リン酸カルシウム粒子の製造方法、略球状リン酸カルシウム粒子、(亜)リン酸エステルの使用、リン酸源
【課題】より優れた形態制御方法により個々のリン酸カルシウム粒子を制御できるリン酸カルシウム粒子の制御方法、および新たな形状を有するリン酸カルシウム粒子、以上等に好適な(亜)リン酸アルコキシドの使用、リン酸源を提供することができる。
【解決手段】カチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との混合により液中でベシクル形状の分子鋳型を形成させ、前記分子鋳型を形成する界面活性剤分子の表面においてカルシウム源とリン酸源とを反応させ、リン酸カルシウムを生成させるリン酸カルシウム粒子の製造方法を提供し、これにより粒子径の大きさが40nm〜200nm、もしくは500nm〜2000nmであり、かつ、中空構造を有する略球状リン酸カルシウム粒子を提供できる。リン酸源として(亜)リン酸アルコキシドを使用してもよい。
【解決手段】カチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との混合により液中でベシクル形状の分子鋳型を形成させ、前記分子鋳型を形成する界面活性剤分子の表面においてカルシウム源とリン酸源とを反応させ、リン酸カルシウムを生成させるリン酸カルシウム粒子の製造方法を提供し、これにより粒子径の大きさが40nm〜200nm、もしくは500nm〜2000nmであり、かつ、中空構造を有する略球状リン酸カルシウム粒子を提供できる。リン酸源として(亜)リン酸アルコキシドを使用してもよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸カルシウム粒子の製造方法および略球状リン酸カルシウム粒子(亜)リン酸エステルの使用、リン酸源に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からリン酸カルシウム粒子およびリン酸カルシウム粒子の製造方法に関する研究はなされている。リン酸カルシウム粒子の生成法には水溶液反応などの液中反応を用いる湿式法や熱および圧力を加える乾式法、水熱法など従来から様々な方法があるが、大量に効率よく生産できることから一般的には水溶液反応などの液中反応を用いる場合が多い。リン酸カルシウム粒子たるアパタイト粒子がある。
【0003】
アパタイトは、生体親和性に優れた材料として知られており、アパタイトは、人間身体の骨を構成する物質と非常に類似の成分からなっているため、人工骨移植物質として脚光を浴びている。また、アパタイトは、生体用セラミックスの強化材、骨欠損部の充填材、重金属イオンの交換体、カラムクロマトグラフィの充填材、蛋白質及び核酸などの生体高分子物質やアミノ酸などの吸着材、抗菌及び防臭用材料として非常に様々な分野に適用されている。
【0004】
アパタイトの中でもハイドロキシアパタイト(以下HApともいう)粒子を挙げると、下記特許文献1、2の報告がある。ハイドロキシアパタイトは、一般式Ca10(PO4)6(OH)2-x・nH2O(0≦n≦2.5、0≦x≦2.5)で表わされる。
【0005】
特許文献1では界面活性剤―水―無極性有機液体を用いてW/Oマイクロエマルション相を形成させ、その溶液中でリン酸カルシウム粒子たるハイドロキシアパタイト粒子を合成する方法が開示されている。この系では温度を制御することでハイドロキシアパタイト粒子の形状や、粒子の配向性を制御しているものであり、数10nm〜数μmの球状、ロッド状、柱状のハイドロキシアパタイト粒子が調製できることが報告されている。
【0006】
また、特許文献2では、水存在下でα型第三リン酸カルシウムとリン酸水素アルカリ金属塩を反応させることで、短時間かつ穏和な条件下でハイドロキシアパタイト粒子を合成する方法が開示されている。
【0007】
ここで、生体材料について説明する。従来から人工骨としては耐磨耗性、生体親和性に優れるアルミナ(Al2O3)が用いられてきた。しかし、アルミナは体内に埋植すると繊維状の結合組織により被覆されてしまい、骨と直接接する部分が少なく、また骨と化学的に結合しない場合がある。これはアルミナだけでなく、これまで検討されてきた後述のバイオセラミックスなどに同様の課題があることが多い。これに対してハイドロキシアパタイトなどのリン酸カルシウムは骨などの生体硬組織の主成分であることから、骨と化学的に強く結合することが知られている。さらに動物実験などにより、ハイドロキシアパタイトなどのリン酸カルシウムは体内に埋植しても繊維性被膜による被包化は起こらず、新生骨と直接結合することが分かっており、その性質の特徴などから着目されている。
【0008】
これについて詳しく説明する。従来、脛骨や大腿骨等の大きな荷重がかかる部位の代替材料としては、ステンレス鋼、コバルト‐クロム系合金、チタン合金等の金属系材料、超高分子量ポリエチレン、アルミナ、ジルコニア等のセラミックスが用いられていたが、生体硬組織代替材料として利用されている上記のようなセラミックスは、バイオセラミックスと呼ばれている。このバイオセラミックスは、高強度であり、生体内で安定に存在する生体不活性セラミックスと、生体内において生体骨と直接結合する生体活性セラミックスとに大別することができる。前記生体不活性セラミックスは、生体との親和性には優れているが、直接結合することはほとんどない。このため、生体不活性セラミックスをインプラント材として用いた場合には、該インプラント材が骨等の生体組織と接する界面に薄い結合組織が形成され、周囲の骨とは機械的な嵌合によって固定されているにすぎなく長時間の使用により、緩み(ルーズニング)や脱落が生じるおそれがあるとも報告されている。これに対してハイドロキシアパタイト(HAp)、β‐リン酸三カルシウム(β‐TCP)などのリン酸カルシウムは、優れた生体親和性および骨伝導能を有していることから、人工骨、人工関節、人工歯根等として臨床応用がなされている。例えば、HApは、骨補填材として生体内に埋入した場合、これを足場として速やかに骨修復が行われ、新生骨と直接結合するという優れた骨伝導能を発揮すると報告されている。また、β‐TCPも、生体内で分解され、徐々に新生骨に置換するという特徴を有していると報告されている。
【0009】
【特許文献1】特開2002−137910号公報
【特許文献2】特開2001−348212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように生体材料等としてリン酸カルシウム材料は着目を集めているが、形態制御の精度向上など製造方法に関する課題も多い。
【0011】
上記特許文献2に記載の方法では、生成された個々のハイドロキシアパタイト粒子の形状を制御する方法が具体的に開示されているものではない。
【0012】
また、上記特許文献1については、生成された個々のハイドロキシアパタイト粒子の形状を制御する方法が開示されてはいるものの、O/WエマルションやW/Oエマルションを利用して水と油の界面を利用してハイドロキシアパタイト粒子の形態制御を行うものである。この形態制御方法では、ハイドロキシアパタイト粒子の形状を変化させる程度に留まるのが通常であり、球状や中空構造などハイドロキシアパタイト粒子が持つ性質を十分に活用できるまで生成させることができない場合も多い。
【0013】
特にハイドロキシアパタイト粒子は生体親和性や吸着能といった性質より、ドラッグデリバリーシステムの担体としての応用が見込まれているが、薬物を内包するためには、ハイドロキシアパタイト粒子が中空構造を有するカプセル形状を有していることが望ましい。また、その粒子サイズも人間の毛細血管内に収まることができる粒子径200nm程度以下であると好適である。しかしながら上記特許文献1、2に記載される方法ではこれらの条件を満たしたハイドロキシアパタイト粒子の製造方法とならないのが通常である。
【0014】
また、ハイドロキシアパタイト(HAp)、β‐リン酸三カルシウム(β‐TCP)などのリン酸カルシウムは、基本的に脆弱な材料であるため、その焼結体を人工骨や人工歯根に利用する場合には、機械的強度が問題となりやすい。HApやβ‐TCPの緻密体は、骨や歯と比較して、圧縮強度は十分である傾向だが、破壊靱性値、引張強度、曲げ強度等が不十分である傾向であるという課題を有している。また、これらの緻密体は、実際の骨と比較して、弾性率が高く、周囲の骨がやせ細る等の悪影響を及ぼすことも懸念され、荷重のかかる部位に使用することは困難である傾向にある。したがって、これらの問題をより改善するために、より優れた形態制御方法により個々のリン酸カルシウム粒子を制御して製造するリン酸カルシウム粒子の製造方法が望まれている。
【0015】
本発明は、上記課題等を解決することに鑑みてなされたものであり、より優れた形態制御方法により個々のリン酸カルシウム粒子を制御できるリン酸カルシウム粒子の製造方法、および新たな形状を有する略球状リン酸カルシウム粒子、以上等に好適な(亜)リン酸エステルの使用、リン酸源を提供することをその主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、リン酸カルシウム粒子の製造方法であって、カチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との混合により液中でベシクル形状の分子鋳型を形成させる分子鋳型形成工程と、前記分子鋳型を形成する界面活性剤分子の表面においてカルシウム源とリン酸源とを反応させ、リン酸カルシウムを生成させる生成工程とを含むことを特徴とする。
【0017】
前記リン酸カルシウムはアパタイトであると好適である。
【0018】
前記リン酸カルシウムはハイドロキシアパタイトであると好適である。
【0019】
前記カルシウム源は、硝酸カルシウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、酢酸カルシウムなどからなる群より選択された1種以上の塩であると好適である。
【0020】
前記リン酸源は、リン酸、第1リン酸ナトリウム、第2リン酸ナトリウム、第1リン酸カリウム、第2リン酸カリウム、第1リン酸アンモニウム、第2リン酸アンモニウムなどからなる群より選択された1種以上の塩であると好適である。
【0021】
前記分子鋳型の粒子径の大きさが20nm〜200nmであると好適である。
【0022】
前記生成工程における反応時間が60分〜90分であると好適である。
【0023】
前記リン酸カルシウム粒子の製造方法は、予め求められた前記カチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比と、リン酸カルシウムの生成速度との相関関係に応じて、所望の前記カチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比を選択する選択工程とを含むと好適である。
【0024】
前記リン酸カルシウム粒子の製造方法であって、前記リン酸源はリン酸アルコキシドを含むと好適である。
【0025】
前記リン酸エステルとして亜リン酸トリエチルを用いると好適である。
【0026】
本発明は、略球状リン酸カルシウム粒子であって、径の大きさ40nm〜200nmであり、かつ、中空構造を有することを特徴とする。
【0027】
本発明は、略球状リン酸カルシウム粒子であって、径の大きさ500nm〜2000nmであり、かつ、中空構造を有することを特徴とする。
【0028】
前記リン酸カルシウムはアパタイトであると好適である。
【0029】
前記リン酸カルシウムはハイドロキシアパタイトであると好適である。
【0030】
また、本発明は、リン酸源とカルシウム源とを反応させリン酸カルシウム粒子を製造する際に、前記リン酸源としての(亜)リン酸アルコキシドの使用を特徴とする。
【0031】
また、本発明は、リン酸源とカルシウム源とを反応させリン酸カルシウム粒子を生成する際のリン酸源であって、(亜)リン酸アルコキシドを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
本発明は、より優れた形態制御方法により個々のリン酸カルシウム粒子を制御できるリン酸カルシウム粒子の製造方法、および新たな形状を有する略球状リン酸カルシウム粒子、以上等に好適な(亜)リン酸エステルの使用、リン酸源を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明者は、より優れたリン酸カルシウム粒子の形態制御方法として水中などの単一溶媒中で界面活性剤が形成する分子集合体を鋳型としての形態制御に着目し、この形態制御方法を用いたリン酸カルシウム粒子の製造方法(テンプレート法)について鋭意検討した。その結果、アニオン/カチオン界面活性剤混合系では、界面活性剤の親水基間に静電的相互作用が働き、擬似二鎖型構造を有する界面活性剤を形成、単独系と異なる形態を有することを利用でき、また、組成比に依存して分子集合体の形状が大きく変化し、球状ミセルよりも大きな棒状ミセル、ベシクル、液晶、沈殿などの多種多様な分子集合体を形成制御でき、アニオン性界面活性剤が多量に含まれる領域では、この擬似二鎖型構造を利用して閉鎖小胞体であるベシクルを特異的に形成できることなどの利点があることを利用すれば、このアニオン/カチオン界面活性剤混合系が形成するナノ分子集合体を鋳型としたテンプレート法とすることで、規則的細孔構造や中空構造といった特異的構造を有する材料が調製できやすく、個々のリン酸カルシウム粒子をより形状を適切に制御できることを見出した。特に中空構造を有するリン酸カルシウム粒子のカプセルは内包物を選択的、および段階的に放出できるため、この内包物を選択的、および段階的に放出することが出来る分野(例えば香粧品や医薬分野など)で特に有用である。
【0034】
また、本発明者は上記リン酸カルシウム粒子の形態制御方法を用いると、新たな形状を有するリン酸カルシウム粒子を提供できることを見出すことが出来た。例えば、中空構造を有するカプセル形状を有しているリン酸カルシウム粒子および/または粒子径が40〜200nmであり、よりその形状を制御されたリン酸カルシウム粒子を提供することができることがわかった。
【0035】
以下本実施形態に係るリン酸カルシウム粒子およびリン酸カルシウム粒子の製造方法について説明する。なお、本実施形態は、本発明を実施するための一形態に過ぎず、本発明は本実施形態によって限定されるものではない。
【0036】
「リン酸カルシウム粒子およびその製造方法」
本実施形態に係るリン酸カルシウム粒子の製造方法は、カチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との混合により液中でベシクル形状の分子鋳型を形成させる分子鋳型形成工程と、前記分子鋳型を形成する界面活性剤分子の表面においてカルシウム源とリン酸源とを反応させ、リン酸カルシウムを生成させる生成工程とを含むことを特徴とする。
【0037】
リン酸系カルシウム粒子としては、特に限られることなく適宜選択して採用することが出来るが、ハイドロキシアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2)、β‐リン酸三カルシウム、アパタイト(アパタイトは、ハイドロキシアパタイトの化学式において水酸基(OH-)の位置に炭酸基(CO32-)、酸素基(O2-)、フッ素基(F-)、塩素基(Cl-)などの陰イオンが置換されたものを含む)などを主成分として含むものを好適例として、燐酸一カルシウム一水和物、燐酸一カルシウム無水物、燐酸二カルシウム二水和物、燐酸二カルシウム無水物、燐酸四カルシウム、オルト燐酸カルシウム燐酸塩、CaHPO4、Ca3(PO4)2、Ca4O(PO4)2、CaP4O11、Ca(PO3)2、Ca2P2O7、Ca(H2PO4)2、Ca2P2O7、Ca(H2PO4)2・H2Oを主成分として含むなどの粒子を挙げることができる。
【0038】
カチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子としては液中でベシクル形状の分子鋳型を形成させるものであれば特に限られることなく適宜選択して用いることができる。
【0039】
カチオン性界面活性剤分子としては、例えばセチルトリメチルアンモニウムブロミド(CH3(CH2)15N(CH3)3Br:CTAB)、第4級アンモニウム塩型[例えばテトラアルキル(C4〜100)アンモニウム塩(例えばラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジオクチルジメチルアンモニウムブロマイドおよびステアリルトリメチルアンモニウムブロマイド)、トリアルキル(C3〜80)ベンジルアンモニウム塩(例えばラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド(塩化ベンザルコニウム)、アルキル(C2〜60)ピリジニウム塩(例えばセチルピリジニウムクロライド)、ポリオキシアルキレン(C2〜4)トリアルキルアンモニウム塩(例えばポリオキシエチレントリメチルアンモニウムクロライド)およびサパミン型第4級アンモニウム塩(例えばステアラミドエチルジエチルメチルアンモニウムメトサルフェート)]およびアミン塩型[例えば高級脂肪族アミン(C12〜60、例えばラウリルアミン、ステアリルアミン、セチルアミン、硬化牛脂アミンおよびロジンアミン)の無機酸(例えば塩酸、硫酸、硝酸およびリン酸)塩または有機酸(C2〜22、例えば酢酸、プロピオン酸、ラウリル酸、オレイン酸、安息香酸、コハク酸、アジピン酸およびアゼライン酸)塩、脂肪族アミン(C1〜30)のEO付加物などの無機酸(上記のもの)塩または有機酸(上記のもの)塩および3級アミン(C3〜30、例えばトリエタノールアミンモノステアレートおよびステアラミドエチルジエチルメチルエタノールアミン)の無機酸(上記のもの)塩または有機酸(上記のもの)塩]などを挙げることができる。
【0040】
アニオン性界面活性剤分子としては、例えばオクチル硫酸ナトリウム(CH3(CH2)7SO4Na:SOS)またはその塩、カルボン酸(例えばC8〜22の飽和または不飽和脂肪酸およびエーテルカルボン酸)またはその塩、硫酸エステル塩〔例えば高級アルコール硫酸エステル塩(例えばC8〜18の脂肪族アルコールの硫酸エステル塩)および高級アルキルエーテル硫酸エステル塩[例えばC8〜18の脂肪族アルコールのEO(1〜10モル)付加物の硫酸エステル塩]〕、スルホン酸塩[C10〜20、例えばアルキルベンゼンスルホン酸塩(例えばドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)、アルキルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、スルホコハク酸ジアルキルエステル型、ハイドロカーボン(例えばアルカン、α−オレフィン)スルホン酸塩およびイゲポンT型]およびリン酸エステル塩[例えば高級アルコール(C8〜60)EO付加物リン酸エステル塩およびアルキル(C4〜60)フェノールEO付加物リン酸エステル塩]、さらに上記の塩として、例えばアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アルキルアミン(C1〜20)塩およびアルカノールアミン(C2〜12、例えばモノ−、ジ−およびトリエタノールアミン)塩などを挙げることができる。
【0041】
カチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との混合によりベシクル形状の分子鋳型を形成させる液としては、特に限られることなく適宜選択して用いることができるが、水、水溶液、無機溶媒、有機溶媒を挙げることができる。
【0042】
カチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との全濃度は、ベシクル形状の分子鋳型を形成させる全濃度であれば特に限られることなく適宜選択して用いることができるが、全濃度が20mM〜120mMであることを挙げることができる。
【0043】
カチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比は、ベシクル形状の分子鋳型を形成させる組成比であれば特に限られることなく適宜選択して用いることができるが、カチオン性界面活性剤分子:アニオン性界面活性剤分子が1:9〜3:7であるとベシクルのみが形成する相であるため好適である。
【0044】
カチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子がベシクル形状の分子鋳型を形成させる方法については、特に限られることなく適宜選択して採用することができるが、例えば、以下の(1)式で示される臨界充填パラメーター(CP)を用いてその方法を判断することもできる。
【0045】
【数1】
ここで、vは界面活性剤の親水基の体積、a0は親水基占有面積、lcは疎水基の最大有効鎖長を表している。
【0046】
この臨界充填パラメーター(CP)値により形成される分子集合体が決定され、CP<1/3では分子が円錐形となるので球状ミセルが、1/3<CP<1/2では棒状ミセル、1/3<CP<1では二分子膜ベシクル、CP=〜1では平面上二分子膜が幾何学的に安定な充填形態となることが知られている。また、CP>1のときは逆ミセルが形成されるとされている。
【0047】
分子鋳型形成工程後に、ベシクル形状の分子鋳型が形成しているかどうかを確認すると好適である。確認する方法は特に限られることなく適宜選択して採用することができるが、例えば、目視にてベシクル形状の分子鋳型特有の色が生成しているかを目視で確認する方法、cryo−TEMを用いてベシクルを直接観察する方法などを挙げることができる。
【0048】
また、分子鋳型形成工程後にベシクル形状の分子鋳型が所望の粒子径となっているかどうかを確認すると好適である。確認する方法は特に限られることなく適宜選択して採用することができるが、例えば、動的光散乱法により界面活性剤水溶液の粒子径分布測定を行うことにより確認する方法、cryo−TEMを用いてベシクルを直接観察することでベシクル径を確認する方法などを挙げることができる。
【0049】
分子鋳型の粒子径の大きさは、製造されるリン酸カルシウム粒子の大きさなどの要因によってその粒子径とすればよいが、例えばリン酸カルシウム粒子を40nm〜200nm
とするには分子鋳型の粒子径の大きさを20nm〜200nmとすると好適である。
【0050】
カルシウム源とリン酸源とを反応させ、リン酸カルシウムを生成させる生成工程について、カルシウム源およびリン酸源についてはリン酸カルシウムを生成させるものを、特に限られることなく適宜選択して用いることができる。
【0051】
カルシウム源としては、例えば、硝酸カルシウム(Ca(NO3)2)、炭酸カルシウム(CaCO3)、塩化カルシウム(CaCl2)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)又は酢酸カルシウム(Ca(CH3COO)2)などからなる群より選択された1種以上の塩などを挙げることできる。これらカルシウム源は一種または複数種混合して用いてもよい。
【0052】
リン酸源としては、例えばリン酸(H3PO4)、第1リン酸ナトリウム(NaH2PO4)、第2リン酸ナトリウム(Na2HPO4)、第1リン酸カリウム(KH2PO4)、第2リン酸カリウム(K2HPO4)、第1リン酸アンモニウム(NH4H2PO4)又は第2リン酸アンモニウム((NH4)2HPO4)などからなる群より選択された1種以上の塩などを挙げることができる。これらリン酸源は一種または複数種混合して用いてもよい。
【0053】
カルシウム源とリン酸源とを反応させ、リン酸カルシウムを生成させる際の反応液のpHは、適宜選択して採用することができるが、例えばpH8〜pH12の範囲とすることが下記不純物の混入を防ぐためやリン酸カルシウムの生成促進などの観点などから好適である。pHが8未満であると反応液中で不純物たる難溶性リン酸カルシウム化合物として、主にpH4〜6でのCaHPO4・2H2O(DCPD)またはCaHPO4、pH6〜7でのCa8H2(PO4)65H2O(OCP)などが生じやすくなる。またpH12を超えると反応液中で不純物たる水酸化カルシウムCa(OH)2が生成しやすくなる。
【0054】
カルシウム源とリン酸源とを反応させ、リン酸カルシウムを生成させる際の反応液の温度は、適宜選択して採用することができるが、例えば20℃〜30℃の範囲を挙げることができる。
【0055】
カルシウム源とリン酸源とを反応させ、リン酸カルシウムを生成させる際の反応時間は適宜選択して採用することができるが、例えば60分〜90分の範囲を挙げることができる。この反応時間であれば粒子内部までリン酸カルシウムが生成した充填構造となることを好適に防止することができ、中空構造を保つことができやすい。
【0056】
また、リン酸カルシウムの生成中、反応液を適宜攪拌すると好適である。
【0057】
生成工程後、リン酸カルシウム粒子/ベシクル鋳型複合溶液を得る。生成工程後、凝集物を除去するために濾過等してしてもよい。
【0058】
リン酸カルシウム粒子からベシクル鋳型を取り除きリン酸カルシウム粒子単独体を得ることもできる。リン酸カルシウム粒子からベシクル鋳型を取り除く方法は特に限られることなく適宜選択して採用することができるが、焼成処理によりベシクル鋳型を熱分解する方法などを挙げることができる。
【0059】
本実施形態によるリン酸カルシウム粒子の製造方法により、より優れた形態制御方法により個々のリン酸カルシウム粒子を制御できる。すなわち、アニオン/カチオン界面活性剤混合系では、界面活性剤の親水基間に静電的相互作用が働き、擬似二鎖型構造を有する界面活性剤を形成、単独系と異なる形態を有することを利用し、また、組成比に依存して分子集合体の形状が大きく変化し、球状ミセルよりも大きな棒状ミセル、ベシクル、液晶、沈殿などの多種多様な分子集合体を形成制御でき、アニオン性界面活性剤が多量に含まれる領域では、閉鎖小胞体であるベシクルを特異的に形成できることなどの利点を利用したリン酸カルシウム粒子の製造方法を提供することが出来る。これにより中空構造を有した微細な粒子等、新たな形状を有するリン酸カルシウム粒子を提供することができる。
【0060】
特に略球状リン酸カルシウム粒子であって、粒子径の大きさが40nm〜200nmであり、かつ、中空構造を有する略球状リン酸カルシウム粒子を得る方法として好適である。
【0061】
このリン酸カルシウム粒子であると粒子径200nm程度以下であるので人間の毛細血管内に収まることができる。また、中空構造を有するカプセル形状を有しているので薬物などを内包することができ、ドラッグデリバリーシステムの担体としての応用ができ好適である。特に生体親和性度の大きなアパタイト、特にハイドロキシアパタイトであると好適である。
【0062】
また、本実施形態によって製造された略球状のリン酸カルシウム粒子は、特に限られること苦なく適宜選択して適応した用途に用いることができる。例えば、アパタイトであると、人体移植用高強度アパタイト複合体、骨充填材及びゴムと製紙の充填材として用いられるためのアパタイト粒子、人体に供給される蛋白質或いは医薬品伝達体用に適したアパタイト粒子、及び抗菌及び防臭用材料として利用可能な様々な金属イオンと陰イオンあるいは各種の触媒を含有したアパタイト粒子などとして有用である。
【0063】
また、本発明者は、リン酸源としてリン酸エステルを用いるとリン酸カルシウムの生成速度を抑制し、粒子形状をより真の球形に近づけることができるなどの形状制御が可能になることや、疎水性であるエステルを用いることで、反応を鋳型であるベシクル表面近傍、もしくはベシクルを形成する界面活性剤分子の二分子膜中で選択的に起こさせることができ、溶液中でなくできるだけベシクル表面中近傍や二分子膜で起こさせることで生成効率を向上させることができることを見出した。
【0064】
リン酸カルシウム粒子とするには上記リン酸などのリン酸源とカルシウム源とを反応生成させることでリン酸カルシウム粒子を生成させるわけであるが、この生成反応は極めて起こりやすく、反応速度が大きい性格のものである。したがって、鋳型であるベシクル表面近傍に至る前にリン酸源とカルシウム源とが反応しリン酸カルシウム粒子が生成してしまいやすくなる。そこでそのままでは直接カルシウム源と反応することができず、上記リン酸などの直接カルシウム源と反応することができるリン酸源へ転換する性質があるリン酸エステルを用いることで反応速度を抑制することができる。これにより、リン酸源とカルシウム源とが鋳型であるベシクル表面近傍に至る前に反応しリン酸カルシウム粒子が生成してしまいやすくなることを防止すると共に、生成速度自体も抑制することができ、長時間のリン酸カルシウム結晶成長過程においても中空構造を維持できたり、粒子形状をより真の球形状に近づけることができるなどの形状制御が可能になる。
【0065】
さらにリン酸エステルは疎水性であるので水溶液中よりも疎水基を持つ界面活性剤分子からなる鋳型であるベシクル表面近傍に選択的に集まりやすくなり、リン酸源がベシクル表面近傍、もしくは二分子膜中に選択的に集まることになる。この選択的な集中作用によってリン酸源とカルシウム源とが反応するリン酸カルシウム粒子もベシクル表面近傍、もしくは二分子膜中で選択して生成されることになり、選択性が向上する。
【0066】
(亜)リン酸エステルとしては溶液中で直接カルシウム源と反応することができるリン酸源へ転換する性質を持つものであれば特に限られることなく適宜採用して選択することができるが、好適例としては亜リン酸トリエチルを挙げることができる。(亜)リン酸エステルとして亜リン酸トリエチルは亜リン酸トリイソプロピルよりも温和な条件で加水分解反応がおこり、また、亜リン酸トリメチルよりも加水分解反応が遅いため、本実施形態において好適である。
【0067】
ここで、直接カルシウム源と反応することができるリン酸源であるためにはオルトリン酸、またはオルト亜リン酸などのリン酸液類であることが必要である。また、直接カルシウム源と反応することができるリン酸源に転化できる条件としては、メトキシ基やエトキシ基を有する(亜)リン酸エステルであることが通常必要である。
【0068】
これにより、リン酸源とカルシウム源とを反応させリン酸カルシウム粒子を製造する際に、前記リン酸源としての(亜)リン酸エステルの使用であると、本実施形態のベシクル鋳型でのリン酸カルシウム粒子の製造に限られることなく、反応速度を抑制して様々なリン酸カルシウム粒子を製造することができる。リン酸源とカルシウム源とを反応させリン酸カルシウム粒子を生成する際のリン酸源であって、(亜)リン酸エステルを含ませると、従来公知の様々なリン酸カルシウム粒子の製造方法について反応速度を抑制して様々なリン酸カルシウム粒子を製造することができる。例えば、略球状リン酸カルシウム粒子であって、径の大きさ500nm〜2000nmであり、かつ、中空構造を有させることができる。500nm以上の粒径のリン酸カルシウム粒子では、結晶成長速度が大きく、内部まで結晶が成長し、充填構造となるがリン酸源として(亜)リン酸エステルを使用することによって反応速度を抑制させることができ、中空構造のリン酸カルシウム粒子を形成させることができる。
【0069】
また、本発明者は、カチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比と、リン酸カルシウムの生成速度とに相関関係があることを見出すに至った。
【0070】
これにより、カチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比と、リン酸カルシウムの生成速度との相関関係を例えば幾つかをサンプリングすることによりこれを相関関係のデータとして取得し、この相関関係に応じて所望の前記カチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比を選択するシステムとすれば、所望の得たいリン酸カルシウム粒子の形状や大きさを得ることができるようになる。すなわち、所望の得たいリン酸カルシウム粒子の中空構造、充填構造といった形状や外観構造、大きさがある場合には、予め取得したリン酸カルシウムの生成速度との相関関係に基づいてカチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比を求め、この組成比のカチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子を採用することで所望の得たいリン酸カルシウム粒子の中空構造、充填構造といった形状や外観構造、大きさを得ることができる。
【0071】
相関関係は、例えばカチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比に対して単位時間当たりのリン酸カルシウム粒子の大きさを求め、これからリン酸カルシウムの生成速度を算出した生成速度を用いることもできる。
【0072】
このようにして用いた生成速度を用い、あるカチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比であると生成速度がどの程度であるかを解析し、カチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比と生成速度をプロットする。好ましくはカチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比を変化させた複数固の鋳型についてそれぞれの組成比であると生成速度がどの程度を解析し、カチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比と生成速度の複数個のプロットによる相関関係を求めておくことが好ましい。
【0073】
求められた相関関係は記憶装置などに予め記憶しておくと好ましい。記憶装置は特に限られることがないが読み取り専用の記憶装置(ROM等)、読み書き可能な記憶装置(RAM等)など相関関係を記憶できる装置であれば特に限られることがない。
【0074】
所望の形状のリン酸カルシウム粒子を得るための選択方法は、予め取得された相関関係に応じてカチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比を選択する適切な方法であればよい。
【0075】
上記製造方法としては、例えば図20に示すような処理フローを実行するコンピュータを用いたシステムを用いた製造方法が挙げられる。コンピュータには予め記憶されたカチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比と製造されるリン酸カルシウム粒子の形状や大きさにするための生成速度の相関関係に応じて、カチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比を選択するステップを含むコンピュータプログラムが読み込まれている。
【0076】
リン酸カルシウム粒子を製造する製造者が所望とする大きさや形状のリン酸カルシウム粒子を製造することをキーボードなどの入力手段によってコンピュータ内のCPUに要求する(S1)。コンピュータ内のCPUはその所望とする大きさや形状のリン酸カルシウム粒子を得るためにその生成速度とするにはどの程度のカチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比を選択すればよいかが記憶された記憶装置にアクセスし(S2)、記憶装置に記憶された相関関係を読み出す(S3)。CPUは、読み出された相関関係に基づいてどの程度のカチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比を得ることができるのかを判断する(S4)。CPUによって判断されたカチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比の情報は、カチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比をその情報の組成比に選別する選別装置に伝達される(S5)。選別装置はその情報によって適切なカチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比を選別する(S6)。選別されカチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比を用いて、本実施形態に係るリン酸カルシウム粒子を製造する方法によって製造者が所望とする形状、大きさのリン酸カルシウム粒子を得る(S7)。
【0077】
上記システムを用いれば製造者が所望とする形状(構造も含む)、大きさのリン酸カルシウム粒子を得たい場合に、カチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比を選択することができることになる。略球状リン酸カルシウム粒子であって、粒子径の大きさが40nm〜200nmであり、かつ、中空構造を有する略球状リン酸カルシウム粒子を得ることも容易に出来ることになる。
【0078】
上記システムでリン酸源としてリン酸エステルを用いるとリン酸カルシウムの生成速度を抑制し、長時間のリン酸カルシウム結晶成長過程においても中空構造を維持できたり、粒子形状をより真の球形に近づけることができたりするなどの形状制御を可能とでき、さらに、疎水性であるエステルを用いることで、反応を鋳型であるベシクル表面近傍、もしくはベシクルを形成する界面活性剤分子の二分子膜中で選択的に起こさせることができ、溶液中でなくできるだけベシクル表面中近傍や二分子膜で起こさせることで生成効率を向上させることもできる。
【実施例】
【0079】
以下、本実施形態を実施例によりリン酸カルシウム粒子のうちハイドロキシアパタイト粒子の製造方法を挙げて、さらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されることはない。
【0080】
「実施例1」
25mlの超純水にアニオン性のオクチル硫酸ナトリウム(CH3(CH2)7SO4Na:SOS)およびカチオン性のセチルトリメチルアンモニウムブロミド(CH3(CH2)15N(CH3)3Br:CTAB)を全濃度60mMとなるように種々の組成比(SOS:CTAB=9:1,8:2,7:3)で添加し、溶解させた。
【0081】
調製した界面活性剤水溶液の目視観察より、全ての混合比においてベシクル溶液に特有である青白い色が目視により確認されたことから、ベシクルの形成が目視により確認された。
【0082】
次に、ベシクルの粒子径を確認するため、動的光散乱法により界面活性剤水溶液の粒子径分布測定を行ったところ、SOS/CTAB混合系では検討したいずれの混合比においてもベシクル径は約60nmであることが判明した。
【0083】
「実施例2」
実施例1で調製した界面活性剤水溶液中でハイドロキシアパタイト粒子の調製を試みた。
【0084】
<リン酸源にH3PO4を用いたHAp/界面活性剤複合粒子の調製および評価結果>
界面活性剤水溶液にCaCl2およびH3PO4を添加し、水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH8に調製した。その後、種々の時間撹拌し、ろ過により、凝集物を捕集することでハイドロキシアパタイト粒子/ベシクル複合溶液を得た。
【0085】
始めに、撹拌時間(反応時間)を12時間とし、種々のSOS/CTAB混合比で調製した溶液中でハイドロキシアパタイト粒子の調製を行った。図1に得られたハイドロキシアパタイト粒子/ベシクル複合溶液の動的光散乱測定結果、図2に透過型電子顕微鏡観察結果を示す。
【0086】
図1より、SOS:CTABの混合モル比8:2,7:3では約150nmの粒子および凝集物由来のピークが確認されたが、混合比を9:1にすることにより、約100nmの均一なナノ粒子を調製できることが判明した。
【0087】
また図2より、粒子径約200nmの球状粒子が確認されたが、中空構造を確認することはできなかった。これは、ハイドロキシアパタイト粒子の粒子成長がベシクルの内部にまで進行したためと考えられる。よって以後、反応時間を短くし、ハイドロキシアパタイト粒子の粒子成長を抑える必要があることが判明した。
【0088】
次に、ハイドロキシアパタイト粒子の粒子成長を抑えるため、撹拌時間(反応時間)を1時間として同様にハイドロキシアパタイト粒子の調製を行った。図3に得られたハイドロキシアパタイド/ベシクル複合溶液の動的光散乱測定結果を示し、図3の結果と合わせて表1に撹拌時間による粒子径の変化を示した。
【0089】
【表1】
【0090】
表1より、撹拌時間を1hにすることにより、粒子径が小さくなっていることが確認された。これは撹拌時間の減少に伴い、反応の進行が抑えられたことによるものと推測される。
【0091】
次に、得られた溶液について透過型電子顕微鏡観察を行った。図4に混合比8:2,1h撹拌で調製した粒子の透過型電子顕微鏡観察結果を示す。図4より、粒子径約100nmの中空構造を有する球状粒子が確認されたことから、ベシクルを鋳型としたハイドロキシアパタイト粒子/界面活性剤複合粒子の調製に成功した。
【0092】
以上の結果より、界面活性剤の混合比により調製できる粒子の形態やそのサイズが変化しているが、球状の粒子が多数生成していることから、ベシクルが鋳型となり、中空構造を有するリン酸カルシウム粒子が生成していると考えられる。
【0093】
「実施例3」
実施例1で調製した界面活性剤水溶液中でハイドロキシアパタイト粒子の調製を試みた。
【0094】
<リン酸源に亜リン酸トリエチル:P(OC2H5)3を用いたHAp/界面活性剤複合粒子の調製および評価結果>
界面活性剤水溶液にP(OC2H5)3を添加し、1時間撹拌した後、水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH12に調製した。その後、CaCl2水溶液を加え、24時間撹拌することでリン酸カルシウム粒子/ベシクル複合溶液を得た。
【0095】
図5〜図8に得られた粒子の透過型電子顕微鏡観察結果を示す。
【0096】
図5〜図8では500nm〜2000nm(2μm)の球状の粒子が確認された。また、図5および図6では、粒子の端よりも内部の方が明るく、電子線が透過しやすくなっていることから、中空形状であると考えられる。よって、中空構造を有する球状のリン酸カルシウム粒子が生成していることが確認された。
リン酸源としてリン酸エステルを用いず直接カルシウム源と反応するリン酸源を用いた場合結晶成長が内部まで進行するため24時間を経過した後も中空構造を維持していることはないと考えられる。これに対してリン酸源としてリン酸エステルを用いるとリン酸カルシウムの生成速度を抑制し、粒子形状をより真の球形に近づけたり、中空構造を形成できるという形状制御ができることがわかった。
【0097】
「参考例」
以下、参考例としてヘキサゴナル液晶を鋳型に用いたメソポーラスHAp粒子の調製を示す。
【0098】
<試料>カチオン性界面活性剤としては、セチルトリメチルアンモニウムクロリド(CH3(CH2)15N(CH3)3Cl:CTAC,Aldrich製)を使用した。
【0099】
アニオン性界面活性剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム(CH3(CH2)11SO4Na:SDS,和光純薬工業(株)製)を使用した。
【0100】
HAp前駆体として塩化カルシウム(CaCl2,和光純薬工業(株)製)、およびリン酸(H3PO4,和光純薬工業(株)製)を使用した。
【0101】
界面活性剤/HAp前駆体混合溶液のpH調製剤として水酸化ナトリウム(NaOH, 関東化学(株)製)を使用した。
【0102】
溶媒として超純水(>18.2MΩcm-1)を使用した。
【0103】
「参考例1」
<カチオン性界面活性剤を用いたHAp/界面活性剤複合粒子の調製および評価結果>
種々の濃度のCTAC水溶液にCaCl2およびH3PO4を添加し、NaOHを用いてpHを8に調製した。その後、種々の時間撹拌し、得られた生成物をろ過、洗浄、乾燥(120℃, 10h)することで、HAp/界面活性剤複合粒子を得た。
【0104】
得られた粒子の構造特性、結晶性の評価をX線回折装置(理学電気(株)製,RINT1100,CuKα線)を用いて行った。なお、測定サンプルは乳鉢により細かくすりつぶしたものを用いた。
【0105】
得られた粒子がもつ構造の評価を透過型電子顕微鏡(TEM)(日立ハイテクノロジーズ製,H−7650)観察して行った。サンプルには、乳鉢により細かくすりつぶした生成物を少量のエタノールに分散させ、カーボン補強済コロジオン膜貼付銅メッシュ(応研商事製)に数滴滴下し、乾燥させたものを用いた。
【0106】
鋳型となる界面活性剤濃度がHApの構造特性に与える影響を調べるため、CTAC濃度をを60−780mMの範囲で変化させてHAp/界面活性剤複合粒子の調製を行った。得られた粒子の粉末X線回折測定(XRD)結果を図9、10に示す。なお、比較試料として、HAP−100(太平化学産業製)を市販のHApとし、XRD測定結果を示した。
【0107】
図9より、全ての粒子において、規則的細孔構造に起因するピークは確認されなかった。これより、鋳型となるCTAC濃度が構造特性に与える影響は無いことが示唆された。
【0108】
一方、図10より、全ての粒子においてHApに帰属されるピークが確認されたことから、得られた粒子はHApであることが判明した。しかし、いずれの粒子もHApの結晶化が進行しているため、この結晶化が規則的細孔構造の形成を阻害していると考えられる。
【0109】
以上の結果より、HApの結晶化が規則的細孔構造の形成を阻害していることが示唆された。そこで、以後の実験では、CTAC濃度を60mMに固定して、結晶化を抑える方法について検討を行った。
【0110】
HApの結晶化を抑えるため、CTAC濃度を60mMに固定し、撹拌時間を0−24hの範囲で変化させてHAp/界面活性剤複合粒子の調製を行った。得られた粒子の粉末X線回折測定(XRD)結果を図11、12に示す。
【0111】
図11より、いずれの粒子においても規則的細孔構造に起因するピークは確認されなかった。これより、撹拌時間が構造特性に与える影響は無いことが示唆された。
【0112】
一方、図12より、撹拌時間が減少するに従い、HApの結晶化度が僅かながらに低下していることが確認されたが、撹拌時間0hにおいても結晶化が進行していることが確認された。このことより、撹拌時間によりHApの結晶化を抑えることは困難であることが確認された。
【0113】
以上の結果より、HApは短い反応時間においても結晶化してしまうことが確認された。これは、HApが鋳型のミセル表面上ではなく、バルクで生成していることが考えられる。
【0114】
「参考例2」
<アニオン性界面活性剤を用いたHAp/界面活性剤複合粒子の調製および評価結果>
種々の濃度のSDS水溶液にH3PO4を添加し、NaOHを用いてpHを12に調整した。その後、塩化カルシウム水溶液を加えて24h撹拌し、得られた生成物をろ過、洗浄、乾燥(120℃,10h)することで、HAp/界面活性剤複合粒子を得た。なお、調製は室温および60℃加温下で行った。
【0115】
得られた粒子の構造特性、結晶性の評価をX線回折装置(理学電気(株)製,RINT1100,CuKα線)を用いて行った。なお、測定サンプルは乳鉢により細かくすりつぶしたものを用いた。
【0116】
得られた粒子がもつ構造の評価を透過型電子顕微鏡(TEM)(日立ハイテクノロジーズ製,H‐7650)観察により行った。サンプルには、乳鉢により細かくすりつぶした生成物を少量のエタノールに分散させ、カーボン補強済コロジオン膜貼付銅メッシュ(応研商事製)に数滴滴下し、乾燥させたものを用いた。
【0117】
界面活性剤濃度がHApの構造特性に与える影響を調べるため、SDS濃度を8−96mMの範囲で変化させてHAp/界面活性剤複合粒子の調製を行った。得られた粒子の粉末X線回折測定(XRD)結果を図13、14に示す。なお、比較試料として、HAP−100(太平化学産業製)を市販のHApとし、XRD測定結果を示した。
【0118】
図13より、SDS濃度96mMで調製した粒子においてのみ、ラメラ構造に起因するピークが確認された。また、面間距離は一次ピークの回折角よりブラッグの式を用いて算出したところ、約3.09nmであることが判明した。
【0119】
一方、図14より、全ての粒子においてHApに帰属されるピークが確認された。しかし、SDS濃度96mMで調製した粒子では不純物とみられるピークも確認された。このことより、SDS濃度96mMで調製した粒子には多少の不純物が含まれていることが判明した。
【0120】
続いて、SDS濃度96mMで調製した粒子の構造を確認するため、TEM観察を行った。TEM観察結果を図15に示す。
【0121】
図15より、規則的な層状構造が確認された。また、TEM像より見積もられた面間距離は約3nmであり、XRD測定結果とほぼ一致していることが判明した。
【0122】
以上の結果より、SDS濃度96mMで調製した粒子は、多少の不純物がみられるものの、ラメラ構造を有するHAp/界面活性剤複合粒子であると推測された。
【0123】
室温下では水溶液中でSDSとカルシウムイオンは反応し、ジドデシル硫酸カルシウム(CaDDS)として析出することが知られている。そこで、この粒子による影響を調べるためにCaDDS粒子を調製し、XRD測定を行った。図16、17において調製したCaDDSと調製した粒子(SDS濃度96mM)のXRDパターンによる比較を行った。
【0124】
図16ではラメラ構造に起因するピーク、図17では不純物のピークが一致したため、上述で確認されたラメラ構造および不純物は析出したCaDDSに起因するものであることが確認された。
【0125】
CaDDSの析出を抑える為に、CaDDSのクラフト点(50℃)以上である、60℃加温下で調製を行った。得られた粒子の粉末X線回折測定(XRD)結果を図18、19に示す。
【0126】
図18より規則的細孔構造に起因するピークは確認されず、図19からはHApのみに帰属されるピークが確認された。
【0127】
以上の結果より、60℃加温下で調製したHAp粒子自体には規則的細孔構造は付与されていないことが確認された。これは、粒子形成後すぐに柱状に成長してしまうHAp粒子が曲率の大きなミセル表面上では生成しにくいことに起因するものではないかと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】12時間撹拌時のハイドロキシアパタイト粒子/ベシクル複合溶液の粒子径分布測定結果を示す図である。
【図2】混合比9:1,12時間撹拌で調製したハイドロキシアパタイト粒子/界面活性剤複合粒子の電子顕微鏡写真である。
【図3】1時間撹拌時のハイドロキシアパタイト粒子/ベシクル複合溶液の粒子径分布測定結果である。
【図4】混合比8:2,1時間撹拌で調製したハイドロキシアパタイト粒子/界面活性剤複合粒子の電子顕微鏡写真である。
【図5】混合比9:1, 24時間撹拌で調製したリン酸カルシウム/界面活性剤複合粒子の電子顕微鏡写真である。
【図6】混合比9:1, 24時間撹拌で調製したリン酸カルシウム/界面活性剤複合粒子の電子顕微鏡写真である。
【図7】混合比8:2, 24時間撹拌で調製したリン酸カルシウム/界面活性剤複合粒子の電子顕微鏡写真である。
【図8】混合比7:3, 24時間撹拌で調製したリン酸カルシウム/界面活性剤複合粒子の電子顕微鏡写真である。
【図9】種々の界面活性剤濃度で調製した粒子の低角XRDパターンを示す図である。
【図10】種々の界面活性剤濃度で調製した粒子の広角XRDパターンを示す図である。
【図11】種々の界面活性剤濃度で調製した粒子の低角XRDパターンを示す図である。
【図12】種々の界面活性剤濃度で調製した粒子の広角XRDパターンを示す図である。
【図13】種々の界面活性剤濃度で調製した粒子の低角XRDパターンを示す図である。
【図14】種々の界面活性剤濃度で調製した粒子の広角XRDパターンを示す図である。
【図15】調製した粒子のTEM写真である。
【図16】調製した粒子とCaDDSの比較に関する低角XRDパターンを示す図である。
【図17】調製した粒子とCaDDSの比較に関する広角XRDパターンを示す図である。
【図18】種々の界面活性剤濃度で調製した粒子の低角XRDパターンを示す図である。
【図19】種々の界面活性剤濃度で調製した粒子の広角XRDパターンを示す図である。
【図20】本実施形態に係る処理フローを説明する図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸カルシウム粒子の製造方法および略球状リン酸カルシウム粒子(亜)リン酸エステルの使用、リン酸源に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からリン酸カルシウム粒子およびリン酸カルシウム粒子の製造方法に関する研究はなされている。リン酸カルシウム粒子の生成法には水溶液反応などの液中反応を用いる湿式法や熱および圧力を加える乾式法、水熱法など従来から様々な方法があるが、大量に効率よく生産できることから一般的には水溶液反応などの液中反応を用いる場合が多い。リン酸カルシウム粒子たるアパタイト粒子がある。
【0003】
アパタイトは、生体親和性に優れた材料として知られており、アパタイトは、人間身体の骨を構成する物質と非常に類似の成分からなっているため、人工骨移植物質として脚光を浴びている。また、アパタイトは、生体用セラミックスの強化材、骨欠損部の充填材、重金属イオンの交換体、カラムクロマトグラフィの充填材、蛋白質及び核酸などの生体高分子物質やアミノ酸などの吸着材、抗菌及び防臭用材料として非常に様々な分野に適用されている。
【0004】
アパタイトの中でもハイドロキシアパタイト(以下HApともいう)粒子を挙げると、下記特許文献1、2の報告がある。ハイドロキシアパタイトは、一般式Ca10(PO4)6(OH)2-x・nH2O(0≦n≦2.5、0≦x≦2.5)で表わされる。
【0005】
特許文献1では界面活性剤―水―無極性有機液体を用いてW/Oマイクロエマルション相を形成させ、その溶液中でリン酸カルシウム粒子たるハイドロキシアパタイト粒子を合成する方法が開示されている。この系では温度を制御することでハイドロキシアパタイト粒子の形状や、粒子の配向性を制御しているものであり、数10nm〜数μmの球状、ロッド状、柱状のハイドロキシアパタイト粒子が調製できることが報告されている。
【0006】
また、特許文献2では、水存在下でα型第三リン酸カルシウムとリン酸水素アルカリ金属塩を反応させることで、短時間かつ穏和な条件下でハイドロキシアパタイト粒子を合成する方法が開示されている。
【0007】
ここで、生体材料について説明する。従来から人工骨としては耐磨耗性、生体親和性に優れるアルミナ(Al2O3)が用いられてきた。しかし、アルミナは体内に埋植すると繊維状の結合組織により被覆されてしまい、骨と直接接する部分が少なく、また骨と化学的に結合しない場合がある。これはアルミナだけでなく、これまで検討されてきた後述のバイオセラミックスなどに同様の課題があることが多い。これに対してハイドロキシアパタイトなどのリン酸カルシウムは骨などの生体硬組織の主成分であることから、骨と化学的に強く結合することが知られている。さらに動物実験などにより、ハイドロキシアパタイトなどのリン酸カルシウムは体内に埋植しても繊維性被膜による被包化は起こらず、新生骨と直接結合することが分かっており、その性質の特徴などから着目されている。
【0008】
これについて詳しく説明する。従来、脛骨や大腿骨等の大きな荷重がかかる部位の代替材料としては、ステンレス鋼、コバルト‐クロム系合金、チタン合金等の金属系材料、超高分子量ポリエチレン、アルミナ、ジルコニア等のセラミックスが用いられていたが、生体硬組織代替材料として利用されている上記のようなセラミックスは、バイオセラミックスと呼ばれている。このバイオセラミックスは、高強度であり、生体内で安定に存在する生体不活性セラミックスと、生体内において生体骨と直接結合する生体活性セラミックスとに大別することができる。前記生体不活性セラミックスは、生体との親和性には優れているが、直接結合することはほとんどない。このため、生体不活性セラミックスをインプラント材として用いた場合には、該インプラント材が骨等の生体組織と接する界面に薄い結合組織が形成され、周囲の骨とは機械的な嵌合によって固定されているにすぎなく長時間の使用により、緩み(ルーズニング)や脱落が生じるおそれがあるとも報告されている。これに対してハイドロキシアパタイト(HAp)、β‐リン酸三カルシウム(β‐TCP)などのリン酸カルシウムは、優れた生体親和性および骨伝導能を有していることから、人工骨、人工関節、人工歯根等として臨床応用がなされている。例えば、HApは、骨補填材として生体内に埋入した場合、これを足場として速やかに骨修復が行われ、新生骨と直接結合するという優れた骨伝導能を発揮すると報告されている。また、β‐TCPも、生体内で分解され、徐々に新生骨に置換するという特徴を有していると報告されている。
【0009】
【特許文献1】特開2002−137910号公報
【特許文献2】特開2001−348212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように生体材料等としてリン酸カルシウム材料は着目を集めているが、形態制御の精度向上など製造方法に関する課題も多い。
【0011】
上記特許文献2に記載の方法では、生成された個々のハイドロキシアパタイト粒子の形状を制御する方法が具体的に開示されているものではない。
【0012】
また、上記特許文献1については、生成された個々のハイドロキシアパタイト粒子の形状を制御する方法が開示されてはいるものの、O/WエマルションやW/Oエマルションを利用して水と油の界面を利用してハイドロキシアパタイト粒子の形態制御を行うものである。この形態制御方法では、ハイドロキシアパタイト粒子の形状を変化させる程度に留まるのが通常であり、球状や中空構造などハイドロキシアパタイト粒子が持つ性質を十分に活用できるまで生成させることができない場合も多い。
【0013】
特にハイドロキシアパタイト粒子は生体親和性や吸着能といった性質より、ドラッグデリバリーシステムの担体としての応用が見込まれているが、薬物を内包するためには、ハイドロキシアパタイト粒子が中空構造を有するカプセル形状を有していることが望ましい。また、その粒子サイズも人間の毛細血管内に収まることができる粒子径200nm程度以下であると好適である。しかしながら上記特許文献1、2に記載される方法ではこれらの条件を満たしたハイドロキシアパタイト粒子の製造方法とならないのが通常である。
【0014】
また、ハイドロキシアパタイト(HAp)、β‐リン酸三カルシウム(β‐TCP)などのリン酸カルシウムは、基本的に脆弱な材料であるため、その焼結体を人工骨や人工歯根に利用する場合には、機械的強度が問題となりやすい。HApやβ‐TCPの緻密体は、骨や歯と比較して、圧縮強度は十分である傾向だが、破壊靱性値、引張強度、曲げ強度等が不十分である傾向であるという課題を有している。また、これらの緻密体は、実際の骨と比較して、弾性率が高く、周囲の骨がやせ細る等の悪影響を及ぼすことも懸念され、荷重のかかる部位に使用することは困難である傾向にある。したがって、これらの問題をより改善するために、より優れた形態制御方法により個々のリン酸カルシウム粒子を制御して製造するリン酸カルシウム粒子の製造方法が望まれている。
【0015】
本発明は、上記課題等を解決することに鑑みてなされたものであり、より優れた形態制御方法により個々のリン酸カルシウム粒子を制御できるリン酸カルシウム粒子の製造方法、および新たな形状を有する略球状リン酸カルシウム粒子、以上等に好適な(亜)リン酸エステルの使用、リン酸源を提供することをその主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、リン酸カルシウム粒子の製造方法であって、カチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との混合により液中でベシクル形状の分子鋳型を形成させる分子鋳型形成工程と、前記分子鋳型を形成する界面活性剤分子の表面においてカルシウム源とリン酸源とを反応させ、リン酸カルシウムを生成させる生成工程とを含むことを特徴とする。
【0017】
前記リン酸カルシウムはアパタイトであると好適である。
【0018】
前記リン酸カルシウムはハイドロキシアパタイトであると好適である。
【0019】
前記カルシウム源は、硝酸カルシウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、酢酸カルシウムなどからなる群より選択された1種以上の塩であると好適である。
【0020】
前記リン酸源は、リン酸、第1リン酸ナトリウム、第2リン酸ナトリウム、第1リン酸カリウム、第2リン酸カリウム、第1リン酸アンモニウム、第2リン酸アンモニウムなどからなる群より選択された1種以上の塩であると好適である。
【0021】
前記分子鋳型の粒子径の大きさが20nm〜200nmであると好適である。
【0022】
前記生成工程における反応時間が60分〜90分であると好適である。
【0023】
前記リン酸カルシウム粒子の製造方法は、予め求められた前記カチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比と、リン酸カルシウムの生成速度との相関関係に応じて、所望の前記カチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比を選択する選択工程とを含むと好適である。
【0024】
前記リン酸カルシウム粒子の製造方法であって、前記リン酸源はリン酸アルコキシドを含むと好適である。
【0025】
前記リン酸エステルとして亜リン酸トリエチルを用いると好適である。
【0026】
本発明は、略球状リン酸カルシウム粒子であって、径の大きさ40nm〜200nmであり、かつ、中空構造を有することを特徴とする。
【0027】
本発明は、略球状リン酸カルシウム粒子であって、径の大きさ500nm〜2000nmであり、かつ、中空構造を有することを特徴とする。
【0028】
前記リン酸カルシウムはアパタイトであると好適である。
【0029】
前記リン酸カルシウムはハイドロキシアパタイトであると好適である。
【0030】
また、本発明は、リン酸源とカルシウム源とを反応させリン酸カルシウム粒子を製造する際に、前記リン酸源としての(亜)リン酸アルコキシドの使用を特徴とする。
【0031】
また、本発明は、リン酸源とカルシウム源とを反応させリン酸カルシウム粒子を生成する際のリン酸源であって、(亜)リン酸アルコキシドを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
本発明は、より優れた形態制御方法により個々のリン酸カルシウム粒子を制御できるリン酸カルシウム粒子の製造方法、および新たな形状を有する略球状リン酸カルシウム粒子、以上等に好適な(亜)リン酸エステルの使用、リン酸源を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明者は、より優れたリン酸カルシウム粒子の形態制御方法として水中などの単一溶媒中で界面活性剤が形成する分子集合体を鋳型としての形態制御に着目し、この形態制御方法を用いたリン酸カルシウム粒子の製造方法(テンプレート法)について鋭意検討した。その結果、アニオン/カチオン界面活性剤混合系では、界面活性剤の親水基間に静電的相互作用が働き、擬似二鎖型構造を有する界面活性剤を形成、単独系と異なる形態を有することを利用でき、また、組成比に依存して分子集合体の形状が大きく変化し、球状ミセルよりも大きな棒状ミセル、ベシクル、液晶、沈殿などの多種多様な分子集合体を形成制御でき、アニオン性界面活性剤が多量に含まれる領域では、この擬似二鎖型構造を利用して閉鎖小胞体であるベシクルを特異的に形成できることなどの利点があることを利用すれば、このアニオン/カチオン界面活性剤混合系が形成するナノ分子集合体を鋳型としたテンプレート法とすることで、規則的細孔構造や中空構造といった特異的構造を有する材料が調製できやすく、個々のリン酸カルシウム粒子をより形状を適切に制御できることを見出した。特に中空構造を有するリン酸カルシウム粒子のカプセルは内包物を選択的、および段階的に放出できるため、この内包物を選択的、および段階的に放出することが出来る分野(例えば香粧品や医薬分野など)で特に有用である。
【0034】
また、本発明者は上記リン酸カルシウム粒子の形態制御方法を用いると、新たな形状を有するリン酸カルシウム粒子を提供できることを見出すことが出来た。例えば、中空構造を有するカプセル形状を有しているリン酸カルシウム粒子および/または粒子径が40〜200nmであり、よりその形状を制御されたリン酸カルシウム粒子を提供することができることがわかった。
【0035】
以下本実施形態に係るリン酸カルシウム粒子およびリン酸カルシウム粒子の製造方法について説明する。なお、本実施形態は、本発明を実施するための一形態に過ぎず、本発明は本実施形態によって限定されるものではない。
【0036】
「リン酸カルシウム粒子およびその製造方法」
本実施形態に係るリン酸カルシウム粒子の製造方法は、カチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との混合により液中でベシクル形状の分子鋳型を形成させる分子鋳型形成工程と、前記分子鋳型を形成する界面活性剤分子の表面においてカルシウム源とリン酸源とを反応させ、リン酸カルシウムを生成させる生成工程とを含むことを特徴とする。
【0037】
リン酸系カルシウム粒子としては、特に限られることなく適宜選択して採用することが出来るが、ハイドロキシアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2)、β‐リン酸三カルシウム、アパタイト(アパタイトは、ハイドロキシアパタイトの化学式において水酸基(OH-)の位置に炭酸基(CO32-)、酸素基(O2-)、フッ素基(F-)、塩素基(Cl-)などの陰イオンが置換されたものを含む)などを主成分として含むものを好適例として、燐酸一カルシウム一水和物、燐酸一カルシウム無水物、燐酸二カルシウム二水和物、燐酸二カルシウム無水物、燐酸四カルシウム、オルト燐酸カルシウム燐酸塩、CaHPO4、Ca3(PO4)2、Ca4O(PO4)2、CaP4O11、Ca(PO3)2、Ca2P2O7、Ca(H2PO4)2、Ca2P2O7、Ca(H2PO4)2・H2Oを主成分として含むなどの粒子を挙げることができる。
【0038】
カチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子としては液中でベシクル形状の分子鋳型を形成させるものであれば特に限られることなく適宜選択して用いることができる。
【0039】
カチオン性界面活性剤分子としては、例えばセチルトリメチルアンモニウムブロミド(CH3(CH2)15N(CH3)3Br:CTAB)、第4級アンモニウム塩型[例えばテトラアルキル(C4〜100)アンモニウム塩(例えばラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジオクチルジメチルアンモニウムブロマイドおよびステアリルトリメチルアンモニウムブロマイド)、トリアルキル(C3〜80)ベンジルアンモニウム塩(例えばラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド(塩化ベンザルコニウム)、アルキル(C2〜60)ピリジニウム塩(例えばセチルピリジニウムクロライド)、ポリオキシアルキレン(C2〜4)トリアルキルアンモニウム塩(例えばポリオキシエチレントリメチルアンモニウムクロライド)およびサパミン型第4級アンモニウム塩(例えばステアラミドエチルジエチルメチルアンモニウムメトサルフェート)]およびアミン塩型[例えば高級脂肪族アミン(C12〜60、例えばラウリルアミン、ステアリルアミン、セチルアミン、硬化牛脂アミンおよびロジンアミン)の無機酸(例えば塩酸、硫酸、硝酸およびリン酸)塩または有機酸(C2〜22、例えば酢酸、プロピオン酸、ラウリル酸、オレイン酸、安息香酸、コハク酸、アジピン酸およびアゼライン酸)塩、脂肪族アミン(C1〜30)のEO付加物などの無機酸(上記のもの)塩または有機酸(上記のもの)塩および3級アミン(C3〜30、例えばトリエタノールアミンモノステアレートおよびステアラミドエチルジエチルメチルエタノールアミン)の無機酸(上記のもの)塩または有機酸(上記のもの)塩]などを挙げることができる。
【0040】
アニオン性界面活性剤分子としては、例えばオクチル硫酸ナトリウム(CH3(CH2)7SO4Na:SOS)またはその塩、カルボン酸(例えばC8〜22の飽和または不飽和脂肪酸およびエーテルカルボン酸)またはその塩、硫酸エステル塩〔例えば高級アルコール硫酸エステル塩(例えばC8〜18の脂肪族アルコールの硫酸エステル塩)および高級アルキルエーテル硫酸エステル塩[例えばC8〜18の脂肪族アルコールのEO(1〜10モル)付加物の硫酸エステル塩]〕、スルホン酸塩[C10〜20、例えばアルキルベンゼンスルホン酸塩(例えばドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)、アルキルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、スルホコハク酸ジアルキルエステル型、ハイドロカーボン(例えばアルカン、α−オレフィン)スルホン酸塩およびイゲポンT型]およびリン酸エステル塩[例えば高級アルコール(C8〜60)EO付加物リン酸エステル塩およびアルキル(C4〜60)フェノールEO付加物リン酸エステル塩]、さらに上記の塩として、例えばアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アルキルアミン(C1〜20)塩およびアルカノールアミン(C2〜12、例えばモノ−、ジ−およびトリエタノールアミン)塩などを挙げることができる。
【0041】
カチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との混合によりベシクル形状の分子鋳型を形成させる液としては、特に限られることなく適宜選択して用いることができるが、水、水溶液、無機溶媒、有機溶媒を挙げることができる。
【0042】
カチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との全濃度は、ベシクル形状の分子鋳型を形成させる全濃度であれば特に限られることなく適宜選択して用いることができるが、全濃度が20mM〜120mMであることを挙げることができる。
【0043】
カチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比は、ベシクル形状の分子鋳型を形成させる組成比であれば特に限られることなく適宜選択して用いることができるが、カチオン性界面活性剤分子:アニオン性界面活性剤分子が1:9〜3:7であるとベシクルのみが形成する相であるため好適である。
【0044】
カチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子がベシクル形状の分子鋳型を形成させる方法については、特に限られることなく適宜選択して採用することができるが、例えば、以下の(1)式で示される臨界充填パラメーター(CP)を用いてその方法を判断することもできる。
【0045】
【数1】
ここで、vは界面活性剤の親水基の体積、a0は親水基占有面積、lcは疎水基の最大有効鎖長を表している。
【0046】
この臨界充填パラメーター(CP)値により形成される分子集合体が決定され、CP<1/3では分子が円錐形となるので球状ミセルが、1/3<CP<1/2では棒状ミセル、1/3<CP<1では二分子膜ベシクル、CP=〜1では平面上二分子膜が幾何学的に安定な充填形態となることが知られている。また、CP>1のときは逆ミセルが形成されるとされている。
【0047】
分子鋳型形成工程後に、ベシクル形状の分子鋳型が形成しているかどうかを確認すると好適である。確認する方法は特に限られることなく適宜選択して採用することができるが、例えば、目視にてベシクル形状の分子鋳型特有の色が生成しているかを目視で確認する方法、cryo−TEMを用いてベシクルを直接観察する方法などを挙げることができる。
【0048】
また、分子鋳型形成工程後にベシクル形状の分子鋳型が所望の粒子径となっているかどうかを確認すると好適である。確認する方法は特に限られることなく適宜選択して採用することができるが、例えば、動的光散乱法により界面活性剤水溶液の粒子径分布測定を行うことにより確認する方法、cryo−TEMを用いてベシクルを直接観察することでベシクル径を確認する方法などを挙げることができる。
【0049】
分子鋳型の粒子径の大きさは、製造されるリン酸カルシウム粒子の大きさなどの要因によってその粒子径とすればよいが、例えばリン酸カルシウム粒子を40nm〜200nm
とするには分子鋳型の粒子径の大きさを20nm〜200nmとすると好適である。
【0050】
カルシウム源とリン酸源とを反応させ、リン酸カルシウムを生成させる生成工程について、カルシウム源およびリン酸源についてはリン酸カルシウムを生成させるものを、特に限られることなく適宜選択して用いることができる。
【0051】
カルシウム源としては、例えば、硝酸カルシウム(Ca(NO3)2)、炭酸カルシウム(CaCO3)、塩化カルシウム(CaCl2)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)又は酢酸カルシウム(Ca(CH3COO)2)などからなる群より選択された1種以上の塩などを挙げることできる。これらカルシウム源は一種または複数種混合して用いてもよい。
【0052】
リン酸源としては、例えばリン酸(H3PO4)、第1リン酸ナトリウム(NaH2PO4)、第2リン酸ナトリウム(Na2HPO4)、第1リン酸カリウム(KH2PO4)、第2リン酸カリウム(K2HPO4)、第1リン酸アンモニウム(NH4H2PO4)又は第2リン酸アンモニウム((NH4)2HPO4)などからなる群より選択された1種以上の塩などを挙げることができる。これらリン酸源は一種または複数種混合して用いてもよい。
【0053】
カルシウム源とリン酸源とを反応させ、リン酸カルシウムを生成させる際の反応液のpHは、適宜選択して採用することができるが、例えばpH8〜pH12の範囲とすることが下記不純物の混入を防ぐためやリン酸カルシウムの生成促進などの観点などから好適である。pHが8未満であると反応液中で不純物たる難溶性リン酸カルシウム化合物として、主にpH4〜6でのCaHPO4・2H2O(DCPD)またはCaHPO4、pH6〜7でのCa8H2(PO4)65H2O(OCP)などが生じやすくなる。またpH12を超えると反応液中で不純物たる水酸化カルシウムCa(OH)2が生成しやすくなる。
【0054】
カルシウム源とリン酸源とを反応させ、リン酸カルシウムを生成させる際の反応液の温度は、適宜選択して採用することができるが、例えば20℃〜30℃の範囲を挙げることができる。
【0055】
カルシウム源とリン酸源とを反応させ、リン酸カルシウムを生成させる際の反応時間は適宜選択して採用することができるが、例えば60分〜90分の範囲を挙げることができる。この反応時間であれば粒子内部までリン酸カルシウムが生成した充填構造となることを好適に防止することができ、中空構造を保つことができやすい。
【0056】
また、リン酸カルシウムの生成中、反応液を適宜攪拌すると好適である。
【0057】
生成工程後、リン酸カルシウム粒子/ベシクル鋳型複合溶液を得る。生成工程後、凝集物を除去するために濾過等してしてもよい。
【0058】
リン酸カルシウム粒子からベシクル鋳型を取り除きリン酸カルシウム粒子単独体を得ることもできる。リン酸カルシウム粒子からベシクル鋳型を取り除く方法は特に限られることなく適宜選択して採用することができるが、焼成処理によりベシクル鋳型を熱分解する方法などを挙げることができる。
【0059】
本実施形態によるリン酸カルシウム粒子の製造方法により、より優れた形態制御方法により個々のリン酸カルシウム粒子を制御できる。すなわち、アニオン/カチオン界面活性剤混合系では、界面活性剤の親水基間に静電的相互作用が働き、擬似二鎖型構造を有する界面活性剤を形成、単独系と異なる形態を有することを利用し、また、組成比に依存して分子集合体の形状が大きく変化し、球状ミセルよりも大きな棒状ミセル、ベシクル、液晶、沈殿などの多種多様な分子集合体を形成制御でき、アニオン性界面活性剤が多量に含まれる領域では、閉鎖小胞体であるベシクルを特異的に形成できることなどの利点を利用したリン酸カルシウム粒子の製造方法を提供することが出来る。これにより中空構造を有した微細な粒子等、新たな形状を有するリン酸カルシウム粒子を提供することができる。
【0060】
特に略球状リン酸カルシウム粒子であって、粒子径の大きさが40nm〜200nmであり、かつ、中空構造を有する略球状リン酸カルシウム粒子を得る方法として好適である。
【0061】
このリン酸カルシウム粒子であると粒子径200nm程度以下であるので人間の毛細血管内に収まることができる。また、中空構造を有するカプセル形状を有しているので薬物などを内包することができ、ドラッグデリバリーシステムの担体としての応用ができ好適である。特に生体親和性度の大きなアパタイト、特にハイドロキシアパタイトであると好適である。
【0062】
また、本実施形態によって製造された略球状のリン酸カルシウム粒子は、特に限られること苦なく適宜選択して適応した用途に用いることができる。例えば、アパタイトであると、人体移植用高強度アパタイト複合体、骨充填材及びゴムと製紙の充填材として用いられるためのアパタイト粒子、人体に供給される蛋白質或いは医薬品伝達体用に適したアパタイト粒子、及び抗菌及び防臭用材料として利用可能な様々な金属イオンと陰イオンあるいは各種の触媒を含有したアパタイト粒子などとして有用である。
【0063】
また、本発明者は、リン酸源としてリン酸エステルを用いるとリン酸カルシウムの生成速度を抑制し、粒子形状をより真の球形に近づけることができるなどの形状制御が可能になることや、疎水性であるエステルを用いることで、反応を鋳型であるベシクル表面近傍、もしくはベシクルを形成する界面活性剤分子の二分子膜中で選択的に起こさせることができ、溶液中でなくできるだけベシクル表面中近傍や二分子膜で起こさせることで生成効率を向上させることができることを見出した。
【0064】
リン酸カルシウム粒子とするには上記リン酸などのリン酸源とカルシウム源とを反応生成させることでリン酸カルシウム粒子を生成させるわけであるが、この生成反応は極めて起こりやすく、反応速度が大きい性格のものである。したがって、鋳型であるベシクル表面近傍に至る前にリン酸源とカルシウム源とが反応しリン酸カルシウム粒子が生成してしまいやすくなる。そこでそのままでは直接カルシウム源と反応することができず、上記リン酸などの直接カルシウム源と反応することができるリン酸源へ転換する性質があるリン酸エステルを用いることで反応速度を抑制することができる。これにより、リン酸源とカルシウム源とが鋳型であるベシクル表面近傍に至る前に反応しリン酸カルシウム粒子が生成してしまいやすくなることを防止すると共に、生成速度自体も抑制することができ、長時間のリン酸カルシウム結晶成長過程においても中空構造を維持できたり、粒子形状をより真の球形状に近づけることができるなどの形状制御が可能になる。
【0065】
さらにリン酸エステルは疎水性であるので水溶液中よりも疎水基を持つ界面活性剤分子からなる鋳型であるベシクル表面近傍に選択的に集まりやすくなり、リン酸源がベシクル表面近傍、もしくは二分子膜中に選択的に集まることになる。この選択的な集中作用によってリン酸源とカルシウム源とが反応するリン酸カルシウム粒子もベシクル表面近傍、もしくは二分子膜中で選択して生成されることになり、選択性が向上する。
【0066】
(亜)リン酸エステルとしては溶液中で直接カルシウム源と反応することができるリン酸源へ転換する性質を持つものであれば特に限られることなく適宜採用して選択することができるが、好適例としては亜リン酸トリエチルを挙げることができる。(亜)リン酸エステルとして亜リン酸トリエチルは亜リン酸トリイソプロピルよりも温和な条件で加水分解反応がおこり、また、亜リン酸トリメチルよりも加水分解反応が遅いため、本実施形態において好適である。
【0067】
ここで、直接カルシウム源と反応することができるリン酸源であるためにはオルトリン酸、またはオルト亜リン酸などのリン酸液類であることが必要である。また、直接カルシウム源と反応することができるリン酸源に転化できる条件としては、メトキシ基やエトキシ基を有する(亜)リン酸エステルであることが通常必要である。
【0068】
これにより、リン酸源とカルシウム源とを反応させリン酸カルシウム粒子を製造する際に、前記リン酸源としての(亜)リン酸エステルの使用であると、本実施形態のベシクル鋳型でのリン酸カルシウム粒子の製造に限られることなく、反応速度を抑制して様々なリン酸カルシウム粒子を製造することができる。リン酸源とカルシウム源とを反応させリン酸カルシウム粒子を生成する際のリン酸源であって、(亜)リン酸エステルを含ませると、従来公知の様々なリン酸カルシウム粒子の製造方法について反応速度を抑制して様々なリン酸カルシウム粒子を製造することができる。例えば、略球状リン酸カルシウム粒子であって、径の大きさ500nm〜2000nmであり、かつ、中空構造を有させることができる。500nm以上の粒径のリン酸カルシウム粒子では、結晶成長速度が大きく、内部まで結晶が成長し、充填構造となるがリン酸源として(亜)リン酸エステルを使用することによって反応速度を抑制させることができ、中空構造のリン酸カルシウム粒子を形成させることができる。
【0069】
また、本発明者は、カチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比と、リン酸カルシウムの生成速度とに相関関係があることを見出すに至った。
【0070】
これにより、カチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比と、リン酸カルシウムの生成速度との相関関係を例えば幾つかをサンプリングすることによりこれを相関関係のデータとして取得し、この相関関係に応じて所望の前記カチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比を選択するシステムとすれば、所望の得たいリン酸カルシウム粒子の形状や大きさを得ることができるようになる。すなわち、所望の得たいリン酸カルシウム粒子の中空構造、充填構造といった形状や外観構造、大きさがある場合には、予め取得したリン酸カルシウムの生成速度との相関関係に基づいてカチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比を求め、この組成比のカチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子を採用することで所望の得たいリン酸カルシウム粒子の中空構造、充填構造といった形状や外観構造、大きさを得ることができる。
【0071】
相関関係は、例えばカチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比に対して単位時間当たりのリン酸カルシウム粒子の大きさを求め、これからリン酸カルシウムの生成速度を算出した生成速度を用いることもできる。
【0072】
このようにして用いた生成速度を用い、あるカチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比であると生成速度がどの程度であるかを解析し、カチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比と生成速度をプロットする。好ましくはカチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比を変化させた複数固の鋳型についてそれぞれの組成比であると生成速度がどの程度を解析し、カチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比と生成速度の複数個のプロットによる相関関係を求めておくことが好ましい。
【0073】
求められた相関関係は記憶装置などに予め記憶しておくと好ましい。記憶装置は特に限られることがないが読み取り専用の記憶装置(ROM等)、読み書き可能な記憶装置(RAM等)など相関関係を記憶できる装置であれば特に限られることがない。
【0074】
所望の形状のリン酸カルシウム粒子を得るための選択方法は、予め取得された相関関係に応じてカチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比を選択する適切な方法であればよい。
【0075】
上記製造方法としては、例えば図20に示すような処理フローを実行するコンピュータを用いたシステムを用いた製造方法が挙げられる。コンピュータには予め記憶されたカチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比と製造されるリン酸カルシウム粒子の形状や大きさにするための生成速度の相関関係に応じて、カチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比を選択するステップを含むコンピュータプログラムが読み込まれている。
【0076】
リン酸カルシウム粒子を製造する製造者が所望とする大きさや形状のリン酸カルシウム粒子を製造することをキーボードなどの入力手段によってコンピュータ内のCPUに要求する(S1)。コンピュータ内のCPUはその所望とする大きさや形状のリン酸カルシウム粒子を得るためにその生成速度とするにはどの程度のカチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比を選択すればよいかが記憶された記憶装置にアクセスし(S2)、記憶装置に記憶された相関関係を読み出す(S3)。CPUは、読み出された相関関係に基づいてどの程度のカチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比を得ることができるのかを判断する(S4)。CPUによって判断されたカチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比の情報は、カチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比をその情報の組成比に選別する選別装置に伝達される(S5)。選別装置はその情報によって適切なカチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比を選別する(S6)。選別されカチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比を用いて、本実施形態に係るリン酸カルシウム粒子を製造する方法によって製造者が所望とする形状、大きさのリン酸カルシウム粒子を得る(S7)。
【0077】
上記システムを用いれば製造者が所望とする形状(構造も含む)、大きさのリン酸カルシウム粒子を得たい場合に、カチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比を選択することができることになる。略球状リン酸カルシウム粒子であって、粒子径の大きさが40nm〜200nmであり、かつ、中空構造を有する略球状リン酸カルシウム粒子を得ることも容易に出来ることになる。
【0078】
上記システムでリン酸源としてリン酸エステルを用いるとリン酸カルシウムの生成速度を抑制し、長時間のリン酸カルシウム結晶成長過程においても中空構造を維持できたり、粒子形状をより真の球形に近づけることができたりするなどの形状制御を可能とでき、さらに、疎水性であるエステルを用いることで、反応を鋳型であるベシクル表面近傍、もしくはベシクルを形成する界面活性剤分子の二分子膜中で選択的に起こさせることができ、溶液中でなくできるだけベシクル表面中近傍や二分子膜で起こさせることで生成効率を向上させることもできる。
【実施例】
【0079】
以下、本実施形態を実施例によりリン酸カルシウム粒子のうちハイドロキシアパタイト粒子の製造方法を挙げて、さらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されることはない。
【0080】
「実施例1」
25mlの超純水にアニオン性のオクチル硫酸ナトリウム(CH3(CH2)7SO4Na:SOS)およびカチオン性のセチルトリメチルアンモニウムブロミド(CH3(CH2)15N(CH3)3Br:CTAB)を全濃度60mMとなるように種々の組成比(SOS:CTAB=9:1,8:2,7:3)で添加し、溶解させた。
【0081】
調製した界面活性剤水溶液の目視観察より、全ての混合比においてベシクル溶液に特有である青白い色が目視により確認されたことから、ベシクルの形成が目視により確認された。
【0082】
次に、ベシクルの粒子径を確認するため、動的光散乱法により界面活性剤水溶液の粒子径分布測定を行ったところ、SOS/CTAB混合系では検討したいずれの混合比においてもベシクル径は約60nmであることが判明した。
【0083】
「実施例2」
実施例1で調製した界面活性剤水溶液中でハイドロキシアパタイト粒子の調製を試みた。
【0084】
<リン酸源にH3PO4を用いたHAp/界面活性剤複合粒子の調製および評価結果>
界面活性剤水溶液にCaCl2およびH3PO4を添加し、水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH8に調製した。その後、種々の時間撹拌し、ろ過により、凝集物を捕集することでハイドロキシアパタイト粒子/ベシクル複合溶液を得た。
【0085】
始めに、撹拌時間(反応時間)を12時間とし、種々のSOS/CTAB混合比で調製した溶液中でハイドロキシアパタイト粒子の調製を行った。図1に得られたハイドロキシアパタイト粒子/ベシクル複合溶液の動的光散乱測定結果、図2に透過型電子顕微鏡観察結果を示す。
【0086】
図1より、SOS:CTABの混合モル比8:2,7:3では約150nmの粒子および凝集物由来のピークが確認されたが、混合比を9:1にすることにより、約100nmの均一なナノ粒子を調製できることが判明した。
【0087】
また図2より、粒子径約200nmの球状粒子が確認されたが、中空構造を確認することはできなかった。これは、ハイドロキシアパタイト粒子の粒子成長がベシクルの内部にまで進行したためと考えられる。よって以後、反応時間を短くし、ハイドロキシアパタイト粒子の粒子成長を抑える必要があることが判明した。
【0088】
次に、ハイドロキシアパタイト粒子の粒子成長を抑えるため、撹拌時間(反応時間)を1時間として同様にハイドロキシアパタイト粒子の調製を行った。図3に得られたハイドロキシアパタイド/ベシクル複合溶液の動的光散乱測定結果を示し、図3の結果と合わせて表1に撹拌時間による粒子径の変化を示した。
【0089】
【表1】
【0090】
表1より、撹拌時間を1hにすることにより、粒子径が小さくなっていることが確認された。これは撹拌時間の減少に伴い、反応の進行が抑えられたことによるものと推測される。
【0091】
次に、得られた溶液について透過型電子顕微鏡観察を行った。図4に混合比8:2,1h撹拌で調製した粒子の透過型電子顕微鏡観察結果を示す。図4より、粒子径約100nmの中空構造を有する球状粒子が確認されたことから、ベシクルを鋳型としたハイドロキシアパタイト粒子/界面活性剤複合粒子の調製に成功した。
【0092】
以上の結果より、界面活性剤の混合比により調製できる粒子の形態やそのサイズが変化しているが、球状の粒子が多数生成していることから、ベシクルが鋳型となり、中空構造を有するリン酸カルシウム粒子が生成していると考えられる。
【0093】
「実施例3」
実施例1で調製した界面活性剤水溶液中でハイドロキシアパタイト粒子の調製を試みた。
【0094】
<リン酸源に亜リン酸トリエチル:P(OC2H5)3を用いたHAp/界面活性剤複合粒子の調製および評価結果>
界面活性剤水溶液にP(OC2H5)3を添加し、1時間撹拌した後、水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH12に調製した。その後、CaCl2水溶液を加え、24時間撹拌することでリン酸カルシウム粒子/ベシクル複合溶液を得た。
【0095】
図5〜図8に得られた粒子の透過型電子顕微鏡観察結果を示す。
【0096】
図5〜図8では500nm〜2000nm(2μm)の球状の粒子が確認された。また、図5および図6では、粒子の端よりも内部の方が明るく、電子線が透過しやすくなっていることから、中空形状であると考えられる。よって、中空構造を有する球状のリン酸カルシウム粒子が生成していることが確認された。
リン酸源としてリン酸エステルを用いず直接カルシウム源と反応するリン酸源を用いた場合結晶成長が内部まで進行するため24時間を経過した後も中空構造を維持していることはないと考えられる。これに対してリン酸源としてリン酸エステルを用いるとリン酸カルシウムの生成速度を抑制し、粒子形状をより真の球形に近づけたり、中空構造を形成できるという形状制御ができることがわかった。
【0097】
「参考例」
以下、参考例としてヘキサゴナル液晶を鋳型に用いたメソポーラスHAp粒子の調製を示す。
【0098】
<試料>カチオン性界面活性剤としては、セチルトリメチルアンモニウムクロリド(CH3(CH2)15N(CH3)3Cl:CTAC,Aldrich製)を使用した。
【0099】
アニオン性界面活性剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム(CH3(CH2)11SO4Na:SDS,和光純薬工業(株)製)を使用した。
【0100】
HAp前駆体として塩化カルシウム(CaCl2,和光純薬工業(株)製)、およびリン酸(H3PO4,和光純薬工業(株)製)を使用した。
【0101】
界面活性剤/HAp前駆体混合溶液のpH調製剤として水酸化ナトリウム(NaOH, 関東化学(株)製)を使用した。
【0102】
溶媒として超純水(>18.2MΩcm-1)を使用した。
【0103】
「参考例1」
<カチオン性界面活性剤を用いたHAp/界面活性剤複合粒子の調製および評価結果>
種々の濃度のCTAC水溶液にCaCl2およびH3PO4を添加し、NaOHを用いてpHを8に調製した。その後、種々の時間撹拌し、得られた生成物をろ過、洗浄、乾燥(120℃, 10h)することで、HAp/界面活性剤複合粒子を得た。
【0104】
得られた粒子の構造特性、結晶性の評価をX線回折装置(理学電気(株)製,RINT1100,CuKα線)を用いて行った。なお、測定サンプルは乳鉢により細かくすりつぶしたものを用いた。
【0105】
得られた粒子がもつ構造の評価を透過型電子顕微鏡(TEM)(日立ハイテクノロジーズ製,H−7650)観察して行った。サンプルには、乳鉢により細かくすりつぶした生成物を少量のエタノールに分散させ、カーボン補強済コロジオン膜貼付銅メッシュ(応研商事製)に数滴滴下し、乾燥させたものを用いた。
【0106】
鋳型となる界面活性剤濃度がHApの構造特性に与える影響を調べるため、CTAC濃度をを60−780mMの範囲で変化させてHAp/界面活性剤複合粒子の調製を行った。得られた粒子の粉末X線回折測定(XRD)結果を図9、10に示す。なお、比較試料として、HAP−100(太平化学産業製)を市販のHApとし、XRD測定結果を示した。
【0107】
図9より、全ての粒子において、規則的細孔構造に起因するピークは確認されなかった。これより、鋳型となるCTAC濃度が構造特性に与える影響は無いことが示唆された。
【0108】
一方、図10より、全ての粒子においてHApに帰属されるピークが確認されたことから、得られた粒子はHApであることが判明した。しかし、いずれの粒子もHApの結晶化が進行しているため、この結晶化が規則的細孔構造の形成を阻害していると考えられる。
【0109】
以上の結果より、HApの結晶化が規則的細孔構造の形成を阻害していることが示唆された。そこで、以後の実験では、CTAC濃度を60mMに固定して、結晶化を抑える方法について検討を行った。
【0110】
HApの結晶化を抑えるため、CTAC濃度を60mMに固定し、撹拌時間を0−24hの範囲で変化させてHAp/界面活性剤複合粒子の調製を行った。得られた粒子の粉末X線回折測定(XRD)結果を図11、12に示す。
【0111】
図11より、いずれの粒子においても規則的細孔構造に起因するピークは確認されなかった。これより、撹拌時間が構造特性に与える影響は無いことが示唆された。
【0112】
一方、図12より、撹拌時間が減少するに従い、HApの結晶化度が僅かながらに低下していることが確認されたが、撹拌時間0hにおいても結晶化が進行していることが確認された。このことより、撹拌時間によりHApの結晶化を抑えることは困難であることが確認された。
【0113】
以上の結果より、HApは短い反応時間においても結晶化してしまうことが確認された。これは、HApが鋳型のミセル表面上ではなく、バルクで生成していることが考えられる。
【0114】
「参考例2」
<アニオン性界面活性剤を用いたHAp/界面活性剤複合粒子の調製および評価結果>
種々の濃度のSDS水溶液にH3PO4を添加し、NaOHを用いてpHを12に調整した。その後、塩化カルシウム水溶液を加えて24h撹拌し、得られた生成物をろ過、洗浄、乾燥(120℃,10h)することで、HAp/界面活性剤複合粒子を得た。なお、調製は室温および60℃加温下で行った。
【0115】
得られた粒子の構造特性、結晶性の評価をX線回折装置(理学電気(株)製,RINT1100,CuKα線)を用いて行った。なお、測定サンプルは乳鉢により細かくすりつぶしたものを用いた。
【0116】
得られた粒子がもつ構造の評価を透過型電子顕微鏡(TEM)(日立ハイテクノロジーズ製,H‐7650)観察により行った。サンプルには、乳鉢により細かくすりつぶした生成物を少量のエタノールに分散させ、カーボン補強済コロジオン膜貼付銅メッシュ(応研商事製)に数滴滴下し、乾燥させたものを用いた。
【0117】
界面活性剤濃度がHApの構造特性に与える影響を調べるため、SDS濃度を8−96mMの範囲で変化させてHAp/界面活性剤複合粒子の調製を行った。得られた粒子の粉末X線回折測定(XRD)結果を図13、14に示す。なお、比較試料として、HAP−100(太平化学産業製)を市販のHApとし、XRD測定結果を示した。
【0118】
図13より、SDS濃度96mMで調製した粒子においてのみ、ラメラ構造に起因するピークが確認された。また、面間距離は一次ピークの回折角よりブラッグの式を用いて算出したところ、約3.09nmであることが判明した。
【0119】
一方、図14より、全ての粒子においてHApに帰属されるピークが確認された。しかし、SDS濃度96mMで調製した粒子では不純物とみられるピークも確認された。このことより、SDS濃度96mMで調製した粒子には多少の不純物が含まれていることが判明した。
【0120】
続いて、SDS濃度96mMで調製した粒子の構造を確認するため、TEM観察を行った。TEM観察結果を図15に示す。
【0121】
図15より、規則的な層状構造が確認された。また、TEM像より見積もられた面間距離は約3nmであり、XRD測定結果とほぼ一致していることが判明した。
【0122】
以上の結果より、SDS濃度96mMで調製した粒子は、多少の不純物がみられるものの、ラメラ構造を有するHAp/界面活性剤複合粒子であると推測された。
【0123】
室温下では水溶液中でSDSとカルシウムイオンは反応し、ジドデシル硫酸カルシウム(CaDDS)として析出することが知られている。そこで、この粒子による影響を調べるためにCaDDS粒子を調製し、XRD測定を行った。図16、17において調製したCaDDSと調製した粒子(SDS濃度96mM)のXRDパターンによる比較を行った。
【0124】
図16ではラメラ構造に起因するピーク、図17では不純物のピークが一致したため、上述で確認されたラメラ構造および不純物は析出したCaDDSに起因するものであることが確認された。
【0125】
CaDDSの析出を抑える為に、CaDDSのクラフト点(50℃)以上である、60℃加温下で調製を行った。得られた粒子の粉末X線回折測定(XRD)結果を図18、19に示す。
【0126】
図18より規則的細孔構造に起因するピークは確認されず、図19からはHApのみに帰属されるピークが確認された。
【0127】
以上の結果より、60℃加温下で調製したHAp粒子自体には規則的細孔構造は付与されていないことが確認された。これは、粒子形成後すぐに柱状に成長してしまうHAp粒子が曲率の大きなミセル表面上では生成しにくいことに起因するものではないかと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】12時間撹拌時のハイドロキシアパタイト粒子/ベシクル複合溶液の粒子径分布測定結果を示す図である。
【図2】混合比9:1,12時間撹拌で調製したハイドロキシアパタイト粒子/界面活性剤複合粒子の電子顕微鏡写真である。
【図3】1時間撹拌時のハイドロキシアパタイト粒子/ベシクル複合溶液の粒子径分布測定結果である。
【図4】混合比8:2,1時間撹拌で調製したハイドロキシアパタイト粒子/界面活性剤複合粒子の電子顕微鏡写真である。
【図5】混合比9:1, 24時間撹拌で調製したリン酸カルシウム/界面活性剤複合粒子の電子顕微鏡写真である。
【図6】混合比9:1, 24時間撹拌で調製したリン酸カルシウム/界面活性剤複合粒子の電子顕微鏡写真である。
【図7】混合比8:2, 24時間撹拌で調製したリン酸カルシウム/界面活性剤複合粒子の電子顕微鏡写真である。
【図8】混合比7:3, 24時間撹拌で調製したリン酸カルシウム/界面活性剤複合粒子の電子顕微鏡写真である。
【図9】種々の界面活性剤濃度で調製した粒子の低角XRDパターンを示す図である。
【図10】種々の界面活性剤濃度で調製した粒子の広角XRDパターンを示す図である。
【図11】種々の界面活性剤濃度で調製した粒子の低角XRDパターンを示す図である。
【図12】種々の界面活性剤濃度で調製した粒子の広角XRDパターンを示す図である。
【図13】種々の界面活性剤濃度で調製した粒子の低角XRDパターンを示す図である。
【図14】種々の界面活性剤濃度で調製した粒子の広角XRDパターンを示す図である。
【図15】調製した粒子のTEM写真である。
【図16】調製した粒子とCaDDSの比較に関する低角XRDパターンを示す図である。
【図17】調製した粒子とCaDDSの比較に関する広角XRDパターンを示す図である。
【図18】種々の界面活性剤濃度で調製した粒子の低角XRDパターンを示す図である。
【図19】種々の界面活性剤濃度で調製した粒子の広角XRDパターンを示す図である。
【図20】本実施形態に係る処理フローを説明する図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸カルシウム粒子の製造方法であって、
カチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との混合により液中でベシクル形状の分子鋳型を形成させる分子鋳型形成工程と、
前記分子鋳型を形成する界面活性剤分子の表面においてカルシウム源とリン酸源とを反応させ、リン酸カルシウムを生成させる生成工程とを含むリン酸カルシウム粒子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のリン酸カルシウム粒子の製造方法であって、
前記リン酸カルシウムはアパタイトであるリン酸カルシウム粒子の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のリン酸カルシウム粒子の製造方法であって、
前記アパタイトはハイドロキシアパタイトであるリン酸カルシウム粒子の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載のリン酸カルシウム粒子の製造方法であって、
前記カルシウム源は、硝酸カルシウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、酢酸カルシウムなどからなる群より選択された1種以上の塩であるリン酸カルシウム粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つに記載のリン酸カルシウム粒子の製造方法であって、
前記リン酸源は、リン酸、第1リン酸ナトリウム、第2リン酸ナトリウム、第1リン酸カリウム、第2リン酸カリウム、第1リン酸アンモニウム、第2リン酸アンモニウムなどからなる群より選択された1種以上の塩であるリン酸カルシウム粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1つに記載のリン酸カルシウム粒子の製造方法であって、
前記分子鋳型の粒子径の大きさが20nm〜200nmであるリン酸カルシウム粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1つに記載のリン酸カルシウム粒子の製造方法であって、
前記生成工程における反応時間が60分〜90分であるリン酸カルシウム粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1つに記載のリン酸カルシウム粒子の製造方法であって、
予め求められた前記カチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比と、リン酸カルシウムの生成速度との相関関係に応じて、所望の前記カチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比を選択する選択工程とを含むリン酸カルシウム粒子の製造方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1つに記載のリン酸カルシウム粒子の製造方法であって、
前記リン酸源は(亜)リン酸エステルを含むリン酸カルシウム粒子の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載のリン酸カルシウム粒子の製造方法であって、
前記(亜)リン酸エステルとして亜リン酸トリエチル:P(OC2H5)3を用いるリン酸カルシウム粒子の製造方法。
【請求項11】
略球状リン酸カルシウム粒子であって、粒子径の大きさが40nm〜200nmであり、
かつ、中空構造を有する略球状リン酸カルシウム粒子。
【請求項12】
略球状リン酸カルシウム粒子であって、粒子径の大きさが500nm〜2000nmで
あり、かつ、中空構造を有する略球状リン酸カルシウム粒子。
【請求項13】
請求項11または12に記載の略球状リン酸カルシウム粒子であって、
前記リン酸カルシウムはアパタイトである略球状リン酸カルシウム粒子。
【請求項14】
請求項13に記載の略球状リン酸カルシウム粒子であって、
前記アパタイトはハイドロキシアパタイトである略球状リン酸カルシウム粒子。
【請求項15】
リン酸源とカルシウム源とを反応させリン酸カルシウム粒子を製造する際に、
前記リン酸源としての(亜)リン酸エステルの使用。
【請求項16】
リン酸源とカルシウム源とを反応させリン酸カルシウム粒子を生成する際のリン酸源であって、(亜)リン酸エステルを含むリン酸源。
【請求項1】
リン酸カルシウム粒子の製造方法であって、
カチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との混合により液中でベシクル形状の分子鋳型を形成させる分子鋳型形成工程と、
前記分子鋳型を形成する界面活性剤分子の表面においてカルシウム源とリン酸源とを反応させ、リン酸カルシウムを生成させる生成工程とを含むリン酸カルシウム粒子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のリン酸カルシウム粒子の製造方法であって、
前記リン酸カルシウムはアパタイトであるリン酸カルシウム粒子の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のリン酸カルシウム粒子の製造方法であって、
前記アパタイトはハイドロキシアパタイトであるリン酸カルシウム粒子の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載のリン酸カルシウム粒子の製造方法であって、
前記カルシウム源は、硝酸カルシウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、酢酸カルシウムなどからなる群より選択された1種以上の塩であるリン酸カルシウム粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つに記載のリン酸カルシウム粒子の製造方法であって、
前記リン酸源は、リン酸、第1リン酸ナトリウム、第2リン酸ナトリウム、第1リン酸カリウム、第2リン酸カリウム、第1リン酸アンモニウム、第2リン酸アンモニウムなどからなる群より選択された1種以上の塩であるリン酸カルシウム粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1つに記載のリン酸カルシウム粒子の製造方法であって、
前記分子鋳型の粒子径の大きさが20nm〜200nmであるリン酸カルシウム粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1つに記載のリン酸カルシウム粒子の製造方法であって、
前記生成工程における反応時間が60分〜90分であるリン酸カルシウム粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1つに記載のリン酸カルシウム粒子の製造方法であって、
予め求められた前記カチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比と、リン酸カルシウムの生成速度との相関関係に応じて、所望の前記カチオン性界面活性剤分子とアニオン性界面活性剤分子との組成比を選択する選択工程とを含むリン酸カルシウム粒子の製造方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1つに記載のリン酸カルシウム粒子の製造方法であって、
前記リン酸源は(亜)リン酸エステルを含むリン酸カルシウム粒子の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載のリン酸カルシウム粒子の製造方法であって、
前記(亜)リン酸エステルとして亜リン酸トリエチル:P(OC2H5)3を用いるリン酸カルシウム粒子の製造方法。
【請求項11】
略球状リン酸カルシウム粒子であって、粒子径の大きさが40nm〜200nmであり、
かつ、中空構造を有する略球状リン酸カルシウム粒子。
【請求項12】
略球状リン酸カルシウム粒子であって、粒子径の大きさが500nm〜2000nmで
あり、かつ、中空構造を有する略球状リン酸カルシウム粒子。
【請求項13】
請求項11または12に記載の略球状リン酸カルシウム粒子であって、
前記リン酸カルシウムはアパタイトである略球状リン酸カルシウム粒子。
【請求項14】
請求項13に記載の略球状リン酸カルシウム粒子であって、
前記アパタイトはハイドロキシアパタイトである略球状リン酸カルシウム粒子。
【請求項15】
リン酸源とカルシウム源とを反応させリン酸カルシウム粒子を製造する際に、
前記リン酸源としての(亜)リン酸エステルの使用。
【請求項16】
リン酸源とカルシウム源とを反応させリン酸カルシウム粒子を生成する際のリン酸源であって、(亜)リン酸エステルを含むリン酸源。
【図1】
【図3】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図15】
【図3】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図15】
【公開番号】特開2008−56513(P2008−56513A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−233098(P2006−233098)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【出願人】(598069939)
【出願人】(501403014)
【出願人】(501370945)株式会社日本ボロン (33)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【出願人】(598069939)
【出願人】(501403014)
【出願人】(501370945)株式会社日本ボロン (33)
【Fターム(参考)】
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