説明

レビー小体病治療薬及びレビー小体病予防薬

【課題】 パーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症等のレビー小体病の治療が可能なレビー小体病治療薬を提供する。また、レビー小体病の発症を抑えることが可能なレビー小体病予防薬を提供する。
【解決手段】 レビー小体病治療薬は、下記一般式(1)で表され、分子量が200〜700である化合物を含む。式中、R1〜R4は、水酸基、メトキシ基から独立して選ばれる。Xは、芳香環を含まない鎖状の二価基である。また、レビー小体病予防薬は、下記一般式(1)で表され、分子量が200〜700である化合物を含む。前記化合物は、ノルジヒドログアイアレチン酸、クルクミン、ローズマリー酸から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症等のレビー小体病の治療薬及び予防薬に関する。
【背景技術】
【0002】
パーキンソン病はアルツハイマー病と並ぶ神経変性疾患の代表的な疾患であり、患者の脳には黒質にレビー小体(Lewy body)が出現することが知られている。レビー小体とは、α−シヌクレインと呼ばれる140アミノ酸残基からなるタンパク質の凝集体であり、パーキンソン病の他にレビー小体型認知症、多系統萎縮症等のようなレビー小体病と称される疾患の患者の脳にも出現することが知られている。
【0003】
ところで、レビー小体病の進行には、α−シヌクレインの凝集、すなわちα−シヌクレイン線維形成が重大な役割を果たしていると考えられている。そこで近年、α−シヌクレイン線維形成を抑制等する物質について各方面で活発に研究が進められている。例えば特許文献1においては、パーキンソン病等のα−シヌクレイン線維形成を特徴とする疾患の医薬品が提案されており、タンニン酸、ミリセチン、カテキン等のいずれかを含む医薬品が開示されている。また、特許文献2においては、抗酸化能を有する物質を含有する脳代謝促進・脳機能改善治療剤が提案され、パーキンソン病等の脳神経疾患を副作用なく治療又は改善することができるとされる。さらに、特許文献3においては、パーキンソン病等の予防及び治療のために、L−カルニチン等を抗酸化剤とともに使用することが記載されている。
【特許文献1】特表2003−532634号公報
【特許文献2】特開平6−199690号公報
【特許文献3】特開平10−87483号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述の特許文献1〜特許文献3等に記載されるように、パーキンソン病等のレビー小体病を治療又は予防することを目的として抗酸化剤のような多数の化合物が検討されているが、レビー小体病に対する理解を深め、レビー小体病を効果的に治療又は予防するためにはさらなる研究が必要とされている。
【0005】
そこで本発明はこのような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、例えばパーキンソン病等のレビー小体病の治療が可能なレビー小体病治療薬を提供することを目的とする。また、本発明は、レビー小体病の発症を抑えることが可能なレビー小体病予防薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述の目的を達成するために、本発明者らは長期に亘り検討を重ねてきた。その結果、抗酸化作用を持つ多数の物質の中である特定の化学構造を有する化合物がα−シヌクレイン線維の形成抑制又は不安定化に極めて有効であるとの知見を得、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明に係るレビー小体病治療薬は、下記一般式(1)で表され、分子量が200〜700である化合物(式中、R1〜R4は、水酸基、メトキシ基から独立して選ばれる。Xは、芳香環を含まない鎖状の二価基である。)を含む。また、本発明に係るレビー小体病予防薬は、下記一般式(1)で表され、分子量が200〜700である化合物(式中、R1〜R4は、水酸基、メトキシ基から独立して選ばれる。Xは、芳香環を含まない鎖状の二価基である。)を含む。
【0008】
【化3】

【0009】
前記一般式(1)で表され、特定の分子量の化合物を含むレビー小体病治療薬をレビー小体病患者に投与することで、レビー小体病の病因とされるα−シヌクレイン線維を不安定化するため、α−シヌクレイン線維のさらなる蓄積を抑制するとともに、レビー小体病患者の脳組織のα−シヌクレイン線維を分解することができる。したがって、本発明の治療薬により、病気の進行を遅らせる、或いは逆戻りさせる等、レビー小体病の病状のコントロールが可能となる。
【0010】
また、前記一般式(1)で表され、特定の分子量の化合物を含むレビー小体病予防薬をレビー小体病未発症者に投与することで、α−シヌクレインの線維形成が抑制されるため、脳内へのα−シヌクレイン線維蓄積を抑制し、レビー小体病の発症を抑えることができる。
【0011】
前記化合物がα−シヌクレインの線維形成抑制効果及びα−シヌクレイン線維の不安定化効果を有する理由は明確ではないが、前述のような適度に小さく且つ両端に芳香環を持つ対称的な構造のためにα−シヌクレインに結合し易く、この構造がα−シヌクレインの線維形成の抑制及びα−シヌクレイン線維の不安定化に適しているものと推測される。また、前記範囲の分子量は脳関門を通過し易いという利点もある。
【0012】
なお、前述の特許文献1等においては、タンニン酸、ミリセチン、カテキン等の抗酸化剤をα−シヌクレインの線維形成を特徴とする疾患の処置に用いることが記載されているが、これらのようなワイン関連ポリフェノールに分類される化合物は、本発明のレビー小体病治療薬及びレビー小体病予防薬が有効成分として含む化合物とは全く異なる構造を持つものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のレビー小体病治療薬をレビー小体病患者に投与することにより、既に蓄積したα−シヌクレイン線維を不安定化し、レビー小体病をコントロールすることができる。また、本発明のレビー小体病予防薬をレビー小体病の未発症者に投与することにより、α−シヌクレイン線維形成を抑制し、α−シヌクレイン凝集体の蓄積を抑制するため、レビー小体病の発症を未然に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を適用したレビー小体病治療薬及びレビー小体病予防薬について、詳細に説明する。
【0015】
本発明のレビー小体病治療薬及びレビー小体病予防薬は、レビー小体病に属する各種疾患に対する治療薬及び予防薬である。レビー小体病に属する疾患としては、パーキンソン病、レビー小体型痴呆症、多系統萎縮症等が挙げられる。
【0016】
本発明のレビー小体病治療薬及びレビー小体病予防薬は、下記一般式(1)で表され、分子量が200〜700である化合物を有効成分として含む。前記式中R1、R2、R3及びR4は、水酸基、メトキシ基からなる群から独立して選ばれる。また、式中Xは、芳香環を含まない鎖状の二価基である。
【0017】
【化4】

【0018】
ここで、前記Xを構成する鎖状の二価基は、飽和又は不飽和の炭化水素基であり、エステル結合、エーテル結合等が含まれていてもよい。前記炭化水素基の炭素数は1〜30であることが好ましい。また、前記炭化水素基には1又は2以上の任意の置換基が導入されていてもよく、置換基としては、メチル基やエチル基やプロピル基等のアルキル基、水酸基、カルボキシ基、カルボニル基、メトキシ基やエトキシ基等のアルコキシ基、ホルミル基やアセチル基等のアシル基等が例示される。
【0019】
前記一般式(1)で表される化合物の分子量は、200〜700とされる。前記分子量とすることで、この化合物が脳関門を通過し易くなるとともに、α−シヌクレインへ結合し易くなるため、α−シヌクレイン線維形成抑制効果及びα−シヌクレイン線維不安定化効果が得られる。
【0020】
前記一般式(1)で示され、分子量200〜700の化合物は、好ましくは、ノルジヒドログアイアレチン酸(nordihydroguaiaretic acid)(分子量302)、クルクミン(curcumin)(分子量368)、ローズマリー酸(rosmarinic acid)(分子量360)等である。
【0021】
【化5】

【0022】
【化6】

【0023】
【化7】

【0024】
本発明のレビー小体病治療薬及びレビー小体病予防薬の投与量については、その使用目的に応じて適宜決定すればよいが、これら有効成分の安全性は高いので、多量を継続的に投与しても副作用の心配は少ないと考えられる。
【0025】
本発明のレビー小体病治療薬及びレビー小体病予防薬の剤型としては特に限定されないが、例えば錠剤、顆粒剤、カプセル剤等の経口剤や、注射剤等とすることができる。また、これらは、従来公知の方法に従って製造することができる。また、本発明のレビー小体病治療薬及びレビー小体病予防薬は、有効成分である前記一般式(1)で表される化合物の他に、安定剤等の従来公知の添加剤等を含有してもよい。本発明のレビー小体病治療薬及びレビー小体病予防薬の投与方法としては、経口投与、非経口投与等、特に限定されず、従来公知の投与方法を適宜選択することができる。
【0026】
なお、前記一般式(1)で示される所定分子量の化合物は、レビー小体病の治療薬及びレビー小体病の予防薬として用いるだけでなく、健康増進を目的とした栄養補助食品として用いることができる。また、飲食物や酒類などの嗜好品に添加して用いることも可能である。
【実施例】
【0027】
以下、本発明について、実験結果を参照して詳細に説明する。
本実験では、ノルジヒドログアイアレチン酸(NDGA)、クルクミン(Cur)、ローズマリー酸(RA)、フェルラ酸(FA,ferulic acid)又はワイン関連ポリフェノール(タンニン酸(TA,tannic acid)、ミリセチン(Myr,myricetin)、カンフェロール(Kmp,kaempferol)、カテキン(Cat,(+)-catechin)、エピカテキン(epi−Cat,(-)-epicatechin))、ドコサヘキサエン酸(DHA,cis-4,7,10,13,16,19-docosahexaenoic acid)、エイコサペンタエン酸(EPA,cis-5,8,11,14,17-eicosapentaenoic acid)、リファンピシン(RIF,rifampicin)、及びテトラサイクリン(TC,tetracycline)の、α−シヌクレインの線維形成に与える影響について調べた。また、本実験では、前記各化合物のα−シヌクレイン原線維不安定化効果についても調べた。本実験で用いたNDGA、Cur、RA、FA、TA、Myr、Kmp、Cat、epi−Cat、RIF及びTCの構造を、下記に示す。
【0028】
【化8】

【0029】
【化9】

【0030】
【化10】

【0031】
【化11】

【0032】
【化12】

【0033】
【化13】

【0034】
【化14】

【0035】
【化15】

【0036】
【化16】

【0037】
【化17】

【0038】
【化18】

【0039】
〈α−シヌクレイン及びα−シヌクレイン原線維の準備〉
α−シヌクレインは、 Recombinant Peptide Technologiesより購入した。新鮮な凝集していないα−シヌクレイン原線維(fαS)は、不安定化反応の直前に新鮮なα−シヌクレインを重合反応させることによって得た。反応混合物は2000μLとし、140μMのα−シヌクレイン、pH7.5の20mMのトリスバッファー、100mMのNaClを含むものである。37℃6日間、撹拌環境下でインキュベーションし、形成反応は平衡に到達した。形成反応の進行の度合いはチオフラビンSの蛍光により測定した。その後の実験により、最終的な反応混合物中のα−シヌクレイン原線維の濃度は140μMとみなされた。
【0040】
〈蛍光測定〉
α−シヌクレインの蛍光を蛍光分光光度計(Hitachi F-2500)で測定した。励起波長及び蛍光波長は、それぞれ440nm、521nmとした。反応混合物は5μMのチオフラビンS、50mMのpH8.5グリシン−NaOHバッファーを含むものである。
【0041】
〈電子顕微鏡〉
pH7.0の1%リンタングステン酸で反応混合物をネガティブに着色し、カーボン被覆グリッド上に広げた。そして、電子顕微鏡(JEM-1210)下で加速電圧75kVにて観察を行った。
【0042】
〈重合アッセイ〉
【0043】
重合アッセイ用反応混合物は、140μMのα−シヌクレイン、0〜50μMのノルジヒドログアイアレチン酸、クルクミン、ローズマリー酸、フェルラ酸、タンニン酸、ミリセチン、カンフェロール、カテキン、エピカテキン、リファンピシン及びテトラサイクリン、1%ジメチルスルホキシド(DMSO)、pH7.5の20mMトリスバッファー、及び100mMのNaClを含むものである。1μM、10μM、100μM、1mM及び5mMの濃度でDMSOに溶解されたノルジヒドログアイアレチン酸、クルクミン、ローズマリー酸、フェルラ酸、ワイン関連ポリフェノール(タンニン酸、ミリセチン、カンフェロール、カテキン及びエピカテキン)、リファンピシン及びテトラサイクリンは、最終濃度がそれぞれ0.01μM、0.1μM、1μM、10μM及び50μMとなるように反応混合物に添加した。5mM及び10mMの濃度でDMSOに溶解されたDHA及びEPAは、最終濃度がそれぞれ50μM及び100μMとなるように反応混合物に添加した。
【0044】
前記混合物のうち30μLをオイルフリーPCRチューブに分注した。反応チューブをインキュベーターに入れ、プレート温度を開始温度4℃から37℃まで最大速度で上昇させた。そして、後の図で示すように、反応チューブ内をマイクロビーズを用いて0〜6日間撹拌し、氷上に置くことで反応を停止させた。それぞれの反応チューブから5μL分量を3つ分取し、蛍光分光計で調べ、それぞれ3つの平均値を決定した。チオフラビンS溶液中では、前記化合物は反応混合物濃度の200分の1まで希釈された。これら化合物がチオフラビンSの蛍光を前記希釈濃度で消光させないことは実験的に確かめられている。
【0045】
〈原線維不安定化活性の測定〉
不安定化測定用反応混合物は、70μMの新鮮なα−シヌクレイン原線維、0〜50μMのノルジヒドログアイアレチン酸、クルクミン、ローズマリー酸、フェルラ酸、ワイン関連ポリフェノール、DHA、EPA、リファンピシン、又はテトラサイクリン、1%DMSO、20mMのpH7.5のトリスバッファー、100mMのNaCl、及びα−シヌクレイン原線維の凝集と反応中の反応チューブ内壁へのα−シヌクレイン原線維の吸着とを回避するための1%(wt/vol)ポリビニルアルコールを含むものである。濃度1μM、10μM、100μM、1mM、5mMとしてDMSOに溶解されたノルジヒドログアイアレチン酸、クルクミン、ローズマリー酸、フェルラ酸、ワイン関連ポリフェノール、リファンピシン、及びテトラサイクリンは、最終濃度0.01μM、0.1μM、1μM、10μM及び50μMとなるように反応混合物に添加した。濃度5mM及び10mMとしてDMSOに溶解されたDHA及びEPAは、最終濃度50μM及び100μMとなるように反応混合物に添加した。
【0046】
ピペッティング後、30μLをPCRチューブに分注した。反応チューブをインキュベーターに入れ、プレート温度を開始温度4℃から37℃まで最大速度で上昇させた。そして、後の図で示すように、反応チューブ内をマイクロビーズを用いて0〜6日間撹拌し、氷上に置くことで反応を停止させた。それぞれの反応チューブから5μL分量を3つ分取し、蛍光分光計で調べ、それぞれ3つの平均値を決定した。前記希釈濃度で、4℃と37℃のどちらにおいても、前述の化合物はα−シヌクレイン原線維に対してチオフラビンSと競合しなかった(データ示さず。)。
【0047】
〈他の分析方法〉
遠心分離後の反応混合物の上清のタンパク質濃度は、タンパク質アッセイキット(Bio-rad Laboratories社製)を用いたブラッドフォード法(1976)によって決定した。有効濃度(EC50)は、α−シヌクレイン原線維の形成又は伸長を対照値の50%に抑制するノルジヒドログアイアレチン酸、クルクミン、ローズマリー酸、フェルラ酸、ワイン関連ポリフェノール、リファンピシン又はテトラサイクリンの濃度、又は、α−シヌクレイン原線維を対照値の50%に不安定化させる濃度として定義した。EC50は、 Igor Pro ver.5を用い、図1(e)及び図3(e)に示すようなデータのシグモイドカーブフィッティングから算出した。
【0048】
〈新鮮なα−シヌクレインからのα−シヌクレイン原線維形成反応速度に対する抗酸化化合物の影響〉
以下、実験結果について説明する。
図1(a)〜(d)に示すように、新鮮なα−シヌクレインを37℃でインキューべーションすることにより生成したチオフラビンSの蛍光は、特徴的なシグモイドカーブを示した。このカーブは、核依存性重合モデルに一致している。データは示さないが、10μM及び50μMのタンニン酸、ミリセチン、クルクミン又はテトラサイクリンの存在下でα−シヌクレインをインキュベーションした後、最終平衡レベルは用量依存的に減少した。また、データは示さないが、10μM及び50μMのDHA及びEPAは、新鮮なα−シヌクレインからのα−シヌクレイン原線維形成に抑制的な影響を与えなかった。
【0049】
なお、クルクミン等の抗酸化剤を含まない反応混合物を37℃で6時間インキュベーションした後、電子顕微鏡により観察したところ、α−シヌクレイン原線維の形成が明確に確認された(図2(a))。一方、クルクミンを含む反応混合物を同条件でインキュベーションし、電子顕微鏡により観察したところ、α−シヌクレイン原線維形成が抑制されていることが確認された(図2(b))。ノルジヒドログアイアレチン酸又はローズマリー酸を含む反応混合物においても、クルクミンと同様、α−シヌクレイン原線維形成が抑制されていることが確認された。
【0050】
〈原線維不安定化アッセイ〉
図3(a)〜(d)に示すように、分子を添加していない状態で新鮮なα−シヌクレイン原線維を37℃でインキュベーションしている間、チオフラビンSの蛍光はほとんど変化しなかった。他方、DHA及びEPAの添加を除き、抗酸化剤を反応混合物に添加した後、チオフラビンSの蛍光は直ちに減少した。
【0051】
なお、インキュベーション後の反応混合物を電子顕微鏡により観察した。インキュベーション前の反応混合物においては、α−シヌクレイン原線維が明瞭に観察された(図4(a)のに対し、50μMのクルクミンを含む反応混合物を1時間インキュベーションした後には、多数の短くせん断された原線維が観察された。6時間インキュベーションした後の前記反応混合物においては、原線維の数は著しく減少し、小さな不定形の凝集体が時折観察された(図4(b))。また、ノルジヒドログアイアレチン酸又はローズマリー酸を含む反応混合物においても、クルクミンと同様、既存のα−シヌクレイン原線維の不安定化所見が確認された。なお、タンニン酸、テトラサイクリン、フェルラ酸、ミリセチン、カンフェロール、カテキン及びエピカテキンにおいても形態学的に不安定化所見が見られたが、DHA及びEPAはα−シヌクレイン原線維を不安定化させなかった。
【0052】
1.6×10gで4℃、2時間の遠心分離を行った後の上清からは、ブラッドフォードアッセイによる測定ではタンパク質は検出されなかった。これは、上述した化合物はα−シヌクレイン原線維を電子顕微鏡的に観察できる凝集体にまで不安定化することができるけれども、α−シヌクレインのモノマー又はオリゴマーに脱重合(depolymerize)することはできないということを意味している。
【0053】
〈抗酸化化合物の活性の比較〉
図1(e)及び図3(e)に示すように、ノルジヒドログアイアレチン酸、クルクミン、ローズマリー酸、フェルラ酸、ワイン関連ポリフェノール、リファンピシン及びテトラサイクリンは用量依存的にα−シヌクレイン原線維の形成及び伸長を抑制し、同様に用量依存的に予め形成しておいたα−シヌクレイン原線維を不安定化した。ここで、図1(e)及び図3(e)に示すようなデータのシグモイドカーブフィッティングにより、EC50(α−シヌクレイン原線維の形成を対照値の50%に抑制するノルジヒドログアイアレチン酸、クルクミン、ローズマリー酸、フェルラ酸、ワイン関連ポリフェノール、リファンピシン又はテトラサイクリンの濃度、又はα−シヌクレイン原線維を対照値の50%に不安定化させる濃度)を算出した。結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
タンニン酸、ノルジヒドログアイアレチン酸、クルクミン、ローズマリー酸、ミリセチン、リファンピシン及びテトラサイクリンのα−シヌクレイン原線維の形成を抑制するEC50は、α−シヌクレイン原線維不安定化のEC50と類似していた。他方、フェルラ酸、カンフェロール、カテキン及びエピカテキンのα−シヌクレイン原線維を不安定化させるEC50は、α−シヌクレイン原線維の形成を抑制するEC50より一桁高い値を示した。前記表1のデータより、検討した化合物のα−シヌクレイン原線維に対する抗原線維形成及び原線維不安定化活性は、タンニン酸=ノルジヒドログアイアレチン酸=クルクミン=ローズマリー酸=ミリセチン>カンフェロール=フェルラ酸>カテキン=エピカテキン>リファンピシン=テトラサイクリンの順に強いことが明らかとなった。
【0056】
以上の実験より、前記抗酸化剤が、インビトロで用量依存的にα−シヌクレイン原線維の形成を抑制し、予め形成しておいたα−シヌクレイン原線維を不安定化するということが明らかとなった。特に、ノルジヒドログアイアレチン酸、クルクミン及びローズマリー酸は、α−シヌクレインの線維形成抑制効果を持つ化合物としてこれまでに知られているタンニン酸及びミリセチンのようなワイン関連ポリフェノールと同等に、非常に強いα−シヌクレイン線維形成抑制効果及び不安定化効果を持つことが明らかとなった。したがって、一般式(1)で示される化合物は、α−シヌクレイン原線維の形成を抑制可能であることから、α−シヌクレインの凝集が関与する各種レビー小体病のコントロールに有用であることが確認された。また、一般式(1)で示される化合物は、α−シヌクレイン原線維を不安定化することが可能であることから、α−シヌクレインの凝集が関与する各種レビー小体病の予防に有用であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】新鮮なα−シヌクレインからのα−シヌクレイン原線維形成の反応速度に対するタンニン酸(a)、ミリセチン(b)、クルクミン(c)、及びテトラサイクリン(d)の影響を示す特性図である。140μMのα−シヌクレイン、pH7.5の20mMのトリスバッファー、100mMのNaCl、及び各化合物を0μM(●)、10μM(○)、又は50μM(□)の濃度で含む反応混合物を37℃で所定時間インキュベートした。それぞれの図は、3つの独立した実験の代表的なパターンを示している。(e)は、新鮮なα−シヌクレインからのα−シヌクレイン原線維形成の用量依存的抑制を示す特性図である。140μMα−シヌクレイン、pH7.5、20mMのトリスバッファー、100mMのNaCl、及びタンニン酸(●)、ミリセチン(○)、クルクミン(■)、及びテトラサイクリン(□)を0、0.01、0.1、1、10又は50μM含む反応混合物を、37℃で6時間インキュベートした。それぞれのポイントは、3つの独立した実験の平均を表している。全てのポイントで、標準誤差は記号の内側であった。化合物なしの平均を100%とみなした。
【図2】140μMのα−シヌクレイン、pH7.5、20mMのトリスバッファー、100mMのNaCl、及び0(a)又は50μMのクルクミン(b)を含む反応混合物を、37℃で6時間インキュベートした後の電子顕微鏡写真である。横棒は長さ250nmを示す。
【図3】α−シヌクレイン原線維の不安定化の反応速度に対するタンニン酸(a)、ミリセチン(b)、クルクミン(c)、及びテトラサイクリン(d)の影響を示す特性図である。70μMのα−シヌクレイン原線維、pH7.5の20mMトリスバッファー、100mMのNaCl、及び各化合物を0μM(●)、10μM(○)又は50μM(□)の濃度で含む反応混合物を、37℃で所定時間インキュベートした。それぞれの図は、3つの独立した実験の代表的なパターンを示している。(e)は、α−シヌクレイン原線維の用量依存的不安定化を示す特性図である。70μMのα−シヌクレイン原線維、pH7.5の20mMトリスバッファー、100mMのNaCl及びタンニン酸(●)、ミリセチン(○)、クルクミン(■)、及びテトラサイクリン(□)を0、0.01、0.1、1、10又は50μM含む反応混合物を37℃で6時間インキュベートした。それぞれのポイントは、3つの独立した実験の平均を表している。全てのポイントで、標準誤差は記号の内側であった。化合物なしの平均を100%とみなした。
【図4】70μMのα−シヌクレイン原線維、pH7.5、20mMのトリスバッファー、100mMのNaCl、及び50μMのクルクミンを含む反応混合物を、37℃で0時間(a)又は6時間(b)インキュベートした後の電子顕微鏡写真である。横棒は長さ250nmを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表され、分子量が200〜700である化合物(式中、R1〜R4は、水酸基、メトキシ基から独立して選ばれる。Xは、芳香環を含まない鎖状の二価基である。)を含むことを特徴とするレビー小体病治療薬。
【化1】

【請求項2】
前記化合物が、ノルジヒドログアイアレチン酸、クルクミン、ローズマリー酸から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載のレビー小体病治療薬。
【請求項3】
前記レビー小体病が、パーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2記載のレビー小体病治療薬。
【請求項4】
下記一般式(1)で表され、分子量が200〜700である化合物(式中、R1〜R4は、水酸基、メトキシ基から独立して選ばれる。Xは、芳香環を含まない鎖状の二価基である。)を含むことを特徴とするレビー小体病予防薬。
【化2】

【請求項5】
前記化合物が、ノルジヒドログアイアレチン酸、クルクミン、ローズマリー酸から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項4記載のレビー小体病予防薬。
【請求項6】
前記レビー小体病が、パーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項4又は5記載のレビー小体病予防薬。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−84155(P2009−84155A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−7378(P2006−7378)
【出願日】平成18年1月16日(2006.1.16)
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【Fターム(参考)】