説明

レボシメンダンの制御放出経口用組成物

【課題】制御された様式で、望ましくない効果をあまり起こさないでレボシメンダンを放出する経口用医薬組成物を提供する。
【解決手段】a)治療に効果的な量のレボシメンダン、ならびにb)レボシメンダンの放出を長期間にわたって提供するため、および20ng/ml未満、好ましくは10ng/ml未満の代謝産物(II)の定常状態血漿中レベルを提供するための薬剤放出制御成分を含む経口投与用制御放出組成物。a)治療に効果的な量のレボシメンダン、およびb)レボシメンダンの放出を長期間にわたって提供するための薬剤放出制御成分を含む経口投与用制御放出組成物であって、少なくとも90パーセントのレボシメンダン含有量に対し、リン酸緩衝液pH5.8(50または100rpm)における米国薬局方XXIIかご集合法にもとづいて決定された全インビトロ溶解時間が実質的に1時間から4時間のあいだである組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御された様式で、望ましくない効果をあまり起こさないでレボシメンダンを放出する経口用医薬組成物に関する。レボシメンダンすなわち(−)−[[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]ヒドラゾノ]プロパンジニトリルは、うっ血性心不全の治療に有用である。
【背景技術】
【0002】
[[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]ヒドラゾノ]プロパンジニトリルの(−)エナンチオマーであるレボシメンダンおよびその製造方法は、EP565546B1号明細書に記載されている。レボシメンダンは心不全の治療において強力な作用を有し、トロポニンへの顕著なカルシウム依存性結合を示す。レボシメンダンは以下の式で表わされる。
【化1】

【0003】
ヒトにおけるレボシメンダンの血行力学的効果(hemodynamic effect)は Sundberg, S. et al., Am. J. Cardiol., 1995; 75: 1061-1066に記載されている。静脈内投与および経口投与後のヒトにおけるレボシメンダンの薬物動態は、 Sandell, E.-P. et al., J. Cardiovasc. Pharmacol., 26(Suppl. 1), S57-S62, 1995に記載されている。心筋虚血の治療におけるレボシメンダンの用途は、WO93/21921号パンフレットに記載されている。臨床試験により、心不全患者におけるレボシメンダンの有益な効果が確認されている。
【0004】
レボシメンダンの経口投与は、とくに長時間に渡る治療効果を目的とした場合には困難であることがわかっている。第1に、レボシメンダンのヒトにおける消失半減期は短く、約1時間である。したがって、従来の即時放出性の経口用処方を用いた場合、レボシメンダンを1日に何回も投与しなければならない。第2に、レボシメンダンの胃腸吸収は急速である。したがって即時放出経口用製剤を用いた場合、レボシメンダンは急速で突然に、典型的には1時間以内に最高血漿中濃度に達する。レボシメンダンの高い血漿中濃度は心不全患者には望ましくない心拍数の増加をもたらす傾向がある。
【0005】
長時間作用性の経口用組成物は、従来の経口用の急速放出組成物をしのぐ多くの利点をもたらす。このような利点には血漿中の薬剤の濃度の変化が少ないこと、および、その結果としての、安定した治療応答、少ない投与回数および副作用の低下などが含まれる。典型的な長時間作用性の組成物は、薬剤、放出制御剤および使用可能な賦形剤を混合し、混合物を圧縮成形してマトリックス錠剤とすることにより調製される。典型的な長時間作用性の組成物は、薬剤を上部並びに下部の胃腸管において放出する。
【0006】
従来の長時間作用性の製剤でレボシメンダンを投与する試みは良好な結果をもたらしていない。長時間に渡る治療効果を得るために従来用いられている長時間作用性の製剤でレボシメンダンを投与した場合、激しい頭痛、動悸および心拍数増加のような望ましくない作用が頻繁に観察される。したがって、レボシメンダンを経口投与するための新しい方法および組成物、とくに長時間に渡りレボシメンダンの治療効果をもたらし、従来の長時間作用性のレボシメンダン製剤に関連していた難点を回避できるような方法および組成物が望まれている。
【発明の概要】
【0007】
レボシメンダンは下部胃腸管、とくに大腸において、腸内細菌による代謝を受けやすいことが解かっている。このような代謝経路は、最終的には活性型の初回通過代謝産物である(R)−N−[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]アセトアミド(II)をもたらし、その消失半減期はレボシメンダンよりもかなり長い。活性型代謝産物の蓄積は長時間作用性のレボシメンダン製剤に関連する望ましくない作用をもたらすことが解かっている。活性型代謝産物およびその形成経路がわかったことにより、今回、望ましくない作用の発生が低下し、心疾患患者の治療に充分適している制御放出製剤を設計することが可能となった。
【0008】
したがって本発明の目的は、経口用組成物、とくに長時間に渡り治療効果を示し、安定して、そして、好ましくは、胃腸管の下部、とくに大腸に到達するよりも実質的に完全に早期にレボシメンダンを放出することにより活性型代謝産物の形成を低レベルに維持することのできる組成物を提供することである。これにより患者の血漿中の活性型代謝産物の濃度は充分低いレベルに維持され、これにより活性型代謝産物の蓄積により生じる望ましくない作用を回避すると同時に、長時間に渡る治療作用が得られるのである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は液体クロマトグラフィー−タンデム質量分析により測定された、志願者の活性代謝産物(II)に対する検定線用試料を示す。
【図2】図2は液体クロマトグラフィー−タンデム質量分析により測定された、志願者の活性代謝産物(II)投与後の血漿試料を示す。
【図3】図3は、リン酸緩衝液pH5.8における実施例1の処方1に対するインビトロ溶解曲線を示す。
【図4】図4は、リン酸緩衝液pH5.8における実施例1の処方2に対するインビトロ溶解曲線を示す。
【図5】図5は、リン酸緩衝液pH5.8における実施例1の処方3に対するインビトロ溶解曲線を示す。
【図6】図6は、リン酸緩衝液pH5.8における実施例3の参考処方に対するインビトロ溶解曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、従来の即時放出性および長時間作用性の製剤と比較して改善されたレボシメンダンの経口用デリバリーシステムを提供する。以下のような利点:
−レボシメンダンの血漿中最高レベルが低いため、心拍数増加のような高レベルのレボシメンダンの望ましくない作用の発生を低下させる点、
−投与頻度が少ない点、および、
−活性型代謝産物(II)の蓄積が少ないため薬剤の認容性(tolerability)が高いこと、即ち、重度の頭痛、動悸および心拍数増加のような活性型代謝産物により誘発される望ましくない作用が少ない点、が挙げられる。
【0011】
代謝産物(II)の血漿中レベルは、激しい頭痛、動悸および心拍数の増加などの望ましくない効果の発生と非常に相互に関係する。心不全患者の最適なレボシメンダンによる治療において、代謝産物(II)の定常状態血漿中レベルは20ng/ml未満、好ましくは10ng/ml未満であるべきである。
【0012】
利点が本発明にもとづいて、a)治療に効果的な量のレボシメンダン、ならびにb)レボシメンダンの放出を長期間にわたって提供するため、および代謝産物(II)に対する20ng/ml未満、好ましくは10ng/ml未満の定常状態プラズマレベルを提供するための薬剤放出制御成分を含有する組成物の制御された放出によって提供される。
【0013】
「長時間」という用語は投与後少なくとも1時間、好ましくは少なくとも2時間を意味する。前記において定義した代謝産物(II)の定常状態の血漿中濃度は患者の群における平均値を指す。
【0014】
好ましくは、薬剤放出制御成分は組成物が大腸に到達するよりも実質的に完全に早期にレボシメンダンを放出する。
【0015】
「薬剤放出制御成分」とは一般的に、本発明のレボシメンダンの放出を制御し、延長させるために適用可能な種々の技術に関するものである。このような技術には、マトリックス処方(たとえばマトリックスの錠剤、顆粒もしくはペレット)またはコーティング処方(たとえばコーティングされた錠剤、顆粒またはペレット、またはマイクロカプセル)が包含される。コーティングおよびマトリックスの材料のような薬剤放出制御成分、および、マトリックスおよびコーティングされた処方を調製するための方法は当該分野でよく知られている。材料および使用量の選択は所望の放出様式に依存し、当業者が日常的に知り得るものである。本発明の放出様式を得るために適している何れの放出制御材料、たとえばマトリックスまたはコーティングの材料またはそれらの組合せも薬剤放出制御成分として使用することができる。本発明において有用な典型的な放出制御成分としては、たとえば、親水性ゲル形成ポリマー、たとえばヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸もしくはこれらの混合物など、;植物性の脂肪および油、たとえば水添大豆油、硬化ひまし油もしくはヒマ種子油(CutinaHRの商品名で販売)などの植物性の固体油、綿実油(SterotexまたはLubritabの商品名で販売)またはこれらの混合物など、;脂肪酸エステル、たとえばグリセリルトリステアレート、グリセリルトリパルミテート、グリセリルトリミリステート、グリセリルトリベヘネート(Compritolの商品名で販売)およびグリセリルパルミトステアリン酸エステルのような飽和脂肪酸のトリグリセリドもしくはこれらの混合物などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0016】
本発明によれば上部胃腸管、たとえば胃における滞留時間が延長するように設計される処方の使用も可能である。これにより大腸におけるレボシメンダンの代謝およびそののちの活性代謝産物(II)の生成の危険性を低下できる。このような組成物、たとえば浮遊性または浮揚性の処方は、組成物が胃腸管の下部に到達するまで実質的により長い時間を要するため、薬剤の総放出時間を実質的により長くするように設計できるという利点を有する。胃内滞留時間の延長された組成物はUS4,126,672号明細書、US4,814,178号明細書、US4,777,033号明細書、US5,232,704号明細書およびEP539059号明細書に記載されている。
【0017】
即ち、代謝産物(II)の定常状態の血漿中レベルを20ng/ml未満、好ましくは10ng/ml未満とするレボシメンダンの制御/延長放出組成物の何れも本発明にもとづいて使用できる。
【0018】
代謝産物(II)の定常状態の血漿中レベルを測定するには、いかなる組成物の場合も、レボシメンダンの組成物を志願者または志願者の群に(II)が定常状態のレベルに達するまで数日間に渡り1日1回または数回投与する。ついで活性型代謝産物(II)の血漿中レベルを実施例2に詳述する手法にしたがって測定する。
【0019】
本発明の1つの特徴はインビトロの溶解様式によって特徴づけられる経口投与用のレボシメンダンの制御放出組成物である。
【0020】
とくに、本発明は、a)治療に効果的な量のレボシメンダン、およびb)レボシメンダンの放出を長期間にわたって提供するための薬剤放出制御成分を含有する、経口投与のための制御放出組成物であって、その組成物が、少なくとも90パーセントのレボシメンダン含有量に対し、リン酸緩衝液pH5.8(50または100rpmで)における米国薬局方XXIIかご集合法(basket assembly method)にもとづいて決定された、実質的に1時間から4時間のあいだの全インビトロ溶解時間を示すことができる組成物に関する。
【0021】
さらに好ましくは、本発明の組成物は、少なくとも90パーセントのレボシメンダン含有量に対し、実質的に1時間から3時間の全インビトロ溶解時間を示す。
【0022】
単数または複数の薬剤放出制御成分は、前述のように選択され得る。再度、典型的な薬物放出制御成分としては、たとえば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸またはそれらの混合物などの親水性ゲル形成ポリマー;水添大豆油、硬化ひまし油またはグリセリルパルミトステアレートなどの植物脂肪もしくは植物油または脂肪酸エステルがあげられるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
本発明の組成物のインビトロ溶解様式を測定する方法は実施例3に記載する。
【0024】
本発明の組成物はたとえば錠剤、カプセル剤、顆粒剤または粉末剤の剤形であることができる。
【0025】
本発明のとくに好ましい実施態様は、レボシメンダンと場合により少なくとも1つの賦形剤とを含有する急速放出部分を、レボシメンダンおよび薬剤放出制御成分を含有する制御放出部分と組合せることにより得られる。薬剤放出制御成分は前述の通り選択できるが、親水性ゲル形成ポリマーであることが好ましい。とくに好ましいものは、(a)少なくとも1つの賦形剤と共にレボシメンダンを含有する粉末形態の急速放出部分、ならびに(b)レボシメンダンおよび放出制御親水性ゲル形成ポリマーを含有する顆粒形態の制御放出部分を含有する組成物である。粉末形態の急速放出部分および顆粒形態の制御放出部分は、好ましくは、ゼラチンカプセルまたはHPMCカプセルのようなカプセルに充填できる自由流動性の混合物とする。
【0026】
本発明のとくに好ましい組成物は、組成物の重量に対してレボシメンダンを0.05〜20%、好ましくは0.1〜10%、より好ましくは0.2〜3%含有する。薬物用量は急速放出部分と制御放出部分との間で分割する。一般的には、薬物の重量に対して約25〜75%、好ましくは約30〜70%、より好ましくは約40〜60%が制御放出部分に存在する。
【0027】
一般的に、経口投与の場合のヒトにおけるレボシメンダンの1日当たり用量は約0.1〜20mg、典型的には約0.5〜10mgであり、1日1回または一日数回に分割投与する。用量はたとえば患者の年齢、体重および症状に依存する。好ましい実施態様における組成物はレボシメンダン約0.1〜5mg、典型的には約0.2〜2mgを急速放出部分および制御放出部分に分割して含有する。うっ血性心不全の治療に対して、定常状態におけるレボシメンダンの好ましい最高血漿中レベルは約1〜約100ng/ml、より好ましくは約5〜約60ng/ml、最も好ましくは約10〜約50ng/mlの範囲である。
【0028】
急速放出部分の適当な賦形剤は微結晶セルロースまたは乳糖のような充填剤である。微結晶セルロースは好ましい賦形剤であり、アビセル(Avicel)PH101、アビセルPH102またはアビセルPH200のような種々の等級で入手可能である。急速放出部分における賦形剤の量は、組成物の重量に対して約20〜70%、好ましくは約30〜60%である。ステアリン酸またはステアリン酸マグネシウムのような適当な潤滑剤を急速放出部分に添加することができる。ステアリン酸が好ましい潤滑剤である。
【0029】
放出制御親水性ゲル形成ポリマーとしては、たとえばヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸またはこれらの混合物があげられるが、これらに限定されるものではない。好ましいものはアルギン酸とほかの親水性ゲル形成ポリマーの混合物、とくにアルギン酸とヒドロキシプロピルメチルセルロースとの混合物である。ヒドロキシプロピルメチルセルロースは多様な種類が市販されており、たとえばMethocel K100(分子量 26,000g/mol)、Methocel K4M(分子量 86,000g/mol)、Methocel K15M(分子量 120,000g/mol)およびMethocel K100Mである。これらの等級の粘度は、2%水溶液(20℃)においてそれぞれ100cP、4000cP、15000cPおよび100000cPである。50〜2000cPの粘度を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースが好ましい。Methocel K100がヒドロキシプロピルメチルセルロースの好ましい等級である。
【0030】
ステアリン酸またはステアリン酸マグネシウムのような適当な潤滑剤を制御放出部分に添加することができる。ステアリン酸が好ましい潤滑剤である。
【0031】
本発明のとくに好ましい実施態様における親水性ゲル形成ポリマーの量は、組成物の重量に対して約20〜80%、好ましくは30〜70%である。好ましくは、親水性ゲル形成ポリマーはアルギン酸とヒドロキシプロピルメチルセルロースとの混合物である。アルギン酸の適当な量は、全親水性ゲル形成ポリマーの重量に対して約10〜50%、好ましくは約20〜40%である。
【0032】
急速放出部分の量は、本発明のとくに好ましい実施態様においては組成物の重量に対して約20〜80%、好ましくは約30〜70%、より好ましくは約40〜60%である。潤滑剤を使用する場合、その潤滑油の量は、組成物の重量に対して約0.3〜10%、より好ましくは約0.5〜5%である。
【0033】
本発明の別の好ましい実施態様は、たとえばすべて粉末形態で、薬剤放出制御成分、レボシメンダンおよび賦形剤を混合し、混合物をゼラチンカプセルまたはHPMCカプセルのようなカプセルに充填することにより得られる。薬剤放出制御成分は前記したとおり選択できる。好ましくは、薬剤放出成分は親水性ゲル形成ポリマーであり、これは、本実施態様においては、組成物の重量に対して約10〜70%、好ましくは約15〜60%、最も好ましくは約20〜40%の量で使用する。放出制御親水性ゲル形成ポリマーとしては、たとえばヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸またはそれらの混合物があげられるが、これらに限定されるものではない。最も好ましい薬剤放出制御成分はヒドロキシプロピルメチルセルロース、とくにMethocel K100のような50〜2000cPの粘度を有するヒドロキシプロピルメチルセルロース、およびアルギン酸またはそれらの混合物である。賦形剤(たとえば微結晶セルロースまたは乳糖)は、本実施態様においては組成物の重量に対して約30〜90%、好ましくは約40〜80%、最も好ましくは約50〜70%の量で適宜使用される。レボシメンダンは前の好ましい実施態様において記載した量で使用される。
【0034】
本発明の別の好ましい実施態様は、薬剤放出制御成分、レボシメンダンおよび賦形剤、たとえば微結晶セルロースまたは乳糖および/またはステアリン酸を混合し、そして、混合物を適当な錠剤成形機で圧縮成形してマトリックス錠剤とすることにより得られるマトリックス錠剤の形態である。ここでもまた、薬剤放出制御成分は前記のとおり選択できる。好ましくは、薬剤放出制御成分は前記した通り、親水性のゲル形成ポリマーまたは植物性脂肪もしくは植物性油または脂肪酸エステルである。本実施態様においては、薬剤放出制御成分は組成物の重量に対して約0.5〜60%の量で使用され、賦形剤(たとえば微結晶セルロース)は、組成物の重量に対して約30〜99%の量で適宜使用される。薬剤放出制御成分が親水性のゲル形成ポリマー、たとえばヒドロキシプロピルメチルセルロース、好ましくはMethocel K100のような50〜2000cPの粘度を有するヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸またはそれらの混合物である場合は、薬剤放出制御成分は組成物の重量に対して約5〜60%、好ましくは約10〜50%、最も好ましくは約15〜40%の量で使用され、そして賦形剤(たとえば微結晶セルロース)は組成物の重量に対して約30〜95%、好ましくは約50〜90%、最も好ましくは約60〜85%の量で適宜使用される。薬剤放出制御成分が、植物性の脂肪もしくは油または脂肪酸エステル、たとえば水添大豆油、硬化ひまし油またはグルセリルパルミトステアレートである場合は、薬剤放出制御成分は、組成物の重量に対して約0.5〜30%、好ましくは約2〜20%、最も好ましくは約3〜15%の量で使用され、そして賦形剤(たとえば微結晶セルロース)は、組成物の重量に対して約70〜99%、好ましくは約80〜98%、最も好ましくは約85〜97%の量で適宜使用される。レボシメンダンは前の好ましい実施態様において記載した量で使用される。
【0035】
以下に実施例を示して本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
実施例1 処方例
処方1
顆粒部分:レボシメンダン 1.0mg
アルギン酸 18.0mg
Methocel K100LV 37.0mg
ステアリン酸 0.6mg
粉末部分:レボシメンダン 1.0mg
アビセルPH101 84.0mg
ステアリン酸 1.5mg
処方2
顆粒部分:レボシメンダン 1.0mg
アルギン酸 23.0mg
Methocel K100LV 46.0mg
ステアリン酸 −
粉末部分:レボシメンダン 1.0mg
アビセルPH101 69.5mg
ステアリン酸 1.5mg
処方3
顆粒部分:レボシメンダン 1.0mg
アルギン酸 28.0mg
Methocel K100LV 56.0mg
ステアリン酸 0.9mg
粉末部分:レボシメンダン 1.0mg
アビセルPH101 56.0mg
ステアリン酸 1.5mg
処方4
顆粒部分:レボシメンダン 1.0mg
アルギン酸 33.0mg
Methocel K100LV 66.0mg
ステアリン酸 0.6mg
粉末部分:レボシメンダン 1.0mg
アビセルPH101 43.0mg
ステアリン酸 1.5mg
【0037】
前記実施例において、顆粒部分の材料を分篩しターブラ(Turbula)ミキサーまたはザンツェッタ・コンテナーミキサー(Zanchetta container mixer)のような適当なミキサーで均質になるまで混合した。粉末の混合物を0.6mmスクリーンを通して分篩した。材料塊をスラッギング(錠剤成形機を用いた圧縮成形)により乾式顆粒化した。この操作においては、材料塊をビペックス ファーマパクター(Bepex Pharmapactor)L200/50Pを用いて、圧縮成形圧力約45kNで圧縮成形した。圧縮成形した材料塊を分篩し、0.7〜1.7mmの顆粒を回収した。
【0038】
ステアリン酸以外の粉末部分の材料を分篩し、ターブラ ミキサーまたはザンツェッタ・コンテナーミキサーのような適当なミキサーで均質になるまで混合した。顆粒部分および粉末部分およびステアリン酸をターブラ ミキサーまたはザンツェッタ・コンテナーミキサーのような適当なミキサーで均質になるまで混合する。材料塊をNo.3のハードゼラチンカプセルに充填する。ハードゼラチンカプセルの代わりに、HPMCカプセルのシェルNo.3も用いることができる。
【0039】
実施例2 液体クロマトグラフィー−タンデム質量分析によるヒト血漿中の活性型代謝産物(II)の測定
検量線用試料の調製
活性型代謝産物(II)を20μlのリン酸塩緩衝液、pH7.2中で、被検物質非含有血漿0.5mlに添加する。添加する被検物質の量は0.100、0.250、0.500、1.00、2.50、3.75、5.00、7.50および12.5ngとする。20秒間回転攪拌し、10分間放置した後、内部標準物質である(R)−N−[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−エチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]アセトアミド2500pgを20μlのリン酸塩緩衝液pH7.2中に添加する。混合物を1分間回転攪拌し、15分間放置する。検量線用試料を0.1Mの水酸化ナトリウム50μlでアルカリ化し、20秒間回転攪拌する。検量線用試料を3分間回転攪拌により酢酸エチル:ヘキサン(8:2)5mlで抽出する。7分間遠心分離した後、有機層を分離しターボ バップ(Turbo Vap)エバポレーターを用いて40℃で濃縮する。検量線用試料が乾燥した時点で、酢酸エチル:ヘキサン(8:2)200μlを添加し、1分間回転攪拌し、ターボ バップエバポレーターを用いて40℃で濃縮する。メタノール−2mM酢酸アンモニウム(1:1)200μlを添加した後、検量線用試料を1分間回転攪拌し、5分間放置する。7分間遠心分離した後、上清を液体クロマトグラフィー−タンデム質量分析用の未使用の円錐型自動サンプラーバイアルに移す。
【0040】
試料の調製
第1の緩衝液添加が被検物質を含まないものであることを除き、試料は上記したとおり処理する。
【0041】
液体クロマトグラフィー−タンデム質量分析
分析は加熱噴霧器インターフェイス付きのPE Sciex API 300タンデム四重極型質量分析器を用いて行う。ヒューレット パッカード(Hewlett-Packar)HP1090Lシステムを使用してHPLCを行う。適用するカラムはLiChrosorb RP−18逆相カラム(250×4mmID、粒径10μm、E.メルク(Merck))。移動相はメタノール−2mM酢酸アンモニウムpH5(60:40容量/容量)とする。流速は1ml/分とする。抽出液100μlずつを液体クロマトグラフィーカラムに注入する。
【0042】
カラム溶離液はスプリットなしで質量分析器に導入される。放電針電流は4kVに設定する。噴霧器のガス(窒素)圧は5barとする。インターフェイスヒーターは500℃に設定する。オリフィスプレート電圧は25Vとする。陽イオンを四重極型質量分析器にサンプリングする。
【0043】
測定は、選択反応モニタリグ法を用いて行なわれた。質量分析器の第1の四重極フィルターQ1を、活性型代謝産物(II)にはm/z246、内部標準にはm/z260で、プロトン化分子が通過するように設定し、Q2において衝突に誘発されるフラグメンテーションが起こる。つぎにm/z204およびm/z218に対応する生じたイオンがQ3を通ってモニタリングされる。作動(dwell)時間は200ms、休止時間は100msとする。選択反応モニタリングクロマトグラムをPE Sciex API 300 データシステム(Data System)を用いて記録する。
【0044】
定量および計算
被検物質と内部標準物質のピーク面積の比を濃度に対してプロットする。検量曲線の式と未知試料の濃度はPE Sciex API 300 データシステムおよびPE Sciex MacQuan 1.4 プログラムを用いて求める。定量限界は0.200ng/mlである。活性型代謝産物(II)に対する検量線を作成する。
【0045】
特異性
活性型代謝産物(II)およびその内部標準物質より生じたイオンを、選択反応モニタリング法を用いてモニタリングする。その方法は、血漿から生じるバックグラウンド値に関して特異的である。ブランク血漿抽出液には干渉ピークは観察されない。図1および2は1人の志願者より得た検量線用の血漿試料および投与後の血漿試料を示す。
【0046】
実施例3 本発明の組成物のインビトロおよびインビボ実験
実施例1の処方1、2および3を溶解試験に付した。処方の溶解速度は、米国薬局方XXII(かご集合法)の方法を用いてリン酸塩緩衝液pH5.8中50rpmで測定した。処方1、2および3の結果をそれぞれ図3、4および5に示す。
【0047】
つぎに実施例1の処方1、2および3を2mgレボシメンダンの単回経口用量として健康な志願者に投与した。各群は9人とした。代謝産物(II)の血漿中レベルを投与後12時間に測定した。結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
実施例4 参考組成物のインビトロおよびインビボ実験
参考処方は、
レボシメンダン 2.0mg
Methocel K4M 35.0mg
アビセルPH101 101.6mg
ステアリン酸 1.4mg
からなり、溶解試験に付された。処方は粉末状材料を分篩し、均質になるまで混合し、材料塊をハードゼラチンカプセルNo.3に充填することにより調製した。
【0050】
処方の溶解速度は米国薬局方XXII(かご集合法)の方法を用いて、リン酸塩緩衝液pH5.8中100rpmで測定した。結果を図6に示す。
【0051】
つぎに参考処方を2mgレボシメンダンの単回経口用量として8人の健康な志願者に投与した。代謝産物(II)の血漿中レベルを投与後12時間に測定した。結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
このように、米国薬局方XXIIかご集合法にもとづき、リン酸緩衝液pH5.8において、レボシメンダン含有量が少なくとも90パーセントで1〜4時間と決定された全インビトロ溶解時間を有する本発明の処方が、それより遅い溶解速度を有する参考処方よりも、インビトロにおける代謝産物の血漿中レベルが著しく低かった。
【0054】
実施例5 7日間のレボシメンダン投与後の、レボシメンダンおよび活性型代謝産物(II)の血漿中レベル
定常状態臨床試験において、レボシメンダン1mgを7日間に渡り1日3回健康な志願者に経口投与した。投与期間中レボシメンダンおよび代謝産物(II)の血漿中レベルを観察した。使用した処方はレボシメンダンの総量を1mgとし、微結晶セルロース(アビセルPH−200)の量を51.0mgとした以外は実施例1の処方3と同様とした。最終投与(第7日)後1および4時間後のレボシメンダンおよび最終投与(第7日)後8時間の代謝産物(II)の平均血漿中レベルを表3に示す。
【0055】
【表3】

【0056】
結果によれば、本発明の処方は安定で治療効果のあるレボシメンダン血漿中レベルを長時間維持すると同時に、代謝産物(II)の定常状態血漿中レベルは許容できる水準に留めることができた。
【0057】
実施例6 さらなる処方例
処方6(カプセル)
レボシメンダン 1.0mg
Methocel K100LV 35.0mg
アビセルPH−200 80.5mg
ステアリン酸 6.4mg
レボシメンダン、Methocel K100LVおよび微結晶セルロース(アビセル)を分篩し、適当なミキサー(ターブラなど)で混合した。つぎにステアリン酸を分篩し、適当なミキサー(ターブラなど)で材料塊と混合した。ついで、カプセル充填機ハロ ヘフリガー(Harro Hoefliger)、MG2などを用いて白色ゼラチンカプセルシェルNo.3に材料塊を充填した。
【0058】
前記処方に対する溶解データ(米国薬局方XXII、リン酸緩衝液、pH5.8、100rpm)を表4に示す。
【0059】
【表4】

【0060】
処方7(マトリックス錠剤)
レボシメンダン 1.0mg
Methocel K100LV 30.0mg
クロスカルメロースナトリウム 0.27mg
アビセルPH−200 100.0mg
ステアリン酸 4.0mg
【0061】
レボシメンダン、Methocel K100LV、クロスカルメロースナトリウム(Croscarmellose sodium)および微結晶セルロース(アビセル)を適当なミキサー(ターブラなど)で混合した。つぎに得られた粉末混合物を分篩し、適当なミキサー(ターブラなど)で混合した。ついで、ステアリン酸を分篩し、適当なミキサー(ターブラなど)で粉末混合物と混合した。つぎに材料塊を適当な錠剤成型機で圧縮成形して錠剤とした(パンチ直径7mmおよび凹面半径10.5mm、硬度60N)。
【0062】
前記処方の溶解データ(米国薬局方XXII、リン酸塩緩衝液、pH5.8、100rpm)を以下に示す。
【0063】
【表5】

【0064】
処方8(マトリックス錠剤)
レボシメンダン 1.0mg
クロスカルメロースナトリウム 0.11mg
アコファイン NF 10.0mg
アビセルPH−200 100.0mg
【0065】
レボシメンダン、クロスカルメロースおよび微結晶セルロース(アビセル)を適当なミキサー(ターブラなど)で混合した。つぎに得られた粉末混合物を分篩し、適当なミキサー(ターブラなど)で混合した。ついで、アコファイン(Akofine) NF(水添植物油)を分篩し、適当なミキサー(ターブラなど)で粉末混合物と混合した。つぎに材料塊を適当な錠剤成型機で圧縮成形して錠剤とした(パンチ直径7mmおよび凹面半径10.5mm、硬度60N)。
【0066】
前記請求項において定義した本発明の目的から逸脱することなく開示した実施態様に種々の修正や変更を加えることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経口投与用制御放出組成物であって、a)治療に効果的な量のレボシメンダン、ならびにb)レボシメンダンの放出を長期間にわたって提供するため、および20ng/ml未満、好ましくは10ng/ml未満の代謝産物(II)(R)−N−[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]アセトアミドの定常状態血漿中レベルを提供するための薬剤放出制御成分を含有する組成物。
【請求項2】
薬剤放出制御成分が、レボシメンダンを大腸に達する前に実質的に完全に放出させる請求項1記載の組成物。
【請求項3】
薬剤放出制御成分が、親水性ゲル形成ポリマーまたは植物性脂肪もしくは油または脂肪酸エステルである請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
経口投与用制御放出組成物であり、a)治療に効果的な量のレボシメンダン、およびb)レボシメンダンの放出を長期間にわたって提供するための薬剤放出制御成分を含有する組成物であって、少なくとも90パーセントのレボシメンダン含有量に対し、リン酸緩衝液pH5.8(50または100rpm)における米国薬局方XXIIかご集合法にもとづいて決定された全インビトロ溶解時間が実質的に1時間から4時間のあいだである組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−83900(P2010−83900A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−4367(P2010−4367)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【分割の表示】特願2000−545505(P2000−545505)の分割
【原出願日】平成11年4月23日(1999.4.23)
【出願人】(300046083)オリオン コーポレーション (31)
【Fターム(参考)】