説明

レーザー加工方法およびレーザー加工装置

【課題】ウエーハ等の被加工物の外周縁をオーバーランしてレーザー光線が粘着テープに照射されたり、被加工物に完全切断溝が形成されてレーザー光線が粘着テープに照射されても、被加工物が貼着された粘着テープに貫通穴を形成することがないレーザー加工方法。
【解決手段】被加工物を保持する保持テーブルと、保持された被加工物にレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段と、保持テーブルと該レーザー光線照射手段とを相対的に加工送りする加工送り手段とを具備するレーザー加工方法であって、被加工物を環状のフレームに貼着する被加工物貼着工程と、保持テーブルの保持面に水の層を形成して水の層上に粘着テープを介して被加工物を支持するとともに、環状のフレームを固定する被加工物支持工程と、レーザー光線照射手段からレーザー光線を照射しつつ加工送りし、保持テーブルに支持された被加工物にレーザー加工を施すレーザー加工工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエーハ等の被加工物にレーザー加工を施すレーザー加工方法およびレーザー加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造工程においては、略円板形状である半導体ウエーハの表面に格子状に形成された分割予定ラインによって複数の領域が区画され、この区画された領域にIC、LSI等のデバイスを形成する。このように形成された半導体ウエーハを分割予定ラインに沿って切断することによりデバイスが形成された領域を分割して個々のデバイスを製造している。また、サファイア基板や炭化珪素基板の表面に窒化ガリウム系化合物半導体等が積層された光デバイスウエーハも分割予定ラインに沿って切断することにより個々の発光ダイオード、レーザーダイオード等の光デバイスに分割され、電気機器に広く利用されている。
【0003】
上述したウエーハを分割予定ラインに沿って分割する方法として、ウエーハに対して吸収性を有する波長のパルスレーザー光線を分割予定ラインに沿って照射することにより破断の起点となるレーザー加工溝を形成し、この破断の起点となるレーザー加工溝が形成された分割予定ラインに沿って外力を付与することにより割断する方法が提案されている。(例えば、特許文献1参照。)また、ウエーハに対して吸収性を有する波長のパルスレーザー光線を分割予定ラインに沿って照射し、ウエーハを分割予定ラインに沿って完全に分割する溝(完全切断溝)を形成する方法も実用化されている。
【0004】
上述したようにウエーハに対して吸収性を有する波長のパルスレーザー光線を分割予定ラインに沿って照射する際には、ウエーハが個々のデバイスに分割されてもバラバラにならないように、ウエーハは環状のフレームに装着され塩化ビニールを基材とし表面にアクリル系粘着剤が塗布された粘着テープに貼着される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−305420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ウエーハにレーザー加工を施すためには、ウエーハを保持テーブル上に保持した状態でレーザー光線照射手段からレーザー光線を照射しつつ、保持テーブルとレーザー光線照射手段を加工送り方向に相対移動せしめる。しかるに、ウエーハの外周縁をオーバーランしてレーザー光線が照射されたり、ウエーハに完全切断溝が形成されると、接着テープに貫通穴が形成され、ウエーハを保持テーブルに吸引保持する負圧がリークしてウエーハの保持力が不安定となり所望の位置にレーザー光線を照射することができなくなるという問題がある。
また、接着テープに貫通穴が形成されるとウエーハの搬送が困難になるとともに接着テープを拡張してデバイス同士の間隔を広げる際に接着テープが破断しデバイスのピックアップができなという問題がある。
更に、接着テープに貫通穴が形成されるとウエーハを保持する保持テーブルに溶融物が付着し、保持テーブルを汚染するとともに保持テーブルに固着して保持テーブルから粘着テープに貼着されたウエーハを搬出できない場合があるという問題がある。
【0007】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、その主たる技術課題は、ウエーハ等の被加工物の外周縁をオーバーランしてレーザー光線が粘着テープに照射されたり、被加工物に完全切断溝が形成されてレーザー光線が粘着テープに照射されても、被加工物が貼着された粘着テープに貫通穴を形成することがないレーザー加工方法およびレーザー加工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記主たる技術課題を解決するため、本発明によれば、被加工物を保持する保持面を有する保持テーブルと、該保持テーブルの保持面に保持された被加工物にレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段と、該保持テーブルと該レーザー光線照射手段とを相対的に加工送りする加工送り手段とを具備するレーザー加工装置によって被加工物にレーザー加工を施すレーザー加工方法であって、
被加工物を環状のフレームに装着された粘着テープの表面に貼着する被加工物貼着工程と、
該保持テーブルの保持面に水の層を形成して該水の層上に該粘着テープを介して被加工物を支持するとともに、該環状のフレームを該保持テーブルに装着された固定手段によって固定する被加工物支持工程と、
該レーザー光線照射手段からレーザー光線を照射しつつ該加工送り手段によって該保持テーブルと該レーザー光線照射手段とを相対的に加工送りし、該保持テーブルに支持された被加工物にレーザー加工を施すレーザー加工工程と、を含む、
ことを特徴とするレーザー加工方法が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、被加工物を保持する保持面を有するとともに被加工物が貼着された粘着テープが装着されている環状のフレームを固定する固定手段を備えた保持テーブルと、該保持テーブルの保持面に保持された被加工物にレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段と、該保持テーブルと該レーザー光線照射手段とを相対的に加工送りする加工送り手段とを具備するレーザー加工装置において、
該保持テーブルの保持面に水の層を形成する水層形成手段を備えている、
ことを特徴とするレーザー加工装置が提供される。
【0010】
上記水層形成手段は、保持テーブルの保持面に開口する水供給通路と、該水供給通路に水を供給する水供給手段とからなっている。
また、上記保持テーブルは保持テーブル本体と該保持テーブル本体の上面に配設され上面に保持面を有する保持部材とからなり、該保持部材がガラス板によって形成されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によるレーザー加工方法においては、保持テーブルの保持面に水の層を形成して該水の層上に粘着テープを介して被加工物を保持した状態で、被加工物にレーザー加工を施すレーザー加工工程を実施するので、被加工物の外周縁をオーバーランしてレーザー光線が粘着テープに照射されたり、被加工物が完全切断されてレーザー光線が粘着テープに照射されても、粘着テープと保持テーブルの上面である保持面との間に形成された水の層によってパルスレーザー光線の熱が冷却されるため、被加工物が貼着されている粘着テープに貫通穴が形成されることがない。従って、被加工物が貼着された粘着テープに貫通穴が形成されることによって溶融物が保持テーブルに付着して保持テーブルを汚染したり保持テーブルに固着して保持テーブルから粘着テープに貼着された板状物を搬出できないという問題が解消される。
また、本発明によるレーザー加工装置おいては、被加工物を保持する保持面を有する保持テーブルの保持面に水の層を形成する水層形成手段を備えているので、保持テーブルの保持面と被加工物が貼着されている粘着テープとの間に水の層を形成することができるため、上記作用効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に従って構成されたレーザー加工装置の斜視図。
【図2】図1に示すレーザー加工装置に装備される保持テーブルの断面図。
【図3】被加工物としての半導体ウエーハを示す斜視図。
【図4】図3に示す半導体ウエーハが環状のフレームに粘着テープを介して支持された状態を示す斜視図。
【図5】図1に示すレーザー加工装置によって実施する本発明によるレーザー加工方法における被加工物支持工程の説明図。
【図6】図1に示すレーザー加工装置によって実施する本発明によるレーザー加工方法におけるレーザー加工工程の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明によるレーザー加工方法およびレーザー加工装置の好適な実施形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1には、本発明に従って構成されたレーザー加工装置の斜視図が示されている。図1に示すレーザー加工装置1は、静止基台2と、該静止基台2に矢印Xで示す加工送り方向に移動可能に配設され被加工物を保持する保持テーブル機構3と、静止基台2に矢印Xで示す加工送り方向と直交する矢印Yで示す割り出し送り方向に移動可能に配設されたレーザー光線照射ユニット支持機構5と、該レーザー光線照射ユニット支持機構5に矢印Zで示す集光点位置調整方向に移動可能に配設されたレーザー光線照射ユニット6とを具備している。
【0014】
上記保持テーブル機構3は、静止基台2上に矢印Xで示す加工送り方向に沿って平行に配設された一対の案内レール31、31と、該案内レール31、31上に矢印Xで示す加工送り方向に移動可能に配設された第一の滑動ブロック32と、該第1の滑動ブロック32上に矢印Yで示す割り出し送り方向に移動可能に配設された第2の滑動ブロック33と、該第2の滑動ブロック33上に円筒状の支持筒体34によって支持されたカバーテーブル35と、被加工物保持手段としての保持テーブル4を具備している。
【0015】
保持テーブル4について、図2を参照して説明する。
図2に示す保持テーブル4は、第2の滑動ブロック33の上面に配設された円筒状の支持筒体34に軸受36を介して回転可能に支持されている。保持テーブル4は、保持テーブル本体41と、該保持テーブル本体41の上面に配設され上面が保持面として機能する保持部材42とを具備している。保持テーブル本体41はステンレス鋼等の金属材によって円柱状に形成され、その上面に円形状の嵌合凹部411が設けられている。この円形状の嵌合凹部411に保持部材42が嵌合される。保持部材42は円形状に形成され、中心部に上面である保持面に開口する水供給通路421が設けられている。なお、保持部材42はガラス板によって形成されており、上面である保持面が親水性を良好とする所謂すりガラスに形成されている。このように形成された保持部材42に設けられた水供給通路421は、保持テーブル本体41に設けられた連通路412を介して水供給手段45に連通されている。
【0016】
水供給手段45は、水タンク451と、該水タンク451の水を送出するポンプ452と、該ポンプ452と上記連通路412とを接続する配管453に配設された電磁開閉弁454とからなっている。電磁開閉弁454は、除勢(OFF)している状態では閉路して配管453の流通を遮断しており、附勢(ON)すると開路して配管453を水が流通するように構成されている。従って、ポンプ452が作動し、電磁開閉弁454が附勢(ON)すると、ポンプ452によって送出された水タンク451内の水が、配管453、保持テーブル本体41に設けられた連通路412および保持部材42に設けられた水供給通路421を通して保持部材42の上面である保持面に供給される。この結果、保持部材42の上面である保持面には、水の層が形成される。従って、保持部材42に設けられた水供給通路421と保持テーブル本体41に設けられた連通路412および水供給手段45は、保持部材42の上面である保持面に水の層を形成する水層形成手段として機能する。
【0017】
図2を参照して説明を続けると、上記保持テーブル本体41の上部外周には、環状の溝413が形成されている。この環状の溝413内には4個(図1参照)のクランプ44の基部が適宜の取り付け手段によって配設されている。このクランプ44は、後述する環状のフレームを固定するための固定手段として機能する。なお、上記円筒状の支持筒体34の上端には、カバーテーブル35が相対移動可能に載置される。以上のように構成された保持テーブル4は、図示しない回転駆動機構によって回転せしめられるように構成されている。
【0018】
図1に戻って説明を続けると、上記第1の滑動ブロック32は、その下面に上記一対の案内レール31、31と嵌合する一対の被案内溝321、321が設けられているとともに、その上面に矢印Yで示す割り出し送り方向に沿って平行に形成された一対の案内レール322、322が設けられている。このように構成された第1の滑動ブロック32は、被案内溝321、321が一対の案内レール31、31に嵌合することにより、一対の案内レール31、31に沿って矢印Xで示す加工送り方向に移動可能に構成される。図示の実施形態における保持テーブル機構3は、第1の滑動ブロック32を一対の案内レール31、31に沿って矢印Xで示す加工送り方向に移動させるための加工送り手段37を具備している。加工送り手段37は、上記一対の案内レール31と31の間に平行に配設された雄ネジロッド371と、該雄ネジロッド371を回転駆動するためのパルスモータ372等の駆動源を含んでいる。雄ネジロッド371は、その一端が上記静止基台2に固定された軸受ブロック373に回転自在に支持されており、その他端が上記パルスモータ372の出力軸に伝動連結されている。なお、雄ネジロッド371は、第1の滑動ブロック32の中央部下面に突出して設けられた図示しない雌ネジブロックに形成された貫通雌ネジ穴に螺合されている。従って、パルスモータ372によって雄ネジロッド371を正転および逆転駆動することにより、第一の滑動ブロック32は案内レール31、31に沿って矢印Xで示す加工送り方向に移動せしめられる。
【0019】
上記第2の滑動ブロック33は、その下面に上記第1の滑動ブロック32の上面に設けられた一対の案内レール322、322と嵌合する一対の被案内溝331、331が設けられており、この被案内溝331、331を一対の案内レール322、322に嵌合することにより、矢印Yで示す割り出し送り方向に移動可能に構成される。図示の実施形態における保持テーブル機構3は、第2の滑動ブロック33を第1の滑動ブロック32に設けられた一対の案内レール322、322に沿って矢印Yで示す割り出し送り方向に移動させるための第1の割り出し送り手段38を具備している。第1の割り出し送り手段38は、上記一対の案内レール322と322の間に平行に配設された雄ネジロッド381と、該雄ネジロッド381を回転駆動するためのパルスモータ382等の駆動源を含んでいる。雄ネジロッド381は、その一端が上記第1の滑動ブロック32の上面に固定された軸受ブロック383に回転自在に支持されており、その他端が上記パルスモータ382の出力軸に伝動連結されている。なお、雄ネジロッド381は、第2の滑動ブロック33の中央部下面に突出して設けられた図示しない雌ネジブロックに形成された貫通雌ネジ穴に螺合されている。従って、パルスモータ382によって雄ネジロッド381を正転および逆転駆動することにより、第2の滑動ブロック33は案内レール322、322に沿って矢印Yで示す割り出し送り方向に移動せしめられる。
【0020】
上記レーザー光線照射ユニット支持機構5は、静止基台2上に矢印Yで示す割り出し送り方向に沿って平行に配設された一対の案内レール51、51と、該案内レール51、51上に矢印Yで示す方向に移動可能に配設された可動支持基台52を具備している。この可動支持基台52は、案内レール51、51上に移動可能に配設された移動支持部521と、該移動支持部521に取り付けられた装着部522とからなっている。装着部522は、一側面に矢印Zで示す集光点位置調整方向に延びる一対の案内レール523、523が平行に設けられている。図示の実施形態におけるレーザー光線照射ユニット支持機構5は、可動支持基台52を一対の案内レール51、51に沿って矢印Yで示す割り出し送り方向に移動させるための第2の割り出し送り手段53を具備している。第2の割り出し送り手段53は、上記一対の案内レール51、51の間に平行に配設された雄ネジロッド531と、該雄ネジロッド531を回転駆動するためのパルスモータ532等の駆動源を含んでいる。雄ネジロッド531は、その一端が上記静止基台2に固定された図示しない軸受ブロックに回転自在に支持されており、その他端が上記パルスモータ532の出力軸に伝動連結されている。なお、雄ネジロッド531は、可動支持基台52を構成する移動支持部521の中央部下面に突出して設けられた図示しない雌ネジブロックに形成された雌ネジ穴に螺合されている。このため、パルスモータ532によって雄ネジロッド531を正転および逆転駆動することにより、可動支持基台52は案内レール51、51に沿って矢印Yで示す割り出し送り方向に移動せしめられる。
【0021】
図示の実施形態のおけるレーザー光線照射ユニット6は、ユニットホルダ61と、該ユニットホルダ61に取り付けられたレーザー光線照射手段62を具備している。ユニットホルダ61は、上記装着部522に設けられた一対の案内レール523、523に摺動可能に嵌合する一対の被案内溝611、611が設けられており、この被案内溝611、611を上記案内レール523、523に嵌合することにより、矢印Zで示す集光点位置調整方向に移動可能に支持される。
【0022】
図示の実施形態におけるレーザー光線照射ユニット6は、ユニットホルダ61を一対の案内レール523、523に沿って矢印Zで示す集光点位置調整方向に移動させるための集光点位置調整手段63を具備している。集光点位置調整手段63は、一対の案内レール523、523の間に配設された雄ネジロッド(図示せず)と、該雄ネジロッドを回転駆動するためのパルスモータ632等の駆動源を含んでおり、パルスモータ632によって図示しない雄ネジロッドを正転および逆転駆動することにより、ユニットホルダ61およびレーザー光線照射手段62を案内レール523、523に沿って矢印Zで示す集光点位置調整方向に移動せしめる。なお、図示の実施形態においてはパルスモータ632を正転駆動することによりレーザー光線照射手段62を上方に移動し、パルスモータ632を逆転駆動することによりレーザー光線照射手段62を下方に移動するようになっている。
【0023】
図示のレーザー光線照射手段62は、実質上水平に配置された円筒形状のケーシング621を含んでいる。ケーシング621内には図示しないYAGレーザー発振器或いはYVO4レーザー発振器からなるパルスレーザー光線発振器や繰り返し周波数設定手段を備えたパルスレーザー光線発振手段が配設されている。このパルスレーザー光線発振手段は、図示の実施形態においては波長が355nmのパルスレーザー光線を発振する。パルスレーザー光線発振手段から発振されたパルスレーザー光線は、ケーシング621の先端に配設された集光器622から上記保持テーブル4に保持された被加工物に照射される。また、ケーシング621の先端には、撮像手段623が配設されている。この撮像手段623は、図示の実施形態においては可視光線によって撮像する通常の撮像素子(CCD)の外に、被加工物に赤外線を照射する赤外線照明手段と、該赤外線照明手段によって照射された赤外線を捕らえる光学系と、該光学系によって捕らえられた赤外線に対応した電気信号を出力する撮像素子(赤外線CCD)等で構成されており、撮像した画像信号を図示しない制御手段に送る。
【0024】
図示の実施形態におけるレーザー加工装置1は以上のように構成されており、以下レーザー加工装置1を用いて実施するレーザー加工方法について説明する。
【0025】
図3には、上述したレーザー加工装置1によって加工される被加工物としての半導体ウエーハ10の斜視図が示されている。図3に示す半導体ウエーハ10は、厚みが例えば30μmのシリコンウエーハからなり、その表面10aには複数の分割予定ライン101が格子状に形成されているとともに複数の分割予定ライン101によって区画された複数の領域にデバイス102が形成されている。
【0026】
上述した半導体ウエーハ10を上記レーザー加工装置1によって分割予定ライン101に沿って加工するには、半導体ウエーハ10を図4に示すよう環状のフレームFに装着された粘着テープTに貼着する(被加工物貼着工程)。このとき、半導体ウエーハ10は、表面10aを上にして裏面10b側を粘着テープTに貼着する。なお、粘着テープTは、ポリ塩化ビニル(PVC)等の樹脂シートからなっている。
【0027】
上述した半導体ウエーハ10の分割予定ライン101に沿ってレーザー加工溝を形成するには、先ず図4に示すように環状のフレームFに粘着テープTを介して支持された半導体ウエーハ10を、図5に示すようにレーザー加工装置1の保持テーブル4上に粘着テープT側を載置する。そして、環状のフレームFをクランプ44によって固定する。この状態で、上記水供給手段45のポンプ452を作動するとともに電磁開閉弁454を附勢(ON)する。この結果、ポンプ452によって送出された水タンク451内の水が、配管453、保持テーブル4の保持テーブル本体41に設けられた連通路412および保持部材42に設けられた水供給通路421を通して保持部材42の上面である保持面に供給され、粘着テープTとの間に水の層Sが形成される。このように保持部材42の上面である保持面と粘着テープTとの間に水の層Sが形成されることにより、水の分子間力によって粘着テープTを介して被加工物である半導体ウエーハ10が支持される(被加工物支持工程)。以上のようにして保持部材42の上面である保持面と粘着テープTとの間に水の層Sを形成したならば、上記水供給手段45のポンプ452の作動を停止するとともに電磁開閉弁454を除勢(OFF)する。
【0028】
なお、上述した被加工物支持工程は、環状のフレームFに粘着テープTを介して支持された半導体ウエーハ10をレーザー加工装置1の保持テーブル4上に粘着テープT側を載置し、環状のフレームFをクランプ44によって固定してから保持部材42の上面である保持面に水を供給して水の層Sを形成する例を示したが、保持部材42の上面である保持面に水を供給して水の層を形成した状態で環状のフレームFに粘着テープTを介して支持された半導体ウエーハ10を保持テーブル4上に粘着テープT側を載置し、環状のフレームFをクランプ44によって固定してもよい。
【0029】
上述した被加工物支持工程を実施したならば、加工送り手段37を作動して半導体ウエーハ10を支持した保持テーブル4を撮像手段623の直下に移動する。保持テーブル4が撮像手段623の直下に位置付けられると、撮像手段623および図示しない制御手段によって半導体ウエーハ10のレーザー加工すべき加工領域を検出するアライメント作業を実行する。即ち、撮像手段623および図示しない制御手段は、半導体ウエーハ10の所定方向に形成されているストリート101と、ストリート101に沿ってレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段62の集光器622との位置合わせを行うためのパターンマッチング等の画像処理を実行し、レーザー光線照射位置のアライメントを遂行する(アライメント工程)。また、半導体ウエーハ10に形成されている上記所定方向に対して直交する方向に延びるストリート101に対しても、同様にレーザー光線照射位置のアライメントが遂行される。なお、半導体ウエーハ10の表面を粘着テープTに貼着した場合には分割予定ライン101が形成された表面が下側に位置しているが、撮像手段623が上述したように赤外線照明手段と赤外線を捕らえる光学系および赤外線に対応した電気信号を出力する撮像素子(赤外線CCD)等で構成された撮像手段を備えているので、裏面から透かして分割予定ライン101を撮像することができる。
【0030】
上述したアライメント工程を実施したならば、図6の(a)で示すように保持テーブル4をレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段62の集光器622が位置するレーザー光線照射領域に移動し、所定の分割予定ライン101を集光器622の直下に位置付ける。このとき、図6の(a)に示すように半導体ウエーハ10は、分割予定ライン101の一端(図6の(a)において左端)が集光器622の直下に位置するように位置付けられる。そして、集光器622から照射されるパルスレーザー光線の集光点Pを図6の(a)に示すように半導体ウエーハ10の表面10a(上面)付近に合わせる。次に、レーザー光線照射手段62の集光器622から半導体ウエーハ10に対して吸収性を有する波長(図示の実施形態においては355nm)のパルスレーザー光線を照射しつつ図示しない加工送り手段37を作動して保持テーブル4を図6の(a)において矢印X1で示す方向に所定の加工送り速度で移動せしめる(レーザー加工工程)。そして、図6の(b)で示すように分割予定ライン101の他端(図6の(b)において右端)が集光器622の直下位置に達したら、パルスレーザー光線の照射を停止するとともに保持テーブル4の移動を停止する。この結果、図6の(b)に示すように半導体ウエーハ10には、分割予定ライン101に沿ってレーザー加工溝110が形成される。
【0031】
なお、上記レーザー加工工程における加工条件は、例えば次のように設定されている。
光源 :YVO4レーザー
波長 :355nm
繰り返し周波数:10kHz
出力 :7W
集光スポット径:楕円径(長軸:300μm、短軸:15μm)
加工送り速度 :10mm/秒
【0032】
上記加工条件においては、パルスレーザー光線を分割予定ライン101に沿って1回照射することにより、厚みが30μmのシリコンウエーハからなる半導体ウエーハ10を分割予定ライン101に沿って完全切断(貫通加工)することができる。
【0033】
以上のようにして、半導体ウエーハ10の所定方向に延在する全ての分割予定ライン101に沿って上記レーザー加工工程を実施したならば、保持テーブル4を90度回動せしめて、上記所定方向に対して直交する方向に形成された各分割予定ライン101に沿って上記レーザー加工工程を実施する。このようにして、半導体ウエーハ10に格子状に形成された全ての分割予定ライン101に沿って上記レーザー加工工程を実施することにより、半導体ウエーハ10は個々のデバイス102に分割される。
【0034】
上述したレーザー加工工程においては、分割予定ライン101の端部が集光器622の直下位置に達したら、パルスレーザー光線の照射を停止するとともに保持テーブル4の移動を停止するが、実際には慣性等の影響で制御が難しく図6の(b)に2点鎖線で示すように保持テーブル4が所定位置よりオーバーランするため、半導体ウエーハ10が貼着されている粘着テープTにパルスレーザー光線が照射されることになる。また、半導体ウエーハ10を完全切断した際にも、粘着テープTにパルスレーザー光線が照射される。このように粘着テープTにパルスレーザー光線が照射されても、粘着テープTと保持テーブル4を構成する保持部材42の上面である保持面との間に水の層が形成されているので、この水の層によってパルスレーザー光線の熱が冷却されるため、半導体ウエーハ10が貼着されている粘着テープTに貫通穴が形成されることがない。従って、半導体ウエーハ10が貼着された粘着テープTに貫通穴が形成されることによって溶融物が保持テーブル4に付着して保持テーブル4を汚染したり保持テーブル4に固着して保持テーブル4から粘着テープTに貼着された被加工物である半導体ウエーハ10を搬出できないという問題が解消される。
【0035】
以上のようにしてレーザー加工工程を実施することにより半導体ウエーハ10を個々のデバイス102に分割したならば、半導体ウエーハ10を支持した保持テーブル4は最初に半導体ウエーハ10を支持した位置に戻される。そして、半導体ウエーハ10(個々のデバイス102に分割されている)が貼着された粘着テープTが装着されている環状のフレームFを固定しているクランプ44を解除し、図示しない搬送装置によって環状のフレームFを保持して次工程であるピックアップ工程に搬送する。このとき、上記水供給手段45のポンプ452を作動するとともに電磁開閉弁454を附勢(ON)することにより、ポンプ452によって送出された水タンク451内の水が、配管453、保持テーブル4の保持テーブル本体41に設けられた連通路412および保持部材42に設けられた水供給通路421を通して保持部材42の上面である保持面に供給される。この結果、保持部材42の上面である保持面に水の層を介して支持されている粘着テープTは、容易に剥離することができる。
【0036】
なお、ピックアップ工程においては半導体ウエーハ10が分割予定ライン101に沿って形成されたレーザー加工溝110によって完全切断され個々に分割されたデバイス102を、粘着テープTを拡張(エキスパンド)することにより各デバイス間を拡げて個々のデバイス102をピックアップするが、粘着テープTは上述したようにレーザー加工工程を実施した際に切断されていないので、拡張されても破断することはなく、デバイス間を広げることができる。従って、隣接するデバイスと接触することなく容易にピックアップすることができる。
【0037】
以上、本発明を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明は実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲で種々の変形は可能である。例えば、上述した実施形態においては。被加工物としてシリコンウエーハからなる半導体ウエーハを加工する例を示したが、本発明は光デバイスウエーハが形成されたサファイアウエーハやメタルウエーハに適用しても同様の作用効果が得られる。
【符号の説明】
【0038】
1:レーザー加工装置
2:静止基台
3:保持テーブル機構
32:第1の滑動ブロック
33:第2の滑動ブロック
37:加工送り手段
38:第1の割り出し送り手段
4:保持テーブル
41:保持テーブル本体
42:保持部材
45:水供給手段
5:レーザー光線照射ユニット支持機構
52:可動支持基台
53:第2の割り出し送り手段
6:レーザー光線照射ユニット
61:ユニットホルダ
62:レーザー光線照射手段
622:集光器
623:撮像手段
63:集光点位置調整手段
10:半導体ウエーハ
F:環状のフレーム
T:粘着テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を保持する保持面を有する保持テーブルと、該保持テーブルの保持面に保持された被加工物にレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段と、該保持テーブルと該レーザー光線照射手段とを相対的に加工送りする加工送り手段とを具備するレーザー加工装置によって被加工物にレーザー加工を施すレーザー加工方法であって、
被加工物を環状のフレームに装着された粘着テープの表面に貼着する被加工物貼着工程と、
該保持テーブルの保持面に水の層を形成して該水の層上に該粘着テープを介して被加工物を支持するとともに、該環状のフレームを該保持テーブルに装着された固定手段によって固定する被加工物支持工程と、
該レーザー光線照射手段からレーザー光線を照射しつつ該加工送り手段によって該保持テーブルと該レーザー光線照射手段とを相対的に加工送りし、該保持テーブルに支持された被加工物にレーザー加工を施すレーザー加工工程と、を含む、
ことを特徴とするレーザー加工方法。
【請求項2】
被加工物を保持する保持面を有するとともに被加工物が貼着された粘着テープが装着されている環状のフレームを固定する固定手段を備えた保持テーブルと、該保持テーブルの保持面に保持された被加工物にレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段と、該保持テーブルと該レーザー光線照射手段とを相対的に加工送りする加工送り手段とを具備するレーザー加工装置において、
該保持テーブルの保持面に水の層を形成する水層形成手段を備えている、
ことを特徴とするレーザー加工装置。
【請求項3】
該水層形成手段は、該保持テーブルの保持面に開口する水供給通路と、該水供給通路に水を供給する水供給手段とからなっている、請求項2記載のレーザー加工装置。
【請求項4】
該保持テーブルは保持テーブル本体と該保持テーブル本体の上面に配設され上面に保持面を有する保持部材とからなり、該保持部材がガラス板によって形成されている、請求項2又は3記載のレーザー加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−152763(P2012−152763A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11705(P2011−11705)
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【Fターム(参考)】