説明

リン酸化糖を含有するチタンインプラント材

【課題】チタンインプラントの治療にいて、バクテリアの感染を防ぐ有効な手段はこれまでなかった。そのため、時間経過とともに、骨吸収が生じ、さらには歯周病にまで発展することも頻発していた。これらはやむを得ず放置するか外科的手段により処理するしかなかった。
【解決手段】
インプラントチタン表面に分子量10,000以下のリン酸化糖を結合させることにより生体適合性の高いインプラント材を開発できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸化糖を塗膜したチタンインプラント材ならびにその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
自然歯を無くした場合の治療方法の一つに、顎骨に直接人工歯根を植え込み、人工歯根に義歯を取り付ける、いわゆるインプラント治療がある。インプラント治療においてはバクテリアの制御が困難であり、これが原因となって骨吸収や歯周病の発生が大きな問題となっていた。
【0003】
本発明はインプラントにリン酸化糖を固定し、骨芽細胞の初期結着性を高め、さらに骨形成速度を高める。これにより、インプラントが顎骨に早く固定されるとともに、バクテリアの繁殖による骨吸収、歯周病の発生も防ぐことも可能となる。
【従来技術】
【0004】
チタンインプラントの治療にいて、バクテリアの感染を防ぐ有効な手段はこれまでなかった。そのため、時間経過とともに、骨吸収が生じ、さらには歯周病にまで発展することも頻発していた。これらはやむを得ず放置するか外科的手段により処理するしかなかった。
【0005】
チタンインプラントの表面へ、ビスフォスフォネートを固定する方法も知られているが、この物質は抗生物質であるため人によっては副作用を生じ使用するには危険性があった。
【特許文献1】特開2000−70288号公報
【特許文献2】特開平8−104696号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在インプラント治療では、チタンが多く使用されている。インプラント治療で最も重要なことは使用されているチタンとの生体適合性である。すなわち、骨組織とチタンを早く結合させ、しかも長期にわたり安定に結着し続けることである。さらに、骨芽細胞の働きを活発にさせることで、バクテリアの繁殖を抑制する。つまり、チタン表面と生体の結着を早めることはインプラント治療においてきわめて重要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者は、かかる事情に鑑み鋭意検討した結果、リン酸化糖がインプラントチタンの表面に強力に結着し、さらに骨芽細胞の増殖を促進することでインプラントチタンと生体の適合を早めるとの結論に至った。
【0008】
本発明によると塩酸処理したチタンをリン酸化糖溶液に浸漬するとリン酸化糖をチタン表面に強力に結合させることができ、さらに骨とインプラントの表面で骨芽細胞の初期接着性を向上させ骨形成を促進する働きがある。これによりインプラントと骨組織を早く適合させることができる。
【0009】
さらにリン酸化糖は化学修飾することによって、塩基性繊維芽細胞成長因子などの生理活性物質を結合することができ、より生体適合性を高めることができる。
【0010】
本発明でいうリン酸化糖とはリン酸基を持つ分子量10,000以下の糖質であればよく、リン酸基に水素が結合しているか、あるいはカルシウム、マグネシウム、カリウム、亜鉛、銅、鉄、アルミニウム、ニッケルあるいはナトリウム等と結合した塩の形態であってもよい。さらには水素と金属が混在して結合していてもよい。糖質部分は特に制限はないが中性糖であっても酸性糖であっても良い。例えばリン酸基を持つ分子量10,000以下としてリン酸化デキストリン、リン酸化デキストラン、リン酸化オリゴ糖、リン酸化セルロース、リン酸化セロビオース、リン酸化ペクチン、リン酸化グルクロン酸、などがある。アルドースであってもケトースであってもよく、炭素数は3個のトリオースから10個のデコースがある。構成糖としては例えばアロースおよびそのリン酸化物、アルトロースおよびそのリン酸化物、グルコースおよびそのリン酸化物、マンノースおよびそのリン酸化物、グロースおよびそのリン酸化物、イドースおよびそのリン酸化物、ガラクトースおよびそのリン酸化物、タロースヘプツロースおよびそのリン酸化物、フルクトースおよびそのリン酸化物、ヘキスロースおよびそのリン酸化物、リボースおよびそのリン酸化物、アラビノースおよびそのリン酸化物、キシロースおよびそのリン酸化物、リキソースおよびそのリン酸化物、タロースおよびそのリン酸化物、ガラクトースおよびそのリン酸化物などがあげられる。構成糖は1種類であっても2種類以上の構成糖によりできている糖質であっても良い。リン酸基の数は糖質の重合度と糖質の種類によるが、リン酸基の比率が極端に高い場合は強い酸性となり、生体に用いるに適さない。またリン酸基の比率が極端に低い場合は効果がない。よって構成糖二個ないし十数個にリン酸基がひとつの割合で結合したリン酸化糖が好適である。なかでも特開平8−104696記載のグルコースおよびそのリン酸化物から構成されているリン酸化糖はインプラントチタンに強力に結合し、さらに細胞増殖の栄養分ともなりえるため好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のようにリン酸化糖をインプラントチタン表面に固定することが可能となれば、口腔内露出部位インプラント表面での骨形成が盛んとなりインプラントと生体への固定が強固にしかも早く行われることとなる。これにより、石灰化抑制やバクテリアの繁殖による種々の疾病発生も予防できることが期待できる。
【実施例1】
【0012】
チタンディスクを10N塩酸にて30分間超音波処理後、超純水にて30分間超音波洗浄した。その後50mMに調整したグルコースおよびそのリン酸化物から構成されているリン酸化オリゴ糖(平均分子量800)の溶液に37℃、12時間浸漬し、超純水で10分間超音波洗浄した。このように処理したチタンディスク表面にはX線光電子分光(XPS)分析によりリン酸化オリゴ糖が固定されていることを確認した。
【実施例2】
【0013】
リン酸化オリゴ糖を結合させたチタンディスク上にマウス骨芽細胞様細胞(MC3T3-E1細胞1.0×105)懸濁液を静置し、5%CO2、37℃条件下にて30分間培養した。その後チタンディスクを超純水で洗浄し、非接着培養細胞を除去した後、MTS ASSAY試薬を添加し吸光度を測定することにより表面の細胞数を測定した。リン酸化オリゴ糖処理していないチタンディスクへの接着率は36.4%であったが、リン酸化オリゴ糖処理したチタンディスクへの接着率は62.2%と高い接着率を示した。
【実施例3】
【0014】
チタンディスクを10N塩酸にて30分間超音波処理後、超純水にて30分間超音波洗浄した。その後50mMに調整したグルコースおよびそのリン酸化物から構成されているリン酸化デキストリン糖(平均分子量5,000)の溶液に37℃、12時間浸漬し、超純水で10分間超音波洗浄した。このように処理したチタンディスク表面にはX線光電子分光(XPS)分析によりリン酸化オリゴ糖が固定されていることを確認した。
【実施例4】
【0015】
リン酸化デキストリン(平均分子量5,000)を結合させたチタンディスク上にマウス骨芽細胞様細胞(MC3T3-E1細胞1.0×105)懸濁液を静置し、5%
CO2、37℃条件下にて30分間培養した。その後チタンディスクを超純水で洗浄し、非接着培養細胞を除去した後、MTS ASSAY試薬を添加し吸光度を測定することにより表面の細胞数を測定した。リン酸化デキストリン処理していないチタンディスクへの接着率は32.4%であったが、リン酸化オリゴ糖処理したチタンディスクへの接着率は65.2%と高い接着率を示した。
【実施例5】
【0016】
チタンディスクを10N塩酸にて30分間超音波処理後、超純水にて30分間超音波洗浄した。その後50mMに調整したグルコースおよびそのリン酸化物から構成されているリン酸化デキストリン糖(平均分子量10,000)の溶液に37℃、12時間浸漬し、超純水で10分間超音波洗浄した。このように処理したチタンディスク表面にはX線光電子分光(XPS)分析によりリン酸化オリゴ糖が固定されていることを確認した。
【実施例6】
【0017】
リン酸化デキストリン(平均分子量10,000)を結合させたチタンディスク上にマウス骨芽細胞様細胞(MC3T3-E1細胞1.0×105)懸濁液を静置し、5%
CO2、37℃条件下にて30分間培養した。その後チタンディスクを超純水で洗浄し、非接着培養細胞を除去した後、MTS ASSAY試薬を添加し吸光度を測定することにより表面の細胞数を測定した。リン酸化デキストリン処理していないチタンディスクへの接着率は30.6%であったが、リン酸化オリゴ糖処理したチタンディスクへの接着率は60.4%と高い接着率を示した。
【実施例7】
【0018】
予め10分間のアセトン浸漬をし、100%エタノールで超音波洗浄を10分間行ったチタンディスクをリン酸化オリゴ糖カルシウム(平均分子量800、5%カルシウム含有)1%溶液、10%ポリリン酸溶液、コントロールとしての脱イオン水にそれぞれ24時間浸漬した。脱イオン水で超音波洗浄を3回した後、このチタンディスクをオートクレーブで滅菌した。
このチタンディスクを細胞培養用24wellプレートに設置(n=6/群)した。ヒト間葉系幹細胞hMSCを10%血清添加培養液中(DMEM,SIGMA)で10000個/wellで播種し、5%
CO2、37℃条件下にて12時間培養後それぞれ3%血清添加培養液に変更した。1、2、3日後の細胞増殖をMTS ASSAYにより評価した。3日後のAbsorbance (490nm)の結果はリン酸化オリゴ糖カルシウム群が0.306±0.015、10%ポリリン酸が0.245±0.030、コントロール群が0.229±0.016で、リン酸化オリゴ糖カルシウム群が最も細胞が増殖していた。

【産業上の利用可能性】
【0019】
歯科医療の分野で生体への適合性の高いインプラント材の開発が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン表面の一部または全部をリン酸化糖により塗膜成形して生体適合性を高めたチタンを含む口腔チタンインプラント材
【請求項2】
チタン表面の一部または全部をリン酸化糖により塗膜成形する工程を含む、口腔チタンインプラント材の製造方法。

【公開番号】特開2007−39439(P2007−39439A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−175753(P2006−175753)
【出願日】平成18年6月26日(2006.6.26)
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【Fターム(参考)】