説明

リン酸セリウムおよび/またはテルビウムとナトリウムとを含むコア/シェル型の組成物、この組成物に由来する蛍光体、ならびにこの調製方法

本発明の組成物は、無機コアおよび無機コアを均一に覆うシェルにより形成される粒子を含む型であり、シェルはセリウムおよび/またはテルビウム、場合によりランタンを共に含むリン酸塩に基づくものである。この組成物は、多くても7000ppmの濃度のナトリウムを含有することを特徴とする。本発明の蛍光体は、少なくとも1000℃で組成物を焼成することにより得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸セリウムおよび/またはテルビウムとナトリウム、場合によりランタンを共に含むコア/シェル型の組成物、この組成物から得られる蛍光体、ならびにこれらの調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リン酸混合ランタンセリウムテルビウム(以下、LaCeTbリン酸塩と表す。)は、ルミネセンス特性でよく知られており、可視領域よりも短い波長(照明またはディスプレイシステム用にはUVまたはVUV照射)を有するある種の高エネルギー放射の照射により鮮緑光を発する。この特性を利用する蛍光体は、工業規模で通常使用されており、例えば、三原色蛍光ランプ、液晶ディスプレイ用バックライトシステム、またはプラズマシステムにおいて、使用されている。
【0003】
この蛍光体は希土類元素を含有し、コストは高いだけではなく、大幅に変動する。従って、蛍光体のコスト削減は重要な課題である。
【0004】
また、テルビウムなど、ある種の希土類元素は希少であるため、蛍光体中の量を削減することが求められる。
【0005】
また、蛍光体のコスト削減のほか、調製方法の改善が求められている。
【0006】
とりわけ、湿式加工法は、例えばEP0581621に記載された方法などが、LaCeTbリン酸塩の製造法として知られている。この方法は、限られた粒径分布においてリン酸塩の粒径を改善することができ、とりわけ高性能の蛍光体が得られる。記載された方法は、より具体的には希土類元素塩などの硝酸塩を利用する。塩基として水酸化アンモニウムの使用を勧めているが、これには窒素生成物が排出されるという欠点がある。結果的には、この方法により高性能な生成物が得られるが、排出が禁止または制限されるさらに厳しい環境法律に従うため、実施はより複雑になることがある。
【0007】
確かに、アルカリ金属水酸化物など、水酸化アンモニウム以外の特に強い塩基を使用することができるが、アルカリ金属がリン酸塩中に生じてしまう。アルカリ金属が存在することによって、蛍光体のルミネセンス特性が低下しやすくなると考えられる。
【0008】
従って、現在、硝酸塩または水酸化アンモニウムをほとんど使用しないか、または使用しない調製方法、および得られる生成物のルミネセンス特性に悪影響のない調製方法に対するニーズがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0581621号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述の課題および要求を満たすため、本発明の第1の目的は、低価格の蛍光体を提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、窒素生成物の排出を制限するか、またはこの生成物を排出しないリン酸塩の調製方法を考案することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的に基づいて、本発明の組成物は、無機コアおよび無機コアを均一に覆うシェルからなる粒子を含む型である。このシェルは希土類元素(Ln)のリン酸塩に基づくものであり、Lnはセリウムおよびテルビウムから選択される希土類元素の少なくとも1つ、または前述の2つの希土類元素のうちの少なくとも1つとランタンの組合せのいずれかである。この組成物は最大でも7000ppmのナトリウムを含有することを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の他の特徴、詳細、利点は、以下の明細書、および説明を意図した様々な具体的であるが制限されない実施例を読むことにより、さらに十分に明らかになるであろう。
【0014】
また、他に指示されない限り、明細書の他の部分において、所与の範囲の値または限界値はすべて、境界の値を含む。従って、定義される範囲の値または限界値は、少なくとも下限値以上および/または最高でも上限値以下の任意の値を含むことに注意すべきである。
【0015】
また、明細書全体において、ナトリウム含有量は2つの技術を用いて測定されることをここで述べる。1つは、少なくとも約100ppmのナトリウム含有量を測定することができる蛍光X線技術である。この技術は、より具体的にはナトリウム含有量が最大となるリン酸塩もしくは前駆体または蛍光体に使用される。2つ目の技術は、誘導結合プラズマ−原子分光分析法(ICP−AES:Inductively Coupled Plasma−Atomic Emission Spectroscopy)または誘導結合プラズマ−発光分光分析法(ICP−OES:Inductively Coupled Plasma−Optical Emission Spectroscopy)技術である。この技術は、ここではより具体的には、ナトリウム含有量が最低である、特に約100ppm未満の含有量である前駆体または蛍光体で使用される。
【0016】
「希土類元素」という語は、明細書の他の部分において、スカンジウム、イットリウム、および周期表の原子番号57から71の元素により形成される群の元素を意味することと理解する。
【0017】
「比表面積」という語は、クリプトン吸収により測定されるBET比表面積を意味することと理解する。本明細書中の表面積は、粉末を8時間、200℃で脱気した後、ASAP2010機器を用いて測定した。
【0018】
上述したように、本発明は2種類の生成物に関しており、1つはリン酸塩含有組成物(以下、組成物または前駆体ともいう)、もう1つはこれらの前駆体から得られる蛍光体である。この蛍光体自体が、所望の適用に直接使用するのに十分なルミネセンス特性を有する。前駆体はルミネセンス特性を有さないか、または場合によりルミネセンス特性を有するが、一般的に同一の適用には低すぎる。
【0019】
次に、これら2種類の生成物を、より詳細に述べる。
【0020】
リン酸塩含有組成物または前駆体
本発明のリン酸塩含有組成物は、以下に述べる特定のコア/シェル構造を第1の特徴とする。
【0021】
無機コアは、特に無機酸化物またはリン酸塩であり得る原料に基づくものである。
【0022】
酸化物のうち、特に酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム(アルミナ)および希土類元素の酸化物を挙げることができる。希土類元素の酸化物としては、さらにより具体的には、酸化ガドリニウム、酸化イットリウムおよび酸化セリウムを挙げることができる。
【0023】
好ましくは、酸化物は酸化イットリウム、酸化ガドリニウムおよびアルミナを選択するのがよい。
【0024】
リン酸塩のうち、1種以上の希土類元素のオルトリン酸塩であり、場合によってはドーパントとして作用する1つ、例えばオルトリン酸ランタン(LaPO)、オルトリン酸ランタンセリウム((LaCe)PO)、オルトリン酸イットリウム(YPO)および希土類元素またはアルミニウムのポリリン酸塩などを挙げることができる。
【0025】
1つの特定の実施形態によれば、コアの原料はオルトリン酸ランタン、オルトリン酸ガドリニウムまたはオルトリン酸イットリウムである。
【0026】
アルカリ土類リン酸塩、例えばCa、リン酸ジルコニウムZrPおよびアルカリ土類ヒドロキシアパタイト類なども挙げることができる。
【0027】
例えば特に希土類元素バナジン酸塩(YVO)であるバナジン酸塩、ゲルマン酸塩、シリカ、特にケイ酸亜鉛またはケイ酸ジルコニウムであるケイ酸塩、タングステン酸塩、モリブデン酸塩、硫酸塩(BaSO)、ホウ酸塩(YBO、GdBO)、炭酸塩およびチタン酸塩(BaTiOなど)、ジルコン酸塩、ならびに例えばMgAl、BaAlまたはBaMgAl1017である、アルミン酸バリウムおよび/またはアルミン酸マグネシウムなどの、場合により希土類元素によりドープされたアルカリ土類金属アルミン酸塩などのその他の無機化合物が、さらに適している。
【0028】
最後に、例えば、ジルコニウムセリウム混合酸化物など、特に希土類元素酸化物である混合酸化物、特に希土類元素混合リン酸塩である混合リン酸塩、およびリンバナジン酸塩など、上記の化合物由来の化合物が適している場合もある。
【0029】
また、コアの原料は、特定の光学特性、特にUV反射特性を有することができる。
【0030】
「無機コアが、に基づくものである」という表現は、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも70重量%、より好ましくは少なくとも80重量%、またはさらに90重量%の当該原料を含む集合を表すことと理解する。1つの特定の実施形態によれば、コアは本質的に前記原料からなるか(即ち、例えば少なくとも98重量%もしくはさらに少なくとも99重量%など、少なくとも95重量%の含有量)、または完全にこの原料からなり得る。
【0031】
次に、本発明の幾つかの有利な実施形態を以下に述べる。
【0032】
第1の実施形態によれば、コアは高密度原料から作られる。これは実際には、一般的に十分に結晶化した原料、または低比表面積を有する原料に相当する。
【0033】
「低比表面積」という表現は、最大でも5m/g、より具体的には最大でも2m/g、さらにより具体的には最大でも1m/g、および特に最大でも0.6m/gの比表面積を意味することと理解する。
【0034】
別の実施形態によれば、コアは温度安定性原料に基づくものである。これが意味するのは、高融点を有し、副産物に分解されず、同じ温度で蛍光体としての適用に問題があり、結晶のままであり、従って同温度で再度非結晶性に転換されない原料である。本明細書で意図される高温とは、少なくとも900℃を超える温度、好ましくは少なくとも1000℃を超える温度、さらに好ましくは少なくとも1200℃である。
【0035】
第3の実施形態は、上記2つの実施形態の特徴を組み合わせたコア原料を使用することであり、従って、低比表面積を有する温度安定性原料を使用することである。
【0036】
上述した実施形態の少なくとも1つによるコアを使用することは、多くの利点を有する。第1に、前駆体のコア/シェル構造は、これに由来する蛍光体中で特に良好に維持され、最大のコスト優位性を獲得することができる。
【0037】
さらに、前述した実施形態の少なくとも1つによるコアを使用する製造において、本発明の前駆体から得られる蛍光体は、同じ組成物であるがコア/シェル構造を有さない蛍光体のフォトルミネセンス効率と同等であるだけでなく、ある場合ではより優れた効率を発揮する。
【0038】
コアの原料を、特に公知の溶融塩技術を用いて圧縮することができる。この技術は、圧縮する原料を場合により、例えばアルゴン/水素混合物などの還元性雰囲気中、融剤の存在下で、例えば少なくとも900℃の高温に置くことからなる。この融剤は、塩化物(例えば、塩化ナトリウムまたは塩化ナトリウム)、フッ化物(例えば、フッ化リチウム)、ホウ酸塩(ホウ酸リチウム)、炭酸塩およびホウ酸から選択することができる。
【0039】
コアは、特に1から10μmの平均粒径を有することができる。
【0040】
この径は、走査電子顕微鏡法(SEM:scanning electron microscopy)により測定することができ、少なくとも150の粒子から統計的に算出される。
【0041】
コアの寸法、以下に述べるシェルの寸法も同様に、本発明のリン酸塩/前駆体の断面について、特に透過電子顕微鏡を用いて測定することができる。
【0042】
本発明の組成物/前駆体のその他の構造的特徴は、シェルである。
【0043】
このシェルは、本発明の1つの特定の実施形態によると、300nm以上の所与の厚さでコアを均一に覆う。「均一な層」という語は、コアを完全に覆い、所与の値以上の厚みを有する連続した層を意味することと理解する。この厚みは好ましくは、例えば前述した特定の実施形態によるシェルの場合は300nmである。この均一性は走査電子顕微鏡によって、特に可視化することができる。X線回折(XRD)測定によって、コアの組成物とシェルの組成物である2つの別々の組成物の存在がさらに明らかにされる。
【0044】
シェルの厚みは、より具体的には少なくとも500nmでよい。また、2000nm(2μm)以下、より具体的には1000nm以下でよい。
【0045】
シェルは、以下でより詳細に述べる、特定の希土類元素(Ln)リン酸塩に基づくものである。
【0046】
シェルのリン酸塩は(他の残りのリン酸塩含有種が存在可能であるが)必須的に、好ましくは、完全にオルトリン酸塩型である。
【0047】
シェルのリン酸塩は、セリウムもしくはテルビウムのリン酸塩、またはこの2つの希土類元素の組合せである。この前述した2つの希土類元素のうちの少なくとも1つとリン酸ランタンとの組合せでもよく、また最も具体的には、リン酸ランタンセリウムテルビウムでよい。
【0048】
これら様々な希土類元素の各比率は、大きく異なっていてよく、より具体的には以下に挙げる範囲値内でよい。従って、シェルのリン酸塩は以下の一般式(1)を満たすことができる生成物を必須的に含む。
【0049】
LaCeTbPO(1)
式中、x+y+zの合計は1であり、yおよびzのうちの少なくとも1つは0ではない。
【0050】
上記式(1)において、xはより具体的には0.2から0.98でよく、さらにより具体的には0.4から0.95でよい。
【0051】
式(1)において、xおよびyの少なくとも1つが0でなければ、zは好ましくは最大でも0.5であり、zは0.05から0.2、より具体的には0.1から0.2でよい。
【0052】
yおよびzが共に0でなければ、xは0.2から0.7、より具体的には0.3から0.6でよい。
【0053】
zが0であれば、yはより具体的には、0.02から0.5、さらにより具体的には0.05から0.25でよい。
【0054】
yが0であれば、zはより具体的には、0.05から0.6、さらにより具体的には0.08から0.3でよい。
【0055】
xが0であれば、zはより具体的には、0.1から0.4でよい。
【0056】
以下のより詳しい組成物を、単に例として挙げることができる。
【0057】
La0.44Ce0.43Tb0.13PO
La0.57Ce0.29Tb0.14PO
La0.94Ce0.06PO
Ce0.67Tb0.33PO
上述した他の残りのリン酸塩含有種の存在は、シェルの全リン酸塩に対して、Ln(全希土類元素)/POモル濃度比が、1未満であり得ると言うことができる。
【0058】
シェルのリン酸塩は、特にルミネセンス特性に関するプロモータとして、またはセリウムおよびテルビウム元素の酸化状態を安定化させる安定剤として従来から作用している他の元素を含むことができる。かかる元素の他の例としては、より具体的にはホウ素、およびスカンジウム、イットリウム、ルテニウム、ガドリニウムなど、他の希土類元素を挙げることができる。ランタンが存在すると、より具体的には前述した希土類元素が、この元素に代わって存在することができる。これらのプロモータまたは安定剤元素は、ホウ素の場合、シェルのリン酸塩の全重量に対して、一般に最大でも1重量%の量で存在し、上述の他の元素の場合、一般に最大でも30重量%の量で存在する。
【0059】
シェルのリン酸塩は、本発明の実施形態によって、3つの型の結晶構造を有することができる。これらの結晶構造はXRDを用いて特定することができる。
【0060】
第1の実施形態によると、シェルのリン酸塩は、まずモナザイト結晶構造を有することができる。
【0061】
別の実施形態によると、リン酸塩はラブドフェーン構造を有することができる。
【0062】
最後に、第3の実施形態によると、シェルのリン酸塩はラブドフェーン/モナザイト混合構造を有することができる。
【0063】
モナザイト構造は、調製後に一般的に少なくとも600℃の温度で熱処理が行われる組成物と一致する。
【0064】
ラブドフェーン構造は、調製後に熱処理が行われないか、または一般的に400℃を超えない温度で熱処理が行われる組成物と一致する。
【0065】
熱処理が行われない組成物のシェルのリン酸塩は、一般的に水和している。しかし、例えば60から100℃で実施する簡単な乾燥操作は、存在する水分の大部分を取り除き、実質的に無水の希土類元素リン酸塩を得るには十分であり、残存する少量の水は約400℃を超えるより高い温度で行う焼成により除去される。
【0066】
ラブドフェーン/モナザイト混合構造は、少なくとも400℃、場合によっては400℃から500℃である、600℃未満までの温度で熱処理が行われる組成物と一致する。
【0067】
好ましい実施形態によれば、シェルのリン酸塩は純粋相である。言い換えると、実施形態に応じて、単一のモナザイト相であるかラブドフェーン相であるかが、XRDディフラクトグラムによって明らかにされる。しかし、リン酸塩が純粋相でない場合でも、生成物のXRDディフラクトグラムにより、ごくわずかな他の相の存在が示される。
【0068】
本発明の組成物の重要な特徴の1つは、ナトリウムを含有するということである。
【0069】
本発明の好ましい実施形態によれば、このナトリウムはシェルの大部分に存在し(少なくとも50%のナトリウムを意味する。)、好ましくは、シェルに必須的であり(少なくとも80%のナトリウムを意味する。)、またはさらにシェル全体に存在する。
【0070】
ナトリウムがシェル内に存在するとき、単にシェルのリン酸塩以外の構成要素との混合物として存在しているのではなく、1つ以上のリン酸塩の構成化学要素と化学結合を形成していると考えることができる。大気圧下で蒸留水を用いた簡単な洗浄により、シェルのリン酸塩中に存在するナトリウムが取り除かれないということで、この結合の化学的性質を明示することができる。
【0071】
上述したように、最大のナトリウム含有量は、最大でも7000ppm、より具体的には最大でも6000ppm、さらにより具体的には最大でも5000ppmである。この含有量は、ここでおよび明細書を通して、組成物の全質量に対するナトリウム元素の質量として表される。
【0072】
さらにより具体的には、組成物のナトリウム含有量は、上述の実施形態、即ちシェルのリン酸塩の結晶構造によって決定することができる。
【0073】
従って、シェルのリン酸塩がモナザイト構造を有していれば、この含有量はより具体的には、最大でも4000ppmでよい。
【0074】
シェルのリン酸塩がラブドフェーンまたはラブドフェーン/モナザイト混合構造を有する場合、ナトリウム含有量は前の場合よりも高くなることがあり、さらにより具体的には、最大でも5000ppmでよい。
【0075】
最小ナトリウム含有量は重要ではない。これは、ナトリウム含有量を測定するのに使用する分析技術により、検出可能な最小の値に相当する。しかし、一般的に、この最小の含有量は、とりわけシェルのリン酸塩がどのような結晶構造であっても、少なくとも300ppmである。
【0076】
この含有量は、より具体的には少なくとも1000ppmであり、さらにより具体的には少なくとも1200ppmでよい。
【0077】
1つの特定の実施形態によれば、ナトリウム含有量は1400から2500ppmでよい。
【0078】
本発明の1つの特定の実施形態によれば、組成物はアルカリ金属元素として、ナトリウムのみを含有する。
【0079】
本発明の組成物/前駆体は、好ましくは1.5μmから15μmの平均粒径を有する粒子からなる。この径はより具体的には3μmから10μm、さらにより具体的には4μmから8μmとすることができる。
【0080】
参照した平均粒径は、粒子の母集団の径の体積基準である。
【0081】
ここでおよび明細書の他の部分で与えられる粒径は、サンプル粒子を1分30秒間、超音波(130W)に供した水に分散し、例えば、マルバーンレーザー粒径分析器を用いて、レーザー粒径分析の技術により測定される。
【0082】
さらに、粒子は低い分散指標を有することが好ましく、通常最大でも0.7、より具体的には最大でも0.6、さらにより具体的には最大でも0.5である。
【0083】
粒子の母集団に関する「分散指標」という語は、本明細書の内容において、以下に定義するような比率Iを意味することと理解し、
I=(D84−D16)/2D50
式中、D84は84%の粒子がD84未満の径を有する粒子径であり;
16は16%の粒子がD16未満の径を有する粒子径であり;および
50は50%径の粒子がD50未満の径を有する粒子の平均粒径である。
【0084】
本発明による組成物または前駆体は、生成物の組成によって変化する波長、および所与の波長の放射に曝露すると変化する波長(例えば、リン酸ランタンセリウムテルビウムの場合、254nmの波長の放射に曝露すると約540nm、即ち緑の波長)でルミネセンス特性を有する。しかし、生成物の後処理を実施することにより、このルミネセンス特性をさらに改善することもでき、むしろ必要であり、所望の適用において、これ自体を直接使用することができる本物の蛍光体が得られる。
【0085】
単一の希土類元素リン酸塩と実際の蛍光体間の境界は不定であり、使用者が生成物を直接、満足に使用することができるとされる上記ルミネセンス閾値によって決まると理解する。
【0086】
本発明の場合、約900℃を超える熱処理が行われない本発明による組成物は、かなり一般的に蛍光体前駆体と見なされ、同定されることがある。これは、これらの生成物が、任意の次の変換を受けずにこれ自体を直接使用することができる市販の蛍光体が、最小の輝度基準を満たさないと判断されることがあるルミネセンス特性を、一般的に有するためである。反対に、任意の適切な処理後、例えばランプ、テレビスクリーンまたは発光ダイオードにおいて、アプリケータにより直接使用するのに十分である好適な輝度を発する組成物は、蛍光体と呼ぶことができる。
【0087】
本発明による蛍光体を以下に述べる。
【0088】
蛍光体
本発明による蛍光体は、無機コアおよび無機コアを均一に覆うシェルからなる粒子を含む型である。シェルは希土類元素(Ln)のリン酸塩に基づくものであり、Lnはセリウムおよびテルビウムから選択される少なくとも1つの希土類元素か、または前述した2つの希土類元素のうちの少なくとも1つとランタンの組合せのいずれかである。この蛍光体は、シェルの希土類元素リン酸塩がモナザイト結晶構造を有することと、ナトリウムを含有し、このナトリウム含有量が最大でも350ppmであることを特徴とする。
【0089】
本発明の蛍光体は、上記記載した組成物または前駆体と共通の特徴を有する。
【0090】
従って、前駆体に関して上述したことの全ては、本発明による蛍光体の説明において、ここでも同様に当てはまる。これは無機コアおよび均一なシェルからなる構造に関する特徴と、無機コアの性質に関する特徴と、ここでも300nm以上とすることができるシェルの厚みに関する特徴とについて、ならびに粒径の特徴についてであり、これは蛍光体の粒子が場合によっては1.5μmから15μmの平均粒径を有することである。
【0091】
また、シェルの希土類元素(Ln)リン酸塩はオルトリン酸塩型であり、前駆体のシェルのリン酸塩と実質的に同一の組成を有する。前駆体に関して上述したランタン、セリウムおよびテルビウムの相対比率はここでも適用される。同様に、シェルのリン酸塩は、上述のプロモータまたは安定剤元素を指示された割合で含むことができる。
【0092】
蛍光体のシェルのリン酸塩は、モナザイト結晶構造を有する。蛍光体の場合でも、この結晶構造をXRDにより明らかにすることができる。好ましい実施形態によれば、このシェルのリン酸塩は純粋相の場合があり、つまり、XRDディフラクトグラムにより単一のモナザイト相が明らかにされる。しかし、このリン酸塩も純粋相でない場合があり、この場合、生成物のXRDディフラクトグラムにより、ごくわずかな他の相の存在が示される。
【0093】
本発明の蛍光体はナトリウムを含有し、最大含有量は上述した通りである。この含有量はここでも、蛍光体の全重量に対するナトリウム元素の重量により表される。ナトリウム含有量はより具体的には、最大でも250ppm、さらにより具体的には最大でも100ppmとすることができる。
【0094】
本発明の好ましい実施形態によれば、上述の組成物/前駆体の場合のように、このナトリウムは、シェル内の大部分に存在し(少なくとも50%のナトリウムを意味する。)、好ましくはシェル内に必須的に存在し(少なくとも80%のナトリウムを意味する。)、またはさらにシェル全体に存在する。
【0095】
最小のナトリウム含有量は重要ではなく、ここでも、組成物の場合のように、ナトリウム含有量を測定するのに使用する分析技術により、検出可能な最小の値に相当する。しかし一般的に、最小含有量は少なくとも10ppm、より具体的には少なくとも40ppmであり、さらにより具体的には少なくとも50ppmである。
【0096】
1つの特定の実施形態によれば、蛍光体はアルカリ金属元素としてナトリウム以外の任意の元素を含有しない。
【0097】
本発明の蛍光体を構成する粒子は、実質的に球状であってよい。これらの粒子は高密度である。
【0098】
次に、本発明の前駆体および蛍光体の調製方法を以下に述べる。
【0099】
組成物または前駆体の調製方法
組成物/前駆体の調製方法は、次の、
1種以上の希土類元素(Ln)の塩化物を含有する第1溶液を、無機コアの粒子およびリン酸イオンを含有し、2未満の初期pHを有する第2溶液に連続的に導入する段階と、
第1溶液を第2溶液に導入しながら、上のように得られる混合物のpHを2未満の一定の値に維持すると、結果として沈殿物が得られ、第1段階で第2溶液のpHを2未満に設定する操作、もしくは第2段階でpHを維持する操作、または両方の操作を、少なくとも部分的に水酸化ナトリウムを用いて実施する段階と、
このようにして得られる沈殿物を回収し、
シェルの希土類元素リン酸塩がモナザイト結晶構造を有する組成物を調製する場合は、このリン酸塩を少なくとも600℃の温度で焼成し、
または、シェルの希土類元素リン酸塩がラブドフェーン結晶構造もしくはラブドフェーン/モナザイト混合結晶構造を有する組成物を調製する場合は、このリン酸塩を場合によって600℃未満の温度で焼成する段階と、
得られる生成物を温水に再分散し、その後液体媒体から分離する段階と
を含むことを特徴とする。
【0100】
次に、本方法の様々な段階を以下に述べる。
【0101】
本発明によれば、1種以上の希土類元素(Ln)の塩化物を含有する第1溶液は、所望の組成を有する生成物を得るために、これらの元素が必要な割合で存在している。この第1溶液と、リン酸イオンおよび無機コアの粒子を含有し、溶液中に粒子が分散した状態で維持される第2溶液とを、一定のpHで反応させることにより、希土類元素(Ln)リン酸塩が直ちに沈殿する。
【0102】
コアは、調製される組成物に適した粒径を有する粒子の形態が選択される。従って、特に1から10μmの平均粒径を有し、最大でも0.7、または最大でも0.6の分散指数を有するコアをとりわけ使用することができる。好ましくは、粒子は等方性の、有利には実質的に球体である形態を有していればよい。
【0103】
この方法の第1の重要な特徴によれば、反応物を導入する特定の順番に注意しなければならず、より厳密には、1種以上の希土類元素の塩化物の溶液を、リン酸イオンを含有する溶液に、徐々におよび連続的に導入しなければならない。
【0104】
本発明による、この方法の2つ目の重要な特徴によれば、リン酸イオンを含有する溶液の初期pHは2未満、好ましくは1から2でなければならない。
【0105】
3つ目の特徴によれば、さらに沈殿媒体のpHは2未満、好ましくは1から2のpH値に維持しなければならない。
【0106】
「維持pH」という語は、リン酸イオンを含有する溶液に塩基性化合物を添加することにより、沈殿媒体のpHがある特定の一定した、またはおおよそ一定した値に維持されることを意味することと理解する。この添加は、前記溶液へ希土類元素塩化物を含有する溶液の導入と同時に行われる。従って、この混合物のpHは設定値群付近を最大でも0.5pHユニットずつ、より具体的にはこの値付近を最大でも0.1pHユニットずつ変化していく。設定値群はリン酸イオンを含有する溶液の初期pH(2未満)に有利には一致すればよい。
【0107】
沈殿は、臨界温度ではなく、有利には室温(15から25℃)から100℃の温度で、水媒体中で実施されるのが好ましい。沈殿は反応混合物を撹拌しながら行われる。
【0108】
第1溶液の希土類元素塩化物の濃度は、広く変化することがある。従って、希土類元素の全体の濃度は0.01から3mol/リットルとすることができる。
【0109】
最後に、希土類元素塩化物溶液はさらに、他の金属塩、特に例えば上述のプロモータまたは安定剤元素、つまりホウ素および他の希土類元素の塩などの塩化物を含有することができることに留意すべきである。
【0110】
希土類元素塩化物溶液との反応が意図されるリン酸イオンを、純粋な化合物または溶解化合物、例えばリン酸、アルカリ金属リン酸塩、または他の金属性元素のリン酸塩などによって供給することができる。この他の金属性元素のリン酸塩は、陰イオンが希土類元素に結合しており、可溶性化合物である。
【0111】
リン酸イオンは、2種の溶液間のPO/Lnのモル濃度比が1より大きく、有利には1.1から3である量で存在する。
【0112】
本明細書で初めに強調したように、リン酸イオンおよび無機コアの粒子を含有する溶液は、初期(つまり、希土類元素塩化物溶液が導入され始める前)に2未満のpH、好ましくは1から2のpHでなければならない。従って、使用する溶液がもともとこのpHを有していなければ、塩基性化合物を添加するか、酸(例えば、初期溶液のpHが高すぎる場合は塩酸)を添加することで所望の好適な値にする。
【0113】
その後、希土類元素塩化物または塩化物を含有する溶液が導入されるにつれ、沈殿媒体のpHは徐々に低下する。従って、本発明によるこの方法の極めて重要な特徴の1つによれば、沈殿媒体のpHを2未満、好ましくは1から2でなければならない、一定の所望の実用的な値に維持する目的で、塩基性化合物がこの媒体に同時に導入される。
【0114】
本発明の方法の別の特徴によれば、リン酸イオンを含有する第2溶液の初期pHを2未満の値にするため、または沈殿中のpHを維持するため、使用する塩基性化合物は、少なくとも部分的には水酸化ナトリウムである。「少なくとも部分的に」という表現は、少なくとも1つが水酸化ナトリウムである、塩基性化合物の混合物を使用することができることを意味することと理解する。他の塩基性化合物は、例えば水酸化アンモニウムを使用することができる。好ましい実施形態によれば、水酸化ナトリウムのみである塩基性化合物が使用され、さらに別のより好ましい実施形態によれば、前述した両方の操作で、つまり第2溶液のpHを好適な値にする操作、および沈殿pHを維持する操作で、水酸化ナトリウムが単独で使用される。この2つの好ましい実施形態において、水酸化アンモニウムなど塩基性化合物から発生し得る窒素生成物の排出は減少するか、または除去される。
【0115】
沈殿段階後直ちに得られるものは、無機コア粒子のシェルとして堆積する希土類元素(Ln)リン酸塩であり、場合によっては他の元素が添加されている。その後、最終沈殿媒体中の希土類元素の全体の濃度が、有利には0.25mol/リットルより大きければよい。
【0116】
沈殿後の成長操作は、上記で得られた反応混合物を沈殿が行われる範囲と同じ温度範囲内の温度で、例えば15分から1時間維持することによって、場合により実施することができる。
【0117】
沈殿物を、自体公知の任意の方法、とりわけ簡単なろ過により回収することができる。具体的には、本発明による方法の条件下で、ろ過性の非ゲル状の希土類元素リン酸塩を含む化合物が沈殿する。
【0118】
その後、回収した生成物を、例えば水を用いて洗浄してから乾燥する。
【0119】
その後、生成物の焼成即ち熱処理を行うことができる。
【0120】
この焼成は、得られる予定のリン酸塩の構造によって、様々な温度で場合により実施することができる。
【0121】
焼成時間は、一般的に温度が高いほど短くなる。単なる例としては、この時間は1から3時間とすることができる。
【0122】
熱処理は、一般的に空気中で行われる。
【0123】
一般に焼成温度は、シェルのリン酸塩がラブドフェーン構造を有する生成物の場合、最高でも約400℃であり、これは沈殿から得られる未焼成生成物の構造でもある。シェルのリン酸塩がラブドフェーン/モナザイト混合構造である生成物の場合、焼成温度は、一般的に少なくとも400℃であり、600℃までであるが、600℃未満でよく、400℃から500℃でもよい。
【0124】
シェルのリン酸塩がモナザイト構造を有する前駆体を得るには、焼成温度は少なくとも600℃であり、約700℃から1000℃未満、より具体的には最高でも約900℃でよい。
【0125】
その後、本発明の別の重要な特徴によれば、焼成後の生成物または非熱処理の場合の沈殿物は、温水に再分散される。
【0126】
この再分散操作は、固体生成物を撹拌しながら水に導入することにより実施される。このようにして得られる懸濁液を、約1から6時間、より具体的には1から3時間、撹拌し続ける。
【0127】
水の温度は、大気圧で少なくとも30℃、より具体的には少なくとも60℃でよく、約30から90℃、好ましくは60から90℃でよい。この操作は、例えばオートクレーブ中の加圧下で、100から200℃、より具体的には100から150℃の温度で実施することができる。
【0128】
最後の段階において、例えば簡単なろ過など自体公知の任意の方法により、液体媒体から固体を分離する。再分散段階は、上述の条件下で、場合によっては最初の再分散段階を行った温度とは異なる温度で、場合により1回以上回繰り返すことができる。
【0129】
分離した生成物を例えば水で洗浄し、その後乾燥することができる。
【0130】
蛍光体の調製方法
本発明の蛍光体は、上述したような組成物もしくは前駆体、または上でも述べた方法により得られる組成物もしくは前駆体を、少なくとも1000℃で焼成することにより得られる。この温度は、約1000から1300℃でよい。
【0131】
組成物または前駆体は、この処理により効果的な蛍光体に変換される。
【0132】
上記で示したように、前駆体自体が固有のルミネセンス特性を有する場合があるが、この特性は一般的に、意図する適用には不十分であり、焼成処理により大きく改善される。
【0133】
焼成は、空気中または不活性ガス中で実施することができるが、後者の場合はCeおよびTb種のすべてを酸化数+IIIの状態に変換するため、還元雰囲気中(H、N/H、またはAr/Hなど)で実施するのが好ましい。
【0134】
公知のように、例えばフッ化リチウム、四ホウ酸リチウム、塩化リチウム、炭酸リチウム、リン酸リチウム、塩化アンモニウム、酸化ホウ素、ホウ酸およびリン酸アンモニウム、ならびにこの混合物など、フラックス即ち融剤の存在下で、焼成を実施することができる。
【0135】
フラックスを使用すれば、一般に少なくとも公知の蛍光体と同等のルミネセンス特性を有する蛍光体が得られる。本発明の最も重要な利点は、公知の方法よりも窒素生成物をほとんど排出しないか、またはこのような生成物をまったく排出しない方法に由来する前駆体自体から、蛍光体が生じるということである。
【0136】
また、任意のフラックスを使用しなくても焼成を行うことができ、従って融剤をリン酸塩に事前に混合せず、結果として方法を簡素化し、蛍光体中に存在する不純物含有量を削減するのに役立つ。さらに、このようにして、窒素を含有する場合がある生成物、または前述した多くの融剤の場合に考えられる毒性のために、厳しい安全基準により処理されなければならない生成物の使用を避ける。
【0137】
処理後、可能な限り純粋で、凝集していないか、またはわずかに凝集状態の蛍光体を得るため、有利には粒子を洗浄する。後者の場合、軽い非凝集処理を行うことにより、蛍光体の凝集を防ぐことができる。
【0138】
フラックスを用いない焼成に由来する本発明の蛍光体は、同じ焼成条件下で得られる先行技術の蛍光体と比べて、改善されたルミネセンス収率を有することができることがわかっている。この優れた収率は、いずれか1つの理論に限定したくはないが、本発明の蛍光体の優れた結晶化の結果と考えられ、この優れた結晶化も組成物/前駆体の優れた結晶化の結果である。
【0139】
前述した熱処理により、前駆体の粒子に非常に近いコア/シェル構造および粒径分布を保持する蛍光体を得ることができる。
【0140】
さらに、蛍光体外層のCeおよびTb種を実質的にコアに拡散させずに、熱処理を実施することができる。
【0141】
本発明の1つの考えられる詳細な実施形態によれば、記述した前駆体調製のための熱処理、および前駆体を蛍光体に変換するための焼成を、同じ段階において実施することができる。この場合、前駆体段階で停止せずに、直ちに蛍光体が得られる。
【0142】
本発明の蛍光体は、生成物の様々な吸収域に相当する電磁励起による強力なルミネセンス特性を有する。
【0143】
従って、セリウムおよびテルビウムに基づくものである本発明の蛍光体は、UV(200から280nm)範囲の励起源、例えば約254nmを有する照明またはディスプレイシステムに使用することができ、とりわけ、特に管状の三原色水銀ランプ、および管状または平面状の液晶バックライトシステム(LCDバックライティング)用ランプに使用される。この蛍光体はUV励起のもと、高い輝度を有し、続く熱処理後にルミネセンスの損失がない。ルミネセンスは、とりわけ室温から300℃の比較的高い温度で、UVのもとで安定している。
【0144】
テルビウムおよびランタン、またはランタン、セリウムおよびテルビウムに基づくものである本発明の蛍光体は、例えばプラズマディスプレイおよび無水銀三原色ランプなどであるVUV(即ち「プラズマ」)励起システム、特にキセノン励起ランプ(管状または平面)に関する緑色蛍光体の良好な候補でもある。本発明の蛍光体は、VUV励起下(例えば147および172nm付近)で強い緑色発光を有する。蛍光体はVUV励起下で安定している。
【0145】
本発明の蛍光体は、発光ダイオード(LED:light−emitting diode)励起装置における緑色蛍光体としても使用することができる。この蛍光体は、特にUV付近で励起することができるシステムで使用することができる。
【0146】
UV励起マーキングシステムにおいても使用することができる。
【0147】
本発明の蛍光体を、例えばスクリーン印刷、吹き付け、電気泳動、または沈降などの周知の技術を用いて、ランプおよびディスプレイシステムに適用することができる。
【0148】
有機マトリックス(例えば、UVを透過するプラスティックもしくはポリマーのマトリックスなど)、無機(例えば、シリカ)マトリックス、または有機−無機ハイブリッドマトリックスに分散させることもできる。
【0149】
別の態様によれば、本発明は緑色ルミネセンス源として、前述した蛍光体または上でも述べた方法から得られる蛍光体を含む、前述した型のルミネセンス装置に関する。
【実施例】
【0150】
次に実施例を挙げる。
【0151】
次の実施例において調製された生成物は、次の方法を用いて粒径、形態、組成および特性に関して特徴づけられている。
【0152】
ナトリウム含有量
ナトリウム含有量を、上記で示したように、2つの測定技術を用いて測定した。蛍光X線技術については、半定量的分析に関する技術を生成物自体の粉末に対して実施する。機器は、蛍光X線分析装置のPANalytical Magix PRO−PW 2540を用いた。ICP−AES(またはICP−OES)技術を、Jobin Yvon ULTIMA機器を用いて、混合された添加物を定量的に注入することによって実施した。試料はあらかじめ、密閉反応器(MARS−CEMシステム)中、マイクロ波支援硝酸/過塩素酸媒体で、無機化(または消化)処理を行った。
【0153】
ルミネセンス
フォトルミネセンス(PL)収率を粉末形態の生成物を用いて、254nmの励起下、分光光度計が示した450nmから750nmの発光スペクトルカーブ下の領域を比較すること、および比較生成物について得られた領域に100%の値を割り当てることにより測定した。
【0154】
粒径測定
水に分散し、1分30秒間超音波(130W)に供した粒子サンプルについて、Coulterレーザー粒径分析器(Malvern 2000)を用いて、粒子径を測定した。
【0155】
電子顕微鏡法
透過電子顕微鏡法を用いて、粒子のミクロトーム切片について、高分解能JEOL 2010 FEG TEM顕微鏡により顕微鏡写真を得た。エネルギー分散分光法(EDS:energy dispersion spectroscopy)による化学組成測定に関する機器の空間分解能は<2nmであった。観測した形態および測定した化学組成を関連付けることにより、コア/シェル構造を明らかにすること、および顕微鏡写真でシェルの厚みを測定することができた。
【0156】
また、化学組成測定をHAADF−STEMにより作成した顕微鏡像について、EDSにより実施した。測定値は、少なくとも2つのスペクトルに関して取得した平均値に相当した。
【0157】
X線回折
Bragg−Brentano法に従って、対陰極として銅を用い、Kα線を使用してX線ディフラクトグラムを作成した。分解能はLaPO線からLaPO:Ce,Tb線を分離するのに十分なように選択した。好ましくはこの分解能はΔ(2θ)<0.02°であった。
【0158】
(比較例1)
この例は先行技術に従った、希土類元素リン酸塩に基づいた前駆体の調製に関する。
【0159】
あらかじめ水酸化アンモニウムを添加してpH1.4にし、60℃に加熱したリン酸(HPO)溶液500mlに、以下の0.855mol/lの硝酸ランタン、0.435mol/lの硝酸セリウムおよび0.21mol/lの硝酸テルビウムから構成され、1.5mol/lの全体の濃度を有する希土類元素硝酸塩溶液500mlを、1時間かけて添加した。リン酸塩/希土類元素のモル濃度比は1.15であった。沈殿中のpHを水酸化アンモニウムを添加して1.3に調整した。
【0160】
沈殿段階後、混合物を再度1時間60℃に維持した。その後、得られた沈殿物をろ過により回収し、水で洗浄し、続いて60℃の空気中で乾燥した後、900℃の空気中で2時間熱処理を行った。この段階の最後に、(La0.57Ce0.29Tb0.14)PO組成を有する前駆体が得られた。
【0161】
粒径(D50)は6.7μmであり、分散指数は0.4であった。
【0162】
(実施例2)
この実施例は、LaPOコアおよび(LaCeTb)PO型のリン酸塩に基づくシェルを含む、本発明による前駆体を記載する。
【0163】
コアの合成
事前に水酸化アンモニウムを添加してpH1.9にし、60℃に加熱したリン酸(HPO)溶液(1.725mol/l)500mlに、1時間かけて硝酸ランタン溶液(1.5mol/l)500mlを添加した。沈殿中のpHを、水酸化アンモニウムを添加して1.9に調整した。
【0164】
沈殿段階後、反応混合物を再度1時間60℃に維持した。その後、沈殿物をろ過により回収し、水で洗浄し、続いて60℃の空気中で乾燥した後、得られた粉末を900℃の空気中で熱処理を行った。
【0165】
最後に、溶融塩技術を用いて、粉末を緻密化処理した。1重量%のLiF存在下、1100℃、還元雰囲気(Ar/H)中で、粉末を2時間焼成した。その後、0.5m/gの比表面積を有するモナザイト構造の希土類元素リン酸塩が得られた。SEMによって測定すると、上のようにして得られたコアの平均粒径は3.2μmであった。
【0166】
LaPO/LaCeTbPOであるコア/シェル組成物/前駆体の合成
希土類元素塩化物溶液1.3mol/lを、1.387mol/lのLaCl溶液446.4ml、1.551mol/lのCeCl溶液185.9ml、2.177mol/lのTbCl溶液73.6mlおよび115.6mlの脱イオン水、即ち(La0.58Ce0.27Tb0.15)Cl組成を有する計1.07molの希土類元素塩化物から、1リットルビーカーに作成した。
【0167】
反応器2.5リットルに、83gの85%HPOであるNormapur、その後約6mol/lの水酸化ナトリウムNaOHを添加してpHを1.5に調製した0.41lの脱イオン水を導入し、この溶液を60℃に加熱した。
【0168】
次に、上記で調製した93.6gのリン酸ランタンコアを、上述のように調製した溶液に添加した。pHを6mol/l水酸化ナトリウムを用いて1.5に調整した。あらかじめ調製した461mlの希土類元素塩化物溶液を、pHを1.5に調整した状態で、60℃で1時間かけて撹拌しながら混合物に添加した。得られた混合物を、1時間60℃で熟成させた。
【0169】
熟成段階の終わりに、溶液を30℃まで放冷し、生成物を回収した。その後、焼結ガラスでろ過し、2容量の水で洗浄後、乾燥し、700℃の空気中で2時間焼成した。
【0170】
焼成後、得られた生成物を80℃の水に3時間再分散し、洗浄、ろ過後、最後に乾燥させた。
【0171】
その後、異なる組成物、つまりLaPOおよび(La,Ce,Tb)POの2つのモナザイト結晶相を有するモナザイト構造の希土類元素リン酸が得られた。
【0172】
本発明によるこの前駆体は、1450ppmのナトリウムを含有していた。
【0173】
平均粒径(D50)は、7.3μmであり、分散指数は0.3であった。
【0174】
超薄切片法(厚みは100nmまで)により調製され、孔を有する膜に置いた樹脂被覆生成物について、TEM顕微鏡写真を撮影した。粒子を断面で見ると、粒子のコアが球体であり、平均厚0.8μmのシェルで覆われていることが、粒子の断面の顕微鏡写真により観察された。
【0175】
(比較例3)
この例は、比較例1の前駆体から得られた蛍光体に関する。
【0176】
この例で得られた前駆体粉末を、2時間、Ar/H(水素5%)雰囲気中、1100℃で焼成した。この段階の後、LAP蛍光体が得られた。平均粒径(D50)は6.8μmであり、分散指数は0.4であった。
【0177】
この生成物の組成は(La0.57Ce0.29Tb0.14)POであり、つまり希土類元素酸化物の合計に対して、15.5重量%のテルビウム酸化物(Tb)であった。
【0178】
このようにして得られた蛍光体の収率(PL)を上述したように測定し、100%に正規化した。
【0179】
(実施例4)
この例は、本発明によるLaPO/(LaCeTb)POであるコア/シェル蛍光体に関する。
【0180】
実施例2で得られた前駆体を、2時間、1100℃、Ar/H(水素5%)雰囲気中で焼成した。この段階の後、コア/シェル蛍光体が得られた。平均粒径(D50)は7.3μmであり、分散指数は0.4であった。
【0181】
この蛍光体は90ppmのナトリウムを含有していた。
【0182】
以下の表に、得られた生成物のフォトルミネセンス(PL)収率を挙げる。
【0183】
【表1】

【0184】
本発明の蛍光体が、比較生成物と実質的に同等のフォトルミネセンスを有することが、この表により示される。一方、本発明の生成物におけるテルビウム含有量は、約34%明らかに低い。フォトルミネセンスにおける1%の違いは、生じたテルビウムの減少と比較して、生成物のルミネセンス適用にほぼ影響しない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機コアおよび前記無機コアを均一に覆うシェルからなる粒子を含む組成物であって、前記シェルが希土類元素(Ln)のリン酸塩に基づくものであり、Lnがセリウムおよびテルビウムから選択される少なくとも1つの希土類元素、または前記2つの希土類元素うちの少なくとも1つとランタンの組合せのいずれかであり、最大でも7000ppmの含有量であるナトリウムを含有することを特徴とする組成物。
【請求項2】
粒子の無機コアがリン酸塩または無機酸化物、より具体的には、希土類元素リン酸塩または酸化アルミニウムに基づくものであることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
シェルが300nm以上の厚みを有することを特徴とする、請求項1および2のいずれかに記載の組成物。
【請求項4】
粒子が1.5μmから15μmの平均粒径を有することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
シェルの希土類元素リン酸塩が、
ラブドフェーンまたはラブドフェーン/モナザイト混合結晶構造のいずれかであり;
モナザイト結晶構造であり、この場合、組成物が最大でも4000ppmのナトリウム含有量を有することを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
ナトリウム含有量が少なくとも300ppm、より具体的には少なくとも1000ppmであることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
組成物が次の一般式(1)の生成物
LaCeTbPO (1)
を含むことを特徴とし、
式中、x+y+zの合計が1に等しく、yおよびzの少なくとも1つが0ではなく、xが0.2から0.98、さらにより具体的には0.4から0.95であってよい、請求項1から6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
無機コアおよび前記無機コアを均一に覆うシェルからなる粒子を含む蛍光体であって、前記シェルが希土類元素(Ln)のリン酸塩に基づくものであり、Lnがセリウムおよびテルビウムから選択される少なくとも1つの希土類元素、または前記2つの希土類元素のうちの少なくとも1つとランタンの組合せのいずれかであり、シェルの希土類元素リン酸塩がモナザイト結晶構造を有することと、蛍光体がナトリウムを含有し、ナトリウム含有量が最大でも350ppmであることを特徴とする蛍光体。
【請求項9】
蛍光体が少なくとも10ppm、より具体的には少なくとも50ppmのナトリウム含有量を有することを特徴とする、請求項8に記載の蛍光体。
【請求項10】
シェルが300nm以上の厚みを有することを特徴とする、請求項8および9のいずれかに記載の蛍光体。
【請求項11】
粒子が1.5μmから15μmの平均粒径を有することを特徴とする、請求項8から10のいずれか一項に記載の蛍光体。
【請求項12】
請求項1から7のいずれか一項に記載の組成物の調製方法であって、以下の段階:
1つ以上の希土類元素(Ln)の塩化物を含有する第1溶液が、無機コアの粒子およびリン酸イオンを含有し、2未満の初期pHを有する第2溶液に連続的に導入される段階と;
第1溶液を第2溶液に導入しながら、上のように得られた混合物のpHを2未満の一定の値に維持し、結果として沈殿物が得られ、第1段階で第2溶液のpHを2未満に設定する操作、もしくは第2段階でpHを維持する操作、またはこの両方の操作が、少なくとも部分的に水酸化ナトリウムを用いて実施される段階と;
このようにして得られた沈殿物を回収し、
シェルの希土類元素リン酸塩がモナザイト結晶構造を有する組成物を調製する場合に、前記リン酸塩を少なくとも600℃の温度で焼成し、
または、シェルの希土類元素リン酸塩がラブドフェーンもしくはラブドフェーン/モナザイト混合結晶構造を有する組成物を調製する場合に、前記リン酸塩を場合によって600℃未満の温度で焼成する段階と;および
得られた生成物を温水に再分散し、その後液体媒体から分離する段階と
を含むことを特徴とする、組成物の調製方法。
【請求項13】
請求項8から11のいずれか一項に記載の蛍光体の調製方法であって、請求項1から7のいずれか一項に記載の組成物、または請求項12に記載の方法により得られる組成物が、少なくとも1000℃の温度で焼成されることを特徴とする、蛍光体の調製方法。
【請求項14】
焼成が還元性雰囲気中で実施されることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
以下に挙げる型、つまりプラズマシステム、水銀ランプ、バックライト液晶システム用ランプ、無水銀三原色ランプ、LED励起装置またはUV励起マーキングシステムの装置であって、請求項8から11のいずれか一項に記載の蛍光体、または請求項13もしくは14に記載の方法により得られる蛍光体を含むか、または使用して製造されることを特徴とする装置。

【公表番号】特表2013−500365(P2013−500365A)
【公表日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−522106(P2012−522106)
【出願日】平成22年7月21日(2010.7.21)
【国際出願番号】PCT/EP2010/060529
【国際公開番号】WO2011/012508
【国際公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(508183151)ロデイア・オペラシヨン (70)
【Fターム(参考)】