説明

レーザー光を用いた部材の接着方法

【課題】意匠層を設ける場合に、意匠層を溶融又は分解させることなく、第1及び第2部材を接着できるようにすることで、外観見栄えを良好にする接着方法を提供する。
【解決手段】透光性を有する第1部材3と、第2部材2とをレーザー光Lを用いて接着する接着方法において、第1部材3の表側に意匠が現れるようにレーザー光非透過性の意匠層4を設ける。熱硬化性樹脂5を意匠層4に隣接して設ける。レーザー光透過性を有する部材側から、意匠層4の溶融又は分解温度を越えない所定温度となるまで意匠層4を加熱するためのレーザー光を照射する。意匠層4の熱によって熱硬化性樹脂5を硬化反応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光を用いて部材を接着する接着方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、樹脂材からなる第1及び第2部材を接着する方法として、レーザー光の照射による接着方法が広く用いられている。レーザー光を用いて接着する場合には、一般的には、第1部材を、レーザー光の透過性を有するレーザー光透過部材とし、一方、第2部材をレーザー光の非透過性を有するレーザー光非透過性部材とする。そして、第1及び第2部材を重ねた後、第1部材側からレーザー光を照射する。このレーザー光は第1部材を透過して第2部材に吸収される。これにより、第2部材が加熱され、第1及び第2部材の接合面が溶融し、その後、固化して両部材が接着された状態となる。
【0003】
上記した一般的な方法では、一方の部材がレーザー光非透過性を有していなければならないが、例えば、特許文献1〜3には、レーザー光透過性を有する部材同士を溶着する方法が開示されている。これら文献に開示されている方法では、第1部材及び第2部材の間にレーザー光を吸収するトナーや塗料を含む樹脂材を介在させて、この樹脂材にレーザー光を吸収させて溶融させ、これによって第1及び第2部材を接着するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−181931号公報
【特許文献2】特開2004−1071号公報
【特許文献3】特開2005−238462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、例えば化粧品用ケース、住設用又は電気製品用外装部材では、外観見栄えが非常に重要視されてきており、様々なデザイン処理が行われている。例えば、表側の第1部材と裏側の第2部材とを接着して外装部材を構成する場合に、透光性を有する第1部材の裏面に印刷等を施して意匠を構成する意匠層を設けることにより、第1部材の表側から該第1部材を透過して意匠層を見たときに意匠に深みを出すことができる。
【0006】
このようなデザイン処理を行う場合に、特許文献1〜3に開示されている方法を用いると、第1部材と第2部材との間に位置することになる意匠層がレーザー光を吸収し、この意匠層が溶融又は分解してしまう。意匠層が一旦溶融又は分解すると冷却しても元通りになることはないので、外観見栄えの悪化を招く。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、第1部材側から視認可能に意匠層を設ける場合に、意匠層を溶融又は分解させることなく、第1及び第2部材を接着できるようにすることで、外観見栄えを良好にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明では、熱硬化性樹脂を第1部材と第2部材との間に設けておき、意匠層を溶融又は分解させないようにレーザー光で加熱し、その加熱された意匠層の熱によって熱硬化性樹脂を加熱して硬化反応を起こさせ、第1及び第2部材を接着するようにした。
【0009】
第1の発明は、透光性を有する第1部材と、第2部材とをレーザー光を用いて接着する接着方法において、上記第1及び第2部材のうち、少なくとも一方はレーザー光透過性を有する材料で構成し、上記第1及び第2部材の少なくとも一方に、該第1部材の表側に意匠が現れるようにレーザー光非透過性の意匠層を設け、上記第1及び第2部材を接着するための熱硬化性樹脂を、該第1部材と第2部材との間に、上記意匠層に隣接して設け、上記レーザー光透過性を有する部材側から上記意匠層へ向けて該意匠層の溶融又は分解温度を越えない所定温度となるまで該意匠層を加熱するためのレーザー光を照射し、該意匠層の熱によって上記熱硬化性樹脂を硬化反応させて上記第1及び第2部材を接着することを特徴とするものである。
【0010】
すなわち、第1部材がレーザー光透過性を有する材料で構成されている場合には、第1部材側からレーザー光を照射する。このレーザー光は第1部材を透過して意匠層で吸収され、意匠層が加熱される。この意匠層の熱が熱硬化性樹脂に伝わって熱硬化性樹脂が加熱される。熱硬化性樹脂が加熱されることで硬化反応を起こし、第1及び第2部材が接着される。
【0011】
そして、第1及び第2部材を接着した状態では、第1部材の表側から意匠層の意匠を見ることができ、深みのあるデザインが得られる。この意匠層は溶融又は分解していないので、見栄えは良好である。
【0012】
尚、第2部材がレーザー光透過性を有する材料で構成されている場合には、第2部材側からレーザー光を照射することで、同様に熱硬化性樹脂を加熱して硬化反応を起こさせることができる。
【0013】
第2の発明は、第1の発明において、熱硬化性樹脂には、起爆反応性を有する潜在性硬化剤が添加されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、第1部材の表側に意匠が現れるようにレーザー光非透過性の意匠層を設け、熱硬化性樹脂を第1部材と第2部材との間に設け、意匠層を、溶融又は分解温度を越えない所定温度となるまでレーザー光により加熱し、意匠層の熱によって熱硬化性樹脂を加熱して硬化反応を起こさせるようにしたので、外観見栄えを良好にしながら第1及び第2部材を接着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態にかかる接着方法を用いて2つの部材を接着してなる外装部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0017】
図1は、本発明の実施形態にかかるレーザー光を用いた接着方法によって基材2及び透光部材3を接着して構成された家電製品用の外装部材1の断面図である。
【0018】
尚、本発明は、家電製品用の外装部材1以外にも、例えば、フラットディスプレイパネルの各種構成部材を接着する場合や、工業用電気製品等の電子・電気機材を接着する場合、住宅用設備機材を接着する場合、文房具等の構成部材を接着する場合、化粧品ケース等の日用品の構成部材を接着する場合、自動車部品等を接着する場合等にも適用することができる。
【0019】
外装部材1は、該外装部材1の裏側を構成する基材2と、表側を構成する透光部材3とを積層してなるものである。透光部材3における基材2側の面(図1における下面)には、表側(図1における上側)から視認可能な意匠層4が設けられている。基材2と透光部材3とは熱硬化性樹脂5により接着されて一体化している。透光部材3が本発明の第1部材に相当し、基材2が本発明の第2部材に相当する。
【0020】
基材2は、レーザー光を通さないレーザー光非透過性を有する材料で構成された板状の部材である。レーザー光非透過性とは、レーザー光を吸収するレーザー光吸収性のことであり、加熱源としてのレーザー光を一部透過及び/又は反射しても残りを吸収する性質をいい、レーザー光の全てを吸収するものも含む。このような性質を持つ材料としては、例えば、金属、セラミックスの他、樹脂やゴムに顔料や染料を混合した材料もある。レーザー光非光透過性としては、例えば、波長940nmのレーザー光の透過率が15%未満であることが好ましい。本実施形態では、基材2は金属材料で構成されている。
【0021】
尚、基材2の形状は板状に限られるものではなく、例えば、ブロック状であってもよいし、フィルム状であってもよい。また、基材2は、レーザー光透過性を有していてもよい。
【0022】
透光部材3は、無色透明で、レーザー光を通すレーザー光透過性を有する材料で構成された板状の部材である。レーザー光透過性とは、加熱源としてのレーザー光を殆ど反射も吸収もせずに透過させるか、レーザー光を一部透過及び/又は反射しても溶融することなく、残りのレーザー光を透過させることのできる性質をいい、レーザー光の全てを透過させるものも含む。透光部材3は、例えば熱可塑性樹脂で構成することができ、具体的には、ポリエチレン(HDPE、LDPE、LLDPE、VLDPE、ULDPE、UHDPE、Polyethylene)、ポリプロピレン(PP Co-Polymer、PP Homo-Polymer、PP Ter-Polymer)、ポリビニルクロライド(PVC)、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS)、スチレンアクリロニトリル樹脂(SAN)、K-レジン、SBS樹脂(SBS block co-polymer)、PVDC樹脂、EVA樹脂、アクリル樹脂、ブチラール樹脂、シリコン樹脂、ポリアミド(PA、PA6、PA66、PA46、PA610、PA612、PA6/66、PA6/12、PA6T、PA12、PA1212、PAMXD6)、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、液晶ポリマー、ポリブチレンテレフ夕レート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエチレンナフタリン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリアセタール、ポリアミドイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンオキサイド、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリチオエチルスルホン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルスルホン及びポリエーテルイミドなどが挙げられる。
【0023】
その他、極性官能基が化学的に結合した変性樹脂も含み、具体的には、アクリル酸変性オレフィン樹脂、マレイン酸変性オレフィン樹脂、塩化変性オレフィン樹脂(CPP、CPE)、シラン変性オレフィン樹脂、アイオノマー樹脂、ナイロン変性オレフィン樹脂、エポキシ変性樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂(EVOH)、エチレンビニールアセテート樹脂などの樹脂が挙げられ、これらと上記熱可塑性樹脂の混合物または組合物であってもよい。
【0024】
透光部材3は、熱可塑性エラストマーであってもよく、具体的には、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、塩ビ系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリブタジエン系エラストマー、イソプレン系エラストマー、イオンクラスターと非晶性PE系のエラストマー(商品例:三井・デュポン ポリケミカル製ハイミラン)、塩素化PEと非晶性PE系のエラストマー(商品例:三菱化学製ミラプレーン)、フッ素系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、アクリル系エラストマー等が挙げられる。
【0025】
透光部材3は熱硬化性樹脂であってもよく、具体的には、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などが挙げられる。
【0026】
透光部材3は、熱硬化性を有するゴムであってもよく、具体的には、天然ゴム、イソプレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、ウレタンゴム、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、フッ素ゴム及びシリコンゴム等が挙げられる。
【0027】
また、上述した熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂に補強材や充填材を混合して作った複合樹脂で透光部材3を構成してもよい。
【0028】
上記樹脂、エラストマーに対しては、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線安定剤、導電剤、核剤、離型剤、難燃剤、帯電防止剤、加工調剤、着色及び機能性顔料または染料、架橋剤、可塑剤及び加硫剤からなる群から選択された少なくとも一つを混合することも可能である。着色顔料や染料を混合する場合は、所定のレーザー光透過性を確保できる程度の量とする。
【0029】
透光部材3は、上記樹脂の他、例えば、ソーダ石灰ガラス、鉛ガラス、ホウケイ酸ガラス等で構成してもよい。また、強化ガラス、合わせガラス、積層ガラス等であってもよい。レーザー光透過性としては、例えば、波長940nmのレーザー光の透過率が20%以上であることが好ましく、さらに好ましくは50%以上である。尚、透光部材3は、無色に限られるものではなく、薄く着色されていてもよく、意匠層4を表側から見ることのできる透光性を有していればよい。
【0030】
基材2及び透光部材3の厚みは、外装部材1の種類等により異なるが、数mm程度である。
【0031】
透光部材3の裏面である基材2側の面には、透光部材3の表側に意匠が現れるように意匠層4が設けられている。この意匠層4は、染料や顔料を含むインクを透光部材3の裏面に付着させることによって形成された印刷塗膜からなるものである。インクの硬化性化合物については、例えば、アクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、カルボキシル基変性エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、不飽和ポリエステル樹脂、共重合系アクリレート、ポリアクリルアクリレート、脂環式エポキシ樹脂、グリシジルエーテルエポキシ樹脂、ビニルエーテル化合物、オキセタン化合物などが挙げられる。硬化性インクは、例えば、自然乾燥硬化タイプ、焼付け乾燥による熱硬化タイプ、硬化剤を用いる二液型の反応硬化タイプ、紫外線や電子線などで硬化させる放射光硬化タイプ、漆などが挙げられる。融点以下のレーザー照射条件に限り熱可塑性であっても問題ない。また、染料としては、レーザー光の非透過性を有するものであればよく、アカネ、ベニバナなどの天然染料、反応、硫化、ナフトールなどの合成染料、蛍光染料など種類は問わない。また、顔料としては、レーザー光の非透過性を有するものであればよく、例えば、カーボンブラックや複合酸化物系顔料等の無機顔料、フタロシアニン系顔料、アゾ系顔料、レーキ顔料、多環式系顔料等の有機顔料が挙げられ、レーザー光の波長に対応した非透過性を有する各種顔料を使用できる。意匠層4を印刷塗膜で形成したことで、精緻な意匠が得られる。印刷方法としては、例えば、凸版印刷、凹版印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷、シルク印刷、グラビア印刷、レーザー印刷、インクジェット印刷等、各種印刷方法を用いることができる。
【0032】
また、意匠層4によって構成される意匠は、例えば、文字、図形、絵、グラデーションパターン、単色による塗りつぶし等、様々な形態がある。また、意匠層4の厚みとしては、例えば、1μm以上100μm以下であるが、この範囲に限られるものではない。また、意匠層4が有するレーザー光非透過性としては、例えば、波長940nmのレーザー光の透過率が15%未満であることが好ましい。
【0033】
尚、意匠層4は、上記のように印刷塗膜で形成するもの以外にも、例えば、蒸着膜、フィルムの貼り付け、プライマーの塗布等で形成することも可能である。蒸着膜の場合は、意匠層4を極めて薄くすることが可能になる。また、意匠層4の全部がレーザー光非透過性である必要はなく、基材2と透光部材3との接着部分に対応する一部のみがレーザー光非透過性で、残りはレーザー光透過性を有していてもよい。
【0034】
接着用の熱硬化性樹脂5は意匠層4に隣接して設けられている。熱硬化性樹脂5は、例えば、各種エポキシ樹脂、エポキシ基含有(メタ)アクリレート、ウレタン変性(メタ)アクリレート等のアクリレート系樹脂を使用することができる。ここで、エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA(BPA)型エポキシ樹脂、ビスフェノールF(BPF)型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂等を挙げることができる。これら熱硬化性樹脂の中でも、ビスフェノールA(BPA)型エポキシ樹脂やビスフェノールF(BPF)型エポキシ樹脂が好適である。
【0035】
熱硬化性樹脂5には硬化剤が添加されている。硬化剤としては、熱硬化性樹脂5の種類に応じて選択すればよいが、例えば熱硬化性樹脂5がエポキシ樹脂である場合には、イミダゾール系、ポリアミン系、ポリアミノウレイド系、アミンアダクト系の潜在性硬化剤が適している。
【0036】
熱硬化性樹脂5を硬化させるための硬化剤の種類は多数あるが、本実施形態の硬化剤は、起爆反応性を有する潜在性硬化剤である。熱硬化性樹脂を硬化させる際には、一般には、使用の直前に熱硬化性樹脂と硬化剤とを混合させる二液混合タイプが一般的であるが、潜在性硬化剤を用いることで、いわゆる一液タイプとすることができる。すなわち、潜在性硬化剤は、熱硬化性樹脂5と混合させても、例えば所定の温度よりも低い環境下では硬化反応が起こることなく長期間保存でき、一方、所定の温度以上に加熱すると速やかに硬化反応を起こさせることができる硬化剤である。
【0037】
潜在性硬化剤の反応開始のきっかけとしては、温度以外にも、圧力、湿度、光等があるが、本実施形態では、反応開始のきっかけが温度であるタイプ、即ち所定の温度以上まで加熱することによって反応を開始するタイプを用いる。
【0038】
具体的には、硬化剤をマイクロカプセル中に閉じ込めておき、マイクロカプセルの壁を所定の温度以上に加熱すると壁が崩壊して内部の硬化剤が熱硬化性樹脂5と反応を開始する、隔壁崩壊型の潜在性硬化剤である。この種の硬化剤としては、例えば、旭化成株式会社製の商品名ノバキュアHX3741、ノバキュアHX3921HPが挙げられる。潜在性硬化剤としては、他にも、味の素株式会社製の商品名アミキュアPN−23、エーシーアール株式会社製の商品名ACRハードナーH−3615、H−3366S、H−3849S、H−4070S、富士化成株式会社製の商品名フジキュアFXE−1000等を挙げることができる。
【0039】
ノバキュアを硬化剤として用いた場合には、常温から40℃〜50℃くらいに加熱されても硬化反応は開始しないので取扱いに優れている。そして、70〜80℃くらいに加熱するとマイクロカプセルの壁が崩壊して硬化反応が起こる。硬化反応を開始する温度は、100℃以下の低温であるため、上記意匠層4が溶融したり、分解したりすることはない。
【0040】
尚、硬化剤が反応を開始する温度は、意匠層4が溶融又は分解する温度以下であればよく、上記した温度に限られるものではない。
【0041】
また、硬化反応は一旦始まると、常温中に放置しておいても進行するので、硬化反応のきっかけを作る熱量を与えるだけで、その後は放置しておいても熱硬化性樹脂5を完全に硬化させることができる。本発明の起爆とは、硬化反応のきっかけのことであり、起爆反応性とは、硬化反応のきっかけを与えて、その後、硬化反応が継続して行われることである。
【0042】
潜在性硬化剤は、マイクロカプセル化されているので、熱硬化性樹脂5内に均一に分散させることが可能である。潜在性硬化剤の熱硬化性樹脂5中の含有量は、1重量%以上70重量%以下であればよく、より好ましくは5重量%以上30重量%以下である。硬化剤が少ないと熱硬化性樹脂5中に均一に存在しにくく、また、硬化剤が70重量%よりも多いと主接着成分である熱硬化性樹脂5の量が少なくなり、接着強度が低下するからである。
【0043】
また、潜在性硬化剤の反応開始温度(起爆温度)は50℃以上200℃以下であればよく、より好ましくは、70℃以上160℃以下である。反応開始温度は低い方が意匠層4、基材2及び透光部材3に与えるダメージが小さくて済むので好ましい。
【0044】
また、熱硬化性樹脂5の厚さは、例えば、10μm以上1000μm以下が好ましいが、この範囲に限定されるものではない。
【0045】
熱硬化性樹脂5には、熱伝導性フィラーを混合してもよい。熱伝導性フィラーとしては、例えば、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム等の金属酸化物や、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化タンタル、窒化ニオブ等の無機窒化物等がある。
【0046】
その他熱伝導性フィラーとして、チタン酸カリウム、ホウ酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム等とそのウィスカー、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、アラミド繊維、アスベスト、炭化ケイ素、セラミック、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、カオリン、クレー、シリカ、パイロフィライト、ベントナイト、セリサイト、ゼオライト、モンモリロナイト、マイカ、雲母、ネフェリンシナイト、タルク、アタルバルシャイト、ウォラストナイト、PMF、フェライト、ケイ酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化鉄、二硫化モリブデン、黒鉛、石こう、ガラスビーズ、ガラスパウダー、ガラスバルーン、石英、石英ガラスなどが挙げられる。また使用するフィラーは中空であってもよい。また、これらのフィラーは2種以上を併用することが可能であり、必要によりシラン系、チタン系などのカップリング剤で予備処理して使用することができる。
【0047】
さらに、熱硬化性樹脂5には、レーザー光を吸収するレーザー光吸収剤が混合されている。レーザー光吸収剤としては、例えば、カーボンブラック等である。尚、熱硬化性樹脂5にレーザー光吸収剤を混合しなくてもよい。
【0048】
次に、上記外装部材1の製造要領について説明する。まず、透光部材3の裏面に意匠層4を形成する。顔料を含む着色インクを印刷機や噴霧装置、刷毛等によって透光部材3の裏面に付着させる。
【0049】
尚、意匠層4を蒸着膜とする場合には、蒸着装置によって金属等の蒸着物を透光部材3の裏面に蒸着させる。また、意匠層4をフィルムとする場合には、フィルムを透光部材3の裏面に貼り付ける。さらに、意匠層4をプライマーとする場合には、プライマーを透光部材3の裏面に塗布する。
【0050】
その後、潜在性硬化剤を混合した液状の熱硬化性樹脂5を意匠層4、又は、基材2における意匠層4に対応する部分に塗布する。このとき、ディスペンサー等を用いて細い線を描くように塗布ればよい。そして、基材2及び透光部材3を重ねる。
【0051】
このとき、基材2及び透光部材3を厚み方向にクランプしてもよく、クランプすることで、レーザー光が照射されたときの発熱による基材2及び透光部材3の膨張、基材2及び透光部材3間の気泡の発生を抑制できるので、接着の信頼性をより向上できる。
【0052】
その後、図1に示すように、レーザー光Lを透光部材3側から意匠層4へ向けて照射する。このレーザー光Lを照射する装置は、周知の装置を利用することができる。レーザー光Lの種類としては、例えば、ガスレーザー、固体レーザー、半導体レーザー等のいずれでもよく、レーザー光Lの種類は限定されない。レーザー光Lの種類は、基材2及び透光部材3の材料や、透光部材3の厚さ、意匠層4の溶融又は分解温度、透光部材3のレーザー光透過度合い等に応じて適宜選択できる。また、レーザー光Lは、1つの波長からなるものであってもよいし、2つ以上の波長を有するものであってもよい。
【0053】
この実施形態では、レーザー光照射時の意匠層4の温度測定装置として、浜松ホトニクス株式会社製のLD−HEATER L10060を用い、レーザー光照射装置から波長940nmの半導体レーザー光を照射した。出力は3Wであり、透光部材3の表面温度が230℃となるように短時間照射した。
【0054】
レーザー光照射装置の出力は上記のように数W程度の低い値に設定されており、透光部材3を透過して意匠層4に到達したレーザー光Lによって意匠層4が溶融又は分解しない程度の出力である。また、レーザー光Lの走査速度についても、意匠層4が溶融又は分解しない程度の速度に設定されている。接着範囲がレーザー光Lの照射径よりも広い場合には、必要に応じてレーザー光源又は接着対象物を移動させながらレーザー光Lの照射を行ってもよい。
【0055】
照射されたレーザー光Lは、透光部材3を透過して意匠層4に到達する。意匠層4に到達したレーザー光Lは、意匠層4に吸収され、意匠層4が加熱される。意匠層4の温度は、レーザー光Lの出力が上記したように低出力に設定されているので、意匠層4の溶融又は分解温度を超えない温度となる。
【0056】
意匠層4の熱は隣接する熱硬化性樹脂5に伝わる。この熱により潜在性硬化剤を収容したマイクロカプセルの壁が崩壊したり、過酸化物が分解してラジカルが発生し、熱硬化性樹脂5の硬化反応が始まる。硬化反応は勝手に進むので、硬化反応中のレーザー光Lの照射は不要である。つまり、マイクロカプセルの壁を崩壊させる、または過酸化物を分解させるためだけの少ないエネルギ量を短時間与えればよいので、従来のように基材2や透光部材3を溶融させて接着する場合に比べて本方法の方が省エネルギ性に優れる。
【0057】
レーザー光Lの一部(照射されたレーザー光Lのうちの数%)は、意匠層4を透過することがある。意匠層4を透過した僅かなレーザー光Lは熱硬化性樹脂5に到達する。この熱硬化性樹脂5にレーザー光吸収剤が混合されているので、意匠層4を透過したレーザー光Lは熱硬化性樹脂5に吸収される。このことによっても、熱硬化性樹脂5が僅かではあるが加熱されるので、レーザー光Lを有効に利用できる。
【0058】
上記のように、本接着方法によればレーザー光Lが数W程度の低出力で済むので、基材2や透光部材3が熱によって損傷(焦げや変形)してしまうのを抑制でき、また、基材2の周辺に他の部材や機器がある場合には、それらの熱による損傷も抑制できる。よって、本接着方法の用途は広い。また、基材2や透光部材3の熱変形も抑制される。
【0059】
そして、熱硬化性樹脂5が完全に硬化すると、基材2と透光部材3とが接着されて外装部材1が得られる。この外装部材1を透光部材3の表側から見ると、意匠層4の意匠が透光部材3を通して奥の方に見えることになり、意匠に深みが出る。この意匠層4は溶解又は分解していないので、見栄えは良好である。
【0060】
以上説明したように、この実施形態にかかる接着方法によれば、透光部材3の表側に意匠が現れるようにレーザー光非透過性の意匠層4を設け、熱硬化性樹脂5を、透光部材3と基材2との間において意匠層4に隣接するように設け、意匠層4を溶融又は分解温度を越えない所定温度となるまでレーザー光Lにより加熱し、意匠層4の熱によって熱硬化性樹脂5を加熱して基材2及び透光部材3を接着するようにしたので、外観見栄えの良好な外装部材1を得ることができる。
【0061】
また、硬化前の熱硬化性樹脂5は液状であるため、基材2と透光部材3との間に隙間無く設けることができる。この状態で硬化させるようにしているので、基材2と透光部材3との接着強度が十分に確保されるとともに、基材2と透光部材3との間に水等の染み込みが無くなる。従って、本接着方法は、例えば液密性が必要な場合に適している。
【0062】
また、基材2や透光部材3の接着面が複雑な3次元形状であっても、熱硬化性樹脂5を接着面の形状に沿って容易に塗布することができるので、接着強度が十分に確保される。
【0063】
また、基材2がレーザー光透過性を有する場合には、レーザー光Lを基材2側から照射してもよい。この場合、熱硬化性樹脂5にレーザー光吸収剤を混合しないことで、レーザー光Lが熱硬化性樹脂5を透過して意匠層4に吸収され、これにより、上記したように熱硬化性樹脂5が硬化反応を起こす。
【0064】
また、意匠層4は、基材5に設けてもよい。この場合、透光性を有する熱硬化性樹脂5を、意匠層4の透光部材3側に設ければよい。
【0065】
尚、熱硬化性樹脂5がアクリレート系樹脂である場合には、過酸化系の硬化剤が使用可能である。この過酸化系の硬化剤としては、例えば、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシジカーボネート類、パーオキシエステル、パーオキシケタール類、ジアルキルパーオキサイド類、ハイドロパーオキサイド類、シリルパーオキサイド類を挙げることができる。
【0066】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、熱硬化性樹脂5に、無機充填材、有機充填材、軟化剤、白色顔料、着色剤、硬化促進剤、重合促進剤、増感剤、シランカップリング剤、耐熱性、吸水性、密着性を向上させるための改質剤、難燃化剤、チキソトロピック剤、及びこれらの任意の組み合わせからなる添加剤等を含有させてもよい。
【実施例】
【0067】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0068】
(実施例1)
基材2は、幅25mm×奥行35mmで厚さ2mmのステンレス(SUS304)板とした。
【0069】
透光部材3は、幅25mm×奥行35mmで厚さ2mmの透明アクリル樹脂板とした。この透光部材3のレーザー光透過率は93%である。
【0070】
意匠層4は、透光部材3の裏面に、紫外線硬化型スクリーンインキの黒色(十条ケミカル株式会社製 レイキュアGA4100)を用いて厚さが10μmとなるように印刷し、紫外線を照射して硬化させることによって形成した。透光部材3における意匠層4が形成された部位のレーザー光透過率は4%であった。
【0071】
熱硬化性樹脂5は、液状エポキシ樹脂EP828(油化シェルエポキシ株式会社製)とし、硬化剤は、潜在性硬化剤としてノバキュアHX3941HP(旭化成株式会社製)とした。ノバキュアHX3941HPは、イミダゾール系の化合物であり、イミダゾール硬化剤:液状エポキシ樹脂=1:2の化合物である。そして、上記液状エポキシ樹脂を30重量%、上記潜在性硬化剤70重量%を混合して一液性熱硬化性樹脂を得た。
【0072】
一液性熱硬化性樹脂を、上記透光部材3に形成された意匠層4の裏面に刷毛で塗布した。このときの厚さは30μmとした。
【0073】
そして、透光部材3を基材2に対し厚み方向に重ねた後、レーザー光を透光部材3側から意匠層4へ向けて照射した。このときのレーザー光の出力は3W、波長は940nm、走査速度は6m/分とした。レーザー光照射時における透光部材3表面の意匠層4に対応する部位の温度は、上記測定装置による測定結果で170℃であった。
【0074】
12時間放置した後、接着部分に剪断力が作用するように基材2及び透光部材3に引張力を加え、引張強度を測定したところ、1100Nであり、十分な引張強度が得られた。
【0075】
(実施例2)
基材2、透光部材3及び意匠層4は、実施例1と同じである。
【0076】
熱硬化性樹脂5は、PE−4A(ペンタエリスリトールテトラアクリレート 共栄社化学株式会社製)とし、硬化剤は、TMPTA(トリメチロールプロパントリアクリレート 共栄社化学株式会社製)とした。上記PE−4Aを80重量%、TMPTAを20重量%混合し、さらに、ナイパーBW(過酸化ベンゾイル 日本油脂株式会社製)を2重量%溶解して一液性熱硬化性樹脂を得た。
【0077】
実施例1と同様にして基材2と透光部材3とを接着した後、引張強度を測定すると、800Nであり、十分な引張強度が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0078】
以上説明したように、本発明にかかるレーザー光を用いた部材の接着方法は、例えば、化粧品用ケース、住設用又は電気製品用外装部材を製造するのに用いることができる。
【符号の説明】
【0079】
1 外装部材
2 基材(第2部材)
3 透光部材(第1部材)
4 意匠層
5 熱硬化性樹脂
L レーザー光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性を有する第1部材と、第2部材とをレーザー光を用いて接着する接着方法において、
上記第1及び第2部材のうち、少なくとも一方はレーザー光透過性を有する材料で構成し、
上記第1及び第2部材の少なくとも一方に、該第1部材の表側に意匠が現れるようにレーザー光非透過性の意匠層を設け、
上記第1及び第2部材を接着するための熱硬化性樹脂を、該第1部材と第2部材との間に、上記意匠層に隣接して設け、
上記レーザー光透過性を有する部材側から上記意匠層へ向けて該意匠層の溶融又は分解温度を越えない所定温度となるまで該意匠層を加熱するためのレーザー光を照射し、該意匠層の熱によって上記熱硬化性樹脂を硬化反応させて上記第1及び第2部材を接着することを特徴とするレーザー光を用いた部材の接着方法。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザー光を用いた部材の接着方法において、
熱硬化性樹脂には、起爆反応性を有する潜在性硬化剤が添加されていることを特徴とするレーザー光を用いた部材の接着方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−218316(P2012−218316A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−87206(P2011−87206)
【出願日】平成23年4月11日(2011.4.11)
【出願人】(591000506)早川ゴム株式会社 (110)
【Fターム(参考)】