説明

レンズの製造方法

【課題】 光ディスクの信号記録層に記録されている信号の再生動作を行う光ピックアップ装置に使用される合成樹脂製レンズの製造方法を提供する。
【解決手段】 第1波長のレーザー光に対する透過率の低下はなく、該第1波長より波長が短く、且つ紫外線より波長が長い第2波長のレーザー光に対する透過率が照射時間の経過に伴って低下する特性を有する合成樹脂材料を成形してレンズを製造する場合に成形前の合成樹脂材料に紫外線を照射させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ディスクに記録されている信号の読み出し動作や光ディスクに信号の記録動作を行う光ピックアップ装置に使用されるレンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ピックアップ装置から照射されるレーザー光を光ディスクの信号記録層に照射することによって信号の読み出し動作や信号の記録動作を行うことが出来る光ディスク装置が普及している。
【0003】
光ディスク装置としては、CDやDVDと呼ばれる光ディスクを使用するものが一般に普及しているが、最近では記録密度を向上させた光ディスク、即ちBlu−ray規格やHD DVD(High Density Digital Versatile Disk)規格の光ディスクを使用するものが開発されている。
【0004】
CD規格の光ディスクに記録されている信号の読み出し動作を行うレーザー光としては、波長が780nmである赤外光が使用され、DVD規格の光ディスクに記録されている信号の読み出し動作を行うレーザー光としては、波長が650nmの赤色光が使用されている。
【0005】
そして、前記CD規格の光ディスクにおける信号記録層の上面に設けられている保護層の厚さは1.2mmであり、この信号記録層から信号の読み出し動作を行うために使用される対物レンズの開口数は0.45と規定されている。また、DVD規格の光ディスクにおける信号記録層の上面に設けられている保護層の厚さは0.6mmであり、この信号記録層から信号の読み出し動作を行うために使用される対物レンズの開口数は0.6と規定されている。
【0006】
斯かるCD規格及びDVD規格の光ディスクに対して、Blu−ray規格の光ディスクに記録されている信号の読み出し動作を行うレーザー光としては、波長が短いレーザー光、例えば波長が405nmの青紫色光が使用されている。
【0007】
Blu−ray規格の光ディスクにおける信号記録層の上面に設けられている保護層の厚さは、0.1mmであり、この信号記録層から信号の読み出し動作を行うために使用される対物レンズの開口数は、0.85と規定されている。
【0008】
Blu−ray規格の光ディスクに設けられている信号記録層に記録されている信号の再生動作や該信号記録層に信号を記録するためにレーザー光を集光させることによって生成されるレーザースポットの径を小さくする必要がある。所望のレーザースポット形状を得るために使用される対物レンズは、開口数(NA)が高くなるだけでなく焦点距離が短くなるので、対物レンズの曲率半径が小さくなる。
【0009】
光ピックアップ装置には、前述した各規格に対応した波長のレーザー光を放射するレーザーダイオードや該レーザーダイオードから放射されるレーザー光を各光ディスクに設けられている信号記録層に集光させる対物レンズ、発散光を平行光に変換するコリメートレンズ、光検出器に光ディスクから反射されるレーザー光を導く検出信号生成用レンズ及びセンサーレンズと呼ばれるレンズ等の多くのレンズが組み込まれている。斯かるレンズの材料としては、一般的には光学特性に優れた硝子が使用されるが、硝子は高価であるため、最近では安価にて製造することが出来る合成樹脂材料が多く使用されている。
【0010】
合成樹脂製のレンズを製造する方法としては、レンズ成形用の金型に溶融した合成樹脂材料を加圧して射出する方法、即ち射出成形法と呼ばれる成形方法が一般に多く採用されている。(特許文献1参照。)
合成樹脂材料にて製造されたレンズは、湿度の変化や温度の変化によってレンズが膨縮するとともにレーザー光の長時間照射に伴ってレンズ中が白濁するというような特性を有しており、斯かる点を改善する合成樹脂製レンズの製造方法が提案されている。(特許文献2参照。)
【特許文献1】特開平2−60721号公報
【特許文献2】特開2005−234174号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述した特許文献等に記載されている技術を採用することによって合成樹脂材料にて製造されるレンズの特性を改善することが出来るので、光ピックアップ装置に組み込まれるレンズとして合成樹脂製のレンズを使用することが出来る。
【0012】
対物レンズ等のレンズを合成樹脂材料にて製造することによって光ピックアップ装置の価格を下げることは出来るものの合成樹脂材料には使用するレーザー光の波長によってレーザー光の透過特性が変化するという特性がある。DVD規格に対応したレーザー光、即ち波長が650nmの赤色であるレーザー光を集光させるための対物レンズに使用される合成樹脂材料、例えば三井化学社製のアペル5014DPと呼ばれる合成樹脂材料を使用してBlu−ray規格に対応したレーザー光、即ち波長が405nmの青紫色のレーザー光を集光させるための対物レンズを製造した場合には、青紫色のレーザー光によって対物レンズの透過率が低下するという特性がある。
【0013】
図6は前述したアペル5014DPと呼ばれる合成樹脂材料にて製造された対物レンズに波長が405nmの青紫色のレーザー光を照射させた場合における使用時間に対する透過率の変化を示す特性図であり、時間経過に伴って2%以上透過率が低下することが実験的に確認出来た。
【0014】
斯かる青紫色のレーザー光の照射による透過率の低下は、対物レンズだけでなく、同一の合成樹脂材料を使用して製造されたコリメートレンズやセンサーレンズにおいても生じるため光ピックアップ装置としての特性が大きく変化することになる。その結果、斯かる合成樹脂材料にて製造されたレンズが組み込まれた光ピックアップ装置では、レーザー光の照射時間が長くなるに伴ってレーザー光に対するレンズの透過率が低下するため、光ディスクに記録されている信号の読み出し動作を正確に行うことが出来る期間が短くなるという問題がある。
【0015】
そのため、DVD規格に対応した光ディスクに記録されている信号の読み出し動作を行う光ピックアップ装置に組み込まれるレンズに使用される合成樹脂材料をBlu−ray規格の光ディスクに記録されている信号の読み出し動作を行う光ピックアップ装置に組み込まれるレンズの材料として使用することが出来ないという問題がある。
【0016】
斯かる問題を解決するために光ピックアップ装置に組み込まれる対物レンズ等のレンズを成形する材料として青紫色のレーザー光による影響を受けることがない合成樹脂材料、例えば日本ゼオン社製のゼオネックス340Rと呼ばれる合成樹脂材料を使用しているが、斯かる合成樹脂材料はDVD用の光ピックアップ装置に組み込まれる対物レンズ等のレンズに使用される合成樹脂材料と比較して高価であり、光ピックアップ装置の価格を下げることが出来ないという問題がある。
【0017】
本発明は、斯かる問題を解決することが出来、光ピックアップ装置に組み込まれるレンズとして最適な合成樹脂製のレンズを提供することが出来るレンズの製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、第1波長のレーザー光に対する透過率の低下はなく、該第1波長より波長が短く、且つ紫外線より波長が長い第2波長のレーザー光に対する透過率が照射時間の経過に伴って低下する特性を有する合成樹脂材料に紫外線を照射させた後にレンズを成形するようにしたものである。
【0019】
また、本発明は、粉体状にある合成樹脂材料に対して紫外線を照射させるようにしたことを特徴とするものである。
【0020】
そして、本発明は、溶融された合成樹脂材料に対して紫外線を照射させるようにしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明の製造方法は、第1波長のレーザー光に対する透過率の低下はなく、該第1波長より波長が短く、且つ紫外線より波長が長い第2波長のレーザー光に対する透過率が照射時間の経過に伴って低下する特性を有する合成樹脂材料に紫外線を照射させた後にレンズを成形するようにしたので、安価な合成樹脂材料を使用して対物レンズ等のレンズを製造することが出来るだけでなく生産性に優れている。
【0022】
従って、本発明の製造方法によって光ピックアップ装置に組み込まれる対物レンズ、コリメートレンズ及びセンサーレンズ等のレンズを製造すれば光ピックアップ装置の価格を大きく下げることが出来る。
【実施例】
【0023】
図1は、本発明の製造方法を示す概略図、図2は本発明により製造されるレンズが組み込まれる光ピックアップ装置を示す概略図、図3は本発明に係る対物レンズの透過特性を示す特性図、図4及び図5は本発明に係る対物レンズの製造方法を説明するための特性図である。
【0024】
先ず、本発明の製造方法にて製造されるレンズが組み込まれる光ピックアップ装置の構成について図2を参照して説明する。図2において、1は例えば405nmの青紫色光であるレーザー光を放射するレーザーダイオード、2は前記レーザーダイオード1から放射されるレーザー光が入射される回折格子であり、レーザー光を0次光であるメインビームと+1次光及び−1次光であるサブビームに分離する回折格子部2aと入射されるレーザー光をS方向の直線偏光光に変換する1/2波長板2bとより構成されている。
【0025】
3は前記回折格子2を透過したレーザー光が入射される偏光ビームスプリッタであり、S方向に偏光されたレーザー光の一部を透過させるとともにその残りを反射し、P方向に偏光されたレーザー光の全てを透過させる制御膜3aが設けられている。4は前記レーザーダイオード1から放射されたレーザー光の中の前記偏光ビームスプリッタ3を透過したレーザー光が照射される位置に設けられているモニター用光検出器であり、その検出出力は前記レーザーダイオード1から放射されるレーザー光の出力を制御するために使用される。
【0026】
5は前記偏光ビームスプリッタ3の制御膜3aにて反射されたレーザー光が入射される
位置に設けられている1/4波長板であり、入射されるレーザー光を直線偏光光から円偏光光に変換する作用を成すものである。6は前記1/4波長板5を透過したレーザー光が入射されるコリメートレンズであり、入射されたレーザー光を平行光に変換する作用を成すとともにBlu−ray規格の光ディスクDにおいて、信号記録層Lとディスク面Sとの間に設けられている保護層に起因して生成される球面収差を補正するために設けられている。
【0027】
7は前記コリメートレンズ6にて平行光に変換されたレーザー光が入射されるとともに該レーザー光を反射させる反射ミラーであり、後述するように光ディスクDの信号記録層Lから反射された戻り光が入射されるとともに該戻り光を前記偏光ビームスプリッタ3の方向へ反射させる作用を成すように設けられている。
【0028】
8は前記偏光ビームスプリッタ3に設けられている制御膜3aを透過した戻り光が入射されるセンサーレンズであり、シリンドリカル面、平面、凹曲面または凸曲面等が入射面側及び出射面側に形成されている。斯かるセンサーレンズ8は戻り光に非点収差を発生させることによってフォーカス制御動作に使用されるフォーカスエラー信号を生成させるために設けられている。9は前記センサーレンズ8を通過した戻り光が集光されて照射される位置に設けられている光検出器であり、フォトダイオードが配列された4分割センサー等にて構成されている。斯かる光検出器9の構成及び非点収差法によるフォーカスエラー信号の生成動作等は周知であり、その説明は省略する。
【0029】
10は前記反射ミラー7にて反射されたレーザー光が入射されるとともに入射されたレーザー光を前記光ディスクDに設けられている信号記録層Lに集光させる対物レンズであり、合成樹脂材料を成形することによって製造されるとともに曲率半径が球面と異なり小さくなるように設計されている。
【0030】
光ディスクDに記録されている信号の再生動作を行う場合には、レーザーダイオード1に駆動電流が供給され、該レーザーダイオード1から波長が405nmのレーザー光が放射される。前記レーザーダイオード1から放射されたレーザー光は、回折格子2に入射され、該回折格子2を構成する回折格子部2aによって0次光、+1次光及び−1次光に分離されるとともに1/2波長板2bによってS方向の直線偏光光に変換される。前記回折格子2を透過したレーザー光は、偏光ビームスプリッタ3に入射され、該偏光ビームスプリッタ3に設けられている制御膜3aにて反射されるとともに一部のレーザー光は透過してモニター用光検出器4に照射される。
【0031】
前記制御膜3aにて反射されたレーザー光は、1/4波長板5を通してコリメートレンズ6に入射され該コリメートレンズ6の働きによって平行光に変換される。前記コリメートレンズ6によって平行光に変換されたレーザー光は、反射ミラー7にて反射された後対物レンズ10に入射される。前記対物レンズ10に入射されたレーザー光は該対物レンズ10の集光動作によって光ディスクDの信号記録層Lにスポットとして照射されることになる。このようにして、レーザーダイオード1から放射されるレーザー光は、光ディスクDの信号記録層Lに所望のスポットとして照射されるが、この場合における対物レンズ10の開口数は0.85になるように設定されている。
【0032】
また、前述した対物レンズ10によるレーザー光の集光動作が行われるとき、信号記録層Lと光ディスクDの入射面であるディスク面Sとの間にある保護層の厚みの相違によって球面収差が発生するが、本実施例に示したコリメートレンズ6を光軸方向、即ち矢印A又はB方向へ変位させることによってこの球面収差が最も少なくなるように調整することが出来る。斯かる調整動作は一般的に行われており、その説明は省略する。
【0033】
前述した動作によってレーザーダイオード1から放射されるレーザー光を対物レンズ10の集光動作によって光ディスクDに設けられている信号記録層Lに照射させる動作が行われるが、斯かる照射動作が行われるとき、該信号記録層Lから反射される戻り光が対物レンズ10に対して光ディスクD側から入射されることになる。前記対物レンズ10に入射された戻り光は、反射ミラー7、コリメートレンズ6及び1/4波長板5を通して偏光ビームスプリッタ3に入射される。前記偏光ビームスプリッタ3に入射される戻り光は、P方向の直線偏光光に変換されているので、該偏光ビームスプリッタ3に設けられている制御膜3aを透過することになる。
【0034】
前記制御膜3aを透過したレーザー光の戻り光は、センサーレンズ8に入射され、該センサーレンズ8の働きによって非点収差が発生せしめられる。前記センサーレンズ8によって非点収差が発生せしめられた戻り光は、該センサーレンズ8の集光動作によって光検出器9に設けられている4分割センサー等のセンサー部に照射される。このようにして戻り光が光検出器9に照射される結果、該光検出器9に組み込まれているセンサー部に照射されるメインビームのスポット形状の変化を利用して周知のようにフォーカスエラー信号の生成動作が行われる。斯かるフォーカスエラー信号を利用して対物レンズ10を光ディスクDの信号面方向へ変位させることによってフォーカス制御動作を行うことが出来る。
【0035】
また、本実施例では説明しないが、回折格子2によって生成されるサブビームである+1次光と−1次光を利用した周知のトラッキング制御動作を行うことが出来るように構成されており、斯かる制御動作を行うことによって光ディスクDに記録されている信号の読み取り動作が行われることになる。
【0036】
前述したように光ディスクDに記録されている信号の読み取り動作は行われるが、斯かる読み取り動作が行われているときモニター用光検出器4にレーザー光の一部が照射されているので、該モニター用光検出器4から得られる信号、所謂モニター信号を利用してレーザーダイオード1に供給される駆動電流値を制御することが出来る。
【0037】
レーザーダイオード1に供給される駆動電流値を制御することによってレーザー光の出力を制御することが出来るので、光ディスクDに記録されている信号の読み取り動作だけでなく該光ディスクDに信号を記録する場合に要求されるレーザー出力の調整動作も行うことが出来る。
【0038】
以上に説明したように図2に示した構成の光ピックアップ装置における信号の再生動作等は行われるが、次に本発明の要旨であるレンズ、例えば対物レンズ10の製造方法について説明する。
【0039】
図1は合成樹脂製レンズの製造方法を説明するための概略図である。同図において、11は粉体状の合成樹脂材料であり、ホッパー12を通して射出成形機を構成するシリンダー13内に挿入されるように構成されている。
【0040】
前記シリンダー13に挿入された合成樹脂材料11は該シリンダー13内に設けられている加熱装置によって加熱されて溶融されるように構成されている。14は対物レンズ10を成形するための金型であり、周知のように可動側の金型と固定側の金型にて構成されている。15は前記シリンダー13から押し出される合成樹脂材料11を前記金型内に射出するノズルである。
【0041】
斯かる構成において、合成樹脂材料11はシリンダー13内で溶融された後にノズル15を通して金型14内に加圧出射され、金型14に形成されている対物レンズ10と同一形状の空間部内に充填される。斯かる工程を経た後に冷却し、可動側の金型を移動させる
ことによって成形された対物レンズ10を取り出すことが出来る。斯様にして成形された対物レンズ10からゲート部、即ち合成樹脂材料の注入部を切除することによって対物レンズ10を製造することが出来る。
【0042】
このようにして対物レンズ10等の射出形成機による製造は行われるが、次に本発明の要旨について説明する。
【0043】
本発明に係る対物レンズ10は、合成樹脂材料、例えば前述したアペル5014DPのような環状オレフィン系ポリマー樹脂にて成形することによって製造されるが、斯かる材料は第1波長のレーザー光、例えばDVD規格の光ディスクに対応した波長が650nmである赤色のレーザー光の集光動作を行うための対物レンズに使用されるものと同じ材料である。
【0044】
対物レンズ10は、図1に示した射出成形機によって成形されるが、合成樹脂材料11であるアペル5014DPのような環状オレフィン系ポリマー樹脂をホッパー12内に挿入する前、即ち図1において照射台16上において紫外線照射機17によって紫外線を照射する動作が行われる。斯かる紫外線の照射動作は、前述した照射台16上において粉体状にある合成樹脂材料を攪拌させながら行われる。
【0045】
斯かる攪拌動作を行いながら紫外線を照射させることによって合成樹脂材料11に対して紫外線を均一に照射させることが出来る。このように紫外線が照射された合成樹脂材料11をホッパー12内に挿入させるとともにシリンダー13内で溶融させ、金型14内にノズル15を介して加圧射出することによって対物レンズ10を成形することが出来る。
【0046】
斯かる合成樹脂材料11に照射される紫外線としては、例えば水銀キセノンランプから放射される波長が360nmの紫外線が使用される。そして、斯かる紫外線が照射された合成樹脂材料11によって成形された対物レンズ10は、青紫色のレーザー光、即ち波長が405nmのレーザー光に対する初期透過率が低下するという特性がある。
【0047】
図3は、前述した製造方法、即ち水銀キセノンランプから放射される波長が360nmの紫外線の照射によって成形された対物レンズ10に青紫色のレーザー光、即ち波長が405nmのレーザー光を照射させた場合における照射時間と透過率との関係を示すものである。斯かる特性図より明らかなように透過率がレーザー光の照射に伴って低下するが、その透過率の低下範囲を光ピックアップ装置の対物レンズとして使用可能な範囲に抑えることが出来る。
【0048】
従って、DVD規格の光ディスクに対応した波長が650nmである赤色のレーザー光の集光動作を行うための対物レンズに使用されるものと同じ材料に紫外線を照射させて成形された対物レンズをBlu−ray規格の光ディスクDに記録されている信号の再生動作や記録動作を行うために使用される青紫色のレーザー光、即ち波長が405nmのレーザー光を光ディスクDの信号記録層Lに集光させる対物レンズとして支障なく使用することが出来ることになる。
【0049】
図4に示す特性図は水銀キセノンランプから放射される紫外線の合成樹脂材料に対する照射時間が異なる対物レンズに波長が405nmの青紫色レーザー光を照射させた場合における照射時間と透過率との関係を示すものである。同図において、100%の透過率とは、波長が650nmである赤色のレーザー光の集光動作を行うための対物レンズに使用されるものと同じ材料の合成樹脂材料にて成形された対物レンズに紫外線を照射させない場合における波長が405nmである青紫色レーザー光の透過率である。
【0050】
図4に示す特性は、前述したように水銀キセノンランプから放射される波長が360nmの紫外線を照射させた合成樹脂材料にて成形された対物レンズの透過率の変化を示すものである。この特性から紫外線の照射によって対物レンズの初期透過率が低下設定され、青紫色レーザー光の照射時間が経過した時点で対物レンズの透過率が低下して安定していることが分かる。
【0051】
前述したように対物レンズの青紫色レーザー光に対する透過率は紫外線の照射条件によって変化せしめられるが、透過率の初期設定値及び変化特性は、紫外線の照射時間を調整することによって種々な値に設定することが出来る。
【0052】
そして、前述した実施例では、水銀キセノンランプから放射される紫外線を合成樹脂材料に照射させることによって透過率の設定動作を行うようにしたが、斯かる水銀キセノンランプは紫外領域におけるスペクトル強度と幅が大きく、広いスペクトル輝線群を有するという特性を有している。その結果、合成樹脂材料に紫外線を照射する場合に紫外線の強度分布等を均一にすることが困難であり、精度の高い対物レンズを得るためには照射作業を精度良く行なう必要がある。
【0053】
また、最近、前述した水銀キセノンランプに対して単波長、例えば波長が365nmの紫外線を生成する紫外線発光ダイオードが商品化されており、斯かる発光ダイオードから放射される紫外線を前述した合成樹脂材料に照射させた場合における対物レンズの透過特性が水銀キセノンランプから放射される紫外線を照射させた場合と異なる特性を示すことが確認出来た。
【0054】
図5に示す特性図は紫外線発光ダイオードから放射される紫外線を照射させた対合成樹脂材料にて成形された物レンズに波長が405nmの青紫色レーザー光を照射させた場合における照射時間と透過率との関係を示すものである。尚、同図においても、100%の透過率とは、波長が650nmである赤色のレーザー光の集光動作を行うための対物レンズに使用されるものと同じ材料の合成樹脂材料に紫外線を照射させて成形された対物レンズに波長が405nmである青紫色レーザー光の透過率である。
【0055】
図5に示す特性は、前述したように紫外線発光ダイオードから放射される波長が365nmの紫外線を照射させた合成樹脂材料にて成形された対物レンズの透過率の変化を示すものであるが、紫外線の照射を行なうと波長が405nmの青紫色レーザー光に対する透過率が僅かに上昇するとともに波長が405nmの青紫色レーザー光を長時間照射しても大きく低下することはなく透過率100%程度で安定していることが分かる。
【0056】
図4及び図5に示す特性図より明らかなように発光ダイオードから放射される紫外線を照射させた合成樹脂材料にて成形された対物レンズの透過率の方が水銀キセノンランプから放射される紫外線を照射させた合成樹脂材料にて成形された対物レンズの透過率より高くなるので、合成樹脂材料に照射する紫外線を生成する手段としては紫外線発光ダイオードを使用する方が有利である。
【0057】
水銀キセノンランプから放射される紫外線や紫外線発光ダイオードから放射される紫外線を合成樹脂材料に照射させる時間を調整することによって対物レンズの初期透過率を所望の値に設定することが出来るが、初期透過率は紫外線の強度と照射時間に基づいて設定することが出来る。
【0058】
尚、本実施例では、合成樹脂材料にて対物レンズ10を成形する場合について説明したが、図2に示した光ピックアップ装置の光学系を構成するコリメートレンズ6やセンサーレンズ8を合成樹脂材料にて成形する場合にも実施することが出来る。
【0059】
また、本実施例では、粉体状にある合成樹脂材料に対して紫外線を照射させるようにしたが、溶融された状態にある合成樹脂材料に対して紫外線を照射させるようにすることも出来る。そして、溶融された状態にある合成樹脂材料に対して紫外線の照射動作を行う場合にも攪拌しながら行うことによって紫外線の照射を均一に行うことが出来る。
【0060】
更に、本実施例では、合成樹脂製レンズを射出成形機にて製造するようにしたが、他の成形機によって製造することは勿論可能である。
【0061】
本実施例の対物レンズ10の材料として使用したアペル5014DPと青紫色のレーザー光に適した合成樹脂材料であるゼオネックス340Rの屈折率を比較すると、d線(Naランプ光源の輝線である波長が587.6nmのレーザー光)に対する25℃におけるアペル5014DPの屈折率は、1.5434、ゼオネックス340Rの屈折率は、1.509であり、青紫色である波長が405nmのレーザー光に対する屈折率は、夫々1.5575、1.5215である。
【0062】
このように赤色のレーザー光を使用するDVD用の対物レンズの合成樹脂材料として使用されているアペル5014DP、即ち本発明のレンズの材料として使用される合成樹脂材料の方が青紫色のレーザー光用の対物レンズに使用されている合成樹脂材料よりも屈折率が大きいことが分かる。従って、本発明にて製造される対物レンズは屈折率が大きいので対物レンズの曲率半径を大きくすることが出来、それ故、短焦点の対物レンズを必要とする光ピックアップ装置の対物レンズを製造する場合に本発明は大きな効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の製造方法を示す概略図である。
【図2】本発明により製造されるレンズが組み込まれる光ピックアップ装置を示す概略図である。
【図3】本発明に係る対物レンズの透過特性を示す特性図である。
【図4】本発明に係る対物レンズの製造方法を説明するための特性図である。
【図5】本発明に係る対物レンズの製造方法を説明するための特性図である。
【図6】従来の対物レンズの透過率と時間との関係を示す特性図である。
【符号の説明】
【0064】
1 レーザーダイオード
2 回折格子
3 偏光ビームスプリッタ
6 コリメートレンズ
8 センサーレンズ
10 対物レンズ
11 合成樹脂材料
13 シリンダー
14 金型
15 ノズル
16 照射台
17 紫外線照射機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1波長のレーザー光に対する透過率の低下はなく、該第1波長より波長が短く、且つ紫外線より波長が長い第2波長のレーザー光に対する透過率が照射時間の経過に伴って低下する特性を有する合成樹脂材料を成形することによって製造されるレンズの製造方法であり、成形前の合成樹脂材料に紫外線を照射させるようにしたことを特徴とするレンズの製造方法。
【請求項2】
粉体状にある合成樹脂材料に対して紫外線を照射させるようにしたことを特徴とする請求項1に記載のレンズの製造方法。
【請求項3】
粉体状にある合成樹脂材料を攪拌させた状態にて紫外線を照射させるようにしたことを特徴とする請求項2に記載のレンズの製造方法。
【請求項4】
溶融された合成樹脂材料に対して紫外線を照射させるようにしたことを特徴とする請求項1に記載のレンズの製造方法。
【請求項5】
溶融された合成樹脂材料を攪拌させた状態にて紫外線を照射させるようにしたことを特徴とする請求項4に記載のレンズの製造方法。
【請求項6】
第2波長のレーザー光が青紫色のレーザー光であることを特徴とする請求項1に記載のレンズの製造方法。
【請求項7】
第1波長のレーザー光が赤色のレーザー光であることを特徴とする請求項6に記載のレンズの製造方法。
【請求項8】
水銀キセノンランプから得られる紫外線を合成樹脂材料に照射させるようにしたことを特徴とする請求項1に記載のレンズの製造方法。
【請求項9】
紫外線発光ダイオードから得られる紫外線を合成樹脂材料に照射させるようにしたことを特徴とする請求項1に記載のレンズの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−76259(P2010−76259A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−247202(P2008−247202)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(504464070)三洋オプテックデザイン株式会社 (315)
【Fターム(参考)】