説明

ルータおよびメトリック管理方法

【課題】動的経路プロトコルにおいて経路の通信品質を考慮した経路制御を可能にするルータおよびメトリック管理方法を提供する。
【解決手段】動的経路プロトコルに従って作成された経路情報(102)に基づいて経路制御を行うルータが、隣接ルータとの間で送受信される監視パケットを用いてリンクの通信品質を監視する監視部(103)と、通信品質に応じて隣接ルータとの間のメトリック数を変更するメトリック管理部(105)と、変更されたメトリック数を参照して経路情報を作成する動的経路情報処理部(106)と、を有する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はルーティングテーブルに基づいて経路制御(ルーティング)を行うルータに係り、特に経路情報(ルーティングテーブル)を作成する動的経路プロトコルのメトリックを管理する方法およびそれを用いたルータに関する。
【背景技術】
【0002】
RIP(Routing Information Protocol)プロトコルの経路計算では、宛先ネットワークへの経路上のホップ数をメトリック数として使用してルーティングテーブルを作成する。経路制御では最もメトリック数が小さい経路を最適経路として採用する。通常、隣接ルータではホップ数1がメトリック数となるので、たとえば宛先ネットワークまで5段のルータを経由する経路はホップ数(メトリック数)=5となる。したがって、あるリンクに障害が発生して宛先ネットワークまでのメトリック数が変化すると、ルーティングテーブルも自動的に更新され、このようなメトリック数の変化を利用してネットワークリンクの状態変化を検知する技術も提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−068749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、RIP経路計算で使用されるメトリック数は宛先までのルータ数であり、ルータ間の帯域などは考慮されない。したがって、ルータ間の通信で伝送遅延などの品質劣化が発生しているにも拘わらず、その遅延が所定のデッドタイム(60×3s)内であれば当該リンクが正常として扱われてしまう。すなわち、ネットワーク状態に多少の障害(30s×3回の180s間以内)が発生しても問題ないとみなされる。この状態のまま運用しているとネットワーク品質が不安定なまま運用されることになり、通信、監視などに支障をきたす可能性が高くなる。
【0005】
さらに、不安定なネットワークでもTCP/IPレイヤの再送機能によって通信、監視などのサービスを続行することが可能である。しかしながら、このような状態で通信を持続することは、遅延が発生するだけでなく、システム内の端末、サーバ、装置などに高い負荷がかかり、その結果、最終的には、たとえばシステムの監視が一時中断するなど通信がとぎれてしまう事態になりかねない。復旧のためには、ネットワークの負荷を下げサーバを再起動するなどのオペレートが必要になる。
【0006】
そこで、本発明の目的は、動的経路プロトコルにおいて経路の通信品質を考慮した経路制御を可能にするルータおよびメトリック管理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるルータは、動的経路プロトコルに従って作成された経路情報に基づいて経路制御を行うルータであって、隣接ルータとの間で送受信される監視パケットを用いて前記隣接ルータとの間のリンクの信品質を監視する監視手段と、前記通信品質に応じて前記隣接ルータとの間のメトリック数を変更するメトリック管理手段と、前記変更されたメトリック数を参照して前記経路情報を作成する動的経路情報処理手段と、を有することを特徴とする。
【0008】
本発明によるメトリック管理方法は、動的経路プロトコルに従って作成された経路情報に基づいて経路制御を行うルータにおけるメトリック管理方法であって、監視手段が隣接ルータとの間で送受信される監視パケットを用いて前記隣接ルータとの間のリンクの通信品質を監視し、メトリック管理手段が前記通信品質に応じて前記隣接ルータとの間のメトリック数を変更し、動的経路情報処理手段が前記変更されたメトリック数を参照して前記経路情報を作成する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、動的経路プロトコルにおいて経路の通信品質を考慮した経路制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は本発明の一実施形態によるRIPメトリック管理機能を備えたルータの機能的構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、図1に示すRIPメトリック管理動作を示すフローチャートである。
【図3】図3は本実施形態によるRIPメトリック管理方法の一例を示すシーケンス図である。
【図4】図4(A)は本実施形態によるRIPメトリック管理が起動する前のルータの動作を説明するためのネットワーク図、図4(B)は本実施形態によるRIPメトリック管理が起動してメトリック数が更新された状態のネットワーク図である。
【図5】図5は本実施形態によるRIPメトリック管理が起動して経路が変更された後のネットワーク図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明によれば、RIPのような動的経路プロトコルにより経路情報(ルーティングテーブル)を構築する際に使用するメトリック数を、隣接ルータ間でICMP(Internet Control Message Protocol)のような監視パケットを定期的に送信した結果に基づいて変更する。たとえばある隣接ルータとの間のリンクが通信可能ではあるが通信状況が粗悪な場合、当該経路のメトリック数を増大させる。これによって、動的経路プロトコルフォーマットを変更することなく、自動的に別の良好な経路への変更が可能となる。
【0012】
1.構成
図1において、本発明の一実施形態によるRIPメトリック管理機能を備えたルータ10は、スイッチ部101、ルーティングテーブル102、ICMP処理部103、制御部104、メトリック管理部105およびRIP処理部106を有するが、ここでは本発明に関連する機能部のみが図示されている。スイッチ部101は、隣接ルータからのパケットをルーティングテーブル102に従って別のルータへ転送する。制御部104は、本実施形態によるRIPメトリック管理機能を含むルータ全体の動作御を行う。
【0013】
制御部104はメトリック管理部105からの要求に従ってICMP処理部103に対してICMP要求パケットの送信および応答パケットの受信を指示する。この指示によりICMP処理部103は隣接ルータに対してICMP要求パケットを所定周期で送信し、所定時間経過前に応答パケットを受信する。制御部104は送信したICMP要求パケット数とICMP応答パケット数とを一定時間カウントしてメトリック管理部105へ渡す。
【0014】
メトリック管理部105は要求パケット数と応答パケット数からパケットロス率を算出し、パケットロス率に基づいてメトリック数を変更してRIP処理部106へ出力する。RIP処理部106は、メトリック数の変更を反映したルーティングテーブル102を作成する。
【0015】
なお、リンクの通信品質は、パケットロス率だけではなく、受信までの遅延量の増大やビット誤り率の上昇などをモニタすることで検出することもできる。
【0016】
2.動作
図2および図3を参照しながら、ルータ10におけるRIPメトリック管理方法について詳細に説明する。
【0017】
図2および図3において、まず、RIP処理部106がRIPプロトコルを隣接ルータ間で確立すると(ステップ201)、制御部104はメトリック管理部105からの要求に従ってICMP処理部103を制御し各隣接ルータへICMP要求パケットを所定周期(たとえば1〜10sec周期)で送信させ、所定時間経過前に到達した応答パケットをカウントする(ステップ202)。
【0018】
制御部104がICMP要求パケット送信数とICMP応答パケット受信数とを一定時間(たとえば1時間)カウントすると、それらのカウント値を用いてメトリック管理部105はパケットロス率を算出し(ステップ203)、パケットロス率が所定のしきい値Lthより大きいか否かを判定する(ステップ204)。
【0019】
パケットロス率が所定のしきい値Lthより大きい場合(ステップ204;YES)、当該隣接ルータ間で負荷が高くなり通信に影響が出始めたと判断し、メトリック管理部105はパケットロス率に基づいてメトリック数を変更するための追加メトリック値(+Δmあるいは−Δm)を生成し、メトリック数(ホップ数)を追加メトリック値を用いて次式により変更する:メトリック数=ホップ数(通常はホップ数=1)+追加メトリック値(ステップ206)。こうして変更されたメトリック数をRIP処理部106へ出力する。
【0020】
RIP処理部106は、通常の動的経路設定によりルーティングテーブル102を作成する際に、更新されたメトリック数で経路計算を行い(ステップ207)、変更された通信経路情報を隣接ルータへ通知する(ステップ208)。
【0021】
なお、パケットロス率が所定のしきい値Lth以下であれば(ステップ204;NO)、メトリック数を変更しないように追加メトリック値を0にして(ステップ209)、通常通りの経路計算を行う(ステップ207)。また、メトリック数の変更を通知するとパケット数カウンタがクリアされ、上記ステップ202〜208が繰り返えされる。
【0022】
3.具体例
図4(A)に示すように、IPアドレスが“10.1.1.0/24”であるホスト301とIPアドレスが“20.1.1.0/24”であるホスト302とは、ルータA−B−Dの経路303を通して通信が行われているものとする。この場合、ルータAの経路情報にはテーブル401の情報が登録されており、ルータDの経路情報にはテーブル402の情報が登録されている。この例では、ルータ間のメトリック数(ホップ数)はいずれも1であるから、経路303のメトリック数は2である。
【0023】
このようなネットワークにおいて、ルータAとルータBとの間の通信経路で負荷が高くなり通信に影響が出始めたとする。この通信品質の劣化は、上述したICMPパケットのロス率や遅延量増加あるいは誤り率増大などを指標として検出できる。
【0024】
図4(B)に示すように、ルータA−B間の通信経路での通信品質劣化が検出されると、上述したようにメトリック管理部105は当該通信経路のメトリック数を増加させる(ここでは+Δm=1)。したがって、経路303のメトリック数は2から3に増加し、他方の経路(ルータA−C−D)のメトリック数は2のままである。
【0025】
このようにメトリック数が変更されることにより、図5に示すように、ルータAおよびルータDの経路情報411および412が更新され、ルータA−C−Dの経路304が最適経路として選択させる。こうして、通信経路がより品質の良好なルートに変更される。
【0026】
なお、ルータA−B間の通信品質が回復すれば、メトリック管理部105は当該通信経路のメトリック数をそのまま使用するように追加メトリック値を0(すなわちΔm=0)にする。
【0027】
4.効果
以上説明しように、本実施形態によれば、メトリック数を通信品質に応じて動的に変更することができるので、メトリック数が最も小さい経路を最適経路として採用する通常の経路制御により、通信経路をより品質の良い(到達性の高い)経路へ変更することができる。したがって、通常のRIPプロトコルに従って、データの欠落により再送などが発生したリンクあるいは不安定なリンクを回避することができ、ネットワークでの監視運用も軽減される。またパケット転送の高品質化によりサービスが充実する。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明はRIPプロトコルに従ったルータに適用可能である。
【符号の説明】
【0029】
10 ルータ
101 スイッチ部
102 ルーティングテーブル
103 ICMP処理部
104 制御部
105 メトリック管理部
106 RIP処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動的経路プロトコルに従って作成された経路情報に基づいて経路制御を行うルータであって、
隣接ルータとの間で送受信される監視パケットを用いて前記隣接ルータとの間のリンクの通信品質を監視する監視手段と、
前記通信品質に応じて前記隣接ルータとの間のメトリック数を変更するメトリック管理手段と、
前記変更されたメトリック数を参照して前記経路情報を作成する動的経路情報処理手段と、
を有することを特徴とするルータ。
【請求項2】
前記メトリック管理手段は、前記通信品質が所定しきい値を超えたときに前記メトリック数を増加させ、前記通信品質が所定しきい値以下であれば前記メトリック数を変更しないことを特徴とする請求項1に記載のルータ。
【請求項3】
前記通信品質は、前記監視パケットを所定周期で一定時間送信し、それに対する応答パケットを所定時間内に受信した場合に、当該応答パケットの個数に基づいて測定されることを特徴とする請求項1または2に記載のルータ。
【請求項4】
動的経路プロトコルに従って作成された経路情報に基づいて経路制御を行うルータにおけるメトリック管理方法であって、
監視手段が隣接ルータとの間で送受信される監視パケットを用いて前記隣接ルータとの間のリンクの通信品質を監視し、
メトリック管理手段が前記通信品質に応じて前記隣接ルータとの間のメトリック数を変更し、
動的経路情報処理手段が前記変更されたメトリック数を参照して前記経路情報を作成する、
ことを特徴とするルータにおけるメトリック管理方法。
【請求項5】
前記メトリック管理手段は、前記通信品質が所定しきい値を超えたときに前記メトリック数を増加させ、前記通信品質が所定しきい値以下であれば前記メトリック数を変更しないことを特徴とする請求項4に記載のルータにおけるメトリック管理方法。
【請求項6】
前記通信品質は、前記監視パケットを所定周期で一定時間送信し、それに対する応答パケットを所定時間内に受信した場合に、当該応答パケットの個数に基づいて測定されることを特徴とする請求項4または5に記載のルータにおけるメトリック管理方法。
【請求項7】
動的経路プロトコルに従って作成された経路情報に基づいて経路制御を行うルータにおけるプログラム制御プロセッサをメトリック管理装置として機能させるプログラムであって、
監視手段が隣接ルータとの間で送受信される監視パケットを用いて前記隣接ルータとの間のリンクの通信品質を監視し、
メトリック管理手段が前記通信品質に応じて前記隣接ルータとの間のメトリック数を変更し、
動的経路情報処理手段が前記変更されたメトリック数を参照して前記経路情報を作成する、
ように前記プログラム制御プロセッサを機能させることを特徴とするプログラム。
【請求項8】
前記メトリック管理手段は、前記通信品質が所定しきい値を超えたときに前記メトリック数を増加させ、前記通信品質が所定しきい値以下であれば前記メトリック数を変更しないことを特徴とする請求項7に記載のプログラム。
【請求項9】
前記通信品質は、前記監視パケットを所定周期で一定時間送信し、それに対する応答パケットを所定時間内に受信した場合に、当該応答パケットの個数に基づいて測定されることを特徴とする請求項6または7に記載のルータにおけるプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−205143(P2012−205143A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68886(P2011−68886)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】