説明

レンチ

【課題】奥まった箇所であっても、締付け対象を適正なトルク範囲で締め付けることができるレンチを提供する。
【解決手段】レンチ10は、一端に形成された嵌合部11と、他端に形成された応力印加部12と、一端と他端との間を連結する連結部13と、トルク制限部材14とを有する。嵌合部11は、締付け対象20のナット又はボルトの頭に嵌合する。応力印加部12は、締付け対象20のナット又はボルトを回転させる横方向の応力が外部から印加される。連結部13は、長尺形状を有し、中間に折り曲げ部13aを有する。トルク制限部材14は、応力印加部12と折り曲げ部13aとの間に挿入され、応力印加部12に所定の応力が印加されると応力方向に弾性的に変形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンチに関し、更に詳しくは、締付け対象に印加するトルクを制限するレンチに関する。
【背景技術】
【0002】
ボルト等の締付け対象を締め付ける際には、締付け対象に応じた締付トルク(単に、トルクともいう)が要求される。トルクレンチでは、締付け対象に印加したトルクを目盛り等で判断するタイプと、所定のトルクで締め付けると、それ以上の締め付けを防止するタイプとがあり、締め付け作業の労力を軽減できる。
【0003】
特許文献1には、一枚の板材からプレス加工で製作されたトルクレンチが記載されている。このトルクレンチでは、締付け対象の形状に合わせたレンチ頭部と、設定トルク値の指針となる折り曲げ部と、把持部とを有する。折り曲げ部は、板材を長手方向に切り欠き、切り欠いた部分の端部を設定トルク値に対応した長さだけ直角方向に折り曲げることで形成される。トルクレンチは、レンチ頭部に締付け対象を嵌合させ、把持部でトルクを印加することで、印加されたトルクに応じて折り曲げ部が変形する。作業者は、その変形量を目視して、適切なトルクを締付け対象に印加できる。
【0004】
特許文献2には、締付け対象を狭持する狭持部と、狭持部に連続して設けられた弾性変形部材と、弾性変形部材に連続して設けられた把持部とを備えたトルクレンチが記載されている。狭持部は、相対向する一対の板状部材での各々の内側の面で締付け対象を狭持する。弾性変形部は、所定の大きさを超えるトルクが印加されると、弾性変形して狭持部が締付け対象を狭持することを不可能とする。このトルクレンチでは、締付け対象を締め付ける際に、印加したトルクが設定トルク値に達すると、狭持部が締付け対象を狭持できなくなり、設定トルク値以上のトルクが締付け対象に印加されることを防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭61−042263号公報
【特許文献2】特開2007−237340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1,2に記載のトルクレンチでは、把持部と、トルク頭部又は狭持部とが略直線状に形成されているので、穴底部等の奥まった箇所にボルト等を締め付けることが困難であった。特に、生産設備や複雑な機械等を組み立てる際には、奥まった箇所でトルクレンチを用いることができないために、トルク管理を行うことが困難であった。
【0007】
本発明は、奥まった箇所であっても、締付け対象を適正なトルク範囲で締め付けることができるレンチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、一端に締付け対象のナット又はボルトの頭に嵌合する嵌合部が形成され、他端に前記締付け対象のナット又はボルトを回転させる横方向の応力が外部から印加される応力印加部が形成され、前記一端と前記他端との間を連結する長尺状の連結部が中間に折り曲げ部を有するレンチであって、
前記応力印加部と前記折り曲げ部との間に挿入され、前記応力印加部に所定の応力が印加されると応力方向に弾性的に変形するトルク制限部材を備えることを特徴とするレンチを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のレンチでは、奥まった箇所であっても、締付け対象を適正なトルク範囲で締め付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るレンチの構成を示す図。
【図2】(a)及び(b)は、図1に示すレンチを用いて締付け対象を締め付ける動作を示す図。
【図3】(a)及び(b)は、締付け対象を締め付ける作業が完了した際のトルク制限部材の状態を示す図。
【図4】本発明の第2の実施形態に係るレンチの構成を示す図。
【図5】本発明の第3の実施形態に係るレンチの構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のレンチは、最小基本構成として、一端に形成された嵌合部と、他端に形成された応力印加部と、一端と他端との間を連結する連結部と、トルク制限部材とを有する。嵌合部は、締付け対象のナット又はボルトの頭に嵌合する。応力印加部は、締付け対象のナット又はボルトを回転させる横方向の応力が外部から印加される。連結部は、長尺形状を有し、中間に折り曲げ部を有する。トルク制限部材は、応力印加部と折り曲げ部との間に挿入され、応力印加部に所定の横方向応力が印加されると、その応力方向に弾性的に変形する。
【0012】
上記レンチでは、嵌合部と応力印加部との間を連結する連結部が、長尺状であり、中間に折り曲げ部を有するので、たとえ、奥まった箇所であっても、嵌合部に締付け対象を嵌合させることができる。この状態で、応力印加部に応力を印加すると、締付け対象が回転し、応力が所定の応力に到達すると、トルク制限部材が弾性変形する。従って、奥まった箇所であっても、締付け対象を適正なトルク範囲で締め付け可能である。
【0013】
(第1の実施形態)
以下、図面を参照し、本発明の例示的な実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明の第1の実施形態に係るレンチの構成を示す図である。レンチ10は、ボルト等の締付け対象に適正なトルクを印加するトルクレンチであって、一端に形成された嵌合部11と、他端に形成された把持部12と、一端と他端との間を連結する連結部13と、トルク制限部材14とを有する。
【0014】
嵌合部11は、締付け対象となるボルト等の頭部に嵌合する。把持部12は、締付け対象を回転させる横方向の応力が外部から印加される応力印加部であって、作業者によって把持される。連結部13は、全体として長尺形状を有し、中間に折り曲げ部13aを有する。
【0015】
トルク制限部材14は、把持部12と折り曲げ部13aとの間に挿入され、把持部12に所定の応力が印加されると応力方向に弾性的に変形する。トルク制限部材14としては、コイルばねを用いた。また、嵌合部11、把持部12及び連結部13の断面は、六角形状を有している。このため、レンチ10は、小型で安価な六角レンチを加工、即ち、把持部12と折り曲げ部13aとの間にトルク制限部材14を挿入して取付け固定することで作製できる。
【0016】
次に、図2を参照して、レンチ10を用いて締付け対象を締め付ける動作について説明する。まず、図2(a)に示すように、締付け対象であるボルト20の頭部に嵌合部11を嵌合させる。このとき、連結部13が長尺状であり、且つ、中間に折り曲げ部13aを有するので、生産設備内の奥まった箇所であっても、ボルト20の頭部に嵌合部11を容易に嵌合させることができる。なお、ボルト20は、適宜の部材21,22の孔部23に締め付けるものとする。
【0017】
次に、作業者が、把持部12を把持しながら、ボルト20を回転させる横方向(図中、矢印A)の応力を印加する。横方向の応力が印加されると、ボルト20が回転して、部材21,22の孔部23に徐々に捩じ込まれる。
【0018】
続いて、図2(b)に示すように、ボルト20の回転に伴って、ボルト20の頭部の下面が部材22の上面に接すると、回転が止まる。そして、ボルト20を孔部23に締め付けるためのトルクが徐々に印加される。引き続き、トルクを印加すると、印加したトルクが、予め設定していた適正なトルク範囲に到達した時点で、トルク制限部材14が、図中、矢印Bに示す方向に弾性変形する。なお、矢印Bに示す方向は、トルク制限部材14が弾性変形する直前まで印加していた応力の方向となる。
【0019】
トルク制限部材14の弾性変形に伴い、把持部12が傾いて、ボルト20の締付け作業が完了する。作業者は、把持部12が傾いたことで、ボルト20に適正なトルク範囲のトルクが印加されたことを確認できる。また、レンチ10は、このような構成を有するので、ボルト20に印加したトルクと、トルク制限部材14の曲がり具合との対応関係を示す表を予め作成しておけば、作業者が、この表に基づいて印加したトルクの値を判断できる。
【0020】
図3は、締付け対象の締付け作業が完了した際のトルク制限部材14の状態を示す図である。締付け作業は、図3(a)に示すように、把持部12が僅かに傾いただけで完了する場合や、図3(b)に示すように、把持部12が略直角に傾くまでは完了しない場合が想定される。
【0021】
上記何れの場合であっても、トルク制限部材14の位置やばね定数を予め選定することで、トルク制限部材14が弾性変形する際のトルクが、締付け対象であるボルト20の適正な締付トルク範囲内に収まるようにすればよい。このようにすれば、レンチ10は、締付工具とトルク管理工具とを兼用したものとなる。
【0022】
本実施形態のレンチ10では、嵌合部11と把持部12との間を連結する連結部13が、長尺状であり、中間に折り曲げ部13aを有するので、たとえ、奥まった箇所であっても、嵌合部11に締付け対象を容易に嵌合させることができる。
【0023】
また、レンチ10は、六角レンチを用いて、把持部12と折り曲げ部13aとの間にトルク制限部材14を配置することで製作できるため、従来のトルクレンチのようにサイズが大きくならない。このため、小型設備の内部等、狭い空間での作業が容易となる。また、レンチ10は、簡素な構造であるため、締付け対象の適正なトルク範囲に合わせた仕様の変更が容易であり、しかも安価に製作できる。
【0024】
さらに、レンチ10は、トルク制限部材14を有するので、作業者によって締付トルクがばらつくことはない。このため、生産設備や複雑な機械等を組み立てた後で、トルク不足によるボルトのゆるみや脱落、或いは、締め付け過ぎによるねじ山及びボルト頭の破損が発生することを防止できる。なお、レンチ10は、従来のトルクレンチを用いた正確なトルク管理までは要求されないが、適正なトルク範囲で締付け対象を締め付けることが要求される作業に好適である。また、レンチ10は、トルク制限部材14としてばねを用いるので、適正なトルク範囲が同一の複数の締付け対象を締め付ける際に、調整が不要で繰り返し使用可能である。
【0025】
(第2の実施形態)
図4は、本発明の第2の実施形態に係るレンチの構成を示す図である。レンチ10Aは、トルク制限部材15として板ばねを用いている点で、上記レンチ10と異なる。レンチ10Aでは、板ばねを用いることで、構造をより簡素化できる。
【0026】
(第3の実施形態)
図5は、本発明の第3の実施形態に係るレンチの構成を示す図である。レンチ10Bは、トルク制限部材16としてヒンジを用いている点で、上記トルク10と異なる。トルク制限部材16は、印加される応力によって弾性的に角度が変化するばねヒンジである。レンチ10Bでは、ばねヒンジを用いることで、適正なトルク範囲が大きい締付け対象を締め付けることができる。
【0027】
上記各実施形態では、嵌合部11、把持部12及び連結部13の断面が、六角形状である場合を例示したが、これに限定されず、四角形等の他の多角形状であってもよい。また、トルク制限部材としては、適正なトルク範囲で弾性変形するのであれば、上記各ばねに限らず、中実円筒状のばね部材や、適宜の弾性部材を選択可能である。
【0028】
以上、本発明をその好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明のレンチは、上記実施形態の構成にのみ限定されるものではなく、上記実施形態の構成から種々の修正及び変更を施したものも、本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0029】
10,10A,10B:レンチ
11:嵌合部
12:把持部(応力印加部)
13:連結部
13a:折り曲げ部
14〜16:トルク制限部材
20:ボルト(締付け対象)
21,22:部材
23:孔部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に締付け対象のナット又はボルトの頭に嵌合する嵌合部が形成され、他端に前記締付け対象のナット又はボルトを回転させる横方向の応力が外部から印加される応力印加部が形成され、前記一端と前記他端との間を連結する長尺状の連結部が中間に折り曲げ部を有するレンチであって、
前記応力印加部と前記折り曲げ部との間に挿入され、前記応力印加部に所定の応力が印加されると応力方向に弾性的に変形するトルク制限部材を備えることを特徴とするレンチ。
【請求項2】
前記トルク制限部材が、コイルばねから構成される、請求項1に記載のレンチ。
【請求項3】
前記トルク制限部材が、板ばねから構成される、請求項1に記載のレンチ。
【請求項4】
前記トルク制限部材が、中実円筒状のばね部材である、請求項1に記載のレンチ。
【請求項5】
前記トルク制限部材が、印加される応力によって弾性的に角度が変化するヒンジを含む、請求項1に記載のレンチ。
【請求項6】
少なくとも前記連結部及び前記応力印加部の断面が多角形状を有する、請求項1〜5の何れか一に記載のレンチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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