説明

レンズの洗浄装置

【課題】レンズ形状が異なる各種レンズの光学面に対して洗浄部材を略均一な接触圧で接触させることができ、強固な汚れであっても光学面全体を一様に洗浄することができるようにしたレンズの洗浄装置を提供する。
【解決手段】レンズ2をその幾何中心0を中心軸として回転させる。レンズ2に洗浄剤70を噴射し、2つの回転軸60,60に取付けた柔軟性を有する洗浄部材64,64をレンズ2の凸面2aに接触させて洗浄する。洗浄部材64としては、ブラシを用いる。その1つをレンズ2の略中央部に接触させ、他方を周辺部に接触させる。2つの回転軸60,60は、揺動中心軸R1 を中心としてレンズ2の半径方向に揺動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズの光学面をブラシ等の洗浄部材と洗浄液によって洗浄するレンズの洗浄装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レンズの光学面である凸面と凹面(被洗浄面ともいう)を洗浄し、被洗浄面に付着している汚れを除去するこの種の洗浄装置としては、従来から種々提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0003】
特許文献1に記載されている眼鏡洗浄装置は、眼鏡レンズの凸面と凹面にブラシを押しつけて回転させ、洗浄液をレンズに噴射することにより、凸面と凹面を同時に洗浄するものである。また、この眼鏡洗浄装置は、眼鏡フレームに装着されている左右一対のレンズを同時に洗浄するようにしている。
【0004】
特許文献2に記載されている洗浄装置は、コンタクトレンズをリテーナに回転自在に収納し、このリテーナを水密構造の洗浄チャンバー内に配設し、一対のクリーニング用ブラシをリテーナ内のコンタクレンズの両面に押しつけ、これらのブラシを互いに逆向きに回転させることによりコンタクトレンズの両面を同時に洗浄するものである。
【0005】
特許文献3に記載されている洗浄装置は、不燃性洗浄剤(Nメチル2ピロリドン)による超音波洗浄処理を行い、続いてシャワー槽において前記不燃性洗浄剤を用いてシャワー洗浄を行うことにより、被洗浄部品を洗浄するものである。このような洗浄装置によれば、塩素系溶剤または引火点の低い可燃性溶剤でしか洗浄できなかった被洗浄部品に付着している不要な保護膜層または樹脂汚れを除去できるため、環境への影響が少なく、作業のの安全性を確保できることが記載されている。
【0006】
【特許文献1】実開平5−968322号公報
【特許文献2】特開平10−333104号公報
【特許文献3】特開平8−103738号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した特許文献1,2に記載されている洗浄装置は、いずれもブラシをレンズの両面に押しつけて洗浄しているため、両面を同時に洗浄することができるという利点を有している。しかしながら、これらの洗浄装置は、いずれもレンズの各光学面に対してそれぞれ1つのブラシを接触させて洗浄しているため、レンズより大きなブラシを必要とするばかりか、レンズの形状は様々な形状を有しているため、ブラシの洗浄面(レンズとの接触面)がレンズの被洗浄面に対して全面にわたって均一に接触するためには各レンズ形状に適合した形状のブラシを用意し、その都度交換しなければならないという問題があった。特に、非球面レンズや累進多焦点レンズのように、光学面の曲率半径が部分的に異なるレンズの場合は、1つの大きなブラシを凸面の全面にわたって略均一な圧力で押しつけることが難しく、凸面全体を一様に洗浄することができないという不具合があった。
【0008】
特許文献3に記載されている洗浄装置は、レンズコーティング工程の前工程として、レンズの光学面に形成されている保護膜(クロロプレンゴム系や酢酸ビニル系の樹脂膜)の除去に適した洗浄装置といえる。しかしながら、光学面の研磨工程後の洗浄には不適であるという問題があった。すなわち、光学面の研磨工程では数μmの粒径を有する研磨剤を使用して研磨するため、研磨後のレンズ表面には研磨剤が付着しており、このまま乾燥すると強固に固着してしまう。そしてこの固着した研磨剤が接着剤のような機能を果たし、周囲の異物を吸着することがある。このような研磨剤による汚れについては、超音波洗浄やシャワー洗浄では洗浄力が不十分であるため、除去することが困難である。実際作業中に手に付着した研磨剤が洗剤による手洗いのみでは洗浄できないことは広く知られている。
【0009】
他の洗浄装置として、数値制御によって洗浄部材をレンズの被洗浄面に沿って移動させ、レンズ全面を洗浄する方法も知られている。しかしながら、数値制御による場合は、各レンズとその表面形状を管理したり、数値制御のための演算装置を必要とするため、装置自体が高価になるという問題があった。
【0010】
本発明は上記したような従来の問題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、レンズ形状が異なる各種レンズの光学面に対して洗浄部材を略均一な接触圧で接触させることができ、強固な汚れであっても光学面全体を一様に洗浄することができるようにしたレンズの洗浄装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の発明は、レンズをそのレンズ幾何中心を中心軸として回転させ、前記レンズに洗浄剤を噴射し、回転軸に取付けた柔軟性を有する洗浄部材を前記レンズの被洗浄面に接触させて前記被洗浄面を洗浄するレンズの洗浄装置において、前記レンズの被洗浄面に対して接近離間自在で洗浄時に回転する複数の回転軸と、これらの回転軸にそれぞれ首振り自在に取付けられた複数の洗浄部材とを備え、これらの洗浄部材を互いに干渉しないようにかつ被洗浄面全体を洗浄し得るように前記被洗浄面の中央部と周辺部にそれぞれそれぞれ配設したものである。
【0012】
第2の発明は、前記洗浄部材を柔軟性を有するブラシおよびパッドのうちの少なくとも一つとしたものである。
【0013】
第3の発明は、洗浄時に前記複数の回転軸をレンズの半径方向に揺動させるようにしたものである。
【0014】
第4の発明は、複数の洗浄部材のうち前記レンズの被洗浄面の中央部に配設される洗浄部材をレンズの幾何学中心より偏心させたものである。
【0015】
第5の発明は、前記洗浄部材によってレンズの凸面を洗浄する凸面洗浄機構部を具備し、前記凸面洗浄機構部は、2つのブラシでレンズの凸面を洗浄する第1の凸面洗浄機と、2つの堅いパッドでレンズの凸面を洗浄する第2の凸面洗浄機と、2つの柔らかいパッドでレンズの凸面を洗浄する第3の凸面洗浄機とからなり、前記第1、第2、第3の凸面洗浄機構は、揺動の中心軸線がレンズの幾何学中心を通る垂線に対して異なった傾斜角度となるように配設されるものである。
【0016】
第6の発明は、前記洗浄部材によってレンズの凹面を洗浄する凹面洗浄機構部を具備し、前記凹面洗浄機構部は、堅いパッドでレンズの凹面を洗浄する第1の凹面洗浄機と、柔らかいパッドでレンズの凹面を洗浄する第2の凹面洗浄機とからなり、前記第1、第2の凹面洗浄機は、揺動の中心軸線がレンズの幾何学中心を通る垂線に対して異なった傾斜角度となるように配設されるものである。
【0017】
第7の発明は、2枚一組からなるレンズを同時に洗浄するものである。
【0018】
第8の発明は、洗浄剤として液性が中性の界面活性剤を用いるものである。
【0019】
第9の発明は、レンズを反転させるレンズ反転装置と、洗浄液により洗浄を行う洗浄槽部を備えているものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明においては、首振り自在な複数の洗浄部材を用いて洗浄するので、レンズよりも小さな洗浄部材を用いることができ、各洗浄部材を被洗浄面に沿って確実に接触させることができ、特に凸面洗浄に適している。また、各回転軸はレンズに対して接近離間する方向に移動自在であるため、レンズの光学面が様々な面形状であっても、各洗浄部材を光学面に対して均等な接触圧で接触させることができる。したがって、洗浄部材の種類を少なくすることができ、非球面レンズや累進多種点レンズの洗浄に用いて好適である。
【0021】
また本発明においては、洗浄部材としてブラシおよびパッドの少なくとも一つを用いているので、洗浄液のみによる洗浄に比べて洗浄効果が高く、強固に固着している研磨剤等であっても確実に除去することができる。
【0022】
また本発明においては、回転軸をレンズの半径方向に揺動させているので、小さな洗浄部材であってレンズの被洗浄面全体を確実に洗浄することができる。
【0023】
また本発明においては、レンズ中央側に配設される洗浄部材をレンズの幾何学中心から意図的に偏心させているので、レンズの中心部を確実に洗浄することができる。すなわち、洗浄部材をレンズに対して偏心させて配置すると、レンズの回転中心と洗浄部材の回転中心における相対速度が零とならないため、レンズの中心部を洗浄することができる。
【0024】
また本発明においては、洗浄部材による凸面洗浄機構部と、凹面洗浄機構部とを備えているので、レンズの凸面と凹面を洗浄することができる。
【0025】
また本発明においては、2枚一組のレンズを同時に洗浄するので、受注単位で洗浄でき、一枚ずつ洗浄する場合に比べてどこからどこまでが受注単位であるか判別し易い。これにより、他の受注のレンズが混入したり、表示とレンズが異なる等の問題が発生するのを防止することができる。
【0026】
また本発明においては、洗浄剤として中性の界面活性剤を用いているので、環境への影響が少ない。
【0027】
また本発明においては、レンズを反転させるレンズ反転装置を備えているので、レンズを自動的に反転させることができ、凸面と凹面の洗浄を連続して行うことができる。また、洗浄槽部を備えているので、レンズに付着している汚れをより一層確実に取り除くことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明を図面に示す実施の形態に基づいて詳細に説明する。
先ず、本発明に係るレンズの洗浄装置の全体構成を図1に基づいて概略説明する。
図1は本発明に係るレンズの洗浄装置の一実施の形態を示す概略平面図である。同図において、全体を符号1で示す洗浄装置は、洗浄対象物である眼鏡レンズ(以下、レンズという)2,2の供給、洗浄、次工程への搬出までの一連の工程を自動的に行う装置であって、床面に設置された箱型の筐体3を備えている。
【0029】
前記レンズ2は、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート等のアリル系、ポリウレタン系、ポリカーボネート系樹脂に代表されるプラスチック製の累進屈折力眼鏡レンズであって、凸面2aと凹面2b(図7)が所望の光学面に研磨仕上げされている。レンズ2としては、外径が例えば65mm、70mm、75mm、80mm等、屈折率が1.50、1.60、1.70等、光学面のベースカーブが0.1〜10ディオプターで、表面にはコーティングが施されていない。このようなレンズ2は、受注単位で洗浄を行うため、2枚一組でレンズトレー5に収納される。
【0030】
前記筐体3には、2枚一組からなるレンズ2を収納したレンズトレー5を筐体3の外部から筐体内部のレンズトレー搬入部Aに搬入する第1のトレー搬送機構6が設けられている。また、筐体3の内部には、レンズトレー搬入部Aに搬入されたレンズトレー5をレンズ取出し位置Bに搬送する第2のトレー搬送機構7と、レンズ取出し位置Bに搬送されたレンズトレー5内のレンズ2を取出してレンズセンタリング部Cに搬送する第1のレンズ搬送機構8と、レンズ2をセンタリングしてセンタリングケース9に収納するレンズセンタリング装置10と、センタリングケース9に収納されたレンズ2を洗浄機構部11に搬送する第2のレンズ搬送機構12を備えている。洗浄機構部11は、凸面洗浄機構部13と、凹面洗浄機構部14とからなり、これら両機構部間にはレンズ反転装置15が設けられている。
【0031】
さらに、前記筐体3内には洗浄機構部11による洗浄が終了したレンズ2を空の洗浄ラック16に収納する第1のレンズ収納機構17と、洗浄液によって前記レンズ2を洗浄する洗浄槽部18と、洗浄槽部18による洗浄が終了したレンズ2を洗浄ラック16から取出して空のレンズトレー5に収納する第2のレンズ収納機構19と、空のレンズトレー5を搬送する第3のトレー搬送機構20と、空の洗浄ラック16を元の位置に搬送するラック搬送機構21と、洗浄が終了したレンズ2をレンズトレー5とともに次工程搬送待機位置Jに搬送する第4のトレー搬送機構22と、装置全体をシーケンス制御する制御部23等が設けられている。なお、図1において、D,E,Fはレンズ待機位置、Gはレンズ収納位置、Hはレンズトレー待機位置である。
【0032】
次に、洗浄装置1の上記した機構部、装置の構成等を図2〜図23に基づいてさらに詳述する。
図2はレンズトレー搬入部の外観斜視図である。レンズ2を収納したレンズトレー5をレンズトレー搬入部Aに搬送する前記第1のトレー搬送機構6は、レンズトレー5を案内するレール25と、レンズトレー5をレール25に沿って移動させる図示を省略した駆動装置等で構成されている。一対のレンズ2は凸面2aを上にしてレンズトレー5に収納されている。
【0033】
前記レンズトレー搬入部Aの上方には、前記第2のトレー搬送機構7が設けられている。第2のトレー搬送機構7は、レンズ2を挟持する一対のハンド26A,26Bを備えたスライダー27と、このスラーダー27をレンズトレー搬入部Aとレンズ取出し位置B間において往復移動させる往復移動機構28等で構成されている。
【0034】
図3は第1のレンズ搬送機構を示す外観斜視図である。同図において、レンズ取出し位置Bの上方には前記第1のレンズ搬送機構8が配設されている。第1のレンズ搬送機構8はレンズ取出し位置Bにレンズトレー5が搬送されてきて停止すると、一対の真空パッド30A,30Bによってレンズトレー5内の各レンズ2を吸着してレンズトレー5から取出すと前記レンズセンタリング部Cに搬送するように構成されている。レンズ2が一対の真空パッド30A,30Bによって取出された後、空になったレンズトレー5は前記第3のトレー搬送機構20によってレンズトレー待機位置Hに搬送されて一時待機し、その後レンズ収納位置Gに搬送される。
【0035】
図4はレンズセンタリング部を示す斜視図である。同図において、レンズセンタリング部Cには、前記第2のレンズ搬送機構8によって搬送されてきたレンズ2を受取るレンズ収納ケース34と、レンズ2をセンタリングする前記レンズセンタリング装置10と、センタリングされたレンズ2を前記洗浄機構部11に搬送する前記第2のレンズ搬送機構12が配設されている。前記レンズセンタリング装置10は、通常前記レンズセンタリング部Cの上方に待機しており駆動装置によって昇降される一対の挟持手段35A,35Bを備えている。また、これらの挟持手段35A,35Bは、各レンズ2のコバ面(外周面)を挟持する開閉自在な4本の挟持ピン36を有している。一対の挟持手段35A,35Bは、センタリング時に下降してレンズ収納ケース34内の各レンズ2,2のコバ面を挟持ピン47により挟持すると上昇してレンズ収納ケース34から取出し、前記第2のレンズ搬送機構12の始端部上方に搬送すると、再び下降して各レンズ2をセンタリングケース9に収納するように構成されている。前記センタリングケース9は、上方に開放する円筒状に形成されて内部にレンズ2を自動的にセンタリングする台42を有している。また、このセンタリングケース9は、前記第2のレンズ搬送機構12に架設された載置台43上に2個ずつ設置されている。
【0036】
前記第2のレンズ搬送機構12はチェンコンベアからなり、前記載置台43がレンズ2の搬送方向に所定の間隔をおいて複数個架設されている。また、第2のレンズ搬送機構12は、間欠的に駆動することにより前記レンズ2を前記洗浄機構部11に搬送するように構成されている。
【0037】
図5は洗浄機構部の外観斜視図、図6は凸面洗浄手段の要部の断面図、図7は凸面洗浄機による凸面洗浄の様子を示す図、図8は洗浄部材の配置関係を示す図、図9(a)、(b)、(c)は第1、第2、第3の凸面洗浄機の揺動中心の傾斜角度を示す図、図10はレンズ吸着回転機構を示す断面図である。これらの図において、前記洗浄機構部11は、前記レンズ2の凸面2aを洗浄する前記凸面洗浄機構部13を備えている。また、前記凸面洗浄機構部13は、第1、第2、第3の凸面洗浄機50,51,52で構成されている。
【0038】
図5において、前記第1、第2、第3の凸面洗浄機50,51,52は、レンズ2の搬送方向に所定の間隔をおいて設けられている。また、第1、第2、第3の凸面洗浄機50,51,52の下方には、洗浄時にレンズ2を吸着して回転させるレンズ吸着回転機構55(図10)がセンタリングケース9内の各レンズ2にそれぞれ対応するように配設されている。
【0039】
前記第1の凸面洗浄機50は、2枚一組のレンズ2を同時に洗浄するため各レンズ2に対して一対一組からなる凸面洗浄手段56A,56Bを備えている。図6〜図8において、前記凸面洗浄手段56Aは、筒状のホルダー57に軸受58を介して回転自在に軸支された外筒59と、この外筒59を上下動自在に貫通する回転軸60と、前記外筒59の上端に固定された従動ギア61と、回転軸60の下端にゴムソケット62と緩衝部材63を介して取付けられた洗浄部材64と、前記従動ギア61を回転させる図示しない駆動モータ等で構成されている。
【0040】
前記外筒59と回転軸60は、キー65とキー溝65Aによって連結されている。キー65は、キー溝65Aに摺動可能に嵌合しており、これによって回転軸60の上下動を可能にしている。モータからの回転は、従動ギア61、外筒59およびキー65を介して回転軸60に伝達される。回転軸60の回転速度は200〜500rpmであり,好ましくは420rpm程度である。
【0041】
前記ゴムソケット62は、前記回転軸60に対して首振り機構66により首振り自在に取付けられることにより、前記洗浄部材64の揺動機構を構成している。前記緩衝部材63は、ポリウレタンを主成分とするスポンジ等の軟質部材によって形成されている。前記洗浄部材64としては、外径が2.6cmの円板状に形成された柔軟性を有するブラシが用いられる。ブラシ64の素材としては、太さが0.15mmのナイロン(商標名)、ポリエステル、ポリプロピレン等の細い線材が用いられる。なお、凸面洗浄手段56Bは凸面洗浄手段56Aと同一構造のためその説明を省略する。
【0042】
前記一対の凸面洗浄手段56A,56Bのうち一方の凸面洗浄手段56Aは、レンズ2の略中央に凸面2aに対して略垂直になるように配設される。一方、他方の凸面洗浄手段56Bは凸面2aの周辺部寄りに同じく凸面2aに対して略垂直になるように配設される。このため、一対の凸面洗浄手段56A,56Bの軸線は、図7に示すように角度2βで交叉している。凸面洗浄手段56Bの凸面洗浄手段56Aに対する傾斜角度2βは、洗浄対象であるレンズ2の凸面2aの平均的な傾斜によって算出される(例えば=10°程度)。また、一対の凸面洗浄手段56A,56Bのブラシ64,64は、互いに干渉しないように、例えば2〜3cm程度離間している。
【0043】
このような一対の凸面洗浄手段56A,56Bは、洗浄時にブラシ64をレンズ2の凸面2aに接触させた状態で揺動中心軸R1 を中心として矢印67で示すようにレンズ2の半径方向に揺動する。一対の凸面洗浄手段56A,56Bの揺動中心軸R1 は、レンズ2の幾何学中心0を通る垂線Lに対して角度α1 だけ傾斜している。この角度α1 は、10°程度である。揺動中心軸R1 の揺動角度は左右にそれぞれ角度βであり、全体として2βである。なお、凸面洗浄手段56A,56Bの揺動の振幅は約1〜2cmであり、その周期は1〜5秒である。
【0044】
レンズ2の洗浄時に用いられる洗浄液70としては、液性が中性の界面活性剤が用いられる。例えば、洗剤成分にポリオキシエチレンアルキルエーテル9%、脂肪酸アルカノールアミド7%、水83%、その他にリン、漂白剤、蛍光性繊維再防染防止剤などの添加剤を1%程度含む洗浄液が用いられる。なお、その他の界面活性剤を含む洗浄液を使用することも可能であるが、液性は中性が好適である。
【0045】
図10において、前記レンズ2を吸着して回転させる前記レンズ吸着回転機構55は、筒状のホルダー74内に軸受75を介して回転自在に配設された外筒76と、この外筒76を上下動自在に貫通し、キー78を介して外筒76の回転が伝達される回転軸77と、この回転軸77の上端に取付けたゴム製の吸着盤79と、前記回転軸77を駆動する図示を省略した駆動モータと、この駆動モータの回転を回転軸77に伝達する従動ギア80a,80bと、蛇腹81等で構成されている。回転軸77は上下端が開放する筒状体に形成されており、中心孔77aが図示を省略した真空ポンプに接続されている。
【0046】
前記吸着盤79は、中央に回転軸77の中心孔77aに連通する穴81を有し、レンズ2の吸着時に回転軸77とともに上昇してレンズ2の凹面2bに接触すると、中心孔77aが真空ポンプによって真空排気されることにより、レンズ2を吸着して保持するように構成されている。レンズ2は前述したレンズセンタリング装置10によって予めセンタリングされているので、吸着盤79によって吸着保持されると、レンズ2の幾何学中心0が回転軸77の軸線と略一致する。回転軸77の回転速度は10〜15rpmであるが、13rpmが好適である。なお、このようなレンズ吸着回転機構55は、2つのレンズ2,2を個々独立に吸着して保持する必要があるため、前記各凸面洗浄手段56A,56Bに対応するように一対設けられている。
【0047】
前記凸面洗浄手段56A,56Bによるレンズ2の凸面洗浄に際しては、レンズ吸着回転機構55の回転軸77を上昇させて吸着盤79によりレンズ2の凹面2bを吸着保持する。また、各凸面洗浄手段56A,56Bの回転軸60を下降させて各ブラシ64をレンズ2の凸面2aの略中央部と周辺部にそれぞれ接触させる。この接触は、回転軸60、ゴムソケット62、緩衝部材63およびブラシ64の重量による接触である。ブラシ64を回転軸60とその付属品の重量によってレンズ2に接触させると、ゴムソケット62の傾動と緩衝部材63の圧縮変形によりブラシ64はレンズ2の凸面形状に倣って傾くため、ブラシ64の先端面を全面にわたってレンズ2の凸面2aに略均一な接触圧で接触させることができる。ブラシ64のレンズ2に対する接触圧は1.5〜3kPa程度である。レンズ2に対してブラシ64を接触させると、回転軸60,77をそれぞれ所定の回転数で互いに反対方向に回転させ、ノズル71から洗浄液70をレンズ2とブラシ64に向けて噴射する。さらに凸面洗浄手段56A,56Bを揺動中心軸R1 を揺動中心としてレンズ2の半径方向に揺動させることにより、ブラシ64と洗浄液70による凸面2aの洗浄が行われる。
【0048】
ここで、第1の凸面洗浄機50として一対からなる凸面洗浄手段56A,56Bを用いた理由について説明する。
レンズ2の形状は様々な形状をしており、例えば曲率半径が大きいレンズと小さいレンズがある。図7に示すように、曲率半径が大きいレンズ2では凸面2aの高さH1 が24.5mm、曲率半径が小さいレンズでは3.8mmで、その差は20.7mmにもなる。このため、大きな1つのブラシを凸面2a全体に接触させて洗浄する従来の洗浄装置では、ブラシを凸面2a全体にわたって均一な接触圧で接触させることができなくなる。
【0049】
このレンズ形状の違いによる凸面高さH1 の差に倣うために、単一のブラシで凸面2aへの圧着を確保し、凸面2aへの追従性を確保しようとすると、凸面2aの各曲面形状と一致する複数種のブラシを用意し、曲面形状に応じて交換する必要がある。また交換するためには洗浄予定のレンズ2がどのような曲面形状であるかを予めチェックし、それに一致するブラシを選択しなければならず、その作業が煩雑になる。またブラシを交換するためには装置自体を一旦停止しなければならず、装置の稼働率を低下させることになる。そしてレンズ形状に適合しないブラシでレンズを洗浄した場合は、洗浄が不十分になるため、そのまま次の染色工程に移送して染色すると、コーティング液や染色液が汚染されるという問題が発生する可能性が高くなる。
【0050】
これに対して、本発明は一対からなる凸面洗浄手段56A,56Bを用い、2つのブラシ64をレンズ2の中心部と外周部に接触させているため、ブラシ64をレンズ2より十分に小さくすることができ、レンズ2の曲面形状が異なるものであっても比較的小さな接触圧でブラシ64の洗浄面を全面にわたってレンズ2の凸面2aに倣って略均一に接触させることができる。これによりブラシ64の種類を削減でき、ブラシ64の交換頻度および作業者の負担を少なくすることができ、洗浄時間を短縮することができる。
【0051】
前記第1の凸面洗浄機構50によるブラシ洗浄が終了すると、第2のレンズ搬送機構12(図4)は再び走行して洗浄されたレンズ2を第2の凸面洗浄機51の真下に搬送して停止する。図5および図9(b)において、前記第2の凸面洗浄機51は、前記第1の凸面洗浄機50と同様に、2枚一組のレンズ2を同時に洗浄するため各レンズ2に対して一対一組からなる凸面洗浄手段85A,85Bを備えている。各凸面洗浄手段85A,85Bは、前記凸面洗浄手段56A,56Bと略同一構造ではあるが、洗浄部材としてブラシの代わりに比較的堅いパッド86を用いた点と、レンズ2の幾何学中心0を通る垂線Lに対する第2の凸面洗浄機51の揺動中心軸R2 の揺動角度α2 を前記第1の凸面洗浄手機50の揺動角度α1 より小さくした点(α1 >α2 )が第1の凸面洗浄機50と異なっている。この揺動角度α2 は例えば5°程度である。揺動角度α2 をα1 より小さくした理由は、凸面2aの中心部を重点的に洗浄するためである。一対の凸面洗浄手段85A,85Bを用いた理由は、上記した凸面洗浄手段56A,56Bと同様である。なお、一対の凸面洗浄手段85A,85Bの揺動中心軸R2 の揺動角度は左右にそれぞれ角度βとし全体では2βである。
【0052】
前記パッド86としては、例えば発泡ポリウレタン、フェルト、または不織布等の繊維製の布や合成樹脂等を材料とする厚さ1mm程度のシート材によって形成したものが用いられる。パッド86の硬度(JIS-A )は、80〜90である。このようなパッド86を用いることによって第1の凸面洗浄機50による洗浄によって遊離した汚れを凸面2aから除去し、洗浄剤にて溶解することができる。
【0053】
第2の凸面洗浄機51によるパッド洗浄が終了すると、第2のレンズ搬送機構12が再び走行して洗浄されたレンズ2を第3の凸面洗浄機52の真下に搬送して停止する。図5および図9(c)において、前記第3の凸面洗浄機52は、前記第1、第2の凸面洗浄機50,51と同様に、2枚一組のレンズ2を同時に洗浄するため各レンズ2に対して一対一組からなる凸面洗浄手段90A,90Bを備えている。各凸面洗浄手段90A,90Bは、前記凸面洗浄手段56A,56B、85A,85Bと略同一構造ではあるが、洗浄部材として前記パッド86に比べて柔らかいパッド91を用いた点と、レンズ2の幾何学中心0を通る垂線Lに対する第3の凸面洗浄機52の揺動中心軸R3 の揺動角度α3 を前記第1の凸面洗浄手機50の揺動角度α1 より大きくした点(α3 >α1 >α2 )が第1、第2の凸面洗浄機50,51と異なっている。この揺動角度α3 は、例えば、15°程度である。揺動角度α3 を大きくした理由は、凸面2aの周辺部を重点的に洗浄するためである。なお、一対の凸面洗浄手段90A,90Bの揺動中心軸R3 の揺動角度は左右にそれぞれ角度βとし全体では2βである。
【0054】
図11はレンズ反転装置を示す外観斜視図、図12は同レンズ反転装置の断面図、図13(a)、(b)は、同レンズ反転装置のレンズを挟持する前の状態を示す概略平面図および挟持した状態を示す概略平面図である。これらの図において、前記レンズ反転装置15は、前記レンズ待機位置D(図1)に設けられている。このレンズ反転装置15は、後述する凹面洗浄機構部14によるレンズの凹面洗浄を可能にするためにレンズ2を上下反転させて凹面2bを上に向けさせるための機構であり、昇降自在な昇降アーム95の下端に下向きに取付けられたレンズ挟持用モータ96を備えている。昇降アーム95は、レンズ反転装置15がレンズ2を挟持するときに図示を省略した駆動モータによって昇降されるように構成されている。前記レンズ挟持用モータ96の出力軸97には、一対の回動アーム98A,98Bがアーム支持部材99を介して取付けられている。アーム支持部材99は、筒状体に形成されて前記回転軸97に取付けられており、外周面下部に一対の連結アーム99A,99Bが一体に突設されている。これらの連結アーム99A,99Bは、アーム支持部材99の外周面に水平にかつ周方向に180°離間して一直線となるように突設されている。各連結アーム99A,99Bの先端には、支持軸100A,100Bがそれぞれ垂設されており、これらの支持軸100A,100Bによって前記各回動アーム98A,98Bの一端を回動自在に軸支している。各回動アーム98A,98Bの他端側には、互いに対向する支持プレート101A,101Bの上端がそれぞれ回動自在に連結されている。支持プレート101A,101Bは、2本のガイド102によって互いに平行に接近離間するように保持されている。
【0055】
前記レンズ挟持用モータ96の下方には、さらにレンズ反転用モータ104が配設されている。このレンズ反転用モータ104は、レンズ2を上下反転させるためのモータであり、水平な支持バー106の中央に固定されている。モータ104の出力軸107には、駆動ギア108が取付けられている。前記支持バー106は、前記一対の支持プレート101A,101Bの上部に設けたスリーブ109A,109Bによって摺動自在に保持されている。
【0056】
前記支持プレート101A,101Bの下端には前記レンズ2を挟持する一対のレンズ保持部材105A,105Bが回転軸110A,110Bを介して回転自在に取付けられている。これらのレンズ保持部材105A,105Bは、カップ状に形成されて互いに対向している。
【0057】
前記レンズ反転用モータ104の下面側には、回転軸115が設けられている。この回転軸115は軸受部材116によって中央部が回転自在に軸支されており、両端にはギア122A,123Aがそれぞれ取付けられている。これらのギア122A,123Aは、前記各支持プレート101A,101Bに設けた軸受孔117A,117Bによってそれぞれ回転自在に軸支されている。前記回転軸115の中間部には、前記駆動ギア108に噛合するギア118が固定されている。したがって、前記レンズ反転用モータ104を駆動すると、その回転は駆動ギア108、ギア118、回転軸115を介してギア122A,123Aに伝達される。
【0058】
さらに前記各支持プレート101A,101Bの外側面には、前記各ギア122A,123Aの回転を前記各レンズ保持部材105A,105Bに伝達するギア122B,122Cと123B,123Cがそれぞれ取付けられている。ギア122B,123Bは、各支持プレート101A,101Bに突設した固定軸124A,124Bにそれぞれ回転自在に取付けられている。ギア122C,123Cは、前記各回転軸110A,110Bに固定されている。そして、ギア122Bはギア122Aとギア122Cに噛合し、ギア123Bはギア123Aとギア123Cに噛合している。
【0059】
このような構造からなるレンズ反転装置15は、図12および図13(a)に示すように通常一対のレンズ保持部材105A,105Bを最大に開いた状態でレンズ待機位置Dの上方に待機している。このとき、一対のレンズ保持部材105A,105Bは、レンズ2の外径より十分に大きな距離だけ離間している。また、一対の回動アーム98A,98Bと、アーム支持部材99の各連結アーム99A,99Bとは、一直線に並んでいる。
【0060】
レンズ2を反転させて凸面2aを下に、凹面2bを上に向ける際には、昇降アーム95を下降させて一対のレンズ保持部材105A,105Bをレンズ2の高さと一致させる。そして、レンズ挟持用モータ96を駆動して出力軸97を図13(a)において反時計方向に半回転させる。出力軸97を半回転させると、図13(b)に示すように回動アーム98A,98Bと連結アーム99A,99BはZ字状に折れ曲がって一対のレンズ保持部材105A,105Bを引き寄せレンズ2に押しつける。これによってレンズ保持部材105A,5Bはレンズ2を挟持する。そして、一対のレンズ保持部材105A,105Bがレンズ2を挟持すると、この状態で昇降アーム95を一定高さまで上昇させ、レンズ2をセンタリングケース9から抜き出す。次に、この状態でレンズ反転用モータ104が駆動してその出力軸107の回転をギア108,118に伝達し、さらにギア118の回転をギア列122A,122B,122Cと、123A,123B,123Cを介して各レンズ保持部材105A,105Bに伝達する。このため、一対のレンズ保持部材105A,105Bはレンズ2を保持した状態で180°回転してレンズ2を反転させる。これにより、レンズ2の凹面2bが上になり、凸面2aが下になる。レンズ2を反転させた後は、再び昇降アーム95を下降させて反転したレンズ2をセンタリングケース9内に収納してレンズ保持部材105A,105Bによるレンズ2の保持状態を解除し、レンズ反転装置15を元の高さ位置に復帰させるとレンズ2の反転動作を終了する。
【0061】
図14は凹面洗浄機構部の外観斜視図、図15は凹面洗浄機の要部の断面図、図16は凹面洗浄機の揺動角度を示す図である。これらの図において、前記レンズ反転装置15の後方で前記第2のレンズ搬送機構12の上方には、レンズ2の凹面2bを洗浄する前記凹面洗浄機構部14が配設されている。また、この凹面洗浄機構部14は、レンズ2の搬送方向に所定の間隔をおいて設けられた第1、第2の凹面洗浄機130,131とで構成されている。
【0062】
前記第1の凹面洗浄機130は、2枚一組のレンズ2を同時に洗浄するため2つの凹面洗浄手段132A,132Bを備えている。前記凹面洗浄手段132A(132Bも同様)は、筒状のホルダー134内に軸受135を介して回転自在に配設された外筒136と、この外筒136に上下動自在に嵌挿され外筒136と一体に回転する回転軸137と、前記外筒136の上端部に固定された従動ギア138と、前記回転軸137の下端にゴムソケット139と緩衝部材140を介して取付けられた洗浄部材としてのパッド141と、前記従動ギア138を介して前記回転軸137を回転させる図示を省略した駆動モータ等で構成されている。洗浄時における回転軸137の回転速度は200〜500rpmであり、好ましくは420rpm程度である。
【0063】
前記ゴムソケット139は、高さ方向中間部に設けた頸部139Aを有し、これによって前記洗浄部材141の揺動機構を構成している。前記緩衝部材140は、ポリウレタンを主成分とするスポンジ等の軟質部材によって形成されている。前記パッド141は、例えば発泡ポリウレタン、フェルト、または不織布等の繊維性の布や合成樹脂等を材料とする厚さ1mm程度のシート材によって形成されている。パッド141の硬度(JIS−A)は90〜97である。パッド141としては、レンズ2の半径よりも大きいものを用いる。本実施例では最大外径80φのレンズ2を洗浄するのに40〜60φのパッド141を用いているが52φ程度が好適である。
【0064】
このような凹面洗浄手段132Aは、洗浄時にパッド141をレンズ2の凹面2bに自重および回転軸137とその付属品の重量により接触させた状態で揺動中心軸R4 を中心として矢印140で示すようにレンズ2の半径方向に揺動することにより凹面2bをパッド141と洗浄液とで洗浄する。凹面洗浄手段132Aの揺動中心軸R4 は、レンズ2の幾何学中心0を通る垂線Lに対して角度γ1 傾斜している。揺動中心軸R4 の傾斜角度γ1 は5°程度である。また、揺動中心軸R4 の揺動角度は、左右にそれぞれ角度βとし全体では2βである。揺動角度γ1 を小さくした理由は、凹面2bの中心部を重点的に洗浄するためである。なお、洗浄液としては、上記した凸面洗浄時と同一の洗浄液が用いられる。
【0065】
図14および図17において、前記第2の凹面洗浄機構部131は、同じく2枚一組のレンズ2の凹面2bを同時に洗浄するため2つの凹面洗浄手段145A,145Bを備えている。各凹面洗浄手段145A,145Bは、前記凹面洗浄手段132A,132Bと略同一構造ではあるが、洗浄部材として前記パッド141より柔らかいパッド146を用いている点、および凹面洗浄手段145A,145Bの揺動中心軸R5 の傾斜角度γ2 を鉛直方向より15°とした点が異なっている。傾斜角度γ2 を凹面洗浄手段132A,132Bの傾斜角度γ1 より大きくした理由は、凹面2bの周辺部を重点的に洗浄するためである。
【0066】
図18はレンズを洗浄ラックに収納した状態を示す外観斜視図である。同図において、凹面2bの洗浄が終了したレンズ2は、図1に示すレンズ待機位置Fにおいて第1のレンズ収納機構17によってセンタリングケース9から取り出されると洗浄ラック16に収納される。前記第1のレンズ収納機構17は、レンズ2の外周を挟持する開閉自在な4本のクランプピン151を備えている。クランプピン151は、下降してセンタリングケース9内のレンズ2の外周面を挟持すると、再び上昇してレンズ2をセンタリングケース9から引出した後、上方に90°回動してレンズ2を略垂直な状態にする。そして、レンズ2を洗浄ラック16の上方に搬送して下降するとレンズ2を洗浄ラック16に収納する。
【0067】
前記洗浄ラック16は、4枚のレンズ2を垂直に立てた状態で収納可能な大きさに形成されており、2本ずつ互いに対向して配設された合計8本の挟持アーム155を備えている。支持アーム155は、2本一組でレンズ2の外周を挟持するものであり、下端が軸156に回動自在に軸支され、かつばねによって閉方向の回動習性が付与されている。そして、洗浄ラック16は、レンズ2が収納されると前記洗浄槽部18に搬送される。
【0068】
図19は洗浄槽部のシャワー洗浄部を示す外観斜視図である。
前記洗浄機構部11による洗浄は、ブラシとパッドによる洗浄であるため、レンズ2に強固に固着している汚れであってもその大部分を除去することができるが、一部の汚れは固着力が弱まり除去され易い状態になって残っている。このような汚れについては、水または界面活性剤からなる洗浄液中にレンズ2を浸漬して洗浄するだけで十分に除去することが可能である。このため、洗浄槽部18は、シャワー洗浄槽160と、超音波洗浄槽161と、純水洗浄槽162と、引上げ槽163および乾燥槽164(図1)とを備えている。
【0069】
シャワー洗浄槽160では、洗浄ラック16を昇降台166によってシャワー洗浄槽160内に入れ、シャワー167をレンズ2に向けて噴射することにより洗浄する。超音波洗浄槽161は、超音波発振装置を備えており、高周波の振動によってレンズ2の表面に付着した汚れと洗浄剤を除去する。純水洗浄槽162は、純水中にレンズ2を浸漬して洗浄する。
【0070】
純水によるレンズ2の洗浄が終了すると、レンズ2を純水洗浄槽162から引出して引上げ槽163内の純水に浸漬する。通常、洗浄液中から引き上げるとレンズ2の表面には水滴が付着している。水滴が付着したまま乾燥させると水分に含まれる不純物がレンズ2の表面に強固に付着する。このため、本発明では引上げ槽163を設けてレンズ2の引上げをゆっくり行い、水分子どうしが引き合う水素結合とファンデルワールス力を利用してレンズ表面に付着している水滴を除去するようにしている。引上げ槽163からのレンズ2の引上げ速度は350mm/min程度である。
【0071】
前記乾燥槽164は、引上げ槽163から引上げられたレンズ2を温風または乾燥空気の流れによって乾燥させる。
【0072】
図1のレンズ待機位置Gにおいて、第2のレンズ収納機構19は乾燥槽164による乾燥が終了したレンズ2を洗浄ラック16から取り出すと空のレンズトレー5に収納する。このレンズ2を収納したレンズトレー5は、第4のトレー搬送機構22によって次工程搬送待機位置Jに搬送された後、染色工程、またはコーティング工程へ移送される。なお、空になった洗浄ラック16は、ラック搬送機構21によって元の位置に搬送される。
【0073】
次に、前記洗浄装置1によるレンズ洗浄工程を図1と図20に示すフローチャートにしたがって説明する。
【0074】
A.洗浄装置へのレンズの搬入工程
2枚一組のレンズ2を収納したレンズトレー5を第1のトレー搬送機構6によってレンズトレー搬入部Aに搬送する(ステップ200)。レンズトレー5はレンズトレー搬入部Aに搬送されるとセンサーによって検知される。センサーがレンズトレー5を検知すると第1のトレー搬送機構7がレンズトレー5を保持して洗浄装置1内のレンズ取出し位置Bに搬送する(ステップ201)。
【0075】
B.レンズのセンタリング
次に、第1のレンズ搬送機構8がレンズトレー5内のレンズ2を吸着して取出し、レンズセンタリング部Cに搬送する(ステップ202)。レンズ2を取り出して空になったレンズトレー5は、第3のトレー搬送機構20によってレンズ待機位置Gに搬送され、レンズ2の洗浄が終了するまで待機する。
【0076】
レンズセンタリング部Cでは、レンズ2がレンズ収納ケース34(図4)内に収納されると、レンズセンタリング装置10がケース34内のレンズ2を保持してケース34から取出し、センタリングケース9に収納する。これによりセンタリングケース9がレンズ2をセンタリングする(ステップ203)。
【0077】
C.レンズの凸面洗浄
次に、センタリングケース9内に収納されたレンズ2の凸面2aを洗浄機構部11の凸面洗浄機構部13によって洗浄する。この凸面洗浄は、ステップ204の第1の凸面洗浄機50によるブラシ洗浄と、ステップ205の第2の凸面洗浄機51によるパッド洗浄と、ステップ206の第3の凸面洗浄機52によるパッド洗浄である。
【0078】
D.レンズの反転
凸面洗浄機構部13によるブラシおよびパッド洗浄が終了すると、レンズ2をレンズ反転装置15によって反転させることにより、凸面2aを下にし凹面2bを上に向けさせる(ステップ207)。
【0079】
E.レンズの凹面洗浄
次に、レンズ2の凹面2bを凹面洗浄機構部14によって洗浄する。この凹面洗浄は、ステップ208の第1の凹面洗浄機130によるパッド洗浄と、ステップ209の第2の凸面洗浄機131によるパッド洗浄である。
【0080】
F.レンズの搬送
凹面洗浄機構部14によるレンズ2の凹面洗浄が終了すると、レンズ2を洗浄ラック16に収納して洗浄槽部18に搬送する(ステップ210)。
【0081】
G.レンズの洗浄槽部による洗浄
洗浄槽部18による洗浄は、シャワー洗浄(ステップ211)と、超音波洗浄(ステップ212)と、純水洗浄(ステップ213)である。シャワー洗浄は、シャワーをレンズ2に吹き付けて洗浄し、汚れや洗浄剤を除去する。超音波洗浄は、超音波発振装置による高周波の振動によってレンズ表面に付着した汚れと洗浄剤を除去する。純水洗浄は、純水中にレンズ2を浸漬して洗浄し、汚れを含む洗浄剤を除去する。
【0082】
H.水分除去
純水洗浄が終了すると、引出し槽164内の純水に浸漬し、レンズ2をゆっくり引出して付着している水滴を除去する(ステップ214)。
【0083】
I.乾燥
水分を除去した後、乾燥槽164にレンズ2を入れて温風または乾燥空気の流れによって乾燥させる(ステップ215)。
【0084】
J.レンズトレーへの収納、搬送
乾燥槽164から取出したレンズ2をレンズトレー5に収納し、次工程搬送待機位置Jに搬送する(ステップ216〜218)。そして、次工程に搬送することでレンズ2の洗浄工程を終了する。
【0085】
このように本発明に係る洗浄装置1は、ブラシ洗浄とパッド洗浄を併用しているので、レンズ2の被洗浄面に強固に固着している研磨剤等の汚れを確実に除去することができる。
【0086】
また、洗浄終了まで作業者がレンズ2に触れることがなく自動的に洗浄を行うため洗浄後のレンズ2に汚れが付くことがない。さらに、本発明による洗浄装置1は受注単位である2枚一組のレンズ2を同時に洗浄処理するように洗浄機構部11を構成したので、異なったレンズの混入、中身違いなどの発生を防止することができる。
さらに、洗浄剤として一般家庭でも使用される中性の液性を有する界面活性剤を使用しているため環境への影響を少なくすることができる。
【0087】
図21および図22は凸面洗浄機を揺動させないで洗浄する際の洗浄部材の配置例をそれぞれ示す図である。
上記した実施の形態は、第1、第2、第3の凸面洗浄機50,51,52(図5)をレンズ2の半径方向に揺動させて洗浄する例を示したが、本実施の形態では第1、第2、第3の凸面洗浄機50,51,52を定位置に固定して洗浄するようにしている。このため、2つのブラシ180A,180Bをレンズ2の中央部と周辺部に互いに干渉しないように、かつレンズ2の凸面全体を洗浄し得るように配置している。
【0088】
ブラシ180A,180Bの大きさは洗浄するレンズ2の外径に依存する。本実施例ではレンズ径80φのレンズ2を洗浄する場合、ブラシ180A,180Bの大きさをそれぞれ25φとした。レンズ中央部側のブラシ180Aについては、図21または図22に示すようにレンズ2の幾何学中心0に対して偏心させて配置する。このようにブラシ180Aをレンズ2の幾何学中心0から偏心させて配置しておくと、レンズ2の幾何学中心0における回転速度と、ブラシ180Aの回転速度との差が零にならず、レンズ2の中心を確実に洗浄することができる。
【0089】
図23は本発明のさらに他の実施の形態を示す図である。
この実施の形態は、凸面洗浄と同様に2つの洗浄部材185A,185Bによってレンズ2の凹面2bを洗浄するようにしたものである。洗浄に際しては、一方の洗浄部材185Aをレンズ2の略中央に配置し、他方の洗浄部材185Bを周辺部寄りに配置し、これらの洗浄部材185A,185Bをレンズ2の半径方向に揺動させて洗浄する。この場合は、洗浄部材185A,185Bをレンズ2の外径より十分に小さく形成することができる。
【0090】
なお、上記した実施の形態は凸面洗浄で洗浄部材(64,86,91,180A,180B)をそれぞれ2つ用い、凹面洗浄で洗浄部材(141,146,185A,185B)をそれぞれ1つまたは2つ用いて洗浄する例について説明したが、本発明はこれに限らず2つ以上の洗浄部材を用いでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は累進屈折力眼鏡レンズの洗浄に用いた例を示したが、単焦点眼鏡レンズにも適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明に係るレンズの洗浄装置の一実施の形態を示す概略平面図である。
【図2】レンズトレー搬入部を示す外観斜視図である。
【図3】第1のレンズ搬送機構を示す外観斜視図である。
【図4】レンズセンタリング部を示す斜視図である。
【図5】洗浄機構部の外観斜視図である。
【図6】凸面洗浄手段の断面図である。
【図7】凸面洗浄機構による凸面洗浄の様子を示す図である。
【図8】洗浄部材の配置関係を示す図である。
【図9】(a)、(b)、(c)は第1、第2、第3の凸面洗浄機の揺動中心の傾斜角度を示す図である。
【図10】レンズ吸着回転機構を示す断面図である。
【図11】レンズ反転装置を示す外観斜視図である。
【図12】同レンズ反転装置の断面図である。
【図13】(a)、(b)は同レンズ反転装置のレンズを挟持する前の状態を示す概略平面図および挟持した状態を示す概略平面図である。
【図14】凹面洗浄機構部の外観斜視図でる。
【図15】凹面洗浄機の断面図である。
【図16】第1の凹面洗浄機の揺動角度を示す図である。
【図17】第2の凹面洗浄機の揺動角度を示す図である。
【図18】レンズを洗浄ラックに収納した状態を示す外観斜視図である。
【図19】洗浄槽部のシャワー洗浄部を示す外観斜視図である。
【図20】洗浄工程のフローチャートである。
【図21】凸面洗浄機を揺動させないで洗浄する際の洗浄部材の配置例を示す図である。
【図22】凸面洗浄機を揺動させないで洗浄する際の洗浄部材の他の配置例を示す図である。
【図23】本発明のさらに他の実施の形態を示す図である。
【符号の説明】
【0093】
1…洗浄装置、2…レンズ、2a…凸面、2b…凹面、3…筐体、5…レンズトレー、6…第1のトレー搬送機構、7…第2のトレー搬送機構、8…第1のレンズ搬送機構、9…センタリングケース、10…レンズセンタリング装置、11…洗浄機構部、12…第2のレンズ搬送機構、13…凸面洗浄機構部、14…凹面洗浄機構部、15…レンズ反転装置、16…洗浄ラック、17…第1のレンズ収納機構、18…洗浄槽部、19…第2のレンズ搬送機構、50…第1の凸面洗浄機、51…第2の凸面洗浄機、52…第3の凸面洗浄機、53…第1の凹面洗浄機、54…第2の凹面洗浄機、64…洗浄部材(ブラシ)、127…洗浄部材(パッド)、70…洗浄液、86,91,141,146…パッド、160…シャワー槽、161…超音波槽、162…純水槽、163…引上げ槽、164…乾燥槽、A…レンズトレー搬入部、B…レンズ取出し位置、C…レンズセンタリング部、D〜G…レンズ待機位置。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズをそのレンズ幾何中心を中心軸として回転させ、前記レンズに洗浄剤を噴射し、回転軸に取付けた柔軟性を有する洗浄部材を前記レンズの被洗浄面に接触させて前記被洗浄面を洗浄するレンズの洗浄装置において、
前記レンズの被洗浄面に対して接近離間自在で洗浄時に回転する複数の回転軸と、これらの回転軸にそれぞれ首振り自在に取付けられた複数の洗浄部材とを備え、これらの洗浄部材を互いに干渉しないようにかつ被洗浄面全体を洗浄し得るように前記被洗浄面の中央部と周辺部にそれぞれ配設したことを特徴とするレンズの洗浄装置。
【請求項2】
請求項1記載のレンズの洗浄装置において、
前記洗浄部材は柔軟性を有するブラシおよびパッドのうちの少なくとも一つであることを特徴とするレンズの洗浄装置。
【請求項3】
請求項1記載のレンズの洗浄装置において、
前記複数の回転軸は洗浄時にレンズの半径方向に揺動することを特徴とするレンズの洗浄装置。
【請求項4】
請求項1記載のレンズの洗浄装置において、
前記複数の洗浄部材のうちレンズの被洗浄面の中央部に配設される洗浄部材は、前記レンズの幾何学中心より偏心していることを特徴とするレンズの洗浄装置。
【請求項5】
請求項3記載のレンズの洗浄装置において、
前記洗浄部材によってレンズの凸面を洗浄する凸面洗浄機構部を具備し、
前記凸面洗浄機構部は、2つのブラシでレンズの凸面を洗浄する第1の凸面洗浄機と、2つの堅いパッドでレンズの凸面を洗浄する第2の凸面洗浄機と、2つの柔らかいパッドでレンズの凸面を洗浄する第3の凸面洗浄機とからなり、
前記第1、第2、第3のの凸面洗浄機構は、揺動の中心軸線がレンズの幾何学中心を通る垂線に対して異なった傾斜角度となるように配設されることを特徴とするレンズの洗浄装置。
【請求項6】
請求項3記載のレンズの洗浄装置において、
前記洗浄部材によってレンズの凹面を洗浄する凹面洗浄機構部を具備し、
前記凹面洗浄機構部は、堅いパッドでレンズの凹面を洗浄する第1の凹面洗浄機と、柔らかいパッドでレンズの凹面を洗浄する第2の凹面洗浄機とからなり、
前記第1、第2の凹面洗浄機は、揺動の中心軸線がレンズの幾何学中心を通る垂線に対して異なった傾斜角度となるように配設されることを特徴とするレンズの洗浄装置。
【請求項7】
請求項1記載のレンズの洗浄装置において、
2枚一組からなるレンズを同時に洗浄することを特徴とするレンズの洗浄装置。
【請求項8】
請求項1記載のレンズの洗浄装置において、
洗浄剤として液性が中性の界面活性剤を用いることを特徴とするレンズの洗浄装置。
【請求項9】
請求項1記載のレンズの洗浄装置において、
レンズを反転させるレンズ反転装置と、洗浄液によりレンズの洗浄を行う洗浄槽部を備えていることを特徴とするレンズの洗浄装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2006−98526(P2006−98526A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−282252(P2004−282252)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】