説明

レンズ及びその製造方法

【課題】単体で収差の小さいレンズおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】レンズ面10の表面に薄膜13が形成されてなるレンズ1であって、薄膜13は、所定の一方向に沿って該所定の一方向と直交する方向でかつレンズ面10の中心を通る線に対して、線対称な厚み分布を有するように厚みが変化し、かつ所定の一方向と直交する方向に沿って厚みが一定とされた非軸対称の厚み分布、あるいは所定の一方向に沿って該所定の一方向と直交する方向でかつレンズ面の中心を通る線に対して線対称な厚み分布を有するように厚みが変化し、かつ所定の一方向と直交する方向に沿って厚みが一定とされた非軸対称の厚み分布を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ面を有してなるレンズ及びその製造方法に関し、特にレンズ面の表面に成膜をなすことにより収差を補正したレンズ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ディスク装置等に用いられる光ピックアップには、レーザ光源からの光を集光し記録媒体の表面に当てると共に、その反射光を受光素子へと導く対物レンズが用いられる。この対物レンズは、ガラス素材あるいは樹脂材を成形型により成形してなり、したがって成形型を予め製作しておく必要がある。成形型は、金属材を回転させ切削及び研削により非球面のレンズ形状を形成してなるため、ほぼ回転対称に非球面形状を形成することができるが、加工時において異物等を挟み込むことにより、非軸対称な形状となる場合がある。また、レンズを成形する際に、熱分布が均一でないことによっても、形状が非軸対称な形状となることがある。このように、成形されたレンズが非軸対称な形状を有することにより、非点収差が発生することとなる。
【0003】
また、対物レンズは光源側と記録媒体側の両面にレンズ面を有しており、このため成形型にも対向する2つのレンズ形成面が設けられる。これらの製作誤差等に伴い、対向する2つのレンズ形成面の軸がずれたり、あるいは傾きが生じることがある。これによって、レンズの両レンズ面に軸ずれあるいは傾きが生じることにより、コマ収差が発生することとなる。
【0004】
さらに、レンズに光軸と平行な光線を入射させたとき、レンズの光軸に近い光線の焦点位置に比べ、光軸から離れたレンズ周辺部に入射した光線の焦点位置がレンズに近い方にずれる、いわゆる球面収差が発生する。球面収差は、レンズの開口数が大きいほど、大きくなる。
【0005】
非点収差やコマ収差を補正するために、ビーム成形レンズを用いたり、あるいはレンズを機器に対して傾斜状に取付けること行われている。また、球面収差を補正するためには、可動型コリメートレンズの焦点位置を変えて、入射倍率を変化させることが行われている。このように収差の補正を行うものとしては、例えば特許文献1に挙げるようなものがある。
【特許文献1】特開2006−338811号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来のレンズで各収差を補正するためには、前述のように補正のためのレンズを設けたり、あるいはレンズの取付角度を調整したりする必要があった。このため、機器が大型化したり、またはレンズの取付工程が複雑になるといった問題があった。
【0007】
本発明は前記課題を鑑みてなされたものであり、単体で収差の小さいレンズおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明に係るレンズは、レンズ面の表面に薄膜が形成されてなるレンズであって、
前記薄膜は所定の一方向に沿って厚みが変化し、かつ前記所定の一方向と直交する方向に沿って厚みが一定とされた非軸対称の厚み分布を有することを特徴として構成されている。
【0009】
また、本発明に係るレンズは、レンズ面の表面に薄膜が形成されてなるレンズであって、
前記薄膜は所定の一方向に沿って該所定の一方向と直交する方向でかつ前記レンズ面の中心を通る線に対して線対称な厚み分布を有するように厚みが変化し、かつ前記所定の一方向と直交する方向に沿って厚みが一定とされた非軸対称の厚み分布を有することを特徴として構成されている。
【0010】
さらに、本発明に係るレンズは、前記薄膜は所定の一方向に沿って厚みが単調増加する厚み分布を有することを特徴として構成されている。
【0011】
さらにまた、本発明に係るレンズの製造方法は、レンズ面を有したレンズの製造方法において、
前記レンズ面を成形し、前記レンズ面に光を照射して非点収差の発生方向及び発生量を測定し、前記レンズ面と対向するように長手状の妨害部を配置し、該妨害部は前記レンズ面に生じる非点収差の発生方向に対応して長手方向の向きを決めると共に、前記妨害部の位置の直下に前記レンズ面の中心位置が配置され、前記妨害部の上方から前記レンズ面に対して成膜することで、所定の一方向に沿って厚みが変化し、かつ前記所定の一方向と直交する方向に沿って厚みが一定とされた非軸対称の厚み分布を有する薄膜を前記レンズ面の表面に形成することを特徴として構成されている。
【0012】
そして、本発明に係るレンズの製造方法は、レンズ面を有したレンズの製造方法において、
前記レンズ面を成形し、前記レンズ面に光を照射して非点収差の発生方向及び発生量を測定し、前記レンズ面と対向するように長手状の妨害部を配置し、該妨害部は前記レンズ面に生じる非点収差の発生方向に対応して長手方向の向きを決めると共に、前記妨害部の位置の直下に前記レンズ面の中心位置が配置され、前記妨害部の上方から前記レンズ面に対して成膜することで、所定の一方向に沿って厚みが変化し、かつ前記所定の一方向と直交する方向に沿って厚みが一定とされた非軸対称の厚み分布を有する薄膜を前記レンズ面の表面に形成することを特徴として構成されている。
【0013】
また、本発明に係るレンズの製造方法は、レンズ面を有したレンズの製造方法において、
前記レンズ面を成形し、前記レンズ面に光を照射して非点収差の発生方向及び発生量を測定し、前記レンズを一方向に揺動自在な揺動台に載置し、該揺動台は成膜方向に対して一方向に揺動することで前記レンズ面の成膜方向に対する角度を一方向に変化させ、前記レンズを前記レンズ面に生じる非点収差の発生方向に応じた向きで前記揺動台に載置し、前記揺動台を往復状に揺動させながら前記レンズ面に対して成膜することで、所定の一方向に沿って厚みが変化し、かつ前記所定の一方向と直交する方向に沿って厚みが一定とされた非軸対称の厚み分布を有する薄膜を前記レンズ面の表面に形成することを特徴として構成されている。
【0014】
さらに、本発明に係るレンズの製造方法は、レンズ面を有したレンズの製造方法において、
前記レンズ面を成形し、前記レンズ面に光を照射してコマ収差の発生方向及び発生量を測定し、前記レンズを一方向にスライド自在な載置台に載置し、該載置台は、成膜領域に対して一方側から進入し、前記レンズ面の全体が成膜領域内に収まった状態までスライドすると共に、進入経路を逆行するようにスライドして前記レンズ面の全体が成膜領域外に出るまでスライドし、前記レンズを前記レンズ面に生じるコマ収差の発生方向に応じた向きで前記載置台に載置し、前記載置台を動作させながら前記レンズ面に対して成膜することで、所定の一方向に沿って厚みが変化し、かつ前記所定の一方向と直交する方向に沿って厚みが一定とされた非軸対称の厚み分布を有する薄膜を前記レンズ面の表面に形成することを特徴として構成されている。
【0015】
さらにまた、本発明に係るレンズの製造方法は、レンズ面を有したレンズの製造方法において、
前記レンズ面を成形し、前記レンズ面に光を照射して球面収差の発生量を測定し、前記レンズ面と対向するように円形妨害部を配置し、該円形妨害部は中心位置が前記レンズ面の中心位置の直上に配置されると共に、半径が前記レンズ面の半径よりも小さく形成され、前記円形妨害部の上方から前記レンズ面に対して成膜することで、中央部において膜厚が薄く、外周部に向かって次第に膜厚が厚くなる軸対称な膜厚分布を有する薄膜を前記レンズ面の表面に形成することを特徴として構成されている。
【0016】
そして、本発明に係るレンズの製造方法は、レンズ面を有したレンズの製造方法において、
前記レンズ面を成形し、前記レンズ面に光を照射して球面収差の発生量を測定し、前記レンズを成膜方向に対して傾斜状となるように回転台に載置し、該回転台は成膜方向に対して傾斜する回転軸を有すると共に、前記レンズ面の光軸と前記回転軸を一直線状に配置し、前記回転台を回転させながら前記レンズ面に対して成膜することで、中央部において膜厚が薄く、外周部に向かって次第に膜厚が厚くなる軸対称な膜厚分布を有する薄膜を前記レンズ面の表面に形成することを特徴として構成されている。
【0017】
また、本発明に係るレンズの製造方法は、レンズ面を有したレンズの製造方法において、
前記レンズ面を成形し、前記レンズ面に光を照射して非点収差の発生量を測定し、前記レンズ面の非点収差の方向に沿って、該非点収差の発生量を減じるように厚みが変化し、かつ前記非点収差の方向と直交する方向に沿って厚みが一定とされた非軸対称の厚み分布を有する薄膜を前記レンズ面に形成することを特徴として構成されている。
【0018】
さらに、本発明に係るレンズの製造方法は、レンズ面を有したレンズの製造方法において、
前記レンズ面を成形し、前記レンズ面に光を照射してコマ収差の発生量を測定し、前記レンズ面のコマ収差の方向に沿って、該コマ収差の発生量を減じるように該方向と直交する方向でかつ前記レンズ面の中心を通る線に対して線対称な厚み分布を有するように厚みが変化し、かつ前記コマ収差の方向と直交する方向に沿って厚みが一定とされた非軸対称の厚み分布を有する薄膜を前記レンズ面に形成することを特徴として構成されている。
【0019】
さらにまた、本発明に係るレンズの製造方法は、レンズ面を有したレンズの製造方法において、
前記レンズ面を成形し、前記レンズ面に光を照射して球面収差の発生量を測定し、前記レンズ面の球面収差の発生量に応じて、該球面収差を減じるように前記レンズ面の中心位置から径方向に沿って厚みが変化すると共に、前記レンズ面の光軸に対して軸対称な厚み分布を有する薄膜を形成することを特徴として構成されている。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るレンズによれば、薄膜はレンズ面の収差特性に応じた厚み分布を有してなることにより、レンズ面に生じた非点収差またはコマ収差の原因となる形状誤差を薄膜によって補正することができ、収差を小さくすることができる。
【0021】
また、本発明に係るレンズによれば、薄膜は所定の一方向に沿って該所定の一方向と直交する方向でかつレンズ面の中心を通る線に対して線対称な厚み分布を有するように厚みが変化し、かつ所定の一方向と直交する方向に沿って厚みが一定とされた非軸対称の厚み分布を有することにより、レンズ面の成形時における形状誤差を補正して収差を小さくすることができる。
【0022】
さらに、本発明に係るレンズによれば、薄膜は所定の一方向に沿って厚みが単調増加する厚み分布を有することにより、レンズ面に生じたコマ収差を補正することができる。
【0023】
さらにまた、本発明に係るレンズの製造方法によれば、レンズ面と対向するようにスリット部を配置し、スリット部はレンズ面に生じる非点収差の発生方向に対応して長手方向の向きを決めると共に、スリット位置の直下にレンズ面の中心位置を配置し、スリット部を介してレンズ面に対して成膜することで、所定の一方向に沿って厚みが変化し、かつ所定の一方向と直交する方向に沿って厚みが一定とされた非軸対称の厚み分布を有する薄膜をレンズ面の表面に形成することにより、非点収差を補正する薄膜をレンズ面の表面に形成することができる。
【0024】
そして、本発明に係るレンズの製造方法によれば、レンズ面と対向するように長手状の妨害部を配置し、妨害部はレンズ面に生じる非点収差の発生方向に対応して長手方向の向きを決めると共に、妨害部の位置の直下にレンズ面の中心位置が配置され、妨害部の上方からレンズ面に対して成膜することで、所定の一方向に沿って厚みが変化し、かつ所定の一方向と直交する方向に沿って厚みが一定とされた非軸対称の厚み分布を有する薄膜をレンズ面の表面に形成することにより、非点収差を補正する薄膜をレンズ面の表面に形成することができる。
【0025】
また、本発明に係るレンズの製造方法によれば、レンズを一方向に揺動自在な揺動台に載置し、揺動台は成膜方向に対して一方向に揺動することでレンズ面の成膜方向に対する角度を一方向に変化させ、レンズをレンズ面に生じる非点収差の発生方向に応じた向きで揺動台に載置し、揺動台を往復状に揺動させながらレンズ面に対して成膜することで、所定の一方向に沿って厚みが変化し、かつ所定の一方向と直交する方向に沿って厚みが一定とされた非軸対称の厚み分布を有する薄膜をレンズ面の表面に形成することにより、非点収差を補正する薄膜をレンズ面の表面に形成することができる。
【0026】
さらに、本発明に係るレンズの製造方法によれば、レンズを一方向にスライド自在な載置台に載置し、載置台は、成膜領域に対して一方側から進入し、レンズ面の全体が成膜領域内に収まった状態までスライドすると共に、進入経路を逆行するようにスライドしてレンズ面の全体が成膜領域外に出るまでスライドし、レンズをレンズ面に生じるコマ収差の発生方向に応じた向きで前記載置台に載置し、載置台を動作させながらレンズ面に対して成膜することで、所定の一方向に沿って厚みが変化し、かつ所定の一方向と直交する方向に沿って厚みが一定とされた非軸対称の厚み分布を有する薄膜をレンズ面の表面に形成することにより、コマ収差を補正する薄膜をレンズ面の表面に形成することができる。
【0027】
さらにまた、本発明に係るレンズの製造方法によれば、レンズ面と対向するように円形妨害部を配置し、円形妨害部は中心位置がレンズ面の中心位置の直上に配置されると共に、半径がレンズ面の半径よりも小さく形成され、円形妨害部の上方からレンズ面に対して成膜することで、中央部において膜厚が薄く、外周部に向かって次第に膜厚が厚くなる軸対称な膜厚分布を有する薄膜をレンズ面の表面に形成することにより、球面収差を補正する薄膜をレンズ面の表面に形成することができる。
【0028】
そして、本発明に係るレンズの製造方法によれば、レンズを成膜方向に対して傾斜状となるように回転台に載置し、回転台は成膜方向に対して傾斜する回転軸を有すると共に、レンズ面の光軸と回転軸を一直線状に配置し、回転台を回転させながらレンズ面に対して成膜することで、中央部において膜厚が薄く、外周部に向かって次第に膜厚が厚くなる軸対称な膜厚分布を有する薄膜をレンズ面の表面に形成することにより、球面収差を補正する薄膜をレンズ面の表面に形成することができる。
【0029】
また、本発明に係るレンズの製造方法によれば、レンズ面の非点収差の方向に沿って、非点収差の発生量を減じるように厚みが変化し、かつ非点収差の方向と直交する方向に沿って厚みが一定とされた非軸対称の厚み分布を有する薄膜をレンズ面に形成することにより、非点収差を薄膜で補正したレンズを製造することができる。
【0030】
さらに、本発明に係るレンズの製造方法によれば、レンズ面のコマ収差の方向に沿って、コマ収差の発生量を減じるように該方向と直交する方向でかつレンズ面の中心を通る線に対して線対称な厚み分布を有するように厚みが変化し、かつコマ収差の方向と直交する方向に沿って厚みが一定とされた非軸対称の厚み分布を有する薄膜をレンズ面に形成することにより、コマ収差を薄膜で補正したレンズを製造することができる。
【0031】
さらにまた、本発明に係るレンズの製造方法によれば、レンズ面の球面収差の発生量に応じて、球面収差を減じるようにレンズ面の中心位置から径方向に沿って厚みが変化すると共に、レンズ面の光軸に対して軸対称な厚み分布を有する薄膜を形成することにより、球面収差を薄膜で補正したレンズを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明の実施形態を図面に沿って詳細に説明する。図1には、本実施形態におけるレンズを有した光ピックアップの概念図を示している。この図に示すように光ピックアップは、記録媒体6と対向するように配置されるレンズ1と、レンズ1に向かって光を発光する半導体レーザからなる発光部2と、レンズ1側からの光を受光する受光部3と、発光部2からの光をレンズ1に入射させると共に、レンズ1からの光を受光部3に入射させるビームスプリッタ4と、レンズ1を保持固定する取付台5とを有して構成されている。
【0033】
光ピックアップにおいて発光部2からの光は、ビームスプリッタ4を介してレンズ1に入射し、レンズ1によって収束光となり記録媒体6に照射される。記録媒体6からの反射光は、レンズ1を介してビームスプリッタ4で屈曲し、受光部3に入射され、記録媒体6に記録された情報を読み取る。
【0034】
図2には、レンズ1の平面図および側面図を示している。図2(a)がレンズ1の平面図であり、図2(b)がレンズ1の側面図である。図2(b)に示すように、レンズ1は凸レンズの形状に形成されてなるレンズ面10を両面に備え、その周囲には全周に渡って鍔部11が形成されている。また、レンズ1は透明なガラス素材からなり、加熱され軟化したガラス素材を成形型で押圧し、成形型の形状を転写することにより形成される。
【0035】
鍔部11は、光軸方向に向かう平面状の取付面12を有している。取付面12はレンズ面10の周縁部よりも外周側部分を構成しており、レンズ1の全周に渡って平面状とされていることで、図2(a)に示すようにリング状の形態を有している。この取付面12は、光ピックアップの取付台5に載置されることで、光ピックアップに対する取付の基準面となる。
【0036】
図3には、レンズ1を成形する成形型20の斜視図を示している。成形型20は、レンズ1の両面を形成するように、対向する2つの部材からなるが、図3にはその一方側を構成する成形型20のみを示している。この図に示すように、成形型20の上面には、凹状の窪みが形成されてレンズ形成面20aを構成している。
【0037】
成形型20のレンズ形成面20aは、形成されるレンズ面10の形状を反転させた形状を有するように、切削及び研削加工によって形成されている。図3には、レンズ形成面20aの中心を通る互いに直行する2本の線が表わされている。このうち実線で表わされた第1の線30に沿った形状誤差と、破線で表わされた第2の線31に沿った形状誤差について、図4に示している。
【0038】
図4は、横軸にはレンズ形成面20aの中心からの距離を、縦軸には設計値に対する実際の形状のずれ量を取って、レンズ形成面20aの第1の線30及び第2の線31における形状誤差を表している。この図に示すように、ここでは第1の線30の全長に渡って形状誤差は0であり、一方で第2の線31に沿った場合には中心から外周側に向うにつれて形状誤差がプラス方向に大きくなるものを想定する。これは、レンズ形成面20aの中心を貫く軸中心で回転させ、切削及び研削加工により成形型20を形成する際に、異物等を挟み込むことにより回転非対称な形状となることなどによって生じるものである。
【0039】
成形型20が図4のように回転非対称な形状である場合、これによって形成されるレンズ1のレンズ面10も、回転非対称な形状となる。図5には、図4の形状誤差を有する成形型20によって形成されたレンズ1の形状誤差分布を表したグラフを示している。この図において実線で表わされているのは、図2(a)で示す第1の線35に沿ったレンズ面10の形状誤差であり、破線で表わされているのは、図2(a)で示す第2の線36に沿ったレンズ面10の形状誤差である。なお、図2(a)の第1の線35及び第2の線36は、それぞれ成形型20について図3で示した第1の線30及び第2の線31に向きが対応している。
【0040】
図5に示すように、レンズ面10の第1の線35に沿った形状誤差と第2の線36に沿った形状誤差には、ずれが生じている。すなわちレンズ面10は回転非対称な形状を有していて、非点収差を生じるものとなっている。具体的には、第1の線35に沿って形状誤差が0である一方、第2の線36に沿って中心から外周側に向かうにつれて形状誤差がマイナス方向に大きくなる。すなわち、レンズ形成面20aの形状誤差を反転した形状誤差が生じる。これに対して、レンズ面10の表面に形状誤差に応じた回転非対称な膜厚を有する薄膜13を成膜することにより、非点収差を補正する。
【0041】
図6には、レンズ面10の表面に形成する薄膜13の膜厚分布を表したグラフを示している。この図において実線で表わされているのは、図2(a)で示す第1の線35に沿った膜厚分布であり、破線で表わされているのは、図2(a)で示す第2の線36に沿った膜厚分布である。なお、ここで薄膜13の膜厚とは、各点におけるレンズ1の法線方向の膜の厚みのこととする。
【0042】
図6に示すように、レンズ面10の表面には図5に示すレンズ1の形状誤差分布を反転した膜厚分布を有するように薄膜13を形成する。すなわち、第1の線35に沿って膜厚が一定であり、第2の線36に沿って中心から外周側に向かうにつれて膜厚が厚くなる膜厚分布を有した薄膜13とする。薄膜13の材質は、レンズ1の材料であるガラスの屈折率に近い材料を用い、例えばアルミナなどを用いることができる。薄膜13の材料は、レンズ1を形成する材料に対して、屈折率が±0.15の範囲にあることが望ましい。
【0043】
図6に示すような膜厚分布を有した薄膜13をレンズ1の表面に成膜することにより、レンズ1に生じた形状誤差を補正し、第1の線35に沿った形状と第2の線36に沿った形状の差を解消することができる。
【0044】
図7には、第1の線35に沿った方向と第2の線36に沿った方向との形状差に対する非点収差の大きさを表したグラフを示している。この図における形状差は、有効径が3mmのレンズ面10を有するレンズ1において、半径位置1.5mmでの形状差を示したものであり、すなわち形状差が最も大きくなるレンズ面10の最外周部における値を採用している。この図に示すように、第1の線35に沿った方向と第2の線36に沿った方向との形状差が小さくなるにつれて、非点収差の大きさが小さくなる。すなわち、レンズ面10に生じた第1の線35に沿った方向と第2の線36に沿った方向との形状差に応じた膜厚分布を有した薄膜13を、レンズ面10の表面に形成することにより、非点収差を小さくすることができる。
【0045】
次に、薄膜13の成膜方法について説明する。図8には、薄膜13の成膜装置の概念図を示している。図8(a)に示すように、成膜装置30には成形されたレンズ1が配置され、その表面に向かって膜材料を噴射する膜材料供給部41が設けられる。膜材料は、成膜装置40内において気体の状態で膜材料供給部41から噴射され、レンズ1の表面に衝突して蒸着される。
【0046】
レンズ1に成膜する際には、予めレンズ面10について非点収差の発生方向及び発生量を測定しておく。非点収差の測定は、光学干渉を用いた回折干渉計測方式をはじめ、どのような手法を用いてもよい。非点収差の方向及び大きさを測定したら、非点収差の補正方向が分かるようにレンズ1の任意の位置にマークを付すことが望ましい。また、非点収差の大きさを測定することで、図7に示す関係から膜厚分布が算出される。
【0047】
レンズ1と膜材料供給部41の間には、棒状あるいは板状からなる長手状の妨害部42が配置される。妨害部42は、レンズ面10の非点収差の発生方向に応じて長手方向の向きが設定され、また妨害部42の直下にレンズ面10の中心位置が来るように配置される。実際には、妨害部42は成膜装置40内に固定されているので、レンズ1を位置合わせすることで、前述の位置関係となるように調整する。
【0048】
図8(b)に示すように、妨害部42の上方に配置された膜材料供給部41からレンズ面10に向かって膜材料が噴射され、これがレンズ面10に蒸着することによって、レンズ面10のうち妨害部42の直下の領域となる中央部では膜厚が薄く、周辺部に向かって次第に膜厚が厚くなる。ここで、妨害部42は長手方向に沿って同形状に形成されており、したがって当該長手方向について膜厚は均一となる。すなわち、妨害部42の長手方向と直交する方向に沿って厚みが変化し、妨害部42の長手方向に沿っては厚みが一定となる膜厚分布、すなわち図6に示すような膜厚分布を有した薄膜13が成膜される。
【0049】
レンズ面10について図5に示すように、第2の線36に沿った際に、中心から周辺に向かって形状誤差がマイナスの方向に大きくなる形状誤差分布を有する場合には、妨害部42を有した成膜装置30により成膜することで、図6に示すような膜厚分布を有する薄膜13を形成することができる。一方でレンズ面10の形状誤差が図5と反転した分布、すなわち第2の線36に沿った際に、中心から周辺に向かって形状誤差がプラスの方向に大きくなる形状誤差分布を有する場合には、以下のように成膜を行う。
【0050】
図9には、第2の形態の成膜装置30の概念図を示している。図9(a)に示すように、成膜装置30内には、レンズ1と膜材料供給部41との間にスリット部43が配置されている。スリット部43は、レンズ面10の非点収差の発生方向に応じて長手方向の向きを定め、またスリット部43の直下にレンズ面10の中心位置が来るように配置される。実際には、スリット部43は成膜装置40内に固定されているので、レンズ1を位置合わせすることで、前述の位置関係となるように調整する。
【0051】
図9(b)に示すように、スリット部43の上方に配置された膜材料供給部41から、スリット部43を介してレンズ面10に対して膜材料が噴射され、これがレンズ面10に蒸着することによって、レンズ面10のうちスリット部43の直下の領域となる中央部では膜厚が厚く、周辺部に向かって次第に膜厚が薄くなる。ここで、スリット部43は長手方向に沿って同形状に形成されており、したがって当該方向については膜厚は均一となる。すなわち、スリット部43の長手方向の直交する方向に沿って厚みが変化し、スリット部43の長手方向に沿っては厚みが一定となる膜厚分布を有した薄膜13が成膜される。
【0052】
図10には、第2の形態の成膜装置30で成膜した薄膜13の膜厚分布を表したグラフを示している。この図において実線で表わされているのは、図2(a)で示す第1の線35に沿った膜厚分布であり、破線で表わされているのは、図2(a)で示す第2の線36に沿った膜厚分布である。この図に示すように、第1の線35に沿って膜厚は一定であり、第2の線36に沿って中心から周辺部に向かうにつれて膜厚が薄くなる膜厚分布を有することとなる。これによって、形状誤差を補正し非点収差を低減させる。
【0053】
また、図10のような膜厚分布を有した薄膜13を形成する成膜装置30として、別の形態の成膜装置30を用いてもよい。図11には、第3の形態の成膜装置30の概念図を示している。この図に示すように、成膜装置30内には、レンズ1を載置する揺動台44が設けられている。揺動台44は、一方向に揺動自在となるように成膜装置30内で保持されると共に、揺動を駆動する駆動部45に接続されている。
【0054】
この形態の成膜装置30では、膜材料供給部41から噴射された膜材料は、直接レンズ面10に到達する。その際に、駆動部45により揺動台44を一方向に揺動させることで、レンズ面10の揺動する一方向については、該揺動により全域に渡って均一に成膜がなされ、当該一方向と直交する方向については、周辺部に向かうにつれて成膜方向に対して傾斜した状態が保たれるため、次第に膜厚が薄く形成される。これによって、図10と同様の膜厚分布を有した薄膜13を形成することができる。
【0055】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態におけるレンズ1は、第1の実施形態のレンズ1と同様の構成を有している。すなわち、図2に示す構成を有している。一方で、本実施形態におけるレンズ1は、レンズの成形の際において両面のレンズ面10間に軸ずれ、あるいは面傾きを生じているものとし、この点で第1の実施形態とは異なっている。両面のレンズ面10間に軸ずれや面傾きを生じた場合、光学的にはコマ収差を生じることとなる。
【0056】
図12には、レンズ面10の形状誤差分布を表したグラフを示している。この図において実線で表わされているのは、図2(a)で示す第1の線35に沿ったレンズ面10の形状誤差であり、破線で表わされているのは、図2(a)で示す第2の線36に沿ったレンズ面10の形状誤差である。図12に示すように、レンズ面10は第1の線35に沿っては形状誤差が0である一方、第2の線36に沿っては形状誤差が一方の外周端から他方の外周端に向かって単調変化し、かつ中心位置では形状誤差が0となる分布を有する。これに対して、レンズ面10の表面に形状誤差に応じた回転非対称な膜厚分布を有する薄膜13を成膜することにより、コマ収差を補正する。
【0057】
図13には、レンズ1の表面に形成する薄膜13の膜厚分布を表したグラフを示している。この図において実線で表わされているのは、図2(a)で示す第1の線35に沿った膜厚分布であり、破線で表わされているのは、図2(a)で示す第2の線36に沿った膜厚分布である。図13に示すように、レンズ1の表面に形成する薄膜13の膜厚分布は、図12に示す形状誤差分布を反転させたものであり、第1の線35に沿っては膜厚が一定であり、第2の線36に沿っては膜厚が一方の外周端から他方の外周端に向かって単調変化し、かつ中心位置では膜厚が第1の線35に沿う膜厚と同じとなるようにしている。
【0058】
図13に示すような膜厚分布を有した薄膜13をレンズ面10の表面に成膜することにより、レンズ面10に生じた形状誤差を補正し、第1の線35に沿った形状と第2の線36に沿った形状の差を解消することができる。なお、薄膜13はレンズ1の両面に形成されたレンズ面10のうち、いずれに成膜してもよい。
【0059】
図14には、第1の線35に沿った方向と第2の線36に沿った方向との形状差に対するコマ収差の大きさを表したグラフを示している。この図における形状差は、有効径が3mmのレンズ面10を有するレンズ1において、半径位置1.5mmでの形状差を示したものであり、すなわち形状差が最も大きくなるレンズ面10の最外周部における値を採用している。この図に示すように、第1の線35に沿った方向と第2の線36に沿った方向との形状差が小さくなるにつれて、非点収差の大きさが小さくなる。すなわち、レンズ面10に生じた第1の線35に沿った方向と第2の線36に沿った方向との形状差に応じた膜厚分布を有した薄膜13を、レンズ1の表面に形成することにより、コマ収差を小さくすることができる。
【0060】
次に、薄膜13の成膜方法について説明する。図15には、薄膜13の成膜装置の概念図を示している。この図に示すように、成膜装置30には成形されたレンズ1を載置する載置台46と、レンズ1の表面に向かって膜材料を噴射する膜材料供給部41とが設けられる。膜材料は、成膜装置40内において気体の状態で膜材料供給部41から噴射され、レンズ1の表面に衝突して蒸着される。
【0061】
載置台46は、膜材料が噴射される領域に対して出没自在となるようにスライドすることができる。このスライド動作を行うため、成膜装置30内には駆動部47が設けられている。駆動部47により載置台46を駆動することにより、載置台46は膜材料が噴射される領域に対し、一方側から進入し、全体が領域内に納まった状態までスライドする。スライド端部まで載置台46がスライドしたら、載置台46は進入経路を逆行するようにスライドし、全体が領域外に出た状態までスライドする。このスライド動作を膜材料が膜材料供給部41から供給されている間、繰り返す。
【0062】
レンズ1に成膜する際には、予めレンズ面10についてコマ収差の発生方向及び発生量を測定しておく。コマ収差の測定は、光学干渉を用いた回折干渉計測方式をはじめ、どのような手法を用いてもよい。コマ収差の方向及び大きさを測定したら、コマ収差の補正方向が分かるようにレンズ1の任意の位置にマークを付すことが望ましい。また、コマ収差の大きさを測定することで、図14に示す関係から膜厚分布が算出される。
【0063】
レンズ1は、測定されたコマ収差の発生方向に応じて載置台46に対する向きが定められ、載置される。レンズ1を載置した載置台46が、膜材料が噴射されている領域に対し、一方側から出没を繰り返すようにスライドされることにより、スライド方向における薄膜13の膜厚分布は、膜材料が噴射される領域に対して進入する際のスライド先端側の方が、スライドの一往復間においてより長く膜材料が噴射される領域にあるため、膜厚が厚くなり、それと反対側の端部に向かって膜厚が薄くなる分布を有することとなる。一方、レンズ面10の表面に対しスライド方向と直交する方向については均一な膜厚となる。すなわち、図13に示す膜厚分布を有した薄膜13をレンズ面10の表面に形成することができる。
【0064】
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。本実施形態におけるレンズ1は、第1の実施形態のレンズ1と同様の構成を有している。すなわち、図2に示す構成を有している。一方で、本実施形態におけるレンズ1は、レンズの成形の際においてレンズ厚がずれたり、あるいは面形状のずれが生じることにより、回転対称状に形状誤差を有しているものとし、この点で第1の実施形態とは異なっている。これによって、光学的には球面収差を生じることとなる。
【0065】
図16には、レンズ面10の形状誤差分布を表したグラフを示している。本実施形態のレンズ1は、回転対称状に形状誤差を生じているので、図16にはレンズ面10の中心を通る一方向に沿った形状誤差分布のみを示している。この図に示すように、レンズ面10は中心位置の誤差が最も小さく、両外周端に向かって形状誤差がマイナス方向に次第に大きくなる形状誤差分布を有する。これに対して、レンズ面10の表面に形状誤差に応じた回転対称な膜厚分布を有する薄膜13を成膜することにより、球面収差を補正する。
【0066】
図17には、レンズ面10の表面に形成する薄膜13の膜厚分布を表したグラフを示している。この図に示すように、レンズ面10の表面に形成する薄膜13の膜厚分布は、図16に示す形状誤差分布を反転させたものであり、中心位置の膜厚が最も小さく、両外周端に向かって膜厚が次第に厚くなる分布としている。図17に示すような膜厚分布を有した薄膜13をレンズ面10の表面に成膜することにより、レンズ面10に生じた形状誤差を補正し、それを解消することができる。
【0067】
図18には、形状誤差の大きさに対する球面収差の大きさを表したグラフを示している。この図における形状誤差は、有効径が3mmのレンズ面10を有するレンズ1において、半径位置1.5mmでの形状誤差を示したものであり、すなわち形状誤差が最も大きくなるレンズ面10の最外周部における値を採用している。この図に示すように、形状誤差が小さくなるにつれて、球面収差の大きさが小さくなる。すなわち、レンズ面10に生じた形状誤差分布に応じた膜厚分布を有した薄膜13を、レンズ面10の表面に形成することにより、球面収差を小さくすることができる。
【0068】
次に、薄膜13の成膜方法について説明する。図19には、薄膜13の成膜装置の概念図を示している。この図に示すように、成膜装置30には成形されたレンズ1が配置されると共に、レンズ1の表面に向かって膜材料を噴射する膜材料供給部41が設けられる。膜材料は、成膜装置40内において気体の状態で膜材料供給部41から噴射され、レンズ1の表面に衝突して蒸着される。
【0069】
レンズ1に成膜する際には、予めレンズ面10について球面収差の発生量を測定しておく。球面収差の測定は、光学干渉を用いた回折干渉計測方式をはじめ、どのような手法を用いてもよい。球面収差の大きさを測定することで、図18に示す関係から膜厚分布が算出される。
【0070】
レンズ1と膜材料供給部41の間には、円形状を有した円形妨害部48が配置される。円形妨害部48は、その中心位置がレンズ面10の中心位置の直上に配置され、また半径はレンズ面10の半径よりも小さく形成されている。膜材料供給部41から供給された膜材料は、円形妨害部48を介してレンズ面10に対して噴射されることにより、レンズ面10の表面にはその中央部において膜厚が薄く、外周部に向かって次第に膜厚が厚くなる膜厚分布を有した薄膜13が形成される。すなわち、図17に示した膜厚分布を有する薄膜13を形成することができる。
【0071】
図17に示した膜厚分布を有する薄膜13を形成する成膜装置としては、別の形態も考えられる。図20には、本実施形態における別の形態の成膜装置の概念図を示している。この図に示すように、成膜装置30には成形されたレンズ1が配置されると共に、レンズ1の表面に向かって膜材料を噴射する膜材料供給部41が設けられる。膜材料は、成膜装置40内において気体の状態で膜材料供給部41から噴射され、レンズ1の表面に衝突して蒸着される。
【0072】
レンズ1は、膜材料の噴射方向に対して傾斜状となるように回転台49に載置される。回転台49は、膜材料の噴射方向に対し傾斜した方向を軸として回転自在とされており、これを回転駆動する駆動部50に接続されている。駆動部50により回転台49を回転させることにより、レンズ1は膜材料の噴射方向に対し傾斜した状態のまま、回転台49の軸を中心に回転する。
【0073】
レンズ1は、光軸が回転台49の回転軸と一直線状となるように配置され、この状態で回転台49を回転させつつ膜材料を噴射すると、レンズ面10の外周端部は成膜方向に面する方向を向いており、レンズ面10の中心部に近づくほど成膜方向に対して傾斜する方向を向いた状態で回転することとなるので、回転対称でかつ外周側ほど膜厚が厚くなる膜厚分布、すなわち図17に示した膜厚分布を有する薄膜13をレンズ面10の表面に形成することができる。
【0074】
レンズ面10の形状誤差分布が図16に示した分布と反転した分布、すなわち中心位置の誤差が最も大きく、両外周端に向かって形状誤差が次第に小さくなる形状誤差分布である場合、レンズ面10の表面に形成される薄膜13の膜厚分布は、図17に示す分布と反転した分布とする必要がある。
【0075】
この場合の成膜装置は、レンズ面10が成膜方向を向くようにレンズ1を配置し、膜材料供給部41から直接レンズ面10に膜材料を噴射することにより、成膜方向を向いたレンズ面10の中央部は膜厚が厚く、成膜方向に対して傾斜する方向を向いたレンズ面10の外周側ほど膜厚が薄くなる膜厚分布、すなわち図17に示した膜厚分布を反転した膜厚分布を有する薄膜13をレンズ面10の表面に形成することができる。
【0076】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の適用は本実施形態には限られず、その技術的思想の範囲内において様々に適用されうるものである。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】レンズを有した光ピックアップの概念図である。
【図2】レンズの平面図および側面図である。
【図3】レンズを成形する成形型の斜視図である。
【図4】第1の実施形態におけるレンズ形成面の第1の線に沿った形状誤差と、第2の線31に沿った形状誤差を表したグラフである。
【図5】図4の形状誤差を有する成形型によって形成されたレンズの形状誤差分布を表したグラフである。
【図6】レンズ面の表面に形成する薄膜の膜厚分布を表したグラフである。
【図7】第1の実施形態におけるレンズ面の第1の線に沿った方向と第2の線に沿った方向との形状差に対する非点収差の大きさを表したグラフである。
【図8】薄膜の成膜装置の概念図である。
【図9】第2の形態の成膜装置の概念図である。
【図10】第2の形態の成膜装置で成膜した薄膜の膜厚分布を表したグラフである。
【図11】第3の形態の成膜装置の概念図である。
【図12】第2の実施形態におけるレンズ面の形状誤差分布を表したグラフである。
【図13】レンズの表面に形成する薄膜の膜厚分布を表したグラフである。
【図14】第2の実施形態におけるレンズ面の第1の線に沿った方向と第2の線に沿った方向との形状差に対するコマ収差の大きさを表したグラフである。
【図15】薄膜の成膜装置の概念図である。
【図16】第3の実施形態におけるレンズ面の形状誤差分布を表したグラフである。
【図17】レンズ面の表面に形成する薄膜の膜厚分布を表したグラフである。
【図18】形状誤差の大きさに対する球面収差の大きさを表したグラフである。
【図19】薄膜の成膜装置の概念図である。
【図20】別の形態の成膜装置の概念図である。
【符号の説明】
【0078】
1 レンズ
2 発光部
3 受光部
4 ビームスプリッタ
5 取付台
6 記録媒体
10 レンズ面
11 鍔部
12 取付面
13 薄膜
20 成形型
20a レンズ成形面
40 成膜装置
41 膜材料供給部
42 妨害部
43 スリット部
44 揺動台
45 駆動部
46 載置台
47 駆動部
48 円形妨害部
49 回転台
50 駆動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ面の表面に薄膜が形成されてなるレンズであって、
前記薄膜は所定の一方向に沿って厚みが変化し、かつ前記所定の一方向と直交する方向に沿って厚みが一定とされた非軸対称の厚み分布を有することを特徴とするレンズ。
【請求項2】
レンズ面の表面に薄膜が形成されてなるレンズであって、
前記薄膜は所定の一方向に沿って該所定の一方向と直交する方向でかつ前記レンズ面の中心を通る線に対して線対称な厚み分布を有するように厚みが変化し、かつ前記所定の一方向と直交する方向に沿って厚みが一定とされた非軸対称の厚み分布を有することを特徴とするレンズ。
【請求項3】
前記薄膜は所定の一方向に沿って厚みが単調増加する厚み分布を有することを特徴とする請求項2記載のレンズ。
【請求項4】
レンズ面を有したレンズの製造方法において、
前記レンズ面を成形し、前記レンズ面に光を照射して非点収差の発生方向及び発生量を測定し、前記レンズ面と対向するようにスリット部を配置し、該スリット部は前記レンズ面に生じる非点収差の発生方向に対応して長手方向の向きを決めると共に、スリット位置の直下に前記レンズ面の中心位置を配置し、前記スリット部を介して前記レンズ面に対して成膜することで、所定の一方向に沿って厚みが変化し、かつ前記所定の一方向と直交する方向に沿って厚みが一定とされた非軸対称の厚み分布を有する薄膜を前記レンズ面の表面に形成することを特徴とするレンズの製造方法。
【請求項5】
レンズ面を有したレンズの製造方法において、
前記レンズ面を成形し、前記レンズ面に光を照射して非点収差の発生方向及び発生量を測定し、前記レンズ面と対向するように長手状の妨害部を配置し、該妨害部は前記レンズ面に生じる非点収差の発生方向に対応して長手方向の向きを決めると共に、前記妨害部の位置の直下に前記レンズ面の中心位置が配置され、前記妨害部の上方から前記レンズ面に対して成膜することで、所定の一方向に沿って厚みが変化し、かつ前記所定の一方向と直交する方向に沿って厚みが一定とされた非軸対称の厚み分布を有する薄膜を前記レンズ面の表面に形成することを特徴とするレンズの製造方法。
【請求項6】
レンズ面を有したレンズの製造方法において、
前記レンズ面を成形し、前記レンズ面に光を照射して非点収差の発生方向及び発生量を測定し、前記レンズを一方向に揺動自在な揺動台に載置し、該揺動台は成膜方向に対して一方向に揺動することで前記レンズ面の成膜方向に対する角度を一方向に変化させ、前記レンズを前記レンズ面に生じる非点収差の発生方向に応じた向きで前記揺動台に載置し、前記揺動台を往復状に揺動させながら前記レンズ面に対して成膜することで、所定の一方向に沿って厚みが変化し、かつ前記所定の一方向と直交する方向に沿って厚みが一定とされた非軸対称の厚み分布を有する薄膜を前記レンズ面の表面に形成することを特徴とするレンズの製造方法。
【請求項7】
レンズ面を有したレンズの製造方法において、
前記レンズ面を成形し、前記レンズ面に光を照射してコマ収差の発生方向及び発生量を測定し、前記レンズを一方向にスライド自在な載置台に載置し、該載置台は、成膜領域に対して一方側から進入し、前記レンズ面の全体が成膜領域内に収まった状態までスライドすると共に、進入経路を逆行するようにスライドして前記レンズ面の全体が成膜領域外に出るまでスライドし、前記レンズを前記レンズ面に生じるコマ収差の発生方向に応じた向きで前記載置台に載置し、前記載置台を動作させながら前記レンズ面に対して成膜することで、所定の一方向に沿って厚みが変化し、かつ前記所定の一方向と直交する方向に沿って厚みが一定とされた非軸対称の厚み分布を有する薄膜を前記レンズ面の表面に形成することを特徴とするレンズの製造方法。
【請求項8】
レンズ面を有したレンズの製造方法において、
前記レンズ面を成形し、前記レンズ面に光を照射して球面収差の発生量を測定し、前記レンズ面と対向するように円形妨害部を配置し、該円形妨害部は中心位置が前記レンズ面の中心位置の直上に配置されると共に、半径が前記レンズ面の半径よりも小さく形成され、前記円形妨害部の上方から前記レンズ面に対して成膜することで、中央部において膜厚が薄く、外周部に向かって次第に膜厚が厚くなる軸対称な膜厚分布を有する薄膜を前記レンズ面の表面に形成することを特徴とするレンズの製造方法。
【請求項9】
レンズ面を有したレンズの製造方法において、
前記レンズ面を成形し、前記レンズ面に光を照射して球面収差の発生量を測定し、前記レンズを成膜方向に対して傾斜状となるように回転台に載置し、該回転台は成膜方向に対して傾斜する回転軸を有すると共に、前記レンズ面の光軸と前記回転軸を一直線状に配置し、前記回転台を回転させながら前記レンズ面に対して成膜することで、中央部において膜厚が薄く、外周部に向かって次第に膜厚が厚くなる軸対称な膜厚分布を有する薄膜を前記レンズ面の表面に形成することを特徴とするレンズの製造方法。
【請求項10】
レンズ面を有したレンズの製造方法において、
前記レンズ面を成形し、前記レンズ面に光を照射して非点収差の発生量を測定し、前記レンズ面の非点収差の方向に沿って、該非点収差の発生量を減じるように厚みが変化し、かつ前記非点収差の方向と直交する方向に沿って厚みが一定とされた非軸対称の厚み分布を有する薄膜を前記レンズ面に形成することを特徴とするレンズの製造方法。
【請求項11】
レンズ面を有したレンズの製造方法において、
前記レンズ面を成形し、前記レンズ面に光を照射してコマ収差の発生量を測定し、前記レンズ面のコマ収差の方向に沿って、該コマ収差の発生量を減じるように該方向と直交する方向でかつ前記レンズ面の中心を通る線に対して線対称な厚み分布を有するように厚みが変化し、かつ前記コマ収差の方向と直交する方向に沿って厚みが一定とされた非軸対称の厚み分布を有する薄膜を前記レンズ面に形成することを特徴とするレンズの製造方法。
【請求項12】
レンズ面を有したレンズの製造方法において、
前記レンズ面を成形し、前記レンズ面に光を照射して球面収差の発生量を測定し、前記レンズ面の球面収差の発生量に応じて、該球面収差を減じるように前記レンズ面の中心位置から径方向に沿って厚みが変化すると共に、前記レンズ面の光軸に対して軸対称な厚み分布を有する薄膜を形成することを特徴とするレンズの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2010−86574(P2010−86574A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−252356(P2008−252356)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】