説明

レーザー印字方法、及びレーザー印字装置

【課題】 階調の細かい画像であっても、ワークを発泡させることなく、視覚により判別可能な画像を印字することができるレーザー印字方法、及びそれを用いたレーザー印字装置を提供する。
【解決手段】 濃淡画像Pの明度(濃度)に対して設定される異なる閾値ThA〜ThDを用いて、濃淡画像Pを二値化した二値画像Pa〜Pdを生成し、生成された二値画像Pa〜Pdを1画像ずつ順次選択し、選択した二値画像に基づいて、ワーク4の所定範囲にレーザー光を照射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー印字方法、及びレーザー印字装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、レーザー光を照射してワークに文字や図形などの濃淡画像を印字するレーザー印字方法を用いたレーザー印字装置が提供されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
従来のレーザー印字方法は、レーザー印字装置に取り込んだ濃淡画像の濃度の変化幅に基づいて、レーザー光の出力パワーを変化させながらワークにレーザー光を1回照射する写真印字で、濃淡画像の濃淡を表現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−311447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
レーザー光の出力パワーに対する印字濃度を図11に示す。図11のグラフG1に示すように、レーザー光の出力パワーを大きくすると、ワークに濃く印字することができる。なお、印字の濃度が視覚判別濃度K0より濃いと、視覚で認識することができるものとする。
【0006】
しかし、従来のレーザー印字方法では、ワークを形成している樹脂の種類によっては、図11のグラフG2に示すように、出力パワーが発泡レベルPw2(第2レベル)を超えるとエネルギーの過多によりワークが発泡し、外観等の品質が低下するおそれがある。したがって、レーザー光の出力パワーを大きくしても、ワークが発泡してしまい、濃く印字されるとは限らない。また、濃度の階調が細かく、変化幅の大きい濃淡画像を印字する場合、濃度が濃い部分はレーザー光の出力パワーを大きくする必要があるが、出力パワーがPw2(第レベル)を上回るとワークが発泡する。また、濃度が薄い部分はレーザー光の出力を小さくする必要があるが、出力パワーが視覚判別レベルPw1(第1レベル)を下回ると、印字される濃度が視覚判別濃度K0より薄くなり、視覚による判別ができなくなってしまう。したがって、従来のレーザー印字方法では、濃度の階調が細かい濃淡画像を印字する場合、品質の悪い不完全な画像が印字されてしまう問題がある。
【0007】
本発明は、上記事由に鑑みてなされたものであり、その目的は、階調の細かい画像であっても、ワークを発泡させることなく、視覚により判別可能な画像を印字することができるレーザー印字方法、及びそれを用いたレーザー印字装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、濃淡画像の濃度に対して設定される異なる複数の閾値を用いて、濃淡画像を二値化した複数の二値画像を生成し、生成された複数の二値画像を1画像ずつ順次選択し、当該選択した二値画像に基づいて、ワークの所定範囲にレーザー光を照射することを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、閾値の異なる複数の二値画像を1画像ずつ順次選択し、選択した二値画像に基づいて、ワークの所定範囲にレーザー光が照射されるので、印字濃度が濃くなるにつれてレーザー光の照射回数が多くなり、印字濃度が薄くなるにつれてレーザー光の照射回数が少なくなる。それによって、印字画像の濃淡を表現することができる。また、レーザー光の出力パワーを個別に設定することができるので、印字濃度を調整することができる。したがって、濃度の階調が細かい濃淡画像であっても、ワークを発泡させることなく、視覚により判別可能なように印字することができる。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1記載の発明において、前記順次照射するレーザー光のうち、少なくとも1回のレーザー光の出力は、人間の視覚により判別することができる濃度を印字可能な第1レベル以上であり、順次照射するレーザー光の出力の合計は、ワークが発泡する第2レベルよりも小さいことを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、最も濃く表現したい箇所を発泡させず、最も薄く表現したい箇所を発色させることができる。
【0012】
請求項3の発明は、レーザー印字装置において、濃淡画像の濃度に対して異なる複数の閾値を設定する閾値設定手段と、閾値設定手段が設定した複数の閾値を用いて濃淡画像を二値化し、複数の二値画像を生成する二値画像生成手段と、生成された複数の二値画像を1画像ずつ順次選択し、当該選択した二値画像に基づいて、ワークの所定範囲にレーザー光を照射するレーザー光照射手段とを備えることを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、閾値の異なる複数の二値画像を1画像ずつ順次選択し、選択した二値画像に基づいて、ワークの所定範囲にレーザー光が照射されるので、印字濃度が濃くなるにつれてレーザー光の照射回数が多くなり、印字濃度が薄くなるにつれてレーザー光の照射回数が少なくなる。それによって、印字画像の濃淡を表現することができる。また、順次選択した二値画像に基づいて、レーザー光の出力パワーを個別に設定することができるので、印字濃度を調整することができる。したがって、濃度の階調が細かい濃淡画像であっても、ワークを発泡させることなく、視覚により判別可能なように印字することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明では、階調の細かい画像であっても、ワークを発泡させることなく、視覚により判別可能なように印字することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)〜(d)本発明のレーザー印字過程を示す図である。
【図2】同上のレーザー印字装置の概略構成を示す図である。
【図3】濃淡画像を示す図である。
【図4】(a)濃淡画像の明度、(b)〜(e)二値化処理後の明度を示す図である。
【図5】(a)〜(d)二値画像を示す図である。
【図6】(a)出力パワーに対する印字濃度、(b)印字濃度を示す図である。
【図7】濃淡画像の印字結果を示す図である。
【図8】(a)〜(c)従来のレーザー印字方法による印字画像を示す図である。
【図9】(a)〜(c)従来のレーザー印字方法による印字画像を示す図である。
【図10】(a)(b)本発明のレーザー印字方法による印字画像を示す図である。
【図11】出力パワーに対する印字濃度の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
(実施形態)
本発明の実施形態として図2に概略構成を示す。本実施形態は条件設定用パーソナルコンピュータ1(以下、条件設定用PC1と称す)と、例えばABS樹脂等で形成されたワーク4にレーザー光を照射して印字するレーザーヘッド2と、レーザーヘッド2が照射するレーザー光の出力パワーおよび照射箇所を、条件設定用PC1の設定に基づいて制御するコントローラ3とで構成されており、条件設定用PC1は濃淡画像記憶手段11と、閾値設定手段12と、二値画像生成手段13と、二値画像記憶手段14と、レーザー光出力設定手段15とを備えている。
【0018】
以下に、本発明のレーザー印字方法を用いてワーク4に大理石調の印字をする場合について説明する。まず、図示しない撮影手段を用いて大理石の写真を撮影する。そして、図3に示す撮影した大理石の写真(以下、濃淡画像Pと称す)を条件設定用PC1の濃淡画像記憶手段11に格納する。
【0019】
そして、濃淡画像記憶手段11に格納した濃淡画像Pの明度(濃度)に対して、閾値設定手段12は異なる4つの閾値ThA〜ThDを設定する。図4(a)に濃淡画像Pの明度を示す。なお、明度が高くなるにつれて白く表現され、明度が低くなるにつれて黒く表現される。閾値ThA〜ThDは、濃淡画像Pの明度が高い(白い)方から順に設定されている。次に、二値画像生成手段13は、濃淡画像Pにおける各閾値ThA〜ThDより明度が低い(黒い)部分を0(黒色)、各閾値ThA〜ThDより明度が高い(白い)部分を1(白色)とする二値化処理を濃淡画像Pに行い、4枚の二値画像Pa〜Pdを生成し、二値画像記憶手段14に格納する。
【0020】
図4(b)〜(e)に、閾値ThA〜ThDを用いた二値化処理後の明度を示し、図5(a)〜(d)に二値画像Pa〜Pdを示す。図4(b)〜(e)、図5(a)〜(d)に示すように、閾値ThAは、他の閾値ThB〜ThDよりも明度が高い値に設定されているため、作成される二値画像Paは黒い部分が最も多くなり、白い部分が最も少なくなる。逆に、閾値ThDは、他の閾値ThA〜ThCよりも明度が低い値に設定されているため、作成される二値画像Pdは黒い部分が最も少なくなり、白い部分が最も多くなる。
【0021】
次に、レーザー光出力設定手段15を用いて、二値画像記憶手段14に格納された各々の二値画像Pa〜Pdに基づいて、ユーザーがレーザー光の照射箇所やレーザー光の出力パワー等の出力条件を設定する。そして、出力条件に基づいてコントローラ3がレーザーヘッド2の動作を制御して、ワーク4にレーザー光を照射して印字を行う。
【0022】
図1(a)〜(d)に印字の過程を示す。なお、図5(a)〜(d)に示すように二値画像Pa〜Pdは大理石模様であるが、図1(a)〜(d)では、印字例を簡易にするために円で示す。
【0023】
まず二値画像Paを用いてレーザー光の出力条件を設定する。図1(a)に示すように、ワーク4の所定範囲において二値画像Paの黒い部分に相当する箇所に、レーザー光を照射すると印字画像Pa´が印字される。照射するレーザー光の出力パワーと印字濃度の関係を図6(a)に示す。出力パワーPwAは上記で説明した視覚判別濃度Pw1(第1レベル)と同じ値に設定されているため、印字濃度Kaは人間の視覚によって判別できる最も薄い視覚判別濃度K0となる。なお、二値画像Paにおいて、濃淡画像Pにおける閾値ThAよりも明度が高い(白い)部分は印字されない。
【0024】
次に二値画像Pbを用いてレーザー光の出力条件を設定する。図1(b)に示すように、ワーク4の所定範囲において二値画像Pbの黒い部分に相当する箇所に、レーザー光を照射すると印字画像Pb´が印字される。二値画像Pbを生成する際に用いた閾値ThBは、二値画像Paを生成する際に用いた閾値ThAよりも明度が低い(黒い)ため、二値画像Pbに基づいてレーザー光を照射する部分は全て、既に二値画像Paに基づいてレーザー光が照射されている部分となる。したがって、出力パワーPwAのレーザー光が既に照射された部分に、出力パワーPwBのレーザー光が照射されることとなるので、図6(a)に示すように、二値画像Pbに基づいてレーザー光が照射される部分におけるレーザー光の出力パワーの合計はPwA+PwBとなり、印字濃度Kbは印字濃度Kaよりも濃くなる。
【0025】
同様に、順次二値画像Pc、Pdを用いてレーザー光の出力条件を設定し、ワーク4の所定範囲にレーザー光を順次照射すると、図1(c)(d)に示すように印字画像Pc´、Pd´が印字される。上記で説明したように、後からレーザー光が照射される部分は、既にレーザー光が照射されている部分であるので、レーザー光の照射部分におけるレーザー光の出力パワーが加算され、印字濃度が濃くなっていく。したがって、印字濃度Ka〜Kdの関係は、図6(a)図6(b)に示すように、Ka<Kb<Kc<Kdとなり、濃淡を表現することができる。
【0026】
また、各二値画像Pa〜Pdに基づいて照射するレーザー光の出力パワーの合計(PwA+PwB+PwC+PwD)が、ワーク4が発泡するPw2(第2レベル)よりも小さくなるように、各出力パワーPwA〜PwDが設定されているため、ワーク4が発泡して、外観等の品質が低下することはない。
【0027】
図3に示した大理石の写真(濃淡画像P)のワーク4への印字結果P´を図7に示す。上記で説明したように、二値画像Pa〜Pdを1画像ずつ順次選択し、選択した二値画像に基づいて出力箇所および出力パワーの出力条件を設定して、ワーク4の所定範囲にレーザー光を照射する。それによって、印字濃度が濃くなるにつれてレーザー光の照射回数が多くなり、印字濃度が薄くなるにつれてレーザー光の照射回数が少なくなるので、濃淡を表現することができる。また、出力パワーPwAを視覚判別レベルPw1(第1レベル)以上とすることによって、印字濃度Kaを視覚判別濃度K0よりも濃くすることができるので、最も薄く表現したい部分を確実に発色させることができる。また、出力パワーの合計(PwA+PwB+PwC+PwD)を発泡レベルPw2(第2レベル)よりも小さくすることによって、最も濃く表現したい部分のワーク4を発泡させることはない。また、閾値を多く設定し、二値画像の数を増やすことによって、濃淡画像Pの濃度の階調が細かく、濃度の変化幅が大きい場合でも、ワーク4を発泡させることなく、視覚によって判別可能なように印字することができる。
【0028】
また、本実施形態のレーザー印字方法を用いることによって、印字濃度の変化(グラデーション)を調整することができる。従来のレーザー印字方法では、濃淡画像の濃度の変化幅に基づいてレーザー光の出力を変化させながら1回の照射のみで印字を行う写真印字であったため、印字画像全体の濃度を変化させることはできたが、印字濃度の変化の度合いを調整することができなかった。図8(a)〜(c)、図9(a)〜(c)に、従来のレーザー印字方法によって印字される印字例を示す。
【0029】
例えば、図8(a)図9(a)に示す従来のレーザー印字方法によって印字される印字画像において、薄い部分を濃く表現したい場合、従来のレーザー印字方法では図8(b)図9(b)に示すように、印字濃度の変化の度合いが変わらず、印字される画像全体が濃くなり、元から濃い部分におけるレーザー光の出力パワーが増加するのでワーク4が発泡する可能性がある。また、濃い部分を薄く表現したい場合、図8(c)図9(c)に示すように、印字濃度の変化の度合いが変わらず、印字される画像全体が薄くなり、元から薄い部分におけるレーザー光の出力パワーの低減によって視覚による判別ができなくなる可能性がある。
【0030】
しかし、本実施形態では、二値画像Pa〜Pd毎に基づくレーザー光の出力パワーPwA〜PwDを個別に調整することによって、印字濃度の変化(グラデーション)の度合いを調整することできる。例えば、薄い部分を濃く表現したい場合は、二値画像Paに基づいて出力条件を設定する際に、レーザー光の出力パワーPwAを視覚判別レベルPw1(第1レベル)よりも大きくすることによって、図10(a)に示すように薄い部分のみを濃く表現することができる。このように、出力パワーの合計を発泡レベルPw2(第2レベル)よりも小さくすることによって、濃い部分が発泡することはない。また、濃い部分を薄く表現したい場合は、出力パワーPwAを視覚判別レベルPw1(第1レベル)と同じ値に設定し、各出力パワーPwB〜PwDを小さく設定することによって、印字濃度の変化の度合いが小さくなり、図10(b)に示すように濃い部分のみを薄く表現することができ、薄い部分も視覚で判別することができる。また、上記の設定以外でも、出力パワーPwAが視覚判別レベルPw1(第1レベル)以上であり、各出力パワーPwA〜PwDの合計が発泡レベルPw2(第2レベル)より小さい設定であればよい。
【0031】
このように、本実施形態のレーザー印字方法では、出力パワーPwA〜PwDを個別に調整することができるので、ユーザーが印字濃度の変化の度合いを調整することができる。
【符号の説明】
【0032】
4 ワーク
Pa´ 印字画像
Pb´ 印字画像
Pc´ 印字画像
Pd´ 印字画像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
濃淡画像の濃度に対して設定される異なる複数の閾値を用いて、濃淡画像を二値化した複数の二値画像を生成し、生成された複数の二値画像を1画像ずつ順次選択し、当該選択した二値画像に基づいて、ワークの所定範囲にレーザー光を照射することを特徴とするレーザー印字方法。
【請求項2】
前記順次照射するレーザー光のうち、少なくとも1回のレーザー光の出力は、人間の視覚により判別することができる濃度を印字可能な第1レベル以上であり、順次照射するレーザー光の出力の合計は、ワークが発泡する第2レベルよりも小さいことを特徴とする請求項1記載のレーザー印字方法。
【請求項3】
濃淡画像の濃度に対して異なる複数の閾値を設定する閾値設定手段と、
閾値設定手段が設定した複数の閾値を用いて濃淡画像を二値化し、複数の二値画像を生成する二値画像生成手段と、
生成された複数の二値画像を1画像ずつ順次選択し、当該選択した二値画像に基づいて、ワークの所定範囲にレーザー光を照射するレーザー光照射手段とを備えることを特徴とするレーザー印字装置。

【図2】
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【図11】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−104640(P2011−104640A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−264257(P2009−264257)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】