説明

リン捕捉剤および被処理水中のリン除去方法

【課題】リンを効率的に捕捉し得る捕捉剤を提供する。
【解決手段】特定の一般式の構造を有し、有機溶媒に対して親和性を有する亜鉛錯化合物を含むことを特徴とするリン捕捉剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン捕捉剤、それを用いた被処理水中のリンの除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
川や湖などの水域での富栄養化をもたらす主要な成分の一つはリンであり、これを水域中から除去することでアオコの大量発生などは効果的に防止することができる。リン化合物は、工場排水よりも一般家庭や家畜の生活排水中に多く存在する。このため、生活排水を含む廃水中のリンを効率的に除去する技術が求められている。
【0003】
特許文献1および非特許文献1には、溶液中に含まれるリン酸イオンを検出するためのリンを捕捉する化合物が記載されている。これらの化合物は、リン酸イオンとのイオン交換により蛍光を発する、または変色するため、リン酸イオンの検出に使用できる。しかしながら、廃水中のリン除去に適用してもリン酸塩として溶解して廃水に存在するため、結果としてリン(リン酸イオン)を廃水から除去することができない。
【0004】
また、特許文献2には二価のリン酸モノエステルアニオンのようなアニオン性置換基を有する物質を捕捉可能な亜鉛錯体が記載されている。この特許文献2の段落[0058]の錯体の利用の欄には、捕捉対象がリン酸モノエステルアニオンであること、亜鉛錯体を高分子膜、カラム担体、プレート孔などの担体に担持させて捕捉剤として利用することが記載されている。錯体を担体に担持させる方法としては、錯体の配位子であるピリジン骨格に導入した置換基(アミノ基や水酸基など)を高分子などの担体に架橋剤で共有結合する方法、高分子原料をバインダーにして錯体と混合し、その混合物を発泡・造粒させる方法が記載されている。
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載の亜鉛錯体は水に対する溶解性が高いため、錯体を担体に単にバインダーを介して担持させる後者の方法では、廃水中でのリン酸モノエステルアニオンを捕捉した亜鉛錯体が廃水中に溶解して廃水から分離することが困難になる。すなわち、廃水中のリン酸モノエステルアニオンを除去することが困難になる。
【0006】
錯体を高分子の担体に共有結合により担持させる前者の方法は、亜鉛錯体が廃水に溶解せずに存在させることが可能になり、廃水中でのリン酸モノエステルアニオンを捕捉した後に高分子を分離することにより廃水中のリン酸モノエステルアニオンを除去することが可能になる。しかしながら、高分子に共有結合させる亜鉛錯体の部位がリン酸モノエステルアニオンの捕捉に直接関与するZnの配位子であるため、亜鉛錯体を高分子に担持させたときに亜鉛錯体の配位構造が変化してリンの捕捉性が低下する虞がある。
【特許文献1】特開2003−246788
【特許文献2】WO2003/053932
【非特許文献1】Angew. Chem. Int. Ed. 2002, 41, No.20, 3809-3811
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、リンを効率的に捕捉し得る捕捉剤、および廃水のような被処理水の水質浄化としてのリンの除去を効率的に行うことが可能な被処理水中のリン除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によると、下記に示す一般式(I)にて表され、有機溶媒に対して親和性を有する化合物を含むことを特徴とするリン捕捉剤が提供される。
【化3】

【0009】
ただし、式中のR1は炭素数が4〜20であって、脂肪族炭化水素あるいは芳香族炭化水素から選ばれる炭化水素基、R2,R3,R4,R5はHまたは脂肪族炭化水素基を示し、同じでも、異なってもよく、XはNまたはOを示す。
【0010】
また本発明によると、リンを含む被処理水に下記に示す一般式(I)にて表される化合物を含むリン捕捉剤と前記リン捕捉剤の回収溶媒とを共存させて撹拌した後、静置して前記リン捕捉剤を取り込んだ前記回収溶媒を前記被処理水に対して相分離させることを特徴とする被処理水中のリン除去方法が提供される。
【化4】

【0011】
ただし、式中のR1は炭素数が4〜20であって、脂肪族炭化水素あるいは芳香族炭化水素から選ばれる炭化水素基、R2,R3,R4,R5はHまたは脂肪族炭化水素基を示し、同じでも、異なってもよく、XはNまたはOを示す。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、リンを効率的に捕捉し得る捕捉剤、および廃水のような被処理水の水質浄化としてのリンの除去を効率的に行うことが可能な被処理水中のリン除去方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係るリン捕捉剤およびリン除去方法を詳細に説明する。
【0014】
(第1実施形態)
実施形態に係るリン捕捉剤は、下記に示す一般式(I)にて表され、有機溶媒に対して親和性を有する化合物を含有する。この化合物は、液状で水に難溶性である。
【化5】

【0015】
ただし、式中のR1は炭素数が4〜20であって、脂肪族炭化水素あるいは芳香族炭化水素から選ばれる炭化水素基、R2,R3,R4,R5はHまたは脂肪族炭化水素基を示し、同じでも、異なってもよく、XはNまたはOを示す。
【0016】
一般式(I)中のR1としては炭素数4〜20の脂肪族炭化水素基、もしくは芳香族炭化水素基が用いられる。炭素数が4未満であると被処理水中のリン捕獲後に被処理水から分離が困難になる虞があり、炭素数が20を超えると有機溶媒への親和性が失われる虞がある。より好ましくは炭素数7〜15の脂肪族炭化水素基、あるいは芳香族炭化水素基が用いられ、これらの脂肪族炭化水素基は飽和、不飽和、直鎖状もしくは分岐状のいずれでもよい。例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アルキルシクロアルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アルカリール基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、脂環式及び飽和または不飽和複素環式基で、具体的な芳香族炭化水素基は、下記に示す(1)〜(7)の構造を有するものを用いることができる。
【化6】

【0017】
脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基は被処理水からのリン除去を容易にするため無極性基であることが好ましいが、例えばカルボキシル基(−COOH)、ヒドロキシル基(−OH)のような反応活性基を有していてもよい。
【0018】
<合成方法>
一般式(I)で表される化合物、例えばR1がドデシル基(n−C1225−)、R2,R3,R4,R5がH、XがOである化合物は、例えば以下の方法により合成することができる。
【0019】
まず、p−ドデシルフェノール、2,2’−ジピコリルアミンおよびパラホルムアルデヒドを純水およびエタノールの溶媒中で還流下にて撹拌する。つづいて、この溶液にクロロホルムを加えて(p−ドデシルフェノール、2,2‘−ジコミルアミン及びパラホルムアルデヒドを含む有機溶媒を)抽出した後、この抽出液を飽和塩化ナトリウム溶液で塩析する。有機物層を硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮し、ジエチルエーテル/ヘキサン=1/1で再結晶してR1としてドデシル基が導入された白色結晶の配位子となる化合物である2,6−ビス{[ビス(2−ピリジルメチル)アミノ]メチル}4−ドデシルフェノールを得る。次いで、この化合物をアセトン中に溶解させ、亜鉛の塩(例えば過塩素酸亜鉛六水和物)を加え、アセトンを減圧濃縮することにより一般式(I)のR1がドデシル基(n−C1225−)、R2,R3,R4,R5がH、XがOである化合物を合成する。
【0020】
合成された化合物は、例えばNMRスペクトルデータから同定することができる。
【0021】
実施形態に係るリン捕捉剤は、一般式(I)で表される化合物を各種の担体に担持させた形態で用いることができる。担体としては、金属の酸化物、塩化物、硫化物あるいはケイ酸塩鉱物、炭化物、ポリマー等を用いることができ、例えば酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、硫酸アルミニウム、擬ベーマイト構造を有するアルミナ水和物、Si−Al−Ca系酸化物、Si−Fe−Ca系酸化物、ケイ酸カルシウム水和物、水酸化カルシウム、硫酸カルシウム、酸化チタン、塩化チタン、水酸化鉄、電解鉄、塩化鉄、パライト、非結晶質ヒドロオキシ硫酸鉄、鉄粉、磁性酸化鉄(微粒子)、水酸化銅、水酸化亜鉛、ジルコニウムフェライト、ジルコニウムケイ酸塩、希土類水酸化物、活性アルミナ、硫酸アルミニウム添着アルミナ、メソポーラスシリカ、難透水性土壌、火山灰、高炉スラグ、活性炭、多孔質炭化物、セメント、シリカゲル、を挙げることができる。
【0022】
以上、実施形態に係るリン捕捉剤は一般式(I)で表される化合物を含み、この化合物がZnと配位結合されるX(例えばO)に対して芳香環を結合させた構造を有するため、Znの配位子でのリン(リン酸イオン)に対して高い捕捉性能を発揮できる。また、一般式(I)で表される化合物は配位子に疎水基、例えば特定の炭素数の脂肪族炭化水素基を導入することによって、有機溶媒に対する親和性が付与される。
【0023】
<被処理水中のリン除去方法>
次に、実施形態に係る被処理水中のリン除去方法を詳細に説明する。
【0024】
例えば一般家庭や家畜の生活排水のようなリンを含む被処理水に前記一般式(I)にて表される化合物を含むリン捕捉剤とリン捕捉剤の回収溶媒とを共存させて撹拌した後、静置して前記リン捕捉剤を取り込んだ前記回収溶媒を前記被処理水に対して相分離させる。このとき、被処理水中のリン(リン酸イオン)が一般式(I)で表される化合物のZn配位子に捕捉され、リンを捕捉した化合物を含むリン捕捉剤は回収溶媒に取り込まれる。
【0025】
前記被処理水への前記リン捕捉剤および前記回収溶媒の共存は、具体的には
(1)前記被処理水に前記リン捕捉剤を添加し、撹拌して被処理水とリン捕捉剤を接触させた後、さらに前記回収溶媒を添加する方法、
(2)前記リン捕捉剤と前記回収溶媒とを予め混合して前記被処理水に添加する方法、
が採用される。
【0026】
前記方法の中で、(2)の方法は一般式(I)で表される化合物のZn配位子によるリンの捕捉性を向上できるために好ましい。
【0027】
リン捕捉剤の回収溶媒は例えば有機溶媒であり、水と相溶または混和しないものであればいかなるものでもよく、クロロホルム、酢酸エチル、トルエン、キシレン等を用いることができる。
【0028】
特に、被処理水がpH6〜12、より好ましくはpH9〜11の弱アルカリにおいて、リンをリン捕捉剤に対して捕捉し易い2価のリン酸イオン(HPO42-)として被処理水に多く存在させることが可能になり、リンの捕捉性を向上させることが可能になる。なお、被処理水のpH値が6〜12から外れている場合にはpH調整剤を添加する。ここに用いるpH調整剤としては、例えば水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムのようなアルカリ剤、塩酸、硝酸のような酸を挙げることができる。
【0029】
また捕捉剤は、被処理水中のリン酸イオンに対して2等量以上添加することが好ましい。
【0030】
次いで、リン捕捉剤を取り込んだ状態で被処理水に対して相分離された回収溶媒を採取して被処理水と分離することにより、被処理水中のリンを除去する。
【0031】
分離した回収溶媒に取り込んだリン捕捉剤は、適切な塩の添加によってリンを解離、回収することが可能である。例えば、回収溶媒に塩化カルシウムまたは炭酸カルシウムのようなカルシウム塩を添加し、pH4以下またはpH11以上の水溶液を添加した後、撹拌してリン捕捉剤に捕捉されたリンとカルシウムとを反応させてリン酸カルシウムとして沈澱させることによりリンを回収する。また、回収溶媒に塩化カルシウムまたは炭酸カルシウムのようなカルシウム塩を含む水溶液を添加し、用いた回収溶媒の沸点以下の温度、例えば40〜60℃の温度で加熱しながら、撹拌してリン捕捉剤に捕捉されたリンとカルシウムとを反応させてリン酸カルシウムとして沈澱させることによりリンを回収する。
【0032】
以上、本実施形態によればリンを含む被処理水に一般式(I)にて表される化合物を含むリン捕捉剤とリン捕捉剤の回収溶媒を共存させ撹拌した後、静置してリン捕捉剤を取り込んだ前記回収溶媒を前記被処理水に対して相分離させ、回収溶媒層を回収することによって、被処理水のリンを効率よく除去することができる。
【0033】
すなわち、リン捕捉剤を構成する一般式(I)の化合物は脂肪族炭化水素基のような疎水基がR1として配位子に導入され、有機溶媒に対して親和性を有し、水に難溶性であるものの、液状であるため、被処理水中のリンをリン捕捉剤で捕捉した後においてその捕捉剤を被処理水から分離、回収することが困難である。
【0034】
このようなことから一般式(I)の化合物が有機溶媒に対して親和性を有することを利用し、リン捕捉剤と回収溶媒とを被処理水に共存させて撹拌した後、静置することによって、回収溶媒にリン捕捉剤を取り込むことができると共に、回収溶媒を被処理水に対して相分離させることができる。つまり、被処理水からの分離が困難であったリン捕捉剤を被処理水に対して相分離された回収溶媒に取り込むことによって、被処理水から分離することができる。その結果、被処理水と相分離した回収溶媒を回収することによって、その回収溶媒に取り込まれ、リンを捕捉したリン捕捉剤を被処理水の系外に分離して被処理水のリンを除去することができる。
【0035】
特に、水に難溶性のリン捕捉剤を被処理水に添加する前に親和性のある有機溶媒(回収溶媒)と予め混合し、有機溶媒を介して被処理水中のリン(リン酸イオン)との接触をさせることによって、効率よくリン酸イオンが捕捉できる。
【0036】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。
【0037】
(合成例1)
100mLのフラスコにp−ドデシルフェノール1.0g、2,2’−ジピコリルアミン2.89gおよびパラホルムアルデヒド0.44gを入れ、純水10mLおよびエタノール5mLの溶媒中にて三日間80℃の還流下で攪拌した。この溶液に50mLのクロロホルムを加えて抽出し、飽和塩化ナトリウム溶液で塩析を行った。有機物層を硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮し、ジエチルエーテル/ヘキサン=1/1で再結晶を行って下記に示す構造式(A)の白色結晶の化合物を得た。つづいて、得られた化合物50mgをアセトン中に溶解させ、過塩素酸亜鉛六水和物54mgを加え、さらにアセトンを減圧濃縮することにより液状の化合物を得た。
【0038】
なお、構造式(A)は1H−NMR分光法により得られた以下の1H−NMRアセトン−d6(室温)でのスペクトル、13C−NMR分光法により得られた以下の13C−NMRアセトン−d6(室温)でのスペクトルおよび高速原子衝撃イオン化質量分析法(FAB−MS法)からから同定された。
【0039】
1H−NMRアセトン−d6(室温):
・8.56−6.70ppm;18H,NC54
・3.30−4.30ppm;12H,CH2−N,(s)、
・0.10−2.00ppm;25H,C1225,(m)
13C−NMRアセトン−d6(室温):
・170−105ppm;NC54
・65−50ppm;CH2−N
また、FAB−MS法によって得られた分子量ピーク(m/e) は1013であった。
【0040】
m/e は、化合物の分子量を価数で割った数字を示している。
【化7】

【0041】
(合成例2)
100mLのフラスコにp−トリフェニルメチルフェノール1.2g、2,2’−ジピコリルアミン2.65gおよびパラホルムアルデヒド0.41gを入れ、純水10mLおよびエタノール5mLの溶媒中にて三日間80℃の還流下で攪拌した。この溶液に50mLのクロロホルムを加えて抽出し、飽和塩化ナトリウム溶液で塩析を行った。有機物層を硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮した後、クロロホルム/メタノール=29/1を用いるシリカゲルカラムコロマトグラフィーで精製し、さらにジエチルエーテル/ヘキサン=1/1で再結晶を行って下記に示す構造式(B)の白色結晶の化合物を得た。つづいて、得られた化合物50mgをアセトン中に溶解させ、過塩素酸亜鉛六水和物54mgを加え、さらにアセトンを減圧濃縮することにより液状の化合物を得た。
【0042】
なお、構造式(B)は1H−NMR分光法により得られた以下の1H−NMRアセトン−d6(室温)でのスペクトル、13C−NMR分光法により得られた以下の13C−NMRアセトン−d6(室温)でのスペクトルからおよびFAB−MS法から同定された。
【0043】
1H−NMRアセトン−d6(室温):
・8.55−6.8ppm;33H,NC54(またはC65),(d)、
・4.3−3.2ppm;12H,CH2−N,(s)、
13C−NMRアセトン−d6(室温):
・165−115ppm;NC54(またはC65)、
・50−65ppm;CH2−N
また、FAB−MS法によって得られた分子量ピーク(m/e)は1086であった。
【化8】

【0044】
(実施例1)
容器内に20ppmのリン酸イオンをNa2PO4の形態で含むpH8.4の水溶液50mLを収容した。この水溶液にリン捕捉剤である合成例1で得た液状の化合物40mg(リン酸イオンと等量)をクロロホルム10mLに混合させたものを添加し、撹拌して分散させながら水溶液と化合物とを接触させて水溶液中のリン(2価のリン酸イオン:HPO42-)を化合物に捕捉させた。5分間撹拌してクロロホルムと懸濁させた後静置し、クロロホルムが相分離して容器内の水溶液下層に沈んだ。この後、水溶液とクロロホルムとを分離した。分離後の水溶液の残留リン酸イオン濃度をモリブデン吸光光度法で測定した。その結果を下記表1に示す。
【0045】
また、前記水溶液にリン捕捉剤である合成例1で得た液状の化合物を2等量、4等量でそれぞれ加えた以外、同様な方法でリン酸イオンの捕捉、クロロホルムを分離後の水溶液の残留リン酸イオン濃度のモリブデン吸光光度法による測定を行った。その結果を下記表1に示す。
【0046】
(実施例2)
容器内に20ppmのリン酸イオンをNa2PO4の形態で含むpH8.3の水溶液50mLを収容した。この水溶液にリン捕捉剤である合成例2で得た液状の化合物40mg(リン酸イオンと等量)を加え、撹拌して分散させながら水溶液と化合物とを接触させて水溶液中のリン(2価のリン酸イオン:HPO42-)を化合物に捕捉させた。つづいて、この混合溶液にクロロホルム10mLを添加し、5分間撹拌してクロロホルムを懸濁させた後、静置した。このとき、クロロホルムが相分離して容器内の水溶液上に浮遊した。この後、水溶液とクロロホルムとを分離した。分離後の水溶液の残留リン酸イオン濃度をモリブデン吸光光度法で測定した。その結果を下記表1に示す。
【0047】
また、前記水溶液にリン捕捉剤である合成例2で得た液状の化合物を2等量、4等量でそれぞれ加えた以外、同様な方法でリン酸イオンの捕捉、クロロホルムを分離した。その後水溶液中の残留リン酸イオン濃度のモリブデン吸光光度法による測定を行った。結果を下記表1に示す。
【表1】

【0048】
前記表1から明らかなようにリン酸イオンを含む水溶液にリン捕捉剤である合成例1、2で得られた化合物をクロロホルムに混合して添加し、クロロホルムの分離を行う実施例1,2の方法はリン捕捉剤でリンを十分に捕捉できることがわかる。したがって、リンを捕捉した捕捉剤をクロロホルムと一緒に水溶液から分離することによりリンを水溶液から除去できる。
【0049】
特に、リン捕捉剤である合成例1、2で得られた化合物をリン酸イオンを含む水溶液にそのリン酸イオンに対してそれぞれ4等量添加する方法では、リンの捕捉性能が高く、水溶液中のリンをより効率的に除去できることがわかる。
【0050】
また、一般式(I)のR1としてトリフェニルメチルを導入した合成例2で得られた化合物をリン捕捉剤としてリン酸イオンを含む水溶液に2等量添加する実施例2の方法は、一般式(I)のR1としてドデシルを導入した合成例1で得られた化合物をリン捕捉剤としてリン酸イオンを含む水溶液に同じ量(2等量)添加する実施例1の方法に比べてリンの捕捉性能が高く、水溶液中のリンの除去率が格段に向上できることがわかる。
【0051】
(実施例3)
容器内に20ppmのリン酸イオンをNa2PO4の形態で含み、かつアニオンとしてNO3-,SO42-,Cl-,Br-をそれぞれ20ppm含むpH8.3の水溶液50mLを収容した。この水溶液にリン捕捉剤である合成例1で得た液状の化合物40mg(リン酸イオンと等量)をクロロホルム10mLに混合させたものを添加し、撹拌して分散させながら水溶液と化合物とを接触させて水溶液中のリン(2価のリン酸イオン:HPO42-)を化合物に選択的に捕捉させた。5分間撹拌してクロロホルムを懸濁させた後静置し、クロロホルムが相分離して容器内の水溶液上下層に沈んだ。この後、水溶液とクロロホルムとを分離した。分離後の水溶液の残留リン酸イオン濃度をモリブデン吸光光度法で測定した。その結果を下記表2に示す。
【0052】
また、前記水溶液にリン捕捉剤である合成例1で得た液状の化合物を2等量、4等量でそれぞれ加えた以外、同様な方法でリン酸イオンの選択捕捉、クロロホルムを分離後の水溶液の残留リン酸イオン濃度のモリブデン吸光光度法による測定を行った。その結果を下記表2に示す。
【0053】
(実施例4)
リン酸イオンおよび多種アニオンを含む水溶液にリン捕捉剤である合成例1で得た液状の化合物80mg(リン酸イオンと2等量)を加え、有機溶媒として酢酸エチルを使用した以外、実施例3と同様な方法により残留リン酸イオン濃度をモリブデン吸光光度法で測定した。その結果を下記表2に示す。
【0054】
(実施例5)
容器内に20ppmのリン酸イオンをNa2PO4の形態で含み、かつアニオンとしてNO3-,SO42-,Cl-,Br-をそれぞれ20ppm含むpH8.3の水溶液50mLを収容した。この水溶液にリン捕捉剤である合成例2で得た液状の化合物40mg(リン酸イオンと等量)を加え、撹拌して分散させながら水溶液と化合物とを接触させて水溶液中のリン(2価のリン酸イオン:HPO42-)を化合物に選択的に捕捉させた。5分間撹拌してクロロホルムを懸濁させた後静置、クロロホルムが相分離して容器内の水溶液下層に沈んだ。この後、水溶液とクロロホルムとを分離した。分離後の水溶液の残留リン酸イオン濃度をモリブデン吸光光度法で測定した。その結果を下記表2に示す。
【0055】
また、前記水溶液にリン捕捉剤である合成例2で得た液状の化合物を2等量、4等量でそれぞれ加えた以外、同様な方法でリン酸イオンの選択捕捉、クロロホルムを分離後の水溶液の残留リン酸イオン濃度のモリブデン吸光光度法による測定を行った。その結果を下記表2に示す。
【表2】

【0056】
また、リン酸イオンの選択捕捉、クロロホルムを分離後の水溶液中のNO3-,SO42-,Cl-,Br-のイオン濃度をイオンクロマトグラフィーで定量した。その結果、有機溶媒としてクロロホルムを用い、合成例1,2の液状化合物の亜鉛のカウンターアニオンに塩素が含まれていることから、検量線を越える値になったが、その他のイオンは原液とほぼ同量の残留イオンとして検出された。
【0057】
前記表2およびイオンクロマトグラフィーの定量結果から明らかなようにリン酸イオンにNO3-,SO42-,Cl-,Br-が共存する、つまり多種アニオンが共存する水溶液に一般式(I)のR1としてドデシルを導入した合成例1で得られた化合物をリン捕捉剤として添加し、クロロホルムの添加、クロロホルムの分離を行う実施例3の方法は、同合成例1で得られた化合物を用い、多種アニオンが共存しない前記表1の実施例1と同様なリンの捕捉性能を有する、すなわちリンの選択的な捕捉性能を有することがわかる。したがって、リンを選択的に捕捉した捕捉剤をクロロホルムと一緒に水溶液から分離することによりリンを水溶液から除去できる。
【0058】
また、多種アニオンが共存する水溶液に一般式(I)のR1としてドデシルを導入した合成例1で得られた化合物をリン捕捉剤として添加し、酢酸エチルの添加、酢酸エチルの分離を行う実施例4の方法は、同合成例1で得られた化合物を用い、有機溶媒としてクロロホルムを添加した実施例3の方法に比べて高いリンの捕捉性能(すなわちリンの選択的な捕捉性能)を有することがわかる。
【0059】
さらに、リン酸イオンに多種アニオンが共存する水溶液に一般式(I)のR1としてトリフェニルメチルを導入した合成例2で得られた化合物をリン捕捉剤として添加し、クロロホルムの添加、クロロホルムの分離を行う実施例5の方法は、同合成例2で得られた化合物を用い、多種アニオンが共存しない前記表1の実施例2に比べてリンの捕捉性能が低下する。これは、トリフェニルメチルがドデシルのような脂肪族炭化水素基に比べて電子供与性が高いために、リンの吸着場(捕捉場)となる亜鉛の電子状態に作用し、アニオン選択性に影響を及ぼしていると考えられる。したがって、リン酸イオンに多種アニオンが共存する水溶液からリンを除去する場合には、一般式(I)のR1として脂肪族炭化水素基のように電子供与性を持たない疎水基を導入した化合物をリン捕捉剤として用いることが好ましい。
【0060】
(実施例6)
容器内に20ppmのリン酸イオンを含み、pH4.6、pH8.3およびpH10.2の水溶液50mLをそれぞれ収容した。これらの水溶液にリン捕捉剤である合成例2で得た液状の化合物80mg(リン酸イオンと2等量)を加え、撹拌して分散させながら水溶液と化合物とを接触させて水溶液中のリン(2価のリン酸イオン:HPO42-)をクロロホルム10mLに混合させたものを添加し、5分間撹拌してクロロホルムを懸濁させた後、静置した。静置後、クロロホルムが相分離して容器内の水溶液下層に沈んだ。この後、水溶液とクロロホルムとを分離した。分離後の各水溶液の残留リン酸イオン濃度をモリブデン吸光光度法で測定した。その結果を下記表3に示す。
【表3】

【0061】
前記表3から明らかなようにリン酸イオンを含む水溶液を弱アルカリ性(pH10.2)にし、この水溶液に合成例2で得られた化合物をリン捕捉剤として添加する方法では、リンの捕捉性能が高く、水溶液中のリンを効率的に除去できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記に示す一般式(I)にて表され、有機溶媒に対して親和性を有する化合物を含むことを特徴とするリン捕捉剤。
【化1】

ただし、式中のR1は炭素数が4〜20であって、脂肪族炭化水素あるいは芳香族炭化水素から選ばれる炭化水素基、R2,R3,R4,R5はHまたは脂肪族炭化水素基を示し、同じでも、異なってもよく、XはNまたはOを示す。
【請求項2】
前記一般式(I)のR1は、トリフェニルメチルであることを特徴とする請求項1記載のリン捕捉剤。
【請求項3】
リンを含む被処理水に下記に示す一般式(I)にて表される化合物を含むリン捕捉剤と前記リン捕捉剤の回収溶媒とを共存させて撹拌した後、静置して前記リン捕捉剤を取り込んだ前記回収溶媒を前記被処理水に対して相分離させることを特徴とする被処理水中のリン除去方法。
【化2】

ただし、式中のR1は炭素数が4〜20であって、脂肪族炭化水素あるいは芳香族炭化水素から選ばれる炭化水素基、R2,R3,R4,R5はHまたは脂肪族炭化水素基を示し、同じでも、異なってもよく、XはNまたはOを示す。
【請求項4】
前記捕捉剤が接触される前記被処理水は、pH9〜11の弱アルカリであることを特徴とする請求項3記載の被処理水中のリン除去方法。
【請求項5】
前記被処理水への前記リン捕捉剤および前記回収溶媒の共存は、前記リン捕捉剤と前記回収溶媒とを混合して前記被処理水に添加することによりなされることを特徴とする請求項3記載の被処理水中のリン除去方法。

【公開番号】特開2008−238006(P2008−238006A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−79964(P2007−79964)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】