説明

レトルト殺菌エビの製造方法およびレトルト殺菌した収容容器入りエビ

【課題】レトルト殺菌後も良好な食感を有し、その外観、香気および味も良好なレトルト殺菌エビを簡便かつ安価に作製できる殺菌エビの製造方法、および、レトルト殺菌した収容容器入りエビを提供する。
【解決手段】食品対象物であるエビの水分を減少させる水分減少工程Aと、水分を減少させたエビを収容容器に充填し、収容容器内に、エビの体積1mLあたり0.4〜8.3mLのヘッドスペースを有するように気体を充填した後、収容容器を密封する密封工程Bと、密封した前記収容容器を加熱および加圧することで殺菌処理を行うレトルト殺菌工程Cと、を有するレトルト殺菌エビの製造方法、および、煮沸あるいは低温に曝して乾燥させて水分量を減少させた食品対象物であるエビと、収容容器内に、エビの体積1mLあたり0.4〜8.3mLのヘッドスペースと、を有し、レトルト殺菌した収容容器入りエビ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品対象物であるエビを収容容器に充填して密封したのち加熱および加圧することで殺菌処理されたレトルト殺菌エビの製造方法およびレトルト殺菌した収容容器入りエビに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、食品などの対象物を袋状の収容容器に収容したレトルト食品に対して、対象物を収容容器に充填して密封したのち、加熱および加圧することで殺菌処理(レトルト殺菌)が行われている。
【0003】
レトルト殺菌は、例えば110〜130℃の温度で、数分〜数十分程度の熱水や蒸気処理を行う。殺菌条件は、レトルト食品に対して十分な殺菌が行なえる条件を選択する必要があるが、一方で、殺菌処理後に対象物の品質が劣化しない条件を選択することが重要である。
【0004】
レトルト殺菌は高温・高圧で行われるため、食品対象物の肉質に与える影響は無視できない。高温・高圧でレトルト殺菌を行うことで、食品対象物の種類によっては硬化するもの、或いは、脆い食感を呈するものがあった。
【0005】
例えばエビは2分程度の煮沸により、筋肉タンパク質が変性して食感が良好となる。しかし、レトルト殺菌のように過度の加熱を行なうことにより、エビの筋肉組織が脆弱化してエビの持ち味である弾力性のある食感(プリプリ感)が無くなり、噛むとボロボロと崩れるような脆い食感(ボソボソ感)を呈することが多かった。さらに、食感だけでなく、色調、食味、香りにおいても劣化し易かった。
【0006】
従来、鳥獣類や魚介類を含む動物性の食品対象物のレトルト殺菌食品が幅広く提供されている。特に魚介類のうちエビは種々の食品に利用されるものであり、そのレトルト殺菌食品も数多く製造されている(例えば特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−240210号公報
【特許文献2】特開2009−50173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
レトルト殺菌を行なうに際し、食品対象物の種類ごとにレトルト殺菌による影響も異なり、食品対象物ごとにきめ細やかなレトルト殺菌の前処理が必要となってくる。
【0009】
このような前処理として、特許文献1に記載の方法ではトランスグルタミナーゼ溶液浸漬処理・食塩水処理・リン酸塩溶液浸漬処理を行っており、特許文献2に記載の方法では重合リン酸塩溶液浸漬処理を行っていた。このような前処理は特殊な薬品を使用するものであるため費用が嵩み、煩雑であるという問題点があった。
【0010】
従って、本発明の目的は、レトルト殺菌後も良好な食感を有し、その外観、香気および味も良好なレトルト殺菌エビを簡便かつ安価に作製できる殺菌エビの製造方法、および、レトルト殺菌した収容容器入りエビを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明に係るレトルト殺菌エビの製造方法の第一特徴手段は、食品対象物であるエビの水分を減少させる水分減少工程と、水分を減少させた前記エビを収容容器に充填し、前記収容容器内に、前記エビの体積1mLあたり0.4〜8.3mLのヘッドスペースを有するように気体を充填した後、前記収容容器を密封する密封工程と、密封した前記収容容器を加熱および加圧することで殺菌処理を行うレトルト殺菌工程と、を有する点にある。
【0012】
一般に、食肉タンパク質には、筋形成タンパク質・筋原繊維タンパク質・筋基質タンパク質の三種類が知られている。本発明の食品対象物であるエビは、少なくとも筋基質タンパク質を有する食品対象物である。筋基質タンパク質にはコラーゲンが主成分として含まれている。
【0013】
筋基質タンパク質の主成分であるコラーゲンは、60℃付近で急激に収縮することが知られている。コラーゲンは水に不溶性であるが、水分存在下で過加熱することにより水に可溶化(ゼラチン化)する。即ち、レトルト殺菌のように110〜130℃の温度で数分〜数十分程度の処理を行えば、エビに含まれるコラーゲン繊維は可溶化して分解される。これにより、筋基質タンパク質が含まれるエビをレトルト殺菌すれば、噛むと脆い食感(ボソボソ感)を呈する。
【0014】
そこで、レトルト殺菌後においても良好な食感を維持させるためには筋基質タンパク質の構造が維持されていればよい。エビは2分程度の煮沸により、筋肉タンパク質が変性して食感が良好となることが知られている。この状態ではコラーゲンの加水分解が進行していない状態であるため、筋原繊維を束ねた膜である筋基質の構造が維持される。よって、エビの表面組織および筋繊維構造の崩壊が抑制され、優れた食感を有している。
【0015】
本手法では、少なくとも筋基質タンパク質を有するエビの水分を減少させた状態でレトルト殺菌工程を行なう。特に当該レトルト殺菌を行う前に、水分を減少させたエビを収容容器に充填し、収容容器内にヘッドスペースを有するように気体を充填する密封工程を行なっているため、レトルト殺菌中にエビから発生した水分が水蒸気となってヘッドスペースに拡散させることができる。拡散した水蒸気は、ヘッドスペースの空間を漂い、或いは、収容容器の内壁に水滴として付着するなどして、エビに接触し難くなる。
【0016】
このように予めエビの水分量を減少させた状態でレトルト殺菌を行えば、水分存在下で過加熱することにより水に可溶性となるコラーゲン(筋基質タンパク質の主成分)が可溶化(ゼラチン化)し難くなるうえ、レトルト殺菌によってエビから発生した水分が、エビに接触し難くなることで、コラーゲンの可溶化をさらに抑制することができる。従って、本手法ではエビのタンパク質の加水分解を極めて効果的に抑制することができるため、レトルト殺菌後のエビの品質の低下を防止することができる。
【0017】
本手法では、特に前記ヘッドスペースは、エビの体積1mLあたり0.4〜8.3mLと規定している。後述の実施例では、550mLの収容容器を使用して、3尾のエビを収容した場合に、20mL以上のヘッドスペースを確保してレトルト殺菌したエビは良好な食感を有するとの結果が得られている。また、ヘッドスペースの容量が300mL以上であれば、収容容器が膨満な状態に近づくため、例えば輸送中に収容容器に衝撃などが与えられると、収容容器が破損する虞があるため、ヘッドスペースの容量は300mL以下とする。
【0018】
エビの体積は概ね12〜16mL程度であり、このようなエビを上記収容容器に20〜300mLのヘッドスペースを確保して収容する場合、エビの体積1mLあたりのヘッドスペースは、最大で8.3mL(300÷3÷12)となり、最小で0.4mL(20÷3÷16)となる。
【0019】
従って、ヘッドスペースを、エビの体積1mLあたり0.4〜8.3mLと規定すれば、通常の大きさのエビを一般的に流通している大きさの収容容器に収容してレトルト殺菌した場合に、良好な食感を有するエビが得られ、かつ輸送中などに収容容器が破損し難い手法となる。
【0020】
このように本手法であれば、レトルト殺菌工程の後であっても、エビに含まれるコラーゲンの加水分解が極めて効果的に抑制された状態となり、筋原繊維を束ねた膜である筋基質の構造を維持することができる。よって、エビの表面組織および筋繊維構造の崩壊が抑制され、優れた食感・外観・香気および味を有するレトルト殺菌エビを製造することができる。
【0021】
本発明に係るレトルト殺菌エビの製造方法の第二特徴手段は、前記水分減少工程を、エビを煮沸する煮沸処理、或いは、低温に曝して乾燥させる低温乾燥処理の何れかとした点にある。
【0022】
本構成によれば、水分減少工程を煮沸処理や低温乾燥処理といった簡便な手法で行うことができ、かつ特殊な薬品を使用するものでないため、簡便かつ安価にレトルト殺菌の前処理を行なうことができる。
【0023】
本発明に係るレトルト殺菌した収容容器入りエビの第一特徴構成は、煮沸あるいは低温に曝して乾燥させて水分量を減少させた食品対象物であるエビと、収容容器内に、前記エビの体積1mLあたり0.4〜8.3mLのヘッドスペースと、を有する点にある。
【0024】
本構成によれば、ヘッドスペースを有するように収容容器にエビを収容してレトルト殺菌した状態で流通させることができる。
上述したように、ヘッドスペースは、エビの体積1mLあたり0.4〜8.3mLと規定しているため、通常の大きさのエビを一般的に流通している大きさの収容容器に収容してレトルト殺菌した場合に、良好な食感を有するエビが得られ、かつ輸送中などに収容容器が破損し難くなる。
【0025】
本発明に係るレトルト殺菌した収容容器入りエビの第二特徴構成は、前記ヘッドスペースを20〜300mLとした点にある。
【0026】
本構成によれば、一般的に流通している大きさの収容容器において、適切な容量のヘッドスペースを設定できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のレトルト殺菌食品の製造方法の概要を示す図である。
【図2】レトルト殺菌中にエビから発生した水分が水蒸気となってヘッドスペースに拡散している様子を模式的に示した図である。
【図3】試料エビのX線CT撮影の結果を示す写真図である。
【図4】実施例2における試料エビの破断強度曲線を示す図である。
【図5】実施例2における試料エビのX線CT撮影の結果(二節部拡大)を示す写真図である。
【図6】実施例3における試料エビの官能評価を行なった結果を示した図である。
【図7】実施例3における試料エビの破断強度曲線を示す図である。
【図8】実施例3における試料エビの重量変化を示す図である。
【図9】実施例3における試料エビの水分含有率の変化を示す図である。
【図10】実施例3−3における試料エビの煮沸処理後およびレトルト殺菌後の電子顕微鏡による筋線維組織像を示した写真図である。
【図11】比較例3a(ヘッドスペース0mL)および実施例3f(ヘッドスペース75mL)におけるレトルト殺菌工程Cの殺菌前および殺菌中の様子を示した写真図である。
【図12】比較例3a、3b、3cについて、レオメータによる組織強度測定を行なった結果を示した図である。
【図13】実施例3a、3b、3c、3d、3f、3gについて、レオメータによる組織強度測定を行なった結果を示した図である。
【図14】実施例および比較例について行なった食味評価の結果を示した図である。
【図15】別実施の形態1における試料エビの破断強度曲線を示す図である。
【図16】別実施の形態1における試料エビのレトルト殺菌後の筋線維組織像観察(電子顕微鏡)を行なった結果を示す写真図である。
【図17】ヘッドスペースに充填するガスを窒素ガスおよび空気とした場合に行なった食味評価の結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
本発明のレトルト殺菌エビの製造方法は、食品対象物であるエビを収容容器に充填して密封したのち加熱および加圧することで殺菌処理するものである。
【0029】
即ち、本発明のレトルト殺菌エビの製造方法は、図1,2に示したように、食品対象物であるエビSの水分を減少させる水分減少工程Aと、水分を減少させたエビSを収容容器10に充填し、収容容器10内に、エビSの体積1mLあたり0.4〜8.3mLのヘッドスペースHSを有するように気体を充填した後、収容容器10を密封する密封工程Bと、密封した収容容器10を加熱および加圧することで殺菌処理を行うレトルト殺菌工程Cと、を有する。
【0030】
(食品対象物)
本発明の食品対象物としてのエビは、少なくとも筋基質タンパク質を有する。一般に、食肉タンパク質には、筋形成タンパク質・筋原繊維タンパク質・筋基質タンパク質の三種類が知られている。筋基質タンパク質にはコラーゲンが主成分として含まれている。
【0031】
エビとしては、例えばウシエビ・クルマエビ・アマエビ・クマエビ・バナメイエビ・アカエビ・ヨシエビ・コウライエビ・シバエビ・ホワイトシュリンプ・イセエビ・タイショウエビ・ロブスター・セミエビなどが挙げられる。
【0032】
これらエビは実質的に加熱処理がされていないエビを用い、好ましくは生のムキエビまたは凍結品の生ムキエビを解凍して用いる。解凍処理は、常法により解凍するとよい。例えば、溜め水や流水中に冷凍ムキエビを浸漬して行う方法や水を使用せずに常温や低温で放置する方法で行うことができる。原料エビは、必要に応じて頭部を除去するなどの加工を施してもよい。原料エビのサイズは制限されるものではないが、取り扱いの容易さを鑑みて数cm(5〜10cm)程度が好ましい。上述したエビは、一般的に市場に流通しているため入手が容易である。しかし、本発明に適用可能なエビは、これらに限られるものではない。
【0033】
レトルト殺菌は高温・高圧で行われるため、食品対象物の肉質に与える影響は無視できない。特にエビをレトルト殺菌した後に食品として供する場合、エビの持ち味である弾力性のある食感(プリプリ感)を維持させることは重要である。本明細書では、エビの食感は圧縮破断強度を測定することによって良好な食感を有するか否かを規定している。
【0034】
圧縮破断強度は、例えば物質の力学的性状を測定する装置であるレオメータによって測定できる。当該レオメータは、圧縮破断強度、引張り強度、切断強度、弾性、粘弾性、脆さ、粘着性、応力緩和、クリープ等の測定が可能な測定機器である。圧縮破断強度を測定することによって得られた測定値を基に、破断強度曲線を作成することができる。
当該破断強度曲線は、レオメータに備えてあるプランジャーを、測定対象物である食品対象物に進入させ、予め定めた単位時間又は単位距離毎に食品対象物の押圧・破断に伴いプランジャーに掛かる荷重を連続して測定し、プランジャー進入率(歪率(%))およびプランジャーに付加した圧縮荷重(N)の関数として得ることができる。
【0035】
即ち、プランジャーを測定対象物である食品対象物に進入させて破断強度曲線に明確なピークが得られるということは、食品対象物の摂取者が感じる歯ごたえなどの食感を感じているものと見なすことができる。例えば、破断強度曲線に複数の明確なピークが得られた場合、その食品対象物に対して摂取者は咀嚼にメリハリを感じることができるため、弾力性のある好ましい食感が得られる食品対象物であると見なすことができる。
【0036】
食品対象物に対してプランジャーを進入させる部位は特に限定されるものではないが、例えば食品対象物のうち、咀嚼しやすい部位、或いは、最も肉厚がある部位とすれば、実際に摂取者が咀嚼したときの食感を破断強度曲線に反映し易くなると考えられる。このような部位としては、食品対象物がエビである場合は、腹部二節の中心部とするのがよい。
【0037】
例えば、本発明のレトルト殺菌食品では、レトルト殺菌後における筋基質タンパク質の構造が、短時間で煮沸処理を行った後の筋基質タンパク質の構造と同様な特性を有すると見なせるような指標を規定すればよい。即ち、食品対象物を短時間で煮沸処理を行った後に圧縮破断強度を測定して得られた破断強度曲線に関して、当該破断強度曲線の歪み率50%までに出現するピークを有し、そのうち少なくとも1つはその強度ピーク値に対して所定の割合以上減少する物性を示しているものが、良好な食感を有するものと規定する。
【0038】
(水分減少工程)
本発明のレトルト殺菌食品の製造方法では、レトルト殺菌の前に、前処理として水分減少工程Aを行なう。
【0039】
水分減少工程Aは、食品対象物を煮沸する煮沸処理a1とする。この場合、食品対象物を例えば4〜6%の食塩水中にて煮沸処理を行い、前記食品対象物の水分量を例えば6〜12重量%減少、好ましくは7〜10%減少させるとよい。
【0040】
また、水分減少工程Aは、食品対象物を低温に曝す低温乾燥処理a2としてもよい。本明細書における「低温」とは、室温より低い温度のことであり、例えば10〜20℃程度である。低温乾燥処理の態様は、低温状態の空間に食品対象物を曝す、或いは、例えば20℃以下の冷風を食品対象物に連続供給し、当該食品対象物を脱水させて水分量を減少させるようにすれば、特に限定されるものではない。冷風は、例えば低温に設定されたエアコンや低温室内の扇風機からの送風によって得ることができる。
このような低温乾燥処理a2を行うことで、食品対象物の水分量を例えば15〜20重量%減少、好ましくは14〜19%減少させるとよい。
【0041】
水分減少工程Aの処理時間は、食品対象物の大きさなどに応じて、適宜設定するとよい。
【0042】
(密封工程)
密封工程Bでは、水分を減少させたエビを収容容器に充填し、当該収容容器内に、エビの体積1mLあたり0.4〜8.3mLのヘッドスペースを有するように気体を充填した後、収容容器を密封する。
【0043】
収容容器は、高温で加熱殺菌するため耐熱性を有し、常温流通ができる態様であり、酸素ガス、光を遮断するバリア性を有し、密封性および実用強度がある袋状・容器状などのレトルトパウチであればよい。このような収容容器は、例えば食品側にはポリプロピレン、外側にはポリエステル(PET)と言った合成樹脂やアルミ箔を積層加工したフィルムで作製される。
収容容器の容積は特に限定されるものではないが、300〜600mL程度であればレトルト殺菌の際に扱い易く、レトルト殺菌時間などを考慮すれば550mL程度までの大きさとするのがよい。
【0044】
充填する気体は、空気、窒素ガスなどの不活性ガスであればよい。このような気体を気体供給装置よりシリンジなどを介して収容容器に充填する。
【0045】
ヘッドスペースは、収容容器の大きさに応じて容量を設定するとよい。例えば550mLの容積を有する収容容器であれば、20〜300mL、好ましくは35〜75mL程度のヘッドスペースを確保してレトルト殺菌したエビは良好な食感を有する。ヘッドスペースの容量を20mL未満としてレトルト殺菌したエビは、食感が劣る。一方、ヘッドスペースの容量が300mL以上であれば、収容容器が膨満な状態に近づくため、例えば輸送中に収容容器に衝撃などが与えられると、収容容器が破損する虞がある。
【0046】
本発明では、収容容器にて、エビの体積1mLあたり0.4〜8.3mLの空間が確保されるようにする。例えば容量が550mLの収容容器に3尾のエビを収容したとする。通常の大きさ(例えば5〜10cm程度)のエビであれば、その体積は12〜16mL程度である。例えば20〜300mLのヘッドスペースを確保しようとする場合、エビの体積1mLあたりのヘッドスペースは、最大で8.3mL(300÷3÷12)となり、最小で0.4mL(20÷3÷16)となる。
【0047】
エビおよび気体を充填した収容容器は、定法に従って密封するとよい。
【0048】
(レトルト殺菌工程)
レトルト殺菌処理とは、加圧加熱処理をいい、耐熱性容器に充填した製品を品温上昇に伴う製品の内圧で容器が破損しないように加圧しながら110℃〜130℃程度の蒸気又は熱水で10〜50分間程度加熱し、少なくともF0値=4以上となるように処理することをいう。レトルト殺菌処理はバッチ式レトルト殺菌装置、連続式レトルト殺菌装置を用いることができる。
【0049】
具体的な加熱の方法としては、常圧下で食品対象物の内部温度が110℃〜130に達するまで加熱をすることは困難であるため、加圧条件下で行う。例えば、熱水式の加圧加熱殺菌機や加圧式の圧力釜等を用いるとよい。
【0050】
レトルト殺菌は食品対象物をレトルトパウチに封入して行うが、ヘッドスペースを有するように気体を充填すれば、食品対象物を封入する際に粉末の調味料、乾燥食品等を同時に添加してもよい。
【0051】
本手法では、少なくとも筋基質タンパク質を有する食品対象物の水分を減少させた状態でレトルト殺菌工程Cを行なう。当該レトルト殺菌工程Cを行う前に、水分を減少させたエビを収容容器に充填し、収容容器内にヘッドスペースを有するように気体を充填する密封工程Bを行なっているため、レトルト殺菌中にエビから発生した水分が水蒸気となってヘッドスペースに拡散させることができる。図2に示したように、拡散した水蒸気は、ヘッドスペースHSの空間を漂い、或いは、収容容器10の内壁に水滴として付着するなどして、エビSに接触し難くなる。
【0052】
このように予めエビの水分量を減少させた状態でレトルト殺菌を行えば、水分存在下で過加熱することにより水に可溶性となるコラーゲンが可溶化し難くなるうえ、レトルト殺菌によってエビから発生した水分が、エビに接触し難くなることで、コラーゲンの可溶化をさらに抑制することができる。
【実施例】
【0053】
〔実施例1〕
以下の実施例では、食品対象物としてエビ(インドネシア産 クルマエビ科ウシエビPenaeus monodon)を使用した場合について説明する。エビは頭部を除去した後に冷凍し、解凍した後に殻を剥いた状態の腹部を試料(試料エビ)として供した。
エビの筋肉組織の構造を調べるため、供した非加熱の試料エビを、X線CT装置(ヤマト科学、TDM1000−IW)を使用してX線撮影した。当該撮影は、X線管電圧60000KV、X線管電流0.008mAの条件で行なった。結果を図3((a)横断面、(b)水平縦断面)に示した。
得られたX線CT撮影像から、エビの腹部では、6種類の筋肉束が存在する様子が確認できた。6種類の筋肉束は、図3(a)の上側から順に、左半身前部前斜筋1、左半身中央筋2、左半身後部前斜筋3、右半身後部前斜筋4、右半身中央筋5、右半身前部前斜筋6である。
【0054】
〔実施例2〕
試料エビの組織強度をレオメータ(株式会社山電製、REII―33005、ロー
ドセル2Kgf用)によって測定し、破断強度曲線を作成した。レオメータは、3mm径の円柱型プランジャーを備え、試料台移動速度1mm/秒の条件で、試料エビの腹部二節目中心部に対して左側面から右側面に向けてプランジャー進入率99%となるまで圧縮荷重を連続付加した(図3(b))。
【0055】
圧縮荷重の測定は、実施例1で使用した非加熱の試料エビ(実施例2−1)、当該試料エビを沸騰水中に投入して2分間ボイルしたもの(実施例2−2)、当該試料エビをレトルト殺菌したもの(実施例2−3)に対して行った。レトルト殺菌は121℃、12分(F0値=6)の条件で行なった。
【0056】
圧縮荷重を付加して得られた値を基に作成された破断強度曲線を図4に示した。また、これら3つの試料エビにおいて、X線CT撮影した結果(二節部拡大)を図5に示した。
【0057】
非加熱の試料エビ(実施例2−1)では、破断強度曲線において、歪率(プランジャー進入率)55%付近において大きなピークが確認された(図4(a))。当該ピークの位置では、プランジャーに大きな圧縮荷重を付加し、その後、プランジャーに付加した圧縮荷重が減少していることから、当該位置(プランジャー進入率55%付近)にて試料エビの表皮が破断されたものと認められた。実施例2−1における試料エビのX線CT撮影した結果(二節部拡大)を図5(a)に示す。
【0058】
試料エビを沸騰水中に投入して2分間ボイルしたもの(実施例2−2)では、破断強度曲線において、5つのピーク(第一ピークa、第二ピークb、第三ピークc、第四ピークd、第五ピークe)が確認された(図4(b))。第二〜第五ピークは、非加熱の試料エビ(実施例2−1)では確認されなかったが、2分間ボイルした試料エビ(実施例2−2)では確認された。この理由は、試料エビをボイルすることによって筋肉タンパク質が変性したためである。即ち、エビは2分間の煮沸により、適度な食感が得られる硬さを有する筋肉の層が形成されたことになる。図3(a)(横断面)に示した筋肉束と照合すると、第一ピークa〜第五ピークeは、それぞれ、表皮および左半身前部前斜筋1、左半身中央筋2、左半身後部前斜筋3、右半身後部前斜筋4、右半身中央筋5を破断したもの対応するピークであると考えられた。このように複数のピークが出現することにより、良好な食感(プリプリ感)が得られる。
第一ピーク値は、それ以降に出現する強度ピーク値(第二〜第五ピーク値)より大きくなっている。これは、第一ピーク値には、表皮を破断するためには大きな圧縮荷重が必要とされるためであると考えられる。
実施例2−2における試料エビのX線CT撮影した結果(二節部拡大)を図5(b)に示す。
【0059】
試料エビをレトルト殺菌したもの(実施例2−3)では、破断強度曲線においてピークは確認できず、なだらかな曲線となった(図4(c))。実施例2−3において、図5(c)のX線CT撮影した結果より、表面組織の脱落および筋繊維構造の不明瞭さが確認された。即ち、筋肉束中の細い繊維が解れたようになっており、筋基質タンパク質の主成分であるコラーゲンが試料エビ中より流出しているものと認められた。この結果、試料エビは、レトルト殺菌によりコラーゲンが熱分解されたために表面組織および筋繊維構造が崩壊し、筋組織の脆弱化が起こるものと推察された。図4(c)の破断強度曲線ではピーク値が殆どない物性を示している。この食品対象物を咀嚼した場合には、咀嚼にメリハリを感じることは殆どない。
【0060】
〔実施例3〕
水分減少工程Aとして煮沸処理a1を行ったのち、水分を減少させたエビを収容容器に充填し、収容容器内に、所定のヘッドスペースを有するように気体を充填した後、収容容器を密封する密封工程Bと、密封した収容容器を加熱および加圧することで殺菌処理を行うレトルト殺菌工程Cと、を行なって、エビのレトルト殺菌食品を作製した。
【0061】
まず最初に、密封工程に先立って行なう前処理である煮沸処理a1の条件を決定した。
【0062】
試料エビは、実施例1で使用したエビ(頭部を除去した後に冷凍し、解凍した後に殻を剥いた状態)を使用した。当該試料エビを食塩水で0〜10分間煮沸処理した(実施例3−1:NaCl濃度2%、実施例3−2:NaCl濃度3%、実施例3−3:NaCl濃度4%、実施例3−4:NaCl濃度5%、実施例3−5:NaCl濃度6%、実施例3−6:NaCl濃度10%)。煮沸処理後、煮沸処理エビを収容容器に充填して、密封工程を行い、レトルト殺菌(121℃、12分(F0値=6))を行なった。
比較対照例として、NaCl濃度0%で煮沸処理して試料エビを同じ条件でレトルト殺菌したもの(比較例3−1)を調製した。
【0063】
これら実施例および比較例について0,2,4,6,8,10分のそれぞれの煮沸時間において官能評価を行なった結果を図6に示した。また、レオメータによる組織強度測定を行なった結果を図7に示す(実施例3−3(2分処理):図7(a)、実施例3−3(8分処理):図7(b)、比較例3−1(2分処理):図7(c)、比較例3−1(8分処理):図7(d))。さらに表1にHyp量を示した。
【0064】
【表1】

【0065】
図6より、実施例3−3(NaCl濃度4%)〜実施例3−6(NaCl濃度10%)において、煮沸処理時間を6〜10分とすれば食感および香気が良好であると認められた。さらに、実施例3−5(NaCl濃度6%)および実施例3−6(NaCl濃度10%)では、煮沸処理時間を4分とすれば食感が良好であると認められた。しかし、NaCl濃度10%の場合は塩辛い食味を感じることがあり、煮沸処理時間10分の場合は焦げ臭が認められたことから、煮沸処理条件としてはNaCl濃度4〜6%、処理時間4〜8分間が好ましい結果が得られると認められた。
【0066】
これら実施例および比較例において、煮沸の前後における試料エビの重量変化および水分含有率の変化を調べた。表2に試料エビの重量(g)の変化、表3に試料エビの含水率(%)、表4に試料エビの重量減少率(%)、表5に試料エビの水分減少率(%)を示した。また、比較例3−1(煮沸時間0,2,8分間処理)および実施例3−3(煮沸時間2,8分間処理)における試料エビの重量変化の結果を図8、水分含有率の変化の結果を図9に示した。
【0067】

【表2】

【0068】
【表3】

【0069】
【表4】

【0070】

【表5】

【0071】
図6の官能評価では処理時間6〜8分間が好ましい結果が得られると認められた。そのため、処理時間6〜8分間における試料エビの水分減少率(%)に着目すると、実施例3−4(NaCl濃度5%)では8.0%であり、実施例3−3(NaCl濃度4%)では9.7%となった。また、当該官能評価では処理時間を4分とした場合においても実施例3−5(NaCl濃度6%)では好ましい結果が得られているが、このときの試料エビの水分減少率(%)は7.0%であった。従って、試料エビの水分減少量(%)を約7〜10%とすれば、食感などの品質が良好になると考えられる。
【0072】
また、表2,図8,9の結果より、レトルト殺菌処理後の実施例3−3(NaCl濃度4%)および比較例3−1(NaCl濃度0%)の試料エビの重量および水分含有率について、大きな差異は認められなかった。しかし、これら実施例3−3および比較例3−1の官能評価(図6)では、実施例3−3の試料エビの方が優れた品質を有することが認められた。これより、実施例3−3のように塩水による煮沸を行なうことによって、水分量を減少させてコラーゲンの加水分解を抑制するだけでなく、NaClによるコラーゲンの熱分解抑制効果が発揮されることによりコラーゲンの熱分解も抑制されたため、レトルト殺菌後であっても試料エビが脆弱化することなく、食感などの品質が良好になったと考えられる。
【0073】
図10に、実施例3−3における試料エビの煮沸処理後およびレトルト殺菌後の電子顕微鏡による筋線維組織像を示した(煮沸処理後:図10(a)、レトルト殺菌後:図10(b))。これより、煮沸処理後およびレトルト殺菌後の何れにおいても筋繊維構造の崩壊が抑制されていると認められた。
【0074】
また、Hyp量の測定結果より、実施3−3(NaCl濃度4%、8分煮沸)の処理エビでは97%ものHyp量を維持していることから、コラーゲンの加水分解が良好に抑制されていることが示唆された。
【0075】
即ち、本発明のレトルト殺菌食品の製造方法では、レトルト殺菌の前に水分減少工程Aとして煮沸処理a1を行うことで試料エビの含有水分量を減少させることができ、その状態でレトルト殺菌を行えば、筋原繊維を束ねた膜である筋基質の構造が維持される。即ち、実施例3−3のようにレトルト殺菌後における筋基質タンパク質の構造が、実施例2−2のように短時間で煮沸処理a1を行った後の筋基質タンパク質の構造と同様な特性を有するようになった。
よって、本実施形態で製造されたレトルト殺菌食品は、試料エビの表面組織および筋繊維構造の崩壊が抑制され、優れた食感を有するようになる。これは、試料エビを予め煮沸処理a1によって脱水することによりコラーゲンの加水分解を抑制し、NaCl付与によりコラーゲンの熱分解を抑制することができたためであると考えられる。
【0076】
好適な煮沸処理a1の条件として、実施例3−3(NaCl濃度4%、8分煮沸)の条件を適用し、以下のように密封工程Bおよびレトルト殺菌工程Cを行なった。
【0077】
煮沸処理a1の後、水分を減少させたエビ(3尾)を、容積が550mLの収容容器(アルミ積層スタンディングパウチ:12μmPET/15μm Ny/7μm Al/60μm PP:140×180×38mm)に収容して真空包装した。その後、ヘッドスペースが0、15、17mL(比較例3a〜3c)、および、20、23、25、35、45、75、100、150、300mL(実施例3a〜3i)となるようにシリンジにて窒素ガスをそれぞれの収容容器内に注入した。窒素ガスを充填した後、収容容器を密封する密封工程Bを行なった。
【0078】
当該密封工程Bの後、レトルト殺菌工程C(130℃(F0値=6))を行なった。殺菌時間は、以下の通りである(表6)。殺菌時間は、エビの温度を測定して設定しており、概ねヘッドスペースの容量が大きくなるほど長くなっている。これは、ヘッドスペースに存在する気体の容量が多くなると熱がエビに伝わり難くなるため、殺菌に要する時間が長くなるためである。
【0079】
【表6】

【0080】
比較例3a(ヘッドスペース0mL)および実施例3f(ヘッドスペース75mL)におけるレトルト殺菌工程Cの殺菌前および殺菌中の様子を図11に示した。
比較例3aでは、殺菌中にエビより発生した水蒸気によってエビと収容容器とを密着させるようになり、湿式加熱の様相を呈しているものと認められた(図11(a))。一方、実施例3fでは、殺菌中にエビより発生した水蒸気は、ヘッドスペースの空間を漂い、或いは、収容容器の内壁に水滴として付着し、乾式加熱の様相を呈しているものと認められた(図11(b))。
【0081】
レオメータによる組織強度測定を行なった結果を、図12(比較例3a、3b、3c)および図13(実施例3a、3b、3c、3d、3f、3g、3i)に示す。
【0082】
この結果、比較例3a、3b、3cについては、破断強度曲線において明確な複数のピークが確認されなかった。一方、実施例3a、3b、3c、3d、3f、3g、3iについては、破断強度曲線の歪み率50%までに出現するピークを有し、そのうち少なくとも1つはその強度ピーク値に対して所定の割合以上減少する物性を示すものと認められた。これより、実施例3a〜3iについては、良好な食感を有するものと考えられた。
【0083】
尚、実施例3において、歪み率50%までに出現するピークにおけるピーク値の減少割合を表7に示した。
【0084】
【表7】

【0085】
これより、実施例3では、破断強度曲線の歪み率50%までに出現するピークにおいて、最大荷重値は4N以上であり、ピーク値の減少割合は7.2〜38.5%であった。一方、比較例3b(15mL)におけるピーク値の減少割合は約3.7%(歪み率39%)であった。これより、破断強度曲線の歪み率50%までに出現するピークにおいて、ピーク値の減少割合が約5%以上であると良好な食感を有するレトルト殺菌エビであると認められた。
【0086】
実施例および比較例について食味評価を行なった(図14(a):比較例3b,3c、実施例3a,3b,3c、(b):比較例3a、実施例3c,3e,3f、(c):比較例3a、実施例3e,3g,3h)。
評価は、味、テクスチャ(食感)、におい、外観について行なった。パネラーは6人とした。この結果、本発明の実施例の食味評価は、比較例よりも優れているものと認められた。
【0087】
〔別実施の形態1〕
上述した実施形態では、密封工程に先立って行なう前処理である水分減少工程Aとして煮沸処理a1を行った場合について説明した。しかし、水分減少工程Aはこれに限らず、低温乾燥処理a2を行ってもよい。以下に、低温乾燥処理a2の条件を決定した。
【0088】
試料エビは、実施例1で使用したエビ(頭部を除去した後に冷凍し、解凍した後に殻を剥いた状態)を使用した。当該試料エビを18℃の雰囲気下で乾燥した(実施例4−1:低温乾燥4時間、実施例4−2:低温乾燥6時間、実施例4−3:腹開き後低温乾燥5時間)。低温乾燥後、低温乾燥処理エビを収容容器に充填してレトルト殺菌(121℃、14分(F0値=6))を行なった。
比較対照例として、低温乾燥処理しない試料エビを同じ条件でレトルト殺菌したもの(比較例4−1)、沸騰水中にて2分間ボイルした試料エビを同じ条件でレトルト殺菌したもの(比較例4−2)を調製した。
【0089】
これら処理エビについて、レオメータによる組織強度測定を行なった結果を図15に示す(実施例4−1:図15(a)、実施例4−2:図15(b)、比較例4−1:図15(c)、比較例4−2:図15(d))。また、レトルト殺菌後に、電子顕微鏡による筋線維組織像観察を行なった結果を図16に示す(実施例4−1:図16(a)、実施例4−2:図16(b)、比較例4−1:図16(c)、比較例4−2:図16(d))。
【0090】
また、表8に、低温乾燥処理a2によって減少した重量%(水分減少率%)、官能評価、Hyp(ヒドロキシプリン)量を示した。官能評価は食感および香気について行なった。Hypは、生体内では大部分がコラーゲン中に特異的に存在するアミノ酸の一種で、コラーゲンの約11〜14%を占めている。Hyp量の測定は、HPLCを使用して定法によって行い、非加熱時の含有量を100%とした場合の割合を示した。
【0091】
【表8】

ボソボソ感(弾力感に乏しく、繊維感・組織強度を保持していない)
プリプリ感(弾力感に富み、繊維感・組織強度を保持している)
干物感(繊維感・組織強度を保持しているが、弾力感はプリプリ感よりやや劣る)
レトルト臭(加熱不快臭)
【0092】
この結果、実施例4−2(低温乾燥6時間)の処理エビでは、破断強度曲線において複数のピークが確認され(図15(b))、官能評価(食感および香気)が優れていると認められた(表8)。これにより、低温乾燥処理a2によって、試料エビの水分量を19%減少させるとよいことが判明した。
実施例4−1(低温乾燥4時間)では、低温乾燥処理の結果、試料エビの水分量を13%減少させたが、破断強度曲線(図15(a))および官能評価(表8:食感および香気)の結果はあまり芳しくはない。しかし、実施例4−1における食感はボソボソ感が低減しているため、試料エビの水分量を14%程度まで減少させれば、食感などの官能評価は良好になるものと認められた。
【0093】
このように試料エビの水分量を減少させることによりコラーゲンの加水分解を抑制してコラーゲンの膠着化を図ることによって、レトルト殺菌後であっても試料エビが脆弱化することなく、食感などの品質が良好になったと考えられる。この低温乾燥処理によりコラーゲンの膠着化が起こっていることが考えられ、この変化もレトルト殺菌中のコラーゲン分解抑制効果をより助長していると考えられる。
【0094】
また、Hyp量の測定結果より、実施例4−2(低温乾燥6時間)の処理エビでは96%ものHyp量を維持していることから、コラーゲンの加水分解が良好に抑制されていることが示唆された。
【0095】
このようにレトルト殺菌の前に水分減少工程Aとして低温乾燥処理a2を行うことで試料エビの含有水分量を減少させることができ、その状態でレトルト殺菌を行えば、筋原繊維を束ねた膜である筋基質の構造が維持される。即ち、実施例4−2のようにレトルト殺菌後における筋基質タンパク質の構造が、実施例2−2のように短時間で煮沸処理を行った後の筋基質タンパク質の構造と同様な特性、即ち、食品対象物を短時間で煮沸処理を行った後に圧縮破断強度を測定して得られた破断強度曲線に関して、当該破断強度曲線の歪み率50%までに出現するピークを有し、そのうち少なくとも1つはその強度ピーク値に対して所定の割合以上減少する物性を有するようになった。
よって、本実施形態で製造されたレトルト殺菌食品は、試料エビの表面組織および筋繊維構造の崩壊が抑制され(図16(b))、優れた食感を有するようになる。これは、試料エビを予め低温乾燥処理a2によって脱水することによりコラーゲンの加水分解を抑制することができたためであると考えられる。
【0096】
以上のように、好適な低温乾燥処理a2の条件(20℃以下)を適用し、密封工程およびレトルト殺菌工程を行なえばよい(結果は示さない)。
【0097】
〔別実施の形態2〕
ヘッドスペースに充填するガスを変更した場合に、食味評価がどのように変化するのかを調べた。充填ガスは窒素ガスおよび空気を用いた。それぞれの充填ガスにおいてヘッドスペースの容積を35mLおよび300mLに設定した。水分減少工程Aは煮沸処理a1によって行った。
【0098】
食味評価は、上述した手法に準じて行なった。結果を図17に示した。この結果、外観は空気のほうが優れていたものの、他の項目(味、テクスチャ、におい)については略同等の評価が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、食品対象物であるエビを収容容器に充填して密封したのち加熱および加圧することで殺菌処理されたレトルト殺菌エビの製造方法に利用できる。
【符号の説明】
【0100】
A 水分減少工程
B 密封工程
C レトルト殺菌工程
S エビ
HS ヘッドスペース
10 収容容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品対象物であるエビの水分を減少させる水分減少工程と、
水分を減少させた前記エビを収容容器に充填し、前記収容容器内に、前記エビの体積1mLあたり0.4〜8.3mLのヘッドスペースを有するように気体を充填した後、前記収容容器を密封する密封工程と、
密封した前記収容容器を加熱および加圧することで殺菌処理を行うレトルト殺菌工程と、を有するレトルト殺菌エビの製造方法。
【請求項2】
前記水分減少工程が、エビを煮沸する煮沸処理、或いは、低温に曝して乾燥させる低温乾燥処理の何れかである請求項1に記載のレトルト殺菌エビの製造方法。
【請求項3】
煮沸あるいは低温に曝して乾燥させて水分量を減少させた食品対象物であるエビと、
収容容器内に、前記エビの体積1mLあたり0.4〜8.3mLのヘッドスペースと、を有し、レトルト殺菌した収容容器入りエビ。
【請求項4】
前記ヘッドスペースが20〜300mLである請求項3に記載の収容容器入りエビ。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図17】
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【図3】
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【図5】
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【図10】
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【図11】
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【図16】
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