説明

レーザフラッシュ法を用いた熱定数の測定方法

【課題】透熱性材料の熱定数を精度良く測定することが可能なレーザフラッシュ法を用いた熱定数の測定方法を提供する。
【解決手段】表面に照射したレーザ光の熱エネルギーの一部が裏面に直接到達する透熱性材料の熱拡散率、ビオ数、及び透熱係数を測定するレーザフラッシュ法を用いた熱定数の測定方法であって、試料11の表面をレーザ光で照射し試料11の裏面の温度変化を測定して裏面温度変化データを求める第1工程と、透熱性材料の熱拡散率、ビオ数、及び試料11の表面から裏面への直接的な熱エネルギーの伝熱量を示す透熱係数を変数として含み、試料11の表面をレーザ光で照射した際の試料11の裏面温度の理論的な時間変化を示す裏面温度理論式から得られる理論裏面温度変化データと裏面温度変化データとを比較して、熱拡散率、ビオ数、及び透熱係数を決定する第2工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に照射したレーザ光の熱エネルギーの一部が瞬時に裏面に直接到達する透熱性材料の熱拡散率、ビオ数、及び透熱係数を高精度で測定するレーザフラッシュ法を用いた熱定数の測定方法に関する。ここで、透熱性材料としては、例えば、断熱材、ガラス、及び高温域において熱伝達における輻射の寄与が無視できないポーラスセラミックス等がある。
【背景技術】
【0002】
材料の熱定数、例えば、熱拡散率を測定する方法として、特許文献1に記載されたレーザフラッシュ法が近年多用されている。この方法は、熱拡散率を求めたい材料から、例えば、直径10mm前後で、厚さが数ミリ程度の試料を作製し、この試料の表面をレーザ光で短時間照射した際の試料裏面の温度を測定して、得られた裏面温度データとレーザ光で試料表面を照射した際の裏面温度の理論的な時間変化を示す裏面温度理論式とを比較、解析することにより試料の熱拡散率を求めるものである。このとき、試料が満足すべき必要条件は、裏面温度理論式が導出される際の試料の条件となる。
【0003】
一方、従来のレーザフラッシュ法で使用する試料の裏面温度理論式は、(11)式に示す非定常の一次元熱伝導方程式を、(12)式に示す初期条件、(13)式及び(14)式に示す境界条件のもとで解くことにより得られるものであり、裏面温度理論式が導出される際の試料が満足すべき条件は、
(イ)試料の表面から裏面へ(15)式のフーリエの式に基づき、(11)式を変形した(16)式の一次元熱伝導方程式が成立すること
(ロ)試料の表面に照射するレーザ光のエネルギーが試料の表面で吸収されること
となる。従って、レーザフラッシュ法による測定で試料が満たすべき条件としては、(イ)の条件から、試料は均質、緻密な材料であること、(ロ)の条件から試料は不透明であることが導かれる。また、試料の裏面温度理論式としては、(17)式〜(19)式に示す時間空間解や、(20)式及び(21)式に示すラプラス空間解が用いられる。ここで、qは熱流束、kは熱伝導率、Tは温度、xは試料表面から内部に進入した距離、tは時間、ρは密度、cは比熱、αは熱拡散率、Lは試料厚さ、hは試料表裏面からの放射損失を表すビオ数、pはラプラス変数である。また、Qはレーザ光照射により試料表面の単位面積当たりに供給される入熱量で、f(t)は全時間領域における積分値を1として規格化した関数であり、Qf(t)はレーザ光照射により試料表面に吸収される単位時間単位面積当たりの入熱量となる。
【0004】
【数1】

【0005】
【特許文献1】特開平8−261967号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されたレーザフラッシュ法を用いた熱拡散率の測定は、測定の簡便性や短時間測定が可能であること等多くの利点を有しているため、上記のレーザフラッシュ法による測定で試料が満たすべき条件が厳密には成立しない材料に対しても広く適用されているのが現状である。例えば、緻密な透光性材料の場合には、試料表裏面に黒化膜や金属膜を形成して不透光化して測定し、断熱材料等のポーラスな材料には、試料表裏面に黒化膜や金属膜を形成して不透光化すると同時に近似的に均質、緻密とみなされる程度にまで試料を厚くして測定している。
しかしながら、高温域においては、試料表裏面に黒化膜等の不透光膜を施した状態でも透熱性現象が見られ、更に、ポーラスセラミックスでは通常の熱伝導現象以外に試料内を熱が輻射により伝達する輻射熱伝達現象も生じて、(イ)及び(ロ)の条件が満足されず、熱拡散率測定に大きな誤差が生じ、測定される熱拡散率が真値より大きい値になるという問題がある。
【0007】
本発明は係る事情に鑑みてなされたもので、表面に照射したレーザ光の熱エネルギーの一部が瞬時に裏面に直接到達する透熱性材料の熱定数を精度良く測定することが可能なレーザフラッシュ法を用いた熱定数の測定方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的に沿う本発明に係るレーザフラッシュ法を用いた熱定数の測定方法は、表面に照射したレーザ光の熱エネルギーの一部が裏面に直接到達する透熱性材料の熱拡散率、ビオ数、及び透熱係数を測定するレーザフラッシュ法を用いた熱定数の測定方法であって、
前記透熱性材料から作製した試料の表面を前記レーザ光で照射し該試料の裏面の温度変化を測定して裏面温度変化データを求める第1工程と、
前記透熱性材料の熱拡散率、ビオ数、及び該試料の表面から裏面への直接的な熱エネルギーの伝熱量を示す透熱係数を変数として含み、前記試料の表面を前記レーザ光で照射した際の該試料の裏面温度の理論的な時間変化を示す裏面温度理論式から得られる理論裏面温度変化データと前記裏面温度変化データとを比較して、前記透熱性材料の熱拡散率、ビオ数、及び透熱係数を決定する第2工程とを有する。
【0009】
本発明に係るレーザフラッシュ法を用いた熱定数の測定方法において、前記裏面温度理論式は、一次元熱伝導方程式のラプラス空間解であり、前記裏面温度変化データは、測定した前記試料の裏面の温度変化をラプラス変換したものであることが好ましい。
【0010】
本発明に係るレーザフラッシュ法を用いた熱定数の測定方法において、前記透熱性材料の熱拡散率、ビオ数、及び透熱係数を、前記理論裏面温度変化データと前記裏面温度変化データとの2乗偏差を最小とする条件から決定することができる。
【0011】
本発明に係るレーザフラッシュ法を用いた熱定数の測定方法において、前記裏面温度変化データの温度減衰領域から求まる実測減衰時定数と、前記裏面温度理論式から求まる理論減衰時定数式の時定数とを同値とする付加条件を求め、該付加条件の下で、前記透熱性材料の熱拡散率、ビオ数、及び透熱係数を、前記理論裏面温度変化データと前記裏面温度変化データとの2乗偏差を最小とする条件から決定することもできる。
【0012】
なお、試料が厚みLの板形状の場合、一次元熱伝導方程式は(1)式で示され、(1)式を(2)式に示す初期条件、(3)式及び(4)式に示す境界条件のもとで解いたラプラス空間解は(5)式となる。
【0013】
【数2】

【0014】
ここで、Tは温度、xは前記試料の表面から裏面に向かう距離、tは時間、αは前記透熱性材料の熱拡散率、ρは前記透熱性材料の密度、cは前記透熱性材料の比熱、Qは前記試料の表面の単位面積当たりの入熱量、f(t)は全時間領域における積分値を1として規格化した関数で、Qf(t)は前記試料の表面の単位面積に単位時間当たりに供給される入熱量、kは前記透熱性材料の熱伝導率、hはビオ数、ηは前記透熱性材料の透熱係数、pはラプラス変数、rは(p/α)1/2である。
【0015】
本発明に係るレーザフラッシュ法を用いた熱定数の測定方法において、前記裏面温度変化データの温度減衰領域から求まる実測減衰時定数と、前記透熱性材料の熱拡散率及びビオ数のみを変数として含み(すなわち、透熱係数を考慮しない場合の)前記試料の表面を前記レーザ光で照射した際の該試料の裏面温度の理論的な時間変化を示す裏面温度理論式から求まる理論減衰時定数式の時定数とを同値とする付加条件を求め、該付加条件の下で、前記透熱性材料の熱拡散率、ビオ数、及び透熱係数を、前記理論裏面温度変化データと前記裏面温度変化データとの2乗偏差を最小とする条件から決定してもよい。
【0016】
なお、試料が厚みLの板形状の場合、一次元熱伝導方程式は数1の(11)式で示され、(11)式を(12)式に示す初期条件、(13)式及び(14)式に示す透熱係数を考慮しない境界条件のもとで解いたラプラス空間解は(20)式となる。
【発明の効果】
【0017】
請求項1〜5記載のレーザフラッシュ法を用いた熱定数の測定方法においては、試料の表面から裏面への直接的な熱エネルギーの伝熱量を示す透熱係数を変数として含んだ裏面温度理論式を、試料の裏面の温度変化の測定から得られた裏面温度変化データに当てはめて熱拡散率、ビオ数、及び透熱係数を決定するので、透熱係数が変化しても熱拡散率を精度良く求めることが可能になる。その結果、透熱性材料の熱定数を精度良く測定することが可能となる。
【0018】
特に、請求項2記載のレーザフラッシュ法を用いた熱定数の測定方法においては、裏面温度理論式として一次元熱伝導方程式のラプラス空間解を、裏面温度変化データとしてラプラス変換した試料裏面の温度変化を用いるので、裏面温度理論式を裏面温度変化データに当てはめる数値処理を効率的に行うことができ、透熱性材料の熱拡散率、ビオ数、及び透熱係数を容易に決定することができる。
【0019】
請求項3記載のレーザフラッシュ法を用いた熱定数の測定方法においては、裏面温度変化データを反映する熱拡散率、ビオ数、及び透熱係数を容易に決定することができる。
2乗偏差を最小化するので、計算の効率を向上させることができると共に計算誤差を適正範囲内に限定させることができ、裏面温度変化データの採集から透熱性材料の熱拡散率、ビオ数、及び透熱係数の決定までを容易に自動化して、透熱性材料の熱拡散率、ビオ数、及び透熱係数を短時間に高精度で決定することが可能になる。
【0020】
請求項4及び5記載のレーザフラッシュ法を用いた熱定数の測定方法においては、付加条件を設けることにより変数の数を減少させることができ、計算量を大幅に減少させて透熱性材料の熱拡散率、ビオ数、及び透熱係数を効率的に決定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
ここで、図1は本発明の一実施の形態に係るレーザフラッシュ法を用いた熱定数の測定方法に使用する測定装置の説明図、図2は同レーザフラッシュ法を用いた熱定数の測定方法において、熱拡散率、ビオ数、及び透熱係数を決定する際の手順を示す解析フロー図、図3は試料形状、密度、熱拡散率、ビオ数、及び透熱係数が既知の試料表面をレーザ光で加熱した際に裏面温度理論式から作成した裏面温度変化を示すグラフ、図4は測定試料の裏面温度の変化の解析から決定した熱拡散率の解析精度と透熱係数の関係を示すグラフである。
【0022】
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係るレーザフラッシュ法を用いた熱定数の測定方法に使用する測定装置10は、透熱性材料から作製した試料11の表面にレーザ光を短時間照射し、試料11の裏面の温度変化の測定から得られた裏面温度変化データを基に透熱性材料の熱拡散率、ビオ数、及び透熱係数を求める装置であり、レーザ光を発生させるレーザ光発生部12と、発生したレーザ光を加熱波形の検出を行なうレーザ光検出部13に向かうレーザ光及び試料11の表面を照射する加熱用のレーザ光に分配するハーフミラー14と、試料11の裏面の温度変化を測定する測定部15とを有している。更に、測定装置10は、レーザ光検出部13より入力される信号から試料11の裏面温度の理論的な時間変化を示す裏面温度理論式を、測定部15より入力される信号から試料11の裏面温度変化データをそれぞれ作成し、裏面温度理論式を裏面温度変化データに当てはめて試料11の熱拡散率、ビオ数、及び透熱係数を決定する演算処理部16と、演算処理部16による演算結果を表示する出力器17とを有している。以下詳細に説明する。
【0023】
レーザ光発生部12には、試料11を高温雰囲気に保持した場合でも雰囲気の熱変動を超える熱エネルギーを試料11の表面に注入することが可能な、例えば、ルビーレーザー発振器を使用することができる。試料11の大きさは測定装置10に設けられた図示しない試料ホルダーのサイズにより決定される。ハーフミラー14は、ルビーレーザ光の吸収率が極めて小さく、かつ透過性が極めて高い材質を有した基板の表面に、入射したルビーレーザ光から所定量の光を反射するコーティング層を設けた構成となっており、入射したルビーレーザ光の光量の一部を反射し、残りを通過させることができる。
【0024】
従って、レーザ光発生部12から発生したレーザ光がハーフミラー14により反射しレーザ光検出部13の受光器に到達するようにレーザ光検出部13の受光部の光軸を調整することにより、レーザ光発生部12から発射されたレーザ光の一部をレーザ光検出部13に導入してレーザ光の加熱波形を測定することができる。また、レーザ光発生部12で発生しハーフミラー14を透過したレーザ光の光軸と試料11の中心軸とを一致させることにより、試料11の表面をレーザ光で確実に照射することができる。これにより、試料11の表面をレーザ光で照射した場合、試料11の裏面の温度変化を非定常の一次元熱伝導方程式により表すことができる。
【0025】
測定部15は、レーザ光が照射された試料11の裏面の温度変化を高速で精度よく測定できる機能を有する必要があり、例えば、熱電対又は放射型温度計等の温度検知センサーを備えた温度計測器が使用できる。演算処理部16は、レーザ光検出部13からの信号を読み込んで試料11の裏面温度理論式を求める機能と、測定部15からの信号(時間変化する試料11の裏面温度の信号)を読み込んで実測した裏面温度のラプラス変換を行なって裏面温度変化データを求める機能を備えている。更に、演算処理部16は、裏面温度理論式から求まる理論裏面温度変化データと裏面温度変化データとの2乗偏差を求め、この2条偏差を最小とする条件から試料11の熱拡散率、ビオ数、及び透熱係数を決定する機能を備えている。そして、演算処理部16は、例えば、パーソナルコンピュータに上記の各機能を発現するプログラムを搭載させることにより構成することができる。なお、出力器17には、例えば、パーソナルコンピュータ用の表示機器、印刷機が使用できる。
【0026】
続いて、本発明の一実施の形態に係るレーザフラッシュ法を用いた熱定数の測定方法について説明する。
測定装置10の図示しない試料室の扉を開けて試料11を試料ホルダー上にセットし、試料室を真空等の所定雰囲気に調整する。また、試料11の厚みL、密度ρ、及び比熱cを演算処理部16に入力しておく。そして、試料室内の温度を制御し試料11が所定の温度に安定した段階でレーザ光発生部12からレーザ光をハーフミラー14に向けて発射する。発射されたレーザ光はハーフミラー14に到達し、ハーフミラー14によってレーザ光の光量の一部は反射されてレーザ光検出部13に到達しレーザ光の加熱波形が求められ、そのデータは演算処理部16に転送される。又はフミラー14を透過したレーザ光は試料11の表面に到達し表面を瞬間的に加熱する。
【0027】
レーザ光により試料11の表面が加熱されると、試料11表面に注入された熱エネルギーの一部は試料11の裏面に直接到達し、残部は試料11内を裏面に向かって伝導するので、試料11の裏面の温度は徐々に上昇する。しかし、試料11の表面、側面、及び裏面からの熱の散逸も同時に生じているので、試料11の裏面の温度は最高温度を経てから徐々に低下する。このときの温度変化を、例えば赤外線検出器を備えた測定部15により測定し、得られた測定値は演算処理部16に転送される。演算処理部16では、測定部15から転送された測定値を記録すると共に、測定値のラプラス変換を行なって裏面温度変化データE(データ数をNとすると、jは1〜N)を作成し記録する(以上、第1工程)。
【0028】
一方、演算処理部16には、厚みがLの板形状の試料の表面にレーザ光が照射されて表面が加熱された際に、この試料内を表面から裏面に熱が伝導する状態を記述する、すなわち、試料の表面から裏面へ表面と裏面の間に生じた温度勾配に比例した熱流束が生じることに基づく数2の(1)式で示される一次元熱伝導方程式を、(2)式で示される初期条件、(3)及び(4)式でそれぞれ示される試料の表面、裏面での境界条件のもとで解いた、(5)式に示すラプラス空間解が裏面温度理論式として予め入力されている。ここで、Tは温度、xは試料の表面から裏面に向かう距離、tは時間、αは透熱性材料の熱拡散率、ρは透熱性材料の密度、cは透熱性材料の比熱、Qは試料の表面の単位面積当たりの入熱量、f(t)は全時間領域における積分値を1として規格化した関数で、Qf(t)は試料の表面の単位面積に単位時間当たりに供給される入熱量、kは透熱性材料の熱伝導率、hはビオ数、ηは透熱性材料の透熱係数、pはラプラス変数である。
【0029】
従って、レーザ光検出部13で求められたレーザ光の加熱波形データが演算処理部16に入力され、試料11の表面をレーザ光で照射した際の試料11の裏面温度理論式を用いて理論裏面温度変化データT(L,p)を作成する。そして、理論裏面温度変化データは熱拡散率α、ビオ数h、及び試料11の表面から裏面への直接的な熱エネルギーの伝熱量を示す透熱係数ηを変数として含むことになり、演算処理部16に記録されている裏面温度変化データEと比較することで、熱拡散率α、ビオ数h、及び透熱係数ηを決定する(以上、第2工程)。
【0030】
ここで、熱拡散率α、ビオ数h、及び透熱係数ηは、(6)式に示す理論裏面温度変化データT(L,p)と裏面温度変化データEとの2乗偏差Rを最小とする条件から決定する。
【0031】
【数3】

【0032】
熱拡散率α、ビオ数h、及び透熱係数ηを決定する方法としては、2乗偏差Rが熱拡散率α、ビオ数h、及び透熱係数ηを独立変数とする関数となることから、最小2乗法又はニュートン法を適用して、2乗偏差Rが最小値となるときの熱拡散率α、ビオ数h、及び透熱係数ηを、それぞれ求める試料11の熱拡散率α、ビオ数h、及び透熱係数ηとする直接法と、裏面温度変化データの温度減衰領域から求まる実測減衰時定数τと、裏面温度理論式の温度減衰領域から求まる理論減衰時定数式τとを同値とする付加条件を求め、この付加条件の下で2乗偏差Rが最小値となるときの熱拡散率α、ビオ数h、及び透熱係数ηを、それぞれ求める試料11の熱拡散率α、ビオ数h、及び透熱係数ηとする時定数法が採用できる。ここで、理論減衰時定数式τは(7)〜(9)式で与えられるので、τ=τとすることにより付加条件式が得られ、この付加条件式を用いることで、2乗偏差Rの独立変数の個数を1つ減少できる。ここに、(7)式は、試料11の裏面温度の減衰領域において試料11の表裏面間の直接的エネルギー授受が無視できない場合に使用する時定数式である。(8)式及び(9)式は試料11の裏面温度の減衰領域において試料11の表裏面間の直接的エネルギー授受が無視できる場合に用いる時定数式であって、透熱性材料の熱拡散率及びビオ数のみを変数として含む裏面温度理論式から求まる理論減衰時定数式である。
【0033】
【数4】

【0034】
続いて、2乗偏差Rを最小とする条件から熱拡散率α、ビオ数h、及び透熱係数ηを決定
する方法について更に説明する。
この方法は、図2に示すように、熱拡散率α、ビオ数h、及び透熱係数ηの独立変数に対応して、2つの計算ループと1つの計算処理より構成され、外側より、判定2で2乗偏差Rの減少が収束したと判定されるまで2乗偏差Rを減少させる透熱係数ηの繰り返し探索を行なう透熱係数ηループと、判定1で2乗偏差Rの減少が収束したと判定されるまで2乗偏差Rを減少させるビオ数hの繰り返し探索を行なうビオ数hループと、一番内側にあり、透熱係数η、ビオ数hを固定した条件で2乗偏差Rが減少する方向に徐々に熱拡散率αの値を更新する熱拡散率α更新処理よりなる。
【0035】
熱拡散率α更新処理では、ニュートン法又は最小2乗法により2乗偏差Rが減少する方向に初期設定した熱拡散率αから逐次熱拡散率αを設定変更することが行なわれる。また、ビオ数hループでは、透熱係数ηを固定した条件のもとで2乗偏差Rを最小とするビオ数h及び熱拡散率αを求められ、このとき、直接法又は時定数法が適用される。直接法を適用する場合は、2乗偏差Rが減少する方向にビオ数を逐次設定変更し、この際、ビオ数h設定変更毎に熱拡散率αを更新する熱拡散率α更新処理も実行する。一方、時定数法を適用する場合は、事前に裏面温度変化データの温度減衰領域から求まる実測減衰時定数τを測定しておく。初期設定したビオ数hのもとに熱拡散率αを逐次設定変更し、得られた熱拡散率αを時定数式に代入してビオ数hを更新する。そして、更新されたビオ数hをもとに熱拡散率αを更新する。この手順を繰り返し最終的に2乗偏差Rを最小とする熱拡散率α及びビオ数hを求める。
【0036】
透熱係数ηループでは、2乗偏差Rが減少する方向に初期設定した透熱係数ηから逐次透熱係数ηを設定変更して最終的に2乗偏差Rを最小とすることにより透熱係数ηを求める。この際、透熱係数ηを設定変更する毎にビオ数hループ及び熱拡散率α更新処理を実行する。そして、判定2で2乗偏差Rの減少が収束したと判定されたときの熱拡散率α、ビオ数h、及び透熱係数ηが、求める試料11の熱拡散率α、ビオ数h、及び透熱係数ηとなる。
【0037】
続いて、本発明の一実施の形態に係るレーザフラッシュ法を用いた熱定数の測定方法の有効性を検討するため熱拡散率αが1×10−5/s、厚さ2.433mm、透熱係数ηが0、1、5、及び10である透熱性材料の表面を加熱幅1msの右下がり三角波形のレーザ光で加熱したときの裏面温度理論式から裏面の理論温度変化データを算出し、このデータを裏面温度変化データとした。ここで、ビオ数hは0.01とした。図3に裏面温度変化データを示す。なお、図3では、裏面温度変化データ及びレーザ光の加熱波形は、いずれも規格化して表示している。
そして、図3に示す裏面温度変化データに対して、図2に示す解析フロー図に示された計算処理を行なって、熱拡散率α、ビオ数h、及び透熱係数ηを求めた。なお、熱拡散率α及びビオ数hの決定には、直接法と時定数法を適用した。
【0038】
透熱係数ηが0、1、5、及び10の透熱性材料の理論裏面温度変化データを用いて解析して得られた熱拡散率αと、透熱性材料の熱拡散率αとして設定した1×10−5/sとの比較から熱拡散率精度を算出し、熱拡散率精度に及ぼす透熱係数ηの影響を調べた。その結果を図4に示す。なお、図4には、透熱係数ηが0、1、5、及び10の各試料の裏面温度変化データに対して、透熱現象を考慮していない従来の解析法で求めた熱拡散率αの熱拡散率精度も示している。
図4から、透熱現象を伴う試料に対して、レーザフラッシュ法における従来の解析法を適用して熱拡散率αを求めた場合、透熱係数ηの増大と共に熱拡散率解析精度が悪くなることが確認される。一方、透熱現象を伴う試料に対して、本発明のレーザフラッシュ法を用いた熱定数の測定方法を適用すると、直接法及び時定数法のいずれの場合でも熱拡散率αが精度よく求められることが確認できた。
【0039】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載した構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。
例えば、解析フローを外側から順に透熱係数ηループ、ビオ数hループを設け、ビオ数hループ内に(一番内側に)熱拡散率α更新処理を設けた構成としたが、2乗偏差に含まれる熱拡散率、ビオ数、及び透熱係数は独立変数なので、解析フローにおける透熱係数ηループ、ビオ数hループ、及び熱拡散率α更新処理の配置(処理の順番)は任意に変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施の形態に係るレーザフラッシュ法を用いた熱定数の測定方法に使用する測定装置の説明図である。
【図2】同レーザフラッシュ法を用いた熱定数の測定方法において、熱拡散率、ビオ数、及び透熱係数を決定する際の手順を示す解析フロー図である。
【図3】試料形状、密度、熱拡散率、ビオ数、及び透熱係数が既知の試料表面をレーザ光で加熱した際に裏面温度理論式から作成した裏面温度変化を示すグラフである。
【図4】測定試料の裏面温度の変化の解析から決定した熱拡散率の解析精度と透熱係数の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0041】
10:測定装置、11:試料、12:レーザ光発生部、13:レーザ光検出部、14:ハーフミラー、15:測定部、16:演算処理部、17:出力器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に照射したレーザ光の熱エネルギーの一部が裏面に直接到達する透熱性材料の熱拡散率、ビオ数、及び透熱係数を測定するレーザフラッシュ法を用いた熱定数の測定方法であって、
前記透熱性材料から作製した試料の表面を前記レーザ光で照射し該試料の裏面の温度変化を測定して裏面温度変化データを求める第1工程と、
前記透熱性材料の熱拡散率、ビオ数、及び該試料の表面から裏面への直接的な熱エネルギーの伝熱量を示す透熱係数を変数として含み、前記試料の表面を前記レーザ光で照射した際の該試料の裏面温度の理論的な時間変化を示す裏面温度理論式から得られる理論裏面温度変化データと前記裏面温度変化データとを比較して、前記透熱性材料の熱拡散率、ビオ数、及び透熱係数を決定する第2工程とを有することを特徴とするレーザフラッシュ法を用いた熱定数の測定方法。
【請求項2】
請求項1記載のレーザフラッシュ法を用いた熱定数の測定方法において、前記裏面温度理論式は、一次元熱伝導方程式のラプラス空間解であり、前記裏面温度変化データは、測定した前記試料の裏面の温度変化をラプラス変換したものであることを特徴とするレーザフラッシュ法を用いた熱定数の測定方法。
【請求項3】
請求項2記載のレーザフラッシュ法を用いた熱定数の測定方法において、前記透熱性材料の熱拡散率、ビオ数、及び透熱係数を、前記理論裏面温度変化データと前記裏面温度変化データとの2乗偏差を最小とする条件から決定することを特徴とするレーザフラッシュ法を用いた熱定数の測定方法。
【請求項4】
請求項2記載のレーザフラッシュ法を用いた熱定数の測定方法において、前記裏面温度変化データの温度減衰領域から求まる実測減衰時定数と、前記裏面温度理論式から求まる理論減衰時定数式の時定数とを同値とする付加条件を求め、該付加条件の下で、前記透熱性材料の熱拡散率、ビオ数、及び透熱係数を、前記理論裏面温度変化データと前記裏面温度変化データとの2乗偏差を最小とする条件から決定することを特徴とするレーザフラッシュ法を用いた熱定数の測定方法。
【請求項5】
請求項2記載のレーザフラッシュ法を用いた熱定数の測定方法において、前記裏面温度変化データの温度減衰領域から求まる実測減衰時定数と、前記透熱性材料の熱拡散率及びビオ数のみを変数として含み前記試料の表面を前記レーザ光で照射した際の該試料の裏面温度の理論的な時間変化を示す裏面温度理論式から求まる理論減衰時定数式の時定数とを同値とする付加条件を求め、該付加条件の下で、前記透熱性材料の熱拡散率、ビオ数、及び透熱係数を、前記理論裏面温度変化データと前記裏面温度変化データとの2乗偏差を最小とする条件から決定することを特徴とするレーザフラッシュ法を用いた熱定数の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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