説明

レンズ保持板

【課題】 露光装置内に配置され、光源から発せられた光を集光するレンズを保持するためのレンズ保持板であって、剛性に優れ、なおかつレンズ部材である石英との熱膨張差が小さいレンズ保持板を提供する。
【解決手段】 露光装置内に配置されるレンズ保持板を、Al合金マトリックス中にSiC強化材を40〜80体積%含有する金属基複合材料、または、Si金属マトリックス中にSiC強化材を40〜80体積%含有する金属基複合材料により形成する。このようにして、剛性に優れ、なおかつレンズ部材である石英との熱膨張差が小さいレンズ保持板を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型サイズの基板にマスクを転写するのに適した露光装置に関するものであり、さらに詳しくは、該露光装置内に配置され、光源から発せられた光を集光するレンズを保持するためのレンズ保持板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体、液晶等の基板にフォトリソグラフィーを行う一括露光装置の照明系においては、露光領域を均一に照射するためにインテグレータレンズが一般的に用いられているが、このインテグレータレンズとしては固定式のものが主流である。このため、露光範囲が固定されており、露光照度も上げることができなかった。また、露光光源のランプパワーを上げない限り、露光照度を高くすることは不可能であった。
ここで、露光装置において、スループットの向上は重要な要素の一つであり、そのスループットを決める要素の中で露光時間が最も重要である。もし露光時間を短縮できるならば、スループットを向上することができる。ところが、露光時間を短縮するためには、露光照度を高くする必要がある。
【0003】
しかし、従来技術の露光装置では、露光光源ランプを替えないかぎり、露光照度を変えることができなかった。そこで、露光光源のランプを替えなくても、露光照度を変えることができる露光装置を提供することを目的として複数枚のレンズを切り替えて用いる露光装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
図1に本発明に係わる露光装置の主要部分の概略構成図を示した。図示した露光装置では、光源ランプ1から発せられた露光光はレンズ保持板2に保持されたインテグレータレンズにより集光され、その集光された露光光がステージ上に置かれたマスク3と基板4に転写されて、フォトリソグラフィーを行うことができる。
【0004】
ここで提案されている露光装置においては、露光ランプを替えなくても、露光照度を変えることができる。即ち、露光範囲を狭めることで露光照度が高くなる性質を用いれば良い。好ましくは、曲率半径又は厚みの異なる少なくとも2種類のインテグレータレンズを使用し、それらを必要に応じて切り替えて、基板のサイズが小さいときには露光照射範囲を小さくして露光照度を上げて露光時間を短縮することができる。
従来は、インテグレータレンズを保持するレンズ保持板には鉄などの金属が用いられていた。
【特許文献1】特開2003-188091号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年露光ランプとしてパワーの大きいものが用いられるようになってきており、レンズ保持板の温度上昇による熱膨張により精度ずれが問題となってきた。このような精度ずれを低減するためには、剛性が高く、レンズ部材との熱膨張差の小さい材料の部材で構成されていることが好ましい。
しかし、従来の金属材料ではレンズ部材である石英との熱膨張差が大きく、レンズ保持板に用いると、温度上昇による精度ずれが発生するという問題があった。
【0006】
したがって、本発明の目的は、剛性に優れ、なおかつレンズ部材である石英との熱膨張差が小さいレンズ保持板を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究した結果、剛性が高く、レンズ部材である石英との熱膨張差が小さい金属基複合材料がレンズ保持板として好適であることを見出して本発明を完成した。
即ち本発明の目的は、下記する手段により達成される。
(1)露光装置内に配置され、光源から発せられた光を集光するレンズを保持するためのレンズ保持板であって、該保持板が金属基複合材料で形成されてなることを特徴とするレンズ保持板。
(2)前記金属基複合材料が、Al合金マトリックス中にSiC強化材が複合された金属基複合材料であり、かつ、該複合材料中のSiC強化材の含有率が40〜80体積%であることを特徴とする(1)記載のレンズ保持板。
(3)前記金属基複合材料が、Si金属マトリックス中にSiC強化材が複合された金属基複合材料であり、かつ、該複合材料中のSiC強化材の含有率が40〜80体積%であることを特徴とする(1)記載のレンズ保持板。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、以下に詳細に説明する通り、剛性に優れ、なおかつレンズ部材である石英との熱膨張差が小さいレンズ保持板を有する露光装置を得ることが可能となる。
したがって、半導体、液晶等の基板に高精度なフォトリソグラフィーを行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について、更に詳しく説明する。
本発明では、露光装置内に配置され、光源から発せられた光を集光するレンズを保持するためのレンズ保持板であって、該保持板が金属基複合材料で形成されてなることを特徴とするレンズ保持板を提案している。(請求項1)
金属基複合材料は、強化材としてのセラミックスとマトリックス金属との比率を変化することにより、その熱膨張係数をレンズ部材に合わせて設計変更することが可能である。 従って、レンズ保持板に用いれば、レンズ部材との材質相違による線膨張係数差によって発生する応力を緩和させることが可能である。このような応力は、特に鏡筒内のレンズに直接応力を与え、レンズに歪みを発生させ、投影光学系としての光学性能を悪化させる主要因となっている。
【0010】
金属基複合材料の熱膨張係数は、例えば、強化材がSiC、マトリックスがAl合金の複合材料においては、強化材の含有率を40〜80体積%に変更することによって、熱膨張係数を12.0〜5.0×10-6/℃の範囲で任意に設計変更できる。
また、マトリックスがSi金属の複合材料の場合では、熱膨張係数を2.5〜3.5×-6/℃の範囲で設計変更できる。このように、金属基複合材料はその熱膨張係数を、強化材やマトリックス合金の種類、およびその比率を変更することで自由に設計変更できる。
【0011】
従来のレンズ保持板には鉄などの金属が使用されており、レンズ部材である石英(熱膨張係数0.4×10-6)との熱膨張差が大きかった。金属基複合材料を使用すれば、炭素鋼(熱膨張係数11.×10-6)やステンレス鋼(熱膨張係数17.3×10-6)の場合と比較して、レンズ保持板の周囲が温度変化した場合であっても、レンズ保持板とレンズ部材の材質の相違による熱膨張差によって発生する応力を緩和することができるという効果がある。
【0012】
また、近年半導体露光装置に使用する投影光学系では、より高い解像度を達成するために開口数を大きくすることが要求され、そのため投影光学系を構成する各レンズ部材も大きくなっているため、各レンズ部材の自重変形量も大きくなっている。この様な変形は、精度ずれに影響を与える。
【0013】
そこで、レンズ保持板に金属基複合材料を用いれば、レンズ保持板の軽量化・高剛性化につながり、レンズ保持板の変形を抑制できる。例えば、強化材がSiC、マトリックスがAl合金の金属基複合材料(構成比率SiC80体積%/Al合金20体積%)では、密度3.0g/cm3、剛性率110GPaとなり、炭素鋼(密度7.9g/cm3、剛性率85GPa)やステンレス鋼(密度7.9g/cm3、剛性率87GPa)の場合と比較すると、本発明の金属基複合材料がレンズ保持板として良好な軽量性・高剛性を有している。
さらに、金属基複合材料は、鉄と比べて放熱性の点でも優れている。 例えば、強化材がSiC、マトリックスがAl合金構成比率SiC70体積%/Al合金30体積%)の複合材料(熱伝導率170W/mK)は、炭素鋼(熱伝導率59W/mK)やステンレス鋼(熱伝導率16W/mK)と比較して、放熱性に優れており、レンズ保持板として好適である。
【0014】
また、本発明では、前記金属基複合材料が、Al合金マトリックス中にSiC強化材が複合された金属基複合材料であり、かつ、該複合材料中のSiC強化材の含有率が40〜80体積%であることを特徴とするレンズ保持板を提案している。(請求項2)
さらに、本発明では、前記金属基複合材料が、Si金属マトリックス中にSiC強化材が複合された金属基複合材料であり、かつ、該複合材料中のSiC強化材の含有率が40〜80体積%であることを特徴とするレンズ保持板を提案している。(請求項3)
【0015】
ここで、SiC強化材の含有率を40〜80体積%に限定したのは、SiC含有率が40体積%より少ないと、マトリックスがAl合金の複合材料では剛性が60GPa以下に低下し制振性が低下するため好ましくなく、また、マトリックスが金属Siの複合材料では、熱伝導率が150W/mK以下に低下し放熱性が悪くなるため好ましくないためである。
また、SiC強化材の含有率を80体積%以下とする理由は、これよりSiC含有率が多いと、マトリックスがAl合金、Si金属いずれの場合も、緻密な金属基複合材料が得られなくなるからである。
【0016】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
〔実施例1〕
(1)SiC−Al合金複合材料の作製
市販のSiCの粗粒(信濃電気精錬社製、平均粒径50μm )60体積部と微粒(信濃電気精錬社製、平均粒径10μm )40体積部に無機バインダーとしてコロイダルシリカ液(固形分30重量部)10重量部を混合し、イオン交換水を30重量部加えてスラリーを調整した。このスラリーを金型に流し込み、フィルタープレスで脱水して脱型し、大気中で1200℃の温度で熱処理し、SiCの充填率が70体積%のプリフォームを得た。
次に得られたプリフォームとAl合金(JIS規格、AC8A合金)を窒素雰囲気中で900℃の温度で24時間保持して、溶融Al合金をプリフォームに浸透させてSiC−Al合金複合材料(強化材SiCの含有率は70体積%)を作製した。
【0017】
(2)評価
得られた複合材料から□4×20mmの試験片を切り出し、理学社性のTMA8140で熱膨張係数を求めた。密度はJIS R 1634記載の方法で求めた。また、剛性率はヤング率およびポアソン比を2×20×100mmの試験片から共振法で求め、剛性率に換算した。さらに、別途φ5×1mmの試験片を切り出し、レーザーフラッシュ法で熱伝導率を求めた。結果を表1に示す。
【0018】
〔実施例2〕
(1)SiC−Si金属複合材料の作製
市販のSiC粉末の粗粒(信濃電気精錬社製、平均粒径50μm)60重量部と微粒(信濃電気精錬社製、平均粒径10μm)40重量部に有機バインダーとしてフェノール樹脂10重量部(炭素換算3重量部)を混合し、プレス成形した後、窒素雰囲気中で1000℃の温度で3時間加熱処理を行った。これにより、フェノール樹脂は炭化されSiC充填率70体積%のプリフォームを得た。得られたプリフォームと金属Siとをアルゴン雰囲気中で1500℃の温度で3時間保持して溶融したSiとプリフォーム中に含まれている炭素とを反応させてSiCとすると同時にSiを浸透させることによりSiC−Si複合材料(強化材SiCの含有率は70体積%)を作製した。
(2)評価
実施例1と同様に、複合材料を評価した。その結果も表1に示す。
【0019】
〔比較例〕
市販のステンレス鋼(SUS304)を購入し、実施例1と同様の評価を行った。その結果も表1に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
表1の結果から明らかなように、本発明の実施例1および2により得られた金属基複合材料は、レンズとして用いられる石英(熱膨張係数0.4×10-6)と熱膨張係数が近く、さらに、軽量であり、剛性が大きく、熱伝導率が大きいことが分かった。
本発明の実施例1および2により得られた複合材料によりレンズ保持板を作成し露光装置に実際に配置して液晶基板にフォトリソグラフィーを行ったところ、従来例である比較例によりレンズ保持板を配置した露光装置より10倍も高精度で転写を行うことが可能であった。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係わる露光装置の主要部分の概略構成図である。
【符号の説明】
【0023】
1;光源
2;レンズ保持板
3;マスク
4;基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
露光装置内に配置され、光源から発せられた光を集光するレンズを保持するためのレンズ保持板であって、該保持板が金属基複合材料で形成されてなることを特徴とするレンズ保持板。
【請求項2】
前記金属基複合材料が、Al合金マトリックス中にSiC強化材が複合された金属基複合材料であり、かつ、該複合材料中のSiC強化材の含有率が40〜80体積%であることを特徴とする請求項1記載のレンズ保持板。
【請求項3】
前記金属基複合材料が、Si金属マトリックス中にSiC強化材が複合された金属基複合材料であり、かつ、該複合材料中のSiC強化材の含有率が40〜80体積%であることを特徴とする請求項1記載のレンズ保持板。

【図1】
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【公開番号】特開2006−12930(P2006−12930A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−184354(P2004−184354)
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】