説明

リン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末の製造方法、リン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末、及び該粒子粉末を用いた非水電解質二次電池

【課題】 低コストで、安易に製造でき、且つ、二次電池として充放電容量が大きく、充填性及び充放電繰返し特性に優れたリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末の製造方法を用いた二次電池を提供する。
【解決手段】 本発明は、オリビン型構造のリン酸マンガン鉄リチウムLiMn1−xFePO(0.05≦x≦0.5)粒子粉末の製造方法に関し、原料の混合溶液の中和反応によって水系スラリーを得る第一工程、第一工程で得られたスラリーの水熱処理を行い、得られる化合物のLiMn1−xFePO(0.05≦x≦0.5)の生成率が75wt%以上であって、結晶子サイズを10〜250nmとした後、該化合物を洗浄する第二工程、第二工程で得られた化合物に有機物を3〜40wt%添加して前駆体粉末を得る第三工程、第三工程で得られた前駆体粉末を焼成する第四工程からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低コストで、安易に製造できるオリビン型構造のリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末の製造方法であり、且つ、高出力二次電池として用いた場合にエネルギー密度が高いオリビン型構造のリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末、及びそれを用いた二次電池を提供する。
【背景技術】
【0002】
近年、AV機器やパソコン等の電子機器、電動工具等のパワーツールのポータブル化、コードレス化が急速に進んでおり、これらの駆動用電源として小型、軽量で高エネルギー密度を有する二次電池への要求が高くなっている。また、地球環境への配慮から、ハイブリッド自動車、電気自動車の開発及び実用化がなされ、出力特性にも優れた二次電池への要求が高くなっている。このような状況下において、充放電容量が大きく、且つ安全性が高いという長所を有するリチウムイオン二次電池が注目されている。
【0003】
最近、高エネルギー密度型のリチウムイオン二次電池に有用な正極活物質として、3.5V級オリビン型構造LiFePOから4.1V級の同構造LiMnPOにも注目されている。しかしながら、LiMnPOは、LiFePOよりもLiの出入りがしにくい為、充放電特性の改善が求められている。
【0004】
即ち、オリビン型構造のLiMnPOは強固なリン酸4面体骨格と酸化還元に寄与するマンガンイオンを中心にもつ酸素8面体と電流の担い手であるリチウムイオンから構成される。また、電子伝導性を補うため、粒子表面に炭素を被覆させる傾向がある。これらにより二次電池の電極として機能し、Liを負極とする充放電時には、容量と電圧で示される充放電特性におけるプラトー領域の存在から、下式の二相反応に従うと言われている。
【0005】
充電 : LiMnPO→MnPO+Li+e
放電 : MnPO+Li+e→LiMnPO
【0006】
ところで、LiMnPO正極についてLiの出入りの容易性及びLiの脱離したMnPOの安定性については種々の説がある。そのため、充電反応によるLiを脱離させた物質の結晶構造が安定で、且つ、充放電前後の粒子サイズの変化を少なくする必要があると考えている。その一つとして、MnのサイトにFeを固溶させる手法がある(非特許文献1〜6)。
【0007】
LiMn1−xFePO(0.05≦x≦0.5)も粒子表面に炭素が被覆されているほど低電流時の充放電特性が良好である。また、前記条件を満たし、且つ、結晶子サイズの小さい粒子であるほど、高い電流負荷での充放電特性がよい傾向がある。また、電極として、高い成型体密度を得るにはそれらが適度に凝集した二次粒子で、且つ、グラファイト化率の高い炭素のような導電性補助剤でネットワークを形成するように、各々の集合状態を制御する必要がある。一方、多量の炭素と複合化された正極は嵩高く、単位体積当たりに充填できる実質的なリチウムイオン密度が低くなるといった欠点が生じる。そこで、単位体積当たりの充放電容量を確保するためには、微細で適度に炭素が被覆されたオリビン型リン酸マンガン鉄リチウムを得ると共に、少量の導電性補助剤を介して高い密度を持った凝集体を形成することが必要とされている。
【0008】
即ち、非水電解質二次電池用の正極活物質粉末としては、充放電に伴う粒子サイズの変化が少なく、電気抵抗が小さく、充填性が高いオリビン型構造のリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末を環境負荷が小さな工業的な方法で生産することが要求されている。
【0009】
従来、オリビン型構造のリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末の諸特性改善のために、種々の改良が行われている。例えば、充放電サイクル試験後の劣化を低減させる技術(特許文献1)、異種金属元素を添加し、電気抵抗を低減する技術(特許文献2)、異種金属元素添加と炭素被覆で電気抵抗を低減する技術(特許文献3)、水熱法で合成する技術(特許文献4〜6)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−257429号公報
【特許文献2】特開2004−063270号公報
【特許文献3】特表2008−130525号公報
【特許文献4】特開2007−035358号公報
【特許文献5】特開2007−119304号公報
【特許文献6】特開2008−066019号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】A. K. Padhi等、 J. Electrochem. Soc.、1997、 Vol.144、 p.A1188−1194.
【非特許文献2】A. Yamada等、 J. Electrochem. Soc.、2001、 Vol.148、 p.A960−967.
【非特許文献3】G. Li等、 J. Electrochem. Soc. 、2002、 Vol.149、 p.A743−747.
【非特許文献4】C. Delacourt等、 J. Electrochem. Soc. 、 2005、 Vol.152、 p.A913−921.
【非特許文献5】N.- H.− Kwon等、 Electrochem. and Solid−State Lett. 、 2006、 Vol.9、 A277−280.
【非特許文献6】S. K. Martha等、 J. Electrochem. Soc. 、 2009、 Vol.156、 p.A541−552.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
非水電解質二次電池用の正極活物質として前記諸特性を満たすオリビン型構造のリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末の安価で効率的な製造方法について、現在最も要求されているところであるが、未だ確立されていない。
【0013】
即ち、前記非特許文献1〜6に記載された技術では、充放電に伴う粒子サイズの変化が少なく、電気抵抗が小さく、充填性が高いオリビン型構造のLiMn1−xFePO(0.05≦x≦0.5)を工業的に得られるものではない。
【0014】
また、特許文献1記載の技術は、オリビン型構造のLiMn1−xFePO粒子粉末を正極として用いた時の充放電繰返し特性を向上させる技術であり、電極への充填性や二次集合状態のコントロールについては触れられていない。
【0015】
また、特許文献2記載の技術は、オリビン型構造のLiMnPO粒子粉末と炭素との複合化に関する技術ではない。
【0016】
更に、特許文献3記載の技術は、固相反応法での製法であり、2回の熱処理を有するため、低コストとは言い難い。
【0017】
特許文献4〜6記載の水熱法は、1)原料のリン酸、或いは硫酸塩を中和するために水酸化リチウムを過剰に仕込む方法、2)原料のリン酸、或いは遷移金属含有硫酸塩から沈殿物を生成し、リチウム原料と混合し、Li:Mn+Fe:P=1:1:1 mol比で仕込む方法に分けられる。1)の場合、製造コストの観点からLiの回収が要求されるが、比較的困難な手法と考えている。2)の場合、LiMn1−xFePO(0.05≦x≦0.5)の報告例がほとんどなく、水熱処理を行う前駆体に関する言及もほとんどなく、その凝集粒子径制御に関する記述は見当たらなかった。
【0018】
そこで、本発明は、充放電に伴う粒子サイズの変化が少なく、電気抵抗が小さく、充填性が高いオリビン型構造のリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末の工業的手法を確立すること、及び充填性の高い正極活物質を含有する非水電解質二次電池として、電流負荷特性においても高容量を得ることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記技術的課題は、次の通りの本発明によって達成できる。
【0020】
即ち、本発明は、オリビン型構造のリン酸マンガン鉄リチウムLiMn1−xFePO(0.05≦x≦0.5)粒子粉末の製造方法であって、原料としてLi化合物、Mn化合物、Fe化合物、P化合物及び糖又は有機酸を用い、原料仕込み比がmol比で0.95≦Li/(Mn+Fe)≦2.0、0.95≦P/(Mn+Fe)≦1.3であり、(Mn+Fe)に対し1〜20mol%の糖又は有機酸を含む混合溶液の中和反応によってpHが5.5〜12.5である水系スラリーを得る第一工程、第一工程で得られたスラリーを反応温度120〜220℃で水熱処理を行い、得られる化合物のLiMn1−xFePO(0.05≦x≦0.5)の生成率が75wt%以上であって、結晶子サイズを10〜250nmとした後、該化合物を洗浄する第二工程、第二工程で得られた化合物に有機物を3〜40wt%添加して前駆体粉末を得る第三工程、第三工程で得られた前駆体粉末を酸素濃度0.1%以下の不活性ガス又は還元性ガス雰囲気下で、温度250〜850℃で焼成する第四工程からなるオリビン型構造のリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末の製造方法である(本発明1)。
【0021】
また、本発明は、上記第一工程において、スラリー中の凝集粒子のメジアン径が0.1〜10μmであって、結晶相が(NH)Mn1−αFeαPO(0≦α<1)又はHMn1−βFeβPO(0≦β<1)である凝集粒子を含む水系スラリーを得る本発明1に記載の製造方法である(本発明2)。
【0022】
また、本発明は、上記第一工程において、用いる糖又は有機酸がショ糖、アスコルビン酸、及びクエン酸のうち少なくとも1種である本発明1又は2に記載の製造方法である(本発明3)。
【0023】
また、本発明は、上記第二工程において、化合物中の硫黄含有量が0.1wt%以下になるように洗浄する本発明1〜3のいずれかに記載の製造方法である(本発明4)。
【0024】
また、本発明は、上記第三工程において、添加する有機物がカーボンブラック、油脂化合物、糖化合物、及び合成樹脂のうち少なくとも1種である本発明1〜4のいずれかに記載の製造方法である(本発明5)。
【0025】
また、本発明は、オリビン型構造のリン酸マンガン鉄リチウムLiMn1−xFePO(0.05≦x≦0.5)粒子粉末であって、リチウムとリンの含有量がmol比で0.9≦Li/(Mn+Fe)≦1.2、0.9≦P/(Mn+Fe)≦1.2であり、BET比表面積が6〜70m/gであり、炭素含有量が0.5〜8wt%であり、硫黄含有量が0.08wt%以下であり、オリビン型構造の結晶相LiMn1−xFePO(0.05≦x≦0.5)の量が95wt%以上であり、結晶子サイズが25〜300nmであり、凝集粒子のメジアン径が0.3〜20μmであり、粉体電気抵抗率が1〜1.0×106Ω・cmであることを特徴とするオリビン型構造のリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末である(本発明6)。
【0026】
また、本発明は、リチウムとリンの含有量がLi≧Pを満たす本発明6に記載のオリビン型構造のリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末である(本発明7)。
【0027】
また、本発明は、単位胞体積VUCが下記式(1)の関係にある本発明6又は7に記載のオリビン型構造のリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末である(本発明8)。
UC(Å)<11.4×(1−x)+291.21 ・・・(1)
【0028】
また、本発明は、本発明6〜8のいずれかに記載のオリビン型構造のリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末を用いて作製した非水電解質二次電池である(本発明9)。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係るオリビン型構造のリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末の製造方法は低コストで、ほぼ等量の原料から効率的に製造できるのでオリビン型構造のリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末の製造方法として好適である。
【0030】
また、本発明に係るオリビン型構造のリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末は充放電に伴う粒子サイズの変化が少なく、電気抵抗が小さく、充填性が高いものであり、非水電解質二次電池用の正極活物質として好適である。
【0031】
また、本発明に係るオリビン型構造のリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末を正極活物質として用いた二次電池は電流負荷特性においても高容量が得られ、且つ十分に繰り返し充放電に耐えられる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施例1で得られたオリビン型構造のリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末の走査型電子顕微鏡による二次電子像である。
【図2】実施例1で得られたオリビン型構造のリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末を正極化し、コインセルで評価した放電特性である。
【図3】比較例4で得られたオリビン型構造のリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末の走査型電子顕微鏡による二次電子像である。
【図4】比較例4で得られたオリビン型構造のリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末を化学酸化して得られた粒子粉末の走査型電子顕微鏡による二次電子像である。
【図5】比較例4で得られたオリビン型構造のリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末を化学酸化して得られた粒子粉末のX線回折パターンのRietveld解析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の構成をより詳しく説明すれば次の通りである。
【0034】
まず、本発明に係るオリビン型構造のリン酸マンガン鉄リチウムの製造方法について述べる。
【0035】
本発明に係るオリビン型構造のリン酸マンガン鉄リチウムLiMn1−xFePO(0.05≦x≦0.5)粒子粉末の製造方法は、原料としてLi化合物、Mn化合物、Fe化合物、P化合物及び糖又は有機酸を用い、原料仕込み比がmol比で0.95≦Li/(Mn+Fe)≦2.0、0.95≦P/(Mn+Fe)≦1.3であり、(Mn+Fe)に対し1〜20mol%の糖又は有機酸を含む混合溶液の中和反応によってpHが5.5〜12.5である水系スラリーを得る第一工程、第一工程で得られたスラリーを反応温度120〜220℃で水熱処理を行い、得られる化合物のLiMn1−xFePO(0.05≦x≦0.5)の生成率が75wt%以上であって、結晶子サイズを10〜250nmとした後、該化合物を洗浄する第二工程、第二工程で得られた化合物に有機物を3〜40wt%添加して前駆体粉末を得る第三工程、第三工程で得られた前駆体粉末を酸素濃度0.1%以下の不活性ガス又は還元性ガス雰囲気下で、温度250〜850℃で焼成する第四工程からなることを特徴とする。
【0036】
第一工程で用いられる原料は、Li化合物としてはLiOH、LiPOが好ましく、Mn化合物としてはMnSO、MnCOが好ましく、Fe化合物としてはFeSO、FeCOが好ましく、P化合物としてはHPO、(NH)HPO、(NHHPO、NaHPO、NaHPO、NaPOが好ましい。
【0037】
第一工程におけるLi化合物、Mn化合物、Fe化合物、P化合物は、原料仕込み比がmol比で0.95≦Li/(Mn+Fe)≦2.0、0.95≦P/(Mn+Fe)≦1.3となるように混合される。原料の仕込み比が前記範囲外の場合には、目的とするリン酸マンガン鉄リチウムを得ることができない。より好ましくはmol比で0.98≦Li/(Mn+Fe)≦1.8、0.98≦P/(Mn+Fe)≦1.2である。
【0038】
また、第一工程で用いられる糖又は有機酸はショ糖、アスコルビン酸、又はクエン酸が好ましい。糖又は有機酸の添加量は、(Mn+Fe)に対し1〜20mol%、より好ましくは1.5〜18mol%であり、添加した糖又は有機酸は遷移金属還元剤として働いて、水熱反応後のLiMn1−xFePO(0.05≦x≦0.5)の生成率を上げ、且つ、生成物の一次粒子径を微細化させる。
【0039】
第一工程で用いられるアルカリ源は、LiOH、NaOH、NaCO、NH、尿素、エタノールアミン等が用いられる。
【0040】
第一工程における水系スラリーは、第二工程における水熱処理によって得られる化合物のLiMn1−xFePO(0.05≦x≦0.5)の生成率を上げるためにpHが5.5〜12.5である必要がある。
【0041】
第一工程におけるスラリー中の凝集粒子のメジアン径は0.1〜10μmであることが好ましい。
【0042】
第一工程におけるスラリーは、スラリー中の凝集粒子の結晶相が(NH)Mn1−αFeαPO(0≦α<1)又はHMn1−βFeβPO(0≦β<1)である凝集粒子を含むことが好ましい。前記2相のいずれかを含まない場合には、目的とするリン酸マンガン鉄リチウムを得ることができない。
【0043】
上記メジアン径及び結晶相を持つ凝集粒子は、結晶核が生成・成長する条件下での原料混合(多数の結晶核発生)や、生成物の粉砕によって得ることができる。粉砕に使用する装置として、ボールミル、媒体攪拌型ミル等が上げられる。
【0044】
第二工程における水熱処理は、120〜220℃で行うことが好ましい。また、水熱処理の時間は1〜10時間であることが好ましい。
【0045】
第二工程の水熱処理を行って得られた化合物は、LiMn1−xFePO(0.05≦x≦0.5)の生成率が75wt%以上である。生成率が75wt%未満では、これ以降の工程を行ってもLiMn1−xFePO(0.05≦x≦0.5)の生成率が低いままとなる。より好ましい生成率は80wt%以上である。また、得られた化合物のLiMn1−xFePO(0.05≦x≦0.5)に基づく結晶子サイズは10〜250nmである。結晶子サイズが10nm未満の化合物は工業的に製造が困難であり、結晶子サイズが250nmを超えるものは良好な電池特性を得ることができない。より好ましい結晶子サイズは30〜150nmである。
【0046】
第2工程の水熱処理は、上記生成率および結晶子サイズを満足するように、処理温度と処理時間を適宜選択して行う必要がある。水熱処理の処理温度が低く処理時間が短い場合、上記の生成率や結晶子サイズに達しない場合があり、水熱処理の処理温度が高く処理時間が長い場合、上記の結晶子サイズを超える場合がある。
【0047】
第二工程における水熱処理によって得られた化合物は、不純物硫酸イオンの除去と組成比制御のため、濾過洗浄或いはデカンテーション洗浄を行う。洗浄に用いられる装置として、プレスフィルター、フィルターシックナー等が挙げられる。
【0048】
第二工程における水熱処理によって得られた化合物の洗浄は、化合物中の硫黄含有量が0.1wt%以下になるように行うことが好ましい。洗浄は、化合物中の硫黄を充分に除くことができればよく、通常は水洗を行えばよい。
【0049】
リン酸マンガン鉄リチウム固溶体を形成させるためには、第三工程において主成分元素組成比を調整することが好ましい。第二工程で得られた化合物にLi化合物、Mn化合物、Fe化合物、及びP化合物を必要により、添加して主成分元素組成比をLi:(Mn+Fe):P=0.90:1:0.90〜1.20:1:1.20(mol比)の範囲に調整することが好ましい。
【0050】
主成分元素の組成比の調整には、Liの調整にLiOH、LiCO、等のリチウム化合物、Mnの調整にMnCO、MnC、等のマンガン化合物、Feの調整にFeCO、FeC、等の鉄化合物、Pの調整にHPO、(NH)HPO、(NHHPO、等のPO含有化合物を用いることが好ましい。
【0051】
また、炭素を被覆させた微細なリン酸マンガン鉄リチウム固溶体を形成させるため、第三工程において有機物を3〜40wt%添加して前駆体粉末とする。その際、前駆体粉末の一次粒子径を小さくし、有機物と均一混合する必要がある。混合に用いられる装置として、ヘンシェルミキサー、らいかい機、ハイスピードミキサー、媒体攪拌型ミル等が挙げられる。
【0052】
添加する有機物としては、カーボンブラック、油脂化合物、糖化合物、及び合成樹脂のうち少なくとも1種であることが好ましい。
【0053】
微細なリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末の表面に炭素を被覆させるために、また、凝集粒子径を制御するために添加する有機物は油脂化合物、糖化合物、及び合成樹脂のうち少なくとも1種が好ましい。
【0054】
また、添加する有機物として導電性の高いカーボンブラックを用いた場合には、第四工程において低温での焼成が可能となる。カーボンブラックを用いることにより、400〜500℃といった低温焼成でも、得られるオリビン型構造のリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末の圧縮成型体は1〜1.0×10Ω・cmの電気抵抗率を満たし、性能の高い二次電池特性を示す。
【0055】
油脂化合物としては、ステアリン酸、オレイン酸、糖化合物としてはショ糖、デキストリン、合成樹脂としてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール(PVA)が挙げられる。
【0056】
また、カーボンブラックとしては、例えば、アセチレンブラック[電気化学工業(株)製]やケッチェンブラック[ライオン(株)製]が挙げられる。
【0057】
また、第三工程において添加する有機物で粒子同士を結着させることにより前駆体粉末の凝集粒子径を0.3〜30μmに調整することが好ましい。好ましい結着剤として、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール、でんぷん、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。
【0058】
第三工程で得られた前駆体粉末を、酸素濃度0.1%以下の不活性ガス又は還元性ガス雰囲気下で、温度250〜850℃で焼成を行う。不活性ガスとして、N、Ar、HO、CO或いはその混合ガスが用いられる。還元性ガスとして、H、又はCO、或いはこれらのガスと前記不活性ガスの混合ガスが用いられる。焼成に用いられる装置として、ガス流通式箱型マッフル炉、ガス流通式回転炉、流動熱処理炉等が挙げられる。
【0059】
酸素濃度0.1%以下の雰囲気で焼成を行うことによって、Fe原料中に含まれる微量なFe3+は添加した有機物、或いは還元性ガスによりFe2+へと変化し、LiMn1−xFePO(0.05≦x≦0.5)が生成する。LiMn1−xFePO(0.05≦x≦0.5)の生成には、焼成温度は250℃以上であればよいが、未反応物の反応を完結させ、且つ、添加有機物から電子伝導性の高いグラファイト相を形成させるためには、好ましくは350〜850℃、より好ましくは400〜750℃で1〜10時間焼成する。
【0060】
本発明に係るリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末は、適切な前駆体スラリーを調整することで、水熱処理後において、LiMn1−xFePO(0.05≦x≦0.5)の生成率を高めることができる。その後、有機物と均一混合し、さらに焼成することによりLiMn1−xFePO(0.05≦x≦0.5)の生成率が高く、炭素が十分に被覆された微細なリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末を得ることができる。
【0061】
次に、本発明に係る非水電解質二次電池用オリビン型構造のリン酸マンガン鉄リチウムLiMn1−xFePO(0.05≦x≦0.5)粒子粉末について述べる。本発明に係るリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末は、好ましくは上記の本発明1に係る製造方法によって製造される。
【0062】
本発明に係るリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末は、リチウムとリンの含有量がmol比で0.9≦Li/(Mn+Fe)≦1.2、0.9≦P/(Mn+Fe)≦1.2である。リチウムとリンの含有量が前記範囲以外の場合には異相を形成しやすく、場合によっては粒成長を促進し、性能の高い電池特性を有するリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末を得ることができない。好ましいリチウムとリンの含有量はmol比で0.98≦Li/(Mn+Fe)≦1.05、0.98≦P/(Mn+Fe)≦1.05であり、より好ましくは1≦Li/(Mn+Fe)≦1.05、1≦P/(Mn+Fe)≦1.05である。
【0063】
さらに、本発明に係るリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末は、リチウムとリンの含有量がLi≧Pであることが好ましい。
【0064】
本発明に係るリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末のBET比表面積は6〜70m/gである。BET比表面積が6m/g未満の場合には、リン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末中のLiイオンの移動が遅いため、電流を取出すことが困難である。70m/gを超える場合には、正極の充填密度が低下し、また、電解液との反応性が増加するため好ましくない。好ましいBET比表面積は10〜65m/gであり、より好ましくは15〜60m/gである。
【0065】
本発明に係るリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末の炭素含有量は0.5〜8.0wt%である。炭素含有量が0.5wt%未満の場合、熱処理時の粒子成長を抑制できず、また、得られた粉体の電気抵抗が高くなり、二次電池の充放電特性を悪化させる。また炭素含有量が8.0wt%を超える場合、正極の充填密度が低下し、二次電池の体積当たりのエネルギー密度が小さくなる。より好ましい炭素含有量は1.0〜6.0wt%である。
【0066】
本発明に係るリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末は、不純物の硫黄含有量が0.08wt%以下で、非水電解質二次電池において良好な保存特性が得られる。硫黄含有量が0.08wt%を超える場合、硫酸リチウムなどの不純物が形成され、充放電中にそれらの不純物が分解反応を起こして、高温保存時の電解液との反応が促進され保存後の抵抗上昇が激しくなる。より好ましい硫黄含有量は500ppm以下である。
【0067】
本発明に係るリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末は、オリビン型構造のLiMn1−xFePO(0.05≦x≦0.5)の結晶相が95wt%以上である。不純物結晶相としてLiPOが検出される場合、焼成後に得られたLiMn1−xFePO(0.05≦x≦0.5)粒子が微細となり、放電容量も高くなる場合があるが、LiPO自身は充放電に寄与しないため5wt%未満が望ましい。
【0068】
本発明に係るリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末の結晶子サイズは25〜300nmである。他の粉体特性を満たしながら結晶子サイズが25nm未満の粉末を本発明の製造方法で量産することは極めて困難であり、また、300nmを超える結晶子サイズではLiが粒子内を移動するのに時間を要し、二次電池の電流負荷特性が悪化する。好ましい結晶子サイズは30nm〜200nm、より好ましくは40nm〜150nmである。
【0069】
本発明に係るリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末の凝集粒子のメジアン径は0.3〜30μmである。メジアン径が0.3μm未満の場合には、正極充填密度の低下や電解液との反応性が増加するため好ましくない。一方、メジアン径が30μmを超えると、電極膜厚に対して大きすぎ、シート化が極めて困難である。好ましい凝集粒子のメジアン径は0.5〜15μmである。
【0070】
本発明に係るリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末の圧縮成型体密度は、1.8g/cc以上であることが好ましい。LiMn1−xFePO(0.05≦x≦0.5)の真密度は3.6g/ccであり、真密度に近いほど充填性は良い。そのため、好ましい圧縮成型体密度は真密度の50%を超える2.0g/cc以上である。一方、他の粉体特性を満たしながら圧縮成形体密度が2.8g/cc以上の粉末を本発明の製造方法で量産することは極めて困難である。本発明に係るリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末は、残存する炭素量が少なく、一次粒子同士が適度に凝集しているため、圧縮成型体密度が高いと考えられる。
【0071】
本発明に係るリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末の粉体電気抵抗率は、1〜1.0×10Ω・cmである。粉体電気抵抗率が1.0×10Ω・cm程度であるリン酸マンガン鉄リチウムに炭素を複合化させることにより、粉体電気抵抗率を低下させることができたものである。好ましい粉体電気抵抗率は1〜5.0×10Ω・cmであり、より好ましくは5〜1.0×10Ω・cmである。
【0072】
本発明に係るリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末の単位胞体積VUCは式(1)の関係にあることが好ましい。
UC(Å)<11.4×(1−x)+291.21 ・・・(1)
【0073】
通常、オリビン型構造のLiMn1−xFePOのxの値の増加と共に、格子定数と単位胞体積は線形的に低下し、ベガード則に従うことが良く知られている。べガード則の線形性から推測されるオリビン型構造のLiMn1−xFePO(0.05≦x≦0.5)の単位胞体積は10.9×(1−x)+291.36であった。この単位胞体積に近づくほどLiサイトへの遷移金属置換やP及びOの欠損が低減され、また、該単位胞体積より小さい場合、遷移金属のサイトにLiが置換され、電極としての理論容量が増加すると考えている。
【0074】
本発明者らは、オリビン型構造のLiMn1−xFePOの化学量論比からずれた組成比を持つ前駆体の熱処理によると、オリビン型構造のLiMn1−xFePO(0.05≦x≦0.5)よりも安定に存在する不純物結晶相が生成する傾向があることを確認した。また、Li、Mn、Fe、Pの組成比のずれが僅かであって、オリビン型構造のLiMn1−xFePO単一結晶相が生成しているにも関わらず、異なる格子定数を示し、上記記載の式(1)以上の単位胞体積を示すこともあった。その場合には、Liサイトへの遷移金属置換やP及びOの欠損が生じ、電池特性が低下したものと推察している。
【0075】
次に、本発明に係るオリビン型構造のリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末を正極活物質として用いた非水電解質二次電池について述べる。
【0076】
本発明に係るリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末を正極活物質として用いて正極シートを製造する場合には、常法に従って、導電剤と結着剤とを添加混合する。導電剤としてはアセチレンブラック、カーボンブラック、グラファイト等が好ましく、結着剤としてはポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等が好ましい。溶媒として、例えば、N−メチル−ピロリドンを用い、45〜105μm以下に篩い分けられた該正極活物質と該添加物を含むスラリーを蜂蜜状になるまで混練する。得られたスラリーを溝が25μm〜500μmのドクターブレードで集電体上に塗布する。該塗布速度は約60cm/secで、集電体として、通常約20μmのAl箔を用いる。溶媒除去と結着剤軟化のため、乾燥は80〜180℃で、Fe2+の非酸化性雰囲気で行う。該シートを1〜3t/cmの圧力になるようカレンダーロール処理を行う。前記シート化の工程で、室温においてもFe2+のFe3+への酸化反応が生じるため、極力、非酸化性雰囲気で行うことが望ましい。
【0077】
本発明における正極シートは、該正極活物質の圧縮成型体密度が1.8g/cc以上と高く、また、該正極活物質の圧縮成型体の電気抵抗率が1〜1.0×10Ω・cmと低いためシート作製時の炭素添加量を抑制でき、また、該正極活物質のBET比表面積が6〜70m/gと低いため、結着剤添加量を抑制でき、結果として密度の高い正極シートが得られる。
【0078】
負極活物質としては、リチウム金属、リチウム/アルミニウム合金、リチウム/スズ合金、黒鉛等を用いることができ、正極と同様のドクターブレード法や金属圧延により負極シートは作製される。
【0079】
また、電解液の溶媒としては、炭酸エチレンと炭酸ジエチルの組み合わせ以外に、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル等のカーボネート類や、ジメトキシエタン等のエーテル類の少なくとも1種類を含む有機溶媒を用いることができる。
【0080】
さらに、電解質としては、六フッ化リン酸リチウム以外に、過塩素酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム等のリチウム塩の少なくとも1種類を上記溶媒に溶解して用いることができる。
【0081】
<作用>
本発明に係るオリビン型構造のリン酸マンガン鉄リチウムLiMn1−xFePO(0.05≦x≦0.5)粒子粉末は水熱反応と焼成により製造され、低コストで、小さい環境負荷で製造できる。
【0082】
即ち、本発明はオリビン型構造のLiMn1−xFePO(0.05≦x≦0.5)の製造方法において、水熱反応によってLiMn1−xFePO(0.05≦x≦0.5)を高い生成率で作製後、均一に有機物と混合して凝集粒子径を制御し、不活性又は還元性雰囲気下の条件で焼成を行って、微細で、炭素で被覆された、充填性が高い粒子粉末を得るものである。
【0083】
また、本発明の製造方法によって作製されたリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末は、炭素被覆と凝集粒子径を制御したため、これを正極活物質として用いた非水電解質二次電池は電流負荷特性においても高容量が得られ、且つ十分に繰返し充放電に耐えられると本発明者は推定している。
【0084】
本発明に係るオリビン型構造のリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末を正極活物質として用いた非水電解質二次電池は、室温(25℃)でのC/10における放電容量は115mAh/g以上、室温での1Cにおける放電容量は95mAh/g以上、室温での5Cにおける放電容量は80mAh/g以上の特性を示す。
【実施例】
【0085】
本発明の代表的な実施の形態は次の通りである。
【0086】
リチウム、及びリン含有主原料のLi、P濃度はpH計と塩酸、又はNaOH試薬を用いた中和滴定により測定した。鉄原料のFe濃度は滴定(JIS K5109)により、マンガン原料のMn濃度も滴定(分析化学便覧 日本分析化学会編)により定量化した。これらの分析結果を元に、反応濃度と原料仕込み比を決定した。
【0087】
第一工程におけるスラリー中の凝集粒子の粒子径は、レーザー回折・散乱型粒度分布計であるHELOS[(株)日本レーザー製]を用い、湿式法でメジアン径D50を測定した。
【0088】
第一工程におけるスラリー中の凝集粒子の結晶相は、前記スラリー中の凝集粒子を濾別後、湿潤ケーキをX線回折装置RINT−2500[(株)リガク製]を用いて、Cu−Kα、40kV,300mAの条件下で測定し、結晶相を同定した。
【0089】
第二工程の水熱処理で得られる化合物及び本発明におけるリン酸鉄リチウム粒子粉末の結晶相と結晶子サイズ、及びLiMn1−xFePO(0.05≦x≦0.5)の生成率はX線回折装置RINT−2500[(株)リガク製]を用いて測定したX線回折パターンのRietveld解析により算出した。X線回折パターンは最高ピーク強度のcount数が8000〜15000になるよう、0.02°のステップで、1.0°/minで2θが15〜90°の範囲で測定した。Rietveld解析プログラムにRIETAN2000を用いた。その際、結晶子の異方的な広がりが無いと仮定し、プロファイル関数としてTCH擬ヴォイド関数を用い、その関数の非対称化にFinger等の手法を用い、信頼度因子S値が2.0を切るように解析した。
【0090】
<参考文献>
F. Izumi and T. Ikeda, Mater. Sci. Forum, 2000, Vol. 198, p.321−324.
【0091】
本発明に係るオリビン型構造(空間群Pnma)のリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末の単位胞体積は、上記Rietveld解析により算出した格子定数a,b,cの積から算出した。
【0092】
第三工程において、第二工程の水熱処理で得られる化合物の組成比を調整した後の化合物粉末及び本発明に係るリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末の組成比は発光プラズマ分析装置ICAP−6500[サーモフィッシャーサイエンティフィク社製]を用いて測定した。試料溶解にオートクレーブを用い、200℃の酸溶液中で溶解させた。
【0093】
本発明に係るリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末の比表面積は、試料を窒素ガス下で120℃、45分間乾燥脱気した後、MONOSORB[ユアサアイオニックス(株)製]を用いて測定した。
【0094】
本発明に係るリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末の凝集粒子の粒子径は、レーザー回折・散乱型粒度分布計であるHELOS[(株)日本レーザー製]を用い、乾式法でメジアン径D50を測定した。
【0095】
炭素、硫黄量はEMIA−820[(株)ホリバ製作所製]を用いて燃焼炉で酸素気流中にて燃焼させ、定量化した。
【0096】
本発明に係るリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末の圧縮成型体密度は13mmφの治具で1.5t/cmに圧粉した際の圧縮成形体の重量と体積から算出した。また、前記圧縮成形体を用いて2端子法により粉体電気抵抗率を測定した。
【0097】
本発明に係るリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末の充放電に伴う粒子径の変化の評価として、NOBFによる化学酸化によってLiが脱離した擬似充電状態を作り出し、化学酸化前後の一次粒子径の変化率を計算した。
アセトニトリル溶媒中で、リン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末に該粒子粉末のLiに対し2倍のモル数のNOBFを添加し、一日放置して化学酸化させ、アセトニトリルで洗浄してLiを全て取り除いた粒子粉末を得た。化学酸化前後の粒子粉末について、日立製S−4800型の走査型電子顕微鏡(SEM)で得られるSEM写真によって一次粒子径を測定し、化学酸化前後での一次粒子径の変化率を計算した。
【0098】
本発明に係るオリビン型構造のリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末を用いてCR2032型コインセルによる二次電池特性を評価した。
【0099】
導電材としてアセチレンブラック、バインダーとしてN−メチルピロリドン[関東化学(株)製]に溶解した重合度54万のポリフッ化ビニリデン[Aldrich製]を混合し、正極活物質:アセチレンブラック:PVDF=88:4:8wt%になるよう正極材スラリーを調整し、ドクターブレードでAl集電体上に塗布し、120℃、10分間空気中で乾燥し、乾燥したシートを3t/cmに加圧して正極シートを作製した。
【0100】
2cmに打ち抜いた正極シート、17mmφに打ち抜いた厚さ0.15mmLi負極、19mmφにセパレーター(セルガード#2400)、1mol/lのLiPFを溶解したECとDEC(体積比3:7)で混合した電解液[キシダ化学製]用いて、CR22032型コインセル[(株)宝泉製]を作製した。
【0101】
本発明に係るオリビン型構造のリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末を正極活物質として用いた非水電解質二次電池の充放電特性は、室温においてC/10、1C、5Cでの放電容量を測定して評価した。ここで、C/10とは10時間で、1Cとは1時間で、5Cとは1/5時間で、LiMn1−xFePO(0.05≦x≦0.5)の理論容量170mAh/gの電流が流れるよう固定した電流値である。Cの係数が高くなるほど、高い電流負荷特性を意味する。また、充電と放電時の電圧範囲は特に限定しないが、本発明において、2.0〜4.5V間で行った。
【0102】
[実施例1]
MnSO4、PO、NHOHの溶液を混合し、室温での中和反応によりNHMnPOを沈殿させた。沈殿物を濾別し、純水で洗浄した後、LiOH・HO、FeSO、HPO、及びアスコルビン酸の溶液を加え、表1に記載の原料仕込み比に調整された水系スラリーを得た。
【0103】
前記スラリーをボールミルで混合し、凝集粒子を粉砕して粒度を調整した。調整後のスラリーはpH=11、凝集粒子のメジアン径はD50=5.0μm、濾別後の凝集粒子の主結晶相はNHMnPOであった(第一工程)。
【0104】
前記スラリーを180℃で3時間水熱処理し、得られた化合物を濾別して純水で洗浄し、70℃で一晩乾燥した。得られた乾燥粉末はXRDパターンのRietveld解析から、LiMn1−xFePOの生成率が95%であり、オリビン型構造以外の不純物結晶相としてLiPOが5wt%存在することが確認された。また、結晶子サイズはシェラーの式から70nmであった。また、乾燥粉末中の不純物硫黄の含有量は0.1wt%以下であった(第二工程)。
【0105】
組成比調整のため、上記乾燥粉末に微細な(NH)HPOを添加した。調整後の粉末の組成は、ICPを用いて分析したところ、Li:Mn:Fe:P=1.01:0.80:0.20:1.00(mol比)であった。
【0106】
得られた乾燥粉末に対して10wt%のショ糖をメノウ乳鉢で混合し、純水を微量添加し、ヘンシェルミキサーで凝集粒子径を調整して前駆体粉末を得た(第三工程)。
【0107】
第三工程で得られた前駆体粉末をアルミナ製坩堝に入れ、650℃、5時間、窒素雰囲気下で焼成した。昇温速度を200℃/hr、Nガス流量を1L/minとした(第四工程)。
【0108】
得られた粉末はオリビン型構造を有するリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末であり、その組成比は第三工程で調整したLi、Mn、Fe、Pの組成比と同じであった。
【0109】
図1に得られたオリビン型構造のリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末のSEM写真(二次電子像)を示す。また、表1に第一工程の製造条件と得られたスラリーの特性を、表2に第二工程における粉末の特性と第三工程の製造条件を、表3に得られたリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末の粉体特性を、表4及び図2に得られたリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末を正極化しコインセルで評価した電池特性を示す。
また、化学酸化による脱Li前後の一次粒子サイズの変化率は10%程度であった。
【0110】
[実施例2]
原料仕込み比を表1のように変えたほかは実施例1と同様に処理した。
【0111】
[実施例3]
実施例1と同様にして得られたNHMnPOにFe(PO・8HO、LiPO及びLiOH・HOの溶液を加え、原料仕込み比を表1のように変えたほかは実施例1と同様にして水系スラリーを得た。以後、水熱反応後のスラリーに第三工程における有機物としてPVAを添加し、蒸発乾固したほかは実施例1と同様に処理した。
【0112】
[実施例4]
MnSO、FeSO、HPO、NHOHの溶液を混合し、室温での中和反応によりNHMn0.7Fe0.3POを沈殿させた。得られた沈殿物を濾別して純水で洗浄後、LiOH・HO、HPO、及びショ糖を加え、表1に記載の原料仕込み比に調整された水系スラリーを得た。以後、第三工程における有機物としてポリエチレンとステアリン酸を合計15wt%用いたほかは実施例1と同様に処理した。
【0113】
[実施例5]
MnSOとNaCOの溶液を混合し、室温での中和反応によりMnCOを沈殿させた。得られた沈殿物を濾別して純水で洗浄後、HPOを加え、HMnPOを沈殿させた。以後、原料仕込み比を表1のように変えたほかは実施例1と同様に処理した。
【0114】
[実施例6]
MnSO、FeSO、NaCOの溶液を混合し、室温での中和反応によりHMn0.9Fe0.1COを沈殿させた。得られた沈殿物を濾別して純水で洗浄後、HPOの溶液を加え、HMn0.9Fe0.1POを沈殿させた。以後、原料仕込み比を表1のように変えたほかは実施例1と同様に処理した。
【0115】
[実施例7]
原料仕込み比を表1のように変え、第三工程での有機物としてショ糖とカーボンブラックを合計20wt%用いたほかは実施例1と同様に処理した。
【0116】
[比較例1]
MnSO4、PO、NHOHの溶液を混合し、室温での中和反応によりNHMnPOを沈殿させた。得られた沈殿物を濾別して純水で洗浄後、LiOH・HO及びアスコルビン酸の溶液を加え、表1に記載の原料仕込み比に調整された水系スラリーを得た。スラリーの凝集粒子の粒度を調整しなかったほかは実施例1と同様に処理した。
【0117】
第一工程において、スラリーの凝集粒子の粉砕を行わなかったため、凝集粒子のメジアン径D50は16μmと大きく、水熱処理後に得られた化合物のオリビン型構造のLiMnPOの生成率は71wt%と低かった。焼成して得られたリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末においても不純物結晶相であるLiPOが7wt%存在し、電池特性が悪化した。
【0118】
[比較例2]
MnSO4、FeSO、HPO、LiOH・HOの溶液を混合し、室温での中和反応により得られた沈殿物を含む、表1に記載の原料仕込み比に調整された水系スラリーを得た。前記スラリーをボールミルで混合し、凝集粒子を粉砕して粒度を調整した後、180℃、3時間水熱処理し、得られた沈殿物を濾別して純水で洗浄し、70℃で一晩乾燥した。以後、実施例1と同様に処理した。得られた乾燥粉末の結晶子サイズは260nmと大きく、また、乾燥粉末中の不純物硫黄は0.12wt%であった。焼成して得られたリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末は硫黄含有量と結晶子サイズが大きく、電池特性が不良であった。
【0119】
[比較例3]
実施例2の第三工程において有機物であるショ糖量を1wt%としたほかは実施例2と同様に処理をした。焼成して得られたリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末は粗大粒子であり、電気抵抗が高く、電池特性は不良であった。
【0120】
[比較例4]
Li、Mn、Pの比が1:1:1となるように、LiCO、MnCO、(NH)HPOを混合し、さらにPVAを添加したエタノールと水からなる混合溶媒中、ボールミルで粉砕、混合後、得られた化合物を濾別して空気中700℃、2時間で焼成し、リン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末を得た。得られたリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末は粗大粒子であり、電気抵抗が高く、電池特性は不良であった。
【0121】
図3に得られたリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末のSEM写真を、また、化学酸化によってLiを脱離したときのSEM写真を図4に、XRDパターンのRietveld解析結果を図5に示す。化学酸化によって、LiMnPOが微細なMnPOへと変化したことを確認した。
【0122】
[比較例5]
実施例3と同様にして水系スラリーを得た。第二工程の水熱反応を行わず、前記スラリー中の沈殿物を濾別して純水で洗浄し、70℃で一晩乾燥した。以後、実施例1と同様に処理をした。焼成して得られたリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末は不純物結晶相であるLiPOを多く含み、電池特性は不良であった。
【0123】
【表1】

【0124】
【表2】

【0125】
【表3】

【0126】
【表4】

【0127】
本発明に係るオリビン型構造のリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末を正極活物質として用いた非水電解質二次電池は、室温でのC/10における放電容量は115mAh/g以上、室温での1Cにおける放電容量は95mAh/g以上、室温での5Cにおける放電容量は80mAh/g以上の特性を示した。
【0128】
また、擬似充電状態を作り出すためにLiに対し半分のモル数のNOBFで化学酸化させ、Liを脱離したときの一次粒子径は50〜100nmになりやすく、化学酸化させる前の一次粒子サイズが200nm以上の粗大粒子ほど、化学酸化前後の一次粒子径の変化率は高かった。
【0129】
[実施例8〜15]
原料仕込み比を表5のように変えたほかは実施例1と同様にして第二工程で得られた前駆体の粉末に、LiCO、MnCO、FeC、(NH)HPO、(NHHPOの微細な粉末を必要に応じ添加してボールミルで混合し、Li、Mn、Fe、P組成比を表5のとおりに調整した。以後、実施例1と同様に処理した。
【0130】
得られた粉末の主成分はオリビン型構造を有するリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末であり、その組成比は第三工程で調整したLi、Mn、Fe、Pの組成比と同じであった。
【0131】
また、表5に第一工程の製造条件と得られたスラリーの特性を、表6に第二工程における粉末の特性と第三工程の製造条件を、表7及び表8に得られたリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末の粉体特性を、表9に得られたリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末を正極化しコインセルで評価した電池特性を示す。
【0132】
【表5】

【0133】
【表6】

【0134】
【表7】

【0135】
【表8】

【0136】
【表9】

【0137】
本発明に係るオリビン型構造を有するリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末において、リチウムとリンの含有量がLi≧Pを満たす場合には、電池特性を悪くするMn7不純物結晶相の生成が抑制される傾向が見られた。
【0138】
また、単位胞体積VUC(Å)が式(1)に示す関係にある場合には、より高い放電容量を示し、電池性能は良い傾向にあった。これは、小さい単位胞体積を示すほど、Liサイトへの遷移金属置換やP及びOの欠損の少ないオリビン型構造を有するリン酸マンガン鉄リチウムが得られているためであると推測される。
【0139】
なお、本発明に係るオリビン型構造を有するリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末において、不純物結晶相は検出されないもののLi及びPが理論上の化学量論比からずれて存在する場合には、余剰のLiやPはイオン伝導性のアモルファス相を形成して、電池特性に悪影響を及ぼしていないと考えている。
【0140】
また、本発明に係るリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末を正極化しコインセルで電池特性を評価する際に、前記評価方法に対して導電材の量を2倍に増やした電極を用いたコインセルでは、5Cでの放電容量が10〜30%向上し、更なる容量増加が確認された。
【0141】
以上の結果から本発明に係るオリビン型構造のリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末の製造方法は、過剰量の原料を用いることなくほぼ等量の原料を用いればよく、低コストで効率的な製法である。また、本発明に係るオリビン型構造のリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末は、高充填性の正極シートを作製することが可能であり、それを用いた二次電池は電流負荷特性においても高容量が得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明は低コストで効率的な製法で作製されたオリビン型構造のリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末を正極活物質として用いることで、体積当りのエネルギー密度が高く、高電流負荷特性においても高容量が得られる非水電解質二次電池を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オリビン型構造のリン酸マンガン鉄リチウムLiMn1−xFePO(0.05≦x≦0.5)粒子粉末の製造方法であって、原料としてLi化合物、Mn化合物、Fe化合物、P化合物及び糖又は有機酸を用い、原料仕込み比がmol比で0.95≦Li/(Mn+Fe)≦2.0、0.95≦P/(Mn+Fe)≦1.3であり、(Mn+Fe)に対し1〜20mol%の糖又は有機酸を含む混合溶液の中和反応によってpHが5.5〜12.5である水系スラリーを得る第一工程、第一工程で得られたスラリーを反応温度120〜220℃で水熱処理を行い、得られる化合物のLiMn1−xFePO(0.05≦x≦0.5)の生成率が75wt%以上であって、結晶子サイズを10〜250nmとした後、該化合物を洗浄する第二工程、第二工程で得られた化合物に有機物を3〜40wt%添加して前駆体粉末を得る第三工程、第三工程で得られた前駆体粉末を酸素濃度0.1%以下の不活性ガス又は還元性ガス雰囲気下で、温度250〜850℃で焼成する第四工程からなるオリビン型構造のリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末の製造方法。
【請求項2】
第一工程において、スラリー中の凝集粒子のメジアン径が0.1〜10μmであって、結晶相が(NH)Mn1−αFeαPO(0≦α<1)又はHMn1−βFeβPO(0≦β<1)である凝集粒子を含む水系スラリーを得る請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
第一工程において用いる糖又は有機酸が、ショ糖、アスコルビン酸、及びクエン酸のうち少なくとも1種である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
第二工程において、化合物中の硫黄含有量が0.1wt%以下になるように洗浄する請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
第三工程において、添加する有機物がカーボンブラック、油脂化合物、糖化合物、及び合成樹脂のうち少なくとも1種である請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
オリビン型構造のリン酸マンガン鉄リチウムLiMn1−xFePO(0.05≦x≦0.5)粒子粉末であって、リチウムとリンの含有量がmol比で0.9≦Li/(Mn+Fe)≦1.2、0.9≦P/(Mn+Fe)≦1.2であり、BET比表面積が6〜70m/gであり、炭素含有量が0.5〜8wt%であり、硫黄含有量が0.08wt%以下であり、オリビン型構造の結晶相LiMn1−xFePO(0.05≦x≦0.5)の量が95wt%以上であり、結晶子サイズが25〜300nmであり、凝集粒子のメジアン径が0.3〜20μmであり、粉体電気抵抗率が1〜1.0×106Ω・cmであることを特徴とするオリビン型構造のリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末。
【請求項7】
リチウムとリンの含有量がLi≧Pを満たす請求項6に記載のオリビン型構造のリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末。
【請求項8】
単位胞体積VUCが式(1)の関係にある請求項6又は7に記載のオリビン型構造のリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末。
UC(Å)<11.4×(1−x)+291.21 ・・・(1)
【請求項9】
請求項6〜8のいずれかに記載のオリビン型構造のリン酸マンガン鉄リチウム粒子粉末を用いて作製した非水電解質二次電池。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−213587(P2011−213587A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59211(P2011−59211)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000166443)戸田工業株式会社 (406)
【Fターム(参考)】