説明

レシプロ式圧縮機及びこれを用いた冷蔵庫

【課題】冷媒としてイソブタンを用いるレシプロ式圧縮機の耐摩耗性を向上するとともに、このレシプロ式圧縮機を用いた冷蔵庫の高効率化を実現する。
【解決手段】冷媒としてイソブタンを用い、モノエステル油又はポリオールエステル油を含む冷凍機油主剤と、これに添加する添加ポリオールエステル油とを含む冷凍機油を封入したレシプロ式圧縮機を用い、前記添加ポリオールエステル油の組成を1〜30重量%とする。前記冷凍機油主剤の40℃における動粘度は10mm/s以下であることが望ましく、前記添加ポリオールエステル油の40℃における動粘度は130mm/s以上であることが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レシプロ式圧縮機及びこれを用いた冷蔵庫に関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍空調機器分野における地球環境対策としては、オゾン層破壊物質として冷媒や断熱材に用いられていたCFC(Chlorofluorocarbons)やHCFC(Hydrochlorofluorocarbons)の代替、並びに、地球温暖化対策としての高効率化や冷媒に用いられているHFC(Hydrofluorocarbons)の代替が挙げられ、これらが積極的に進められてきた。
【0003】
オゾン層破壊物質であるCFCやHCFCの代替としては、オゾン層を破壊しないこと、毒性や燃焼性が低いこと、効率を確保できることを主眼として冷媒や断熱材の選定、並びに機器開発が進められた。その結果、冷蔵庫の断熱材においては、CFC11、HCFC141b、シクロペンタンの順に発泡剤を代替していき、現在は、真空断熱材との併用に移行している。
【0004】
冷媒としては、冷蔵庫やカーエアコンにおいてCFC12C、HFC134a(GWP(Global Warming Potential)=1430)の順に代替し、ルームエアコンやパッケージエアコンにおいてHCFC22、R410A(GWP=2088)の順に代替した。
【0005】
しかし、1997年に京都で開催された気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)で、HFC排出量が温室効果ガスとしてCO換算されて規制対象となったため、HFCの削減が進められることとなった。
【0006】
そこで、家庭用冷蔵庫においては、冷媒封入量が少なく、可燃性冷媒も製造上使用可能と判断され、HFC134aを可燃性のR600a(イソブタン:GWP=3)へと代替した。さらに、世論の高まりにより、現在は、カーエアコン用のHFC134aやルームエアコン並びにパッケージエアコン用のR410Aにも目が向けられている。また、業務用冷蔵庫においては、R600aの封入量が多く、可燃性の危惧から、現在でもHFC134aが使用されている。
【0007】
一方、冷凍機油は、密閉型電動圧縮機に使用され、その摺動部の潤滑、密封、冷却等の役割を果たすものである。
【0008】
冷蔵庫においては、年間電気消費量の低減のため、圧縮機の性能向上が必須である。そのため、圧縮機の機械損失を低減することを目的として冷凍機油の低粘度化が検討されている。
【0009】
しかし、冷凍機油の低粘度化により摺動部における油膜が薄くなることから、冷媒漏れ損失が増加してしまう問題がある。
【0010】
特許文献1及び特許文献2には、異なる油粘度を混合する冷凍機油を用いた冷凍空調機器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭58−93796号公報
【特許文献2】特表2009−540170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、冷媒としてイソブタンを用いるレシプロ式圧縮機の耐摩耗性を向上するとともに、このレシプロ式圧縮機を用いた冷蔵庫の高効率化を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のレシプロ式圧縮機は、冷媒としてイソブタンを用い、モノエステル油又はポリオールエステル油を含む冷凍機油主剤と、これに添加する添加ポリオールエステル油とを含む冷凍機油を封入したレシプロ式圧縮機であって、前記添加ポリオールエステル油の組成が1〜30重量%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、冷凍機油の低粘度化が可能となり、有害なリン系極圧剤を用いずに圧縮機の性能向上と耐摩耗性とを両立した圧縮機を得ることができる。
【0015】
また、本発明によれば、冷凍機油の低粘度化が可能となり、環境に有害なリン系極圧剤を用いずに冷蔵庫の性能向上と長期信頼性とを両立できる環境に配慮した冷蔵庫を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例の冷蔵庫を示す概略縦断面図である。
【図2】冷蔵庫の冷凍サイクルを示す概略図である。
【図3】実施例の冷蔵庫用のレシプロ式密閉型圧縮機を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態に係るレシプロ式圧縮機及びこれを用いた冷蔵庫について説明する。
【0018】
前記レシプロ式圧縮機は、冷媒としてイソブタン(R600a)を用い、下記化学式(1)で表されるモノエステル油(式中、Rは炭素数5〜9のアルキル基を表し、Rは炭素数8〜10のアルキル基を表す。)、下記化学式(2)で表されるポリオールエステル油(式中、Rは炭素数5〜9のアルキル基を表す。)及び下記化学式(3)で表されるポリオールエステル油(式中、Rは炭素数5〜9のアルキル基を表す。)からなる群から選択される少なくとも一種類の基油を含む冷凍機油主剤と、下記化学式(4)で表される添加ポリオールエステル油(式中、Rは炭素数7〜9のアルキル基を表す。)とを含む冷凍機油を封入したものである。そして、添加ポリオールエステル油の組成は、1〜30重量%である。
【0019】
【化1】

【0020】
【化2】

【0021】
【化3】

【0022】
【化4】

前記レシプロ式圧縮機においては、冷凍機油主剤の40℃における動粘度が10mm/s以下であり、添加ポリオールエステル油の40℃における動粘度が130mm/s以上であることが望ましい。
【0023】
前記レシプロ式圧縮機は、鉄系材料で形成された摺動部を含み、摺動部における接触面圧が10MPa以上である。
【0024】
前記レシプロ式圧縮機において、添加ポリオールエステル油は、鉄系材料に対する吸着能力が冷凍機油主剤より1.6倍以上高い。さらに、添加ポリオールエステル油の鉄系材料に対する吸着能力は、2倍以上が望ましく、4倍以上が更に望ましい。
【0025】
前記冷蔵庫は、前記レシプロ式圧縮機を用いるものである。
【0026】
以下、実施例を用いて詳細に説明する。
【0027】
実施例は、イソブタンを用いた圧縮機及びこれを用いた冷蔵庫について開示するものである。
【0028】
実施例の冷媒は、イソブタンであり、冷凍機油は、鉄系材料に吸着能力が低い基油(吸着しにくい基油)と鉄系材料に吸着能力が高い基油(吸着しやすい基油)とを含む。
【0029】
吸着能力が低い基油としては、分子構造中にエステル基を有する化合物であり、モノエステル油及びポリオールエステル油が挙げられる。
【0030】
モノエステル油は、一価のアルコールと一価の脂肪酸との縮合反応により得られる。
【0031】
一価のアルコールとしては、n−ヘプタノール、n−オクタノール、n−ノナノール、n−デカノール、n−ウンデカノール、イソヘプタノール、イソオクタノール、イソノナノール、イソデカノール、イソウンデカノール、2−エチルヘキサノール、1−メチルヘプタノール、3、5、5−トリメチルヘキサノール、2、6−ジメチル−4−ヘプタノール等があり、これらを単独又は2種類以上を混合して用いる。
【0032】
一価の脂肪酸としては、n−ペンタン酸、n−ヘキサン酸、n−ヘプタン酸、n−オクタン酸、2−メチルブタン酸、2−メチルペンタン酸、2−メチルヘキサン酸、2−エチルヘキサン酸、イソオクタン酸、3、5、5−トリメチルヘキサン酸等があり、これらを単独又は2種類以上を混合して用いる。
【0033】
ポリオールエステル油は、多価アルコールと一価の脂肪酸との縮合反応により得られる。
【0034】
ポリオールエステル油としては、熱安定性に優れるヒンダードタイプが好ましく、多価アルコールとして好ましいものは、例えば、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等である。
【0035】
一価の脂肪酸としては、n−ペンタン酸、n−ヘキサン酸、n−ヘプタン酸、n−オクタン酸、2−メチルブタン酸、2−メチルペンタン酸、2−メチルヘキサン酸、2−エチルヘキサン酸、イソオクタン酸、3、5、5−トリメチルヘキサン酸等があり、これらを単独又は2種類以上を混合して用いる。
【0036】
鉄系材料に吸着能力が高い基油としては、分子構造中にエステル基を多く含むポリオールエステル油であり、ヘキサン二酸(アジピン酸)等のジカルボン酸を用いた二価脂肪酸コンプレックスエステル油が好ましく、多価アルコールと一価の脂肪酸とから合成されるヒンダードタイプが更に好ましい。
【0037】
多価アルコールの例としては、ジペンタエリスリトールがある。
【0038】
一価の脂肪酸としては、n−ペンタン酸、n−ヘキサン酸、n−ヘプタン酸、n−オクタン酸、2−メチルブタン酸、2−メチルペンタン酸、2−メチルヘキサン酸、2−エチルヘキサン酸、イソオクタン酸、3、5、5−トリメチルヘキサン酸等があり、これらを単独又は2種類以上を混合して用いる。
【0039】
実施例の冷蔵庫に用いる冷凍機油の粘度グレードは、圧縮機の種類により異なるが、レシプロ式圧縮機では、40℃における粘度が2.5〜15mm/sの範囲が好ましい。
【0040】
本発明においては、上記の冷凍機油に潤滑性向上剤、酸化防止剤、酸捕捉剤、消泡剤、金属不活性剤等を添加してもよい。特に、モノエステル油、ポリオールエステル油は、水分共存下で加水分解に起因する劣化が生じるため、酸化防止剤及び酸捕捉剤の配合は必須である。
【0041】
酸化防止剤としては、フェノール系であるDBPC(2、6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール)が好ましい。
【0042】
酸捕捉剤としては、一般に、エポキシ環を有する化合物として脂肪族のエポキシ化合物が使用される。また、カルボジイミド系化合物は、脂肪酸との反応性が極めて高く、脂肪酸から解離した水素イオンを捕捉することからポリオールエステル油の加水分解反応が抑制される効果が非常に高い。カルボジイミド系化合物としては、ビス(2、6−イソプロピルフェニル)カルボジイミドが挙げられる。酸捕捉剤の配合量は、冷凍機油に対して0.05〜1.0重量%とすることが好ましい。
【0043】
(冷凍機油成分)
レシプロ式冷媒圧縮機の高効率化には、粘性抵抗を低減する冷凍機油の低粘度化が有効である。しかし、油の低粘度化を行うと、圧縮機摺動部における油膜強度が低下してしまうため、摩耗が進行してしまう。このため、冷凍機油成分の摺動部に対する吸着性が重要なパラメータとなる。
【0044】
摺動部のほとんどは鉄系材料で形成されており、その表面には酸化鉄が形成されている。
【0045】
本明細書における冷凍機油の鉄系材料への吸着能力は、実質的に冷凍機油の酸化鉄への吸着能力と考える。
【0046】
この考え方に基づいて、本実施例においては、平均粒径1μmのFe(四三酸化鉄)の粉末(比表面積1.57m/g)を用いて冷凍機油の吸着能力の評価を行った。
【0047】
溶媒に希釈した冷凍機油成分の吸着前後の濃度を核磁気共鳴分析(NMR)により定量し、酸化鉄粉に吸着した量を算出した。溶媒にはヘキサンを用い、各冷凍機油成分が0.3mol−ppmとなるように調整した。20mlスクリュー管に酸化鉄粉を3g採取後、冷凍機油成分の溶液を10g入れ、超音波洗浄器において30分間分散させて48時間放置後の上澄み液の1H−NMR分析を行った。
【0048】
ここで、mol−ppmは、モル基準のppm(parts per million)である。すなわち、溶液(溶媒及び溶質の混合物)のモル数を分母とし、溶質のモル数を分子として算出した百万分率である。
【0049】
冷凍機油成分として用いた基油を下記に示す。ここで、40℃粘度は、40℃における粘度である。
【0050】
(A)モノエステル油(オクタノールと2−エチルヘキサン酸との縮合物):40℃粘度2.8mm/s
(B)モノエステル油(2−エチルヘキサノールと2−エチルヘキサン酸との縮合物):40℃粘度2.7mm/s
(C)ヒンダードタイプポリオールエステル油(POE)(ネオペンチルグリコール系の2−エチルヘキサン酸エステル油):40℃粘度7.5mm/s
(D)ヒンダードタイプポリオールエステル油(POE)(ネオペンチルグリコール系の3、5、5−トリメチルヘキサン酸エステル油):40℃粘度13.1mm/s
(E)ヒンダードタイプポリオールエステル油(POE)(ペンタエリスリトール系の3、5、5−トリメチルヘキサン酸エステル油):40℃粘度44.8mm/s
(F)ヒンダードタイプポリオールエステル油(POE)(ジペンタエリスリトール系の2−エチルヘキサン酸エステル油):40℃粘度150mm/s
(G)ヒンダードタイプポリオールエステル油(POE)(ジペンタエリスリトール系の3、5、5−トリメチルヘキサン酸エステル油):40℃粘度417mm/s
(H)ヒンダードタイプポリオールエステル油(POE)(ジペンタエリスリトール系の分岐鎖混合脂肪酸エステル油):40℃粘度217mm/s
(I)ポリビニルエーテル油(PVE):40℃粘度65mm/s
(J)ポリアルキレングリコール油(PAG)(ポリプロピレングリコールジメチルエーテル):40℃粘度22.36mm/s
(K)ナフテン系鉱油:40℃粘度4.85mm/s
(L)ポリαオレフィン油:40℃粘度30.3mm/s
(M)ソフト型アルキルベンゼン油:40℃粘度4.24mm/s
(N)パラフィン系鉱油:40℃粘度:7.8mm/s
(O)ナフテン系鉱油:40℃粘度145mm/s
酸化鉄粉に対する化合物の吸着量を測定した結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

各化合物により酸化鉄粉に対する吸着量(吸着能力)が異なっており、有極性化合物の方が鉄系材料に吸着し易いことがわかる。
【0052】
有極性化合物においても、分子構造中にエステル基が多く存在する化合物(F)、(G)及び(H)が特に吸着量が多いことがわかる。すなわち、(F)、(G)及び(H)は、鉄系材料(酸化鉄)に対する吸着能力が他の冷凍機油成分(A)〜(E)及び(I)〜(O)に比べて1.6倍以上高いことがわかる。
【0053】
このことから、基油6〜8(冷凍機油成分(F)、(G)及び(H))は、圧縮機摺動部において油膜を形成しやすいことが考えられる。
【0054】
これは、次の理由によると考えられる。
【0055】
エステル基に含まれる炭素と酸素との二重結合(C=O)の酸素が負に帯電する傾向がある。これに対して、酸化鉄に含まれる鉄が正に帯電しやすい(陽イオンになりやすい)。このため、酸化鉄の鉄と二重結合の酸素との間にクーロン力による引力が生じ、吸着しやすくなると考えられる。
【0056】
この結果から、基油6〜8(冷凍機油成分(F)、(G)及び(H))を本発明における添加ポリオールエステル油として用いることとした。また、基油1〜5及び9〜15(冷凍機油成分(A)〜(E)及び(I)〜(O))は、本発明における冷凍機油主剤として用いることにした。
【0057】
(実施例1〜3)
(比較例1〜4)
本実施例の具体的な冷蔵庫の例を図1に示す。
【0058】
冷蔵庫箱体1内には、冷蔵室2及び冷凍室3があり、両室は壁によって仕切られている。冷蔵庫内を冷却するための冷凍サイクルは、圧縮機4、凝縮器5、脱水器6、キャピラリーチューブ、蒸発器7及び送風ファン8を含む構成である。
【0059】
蒸発器7で冷やされた冷気は、送風ファン8により冷凍室3に送られ、その後、図中の矢印のようにダンパー9を通って冷蔵室2に送られ、ダンパー9を介して再び蒸発器7で冷却される流路を循環する。
【0060】
次に、図1に示した冷蔵庫の冷凍サイクルについて説明する。冷蔵庫の基本的な冷凍サイクル構成図を図2に示す。
【0061】
圧縮機4は、低温、低圧の冷媒ガスを圧縮し、高温、高圧の冷媒ガスを吐出して凝縮器5に送る。凝縮器5に送られた冷媒ガスは、その熱を空気中に放出しながら高温、高圧の冷媒液となり、脱水器6を介してキャピラリーチューブ10に送られる。キャピラリーチューブ10を通過する高温、高圧の冷媒液は、絞り効果により低温、低圧の湿り蒸気となり、蒸発器7へ送られる。蒸発器7に入った冷媒は、周囲から熱を吸収して蒸発し、これにより発生した冷気を送風ファン8により箱体内に送る。蒸発器7を出た低温、低圧の冷媒ガスは、圧縮機4に吸込まれ、同様の冷凍サイクルが繰り返される機構となっている。
【0062】
冷蔵庫用の冷媒圧縮機は、レシプロ式等容積形圧縮機が主である。
【0063】
圧縮手段の例としてレシプロ式冷媒圧縮機の概略構造を図3に示す。
【0064】
本図において、レシプロ式の冷媒圧縮機は、密閉容器11内に圧縮部及びモータ12を収納し、密閉容器底部(モータ12の下部)の油溜め部に冷凍機油13を貯溜している。圧縮部を構成するシリンダ14の内径に摺動可能なピストン15が嵌合され、このピストン15は、モータ12の回転力を伝える回転軸のクランクシャフト16の偏心回転によりシリンダ14内を往復運動し、これによって冷媒ガスを吸込、圧縮、吐出させる構造となっている。
【0065】
圧縮された冷媒ガスは、吐出口17により外部冷凍サイクルに吐出される。モータ12の下部に設けられた油溜め部に貯溜されている冷凍機油13は、クランクシャフト16に設けられた油孔18を通って、圧縮機の各摺動部の潤滑に供給される。
【0066】
実施例1〜3においては、表1に示す基油1〜15(冷凍機油成分(A)〜(O))のうち鉄系材料への吸着能力が高い基油6〜8(冷凍機油成分(F)〜(H))を一つの成分として組み合わせたものを使用する。
【0067】
上記の冷凍機油を含む冷媒をレシプロ式圧縮機に封入し、図1に示す冷蔵庫に設置し、恒温室(40℃)において高圧、高負荷で2160時間運転する長期寿命実機試験を行った。
【0068】
冷凍機油の組み合わせは、表2に示す。
【0069】
【表2】

本表において、冷凍機油成分(A)〜(O)は、表1に示すものである。
【0070】
すなわち、(A)80重量%と吸着能力が高い(H)20重量%とを混合し、40℃における動粘度を5.2mm/sとした実施例1、(C)97重量%と吸着能力が高い(H)3重量%とを混合し、40℃における動粘度を8.1mm/sとした実施例2、及び(C)97重量%と吸着能力が高い(F)3重量%とを混合し、40℃における動粘度を8.0mm/sとした実施例3を用いた。
【0071】
比較例1及び2としては、吸着能力が低い化合物同士の組み合わせを用いた。
【0072】
具体的には、(K)80重量%と吸着能力が等しく、動粘度が高い(O)20重量%とを混合し、40℃における動粘度を8.5mm/sとした比較例1、及び(C)80重量%と実施例1〜3に比べて吸着能力が低い(E)20重量%とを混合し、40℃における動粘度を10.2mm/sとした比較例2を用いた。
【0073】
また、実施例2と同じ成分の組み合わせであって、成分2(H)の濃度を0.5重量%とした比較例3、及び成分2(H)の濃度を40重量%とした比較例4についても試験を行った。
【0074】
上記の実施例及び比較例の冷凍機油には、いずれもリン系極圧添加剤を配合していない。
【0075】
冷蔵庫の信頼性の向上においては、圧縮機の摩擦摩耗を抑制することが重要である。そのため、冷蔵庫の評価には、レシプロ式圧縮機の摩耗状態に着眼し、摺動面圧が10MPa以上となって最も厳しい条件に置かれる摺動部の鉄系材料を加工した部品であるコンロッド外球及びピストン内球の摩耗量を測定した。
【0076】
また、実施例1〜3の冷凍機油を用いた冷蔵庫について、JIS C 9801(家庭用電気冷蔵庫及び電気冷凍庫の特性及び試験方法)により消費電力量測定を行い、年間消費電力量を算出した。
【0077】
ここでは、比較例2の冷凍機油を用いた冷蔵庫の年間消費電力量を100%として表示した。
【0078】
これらの試験における目標値は、ピストン内球面の摩耗量が10μm以下であり、年間消費電力量が100%未満である。
【0079】
実施例1〜3及び比較例1〜4の結果は、表2に示す。
【0080】
表2から、実施例1〜3の冷凍機油を用いた冷蔵庫は、比較例1及び2の冷凍機油を用いた冷蔵庫のレシプロ式圧縮機と比べてピストン内球の摩耗量を大幅に低減できており、高い信頼性が得られる。さらに、実施例1〜3の冷凍機油を用いた冷蔵庫は、比較例2と比べて冷凍機油の動粘度を低くしたことにより、機械損失が低減され、年間消費電力量が少なくなっている。
【0081】
比較例1においては、冷凍機油の動粘度を低くしたことにより、年間消費電力量の低減が認められる。しかし、低粘度油と高粘度油を混合しても鉄系材料に対する吸着能力が低い組み合わせであるために潤滑性が保たれず、試験開始から数時間において摺動が最も厳しいコンロッド−ピストン間で焼付きが発生し、試験を中断した。そのため、摩耗量の測定ができなかった。
【0082】
動粘度の低いポリオールエステル油と動粘度の高いポリオールエステル油とを混合した比較例2においては、吸着能力が低い化合物を配合しているため、圧縮機の摺動部の摩耗が増加してしまい、目標値の摩耗量10μm以下が達成できない。
【0083】
この結果から、鉄系材料に対する吸着能力がともに低い、低粘度油と高粘度油とを組み合わせた冷凍機油を用いた場合、冷蔵庫及びレシプロ式圧縮機の摩耗量の抑制と効率向上との両立をすることはできないことがわかる。
【0084】
また、比較例3は、実施例2で効果が確認された冷凍機油の組み合わせにおいて、鉄系材料に吸着能力が高い化合物(H)の配合量を0.5重量%としたものである。冷蔵庫の年間消費電力量の低減は可能であるが、摩耗を抑制できないことがわかる。これは、圧縮機の摺動部に十分な量の冷凍機油が吸着していないためと考えられる。
【0085】
さらに、これと同じ冷凍機油の組み合わせにおいて、吸着能力が高い化合物(H)を40重量%配合した冷蔵庫においては、摩耗を大幅に抑制できているが、年間消費電力量を低減することができない。これは、圧縮機の摺動部に十分な量の冷凍機油が吸着しているが、動粘度が高くなり、圧縮機の効率が低下するためと考えられる。
【0086】
以上より、レシプロ式圧縮機の摩耗が大幅に抑制され、かつ、年間消費電力量が少ない冷蔵庫を得るためには、鉄系材料に対する吸着能力が高い化合物を1〜30重量%配合した冷凍機油を用いることが望ましいことがわかる。また、鉄系材料に対する吸着能力が高い化合物を2〜25重量%配合した冷凍機油を用いることは更に望ましい。
【0087】
鉄系材料に吸着能力が高い化合物の配合量が1重量%未満の場合、圧縮機摺動部の十分な耐摩耗性が得られず、30重量%を超えると年間消費電力量の低減が難しいように、特性を両立することができない。
【0088】
本発明によれば、冷凍機油の粘度(動粘度)を低くするとともに、摺動面における油膜維持し、摺動面の摩耗を抑制することができる。
【0089】
本発明によれば、鉱油単独で摺動面の潤滑性を維持し、環境漏洩時の生態毒性が大きく、バーゼル条約の規制物質(国内法:特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関する法律)に該当しているTCP:トリクレジルホスフェートに代表される極圧添加剤を使用することなく、耐摩耗性を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、レシプロ式冷媒圧縮機及び冷蔵庫に適用可能である。
【符号の説明】
【0091】
1:箱体、2:冷蔵室、3:冷凍室、4:圧縮機、5:凝縮器、6:脱水器、7:蒸発器、8:送風ファン、9:ダンパー、10:キャピラリーチューブ、11:密閉容器、12:モータ、13:冷凍機油、14:シリンダ、15:ピストン、16:クランクシャフト、17:吐出口、18:油孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒としてイソブタンを用い、下記化学式(1)で表されるモノエステル油(式中、Rは炭素数5〜9のアルキル基を表し、Rは炭素数8〜10のアルキル基を表す。)、下記化学式(2)で表されるポリオールエステル油(式中、Rは炭素数5〜9のアルキル基を表す。)及び下記化学式(3)で表されるポリオールエステル油(式中、Rは炭素数5〜9のアルキル基を表す。)からなる群から選択される少なくとも一種類の基油を含む冷凍機油主剤と、下記化学式(4)で表される添加ポリオールエステル油(式中、Rは炭素数7〜9のアルキル基を表す。)とを含む冷凍機油を封入したレシプロ式圧縮機であって、前記添加ポリオールエステル油の組成が1〜30重量%であることを特徴とするレシプロ式圧縮機。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【請求項2】
前記冷凍機油主剤の40℃における動粘度が10mm/s以下であり、前記添加ポリオールエステル油の40℃における動粘度が130mm/s以上であることを特徴とする請求項1記載のレシプロ式圧縮機。
【請求項3】
鉄系材料で形成された摺動部を含み、前記摺動部における接触面圧が10MPa以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のレシプロ式圧縮機。
【請求項4】
前記添加ポリオールエステル油は、鉄系材料に対する吸着能力が前記冷凍機油主剤より1.6倍以上高いことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のレシプロ式圧縮機。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のレシプロ式圧縮機を用いたことを特徴とする冷蔵庫。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−157408(P2011−157408A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17514(P2010−17514)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(399048917)日立アプライアンス株式会社 (3,043)
【Fターム(参考)】