ガイドユニット1を通過する糸Fは、これら上側縁部分15と下側縁部分15’に引っ掛けられて、加撚手段10の回転時に捕捉されて追従するように設計されている。
【0020】
加撚手段10のスピンドル3に対向する端部側は、磁石として形成され、永久磁石31を有するスピンドル3のスピンドルヘッドピース33と共に磁気カップリングを構成するため、加撚手段10は、スピンドル3と同じ回転数で回転するように設計されている。
スピンドルヘッドピース33と加撚手段10との間隔は、周知のように、スピンドル3と加撚手段10との連動を保証するのに必要な磁界に基づいて決定されている。
一般に、前述した間隔は、約5mm乃至10mmで設定されている。
【0021】
加撚手段10を備える糸ガイドユニット1の下流側には、スピンドル3に取り付けられたスピンドルヘッドピース33が配置されている。
スピンドルヘッドピース33は、このスピンドルヘッドピース33の前側面34まで延びた溝部分32を有する円筒状の外周面を備えているのが好ましい。
これら溝部分32の形状は、如何なるものであっても良い。
糸Fが、捕捉されて追従する際に溝部分32により保護されることが重要である。
図3および図4に示すように、スピンドルヘッドピース33の直径は、後続するスピンドル3、すなわち、スピンドルヘッドピース33を取り付けるスピンドル3のヘッドピース取り付け側端部の直径を溝部分32の深さ分だけ上回っていても良い。
ただし、図1および図2に示すように、溝部分32の溝底が、スピンドル3の直径に移行する、すなわち、スピンドル3の外周に一致するように移行する、または、図4に示すように、スピンドルヘッドピース33の直径に移行する、すなわち、溝部分32を設けていないスピンドルヘッドピース33の外周に一致するように移行するのが好ましく、いずれも糸Fを保護することを目的として前述したように設計されている。
【0022】
糸ガイドユニット1は、スピンドルヘッドピース33の前側面34の上方に配置されて、加撚手段10から導出される糸Fがスピンドルヘッドピース33の前側面34に対して同心的に導出されるように設計されている。
その結果、スピンドル3の回転から独立して、スピンドルヘッドピース33の溝部分32への移行時における糸Fの正確な幾何学的位置、すなわち、位置(geometry)を得られるように設計されている。
スピンドルヘッドピース33の溝部分32により、糸Fは、容易かつ確実に捕捉され、リングトラベラーユニットを構成するトラベラー63の遅延により、糸Fの張力が増大して糸が溝部分32から隣接する溝部分32内にジャンプするまで連行、すなわち、捕捉されて追従するように設計されている。
トラベラー63の遅延に起因する引張りにより糸Fの張力が高められるため、バルーニング(balloon)が生ずることなく、糸Fは、螺旋状にスピンドルヘッドピース33とスピンドル3とに巻回されるように設計されている。
【0023】
糸Fが加撚済みの糸Fとして加撚手段10から導出され、かつ、加撚手段10がスピンドルヘッドピース33の上方に配置されていることにより、糸のフローに対して正確な位置(geometry)が定められるため、糸Fの不規則なジャンプまたは不規則な捕捉追従を回避できる。
スピンドルヘッドピース33の溝部分32は、糸Fを捕捉して保持し得るようにするため、極めて明瞭な形で、かつ、鋭い縁部を有するように形成されている必要は全くない。
それゆえ、糸は保護されて、毛羽立ちの発生が回避されるように設計されている。
スピンドルヘッドピース33の溝部分32の深さは、溝部分32の幅の約半分に過ぎないように寸法を設計されているのが好ましい。
その結果、極めて僅かな引張りで、スピンドルヘッドピース33の溝部分32から糸Fを取り出すことができる。
張力衝撃は僅かであり、糸Fの摩擦も同様に僅かであることから、糸Fの品質が損なわれることを回避できる。
大きなジャンプを回避するために、スピンドルヘッドピース33の外周面に可能な限り多数の溝部分32を配置するのが好ましい。
これにより、糸Fの長さの相違およびジャンプを減少させることができる。
【0024】
図6は、変形例を示しており、この変形例では、スピンドルヘッドピース33は、糸ガイドユニット1に対向する端部側に、スピンドルヘッドピース33のシャフト部分の直径を上回るクラウン36を有しており、このクラウン36には、溝部分35が設けられている。
これらクラウン36の溝部分35の配向および長さは、糸のフローの位置(geometry)に適合している。
これらクラウン36の溝部分35は、スピンドルヘッドピース33の回転軸に対して斜めに形成され、前側面34および外周面により形成されるクラウン36の縁部と角度αで交差している。
この角度αは、糸ガイドユニット1の中央の出口と、糸Fが溝部分35を有するクラウン36の縁部に達する糸のフローとにより決定されている。
これら溝部分35は、断面が方形であるが、縦断面が三角形を呈している。
クラウン36の縁部を経てガイドされる糸Fは、この三角形の頂点により捕捉されて、保持されるように設計されている。
図6に示すF2により、糸Fが溝部分35を通過する際における、糸Fの別途のポジションが示されている。
溝部分35が前述したように形成されていることにより、糸Fの、制御された、したがって、非常に規則的な捕捉と解放とが行われるため、糸は規則的に加撚され、摩耗は殆ど生じないように設計されている。
糸Fは、溝部分35を通過し、スピンドルヘッドピース33のシャフト部分を経て、スプール4上に達し、このスプール4でバルーニング(balloon)を生じないようにして下方、すなわち、下流側に配置されたリングトラベラーユニットに誘導されるように設計されている。
【0025】
練条機から導出される繊維束F’は、従来の糸ガイド(デリベリー)に代えて、本発明では、スピンドルの回転数に同期して駆動されて繊維束F’に撚りを加える加撚手段10を有した糸ガイドユニット1を通過するように設計されている。
磁気カップリング、すなわち、糸ガイドユニット1、10により、スピンドル3と加撚手段10との連動が行われる結果、加撚済みの糸Fが加撚手段10から導出されるように設計されている。
この加撚済みの糸Fは、加撚手段10から導出された直後に、溝部分32、35を有するスピンドルヘッドピース33を経てガイドされるように設計されている。
糸Fは、溝部分32、35により捕捉され、スピンドル3により、トラベラー63に対してスピンドルの回転により連行、すなわち、捕捉されて追従するように設計されている。
トラベラー63が遅延するため、糸Fの張力の高まりによりバルーニングの形成が防止されて、糸Fは、リングトラベラーユニットに達する前に、スピンドルヘッドピース33とスプール4に巻回されて巻き取られるという公知の効果が生ずるように設計されている。
加撚手段10は、さらに、制動部材を有している。
この制動部材により張力衝撃が緩和、相殺されるため、この衝撃が、練条機の出口と加撚手段との間の精紡領域に作用を及ぼすことがないように設計されている。
加えられた撚りは、支障なく完全に練条機の出口まで伝えられるように設計されている。
加撚手段10の下流側には、溝部分32、35を有するスピンドルヘッドピース33が設置されている。
バルーニングの抑止は、加撚プロセスとは無関係に行われるように設計されている。
【0026】
加撚手段10は、専ら加撚を目的としており、他方、スピンドルヘッドピース33は、糸を捕捉する溝部分32、35による連行、すなわち、捕捉追従に対してほぼ不感な加撚済みの糸Fを捕捉するように設計されている。
スピンドルヘッドピース33と溝部分32、35とは、専らバルーニング抑止を目的として構成され、加撚手段10に設けられた制動部材は、溝部分32、35の一方の溝部分から他方の溝部分へのジャンプにより生ずる衝撃をほぼ完全に相殺するように設計されている。
【0027】
加撚プロセスは、支障なく連続的に行われ、専ら、練条機の出口と加撚手段との間の領域で行われるように設計されている。
この場合、加撚手段10内部での糸Fの制動は、決定的な役割を果たすように設計されている。
この制動部材により、糸の張力を調節して、総じて低レベルに保つことができる。
したがって、スピンドルヘッドピース33の溝部分32、35に起因する糸Fの摩擦応力は、低レベルで維持されるように設計されている。
そして、糸の品質が、損なわれることを回避できる。
また、巻回角度の変化により制動作用を調節することができる。
制動の観点で、半回式巻回または1回式巻回は、バルーニングの抑止と同時に糸Fの応力にとって最適であることが判明している。
その他部分の詳細は、同発明者による出願(国際公開第2004/072339号パンフレットに記載されている。
【0028】
加撚済みの糸Fが加撚手段10から導出されるため、糸は、前述した摩擦応力に対して、ほぼ不感であるように設計されている。
調査によれば、完成した糸の撚りを約93%しか達成することのできない従来の糸ガイドと比較して、本発明で用いられる加撚手段10によれば、100%以上の撚りが精紡三角(spinning triangle)の領域で達成されることが判明している。
加撚手段10を設けることなくスピンドルヘッドピース33を使用する場合には、スピンドル3のシャフト部分ならびにスピンドルヘッドピース33での摩擦により撚りの停滞が生じ、85%の撚りが精紡三角の領域で得られるにすぎない。
このことが、従来、特に短ステープルファイバー、すなわち、短繊維の精紡に際して、重大な糸の品質低下をもたらすと同時に、頻繁な糸切れを招来していた。
【0029】
加撚手段10に加えて更に溝部分32を有するスピンドルヘッドピース33を用いて精紡を行う場合、大幅な品質改善と、糸切れが殆ど生じることのない精紡と、大幅な回転数の増加を達成でき、しかも、その際、回転数の増加にもかかわらず、スピンドルヘッドピースを用いることのない精紡と比較して、必要とされるエネルギー量を低減してエネルギー効率を大幅に向上できる。
図5は、例えば、(a)糸制動式の加撚手段を用いるとともにバルーニング制限リングを用いない場合と、(b)糸制動式の加撚手段とこの加撚手段の下流側に設置されたスピンドルヘッドピース33(糸バルーニング抑止)とを用いた場合における、Nm40番手糸の紡出時の消費電力の比較を示している。
【0030】
図5に示すグラフから判明するように、スピンドルヘッドピース33を用いた場合、26000回転の回転数が達成可能である一方で、スピンドルヘッドピース33を用いない場合、精紡は不可能である。
図5に示すように、18000回転の場合、スピンドルヘッドピース33による精紡時のスピンドル3の消費電力は、スピンドルヘッドピース33を用いない精紡時の消費電力よりも16%減少し、また、24000回転の場合、両者の差は、38%に達する。
つまり、スピンドルヘッドピース33を用いた場合における精紡時の消費電力は、スピンドルヘッドピース33を用いない場合における精紡時の消費電力と比較して、回転数が増大するにつれて大幅に低下する。
特に、スピンドル3の回転数が高い場合、加撚手段の下流側に設置されたスピンドルヘッドピース33の使用は、エネルギー効率に関して特に有利な効果を奏する。
つまり、スピンドル3の回転数がほぼ倍増した際にも、必要とされるエネルギー量は38%しか増加しない。
しかも、この場合、糸の品質は低下することなく、精紡はほぼ糸切れなしで行うことができる。
生産効率の向上と同時に大幅なエネルギー節減を達成でき、さらに、バルーニング抑止による短繊維の精紡が糸の品質を損なうことなく可能になる。





【特許請求の範囲】
【請求項1】
短繊維の束が、練条機で延伸された後に練条機から導出される際に加撚されて1本の糸に加工された後にリングトラベラーユニットにより巻き取られ、前記練条機から導出された繊維束(F’)が、制動部材(13、13’)を有した加撚手段(10)を備える糸ガイドユニット(1)を通過し、加撚済みの糸(F)が、前記加撚手段をスピンドルの回転数に同期して駆動して繊維束(F’)に撚りを加える結果として加撚手段(10)から導出される、リング精紡機を用いて短繊維を精紡する精紡方法において、
前記加撚済みの糸(F)が、前記加撚手段(10)から導出された直後に溝部分(32、35)を有するスピンドルヘッドピース(33)を経てガイドされて、前記リングトラベラーユニット(6、62、63)に達して巻き取られる前に溝部分(32、35)により捕捉されることを特徴とする精紡方法。
【請求項2】
前記加撚済みの糸(F)が、前記加撚手段(10)の中心から導出されて、該加撚手段(10)と同軸配置されたスピンドルヘッドピース(33)の溝部分(32)に供給されることを特徴とする請求項1に記載の精紡方法。
【請求項3】
前記加撚済みの糸(F)が、前記加撚手段(10)内部で制動されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の精紡方法。
【請求項4】
前記加撚手段(10)の内部における制動が、糸の張力を総じて低レベルに保持するとともに糸張力衝撃が生じた場合に糸張力衝撃を相殺するように調整されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の精紡方法。
【請求項5】
前記加撚済みの糸(F)が、可能な限り多数の溝部分(32)により捕捉されて再び解放されることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の精紡方法。
【請求項6】
練条機の出口とスピンドルとの間に配置されて加撚手段を有する糸ガイドユニットを備え、前記加撚手段が、前記スピンドルに磁力を介して連結された状態でスピンドルの上端部の上方に離間配置されてスピンドルと同じ回転数で回転するとともに糸の制動部材(12、13)を有する、リング精紡機により短繊維を精紡する精紡装置において、
前記スピンドル(3)の先端に設置されるスピンドルヘッドピース(33)が、前記加撚手段(10)の下流側に設置されて前記加撚手段(10)から導出された加撚済みの糸(F)を捕捉して追従させる溝部分(32、35)をその外周面に有していることを特徴とする精紡装置。
【請求項7】
前記スピンドルヘッドピース(33)が、前記加撚手段(10)に対して離間配置されて永久磁石(31)を有した前側面(34)を備え、前記永久磁石が、前記加撚手段(10)に配設された反対極の磁石と共に加撚手段(10)を連動させる磁力場を形成していることを特徴とする請求項6に記載の精紡装置。
【請求項8】
前記スピンドルヘッドピース(33)が、該スピンドルヘッドピース(33)の前側面(34)まで延びた溝部分(32、35)を有する円筒状の外周面を備えていることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の精紡装置。
【請求項9】
前記加撚済みの糸(F)が、前記加撚手段(10)からスピンドルヘッドピース(33)の前側面(34)に対して同心的に導出されるように設計されていることを特徴とする請求項6乃至請求項8のいずれかに記載の精紡装置。
【請求項10】
前記スピンドルヘッドピース(33)の直径が、該スピンドルヘッドピース(33)に後続するスピンドルの直径に等しく設定されていることを特徴とする請求項6乃至請求項9のいずれかに記載の精紡装置。
【請求項11】
前記スピンドルヘッドピース(33)の直径が、該スピンドルヘッドピース(33)に後続するスピンドルの直径に溝部分の深さを加えた長さで設定されていることを特徴とする請求項6乃至請求項10のいずれかに記載の精紡装置。
【請求項12】
前記溝部分(32)の溝底は、前記スピンドルヘッドピース(33)に後続するスピンドルの直径に移行するように設定されていることを特徴とする請求項6乃至請求項11のいずれかに記載の精紡装置。
【請求項13】
前記スピンドルヘッドピース(33)が、該スピンドルヘッドピース(33)に後続するスピンドルの直径を超えて突出して前記スピンドル(3)に対向する端部側に溝部分(32)の終端を形成するつば(35)を有していることを特徴とする請求項6乃至請求項10または請求項12のいずれかに記載の精紡装置。
【請求項14】
前記スピンドルヘッドピース(33)が、前記糸ガイドユニット(1)に対向する端部側にスピンドルヘッドピース(33)のシャフト部分の直径を上回るように設計されるとともに溝部分(35)を有したクラウン(36)を備えていることを特徴とする請求項6乃至請求項9または請求項12または請求項13のいずれかに記載の精紡装置。
【請求項15】
前記溝部分(32、35)の配向および長さが、前記加撚済みの糸のフローの位置に適合していることを特徴とする請求項6乃至請求項14のいずれかに記載の精紡装置。
【請求項16】
前記溝部分(35)が、前記前側面(34)および外周面により形成されるクラウン(36)の縁部と角度αで交差していることを特徴とする請求項14または請求項15に記載の精紡装置。
【請求項17】
前記溝部分(32、35)が、可能な限り多く形成されていることを特徴とする請求項6乃至請求項16のいずれかに記載の精紡装置。
【請求項18】
前記溝部分(32、35)が、前記加撚済みの糸の直径の約2倍に相当する溝幅を有していることを特徴とする請求項6乃至請求項17のいずれかに記載の精紡装置。
【請求項19】
前記溝部分(32、35)が、前記溝幅の二分の一に相当する深さを有していることを特徴とする請求項6乃至請求項18のいずれかに記載の精紡装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−519428(P2010−519428A)
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−551167(P2009−551167)
【出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【国際出願番号】PCT/EP2008/051928
【国際公開番号】WO2008/104471
【国際公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(509240572)デウツチェ インスティチュート ファー テクスタイル− ウント ファサーフォースチュング デンケンドルフ (1)
【Fターム(参考)】