説明

リン酸化ラクトースを含むミネラル吸収強化剤とその製造方法及びそれを含むミネラル強化食品組成物

【課題】 簡便にミネラルを摂取できるよう食品に添加でき、かつ当該食品の風味を損なわない、ミネラル吸収強化剤を提供することを課題とする。
【解決手段】 牛乳に含まれている天然成分であり、また安価に入手できるラクトースを化学的にリン酸化することで、リン酸化ラクトースが優れたミネラルキャリア能を有することを発見し、これを含むミネラル吸収強化剤を提供することが可能となる。また、当該ミネラル吸収強化剤を含む食品組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸化ラクトースを含むミネラル吸収強化剤とその製造方法及びそれを含むミネラル成分が強化された食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、中年から老年以降に多かった生活習慣病が若年層の間でも増加しており、これらの疾病は幼年時からの食習慣や運動習慣などの生活習慣の積み重ねと遺伝的要因、さらに環境要因が重なり合って起こるとされている。特に、近年の食習慣の変貌により食生活におけるミネラル不足によって欠乏症が起こり、幅広い年齢層においてさまざまな疾患が引き起こされ問題となっている。
【0003】
ミネラルは生きていく上で必要不可欠な栄養素であるが、人間の体内で作ることは出来ないため食品から摂取する必要がある。しかし現代の生活ではミネラル不足を食品のみから補うことが困難になってきている。その理由としては、(1)化学肥料や農薬の使用、大気汚染や酸性雨の影響等によって土壌中のミネラルバランスが崩れ、それに伴う農作物中のミネラル含量が減少したこと、(2)インスタント食品・冷凍加工食品・ファーストフード・清涼飲料水などによって現代人の偏った食生活が蔓延してきたこと、等が挙げられる。また、元来ミネラルは体内で吸収されにくい栄養素である事もまたミネラル不足を引き起こす要因となっている。
【0004】
これらミネラル不足から引き起こされる疾患には、以下のようなものがある。
カルシウム(Ca):骨粗しょう症、不眠症、筋肉の痙攣、心臓の動機。
鉄(Fe):鉄欠乏性貧血、慢性疲労、呼吸困難、便秘、肩こり。
マグネシウム(Mg):心臓疾患、精神病、筋肉痛、情緒不安定、低血圧。
亜鉛(Zn):高コレステロール化、疲労、食欲滅退、味覚障害、血液循環不良、けがの回復の遅れ、アトピー性皮膚炎。
クロム(Cr):糖尿病、高血圧、動脈硬化。
セレン(Se):心臓疾息、更年期障害、抗がん力低下、白内障、すい臓の機能低下、感染症、男性の生殖能力の低下。
銅(Cu):骨粗しょう症、貧血、呼吸の異常、うつ病、下痢。
マンガン(Mg):糖尿病、めまい、難聴、運動失調症。
【0005】
これらの中でも特に鉄欠乏症は三大栄養素欠乏症として知られ、世界で約20億人が罹患しているといわれ、特に乳児、幼児、受胎可能年齢の女性に多い。とりわけ、女性における鉄分不足は深刻で、成人女性の約10%が鉄欠乏性貧血、約40%は自覚症状がない鉄欠乏状態(貧血予備軍)といわれている。鉄欠乏は貧血を発症させ、重篤な鉄欠乏の妊婦においては低体重児の出産、小児では発達の遅延などを引き起こす可能性がある。
【0006】
このような社会問題である疾病に対して、疾病の治療とは別の観点から予防への関心が高まっており、疾病の一次予防として食生活の改善が改めて注目されている。食品には生命維持のための一次機能(栄養)、食事を楽しむという二次機能(味覚)、そして体調のリズム調節や生体防御、疾病予防、疾病回復、老化防止などの健康を維持する三次機能(生体調節)がある。この三次機能に着目した食品に「保健機能食品」があり、この保健機能食品は2001年4月から新しく導入された保健機能食品制度の下で「特定保健用食品」と並んで新たに設けられた。一定の条件を満たせば栄養機能食品として広告・宣伝ができ、その中には12種頬のビタミンと5種類のミネラル(カルシウム、鉄、亜鉛、銅、マグネシウム)が含まれている。
【0007】
近年特に、ミネラル不足の予防・改善を目的とした保健機能食品(栄養機能食品)の開発が盛んに行われ、関心が寄せられている。ミネラル不足における疾病を予防するためには、日常的に無理なく食品からミネラル分を摂取することが簡便かつ重要である。この目的のために、種々の化合物が検討されている。例えば、分子内に少なくとも1個のリン酸基を有する澱粉由来のリン酸化糖を用いてカルシウムや鉄などのミネラルを不溶化させない技術が知られている(例えば特許文献1,2,3)。しかしこれらのリン酸化糖はその製造に複雑な工程を要し、また酵素反応を用いるため、その反応を制御することが困難であるという問題点がある。
【0008】
また、カルシウムと化合物を形成する能力のあるカゼインホスホペプチド(CPP)(特許文献4、非特許文献1、非特許文献2)、クエン酸カルシウム・リンゴ酸カルシウム複合体(特許文献5)なども開発されているが、これらの化合物は価格、風味およびミネラル結合性などにおいて必ずしも満足のいくものではない。
【0009】
上記した技術は主にミネラルの中でもカルシウムを摂取することを中心として検討を行っているが、特にミネラルの中の鉄については、ヘム鉄やピロリン酸鉄、乳酸鉄、クエン酸第一鉄、EDTA鉄などの形態で鉄分を強化した機能性食品が開発されてきた。しかし、これらの化合物は添加した食品、特に飲料においてそれ自体の風味や香りが悪くなってしましい低嗜好性が障害となっていた。
【0010】
また、糖リン酸エステルの用途については、それを用いたpH緩衝法(特許文献6)、加熱調理食品用風味改良剤(特許文献7)、レトルト米飯の風味・食感改良のための添加剤(特許文献8)、食品に含まれているミネラル成分の呈味や食感を改善するミネラル呈味改善剤(特許文献9)等が知られているが、いずれも鉄などのミネラルを保持し、それを食品に導入することを目的としておらず、本発明の効果についての開示や示唆はない。
【0011】
【特許文献1】特開平8−104696号公報
【特許文献2】特開2002−20398号公報
【特許文献3】特開2002−37796号公報
【特許文献4】特開平3−240470号公報
【特許文献5】特開昭56−97248号公報
【特許文献6】特開昭62−243675号公報
【特許文献7】特開平5−95765号公報
【特許文献8】特開平8−131099号公報
【特許文献9】特開2003−79337号公報
【非特許文献1】内藤博;日本栄養・食糧学会誌、39、433−439;1986年
【非特許文献2】李連淑、朴眞我、内藤博;日本栄養・食糧学会誌、45、333−338;1992年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって本発明では、ミネラル不足による欠乏症を解決すべく、簡便にミネラルを摂取できるよう食品に添加でき、かつ当該食品の風味を損なわない、所謂ミネラルキャリア効果を有する化合物(「ミネラル吸収強化剤」とも称する)を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで本研究者等は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、牛乳に含まれている天然成分であり、また安価に入手できるラクトースを化学的にリン酸化することで、リン酸化ラクトースが優れたミネラルキャリア能を有することを発見し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明はリン酸化ラクトースを含むミネラル吸収強化剤とその製造方法及びそれを含むミネラル成分が強化された食品組成物を提供することで、上記課題を解決することが可能となった。
【0015】
本発明はリン酸化されたラクトースを含むミネラル吸収強化剤を提供する。
【0016】
本発明によるミネラル吸収強化剤に含まれる前記リン酸化ラクトースは、少なくとも1〜3のリン酸基を有することが好ましい。
【0017】
前記リン酸化ラクトースが結合するミネラルとしては、好ましくはカルシウム、鉄、亜鉛、銅、マグネシウムから選ばれる少なくとも1種のミネラルであり、最も好ましくは鉄である。
【0018】
また、本発明は、所定量のラクトースをリン酸緩衝液に溶解あるいは懸濁させる工程と、得られた溶液あるいは懸濁液を乾燥する工程と、乾燥物を常圧にて70℃〜150℃の温度に所定時間加熱する工程と、を含んでなるリン酸化ラクトースを含むミネラル吸収強化剤の製造方法を提供する。
【0019】
本発明において、前記加熱工程の加熱温度は90℃〜130℃であることが好ましい。
【0020】
本発明による前記製造方法においては、前記リン酸化ラクトースは、少なくとも1〜3のリン酸基を有することが好ましい。
【0021】
また、本発明による前記製造方法においては、前記リン酸化ラクトースが結合するミネラルとしては、好ましくはカルシウム、鉄、亜鉛、銅、マグネシウムから選ばれる少なくとも1種のミネラルであり、最も好ましくは鉄である。
【0022】
また、本発明は、前記のミネラル吸収強化剤を含む、ミネラル強化食品組成物を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明におけるリン酸化ラクトースはミネラル吸収強化剤として、ミネラルキャリア能が非常に優れているために、生体に必要とされているミネラルを安定して保持して食品に含ませることができる。
【0024】
本発明におけるリン酸化ラクトースの原料となるラクトースは牛乳に含まれている天然成分であり、また安価に入手でき、またリン酸化ラクトースは安全な試薬を用いた化学的手法により合成されるために、簡便に製造することができ、かつ製造工程を制御することも容易であり、経済的・工業的に有利である。
【0025】
また、本発明のリン酸化ラクトースからなるミネラル吸収強化剤は、対象となる食品の風味を損なうことが無いために、食品自身の嗜好性を損なうことがない。したがって、一般的に鉄分などの従来の化合物の状態で添加すると食品の風味を損なってしまうミネラル成分を飲食しやすい状態で食品に含ませることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を具体的に例示しながら説明を行うが、本発明はこれには限定されない。
【0027】
本発明で使用される原料のラクトースは、天然品、合成品を問わず、食品として用いることができる品質の糖質であれば、その種類に制限はない。
【0028】
本発明のミネラル吸収強化剤であるリン酸化ラクトースは、原料となるラクトースにリン酸基を導入する(リン酸化)することで得ることが出来る。この時、リン酸化は化学合成による方法、酵素を用いた生化学的合成方法等があるが、本発明では化学合成によることが好ましい。
【0029】
特に、本発明においては、エドワード等の方法(Edward Tarelli及びSusan F. Wheeler;アナリティカル・バイオケミストリー(Analytical Biochemistry)、222,196−201;1994年)を一部改良した方法が好ましく用いられる。
例えば、所定量のラクトースをリン酸緩衝液に溶解あるいは懸濁する。ついで、得られた溶液あるいは懸濁液を乾燥する。これを常圧にて所定温度に加熱することでリン酸化ラクトースを得ることができる。
【0030】
本発明の製造方法にて使用するリン酸緩衝液に用いられるリン酸塩としては、オルトリン酸塩、ピロリン酸塩、メタリン酸塩の何れでもよい。リン酸緩衝液の調整、ラクトースのリン酸緩衝液への溶解(懸濁)方法等は特に限定されず、常法に従い行うことができる。
【0031】
ラクトースのリン酸緩衝溶液あるいは懸濁液を乾燥する方法としては、特に限定されないが、自然乾燥、熱風乾燥、凍結乾燥等が挙げられる。この中でも、特に凍結乾燥が好ましい。
【0032】
乾燥後の常圧下での加熱条件としては、加熱温度は70℃から150℃、好ましくは80℃〜140℃、さらに好ましくは90℃〜130℃である。加熱時間は1〜100時間、好ましくは24〜72時間である。
この時、系のpHは7以下、さらに2〜5.5であることが好ましい。
【0033】
本発明におけるリン酸化ラクトースのリン酸基の数に特に制限はないが、1〜3残基導入されていることが好ましい。これらのリン酸基数については公知の方法により特定することができる。
【0034】
本発明においてリン酸化ラクトースによってミネラルが保持され、その状態で食品などの風味を損なわずにミネラルを食品に含ませることが可能である。ミネラルの種類としては、カルシウム、マグネシウム、鉄、銅、亜鉛が挙げられ、特に鉄が好ましい。ミネラルを保持する場合には、これに限定されないが、リン酸化ラクトースの合成過程において、あるいは合成終了後に引き続いて、無機イオンとしてリン酸化ラクトースと結合させることができる。
【0035】
これらのミネラルについては、その形態は特に問わない。例えば、生理的pHを有する溶液に溶解可能であり、当該溶液中で解離してそれぞれのミネラルのイオン(例えば鉄であれば一価または二価イオン)を与えることが可能な供与体無機塩として本発明のミネラル吸収強化剤の製造において使用することが出来る。また、特に本発明による鉄飽和型のミネラル吸収強化剤は、極めて希薄な鉄イオン溶液中にて化合物を凍結乾燥することで得ることが可能である。
【0036】
本発明のリン酸化ラクトースからなるミネラル吸収強化剤を飲食用組成物に直接または食品添加物用組成物に使用することが可能である。飲食用組成物としては、特に限定されないが、食品としては一般的な食品以外にも、特別用途食品〔病者用食品、保健機能食品(特定保健用食品および栄養機能食品)〕、サプリメント、治療食などがあげられる。飲料としては乳飲料、清涼飲料などが挙げられる。本有効成分をそのまま使用したり、他の食品ないし食品成分と混合するなど、通常の食品組成物における常法にしたがって使用できる。また、その性状についても、通常用いられる飲食品の状態、例えば、固体状(粉末、顆粒状その他)、ペースト状、液状ないし懸濁状のいずれでもよい。食品への添加・加工方法等は公知である。
【0037】
本発明によるリン酸化ラクトースを含むミネラル吸収強化剤は食品組成物に添加して使用することができる。食品組成物中に添加されるミネラル吸収強化剤の量は、その目的、用途に応じて任意に定めることができる。本発明はこれに限定されないがその含量としては、全体量に対して通常、0.001〜100%(w/w)、特に0.1〜100%が好ましい。
【0038】
本発明によるリン酸化ラクトースを含むミネラル吸収強化剤と共に使用可能なその他の成分については、特に限定されないが、水、タンパク質、糖質、脂質、ビタミン類、有機酸、有機塩基、果汁、フレーバー類等を主成分として使用することができる。タンパク質としては、例えば全脂粉乳、脱脂粉乳、部分脱脂粉乳、カゼイン、ホエイ粉、ホエイタンパク質、ホエイタンパク質濃縮物、ホエイタンパク質分離物、α_カゼイン、β―カゼイン、κ−カゼイン、β―ラクトグロブリン、α―ラクトアルブミン、ラクトフェリン、大豆タンパク質、鶏卵タンパク質、肉タンパク質等の動植物性タンパク質、これら加水分解物;バター、乳性ミネラル、クリーム、ホエイ、非タンパク態窒素、シアル酸、リン脂質、乳糖等の各種乳由来成分などが挙げられる。糖類、加工澱粉(テキストリンのほか、可溶性澱粉、ブリティッシュスターチ、酸化澱粉、澱粉エステル、澱粉エーテル等)、食物繊維などが挙げられる。脂質としては、例えば、ラード、魚油等、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の動物性油脂;パーム油、サフラワー油、コーン油、ナタネ油、ヤシ油、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の植物性油脂などが挙げられる。ビタミン類としては、例えば、ビタミンA、カロチン類、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD群、ビタミンE、ビタミンK群、ビタミンP、ビタミンQ、ナイアシン、ニコチン酸、パントテン酸、ビオチン、イノシトール、コリン、葉酸などが挙げられる。有機酸としては、例えば、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、酒石酸などが挙げられる。これらの成分は、2種以上を組み合わせて使用することができ、合成品及び/又はこれらを多く含む食品を用いてもよい。
【実施例1】
【0039】
以下、本発明を具体的な実施例にて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。なお、実験においては、特に断りのない限り和光純薬工業(株)(大阪)の特級あるいは一般試薬を用いた。
【0040】
(ラクトースのリン酸化)
ラクトースのリン酸化は、上記したエドワードらの方法を一部改良したリン酸緩衝液法により行った。すなわち、ラクトース200mgを0.1M KH2PO4−Na2HPO4緩衝液(pH5.5)10mlに懸濁し、70℃の水浴中で30分加熱した。その後、ネジ付き試験管内で凍結乾燥した。ついでこれを開放系とし、常圧下、ヒーティングブロックで加熱した。なお、リン酸化反応は、80,100あるいは120℃で、24,48,あるいは72時間加熱した。
【0041】
(ゲルろ過)
得られた加熱サンプルを脱塩するために、TOYOPEARL HW-40Sによるゲルろ過クロマトグラフィーを行った。以下に、ゲルろ過の条件を示す。試料濃度は加熱サンプル200mg/3mlとした。
カラム:TOYOPEARL HW−40S(2.6×90cm)(東ソー株式会社)
移動相:ミリQ水
流速:0.7ml/min
分画:10ml/本
検出:フェノール硫酸法(490nm,中性糖)
ピークA(FractionNo.30〜40)とピークB(FractionNo.50〜60)に分画した.各温度・反応時間におけるクロマトグラムは図1(反応条件A:80℃、72時間、B:80℃、7日間、C:100℃、72時間、D:100℃、5日間、E:120℃、24時間)に示した。図において、ピークAの面積を比較すると120℃,24hにおいてピークAの面積が最も大きくなった。このピークAを回収したものを粗リン酸化ラクトース(以下、P−Lacと適宜省略する)とした。
【0042】
(陰イオン交換クロマトグラフィー)
脱塩した粗P−Lacを、DEAE−TOYOPEARL 650Mによる陰イオン交換クロマトグラフィーに供して測定を行った。以下に、陰イオン交換クロマトグラフィーの条件を示す。
カラム:DEAE・TOYOPEARL 650M(1.6×15cm)(東ソー株式会社)
移動相:50mM Tris・HCl緩衝液(pH8.6)
溶出:同緩衝液中の0〜1M NaCl溶液によるリニアグラジエント溶出
流速:1ml/min
分画:10ml/本
検出:フェノール硫酸法(490nm,中性糖)
ゲルろ過におけるピークA、ピークBをそれぞれ別々に回収し、陰イオン交換クロマトグラフィーに供した結果を図2に示した。ピークAにおいては、非吸着画分に1ピークと吸着画分に1ピークが見られた。しかし、ピークBにおいては非吸着画分に1ピークしか見られなかった。非吸着画分のピークは電荷をもっていないラクトースのピーク、吸着画分のピークは負の電荷を持つP−Lacのピークであることがわかった。このことから、ピークAにP−Lacが含まれていることがわかった。
【0043】
(リンの定量)
試料を試験管に採り、凍結乾燥した。これに過塩素酸(70%)を0.4ml添加し、試料が透明になるまで開放系で電気コンロを用いて加熱した(約20分間)。分解終了後、2.4mlのモリブデン酸アンモニウム試薬[特級モリブデン酸アンモニウム4.4gを200〜300mlの蒸留水で溶解し、これに特級硫酸14mlを添加後1Lにしたもの]および2.4mlの還元剤[Fiske&SubbaRow還元試薬:亜硫酸水素ナトリウム30g、無水亜硫酸ナトリウム6g、および1−アミノ−2−ナフトール−4−スルホン酸(特級)O.5gを乳鉢で磨砕混合後、250mlとし、3時間暗所に放置後褐色瓶にろ過した。これを1:12に希釈して用いた。]を添加混合後、100℃,10分間加熱した。放冷後、830nmの吸光度を測定した。試料中に含まれるリン含量は、リン酸二水素カリウムを用いて作成した検量線により算出した。
120℃,24h加熱条件から得られたP−Lacのリン含量を測定したところ、13.2%であった。ラクトースにリン酸基が一残基導入されるとリン含量は7.4%、二残基導入されると12.4%、三残基導入されると16.1%となった。このことから120℃,24h加熱におけるP−Lacでは、平均してラクトースにリン酸基が二残基導入されることがわかった。
【0044】
(高速原子衝突質量分析法(FAB−MS)による質量分析)
測定溶媒にはMilliQ水、また測定マトリックスにはグリセロールを選択した.試料について、POSITIVEモードおよび低分解能の各種条件により、高速原子衝突質量分析法(FastAtomBombardment-MassSpectrometry、以下FAB・MS)に基づいた高性能二重収束質量分析計JMS・700型(日本電子株式会社)を用いて質量分析を行った。
得られたP−Lacの質量スペクトルを図3に示した.POSITIVEモードで測定を行ったため、実際の分子量にプロトン分(H+,質量1)を加えた分子量になる。ラクトースの分子量は342で、リン酸基が1残基導入されると分子量が79増加する。445のピークはラクトースにリン酸基が1残基導入されたものを、525のピークはラクトースにリン酸基が2残基導入されたものを、そして625のピークは3残基導入されたものを表す。図3において445、525、625にピークが見られることから、ラクトースに導入されるリン酸基の数は1〜3残基の導入分子が主成分であることが判った。
【0045】
(BIACOREを用いたリン酸化ラクトースのミネラルキャリア能の測定)
材料:センサーチップSA(表面にストレプトアビジンが導入されており、ビオチン化されているリガンドをビオチン−アビジン結合によって固定化する)、HBS−EPバッファー(共にファルマシア・バイオテック(スウェーデン))、Biotin−PV−LA(生化学工業株式会社)
(1)PV−LA−Biotillのリン酸化
上記の方法でBiotin−PV−LAをリン酸化した.
(2)センサーチップSAへのリガンド(PV−Suger−Biotin)固定
使用するBiotin−PV−LAおよびBiotin−PV−リン酸化LAを0.1mg/ml HBS−EPバッファーで調製した。本溶液をセンサーチップSAに添加し、ビオチン−アビジン反応により固定化した。
(3)アナライト(金属イオン)の調整
金属イオンとして、硫酸第一鉄(FeSO4・7H2O,以後鉄イオン)を0.3mg/ml HBS−EPバッファーに調製し、可溶化していることを確認した後、アナライトとした。
(4)PV−Suger−Biotinに対するミネラルイオン結合試験
BIACORE測定条件
ランニング緩衝液:HBS−EPバッファー
サンプル添加量:10μ1
流速:3μ1/min
温度:25℃
図4のA)は120℃,24h加熱におけるBiotin−PV−リン酸化LAについて、B)はBiotin−PV−LAについてのセンサーチップSAへのリガンド結合量の確認試験の結果を示す。このようにセンサーチップSAにリガンドを結合させた状態で、アナライトとして硫酸第一鉄を流した結果を図5に示す。図5において、A)はBiotin−PV−リン酸化ラクトースへの鉄イオン結合性を示し、B)はBiotin−PV−ラクトースへの鉄イオン結合性を示す。また、この結果を表にまとめたものを表1に示す
【0046】
【表1】

【0047】
120℃,24h加熱におけるリン酸化されているBiotin−PV−リン酸化LAにおいて、鉄イオンは1400RUと高い結合性がみられ、本発明によるリン酸化ラクトースが高いミネラルキャリア能を有することが確認された。
【実施例2】
【0048】
上記で得られたリン酸化ラクトースFeを精製して、清涼飲料、食品組成物に添加した。添加量は1%であった。得られた清涼飲料、食品組成物に対して香り、風味について官能試験を行ったところ、20名中19名が比較の未添加品と同等と評価した。従って、本発明のリン酸化ラクトースからなるミネラル吸収強化剤は、食品に添加してもその風味を損なわずにミネラルを含ませることが可能なことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によれば、入手容易なラクトースを原料として、高ミネラルキャリア能を有するリン酸化ラクトースを含むミネラル吸収強化剤を提供することができる。当該ミネラル吸収強化剤を用いることで、添加対象の飲食品組成物の風味を損なうことなく、飲食品組成物のミネラル成分を強化することが可能となる。また安全な化学的手法により簡便に、経済的・工業的に有利な方法でミネラル吸収強化剤を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】リン酸化ラクトースのゲルろ過クロマトグラフィーによる分離の結果を示す図(反応条件A:80℃、72時間、B:80℃、7日間、C:100℃、72時間、D:100℃、5日間、E:120℃、24時間)。
【図2】リン酸化ラクトースの陰イオン交換クロマトグラフィーによる分離結果を示す図。
【図3】リン酸化ラクトースのFAB−MSによる質量スペクトル。
【図4】A)はセンサーチップSAへのBiotin−PV−リン酸化ラクトースの結合性を示すグラフであり、B)はセンサーチップSAへのBiotin−PV−ラクトース(コントロール)の結合性を示すグラフである。
【図5】A)はBiotin−PV−リン酸化ラクトースへの鉄イオン結合性を示すグラフであり、B)はBiotin−PV−ラクトースへの鉄イオン結合性を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸化されたラクトースを含むミネラル吸収強化剤。
【請求項2】
前記リン酸化ラクトースが、少なくとも1〜3のリン酸基を有する、請求項1に記載のミネラル吸収強化剤。
【請求項3】
前記リン酸化ラクトースが結合するミネラルがカルシウム、鉄、亜鉛、銅、マグネシウムから選ばれる少なくとも1種のミネラルである、請求項1又は2に記載のミネラル吸収強化剤。
【請求項4】
前記リン酸化ラクトースが結合するミネラルが鉄である、請求項1又は2に記載のミネラル吸収強化剤。
【請求項5】
所定量のラクトースをリン酸緩衝液に溶解あるいは懸濁させる工程と、
得られた溶液あるいは懸濁液を乾燥する工程と、
乾燥物を常圧にて70℃〜150℃の温度に所定時間加熱する工程と、
を含んでなるリン酸化ラクトースを含むミネラル吸収強化剤の製造方法。
【請求項6】
前記加熱工程の加熱温度が90℃〜130℃である、請求項5に記載のミネラル吸収強化剤の製造方法。
【請求項7】
前記リン酸化ラクトースが、少なくとも1〜3のリン酸基を有する、請求項5又は6に記載のミネラル吸収強化剤の製造方法。
【請求項8】
前記リン酸化ラクトースが結合するミネラルがカルシウム、鉄、亜鉛、銅、マグネシウムから選ばれる少なくとも1種のミネラルである、請求項5から7のいずれかに記載のミネラル吸収強化剤の製造方法。
【請求項9】
前記リン酸化ラクトースが結合するミネラルが鉄である、請求項5から7のいずれかに記載のミネラル吸収強化剤の製造方法。
【請求項10】
請求項1から4のいずれかに記載のミネラル吸収強化剤を含む、ミネラル強化食品組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−61073(P2007−61073A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−255150(P2005−255150)
【出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年8月27日 東北畜産学会発行の「東北畜産学会報 第55巻大会号」に発表
【出願人】(000006138)明治乳業株式会社 (265)
【Fターム(参考)】