説明

レボフロキサシン粒状製剤の製造方法及び該方法で得られた粒状製剤

【課題】光安定性を有するレボフロキサシン粒状製剤の開発。
【解決手段】レボフロキサシンの溶融造粒された粒状物を、好ましくは酸化チタン及びタルクを含む、エチルセルロース有機溶剤溶液(好ましくはエタノール溶液)で、コーティングすることにより、エチルセルロースコーティング被膜を有するレボフロキサシン粒状製剤とすることにより、光安定性に優れたレボフロキサシン粒状製剤を得るものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶融造粒されたレボフロキサシン溶融粒状物を溶液コーティングする、レボフロキサシン粒状製剤の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に経口の医薬品は錠剤および粉粒剤等が使用されているが、顆粒剤等の粒剤は投与に際して投薬量の調整が自由にできること、小児、高齢者等も比較的飲み易いことなどから多用されている。
【0003】
レボフロキサシン((S)−9−フルオロ−3−メチル−10−(4−メチル−1−ピペラジニル)−7−オキソ−2,3−ジヒドロ−7H−ピリド[1,2,3−de][1,4]ベンゾオキサジン−6−カルボン酸)は、高い抗菌力と安全性を有する化合物であり、広スペクトルの優れた合成抗菌薬として知られ(特許文献1)、より安全性の高い優れた抗菌薬であることが臨床的に証明され、現在臨床的に広く使われている。経口投与用としては錠剤及び、細粒等の粒状製剤が市販されている。粒状製剤に関しては、服用時における苦味等の不快な味をマスキングする目的で、粉粒状の油脂類と薬物粉体とを溶融造粒する方法が知られており、レボフロキサシンについても、油脂類としてモノステアリン酸グリセリンエステルを用い溶融造粒した後、経時的な固結等を避けるため、タルク及びエチルセルロースを、溶融コーティングする方法が、特許文献2に開示されている。
【特許文献1】特公平3−27534号公報
【特許文献2】WO97/03656号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在市販のレボフロキサシン粒状製剤は上記特許文献2の方法により製造されているものと思われ、不快味等のマスキング、経時的な薬剤の安定性、固着等の点で優れる製剤である。しかしながら、本発明者らの検討によれば、該製剤は光過酷試験等の試験において、異種ピークの増加割合が意外に高く、光に対してやや不安定であるという問題を有することが判明した。本発明は,光に対する安定性がより優れ,かつレボフロキサシンの苦みを効果的にマスクしたレボフロキサシンの粒状製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記市販粒剤における異種ピークの増加を、押さえる方法を種々検討の結果、溶融造粒した粒状物を、特許文献2に記載されるように溶融コーティングするのではなく、エチルセルロースの有機溶媒溶液で、コーティングすることにより、異種ピークの増加率を抑制できることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
即ち、本発明は、
(1)油性低融点物質、レボフロキサシン及び製剤学的に許容される医薬用添加物を溶融造粒により粒状物とし、次いでエチルセルロース有機溶剤溶液をコーティングすることを特徴とするレボフロキサシン粒状製剤の製造方法、
(2)酸化チタン及び/又はタルクを混合したエチルセルロース有機溶剤溶液をコーティングすることを特徴とする請求項1に記載のレボフロキサシン粒状製剤の製造方法、
(3)エチルセルロース有機溶剤溶液がエチルセルロースのエタノール溶液であり、コーティングがスプレーコーティングである請求項1又は2に記載のレボフロキサシン粒状製剤の製造方法、
(4)油性低融点物質がモノステアリン酸グリセリンであり、製剤学的に許容される医薬用添加物としてトウモロコシデンプン,乳糖及び/又はタルクを含むことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のレボフロキサシン粒状製剤の製造方法、
(5)油性低融点物質、レボフロキサシン及び製剤学的に許容される医薬用添加物からなる溶融造粒物の表面にエチルセルロース有機溶剤溶液をコーティングすることにより形成されたエチルセルロース皮膜を有することを特徴とするレボフロキサシン粒状製剤、
に関するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、レボフロキサシンの苦味等をマスキングでき、保存中の固結等も無い上に、光過酷試験等においても異種ピークの増加率の少ない光に対する安定性の優れたレボフロキサシン粒状製剤を得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明において、エチルセルロース有機溶剤溶液でコーティングする粒状物は、油性低融点物質、レボフロキサシン及び製剤学的に許容される医薬用添加物を、WO97/03656記載の溶融造粒法若しくはそれに準じた方法で溶融造粒することで得ることができる。より具体的に説明すると下記の通りである。
微粉状の油性低融点物質とレボフロキサシン粉体並びに粉体状の製剤学的に許容される医薬用添加物とを混合し、得られる混合物を前記油性低融点物質の融点以上の温度に加熱しながら流動攪拌し、次いで冷却することによりレボフロキサシン及び製剤学的に許容される医薬用添加物を油性低融点物質のまわりに均一に付着させ、次いで融点以下に冷却することにより、粒状物を製造することができる。
【0009】
微粉状の油性低融点物質としては融点が30〜100℃、より好ましくは、50〜80℃の油性物質を使用することができる。例えば、モノステアリン酸グリセリンエステル、アセチル化グリセリンモノステアレート又はソルビタンモノステアレート等のグリセリン又は糖類などの多価アルコールのモノステアレート、パルミチン酸ヘキサデシル及びステアリン酸オクタデシル等のエステル類、カルナウバロウ及びミツロウなどのロウ類、パラフィン、マイクロクリスタリンワックス等の炭化水素類、脂肪酸のグリセリンエステル等の油脂類(硬化油、木ロウ、カカオ脂、上記モノステアリン酸グリセリンエステル等の脂肪酸のグリセリンエステル)を挙げることができる。好ましくは油脂類であり、より好ましくはモノステアリン酸グリセリンエステルである。溶融造粒に際して使用する油性低融点物質の好ましい粒子径は、目的とする粒状製剤により異なり一概にはいえないが、通常850〜100μm程度のものが使用される。好ましくは700〜110μm程度であり、より好ましくは600〜130μm程度である。例えば細粒の場合には、250〜100μm程度のもの、好ましくは200〜110μm程度のもの、より好ましくは160〜130μm程度のものが使用される。また、顆粒の場合には850〜300μm程度のもの、好ましくは700〜350μm程度のもの、より好ましくは600〜400μm程度のものが使用される。なお、本明細書において、「粒子径」という場合、平均粒子径を意味するものとする。
溶融造粒に際しての微粉状の低融点物質の使用量は、レボフロキサシン100質量部(以下部は特に断らない限り質量部を示す)に対して、100〜250部、好ましくは130〜220部、より好ましくは140部〜200部程度である。
【0010】
溶融造粒に際して使用される、前記油性低融点物質以外の製剤学的に許容される医薬用添加物としては、粉状の前記油性低融点物質以外の賦形剤を挙げることができる。該賦形剤としては医薬製剤に使用されるものであれば特に制限は無いが、通常糖類等の有機性賦形剤、珪酸又は珪酸塩等の無機性賦形剤等何れも使用することができる。糖類としてはデンプン(好ましくはトウモロコシデンプン)又は/及び乳糖などが好ましい。無機性賦形剤としてはタルクが好ましい。これらは単独でも使用することができるが、糖類及び無機性賦形剤を併用するのが好ましく、デンプン(好ましくはトウモロコシデンプン)、乳糖及びタルクの三者を併用するのがより好ましい。乳糖としては乳糖水和物を使用するのが好ましい。これらの賦形剤の使用量は適宜変えうるが、通常レボフロキサシン100部に対して、賦形剤の総量で350〜800部、好ましくは420〜650部、より好ましくは450部〜600部程度である。前記三者を併用する場合の、三者の割合は、特に限定されないが、乳糖水和物1部に対して、タルクを0.5〜2部、好ましくは0.8〜1.3部、より好ましくは0.9〜1.1部、デンプン(好ましくはトウモロコシデンプン)0.2〜1.5部、好ましくは0.3〜1部、より好ましくは0.4〜0.6部である。
これらの賦形剤の粒子径は通常50μm以下のものが使用され、好ましくは10〜2μm程度のものが使用される。
【0011】
本発明で使用されるレボフロキサシンは、粒子径50μm以下のものが使用され、通常10〜2μm程度のものが使用される。粒状製剤100部に対して、1〜50部、好ましくは5〜30部、より好ましくは7〜15部程度である。
【0012】
上記のものを混合して、溶融造粒する場合、造粒温度は油性低融点物質の融点よりも5〜45℃、好ましくは10〜45℃程度高い温度が好ましい。造粒時間は,使用する原材料や製造スケールによっても異なるが,1〜10k g程度の製造スケールにおいては通常10〜30分間である。
【0013】
上記のようにして得られる粒状物の粒子径は200〜2000μm程度、好ましくは250〜1500μm程度である。例えば細粒剤の場合には200〜500μm、好ましくは250〜450μm程度、より好ましくは300〜400μm程度であり、顆粒剤の場合は500〜2000μm程度、好ましくは500〜1400程度μm、より好ましくは600〜1000μm程度である。得られた粒状物は必要に応じて、適宜篩での篩過等の手段で整粒してもよい。得られた粒状物に下記する溶液コーティングを行うことにより、本発明の粒状製剤とすることができる。
【0014】
次に本発明における溶液コーティングについて説明する。
コーティング液は、エチルセルロースを溶解している有機溶媒溶液であれば、必要に応じて、遮光用の添加剤、着色剤等のコーティングの際に配合される添加剤等を含んでいてもよい。本発明においては、タルク及び/又は酸化チタン等の遮光用の添加剤、及び/又は黄色三二酸化鉄等の着色剤を含有する方が好ましい。該コーティング溶液は、例えば、有機溶媒、好ましくはエタノールにエチルセルロースを溶解し、該溶液に、所望によりタルク及び/又は酸化チタン等の遮光用の添加剤、及び/又は黄色三二酸化鉄等の着色剤等を配合分散させることにより得ることができる。
本発明で使用するエチルセルロースとしては25℃における粘度で8〜120cps程度のものが好ましく、場合により、より好ましくは9〜11cps程度のもの、又は80〜110cps程度のものである。
コーティング液中におけるエチルセルロース濃度は、有機溶媒における飽和濃度までよいが、通常2〜20質量%(以下%は特に断りの無い限り、質量%を表す)好ましくは3〜15%程度、更に好ましくは、4〜12%程度である。
必要により配合する添加剤の濃度は、コーティングに支障の無い範囲で配合することができるが、エチルセルロース1部に対して、通常1〜30部程度の範囲であり、好ましくは2〜25部程度である。場合により、2〜5部又は15〜25部がより好ましい。本発明において、タルク及び酸化チタンの両者を配合する場合、それぞれの配合割合は、エチルセルロース1部に対して、酸化チタン0.5〜10部、好ましくは0.7〜5部、場合により、より好ましくは0.8〜1.3部若しくは3〜5部、及びタルク1〜25部、好ましくは1〜20部、場合により、より好ましくは10〜20部、更に好ましくは13〜18部、若しくは場合により、1〜4部、より好ましくは1.5〜3.5部程度である。黄色三二酸化鉄等の着色剤は、必用に応じて適宜添加すればよい。
【0015】
上記のようにして得られたコーティング液を、先に溶融造粒に得られた粒状物に、コーティングすればよく、通常はスプレーコーティングが好ましい。
スプレーコーティングは、流動層造粒機又はマルチプレックス等を用いて常法によって行うことができる。例えば、コーティング機として、マルチプレックスを用いて、上記で得られた、粒状物をマルチプレックスに入れ、コーティング液を粒状物にスプレーすることによりコーティングを行うことができる。この場合の給気温度は、油性低融点物質の融点より低い温度で行うことが好ましい。例えば油性低融点物質として、モノステアリン酸グリセリンを用いた場合、通常給気温度は35〜50℃程度であり、好ましくは38〜48℃程度である。
粒状物に対するコーティング量は、コーティングされる粒状物100部に対して、コーティング液中の固形分含量が5〜40部程度、好ましくは7〜30部、より好ましくは10〜25部、更に好ましくは10〜20部程度、最も好ましくは12〜18部程度となる量でコーティングするのが好ましい。
このようにして得られた粒状製剤は、レボフロキサシン溶融粒状物の表面にエチルセルロースのコーティング被膜を有し、従来の溶融コーティングされたレボフロキサシン粒状製剤より光に対する安定性等の点で優れた粒状製剤である。
【0016】
以下本発明を実施例に基づいて詳しく説明する。
【実施例】
【0017】
実施例1
レボフロキサシン100部,乳糖水和物180部,トウモロコシデンプン90部,タルク180部及びモノステアリン酸グリセリン150部を流動層造粒機(株式会社パウレック製 FD-MP-01DH)に投入し、給気温度90℃で混合、造粒した。製品温度が40℃以下になるまで冷却した。得られた粒状物に、下記の方法でコーティング液をスプレーした。
エタノール312.5部にエチルセルロース(エトセルRTMSTD10P:日進化成株式会社)15部を撹拌溶解し、次いでそこに酸化チタン60部、タルク225部及び黄色三二酸化鉄0.56部を撹拌分散し、コーティング液とした。上記で得られた粒状物をマルチプレックスに投入し、コーティング液を、給気温度45℃でスプレーし、コーティングを行った。コーティング終了後、温度を50℃とし、乾燥し、本発明のコーティング細粒剤を得た。
【0018】
実施例2及び実施例3
実施例1と同様の製法を用いて,下表の処方で本発明のコーティング細粒剤の製造を行った。
【0019】

【0020】
実施例4
レボフロキサシン100部,乳糖水和物225部,トウモロコシデンプン112.5部,タルク225部及びモノステアリン酸グリセリン187.5部を流動層造粒機(株式会社パウレック製 FD-MP-01DH)に投入し,給気温度90℃で混合,造粒した。製品温度が40℃以下になるまで冷却した。得られた粒状物に,下記の方法でコーティング液をスプレーした。
エタノール315部にエチルセルロース(エトセルRTMSTD10P:日進化成株式会社)30部を撹拌溶解し,次いでそこに酸化チタン30部,タルク75部及び黄色三二酸化鉄0.56部を撹拌分散し,コーティング液とした。上記で得られた粒状物をマルチプレックスに投入し,コーティング液を,給気温度45℃でスプレーし,コーティングを行った。得られたフィルムコーティング物に、含水二酸化ケイ素9部を混合後,温度を50℃とし,乾燥し、本発明のコーティング細粒剤を得た。
得られたコーティング細粒剤を30号ふるいで整粒後,それに、アスパルテーム5部及び含水二酸化ケイ素9部を混合し、服用し易い医薬製剤(細粒剤)とした。
【0021】
試験例
上記実施例で得られたコーティング細粒剤及び市販のレボフロキサシン粒状製剤を、3000ルクス(Lux)の照射光に、12日半(合計約90万Lux・hr)さらし、試験開始前の異物ピークと試験終了後の異物ピークを測定し、異物ピークの含量割合の増加を算出した。
その結果、本発明における実施例2における製剤では、試験開始前の異物ピーク割合は、0.11%(面積比)、過酷試験後の異物ピーク割合は0.20%(面積比)であった。従って、異物ピークの含量割合の増加分は、0.09%であった。 一方、市販製剤(クラビット細粒)では試験開始前の異物ピークの含量割合は、0.07%(面積比)、光過酷試験後の異物ピークの含量割合は0.25%(面積比)であった。従って、異物ピークの含量割合の増加分は、0.18%であった。また、他の実施例の製剤においても、ほぼ同様な結果であった。
その結果、市販製剤(クラビット細粒)では試験開始前の異物ピークの含量割合は、本件発明製剤より低かったにもかかわらず、光過酷試験後の異物ピークの含量割合は本発明製剤における0.20%を超えて、0.25%を示している。
なお、上記の異種ピーク含量割合は、アンモニア/アセトニトリル混合液を用いて、液体クロマトグラフ法により、測定した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油性低融点物質、レボフロキサシン及び製剤学的に許容される医薬用添加物を溶融造粒により粒状物とし、次いでエチルセルロース有機溶剤溶液をコーティングすることを特徴とするレボフロキサシン粒状製剤の製造方法。
【請求項2】
酸化チタン及び/又はタルクを混合したエチルセルロース有機溶剤溶液をコーティングすることを特徴とする請求項1に記載のレボフロキサシン粒状製剤の製造方法。
【請求項3】
エチルセルロース有機溶剤溶液がエチルセルロースのエタノール溶液であり、コーティングがスプレーコーティングである請求項1又は2に記載のレボフロキサシン粒状製剤の製造方法。
【請求項4】
油性低融点物質がモノステアリン酸グリセリンであり、製剤学的に許容される医薬用添加物としてトウモロコシデンプン,乳糖及び/又はタルクを含むことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のレボフロキサシン粒状製剤の製造方法。
【請求項5】
油性低融点物質、レボフロキサシン及び製剤学的に許容される医薬用添加物からなる溶融造粒物の表面にエチルセルロース有機溶剤溶液をコーティングすることにより形成されたエチルセルロース皮膜を有することを特徴とするレボフロキサシン粒状製剤。

【公開番号】特開2009−73774(P2009−73774A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−244798(P2007−244798)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(000169880)高田製薬株式会社 (33)
【Fターム(参考)】