説明

リン酸含有液の処理方法および装置

【課題】リン酸含有液からリン酸とともに有機物を効率よく除去でき、これによりリン酸および有機物濃度の低い処理液が得られるとともに、生成する汚泥の濃度が高く、脱水性が良好で、汚泥の脱水速度が速く、ケーキ含水率の低い脱水汚泥が得られ、汚泥発生量を減少させることができるリン酸塩含有液の処理方法および装置を提供する。
【解決手段】リン酸含有液L1を第1反応槽1に導入し、鉄塩と返送汚泥の混合汚泥L8を供給してpH3〜5で反応させ、第1反応槽1の反応液を第2反応槽2に導入しpH6〜7に調整してさらに反応させ、第2反応槽2の反応液を凝集槽3に導入して凝集させ、凝集処理液を固液分離装置4において固液分離し、分離汚泥の一部L11を混合装置5に返送して鉄塩L9を混合し、得られた鉄塩混合汚泥L8を第1反応槽1に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸含有液を鉄塩と反応させ、難溶性のリン酸鉄を生成させて分離、除去するリン酸含有液および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ICチップ製造工程、液晶素子製造工程、塗装の下地処理工程等から排出される排水には、リン酸が含まれているものがあり、また下水、し尿等の有機性排水の生物処理水にもリン酸が含まれている。このようなリン酸含有液はそのまま環境に排出することはできず、また水を回収する場合でもリン酸は不純物となるので、リン酸を除去して排出または回収することが求められる。さらにリン酸は有価物であるため、これを回収することは有用である。
【0003】
従来、リン酸含有液中のリン酸を除去する方法として、消石灰を使うのが一般的であり、難溶性のCa(POOHを生成させて分離している。この方法では、用いる消石灰は安価であり、処理pHは8〜11であるため、重金属が共存する場合はこれらを水酸化物として同時に処理できる等のメリットがある。しかしこの方法では有機物は除去できないため、有機物が共存している場合には、別に有機物除去のための処理が必要になる。
【0004】
これに対して鉄塩を用いる処理法は、pH6〜7の中性で反応が行われるため、リン酸とともにCOD成分や着色成分などの有機物を除去することができる。このためこれらの有機物が共存している場合には、鉄塩を用いる処理が行われることがある。この方法はリン酸含有液に鉄塩を添加してリン酸と反応させる方法であり、pH6〜7でリン酸と鉄塩とを反応させ、生成するリン酸の難溶性塩を被処理液から分離して除去する。この方法では、リン酸とともに有機物も除去できるが、生成する汚泥がカサ高であり、脱水性が悪いという欠点があった。
【0005】
一般に脱水ケーキの水分を低減させる方法として、HDS法(High Density Solids)と呼ばれる中和法が行われている。この方法は、Ca(POOH、CaF等の難溶性Ca塩を生成させる場合、あるいはFe(OH)、Zn(OH)、Al(OH)等の難溶性重金属水酸化物を生成させる場合において、分離汚泥を返送してアルカリと混合し、このアルカリ混合汚泥を反応槽に供給して排水と反応させて中和する方法であり、これにより脱水性に富む汚泥を生成させることができる。この方法は汚泥を結晶の析出核として利用する方法であり、難溶性塩の析出により結晶が成長し、脱水性に富む汚泥が生成する。
【0006】
特許文献1には、リン酸を難溶性のカルシウム塩として固液分離するリン酸含有廃水の処理方法において、生成汚泥の一部を返送してカルシウム化合物と混合したのち原水と混合し、被処理水中のリン酸をカルシウム塩として沈殿させるリン酸塩含有液の処理方法が示されている。この方法によれば、生成する汚泥の濃度が高く汚泥発生量が減少し、汚泥の脱水速度が速く、脱水性の良好な汚泥が得られる。
【0007】
しかし特許文献1の方法はリン酸をカルシウム塩と高pHで反応させる方法であるため、弱アルカリ側でリン酸と鉄塩を反応させ、難溶性のリン酸鉄を生成させる場合に、このようなHDS法をそのまま適用しても、目的とする効果が得られない。すなわちリン酸を鉄塩と反応させる場合、pH6〜7で残留リン酸濃度を低くできるが、このpHでHDS法を適用しても、脱水性の良好な汚泥が得られない。従って特許文献1で採用されているHDS法をそのまま、リン酸を鉄塩と反応させる場合に適用しても、脱水性の良好な汚泥が得られない。
【特許文献1】特開平9−1154号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、リン酸含有液を鉄塩と反応させ、難溶性のリン酸鉄を生成させて分離、除去する処理において、リン酸および有機物濃度の低い処理液が得られるとともに、生成する汚泥の濃度が高く、脱水性が良好で、汚泥の脱水速度が速く、ケーキ含水率の低い脱水汚泥が得られ、汚泥発生量を減少させることができるリン酸塩含有液の処理方法および装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、次のリン酸塩含有液の処理方法および装置である。
(1) リン酸含有液をpH3〜5で鉄塩混合汚泥と反応させる第1反応工程と、
第1反応工程の反応液をpH6〜7に調整してさらに反応させる第2反応工程と、
第2反応工程の反応液を固液分離する固液分離工程と、
固液分離工程で分離された分離汚泥の一部を返送する汚泥返送工程と、
返送汚泥に鉄塩を混合して鉄塩混合汚泥とする混合工程と、
鉄塩混合汚泥を第1反応工程に供給する混合汚泥供給工程と
を含むリン酸含有液の処理方法。
(2) リン酸と反応させる鉄塩の量は、被処理液中のリン酸に対して1〜3当量倍である上記(1)記載の方法。
(3) 鉄塩と混合する返送汚泥の量は、鉄塩混合汚泥中に遊離する鉄塩が200〜1500mg/l(Feとして)となる量である上記(1)または(2)記載の方法。
(4) 第2反応工程と固液分離工程間に凝集工程を含む上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の方法。
(5) リン酸含有液をpH3〜5で鉄塩混合汚泥と反応させる第1反応槽と、
第1反応槽の反応液のpHを6〜7に調整してさらに反応させる第2反応槽と、
第2反応槽の反応液を固液分離する固液分離装置と、
固液分離装置で分離された分離汚泥の一部を返送する汚泥返送路と、
返送汚泥に鉄塩を混合して鉄塩混合汚泥とする混合装置と、
鉄塩混合汚泥を第1反応槽に供給する混合汚泥供給路と
を含むリン酸含有液の処理装置。
(6) 第1反応槽および第2反応槽に、それぞれpH調整剤を注入するpH調整剤注入路を含む上記(5)記載の装置。
(7) 第2反応槽と固液分離装置間に凝集槽を含む上記(5)または(6)記載の装置。
【0010】
本発明において処理の対象となるリン酸含有液は、オルトまたはピロリン酸を含有する液であり、ICチップ製造工程、液晶素子製造工程、塗装の下地処理工程等から排出される排水、下水、し尿、その他の有機性排水の生物処理水などが挙げられる。ここでリン酸とは、塩を含む概念であり、鉄塩と反応するリン酸イオンを解離するものが含まれる。被処理液に含まれるリン酸の濃度は制限されないが、20〜1000mg/l程度の液が処理に適しており、高濃度の場合には希釈して反応させてもよい。
【0011】
本発明では第1反応工程として、第1反応槽において、pH3〜5でリン酸含有液を鉄塩混合汚泥と反応させる。鉄塩混合汚泥は後続の混合工程において得られる分離汚泥の一部を返送した返送汚泥と鉄塩の混合物である。返送汚泥と混合する鉄塩は、塩化第2鉄、硫酸第2鉄、ポリ鉄などの第2鉄塩が好ましい。塩化第1鉄、硫酸第1鉄のような第1鉄塩でもよいが、この場合は、添加して空気曝気するなど酸化処理することが必要である。リン酸と反応させる鉄塩の量は、被処理液中のリン酸と反応して不溶性塩(リン酸第2鉄)を生成するのに必要な量であり、被処理液中のリン酸に対して1〜3当量倍、好ましくは1.5〜2当量倍とすることができる。鉄塩が返送汚泥または被処理液中に存在する場合には、不足分を添加することができる。分離汚泥と混合する鉄塩は、5〜38重量%の水溶液として添加することができる。
【0012】
上記返送汚泥は、後続の固液分離工程において分離される分離汚泥をそのまま返送したものでもよいが、濃縮して返送したものでもよい。鉄塩と混合する返送汚泥の量は、析出の核として用いるのに必要な量であるが、鉄塩混合汚泥中に遊離する鉄塩が200〜1500mg/l(Feとして)、好ましくは300〜600mg/l(Feとして)となる量とするのが望ましい。このような返送汚泥量とするための分離汚泥の返送量は、被処理液量のリン酸濃度によって異なるが、一般的には流入被処理液から発生するSSに対して20〜70重量倍、好ましくは30〜50重量倍(乾物として)とすることができる。20重量倍未満では、汚泥表面に未吸着の鉄が多くなり、ゲル状の汚泥が生成する恐れがある。また70重量倍を超えると、鉄塩がすべて汚泥に吸着して凝集性が悪くなり、処理水は濁る恐れがある。このため適当量の鉄塩が汚泥表面に吸着し、凝集作用を有する適当量の未吸着の鉄塩が存在するように、上記範囲に分離汚泥の返送量を決めるのが好ましいが、未吸着の鉄塩が不足する場合は、第2反応工程で鉄塩を添加してもよい。
【0013】
鉄塩混合汚泥は分離汚泥(反応析出物)と鉄塩が濃厚状態で混合したものであり、鉄塩が汚泥表面に吸着した状態であるため、リン酸含有液と混合されると、汚泥表面に吸着した鉄塩がリン酸と反応し、反応により生成するリン酸鉄の析出物は汚泥粒子を核として析出して、汚泥粒子の結晶が成長することになる。通常の処理では、残留リン酸濃度を低くするために、リン酸と鉄塩とをpH6〜7で反応させているが、HDS法を採用する場合、pH6〜7で反応させると、生成する汚泥の脱水性はあまり改善されない。本発明者が検討したところ、pH6〜7では反応液中にゲル状汚泥が析出し、結晶化が起きないため、生成する汚泥の脱水性はあまり改善されないが、pH3〜5で反応させると結晶の成長が進み、生成する汚泥の脱水性が改善されることがわかった。
【0014】
このため本発明では第1反応工程において、pH3〜5でリン酸含有液を鉄塩混合汚泥と反応させる。pH3〜5は第1反応槽における反応液のpHであり、リン酸含有液を鉄塩混合汚泥と混合して反応させたときにpH3〜5になる場合にはpH調整の必要はないが、pH調整の必要がある場合には第1反応槽にpH調整剤を注入するのが好ましく、鉄塩混合汚泥を形成する混合装置ではpH調整する必要はない。pH調整剤としては、リン酸含有液のpHに応じて、酸またはアルカリが使用される。酸としては塩酸、硫酸等の通常のpH調整剤として用いられる酸、アルカリとしては水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム等の通常のpH調整剤として用いられるアルカリが使用できる。
【0015】
第1反応工程として、pH3〜5でリン酸含有液を鉄塩混合汚泥と反応させると、リン酸と鉄塩の反応により生成するリン酸鉄の析出物は汚泥粒子を核として析出し、汚泥粒子の結晶が成長し、重質で脱水性の良い汚泥が得られる。しかしpH3〜5ではリン酸鉄の溶解度が大きく、そのまま固液分離してもリン酸濃度の低い処理水は得られない。このため本発明では第2反応工程として、第2反応槽において、第1反応工程の反応液をpH6〜7に調整してさらに反応させる。pH調整は、第1反応工程で用いたpH調整剤(アルカリ)を注入して行われる。pH6〜7ではリン酸鉄の溶解度が小さいため、反応液中に存在するリン酸と鉄塩の反応が進行して、リン酸鉄の析出が促進される。これにより反応液中のリン酸濃度は低くなるとともに、反応液中の有機物はリン酸鉄の析出物中に抱き込まれて除去され、有機物濃度も低くなる。
【0016】
第2反応工程の反応液は固液分離工程で固液分離することにより、分離液と分離汚泥に分離する。固液分離としては、沈降分離、ろ過分離、膜分離など、従来より用いられている固液分離装置を用いて、それぞれの方法で行うことができる。分離された汚泥の一部は、汚泥返送工程において、鉄塩と混合するために返送汚泥として汚泥返送路から混合工程に送り、残部は排汚泥として排出する。分離液はそのまま処理液として排出することができるが、後処理をして回収してもよい。
【0017】
混合工程は、固液分離工程で分離された汚泥を、混合装置において鉄塩を添加して混合し、鉄塩混合汚泥を形成する。ここで混合する分離汚泥および鉄塩の種類、量等は前述のとおりである。混合装置としては、混合槽を用いるのが好ましいが、ラインミキサーを用いてもよく、また汚泥返送路に鉄塩供給路を合流させる構成とし、返送汚泥中に鉄塩を供給して混合してもよい。
混合汚泥供給工程は、混合工程で得られた鉄塩混合汚泥を、混合汚泥供給路により第1反応工程の第1反応槽に供給する。
【0018】
第2反応工程と固液分離工程間に、凝集工程として凝集槽を設け、第2反応工程反応液に凝集剤を注入して凝集処理を行うのが好ましい。ここで用いる凝集剤は、第2反応工程で液中に析出する微細な析出物および有機物を、成長した結晶を含む返送汚泥とともに凝集させて、フロックを形成させる凝集剤であり、通常は高分子凝集剤が用いられるが、他の凝集剤でもよい。高分子凝集剤としては、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド部分加水分解物など、無機固形物の凝集に用いられている高分子凝集剤を用いることができるが、リン酸鉄の凝集に適したものであれば、アニオン性、ノニオン性、カチオン性のいずれでもよい。凝集の操作も、凝集剤を注入して攪拌を行うなど、通常の凝集操作が採用される。この場合、必要により、注入する凝集剤に適したpHに調整することができる。
【0019】
第1反応槽、第2反応槽、凝集槽などには、それぞれpH調整剤を注入するpH調整剤注入路を設けることができる。またこれらの槽ならびに混合装置として混合槽を用いる場合は、それぞれの反応等を行える構成および大きさであればよく、またこれらの槽には、攪拌を行うための攪拌装置、その他の設備を設けることができる。
【0020】
本発明の処理では、第1反応工程として、pH3〜5でリン酸含有液を鉄塩混合汚泥と反応させると、pH3〜5が結晶の成長に適しているため、リン酸と鉄塩の反応により生成するリン酸鉄の析出物は汚泥粒子を核として析出し、汚泥粒子の結晶が成長し、重質で脱水性の良い汚泥が生成する。この場合、大部分(約90%以上)のリン酸が反応して析出するものと推測される。しかしpH3〜5ではリン酸鉄の溶解度が大きく、そのまま固液分離してもリン酸濃度の低い処理水は得られないので、第2反応工程として、第1反応工程の反応液をpH6〜7に調整してさらに反応させることにより、反応液中に存在するリン酸と鉄塩の反応が進行して、リン酸鉄の析出が促進される。ここでは残留する(約10%以下)リン酸が反応して析出するものと推測される。これにより反応液中のリン酸濃度は低くなるとともに、反応液中の有機物はリン酸鉄の析出物中に抱き込まれて除去され、有機物濃度も低くなる。
【0021】
このため第2反応工程の反応液を、必要により凝集処理を行った後、固液分離することにより、リン酸および有機物濃度の低い分離液と、脱水性の良好な分離汚泥に分離することができる。これにより分離液はリン酸および有機物濃度の低い処理液として排出することができる。分離汚泥は一部を返送して結晶を成長させ、残部を排出するため、汚泥中の結晶の大きさを一定にすることができる。排出する分離汚泥は濃度が高く、脱水性が良好であるため、汚泥の脱水速度が速く、ケーキ含水率の低い脱水汚泥が得られ、汚泥発生量を減少させることができる。
【0022】
この場合、リン酸と反応させる鉄塩の量を、被処理液中のリン酸に対して1〜3当量倍とすることにより、被処理液中のリン酸を効率よく除去することができる。また鉄塩と混合する返送汚泥の量は、鉄塩混合汚泥中に遊離する鉄塩が200〜1500mg/l(Feとして)となる量とすることにより、第1反応工程で残留するリン酸を第2反応工程で析出させて、リン酸および有機物の除去率を高くすることができる。また第2反応工程と固液分離工程間に凝集工程を設けると、析出したリン酸および有機物の凝集効果により、これらの除去率をさらに高くすることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、リン酸含有液を第1反応工程においてpH3〜5で鉄塩混合汚泥と反応させ、第2反応工程において第1反応工程の反応液をpH6〜7に調整してさらに反応させ、固液分離工程において第2反応工程の反応液を固液分離し、固液分離工程で分離された汚泥に鉄塩を混合して、得られた鉄塩混合汚泥を第1反応工程に返送するようにしたので、リン酸含有液からリン酸とともに有機物を効率よく除去でき、これによりリン酸および有機物濃度の低い処理液が得られるとともに、生成する汚泥の濃度が高く、脱水性が良好で、汚泥の脱水速度が速く、ケーキ含水率の低い脱水汚泥が得られ、汚泥発生量を減少させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面により説明する。図1(A)および(B)は本発明の別の実施形態によるリン酸含有液の処理方法および装置を示すフロー図である。図1において、1は第1反応槽、2は第2反応槽、3は凝集槽、4は固液分離装置、5は混合装置である。L1は被処理液路、L2〜L4は移送路、L5は処理液路、L6〜L7はpH調整剤路、L8は混合汚泥供給路、L9は鉄塩供給路、L11は汚泥返送路、L12は汚泥排出路、L13は凝集剤供給路である。図1(A)では、固液分離装置4として沈降分離槽が用いられ、混合装置5として混合槽が用いられている。また図1(B)では、固液分離装置4としては沈降分離槽が用いられているが、混合装置5としては、汚泥返送路L11に鉄塩供給路L9を合流させる構成とし、合流点において混合汚泥供給路L8に接続している。
【0025】
上記の処理装置によるリン酸含有液の処理方法は、第1反応工程として、第1反応槽1に被処理液路L1からリン酸含有液を導入し、混合汚泥供給路L8から鉄塩混合汚泥を供給し、pH調整剤路L6からpH調整剤を注入してpH3〜5に調整し、リン酸と鉄塩混合汚泥と反応させる。生成するリン酸鉄の不溶性塩は汚泥を核として析出し、結晶が成長する。続いて第2反応工程として、第1反応工程の反応液を第2反応槽2に移送路L2から導入し、pH調整剤路L7からpH調整剤を注入してpH6〜7に調整してさらに反応させる。これにより残留するリン酸と鉄塩は反応し、生成するリン酸鉄の不溶性塩は有機物を抱き込んで液中に析出する。続いて凝集工程として、第2反応工程の反応液を凝集槽3に移送路L3から導入し、凝集剤路L13から凝集剤を注入して凝集反応を行い、フロックを形成させる。このとき必要によりpH調整剤を注入する。続いて固液分離工程において、凝集工程の凝集反応液を固液分離装置2に移送路L4から導入して固液分離し、分離液と汚泥に分離する。分離液は処理液として処理液路L5から排出する。分離汚泥は一部を汚泥返送路L11から混合装置5に返送し、残部を汚泥排出路L12から排出する。混合装置5では、鉄塩供給路L9から鉄塩を供給し、返送汚泥に鉄塩を混合し、得られた鉄塩混合汚泥を混合汚泥供給路L8から第1反応槽1に供給する。
【0026】
図2(A)は比較例4〜6で採用した装置および方法を示すフロー図であり、図1(A)の混合装置5および汚泥返送路L11は省略され、鉄塩供給路L9から第1反応槽に鉄塩を供給するようにされている。
図2(B)は比較例7〜8で採用した装置および方法を示すフロー図であり、図1(A)の混合装置5は省略され、第1反応槽1に汚泥返送路L11から返送汚泥を供給し、鉄塩供給路L9から鉄塩を供給するようにされている。
図2(C)は比較例9〜10で採用した装置および方法を示すフロー図であり、図1(A)の混合装置(混合槽)5にpH調整剤路L6からpH調整剤を供給し、第1反応槽1に鉄塩供給路L9から鉄塩を供給するようにされている。
【実施例】
【0027】
以下、実施例および比較例により本発明の効果を説明する。
実施例および比較例に供試した被処理液は液晶製造排水であり、その水質は、pH1.7、COD:10.5mg/l、Al:6mg/l、PO−P:254mg/lである。
実験は図1または図2の装置により行った。その装置仕様は、第1反応槽1容量:1,000ml、第2反応槽2容量:1,000ml、凝集槽3容量:500ml、固液分離槽4(シックナー)容量:5,000ml、混合槽5容量:200mlである。
運転条件は、被処理液流入量:3,000ml/hr、汚泥返送量:1,200ml/hr、pH調整剤:NaOH溶液、pH計連動注入、凝集剤:ポリアクリルアミド系クリフロックPA−331(栗田工業(株)製、登録商標)2〜3mg/l注入、鉄塩:塩化第2鉄(38%)737mg/l as Fe(Fe/P=1.6モル比)である。
【0028】
実施例1〜5、比較例1〜10:
実施例1〜4、比較例1〜3は図1(A)の装置および方法により、実施例5は図1(B)の装置および方法により、比較例4〜6は図2(A)の装置および方法により、比較例7〜8は図2(B)の装置および方法により、比較例9〜10は図2(C)の装置および方法により、それぞれ第1反応槽1および第2反応槽2のpH値を変えて、上記条件で処理を行った。
そして固液分離装置4の分離液(処理液)のT−P、返送汚泥または排泥を一昼静置後の濃縮汚泥の汚泥濃度、ならびにロールプレスを想定してろ布60メッシュ、圧搾圧力2kg/cmで脱水試験し、脱水ケーキ含水率を測定した。結果を表1に示す。
【表1】

* 比較例−4の汚泥発生量に対する減容率として表示した。
【0029】
表1に示すように、第1反応槽1におけるpH4を最大として、汚泥減容効果を発生する。pH3未満ではリン酸と鉄塩の沈殿物が生成しにくくなり、一方pH5を超えると塩鉄は水酸化鉄となり、リン酸と反応性が弱くなるため、至適pHは3.0〜5.0、好ましくはpH3.5〜4.5と判断される。
【産業上の利用可能性】
【0030】
ICチップ製造工程、液晶素子製造工程、塗装の下地処理工程等から排出される排水、または下水、し尿等の有機性排水の生物処理水などのリン酸含有液を鉄塩と反応させ、リン酸鉄として分離、除去するための処理方法および装置に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】(A)、(B)は本発明の別の実施形態によるリン酸含有液の処理方法および装置を示すフロー図である。
【図2】(A)〜(C)は比較例のリン酸含有液の処理方法および装置を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0032】
1 第1反応槽
2 第2反応槽
3 凝集槽
4 固液分離装置
5 混合装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸含有液をpH3〜5で鉄塩混合汚泥と反応させる第1反応工程と、
第1反応工程の反応液をpH6〜7に調整してさらに反応させる第2反応工程と、
第2反応工程の反応液を固液分離する固液分離工程と、
固液分離工程で分離された分離汚泥の一部を返送する汚泥返送工程と、
返送汚泥に鉄塩を混合して鉄塩混合汚泥とする混合工程と、
鉄塩混合汚泥を第1反応工程に供給する混合汚泥供給工程と
を含むリン酸含有液の処理方法。
【請求項2】
リン酸と反応させる鉄塩の量は、被処理液中のリン酸に対して1〜3当量倍である請求項1記載の方法。
【請求項3】
鉄塩と混合する返送汚泥の量は、鉄塩混合汚泥中に遊離する鉄塩が200〜1500mg/l(Feとして)となる量である請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
第2反応工程と固液分離工程間に凝集工程を含む請求項1ないし3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
リン酸含有液をpH3〜5で鉄塩混合汚泥と反応させる第1反応槽と、
第1反応槽の反応液のpHを6〜7に調整してさらに反応させる第2反応槽と、
第2反応槽の反応液を固液分離する固液分離装置と、
固液分離装置で分離された分離汚泥の一部を返送する汚泥返送路と、
返送汚泥に鉄塩を混合して鉄塩混合汚泥とする混合装置と、
鉄塩混合汚泥を第1反応槽に供給する混合汚泥供給路と
を含むリン酸含有液の処理装置。
【請求項6】
第1反応槽および第2反応槽に、それぞれpH調整剤を注入するpH調整剤注入路を含む請求項5記載の装置。
【請求項7】
第2反応槽と固液分離装置間に凝集槽を含む請求項5または6記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−122794(P2006−122794A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−313324(P2004−313324)
【出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】