説明

リン脂質極性基を有する化合物、その製造方法、及びその利用

【課題】本発明は、リン脂質の極性基又はこれに類似する構造の基で末端が修飾された樹状構造を有し、且つ当該置換基の有用機能を効率的に発現可能である化合物を提供することを目的とする。
【解決手段】デンドロン又はデンドリマーの末端の少なくとも1つに、下記一般式(I)で示される基[R1はカルボキシ基で置換されていてもよいアルキレン基を示し;R2〜R4は、同一又は異なって、水酸基で置換されていてもよいアルキル基又は水素原子を示す。]が結合している化合物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン脂質の極性基又はこれに類似する構造の基を末端に有する修飾デンドロン又は修飾デンドリマーに関する。また、本発明は、当該修飾デンドロン又は修飾デンドリマーの製造方法に関する。更に、当該修飾デンドロン又は修飾デンドリマーの用途に関する。
【背景技術】
【0002】
リン脂質類似構造を持つ高分子は、細胞膜の構造に似ているため、生体組織に対する親和性/適合性があり、ソフトコンタクトレンズ、歯科用接着剤、金属接着性義歯床レジン、歯面コーティング剤、光重合型歯冠用硬質レジン、吸着型血液浄化器、化粧品原料、コンタクトレンズ用剤への配合など多方面で使用されている(特許文献1参照)。リン脂質類似高分子は、1977年にホスファチジルエタノールアミンをモデルとした2-(methacryloyloxy)ethyl 2-aminoethyl hydrogen phosphate(特許文献2参照)が、1982年にホスファチジルコリンをモデルとした2-(methacryloyloxy)ethyl 2-(trimethylammonium)ethyl phosphate(別名:メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、特許文献3参照)が合成・重合された。現在、合成法の簡便さから、後者を用いた重合品(ホモ重合品および共重合品)が多方面で使用されている。
【0003】
リン脂質類似高分子において、その機能の発現に大切な部分はリン脂質の極性部又はこれに類似する構造部と考えられる。
【0004】
現在、使用されているリン脂質類似高分子(メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの重合品)はラジカル重合して合成しているので分子量の制御やタクティシティの制御が難しい。また用いられる溶液(基剤)によって、その構造(コンフォメーション)を変化させるので、あらゆる液性においてリン脂質の極性部又はこれに類似する構造部を外側に向けること、換言すれば、分子表面に羽毛のようにリン脂質の極性基又はこれに類似する構造の基を露出させることは困難である。
【0005】
一方、デンドリマーは、規則正しい枝分かれ構造(デンドロン)を有する樹状多分岐分子であり、重合された高分子とは異なり、分子そのものが1個の微粒子であり、その構造をコアから表面まで完全にデザインすることが可能である。その為、デンドリマーの構造を生かした機能性分子が合成されている(特許文献4参照)。
【0006】
リン脂質類似高分子の機能を最大限に引き出すには、デンドリマー表面をリン脂質の極性基又はこれに類似する構造の基で修飾することが一番有効であると考えられる。デンドリマーを使用すれば、重合品に比べ、より精密に分子設計/制御することが可能となる。
【0007】
デンドリマーにホスホリルコリン基をつける試みもされており、静電的に結合させる方法や1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl)を用いて結合させる方法が示されている。しかしながら、前者はイオン結合を利用している為に液性によって簡単にはずれるという欠点があり、また後者は、P−N結合を一個持つリン酸エステルは加水分解を受けやすいと推定され、ホスホリルコリンとしての性質を十分には出せないという欠点がある(特許文献5参照)。
【0008】
このような従来技術を背景として、リン脂質の極性基又はこれに類似する構造の基で末端が修飾された樹状構造を有し、且つ当該置換基の有用機能を効率的に発現可能である化合物の開発が切望されている。
【特許文献1】仲矢 忠雄等、コンバーテック 7 、p.53-63 (2006)および 8 、p.65-79 (2006)
【特許文献2】S.Nakai et al., Makromol.Chem.178, 2963-2967 (1977)
【特許文献3】T.Umeda et al., Makromol.Chem., Rapid Commun. 3, p.457-459 (1982)
【特許文献4】相田 卓三、超分子の未来(化学同人)、p.137-163(2000)
【特許文献5】国際公開第01/41827号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、リン脂質の極性基又はこれに類似する構造の基で末端が修飾された樹状構造を有し、且つ当該置換基の有用機能を効率的に発現可能である化合物を提供することを目的とする。更に、本発明は、当該化合物の製造方法、及び当該化合物の用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記課題を解決する為に鋭意検討を行ったところ、デンドロン又はデンドリマーの末端に、一般式(I)で示される特定の構造の置換基を化学的に結合させることに成功した。更に、デンドロン又はデンドリマーの末端に、一般式(I)で示される特定の構造の置換基を結合させた化合物は、緩衝作用、抗血栓作用、保湿作用、タンパク質変性抑制作用等の有用作用を発揮できること、特に緩衝作用はメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを用いた(共)重合品よりも顕著に優れていることを見出した。そして更に、デンドロン又はデンドリマーの末端に一般式(I)で示される特定の構造の置換基を結合させた化合物は、コンタクトレンズの濡れ性を向上させる為、点眼剤やコンタクトレンズ用組成物の配合成分として有用であることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて、更に検討を重ねることにより開発されたものである。
【0011】
即ち、本発明は、下記態様の化合物、その製造方法、及びその用途を提供する:
項1. デンドロン又はデンドリマーの末端の少なくとも1つに、下記一般式(I)で示される基が結合していることを特徴とする、化合物。
【0012】
【化1】

【0013】
[式(I)中、R1はカルボキシ基で置換されていてもよいアルキレン基を示し;
R2〜R4は、同一又は異なって、水酸基で置換されていてもよいアルキル基又は水素原子を示す。]
項2. 前記デンドロン又はデンドリマーが末端に水酸基を有するものであり、該水酸基の少なくとも1つが一般式(I)で示される基で置換されている、項1に記載の化合物。
項3. 前記デンドロン又はデンドリマーが、末端のアミノ基が水酸基に置換されているポリアミドアミンデンドロン又はデンドリマーである、項1又は2に記載の化合物。
項4. 一般式(I)で示される基が、ホスホリルコリン基、ホスホリルエタノールアミン基及びホスホリルセリン基よりなる群から選択される少なくとも一種である、項1乃至3のいずれかに記載の化合物。
項5. 数平均分子量が1000〜50000である、項1乃至4のいずれかに記載の化合物。
項6. 前記デンドロン又はデンドリマーが第0世代〜第7世代である、項1乃至5のいずれかに記載の化合物。
項7. 下記工程(1-1)及び(1-2)を含有する、修飾デンドロン又は修飾デンドリマーの製造方法:
反応工程(1-1):末端に水酸基を有するデンドロン又はデンドリマーと、下記一般式(a)で示される化合物とを反応させることにより、
【0014】
【化2】

【0015】
[式(a)中、R1’は、保護基で保護されたカルボキシ基で置換されていてもよいアルキレン基を示し;Xはハロゲン原子を示す。]
下記一般式(b)で示される化合物を合成する工程
【0016】
【化3】

【0017】
[式(b)中、R1’は前記と同じであり、
dendron or dendrimer -O−は、末端に水酸基が結合しているデンドロン又はデンドリマーから、末端水酸基の水素原子を脱離させた残基を示す。]
反応工程(1-2):前記工程(1-1)で得られた一般式(b)の化合物と、下記一般式(c)で示される化合物とを反応させ、更に、R1’が保護基で保護されたカルボキシ基で置換されているアルキレン基である場合には当該保護基を脱離させることにより、
【0018】
【化4】

【0019】
[式(c)中、R2〜R4は、同一又は異なって、水酸基で置換されていてもよいアルキル基又は水素原子を示す。]
デンドロン又はデンドリマーの末端の少なくとも1つに、下記一般式(I)で示される基が結合している化合物を合成する工程。
【0020】
【化5】

【0021】
[式(I)中、R1はカルボキシ基で置換されていてもよいアルキレン基を示し;
R2〜R4は前記と同じである。]
項8. 項1乃至6のいずれかに記載の化合物を有効成分とする、緩衝剤。
項9. 項1乃至6のいずれかに記載の化合物を有効成分とする、抗血栓剤。
項10. 項1乃至6のいずれかに記載の化合物を有効成分とする、保湿剤。
項11. 項1乃至6のいずれかに記載の化合物を有効成分とする、タンパク質変性抑制剤。
項12. 項1乃至6のいずれかに記載の化合物を含有する、化粧料組成物。
項13. 項1乃至6のいずれかに記載の化合物を含有する、医薬組成物。
項14. 経皮又は経粘膜用医薬組成物である、項13に記載の医薬組成物。
項15. 項1乃至6のいずれかに記載の化合物を含有する、コンタクトレンズ用組成物。
【発明の効果】
【0022】
本発明の化合物は、緩衝作用、保湿作用、抗血栓作用、タンパク質変性抑制作用等の有用作用を有しており、しかも高い安全性を備えているため、化粧料組成物、医薬組成物、コンタクトレンズ用組成物等の様々な分野の組成物に配合することができ、これによって所望の作用や機能を当該組成物に備えさせることが可能である。
【0023】
また、本発明の化合物は、コンタクトレンズの濡れ性を改善する作用も優れており、コンタクトレンズの使用感を向上せしめることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
1.修飾デンドロン又は修飾デンドリマー
本発明は、デンドロン又はデンドリマーの末端の少なくとも1つに、下記一般式(I)で示される基(以下、単に「一般式(I)の基」と表記することもある)が結合している化合物(以下、単に「本発明化合物」と表記することもある)を提供する。
【0025】
【化6】

【0026】
本発明化合物において、デンドロン又はデンドリマーは、一般式(I)の基の結合基材としての役割を果たす。本明細書において、「デンドロン」とは、コア(中心構造)を持たず、規則的に分岐した構造が一方向に広がっている形状のものを指し、「デンドリマー」とは、コア(中心構造)を持ち、規則的に分岐した構造が中心から3次元的に広がっているもの形状のものを指す。言い換えれば、デンドリマーは、中心構造とデンドロンから構成される化合物である。
【0027】
本発明化合物に使用されるデンドロン又はデンドリマーの基本骨格構造としては、樹状構造を形成している限り特に限定されないが、例えばポリアミドアミン(PAMAM)デンドリマー、フェニルアゾメチンデンドリマー、ポリアルキレンイミンデンドリマー、ポリアリールアルキルエーテルデンドリマー、糖デンドリマー(シュガーボール)等が例示される。これらの基本骨格構造の中でも、システマチックに安価な大量合成が可能であるという観点から、好ましくはPAMAMデンドロン又はPAMAMデンドリマーが挙げられる。
【0028】
PAMAMデンドロン又はPAMAMデンドリマーの繰り返し分岐構造としては、具体的には、下記一般式(II)で示される構造が例示される。
【0029】
【化7】

【0030】
一般式(II)中、n1及びn2は、同一又は異なって、1〜10の整数、好ましくは1〜6の整数、更に好ましくは2を示す。
【0031】
本発明化合物に使用されるデンドロン又はデンドリマーとしては、特に制限されないが、製造簡便性の観点から、末端に水酸基を有するデンドロン又はデンドリマーが挙げられる。末端に水酸基を有するデンドロン又はデンドリマーの具体例としては、前述する基本骨格構造のデンドロン又はデンドリマーの末端に、水酸基又はヒドロキシアルキル基が結合しているものが例示される。ここで、末端に水酸基を有するデンドロン又はデンドリマーにおいて、水酸基の結合数については特に制限されないが、例えば、デンドロン又はデンドリマーの全側鎖の内、30%以上、好ましくは50〜100%、更に好ましくは75〜100%に水酸基が結合しているものが挙げられる。
【0032】
ここで、デンドロン又はデンドリマーの末端に結合するヒドロキシアルキル基の具体例としては、アルキル基のいずれか1つの水素原子が水酸基で置換されているものが例示される。上記アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、sec−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、3−メチルペンチル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等の炭素数が1〜12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が例示される。これらの中でも、好ましくは炭素数1〜12の直鎖状アルキル基、更に好ましくは炭素数1〜6の直鎖状アルキル基が挙げられる。置換されている水酸基の数については、アルキル基を構成する炭素数等により異なるが、一例として、1〜3、好ましくは1〜2が例示される。ヒドロキシアルキル基の好適な一例として、ヒドロキシメチル基、1−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシエチル基等が挙げられる。
【0033】
本発明化合物に使用されるデンドロン又はデンドリマーの内、特に好適なものとして、末端に水酸基を有するPAMAMデンドロン又はPAMAMデンドリマーが挙げられる。末端に水酸基を有するPAMAMデンドロン、又は末端に水酸基を有するPAMAMデンドリマーとしては、具体的には、PAMAMデンドロン又はPAMAMデンドリマーの末端が水酸基又はヒドロキシアルキル基に置換されたものが例示される。
【0034】
本発明化合物に使用されるデンドロン又はデンドリマーの世代数についても特に制限されないが、例えば第0世代〜第7世代のものが使用される。合成の簡便さという観点から、好ましくは第1世代〜第7世代、更に好ましくは第1世代〜第4世代が挙げられる。さらに、本発明化合物を経皮又は経粘膜的に適用される組成物(医薬組成物及び化粧料組成物)に配合する場合は、第2世代〜第3世代のデンドリマーを使用することにより、経皮吸収が抑制でき、安全性が保証しやすい。
【0035】
本発明化合物において、デンドリマーを基本骨格構造として使用する場合、その分岐構造の開始点にコアとなる中心構造の種類については特に制限されない。当該中心構造としては、例えば、2以上の結合手を有する環(例えば、ベンゼン環、トリアジン環等の芳香環、シクロヘキサン環等の非芳香環等)であってもよく、また、下記の一般式で示されるものであってもよい。
【0036】
【化8】

【0037】
上記構造式中、mは、同一又は異なって、1〜10の整数、好ましくは1〜6の整数、更に好ましくは2を示す。
【0038】
また、デンドリマーの中心構造は、デンドリマーの繰り返し分岐構造と同一の構造であってもよい。
【0039】
例えば、PAMAMデンドリマーを使用する場合であれば、下記一般式(III)で示される中心構造を備えていることが望ましい。
【0040】
【化9】

【0041】
一般式(III)中、mは、1〜10の整数、好ましくは1〜6の整数、更に好ましくは2を示す。
【0042】
本発明化合物において、一般式(I)の基は、緩衝作用、保湿作用、抗血栓作用、タンパク質変性抑制作用等の有用作用を担っている。
【0043】
一般式(I)の基において、R1はアルキレン基、又はカルボキシ基で置換されているアルキレン基を示す。
【0044】
R1がアルキレン基の場合、その具体例としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、2−メチルトリメチレン基、2,2−ジメチルトリメチレン基、1−メチルトリメチレン基、メチルメチレン基、エチルメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等の炭素数1〜6の直鎖又は分枝鎖状アルキレン基が例示される。これらの中でも、好ましくは炭素数1〜6の直鎖状アルキレン基、更に好ましくは炭素数2〜4の直鎖状アルキレン基、特に好ましくは炭素数2〜3の直鎖状アルキレン基が挙げられる。
【0045】
カルボキシ基で置換されているアルキレン基の具体例としては、上記の直鎖又は分枝鎖状アルキレン基のいずれか1つの水素原子がカルボキシ基で置換されているものが例示される。置換されているカルボキシ基の数については、アルキレン基を構成する炭素数等により異なるが、一例として、1〜2、好ましくは1が例示される。また、当該アルキレン基において、カルボキシ基の置換位置についても特に制限されない。カルボキシ基で置換されているアルキレン基の好適な一例として、下記の一般式(R1-1)で示される基が例示される。一般式(R1-1)において、A側の炭素原子は一般式(I)中のリン酸の酸素原子と結合し、B側の炭素原子は一般式(I)中の窒素原子と結合する。
【0046】
【化10】

【0047】
また、一般式(I)の基において、R2〜R4は、同一又は異なって、アルキル基、水酸基で置換されているアルキル基(即ち、ヒドロキシアルキル基)を示す。
【0048】
R2〜R4を構成するアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基,イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、sec−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、3−メチルペンチル基等の炭素数が1〜6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が例示される。これらの中でも、好ましくは炭素数1〜4の直鎖状アルキル基、更に好ましくは炭素数1〜2の直鎖状アルキル基が挙げられる。
【0049】
また、R2〜R4を構成する水酸基で置換されているアルキル基(ヒドロキシアルキル基)の具体例としては、上記の直鎖又は分枝鎖状アルキル基のいずれか少なくとも1つの水素原子が水酸基で置換されているものが例示される。水酸基で置換されているアルキル基において、水酸基の置換数については、アルキル基を構成する炭素数等により異なるが、一例として、1〜2、好ましくは1が例示される。また、当該アルキル基において、水酸基の置換位置についても特に制限されない。水酸基で置換されているアルキル基の好適な一例として、ヒドロキシメチル基、1−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシエチル基等が挙げられる。
【0050】
R2〜R4の少なくとも1つが水素原子である場合、本発明化合物において、一般式(I)の基は、液性(溶媒のpHや極性)によっては分極していない状態で存在することもある。例えば、R2が水素原子である場合には、一般式(I)の基は、下記一般式(Ia)で示される構造を採ることもある。本発明化合物において、一般式(I)の基は、このように分極していない状態のものも包含される。
【0051】
【化11】

【0052】
本発明化合物において、一般式(I)の基の好ましいものとして、R1がエチレン基であり、R2〜R4がメチル基である基(即ち、ホスホリルコリン基);R1がエチレン基であり、R2〜R4が水素原子である基(即ち、ホスホリルエタノールアミン基);及びR1が上記一般式(R1-1)で示される基であり、R2〜R4が水素原子である基(即ち、ホスホリルセリン基)が挙げられる。一般式(I)の基の中で、最も好ましくはホスホリルコリン基が挙げられる。一般式(I)の基として、このような構造の基を採用することによって、緩衝作用、保湿作用、抗血栓作用、タンパク質変性抑制作用等の有用作用を一層有効に本発明化合物に備えさせることができる。
【0053】
本発明化合物において、一般式(I)の基の結合数については、デンドロン又はデンドリマーの繰り返し分岐構造、デンドリマーの中心構造、デンドリマー又はデンドロンの世代数等によって異なるが、好適な一例として、デンドロン又はデンドリマーの全末端の内、30%以上、好ましくは40〜100%、更に好ましくは50〜100%に一般式(I)の基が結合しているものが挙げられる。このような割合で一般式(I)の基の結合していることにより、緩衝作用、保湿作用、抗血栓作用、タンパク質変性抑制作用等の有用作用を効果的に発現させることが可能になる。
【0054】
本発明の化合物の分子量(数平均)については、デンドロン又はデンドリマーの構成骨格、デンドロン又はデンドリマー部分の世代数、一般式(I)の基の数や種類等に基づいて定まり、一律に規定することはできないが、例えば1000〜50000、好ましくは2000〜20000、更に好ましくは4000〜15000の範囲内であることが望ましい。
【0055】
2.修飾デンドロン又は修飾デンドリマーの製造方法
本発明化合物は、デンドロン又はデンドリマーの構成骨格や一般式(I)の基の種類等に応じて、種々の合成方法により製造できる。以下に、本発明化合物の代表的な製造方法を例に挙げて説明する。
【0056】
なお、デンドリマーを構成骨格とする本発明化合物は、デンドロンを構成骨格とする本発明化合物を、コアとなる中心構造と結合させることにより製造することもできるので、デンドロンを構成骨格とする本発明化合物は、デンドリマーを構成骨格とする本発明化合物の製造中間体としても有用である。
【0057】
<製法1>
本製法1では、まず、末端に水酸基が結合しているデンドロン又はデンドリマーと、一般式(a)で示される化合物(以下、単に「一般式(a)の化合物」と表記する)とを反応させることにより、一般式(b)で示される化合物(以下、単に「一般式(b)の化合物」と表記する)を合成する(反応工程(1-1))。収率向上の観点から、本工程は塩基性化合物の存在下で行うことがより好ましい。
【0058】
【化12】

【0059】
反応式中、末端に水酸基が結合しているデンドロン又はデンドリマーを「dendron or dendrimer -OH」と表記する。更に、末端に水酸基が結合しているデンドロン又はデンドリマーから末端水酸基の水素原子を脱離させた残基を「dendron or dendrimer -O−」と表記する。
【0060】
また、一般式(a)中、Xは、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、好ましくは塩素原子を示す。
【0061】
また、一般式(a)及び(b)中、R1'はアルキレン基、又は保護基で保護されたカルボキシ基で置換されているアルキレン基を示す。
【0062】
R1'で示されるアルキレン基としては、前記R1で示されるアルキレン基と同様のものが例示される。
【0063】
R1'で示される保護基で保護されたカルボキシ基としては、前記R1で示されるカルボキシ基で置換されているアルキレン基のカルボキシ基が、カルボキシ基の保護基で保護されているものが例示される。
【0064】
カルボキシ基の保護基としては、例えば、エチル、メチル、tert-ブチル、ベンジル、テトラヒドロピラニル、テトラヒドロフラニル、ベンジルオキシメチル、トリフェニルメチル、ジフェニルメチル、9−アンスリルメチル、tert-ブチルジメチルシリル、フェニルジメチルシリル等が例示される。
【0065】
末端に水酸基が結合しているデンドロン又はデンドリマー、及び一般式(a)の化合物は、いずれも、公知化合物、又は公知化合物から容易に誘導される化合物である。
【0066】
ここで、末端に水酸基が結合しているデンドロン又はデンドリマーの内、末端に水酸基が結合しているPAMAMデンドリマーは、例えば、Polymer J.17 117-135 (1985)に記載の合成法に従って合成することができる。当該PAMAMデンドリマーの合成方法の好適な一態様を以下説明する。即ち、エチレンジアミンをアクリル酸メチルにMichael付加させ、得られるエステルに過剰のエチレンジアミンを反応させることにより、末端に4個のアミノ基を有するアミドアミンが得られる(第0世代(G0))。更に末端アミノ基をアクリル酸メチルにMichael付加させ、得られるエステルに過剰のエチレンジアミンを反応させることにより、末端に8個のアミノ基を有するアミドアミンが得られる(第1世代(G1))。同様の操作を繰り返すことにより、表面にアミノ基を有する各世代のPAMAMデンドリマーが得られる。斯くして得られたPAMAMデンドリマーの末端アミノ基をアクリル酸メチルにMichael付加させ、得られるエステルをアルカリ加水分解することにより、カルボン酸に誘導する。得られたカルボン酸をエタノールアミン、トリエチルアミンと共にDMFに溶かし、EDC・HClおよびHOBt(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール)を加えて縮合させ、末端に水酸基を有するPAMAMデンドリマーが得られる。
【0067】
上記反応工程(1-1)は、末端に水酸基が結合しているデンドロン又はデンドリマーの表面水酸基1当量に対して、一般式(a)の化合物を1〜1.4当量、好ましくは1〜1.2当量の割合で使用して行われる。
【0068】
上記反応工程(1-1)は、通常、適当な溶媒中で行われる。溶媒としては、反応を阻害しない溶媒であれば特に制限されない。上記反応工程(1-1)で使用可能な溶媒としては、例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチルピロリドン(NMP)等の非プロトン性極性溶媒;テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジプロピルエーテル、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、ジグライム等のエーテル系溶媒;及びこれらの混合溶媒等が挙げられ、好ましくはDMF又はDMFとTHFとの混合溶媒等が挙げられる。
【0069】
上記反応工程(1-1)は、通常−40〜0℃、好ましくは−20〜−30℃で、2〜6時間、好ましくは3〜4時間行われる。
【0070】
塩基性化合物としては、有機塩基性化合物及び無機塩基性化合物の別を問わず、公知のものを広く使用できる。塩基性化合物の具体例としては、トリエチルアミン、ピリジン、1−メチルピロリジン等の有機塩基性化合物;水素化ナトリウム、水素化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムの無機塩基性化合物が例示される。好ましい塩基性化合物としては、トリエチルアミン、ピリジン等が例示される。
【0071】
かかる塩基性化合物は、末端に水酸基が結合しているデンドロン又はデンドリマーの表面水酸基1当量に対して、通常1〜2当量、好ましくは1〜1.2当量の割合で用いることが望ましい。
【0072】
上記反応工程(1-1)で得られた反応混合物を、例えば、濾過、濃縮、抽出等の単離操作に供して粗反応生成物を分離し、更に必要に応じてカラムクロマトグラフィー、再結晶等の通常の精製操作を行うことによって、一般式(b)の化合物を単離精製できる。また、上記反応工程(1-1)で得られた反応混合物は、単離精製することなく、そのまま次の反応工程(1-2)に供してもよい。
【0073】
次いで、一般式(b)の化合物と、一般式(c)で示される化合物(以下、単に「一般式(c)の化合物」と表記する)とを反応させることによって一般式(b)の化合物のホスホラン環を開環させ、更に、R1’が保護基で保護されたカルボキシ基で置換されているアルキレン基である場合には当該保護基を脱離させることにより、一般式(d)で示される本発明化合物が合成される(反応工程(1-2))。
【0074】
【化13】

【0075】
一般式(c)及び(d)中、R2〜R4は前記と同じである。
【0076】
また、一般式(c)の化合物は、公知化合物、又は公知化合物から容易に誘導される化合物である。
【0077】
上記反応工程(1-2)は、一般式(b)の化合物のホスホラン環1当量に対して、一般式(c)の化合物を1〜20当量、好ましくは2〜10当量の割合で使用して行われる。
【0078】
上記反応工程(1-2)は、通常、適当な溶媒中で行われる。溶媒としては、反応を阻害しない溶媒であれば特に制限されない。上記反応工程(1-2)で使用可能な溶媒としては、例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチルピロリドン(NMP)、アセトニトリル等の非プロトン性極性溶媒;テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジプロピルエーテル、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、ジグライム等のエーテル系溶媒;及びこれらの混合溶媒等が挙げられ、好ましくはDMF等が挙げられる。
【0079】
上記反応工程(1-2)は、通常0〜80℃、好ましくは25〜60℃で、6〜72時間、好ましくは24〜48時間行われる。
【0080】
また、R1’が保護基で保護されたカルボキシ基で置換されたアルキレン基である場合、上記反応によってホスホラン環を開環させた後に、当該保護基を公知の脱保護反応を利用して脱離させることにより、本発明化合物が得られる。脱保護反応の具体的反応条件については、通常の化学合成の知識に基づいて適宜設定される。
【0081】
上記反応工程(1-2)で得られた反応混合物を、例えば、濾過、濃縮、抽出等の単離操作に供して粗反応生成物を分離し、更に必要に応じてカラムクロマトグラフィー、再結晶、透析等の通常の精製操作を行うことによって、本発明化合物を単離精製できる。
【0082】
本製法1は、本発明化合物を簡便且つ効率的に合成できるため、工業的な製造において特に有用である。
【0083】
<製法2>
本製法2では、まず一般式(e)で示される化合物(トリn-ブチルアンモニウム塩)(以下、単に「一般式(e)の化合物」と表記する)と、1,1’-カルボニルジイミダゾールとを反応させることにより、一般式(f)で示される化合物(以下、単に「一般式(f)の化合物」と表記する)を合成する(反応工程(2-1))。次いで、一般式(f)の化合物と、末端に水酸基が結合しているデンドロン又はデンドリマーとを反応させることにより、一般式(d)で示される本発明化合物が合成される(反応工程(2-2))。
【0084】
【化14】

【0085】
一般式(e)及び(f)中、R1〜R4は、前記と同じである。また、一般式(e)の化合物は、公知化合物、又は公知化合物から容易に誘導される化合物である。具体的には、アルコール類(例、メタノール、エタノール等やこれらの混合溶媒等)中、ホスホコリン クロリド ナトリウムとトリn-ブチルアミンを反応させることにより、一般式(e)の化合物が得られる。
【0086】
上記反応工程(2-1)は、一般式(e)の化合物1当量に対して、1,1’-カルボニルジイミダゾールを1〜20当量、好ましくは1〜10当量の割合で使用して行われる。
【0087】
上記反応工程(2-1)は、通常、適当な溶媒中で行われる。溶媒としては、反応を阻害しない溶媒であれば特に制限されない。上記反応工程(2-1)で使用可能な溶媒としては、例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチルピロリドン(NMP)等の非プロトン性極性溶媒;テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジプロピルエーテル、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、ジグライム等のエーテル系溶媒;及びこれらの混合溶媒等が挙げられ、好ましくはDMF等が挙げられる。
【0088】
上記反応工程(2-1)は、通常0〜80℃、好ましくは25〜60℃で、6〜72時間、好ましくは24〜48時間行われる。
【0089】
上記反応工程(2-1)で得られた反応混合物を、例えば、濾過、濃縮、抽出等の単離操作に供して粗反応生成物を分離し、更に必要に応じてカラムクロマトグラフィー、再結晶等の通常の精製操作を行うことによって、一般式(f)の化合物を単離精製できる。また、上記反応工程(2-1)で得られた反応混合物は、単離精製することなく、そのまま次の反応工程(2-2)に供してもよい。
【0090】
上記反応工程(2-2)は、末端に水酸基が結合しているデンドロン又はデンドリマーの表面水酸基1当量に対して、一般式(f)の化合物を0.8〜1.4当量、好ましくは1.0〜1.2当量の割合で使用して行われる。
【0091】
上記反応工程(2-2)は、通常、適当な溶媒中で行われる。溶媒としては、反応を阻害しない溶媒であれば特に制限されない。上記反応工程(2-2)で使用可能な溶媒としては、例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチルピロリドン(NMP)等の非プロトン性極性溶媒;テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジプロピルエーテル、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、ジグライム等のエーテル系溶媒;及びこれらの混合溶媒等が挙げられ、好ましくはDMF等が挙げられる。
【0092】
上記反応工程(2-2)は、通常0〜80℃、好ましくは25〜60℃で、6〜72時間、好ましくは24〜48時間行われる。
【0093】
上記反応工程(2-2)で得られた反応混合物を、例えば、濾過、濃縮、抽出等の単離操作に供して粗反応生成物を分離し、更に必要に応じてカラムクロマトグラフィー、再結晶、透析等の通常の精製操作を行うことによって、本発明化合物を単離精製できる。
【0094】
<製法3>
本製法3では、まず一般式(e)の化合物と、トリクロロアセトニトリルとを反応させることにより、一般式(g)で示される化合物(以下、単に「一般式(g)の化合物」と表記する)を合成する(反応工程(3-1))。次いで、一般式(g)の化合物と、末端に水酸基が結合しているデンドロン又はデンドリマーとを反応させることにより、一般式(d)で示される本発明化合物が合成される(反応工程(3-2))。
【0095】
【化15】

【0096】
一般式(g)中、R1〜R4は、前記と同じである。
【0097】
上記反応工程(3-1)〜(3-2)は、公知の合成反応機構を利用するものであり、具体的反応条件については、通常の化学合成の知識に基づいて適宜設定される。
【0098】
<製法4>
本製法4は、R2〜R4が全て水素原子である一般式(d-1)で示される本発明化合物の製造方法の一例である。
【0099】
本製法4では、まず、末端に水酸基が結合しているデンドロン又はデンドリマーをハロゲン化剤(例、塩化チオニル、五塩化リン、三臭化リン、臭化水素酸、ヨウ化水素酸等)でハロゲン化することにより、一般式(h)で示される化合物(以下、単に「一般式(h)の化合物」と表記する)を合成する(反応工程(4-1))。次いで、一般式(h)の化合物とジベンジルリン酸銀塩を反応させることにより、一般式(i)で示される化合物(以下、単に「一般式(i)の化合物」と表記する)を合成し(反応工程(4-2))、更に、一般式(i)の化合物を脱水アセトン中でヨウ化バリウムで脱ベンジル化することにより、一般式(j)で示される化合物(以下、単に「一般式(j)の化合物」と表記する)を得る(反応工程(4-3))。次いで、一般式(j)の化合物を水性アセトン中で硫酸銀と反応させることによって、一般式(k)で示される化合物(以下、単に「一般式(k)の化合物」と表記する)に誘導する(反応工程(4-4))。その後、一般式(k)の化合物と、一般式(l)で示される化合物(以下、単に「一般式(l)の化合物」と表記する)とを反応させ、一般式(m)で示される化合物(以下、単に「一般式(m)の化合物」と表記する)を合成し(反応工程(4-5))、その後、一般式(m)の化合物を脱ベンジル化し、更に保護基PGを脱離させることにより、一般式(d-1)で示される本発明化合物が合成される(反応工程(4-6))。
【0100】
【化16】

【0101】
一般式(l)において、Xはハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)を示し、PGは保護基(例、tert-ブチルオキシカルボニル、ベンジルオキシカルボニル、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル、トリチル等や、隣接する窒素原子と一緒になってフタルイミド等を形成していてもよい)を示し、R1は前記と同じである。また、上記反応式中、Bzとはベンジル基を示す。なお、一般式(l)の化合物は、公知化合物、又は公知化合物から容易に誘導される化合物である。
【0102】
上記反応工程(4-1)〜(4-6)は、公知の合成反応機構を利用するものであり、具体的反応条件については、通常の化学合成の知識に基づいて適宜設定される。
【0103】
本製法4では、反応工程(4-1)〜(4-3)に代えて、下記反応工程(4-1-1)に示すように、末端に水酸基が結合しているデンドロン又はデンドリマーを塩基性化合物存在下で、塩化ジベンジルリン酸と反応させることにより、一般式(i)の化合物を合成しても良い。
【0104】
【化17】

【0105】
上記反応工程(4-1-1)は、公知の合成反応機構を利用するものであり、具体的反応条件については、通常の化学合成の知識に基づいて適宜設定される。
【0106】
また、本製法4では、反応工程(4-2)〜(4-5)に代えて、下記反応工程(4-2-1)に示すように、一般式(h)の化合物と、一般式(n)で示される化合物(以下、単に「一般式(n)の化合物」と表記する)とを反応させることにより、一般式(m)の化合物を合成しても良い。
【0107】
【化18】

【0108】
一般式(n)において、R1、PG、及びBzは前記と同じである。また、一般式(n)の化合物は、公知化合物、又は公知化合物から容易に誘導される化合物である。
【0109】
上記反応工程(4-2-1)は、公知の合成反応機構を利用するものであり、具体的反応条件については、通常の化学合成の知識に基づいて適宜設定される。
【0110】
<製法5>
本製法5は、R2〜R4が全て水素原子である一般式(d-1)で示される本発明化合物の製造方法の一例である。
【0111】
本製法5では、まず、末端に水酸基が結合しているデンドロン又はデンドリマーを、2,6-ルチジン等の塩基性化合物の存在下、モルホリノホスホロジクロリデ−トと反応させ、一般式(o)で示される化合物(以下、単に「一般式(o)の化合物」と表記する)を合成する(反応工程(5-1))。次いで、一般式(o)の化合物を、酸性加熱条件下で反応させることにより、一般式(p)で示される化合物(以下、単に「一般式(p)の化合物」と表記する)を得る(反応工程(5-2))。その後、一般式(p)の化合物と一般式(l)の化合物とを、塩基性化合物の存在下で反応させることにより、一般式(q)で示される化合物(以下、単に「一般式(q)の化合物」と表記する)を合成し(反応工程(5-3))、更に脱保護することにより、一般式(d-1)で示される本発明化合物が合成される(反応工程(5-4))。
【0112】
【化19】

【0113】
一般式(q)において、R1、及びPGは前記と同じである。
【0114】
上記反応工程(5-1)〜(5-4)は、公知の合成反応機構を利用するものであり、具体的反応条件については、通常の化学合成の知識に基づいて適宜設定される。
【0115】
また、本製法5では、反応工程(5-3)に代えて、下記反応工程(5-3-1)〜(5-3-3)を行うことにより、一般式(q)の化合物を得ることもできる。即ち、一般式(p)の化合物をトリn-ブチルアミン塩の形態である一般式(r)で示される化合物(以下、単に「一般式(r)の化合物」と表記する)とした後(反応工程(5-3-1))、一般式(r)の化合物と1,1’-カルボニルジイミダゾールと反応させることにより一般式(s)で示される化合物(以下、単に「一般式(s)の化合物」と表記する)を得る(反応工程(5-3-2))。この一般式(s)の化合物と一般式(t)で示される化合物(以下、単に「一般式(t)の化合物」と表記する)反応させることにより一般式(q)の化合物を合成する(反応工程(5-3-3))。
【0116】
【化20】

【0117】
一般式(t)において、R1及びPGは前記と同じである。また、一般式(t)の化合物は、公知化合物、又は公知化合物から容易に誘導される化合物である。
【0118】
上記反応工程(5-3-1)〜(5-3-3)は、公知の合成反応機構を利用するものであり、具体的反応条件については、通常の化学合成の知識に基づいて適宜設定される。
【0119】
<製法6>
本製法6では、末端に水酸基が結合しているデンドロン又はデンドリマーを、塩基性化合物、及び縮合剤の存在下、一般式(u)で示される化合物(以下、単に「一般式(u)の化合物」と表記する)と反応させることにより、一般式(d)で示される本発明化合物が合成される(反応工程(6))。
【0120】
【化21】

【0121】
一般式(u)において、R1〜R4は前記と同じである。また、一般式(u)の化合物は、公知化合物、又は公知化合物から容易に誘導される化合物である。
【0122】
上記反応工程(6)は、末端に水酸基が結合しているデンドロン又はデンドリマーの末端水酸基1当量に対して、一般式(u)の化合物を1〜3当量、好ましくは1〜1.5当量の割合で使用して行われる。
【0123】
塩基性化合物としては、トリエチルアミン、ピリジン、N,N−ジメチルアミノピリジン、1−メチルピロリジン等が例示される。
【0124】
かかる塩基性化合物は、末端に水酸基が結合しているデンドロン又はデンドリマーの表面水酸基1当量に対して、通常1〜20当量、好ましくは1〜10当量の割合で用いることが望ましい。
【0125】
縮合剤としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩等が例示される。
【0126】
かかる縮合剤は、末端に水酸基が結合しているデンドロン又はデンドリマーの表面水酸基1当量に対して、通常1〜20当量、好ましくは1〜10当量の割合で用いることが望ましい。
【0127】
上記反応工程(6)は、通常、適当な溶媒中で行われる。溶媒としては、反応を阻害しない溶媒であれば特に制限されない。上記反応工程(6)で使用可能な溶媒としては、例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチルピロリドン(NMP)等の非プロトン性極性溶媒;テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジプロピルエーテル、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、ジグライム等のエーテル系溶媒;及びこれらの混合溶媒等が挙げられ、好ましくはDMF等が挙げられる。
【0128】
上記反応工程(6)は、通常0℃〜還流下、好ましくは還流下で、6〜72時間、好ましくは24〜48時間行われる。
【0129】
上記反応工程(6)で得られた反応混合物を、例えば、濾過、濃縮、抽出等の単離操作に供して粗反応生成物を分離し、更に必要に応じてカラムクロマトグラフィー、再結晶、透析等の通常の精製操作を行うことによって、本発明化合物を単離精製できる。
【0130】
<製法7>
本製法7では、まず、末端に水酸基が結合しているデンドロン又はデンドリマーを、オキシ塩化リンと反応させることにより、一般式(v)で示される化合物(以下、単に「一般式(v)の化合物」と表記する)を得る(反応工程(7-1))。次いで、一般式(v)の化合物と一般式(w)で示される化合物(以下、単に「一般式(w)の化合物」と表記する)とを反応させることにより一般式(x)で示される化合物(以下、単に「一般式(x)の化合物」と表記する)を合成する(反応工程(7-2))。この一般式(x)の化合物を水酸化バリウムでバリウム塩とした後、イオン交換樹脂を用いて水酸基に変換することにより、一般式(y)で示される化合物(以下、単に「一般式(y)の化合物」と表記する)を得る(反応工程(7-3))。更に、一般式(y)の化合物に一般式(c)の化合物を反応させることにより、一般式(d)で示される本発明化合物が合成される(反応工程(7-4))。
【0131】
【化22】

【0132】
一般式(w)、(x)及び(y)において、R1及びXは前記と同じである。また、一般式(w)の化合物は、公知化合物、又は公知化合物から容易に誘導される化合物である。
【0133】
上記反応工程(7-1)〜(7-4)は、公知の合成反応機構を利用するものであり、具体的反応条件については、通常の化学合成の知識に基づいて適宜設定される。
【0134】
3.修飾デンドロン又はデンドリマーの作用効果及び用途
本発明化合物は、後述する試験例に示すように、緩衝作用、抗血栓作用、タンパク質変性抑制作用等の有用作用を有しているので、緩衝剤、抗血栓剤、タンパク質変性抑制剤等の有効成分として、様々な分野の組成物に配合される。
【0135】
また、本発明化合物を、例えば相対湿度約60%、温度約25℃の室内に放置すると、本発明化合物の粉体は1時間以内にペ−スト状に変化する傾向が認められ得る。このように、本発明化合物は、吸湿性に富み、保湿剤として利用可能であると考えられ、本発明化合物を配合した組成物は、本発明化合物の作用に基づいて優れた保湿効果を奏することができると考えられる。
【0136】
本発明化合物を配合可能な組成物としては、特に制限されないが、具体的には、化粧料組成物;医薬組成物;コンタクトレンズ用組成物;血液や臓器等の生体成分又は組織の保存用組成物(以下、「保存用組成物」と表記する);皮膚と接触する物品に対する表面処理剤組成物(以下、「表面処理剤組成物」と表記する)等が挙げられる。
【0137】
本発明化合物を配合可能な化粧料組成物としては、例えば、乳液、クリーム、ローション、オイル、パック、化粧水、リップ等が挙げられる。本発明の化合物は、中性付近での優れた緩衝作用を示すので、皮膚への刺激性が少なく、化粧料組成物の配合成分として有用である。本発明化合物を含む化粧料組成物は、本発明化合物のタンパク質変性抑制作用に基づいて皮膚保護効果を奏することができるので、皮膚保護用化粧料として有用である。また、本発明化合物を含む化粧料組成物は、本発明化合物に基づく保湿効果を奏することができるので、保湿用化粧料としても有用である。
【0138】
本発明化合物を配合可能な医薬組成物としては、例えば、散剤、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、液剤等の内服用組成物;点眼剤、人工涙液、洗眼剤、眼軟膏剤、点鼻剤、鼻洗浄液等の経粘膜用組成物;貼付剤、ローション、軟膏等の経皮用組成物;注射剤等の皮下投与用組成物等が挙げられる。中でも、経粘膜用組成物、経皮用組成物が好ましい。
【0139】
本発明化合物を配合した経粘膜又は経皮用組成物は、本発明化合物のタンパク質変性抑制作用や保湿作用、緩衝作用に基づいて、粘膜又は皮膚に対して効果的な保護作用を発揮することができる。
【0140】
また、本発明化合物を配合した医薬組成物は、本発明化合物の作用に基づいて優れた抗血栓効果を奏することができるので、抗血栓用医薬組成物として特に有用である。
【0141】
本発明化合物を配合した医薬組成物を抗血栓用医薬組成物として使用する場合、血栓溶解に有効な量を内服又は皮下投与、好ましくは皮下投与すればよい。具体的には、当該抗血栓用医薬組成物を皮下投与する場合、例えば、本発明化合物を0.0001〜5重量%の割合で含む液状の抗血栓用医薬組成物を、1回当たり1〜50mL程度皮下投与すればよい。
【0142】
本発明化合物を配合可能なコンタクトレンズ用組成物としては、例えば、コンタクトレンズ装用時に使用される点眼剤、洗眼剤、コンタクトレンズ装着液、コンタクトレンズケア用組成物(コンタクトレンズ消毒剤、コンタクトレンズ用保存剤、コンタクトレンズ用洗浄剤、コンタクトレンズ用洗浄保存剤)等が挙げられる。本発明の化合物は、中性付近での優れた緩衝作用を示すので、眼組織への刺激性が少なく、コンタクトレンズ用組成物の配合成分として有用である。特に、本発明化合物は、コンタクトレンズの濡れ性を改善するこができ、かかる効果に鑑みれば、コンタクトレンズ用組成物の中でも、コンタクトレンズケア用組成物が特に適しているといえる。
【0143】
本発明化合物を配合可能な保存用組成物としては、具体的には、血液成分の保存用液、臓器の保存用液等が挙げられる。本発明化合物を配合した保存用組成物によれば、保存対象となる生体成分又は生体組織に対して、優れた保護効果を奏することができるので、生体成分又は生体組織が経時的に劣化乃至不活化するのを抑制することができる。
【0144】
本発明化合物を配合可能な表面処理剤組成物としては、皮膚と接触する物品に対して塗布又は噴霧されるものである限り特に制限されない。当該表面処理剤の適用対象となる物品としては、具体的には、衣類、おむつ等の繊維製品;便器、浴槽、いす、テーブル、カーテン、床等の室内物品等が挙げられる。本発明化合物を配合した表面処理剤組成物によれば、皮膚と接触する物品における皮膚に対する悪影響を緩和でき、当該物品の生体に対する安全性を高めることができる。
【0145】
本発明化合物の配合割合は、配合対象となる組成物の用途や種類、期待される作用効果等によって異なり、一律に規定することはできないが、例えば、組成物の総量当たり、0.0001〜50重量%が例示される。
【0146】
本発明化合物を医薬組成物に配合する場合、本発明化合物の配合割合は、例えば、該組成物の総量当たり、0.0001〜40重量%、好ましくは0.01〜20重量%が例示される。
【0147】
本発明化合物を化粧料組成物に配合する場合、本発明化合物の配合割合は、例えば、該組成物の総量当たり、0.0001〜10重量%、好ましくは0.0.001〜10重量%、更に好ましくは0.01〜5重量%が例示される。
【0148】
本発明化合物をコンタクトレンズ用組成物に配合する場合、本発明化合物の配合割合は、例えば、該組成物の総量当たり、0.0001〜5重量%、好ましくは0.001〜3重量%、更に好ましくは0.01〜1重量%が例示される。
【0149】
本発明化合物を生体成分の保存用組成物に配合する場合、本発明化合物の配合割合は、例えば、該組成物の総量当たり、0.0001〜10重量%、好ましくは0.001〜5重量%が例示される。
【0150】
本発明化合物を表面処理剤組成物に配合する場合、本発明化合物の配合割合は、例えば、該組成物の総量当たり、0.1〜50重量%、好ましくは0.1〜20重量%が例示される。
【0151】
また、本発明化合物は、カルボキシビニルポリマー等の皮膜形成性アニオン性高分子との共存下で、本発明化合物を含む皮膜を形成することができる。具体的には、本発明化合物及び皮膜形成性アニオン性高分子を含む水溶液を、プラスチック表面等の基材に塗布した後に、これを乾燥させると、当該基材上に本発明化合物を含む皮膜を形成できる。あるいは、プラスチック表面がマイナスチャージを持っている時は、本発明化合物の水溶液を塗布し、これを乾燥させるだけで容易に表面をコ−トすることもできる。斯くして製造される皮膜は、本発明化合物の作用に基づいて生体適合性等の有用特性を示す。従って、本発明化合物及び皮膜形成性アニオン性高分子を用いて基材表面をコーティングすることにより、当該基材が生体成分に対して悪影響を及ぼすのを抑制し、本発明化合物に基づく有用特性を当該基材表面に付与することが可能になる。
【0152】
本発明化合物と皮膜形成性アニオン性高分子を用いて基材表面をコーティングする場合、両者の混合比率については特に制限されないが、例えば、本発明化合物100重量部に対して、皮膜形成性アニオン性高分子が50〜500重量部、好ましくは100〜200重量部となる比率で使用すればよい。
【0153】
本発明の化粧料組成物、医薬組成物、コンタクトレンズ用組成物、保存用組成物、表面処理剤組成物には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、その用途や形態に応じて、種々の添加物や、薬理活性成分、生理活性成分等を適宜選択し、一種またはそれ以上を併用して適当量含有させてもよい。
【実施例】
【0154】
以下に、実施例、試験例等に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
実施例1 ホスホリルコリン化PAMAMデンドリマー(第2世代)の製造
末端に水酸基を有するPAMAMデンドリマー(PAMAM-OHデンドリマー)(第2世代)の末端が、一般式(I)において、R1がエチレン基であり、R2〜R4がメチル基である基(即ち、ホスホリルコリン基)で置換されているホスホリルコリン化PAMAMデンドリマーを、以下の手順で製造した。
【0155】
まず、温度計を装着した100mL用三つ口フラスコの中で、PAMAM-OHデンドリマー(第2世代;分子量3272.;Aldrich(No.477834);一般式(III)で示される構造においてmが2である中心構造;一般式(II)で示される構造においてn1及びn2が2である繰り返し分岐構造;末端に水酸基が結合)(7.2g:2.2mmole、表面OHは35.2mmole)及びトリエチルアミン(3.6g:36.6mmole)を乾燥N,N-ジメチルホルムアミド(40mL)に溶解させた。開封口はセプタムで栓をし、三つ口フラスコを-20℃に冷却した。2-クロロ-2-オキソ-1,3,2−ジオキサホスホラン(5.03g:35.3mmole)を乾燥N,N-ジメチルホルムアミド(10mL)に溶解させ、この溶液を攪拌下、シリンジを用いてセプタムを通じて滴下した。なお、滴下時を含め、容器は約-20℃に保ち、攪拌下3〜4時間反応させた。
【0156】
反応後、減圧下で簡単にエバポレーションし、更に乾燥N,N-ジメチルホルムアミド(30mL)を用いて100mL用耐圧瓶に、内容物を投入した。耐圧瓶は-20℃に冷却しておき、これに無水トリメチルアミン(10mL)を加えた。耐圧瓶は室温に戻し、60℃で2日間マグネチックスターラーを用いて攪拌した。反応物は下に白色沈殿が生成するが、水に可溶であった。よって、水50mLを用いて沈殿を溶かし、ろ紙で濾過後、透析チュ−ブ(分子量カット:2000)に入れ、外液を精製水(5L)として、毎日外液を交換しながら5日間透析して精製した。透析後、内容液を回収し、ろ紙で濾過し、少量(約30mL)までエバポレーターで濃縮した後、凍結乾燥することにより、吸湿性の微黄色の粉末としてホスホリルコリン化PAMAMデンドリマー(約5.36g)を取得した。
【0157】
当該粉末の同定は、IR(KBr法)(JASCO FT/IR-4200:日本分光(株)製)、1H-NMR(JEOL JNM-EX400 FTNMR SYSTEM)、及び元素分析(N含量)より行った。1H-NMRスペクトル(D2O)におけるPAMAMデンドリマ−に由来する2.41ppm(-NHCOCH2-)、2.66ppm(-NCH2-)、及び2.85ppm(-NCH2CH2CO-)とホスホリルコリン部に由来する3.22ppm(N+(CH3)3)の積分値の比較より、PAMAM-OHデンドリマー(第2世代)の表面の水酸基の68%がホスホリルコリン基で修飾されていることがわかり、元素分析値もこれを支持した。
IR(KBr法)cm-1:3400(-N+)、1645(CONH)、1233、1089and1060(PO-O-)
1H-HMR(D2O)ppm:2.41(56H)、2.66(28H)、2.85(56H)、3.22(98H)、3.32(24H)、3.43(20H)、3.69(44H)、3.93(44H)。
元素分析値(N含量):実測値(13.01%)、理論値(12.85%)
【0158】
実施例2 ホスホリルコリン化PAMAMデンドリマー(第3世代)の製造
PAMAM-OHデンドリマー(第3世代)の末端が、一般式(I)において、R1がエチレン基であり、R2〜R4がメチル基である基(即ち、ホスホリルコリン基)で置換されているホスホリルコリン化PAMAMデンドリマーを、以下の手順で製造した。
【0159】
まず、温度計を装着した100mL用三つ口フラスコの中で、PAMAM-OHデンドリマー(第3世代;分子量6940.;Ardlich(No.477842);一般式(III)で示される構造においてmが2である中心構造;一般式(II)で示される構造においてn1及びn2が2である繰り返し分岐構造;末端に水酸基が結合)(2.17g:0.3mmole、表面OHは10.0mmole)及びトリエチルアミン(1.01g:10.0mmole)を乾燥N,N-ジメチルホルムアミド(20mL)に溶解させた。開封口はセプタムで栓をし、三つ口フラスコは-20℃に冷却した。2-クロロ-2-オキソ-1,3,2−ジオキサホスホラン(1.43g:10.0mmole)を乾燥N,N-ジメチルホルムアミド(8mL)に溶解させ、この溶液を攪拌下、シリンジを用いてセプタムを通じて滴下した。なお、滴下時を含め、容器は約-20℃に保ち、攪拌下3〜4時間反応させた。
【0160】
反応後、減圧下で簡単にエバポレーションし、更に乾燥N,N-ジメチルホルムアミド(15mL)を用いて100mL用耐圧瓶に、内容物を投入した。耐圧瓶は-20℃に冷却しておき、無水トリメチルアミン(6mL)を加えた。耐圧瓶は室温に戻し、60℃で2日間マグネチックスタラーを用いて攪拌した。反応物は下に白色沈殿が生成するが、水に可溶であった。よって、水50mLを用いて沈殿を溶かし、ろ紙で濾過後、透析チュ−ブ(分子量カット:3500)に入れ、外液を精製水(5L)として、毎日外液を交換しながら5日間透析して精製した。透析後、内容液を回収し、ろ紙で濾過し、少量(約30mL)までエバポレタ−で濃縮した後、凍結乾燥することにより、吸湿性の微黄色の粉末としてホスホリルコリン化PAMAMデンドリマー(約2.24g)を取得した。
【0161】
当該粉末の同定は、IR(KBr法)(JASCO FT/IR-4200:日本分光(株)製)、1H-NMR(JEOL JNM-EX400 FTNMR SYSTEM)、及び元素分析(N含量)より行った。1H-NMRスペクトル(D2O)におけるデンドリマ−に由来する2.45ppm(-NHCOCH2-)、2.67ppm(-NCH2-)、及び2.85ppm(-NCH2CH2CO-)とホスホリルコリン部に由来する3.20ppm(N+(CH3)3)の積分値の比較より、PAMAM-OHデンドリマー(第3世代)の表面の水酸基の58%がホスホリルコリン基で修飾されていることがわかり、元素分析値もこれを支持した。
IR(KBr法)cm-1:3400(-N+)、1650(CONH)、1230、1089and1060(PO-O-)
1H-HMR(D2O)ppm:2.45(120H)、2.67(60H)、2.85(120H)、3.20(167H)、3.32(56H)、3.42(54H)、3.66(37H)、3.92(37H)。
元素分析値(N含量):実測値(13.39%)、理論値(13.75%)
【0162】
実施例3 ホスホリルコリン化PAMAMデンドリマー(第2世代)の製造
末端に水酸基を有するPAMAMデンドリマー(PAMAM-OHデンドリマー)(第2世代)の末端が、一般式(I)において、R1がエチレン基であり、R2〜R4がメチル基である基(即ち、ホスホリルコリン基)で置換されているホスホリルコリン化PAMAMデンドリマーを、以下の手順で製造した。
【0163】
まず、温度計を装着した100mL用三つ口フラスコの中で、PAMAM-OHデンドリマー(第2世代;分子量3272.;Aldrich(No.477834);一般式(III)で示される構造においてmが2である中心構造;一般式(II)で示される構造においてn1及びn2が2である繰り返し分岐構造;末端に水酸基が結合)(7.2g:2.2mmole、表面OHは35.2mmole)及びトリエチルアミン(2.8g:27.7mmole)を乾燥N,N-ジメチルホルムアミド(40mL)に溶解させた。開封口はセプタムで栓をし、三つ口フラスコを-20℃に冷却した。2-クロロ-2-オキソ-1,3,2−ジオキサホスホラン(4.02g:28.2mmole)を乾燥N,N-ジメチルホルムアミド(10mL)に溶解させ、この溶液を攪拌下、シリンジを用いてセプタムを通じて滴下した。なお、滴下時を含め、容器は約-20℃に保ち、攪拌下3〜4時間反応させた。
【0164】
反応後、減圧下で簡単にエバポレーションし、更に乾燥N,N-ジメチルホルムアミド(30mL)を用いて100mL用耐圧瓶に、内容物を投入した。耐圧瓶は-20℃に冷却しておき、これに無水トリメチルアミン(8mL)を加えた。耐圧瓶は室温に戻し、60℃で2日間マグネチックスターラーを用いて攪拌した。反応物は下に白色沈殿が生成するが、水に可溶であった。よって、水50mLを用いて沈殿を溶かし、ろ紙で濾過後、透析チュ−ブ(分子量カット:2000)に入れ、外液を精製水(5L)として、毎日外液を交換しながら5日間透析して精製した。透析後、内容液を回収し、ろ紙で濾過し、少量(約30mL)までエバポレーターで濃縮した後、凍結乾燥することにより、吸湿性の微黄色の粉末としてホスホリルコリン化PAMAMデンドリマー(約5.6g)を取得した。
【0165】
当該粉末の同定は、IR(KBr法)(JASCO FT/IR-4200:日本分光(株)製)による3400(-N+)、1645(CONH)、1233、1089及び1060cm-1(PO-O-)
の吸収、及び1H-NMR(JEOL JNM-EX400 FTNMR SYSTEM)におけるデンドリマ−に由来する2.41ppm(-NHCOCH2-)、2.66ppm(-NCH2-)、及び2.85ppm(-NCH2CH2CO-)とホスホリルコリン部に由来する3.22ppm(N+(CH3)3)の吸収より行い、その積分値の比較より、PAMAM-OHデンドリマー(第2世代)の表面の水酸基の40%がホスホリルコリン基で修飾されていることを認めた。
【0166】
実施例4 ホスホリルコリン化PAMAMデンドリマーの再修飾
実施例3で得られたホスホリルコリン化PAMAMデンドリマー(約3.6g:修飾率40%)及びトリエチルアミン(3.6g:36.6mmole)を乾燥N,N-ジメチルホルムアミド(40mL)に溶解させ、温度計を装着した100mL用三つ口フラスコの中へ投入した。開封口はセプタムで栓をし、三つ口フラスコを-20℃に冷却した。2-クロロ-2-オキソ-1,3,2−ジオキサホスホラン(5.03g:35.3mmole)を乾燥N,N-ジメチルホルムアミド(10mL)に溶解させ、この溶液を攪拌下、シリンジを用いてセプタムを通じて滴下した。なお、滴下時を含め、容器は約-20℃に保ち、攪拌下3〜4時間反応させた。
【0167】
反応後、減圧下で簡単にエバポレーションし、更に乾燥N,N-ジメチルホルムアミド(30mL)を用いて100mL用耐圧瓶に、内容物を投入した。耐圧瓶は-20℃に冷却しておき、これに無水トリメチルアミン(10mL)を加えた。耐圧瓶は室温に戻し、60℃で2日間マグネチックスターラーを用いて攪拌した。反応物は下に白色沈殿が生成するが、水に可溶であった。よって、水50mLを用いて沈殿を溶かし、ろ紙で濾過後、透析チュ−ブ(分子量カット:2000)に入れ、外液を精製水(5L)として、毎日外液を交換しながら5日間透析して精製した。透析後、内容液を回収し、ろ紙で濾過し、少量(約30mL)までエバポレーターで濃縮した後、凍結乾燥することにより、吸湿性の微黄色の粉末としてホスホリルコリン化PAMAMデンドリマー(約2.5g)を取得した。
【0168】
当該粉末の同定は、IR(KBr法)(JASCO FT/IR-4200:日本分光(株)製)による3400(-N+)、1645(CONH)、1233、1089及び1060cm-1(PO-O-)
の吸収、及び1H-NMR(JEOL JNM-EX400 FTNMR SYSTEM)におけるデンドリマ−に由来する2.41ppm(-NHCOCH2-)、2.66ppm(-NCH2-)、及び2.85ppm(-NCH2CH2CO-)とホスホリルコリン部に由来する3.22ppm(N+(CH3)3)の吸収より行い、その積分値の比較より、PAMAM-OHデンドリマー(第2世代)の表面の水酸基の76%がホスホリルコリン基で修飾されたことがわかり、表面修飾率が向上したことを確認した。また元素分析値(N含量)もこれを支持した。 元素分析値(N含量):実測値(12.93%)、理論値(12.43%)
【0169】
試験例1 緩衝作用の評価
以下の試験を実施して、本発明化合物の緩衝作用を評価した。
【0170】
実施例3のホスホリルコリン化PAMAMデンドリマー(第2世代:ホスホリルコリン基の修飾率40%)、実施例4のホスホリルコリン化PAMAMデンドリマー(第2世代:ホスホリルコリン基の修飾率76%)、実施例2のホスホリルコリン化PAMAMデンドリマー(第3世代:ホスホリルコリン基の修飾率58%)、PAMAM-OHデンドリマー(第2世代、Aldrich(No.477834))、又はメタクリル酸ブチルと2-(methacryloyloxy)ethyl 2-(trimethylammonium)ethyl phosphateを1:4で共重合させたポリマ−(商品名「Lipidure-PMB」、日本油脂株式会社製)を、それぞれ1重量%となるように精製水に溶解させた被験液(10mL)を作製した。
【0171】
この被験液に0.01N-NaOH(100μLずつ)又は0.01N-HCl(100μLずつ)を滴下することによるpH変化を観察した。また、コントロールとして、被験液の代わりに精製水を用いて、同条件下で同様にpH変化を観察した。
【0172】
結果を表1に示す。PAMAM-OHデンドリマー(第2世代)は分子内に三級アミン部があるために、単独ではアルカリ性を示し、僅かな酸性領域で緩衝効果を示した。また、Lipidure-PMB(ラジカル共重合体)には、有効な緩衝能力は認められなかった。これに対して、実施例2、3及び4のホスホリルコリン化PAMAMデンドリマーは、単独では若干アルカリ性を示すが、ホスホリルコリン部によって強い緩衝効果を示した。また、実施例3と実施例4では、緩衝能力に殆ど差は認められなかったことから、ホスホリルコリン基による修飾率が少なくとも40%あれば、十分な緩衝効果が奏されることが確認された。
【0173】
【表1】

【0174】
試験例2 抗血栓作用の評価
以下の試験を実施して、本発明化合物の抗血栓作用を評価した。
【0175】
エッペンドルフチュ−ブ(商品名:マイクロテストチュ−ブ2mL用(TOP製))に、(1)生理食塩水(0.1mL)、(2)EDTA(50mg)を溶かした水溶液(0.1mL)、(3)実施例4のホスホリルコリン化PAMAMデンドリマー(第2世代:ホスホリルコリン基の修飾率76%)(40mg)を溶かした生理食塩水(0.1mL)、(4)実施例2のホスホリルコリン化PAMAMデンドリマー(第3世代:ホスホリルコリン基の修飾率58%)を溶かした生理食塩水(0.1mL)を作製し、それぞれをウサギ血液(1mL)と混合し、その様子を観察した。(1)の生理食塩水ではすぐに血液が凝固し、しだいに固形成分が沈殿して無色透明な上清が現れた。一方、ポジティブコントロールとして実施した(2)の水溶液、並びに(3)及び(4)の本発明化合物を含む生理食塩水では、8時間の室温放置においても血液が凝固することはなく、性状変化も認められなかった。更に、(2)〜(4)の溶液では、24時間後は固形成分が沈殿していたが、上清は無色透明であり、溶血はなかった。
【0176】
以上の結果から、本発明化合物は、血栓の形成を妨げる作用があることがわかった。更に、当該抗血栓作用は、血球を破壊するのではなく、血液適合性があることも明らかとなった。
【0177】
試験例3 コンタクトレンズの濡れ性の評価
以下の試験を実施して、本発明化合物がコンタクトレンズの濡れ性に与える影響を評価した。
【0178】
塩化ナトリウム(0.75g)、塩化カリウム(0.10g)、リン酸水素ナトリウム(0.20g)、及びリン酸2水素ナトリウム(0.015g)を精製水に溶かして計100mLに調製して、希釈液を製造した。次いで、実施例3のホスホリルコリン化PAMAMデンドリマー(第2世代:ホスホリルコリン基の修飾率40%)を上記希釈液に0.25重量%となるように溶解させて試験液(実施例試験液3)を調製した。この試験液に、ソフトコンタクトレンズ(商品名「O2オプティクス」チバビジョン製)を15分間浸漬した後、生理食塩水(約5mL)で濯ぎ、更にソフトコンタクトレンズを生理食塩水(5mL)に浸漬して、1及び8時間後に、ソフトコンタクトレンズの生理食塩水に対する接触角を測定(n=3)した。測定には、Drop Master 500及びソフト FAMAS Ver.2.0.4(協和界面科学株式会社)を使用した。また、比較のために、上記試験液の代わりに、上記希釈液(比較例3)を用いて、上記と同様の試験を実施した。
【0179】
得られた結果を表2に示す。この結果から、本発明化合物は、コンタクトレンズに対する濡れ性を改善する作用を示すことが確認された。
【0180】
【表2】

【0181】
試験例4 被膜形成作用の評価
以下の試験を実施して、本発明化合物と被膜形成成分(カルボキシビニルポリマー)の被膜形成能に与える影響を評価した。
【0182】
カルボキシビニルポリマー水溶液(1重量%)を0.1mLスライドガラスに滴下した後、実施例4のホスホリルコリン化PAMAMデンドリマー(第2世代:ホスホリルコリン基の修飾率76%)の1重量%水溶液を0.1mL滴下し、6時間風乾させて、キャスト膜を作製した。
【0183】
この結果、実施例4のホスホリルコリン化PAMAMデンドリマーの溶液のみでは粘ちょう性があり、硬い膜は形成しなかった。一方、ホスホリルコリン化PAMAMデンドリマーとカルボキシビニルポリマーと混合することによって相互作用して、硬質の被膜(キャスト膜)が作製できた。
【0184】
また予め、カルボキシビニルポリマ−水溶液(1重量%)と、実施例4のホスホリルコリン化PAMAMデンドリマー1重量%水溶液を混合して滴下しても、硬質の被膜が作製できた。
【0185】
以上の結果から、本発明化合物は、皮膜形成能を有するアニオン性ポリマ−成分と静電的に相互作用し、硬質表面(例えば、生体適合性硬質表面)に皮膜を形成することにより表面修飾が可能であることが分かった。
【0186】
試験例5 皮膚に塗布した際の使用感の評価
以下の試験を実施して、本発明化合物を皮膚に塗布した際の使用感を評価した。
【0187】
実施例3のホスホリルコリン化PAMAMデンドリマー(第2世代:ホスホリルコリン基の修飾率40%)を1重量%となるように精製水に溶解して、試験液(実施例試験液5)を調製した。6人のパネラーにより、この試験液を皮膚に適量塗布した後、その使用感を以下の判定基準に従って評点化した。
<判定基準>
4点:使用感がとても良い
3点:使用感が良い
2点:使用感が普通又は悪くない
1点:使用感が悪い
なお、ここで「使用感」とは、保湿感、つっぱり感、つるつる感、柔らかさ、しっとり感、後残り感、及びべたつきについて、総合的に評価した結果である。
【0188】
また、比較のために、試験液として、2-(methacryloyloxy)ethyl 2-(trimethylammonium)ethyl phosphateをラジカル重合したホモポリマー(特許文献3に従い合成した)を1重量%となるように精製水に溶解した試験液(比較例5-1)、又はメタクリル酸ブチルと2-(methacryloyloxy)ethyl 2-(trimethylammonium)ethyl phosphateを1:4で共重合させたポリマ−(商品名「Lipidure-PMB」、日本油脂株式会社製)を1重量%となるように精製水に溶解した試験液(比較例5-2)を用いて、上記と同様に試験を実施した。
【0189】
結果を表3に示す。この結果から、本発明化合物を皮膚に適用した場合、良好な使用感が獲得されることが明らかとなった。
【0190】
【表3】

【0191】
試験例6 細胞毒性の評価
以下の試験を実施して、本発明化合物の細胞毒性を評価した。
【0192】
実施例3のホスホリルコリン化PAMAMデンドリマー(第2世代:ホスホリルコリン基の修飾率40%)を0、1、2.5、又は5重量%となるように培地に溶解させ、これに正常ウサギ角膜上皮細胞を1万個/cm2となるように接種し、37℃、5%CO2条件下で3日間培養した。ホスホリルコリン化PAMAMデンドリマー無添加の培地で培養した際の生細胞数を100%として、ホスホリルコリン化PAMAMデンドリマーの各濃度(1、2.5、又は5重量%)での相対的細胞数を算出した。
【0193】
この結果、ホスホリルコリン化PAMAMデンドリマーの添加濃度が1、2.5、又は5重量%の場合の、相対的細胞数は、それぞれ約110%、約115%、約90%であり、細胞毒性を示さなかった。以上の結果から、本発明化合物は、細胞毒性を示さず、高い安全性を備えていることが確認された。
【0194】
試験例7 タンパク質変性抑制作用の評価
以下の試験を実施して、タンパク質変性に対する本発明化合物の保護作用を評価した。なお、本試験では、タンパク質として、アルカリホスファタ−ゼ(EC3.1.3.1:和光生化学用、65unit/mg)を用いた。
<溶液調製>
まず、下記の溶液を調製した。
A液:10mMp-ニトロフェニルリン酸ニナトリウム水溶液
B液:500mMトリス-塩酸緩衝液(pH9.0)
C液:4M塩化ナトリウム水溶液
D液:0.5M水酸化ナトリウム水溶液(反応停止液)
E液:A液、B液、C液及び蒸留水を容量比2:2:10:5で混合した溶液
酵素液:アルカリホスファタ−ゼを50mMトリス-塩酸緩衝液(pH9.0)で希釈して0.0012mg/mLとした溶液
サンプル液:実施例4のホスホリルコリン化PAMAMデンドリマー(第2世代:ホスホリルコリン基の修飾率76%)を50mMトリス-塩酸緩衝液(pH9.0)で希釈して0.0125重量%、0.0625重量%、又は0.125重量%となるように溶解した溶液
SDS液:ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)水溶液(濃度:50mg/mL)
<試験方法>
酵素液0.1mL、サンプル液0.8mL、及びSDS液0.1mLを混合し、35℃で6時間インキュベートした。次いで、インキュベート後の混合液に、E液2mLを添加混合し、35℃で20分間インキュベートした。その後、D液1mLを添加し、最終的に得られた溶液の420nmの吸光度を、分光光度計(shimadzu UV-1700、島津製作所株式会社製)を用いて測定した。また、コントロールとして、SDS溶液の代わりに50mMトリス-塩酸緩衝液(pH9.0)を使用すること以外は、上記と同様の操作を行って、吸光度を測定した。当該コントロールの吸光度の測定値を100%として、各サンプル液を使用した場合のタンパク質変性抑制率(%)を算出した。
【0195】
また、比較のために、サンプル液として、メタクリル酸ブチルと2-(methacryloyloxy)ethyl 2-(trimethylammonium)ethyl phosphateを1:4で共重合させたポリマ−(商品名「Lipidure-PMB」、日本油脂株式会社製)を50mMトリス-塩酸緩衝液(pH9.0)で希釈して0.0125重量%、0.0625重量%、又は0.125重量%となるように溶解した溶液、或いはを50mMトリス-塩酸緩衝液(pH9.0)単独を用いて、上記と同様に試験を行い、タンパク質変性抑制率(%)を求めた。
<試験結果>
結果を表4に示す。この結果から、SDSの存在下では、タンパク質が変性して不活化された。また、Lipidure-PMB(ラジカル共重合体)には、SDSの存在下で生じるタンパク質の変性を抑制する作用が認められた。一方、実施例4のホスホリルコリン化PAMAMデンドリマーには、Lipidure-PMBを遙かに凌ぐ、優れたタンパク質変性抑制効果が認められた。
【0196】
以上の結果から、本発明化合物は、タンパク質変性抑制効果が優れており、タンパク質の変性抑制剤の有効成分としても有用であることが明らかとなった。
【0197】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
デンドロン又はデンドリマーの末端の少なくとも1つに、下記一般式(I)で示される基が結合していることを特徴とする、化合物。
【化1】

[式(I)中、R1はカルボキシ基で置換されていてもよいアルキレン基を示し;
R2〜R4は、同一又は異なって、水酸基で置換されていてもよいアルキル基又は水素原子を示す。]
【請求項2】
前記デンドロン又はデンドリマーが末端に水酸基を有するものであり、該水酸基の少なくとも1つが一般式(I)で示される基で置換されている、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記デンドロン又はデンドリマーが、末端のアミノ基が水酸基に置換されているポリアミドアミンデンドロン又はデンドリマーである、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
一般式(I)で示される基が、ホスホリルコリン基、ホスホリルエタノールアミン基及びホスホリルセリン基よりなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1乃至3のいずれかに記載の化合物。
【請求項5】
数平均分子量が1000〜50000である、請求項1乃至4のいずれかに記載の化合物。
【請求項6】
前記デンドロン又はデンドリマーが第0世代〜第7世代である、請求項1乃至5のいずれかに記載の化合物。
【請求項7】
下記工程(1-1)及び(1-2)を含有する、修飾デンドロン又は修飾デンドリマーの製造方法:
反応工程(1-1):末端に水酸基を有するデンドロン又はデンドリマーと、下記一般式(a)で示される化合物とを反応させることにより、
【化2】

[式(a)中、R1’は、保護基で保護されたカルボキシ基で置換されていてもよいアルキレン基を示し;Xはハロゲン原子を示す。]
下記一般式(b)で示される化合物を合成する工程
【化3】

[式(b)中、R1’は前記と同じであり、
dendron or dendrimer -O−は、末端に水酸基が結合しているデンドロン又はデンドリマーから、末端水酸基の水素原子を脱離させた残基を示す。]
反応工程(1-2):前記工程(1-1)で得られた一般式(b)の化合物と、下記一般式(c)で示される化合物とを反応させ、更に、R1’が保護基で保護されたカルボキシ基で置換されているアルキレン基である場合には当該保護基を脱離させることにより、
【化4】

[式(c)中、R2〜R4は、同一又は異なって、水酸基で置換されていてもよいアルキル基又は水素原子を示す。]
デンドロン又はデンドリマーの末端の少なくとも1つに、下記一般式(I)で示される基が結合している化合物を合成する工程。
【化5】

[式(I)中、R1はカルボキシ基で置換されていてもよいアルキレン基を示し;
R2〜R4は前記と同じである。]
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれかに記載の化合物を有効成分とする、緩衝剤。
【請求項9】
請求項1乃至6のいずれかに記載の化合物を有効成分とする、抗血栓剤。
【請求項10】
請求項1乃至6のいずれかに記載の化合物を有効成分とする、保湿剤。
【請求項11】
請求項1乃至6のいずれかに記載の化合物を有効成分とする、タンパク質変性抑制剤。
【請求項12】
請求項1乃至6のいずれかに記載の化合物を含有する、化粧料組成物。
【請求項13】
請求項1乃至6のいずれかに記載の化合物を含有する、医薬組成物。
【請求項14】
経皮又は経粘膜用医薬組成物である、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
請求項1乃至6のいずれかに記載の化合物を含有する、コンタクトレンズ用組成物。

【公開番号】特開2008−274169(P2008−274169A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−121634(P2007−121634)
【出願日】平成19年5月2日(2007.5.2)
【出願人】(000115991)ロート製薬株式会社 (366)
【Fターム(参考)】