説明

リン酸エステル化ビニル系重合体からなる分散剤

【課題】 特に顔料に対して高い分散力を有し、分散安定性に優れた分散液を調製でき、かつ低廉な分散剤を提供する。
【解決手段】 少なくとも不飽和アルコール単位と脂肪酸ビニル単位及び/又はハロゲンビニル単位とを含む不飽和アルコール系共重合体、並びに部分アセタール化不飽和アルコール系重合体からなる群から選ばれた少なくとも一種の水酸基含有ビニル系(共)重合体と、リン酸源化合物と、水とを反応させてなるリン酸エステル化ビニル系重合体からなる分散剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸エステル化ビニル系重合体からなる分散剤に関し、特に顔料用の分散剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来顔料分散剤として各種リン酸エステルを始めとする界面活性剤やポリビニルアルコール(PVA)等が提案されているが、特に顔料分散液を塗料、インク等の用途に用いる場合、被塗物に対する結着力に優れており、かつ安価なPVAが好ましい。しかしPVAは耐水性が低いため、これを用いた分散液を乾燥して得られる皮膜の耐水性が低い。皮膜の耐水性を向上するために、PVAとともに尿素樹脂や各種架橋剤を使用することも検討されているが、粘度上昇などにより使用時の作業性が低下するという問題がある。
【0003】
そこで特開平5-65307号(特許文献1)はアミド基を0.1〜20モル%含有する変性ポリビニルアルコールからなる分散剤を提案している。また特開平6-80709号(特許文献2)は炭素数4以下のα-オレフィン単位を1〜10モル%含有する変性ポリビニルアルコールからなる分散剤を提案している。これらの分散剤は、顔料等に対して高い分散力を示し、比較的低粘度で高濃度の分散液を調製できるが、分散液の安定性、皮膜の耐水性等の点でさらに改善が望まれる。
【0004】
【特許文献1】特開平5-65307号
【特許文献2】特開平6-80709号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、特に顔料に対して高い分散力を有し、分散安定性に優れた分散液を調製でき、かつ低廉な分散剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者は、脂肪酸ビニル単位及び/又はハロゲンビニル単位を含む不飽和アルコール系共重合体、あるいは部分アセタール化不飽和アルコール系重合体をリン酸エステル化することにより、顔料に対して高い分散力を有し、分散安定性に優れた分散液を調製でき、かつ低廉な分散剤が得られることを見出し、本発明に想到した。
【0007】
すなわち、本発明の分散剤は、少なくとも不飽和アルコール単位と脂肪酸ビニル単位及び/又はハロゲンビニル単位とを含む不飽和アルコール系共重合体、並びに部分アセタール化不飽和アルコール系重合体からなる群から選ばれた少なくとも一種の水酸基含有ビニル系(共)重合体と、リン酸源化合物と、水とを反応させてなるリン酸エステル化ビニル系重合体からなることを特徴とする。
【0008】
前記リン酸源化合物は無水リン酸であるのが好ましい。前記不飽和アルコール系共重合体の前記不飽和アルコール単位はビニルアルコール単位であるのが好ましい。前記脂肪酸ビニル単位は酢酸ビニル単位であるのが好ましい。前記ハロゲンビニル単位は塩化ビニル単位であるのが好ましい。前記部分アセタール化不飽和アルコール系重合体は部分ブチラール化ポリビニルアルコールであるのが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の分散剤は、特に顔料に対して高い分散力を有し、分散安定性に優れた分散液を調製でき、かつ低廉である。本発明の分散剤を用いた顔料分散液は、インク、塗料等の用途に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の分散剤は、少なくとも不飽和アルコール単位とハロゲンビニル単位及び/又は脂肪酸ビニル単位とを含む不飽和アルコール系共重合体、並びに部分アセタール化不飽和アルコール系重合体からなる群から選ばれた少なくとも一種の水酸基含有ビニル系(共)重合体と、リン酸源化合物と、水とを反応させてなるリン酸エステル化ビニル系重合体からなる。まず原料である水酸基含有ビニル系(共)重合体について説明し、次いでリン酸エステル化方法、リン酸エステル化ビニル系重合体、並びに分散剤としての使用方法について説明する。
【0011】
[1] 水酸基含有ビニル系(共)重合体
(1) 不飽和アルコール系共重合体
不飽和アルコール系共重合体は少なくとも不飽和アルコール単位とハロゲンビニル単位及び/又は脂肪酸ビニル単位とを含む。不飽和アルコール単位としては、ビニルアルコール単位、アリルアルコール単位等が挙げられるが、製造コストの観点からビニルアルコール単位が好ましい。なおビニルアルコールは、単量体としては存在しないが、水酸基含有ビニル系(共)重合体の構成単位としては存在する。ビニルアルコール単位を得るには、酢酸ビニル単位を含む水酸基含有ビニル系(共)重合体を調製し、鹸化すればよい。
【0012】
ビニルアルコール単位を有する不飽和アルコール系共重合体は、下記一般式(1):
【化1】

(但しX1は繰り返し単位毎に異なってもよいハロゲン原子又は−OCOR1基であり、R1はアルキル基であり、n及びmは各々重合度である。)により表すことができる。
【0013】
脂肪酸ビニル単位としては酢酸ビニル単位、プロピン酸ビニル単位、酪酸ビニル単位等が挙げられるが、酢酸ビニル単位が好ましい。ハロゲンビニル単位としては塩化ビニル単位、フッ化ビニル単位、臭化ビニル単位等が挙げられるが、塩化ビニル単位が好ましい。不飽和アルコール単位、脂肪酸ビニル単位及びハロゲンビニル単位は各々二種以上を含んでもよい。
【0014】
不飽和アルコール系共重合体中の不飽和アルコール単位の割合は特に制限されないが、不飽和アルコール系共重合体を構成するビニル系単量体単位の合計を100モル%として、5〜60モル%であるのが好ましい。この割合が5モル%未満だと、リン酸エステル化に必要な水酸基量が少ない。
【0015】
ハロゲンビニル単位の割合は特に制限されないが、不飽和アルコール系共重合体を構成するビニル系単量体単位の合計を100モル%として20〜95モル%が好ましい。この割合が20モル%未満だと、耐水性が低い。
【0016】
脂肪酸ビニル単位の割合は特に制限されないが、不飽和アルコール系共重合体を構成するビニル系単量体単位の合計を100モル%として、0.5〜95モル%が好ましい。不飽和アルコール系共重合体は脂肪酸ビニル単位のアルキル基により耐水性に優れている。
【0017】
不飽和アルコール系共重合体は、少なくとも不飽和アルコール、ハロゲンビニル及び/又は脂肪酸ビニルを、公知の方法で共重合することにより調製することができる。但し脂肪酸ビニル単位を含む不飽和アルコール系共重合体を調製する場合、脂肪酸ビニル又はこれを含む単量体組成物の重合体を調製し、部分的に鹸化することにより調製するのが好ましい。またビニルアルコール単位を含む不飽和アルコール系共重合体を調製する場合、酢酸ビニル又はこれを含む単量体組成物の重合体を調製し、部分的に鹸化することにより調製するのが好ましい。不飽和アルコール系共重合体の平均重合度に特に制限はないが、100〜3,000が好ましい。
【0018】
不飽和アルコール系共重合体として市販品を使用してもよく、酢酸ビニル単位を有するポリビニルアルコールとして、例えばクラレLMポリマー及びポバール(登録商標、株式会社クラレ製)、ゴーセノール(登録商標、日本合成化学工業株式会社製)等が挙げられる。酢酸ビニル単位を有するポリビニルアルコールの鹸化度は、5〜60が好ましい。また酢酸ビニル単位、塩化ビニル単位及びビニルアルコール単位を有する不飽和アルコール系共重合体として、例えばSOLBIN A、同AL、同TA5R、同TAO(以上登録商標、日信化学工業株式会社製)等が挙げられる。
【0019】
(2) 部分アセタール化不飽和アルコール系重合体
部分アセタール化不飽和アルコール系重合体は、不飽和アルコール単位を主成分とする不飽和アルコール系重合体とアルデヒドを所定の割合で反応させ、部分的にアセタール化したものである。従って部分アセタール化不飽和アルコール系重合体は水酸基を有する。部分アセタール化する不飽和アルコール系重合体としてはポリビニルアルコールが好ましい。
【0020】
ポリビニルアルコールを部分アセタール化した不飽和アルコール系重合体は下記一般式(2):
【化2】

(但しR2はアルキル基であり、r及びsは各々重合度である。)により表すことができる。但し部分アセタール化不飽和アルコール系重合体は、ハロゲンビニル単位及び/又は脂肪酸ビニル単位を含んでもよい。ハロゲンビニル単位及び脂肪酸ビニル単位の各含有量は上記と同じでよい。
【0021】
部分アセタール化不飽和アルコール系重合体はアセタール基を有することにより、強靭性、可撓性、接着性等に優れている。さらにアセタール基のアルキル基により耐水性に優れている。しかも部分アセタール化不飽和アルコール系重合体はアセタール基により架橋性を有するので、加熱等により一層耐水性が向上する。アセタール化に使用するアルデヒドに特に制限はないが、ブチルアルデヒドが好ましい。すなわち部分アセタール化不飽和アルコール系重合体としては部分ブチラール化ポリビニルアルコールが好ましい。
【0022】
部分アセタール化不飽和アルコール系重合体としては、市販品を使用してもよく、例えばエスレックB及び同K(登録商標、積水化学工業株式会社製)が挙げられる。
【0023】
部分アセタール化不飽和アルコール系重合体のアセタール化度は10〜80モル%(アセタール化前の水酸基量を100モル%として、20〜90モル%の水酸基が残留した状態)が好ましい。部分アセタール化不飽和アルコール系重合体の平均重合度に特に制限はないが、100〜3,000が好ましい。
【0024】
(3) その他の不飽和単量体単位
水酸基含有ビニル系(共)重合体は、その他の不飽和単量体単位を含んでもよい。他の不飽和単量体は、(i) 分子内に1個以上のエチレン性不飽和結合と酸性基とを有する不飽和単量体、及び(ii) 分子内に1個以上のエチレン性不飽和結合を有するが酸性基を有しない不飽和単量体に大別される。酸性基を有する不飽和単量体は、リン酸基、スルホン酸基、カルボン酸基及びアルコール性水酸基からなる群から選ばれた少なくとも一種の酸性基を有するのが好ましい。酸性基を有しない不飽和単量体としては(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリル酸アミド類、アルキルアミノ基含有不飽和単量体、置換又は無置換のスチレン類、ビニル類、オレフィン類(例えばエチレン等)、ジエン類等が挙げられる。
【0025】
[2] リン酸エステル化ビニル系重合体の製造方法
リン酸エステル化ビニル系重合体は、上記水酸基含有ビニル系(共)重合体と、リン酸源化合物と、水とを反応させることにより調製することができる。リン酸源化合物としては無水リン酸(P2O5)が好ましい。水酸基含有ビニル系(共)重合体の水酸基1当量に対するP2O5の配合割合は、所望のリン酸エステル化度に応じて適宜設定すればよいが、全ての水酸基をリン酸エステル化するには水酸基1当量に対し0.5モル以上とするのが好ましい。この配合割合の上限は1モル以下とするのが好ましい。水の配合割合は、1モルのP2O5に対して1〜2モルとするのが好ましく、1.3〜1.8モルとするのがより好ましい。水の配合割合が1モルのP2O5に対して1モル未満だと、ゲル化物が生じやすい。
【0026】
反応手順について述べる。まず攪拌器、還流冷却器付き反応器に[水酸基含有ビニル系(共)重合体+溶媒]からなる溶液を投入し、30〜70℃に昇温する。所定温度到達後に無水リン酸及び水を添加する。無水リン酸及び水は1〜7時間の間に2〜10回にわたり分割添加するのが好ましい。これによりリン酸エステル化反応が促進される。但し分割添加することに限定する趣旨ではなく、必要に応じて少量ずつ連続的に添加してもよい。その後も30〜70℃に保温し、1〜5時間反応を継続する。得られた反応溶液を室温まで冷却する。冷却により副生した無機ポリリン酸等が析出した場合は、自然濾過又は吸引濾過により析出した固体を濾別する。
【0027】
溶媒としては水酸基を有しない有機溶媒が好ましい。そのような有機溶媒として、下記式(3):
【化3】

(但しR3は水素又はメチル基であり、R4及びR5はそれぞれ独立にアルキル基を表す。)により表されるN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)等のアミド系溶媒、及びテトラヒドロフラン(THF)等が好ましい。これらの溶媒は、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0028】
中でも溶媒としてはN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド、DMF、及びTHFからなる群から選ばれた少なくとも一種が好ましい。特に塩化ビニル単位を含む不飽和アルコール系共重合体及び部分アセタール化不飽和アルコール系重合体に対してはTHFを使用するのが好ましい。N,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミドのR4及びR5が表すアルキル基の炭素数は2以下であるのが好ましい。中でもN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミドとしてはN,N-ジメチルアクリルアミド(DMAA)及びN,N-ジメチルメタクリルアミドがより好ましい。N,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミドはエチレン性不飽和基を有し、リン酸エステル化反応後、重合開始剤を添加してラジカル重合させることにより、リン酸エステル化ビニル系重合体との混合樹脂組成物とすることができる。そのためN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミドを単独で溶媒に用いた場合、リン酸エステル化反応後に溶媒を除去する必要がない。
【0029】
反応を促進し、かつ副生成物の生成を抑制するため、反応溶液は無水リン酸添加前の初期濃度(水酸基含有ビニル系(共)重合体原料の濃度)が20〜50質量%であるのが好ましく、25〜40質量%であるのがより好ましい。原料高分子と無水リン酸の反応により粘度が上昇するが、必要に応じて溶剤を添加することにより粘度を下げればよい。
【0030】
未反応の無水リン酸や副生した無機ポリリン酸等を除去するために、反応後の溶液を金網等を用いて濾過する。濾過後の溶液は攪拌水中に入れて樹脂を析出させる。樹脂の析出が不能な場合は、濾過後の溶液をセルロースチューブ等に入れて純水で透析するのが好ましい。析出樹脂を乾燥するか、透析後の反応溶液から溶媒を留去することにより、リン酸エステル化ビニル系重合体を単離する。
【0031】
[3] リン酸エステル化ビニル系重合体
かくして得られるリン酸エステル化ビニル系重合体は、例えば上記式(1)により表される不飽和アルコール系共重合体を原料とし、その水酸基を全てリン酸エステル化した場合、下記一般式(4):
【化4】

(但しX1は繰り返し単位毎に異なってもよいハロゲン原子又は−OCOR1基であり、R1はアルキル基であり、n及びmは各々重合度である。)により表すことができる。
【0032】
またリン酸エステル化ビニル系重合体は、上記式(2)により表される部分アセタール化不飽和アルコール系重合体を原料とし、その水酸基を全てリン酸エステル化した場合、下記一般式(5):
【化5】

(但しR2はアルキル基であり、r及びsは各々重合度である。)により表すことができる。
【0033】
リン酸エステル化ビニル系重合体は錯塩を形成していてもよい。錯塩としてはアンモニウム塩、アミン塩又は金属塩が好ましい。アンモニウム塩又はアミン塩を形成する場合、電荷を中和させるため、例えば第1級、第2級、第3級又は第4級のアルキル基、アリル基、アラルキル基等を含有するアンモニウムイオンやモノ、ジ又はトリアルカノールアミン残基と錯塩を形成するのが好ましい。金属塩としては、カリウム塩等のアルカリ金属塩、及び酸化第1銅塩(赤茶色)、酸化第2銅塩(青色)、酸化第1/第2銅塩の等モル混合物(灰色)、酸化第2鉄塩(茶色)等の重金属塩が好ましい。これらの錯塩は単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0034】
[4] 分散剤
本発明の分散剤は上記リン酸エステル化ビニル系重合体からなる。本発明の分散剤は、対象とする被分散物質に特に制限がなく、例えば顔料分散剤;塩化ビニル等の懸濁重合用分散剤;酢酸ビニルを始めとするビニルエステル類の乳化重合用分散剤等として使用することができる。本発明の分散剤は、(i) ビニル基が鎖状に結合した炭化水素骨格、並びにハロゲンビニル単位、脂肪酸ビニル単位及びアセタール基のいずれかからなる親油部と、(ii) 極性を示すリン酸基とを有する。本発明の分散剤は、顔料分散剤として用いる場合、リン酸基が顔料に強く吸着し、上記親油部が分散媒により溶解されることにより、優れた分散安定性を示す。また上記親油部は炭化水素鎖及びアルキル基による疎水性を有するので、本発明の分散剤を含む顔料分散液から形成される皮膜は、優れた耐水性を示す。以下本発明の分散剤を顔料分散剤として用いる場合の顔料、使用量、分散媒、分散液調製方法等について詳細に説明する。
【0035】
(1) 顔料
本発明の顔料分散剤は有機顔料及び無機顔料のいずれにも使用できる。分散対象となる有機顔料としては例えばフタロシアニン系、ジアリライド系(ジアリリド系)、ナフトール系、アゾレーキ系、ベンズイミダゾロン系、縮合アゾ系、キナクリドン系、ジケトピロロピロール系、イソインドリノン系、ペリレン系、ジオキサン系、アンスラキノン系、キノフタロン系等が挙げられる。分散対象となる無機顔料としては、アルミニウム、鉛、亜鉛等の金属;鉄、コバルト、アルミニウム、カドミウム、鉛、銅、チタン、マグネシウム、クロム、亜鉛、アンチモン、マンガン等を含む金属酸化物;カーボンブラック、硫酸バリウム、シリカ、クロム酸亜鉛、クロム酸ストロンチウム、塩基性硫酸鉛、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸鉛等の無機化合物が挙げられる。
【0036】
(2) 使用量
顔料分散剤の顔料に対する配合割合は、固形分重量ベースの比率(分散剤/顔料)が0.1〜20の範囲であるのが好ましく、1〜10の範囲であるのがより好ましい。この比が0.1より小さいと分散安定性が不十分であり、粘度上昇や顔料の沈降が比較的早い。一方この比を20より大きくしても効果が飽和する。但し分散剤の最適な添加量は、使用する顔料及び分散媒の組み合わせにより変動する。
【0037】
(3) 分散媒
分散媒は顔料に応じて適宜選択すればよいが、例えばアルコール;多価アルコール;エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)等のグリコール誘導体;アミン;ケトン;エーテル;エステル;炭化水素系溶媒;その他の極性溶媒等が挙げられる。その他の極性溶媒としては、例えばN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド(例えばN,N-ジメチルアクリルアミド等)、ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)等のアミド系溶媒;テトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。これらの溶媒は単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。分散媒中の固形分濃度は0.5〜20質量%とするのが好ましい。
【0038】
(4) 他の添加物
顔料分散剤は、顔料分散液の用途に応じて他の添加物とともに使用できる。他の添加物として、例えば公知の界面活性剤;結合剤;pH調整剤、粘度調整剤、浸透材、表面張力調整剤、酸化防止剤、防腐剤、防かび剤等の添加剤等が挙げられる。
【0039】
(5) 顔料分散液調製方法
顔料分散液は、顔料分散剤、顔料及び分散媒を所定の配合割合で混合することにより調製できる。但し顔料は通常凝集体を形成しており、微粒子化するのは容易でない。そのため顔料及び分散媒からなる着色液、並びに顔料分散剤及び分散媒からなるポリマー溶液を予め調製し、得られた着色液及びポリマー溶液を混合することにより調製してもよい。顔料分散液の調製において各種分散機を使用してもよいし、必要に応じて加熱してもよい。
【0040】
(6) 顔料分散液の用途
本発明の顔料分散剤を用いた顔料分散液は、分散安定性及び皮膜の耐水性に優れているので、インキ、塗料等の用途に好適である。
【0041】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【実施例】
【0042】
実施例1
(i) 分散剤の調製
還流冷却管、粉末投入口及び温度計を接続した自動合成反応装置(内容積1L、ユニケミカル(株)製)に、360 gのTHFを入れ、170 gの酢酸ビニル単位含有ポリビニルアルコール(商品名「クラレLMポリマーLM-20」、鹸化率:38〜42モル%、水酸基当量:約173、株式会社クラレ製)を加え、溶解した。攪拌回転数を2,120 rpmに保持し、反応温度を30〜58℃の範囲に保持しながら、18 g(1モル)の水及び71 gのP2O5(0.5モル)を、各々ほぼ6分の1ずつ6回に分けて、ほぼ等間隔で3時間かけて投入した。水及びP2O5を全て投入後、30℃の温度条件及び2,120 rpmの攪拌条件で1時間熟成反応を行った。
【0043】
得られたリン酸エステル化ビニル系重合体(以下特段の断りがない限り「ポリマーA」と呼ぶ)を含む溶液(反応生成液)を金網(100メッシュ)で濾過して、微量のゲル化物等の不純物を除去した。濾過後の反応生成液から2gを抜き出し、活栓瓶に入れ、さらに18gの5質量%モノエタノールアミンTHF溶液を入れて混合し、密封した。このサンプル入り活栓ビンを超音波振動器にかけてモノエタノールアミン塩を形成した。
【0044】
モノエタノールアミン塩を含む分散液を120℃で1時間加熱乾燥後、上記反応生成液における固形分を計算すると50.4質量%であった。得られたモノエタノールアミン塩について、そのリン酸基1当量に対してモノエタノールアミンが2モル結合したとし、P2O5が原料ビニル系重合体の水酸基の全てに結合したと仮定し、更に理論結合モノエタノールアミン重量を差し引いて理論計算すると、リン酸エステル化ビニル系重合体の反応生成液における固形分は44質量%となった。理論濃度(40質量%)を越える理由は、金網を用いて濾過した時に溶媒(THF)が揮発により失われたためである。上記固形分濃度に基づいて、反応生成液を水30 vol%/メタノール70 vol%混合溶液に溶解し、樹脂酸価を測定したところ356 mg/gであった(1NのKOH水溶液を使用。以下同じ。)。なおリン酸エステル化前のクラレLMポリマーLM-20の酸価は0mg/gであった。
【0045】
(ii) 青色顔料分散液の調製
4.5 gの上記ポリマーAのTHF溶液(濃度:40質量%)と、95.4 gのブチルセロソルブとを混合し、ポリマー溶液を調製した(ポリマー固形分:2質量%)。銅フタロシアニン(β)粉末[商品名「MICROLITH Blue 4G-A」(チバ・スペシャリティーケミカルズ社製)用の源粉末(「MICROLITH」用の顔料粉末〈以下同じ〉。「MICROLITH」は顔料粉末をエチルセルロースキャリヤーに分散させた加工顔料である。)]を、ブチルセロソルブに添加した混合物を調製した(固形分:2質量%)。得られたポリマーAの溶液及び顔料/ブチルセロソルブ混合物を、等質量比で混合し、撹拌して顔料を均一分散させることにより青色顔料分散液を調製した。
【0046】
実施例2
上記青色顔料の代わりに、ナフトール系顔料粉末[商品名「MICROLITH Red 3R-A」(チバ・スペシャリティーケミカルズ社製)用の源粉末]を用いた以外実施例1と同様にして、赤色顔料分散液を調製した。
【0047】
実施例3
上記青色顔料の代わりに、ジアリライド系顔料粉末[商品名「MICROLITH Yellow 2R-A」(チバ・スペシャリティーケミカルズ社製)用の源粉末]を用いた以外実施例1と同様にして、黄色顔料分散液を調製した。
【0048】
実施例4
(i) 分散剤の調製
175 gの部分ブチラール化ポリビニルアルコール(商品名「エスレックB BL-1」、水酸基約36モル%、アセチル基3モル%以下、ブチラール化度63±3モル%、積水化学工業株式会社製、以下特段の断りがない限り「BL-1」と呼ぶ)を350 gのTHFに溶解し、26 gの水(1.44モル)及び127 gのP2O5(0.89モル)を添加した以外実施例1と同様にして、リン酸エステル化した。得られた反応液に更に200 gのTHFを追加し、30分間攪拌した。
【0049】
得られた反応生成液を多量の攪拌水に少量ずつ入れ、固体樹脂を析出させた。多量の水によりTHF、副生した正リン酸、ピロリン酸等の水可溶物を透析除去した。水洗後の析出樹脂を常温乾燥した後、粉砕して更に真空乾燥した。得られた粉末樹脂(以下特段の断りがない限り「ポリマーB」と呼ぶ)を水10 vol%/THF90 vol%混合液に溶解し、酸価を測定したところ104 mg/gであった。なおリン酸エステル化前のエスレックB BL-1の酸価は0mg/gであった。
【0050】
(ii) 青色顔料分散液の調製
10質量部の上記乾燥ポリマーBのTHF溶液(濃度:20質量%)と、90質量部のブチルセロソルブとを混合し、ポリマー溶液(固形分:2質量%)を調製した。実施例1と同様にしてMICROLITH Blue 4G-A用の源粉末/ブチルセロソルブ混合物(固形分:2質量%)を調製した。得られたポリマーBの溶液及び顔料/ブチルセロソルブ混合物を等質量比で混合し、撹拌して顔料を均一分散させることにより青色顔料分散液を調製した。
【0051】
実施例5
上記青色顔料の代わりに、MICROLITH Red 3R-A用の源粉末を用いた以外実施例4と同様にして、赤色顔料分散液を調製した。
【0052】
実施例6
上記青色顔料の代わりに、MICROLITH Yellow 2R-A用の源粉末を用いた以外実施例4と同様にして、黄色顔料分散液を調製した。
【0053】
実施例7
(i) 分散剤の調製
150 gの塩化ビニル単位含有ポリビニルアルコール(商品名「SOLBIN TA5R」、塩化ビニル単位87質量%−酢酸ビニル単位1質量%−ビニルアルコール単位12質量%、水酸基当量:367、日信化学工業株式会社製)を305 gのTHFに溶解し、10.8 gの水(0.6モル)及び58 gのP2O5(0.41モル)を添加した以外実施例1と同様にして、リン酸エステル化した。得られた反応液に更に400 gのTHFを追加した。得られた反応生成液を多量の攪拌水に少量ずつ入れ、固体樹脂を析出させた。多量の水によりTHF、副生した正リン酸、ピロリン酸等の水可溶物を透析除去した。水洗後の析出樹脂を常温乾燥した後、粉砕して更に真空乾燥した。得られた粉末樹脂(以下特段の断りがない限り「ポリマーC」と呼ぶ)を水10 vol%/THF90 vol%混合液に溶解し、酸価を測定したところ60 mg/gであった。なおリン酸エステル化前のSOLBIN TA5Rの酸価は0mg/gであった。
【0054】
(ii) 青色顔料分散液の調製
10質量部の上記粉末ポリマーCのTHF溶液(濃度:20質量%)と、90質量部のブチルセロソルブとを混合し、ポリマー溶液を調製した(ポリマー固形分:2質量%)。実施例1と同様にしてMICROLITH Blue 4GA用の源粉末/ブチルセロソルブ混合物を調製した(固形分:2質量%)。得られたポリマーCの溶液及び顔料/ブチルセロソルブ混合物を等質量比で混合し、撹拌して顔料を均一分散させることにより青色顔料分散液を調製した。
【0055】
実施例8
上記青色顔料の代わりに、MICROLITH Red 3R-A用の源粉末を用いた以外実施例7と同様にして、赤色顔料分散液を調製した。
【0056】
実施例9
上記青色顔料の代わりに、MICROLITH Yellow 2R-A用の源粉末を用いた以外実施例7と同様にして、黄色顔料分散液を調製した。
【0057】
比較例1
MICROLITH Blue 4G-A用の源粉末を、ブチルセロソルブに添加し、撹拌して均一分散させることにより青色顔料分散液を調製した(固形分:1質量%)。
【0058】
比較例2
MICROLITH Red 3R-A用の源粉末を、ブチルセロソルブに添加し、撹拌して均一分散させることにより赤色顔料分散液を調製した(固形分:1質量%)。
【0059】
比較例3
MICROLITH Yellow 2R-A用の源粉末を、ブチルセロソルブに添加し、撹拌して均一分散させることにより黄色顔料分散液を調製した(固形分:1質量%)。
【0060】
比較例4
10質量部の上記BL-1のTHF溶液(濃度20質量%)と90質量部のブチルセロソルブとを混合し、ポリマー溶液を調製した。実施例1と同様にしてMICROLITH Blue 4G-A用の源粉末/ブチルセロソルブ混合物を調製した(固形分:2質量%)。得られたBL-1の溶液及び顔料/ブチルセロソルブ混合物を等質量比で混合し、撹拌して顔料を均一分散させることにより青色顔料分散液を調製した。
【0061】
比較例5
上記青色顔料の代わりに、MICROLITH Red 3R-A用の源粉末を用いた以外比較例4と同様にして、赤色顔料分散液を調製した。
【0062】
比較例6
上記青色顔料の代わりに、MICROLITH Yellow 2R-A用の源粉末を用いた以外比較例4と同様にして、黄色顔料分散液を調製した。
【0063】
実施例1〜9及び比較例1〜6で調製した顔料分散液を、各々試験管(内径:10 mm)に70 mmの液面高さとなるように入れ、常温で放置した。目視により10日後及び20日後の顔料分散状態を評価した。結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

表1(続き)

表1(続き)

表1(続き)

表1(続き)

【0065】
注:(1) 商品名「MICROLITH Blue 4G-A」(チバ・スペシャリティーケミカルズ社製)用の源粉末。
(2) 商品名「MICROLITH Red 3R-A」(チバ・スペシャリティーケミカルズ社製)用の源粉末。
(3) 商品名「MICROLITH Yellow 2R-A」(チバ・スペシャリティーケミカルズ社製)用の源粉末。
(4) リン酸エステル化した酢酸ビニル単位含有ポリビニルアルコール。
(5) リン酸エステル化した部分ブチラール化ポリビニルアルコール。
(6) リン酸エステル化した塩化ビニル単位含有ポリビニルアルコール。
(7) 部分ブチラール化ポリビニルアルコール。
(8) テトラヒドロフラン。
【0066】
表1から明らかなように、実施例1〜9の分散液は調製後20日間ほぼ均一性を保持し、分散安定性に優れていた。これに対して比較例1〜3では本発明の分散剤を添加していないため、実施例1〜9に比べて分散安定性に劣っていた。また比較例4〜6では分散剤としてリン酸エステル化していないブチラール化ポリビニルアルコールを用いているので、実施例1〜9に比べて分散安定性に劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも不飽和アルコール単位と脂肪酸ビニル単位及び/又はハロゲンビニル単位とを含む不飽和アルコール系共重合体、並びに部分アセタール化不飽和アルコール系重合体からなる群から選ばれた少なくとも一種の水酸基含有ビニル系(共)重合体と、リン酸源化合物と、水とを反応させてなるリン酸エステル化ビニル系重合体からなることを特徴とする分散剤。
【請求項2】
請求項1に記載の分散剤において、前記リン酸源化合物は無水リン酸であることを特徴とする分散剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の分散剤において、前記不飽和アルコール系共重合体の前記不飽和アルコール単位はビニルアルコール単位であり、前記脂肪酸ビニル単位は酢酸ビニル単位であり、前記ハロゲンビニル単位は塩化ビニル単位であり、前記部分アセタール化不飽和アルコール系重合体は部分ブチラール化ポリビニルアルコールであることを特徴とする分散剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の分散剤からなることを特徴とする顔料分散剤。

【公開番号】特開2006−142139(P2006−142139A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−332307(P2004−332307)
【出願日】平成16年11月16日(2004.11.16)
【出願人】(592187833)ユニケミカル株式会社 (23)
【Fターム(参考)】